特許第6201842号(P6201842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201842
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】弁開閉時期制御システム
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   F01L1/356 E
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-56152(P2014-56152)
(22)【出願日】2014年3月19日
(65)【公開番号】特開2015-178792(P2015-178792A)
(43)【公開日】2015年10月8日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】天野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】沼波 晃志
(72)【発明者】
【氏名】岩屋 崇
【審査官】 菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187284(WO,A1)
【文献】 特開2011−012576(JP,A)
【文献】 特開2011−038446(JP,A)
【文献】 特開2012−219767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記駆動側回転体に内包され、弁開閉用のカムシャフトと同軸芯で一体回転する従動側回転体と、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の一方のガイド孔部にスライド移動自在に支持されたロック部材と、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の他方に形成された凹部と、前記ロック部材を付勢する付勢部材とを備えるロック機構であって、前記付勢部材の付勢力により前記ロック部材が前記凹部に係合することによって、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とが所定の相対回転位相に保持されたロックポジションに維持される構成と、を有する弁開閉時期制御装置を備え、
前記相対回転位相を検知する位相センサと、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の間に形成される進角室と遅角室とのうち、前記進角室に流体が供給されることによって前記相対回転位相が進角方向に変位される進角ポジション、及び、前記遅角室に流体が供給されることによって前記相対回転位相が遅角方向に変位される遅角ポジション、及び、前記進角室と前記遅角室とに流体の供給が停止されることにより前記相対回転位相が前記進角ポジションと前記遅角ポジションとの間に位置する中立ポジションの間を選択的に切替える第1制御弁と、
前記ロック部材に対し前記付勢部材の付勢力に抗する方向に流体圧が作用することによって、前記ロックポジションから、前記ロック部材が前記凹部から離脱するロック解除ポジションへ切換可能な第2制御弁とを備え、
前記第1制御弁及び前記第2制御弁の何れか少なくとも一方を制御することにより前記相対回転位相を変更する位相制御、及び、前記ロック機構のロック状態を解除するロック解除制御を実行する制御ユニットを備え、
前記制御ユニットにより、前記第2制御弁が前記ロック解除ポジションに設定され、且つ、前記第1制御弁を、前記進角ポジションと前記遅角ポジションのいずれか一方から前記カムシャフトのカム平均トルクに抗する方向への変位力に基づき前記ロック部材が前記凹部の内壁に当接するポジションに設定し、次に、前記第1制御弁が前記中立ポジションに切替えられることによって前記カム平均トルクにより、前記ロック部材が前記内壁から離間する作動を、前記位相センサが目標とする方向への前記相対回転位相の変位を検知するまで所定のインターバルで行うように前記ロック解除制御が実行される弁開閉時期制御システム。
【請求項2】
前記流体の温度に応じて、前記インターバルが変更される請求項1記載の弁開閉時期制御システム。
【請求項3】
前記流体の圧力に応じて、前記インターバルが変更される請求項1又は2記載の弁開閉時期制御システム。
【請求項4】
記ロック解除制御を設定時間継続した後に前記位相制御を実行し、この位相制御を実行しても前記位相センサで目標とする方向への前記相対回転位相の変位が検知されない場合に、前記インターバルを所定の値より長く設定して前記ロック解除制御を再び実行する請求項1〜3のいずれか一項に記載の弁開閉時期制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁開閉時期制御システムに関し、詳しくは、弁開閉時期制御装置のロック機構のロック解除を確実に行う技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ロック機構のロック解除を確実に行う構成として、特許文献1には、ロック解除要求が発生した場合には、ロック部材をロック解除方向に駆動し、この駆動を継続しながら、ロック解除要求の発生から所定時間が経過するまでは位相フィードバック制御を行わず、所定時間が経過した後に相対回転位相(文献ではカム軸位相)を中間ロック位相付近に維持するフィードバック制御に移行する制御形態が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010‐138669号公報 (請求項11・段落番号〔0018〕〜〔0021〕等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弁開閉時期制御装置のロック機構は、特許文献1にも記載されるように、駆動側回転体と従動側回転体との一方に移動自在に支持されるロック部材と、駆動側回転体と従動側回転体との他方においてロック部材が係脱する凹部と、ロック部材を凹部に係合させる付勢力を作用させるスプリング等で構成される。
【0005】
また、弁開閉時期制御装置では、ロック用の凹部に係合しているロック部材に流体の圧力を作用させ、ロック部材をロック解除方向に作動させる流路が形成され、この流路に対する流体の給排を行う制御弁が備えられる。
【0006】
ロック機構のロックを解除する場合は、ロック部材を凹部から押し出す作動と並行して相対回転位相を変化させることがある。その場合には、ロック部材が凹部の内壁に強く圧接され、ロック部材がロック解除方向に移動できないこともある。このような状況を回避するために、特許文献1では、ロック部材をロック解除方向に駆動する場合には、相対回転位相を変位させる制御を制限しているのである。
【0007】
しかしながら、内燃機関が稼働する状況ではカムシャフトからのカム平均トルクが弁開閉時期制御装置に作用し、相対回転位相を決まった方向に変位させ、結果として、ロック部材が凹部の内面に押し付けられる現象を招いている。
【0008】
このようにロック部材が凹部の内面に押し付けられる場合には、相対回転位相を変位させる作動を行わなくとも、ロック部材を凹部から押し出す作動が困難になり改善の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、ロック解除作動を確実に行わせる弁開閉時期制御システムを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の特徴は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、前記駆動側回転体に内包され、弁開閉用のカムシャフトと同軸芯で一体回転する従動側回転体と、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の一方のガイド孔部にスライド移動自在に支持されたロック部材と、前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の他方に形成された凹部と、前記ロック部材を付勢する付勢部材とを備えるロック機構であって、前記付勢部材の付勢力により前記ロック部材が前記凹部に係合することによって、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とが所定の相対回転位相に保持されたロックポジションに維持される構成と、を有する弁開閉時期制御装置を備え、
前記相対回転位相を検知する位相センサと、
前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の間に形成される進角室と遅角室とのうち、前記進角室に流体が供給されることによって前記相対回転位相が進角方向に変位される進角ポジション、及び、前記遅角室に流体が供給されることによって前記相対回転位相が遅角方向に変位される遅角ポジション、及び、前記進角室と前記遅角室とに流体の供給が停止されることにより前記相対回転位相が前記進角ポジションと前記遅角ポジションとの間に位置する中立ポジションの間を選択的に切替える第1制御弁と、
前記ロック部材に対し前記付勢部材の付勢力に抗する方向に流体圧が作用することによって、前記ロックポジションから、前記ロック部材が前記凹部から離脱するロック解除ポジションへ切換可能な第2制御弁とを備え、
前記第1制御弁及び前記第2制御弁の何れか少なくとも一方を制御することにより前記相対回転位相を変更する位相制御、及び、前記ロック機構のロック状態を解除するロック解除制御を実行する制御ユニットを備え、
前記制御ユニットにより、前記第2制御弁が前記ロック解除ポジションに設定され、且つ、前記第1制御弁を、前記進角ポジションと前記遅角ポジションのいずれか一方から前記カムシャフトのカム平均トルクに抗する方向への変位力に基づき前記ロック部材が前記凹部の内壁に当接するポジションに設定し、次に、前記第1制御弁が前記中立ポジションに切替えられることによって前記カム平均トルクにより、前記ロック部材が前記内壁から離間する作動を、前記位相センサが目標とする方向への前記相対回転位相の変位を検知するまで所定のインターバルで行うように前記ロック解除制御が実行される点にある。
【0011】
この構成によると、ロック解除制御においてロック機構のロック状態を解除す場合には、制御ユニットが、第2制御弁をロック解除ポジションに設定する。この設定と並行して、制御ユニットが第1制御弁を進角ポジション又は遅角ポジションに設定することにより、カムシャフトから作用するカム変動トルクに抗してロック部材を凹部の一方の内壁から離間させる方向に相対回転位相を変位させ、ロック部材を凹部の他方の内壁に当接させることが可能となる。この後に、第1制御弁を中間ポジションに設定することにより、カムシャフトから作用するカム変動トルクにより凹部の他方の内壁からロック部材が離間する方向に相対回転位相が変位する。
この当接と離間とを設定インターバルで行うことにより、ロック部材が凹部の内壁に当接しない状態を作り出し、凹部の内壁からロック部材に作用する摩擦力を軽減してロック部材の作動を確実に行わせる。
その結果、ロック解除作動を確実に行わせる弁開閉時期制御システムが構成された。
【0012】
本発明は、前記流体の温度に応じて、前記インターバルが変更されても良い。
【0013】
流体の温度が低く、粘性が高い場合には第1制御弁から進角室又は遅角室に流体を供給しても、この供給開始から進角室又は遅角室に圧力が作用して相対回転位相が変位を開始するまでの時間が長くなる。このような理由から、流体の温度に応じてインターバルを変更することにより、ロック部材を凹部の一方の内壁に当接する位置まで確実に作動させ、この後に、この一方の内壁からロック部材を離間させる状態を作り出すことが可能となる。
【0014】
本発明は、前記流体の圧力に応じて、前記インターバルが変更されても良い。
【0015】
流体の圧力が低い場合には第1制御弁から進角室又は遅角室に流体を供給しても、この供給開始から進角室又は遅角室に圧力が作用して相対回転位相が変位を開始するまでの時間が長くなる。このような理由から、流体の圧力に応じてインターバルを変更することにより、ロック部材を凹部の一方の内壁に当接する位置まで確実に作動させ、この後に、この一方の内壁から凹部を離間させる状態を作り出すことが可能となる。
【0016】
本発明は、記ロック解除制御を設定時間継続した後に前記位相制御を実行し、この位相制御を実行しても前記位相センサで目標とする方向への前記相対回転位相の変位が検知されない場合に、前記インターバルを所定の値より長く設定して前記ロック解除制御を再び実行しても良い。
【0017】
ロック解除制御によってロックが解除されない場合には、位相制御を実行しても位相センサにより相対回転位相の変位が検出されない。従って、相対回転位相の変位が検出されない場合に、インターバルを所定の値より長く設定してロック解除制御を再び実行することにより、ロック部材を凹部の一方の内壁に当接する位置まで確実に作動させ、この後に、この一方の内壁からロック部材を離間させる状態を作り出し、ロック解除の確実性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】弁開閉時期制御システムの構成を示す図である。
図2図1の弁開閉時期制御装置のII−II線断面図である。
図3】ロック解除状態にある弁開閉時期制御装置の断面図である。
図4】最遅角ロック位相にある弁開閉時期制御装置の断面図である。
図5】ロック部材とロック凹部との位置変化を連続的に示す図である。
図6】ロック解除・位相制御のフローチャートである。
図7】ロック制御弁、位相制御弁、内部ロータの関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1に示すように、内燃機関としてのエンジンEの吸気カムシャフト3に備えた弁開閉時期制御装置10と、弁開閉時期制御装置10の相対回転位相を制御する位相制御弁21(第1制御弁の一例)と、弁開閉時期制御装置10のロック機構Lを制御するロック制御弁22(第2制御弁の一例)とを備え、制御ユニット40(ECU)とを備えて弁開閉時期制御システムが構成されている。
【0020】
エンジンEは乗用車等の車両に備えられる4サイクル型に構成され、弁開閉時期制御装置10は、エンジンEのクランクシャフト1と、吸気カムシャフト3の回転位相を変更することにより吸気タイミングの変更を実現する。制御ユニット40は、エンジンEの回転速度、あるいは、運転者の操作情報等を取得し、電磁制御型の位相制御弁21(第1制御弁の一例)と電磁操作型のロック制御弁22(第2制御弁の一例)とを制御する。
【0021】
〔弁開閉時期制御装置〕
図1図4に示すように、弁開閉時期制御装置10は、エンジンEのクランクシャフト1と同期回転する駆動側回転体としての外部ロータ11と、エンジンEの燃焼室の吸気バルブ1Vを開閉する吸気カムシャフト3に連結ボルト13で連結する従動側回転体としての内部ロータ12とを備えている。内部ロータ12は吸気カムシャフト3の回転軸芯Xと同軸芯に配置され、外部ロータ11に内部ロータ12を内包することにより、各々が回転軸芯Xを中心にして相対回転自在となる。
【0022】
外部ロータ11はフロントプレート14とリヤプレート15とに挟み込まれる状態で複数の締結ボルト16により締結され、このフロントプレート14とリヤプレート15との間に内部ロータ12が配置されている。リヤプレート15の外周にはタイミングスプロケット15Sが形成されている。
【0023】
外部ロータ11には、半径方向で内側に向けて突出する複数の突出部11Tが一体形成され、内部ロータ12は複数の突出部11Tの突出端に密接する外周を有する円柱状に形成されている。これにより、回転方向で隣接する突出部11Tの中間位置で、内部ロータ12の外周側に複数の流体圧室Cが形成される。内部ロータ12の外周には、仕切部としての複数のベーン17を備えている。このベーン17で流体圧室Cが仕切られることにより進角室Caと遅角室Cbとが形成される。
【0024】
進角室Caは、作動油が供給されることで相対回転位相を進角方向Saに変位させる空間である。これとは逆に、遅角室Cbは、作動油が供給されることで相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる空間である。
【0025】
エンジンEのクランクシャフト1に設けた出力スプロケット7と、外部ロータ11のタイミングスプロケット15Sとに亘ってタイミングチェーン8が巻回され、これにより外部ロータ11はクランクシャフト1と同期回転する。図面には示していないが、排気側のカムシャフトの前端にも弁開閉時期制御装置10と同様の構成の装置が備えられており、この装置に対してもタイミングチェーン8から回転力が伝達される。
【0026】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置10は、クランクシャフト1からの駆動力により外部ロータ11が駆動回転方向Sに向けて回転する。一方、内部ロータ12が外部ロータ11に対して駆動回転方向Sと同方向へ回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向への回転方向を遅角方向Sbと称する。
【0027】
また、ベーン17が進角方向Saの作動端(ベーン17の進角方向Saの作動端の近傍の位相を含む)に達した状態での相対回転位相を最進角位相と称し、ベーン17が遅角方向Sbの作動端(ベーン17の遅角方向Sbの作動端の近傍の位相を含む)に達した状態での相対回転位相を最遅角位相と称する。
【0028】
図1に示すように、内部ロータ12とフロントプレート14とに亘って、外部ロータ11と内部ロータ12との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)が最遅角にある状態から相対回転位相を中間ロック位相P2に達するまで付勢力を作用させるトーションスプリング18が備えられている。
【0029】
〔弁開閉時期制御機構:ロック機構〕
弁開閉時期制御装置10は、回転位相を図4に示すように最遅角位相となる最遅角ロック位相P1(第1ロック位相の一例)と、図2に示すように最進角位相及び最遅角位相の中間となる中間ロック位相P2(第2ロック位相の一例)とに保持可能な一対のロック機構Lを備えている。
【0030】
各々のロック機構Lは、外部ロータ11に対し、その突出端が回転軸芯Xに近接・離間可能に支持された一対のロック部材31と、各々のロック部材31を突出方向に付勢するロックスプリング32(付勢部材の一例)とを備えている。内部ロータ12には、中間ロック位相P2で一対のロック部材31が独立して係合する一対の中間ロック凹部33と、最遅角ロック位相P1にある場合に一方のロック部材31が係合する最遅角ロック凹部34とが形成されている。
【0031】
また、ロック部材31は板状材で構成され、外部ロータ11に対し、回転軸芯Xを中心とする放射状に形成されたガイド孔部35にスライド移動自在に挿入されている。また、中間ロック凹部33と、最遅角ロック凹部34とは回転軸芯Xと平行姿勢となる溝状に形成されている。
【0032】
〔油圧制御系〕
図1図4に示すように、弁開閉時期制御システムでは、エンジンEにはエンジンEの駆動力でオイルパンのオイルを吸引して、作動油(流体の一例)として送り出す油圧ポンプPを備え、この油圧ポンプPから位相制御弁21とロック制御弁22とに作動油を供給する流路系を備えている。
【0033】
また、位相制御弁21から内部ロータ12の進角室Caに連通する進角流路24と、位相制御弁21から遅角室Cbに連通する遅角流路25とが形成され、この進角流路24が、最遅角ロック凹部34に連通している。更に、ロック制御弁22から内部ロータ12の中間ロック凹部33に連通するロック解除流路26が形成されている。
【0034】
位相制御弁21は、その電磁ソレノイドに供給する電力の調整により進角ポジションと中立ポジションと遅角ポジションとに選択的に切替操作自在に構成されている。進角ポジションでは、油圧ポンプPの作動油を進角流路24から進角室Caに供給し、遅角室Cbから作動油を排出して相対回転位相を進角方向Saに変位させる。
【0035】
また、位相制御弁21は、中立ポジションでは、進角流路24と遅角流路25との何れに対する流体の給排を行わず相対回転位相を維持する。遅角ポジションでは、油圧ポンプPの作動油を遅角流路25から遅角室Cbに供給し、進角室Caから作動油を排出して相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる。
【0036】
ロック制御弁22は、その電磁ソレノイドに供給する電力の調整によりロックポジションとロック解除ポジションとに操作自在に構成されている。ロックポジションでは、ロック解除流路26から作動油を排出し、非ロック位置にあるロック部材31のロック状態への移行を可能にし、既にロック位置にあるロック部材31のロック状態を維持する。
【0037】
これに対して、ロック解除ポジションでは、ロック解除流路26に作動油を供給して中間ロック凹部33に嵌合状態にあるロック部材31を、ロックスプリング32の付勢力に抗して中間ロック凹部33から離脱させる位置(押し出す位置)まで作動させ、ロック状態を解除する。
【0038】
〔制御ユニット・制御形態〕
制御ユニット40は、ECUとして構成されるものであり、シャフトセンサ1Sと、位相センサ46と、温度センサ47と、圧力センサ48とからの信号が入力する。また、シャフトセンサ1Sはクランクシャフト1の回転速度及び回転位相を検知する。位相センサ46は相対回転位相を検知する。温度センサ47はエンジンEの冷却水の温度(作動油の油温と等しい)を検知する。圧力センサ48は油圧ポンプPから吐出する作動油の圧力を検知する。
【0039】
制御ユニット40は、位相制御と、ロック移行制御と、ロック解除制御とを実行するソフトウエアがインストールされている。位相制御では、位相センサ46からの検知信号を制御ユニット40にフィードバックする状態で、ロック制御弁22をロック解除ポジションに維持し、位相制御弁21を進角ポジション又は遅角ポジションに設定することにより、相対回転位相を目標とする相対回転位相の方向に変位させる。
【0040】
また、ロック移行制御として、相対回転位相を中間ロック位相P2に保持する場合には、ロック制御弁をロックポジションに設定し、位相制御弁21を進角ポジション又は遅角ポジションに設定して相対回転位相を中間ロック位相P2の方向に変位させる。この変位により位相センサ46で検知される相対回転位相が、中間ロック位相P2に維持された場合に、ロック状態に達したと判定される。
【0041】
ロック解除制御として、中間ロック位相P2でロック機構Lがロック状態にある状態からのロック解除制御の実行例に挙げると、ロック制御弁22をロック解除ポジションに設定し、ロック部材31を中間ロック凹部33から確実に離脱させた後に、位相制御に移行するように制御が行われる。
【0042】
本発明では、ロック部材31を中間ロック凹部33から離脱させる(押し出す)制御を特徴としており、その制御形態を以下に説明する。
【0043】
中間ロック位相P2でロック機構Lがロック状態にあり、進角室Caに作動油が供給されていないときには、図5(a)に示すように、吸気カムシャフト3から作用するカム平均トルクTにより相対回転位相が遅角方向Sbに変位する。これにより、同図に示す如く、ロック部材31の先端部は、中間ロック凹部33の一方の内壁(第1壁面33P)に当接し、ロック部材31の中間部は、ガイド孔部35の一方のガイド面(第1ガイド面35P)に当接する「初期位相」にある。
【0044】
このような接当状態にあるロック部材31を中間ロック凹部33から離脱させ、相対回転位相を変位させる「ロック解除・位相制御」の概要を図6のフローチャートに示している。この制御では、温度センサ47から油温情報を取得し、圧力センサ48から作動油の油圧情報を取得し、これらの情報に基づき初期制御時間(TP)と、第1設定時間(T1)と、第2設定時間(T2)とをセットする(#01、#02ステップ)。
【0045】
初期制御時間(TP)と第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)との関係を図7のタイミングチャートに示している。また、第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)とを足した値(加算した値)が本発明において、ロック部材31のロック状態の解除を容易にするための状況を作り出す周期としてのインターバルである。
【0046】
初期制御時間(TP)と第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)とは、油温情報と油圧情報とに関連付けたテーブルデータ等として予め記憶され、#02ステップでは、予め記憶されたデータ読み出すように処理形態が設定されている。尚、初期制御時間(TP)と第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)とを決まった値の初期値として記憶しておき、この初期値に対して、温度情報や、圧力情報に基づく係数を乗算する等の演算により各々の時間を設定するように処理形態を設定しても良い。
【0047】
この制御では、作動油の油温が低く粘性が高い場合には、進角方向Saと遅角方向Sbとの何れの方向への相対回転位相の変位速度が低下する。また、作動油の油温が高く粘性が低い場合には、作動油のリークによる相対回転位相の変位速度が低下する。これと同様に、油圧ポンプPから吐出する作動油の圧力が低い場合には進角室Caと遅角室Cbとの何れに作動油を供給した場合の変位速度が低下する。このような不都合を解消するために#02ステップで各々の時間が設定される。
【0048】
次に、ロック制御弁22をロック解除ポジションに設定することでロック解除流路26に油圧を作用させ、位相制御弁21を初期制御時間(TP)だけ進角ポジションに操作する(#03、#04ステップ)。
【0049】
#03ステップでは、先ずロック部材31に対しロック解除方向に油圧を継続的に作用させる状態を作り出す。また、#04ステップでは、初期制御時間(TP)だけ位相制御弁21を進角ポジションに操作することにより、進角室Caに作用する作動油の圧力により前述したカム平均トルクTに抗する回転力Rにより相対回転位相を進角方向Saに変位させ、内部ロータ12を図5(b)に示す「スタート位相」にセットする。
【0050】
「スタート位相」では、回転力Rによりロック部材31の先端部を、第1壁面33Pから離間させ、この先端部を第1壁面33Pに対向する位置の第2壁面33Qをロック部材31に当接させる。これと同時にロック部材31の中間部を、第1ガイド面35Pから離間させ、第1ガイド面35Pに対向する位置の第2ガイド面35Qに当接させる。このような位置関係に達するように初期制御時間(TP)が設定されている。
【0051】
次に、位相制御弁21を中立ポジションに第1設定時間(T1)だけ操作し、この後に、位相制御弁21を第2設定時間(T2)だけ進角ポジションに操作する(#05、#06ステップ)。
【0052】
#05ステップの制御で位相制御弁21が中立ポジションにセットされた場合には、進角室Caと遅角室Cbとに作動油は供給されない。従って、進角室Caから作動油がリークする現象と、吸気カムシャフト3から作用するカム平均トルクTの作用とにより、相対回転位相は遅角方向Sbに変位を開始する。この変位は低速で行われるものであり、この変位によりロック部材31は図5(c)に示す位相を経て図5(d)に示す「復帰位相」に達する。
【0053】
第1設定時間(T1)は、ロック部材31が「初期位相」に達する時間より短い時間に設定され、この第1設定時間(T1)が経過した後に、ロック部材31が「復帰位相」に達するように第1設定時間(T1)が設定されている。
【0054】
この後に、#06ステップの制御で位相制御弁21を第2設定時間(T2)だけ進角ポジションに設定することにより、内部ロータ12を図5(a)に示す「スタート位相」に復帰させるように第2設定時間(T2)が設定されている。
【0055】
つまり、内部ロータ12を図5(a)に示す「スタート位相」に設定した後に、作動油のリークと吸気カムシャフト3から作用するカム平均トルクTとによって相対回転位相が遅角方向Sbに変位する場合には、位相制御弁21を進角ポジションに設定せず、この変位を低速で行わせるため中立ポジションに設定している。
【0056】
これにより、ロック部材31が、中間ロック凹部33の壁面から離間すると同時に、ガイド孔部35のガイド面から離間する状態を作り出し、ロック部材31に作用する抵抗の軽減を実現している。このようにロック部材31に作用する抵抗を軽減するため、ロック部材31に作用する油圧によりロック部材31の中間ロック凹部33からの押し出しを容易に行わせているのである。
【0057】
また、この制御では、第1設定時間(T1)により「復帰位相」が決まるものであり、「復帰位相」が決まった位相ではない。このことから図5(d)に示す「復帰位相」が図5(a)の「初期位相」と一致する位相となるようにインターバルを設定しても良い。
【0058】
また、「スタート位相」から「復帰位相」に変位させ、この後に「スタート位相」に復帰させる制御は、この復帰の回数を示すカウンタ値CTが予め設定されたN値に達するまで反復して行われる。そして、このN回に達した後に、位相制御弁21を目標位相に対応するポジション(進角ポジション又は遅角ポジション)に設定することにより、相対回転位相が変位する(#07〜#09ステップ)。
【0059】
次に、#09ステップの制御を実行した場合に位相センサ46の検知により相対回転位相が目標位相の方向への変位が確認できない場合には、第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)とを延長し、再び#03ステップからの制御を繰り返して実行する(#10〜#12ステップ)。
【0060】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い。
【0061】
(a)弁開閉時期制御装置が排気カムシャフトに備えられたものに適用する。排気カムシャフトに備えられる弁開閉時期制御装置10では、排気カムシャフトからのカム平均トルクが進角方向Saに作用する。従って、「初期位相」ではロック部材31は、図5(a)と逆の壁面・ガイド面に当接する。このため、「スタート位相」に移行するために位相制御弁21を遅角ポジションに設定することになるが、位相制御弁21の制御形態が逆になるだけでロック機構Lのロック状態を解除するための制御形態は実施形態で説明したものと基本的に同様に行うことが可能となる。
【0062】
この別実施形態(a)の構成でも排気カムシャフトに備えられた弁開閉時期制御装置10のロック機構Lのロック解除を確実に行える。
【0063】
(b)圧力センサ48の検知結果を用いずに、シャフトセンサ1Sで検知されるエンジンEの回転速度に基づいて第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)とを設定するように制御形態を設定する。つまり、エンジンEの回転速度が高速であるほど、油圧ポンプPから吐出される作動油の油圧も上昇する。従って、このように設定することにより圧力センサ48を備えなくとも、油圧をインターバルに反映させることが可能となり、構成が単純化し、低廉化にも繋がる。
【0064】
(c)位相センサ46として、ロック部材31の先端部が、中間ロック凹部33の第1壁面33Pと第2壁面33Qとの間での変位を検知可能な性能のものを用いる。この構成では、位相制御弁21を中立ポジションに設定し、ロック部材31が「スタート位相」から「復帰位相」まで達したことを位相センサ46が検知するまでの時間が第1設定時間(T1)となり、ロック部材31が「スタート位相」に達したことを位相センサ46が検知するまでの時間が第2設定時間(T2)となる。この制御では、「復帰位相」を変更することにより第1設定時間(T1)と第2設定時間(T2)との変更が可能となる。
【0065】
また、この別実施形態(c)では、ロック部材31が、「復帰位相」に達したことを位相センサ46で検知した後に位相制御弁21を進角ポジションに設定し、この進角ポジションへの設定により、ロック部材31が「スタート位相」に達した後に、位相制御弁21を中立ポジションに設定するフィードバック制御が可能となる。
【0066】
(d)ロック機構Lの構成として、単一のロック部材31を備えた構成や、例えば、内部ロータ12のベーンに対して、ロック部材31を回転軸芯Xに沿う方向に移動自在に備え、リヤプレート15に中間ロック凹部33を形成したものであっても良い。
【0067】
(e)例えば、前述したフローチャートの#10ステップで相対回転位相の変位を確認できず、初期制御時間(TP)、第1設定時間(T1)、第2設定時間(T2)を延長した場合、このように延長された時間を初期値に設定してメモリ等に記憶するように構成しても良い。
【0068】
このように延長された初期値を記憶することにより、この後に温度センサ47、圧力センサ48等から取得した情報に基づいて初期制御時間(TP)と、第1設定時間(T1)と、第2設定時間(T2)とを適切な値に設定できる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、ロック部材をロック凹部に係脱させるロック機構を備えた弁開閉時期制御装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 クランクシャフト
3 カムシャフト(吸気カムシャフト)
10 弁開閉時期制御装置
11 駆動側回転体(外部ロータ)
12 従動側回転体(内部ロータ)
21 第1制御弁(位相制御弁)
22 第2制御弁(ロック制御弁)
31 ロック部材
32 付勢部材(ロックスプリング)
33 凹部(中間ロック凹部)
33P 内壁(第1壁面)
35 ガイド孔部
40 制御ユニット
46 位相センサ
Ca 進角室
Cb 遅角室
E 内燃機関(エンジン)
L ロック機構
T カム平均トルク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7