(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1においては、酸素放出能を有する複合酸化物は耐熱性が高いため長期に亘って安定したパティキュレート燃焼が得られるとしているが、Agの耐久性について詳細な説明がなされていない。
【0006】
例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンの場合、軽油に含まれるS(硫黄)によって、Agは硫化銀となって失活しやすいこと、つまり硫黄被毒を受けやすいことが知られている。さらに、前記酸素放出能を有する複合酸化物において、例えば、Co、Mn、W、Prなどを成分として含有する場合、それら成分も硫黄との反応により化合物が形成されるから、その酸素放出能の低下も懸念される。
【0007】
そこで本発明は、触媒付パティキュレートフィルタにおいて、酸素放出能を有する複合酸化物にAgを担持した触媒材を用いても、硫黄被毒による性能低下が少ない触媒付パティキュレートフィルタを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、酸素交換反応機能を有する複合酸化物に、Agと該Agの硫黄被毒抑制効果のある成分を共存担持するようにした。
【0009】
すなわち、ここに提示する触媒付パティキュレートフィルタは、
排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ本体の排気ガス通路壁に、パティキュレート燃焼用の触媒が設けられているものであって、
上記触媒は、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含
み、且つCeを含まないZr系複合酸化物に触媒金属としてAgが担持されたAg担持Zr系複合酸化物を含み、
上記Ag担持Zr系複合酸化物に、上記Agの硫黄被毒を抑制する硫黄被毒抑制材が担持されていることを特徴とする。
【0010】
上記Zr系複合酸化物は、定常的に空燃比リーンの状態にあっても、絶えず排気ガス中の酸素を取り込み、活性酸素を放出する酸素交換反応を有する。このZr系複合酸化物にAgを担持すると、Ag表面に吸着する酸素が活性な酸素として働き、パティキュレートの酸化を促進する。このAg担持Zr系複合酸化物は、パティキュレートの急速燃焼領域(例えば、フィルタのパティキュレート残存割合が100%から60%乃至は50%になるまでの燃焼前期)では、銀粒子表面の吸着酸素、及びZr系複合酸化物から放出された活性酸素とにより、触媒表面に付着したパティキュレートを素早く燃焼させることで急速燃焼に寄与する。また、上記急速燃焼によって触媒表面のパティキュレートが燃焼除去された後の、パティキュレートの燃焼が緩慢になる緩慢燃焼領域(パティキュレート残存割合が60%乃至は50%から0%になるまでの燃焼後期)では、触媒表面から離間した状態にあるパティキュレートを、放出した活性酸素により燃焼させ、緩慢燃焼領域のパティキュレート燃焼促進に寄与することができる。
【0011】
しかしながら、上述のごとく、排気ガス中にはSO
2等の硫黄化合物が含まれており、これによりAg及びZr系複合酸化物中の金属元素が硫黄被毒を受け、その触媒活性及び酸素放出能が低下する畏れがある。
【0012】
本発明によれば、Zr系複合酸化物にAgとともに共存担持された硫黄被毒抑制材により、排気ガス中の硫黄化合物が吸収されるため、触媒金属としてのAgや、酸素放出材としてのZr系複合酸化物の硫黄被毒を抑制して、触媒性能の低下を防ぐことができる。
【0013】
上記硫黄被毒抑制材は、アルカリ土類金属化合物であることが好ましい。炭酸塩や酸化物などのアルカリ土類金属化合物は、排気ガス中のSO
2等を吸着及び/又は硫酸塩の形で吸蔵することができる。これにより、Ag及びZr系複合酸化物の硫黄被毒を抑制して、触媒活性の低下を抑制することができる。この場合、アルカリ土類金属としては、Srが好ましく、Baも好ましく用いることができる。また、硫黄被毒抑制材としては、LiとTiを含む複合酸化物、例えばチタン酸リチウムも好ましく用いることができる。
【0014】
なお、上記触媒は、ZrとCeとを含有するZrCe系複合酸化物に触媒金属としてRhを含有するRh含有ZrCe系複合酸化物をさらに含むことが好ましい。ZrCe系複合酸化物は、高い酸素吸蔵放出能を有するとともに、酸素交換反応により活性酸素を多く放出できる。これにより、急速燃焼領域におけるパティキュレートの燃焼に伴ってその燃焼部位の酸素が局所的に消費されても、ZrCe系複合酸化物によって酸素が速やかに補われてパティキュレート燃焼が維持される。また、Rhを含むことにより酸素吸蔵放出反応及び酸素交換反応を促進でき、且つ、触媒と接触しないパティキュレートに対して活性散素を供給する効果により、緩慢燃焼領域のパティキュレート燃焼速度を特に向上できる。
【0015】
また、Rh含有ZrCe系複合酸化物は、ZrCe系複合酸化物にRhが固溶してなるRhドープZrCe系複合酸化物であってもよいし、ZrCe系複合酸化物にRhが担持してなるRh担持ZrCe系複合酸化物であってもよい。特に、RhドープZrCe系複合酸化物であることが好ましく、これにより、酸素吸蔵放出反応及び酸素交換反応をさらに促進でき、緩慢燃焼領域におけるパティキュレート燃焼速度を効果的に向上させることができる。
【0016】
また、Rh含有ZrCe系複合酸化物には、触媒金属として上記Rhに加えてさらにPtが担持されていてもよく、このようにすると、Pt上にて気相の酸素が解離しやすくなることで、Rhへの酸素の供給量が増え、活性酸素の放出が増加するため、緩慢燃焼領域におけるパティキュレート燃焼性が比較的高くなる。また、耐久性(耐熱性)及び排気ガス中のHC及びCOの酸化性能も向上する。
【0017】
好ましい態様では、上記硫黄被毒抑制材が担持されたAg担持Zr系複合酸化物、すなわちAg・硫黄被毒抑制材担持Zr系複合酸化物は、上記フィルタ本体の排気ガス流れ方向下流側よりも上流側に多く担持されて
おり、上記Rh含有ZrCe系複合酸化物は、上記フィルタ本体の排気ガス流れ方向上流側よりも下流側に多く担持されている。これにより、排気ガス中の硫黄化合物を硫黄被毒抑制材により吸収するとともに、Ag担持Zr系複合酸化物によるパティキュレート燃焼反応を促進させることができる。また、下流側に多く担持されたRh含有ZrCe系複合酸化物により、特に緩慢燃焼領域におけるパティキュレートの燃焼速度を向上させることができ、全体として効果的にパティキュレート燃焼速度を向上させることができる。
【0018】
また、上記触媒の少なくとも一部は、上記排気ガス通路壁の表面上に配置された上記Rh含有ZrCe系複合酸化物からなる下層と、該下層の上に配置された上記Ag・硫黄被毒抑制材担持Zr系複合酸化物からなる上層とよりなる構成としてもよい。本構成によれば、上層の硫黄被毒抑制材により排気ガス中の硫黄化合物を吸収するとともに、Ag担持Zr系複合酸化物によるパティキュレート燃焼反応を促進させることができる。そして、下層のRh含有ZrCe系複合酸化物により緩慢燃焼領域におけるパティキュレート燃焼速度を向上させることができ、全体として効果的にパティキュレート燃焼速度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、Zr系複合酸化物にAgとともに共存担持された硫黄被毒抑制材により、排気ガス中の硫黄化合物が吸収されるため、触媒金属としてのAgや、酸素放出材としてのZr系複合酸化物の硫黄被毒を抑制して、触媒性能の低下を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0022】
(第1実施形態)
図1に示すように、触媒付パティキュレートフィルタ(以下、単に「触媒付フィルタ」という。)10は、ディーゼルエンジン等の排気ガス通路11に配置され、排気ガス中のパティキュレート(以下、「PM」という。)を捕集する。触媒付フィルタ10よりも排気ガス流の上流側の排気ガス通路11には、酸化物等からなるサポート材にPt等の触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。
【0023】
[フィルタの構造]
図2及び
図3に模式的に示すように、触媒付フィルタ10は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排気ガス通路12、13を備えている。下流端が栓14により閉塞された排気ガス流入路12と、上流端が栓14により閉塞された排気ガス流出路13とが交互に設けられ、排気ガス流入路12と排気ガス流出路13とは薄肉の隔壁(排気ガス通路壁)15を介して隔てられている。
図2においてハッチングを付した部分は排気ガス流出路13の上流端の栓14を示している。
【0024】
触媒付フィルタ10は、隔壁15を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si
3N
4、サイアロン、AlTiO
3のような無機多孔質材料から形成されている。排気ガス流入路12内に流入した排気ガスは
図3に矢印で示したように周囲の隔壁15を通って隣接する排気ガス流出路13内に流出する。
図4に示すように、隔壁15は排気ガス流入路12と排気ガス流出路13とを連通する微小な細孔16を有し、この細孔16を排気ガスが通る。PMは主に排気ガス流入路12及び細孔16の壁部に捕捉され堆積する。
【0025】
上記フィルタ本体の排気ガス通路(排気ガス流入路12、排気ガス流出路13及び細孔16)を形成する壁面には触媒20がコーティングされている。なお、排気ガス流出路13側の壁面に触媒を設けることは必ずしも要しない。
【0026】
[触媒について]
次に、触媒20の構成について説明する。
【0027】
図5に模式的に示すように、触媒20は、Zrと、Ce以外の希土類元素を含むZr系複合酸化物21と、ZrとCeとを含有するZrCe系複合酸化物22とを含む。Zr系複合酸化物21及びRh含有ZrCe系複合酸化物22は、排気ガス中の酸素を取り込み、該酸素をPM燃焼に寄与する活性酸素として放出する役割を有する。
【0028】
Zr系複合酸化物21に含まれるCe以外の希土類元素は、具体的には例えば、Nd、Pr、La、Sm、又はY等であり、単独で用いても、これらのうちの二種以上を混合して用いてもよい。特に好ましくは、Nd、Pr又はこれらの混合物である。
【0029】
また、Zr系複合酸化物21には、触媒金属としてのAg24と、このAg24の硫黄(S)被毒を抑制するS被毒抑制材(硫黄被毒抑制材)26が共存担持されてAg担持触媒材(Ag・硫黄被毒抑制材担持Zr系複合酸化物)31を構成している。
【0030】
Ag24の担持形態は限定されるものではないが、Ag塩又はAg微粒子等の形態でZr系複合酸化物21に担持されていることが好ましい。なお、触媒金属として、Ag24に加えて、PtやPd等をさらに担持させてもよい。
【0031】
S被毒抑制材26は、排気ガス中に含まれるS化合物を吸収してAgのS被毒を抑制することができるものであればいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、アルカリ土類金属化合物を用いることができる。アルカリ土類金属化合物は、排気ガス中のSO
2等を吸着及び/又は硫酸塩の形で吸蔵することができる。この場合、アルカリ土類金属としては、Srが好ましく、Baも好ましく用いることができる。また、S被毒抑制材26としては、LiとTiを含む複合酸化物、例えばチタン酸リチウムも好ましく用いることができる。これにより、Ag24のS被毒を抑制して、その触媒活性の低下を抑制することができる。
【0032】
ZrCe系複合酸化物22は、高い酸素吸蔵放出能を有するとともに、酸素交換反応により活性酸素を多く放出できる。これにより、急速燃焼領域におけるPMの燃焼に伴ってその燃焼部位の酸素が局所的に消費されても、ZrCe系複合酸化物によって酸素が速やかに補われてPM燃焼が維持される。
【0033】
本実施形態において、ZrCe系複合酸化物22は、触媒金属としてRhを含む。ここに、Rhの含有形態としては、ZrCe系複合酸化物にRhが固溶してなるRhドープZrCe系複合酸化物であってもよいし、ZrCe系複合酸化物にRhが担持してなるRh担持ZrCe系複合酸化物であってもよい。本実施形態では、RhドープZrCe系複合酸化物を使用する。Rhを含むことにより酸素吸蔵放出反応及び酸素交換反応を促進でき、且つ、触媒と接触しないPMに対して活性散素を供給する効果により、緩慢燃焼領域のPM燃焼速度を特に向上できる。
【0034】
なお、本実施形態において、ZrCe系複合酸化物22には、触媒金属として上記Rhに加えてさらにPt25が担持されており、Pt担持触媒材(Rh含有ZrCe系複合酸化物)32を構成している。これにより、急速燃焼領域におけるPM燃焼速度を向上することができる。加えて、Pt上にて気相の酸素が解離しやすくなることで、Rhへの酸素の供給量が増え、活性酸素の放出が増加するため、緩慢燃焼領域におけるPM燃焼速度も向上する。なお、ZrCe系複合酸化物22に担持される触媒金属は、Pt25に限られず、Pd等の他の触媒金属を担持してもよい。
【0035】
[触媒の担持形態について]
−均一担持(担持態様A)−
本実施形態において、Ag担持触媒材31及びPt担持触媒材32は、所定の割合で均一に混合され、フィルタ本体に担持される。所定の割合とは、具体的には例えば、サポート材量比、すなわち、サポート材であるZr系複合酸化物21とRhドープZrCe系複合酸化物22との質量比で、Zr系複合酸化物21/RhドープZrCe系複合酸化物22が、6/1〜1/6、より好ましくは4/1〜1/4、特に好ましくは2/1〜1/2である。
【0036】
[触媒の調製]
本実施形態において、Zr系複合酸化物21としてのZrNdPr複合酸化物及びZrCe系複合酸化物22としてのRhドープCeZrNd複合酸化物は、以下の調製方法により得ることができる。
【0037】
−ZrNdPr複合酸化物の調製−
硝酸プラセオジウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物をイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕する。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりZrNdPr複合酸化物を得ることができる。
【0038】
−ZrNdPr複合酸化物へのAg及びアルカリ土類金属の担持−
ZrNdPr複合酸化物にイオン交換水を加えてスラリー状にし、それをスターラー等により十分に撹拌する。続いて、撹拌しながらそのスラリーに所定量の硝酸銀をイオン交換水に溶かした硝酸銀水溶液を滴下し、さらに、攪拌しながらそのスラリーに所定量のアルカリ土類金属塩の溶液(例えばアルカリ土類金属の酢酸塩をイオン交換水に溶かした液)を滴下し、十分に撹拌する。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させる。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成する。これにより、Ag及びアルカリ土類金属の炭酸塩がZrNdPr複合酸化物に担持された触媒粉末が得られる。
【0039】
−RhドープCeZrNd複合酸化物の調製−
硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸ロジウム溶液をイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕する。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりRhドープCeZrNd複合酸化物粒子材を得ることができる。
【0040】
−RhドープCeZrNd複合酸化物へのPtの担持−
RhドープCeZrNd複合酸化物にイオン交換水を加えてスラリー状にし、これをスターラー等により十分に攪拌する。この攪拌を続けながら、そのスラリーに所定量のエタノールアミンPt(ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸エタノールアミン溶液)を滴下し、十分に攪拌する。その後、加熱しながらさらに攪拌を続け、水分を完全に蒸発させる。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成する。これにより、PtがRhドープCeZrNd複合酸化物に担持されてなる触媒粉末が得られる。
【0041】
−フィルタ本体への触媒粉末のコーティング−
Ag担持触媒材31とPt担持触媒材32を混合する。得られた混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。そして、ボールミルによって個数平均粒径200nm以上400nm以下程度(好ましくは300nm程度)になるまで粉砕し、このスラリーをフィルタ本体にコーティングする。そして、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行なう。これにより、触媒付フィルタが得られる。
【0042】
以下、本発明に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、第1実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0043】
(第2実施形態)
[触媒の担持形態]
−2層分離担持(担持態様B)−
上記第1実施形態では、触媒の担持形態は担持形態Aの均一担持であったが、本実施形態においては、触媒20の一部は2層に分離されて担持されている。具体的には例えば、
図6に示すように、隔壁15の表面上に配置された上記Pt担持触媒材からなる下層20aと、その下層20aの上に配置されたAg担持触媒材からなる上層20bとにより構成されている。本構成はAg担持触媒材31を下層20a、Pt担持触媒材32を上層20bとしてもよい。また、Pt担持触媒材32の代わりに、Pt25を担持していないRh含有ZrCe系複合酸化物22のみを使用してもよい。これにより、Ag担持触媒材31のS被毒抑制材26により排気ガス中のSO
2等を吸収してAg24のS被毒を抑制し、Ag担持触媒材31によるPM燃焼反応を促進させることができる。また、Pt担持触媒材32により緩慢燃焼領域におけるPM燃焼をサポートすることができるとともに、耐久性(耐熱性)及び排気ガス中のHC及びCOの酸化性能を向上させることができる。
【0044】
[触媒の調製]
−フィルタ本体への触媒粉末のコーティング−
図6に示す触媒付フィルタ10は以下のようにコーティングすることにより調製することができる。
【0045】
まず、Pt担持触媒材32の粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。そして、ボールミルによって個数平均粒径200nm以上400nm以下程度(好ましくは300nm程度)になるまで粉砕し、このスラリーをフィルタ本体にコーティングする。そして、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行う。
【0046】
次に、Ag担持触媒材31の粉末をジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。これを用いて上記Pt担持触媒材32の場合と同様に、Pt担持触媒材32がコーティングされたフィルタ本体にコーティングを行い、乾燥・焼成を行う。これにより、本実施形態に係る触媒付フィルタが得られる。
【0047】
(第3実施形態)
[触媒の担持形態]
−前後分離担持(担持態様C)−
触媒20の担持形態としては、上述の担持態様A又は担持態様Bと異なり、Ag担持触媒材31を触媒付フィルタ10の排気ガス流れ方向下流側よりも上流側に多く担持する構成としてもよい。すなわち、Ag担持触媒材31とPt担持触媒材32の配合割合を上流側では前者を多く、下流側では後者を多く担持することができる。具体的には例えば、
図7に示すように、Ag担持触媒材31を、触媒付フィルタ10の排気ガス流れ方向上流側10aに担持し、Pt担持触媒材32を、その下流側10bに担持することができる。なお、
図7に示す構成では、簡潔のためAg担持触媒材31及びPt担持触媒材32の配合割合(Ag担持触媒材31/Pt担持触媒材32)を、上流側10aでは1/0、下流側では0/1としている。これにより、排気ガス中のSO
2等を上流側10aに担持されたS被毒抑制材26により素早く吸収するとともに、Ag担持触媒材31によるPM燃焼反応を促進させることができる。また、下流側に多く担持されたPt担持触媒材32により、緩慢燃焼領域におけるPMの燃焼性を向上させることができ、全体として効果的にPM燃焼速度を向上させることができる。
【0048】
なお、上記配合割合(Ag担持触媒材31/Pt担持触媒材32)は、上流側10aでは好ましくは5/4〜1/0、より好ましくは4/3〜6/1、特に好ましくは3/2〜2/1であり、下流側10bでは好ましくは11/12〜1/0、より好ましくは9/10〜1/6、特に好ましくは7/8〜1/3である。また、上流側10a及び下流側10bの長さの割合は、触媒付フィルタ全体の長さを1とすると上流側10aの長さが好ましくは0.1〜0.8、より好ましくは0.2〜0.8、特に好ましくは0.25〜0.6である。
【0049】
[触媒の調製]
−フィルタ本体への触媒粉末のコーティング−
図7に示す構成の触媒付フィルタは以下のようにコーティングすることにより調製することができる。
【0050】
まず、Ag担持触媒材31の粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。そして、ボールミルによって個数平均粒径200nm以上400nm以下程度(好ましくは300nm程度)になるまで粉砕し、このスラリーをフィルタ本体の上流側部分にコーティングする。そして、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行う。
【0051】
次に、Pt担持触媒材32の粉末をジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。これを用いて上記Pt担持触媒材32の場合と同様に、Pt担持触媒材32がコーティングされたフィルタ本体の下流側部分にコーティングを行い、乾燥・焼成を行う。これにより、本実施形態に係る触媒付フィルタ10が得られる。
【0052】
[触媒付フィルタの評価]
−サンプルフィルタ−
表1に示す実施例1−10及び比較例1−7のサンプルフィルタを調製し、これらのサンプルフィルタにS被毒処理を行なった後に、それらフィルタによるカーボン燃焼速度を測定した。表1の「ZrNdPrOx」はZrNdPr複合酸化物を意味する。
【0054】
表1に示す実施例1−4及び比較例1−3は、第1実施形態の担持態様Aに係る触媒付フィルタであり、表1中の第一成分及び第二成分の触媒材が均一に混合されてフィルタ本体に担持されている。また、実施例5−8及び比較例4,5は、第2実施形態の担持態様Bに係る触媒付フィルタであり、表1中の第一成分の触媒材が上層20b、第二成分の触媒材が下層20aとしてフィルタ本体に担持されている。さらに、実施例9,10及び比較例6,7は、第3実施形態の担持態様Cに係る触媒付フィルタであり、表1中の第一成分の触媒材がフィルタ本体の上流側10aに、第二成分の触媒材がフィルタ本体の下流側10bに担持されている。
【0055】
いずれのサンプルフィルタも、フィルタ本体としてはSiC製ハニカム状フィルタ(容量:11mL、セル壁厚:16mil、セル数:178cpsi)を用い、ZrNdPr複合酸化物の組成はZrO
2:Nd
2O
3:Pr
6O
11=70:12:18(モル比)とした。
【0056】
いずれのサンプルフィルタも、フィルタ1L当たりのサポート材量(第一成分のサポート材と第二成分のサポート材を合わせた量)は20gとし、触媒金属(貴金属)の総量(第一成分の触媒金属と第二成分の触媒金属を合わせた量)はサポート材量20gの0.5質量%とした。
【0057】
実施例2−10及び比較例2−7の第一成分のサポート材量と第二成分のサポート材量の比率は1:1(質量比)である。
【0058】
S被毒抑制材としてはSrを用いた。Sr担持量は第一成分のサポート材量の3.0質量%とした。
【0059】
−カーボン燃焼速度の測定−
サンプルフィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、前処理として模擬排気ガス(C
3H
6:200ppmC、CO:400ppm、NO:100ppm、O
2:10%、CO
2:4.5%、H
2O:10%、残N
2)を40L/minの流量でサンプルフィルタに通した。このとき、30℃/minで600℃まで昇温した後、同じガス組成条件のままで、自然降温によって室温まで温度を下げた。
【0060】
その後、S被毒処理として、S成分を含むガス(SO
2:500ppm、O
2:10%、残N
2)を空間速度50000/hの流量でフィルタに1時間通した。フィルタの温度は300℃とした。
【0061】
S被毒処理の後、サンプルフィルタにカーボンを堆積した。カーボンの堆積は、フィルタ1L当たり5g相当のカーボンブラックをイオン交換水中に分散させた溶液に、フィルタの入口側を浸漬させ、出口側から吸引した。その後、余分な水分を除去し、150℃で1時間乾燥した。
【0062】
上記の処理の後、フィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、N
2ガスを流通させながらそのガス温度を上昇させた。フィルタ入口温度が540℃で安定した後、N
2ガスから模擬排気ガス(O
2;7.5%,NO;300ppm,残N
2)に切り換え、該模擬排気ガスを空間速度45000/hで流した。そして、カーボンが燃焼することにより生じるCO及びCO
2のガス中濃度をフィルタ出口においてリアルタイムで測定し、それらの濃度から、下記の計算式を用いて、所定時間ごとに、カーボン燃焼速度(単位時間当たりのパティキュレート燃焼量)を計算した。
【0063】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO
2)濃度(ppm)/(1×10
6)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
上記所定時間毎のカーボン燃焼速度に基づいてカーボン燃焼量積算値の経時変化を求め、カーボン燃焼率が0%から40%、40%から90%及び0%から90%に達するまでに要した時間とその間のカーボン燃焼量の積算値とから、急速燃焼領域(カーボン燃焼率0〜40%)、緩慢燃焼領域(カーボン燃焼率40〜90%)及びトータル(0〜90%)の各カーボン燃焼速度(フィルタ1Lでの1分間当たりのパティキュレート燃焼量(mg/min−L))を求めた。結果を表1の右欄、
図8及び
図9に示す。
【0064】
−考察−
担持形態Aの実施例1−3と比較例1−3は、各々S被毒抑制材の有無のみが相違する。各々両者のカーボン燃焼速度を比較すると、実施例1−3は比較例1−3に比べて急速燃焼領域のカーボン燃焼速度が格段に大きくなっており、その結果、トータルでのカーボン燃焼速度が大きくなっている。これは、S被毒抑制材によってAgのS被毒が抑制された結果であると認められる。また、S被毒抑制材によってZr系複合酸化物を構成するPrのS被毒も抑制され、その酸素交換反応の低下が抑制されたことも上記結果に影響していると考えられる。また、実施例4は、実施例3の第一成分のAg担持触媒材にさらにPtを担持したものであり、比較例1−3に比べて、依然として高いカーボン燃焼速度となっており、Ag担持触媒材にPtを担持してもよいことが判る。
【0065】
担持形態Bの実施例5−8及び比較例4,5のトータルのカーボン燃焼速度を比較すると、S被毒抑制材を担持した実施例5−8の触媒付フィルタの方が、カーボン燃焼速度が大きく向上しており、特に急速燃焼領域のカーボン燃焼速度が向上していることが判る。これは、S被毒抑制材によってAgのS被毒が抑制された結果であると認められる。
【0066】
また、実施例5−8を各々比較すると、Ag担持触媒材を上層、下層のどちらに担持してもトータルのカーボン燃焼速度は同程度となっているが、急速燃焼領域のカーボン燃焼速度は、Ag担持触媒材を上層に担持した実施例5,7の方が、下層に担持した実施例6,8よりも高くなっている。これは、上層に担持され、触媒付フィルタの表面近傍に存在するS被毒抑制材によりAg等のS被毒が効果的に抑制され、Ag担持触媒材によるPM燃焼性が向上しているためと考えられる。また、実施例6,8においても実施例5,7と同程度のトータルのカーボン燃焼速度を示したのは、一部のAg等がS被毒を受けた場合であっても、上層のRhドープCeZr系複合酸化物等により、緩慢燃焼領域のカーボン燃焼の促進がサポートされ、トータルとして高いカーボン燃焼速度が得られていると考えられる。
【0067】
さらに、実施例5,6と実施例7,8とを比較すると、RhドープCeZr系複合酸化物へPtが担持されているかどうかが異なるが、Ptを担持したものではトータルのカーボン燃焼速度が向上する傾向が見られる。これは、Ptを担持することにより、緩慢燃焼領域におけるPM燃焼をサポートすることができるためと考えられる。
【0068】
担持形態Cの実施例9,10と比較例6,7のトータルのカーボン燃焼速度を比較すると、S被毒抑制材を担持した実施例9,10では、大幅にトータル及び急速燃焼領域のカーボン燃焼速度が向上している。これは、S被毒抑制材によってAgのS被毒が抑制された結果であると認められる。
【0069】
また、担持形態ごとの実施例を比較すると実施例1−4(担持形態A)に比べ、実施例5−8(担持形態B)及び実施例9,10(担持形態C)ではトータルのカーボン燃焼速度が向上しており、特に急速燃焼領域でのカーボン燃焼速度が向上する傾向が見られる。これは、Ag担持触媒材を局所的に担持することにより、排気ガス中のSO
2等を効果的に吸収することができ、Ag等のS被毒を効果的に抑制することができるから、触媒金属の触媒能及び複合酸化物の酸素放出能の低下を効果的に防ぐことができるためと考えられる。