特許第6201827号(P6201827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6201827放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201827
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/12 20060101AFI20170914BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20170914BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20170914BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01L23/12 D
   H01L23/12 J
   H01L23/36 C
   H05K3/38 D
   C04B41/88 Q
   C04B41/88 U
   C04B41/88 M
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-46953(P2014-46953)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2015-170825(P2015-170825A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】石塚 博弥
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−197246(JP,A)
【文献】 特開平10−65075(JP,A)
【文献】 特開2004−47619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12−23/15
H01L 23/34−23/473
H01L 25/00−25/18
C04B 37/00−37/04
C04B 41/88
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層が配設されてなるパワーモジュール用基板を、放熱板に接合する放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記パワーモジュール用基板の前記金属層に前記放熱板を重ねて配置した積層体を一対の加圧板の間に挟んで積層方向に加圧しながら加熱することにより、前記パワーモジュール用基板と前記放熱板とをろう付けするろう付け工程を有し、
前記放熱板は、炭化ケイ素の多孔体にアルミニウム又はアルミニウム合金を含浸して形成されたAlSiC系複合材料により形成され、前記金属層の最大長さが30mm以上200mm以下で前記放熱板の最大長さよりも小さく形成されており、
前記ろう付け工程において、前記一対の加圧板は、前記回路層表面を押圧する凸面を有する上側加圧板と、前記放熱板背面を押圧する凹面を有する下側加圧板とからなり、
前記上側加圧板の凸面の曲率半径R1が3500mm以上6300mm以下とされ、前記下側加圧板の凹面の曲率半径R2は、前記上側加圧板の凸面と前記下側加圧板の凹面とを重ね合せた状態とした場合に、前記金属層の最大長さの両端位置に対応する位置において前記上側加圧板と前記下側加圧板との間に0.025mm以下のギャップが設けられるように、前記曲率半径R1よりも大きく形成されていることを特徴とする放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられる放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールとして、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板の一方の面にアルミニウム板が接合されるとともに、他方の面にアルミニウム板を介してアルミニウム系の放熱板が接合された放熱板付パワーモジュール用基板が用いられている。
【0003】
従来、放熱板付パワーモジュール用基板は、次のように製造されてきた。
まず、セラミックス基板表面に、セラミックス基板とアルミニウム板との接合に適するろう材を介して、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にアルミニウム板を積層し、所定の圧力で加圧しながら、ろう材が溶融する温度以上まで加熱し冷却することにより、セラミックス基板と両面のアルミニウム板とを接合してパワーモジュール用基板を製造する。
【0004】
次に、パワーモジュール用基板の他方の面側のアルミニウム板に、そのアルミニウム板と放熱板との接合に適するろう材を介して放熱板を積層し、所定の圧力で加圧しながら、ろう材が溶融する温度以上まで加熱し冷却する。これにより、アルミニウム板と放熱板とを接合して放熱板付パワーモジュール用基板を製造することができる。そして、この放熱板付パワーモジュール用基板は、冷却器(水冷等)に締結された状態で使用される。
また、このように構成される放熱板付パワーモジュール用基板の一方の面側に接合されたアルミニウム板は、回路層として形成され、この回路層上にはんだ材を介してパワー素子等の電子部品が搭載される。
【0005】
ところが、セラミックス基板とアルミニウム板のような熱膨張係数の異なる部材の接合においては、接合後の冷却時における熱収縮により反りが発生する。
この反り対策として、特許文献1では、セラミックス基板をたわませながら回路用金属板と金属放熱板とを接合し、回路用金属板が凹面となる反りを有する回路基板を製造することとしている。
一般的に、回路用基板を用いてモジュールを形成する際には、モジュールを平面的になるように放熱板に接合し、固定部品に固定して用いられる。そこで、特許文献1には、回路基板の回路用金属板側に凹面となる反りを形成しておくことで、回路基板を平坦に固定した際に回路基板に圧縮応力が残留し、モジュールへの組立時やその実使用下においてクラックの発生、成長を低減することができることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、セラミックス回路基板と放熱板(ヒートシンク材)とのはんだリフロー時に生じる反りは、金属放熱板と金属回路板の体積比、及び厚さ比が主たる支配要因であり、これらの構成を適当な範囲とすることで加熱中に好ましい反り形状を実現することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10‐247763号公報
【特許文献2】特開2006‐245437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、パワーモジュール用基板に望まれるのは、パワーモジュールとしての要求仕様を満たすための反りを低減することである。このため、特許文献1及び特許文献2に記載されるように、パワーモジュール用基板として反りを制御したとしても、放熱板が接合されたパワーモジュールとして反りを低減できなければならない。
また、パワーモジュール用基板と放熱板とが接合された放熱板付パワーモジュール用基板においては、パワーモジュール用基板と放熱板との熱伸縮差(反り量)の違いから、これらを接合面の全面にわたって密着させて接合することが難しく、放熱性能の低下が懸念される。また、放熱板への接合後においても、半導体素子のはんだ付け等の熱処理過程において、放熱板付パワーモジュール用基板の反り変形が少ないことが望まれる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、パワーモジュール用基板と放熱板との接合時に生じる反りを低減することができるとともに、パワーモジュール用基板と放熱板との接合面の全面にわたって接合することができる放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層が配設されてなるパワーモジュール用基板を、放熱板に接合する放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法であって、前記パワーモジュール用基板の前記金属層に前記放熱板を重ねて配置した積層体を一対の加圧板の間に挟んで積層方向に加圧しながら加熱することにより、前記パワーモジュール用基板と前記放熱板とをろう付けするろう付け工程を有し、前記放熱板は、炭化ケイ素の多孔体にアルミニウム又はアルミニウム合金を含浸して形成されたAlSiC系複合材料により形成され、前記金属層の最大長さが30mm以上200mm以下で前記放熱板の最大長さよりも小さく形成されており、前記ろう付け工程において、前記一対の加圧板は、前記回路層表面を押圧する凸面を有する上側加圧板と、前記放熱板背面を押圧する凹面を有する下側加圧板とからなり、前記上側加圧板の凸面の曲率半径R1が3500mm以上6300mm以下とされ、前記下側加圧板の凹面の曲率半径R2は、前記上側加圧板の凸面と前記下側加圧板の凹面とを重ね合せた状態とした場合に、前記金属層の最大長さの両端位置に対応する位置において前記上側加圧板と前記下側加圧板との間に0.025mm以下のギャップが設けられるように、前記曲率半径R1よりも大きく形成されていることを特徴とする。
【0011】
放熱板付パワーモジュール(パワーモジュール)の使用時においては、放熱板付パワーモジュール用基板と冷却器との密着性を良好に維持する観点から、冷却器側に対して凹状の反り(回路層側に凸状の反り)であることよりも、凸状の反りであることが望まれる。
本発明の放熱板付パワーモジュール用基板においては、放熱板を低熱膨張係数のAlSiC系複合材料により形成し、放熱板とパワーモジュール用基板との接合時において、放熱板とパワーモジュール用基板との積層体を、一対の加圧板で挟持して、積層方向の回路層側を上側とする凹状の反りを生じさせた状態とし、ろう材が溶融する温度以上で所定時間保持した後に冷却することで、凹状に沿った形状でろう材を固めて、積層方向の加圧状態を解放した後も、回路層を上側として凹状に反る、あるいは凸状でも反り量が小さい接合体が得られる。
【0012】
また、パワーモジュール用基板と放熱板とのろう付け時においては、パワーモジュール用基板と放熱板との熱伸縮差(反り量)の違いから、これらを接合面の全面にわたって密着させて接合することが難しいが、上側加圧板の凸面の曲率半径R1に対して、下側加圧板の凹面の曲率半径R2を、金属層の最大長さ位置において0.025mm以下のギャップが設けられるように、曲率半径R1よりも大きく形成することにより、パワーモジュール用基板と放熱板とを、接合面全面において密着させて接合することができる。
さらに、放熱板を形成するAlSiC系複合材料は、炭化ケイ素の低熱膨張性とアルミニウムの高熱伝導性とを兼ね備えた材料であるので、熱応力を緩和しつつ、優れた放熱特性を発揮させることができる。
したがって、熱処理過程における反り変形を抑制することができ、素子をはんだ付けする工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パワーモジュール用基板と放熱板との接合時に生じる反りを低減することができるとともに、パワーモジュール用基板と放熱板との接合面の全面にわたって接合することができることから、パワーモジュール用基板と放熱板との間の熱抵抗を低減させることができ、熱サイクル負荷による基板信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】放熱板付パワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを示す断面図である。
図2】本発明に係る放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法を説明する断面図であり、(a)がパワーモジュール用基板と放熱板との接合前、(b)が接合後の状態を示す。
図3】本発明に係る放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法に用いる治具を説明する側面図である。
図4】上側加圧板と下側加圧板との間のギャップを説明する要部図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る放熱板付パワーモジュール用基板の製造方法により製造される放熱板付パワーモジュール用基板1は、図1に示すように、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10に接合された放熱板20とを備え、この放熱板付パワーモジュール用基板1の表面に半導体チップ等の電子部品30が搭載されることにより、パワーモジュール100が製造される。
【0016】
放熱板付パワーモジュール用基板1の製造工程においては、まず図2(a)に示すようにパワーモジュール用基板10を製造し、このパワーモジュール用基板10と放熱板20とをろう付けすることにより、図2(b)に示すような放熱板付パワーモジュール用基板1を製造する。
【0017】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に積層された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に積層された金属層13とを備える。そして、パワーモジュール用基板10の回路層12の表面に電子部品30がはんだ付けされ、金属層13の表面に放熱板20が取り付けられる。
【0018】
セラミックス基板11は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl(アルミナ)等の酸化物系セラミックスにより矩形状に形成され、本実施形態ではAlNを用いた。また、セラミックス基板11の厚さは0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0019】
回路層12は、純度99質量%以上のアルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。また、回路層12には、アルミニウム以外にもアルミニウム合金や、銅又は銅合金を用いることもできる。
【0020】
金属層13は、純度99質量%以上のアルミニウム又はアルミニウム合金が用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。
また、金属層13の最大長さ13Lは、30mm以上200mm以下とされ、後述する放熱板20の最大長さ20Lよりも小さくなっている。なお、金属層13の形状は矩形に限られるものではないが、矩形の場合の最大長さ13Lは、金属層13の平面サイズの最大辺の長さとなる。
【0021】
本実施形態においては、回路層12及び金属層13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板とされ、その厚さは0.2mm〜3.0mmに設定されており、回路層12が0.6mm、金属層13が2.1mmの厚さとされている。
【0022】
そして、これら回路層12及び金属層13とセラミックス基板11とは、例えばろう付けにより接合される。ろう材としては、Al‐Si系、Al‐Ge系、Al‐Cu系、Al‐Mg系又はAl‐Mn系等の合金が使用される。
【0023】
なお、パワーモジュール100を構成する電子部品30は、回路層12の表面に形成されたNiめっき(不図示)上に、Sn‐Ag‐Cu系、Zn‐Al系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐Sb系もしくはPb‐Sn系等のはんだ材を用いて接合される。図1中の符号31が、そのはんだ接合層を示す。また、電子部品30と回路層12の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ(不図示)により接続される。
【0024】
また、パワーモジュール用基板10に接合される放熱板20は、炭化ケイ素(SiC)の多孔体にアルミニウム又はアルミニウム合金を含浸して形成されたAlSiC系複合材料により形成される。また、放熱板20は矩形の平板状に形成されており、厚さが3mm以上10mm以下で、最大長さ20Lが45mm以上240mm以下とされている。なお、放熱板20の形状は矩形に限られるものではないが、矩形の場合の最大長さ20Lは、放熱板20の平面サイズの最大辺の長さとなる。また、放熱板20が接合されるパワーモジュール用基板10は、図2に示すように、放熱板20の平面サイズよりも小さく形成されており、金属層13の最大長さ13L(最大辺の長さ)は、放熱板20の最大長さ20Lよりも小さくなっている。
【0025】
本実施形態においては、放熱板20は、炭化ケイ素の多孔体に、Siが5質量%以上12質量%以下の範囲で含有されるアルミニウム合金が含浸するとともに、多孔体の表面にそのアルミニウム合金の被覆層が形成されたAlSiC系複合材料により形成されている。なお、このAlSiC系複合材料の線膨張係数は、8×10−6/K〜12×10−6/Kとされる。
また、ここで放熱板20としては、板状の放熱板、フィンが形成された板状の放熱板などが含まれる。
【0026】
次に、放熱板付パワーモジュール用基板1の製造方法を説明する。
まず、回路層12及び金属層13として、それぞれ99.99質量%以上の純アルミニウム圧延板を準備し、これらの純アルミニウム圧延板を、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面にそれぞれろう材を介して積層し、加圧・加熱することによって、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に純アルミニウム圧延板が接合されたパワーモジュール用基板10を製造する。なお、本実施形態では、Al-10%Si系ろう材を用いてろう付けが行われ、この際のろう付け温度は600℃〜655℃に設定される。
【0027】
このように構成されたパワーモジュール用基板10に放熱板20を接合するには、まず、図3に示すように、一対の加圧板110A,110Bとその四隅に設けられた支柱111によって構成された治具112を用いて、加圧板110A,110B間に放熱板20及びパワーモジュール用基板10を積層して配置する。
治具112の一対の加圧板110A,110Bは、ステンレス鋼材の表面にカーボン板が積層されたものであり、パワーモジュール用基板10の回路層12表面を押圧する凸面110aを有する上側加圧板110Aと、放熱板20の背面を押圧する凹面110bを有する下側加圧板110Bとからなり、これら加圧板110A,110Bの対向する面110a,110bが、放熱板20のパワーモジュール用基板10との接合面20aを凹状とするような曲面に形成されている。
【0028】
また、これら一対の加圧板110A,110Bは、図3及び図4に示すように、上側加圧板110Aの凸面110aの曲率半径R1が3500mm以上6300mm以下とされるのに対して、下側加圧板110Bの凹面110bの曲率半径R2は、これら上側加圧板110Aの凸面110aと下側加圧板110Bの凹面110bとを重ね合せた状態とした場合に、金属層13の最大長さ13Lの両端位置に対応する位置αにおいて上側加圧板110Aと下側加圧板110Bとの間に0.025mm以下のギャップGが設けられるように、曲率半径R1よりも大きく形成されている。
【0029】
そして、支柱111の両端には螺子が切られており、加圧板110A,110Bを挟むようにナット113が締結されている。また、支柱111に支持された天板114と上側加圧板110Aと間に、その上側加圧板110Aを下方に付勢するばね等の付勢手段115が備えられており、加圧力は、この付勢手段115とナット113の締付けによって調整される。
【0030】
そして、本実施形態の放熱板付パワーモジュール用基板1の製造工程においては、パワーモジュール用基板10及び放熱板20を治具112に取り付けた状態とすることにより、製造時において放熱板付パワーモジュール用基板1に発生する回路層12側に凸状の反りを抑制することができる。
【0031】
まず、下側に配置される凹面110bを有する下側加圧板110Bの上に放熱板20を載置し、その上にろう材箔(図示略)を介してパワーモジュール用基板10を重ねて載置して、これら放熱板20とパワーモジュール用基板10との積層体を、凸面110aを有する上側加圧板110Aとの間で挟んだ状態とする。この際、放熱板20とパワーモジュール用基板10との積層体は、一対の加圧板110A,110Bの凹凸面110a,110bにより厚み方向に加圧され、放熱板20の接合面20aを凹状の反りとする変形を生じさせた状態とされる。そして、放熱板20とパワーモジュール用基板10との積層体を加圧状態で加熱することにより、放熱板20とパワーモジュール用基板10の金属層13とをろう付けにより固着する。
なお、本実施形態では、ろう付けは、Al-10%Si系ろう材を用いてろう付けが行われ、真空雰囲気中で、荷重0.1MPa〜3MPa、加熱温度580℃〜620℃の条件で行われる。
【0032】
次に、これら放熱板20とパワーモジュール用基板10との接合体を、治具112に取り付けた状態、つまり、変形を生じさせた状態で、常温(25℃)まで冷却する。
この場合、放熱板20とパワーモジュール用基板10との接合体は、治具112によって厚み方向に加圧され、放熱板20の接合面20aを凹状の反りとする変形を生じさせた状態で拘束されている。このため、冷却に伴う放熱板20とパワーモジュール用基板10との接合体の形状は見かけ上は変化がないように見えるが、応力に抗して加圧され、冷却時に反りとしての変形が出来ない状態に拘束されている結果、塑性変形が生じることとなる。
【0033】
このようにして製造された放熱板付パワーモジュール用基板1においては、積層方向の加圧状態を解放した後も、図2(b)に示すように、回路層12を上側として凹状に反る、あるいは凸状でも反り量が小さくなり、製造時に生じる反りが低減される。
また、上側加圧板110Aの凸面110aの曲率半径R1に対して、下側加圧板110Bの凹面110bの曲率半径R2を金属層13の最大長さ13Lの両端位置に対応する位置αおいて0.025mm以下のギャップGが設けられるように曲率半径R1よりも大きく形成した一対の加圧板110A,110Bで加圧することにより、パワーモジュール用基板10と放熱板20とを、その接合面全面において密着させて接合することができる。
さらに、放熱板20を形成するAlSiC系複合材料は、炭化ケイ素の低熱膨張性とアルミニウムの高熱伝導性とを兼ね備えた材料であるので、熱応力を緩和しつつ、優れた放熱特性を発揮させることができる。
したがって、熱処理過程における反り変形を抑制することができ、素子はんだ付け工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の効果を確認するために行った実施例及び比較例について説明する。
前述した放熱板付パワーモジュール用基板1の製造工程において、上側加圧板110Aの凸面110aの曲率半径R1を表1に記載されるように変更して、パワーモジュール用基板10と放熱板20とを接合した放熱板付パワーモジュール用基板1の試料を複数製造した。なお、比較例1、比較例5及び比較例9については、上側加圧板110Aの凸面110aを平坦面で形成した。
【0035】
各放熱板付パワーモジュール用基板1を構成するパワーモジュール用基板10としては、下記の構成とした。
実施例1〜6及び比較例1〜4については、30mm×25mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる回路層と、30mm×25mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる金属層とが、34mm×29mm、厚み0.635mmのAlNからなるセラミックス基板にAl‐Si系ろう材により接合されたものを用いた。
実施例7〜12及び比較例5〜8については、100mm×50mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる回路層と、100mm×50mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる金属層とが、104mm×54mm、厚み0.635mmのAlNからなるセラミックス基板にAl‐Si系ろう材により接合されたものを用いた。
実施例13〜18及び比較例9〜12については、200mm×65mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる回路層と、200mm×65mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる金属層とが、204mm×69mm、厚み0.635mmのAlNからなるセラミックス基板にAl‐Si系ろう材により接合されたものを用いた。
【0036】
また、放熱板20には、炭化ケイ素の多孔体に、Siが5質量%以上12質量%以下の範囲で含有されるアルミニウム合金が含浸するとともに、多孔体の表面にそのアルミニウム合金の被覆層が形成されたAlSiC系複合材料を用いた。放熱板20として、実施例1〜6及び比較例1〜4については、45mm×35mm、厚み5mmの矩形板を用いた。また、実施例7〜12及び比較例5〜8については140mm×60mm、厚み5mmの矩形板、実施例13〜18及び比較例9〜12については240mm×75mm、厚み5mmの矩形板を用いた。
【0037】
そして、これらの放熱板付パワーモジュール用基板1の試料について、パワーモジュール用基板10(金属層13)と放熱板20との接合率と、これらの放熱板付パワーモジュール用基板1の試料に生じた反り量Zとをそれぞれ評価した。
接合率の評価は、超音波深傷装置を用いて金属層13と放熱板20との接合面を評価したもので、接合率=(接合面積−剥離面積)/接合面積×100(%)の式から算出した。なお、金属層13と放熱板20との接合面を撮影した超音波深傷像において剥離部分は白色部で示されることから、剥離面積は、白色部の面積を測定することにより求めた。また、接合面積は、接合前における接合すべき面積である金属層13の接合面の面積とした。そして、接合率90%未満を不良「×」、接合率90%以上95%未満を良好「○」、接合率95%以上を最適「◎」と評価した。
【0038】
また、反り量Zの測定は、25℃の常温時において、放熱板20の背面の平面度の変化を、モアレ式三次元形状測定機を使用して測定したものを反り量Zとして評価した。なお、反り量Zは、回路層側に凸状に反った場合を正の反り量(+)、回路層側に凹状に反った場合を負の反り量(−)とした。即ち、図2(b)のように反った場合を、負の反り量(−)とした。 これら接合率の評価結果と反り量の測定結果を、表1〜表3に示す。なお、表1は金属層の最大長さL13を30mmとした場合、表2は金属層の最大長さL13を100mmとした場合、表3は金属層の最大長さL13を200mmとした場合の結果である。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
表1〜表3からわかるように、位置αにおけるギャップGが0.025mm以下とされる一対の加圧板110A,110Bで加圧することにより、パワーモジュール用基板10と放熱板20との接合率を90%以上とすることができ、接合面のほぼ全域において密着させて接合することができた。また、上側加圧板110Aの凸面110aの曲率半径R1を3500mm以上6300mm以下として形成することで、上側加圧板110Aを平坦面で形成した場合と比べて、同サイズの放熱板パワーモジュール用基板における放熱板の反り量Zを、いずれも低減することができた。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、銅製の回路層とセラミックス基板とのろう付けには、活性金属ろう材を用いて接合する方法を採用することもできる。例えば、活性金属であるTiを含む活性金属ろう材(例えば、Ag‐27.4質量%Cu‐2.0質量%Ti等)を用い、銅製の回路層とセラミックス基板との積層体を加圧した状態のまま真空中で加熱し、活性金属であるTiをセラミックス基板に優先的に拡散させて、Ag‐Cu合金を介して回路層とセラミックス基板とを接合できる。
【符号の説明】
【0044】
1 放熱板付パワーモジュール用基板
10 パワーモジュール用基板
11 セラミックス基板
12 回路層
13 金属層
20 放熱板
20a 接合面
30 電子部品
31 はんだ接合層
110A 上側加圧板
110B 下側加圧板
111 支柱
112 治具
113 ナット
114 天板
115 付勢手段
図1
図2
図3
図4