(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溝部は、前記開口部から該溝部の底部に向かって一定の幅の幅狭部と、前記幅狭部に繋がって前記底部まで一定の幅の前記幅広部とを備える請求項1又は請求項2に記載の双極板。
【背景技術】
【0002】
流体流通型電池の代表例としてレドックスフロー電池(RF電池)が挙げられる。RF電池は、正極用電解液に含まれるイオンと負極用電解液に含まれるイオンの酸化還元電位の差を利用して充放電を行う電池である。
【0003】
図5は、正負の活物質としてバナジウムイオンを利用したRF電池100の動作原理図である。
図5に示すように、RF電池100は、水素イオン(プロトン)を透過させる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに分離された電池セル100Cを備える。正極セル102には正極電極104が内蔵され、かつ正極用電解液を貯留する正極電解液用タンク106が導管108、110を介して接続されている。同様に、負極セル103には負極電極105が内蔵され、かつ負極用電解液を貯留する負極電解液用タンク107が導管109、111を介して接続されている。各タンク106、107に貯留される電解液は、充放電の際にポンプ112、113により各セル102、103内に循環される。
【0004】
上記電池セル100Cは通常、
図6の下図に示すように、セルスタック200と呼ばれる構造体の内部に形成される。セルスタック200は、
図6の上図に示すように、正極電極104、隔膜101、負極電極105を重ねた電池セル100Cを、額縁状の枠体122に一体化された双極板121を備えるセルフレーム120で挟んで複数積層した構成を備える。つまり、隣接する各セルフレーム120の双極板121の間に一つの電池セル100Cが形成されることになり、双極板121を挟んで表裏に、隣り合う電池セル100Cの正極電極104(正極セル102)と負極電極105(負極セル103)とが配置されることになる。この構成では、各セルフレーム120間の隙間がシール構造127で封止される。
【0005】
セルスタック200における電池セル100Cへの電解液の流通は、枠体122に形成される給液用マニホールド123,124と、排液用マニホールド125,126により行われる。正極用電解液は、給液用マニホールド123から枠体122の一面側(紙面表側)に形成される溝を介して双極板121の一面側に配置される正極電極104に供給される。そして、その正極用電解液は、枠体122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド125に排出される。同様に、負極用電解液は、給液用マニホールド124から枠体122の他面側(紙面裏側)に形成される溝を介して双極板121の他面側に配置される負極電極105に供給される。その負極用電解液は、枠体122の上部に形成される溝を介して排液用マニホールド126に排出される。
【0006】
電池セル100Cを構成する各電極104,105は、流体である電解液の流通が給液側から排液側に向かう電解液の流通を阻害しないように多孔質の導電材で構成されることが多い。例えばカーボンフェルトなどが利用される(特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0015】
(1)実施形態の双極板は、正極用電解液が流通される正極電極と負極用電解液が流通される負極電極との間に挟まれる双極板であって、前記正極電極側及び前記負極電極側の各面に前記正極用電解液及び前記負極用電解液が流通する複数の溝部を有する流路を備える。前記流路は、前記各電解液を前記各電極に導入する導入路と、前記各電解液を前記各電極から排出する排出路とを備え、前記導入路と前記排出路とが連通せず独立している。前記溝部は、該溝部の内部の幅が開口部の幅よりも大きい幅広部を備える。
【0016】
溝部を有する流路を備える双極板を用いることで、流路に沿った電解液の流通を流路のない場合に比べて促進し、電極に流通される電解液の流れを調整することができる。この電解液の流れの調整によって、電解液の圧力損失を低減できる。特に、流路を形成する溝部が上記幅広部を備えることで、開口部の幅が同じで幅広部のない均一幅の溝部に比べて電解液が流通し易く、電解液の圧力損失をより低減できる。また、幅広部によって電解液の流量を確保できるため、溝部の横断面積を一定とした場合、開口部の幅が同じで均一幅の溝部を有する双極板に比べて、幅広部を備える溝部では溝の深さを小さくでき、溝部での流量を実質的に同一としながら双極板を薄くできる。双極板を薄くすることで、流体流通型電池の内部抵抗を低減させることができる。流路において導入路と排出路とが連通せず独立していることで、電解液が導入路と排出路との間を渡るように電極を介して流通し易いため、電極における電池反応が活性化されて電池の内部抵抗を低減できる。
【0017】
(2)実施形態の双極板として、隣接する前記溝部の前記開口部の側縁間の溝間距離は、前記開口部の幅の1倍超であることが挙げられる。
【0018】
上記構成によれば、双極板の電極との接触面積が増加し、導入路と排出路との間で行う電極における電池反応がより活性化されて、より内部抵抗を低減し易い。
【0019】
(3)実施形態の双極板として、前記溝部は、断面形状が前記開口部から該溝部の底部に向かって広がる略台形状であることが挙げられる。
【0020】
溝部の断面形状が略台形状であることで、形状が容易であるため、溝部を形成し易い。
【0021】
(4)実施形態の双極板として、前記溝部は、前記開口部から該溝部の底部に向かって一定の幅の幅狭部と、前記幅狭部に繋がって前記底部まで一定の幅の前記幅広部とを備えることが挙げられる。
【0022】
幅狭部と幅広部とで溝部を形成することで、電解液の流れを調整し易く、電解液の圧力損失を低減し易い。例えば、溝部の開口部近傍を幅狭部とし、溝部の内部を一定の幅の幅広部とすることで、開口部の幅が同じで均一幅の溝部に比べて溝部の横断面積が増加するため、電解液の流量をより確保でき、圧力損失を低減し易い。
【0023】
(5)実施形態の双極板として、前記開口部の幅をxとしたとき、前記溝部の横断面積は、x
2の10倍以上であることが挙げられる。
【0024】
溝部の断面積がx
2の10倍以上であることで、開口部の幅と溝部の深さとが同一の溝部に比べて電解液の流量を十分に確保できるため、圧力損失をより低減できる。
【0025】
(6)実施形態の双極板として、前記導入路及び前記排出路が櫛歯形状の領域を備え、前記導入路と前記排出路とは、それぞれの櫛歯が互いに噛み合って対向するように配置されていることが挙げられる。
【0026】
導入路と排出路とが、それぞれの櫛歯が互いに噛み合って対向するように配置されていることで、導入路と排出路の各櫛歯が並列される。それに伴い、各櫛歯同士の間の電極を渡るように流通する電解液の量が、櫛歯が噛み合っていない場合に比べてさらに増加する。よって、電極における電池反応がより活性化されて電池の内部抵抗をさらに低減できる。また、電解液の流れが、電極の場所によらず一様に発生し易く、電極の広範囲で電池反応が均一に行われやすく、内部抵抗が低減できる。
【0027】
(7)実施形態のレドックスフロー電池として、上記(1)〜(6)の実施形態の双極板を備えることが挙げられる。
【0028】
実施形態のレドックスフロー電池は、電池性能に優れる。それは、実施形態の双極板を備えることで、電解液の圧力損失が低減され、電極における電池反応の活性化による電池の内部抵抗が低減するからである。
【0029】
(8)実施形態の双極板の製造方法は、正極用電解液が流通される正極電極と負極用電解液が流通される負極電極との間に挟まれる双極板の製造方法であって、ベース板準備工程と、分割片準備工程と、接合工程とを備える。ベース板準備工程は、導電性分散材とマトリックス樹脂とを含む材料で構成されるベース板を準備する。分割片準備工程は、前記材料で構成される所定断面形状の長尺材であり、前記各電解液が流通する溝部の一部となる分割片を準備する。接合工程は、前記ベース板の両面に前記分割片を所定の間隔で接合し、前記ベース板と前記分割片とで囲まれる空間で前記溝部を形成する。前記接合工程は、前記溝部の内部の幅が開口部の幅よりも大きい幅広部を備えるように分割片を接合する。
【0030】
上記の双極板の製造方法によれば、ベース板と分割片とを独立して準備し、ベース板と分割片とで形成される空間を所定の形状の溝部となるように両者を接合することで、実施形態の双極板を容易に製造できる。ベース板に対して分割片を接合して溝部を形成するため、複雑な形状の溝部とすることも可能である。
【0031】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0032】
<実施形態1>
実施形態1では、流体流通型電池の代表例であるレドックスフロー電池(以下、RF電池)に用いる双極板1を
図1及び
図2に基づいて説明する。双極板1以外の構成は、
図5及び
図6を参照して説明した従来のRF電池100と同様の構成を採用できるため、その詳しい説明は省略する。
図2に示す双極板1は、説明の便宜上、正極電極104及び負極電極105よりも厚みを厚くしている。
【0033】
《双極板》
双極板1は、各電池セル100C(
図6を参照)を仕切る板であり、双極板1を挟んで表裏に、隣り合う電池セル100Cの正極電極104と負極電極105とが配置される。本実施形態の双極板1の主たる特徴とするところは、正極電極104側及び負極電極105側の各面に正極用電解液及び負極用電解液が流通する複数の溝部11を有する流路10を備えることにある。
【0034】
〔流路〕
流路10は、ポンプにより各電極104,105に流通される電解液の各電池セル100C内での流れを調整するために設けられる。この電解液の流れは、流路10の形状や寸法などによって調整することができる。流路10は、
図1に示すように、各電解液を各電極に導入する導入路10iと、各電解液を各電極から排出する排出路10oとを備える。導入路10iは、給液用マニホールド123(124)に繋がっており、排出路10oは、排液用マニホールド125(126)に繋がっている。導入路10iと排出路10oとは連通せず独立している。流路10は、後述する溝部11で形成される。以下、流路10の形状について説明し、その後に流路10を形成する溝部11について説明する。
【0035】
〈流路の形状〉
図1に示す双極板1の流路10は、導入路10iと排出路10oとがそれぞれ櫛歯形状の領域を備え、それぞれの櫛歯が互いに噛み合って対向するように配置される嵌合型の対向櫛歯形状である。導入路10i(排出路10o)は、一本の横溝部11xとこの横溝部11xから伸びる複数本の縦溝部11yとを備える。横溝部11xが給液用マニホールド123,124(排出用マニホールド125,126)に繋がっており、縦溝部11yが導入路10iと排出路10oとで交互に噛み合うように並列している。
【0036】
電解液の流れは、双極板1が備える流路10に沿った流れ(
図1で示す実線矢印の方向)と、導入路10i及び排出路10oの各縦溝部11yの間に位置する部分(畝部)を介して幅方向(図の左右方向)に渡るような流れ(
図1,2で示す波線矢印の方向)とを形成する。つまり、導入路10iから導入された各電解液は、各電極104,105を経て排出路10oへ流通する際に、畝部で電解液が電極において電池反応を行う。導入された電解液が畝部を渡ることで排出されるため、未反応のまま排出される電解液が減少する。よって、RF電池の電流量が増加し、ひいてはRF電池の内部抵抗を低減することができる。
【0037】
導入路10i及び排出路10oの各櫛歯の噛み合う部分の長さは、長いほど畝部を渡るように流れる電解液の量が増加することが期待でき、双極板1の長さ(図の上下方向)の80%以上、さらに90%以上であることが挙げられる。
【0038】
嵌合型の櫛歯形状は上記の配置に限られない。例えば、導入路10i(排出路10o)は、双極板1の図の左側(右側)に設けられ、長さ方向に伸びる一本の縦溝部と、この縦溝部から図の右方向(左方向)に伸びる複数本の横溝部とを備えてもよい。
【0039】
他に、非嵌合型の櫛歯形状が挙げられる。非嵌合型の対向櫛歯形状は、導入路10iと排出路10oとが互いに噛み合わない形状である。例えば、双極板の下側(上側)に設けられる一本の横溝部と、この横溝部から上方向(下方向)に伸びる複数の縦溝部とを備え、導入路10i及び排出路10oの各縦溝部が上下に対称配置されている。非嵌合型の櫛歯形状であっても、上下に隣り合う流路の間に位置する畝部で電解液が電極において電池反応を行うことで、未反応のまま排出される電解液が減少し、RF電池の電流量が増加すると期待される。
【0040】
上記に例示した各流路10は、その少なくとも一部を断続的に形成してもよい。例えば、
図1に示す縦溝部11yを断続的に(非連続的に)形成する。そうすることで、電解液が幅方向の畝部だけでなく、長さ方向に分断された隣り合う縦溝部間の畝部を渡るように電極を介して流通し易くなるため、反応電流量が増加することが期待される。
【0041】
〈溝部〉
溝部11は、
図2,3に示すように、断面形状が、内部の幅が開口部11aの幅よりも大きい部分を有する形状である。ここでは、開口部11aから底部11bに向かって広がる略台形状である。溝部11は、
図3に示すように、最も幅が狭い開口部11aにおける幅狭部11nと、底部11bに向かって幅狭部11nよりも幅が大きくなる幅広部11mとを備える。ここでは、底部11bが最も幅が広い幅広部11mである。溝部11が幅広部11mを備えることで、電解液が流通し易く、電解液の圧力損失をより低減できる。溝部11の横断面形状は、幅広部11mを備える形状であれば上記台形状に限定されず、円形状や半円形状、凸状などが挙げられる。また、幅広部11mを備える溝部11は、複数本の溝部11(流路10)の一部であってもよい。例えば、一定幅の正方形状や矩形状の溝部と、幅広部11mを有する溝部11とを交互に配置することが挙げられる。
【0042】
隣接する溝部11の開口部11aの側縁間の溝間距離11c(上述した畝部の幅に相当)は、隣接する二つの溝部11の少なくとも一方の開口部11aの幅の1倍超であることが好ましい。溝間距離11cは、大きいほど電極との接触面積が増加して、畝部での電極における反応電流量が増加することが期待できるため、開口部11aの幅の3倍以上、さらに7倍以上が好ましい。一方、溝間距離11cが大きいと、双極板1の溝部並列方向の単位長さにおける溝部11(流路10)の本数が少なくなるため、溝間距離11cは、開口部11aの幅の30倍以下、さらに20倍以下が好ましい。
【0043】
以下、溝部11の大きさについて、
図3を参照して説明する。溝部11の深さdは、双極板1の厚みの10%以上45%以下が挙げられる。双極板1の両面に溝部11を備える場合、RF電池の構造上、平面透視した場合に重なる位置に溝部11を設ける(
図2を参照)ことが好ましい。このとき、双極板1の厚み方向に対向する一対の溝部11間の厚みが薄いと機械的強度が十分とできない虞がある。より好ましい溝部11の深さdは、双極板1の厚みの10%以上35%以下である。溝部11は、双極板1を平面透視した場合に重ならない位置に設けてもよい。
【0044】
双極板1に設ける溝部11は、その横断面積が大きいほど溝部11を流通する電解液の圧力損失を低減できると期待できる。そこで、まず双極板1に溝部11を形成するにあたり、成形し易い正方形状の溝部11を考える。例えば、開口部11aの幅を上記溝部11の深さ(dとする)と同じとする断面積d
2の正方形状の溝部11(
図3のp
1−p
2−r
2−r
1で囲まれる部分)とすると、溝間距離11cは隣接する溝部11の開口部11aの側縁p
2−p
1間の距離となる。一方、溝間距離11cは、大きいほど双極板1と電極との接触面積が増加して、畝部での電極における反応電流量が増加することが期待できる。そこで、次に電極における反応電流量を増加することを考え、溝間距離11cを大きくすることを考える。例えば、各溝部11の開口部11aの幅を小さくすると、溝間距離11cは隣接する溝部11の開口部11aの側縁q
2−q
1間の距離となり、2×(q
2−p
2間の距離)分大きくなる。しかし、開口部11aの幅が小さくなると、溝部11の面積は、2×(p
2−q
2−r
2で囲まれる部分)分減少する。つまり、本実施形態では、溝部11を流通する電解液の圧力損失と、電極における反応電流量とのバランスを考慮して、開口部11aの幅と、溝部11の横断面積(幅広部)を決定すればよい。例えば開口部11aの幅をxとしたとき、溝部11の横断面積がx
2の10倍以上、さらに15倍以上となるように幅広部を決定することが挙げられる。一方、溝部11の横断面積がx
2の30倍以下、さらに20倍以下となるように幅広部を決定することで、双極板1の機械的強度を十分とすることができる。開口部11aの幅は、0.1mm以上1mm以下、好ましくは0.1mm以上0.8mm以下、さらに好ましくは0.1mm以上0.5mm以下であることが挙げられる。
【0045】
双極板1の材質には、電流は通すが電解液は通さない導電性材料を用いることができる。加えて、耐酸性および適度な剛性を有する材料であることがより好ましい。長期に亘って溝部(流路)の断面形状や寸法が変化し難く、流路の効果を維持し易いからである。このような材料としては、例えば、炭素を含有する導電性材料が挙げられる。より具体的には、黒鉛およびポリオレフィン系有機化合物または塩素化有機化合物から形成される導電性プラスチックが挙げられる。また、黒鉛の一部をカーボンブラックおよびダイヤモンドライクカーボンの少なくとも一方に置換した導電性プラスチックでもよい。ポリオレフィン系有機化合物としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどが挙げられる。塩素化有機化合物としては、塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィンなどが挙げられる。双極板がこのような材料から形成されることで、双極板の電気抵抗を小さくすることができる上に、耐酸性に優れる。
【0046】
〔双極板の製造方法〕
本実施形態の双極板の製造方法は、以下のベース板準備工程と、分割片準備工程と、接合工程とを備える。以下、各工程を順に説明する。
【0047】
〈ベース板準備工程〉
導電性分散材とマトリックス樹脂とを含む材料(複合導電性プラスチック)で構成されるベース板を準備する。ここでは、平板状のベース板を準備する。導電性分散材としては、黒鉛やカーボンブラック、ダイヤモンドライクカーボンなど無機材料の粉末や繊維が挙げられる。導電性カーボンブラックとして適しているのは、アセチレンブラックとファーネスブラックが挙げられる。また、アルミニウムなどの金属の粉末や繊維が挙げられる。マトリックス樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィンなどが挙げられる。
【0048】
〈分割片準備工程〉
上述した材料で構成される所定断面形状の長尺材であり、電解液が流通する溝部の一部となる分割片を準備する。ここでは、
図2で示される隣接する溝部11間の部分に相当する断面台形状の分割片を準備する。分割片を構成する材料は、ベース板の材料と同一であることが好ましいが、例えば、導電性分散材やマトリックス樹脂の種類を異ならせて相違させてもよい。分割片は、例えば、上記導電性分散材と熱可塑性樹脂の各粉末原料を混合して圧縮成形したり、溶融した熱可塑性樹脂に導電性分散材を混合した液状材料を射出成形したりすることで所望の形状とすることができる。
【0049】
〈接合工程〉
上記ベース板の両面に上記分割片を所定の間隔で接合し、ベース板と分割片とで囲まれる空間で上述した溝部11(
図2を参照)を形成する。このとき、形成される溝部11において、内部の幅が開口部11aの幅よりも大きい幅広部11mが形成されるように分割片をベース板に接合する。このとき、断面台形状の分割片の上辺側の面をベース板の表面に接合する。接合された各部は、
図2で示される双極板1のうち、ベース板が両面に形成された溝部11の対向する底部11b間に配設される部分となり、分割片が隣接する溝部11間に配設される部分となり、溝部11を備える双極板2を容易に製造することができる。
【0050】
《双極板以外のRF電池の構成》
上記双極板1の説明にあたり、双極板1以外のRF電池100(
図5,6を参照)の構成は従来と同じものを採用することができると述べた。本実施形態のRF電池は、正極電極、隔膜、負極電極を重ねた電池セルと、額縁状の枠体に一体化された双極板を有するセルフレームとを備え、電池セルをセルフレームで挟んで複数積層しており、双極板に上述した本実施形態の溝部11を備える双極板1を用いている。つまり、隣接する各セルフレームの双極板1の間に一つの電池セルが形成されており、双極板1を挟んで表裏に、隣り合う電池セルの正極電極と負極電極とが配置されている。
【0051】
電解液には、
図5に示すように、バナジウムイオンを各極活物質としたバナジウム系電解液が好適に利用できる。その他、正極活物質として鉄(Fe)イオンを、負極活物質としてクロム(Cr)イオンを用いた鉄(Fe
2+/Fe
3+)−クロム(Cr
3+/Cr
2+)系電解液や、正極電解液にマンガン(Mn)イオン、負極電解液にチタン(Ti)イオンを用いるマンガン(Mn
2+/Mn
3+)−チタン(Ti
4+/Ti
3+)系電解液が好適に利用できる。
【0052】
<実施形態2>
図4を参照して実施形態2の双極板2を説明する。双極板2の基本的構成は、実施形態1の双極板1と同様であり、溝部11の形態(横断面形状)のみが異なる。ここでは、この相違点を説明し、その他の構成については説明を省略する。
図4に示す双極板2は、説明の便宜上、正極電極104及び負極電極105よりも厚みを厚くしている。
【0053】
溝部11は、開口部11aから底部11bに向かって一定の幅の幅狭部11nと、この幅狭部11nに続いて底部11bまで一定の幅の幅広部11mとを備える凸状である。幅狭部11nと幅広部11mとの比率を調整することで、電解液の流れを調整し易く、溝部11を流通する電解液の圧力損失を低減し易い。幅狭部11nの深さは、溝部11の深さの20%以上50%以下が挙げられる。上記幅狭部11nの深さが、溝部11の深さの20%以上であることで、開口部11a近傍の機械的強度を確保することができ、50%以下であることで、溝部11を流通する電解液の圧力損失を十分に低減できる。上記幅狭部11nの深さは、さらに好ましくは25%以上40%以下が挙げられる。
【0054】
本実施形態2の双極板2は、実施形態1と同様の製造方法(ベース板及び分割片の準備⇒ベース板と分割片とを接合)によって製造することができる。この場合、以下の3パターンが挙げられる。1パターン目は、平板状のベース板と、隣接する溝部11間における幅広部11mの領域部分に相当する分割片Aと、隣接する溝部11間における幅狭部11nの領域部分に相当する分割片Bとを準備し、ベース板に分割片Aを接合し、この分割片Aのベース板と対向する面に分割片Bをそれぞれ接合する方法である。分割片Aは、略矩形状であり、分割片Bは、分割片Aに対して幅が大きく、厚みが薄い平板状である。分割片Aに分割片Bを接合することで、断面T字状となる。このとき、ベース板の表面に略矩形状の分割片Aの表面を接合し、この分割片Aの上記表面の対向面に平板状の分割片Bの表面を接合する。2パターン目は、平板状のベース板と、上記分割片Aと分割片Bとが一体成形された断面T字状の分割片Cとを準備し、ベース板と分割片Cとを接合する方法である。このとき、断面T字状の分割片Cの幅が狭い片(上記分割片Aに相当する部分)をベース板の表面に接合する。3パターン目は、ベース板としてプレス成形によって上記分割片Aに相当する部分を形成したベース板と、上記分割片Bとを準備し、ベース板と分割片Bとを接合する方法である。このとき、ベース板の突出した部分に平板状の分割片Bの表面を直交するように接合する。いずれのパターンであっても、ベース板と分割片とを所定の間隔で接合することで、溝部11を備える双極板2を製造することができる。
【0055】
<解析例1>
解析例1では、双極板に互いに噛み合う櫛歯形状の流路を設けた4つのモデルのRF電池を想定した流体シミュレーションを行い、RF電池の圧力損失を求めた。本解析例では、正極電極−隔膜−負極電極を重ねた電池セルを、双極板を備えるセルフレームで挟んだ単セル構造のRF電池とした。以下に、溝の形態が異なる4つのモデルの詳細な条件を示す。
【0056】
〔モデル1〕
・双極板
長さ:31.5(mm)、幅:28.9(mm)、厚み:3.0(mm)
流路形状:嵌合型の対向櫛歯形状
流路(縦溝)数:導入路6本×排出路6本
流路(縦溝)長さ:26.2(mm)
流路(横溝)長さ:28.9(mm)
溝部の断面形状:蟻溝状(
図2及び
図3を参照)
溝部の開口部の幅:0.3(mm)
溝部の底部の幅:1.3(mm)
溝部の深さ:1.3(mm)
溝間距離:2.3(mm)
幅方向両端部の溝のみ、開口部の幅:0.3(mm)、底部の幅:0.8(mm)、深さ1.3(mm)で、開口部から底部に繋がる辺の一辺と底部の辺とのなす角が直角である直角台形状である(図示せず)
・電極
長さ:31.5(mm)、幅:28.9(mm)、厚み:0.4(mm)
・電解液
硫酸V水溶液(V濃度:1.7mol/L、硫酸濃度:4.3mol/L)
充電状態(State of Charge):50%
電解液の入口流量:5.4(ml/min)
電解液の出口流量:自由流出
流れモデル:層流モデル
【0057】
〔モデル2〕
・双極板
長さ:31.5(mm)、幅:28.9(mm)、厚み:3.0(mm)
流路形状:嵌合型の対向櫛歯形状
流路(縦溝)数:導入路6本×排出路6本
流路(縦溝)長さ:26.2(mm)
流路(横溝)長さ:28.9(mm)
溝部の断面形状:幅狭部と幅広部からなる凸状(
図4を参照)
溝部の開口部の幅(幅狭部の幅):0.3(mm)
溝部の底部の幅(幅広部の幅):1.3(mm)
溝部の深さ:1.3(mm)
幅狭部の高さ:0.3(mm)、幅広部の高さ:1.0(mm)
溝間距離:2.3(mm)
幅方向両端部の溝のみ、開口部の幅:0.3(mm)、底部の幅:0.8(mm)、深さ1.3(mm)、幅狭部の高さ:0.3(mm)、幅広部の高さ:1.0(mm)で、両端部の溝を合わせたときに凸状となる形状である(図示せず)
・電極、電解液:モデル1と同じ
【0058】
〔モデル3〕
・双極板
長さ:31.5(mm)、幅:28.9(mm)、厚み:3.0(mm)
流路形状:嵌合型の対向櫛歯形状
流路(縦溝)数:導入路6本×排出路6本
流路(縦溝)長さ:26.2(mm)
流路(横溝)長さ:28.9(mm)
溝部の断面形状:正方形状
溝部の開口部(底部)の幅:0.3(mm)
溝部の深さ:0.3(mm)
溝間距離:2.3(mm)
・電極、電解液:モデル1と同じ
【0059】
〔モデル4〕
・双極板
長さ:31.5(mm)、幅:28.9(mm)、厚み:3.0(mm)
流路形状:嵌合型の対向櫛歯形状
流路(縦溝)数:導入路6本×排出路6本
流路(縦溝)長さ:26.2(mm)
流路(横溝)長さ:28.9(mm)
溝部の断面形状:正方形状
溝部の開口部(底部)の幅:1.3(mm)
溝部の深さ:1.3(mm)
溝間距離:1.3(mm)
幅方向両端部の溝のみ、開口部の幅:0.8(mm)、底部の幅:0.8(mm)、深さ1.3(mm)の長方形状である
・電極、電解液:モデル1と同じ
【0060】
上記4つのモデルにおいて、電極内での圧力分布から得られる圧力損失は、モデル1:118Pa、モデル2:100Pa、モデル3:2kPa、モデル4:62Paであった。溝部の開口部の幅が小さいモデル1,2,3を比べると、開口部の幅が小さい場合でも、溝部の内部の幅が開口部の幅よりも大きい部分を有することで、圧力損失を大幅に低減できることがわかった。溝部の幅が小さいモデル1,2と、溝部の開口部の幅が大きく、かつ横断面が正方形状のモデル4とを比べると、モデル1,2では若干圧力損失が増大するが、許容できる範囲の圧力損失であることがわかった。
【0061】
<試験例1>
試験例1では、解析例1で用いた4つのモデルのRF電池について、実際に電池セルを作製し、RF電池の内部抵抗を調べた。試験例1では、解析例1で述べたように単セル構造のRF電池としているので、RF電池の内部抵抗はセル抵抗率と同義となる。よって、RF電池の内部抵抗は、セル抵抗率として表す。以下に、解析例1で示した条件以外の試験条件を示す。
【0062】
(試験条件)
・双極板
黒鉛80%とマトリックス樹脂としてポリプロピレン20%とを圧粉成形した双極板
・電極
カーボン電極(SGLカーボンジャパン株式会社製、GDL10AA)
・隔膜
デュポン社製ナフィオン212
【0063】
上記解析例1のシミュレーションと同様の条件で電解液を送液した際の開放電圧V
0と、0.9Aの充電電流を通電し20秒経過した後のセル電圧V
1とを用いて、(V
1−V
0)/0.9の式によって、RF電池のセル抵抗率を求めた。
【0064】
上記4つのモデルのセル抵抗率は、モデル1:0.86Ω・cm
2、モデル2:0.86Ω・cm
2、モデル3:0.90Ω・cm
2、モデル4:0.98Ω・cm
2であった。この結果から、溝間距離が開口部の幅よりも大きいことで、セル抵抗率を低減できることがわかった。モデル3について、溝間距離が開口部の幅よりも大きいにもかかわらずセル抵抗率が大きい理由は、溝部の横断面積が小さいため、電解液の流通が不均一となり、電池反応の場が局在化することでセル抵抗率が増大したためであると考えられる。