(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0041】
本発明の高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、(1)芳香族ポリカーボネートプレポリマーと、下記一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化された芳香族ポリカーボネート得る高分子量化工程と、(2)前記高分子量化工程で生成する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する環状カーボネート除去工程と、(3)前記環状カーボネート除去工程で除去された環状カーボネートを加水分解して脂肪族ジオール化合物を得ること及び該脂肪族ジオール化合物を高分子量化工程で使用する脂肪族ジオール化合物の少なくとも一部とすることを含むリサイクル工程とを含むことを特徴とする。
【0042】
本発明の製造方法は、溶融重合法によるポリカーボネート樹脂の製造工程にさらに加水分解工程が加わるものである。
これまでの、脂肪族ジオール化合物を連結剤として用いて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを連結高分子量化する高分子量ポリカーボネート樹脂の製造方法では、ポリカーボネートを重合する工程で連結剤(脂肪族ジオール化合物)は消費されるのみであった。本発明の製造方法では、連結剤を回収・再利用(リサイクル)するため、ほとんど消費されることなく使用し続けることができる。
【0043】
連結剤を用いた高分子量化方法には、界面重合法に比べて工業的利点の多い溶融重合法を用い、品質の良いポリカーボネート樹脂製品が高速で得られるという利点があるが、本発明によればそれだけでなく、消費原料が芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのみであり、従来の溶融重合法と比べて原料コストが高くならないという利点も有する。
【0044】
1.高分子量化工程
本発明の高分子量化工程では、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とをエステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂を得る。
【0045】
(1)芳香族ポリカーボネートプレポリマー
本発明の方法で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、下記一般式(II)で表される構造単位を主たる繰り返し単位として含む重縮合ポリマー(芳香族ポリカーボネートプレポリマー)である。ここで「主たる」とは、芳香族ポリカーボネートプレポリマー中の全構造単位中における一般式(II)で表される構造単位の含有率が60モル%以上であることを意味し、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0046】
【化5】
【0047】
一般式(II)中、R
11及びR
12は、それぞれ独立にハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のシクロアルコキシ基、又は炭素数6〜20のアリールオキシ基を表す。p及びqは、0〜4の整数を表す。Xは単結合又は下記(II’)の群から選択される基を表す。
【0048】
【化6】
【0049】
R
13及びR
14は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜10のアリール基を表すか、あるいはR
13とR
14は、相互に結合して脂肪族環を形成していてもよい。
【0050】
かかる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、一般式(II)で表される構造単位に誘導される芳香族ジヒドロキシ化合物を塩基性触媒(エステル交換触媒)の存在下に炭酸ジエステルと反応させる公知のエステル交換法、あるいは該芳香族ジヒドロキシ化合物を酸結合剤の存在下にホスゲン等と反応させる公知の界面重縮合法、のいずれによっても容易に得ることができる。
【0051】
上記一般式(II)で表される構造単位に誘導される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(II'')で表される化合物が挙げられる。
【0052】
【化7】
【0053】
上記一般式(II'')中、R
11、R
12、p、q及びXは、各々上記一般式(II)におけるR
11、R
12、p、q及びXとそれぞれ同義である。
【0054】
このような芳香族ジヒドロキシ化合物としては、具体的にはビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0055】
中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)がモノマーとしての安定性、更にはそれに含まれる不純物の量が少ないものの入手が容易である点等の理由により好ましいものとして挙げられる。
【0056】
本発明においては、ガラス転移温度の制御、流動性の向上、屈折率の向上、複屈折の低減等、光学的性質の制御等を目的として、上記各種モノマー(芳香族ジヒドロキシ化合物)のうち複数種を必要に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、界面重合法で合成したものであっても溶融重合法で合成したものであってもよく、また、固相重合法や薄膜重合法などの方法で合成したものであってもよい。また、使用済みディスク成形品等の使用済み製品から回収されたポリカーボネートなどを用いることも可能である。これらのポリカーボネートは混合して芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして利用しても差し支えない。例えば界面重合法で重合したポリカーボネートと溶融重合法で重合したポリカーボネートとを混合してもよく、また、溶融重合法あるいは界面重合法で重合したポリカーボネートと使用済みディスク成形品等から回収されたポリカーボネートとを混合して用いても構わない。
【0058】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして好ましくは、特定条件を満たす末端封止された芳香族ポリカーボネートプレポリマーが挙げられる。
すなわち、上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーは、その少なくとも一部が芳香族モノヒドロキシ化合物由来の末端基又はフェニルオキシ基若しくはフェニルオキシカルボニル基であるフェニル末端基(以下、まとめて「封止末端基」ともいう)で封止されていることが好ましい。
【0059】
その封止末端基の割合としては、全末端量に対して60モル%以上の場合に特に効果が著しく、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。また、封止末端基濃度(全構成単位量に対する封止末端基量の割合)は2モル%以上、好ましくは2〜20モル%、特に好ましくは2〜12モル%である。封止末端基濃度が2モル%以上の場合に脂肪族ジオール化合物との反応が速やかに進行し、本願発明特有の効果が特に顕著に発揮される。芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端量に対する封止末端基の割合は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの
1H−NMR解析により分析することができる。また、封止末端基濃度は熱分解ガスクロマトグラフィーで分析してもよい。
【0060】
また、芳香族ポリカーボネートプレポリマーにおける末端水酸基濃度は、Ti複合体による分光測定又は
1H−NMR解析によって測定することが可能である。末端水酸基濃度とは、全構成単位量に対する水酸基末端量の割合である。
1H−NMR解析による末端水酸基濃度としては1,500ppm以下が好ましく、さらに好ましくは1,000ppm以下が好適である。この範囲内の末端水酸基濃度或いはこの範囲内に対応する封止末端基濃度であると、脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応によって十分な高分子量化の効果が得られる傾向がある。
【0061】
ここでいう「ポリカーボネートの全末端基量」又は「芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量」は、例えば分岐鎖の無いポリカーボネート(すなわち、鎖状ポリマー)が0.5モルであれば、全末端基量は1モルであるとして計算される。
【0062】
封止末端基の具体例としては、フェニル末端基(すなわち、フェニルオキシ基又はフェニルオキシカルボニル基)、クレジル末端基、o−トリル末端基、p−トリル末端基、p−t−ブチルフェニル末端基、ビフェニル末端基、o−メトキシカルボニルフェニル末端基、p−クミルフェニル末端基などの末端基を挙げることができる。
【0063】
これらの中では、脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応で反応系より除去されやすい低沸点の芳香族モノヒドロキシ化合物で構成される末端基が好ましく、フェニル末端基、p−tert−ブチルフェニル末端基などが特に好ましい。
【0064】
このような封止末端基は、界面法においては芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時に末端停止剤を用いることにより導入することができる。末端停止剤の具体例としては、p−tert−ブチルフェノール、フェノール、p-クミルフェノール、長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。末端停止剤の使用量は、所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの末端量(すなわち、所望する芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量)や反応装置、反応条件等に応じて適宜決定することができる。
【0065】
溶融法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造時にジフェニルカーボネートのごとき炭酸ジエステルを芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に使用することにより、封止末端基を導入することができる。反応に用いる装置及び反応条件にもよるが、具体的には芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して炭酸ジエステルを1.00〜1.30モル、より好ましくは1.02〜1.20モル使用する。これにより、上記封止末端基濃度を満たす芳香族ポリカーボネートプレポリマーが得られる。
【0066】
本発明において好ましくは、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとして、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを反応(エステル交換反応)させて得られる末端封止された重縮合ポリマーを使用する。
【0067】
芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、一分子中に3個以上の官能基を有する多官能化合物を併用することもできる。このような多官能化合物としてはフェノール性水酸基、カルボキシ基等の反応性官能基を有する化合物が好ましく使用される。
【0068】
さらに芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造するとき、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物とともに、ジカルボン酸化合物を併用し、ポリエステルカーボネートとしても構わない。前記ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が好ましく、これらのジカルボン酸は酸クロリド又はエステル化合物として反応させることが好ましく採用される。また、ポリエステルカーボネート樹脂を製造する際に、ジカルボン酸は、前記ジヒドロキシ成分(芳香族ジヒドロキシ化合物)とジカルボン酸成分との合計を100モル%とした時に、0.5〜45モル%の範囲で使用することが好ましく、1〜40モル%の範囲で使用することがより好ましい。
【0069】
上記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの分子量としては、重量平均分子量(Mw)が5,000〜60,000が好ましい。より好ましくはMwが10,000〜50,000、さらに好ましくは10,000〜40,000、特に好ましくは15,000〜35,000の範囲の芳香族ポリカーボネートプレポリマーである。
【0070】
この範囲を超えた高分子量の芳香族ポリカーボネートプレポリマーを使用すると、該芳香族ポリカーボネートプレポリマー自体が高粘度のため、プレポリマーの製造を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる、及び/又は、脂肪族ジオール化合物との反応を高温・高剪断・長時間にて実施することが必要となる場合がある。
【0071】
(2)脂肪族ジオール化合物
脂肪族ジオール化合物とは、非芳香族性の炭素原子にそれぞれ結合するアルコール性ヒドロキシ基を2つ有するジアルコール化合物を意味する。脂肪族ジオール化合物は、分子構造中に芳香環部分を有する化合物を包含するが、芳香環に結合するヒドロキシ基を有するフェノール化合物は含まない。
本発明の方法で用いられる脂肪族ジオール化合物は、下記一般式(g2)で表されるものである。
【0072】
【化8】
【0073】
一般式(g2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R
1〜R
4は各々独立して水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは0〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0074】
一般式(g2)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R
1〜R
4は、好ましくは、各々独立して水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。
nは、好ましくは1〜6の整数を表す。
【0075】
一般式(g2)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基等が挙げられ、より好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。R
1〜R
4は、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは1〜3の整数を表す。
【0076】
一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物としてより好ましいものは、下記一般式(g3)で表される化合物である。一般式(g3)中、Ra及びRbは一般式(g2)におけるRa及びRbとそれぞれ同じである。
【0077】
【化9】
【0078】
一般式(g3)中、Ra及びRbとしてより好ましくは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、さらに好ましくは炭素数2〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基等が挙げられ、より好ましくはエチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。
【0079】
一般式(g2)で表される脂肪族ジオール化合物としては、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオール、プロパン−1,2−ジオール、プロパン−1,3−ジオール、エタン−1,2−ジオール(1,2−エチレングリコール)、2,2-ジイソアミルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチルプロパン−1,3−ジオールが挙げられる。
【0080】
また、上記脂肪族ジオール化合物の他の例としては、以下の構造式を有する化合物が挙げられる。
【化10】
【0081】
これらのうちで特に好ましいものは、2−ブチル−2−エチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジイソブチルプロパン−1,3−ジオール、2−エチル−2−メチルプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール及び2−メチル−2−プロピルプロパン−1,3−ジオールからなる群から選択される化合物である。
【0082】
(3)化学純度
本発明の製造方法に用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジオール化合物、カーボネート結合形成性化合物といった原料化合物の化学純度はいずれも高いことが好ましい。市販品、工業用レベルの化学純度で製造は可能であるが、低純度品を用いた場合、不純物由来の副生成物や異種骨格構造を含むこととなるため、得られる樹脂及び成形体の着色が強くなったり、熱安定性や強度等の諸物性が低下し、ポリカーボネート樹脂本来の物性維持が困難となったりする場合がある。
【0083】
脂肪族ジオール化合物の好ましい化学純度としては、70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。ジフェニルカーボネート等のカーボネート結合形成性化合物の好ましい化学純度は80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香族ジヒドロキシ化合物の好ましい化学純度は90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0084】
また、上記原料化合物には化学純度を下げる不純物の他に塩素、窒素、ホウ素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、軽金属、重金属なども不純物として含まれる場合があるが、原料化合物に含まれる塩素量、窒素量、ホウ素量、アルカリ金属量、アルカリ土類金属量、軽金属量、重金属量は低いことが好ましい。
【0085】
アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。アルカリ土類金属としてはベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。軽金属としては、チタン、アルミニウム及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。
【0086】
重金属として具体的にはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、タリウム、鉛、ビスマス、ヒ素、セレン、テルル及びこれらの塩や誘導体が挙げられる。
これらの不純物は全ての原料化合物において低いことが好ましい。
【0087】
脂肪族ジオール化合物に含まれる不純物の含有量は、塩素としては例えば3ppm以下、好ましくは2ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。窒素としては例えば100ppm以下である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(中でも鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)としては10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。
【0088】
その他の原料(芳香族ジヒドロキシ化合物及びカーボネート結合形成性化合物)に含まれる不純物の含有量は、塩素としては例えば2ppm以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.8ppm以下である。窒素としては例えば100ppm以下である。アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(中でも鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)としては例えば10ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。
【0089】
金属分の混入量が多い場合、触媒作用により反応がより早くなったり、逆に反応性が悪化することがあり、その結果、想定した反応の進行が阻害されて副反応が進行し、自然発生する分岐鎖構造が増加したり、予想外にN値(構造粘性指数)が増大したりする場合がある。さらに、得られる樹脂及び成形体においても、着色が強くなったり、熱安定性等の諸物性が低下したりする場合がある。
【0090】
また、さらに純度の高い原料を用いることによって、色調や分子量保持率(高温下で熱滞留を課した時の分子量低下をどの程度抑えられるかを表す指標)をさらに改善することができる。
【0091】
(4)製造方法
以下に、本発明の製造方法の詳細な条件を説明する。
(i)脂肪族ジオール化合物の添加
本発明の製造方法においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに脂肪族ジオール化合物を添加混合し、高分子量化反応器内で高分子量化反応(エステル交換反応)を行う。
【0092】
脂肪族ジオール化合物の使用量としては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して0.01〜1.0モルであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0モルであり、さらに好ましくは0.2〜0.7モルである。ただし、脂肪族ジオール化合物として比較的沸点が低いもの(例えば、沸点約350℃未満)を使用するときは、反応条件によっては一部が揮発などにより反応に関与しないまま系外へ出る可能性を考慮して、予め過剰量を添加することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの全末端基量1モルに対して最大50モル、好ましくは10モル、より好ましくは5モル添加することもできる。
【0093】
脂肪族ジオール化合物の添加混合方法については特に制限されないが、脂肪族ジオール化合物として沸点の比較的高いもの(沸点約350℃以上)を使用する場合には、前記脂肪族ジオール化合物は、減圧度10torr(1333Pa以下)以下の高真空下で、直接高分子量化反応器へ供給することが好ましい。より好ましくは、減圧度が2.0torr以下(267Pa以下)、より好ましくは0.01〜1.0torr(1.3〜133Pa以下)である。脂肪族ジオール化合物を高分子量化反応器へ供給する際の減圧度が不十分であると、副生物(例えば、フェノール)によるプレポリマー主鎖の開裂反応が進行してしまい、高分子量化するためには反応混合物の反応時間を長くせざるを得なくなる場合がある。
【0094】
一方、脂肪族ジオール化合物として沸点の比較的低いもの(沸点約350℃未満)を使用する場合には、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とを比較的ゆるやかな減圧度で混合することもできる。例えば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物と常圧に近い圧力で混合してプレポリマー混合物としたのち、該プレポリマー混合物を減圧条件下の高分子量化反応に供することにより、沸点の比較的低い脂肪族ジオール化合物であっても揮発が最小限に抑えられ、過剰に使用する必要性がなくなる。
【0095】
(ii)エステル交換反応(高分子量化反応)
芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応(高分子量化反応)に使用する温度としては、240℃〜320℃の範囲が好ましく、より好ましくは260℃〜310℃、更に好ましくは270℃〜300℃である。
【0096】
また、減圧度としては13kPa(100torr)以下が好ましく、より好ましくは1.3kPa(10torr)以下、更に好ましくは0.013〜0.67kPa(0.1〜5torr)である。
【0097】
本エステル交換反応に使用されるエステル交換触媒としては、塩基性化合物触媒が挙げられる。塩基性化合物触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素化合物等が挙げられる。
【0098】
このような化合物としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属等の有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物若しくはアルコキシド;4級アンモニウムヒドロキシド及びそれらの塩;アミン類等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独若しくは組み合わせて用いることができる。
【0099】
アルカリ金属化合物としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が用いられる。中でもアルカリ金属化合物は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム等であることが好ましい。
【0100】
アルカリ土類金属化合物としては、具体的には、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸水素バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、安息香酸カルシウム、フェニルリン酸マグネシウム等が用いられる。
【0101】
含窒素化合物としては、具体的には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基及び/又はアリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類;トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類;ジエチルアミン、ジブチルアミン等の2級アミン類;プロピルアミン、ブチルアミン等の1級アミン類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類;アンモニア、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラブチルアンモニウム、テトラフェニルホウ酸テトラフェニルアンモニウム等の塩基又は塩基性塩等が用いられる。中でも含窒素化合物は、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等であることが好ましい。
【0102】
エステル交換触媒としては、亜鉛、スズ、ジルコニウム、鉛の塩もまた好ましく用いられ、これらは単独若しくは組み合わせて用いることができる。
【0103】
エステル交換触媒としては、具体的には、酢酸亜鉛、安息香酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、酢酸スズ(II)、酢酸スズ(IV)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジメトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラブトキシド、酢酸鉛(II)、酢酸鉛(IV)等が用いられる。
【0104】
これらのエステル交換触媒は、芳香族ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、1×10
−9〜1×10
−3モルの比率で、好ましくは1×10
−7〜1×10
−5モルの比率で用いられる。
【0105】
なお、出発原料である芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの反応により芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造する段階から連続的に製造する工程の場合、上記高分子量化工程で用いるエステル交換触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造に用いたものをそのまま使用してもよい。
【0106】
(iii)その他の製造条件
本発明においては、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応により、反応後の芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)が前記芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高めることが好ましく、10,000以上高めることがより好ましく、15,000以上高めることが更に好ましい。
【0107】
脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応における装置の種類や釜の材質などは公知のいかなるものを用いてもよく、連続式で行ってもよくまたバッチ式で行ってもよい。上記の反応を行うに際して用いられる反応装置は、錨型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、ヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型であっても、パドル翼、格子翼、メガネ翼等を装備した横型であってもスクリューを装備した押出機型であってもよく、また、これらを重合物の粘度を勘案して適宜組み合わせた反応装置を使用することが好適に実施される。好ましくは横型撹拌効率の良い回転翼を有し、減圧条件にできるユニットをもつものである。
さらに好ましくは、ポリマーシールを有し、脱揮構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機である。
【0108】
装置の材質としては、SUS310、SUS316やSUS304等のステンレスや、ニッケル、窒化鋼など芳香族ポリカーボネート樹脂の色調に影響のない材質が好ましい。また装置の内側(ポリマーと接触する部分)には、バフ加工あるいは電解研磨加工を施したり、クロムなどの金属メッキ処理を行ったりしてもよい。
【0109】
本発明においては、分子量が高められた芳香族ポリカーボネート樹脂に触媒の失活剤を用いることができる。一般的には、公知の酸性物質の添加による触媒の失活を行う方法が好適に実施される。これらの物質(触媒失活剤)としては、具体的にはp-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル等の芳香族スルホン酸エステル類、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等の芳香族スルホン酸塩、ステアリン酸クロリド、酪酸クロリド、塩化ベンゾイル、トルエンスルホン酸クロリド、塩化ベンジル等の有機ハロゲン化物、ジメチル硫酸等のアルキル硫酸塩、リン酸類、亜リン酸類等が挙げられる。
【0110】
これらのうちで、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ブチル、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、及びパラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩からなる群から選択される触媒失活剤が好適に用いられる。
触媒失活剤の添加は、上記高分子量化反応終了後に従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、ターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。
【0111】
触媒失活後、ポリマー中の低沸点化合物を0.013〜0.13kPa(0.1〜1torr)の圧力、200〜350℃の温度で脱揮除去する工程を設けてもよく、このためには、パドル翼、格子翼、メガネ翼等、表面更新能の優れた攪拌翼を備えた横型装置、あるいは薄膜蒸発器が好適に用いられる。
好ましくは、ポリマーシールを有し、ベント構造をもつ2軸押出機あるいは横型反応機である。
【0112】
さらに本発明においては、耐熱安定剤、加水分解安定化剤、酸化防止剤、顔料、染料、強化剤や充填剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、可塑剤、流動性改良材、帯電防止剤等を添加することができる。
耐熱安定剤としては、トリフェニルホスフィン(P-Ph
3)等の公知のものを用いることができる。
【0113】
酸化防止剤としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスフォナイト、トリクレジルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等を用いることができる。これらのうちで好ましいものは、下記構造式Aで表されるトリス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、及び、下記構造式Bで表されるn−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネートである。
【0114】
【化11】
【0115】
これらの添加剤は、触媒失活剤と同様に、従来公知の方法でポリカーボネート樹脂に混合することができる。例えば、各成分をターンブルミキサーやヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサーで代表される高速ミキサーで分散混合した後、押出機、バンバリーミキサー、ロール等で溶融混練する方法が適宜選択される。添加剤の添加工程は、触媒失活剤と同時でも異なっていてもよい。
【0116】
2.環状カーボネート除去工程
環状カーボネート除去工程では、前記高分子量化工程で生成する環状カーボネート(以下、「副生環状カーボネート」ということがある)の少なくとも一部を反応系外へ除去する。すなわち本発明の製造方法では、上記高分子量化反応によって芳香族ポリカーボネートプレポリマーが脂肪族ジオール化合物を連結剤として連結し高分子量化するとともに、該反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去することによって芳香族ポリカーボネートプレポリマーの高分子量化反応がさらに進行する。
【0117】
なお、高分子量化工程と環状カーボネート除去工程とは、物理的及び時間的に別々の工程とすることもできるが、同時に行うこともでき、好ましくは同時に行われる。本発明の好ましい製造方法は、芳香族ポリカーボネートと脂肪族ジオール化合物とを、エステル交換触媒の存在下に反応させて高分子量化するとともに、前記高分子量化反応で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を反応系外へ除去する工程を含むものである。
【0118】
(1)環状カーボネート
副生する環状カーボネートは、下記一般式(h2)で表される構造を有する化合物である。
【0119】
【化12】
【0120】
一般式(h2)中、Ra及びRbは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数3〜30のシクロアルキル基、酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数6〜30のアリール基、又は酸素原子若しくはハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜15のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R
1〜R
4は各々独立して水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
nは1〜30、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは1である。
【0121】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、好ましくは、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜8の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜8シクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアルコキシ基を表すか、あるいはRa及びRbは、相互に結合して炭素数3〜8の脂環式環を形成していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
R
1〜R
4は、好ましくは、各々独立して水素原子、フッ素原子又はメチル基を表す。
nは好ましくは1〜6の整数を表す。
【0122】
一般式(h2)中、Ra及びRbは、より好ましくは、各々独立して水素原子又は炭素数1〜5の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。特に好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、及びイソブチル基が挙げられる。R
1〜R
4は、より好ましくは、各々水素原子である。nは、より好ましくは、1〜3の整数を表す。
【0123】
前記一般式(h2)で表される環状カーボネートとしてより好ましくは、下記一般式(h3)で表される化合物である。一般式(h3)中、Ra及びRbはそれぞれ上述した一般式(h2)におけるのと同様である。
【0124】
【化13】
【0125】
上記環状カーボネートの具体例としては、以下に示す構造の化合物が挙げられる。
【化14】
【0126】
本発明の前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、従来の溶融法によるポリカーボネートの製造方法と比べ、高速で高分子量化することができるという利点を有する。これは、本発明者らが見出した他の脂肪族ジオール化合物を連結剤として用いる連結高分子量化方法によって得られる高分子量ポリカーボネート樹脂の製造方法と共通する利点である。
【0127】
一方、本発明の製造方法では、高分子量化反応の進行とともに、特定構造の環状カーボネートが副生する。そして、副生する環状カーボネートを反応系外へ除去した後には、ほぼホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有する高分子量ポリカーボネート樹脂が得られる。副生する環状カーボネートは、高分子量化工程に使用する脂肪族ジオール化合物に対応する構造を有しており、脂肪族ジオール化合物由来の環状体であると考えられるが、このような高分子量化反応とともに環状カーボネートが副生される反応機構は、必ずしも明らかではない。
【0128】
例えば以下のスキーム(1)又は(2)に示すメカニズムが考えられるが、必ずしも明確ではない。前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法は、芳香族ポリカーボネートプレポリマーに連結剤として脂肪族ジオール化合物を反応させ、当該芳香族ポリカーボネートプレポリマーを連結して高分子量化するとともに、そこで副生する脂肪族ジオール化合物の構造に対応する構造の環状カーボネートを除去するものであり、その範囲内であれば特定の反応機構に限定されるものでもない。
【0129】
スキーム(1):
【化15】
【0130】
スキーム(2):
【化16】
【0131】
本発明の前記一般式(g2)で表される構造を有する脂肪族ジオール化合物を用いた製造方法によって得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、脂肪族ジオール化合物由来の構造単位をほとんど含まず、樹脂の骨格はホモポリカーボネート樹脂とほぼ同じである。
【0132】
すなわち、連結剤である脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が骨格に含まれないか、含まれるとしても極めて少量であることから、熱安定性が極めて高く耐熱性に優れている。一方で、従来のホモポリカーボネート樹脂と同じ骨格を有しながら、N値が低い、異種構造を有するユニットの割合が少ない、色調に優れている、などの優れた品質を備えることができる。
【0133】
本発明の製造方法によって得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の骨格に脂肪族ジオール化合物由来の構造単位が含まれる場合、高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の全構造単位量に対する該脂肪族ジオール化合物由来の構造単位量の割合は1モル%以下、より好ましくは0.1モル%以下である。
【0134】
(2)環状カーボネートの除去方法
上記副生環状カーボネートを反応系外へ除去する方法としては、具体的には、前記高分子量化工程で生成する留出液を反応系外へ留去する方法が挙げられる。すなわち、副生環状カーボネートは、同工程で同じく副生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物及び未反応の原料化合物(脂肪族ジオール化合物、炭酸ジエステルなど)とともに、これらの化合物を含む留出液として反応系より留去する。留去条件は特に制限されないが、該留出液を反応系より留去するときの反応器内の温度は、好ましくは240℃〜320℃、より好ましくは260℃〜310℃、更に好ましくは280℃〜310℃である。
【0135】
除去は、副生環状カーボネートの少なくとも一部について行う。副生環状カーボネートの全てを除去するのが最も好ましいが、完全に除去するのは一般に難しい。完全に除去できない場合に製品化した芳香族ポリカーボネート樹脂中に環状カーボネートが残存していることは許容される。製品中の残存量の好ましい上限は3000ppm、より好ましい上限は1000ppm、さらに好ましい上限は500ppm、特に好ましい上限は300ppmである。
【0136】
3.リサイクル工程
本発明では、前記環状カーボネート除去工程で反応系外へ除去された副生環状カーボネートを、その後リサイクル工程において再利用する。すなわち該副生環状カーボネートを加水分解して、高分子量化工程で使用した脂肪族ジオール化合物に転換した後、該脂肪族ジオール化合物を高分子量化工程で使用する脂肪族ジオール化合物の少なくとも一部として再使用する。
【0137】
脂肪族ジオール化合物を連結剤として用いて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを高分子量化するこれまでの高分子量ポリカーボネート樹脂の製造方法では、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを重合する工程で連結剤(脂肪族ジオール化合物)は消費されるのみであったが、本発明の製造方法では、連結剤を回収・再利用するため、ほとんど消費されることなく使用し続けることができ、高速で重縮合反応し且つ品質の良い樹脂製品が得られるという溶融重合法の利点に加え、消費原料が芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのみであり、原料コストの上昇を抑えられるという利点も有する。
【0138】
本発明のより具体的な方法によれば、高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を含む留出液を、環状カーボネート除去工程において反応系外へ除去し、次いでリサイクル工程において、前記留出液を加水分解処理したのち、該加水分解処理により得られた加水分解液(以下、単に「加水分解液」という)を水層と脂肪族ジオール化合物を含む油層とに油水分離する油水分離工程と、前記油層を精製して脂肪族ジオール化合物を分離する精製工程とを含む方法によって脂肪族ジオール化合物を回収し再利用に供する。
【0139】
また、本発明のより具体的なもう一つの方法によれば、高分子量化工程で副生する環状カーボネートの少なくとも一部を含む留出液を、環状カーボネート除去工程において反応系外へ除去し、次いでリサイクル工程において、前記留出液を加水分解処理したのち、該加水分解処理により得られた加水分解液を精製して脂肪族ジオール化合物を分離する精製工程を含む方法によって脂肪族ジオール化合物を回収し再利用に供することもできる。
【0140】
(1)加水分解処理
環状カーボネート除去工程において反応系より除去された連結剤(脂肪族ジオール化合物)由来の副生環状カーボネートは、加水分解処理により元の脂肪族ジオール化合物に転換される。好ましくは、前記副生環状カーボネートは、同じく高分子量化工程で副生するフェノール及び未反応の脂肪族ジオール化合物などとともに、これらの化合物を含む留出液として反応系外へ留去され、この留出液が加水分解処理される。
【0141】
本発明では、この留出液を加水分解処理する前に精製していてもよいが、精製を行わずに加水分解処理するのが、工程数が少ない点で好ましい。
【0142】
なお、本発明において「留出液」は、環状カーボネート除去工程で得られるものであって、高分子量化工程で副生するフェノール及び未反応の脂肪族ジオール化合物などが含まれるが、プレポリマー製造工程で得られるジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルやフェノールを含む留去液が混合されていてもよい。
【0143】
加水分解処理の具体的方法については特に制限はなく、アルカリ加水分解、酸加水分解、酵素分解(例えば、リパーゼによる加水分解)等のいずれであってもよいが、好ましくはアルカリ化合物を用いたアルカリ加水分解が採用される。
【0144】
使用するアルカリ化合物は特に制限されないが、具体的にはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物等を含むものが挙げられる。
【0145】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物、アルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類等との塩のような有機アルカリ金属化合物等が例示される。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が例示される。
【0146】
アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類化合物、アルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類等との塩のような有機アルカリ土類金属化合物等が例示される。アルカリ土類金属としては、ベリリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等が例示される。
【0147】
塩基性ホウ素化合物としては、例えばテトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、又はストロンチウム塩等が例示される。
【0148】
上記のアルカリ化合物としてより具体的には、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩、ナトリウムメトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、ナトリウムエトキシド等が挙げられる。これらのうち、好ましくは炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等が用いられる。
【0149】
アルカリ化合物は、通常水溶液の形で前記留出液に混合される。このアルカリ化合物の水溶液(以下、「アルカリ水」という)のアルカリ濃度は、好ましくは0.001〜12mol/L、より好ましくは0.001〜3mol/L、さらに好ましくは0.01〜1.1mol/Lであるが、使用するアルカリ種によって適宜選択できる。例えば、アルカリ種として炭酸水素ナトリウムを用いる場合は0.001〜1.1mol/L、ナトリウムメトキシドを用いる場合は0.001〜2.1mol/L、炭酸ナトリウムを用いる場合は0.001〜2.1mol/Lである。なお、水酸化ナトリウムを用いる場合、好ましくは2〜12mol/Lである。
【0150】
前記留出液に対するアルカリ水の使用割合は特に制限されないが、好ましくは該留出液に対しアルカリ水を0.1〜1.5倍(重量比)、より好ましくは0.3〜1.3倍(重量比)の割合で使用する。
アルカリ加水分解は、好ましくは室温(25℃)〜120℃、より好ましくは室温(25℃)〜100℃の温度範囲内で行うことができる。また、アルカリ加水分解は還流温度で行うこともまた好ましい。
【0151】
このようなアルカリ加水分解等の加水分解処理によって、留出液中の環状カーボネートは脂肪族ジオール化合物へ転換される。環状カーボネートから脂肪族ジオール化合物への転化率(%)は特に限定されないが、望ましくは50〜100%、特に望ましくは80〜100%である。
【0152】
なお、留出液中に含まれる未反応の原料化合物としてジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルが含まれている場合、上記加水分解処理によって、例えば未反応のジフェニルカーボネートは同時に加水分解されてフェノールとなるので、これを回収して再利用することもできる。
【0153】
(2)油水分離工程
リサイクル工程においては、前記留出液を加水分解処理したのち、該加水分解処理で得られる加水分解液を精製して脂肪族ジオール化合物を分離する。この場合、該加水分解液を直接精製することもできるが、該加水分解液を水層と脂肪族ジオール化合物を含む油層とに油水分離する油水分離工程を経た後、油層を精製して脂肪族ジオール化合物を分離することもできる。
【0154】
油水分離工程を実施する場合、従来公知の油水分離装置がいずれも使用可能である。例えば、一般的な分液ロート、大量に処理を行なう場合に適する公知の分液装置(ミキサーセトラー)、多段ミキサー、デカンタータイプの接触器、重力分別カラムタイプの接触器、連続式分液装置等が挙げられる。また、市販の油水分離剤等を用いることもできる。
【0155】
油水分離工程には、通常用いられる油水分離手段から必要に応じて選択される油水分離手段を適用することができる。例えば、油水分離工程は、加水分解液に酸又はアルカリを加える工程、加水分解液に有機溶剤を加える工程、加水分解液を加温する工程、及び加水分解液に水溶性塩を加える工程からなる群より選択される少なくとも1種の工程を含んでいてもよい。これにより、油水分離がより効率的に促進され、脂肪族ジオール化合物の回収率をより向上させることができる。
【0156】
加水分解液に酸又はアルカリを加える工程は、例えば、加水分解処理をアルカリ加水分解で行う場合は、酸を加える工程であることが好ましく、加水分解処理を酸加水分解で行う場合は、アルカリを加える工程であることが好ましい。使用する酸及びアルカリは特に制限されず通常用いられる酸性化合物及びアルカリ化合物から適宜選択することができる。
酸性化合物としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、炭酸、過塩素酸、ホウ酸、フッ化水素酸等の無機酸、酢酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸等の有機酸を挙げることができる。中でも無機酸が好ましく、硫酸、塩酸等がより好ましい。
アルカリ化合物としては、既述のアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等の無機塩基、テトラアルキルアンモニウム等の四級アンモニウムの水酸化物、アンモニア、アミン類等を挙げることができる。中でも無機塩基が好ましい。
【0157】
加水分解液への酸又はアルカリの添加量は特に制限されない。加水分解液に酸を加える場合、加水分解液の水層部分が中性となる量を加えることが好ましく、酸性となる量を加えることがより好ましい。また、加水分解液にアルカリを加える場合、加水分解液の水層部分が中性となる量を加えることが好ましく、アルカリ性となる量を加えることがより好ましい。
【0158】
加水分解液に有機溶剤を添加する工程に用いる有機溶剤は特に制限されない。添加する有機溶剤は、水と相溶しない有機溶剤であることが好ましい。また有機溶剤は水との比重差が大きいこともまた好ましく、比重が0.9以下であることがより好ましい。有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶剤等を挙げることができる。中でも芳香族炭化水素又は脂肪族炭化水素であることが好ましく、ヘプタン、トルエン、ベンゼン等がより好ましい。
有機溶剤の添加量は、加水分解液の液量等に応じて適宜選択することができる。例えば、加水分解液と有機溶剤とを含む総重量中に、10重量%以上であることが好ましく、10〜50重量%であることがより好ましく、15〜40重量%であることが更に好ましく、15〜30重量%であることが特に好ましい。
【0159】
加水分解液を加温する工程は、油水分離を促進する温度に加水分解液を加温する工程であれば特に制限されない。加温される加水分解液の温度は30℃以上であることが好ましく、30〜80℃であることがより好ましく、40〜70℃であることが更に好ましく、45〜60℃であることが特に好ましい。加温する方法は特に制限されず、油水分離に用いる装置等に応じて適宜選択することができる。
加水分解液を加温する工程は、他の油水分離手段と組み合わせることで油水分離をより促進させる傾向がある。
【0160】
加水分解液に水溶性塩を加える工程は、水層の比重を添加前よりも大きくする工程であれば特に制限されない。これにより油水分離が促進される。加水分解液に水溶性塩を加える工程は、加水分解液に水溶性塩自体を加える工程であっても、水溶性塩の水溶液を加える工程であってもよい。
水溶性塩としては特に制限されず、通常用いられる水溶性塩から適宜選択することができる。水溶性塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、四級アンモニウム塩等が挙げられる。水溶性塩は、無機酸塩であっても、有機酸塩であってもよいが、無機酸塩であることが好ましい。水溶性塩として具体的には、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属の無機酸塩、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の無機酸塩等を挙げることができる。
加水分解液に水溶性塩を加える場合、その添加量は水溶性塩の種類等に応じて適宜選択することができる。水溶性塩の添加量は例えば、加水分解液に含まれる水層中の濃度が5重量%以上となる量とすることができ、5〜20重量%であることが好ましく、5〜10重量%であることがより好ましい。
【0161】
油水分離手段は1種を単独で適用してもよく、また2種以上を組合わせて適用してもよい。例えば、加水分解液を加温する工程は、油水分離工程において単独で行ってもよいが、加水分解液に酸又はアルカリを加える工程、加水分解液に有機溶剤を加える工程及び加水分解液に水溶性塩を加える工程の少なくとも1種と併用することが好ましく、加水分解液に酸又はアルカリを加える工程及び加水分解液に有機溶剤を加える工程と併用することがより好ましい。
【0162】
油水分離後の油層に対しては、洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程は例えば、油層を水と混合して油水分離することで行うことができる。洗浄工程に水を用いる場合、その水は水溶性塩を含んでいてもよい。また、油層に水を混合した後、油水分離する前に水溶性塩を加えてもよい。洗浄工程に用いる水溶性塩についての詳細は、既述の加水分解液に加える水溶性塩と同様である。
洗浄工程における油水分離においては、油層と水の混合物を加温することが好ましい。洗浄工程における加温の詳細は、既述の油水分離手段における加水分解液の加温と同様である。
洗浄工程は1回のみ行っても、2回以上行ってもよい。
【0163】
油水分離後の油層は、次いで精製工程に供される。なお、精製工程は油水分離後に行うことが好ましいが、加水分解処理前の留出液を精製することもでき、その場合は油水分離後の精製を行っても行わなくてもよい。加水分解処理前の留出液を精製する場合は、主として、加水分解処理前の留出液に含まれるフェノール、未反応の脂肪族ジオール化合物や炭酸ジエステル(ジフェニルカーボネート等)を除去するのが目的となる。
【0164】
加水分解処理としてアルカリ加水分解を採用する場合、油層分離後の油層を直接精製することもできるが、油層分離後の油層を中和、あるいは水で洗浄する工程を経たのち精製することもできる。また、油層に含まれるアルカリ塩等の固体を濾過した後、精製することもできる。
【0165】
油水分離後の水層は、中和後排水とすることも、回収してアルカリ水用の水として再利用(リサイクル)することも可能である。排水とする場合でも、本発明の方法によれば、排水の量を極微量とすることができる。排水が多いことが従来界面重合法の大きな欠点とされてきたことを考慮すると、本発明において排水量を界面重合法に比べて格段に少なくできることは、大きな利点と言うことができる。
【0166】
(3)精製工程
前記油水分離工程で分離された油層は、続く精製工程において精製して脂肪族ジオール化合物を分離する。なお、この油層には脂肪族ジオール化合物の他、副生フェノール等も含まれる場合があるので、フェノール等も同様に分離して回収・再利用することができる。精製方法は特に制限されないが、好ましくは蒸留精製を行う。
【0167】
蒸留精製を実施する前には、油層中に微量に含まれる水を中和又は水洗しておくことができる。また、油層にアルカリ加水分解で使用したナトリウム塩等が含まれる場合もあるため、あらかじめ濾過して取り除いておくこともできる。
【0168】
蒸留精製の場合、蒸留温度は特に制限されず、従来公知の条件(例えば特公平5−81573号公報に記載されたブチルエチルプロパングリコールの製造条件など)に従うことができるが、具体的には、蒸留装置の塔頂温度として200℃以下が好ましく、より好ましくは180℃以下、さらに好ましくは170℃以下、特に好ましくは120〜150℃、最も好ましくは130〜135℃である。
【0169】
また、蒸留時の減圧度も特に制限されず、従来公知の条件(例えば特公平5−81573号公報に記載されたブチルエチルプロパングリコールの製造条件など)に従うことができるが、100mmgHg(13.3kPa)以下が好ましく、より好ましくは50mmHg(6.7kPa)以下、さらに好ましくは30mmHg(4.0kPa)以下、特に好ましくは20mmHg(2.7kPa)以下、最も好ましくは1mmHg(0.1kPa)〜4mmHg(0.5kPa)である。
【0170】
蒸留装置としては、従来公知の一般的なものを適宜用いることができる。例えば、棚段式蒸留装置、充填式蒸留装置(規則型蒸留装置、不規則型蒸留装置)、ヴィグリュウ型蒸留装置、ヘンペル型蒸留装置、ウィッドマー型蒸留装置、単蒸留装置、連続式蒸留装置、バッチ式蒸留装置等が挙げられる。
【0171】
加水分解液を油水分離することなく直接精製する場合、好ましい精製方法は蒸留精製であり、加水分解反応と蒸留精製とを一体型装置を用いて一工程で実施することができる(加水分解反応蒸留)。加水分解反応と蒸留精製とを一工程で行うことは、工程数を少なくできるメリットがある。
【0172】
一体型装置としては、例えば通常の反応器又は蒸留釜に精留塔を立てたもの、などを用いることができる。反応器で加水分解反応を行った後、反応液(加水分解液)を移送することなく、さらに加温・減圧して、フェノール及び環状カーボネートを分離することができる。蒸留温度及び減圧度などの条件は、上述した油水分離後の油層について行う場合と同様である。
【0173】
精製によって回収される脂肪族ジオール化合物の収率(%)は特に限定されないが、望ましくは高分子量化工程で使用する脂肪族ジオール化合物の50〜100重量%、より望ましくは65〜100重量%を回収することができる。
【0174】
また、精製によって回収される脂肪族ジオール化合物の化学純度(%)及び金属濃度(ppm)は、加水分解処理や精製工程等の条件によっても異なるが、約80%以上の化学純度及び約100ppm以下の金属濃度を達成することが可能である。
【0175】
上述したように、リサイクル工程としては、(a)高分子量化工程からの留出液を加水分解処理した後、油水分離工程を経て分離された油層を精製してリサイクルする方法、(b)高分子量化工程からの留出液をまず精製し、次いで加水分解処理した後、油水分離工程を経て分離された油層をさらに精製してリサイクルする方法、及び(c)高分子量化工程からの留出液をまず精製し、次いで加水分解処理した後、油水分離工程を経て分離された油層を直接リサイクルする方法、などが挙げられる。このうち、(a)が効率の点で最も好ましい。
【0176】
以下に、本発明の製造方法の具体例を、図によって説明する。
図1〜
図4は、いずれも本発明の製造方法のうち、原料として、芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(略号;BPA)、炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(略号;DPC)、連結剤(脂肪族ジオール化合物)である2-ブチル−2−エチル−プロパン−1,3−ジオール(略号;BEPG)を用いた場合の製造工程フロー図の例である。
【0177】
このうち、
図1は、高分子量化工程(
図1中、「連結除去反応」と表示)からの留出液を加水分解処理したのち油水分離し、次いで油層を精製して脂肪族ジオール化合物(
図1中、「連結剤」と表示)を分離し再利用する工程を表すフロー図である。
【0178】
図2は、
図1に示した方法において、高分子量化工程(連結除去反応)からの留出液を、プレポリマー製造工程から留去された副生フェノールを含む留去液と混合させ、該混合液を加水分解処理したのち油水分離し、次いで油層を精製して脂肪族ジオール化合物を分離し再利用する工程を表すフロー図である。
【0179】
図3は、高分子量化工程(連結除去反応)からの留出液を加水分解処理したのち、該加水分解液を精製して脂肪族ジオール化合物を分離し再利用する工程を表すフロー図である。ここでは、加水分解処理と精製とが一体型装置によって行われる(加水分解反応蒸留)。この方法では、加水分解処理後に油水分離工程が含まれない点で、工程数が少ないという利点を有する。
【0180】
図4は、
図3で示した方法において、高分子量化工程(連結除去反応)からの留出液を、プレポリマー製造工程から留去された副生フェノールを含む留去液と混合させ、該混合液を加水分解処理したのち、該加水分解液を精製して脂肪族ジオール化合物を分離し再利用する工程を表すフロー図である。ここでは、
図3の場合と同様に、加水分解処理と精製とが一体型装置によって行われる(加水分解反応蒸留)。この方法では、
図3の場合に加えて、プレポリマー製造工程からの副生フェノールの回収工程を別工程で行わない点で、さらに工程数を減らすことができるという利点を有する。
【0181】
図1について説明すると、まず芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造工程(「プレポリマー製造工程」)において、BPAとDPCとを触媒(エステル交換触媒)の存在下に反応させて芳香族ポリカーボネートプレポリマーを製造する。このとき副生するフェノールについては、精製後、回収してDPC製造用原料として再利用(リサイクル)される。
【0182】
次に、前記プレポリマー製造工程で得られた芳香族ポリカーボネートプレポリマーに連結剤(脂肪族ジオール化合物)であるBEPGを作用させてエステル交換反応を行い、芳香族ポリカーボネートプレポリマーを連結して高分子量化する(「高分子量化工程」又は「連結除去反応」)。エステル交換触媒は、芳香族ポリカーボネートプレポリマー製造工程で使用したものが使用される。
【0183】
高分子量化工程で得られた高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、必要に応じて用いられる触媒失活剤や添加剤を添加し混練機によるコンパウンディング等の工程を経た後、製品化される。
【0184】
一方、高分子量化工程において生成したBEPG由来の副生環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン;BEPO)及び副生フェノール等を含む留出液は、反応系外へ除去される。該留出液に対しては、次いでアルカリ加水分解処理がなされる。
【0185】
アルカリ加水分解処理後は、油層と水層とに油水分離し、BEPG及び副生フェノールを含む油層は蒸留精製される。蒸留精製によって回収されたBEPGは連結剤として高分子量化工程において再利用される。同じく回収されたフェノールは、DPC製造用原料として再利用される。
油水分離後の水層は、中和後排水として処理することも可能であり、また、回収してアルカリ水用の水として加水分解処理工程において再利用することもできる。
【0186】
図2においては、プレポリマー製造工程及び高分子量化工程は
図1と同様であるが、プレポリマー製造工程からの副生フェノールを含む留去液は、高分子量化工程からの留出液と混合される。その後は、
図1と同様に、該留出液に対してアルカリ加水分解処理がなされる。アルカリ加水分解処理後は、油層と水層とに油水分離し、BEPG及び副生フェノールを含む油層は蒸留精製される。蒸留精製によって回収されたBEPGは連結剤として高分子量化工程において再利用される。同じく回収されたフェノールは、DPC製造用原料として再利用される。
【0187】
図3について説明すると、プレポリマー製造工程及び高分子量化工程は
図1と同様である。プレポリマー工程で副生するフェノールについては、精製後、回収してDPC製造用原料として再利用(リサイクル)される。
高分子量化工程において生成したBEPG由来の副生環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン;BEPO)及び副生フェノール等を含む留出液は、反応系外へ除去された後、加水分解反応と蒸留精製とを一塔で実施できる一体型装置に供給され、次いでアルカリ加水分解処理がなされる。
【0188】
アルカリ加水分解処理後、BEPG及び副生フェノールを含む加水分解液は油水分離工程を経ることなく蒸留精製される。蒸留精製によって回収されたBEPGは連結剤として高分子量化工程において再利用され、同じく回収されたフェノールはDPC製造用原料として再利用される。
【0189】
図4においては、プレポリマー製造工程及び高分子量化工程は
図1と同様であるが、プレポリマー製造工程からの副生フェノールを含む留去液は、高分子量化工程からの留出液と混合される。その後は、
図3と同様に、加水分解反応と蒸留精製とを一塔で実施できる一体型装置に供給され、アルカリ加水分解処理及び蒸留精製工程を経て、回収されたBEPGは連結剤として高分子量化工程において再利用され、同じく回収されたフェノールはDPC製造用原料として再利用される。
【0190】
本発明の製造方法は、高分子量化工程と、環状カーボネート除去工程と、リサイクル工程とを含んでいればよく、バッチ処理で実施されても、連続処理で実施されてもよい。本発明の製造方法をバッチ処理で実施する場合、リサイクル工程で得られる脂肪族ジオール化合物は、次回以降のバッチ処理における高分子量化工程に供することができる。また、本発明の製造方法を連続処理で実施する場合、リサイクル工程で得られる脂肪族ジオール化合物を、芳香族ポリカーボネートプレポリマーとともに高分子量化工程に連続的に投入することができる。
本発明の製造方法は、環状カーボネートを含む留出液、加水分解処理液、リサイクル工程で生成する油層、脂肪族ジオール化合物等を貯蔵タンク、バッファータンク等に一時的に貯蔵する工程を、必要に応じて含んでいてもよい。
【0191】
4.高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂
本発明の製造方法によれば、芳香族ポリカーボネートプレポリマーと脂肪族ジオール化合物とのエステル交換反応により、反応後の芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)を、芳香族ポリカーボネートプレポリマーの重量平均分子量(Mw)よりも5,000以上高めることが可能となり、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは15,000以上高めることができる。
【0192】
本発明の製造方法により製造される高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000〜100,000、より好ましくは30,000〜80,000、さらに好ましくは35,000〜75,000であり、高分子量でありながら、高い流動性を併せ持つ。これにより、ブロー成形、押出成形、射出成形等の用途に用いた場合、成形性に優れた成形材料が得られる。
【0193】
また、本発明の方法により製造される高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂においては、下記数式(1)で表されるN値(構造粘性指数)が、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.28以下、より好ましくは1.25以下、特に好ましくは1.23以下である。
[数1]
N値=(log(Q160値)-log(Q10値))/(log160―log10) ・・・(1)
【0194】
上記数式(1)中、Q160値は280℃、荷重160kgで測定した単位時間当たりの
溶融流動体積(ml/sec)((株)島津製作所製:CFT-500D型を用いて測定(以下
同様)し、ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表し、Q10値は280℃、荷重10kgで測定した単位時間当たりの溶融流動体積(ml/sec)(ストローク=7.0〜10.0mmより算出)を表す。(なお、ノズル径1mm×ノズル長10mm)
【0195】
構造粘性指数「N値」は、芳香族ポリカーボネート樹脂の分岐鎖化度の指標とされる。本発明の製造方法で製造された高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂におけるN値は低く、分岐鎖構造の含有割合が少なく直鎖構造の割合が高い。ポリカーボネート樹脂は一般に、同じMwに於いては分岐鎖構造の割合を多くすると流動性が高くなる(Q値が高くなる)傾向にあるが、本発明の製造方法で製造された高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、N値を低く保ったまま高い流動性(高いQ値)を達成している。
【0196】
また、本発明の製造方法で得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂は、良好な色相を有する。
芳香族ポリカーボネート樹脂の色相評価は一般にYI値にて表わされる。通常、界面重合法から得られる芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値としては0.8〜1.0を示す。一方、溶融重合法により得られる芳香族ポリカーボネートの高分子量体は製造工程に伴う品質の低下により、YI値は1.7〜2.0を示す。しかしながら本発明の製造方法により得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂のYI値は界面重合法により得られる芳香族ポリカーボネートと同等のYI値を示し、色相の悪化は見られない。
【0197】
また、さらに純度の高い原料を用いることによって、色調や分子量保持率(高温下で熱滞留を課した時の分子量低下をどの程度抑えられるかを表す指標)をさらに改善することができる。
具体的には、本発明の製造方法により得られる高分子量化された芳香族ポリカーボネート樹脂の熱滞留試験(360℃で60分間)後の分子量(Mw)保持率を50%以上、より好ましくは70%以上とすることができる。
【実施例】
【0198】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、実施例中の測定値は、以下の方法あるいは装置を用いて測定した。
【0199】
1)ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw):GPCを用い、クロロホルムを展開溶媒として、分子量既知(分子量分布=1)の標準ポリスチレン(東ソー株式会社製、”PStQuick MP-M”)を用いて検量線を作成した。測定した標準ポリスチレンから各ピークの溶出時間と分子量値をプロットし、3次式による近似を行い、較正曲線とした。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、以下の計算式より求めた。
【0200】
[計算式]
Mw=Σ(W
i×M
i)÷Σ(W
i)
Mn=Σ(N
i×M
i)÷Σ(N
i)
ここで、iは分子量Mを分割した際のi番目の分割点、W
iはi番目の重量、N
iはi番目の分子数、M
iはi番目の分子量を表す。また分子量Mとは、較正曲線の同溶出時間でのポリスチレン分子量値を表す。
【0201】
[測定条件]
装置;東ソー株式会社製、HLC−8320GPC
カラム;ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMPHZ-M×1本
分析カラム:TSKgel SuperMultiporeHZ-M×3本
溶媒;HPLCグレードクロロホルム
注入量;10μL
試料濃度;0.2w/v% HPLCグレードクロロホルム溶液
溶媒流速;0.35ml/min
測定温度;40℃
検出器;RI
【0202】
2)末端水酸基濃度(ppm):塩化メチレン溶液中でポリマーと四塩化チタンとから形成される複合体のUV/可視分光分析(546nm)によって測定した。又は、
1H−NMRの解析結果から末端水酸基を観測することによって測定した。
1H−NMRによるプレポリマー(PP)中の末端水酸基濃度は、樹脂サンプル0.05gを1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で
1H−NMRを測定することで求めた。具体的には、4.7ppmの水酸基ピークと7.0〜7.5ppm付近のフェニル及びフェニレン基(末端フェニル基及びBPA骨格由来のフェニレン基)の積分比より、PP中の末端水酸基濃度(OH濃度)を算出した。
【0203】
なお、
1H−NMRの測定条件の詳細は以下のとおりである。
装置:日本電子社製 LA-500 (500MHz)
測定核:
1H
relaxation delay : 1s
x_angle : 45deg
x_90_width : 20μs
x_plus : 10μs
scan : 500times
【0204】
3)末端フェニル基濃度(封止末端基濃度、Ph末端濃度;モル%):
1H−NMRの解析結果から、下記数式により求めた。
【0205】
【数1】
【0206】
具体的には、樹脂サンプル0.05gを、1mlの重水素置換クロロホルム(0.05w/v%TMS含有)に溶解し、23℃で
1H−NMRスペクトルを測定し、7.4ppm前後の末端フェニル基と7.0〜7.3ppm付近のフェニレン基(BPA骨格由来)の積分比より、PPの末端フェニル基量及び末端フェニル基濃度を測定した。
【0207】
なお、
1H−NMRの測定条件の詳細は以下のとおりである。
装置:日本電子社製 LA-500 (500MHz)
測定核:
1H
relaxation delay : 1s
x_angle : 45deg
x_90_width : 20μs
x_plus : 10μs
scan : 500times
【0208】
上記の末端水酸基濃度と末端フェニル基濃度とから、ポリマーの全末端基量を算出することができる。
なお、以下の実施例及び比較例で使用した脂肪族ジオール化合物の化学純度はいずれも98〜99%、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの化学純度は99%以上、塩素含有量は0.8ppm以下、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン及び重金属(鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、マンガン、コバルト、モリブデン、スズ)の含有量は各々1ppm以下である。
以下の実施例で、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを「BPA」、プレポリマーを「PP」、水酸基を「OH基」、フェニル基を「Ph]と略すことがある。
【0209】
<実施例1>
主原料調製槽2器、連結剤調製槽2器、縦型攪拌反応器2器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の方法でポリカーボネート樹脂を製造した。
【0210】
原料モル比(ジフェニルカーボネート(DPC)/ビスフェノールA(BPA))が1.16となるように、ジフェニルカーボネート127.904kg、BPA117.504kgを第1縦型攪拌重合槽(住友重機械工業株式会社製マックスブレンド翼重合槽、容量;750L)へ投入した。さらに0.1w/v%の炭酸セシウム(Cs
2CO
3)水溶液をBPAの1モルに対し炭酸セシウムの添加量が0.5μmolとなる割合で添加した。窒素置換後、160℃にて原料を溶解後、真空度100torr(13kPa)、熱媒温度215℃、攪拌速度150rpmで、2時間10分間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。生成したフェノールは、コンデンサーにより冷却、回収後、DPCの原料成分の1つとして用いた。
【0211】
第1縦型攪拌反応器で得られた重合反応液は、移送管を通じて第2縦型攪拌反応器(住友重機械工業株式会社製ダブルヘリカル翼重合槽、容量;500L)へ供給した。
【0212】
さらに真空度15torr(2kPa)、熱媒温度240℃、攪拌速度40rpmで、1時間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。引き続き、真空度1torr(0.13kPa)以下、熱媒温度275℃、攪拌速度20rpmで、2時間45分間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。
生成したフェノールは、コンデンサーにより冷却、回収後、DPCの原料成分の1つとして用いた。
得られたプレポリマー(PP)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は27000、末端フェニル基濃度は5.3mol%、末端水酸基濃度は200ppmであった。
【0213】
上記工程で得られたプレポリマー23.5kg/hrに対し、溶解した2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール(BEPG)を245g/hrで添加し、さらにニーダ(株式会社栗本鐵工所製;SIKRCリアクター)を介して混合後、横型重合反応器(製造元;株式会社日立製作所、機器種類;メガネ翼重合機、容量;34L、張込み量;13L)へ連続供給した。このときの横型重合反応器の真空度は1torr(0.13kPa)以下、反応釜内での滞留時間は30分であった。得られた樹脂は、Mw=55000であった。
【0214】
留去した留出液は、コンデンサーにより冷却、回収した。回収した留出液は、ガスクロマトグラフィーで測定した結果、フェノール、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン;BEPO)、2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール、DPC及びオリゴマーと見られる化合物の混合物であった。
【0215】
なおガスクロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
測定装置:島津製作所製;商品名「GC2014」
カラム:GL Sciences Inc. TC−17 (df=0.25μm, 0.25mmI.D.×30m)
キャリアーガス:He, 流量:81.9ml/min(線速度1.53ml/min, スプリット比50)
検出器:FID
カラム温度:70℃(5min)−12℃/min(10min)−190℃(15min)
INJ温度:200℃
DET温度:250℃
【0216】
留出液の組成は以下の通りである。留出液の組成を下記表1にも示す。なお、表1では留出液を「重合留去液」とした。
・フェノール=29wt%
・環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=20wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=25%
・DPC=20wt%
・その他=6wt%
【0217】
上記留出液178gを冷却コンデンサーと攪拌翼を装着した300ml丸底フラスコへ投入し、1mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液178gを加えた。2時間、加熱環流することにより、アルカリ加水分解反応を行なった。反応終了後、油層を分液ロートにより分離したところ、157gであった。
【0218】
油層をガスクロマトグラフィーで測定した結果は以下の通りである。油層の組成を下記表1にも示す。
・フェノール=40wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=41wt%
・その他=19wt%
【0219】
環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)から2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールへの転嫁率は100%であった。DPCも加水分解によりフェノールとなり、転化率は100%であった。
【0220】
さらに、上記の油層溶液を25cmのヴィグリュウ型コンデンサーと攪拌翼を装着した300ml丸底フラスコへ投入し、蒸留精製を行なった。塔頂温度83〜65℃/430〜200torrで主に水を回収、塔頂温度130〜147℃/200torr〜130torrで主にフェノールをフラクション1(f−1)として回収、さらに塔頂温度150〜190℃/90torr〜20torrで主に2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールをフラクション2(f−2)として回収した。回収されたフェノール純度はほぼ100%、2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールの純度は91%(f−2)であった。各フラクションの組成を表1に示す。
【0221】
留出液から精製工程終了後までのトータルの2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールの回収率は69%であった。
回収精製した2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールは、再度、連結剤である脂肪族ジオールとして使用できるものであった。
【0222】
【表1】
【0223】
<実施例2>
主原料調製槽2器、連結剤調製槽2器、縦型攪拌反応器2器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の方法でポリカーボネート樹脂を製造した。
【0224】
原料モル比(ジフェニルカーボネート(DPC)/ビスフェノールA(BPA))が1.16となるように、ジフェニルカーボネート127.904kg、BPA117.504kgを第1縦型攪拌重合槽(住友重機械工業株式会社製マックスブレンド翼重合槽、容量;750L)へ投入した。さらに0.1w/v%の炭酸セシウム(Cs
2CO
3)水溶液をBPAの1モルに対し炭酸セシウムの添加量が0.5μmolとなる割合で添加した。窒素置換後、160℃にて原料を溶解後、真空度100torr(13kPa)、熱媒温度215℃、攪拌速度150rpmで、2時間10分間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。生成したフェノールは、コンデンサーにより冷却、回収後、DPCの原料成分の1つとして用いた。
【0225】
第1縦型攪拌反応器で得られた重合反応液は、移送管を通じて第2縦型攪拌反応器(住友重機械工業株式会社製ダブルヘリカル翼重合槽、容量;500L)へ供給した。
【0226】
さらに真空度15torr(2kPa)、熱媒温度240℃、攪拌速度40rpmで、1時間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。引き続き、真空度1torr(0.13kPa)以下、熱媒温度275℃、攪拌速度20rpmで、2時間45分間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。
生成したフェノールは、コンデンサーにより冷却、回収後、DPCの原料成分の1つとして用いた。
得られたプレポリマー(PP)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は27000、末端フェニル基濃度は5.3mol%、末端水酸基濃度は200ppmであった。
【0227】
上記工程で得られたプレポリマー23.5kg/hrに対し、溶解した2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール(BEPG)を245g/hrで添加し、さらにニーダ(株式会社栗本鐵工所製;SIKRCリアクター)を介して混合後、横型重合反応器(製造元;株式会社日立製作所、機器種類;メガネ翼重合機、容量;34L、張込み量;13L)へ連続供給した。このときの横型重合反応器の真空度は1torr(0.13kPa)以下、反応釜内での滞留時間は30分であった。得られた樹脂は、Mw=55000であった。
【0228】
留去した留出液は、コンデンサーにより冷却、回収した。回収した留出液は、ガスクロマトグラフィーで測定した結果、フェノール、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン;BEPO)、2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール、DPC及びオリゴマーと見られる化合物の混合物であった。
【0229】
留出液の組成は以下の通りである。留出液の組成を下記表2にも示す。なお、表2では留出液を「重合留去液」とした。
・フェノール=29.0wt%
・環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=20.0wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=25.0%
・DPC=20.0wt%
・その他=6.0wt%
【0230】
上記留出液178gを冷却コンデンサーと攪拌翼を装着した300ml丸底フラスコへ投入し、1mol/Lの炭酸水素ナトリウム水溶液178gを加えた。2時間、加熱環流することにより、アルカリ加水分解反応を行なった。反応終了後、油層を分液ロートにより分離したところ、157gであった。
【0231】
油層をガスクロマトグラフィー及びカールフィッシャー水分計で分析した結果は以下の通りである。油層の組成を下記表2にも示す。
・フェノール=40wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=41wt%
・水=18wt%
・その他=1wt%
【0232】
油層中の水分量はカールフィッシャー水分計を用いて測定した。測定方法の詳細は以下の通りである。
測定装置:京都電子工業株式会社;商品名「カールフィッシャー水分計 MKC-610」
陽極溶液:電量法カールフィッシャー試薬 (ケトン類用陽極液)
三菱化学株式会社製アクアミクロンAKX
陰極溶液:電量法水分測定試薬
三菱化学株式会社製アクアミクロンCXU
試料重量:約0.1g
測定温度:25℃
【0233】
環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)から2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールへの転嫁率は100%であった。DPCも加水分解によりフェノールとなり、転化率は100%であった。
【0234】
さらに、上記の油層溶液を25cmのヴィグリュウ型コンデンサーと攪拌翼を装着した300ml丸底フラスコへ投入し、蒸留精製を行なった。塔頂温度83〜65℃/430〜200torrで主に水を回収、塔頂温度130〜147℃/200torr〜130torrで主にフェノールをフラクション1(f−1)として回収、さらに塔頂温度150〜190℃/90torr〜20torrで主に2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールをフラクション2(f−2)として回収した。回収されたフェノール純度はほぼ100%、2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールの純度は91.0%(f−2)であった。各フラクションの組成を表2に示す。
【0235】
留出液から精製工程終了後までのトータルの2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールの回収率は69%であった。
回収精製した2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールは、再度、連結剤である脂肪族ジオールとして使用できるものであった。
【0236】
【表2】
【0237】
<実施例3>
主原料調製槽2器、連結剤調製槽2器、縦型攪拌反応器2器及び横型攪拌反応器1器を有する連続製造装置により、以下の方法でポリカーボネート樹脂を製造した。
【0238】
原料モル比(ジフェニルカーボネート(DPC)/ビスフェノールA(BPA))が1.16となるように、ジフェニルカーボネート127.904kg、BPA117.504kgを第1縦型攪拌重合槽(住友重機械工業株式会社製マックスブレンド翼重合槽、容量;750L)へ投入した。さらに0.1w/v%の炭酸セシウム(Cs
2CO
3)水溶液をBPAの1モルに対し炭酸セシウムの添加量が0.5μmolとなる割合で添加した。窒素置換後、160℃にて原料を溶解後、真空度100torr(13kPa)、熱媒温度215℃、攪拌速度150rpmで、1時間50分間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。生成したフェノールは、コンデンサーにより冷却、回収後、DPCの原料成分の1つとして用いた。
【0239】
第1縦型攪拌反応器で得られた重合反応液は、移送管を通じて第2縦型攪拌反応器(住友重機械工業株式会社製ダブルヘリカル翼重合槽、容量;500L)へ供給した。
【0240】
さらに真空度15torr(2kPa)、熱媒温度240℃、攪拌速度40rpmで、1時間15分、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。引き続き、真空度1torr(0.13kPa)以下、熱媒温度275℃、攪拌速度20rpmで、2時間15分間、生成するフェノールを除去しつつ、エステル交換反応を行なった。
生成したフェノールは、コンデンサーにより冷却、回収後、DPCの原料成分の1つとして用いた。
得られたプレポリマー(PP)のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は24000、末端フェニル基濃度は5.3mol%、末端水酸基濃度は350ppmであった。
【0241】
上記工程で得られたプレポリマー23.5kg/hrに対し、溶解した2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール(BEPG)を488g/hrで添加し、さらにニーダ(株式会社栗本鐵工所製;SIKRCリアクター)を介して混合後、横型重合反応器(製造元;株式会社日立製作所、機器種類;メガネ翼重合機、容量;34L、張込み量;13L)へ連続供給した。このときの横型重合反応器の真空度は1torr(0.13kPa)以下、反応釜内での滞留時間は30分であった。得られた樹脂は、Mw=54000であった。
【0242】
留去した留出液は、コンデンサーにより冷却、回収した。回収した留出液は、ガスクロマトグラフィーで測定した結果、フェノール、環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン;BEPO)、2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール、DPC及びオリゴマーと見られる化合物の混合物であった。
【0243】
留出液の組成は以下の通りである。留出液の組成を下記表3にも示す。なお、表3では留出液を「重合留去液」とした。
・フェノール=20.6wt%
・環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=25.8wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=37.5%
・DPC=15.3wt%
・その他=0.8wt%
【0244】
上記留出液1004.1gを冷却コンデンサー、攪拌翼、釜底にフラッシュバルブを装着した3000ml加温ジャケット付きセパラブルフラスコへ投入し、20wt%の水酸化ナトリウム水溶液199.75gと水101.72gとを加えた。1時間、加熱環流することにより、アルカリ加水分解反応を行なった。反応終了後、20wt%の硫酸水溶液244.28gを加え、攪拌し、水層が酸性になったことを確認した。引き続きベンゼン446.9g(加水分解液とベンゼンを含む総液重量中に22.4wt%となる添加量)を加え攪拌した。この後の分液操作では、溶液温度を50℃付近に加温して行なった。釜底のフラッシュバルブより水層を抜き、水400gを加え攪拌した。再度、釜底のフラッシュバルブより水層を抜き、水400gを加え攪拌した。底のフラッシュバルブより水層を抜き、加水分解反応後の油層1453.5gを得た。
【0245】
油層をガスクロマトグラフィー及びカールフィッシャー水分計で分析した結果は以下の通りである。油層の組成を下記表3にも示す。なお、表3における加水分解後の油層とは、水で洗浄処理した後の油層である。
・フェノール=19.6wt%
・環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=0.0wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=36.4%
・DPC=0.0wt%
・水=4.7wt%
・ベンゼン及びその他=39.3wt%
【0246】
反応終了後、20wt%の硫酸水溶液を加えることにより水層を酸性とし、さらに溶液温度を50℃付近に加温、ベンゼンを加えることで油水の比重に差を生じさせることにより、油水の分離性を向上させることができた。
【0247】
環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)から2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールへの転嫁率は100%であった。DPCも加水分解によりフェノールとなり、転化率は100%であった。
【0248】
【表3】
【0249】
<実施例4>
実施例3において、リサイクル工程を以下のように変更したこと以外は実施例3と同様にして、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した。
【0250】
上記留出液1008.8gを冷却コンデンサー、攪拌翼、釜底にフラッシュバルブを装着した3000ml加温ジャケット付きセパラブルフラスコへ投入し、20wt%の水酸化ナトリウム水溶液200.66gを加えた。1時間、加熱環流することにより、アルカリ加水分解反応を行なった。反応終了後、20wt%の硫酸水溶液235.63gを加え、攪拌し、水層が酸性になったことを確認した。この後の分液操作では、溶液温度を50℃付近に加温して行なった。釜底のフラッシュバルブより水層を抜き、10wt%硫酸ナトリウム水溶液400gを加え攪拌した。再度、釜底のフラッシュバルブより水層を抜き、10wt%硫酸ナトリウム水溶液400gを加え攪拌した。底のフラッシュバルブより水層を抜き、加水分解反応後の油層1039.9gを得た。
【0251】
油層をガスクロマトグラフィー及びカールフィッシャー水分計で分析した結果は以下の通りである。油層の組成を下記表4にも示す。なお、表4における加水分解後の油層とは、10wt%硫酸ナトリウム水溶液で洗浄処理した後の油層である。
・フェノール=29.2wt%
・環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)=0.0wt%
・2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール=53.0wt%
・DPC=0.0wt%
・水=10.2wt%
・その他=7.5wt%
【0252】
反応終了後、20wt%の硫酸水溶液を加えることにより水層を酸性とし、さらに溶液温度を50℃付近に加温することで、油水の分離性を向上させることができた。更に油層を硫酸ナトリウム水溶液で洗浄することで油水の分離性を向上することができた。
【0253】
環状カーボネート(5−ブチル−5−エチル−1,3−ジオキサン−2−オン)から2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールへの転嫁率は100%であった。DPCも加水分解によりフェノールとなり、転化率は100%であった。
【0254】
さらに、上記の油層溶液のうち1027.7gをスルーザーラボパッキング充填塔蒸留器蒸留装置により、減圧蒸留精製を行なった。塔頂温度44〜89℃/210〜20torrで主に水を回収(f−1及びf−2)した。塔頂温度90〜96℃/25torr〜20torrで主にフェノールを回収(f−3〜f−5)、さらに塔頂温度100〜94℃/0.5torr〜0.1torrで主に2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールを回収した(f−8〜f−9)。f−6及びf−7は、主な留去物がフェノールから2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールへ変化するフラクションであった。f−3〜f−5で回収されたフェノール純度はほぼ100%(含水率は1%未満)、f−7〜f−9で回収された2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオール純度はほぼ100%(フェノール及び含水率は1%未満)であった。各フラクションの組成を表4に示す。
【0255】
留出液から精製工程終了後までのトータルの2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールの回収率は85%であった。
回収精製した2−エチル−2−ブチル−プロパン−1,3−ジオールは、再度、連結剤である脂肪族ジオールとして使用できるものであった。
【0256】
【表4】
【0257】
日本国特許出願2012−252797号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。