(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
建物に設置されたエレベータにおいて、駆動シーブに巻き掛けられてかご及び釣合錘を吊り下げる複数の主ロープに横振れが生じたときの振動エネルギーを吸収するエレベータ用動吸振器であって、
前記複数の主ロープの両端部のうち少なくとも一方の端部より上方位置において該各主ロープを一体的に束ねた状態に保持する主ロープ保持部材と、
前記主ロープ保持部材に自在継手を介して連結され、該自在継手を支点として揺動自在に垂下された複数のリンク部材と、
前記複数のリンク部材の各先端部に連結されて前記主ロープ保持部材の下方に吊り下げられた付加質量体と、
を備え、
前記付加質量体は、前記複数の主ロープに横振れが生じると揺動し、該揺動する付加質量体によって前記複数の主ロープに対して慣性質量が付加されることで、各主ロープの振れ方向とは逆向きの力が作用することを特徴とするエレベータ用動吸振器。
前記主ロープに横振れが生じていないときにおける前記主ロープ保持部材の重心位置と前記付加質量体の重心位置とが、鉛直方向において同軸上に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータ用動吸振器。
前記付加質量体は、前記複数の主ロープを取り囲む環状部材から成り、該環状部材の周方向に一定の間隔で前記複数のリンク部材が連結されていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一つに記載のエレベータ用動吸振器。
前記付加質量体が前記複数の主ロープに対して水平方向へ相対的に変位しながら揺動するときの該付加質量体の固有振動数を、前記建物に横揺れが生じたときの該建物の固有振動数と一致させたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一つに記載のエレベータ用動吸振器。
前記付加質量体と前記複数の主ロープとの間に設けられ、該付加質量体の該複数の主ロープへの接触を回避するストッパーを備えることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一つに記載のエレベータ用動吸振器。
建物に設置されたエレベータにおいて、駆動シーブに巻き掛けられてかご及び釣合錘を吊り下げる複数の主ロープの重量アンバランスを補償する複数の釣合ロープに横振れが生じたときの振動エネルギーを吸収するエレベータ用動吸振器であって、
前記複数の釣合ロープの両端部のうち少なくとも一方の端部より下方位置において該各釣合ロープを一体的に束ねた状態に保持する釣合ロープ保持部材と、
前記釣合ロープ保持部材に自在継手を介して連結され、該自在継手を支点として揺動自在に垂下された複数のリンク部材と、
前記複数のリンク部材の各先端部に連結されて前記釣合ロープ保持部材の下方に吊り下げられた付加質量体と、
を備え、
前記付加質量体は、前記複数の釣合ロープに横振れが生じると揺動し、該揺動する付加質量体によって前記複数の釣合ロープに対して慣性質量が付加されることで、各釣合ロープの振れ方向とは逆向きの力が作用することを特徴とするエレベータ用動吸振器。
【背景技術】
【0002】
従来から、強風や地震などの影響で建物が横揺れすると、その建物に設置されたエレベータの昇降路内で主ロープや釣合ロープ等が建物の揺れ方向(水平方向)へ横振れすることが知られている。その際、横振れが生じたロープの固有振動数が建物の固有振動数に近づくと、共振によりロープの振れ幅は一段と大きくなる。そうなれば、昇降路内にある種々の機器や設備にロープが接触したり絡まったりするおそれが高まり、場合によっては、接触時の衝撃等によりこれらを破損する可能性もある。
【0003】
このようなロープの振動対策の一例として、横振れが生じたロープの振動エネルギーを吸収する動吸振装置をエレベータのかご上方近傍等の所定位置に設けてロープの振動を抑制する技術が下記特許文献1に開示されている。この動吸振装置は、ロープに対して常時非接触状態で対向配置された複数の永久磁石と、各永久磁石が固定された一又は複数の可動剛体と、この可動剛体に連結されたダンパー、ばね等から成る減衰要素と、から構成されるエネルギー吸収手段を備えている。かかる動吸振装置は、エネルギー吸収手段がロープに対する永久磁石の吸引力に対し減衰要素の減衰力を作用させることでロープの振動エネルギーを吸収し、ロープの振動抑制を図るというものである。
【0004】
ところで、ロープの横振れの主な要因となる「建物の横揺れ」は、上記のとおり、強風や地震などによって引き起こされるものであるが、そのような自然現象に起因する以上、その建物に将来的に生じる揺れの方向やその発生のタイミング等を事前に正確に予測することは、実質上不可能に近い。これは、ロープの振れ方向、また、ロープの振れ幅の程度等についても同様のことが言える。
【0005】
しかしながら、上記の動吸振装置において、ロープが永久磁石に対し正対方向へ振れる場合と非正対方向へ振れる場合とでは、ロープに働く永久磁石の吸引力の強さに差異が生じる。その結果、ロープの振動エネルギー吸収能にアンバランスが生じるため、水平方向における任意の方向について所望の振動抑制効果が一様に得られるとは言い難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、ロープの横振れに対し、任意の水平方向においてロープの振動を一様に抑制できるエレベータ用動吸振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、建物に設置されたエレベータにおいて、駆動シーブに巻き掛けられてかご及び釣合錘を吊り下げる複数の主ロープに横振れが生じたときの振動エネルギーを吸収するエレベータ用動吸振器であって、前記複数の主ロープの両端部のうち少なくとも一方の端部より上方位置において該各主ロープを一体的に束ねた状態に保持する主ロープ保持部材と、前記主ロープ保持部材に自在継手を介して連結され、該自在継手を支点として揺動自在に垂下された複数のリンク部材と、前記複数のリンク部材の各先端部に連結されて前記主ロープ保持部材の下方に吊り下げられた付加質量体と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明のエレベータ用動吸振器では、前記主ロープに横振れが生じていないときにおける前記主ロープ保持部材の重心位置と前記付加質量体の重心位置とが、鉛直方向において同軸上に配置されていることを特徴に加えてもよい。
【0010】
本発明のエレベータ用動吸振器では、前記付加質量体が、自在継手を介して前記複数のリンク部材と連結されていることを特徴に加えてもよい。
【0011】
本発明のエレベータ用動吸振器では、前記付加質量体が、前記複数の主ロープを取り囲む環状部材から成り、該環状部材の周方向に一定の間隔で前記複数のリンク部材が連結されていることを特徴に加えてもよい。
【0012】
本発明のエレベータ用動吸振器では、前記付加質量体が前記複数の主ロープに対して水平方向へ相対的に変位しながら揺動するときの該付加質量体の固有振動数を、前記建物に横揺れが生じたときの該建物の固有振動数と一致させたことを特徴に加えてもよい。
【0013】
本発明のエレベータ用動吸振器では、前記付加質量体と前記複数の主ロープとの間に設けられ、該付加質量体の該複数の主ロープへの接触を回避するストッパーを備えることを特徴に加えてもよい。
【0014】
本発明のエレベータ用動吸振器では、前記付加質量体と前記複数の主ロープとの間に緩衝部材が設けられていることを特徴に加えてもよい。
【0015】
また、本発明は、建物に設置されたエレベータにおいて、駆動シーブに巻き掛けられてかご及び釣合錘を吊り下げる複数の主ロープの重量アンバランスを補償する複数の釣合ロープに横振れが生じたときの振動エネルギーを吸収するエレベータ用動吸振器であって、前記複数の釣合ロープの両端部のうち少なくとも一方の端部より下方位置において該各釣合ロープを一体的に束ねた状態に保持する釣合ロープ保持部材と、前記釣合ロープ保持部材に自在継手を介して連結され、該自在継手を支点として揺動自在に垂下された複数のリンク部材と、前記複数のリンク部材の各先端部に連結されて前記釣合ロープ保持部材の下方に吊り下げられた付加質量体と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエレベータ用動吸振器によれば、横振れが生じた主ロープの振動エネルギーを付加質量体の振動エネルギーへ転換することにより主ロープの振動エネルギーを吸収し、主ロープの横振れを抑制することができる。付加質量体は任意の水平方向へ揺動自在に設けられているため、任意の水平方向における主ロープの横振れを一様に抑制することが可能である。また、主ロープ保持部材、複数のリンク部材、及び付加質量体から構成される「振り子構造」という至って簡易な構成を採用しているため、既存のエレベータへの後付け等にも低コストで容易に対応することが可能であり、メンテナンス等の作業も簡単である。特に、付加質量体の固有振動数はリンク部材のリンク長によって定まるため、設定調整が比較的簡易である。
【0017】
主ロープに横振れが生じていないときにおける主ロープ保持部材の重心位置と付加質量体の重心位置とが、鉛直方向において同軸上に配置されている本発明のエレベータ用動吸振器によれば、横振れが生じた主ロープの振動エネルギーをより円滑に付加質量体へ伝達することができる。これにより、付加質量体に優れた振動応答性を発揮させることができる。
【0018】
付加質量体が、自在継手を介して複数のリンク部材と連結されている本発明のエレベータ用動吸振器によれば、付加質量体が振動する際、鉛直方向への変位が抑制され、略水平方向への変位で往復揺動させることができる。これにより、付加質量体が揺動するときに鉛直方向へ加わる力が抑制され、複数の主ロープに固定された主ロープ保持部材へかかる負荷を軽減することができる。
【0019】
付加質量体が、複数の主ロープを取り囲む環状部材から成り、この環状部材の周方向に一定の間隔で複数のリンク部材が連結された本発明のエレベータ用動吸振器によれば、主ロープを環状部材の中空部に配しつつも、付加質量体を水平方向へ所要距離だけ変位させることができる。したがって、幅方向のスペースに多くの制限が課される昇降路内においても動吸振器を正常に機能させることができる。
【0020】
付加質量体の固有振動数を建物の固有振動数と一致させた本発明のエレベータ用動吸振器によれば、主ロープと建物が最も共振しやすい状況下において振動エネルギー吸収能が最大限に発揮される機能設定を実現できる。
【0021】
付加質量体と複数の主ロープとの間にストッパーを備えた本発明のエレベータ用動吸振器によれば、付加質量体が主ロープに接触するのを確実に防ぐことができる。このため、付加質量体との接触等に起因して主ロープが損傷や切断する事態を確実に防止でき、動吸振器の作動時における安全性が確保される。
【0022】
付加質量体と複数の主ロープとの間に緩衝部材が設けられた本発明のエレベータ用動吸振器によれば、付加質量体が主ロープ等に接触するほど大きい揺れが生じたとしても、その接触時の衝撃が緩和されるため、動吸振器の作動時の安全性が高められる。
【0023】
また、本発明のエレベータ用動吸振器によれば、横振れが生じた釣合ロープの振動エネルギーを付加質量体の振動エネルギーへ転換することにより釣合ロープの振動エネルギーを吸収し、釣合ロープの横振れを抑制することができる。付加質量体は任意の水平方向へ揺動自在に設けられているため、任意の水平方向における釣合ロープの横振れを一様に抑制することが可能である。また、釣合ロープ保持部材、複数のリンク部材、及び付加質量体から構成される「振り子構造」という至って簡易な構成を採用しているため、既存のエレベータへの後付け等にも低コストで容易に対応することが可能であり、メンテナンス等の作業も簡単である。特に、付加質量体の固有振動数はリンク部材のリンク長によって定まるため、設定調整が比較的簡易である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るエレベータ用動吸振器(以下、単に「動吸振器」と示す)の実施形態について図面を用いて説明する。
【0026】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の動吸振器10は、不図示の建物に設置されたエレベータ100の主ロープR1に適用される。主ロープR1は、その両端部に連結されたかご101及び釣合錘102を互いに逆方向へ昇降移動させるための動力伝達部材である。本実施形態において、主ロープR1は、機械室に設置された巻上機103に軸支された駆動シーブ104及びそらせシーブ105に巻き掛けられた金属製のワイヤロープから構成され、かご101及び釣合錘102をつるべ式に吊り下げている。かご101及び釣合錘102は、駆動シーブ104を巻上機103の支軸回りに回転させたとき当該駆動シーブ104と主ロープR1との間に生じる摩擦力によって、昇降路内を互いに逆方向へ昇降移動させられる。
【0027】
本実施形態の動吸振器10は、かかるエレベータ100において、主ロープR1に横振れが生じたときの振動エネルギーを吸収するためのものである。ここでいう「横振れ」とは、主ロープR1が、鉛直線と平行に緊張した状態を基準位置として、任意の水平方向へ周期的に変位する振動のことをいう。本実施形態の動吸振器10は、
図2に示すように、複数の主ロープR1の両端部のうち少なくとも一方の端部より上方位置に設けられた主ロープ保持部材1と、この主ロープ保持部材1に連結された複数のリンク部材2と、これら複数のリンク部材2の各先端部に連結された付加質量体3と、を備えた振り子構造型の質量付加機構から構成されている。
【0028】
主ロープ保持部材1は、その取付位置において複数の主ロープR1を一体的に束ねた状態に保持するための構成部材である。主ロープ保持部材1を設けることで、複数の主ロープR1に生じた横振れを一の振動系として取り扱うことが可能となる。本実施形態の主ロープ保持部材1は、円柱状の本体11と、本体11の軸方向に貫通し主ロープR1が挿通される複数の貫通孔12と、各貫通孔12を避けて本体11に複数設けられた各リンク部材2との連結部13と、を有するブロック材から構成されている。本体11に設けられた各貫通孔12に挿通された主ロープR1の外面を、例えば、ボルト等の締結部材(図示省略)の締結力によって押圧することにより、本体11と主ロープR1とが強固に固定されている。
【0029】
また、本実施形態の主ロープ保持部材1では、各貫通孔12の重心位置が本体11の軸心上となるよう各貫通孔12が配置されている。すなわち、
図2に示すように、5本の主ロープR1に対し、各貫通孔12が正五角形の各頂点の位置に配置されており、且つ、この正五角形の重心位置が本体11の軸心上に配置されている。このように重心位置が本体11の軸心上となるよう各貫通孔12を配置すれば、主ロープR1への取付け時における主ロープ保持部材1の安定性が向上する。なお、貫通孔12の数は主ロープR1の本数に応じて適宜変更可能であり、例えば、主ロープR1が4本の場合には、本体11の軸心上で対角線が交差する四角形の各頂点に貫通孔12を配置したような形態で実施しても構わない。
【0030】
主ロープ保持部材1の主ロープR1に対する固定手段については特に限定されないが、後述する複数のリンク部材2及び付加質量体3の総重量に耐え得るだけの固定強度を確保できることが必要である。即ち、各リンク部材2を介して付加質量体3を振り子状に吊り下げた状態に維持できなければならない。このような状態の維持が可能である限り、主ロープ保持部材1の形状、大きさ、材質、及びその質量等は不問である。
【0031】
リンク部材2は、主ロープ保持部材1と付加質量体3とを連結するための連結部材である。本実施形態のリンク部材2は、自在継手21を介して主ロープ保持部材1と連結されており、この自在継手21を支点として任意方向へ揺動自在に垂下されている。本実施形態では、自在継手21として、リンク部材2を構成するロッド部22の一端に設けられた球状のヘッド部23が、主ロープ保持部材1の連結部13に収容されて成るボールジョイントが採用されている。つまり、自在継手21を構成するボールジョイントは、リンク部材2のロッド部22の一端がボールスタッドを構成し、主ロープ保持部材1の連結部13がハウジングを構成している。
【0032】
リンク部材2の数については特に限定されないが、少なくとも3以上であることが望ましい。また、各リンク部材2と連結される自在継手21は、主ロープ保持部材1の重心を中心とする円周に沿って等ピッチで配設されていることがより望ましい。これにより、振り子状に吊り下げられた付加質量体3の任意の水平方向への変位をより安定的に許容するとともに、各リンク部材2へ伝達される主ロープR1の振動エネルギーの均等化を図ることができる。本実施形態では、4つのリンク部材2が、主ロープ保持部材1の底面の周縁部に沿って、その周方向に90°の間隔で配設された4つの自在継手21を介して連結されている。
【0033】
リンク部材2の長さLは、想定される付加質量体3の固有振動数に応じて決定される。つまり、リンク部材2の長さLは、付加質量体3の振動数を決定・調整するためのパラメータとして重要な意義を有している。これは、付加質量体3が主ロープ保持部材1に吊り下げられた振り子であることに変わりはなく、その振動が微小なものであると仮定した場合、付加質量体3の振動数がこれを吊り下げるリンク部材2の長さLと重力加速度のみで定まるものと近似的に取り扱っても特に差し支えはないと考えられるからである。但し、動吸振器10の設置現場において付加質量体3の振動数を適宜調整できることが望ましいことから、本実施形態のリンク部材2には、
図3に示すように、その長さLを可変とするリンク長調整手段24が設けられている。
【0034】
本実施形態のリンク長調整手段24は、
図3に示すように、ロッド部22に設けられた長孔25を利用している。リンク部材2のロッド部22は、複数のロッド部材22a,22bが接合されたものであり、各ロッド部材22a,22bに設けられた長孔25同士が互いに重なる貫通部26を通じて、例えば、ボルトとナット等の固定部材27によりロッド部材22a,22bが一体的に接合されている。リンク長調整手段24は、ロッド部材22aに対しロッド部材22bを長孔25の長手方向に沿って適宜スライドさせた状態でこれらを固定することで、固定部材27を使用可能な大きさの貫通部26が形成される範囲において、リンク部材2の長さLを適宜調整することができる。
【0035】
図2に戻り、付加質量体3は、主ロープ保持部材1の下方に複数のリンク部材2を介して振り子状に吊り下げられた振動子である。付加質量体3は、主ロープ保持部材1及びリンク部材2を通じて伝達される主ロープR1の振動エネルギーにより、主ロープR1に対して水平方向へ相対的に変位しながら揺動させられる。こうして、主ロープR1の振動エネルギーが付加質量体3の振動エネルギーへと転換される。このとき、付加質量体3は、主ロープR1に対して慣性質量を付加する。
【0036】
本実施形態では、付加質量体3が揺動(振動)するときの当該付加質量体3の固有振動数を、エレベータ100が設置された建物に横揺れが生じたときの当該建物の固有振動数と一致させている。これにより、主ロープR1が最も共振しやすい状況下において、動吸振器10による振動エネルギー吸収能を最大限に発揮する機能設定が実現される。主ロープR1が最も共振しやすい状況下とは、例えば、主ロープR1の長さが建物の高さに最も近い値となるような状況が挙げられる。具体的には、かご101が建物の最下階付近に停止している状況が想定される。その場合、かご101側の各主ロープR1の固有振動数が建物の固有振動数に近づき、共振するからである。なお、本実施形態で吸振対象としていない釣合錘102側の各主ロープR1については、かご101が最上階付近に停止している状況で固有振動数が建物の固有振動数に近づき、共振する。
【0037】
付加質量体3の質量は、その固有振動数には特に大きく影響しないものの、主ロープR1の振動エネルギーを転換し得るだけの適正な質量を有する必要がある。付加質量体3の質量が軽すぎると、主ロープR1の振動エネルギーを吸収しきれないばかりか、主ロープR1に対し慣性質量が十分に付加されないため主ロープR1の振れを効果的に抑制できず、動吸振器10としての実効的機能を果たさない。一方、付加質量体3の質量が重すぎると、主ロープ保持部材1に要求される主ロープR1との間の固定強度や主ロープR1に掛かる負荷が増大することに加え、かご101側の総質量が増すのでエレベータ走行に支障を来すおそれもある。このため、付加質量体3の質量は、想定される主ロープR1の振動エネルギーの大きさを考慮しつつ、主ロープR1の数およびその質量、エレベータ100が設置される建物の高さ等に応じて、可能な限り重く設定するのが望ましい。例えば、エレベータ100を高さ200m程度の建物に設置すると仮定した場合の付加質量体3の質量として、100kg程度の重さを想定している。
【0038】
付加質量体3の形状については特に限定されない。但し、静止時(即ち、主ロープR1に横振れが生じていないとき)における付加質量体3の重心位置が、主ロープ保持部材1の重心位置と鉛直方向において同軸上に配置されていることが望ましい。これにより、主ロープR1の振動エネルギーをより円滑に付加質量体3へ伝達することができ、優れた振動応答性を発揮させることができる。本実施形態の付加質量体3は、複数の主ロープR1を取り囲む円形の環状部材31から構成されており、この環状部材31の周方向に一定の間隔で複数のリンク部材2が連結されている。環状部材31の中空部32には、各主ロープR1が配されており、平面視において、環状部材31の内周面(及び外周面)と、主ロープ保持部材1の外周面とが異径の同心円を成すように配置されている。付加質量体3を円形の環状部材31とすることで、各主ロープR1を中空部32に配しつつも、付加質量体3を水平方向へ所要距離だけ変位させることができる。よって、幅方向のスペースに制限が多い昇降路内においても動吸振器10を正常に機能させることができる。
【0039】
また、本実施形態の付加質量体3は、上記の主ロープ保持部材1と同様に、自在継手21を介して各リンク部材2と連結されている。より詳しくは、リンク部材2の先端部に設けられた球状のヘッド部23から成るボールスタッドと、環状部材31の上面にその周方向に沿って等ピッチで設けられ、各ヘッド部23を収容する連結部33から成るハウジングと、から構成されるボールジョイントを介して一体的に連結されている。このため、付加質量体3が振動する際には、鉛直方向への変位が抑制され、略水平方向へ変位しながら往復揺動することとなる。これにより、付加質量体3が揺動するときに鉛直方向へ加わる力が抑制され、各主ロープR1に固定された主ロープ保持部材1へかかる負荷が軽減されるという利点がある。
【0040】
また、本実施形態の動吸振器10は、付加質量体3の各主ロープR1への接触を回避するためのストッパー4が、付加質量体3と各主ロープR1との間に設けられている。
図2に示すように、各主ロープR1の一端部は、カーフレーム106の上面の下側に設けられた既存の縦振動抑制機構107に連結されており、カーフレーム106を介してかご101を吊り下げている。本実施形態のストッパー4は、このカーフレーム106の上面から各主ロープR1の周囲を取り囲むように立設された複数の突起部材から構成されている。ストッパー4を設けることにより、付加質量体3との接触等に起因して主ロープR1が損傷や切断する事態が確実に防止でき、動吸振器10の作動時の安全性を確保している。
【0041】
さらに、本実施形態の動吸振器10は、付加質量体3と各主ロープR1との間に緩衝部材5が設けられている。本実施形態では、緩衝部材5として、ストッパー4に一端が固定されると共に、環状部材31の内周面に他端が固定されたコイルばねを採用している。これにより、付加質量体3がストッパー4と接触するほど大きい揺れが生じても、その接触時の衝撃が緩和されるため、動吸振器10の作動時の安全性がより一層高められる。
【0042】
次に、本実施形態の動吸振器10の動作について説明する。エレベータ100が設置された建物に横揺れが発生すると、昇降路上方の機械室に設置された巻上機103も建物と共に横揺れする。その際、横揺れする建物の振動エネルギーが、巻上機103に軸支された駆動シーブ104(及びそらせシーブ105)を通じて各主ロープR1へ伝達され、各主ロープR1にも横振れが生じる。
【0043】
本実施形態の動吸振器10は、各主ロープR1の端部側に取り付けられており、横振れが生じた各主ロープR1の振動エネルギーは、動吸振器10を構成する主ロープ保持部材1、各リンク部材2を通じて、最終的に付加質量体3まで伝達される。そして、振り子状に吊り下げられた付加質量体3は、各主ロープR1から伝達される振動エネルギーによって加振され、主ロープR1に対して水平方向へ相対的に変位しながら揺動させられる。こうして、横振れが生じた各主ロープR1の振動エネルギーが付加質量体3の振動エネルギーへと転換されることにより、各主ロープR1の振動エネルギーが動吸振器10に吸収される。
【0044】
ここで、本実施形態の動吸振器10において、主ロープ保持部材1は各主ロープR1に固定されているため、常に各主ロープR1と同じ周期で振動するが、付加質量体3は自在継手21を介して主ロープ保持部材1に連結された複数のリンク部材2によって振り子状に吊り下げられているため、基本的には、各主ロープR1(及び主ロープ保持部材1)とは異なる周期で振動する。また、仮に同周期振動となることがあっても、各主ロープR1と付加質量体3は互いに異なる位相で振動することになる。このとき、揺動(振動)する付加質量体3によって各主ロープR1に対して慣性質量が付加されることで、各主ロープR1の振れ方向とは逆向きの力が作用し、各主ロープR1の振動が抑制される。
【0045】
なお、本実施形態の動吸振器10は、付加質量体3の固有振動数をエレベータ100が設置された建物の固有振動数と一致させることにより、各主ロープR1と建物が最も共振しやすい状況下において、動吸振器10による振動エネルギー吸収能が最大限に発揮される機能設定を実現している。これを以下に詳細に説明する。
【0046】
かご101が建物の最下階付近に待機しているときに建物に横揺れが生じるという状況になった場合、かご101側の各主ロープR1の長さと建物の高さとが比較的近い値となっているため、各主ロープR1は、建物の固有振動数に近い振動数で水平方向へ振動することとなる。建物の横揺れの規模や推移を見定め、主ロープR1の振動の成長が看過できない等と判断すると管制運転へ移行し、かご101を特定の避難階まで移動させたりすることになる。
【0047】
各主ロープR1に生じた当該振動の振動エネルギーは、上記のように付加質量体3の振動エネルギーへと転換されるため、付加質量体3は各主ロープR1から伝達される振動エネルギーによって加振され、主ロープR1に対して水平方向へ相対的に変位しながら揺動(振動)させられる。このとき、付加質量体3は、建物の固有振動数と同じ振動数で振動するため、付加質量体3の振動数と各主ロープR1の振動数は近い値となるが、各主ロープR1の振動と付加質量体3の振動は略逆位相の関係となる。そのため、各主ロープR1に加わる振れ方向への加振力の大部分が、付加質量体3が各主ロープR1に対して付加する慣性質量の作用によって打ち消される。
【0048】
かかる状況における動吸振器10の見かけ上の挙動を
図4に示す。
図4(a),(b)に示すように、付加質量体3は、各主ロープR1に対し水平方向へ相対的に変位しながら往復揺動(振動)を繰り返す。これに対し、各主ロープR1の水平方向への振動は、付加質量体3が各主ロープR1に対して付加する慣性質量によって相殺され、微振動と呼べる程度にまで抑えられる。これはつまり、各主ロープR1に生じた横振れによる振動エネルギーのほとんどが、そのまま付加質量体3の振動エネルギーへと転換されることを意味する。こうして、動吸振器10の機能が最大限に発揮され、各主ロープR1の振動エネルギーのほとんどが動吸振器10によって吸収されるのである。
【0049】
しかも、本実施形態の動吸振器10は、上述のとおり、主ロープ保持部材1に振り子状に吊り下げられた付加質量体3について、任意の水平方向への変位を許容するように構成されている。したがって、エレベータ100が設置された建物に生じる横揺れが如何なる方向であっても、その振動エネルギー吸収能にムラが生じることはなく、任意の水平方向における主ロープR1の横振れを一様に抑制することが可能である。
【0050】
このように、本実施形態の動吸振器10によれば、主ロープR1の横振れを抑制することで、建物に横揺れが生じた際にエレベータ100が管制運転へ移行する条件を緩和したり、エレベータ100の運転再開までの復旧時間や避難階での待機時間を短縮したりすることができる。また、当該動吸振器10は、主ロープ保持部材1、複数のリンク部材2、及び付加質量体3から構成される「振り子構造」という至って簡易な構成が採用されている。このため、既存のエレベータ100への後付け等にも低コストで容易に対応することが可能であり、メンテナンス等の作業も簡単である。特に、付加質量体3の固有振動数はリンク部材2のリンク長によって定まるため、設定調整が比較的簡易である。
【0051】
また、本実施形態の動吸振器10は、いわゆるパッシブ(受動)型であるため、電力はもちろん制御や作動させるためのトリガ等を必要とせず、吸振の目的となる現象(すなわち、主ロープR1の横振れ)が起これば、それに応じて自然に作動するという利点も有する。したがって、例えば、停電等の状況下であっても、所望する吸振機能を確実に発揮させることが可能であり、また、発生のタイミングの予測が極めて困難な主ロープR1の横振れを確実に抑制することを可能とする。しかも、パッシブ型の動吸振器10は、故障し難いため、据付性にも優れている。
【0052】
以上、本実施形態の動吸振器10について説明したが、本発明に係る動吸振器は、その他の形態で実施することもできる。なお、以下に示す他の実施形態及びその変形例において、上記動吸振器10と実質的に共通する構成に関する詳細な説明は適宜省略する。
【0053】
例えば、
図5及び
図6に示すように、エレベータ200が、釣合ロープR2を備えたものである場合、動吸振器20を釣合ロープR2に適用してもよい。釣合ロープR2は、かご101と釣合錘102の位置関係によって生じる主ロープR1の重量アンバランスを補償するための補償部材である。このエレベータ200において、釣合ロープR2は、主ロープR1と同様に金属製のワイヤロープから構成され、各ワイヤロープの一端側がかご101に、他端側が釣合錘102にそれぞれ連結された状態で懸下されている。また、釣合ロープR2は、昇降路の下方に設けられ、不図示のガイドレールに沿って昇降自在に配設された動滑車201に掛けられており、この動滑車201の自重により一定以上の張力が維持されている。
【0054】
かかる実施形態の動吸振器20は、エレベータ200において、釣合ロープR2に横振れが生じたときの振動エネルギーを吸収するためのものである。動吸振器20は、複数の釣合ロープR2の両端部のうち少なくとも一方の端部より下方位置に設けられた釣合ロープ保持部材6と、この釣合ロープ保持部材6に連結された複数のリンク部材2と、これら複数のリンク部材2の各先端部に連結された付加質量体3と、を備えた振り子構造型の質量付加機構から構成されている。
【0055】
釣合ロープ保持部材6は、かご101よりも下方に固定される点、及び、束ねる対象が複数の釣合ロープR2である点を除き、基本的には上記の主ロープ保持部材1と同じ構成である。つまり、動吸振器20を構成する釣合ロープ保持部材6、各リンク部材2及び付加質量体3と、上記の動吸振器10を構成する主ロープ保持部材1、各リンク部材2及び付加質量体3とは、実質的には同一の構成となる。したがって、かかる動吸振器20においても、上記動吸振器10と同様に、付加質量体3が複数の釣合ロープR2に対して水平方向へ相対的に変位しながら揺動するときの付加質量体3の固有振動数を、エレベータ200が設置された建物に横揺れが生じたときの当該建物の固有振動数と一致させておくことが望ましい。
【0056】
また、動吸振器20では、上記のストッパー4に相当する構成が設けられておらず、緩衝部材5として、付加質量体3を構成する環状部材31の内周面に緩衝材が設けられている。緩衝部材5は、動吸振器20がストッパー4を有しないことから、緩衝性能と変形後の復元力に優れた弾性変形材料(例えば、ゴム、発泡性もしくは多孔質性の高分子ポリマー等)を用いるのが好ましい。付加質量体3が釣合ロープR2に接触したとしても、釣合ロープR2が受けるダメージを低減させるためである。なお、仮に、釣合ロープR2が付加質量体3との接触により切断されたとしても、かご101や動吸振器20が直ちに落下するような事態は生じない。そのため、動吸振器20に対しては、上記の動吸振器10と比較しても安全性への要求が緩和され、装置構成をより簡素化できるという利点がある。
【0057】
動吸振器20の作動時のメカニズムについては、上記の動吸振器10と同様である。また、動吸振器20は、付加質量体3の固有振動数と、エレベータ200が設置された建物の固有振動数とを一致させておくことで、各釣合ロープR2と当該建物が最も共振しやすい状況下において、その振動エネルギー吸収能が最大限に発揮されるように機能させることができる。各釣合ロープR2と建物が最も共振しやすい状況下とは、例えば、かご101が建物の最上階付近で待機している状況が挙げられる。かかる状況下において建物に横揺れが生じた場合、かご101側の各釣合ロープR2の長さと建物の高さとが比較的近い値となっているため、各釣合ロープR2は、建物の固有振動数に近い振動数で水平方向へ振動することとなるからである。
【0058】
かかる動吸振器20においても、任意の水平方向における釣合ロープR2の横振れを一様に抑制することが可能であると同時に、パッシブ(受動)型であるという点も上記の動吸振器10と共通している。したがって、上記の動吸振器10と同様の作用、機能を奏するとともに、動吸振器10によるものと同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、上記の説明では、本発明の各実施形態に係る動吸振器10,20が、かご101側に設けられた形態を例示したが、
図1及び
図5に示すように、動吸振器10,20は、釣合錘102側の主ロープR1および釣合ロープR2に設置して用いることもできる。その場合、各動吸振器10,20の振動エネルギー吸収能が最大限に発揮される状況は、かご101側に設置されているときとは逆の状況になる。すなわち、動吸振器10を釣合錘102側に設置したとき、その振動エネルギー吸収能が最大限に発揮されるのは、かご101が建物の最上階付近で待機しているときである。同様に、動吸振器20を釣合錘102側に設置したとき、その振動エネルギー吸収能が最大限に発揮されるのは、かご101が建物の最下階付近で待機しているときである。
【0060】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々なる改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。また、同一の作用又は効果が生じる範囲内で、何れかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良い。
【0061】
例えば、
図7(a)に示すように、主ロープ保持部材1に吊り下げられる付加質量体3を任意の水平方向へ揺動可能に連結できる限り、リンク部材2の数は任意である。また、ストッパー4の形状、数についても特に限定はない。例えば、円弧状に湾曲する突起部材から構成されるストッパー4を、各主ロープR1の周りを囲むように設けてもよい。この場合、上記動吸振器20で用いた緩衝部材5と同様のものをストッパー4の外面側に設けておくのが望ましい。さらに、ストッパー4を、付加質量体3の内周面と同心円弧状に構成すれば、付加質量体3とストッパー4(緩衝部材5)が面接触となり緩衝効果がさらに高められるという点でより望ましい。
【0062】
なお、上記の動吸振器10において、各主ロープR1と付加質量体3の接触時の安全面が確保できる限り、ストッパー4を設けることなく実施することもできる。つまり、動吸振器20を主ロープR1側に設置した形態で実施してもよい。これとは逆に、釣合ロープR2側における安全性を高めるために、動吸振器20において、ストッパー4に相当する構成を付加した形態で実施することもできる。この場合、図示を省略するが、例えば、釣合ロープ保持部材6の下面に突起部材を設けるなどの形態が挙げられる。
【0063】
また、付加質量体3の形状は、上述した円環状(円筒状)のほか、例えば
図7(b)に示すような、角部が丸みを帯びた四角環などの多角環状に形成されていてもよい。但し、本発明の動吸振器を設置する際に、重心位置の位置決めが容易であるという観点から、付加質量体3は正多角環状とするのが好ましい。なお、図示を省略するが、付加質量体3は必ずしも一体的に成形された部材である必要はなく、複数に分割された部品を一体的に組み上げるように構成してもよい。付加質量体3を分割組立型とすれば、動吸振器10,20を既存のエレベータ100,200へ後付けする場合、かご101や釣合錘102の周辺設備を部分的に分解したりする必要がなく設置作業が簡便である。
【0064】
また、動吸振器10,20、及びその変形例に係る各実施形態において、付加質量体3と各リンク部材2とは、何れも自在継手21を介して連結されているが、自在継手21を介することなく固定されていてもよい。かかる場合であっても、付加質量体3が振り子のように周期的な揺動(振動)を繰り返すことに変わりはないからである。
【0065】
さらに、主ロープ保持部材1(又は釣合ロープ保持部材6)と各リンク部材2とを連結する自在継手21は必ずしも、上記のような一体埋込み型のボールジョイントである必要はなく、各リンク部材2の揺動方向を制限しない限り、他の連結機構を採用することができる。例えば、ツェッパ型の等速ジョイントなどを用いてもよい。