(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6201992
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】建築物の内部に面して配置される水蒸気制御材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/64 20060101AFI20170914BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
E04B1/64 E
E04B1/76 400L
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-523254(P2014-523254)
(86)(22)【出願日】2012年7月3日
(65)【公表番号】特表2014-524525(P2014-524525A)
(43)【公表日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】EP2012062890
(87)【国際公開番号】WO2013017356
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2015年6月3日
(31)【優先権主張番号】11176300.9
(32)【優先日】2011年8月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ティジセン, パスカル, マリア, フベルト, ピエール
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−504088(JP,A)
【文献】
特表2008−514453(JP,A)
【文献】
特表2008−510640(JP,A)
【文献】
特開昭61−137952(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/069672(WO,A1)
【文献】
特表2013−513741(JP,A)
【文献】
特表2004−534164(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01296002(EP,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0301016(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/64
E04B 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲雰囲気の相対湿度30〜50%で測定される水蒸気拡散抵抗(Sd−値)が1〜5メートルの拡散等価空気層厚さで、相対湿度60〜80%で測定されるSd−値が<1メートルの拡散等価空気層厚さである第1の層を含む、建築物内部に配置される水蒸気制御材において、相対湿度80〜100%で測定されるSd−値が>0.2メートルの拡散等価空気層厚さである第2の層を含み、かつ前記第2の層が、前記第1の層の位置に対して、前記水蒸気制御材の前記建築物内部に面する側に位置する水蒸気制御材。
【請求項2】
前記第2の層は、相対湿度80〜100%で測定されるSd−値が>0.4メートルの拡散等価空気層厚さである請求項1に記載の水蒸気制御材。
【請求項3】
前記第2の層は、相対湿度80〜100%で測定されるSd−値が>0.8メートルの拡散等価空気層厚さである請求項1に記載の水蒸気制御材。
【請求項4】
前記第2の層は、相対湿度80〜100%で測定されるSd−値が<3メートルの拡散等価空気層厚さである請求項1〜3のいずれか一項に記載の水蒸気制御材。
【請求項5】
前記第1の層は、ポリアミドを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の水蒸気制御材。
【請求項6】
前記第2の層は、ポリエステルまたはコポリエステルを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の水蒸気制御材。
【請求項7】
前記第2の層の前記コポリエステルは、コポリエーテルエステルである請求項6に記載の水蒸気制御材。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、建築物の内部に面して配置される水蒸気制御材に関する。
【0002】
二酸化炭素の排出ならびに建築物の暖房用の石油およびガスの使用を削減するため、新しい建築物の建築時や古い建築物の改修時に、断熱が施される。断熱層は一般に、内部に、例えば、木造の屋根構に設置される。蒸気制御材は、通気を避けるため、また断熱材および木造構築物を湿分から保護するために、通常、断熱層の両面に、多くの場合膜の形態で、設置され得る。それでも湿分は、例えば蒸気制御材の繋ぎ目からの漏洩により、屋根構に侵入し得る。
【0003】
屋根構の外側に設置される蒸気制御材は、所謂、ルーフィング膜または下地の形態であり得る。この蒸気制御材は、雨、霧または雪の形態の水分が屋根構に侵入しないことを確実にする。この蒸気制御材は、いかなる条件下でも屋根構に蓄積した水が屋根構から確実に蒸発できるよう、水蒸気に対して高い透過性を有する。
【0004】
建築物の内部に面して配置される蒸気制御材は、冬期においては、湿分が建築物内部から、冷たい側で湿分が凝縮しやすい断熱層へ拡散するのを、完全にまたは極めて僅かな量に抑えることが重要である。しかしながら、夏期には、建築物の内部に面して配置される蒸気制御材は、建築物の内部に向けても湿分を放出させることにより、断熱層および構造物を高湿状態から乾燥させるよう、水蒸気に対してより高い透過性を有することが好ましい。
【0005】
このような理由から、米国特許出願公開第2004/0103604号明細書には、第1の層であって、その周囲雰囲気の相対湿度30〜50%で測定される水蒸気拡散抵抗(Sd−値)が2〜5メートルの拡散等価空気層厚さで、相対湿度60〜80%で測定されるSd−値が<1メートルの拡散等価空気層厚さである第1の層を含む、建築物内部に配置する蒸気制御材を提案している。このような方法で、この蒸気制御材は、周囲湿度が高い夏期には水蒸気に対し高い透過性を有し、周囲湿度が通常低い冬期には、水蒸気に対し低い透過性を有する。これらの条件を満たす蒸気制御材の好例を挙げれば、それは単純にポリアミドフィルムであるが、これは、ポリアミドの水に対する拡散係数が、その高い保水性のために、高湿条件下で増加するからである。
【0006】
しかしながら、例えば、蒸気制御材に面して台所または浴室がある場合に問題が起こり得る。そうした部屋では、比較的高い環境湿度のために、冬期でもなお蒸気制御材を通して建築物内部から大量の水の移動が生じる。このことは勿論、換気が不十分であり、かつ台所または浴室が集中的に使われる場合に特にそうなる。水は断熱材および屋根構内で容易に凝縮し、そのため、カビや腐食が拡がり、悪臭や、また屋根構の損傷を引き起こし得る。
【0007】
本発明の目的は、断熱層や構造物を乾燥させるのに十分な湿分輸送能力を維持しながら、この問題をさらに引き起こすことがない蒸気制御材を提供することにある。
【0008】
驚いたことに、この目的は、建築物内部に配置される蒸気制御材であって、周囲雰囲気の相対湿度30〜50%で測定される水蒸気拡散抵抗(Sd−値)が1〜5メートル、好ましくは2〜5メートルの拡散等価空気層厚さで、相対湿度60〜80%で測定されるSd−値が<1メートルの拡散等価空気層厚さである第1の層を含み、相対湿度80〜100%で測定されるSd−値が>0.2メートルの拡散等価空気層厚さである第2の層を含み、かつ第2の層が、第1の層の位置に対して、蒸気バリアの建築物内部に面する側に位置する蒸気制御材により達成される。
【0009】
特にこのような方法で、例えば浴室または台所などの相対湿度が高くあり得る建築物内の場所での、建築物内部からの水の移動が妨げられる。さらに、断熱層内が高湿条件下であれば、断熱層から建築物内への水の移動は高レベルに維持され、一方でそれと同時に、建築物内部が高湿条件下であれば、建築物内部から断熱層への水の移動は低レベルに維持される。このように、水蒸気の拡散抵抗は、拡散する方向に依存し、水は、必要であれば、断熱層から建築物内へ容易に放出され、一方でそれと同時に、建築物内部から乾燥しきった断熱層内への水の侵入が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の蒸気制御材のSd−値を示すグラフ1である。
【
図2】実施例2の蒸気制御材のSd−値を示すグラフ2である。
【
図3】実施例3の蒸気制御材のSd−値を示すグラフ3である。
【
図4】実施例4の蒸気制御材のSd−値を示すグラフ4である。
【
図5】比較実験Aの蒸気制御材のSd−値を示すグラフ5である。
【
図6】比較実験Bの蒸気制御材のSd−値を示すグラフ6である。
【0011】
相対湿度80〜100%での測定で、第2の層のSd−値は、好ましくは>0.4、より好ましくは>0.6、より好ましくは>0.8、より好ましくは>1.0メートルの拡散等価空気層厚さである。相対湿度60〜100%での測定で、第2の層のSd−値は、>1.2メートルの拡散等価空気層厚さであることがより一層好ましい。相対湿度80〜100%での測定で、第2の層のSd−値が、<3、好ましくは<2メートルの拡散等価空気層厚さであれば、良好な結果が得られる。これは、高湿条件下では断熱層から建築物内へ依然十分な移動が生じ得るが、建築物中の高相対湿度であり得る場所では、逆方向への大量の水の移動による問題が生じないからである。層のSd値は、DIN EN ISO12772:2001
に従って、蒸気バリア材の層と同じ厚さおよび同じ組成の単一層フィルムに対して23℃で測定される。
【0012】
層のSd−値は、層の材料および層の厚さの選択によって変えることができる。蒸気バリア全体のSd−値は、蒸気バリアの全体構成の結果である。
【0013】
第1の層に、それ自体十分な強度を有しないが、適切な担体に、例えばコーティングとして塗付することができる材料を使用することは可能である。そのような材料の例としては、メチルセルロース、亜麻仁油、アルキド樹脂、骨膠およびタンパク質誘導体だけでなく、変性ポリビニルアルコール、疎水性合成樹脂の分散体が挙げられる。担体としては、繊維紡糸織物、多孔ポリマーフィルム、チップ木材、紙などを使用し得る。
【0014】
第1の層の材料としては、ポリアミドを使用することが、追加の担体が無くとも、強い自立層を製造し得ることから好ましい。適切なポリアミドの好例としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド410などが挙げられる。非常に強い層を材料から製造でき、かつ大量に入手可能であるという理由から、ポリアミド6の使用が好ましい。
【0015】
第2の層の材料は、第1の層の材料より、周囲の相対湿度により依存しない水蒸気拡散速度を有することが好ましい。第2の層の材料の蒸気拡散速度は、周囲の相対湿度に依存しないか、または少なくとも実質的に依存しないことがより好ましい。
【0016】
第2の層に使用し得る材料の好例には、ポリオレフィン、オレフィンとビニルエステル、ビニルエーテル、アクリレートおよびメタクリレートとのコポリマー、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート、コポリエステル、例えば、ポリエステルのハードセグメントを含む熱可塑性エラストマー、特にコポリエーテルエステル、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニルアセテート、ならびにビニルアセテートモノマーを含むコポリマーが挙げられる。ポリマー層は、押出フィルムであることが適切である。そのようなフィルムは、モノリシックなフィルムであり、これは、例えば、ピンホールのような押出欠陥として生じ得るもの以外の、孔または同様のものを全く含まないことを意味する。このようにして、良好に機能する、明確に定義されたSd値を有する蒸気バリアが得られる。
蒸気制御材は、第1の層および第2の層をフィルム層として含み、最終的には第1の層と第2の層の間に接着材層を有する、多層フィルムであることが好ましい。
【0017】
適切な接着剤層、例えば、ポリオレフィンまたはオレフィンと他のモノマーとのコポリマーが使用されているときは、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、例えばYparex(商標)およびNucrel(商標)を、ポリエステルまたはコポリエステルが使用されているときはポリウレタンを、第1および第2の層の間に使用し得る。
【0018】
蒸気制御材は、第1の層としてポリアミド層を、第2の層としてポリエステルまたはコポリエステルの層を含む多層フィルムを含むか、またはそのような多層フィルムであることがより好ましく、その間に接着剤層を有することがより一層好ましい。
蒸気制御材がフリース、例えば、ポリプロピレンまたはポリエステルのフリースの層を含むならば、良好な結果が得られる。そのようなフリースは、蒸気制御材に大きな強度を与え、蒸気制御材の取り扱いを改善する。
【0019】
本発明を詳しく実施例によりさらに説明する。
【0020】
[使用材料]
Akulon(商標)F130、ポリアミド6、オランダ(The Netherlands)のDSMから入手。
Arnitel(商標)PM460、コポリエステルエーテル、オランダのDSMから入手。
Arnitel(商標)EM740、コポリエステルエーテル、オランダのDSMから入手。
Arnitel(商標)CM551、コポリエステルカーボネート、オランダのDSMから入手。
Arnitel(商標)3106、コポリエステルエーテル、オランダのDSMから入手。
Arnitel(商標)Eco M700、ポリエステルからなるハードセグメントと脂肪酸二量体残基単位を含むコポリエステル熱可塑性エラストマー、オランダのDSMから入手。
Arnite(商標)T06 200、ポリブチレンテレフタレート、オランダのDSMから入手。
【0021】
[蒸気制御材の調製]
Collin(商標)多層キャストフィルム押出ラインを使用し、ポリアミド6からなる1層を含む蒸気制御材(比較実験)、またはポリアミド6からなる1層とコポリエステルからなる1層以上を含む蒸気制御材(実施例)を調製した。
【0022】
[蒸気制御材の水蒸気拡散抵抗の測定]
DIN EN ISO 12572:2001により、蒸気制御材の水蒸気拡散抵抗(Sd)を測定した。カップに表示された通りに、フィルムをカップの上端にセットした。23℃、カップ内/外の相対湿度[RH]0/50%(平均25%)、0/95%(平均47.5%)、100/20%(平均60%)、100/50%(平均75%)および100/95%(平均97.5%)で、試験を実施した。相対湿度の値として、2つの値の平均をとる。各蒸気制御材について、第1の層または第2の層をカップの内部に向けてフィルムをセットし、2回の測定を行った。これは、相対湿度の各値で、第1の層が相対湿度の最高値に1回、最低値に1回曝露されたことを意味する。RHの最高値および最低値は、上で示したように、カップの内部または外部に位置し得る。結果をグラフ1〜5に示す。×−×は、ポリアミド層が最低値のRH側にあることを意味する。○−○は、ポリアミド層が最高値のRH側にあることを意味する。
【0023】
[実施例]
[実施例1]
蒸気制御材は、
−厚さ25ミクロンのAkulon(商標)F130からなる第1の層、および
−厚さ15ミクロンの、Arnitel PM460とArnitel CM551の1:1比のブレンド物からなる第2の層
からなる。
蒸気制御材のSd−値をグラフ1に示す。
【0024】
[実施例2]
蒸気制御材は、
−厚さ15ミクロンのAkulon(商標)F130からなる第1の層、および
−厚さ15ミクロンのArnitel 3106からなる第2の層
からなる。
−第1の層と第2の層の間に、厚さ15ミクロンの、Arnitel PM460とArnitel CM551の1:1比のブレンド物からなる結合層が存在する。
蒸気制御材のSd−値をグラフ2に示す。
【0025】
[実施例3]
蒸気制御材は、
−厚さ50ミクロンのAkulon(商標)F130からなる第1の層、および
−厚さ20ミクロンのArnitel Eco M700からなる第2の層
からなる。
−第1の層と第2の層の間に、厚さ5ミクロンのArnitel CM551からなる結合層が存在する。
蒸気制御材のSd−値をグラフ3に示す。
【0026】
[実施例4]
蒸気制御材は、
−厚さ50ミクロンのAkulon(商標)F130からなる第1の層、および
−厚さ25ミクロンの、Arnite T06 200とArnitel CM551の2:1比のブレンド物からなる第2の層
からなる。
蒸気制御材のSd−値をグラフ4に示す。
【0027】
[比較実験A]
蒸気制御材は、厚さ50ミクロンのAkulon(商標)F130の単層からなる。異なる相対湿度におけるSd−値をグラフ5に示す。
【0028】
[比較実験B]
蒸気制御材は、厚さ50ミクロンのArnitel EM740の単層からなる。異なる相対湿度におけるSd−値をグラフ6に示す。
【0029】
比較実験Aのグラフ5と実施例のグラフ1〜4を比較すると、高相対湿度下における蒸気バリアの水蒸気拡散抵抗は、本発明の蒸気バリアがより高いことが明らかである。これは、高RHの部屋から屋根構への拡散を避けるために重要である。
【0030】
さらに、ポリアミド層(第1の層)が最高の相対湿度の側にあるとき、水蒸気拡散抵抗が最小になることが明らかであり、これは、水透過性が最大であることを意味する。したがって、第1の層を屋根構の側に向け、第2の層を建築物内部に向けるのが最良である。夏期に、屋根構が高い相対粘度であるとき、建築物内部へ水が輸送されることにより、屋根構は極めて良好に乾燥することができよう。しかしながら、屋根構の相対湿度は低いが、寒冷部分での凝縮は避けたい冬期の条件では、この蒸気バリアは水蒸気が建築物内部から屋根構へ侵入するのをより一層良好に阻止するであろうし、また浴室または台所がある場所でも同様であろう。