(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201861
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ダイヘッドおよび塗工装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20170914BHJP
H01M 4/04 20060101ALI20170914BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20170914BHJP
【FI】
B05C5/02
H01M4/04 Z
H01G11/86
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-69269(P2014-69269)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-188852(P2015-188852A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 庄太
【審査官】
赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−018468(JP,A)
【文献】
特開2005−246338(JP,A)
【文献】
特開2003−331830(JP,A)
【文献】
特開平05−050004(JP,A)
【文献】
特開平10−156255(JP,A)
【文献】
特表2012−500111(JP,A)
【文献】
特開2015−026471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00−21/00
B05D 1/00− 7/26
H01M 4/00− 4/62
H01G 11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工剤入口からの塗工剤を貯留させるためのマニホールドと、
前記マニホールドからの前記塗工剤を吐出口から吐出させるためのスロットと、
を有するダイヘッドにおいて、
前記塗工剤入口は、前記マニホールドの底面部に設けられ、
前記スロットは、前記マニホールドの上部に設けられ、前記塗工剤を前記吐出口から横向きに吐出するように設けられており、
前記マニホールドは、前記塗工剤入口から前記スロットに向かう方向に直交する方向であって、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて対向する壁面間の距離が、前記塗工剤入口から前記スロットに向かっていくほど大きくなっていることを特徴とするダイヘッド。
【請求項2】
塗工剤入口からの塗工剤を貯留させるためのマニホールドと、
前記マニホールドからの前記塗工剤を吐出口から吐出させるためのスロットと、
を有するダイヘッドにおいて、
前記塗工剤入口は、前記マニホールドの底面部に設けられ、
前記スロットは、前記マニホールドの上部に設けられ、前記塗工剤を前記吐出口から横向きに吐出するように設けられており、
前記マニホールドは、前記塗工剤入口から前記スロットに向かう方向における壁面と前記スロットとまでの距離が、前記塗工剤入口から前記スロットに向かう方向に直交する方向であって、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて前記塗工剤入口から離れるほど小さくなっていることを特徴とするダイヘッド。
【請求項3】
前記塗工剤入口を複数設けてなることを特徴とする請求項1または2に記載のダイヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヘッドを使用してなることを特徴とする塗工装置。
【請求項5】
電池電極製造用塗工装置であることを特徴とする請求項4に記載の塗工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヘッドおよび塗工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1等においてダイヘッドを用いた塗工方法が開示されており、塗工剤を、マニホールド(ペースト貯留部)とそれに続くスロット(扁平な吐出流路)を含むダイヘッドを通過させて塗工対象に向かって吐出させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開番号WO2010/082230公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、
図9に示すように、ダイヘッド100における塗工剤入口101につながるマニホールド102の形状が長方形であると、塗工剤入口101からの塗工剤をマニホールド102で貯留させるとともにスロット103を通って吐出口104から吐出させる際に、マニホールド102の下部における幅方向(
図9ではX方向)の角部においてスラリー状の塗工剤が滞留する。このようにしてダイヘッド100内でスラリー状の塗工剤が滞留し、経時的に沈降する。その結果、沈降物がダイヘッド100から流出すると、スジ引き等の塗布ムラの不良を引き起こすことが懸念される。
【0005】
本発明の目的は、ダイヘッド内での塗工剤の滞留を防止し、塗工剤の沈降を抑制することができるダイヘッドおよび塗工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明では、塗工剤入口からの塗工剤を貯留させるためのマニホールドと、前記マニホールドからの前記塗工剤を吐出口から吐出させるためのスロットと、を有するダイヘッドにおいて、
前記塗工剤入口は、前記マニホールドの底面部に設けられ、前記スロットは、前記マニホールドの上部に設けられ、前記塗工剤を前記吐出口から横向きに吐出するように設けられており、前記マニホールドは、前記塗工剤入口から前記スロットに向かう方向に直交する方向
であって、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて対向する壁面間の距離が、前記塗工剤入口から前記スロットに向かっていくほど大きくなっていることを要旨とする。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、マニホールドは、塗工剤入口からスロットに向かう方向に直交する方向
であって、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて対向する壁面間の距離が、塗工剤入口からスロットに向かっていくほど大きくなっているので、ダイヘッド内での塗工剤の滞留する空間が小さくなり、塗工剤の沈降を抑制することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、塗工剤入口からの塗工剤を貯留させるためのマニホールドと、前記マニホールドからの前記塗工剤を吐出口から吐出させるためのスロットと、を有するダイヘッドにおいて、
前記塗工剤入口は、前記マニホールドの底面部に設けられ、前記スロットは、前記マニホールドの上部に設けられ、前記塗工剤を前記吐出口から横向きに吐出するように設けられており、前記マニホールドは、前記塗工剤入口から前記スロットに向かう方向における壁面と前記スロットとまでの距離が、前記塗工剤入口から前記スロットに向かう方向に直交する方向
であって、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて前記塗工剤入口から離れるほど小さくなっていることを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、マニホールドは、塗工剤入口からスロットに向かう方向における壁面とスロットとまでの距離が、塗工剤入口からスロットに向かう方向に直交する方向
であって、互いに直交する2つの方向のそれぞれにおいて塗工剤入口から離れるほど小さくなっているので、ダイヘッド内での塗工剤の滞留する空間が小さくなり、塗工剤の沈降を抑制することができる。
【0010】
請求項3に記載のように、請求項1または2に記載のダイヘッドにおいて、塗工剤入口を複数設けてなるとよい。
請求項4に記載のように、請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヘッドを使用してなる塗工装置とするとよい。
【0011】
請求項5に記載のように、請求項4に記載の塗工装置において、電池電極製造用塗工装置であるとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ダイヘッド内での塗工剤の滞留する空間が小さくなり、塗工剤の沈降を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】(a)はダイヘッドの平面図、(b)は(a)のA−A線での断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
なお、図面において、水平面を、直交するX,Y方向で規定するとともに、上下方向をZ方向で規定している。
【0015】
図1および
図2に示すように、電池電極製造用の塗工装置10は、ダイヘッド20を備えている。この塗工装置10は、リチウムイオン二次電池における電極の製造装置である。
【0016】
塗工剤は活物質、導電助剤、バインダー、溶剤等を混練・希釈してスラリー状にしたものであり、このスラリーには比重の大きな材料を含んだ塗工剤がダイヘッド20にポンプ等により圧送される。ポンプ等により圧送された塗工剤がダイヘッド20を通じて水平方向に吐出される。つまり、ダイヘッド20は塗工剤を水平方向に吐出するように横向きに設置されている。
【0017】
ダイヘッド20の吐出口に対し所定距離だけ離間した位置にバックアップロール50が配置されている。バックアップロール50の外周に金属箔60が巻き掛けられ、バックアップロール50は自身が回転することにより金属箔60を連続搬送可能に支持している。バックアップロール50に支持された金属箔60にダイヘッド20から吐出された塗工剤が連続的に塗布される。塗工剤70が塗布された後の金属箔60は、その後の工程において、乾燥、プレス、打ち抜き等が行われる。
【0018】
このようにして、電池電極製造用の塗工装置10は、ダイヘッド20からスラリー状の塗工剤を集電体としての金属箔60に吐出して、塗布している。
図3(a),(b)、
図4に示すように、ダイヘッド20は下ブロック21と上ブロック22にて構成されている。下ブロック21の上面と上ブロック22の下面とが接する状態で、下ブロック21と上ブロック22とがダイヘッド20として一体となっている。下ブロック21と上ブロック22との間に、塗工剤入口からの塗工剤を貯留させるためのマニホールド25と、マニホールド25からの塗工剤を吐出口から吐出させるためのスロット26が区画形成されている。本実施形態では、上ブロック22の下面は平坦であり、下ブロック21の上面には凹部が形成され、下ブロック21の凹部の開口部を上ブロック22で塞ぐようにしてマニホールド25とスロット26が形成されている。
【0019】
下ブロック21の下面には円形の塗工剤入口27が形成されている。配管Pと連結されてポンプ等により塗工剤が塗工剤入口27へ圧送される。ダイヘッド20の一側面には吐出口28が形成されている。吐出口28の断面は、上下(Z方向)に短く、左右(X方向)に長い長方形状をなしている。吐出口28は、スロット26の先端の開口部にて構成されている。そして、ダイヘッド20に供給された塗工剤がマニホールド25からスロット26に押し出されて吐出口28から集電体としての金属箔60に向かって吐出される。
【0020】
図4に示すように、マニホールド25のX方向における幅とスロット26の幅とは同一のW1である。
図3(b)に示すように、スロット26は、マニホールド25の上部側面より連続するようにY方向に延びている。
図3(a)の平面視においてマニホールド25のほぼ中央の位置に塗工剤入口27が形成されている。
【0021】
ダイヘッド20のマニホールド25の底面部にはテーパ状の壁面31,32,33,34が形成されている。マニホールド25の底面部は塗工剤の入口部分であり、当該部位においては塗工剤の流路断面積が、塗工剤がスロット26側に向かう方向の下流にいくほど大きくなっている。
【0022】
図4に示すように壁面31,32はX方向において対向している。
図3(b)に示すように壁面33,34はY方向において対向している。
図4に示すように、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向に直交するX方向における対向する壁面31,32間の距離d1が、塗工剤入口27からスロット26に向かって連続的かつ直線的に大きくなっている。また、
図3(b)に示すように、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向に直交するY方向における対向する壁面33,34間の距離d2が、塗工剤入口27からスロット26に向かって連続的かつ直線的に大きくなっている。
【0023】
マニホールド25は、
図4に示すように、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向における壁面31,32とスロット26とまでの距離d10が、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向に直交するX方向において塗工剤入口27から離れるほど連続的かつ直線的に小さくなっている。また、マニホールド25は、
図3(b)に示すように、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向における壁面33,34とスロット26とまでの距離(
図3(b)ではY方向での距離の差が分るようにd11で示す)が、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向に直交するY方向において塗工剤入口27から離れるほど連続的かつ直線的に小さくなっている。
【0024】
このように、テーパ状の壁面31,32,33,34により、スラリー状の塗工剤の流路として断面円形の塗工剤入口27から断面長方形状を保ちつつ上方に向かって延びている。よって、塗工剤入口27からスロット26に向かって徐々に流路断面が広がっており、この部位を通って塗工剤が流れるようになっている。
【0025】
次に、電池電極製造用の塗工装置10の作用について説明する。
図3(a),(b)、
図4に示すように、ダイヘッドにおけるマニホールド25の入口部分をテーパ形状にすることにより、ダイヘッド20内でのスラリー状の塗工剤の滞留する空間が小さくなり、塗工剤の沈降を抑制することができる。その結果、沈降物がダイヘッド20から流出することを防止してスジ引き等の塗布ムラの不良の発生を未然に回避することができる。
【0026】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)マニホールド25とスロット26とを有するダイヘッド20の構成として、マニホールド25は、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向に直交するX,Y方向における対向する壁面間の距離d1,d2が、塗工剤入口27からスロット26に向かっていくほど大きくなっている。よって、ダイヘッド内での塗工剤の滞留する空間が小さくなり、塗工剤の沈降を抑制することができる。
【0027】
(2)マニホールド25とスロット26とを有するダイヘッド20の構成として、マニホールド25は、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向における壁面とスロット26とまでの距離d10,d11が、塗工剤入口27からスロット26に向かうZ方向に直交するX,Y方向において塗工剤入口27から離れるほど小さくなっている。よって、ダイヘッド内での塗工剤の滞留する空間が小さくなり、塗工剤の沈降を抑制することができる。
【0028】
(3)塗工装置10の構成として、上記(1)または(2)のダイヘッドを使用してなるので、ダイヘッド内での塗工剤の滞留を防止して沈降を抑制することができる。
(4)特に(3)の塗工装置10は、電池電極製造用塗工装置であるので、高品質な電池の電極を製造することができる。
【0029】
本発明は、実施形態に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・
図5に示すように、ダイヘッド20から塗工剤70を間欠的に吐出させる場合に適用してもよい。
【0030】
・
図6に示すように、ダイヘッド20におけるマニホールド25の底面が水平方向に延び、底面角部における壁面35,36が円弧形状となっていてもよい。
・
図7に示すように、ダイヘッド20におけるマニホールド25の底面が水平方向に延び、底面角部における壁面37,38が直線的に延びる斜状面となっていてもよい。
【0031】
・
図8に示すように、ダイヘッド20における塗工剤入口(27a,27b)を複数設けてもよい。これにより、幅方向でのスラリー状の塗工剤の滞留を更に防止することができる。
【0032】
・ダイヘッドはスラリーを吐出するときに横向きになるように配置したが、これに限らない。例えば、ダイヘッド20は、塗工剤を上方向に吐出するように上向きに設置してもよい。
【0033】
・リチウムイオン二次電池に適用したが、これに限ることなく、他の二次電池に適用したり、また一次電池、キャパシタ等に適用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
10…塗工装置、20…ダイヘッド、25…マニホールド、26…スロット、27…塗工剤入口、28…吐出口、31…壁面、32…壁面、33…壁面、34…壁面、d1…距離、d2…距離、d10…距離、d11…距離。