(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンから伝達される動力が変速機を介して入力される差動装置と、該差動装置から車幅方向に延びる左右の車軸と、該車軸上に設けられたモータおよびモータ関連部材とを備え、前記エンジンから伝達される動力と前記モータから伝達される動力とが前記差動装置のデフケースで統合されるように構成された車両の駆動装置であって、
前記車軸上に設けられ、前記デフケースと前記モータの出力部とを連絡する第1駆動軸と、
車両前後方向に延びる第2駆動軸と、
前記第1駆動軸上に設けられ、歯面が反差動装置側を向く駆動傘歯ギヤと、
前記第2駆動軸上に設けられ、前記駆動傘歯ギヤと噛み合う被動傘歯ギヤとを備え、
前記モータ関連部材は、前記被動傘歯ギヤと軸方向にオーバラップして設けられており、
前記駆動傘歯ギヤを含むトランスファ装置を収容するトランスファケースと、前記差動装置を含むトランスアクスルを収容するトランスアクスルケースとが合わせ面で結合され、
前記合わせ面のトランスファケース側には、前記トランスファケースと前記第1駆動軸との間にシール部材が設けられ、
前記駆動傘歯ギヤは、前記差動装置側で、前記シール部材の外周に該シール部材と軸方向にオーバラップして設けられた第2の軸受に支持されていることを特徴とする
車両の駆動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記トランスファ装置を用いてFF式ハイブリッド車を四輪駆動車とする場合、モータと、減速機等のモータ関連部材とに加えて、トランスファ装置の駆動傘歯ギヤを車軸上に設けることが考えられる。しかしこのとき、前輪用差動装置、モータ、モータ関連部材、トランスファ装置などからなる駆動装置の軸方向(車幅方向)寸法が増大するという問題が生じる。特に、車軸には自在継手が設けられており、これを避ける必要もあるため、車幅方向の限られたスペース内でのレイアウトが困難になる。
【0007】
そこで本発明は、モータ、モータ関連部材、およびトランスファ装置の駆動傘歯ギヤが車軸上に設けられた車両の駆動装置を、車幅方向にコンパクト化することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、
エンジンから伝達される動力が変速機を介して入力される差動装置と、該差動装置から車幅方向に延びる左右の車軸と、該車軸上に設けられたモータおよびモータ関連部材とを備え、前記エンジンから伝達される動力と前記モータから伝達される動力とが前記差動装置のデフケースで統合されるように構成された車両の駆動装置であって、
前記車軸上に設けられ、前記デフケースと前記モータの出力部とを連絡する第1駆動軸と、
車両前後方向に延びる第2駆動軸と、
前記第1駆動軸上に設けられ、歯面が反差動装置側を向く駆動傘歯ギヤと、
前記第2駆動軸上に設けられ、前記駆動傘歯ギヤと噛み合う被動傘歯ギヤとを備え、
前記モータ関連部材は、前記被動傘歯ギヤと軸方向にオーバラップして設けられて
おり、
前記駆動傘歯ギヤを含むトランスファ装置を収容するトランスファケースと、前記差動装置を含むトランスアクスルを収容するトランスアクスルケースとが合わせ面で結合され、
前記合わせ面のトランスファケース側には、前記トランスファケースと前記第1駆動軸との間にシール部材が設けられ、
前記駆動傘歯ギヤは、前記差動装置側で、前記シール部材の外周に該シール部材と軸方向にオーバラップして設けられた第2の軸受に支持されている
ことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記モータ関連部材には、モータの出力を減速してデフケースに伝達する減速機、モータを冷却するオイルや軸受等の被潤滑部を潤滑するオイルを供給するオイルポンプ、トランスファ装置とモータとの間でオイルをシールするシール部材などが含まれる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記駆動傘歯ギヤの内周部には、前記第1駆動軸とスプライン嵌合する嵌合部が形成され、
前記駆動傘歯ギヤは、反差動装置側で、前記嵌合部と軸方向にオーバラップして設けられた軸受に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、車軸上に設けられたモータ関連部材が被動傘歯ギヤと軸方向にオーバラップして設けられていることから、車軸上に設けられたモータ等を車幅方向で差動装置側に寄せて配置することが可能となり、車両の駆動装置を車幅方向にコンパクト化することが可能となる。
また、駆動傘歯ギヤを差動装置側で支持する軸受が、トランスファケースとトランスアクスルケースとの合わせ面のトランスファ装置側に設けられたシール部材とオーバラップして設けられていることから、車両の駆動装置を径方向にコンパクト化することが可能となると共に、駆動傘歯ギヤの支持剛性を向上させ、駆動傘歯ギヤと被動傘歯ギヤとの歯当たりが変化することによるノイズの発生、ギヤの寿命低下などを抑制することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、駆動傘歯ギヤを反差動装置側で支持する軸受が、駆動傘歯ギヤにおける第1駆動軸との嵌合部と軸方向にオーバラップして設けられていることから、車両の駆動装置を車幅方向に更にコンパクト化することが可能となると共に、駆動傘歯ギヤの支持剛性を向上させることが可能となり、駆動傘歯ギヤと被動傘歯ギヤとの歯当たりが変化することによるノイズの発生、ギヤの寿命低下などを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
[全体構成]
図1は、本発明の実施の形態による車両の駆動装置を示す全体図である。
図1で、前輪用差動装置および周辺の動力伝達部分については骨子を示しており、その他の部分については簡略化して示している。
【0018】
駆動装置1は四輪駆動式のハイブリッド車に搭載される。駆動装置1は、横置き式のエンジン2とモータ51とを車両走行用の駆動源として備える。モータ51は、一方の前輪36aに連結された車軸30a上に設けられている。なお、本明細書の説明では、車軸等の軸に直接に設けられる部材だけでなく、別部材を介して軸に同心状に設けられる部材についても、軸上に設けられた部材と記載する。
【0019】
エンジン2の左側にはトランスアクスル3が設けられている。トランスアクスル3は、変速機6と前輪用差動装置10とを備える。変速機6は、トルクコンバータ5を介してエンジン2の出力軸に連結されている。変速機6の出力ギヤ7は、前輪用差動装置10のデフケース12に固定されたデフリングギヤ14に噛み合っており、エンジン2の出力は変速機6を介してデフケース12に伝達され、更に左右の前輪用の車軸30a,30bに伝達されるようになっている。変速機6の変速機構と前輪用差動装置10は、トランスアクスルケース4内に収容されている。変速機6は有段式の自動変速機であるが、手動変速機や無段変速機であってもよい。
【0020】
前輪用差動装置10およびこれに連結されて延びる左右の車軸30a,30bは、エンジン2よりも車両後方側に設けられている。前輪用差動装置10は、車幅方向の中央よりも左側にオフセットして配置されており、右側の車軸30aは左側の車軸30bよりも長尺とされる。
【0021】
前輪用の車軸30a,30bは、前輪用差動装置10に連結されたデフ側軸部材31a,31bと、自在継手34a,34bを介してデフ側軸部材31a,31bに連結された中間軸部材32a,32bと、一端側で自在継手35a,35bを介して中間軸部材32a,32bに連結されると共に他端側で前輪36a,36bに連結される駆動輪側軸部材33a,33bとを含む。
【0022】
前輪用差動装置10では、デフケース12を貫通するピニオンシャフト15上に一対のピニオンギヤ16,17が回転可能に設けられ、ピニオンギヤ16,17に跨がって左右のサイドギヤ18,19が噛み合っている。デフケース12には、サイドギヤ18,19に対応して左右のスリーブ部12a,12bが設けられている。スリーブ部12a,12bには、車軸30a,30bのデフ側軸部材31a,31bが挿通されている。デフ側軸部材31a,31bの先端は、サイドギヤ18,19にスプライン嵌合している。前輪用差動装置10により、変速機6からデフケース12に伝達された動力は、走行状況に応じた回転差となるように左右の車軸30a,30bに伝達される。
【0023】
一方の前輪用の車軸30aのデフ側軸部材31a上には、モータユニット50と、デフケース12に伝達された動力を後輪46a,46b側へ取り出すためのトランスファ装置200の一部とが設けられている。
【0024】
モータユニット50は、モータ51と、モータ51の動力を減速してデフケース12に伝達する減速機60とを含む。モータユニット50は、エンジン2の後方かつ前輪用差動装置10の右側に生じるスペースに設けられている。減速機60は、車軸30a上で前輪用差動装置10とモータ51との間に設けられている。これにより、エンジン2から伝達される動力とモータ51から伝達される動力とが前輪用差動装置10のデフケース12で統合されるようになっている。この統合された動力は、車軸30a,30bを介して前輪36a,36bに伝達されると共に、後述するようにトランスファ装置200を介して後輪46a,46b側に伝達される。
【0025】
トランスファ装置200は、車軸30a上で車幅方向に延びる第1駆動軸201と、車体前後方向に延びる第2駆動軸202とを備える。すなわち、トランスファ装置200は、車幅方向に延びる軸を1本有する、いわゆる一軸タイプのトランスファ装置である。
【0026】
第1駆動軸201は、デフケース12とモータ51の出力部とを連絡する。第1駆動軸201上には駆動傘歯ギヤ210が設けられている。第2駆動軸202上には駆動傘歯ギヤ210に噛み合う被動傘歯ギヤ220が設けられている。被動傘歯ギヤ220は駆動傘歯ギヤ210よりも小径である。第2駆動軸202は車両前後方向に延びており、自在継手38を介してプロペラシャフト39に連結されている。
【0027】
上記トランスファ装置200の構成により、デフケース12から第1駆動軸201に入力された動力は、駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との噛み合いにより第2駆動軸202に伝達されて、第2駆動軸202からプロペラシャフト39へ出力される。なお、前述の通り被動傘歯ギヤ220は駆動傘歯ギヤ210よりも小径であるため、デフケース12からの入力回転は増速されてプロペラシャフト39に出力されるところ、後輪用差動装置42に入力される際には、トランスファ装置200による増速分は減速されて相殺されるようになっている。
【0028】
プロペラシャフト39へ出力された動力は、カップリング40を介して後輪用差動装置42に伝達され、走行状況に応じた回転差となるように、後輪46a,46bに連結された左右の車軸44a,44bに伝達される。
【0029】
次に、
図2と
図3を参照して、モータユニット50とトランスファ装置200の構成についてさらに詳細に説明する。以下の説明では、車軸30a上での向きについて、前輪用差動装置10側をデフ側、その反対側を反デフ側と称す。
【0030】
[モータユニット]
モータユニット50において、モータ51と減速機60は、ユニットケース100内に収容された状態でユニット化されている。ユニットケース100は、互いに結合されたケース部材101,102と、ケース部材101に結合された筒状部材103とで構成される。ユニットケース100は、ケース部材102でエンジン2のシリンダブロック(図示せず)に固定されている。
【0031】
ケース部材102の車幅方向外側端部には、デフ側軸部材31aの半周分を覆うように半割れ状に形成された支持部104が設けられている。支持部104には、デフ側軸部材31aの残りの半周分を覆うように半割れ状に形成されたブラケット120が対向配置されている。支持部104とブラケット120はボルト121により結合されている。支持部104とブラケット120とで形成された筒状部の内周面に、デフ側軸部材31aの前輪36a側の端部が軸受105を介して支持される。
【0032】
軸受105のデフ側に隣接する位置には、デフ側軸部材31aとケース部材102との間にこれらの相対回転を許容するオイルシール106が設けられている。
【0033】
また、モータユニット50には、軸方向に延びる筒状の仕切部材66が設けられている。仕切部材66の内側にはデフ側軸部材31aが挿通されている。仕切部材66により、減速機60およびモータ51とデフ側軸部材31aとが仕切られる。
【0034】
仕切部材66は、Oリングを介してデフ側端部で後述する第1駆動軸201の内周面に圧入されており、第1駆動軸201と一体回転するようになっている。仕切部材66は、反デフ側端部で、仕切部材66とケース部材102との間の相対回転を許容するオイルシール68を介してケース部材102に回転可能に支持されている。
【0035】
モータ51.
モータユニット50において、モータ51は、ケース部材102に固定されたステータ52と、ステータ52の内側に回転自在に設けられたロータ53と、ロータ53と一体回転するようにその内側に固定された出力軸54とを備える。出力軸54は、上記モータの出力部として機能する。
【0036】
ステータ52は、磁性体からなるステータコアにコイルが巻回されて構成される。ロータ53は、筒状の磁性体で構成されており、ステータ52に電力が供給されたときに生じる磁力により回転する。ステータ52とロータ53は、2つのケース部材101,102で形成されたモータ収容空間S1に収容されている。出力軸54は、仕切部材66の外側に隙間を空けて配置されている。出力軸54は、ロータ53よりもデフ側で軸受55を介してケース部材101に支持され、ロータ53よりも反デフ側で軸受56を介してケース部材102に支持されている。
【0037】
減速機60.
モータユニット50において、減速機60は、デフ側軸部材31a上に設けられた第1、第2遊星歯車機構60a,60bを含む。
図3に示すように、第1、第2遊星歯車機構60a,60bは、入力要素としての第1、第2サンギヤ61a,61b、反力要素としての第1、第2リングギヤ62a,62b、出力要素としての第1、第2キャリヤ63a,63bを有する。
【0038】
第1サンギヤ61aと第2サンギヤ61bは、デフ側軸部材31aの外側に隙間を空けて配置されている。第1サンギヤ61aはモータ51の出力軸54と一体に設けられており、モータ51の出力が第1サンギヤ61aに入力されるようになっている。第2サンギヤ61bは第1キャリヤ63aと一体に設けられ、第1遊星歯車機構60aの出力が第2サンギヤ61bに入力されるようになっている。
【0039】
第1、第2リングギヤ62a,62bは一体に設けられ、これらの径方向外側に設けられたユニットケース100の筒状部材103の内周面にスプライン嵌合している。筒状部材103はケース部材101に固定されているので、第1、第2リングギヤ62a,62bはユニットケース100に回転不能に固定される。これにより、第1サンギヤ61aに入力された回転は、第1遊星歯車機構60aにより減速されて第1キャリヤ63aから第2遊星歯車機構60bへ出力される。また、第2サンギヤ61bに入力された回転は、第2遊星歯車機構60bにより減速されて第2キャリヤ63bから出力される。
【0040】
第2キャリヤ63bの内周端部では、第1駆動軸201がデフ側へ向かって軸方向に延びている。第1駆動軸201は、第2キャリヤ63bと一体に設けられており、減速機60の出力部として機能する。なお、第1駆動軸201は、第2キャリヤ63bと一体回転するように当該第2キャリヤ63bに連結されていてもよい。
【0041】
減速機60は、軸受55を挟んで、モータ51のデフ側に隣接して配置されている。減速機60は、筒状部材103とケース部材101とで形成された減速機収容空間S2に収容されている。減速機60の反デフ側には、ケース部材101との間に、軸方向の力を受ける軸受57が設けられている。
【0042】
減速機60の作用により、第1駆動軸201はモータ51よりも低速で回転し、第1駆動軸201に固定された仕切部材66もモータ51よりも低速で回転する。これにより、仕切部材66の反デフ側端部を支持するケース部材102と、仕切部材66との間の相対回転速度を低減できる。この結果、仕切部材66とケース部材102との間のオイルシール68に加わる負荷が軽減され、オイルシール68のシール性を向上させることができる。
【0043】
減速機60の出力部であるトランスファ装置200の第1駆動軸201はデフケース12に連結されており、デフケース12と一体回転する。これにより、モータ51が駆動されると、モータ51の動力は減速機60を介してデフケース12に伝達される。このように、モータ51の出力が第1、第2遊星歯車機構60a,60bにより2段階で減速されてデフケース12に伝達されることにより、モータ51からデフケース12に伝達されるトルクが充分に増大されるため、モータ51の小型化ひいてはモータユニット50の小型化が図られる。
【0044】
オイルポンプ70.
車軸30a上であって減速機60のデフ側、かつ、第1駆動軸201の径方向外側には、オイルポンプ70が配置されている。オイルポンプ70は、インナロータ71とアウタロータ72を備えた内接型のギヤポンプである。アウタロータ72は、筒状部材103の内周面に形成された凹部に遊嵌されている。インナロータ71の内周には、第1駆動軸201が圧入により固定されている。インナロータ71の外歯は、周方向の一部でアウタロータ72の内歯に噛み合っており、これにより、第1駆動軸201と共にインナロータ71が回転すると、アウタロータ72が従動回転するようになっている。オイルポンプ70の反デフ側には、オイルポンプ70から反デフ側へのオイルの漏出を防ぐカバー部材73が設けられている。
【0045】
モータ51の出力軸54には、モータ収容空間S1、減速機収容空間S2にそれぞれ連通する複数の油路(図示せず)が設けられており、オイルポンプ70から供給されるオイルがこれらの油路を通って空間S1,S2に供給されてモータ51が冷却され、あるいは減速機60等が潤滑されるようになっている。また、このオイルとしては、モータ51の性能に悪影響を及ぼす成分(例えば銅腐食物質)を含まないものが用いられる。筒状部材103には、オイルポンプ70の吸込ポートに連通する油穴103aが形成されている。
【0046】
[トランスファ装置]
トランスファ装置200は、トランスファケース230内に収納されている。トランスファケース230は、互いにOリングを介して結合された円板上の第1ケース部材231および筒状の第2ケース部材232と、これらに固定された第3ケース部材233とで構成される。第3ケース部材233は、筒状部材103の周囲を覆うように設けられており、これによりトランスファケース230がユニットケース100に結合されている。
【0047】
トランスファケース230の内部空間には、駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との噛合部、および、後述する軸受211,212,221,222等を潤滑するオイルが封入されている。このオイルとしては、駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との噛合部における焼付きを防止する成分を含むものが用いられる。
【0048】
第1駆動軸201.
トランスファ装置200において、第1駆動軸201は、車軸30aの仕切部材66の外側に嵌合する筒状部材である。第1駆動軸201は、デフ側端部で、第1ケース部材231の第1部分231aの外側へ突出して延びると共に、デフケース12のスリーブ部12aの内周面にスプライン嵌合している。これにより、デフケース12と第1駆動軸201とが駆動連結される。
【0049】
図3に示すように、第1駆動軸201上に設けられた駆動傘歯ギヤ210は、第1駆動軸201とのスプライン嵌合部が内周側に形成された筒部210aと、筒部210aから径方向外側に広がる円板部210bと、円板部210bから更に径方向外側に広がる傘部210cと、傘部210cに設けられて反デフ側を向く歯部210dとを有する。傘部210cは、反デフ側端部ではデフ側に傾斜しつつ径方向外側へ向かって延び、デフ側端部では円板部210bよりも大きい厚さで径方向外側へ向かって延びる。
【0050】
駆動傘歯ギヤ210は、デフ側で軸受211に、反デフ側で軸受212によりそれぞれ支持されている。軸受211,212は、径方向に入力される力と軸方向に入力される力の両方を受けるテーパローラベアリングである。
【0051】
デフ側の軸受211のインナレース211aは、トランスファケース230の第1ケース部材231に当接し、アウタレース211bは、駆動傘歯ギヤ210の円板部210bと傘部210cとに当接している。これにより、軸受211は、傘部210cと第1ケース部材231とにより径方向に位置決めされ、第1ケース部材231と円板部210bとにより軸方向に位置決めされる。反デフ側の軸受212のインナレース212aは、駆動傘歯ギヤ210の筒部210aに当接し、アウタレース212bは、第3ケース部材233に当接している。これにより、軸受212は、筒部210aと第3ケース部材233とにより径方向、軸方向に位置決めされる。
【0052】
次に、オイルポンプ70および軸受211,212の配置について説明する。
【0053】
図2に示すように、オイルポンプ70は、軸方向で被動傘歯ギヤ220とオーバラップしている。
図2で、オイルポンプ70は被動傘歯ギヤ220の歯部220aとオーバラップしているが、オーバラップの程度はより大きくてもよい。この配置は、駆動傘歯ギヤ210の反デフ側であって筒部210aと歯部210dとの間に形成される凹部空間を利用して軸受212等を配置することにより可能となっている。このようにして、オイルポンプ70を含むモータユニット50全体を車幅方向(軸方向)でデフ側に寄せて配置して、駆動装置1を車幅方向にコンパクト化することが可能となる。
【0054】
デフ側の軸受211は、後述するオイルシール213の外周に設けられているところ、軸方向で、オイルシール213および駆動傘歯ギヤ210の歯部210dとオーバラップしている。この配置は、駆動傘歯ギヤ210のデフ側であって傘部210cの内周側に軸受211を配置することにより可能となっている。また、反デフ側の軸受212は、軸方向で、駆動傘歯ギヤ210の筒部210aの内周側に形成されたスプライン嵌合部とオーバラップしている。このようにして、オイルポンプ70を含むモータユニット50全体を車幅方向(軸方向)でデフ側に寄せて配置して、駆動装置1を車幅方向に更にコンパクト化することが可能となる。
【0055】
次に、軸受211,212の機能について説明する。
【0056】
デフ側の軸受211は、駆動傘歯ギヤ210の歯部210dの裏側で、駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との噛み合いに伴って駆動傘歯ギヤ210から軸方向デフ側に入力される力と径方向に入力される力の両方を受ける。このとき、軸受211は、駆動傘歯ギヤ210の歯部210dとオーバラップして設けられていることから、駆動傘歯ギヤ210の支持剛性を向上させることが可能となり、これにより駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との歯当たりの変化を抑制することが可能となる。
【0057】
反デフ側の軸受212は、駆動傘歯ギヤ210の径方向内側端部近傍で、駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との噛み合いに伴って、駆動傘歯ギヤ210から軸方向反デフ側に入力される力と径方向に入力される力の両方を受ける。このとき、軸受212は、駆動傘歯ギヤ210の筒部210aの内周側に形成されたスプライン嵌合部と軸方向にオーバラップして設けられていることから、駆動傘歯ギヤ210の支持剛性を向上させることが可能となる。
【0058】
特に、この実施形態では、駆動傘歯ギヤ210の歯部210dに関して軸方向の反対側に軸受211,212が設けられることにより、駆動傘歯ギヤ210と被動傘歯ギヤ220との噛み合いに伴う駆動傘歯ギヤ210の揺動が抑制され、両ギヤの歯当たりの変化が好適に抑制される。
【0059】
第2駆動軸202.
トランスファ装置200において、第2駆動軸202は、軸心が車幅方向の車体中央またはその近傍に位置するように配置されている。第2駆動軸202上の前端部には、歯部220aが車体前方側を向く被動傘歯ギヤ220が一体に設けられている。
【0060】
第2駆動軸202は、一対の軸受221,222を介して第2ケース部材232に支持されている。軸受221,222はテーパローラベアリングである。軸受221,222は、被動傘歯ギヤ220の車体後方側で、車体前後方向に並べて第2駆動軸202上に設けられている。車体前方側の軸受221は、車体後方側の軸受222よりも大径である。軸受221,222のインナレース間には、第2駆動軸202の外側に嵌合する筒状のディスタンスピース240が設けられている。
【0061】
第2駆動軸202で、軸受222の車体後方側には、図示しないコンパニオンフランジを介して自在継手38(
図1参照)に締結される連結部材250が嵌合している。
【0062】
第2駆動軸202の後端部の外周にはねじ部202aが設けられている。ねじ部203aに設けられたナット251を締め付けることで、第2駆動軸202上で被動傘歯ギヤ220とナット251との間に挟み込まれた一対の軸受221,222のインナレース、ディスタンスピース240および連結部材250が、軸方向に位置決めされた状態で第2駆動軸202に固定されるようになっている。
【0063】
組付け時にナット251を締め付けるとき、ディスタンスピース240は、弾性変形状態を経て塑性変形する。ディスタンスピース240が塑性変形した状態で、軸受252,256の予圧が調整される。このように軸受252,256の予圧が精密に管理されることで、車体後方側から片持ち状に支持される第2駆動軸202の支持剛性が高められる。
【0064】
第2駆動軸202は第1駆動軸201よりも車体上方へオフセットして配置されている。これに合わせて、第1ケース部材231の第2部分232bの底部は第1部分231aの底部よりも上方に位置する。これにより、トランスファケース230内のオイルが第1部分231aの底部に貯留されやすくなっている。第1部分231aの底部に貯留されたオイルは、第1駆動軸201と共に回転する駆動傘歯ギヤ210により掻き上げられて、軸受211,212,221,222等に供給される。
【0065】
封止構造.
次に、トランスファ装置200におけるオイルの封止構造について説明する。軸受212のデフ側には、第1駆動軸201の外周と第1ケース部材231の第1部分231aの内周との間でこれらの相対回転を許容するオイルシール213と、第1駆動軸201の外周とトランスアクスルケース4の内周との間でこれらの相対回転を許容するオイルシール20とが設けられている。すなわち、トランスファケース230とトランスアクスルケース4との合わせ面において、オイルシール213はトランスファケース側にオイルシール20はトランスアクスルケース4側に設けられている。オイルシール213によりトランスファケース230内のオイルが封止されると共に、オイルシール20によりトランスアクスルケース4内のオイルが封止される。これにより、成分が異なる両オイルがトランスファケース230内とトランスアクスルケース4内とで混ざり合うことが防止される。
【0066】
軸受211の反デフ側には、第1駆動軸201の外周と筒状部材103の内周との間でこれらの相対回転を許容する2つのオイルシール214,215が、軸方向に並べて設けられている。デフ側のオイルシール214によりトランスファケース230内のオイルが封止され、反デフ側のオイルシール215によりモータユニット50のユニットケース100内のオイルが封止される。これにより、成分が異なる両オイルがトランスファケース230内とユニットケース100内で混ざり合うことが防止される。
【0067】
第2駆動軸202に固定された連結部材250の外周と第2ケース部材232の内周との間には、これらの相対回転を許容するオイルシール260が設けられている。これにより、トランスファケース230内でオイルを油密状態で封入できる。
【0068】
以上、上記実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。また、上記実施形態には種々の変形、改良が加えられてよく、従って上記実施形態には種々の変形例が存在する。
【0069】
例えば、上記実施形態では、オイルポンプ70が被動傘歯ギヤ210と軸方向にオーバラップする例について説明したが、トランスファ装置200を収容するトランスファケース230と、モータ51、減速機60およびオイルポンプ70を収容するユニットケース100との間をシールするシール部材(オイルシール214,215)のみが被動傘歯ギヤ210とオーバラップしている例であっても、モータユニット50全体を車幅方向(軸方向)でデフ側に寄せて配置して、駆動装置1を車幅方向にコンパクト化するという効果がある程度得られる。
【0070】
また、上記実施形態では、モータユニット50に備えられるオイルポンプ70によりモータ51等にオイルを供給する例について説明したが、電動オイルポンプによりオイルを供給してもよい。この電動オイルポンプは車軸30a上に設けられる必要はなく、ユニットケース100の下方など任意の位置に設けられてよい。
【0071】
また、上記実施形態では、エンジン2やモータ51などが前輪に連結された車軸上に設けられている例について説明したが、後輪に連結された車軸上に設けられていてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、減速機60が2つの遊星歯車機構で構成される例について説明したが、減速機60は1つまたは3つ以上の遊星歯車機構で構成されてもよいし、遊星歯車機構以外の減速機構で構成されてもよい。