特許第6202022号(P6202022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202022
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】触媒付パティキュレートフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20170914BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170914BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170914BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170914BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 46/42 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B01J23/63 AZAB
   B01J35/04 301E
   B01J37/02 101D
   B01J37/04 102
   B01D53/92 213
   B01D53/94 241
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301Q
   F01N3/023 A
   B01D46/42 B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-37350(P2015-37350)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-159195(P2016-159195A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 誉士
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 知也
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義志
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/128175(WO,A1)
【文献】 特開2014−100668(JP,A)
【文献】 特開2007−083224(JP,A)
【文献】 特開2009−022953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ本体の排気ガス通路壁に、パティキュレート燃焼用の触媒が設けられている触媒付パティキュレートフィルタであって、
上記触媒は、触媒金属としてPtが担持された酸化物サポート材と、触媒金属としてAgが担持された酸化物サポート材とを含み、
上記Ptが担持された酸化物サポート材は、ZrとCeとを含むZrCe系複合酸化物、及び活性アルミナであり、
上記Agが担持された酸化物サポート材は、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含み、且つCeを含まないZr系複合酸化物であり、
少なくとも上記Agが担持された酸化物サポート材に、さらに上記Agの硫黄被毒を抑制する硫黄被毒抑制材が担持されている
ことを特徴とする触媒付パティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1において、
上記硫黄被毒抑制材はアルカリ土類金属化合物である
ことを特徴とする触媒付パティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において
記Ptが担持された活性アルミナは、上記フィルタ本体の排気ガス流れ方向下流側よりも上流側に多く担持されている
ことを特徴とする触媒付パティキュレートフィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項のいずれか一において、
上記ZrCe系複合酸化物は、触媒金属としてRhを含むRhドープZrCe系複合酸化物である
ことを特徴とする触媒付パティキュレートフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガス通路に設けられ、排気ガス中のパティキュレートを捕集・燃焼除去するための触媒付パティキュレートフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジンの排気ガス中には炭素を主成分とするパティキュレート(微粒子状のパティキュレートマター)が含まれている。そこで、排気ガス通路にフィルタを配置してパティキュレートを捕集するとともに、その捕集量が多くなったときに、パティキュレートを燃焼させてフィルタから除去することにより、フィルタを再生することが行なわれている。そして、パティキュレートの燃焼を促進するためにフィルタ本体に触媒が担持されている。
【0003】
このパティキュレート燃焼に寄与する触媒金属としてはPtが一般的であるが、PdやAgも効果的であることが知られている。例えば、特許文献1には、酸素放出能を有する複合酸化物にAgを担持した触媒材を含むパティキュレートフィルタが記されている。ここで、酸素放出能を有する複合酸化物は、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、フルオライト型、およびイルメナイト型から選択された1種または2種以上であるとされている。さらに前記複合酸化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、遷移金属、貴金属の中から選択される2以上の元素の組み合わせからなり、原子の価数を変化させて酸素の吸収及び放出を行なうものであることが特定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−296518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1においては、酸素放出能を有する複合酸化物は耐熱性が高いため長期に亘って安定したパティキュレート燃焼が得られるとしているが、Agの耐久性について詳細な説明がなされていない。
【0006】
例えば、軽油を燃料とするディーゼルエンジンの場合、軽油に含まれるS(硫黄)によって、Agは硫化銀となって失活しやすいこと、つまり硫黄被毒を受けやすいことが知られている。さらに、前記酸素放出能を有する複合酸化物において、例えば、Co、Mn、W、Prなどを成分として含有する場合、それら成分も硫黄との反応により化合物が形成されるから、その酸素放出能の低下も懸念される。
【0007】
そこで本発明は、触媒付パティキュレートフィルタにおいて、例えば酸素放出能を有する複合酸化物等の、触媒付パティキュレートフィルタの触媒性能を向上させる酸化物サポート材に、触媒金属としてAgを担持した触媒材を用いても、硫黄被毒による性能低下が少ない触媒付パティキュレートフィルタを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、触媒付パティキュレートフィルタの触媒性能を向上させる機能を有する酸化物サポート材に、Agと該Agの硫黄被毒抑制効果のある成分を共存担持するようにした。
【0009】
すなわち、ここに提示する触媒付パティキュレートフィルタは、排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ本体の排気ガス通路壁に、パティキュレート燃焼用の触媒が設けられているものであって、
上記触媒は、触媒金属としてPtが担持された酸化物サポート材と、触媒金属としてAgが担持された酸化物サポート材とを含み、
上記Ptが担持された酸化物サポート材は、ZrとCeとを含むZrCe系複合酸化物、及び活性アルミナであり、
上記Agが担持された酸化物サポート材は、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含み、且つCeを含まないZr系複合酸化物であり、
少なくとも上記Agが担持された酸化物サポート材に、さらに上記Agの硫黄被毒を抑制する硫黄被毒抑制材が担持されていることを特徴とする。
【0010】
酸化物サポート材としては、排気ガス中の酸素を取り込み、活性酸素を放出する活性酸素放出材を使用することが触媒性能の向上に効果的であり、具体的には例えば、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含み、且つCeを含まないZr系複合酸化物、ZrとCeとを含むZrCe系複合酸化物等が挙げられる。このような活性酸素放出材に触媒金属を担持すると、触媒金属によるパティキュレート燃焼反応に加え、活性酸素放出材から放出された活性酸素により効果的にパティキュレート燃焼反応が進行する。また、酸化物サポート材としての活性アルミナは、触媒金属を担持してフィルタに担持することにより、触媒金属の分散性を向上させて、触媒付フィルタの触媒性能を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、上述のごとく、排気ガス中にはSO等の硫黄化合物が含まれており、これにより触媒金属であるAgや酸化物サポート材中の金属元素が硫黄被毒を受け、その触媒活性及び酸素放出能が低下する畏れがある。
【0012】
本発明によれば、上記Agが担持された酸化物サポート材にAgとともに共存担持された硫黄被毒抑制材により、排気ガス中の硫黄化合物が吸収されるため、触媒金属としてのAgや、酸化物サポート材中の金属元素の硫黄被毒を抑制して、触媒性能の低下を防ぐことができる。
【0013】
なお、上記硫黄被毒抑制材は、アルカリ土類金属化合物であることが好ましい。炭酸塩や酸化物などのアルカリ土類金属化合物は、排気ガス中のSO等を吸着及び/又は硫酸塩の形で吸蔵することができる。これにより、Ag及びZr系複合酸化物の硫黄被毒を抑制して、触媒活性の低下を抑制することができる。この場合、アルカリ土類金属としては、Srが好ましく、Baも好ましく用いることができる。また、硫黄被毒抑制材としては、LiとTiを含む複合酸化物、例えばチタン酸リチウムも好ましく用いることができる。
【0014】
また、上記Agが担持された酸化物サポート材は、Zrと、Ce以外の希土類元素とを含み、且つCeを含まないZr系複合酸化物である。
【0015】
上記Zr系複合酸化物は、定常的に空燃比リーンの状態にあっても、絶えず排気ガス中の酸素を取り込み、活性酸素を放出する酸素交換反応を有する。このZr系複合酸化物にAgを担持すると、Ag表面に吸着する酸素が活性な酸素として働き、パティキュレートの酸化を促進する。そして、パティキュレートの急速燃焼領域(例えば、パティキュレート残存割合が100%から60%乃至は50%になるまでの燃焼前期)では、銀粒子表面の吸着酸素、及びZr系複合酸化物から放出された活性酸素とにより、触媒表面に付着したパティキュレートを素早く燃焼させることで急速燃焼に寄与するとともに、パティキュレートの燃焼が緩慢になる緩慢燃焼領域(パティキュレート残存割合が60%乃至は50%から0%になるまでの燃焼後期)では、触媒から離間した状態にあるパティキュレートを、放出した活性酸素により燃焼させ、緩慢燃焼領域のパティキュレート燃焼促進に寄与することができる。
【0016】
なお、上記Ptが担持された酸化物サポート材は、ZrとCeとを含むZrCe系複合酸化物、及び活性アルミナである。換言すると、上記Ptが担持された酸化物サポート材は、ZrCe系複合酸化物及び活性アルミナの混合物である。
【0017】
ZrCe系複合酸化物は、高い酸素吸蔵放出能を有するとともに、酸素交換反応により活性酸素を多く放出できる。これにより、急速燃焼領域におけるパティキュレートの燃焼に伴ってその燃焼部位の酸素が局所的に消費されても、ZrCe系複合酸化物によって酸素が速やかに補われてパティキュレート燃焼が維持される。
【0018】
好ましい態様では、上記Ptが担持された活性アルミナは、上記フィルタ本体の排気ガス流れ方向下流側よりも上流側に多く担持されている。Pt担持アルミナは、Pt等の貴金属分散性の高い活性アルミナの特性により、排気ガスに含まれるNOがNOへ酸化され、パティキュレートの酸化を促進するとともに、パティキュレートの不完全燃焼により生じるCOのCOへの酸化や、排ガス中のCOやHCの酸化に有効に働く。本構成によれば、上流側で排気ガスに含まれるNOのNOへの酸化が促進され、このNOによって、下流側に堆積しているパティキュレートの燃焼を促進させることができる。
【0019】
また、上記ZrCe系複合酸化物は、触媒金属としてRhを含むRhドープZrCe系複合酸化物であってもよい。これにより、酸素吸蔵放出反応及び酸素交換反応をさらに促進でき、緩慢燃焼領域におけるパティキュレート燃焼速度を効果的に向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、Agが担持された酸化物サポート材にAgとともに共存担持された硫黄被毒抑制材により、排気ガス中の硫黄化合物が吸収されるため、触媒金属としてのAgや、酸化物サポート材中の金属元素の硫黄被毒を抑制して、触媒性能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、触媒付フィルタをエンジンの排気ガス通路に配置した図。
図2図2は、同フィルタを模式的に示す正面図。
図3図3は、同フィルタを模式的に示す縦断面図。
図4図4は、同フィルタの排気ガス通路壁を模式的に示す拡大断面図。
図5図5は、同フィルタの触媒の構成を模式的に示す断面図。
図6図6は、参考例、実施例及び比較例のカーボン燃焼速度を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0023】
(第1実施形態)
図1に示すように、触媒付パティキュレートフィルタ(以下、単に「触媒付フィルタ」という。)10は、ディーゼルエンジン等の排気ガス通路11に配置され、排気ガス中のパティキュレート(以下、「PM」という。)を捕集する。フィルタ10よりも排気ガス流の上流側の排気ガス通路11には、酸化物等からなるサポート材にPt等の触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。
【0024】
[フィルタの構造]
図2及び図3に模式的に示すように、触媒付フィルタ10は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排気ガス通路12、13を備えている。下流端が栓14により閉塞された排気ガス流入路12と、上流端が栓14により閉塞された排気ガス流出路13とが交互に設けられ、排気ガス流入路12と排気ガス流出路13とは薄肉の隔壁(排気ガス通路壁)15を介して隔てられている。図2においてハッチングを付した部分は排気ガス流出路13の上流端の栓14を示している。
【0025】
触媒付フィルタ10は、隔壁15を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si、サイアロン、AlTiOのような無機多孔質材料から形成されている。排気ガス流入路12内に流入した排気ガスは図3に矢印で示したように周囲の隔壁15を通って隣接する排気ガス流出路13内に流出する。図4に示すように、隔壁15は排気ガス流入路12と排気ガス流出路13とを連通する微小な細孔16を有し、この細孔16を排気ガスが通る。PMは主に排気ガス流入路12及び細孔16の壁部に捕捉され堆積する。
【0026】
上記フィルタ本体の排気ガス通路(排気ガス流入路12、排気ガス流出路13及び細孔16)を形成する壁面には触媒20がコーティングされている。なお、排気ガス流出路13側の壁面に触媒を設けることは必ずしも要しない。
【0027】
[触媒について]
次に、触媒20の構成について説明する。
【0028】
図5に模式的に示すように、触媒20は、酸化物サポート材としての、Zrと、Ce以外の希土類元素を含み、且つCeを含まないZr系複合酸化物21と、Zrと、Ceを含有するZrCe系複合酸化物22と、活性アルミナ23とを含む。Zr系複合酸化物21及びZrCe系複合酸化物22は、排気ガス中の酸素を取り込み、該酸素をPM燃焼に寄与する活性酸素として放出する役割を有する。
【0029】
Zr系複合酸化物21に含まれるCe以外の希土類元素は、具体的には例えば、Nd、Pr、La、Sm、又はY等であり、単独で用いても、これらのうちの二種以上を混合して用いてもよい。特に好ましくは、Nd、Pr又はこれらの混合物である。
【0030】
また、Zr系複合酸化物21には、触媒金属としてのAg24と、このAg24の硫黄(S)被毒を抑制するS被毒抑制材(硫黄被毒抑制材)26が共存担持されてAg/S被毒抑制材担持触媒材31を構成している。
【0031】
Ag24の担持形態は限定されるものではないが、Ag塩又はAg微粒子等の形態でZr系複合酸化物21に担持されていることが好ましい。なお、触媒金属として、Ag24に加えて、PtやPd等をさらに担持させてもよい。
【0032】
S被毒抑制材26は、排気ガス中に含まれるS化合物を吸収してAgのS被毒を抑制することができるものであればいずれのものも用いることができ、具体的には例えば、アルカリ土類金属化合物を用いることができる。アルカリ土類金属化合物は、排気ガス中のSO等を吸着及び/又は硫酸塩の形で吸蔵することができる。この場合、アルカリ土類金属としては、Srが好ましく、Baも好ましく用いることができる。また、S被毒抑制材26としては、LiとTiを含む複合酸化物、例えばチタン酸リチウムも好ましく用いることができる。これにより、Ag24のS被毒を抑制して、その触媒活性の低下を抑制することができる。
【0033】
ZrCe系複合酸化物22は、高い酸素吸蔵放出能を有するとともに、酸素交換反応により活性酸素を多く放出できる。これにより、急速燃焼領域におけるPMの燃焼に伴ってその燃焼部位の酸素が局所的に消費されても、ZrCe系複合酸化物によって酸素が速やかに補われてPM燃焼が維持される。
【0034】
本実施形態において、ZrCe系複合酸化物22は、触媒金属としてRhを含む。ここに、Rhの含有形態としては、ZrCe系複合酸化物にRhが固溶してなるRhドープZrCe系複合酸化物であってもよいし、ZrCe系複合酸化物にRhが担持してなるRh担持ZrCe系複合酸化物であってもよい。本実施形態では、RhドープZrCe系複合酸化物を使用する。Rhを含むことにより酸素吸蔵放出反応及び酸素交換反応を促進でき、且つ、触媒と接触しないPMに対して活性散素を供給する効果により、緩慢燃焼領域のPM燃焼速度を特に向上できる。なお、本実施形態において、ZrCe系複合酸化物22には、触媒金属として上記Rhに加えてさらにPt25が担持されており、Pt担持RhドープZrCe系複合酸化物32を構成している。これにより、急速燃焼領域におけるPM燃焼速度を向上することができる。加えて、Pt上にて気相の酸素が解離しやすくなることで、Rhへの酸素の供給量が増え、活性酸素の放出が増加するため、緩慢燃焼領域におけるPM燃焼速度も向上する。なお、ZrCe系複合酸化物22に担持される触媒金属は、Pt25に限られず、Pd等の他の触媒金属を担持してもよい。
【0035】
活性アルミナ23は、比表面積が大きく触媒金属の分散性が高いとともに、耐久性にも優れる。本実施形態において、活性アルミナ23には、触媒金属としてのPtが担持されてPt担持アルミナ33を構成している。Pt担持アルミナ33は、Ptの高い触媒作用によりNOを生成しパティキュレート燃焼に寄与するとともに、パティキュレートの不完全燃焼により生じるCOのCOへの酸化や、排ガス中のCOやHCの酸化に有効に働く。
【0036】
[触媒の担持形態について]
−担持態様A−
本実施形態において、Ag/S被毒抑制材担持触媒材31、Pt担持RhドープZrCe系複合酸化物32及びPt担持アルミナ33は、所定の割合で均一に混合され、フィルタ本体に担持される。所定の割合とは、具体的には例えば、サポート材量比、すなわち、サポート材であるZr系複合酸化物21とRhドープZrCe系複合酸化物22との質量比で、Zr系複合酸化物21/RhドープZrCe系複合酸化物22が、6/1〜1/6、より好ましくは4/1〜1/4、特に好ましくは2/1〜1/2である。また、活性アルミナ23の含有割合は、Zr系複合酸化物21及びRhドープZrCe系複合酸化物22の総量に対して、質量比で0.1〜0.8、より好ましくは0.2〜0.7、特に好ましくは0.3〜0.6である。
【0037】
[触媒の調整]
活性アルミナ23としての純アルミナ等は、市販されている粉末を用いることができる。また、Zr系複合酸化物21としてのZrNdPr複合酸化物及びZrCe系複合酸化物22としてのRhドープCeZrNd複合酸化物は、以下の調製方法により得ることができる。
【0038】
−ZrNdPr複合酸化物の調製−
硝酸プラセオジウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物をイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕する。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりZrNdPr複合酸化物を得ることができる。
【0039】
−ZrNdPr複合酸化物へのAg及びアルカリ土類金属の担持−
ZrNdPr複合酸化物にイオン交換水を加えてスラリー状にし、それをスターラー等により十分に撹拌する。続いて、撹拌しながらそのスラリーに所定量の硝酸銀をイオン交換水に溶かした硝酸銀水溶液を滴下し、さらに、攪拌しながらそのスラリーに所定量のアルカリ土類金属塩の溶液(例えばアルカリ土類金属の酢酸塩をイオン交換水に溶かした液)を滴下し、十分に撹拌する。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させる。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成する。これにより、Ag及びアルカリ土類金属の炭酸塩がZrNdPr複合酸化物に担持された触媒粉末が得られる。
【0040】
−RhドープCeZrNd複合酸化物の調製−
硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸ロジウム溶液をイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返す。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕する。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりRhドープCeZrNd複合酸化物粒子材を得ることができる。
【0041】
−RhドープCeZrNd複合酸化物へのPtの担持−
RhドープCeZrNd複合酸化物にイオン交換水を加えてスラリー状にし、これをスターラー等により十分に攪拌する。この攪拌を続けながら、そのスラリーに所定量のエタノールアミンPt(ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸エタノールアミン溶液)を滴下し、十分に攪拌する。その後、加熱しながらさらに攪拌を続け、水分を完全に蒸発させる。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成する。これにより、PtがRhドープCeZrNd複合酸化物に担持されてなる触媒粉末が得られる。
【0042】
−活性アルミナへのPtの担持−
活性アルミナ粉末にイオン交換水を加えてスラリー状にし、それをスターラー等により十分に撹拌する。続いて、撹拌しながらそのスラリーに所定量のエタノールアミンPtを滴下し、十分に撹拌する。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させる。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成する。これにより、Ptが活性アルミナに担持された触媒粉末が得られる。
【0043】
−フィルタ本体への触媒粉末のコーティング−
Ag/S被毒抑制材担持触媒材31、Pt担持RhドープZrCe系複合酸化物32及びPt担持アルミナ33を混合する。得られた混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。そして、ボールミルによって個数平均粒径200nm以上400nm以下程度(好ましくは300nm程度)になるまで粉砕し、このスラリーをフィルタ本体にコーティングする。そして、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行なう。これにより、触媒付フィルタが得られる。
【0044】
以下、本発明に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、第1実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0045】
(第2実施形態)
[触媒の担持形態]
−担持態様B−
触媒20の担持形態として、Pt担持アルミナ33を触媒付フィルタ10の排気ガス流れ方向下流側よりも上流側に多く担持する構成としてもよい。これにより、パティキュレートが堆積しやすいフィルタ上流側での急速燃焼を促進させることができる。
【0046】
[触媒の調整]
−フィルタ本体への触媒粉末のコーティング−
まず、Pt担持アルミナ33の配合割合を多くしたAg/S被毒抑制材担持触媒材31、Pt担持RhドープZrCe系複合酸化物32及びPt担持アルミナ33の混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。そして、ボールミルによって個数平均粒径200nm以上400nm以下程度(好ましくは300nm程度)になるまで粉砕し、このスラリーをフィルタ本体の上流側部分にコーティングする。そして、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行う。
【0047】
次に、Pt担持アルミナ33の配合割合を少なくしたAg/S被毒抑制材担持触媒材31、Pt担持RhドープZrCe系複合酸化物32及びPt担持アルミナ33の混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にする。これを用いて上記フィルタ本体の下流側部分にコーティングを行い、乾燥・焼成を行う。これにより、本実施形態に係る触媒付フィルタが得られる。
【0048】
[触媒付フィルタの評価]
−サンプルフィルタ−
表1に示す参考例1−4、実施例2、3及び比較例のサンプルフィルタを調製し、これらのサンプルフィルタにS被毒処理を行なった後に、それらフィルタによるカーボン燃焼速度を測定した。表1の「ZrNdPrOx」はZrNdPr複合酸化物を意味する。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す参考例1−4,実施例2、及び比較例2は、第1実施形態の担持態様Aに係る触媒付フィルタであり、表1中の第一〜第三成分の触媒材が均一に混合されてフィルタ本体に担持されている。実施例3は、第2実施形態の担持態様Bに係る触媒付フィルタであり、第三成分であるPt担持アルミナのフィルタ本体上流側半分及び下流側半分への担持量が、質量比で6:4となっている。
【0051】
いずれのサンプルフィルタも、フィルタ本体としてはSiC製ハニカム状フィルタ(容量:11mL、セル壁厚:16mil、セル数:178cpsi)を用い、ZrNdPr複合酸化物の組成はZrO:Nd:Pr11=70:12:18(モル比)とした。
【0052】
いずれのサンプルフィルタも、フィルタ1L当たりのサポート材量(第一成分のサポート材と第二成分のサポート材を合わせた量)は20gとし、触媒金属(貴金属)の総量(第一成分の触媒金属と第二成分の触媒金属を合わせた量)はサポート材量20gの0.5質量%とした。
【0053】
参考例1、実施例2,3の第一〜第三成分のサポート材量の比率は1:1:1(質量比)である。参考例2,4の第一成分と第二成分のサポート材量の比率は1:1(質量比)である。
【0054】
S被毒抑制材としてはSrを用いた。Sr担持量は第一成分のサポート材量の3.0質量%とした。
【0055】
−カーボン燃焼速度の測定−
サンプルフィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、前処理として模擬排気ガス(C:200ppmC、CO:400ppm、NO:100ppm、O:10%、CO:4.5%、HO:10%、残N)を40L/minの流量でサンプルフィルタに通した。このとき、30℃/minで600℃まで昇温した後、同じガス組成条件のままで、自然降温によって室温まで温度を下げた。
【0056】
その後、S被毒処理として、S成分を含むガス(SO:500ppm、O:10%、残N)を空間速度SV=50000/hの流量でフィルタに1時間通した。フィルタの温度は300℃とした。
【0057】
S被毒処理の後、サンプルフィルタにカーボンを堆積した。カーボンの堆積は、フィルタ1L当たり5g相当のカーボンブラックをイオン交換水中に分散させた溶液に、フィルタの入口側を浸漬させ、出口側から吸引した。その後、余分な水分を除去し、150℃で1時間乾燥した。
【0058】
上記の処理の後、フィルタを模擬ガス流通反応装置に取り付け、Nガスを流通させながらそのガス温度を上昇させた。フィルタ入口温度が540℃で安定した後、Nガスから模擬排気ガス(O;7.5%,NO;300ppm,残N)に切り換え、該模擬排気ガスを空間速度45000/hで流した。そして、カーボンが燃焼することにより生じるCO及びCOのガス中濃度をフィルタ出口においてリアルタイムで測定し、それらの濃度から、下記の計算式を用いて、所定時間ごとに、カーボン燃焼速度(単位時間当たりのパティキュレート燃焼量)を計算した。
【0059】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO)濃度(ppm)/(1×10)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol)
上記所定時間毎のカーボン燃焼速度に基づいてカーボン燃焼量積算値の経時変化を求め、カーボン燃焼率が0%から40%、40%から90%及び0%から90%に達するまでに要した時間とその間のカーボン燃焼量の積算値とから、急速燃焼領域(カーボン燃焼率0〜40%)、緩慢燃焼領域(カーボン燃焼率40〜90%)及びトータル(0〜90%)の各カーボン燃焼速度(フィルタ1Lでの1分間当たりのパティキュレート燃焼量(mg/min−L))を求めた。結果を表1の右欄、及び図6に示す。
【0060】
−考察−
表1に示すように、参考例1−4、実施例2と比較例2は、各々S被毒抑制材の有無のみが相違する。各々対応する参考例、実施例及び比較例のトータルのカーボン燃焼速度を比較すると、参考例1,2及び実施例2の方が参考例3,4及び比較例2に比べ、大幅にカーボン燃焼速度が向上していることが判る。そして、急速燃焼領域及び緩慢燃焼領域ともにカーボン燃焼速度が向上していることが判る。これは、S被毒抑制材によってAgのS被毒が抑制された結果であると認められる。また、S被毒抑制材によってZr系複合酸化物を構成するPrのS被毒も抑制され、その酸素交換反応の低下が抑制されたことも上記結果に影響していると考えられる。
【0061】
実施例2は、参考例2の構成に第三成分としてPt担持アルミナをさらに担持させたものであり、両者を比較すると、急速燃焼領域のカーボン燃焼速度が大きく向上し、その結果トータルのカーボン燃焼速度も向上していることが判る。これは、Pt担持アルミナにより、排気ガスに含まれるNOのNOへの酸化が促進され、このNOとの反応によって、パティキュレートの燃焼が促進されたと考えられる。
【0062】
また、実施例3は、実施例2の構成において、触媒付フィルタの上流側前半分の領域に第三成分であるPt担持アルミナの混合割合を多くして触媒材を担持したものである。上流側にPt担持アルミナを多く担持していることにより、上流側で排気ガスに含まれるNOのNOへの酸化が促進され、このNOとの反応によって、下流側に堆積しているパティキュレートの燃焼が効果的に促進されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、Agが担持された酸化物サポート材にAgとともに共存担持された硫黄被毒抑制材により、排気ガス中の硫黄化合物が吸収されるため、触媒金属としてのAgや、酸素放出材としての酸化物サポート材の硫黄被毒を抑制して、触媒性能の低下を防ぐことができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0064】
10 触媒付パティキュレートフィルタ
15 隔壁(排気ガス通路壁)
20 触媒
21 Zr系複合酸化物(酸化物サポート材)
22 ZrCe系複合酸化物(酸化物サポート材)
23 活性アルミナ(酸化物サポート材)
24 Ag
25 Pt
26 S被毒抑制材(硫黄被毒抑制材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6