(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の樹脂組成物及び樹脂成形体の一例である実施形態について説明する。
【0020】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロース誘導体と、可塑剤と、を含有する。
セルロース誘導体は、重量平均分子量が1万以上7万5000未満であり、水酸基の一部が炭素数1以上6以下のアシル基で置換されたセルロース誘導体(以下「特定のセルロース誘導体」とも称す)である。
【0021】
セルロース誘導体に対し、加工する際に可塑性を付与する観点で可塑剤を混合して用いることがある。しかし、セルロース誘導体と共に混合された可塑剤が、樹脂成形体となった後に表面にブリードアウト(可塑剤が表面に滲み出す現象)することがあった。なお、樹脂成形体が保管される環境が高温である程、また高湿である程、この可塑剤のブリードアウトは発生し易い。
そのため、混練性や成形性等の加工性を向上しながら、かつ可塑剤のブリードアウトを抑制することが求められていた。
【0022】
これに対し、本実施形態に係る樹脂組成物は、水酸基の一部が炭素数1以上6以下のアシル基で置換され、かつ重量平均分子量が1万以上7万5000未満である特定のセルロース誘導体と、可塑剤と、を含有することで、可塑剤のブリードアウトが抑制される。
この効果が奏される理由は明確ではないが、以下のように推察される。
【0023】
セルロース誘導体の分子量が前記上限値未満の範囲であり、即ち従来の一般的なセルロース誘導体に比べて低い分子量であることで、セルロースフィブリル間に可塑剤が入り込みやすくなっているものと考えられる。その結果、可塑剤がセルロース誘導体によって保持され、ブリードアウトが抑制されるものと推察される。
また、セルロース誘導体は、分子量が小さくなるほど相対的に分子鎖の末端の数が増え、この末端に存在する水酸基の数も増えるため、成形後に末端の水酸基同士の間で形成される水素結合も増える。この水素結合の増加に伴って、可塑剤との相互作用も増し、その結果可塑剤が析出しにくくなり、ブリードアウトが抑制されるものと推察される。
またその一方で、セルロース誘導体の分子量が前記下限値以上の範囲であることで、セルロース誘導体における可塑剤の保持性が良好に発揮され、可塑剤がセルロース誘導体に保持されることで、ブリードアウトが抑制されるものと推察される。
【0024】
またこれに加えて、本実施形態に係る樹脂組成物は高い弾性率の樹脂成形体が得られかつ熱流動性に優れ、更に耐熱性にも優れる。
これは、一般的に樹脂は、分子量が低くなるほど強度が低下する傾向にあるが、セルロース誘導体は、分子量が小さくなるほど相対的に分子鎖の末端の数が増え、この末端に存在する水酸基の数も増える。そのため、成形後には末端の水酸基同士の間で水素結合が形成され、水素結合力が強くなることによって、弾性率が向上するものと考えられる。また、この水素結合力の影響により優れた耐熱性も得られるものと考えられる。
なお、熱溶融させた際には前記末端間での水素結合が弱まるため、セルロース誘導体の分子量が前記範囲であることで、粘度は低下して熱流動性があがり、その結果成形適性が向上するものと考えられる。
【0025】
また、可塑剤の添加によって可塑化されたセルロース誘導体が、樹脂組成物中においてより良好に分散されることで可塑化効果も更に向上し、その結果熱流動性が更に向上し、より成形適性に優れるものと考えられる。
【0026】
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の成分を詳細に説明する。
【0027】
[セルロース誘導体]
・重量平均分子量
本実施形態に用いられる特定のセルロース誘導体は、重量平均分子量が1万以上7.5万未満である。この重量平均分子量は、更に2万以上5万以下が好ましい。
重量平均分子量が7.5万以上だと、樹脂成形体とした際の可塑剤のブリードアウト抑制の効果が減少する。また、重量平均分子量が1万未満だと、樹脂成形体とした際の可塑剤のブリードアウト抑制の効果が減少し、かつ分子量が低くなり過ぎるために弾性率も低下し、耐熱性も低下する。
【0028】
ここで、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、GPC装置(東ソー社製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にて測定される。
【0029】
・構造
特定のセルロース誘導体として具体的には、例えば、一般式(1)で表されるセルロース誘導体が挙げられる。
【0031】
一般式(1)中、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1以上6以下のアシル基を表す。nは2以上の整数を表す。ただし、n個のR
1、n個のR
2、及びn個のR
3のうちの少なくとも一部は炭素数1以上6以下のアシル基を表す。
【0032】
一般式(1)中、nの範囲は特に制限されないが、40以上300以下が好ましく、100以上200以下がより好ましい。
nを40以上にすると、樹脂成形体の強度が高まりやすくなる。nを300以下にすると、樹脂成形体の柔軟性の低下が抑制されやすくなる。
【0033】
・アシル基
本実施形態に用いられる特定のセルロース誘導体は、水酸基の一部が炭素数1以上6以下のアシル基で置換されてなる。つまり、前記一般式(1)で表される構造を有するセルロース誘導体の場合、n個のR
1、n個のR
2、及びn個のR
3のうちの少なくとも一部が炭素数1以上6以下のアシル基を表す。
したがって、一般式(1)で表されるセルロース誘導体中にn個あるR
1は、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。同様に、n個あるR
2、及びn個あるR
3も、それぞれ、全て同一でも一部同一でも互いに異なっていてもよい。そして、これらのうちの少なくとも一部が炭素数1以上6以下のアシル基を表す。
【0034】
セルロース誘導体に置換するアシル基が炭素数7以上のもののみであると、弾性率が低下し、また耐熱性も低下する。
特定のセルロース誘導体に置換するアシル基の炭素数は、更に1以上4以下が好ましく、1以上3以下がより好ましい。
【0035】
炭素数1以上6以下のアシル基は「−CO−R
AC」の構造で表され、R
ACは、水素原子、又は炭素数1以上5以下の炭化水素基を表す。
R
ACで表される炭化水素基は、直鎖状、分岐状、及び環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることがより好ましい。
また前記炭化水素基は、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、飽和炭化水素基であることがより好ましい。
また前記炭化水素基は、炭素及び水素以外の他の原子(例えば酸素、窒素等)を有していてもよいが、炭素及び水素のみからなる炭化水素基であることがより好ましい。
炭素数1以上6以下のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基(ブタノイル基)、プロペノイル基、ヘキサノイル基等が挙げられる。
これらの中でもアシル基としては、弾性率及び耐熱性の向上の観点、樹脂組成物の成形性の向上の観点から、アセチル基が好ましい。
【0036】
・置換度
特定のセルロース誘導体の置換度は2.5以下であることが好ましい。2.5以下であることにより、セルロース誘導体が有する水酸基の数が増し、可塑剤との相互作用が増して、可塑剤のブリードアウトがより抑制される。また、置換基同士の相互作用が強くなり過ぎず、分子の運動性の低下が抑制されることから、分子間での水素結合が起こり易くなり、弾性率がより高くなり、また耐熱性もより高くなる。
【0037】
なお、特定のセルロース誘導体の置換度は、更に1.8以上2.5以下であることが好ましく、2以上2.5以下がより好ましく、2.2以上2.5以下が更に好ましい。1.8以上であることにより、分子間の相互作用が小さくなり過ぎず、可塑化が抑制され、その結果弾性率がより高くなり、また耐熱性もより高くなる。
なお、置換度とは、セルロース誘導体のアシル化の程度を示す指標である。具体的には、置換度はセルロース誘導体のD−グルコピラノース単位に3個ある水酸基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。
【0038】
・合成方法
本実施形態に用いられる特定のセルロース誘導体、つまり重量平均分子量が1万以上7万5000未満であり、水酸基の一部が炭素数1以上6以下のアシル基で置換されたセルロース誘導体は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により合成される。
【0039】
(セルロースの分子量の調整)
まず、アシル化前のセルロース、つまり水酸基がアシル基で置換されていないセルロースを準備し、その分子量を調整する。
【0040】
前記アシル化前のセルロースとしては、調製したものを用いても、市販のものを用いてもよい。なお、通常セルロースは植物由来の樹脂であり、その重量平均分子量は本実施形態における特定のセルロース誘導体と比べて高いのが一般的である。そのため、セルロースの分子量の調整は、通常分子量を低下させる工程となる。
【0041】
例えば、市販のセルロースの重量平均分子量は、通常15万以上50万以下の範囲である。
前記アシル化前のセルロースの市販品としては、例えば、日本製紙社製のKCフロックW50、W100、W200、W300G、W400G、W−100F、W60MG、W−50GK、W−100GK、NDPT、NDPS、LNDP、NSPP−HR等が挙げられる。
【0042】
前記アシル化前のセルロースの分子量を調整する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば前記セルロースを液体中で攪拌することで分子量を低下させる方法が挙げられる。
攪拌の際の速度や時間等を調整することで、セルロースの分子量を求める値に調整することができる。なお、特に限定されるものではないが、攪拌の際の攪拌速度としては50rpm以上3000rpm以下の範囲が好ましく、100rpm以上1000rpm以下がより好ましい。また、攪拌時間は2時間以上48時間以下の範囲が好ましく、5時間以上24時間以下がより好ましい。
なお、攪拌の際に用いられる液体は、塩酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液などが挙げられる。
【0043】
(セルロース誘導体の調製)
上記の方法などによって分子量を調整したセルロースを、公知の方法により炭素数1以上6以下のアシル基でアシル化することで、特定のセルロース誘導体が得られる。
例えば、前記セルロースが有する水酸基の一部をアセチル基で置換する場合であれば、酢酸、無水酢酸及び硫酸の混合物を用いてセルロースをエステル化する方法等が挙げられる。また、プロピオニル基で置換する場合であれば前記混合物の無水酢酸に代えて無水プロピオン酸を用いてエステル化する方法が、ブタノイル基で置換する場合であれば前記混合物の無水酢酸に代えて無水ブチル酸を用いてエステル化する方法が、ヘキサノイル基で置換する場合であれば前記混合物の無水酢酸に代えて無水ヘキシル酸を用いてエステル化する方法が、それぞれ挙げられる。
【0044】
アシル化した後、置換度を調整する目的で更に脱アシル化工程を設けてもよい。また、前記アシル化の工程後又は前記脱アシル化工程後に更に精製する工程を設けてもよい。
【0045】
・樹脂組成物中に占める比率
本実施形態に係る樹脂組成物では、特定のセルロース誘導体の全体に占める比率が70質量%以上であることが好ましく、更には80質量%以上がより好ましい。該比率が70質量%以上であることにより、弾性率がより高くなり、また耐熱性もより高くなる。
【0046】
[可塑剤]
本実施形態に係る樹脂組成物は、更に可塑剤を含有する。特に限定されるものではないが、可塑剤としては親水性の基を有するものがより好ましい。親水性の基を有することにより、セルロース誘導体が有する水酸基や水素結合との相互作用が増して、可塑剤のブリードアウトがより抑制される。
【0047】
親水性の基としては、例えば、水酸基、カルボニル基、リン酸基、スルホ基、エーテル、エステル、及びアミノ基等が挙げられる。
これらの中でも、水酸基、カルボニル基、リン酸基、及びエステルがより好ましく、水酸基、カルボニル基、及びリン酸基が更に好ましい。
【0048】
可塑剤としては、例えば、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、リン酸エステル化合物、金属石鹸、セバシン酸エステル化合物、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
これらの中でも、可塑剤のブリードアウト抑制の観点で、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、リン酸エステル化合物、及び金属石鹸が好ましく、アジピン酸エステル含有化合物がより好ましい。
【0049】
−アジピン酸エステル含有化合物−
アジピン酸エステル含有化合物(アジピン酸エステルを含む化合物)とは、アジピン酸エステル単独の化合物、又は、アジピン酸エステルとアジピン酸エステル以外の成分(アジピン酸エステルとは異なる化合物)との混合物であることを示す。但し、アジピン酸エステル含有化合物は、アジピン酸エステルを全成分に対して50質量%以上で含むことがよい。
【0050】
アジピン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ポリエステルが挙げられる。具体的には、下記一般式(2−1)で示されるアジピン酸ジエステル、及び下記一般式(2−2)で示されるアジピン酸ポリエステル等が挙げられる。
【0052】
一般式(2−1)及び(2−2)中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、アルキル基、又はポリオキシアルキル基[−(C
xH
2X−O)
y−R
A1](但し、R
A1はアルキル基を、xは1以上10以下の整数を、yは1以上10以下の整数を、表す。)を表す。
R
6は、アルキレン基を表す。
m1は、1以上20以下の整数を表す。
m2は、1以上10以下の整数を表す。
【0053】
一般式(2−1)及び(2−2)中、R
4及びR
5が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。R
4及びR
5が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
一般式(2−1)及び(2−2)中、R
4及びR
5が表すポリオキシアルキル基[−(C
xH
2X−O)
y−R
A1]において、R
A1が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。R
A1が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0054】
一般式(2−2)中、R
6が表すアルキレン基は、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0055】
一般式(2−1)及び(2−2)中、各符号が表す基は、置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0056】
アジピン酸エステルの分子量(又は重量平均分子量)は、200以上5000以下が好ましく、300以上2000以下がより好ましい。なお、重量平均分子量は、前述のセルロース誘導体の重量平均分子量の測定方法に準拠して測定された値である。
【0057】
以下、アジピン酸エステル含有化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0059】
−ポリエーテルエステル化合物−
ポリエーテルエステル化合物として具体的には、例えば、一般式(2)で表されるポリエーテルエステル化合物が挙げられる。
【0061】
一般式(2)中、R
4、及びR
5は、それぞれ独立に、炭素数2以上10以下のアルキレン基を表す。A
1、及びA
2はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数7以上18以下のアラルキル基を表す。mは、1以上の整数を表す。
【0062】
一般式(2)中、R
4が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。R
4が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
R
4が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。R
4が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はR
4が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロース誘導体との親和性が高まりやすくなる。このため、R
4が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、R
4が表すアルキレン基は、n−ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、R
4としてn−ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)を表す化合物であることが好ましい。
【0063】
一般式(2)中、R
5が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。R
5が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
R
5が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。R
5が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はR
5が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロース誘導体との親和性が高まりやすくなる。このため、R
5が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、R
5が表すアルキレン基は、n−ブチレン基(−(CH
2)
4−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、R
5としてn−ブチレン基(−(CH
2)
4−)を表す化合物であることが好ましい。
【0064】
一般式(2)中、A
1、及びA
2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、炭素数2以上4以下のアルキル基がより好ましい。A
1、及びA
2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、分岐状が好ましい。
A
1、及びA
2が表すアリール基は、炭素数6以上12以下のアリール基であり、フェニル基、ナフチル基等の無置換アリール基、又はt−ブチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基等の置換フェニル基が挙げられる。
A
1、及びA
2が表すアラルキル基としては、−R
A−Phで示される基である。R
Aは、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上4以下)のアルキレン基を表す。Phは、無置換フェニル基、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上6以下)のアルキル基で置換された置換フェニル基を表す。アラルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基、フェニルメチル基(フェネチル基)、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の無置換アラルキル基、又はメチルベンジル基、ジメチルベンジル基、メチルフェネチル基等の置換アラルキル基が挙げられる。
【0065】
A
1、及びA
2の少なくとも一方は、アリール基又はアラルキル基を表すことが好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、A
1、及びA
2の少なくとも一方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましく、A
1、及びA
2の双方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましい。
【0066】
次に、ポリエーテルエステル化合物の特性について説明する。
【0067】
ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、450以上650以下が好ましく、500以上600以下がより好ましい。
重量平均分子量(Mw)を450以上にすると、ブリード(析出する現象)し難くなる。重量平均分子量(Mw)を650以下にすると、セルロース誘導体との親和性が高まりやすくなる。このため、重量平均分子量(Mw)を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HPLC1100を用い、東ソー製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行う。そして、重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0068】
ポリエーテルエステル化合物の25℃における粘度は、35mPa・s以上50mPa・s以下が好ましく、40mPa・s以上45mPa・s以下がより好ましい。
粘度を35mPa・s以上にすると、セルロース誘導体への分散性が向上しやすくなる。粘度を50mPa・s以下にすると、ポリエーテルエステル化合物の分散の異方性が出現し難くなる。このため、粘度を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、粘度は、E型粘度計により測定される値である。
【0069】
ポリエーテルエステル化合物の溶解度パラメータ(SP値)が、9.5以上9.9以下が好ましく、9.6以上9.8以下がより好ましい。
溶解度パラメータ(SP値)を9.5以上9.9以下にすると、セルロース誘導体への分散性が向上しやすくなる。
溶解度パラメータ(SP値)は、Fedorの方法により算出された値である、具体的には、溶解度パラメータ(SP値)は、例えば、Polym.Eng.Sci.,vol.14,p.147(1974)の記載に準拠し、下記式によりSP値を算出する。
式:SP値=√(Ev/v)=√(ΣΔei/ΣΔvi)
(式中、Ev:蒸発エネルギー(cal/mol)、v:モル体積(cm
3/mol)、Δei:それぞれの原子又は原子団の蒸発エネルギー、Δvi:それぞれの原子又は原子団のモル体積)
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、単位として(cal/cm
3)
1/2を採用するが、慣行に従い単位を省略し、無次元で表記する。
【0070】
以下、ポリエーテルエステル化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0072】
−リン酸エステル化合物−
リン酸エステル化合物としては、リン酸エステルや、縮合リン酸エステル等が挙げられる。
【0073】
リン酸エステルとしては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等が挙げられる。
【0074】
縮合リン酸エステルとしては、例えば、ビスフェノールA型、ビフェニレン型、イソフタル型などの芳香族縮合リン酸エステルが挙げられる。具体的には、例えば、下記一般式(A)で表される縮合リン酸エステル、及び下記一般式(B)で表される縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0076】
一般式(A)中、Q
1、Q
2、Q
3及びQ
4は、それぞれ独立に炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q
5及びQ
6はメチル基を表し、Q
7及びQ
8は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、m1、m2、m3及びm4は、それぞれ独立に0以上3以下の整数を示し、m5及びm6は、それぞれ独立に0以上2以下の整数を表し、n1は0以上10以下の整数を表す。
【0077】
一般式(B)中、Q
9、Q
10、Q
11及びQ
12は、それぞれ独立に炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、Q
13はメチル基を表し、m7、m8、m9及びm10は、それぞれ独立に0以上3以下の整数を表し、m11は0以上4以下の整数を表し、n2は0以上10以下の整数を表す。
【0078】
リン酸エステルは合成品でも市販品でもよい。リン酸エステルの市販品として、例えば、大八化学工業社製の市販品である「PX200」、「PX201」、「PX202」、「CR741」等、アデカ社製の市販品である「アデカスタブFP2100」、「アデカスタブFP2200」等が挙げられる。
【0079】
−金属石鹸−
金属石鹸とは、カチオン成分が1価または多価の金属成分であり、アニオン成分が有機酸成分によって表される化合物を意味する。
【0080】
金属石鹸を構成する金属としては、リチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛等が挙げられる。
金属石鹸を構成する酸としては、ステアリン酸、ラウリン酸、リシノール酸、オクチル酸等が挙げられる。
【0081】
好ましい金属石鹸の例としては、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム等が挙げられ、この中でも、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、リシノール酸カルシウムがより好ましい。
【0082】
なお、可塑剤の含有量は、樹脂組成物全体に占める特定のセルロース誘導体の比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。より具体的には、樹脂組成物全体に占める可塑剤の比率は30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。可塑剤の比率が上記範囲であることにより、可塑剤のブリードアウトが抑制される。また、弾性率がより高くなり、耐熱性もより高くなる。
【0083】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、上述した以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、耐加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミナ、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。これらの成分の含有量は、樹脂組成物全体に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0084】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記樹脂以外の他の樹脂を含有していてもよい。但し、他の樹脂は、樹脂組成物全体に占める特定のセルロース誘導体の比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルフォン樹脂;ポリエーテルスルフォン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
[樹脂組成物の製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、前記特定のセルロース誘導体と上記成分との混合物を溶融混練することにより製造される。ほかに、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することにより製造される。溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
なお、混練の際の温度は、使用するセルロース誘導体の溶融温度に応じて決定されればよいが、熱分解と流動性の点から、例えば、140℃以上240℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましい。
【0086】
<樹脂成形体>
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる。成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0087】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が好ましい。射出成形については、樹脂組成物を加熱溶融し、金型に流し込み、固化させることで成形体が得られる。射出圧縮成形によって成形してもよい。
射出成形のシリンダ温度は、例えば140℃以上240℃以下であり、好ましくは150℃以上220℃以下であり、より好ましくは160℃以上200℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば30℃以上120℃以下であり、40℃以上80℃以下がより好ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX500、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0088】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、エンジンカバー、車体、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0090】
<セルロースの作製>
セルロース(日本製紙社製KCフロックW50)2kgを、0.1M塩酸水溶液20L中に入れ、室温(25℃)で攪拌した。表1に示す攪拌時間で、それぞれの分子量のセルロースを得た。なお、攪拌装置として新東科学社製、製品名:EP−1800を用い、かつ攪拌の際の回転速度は500rpmに設定した。
【0091】
分子量については、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、GPC装置(東ソー社製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にて測定した。
【0092】
【表1】
【0093】
<セルロース誘導体の作製>
(アセチル化工程)
表1の化合物1を1kg、氷酢酸500gを散布して前処理活性化した。その後、氷酢酸3.8kg、無水酢酸2.4kg、及び硫酸80gの混合物を添加し、40℃以下の温度で攪拌混合しながら、化合物1のエステル化を行った。繊維片がなくなった時をエステル化終了とした。
【0094】
(脱アセチル化工程)
これに酢酸2kg、水1kgを加え、室温(25℃)で2時間攪拌した。
【0095】
(精製工程)
更にこの溶液を、20kgの水酸化ナトリウムを40kgの水に溶かした溶液中に攪拌しながらゆっくりと滴下した。得られた白色沈殿を吸引ろ過し、水60kgで洗い、セルロース誘導体(化合物6)を得た。
【0096】
化合物1を化合物2〜5に変えた以外は上記と同様にしてセルロース誘導体(化合物7〜10)を得た。
化合物3を用い、(アセチル化工程)終了後すぐに(精製工程)を実施した以外は上記と同様にして、セルロース誘導体(化合物11)を得た。
化合物3を用い、(脱アセチル工程)の攪拌時間をそれぞれ、0.5時間、1時間、3時間、5時間、10時間に変えた以外は上記と同様にして、セルロース誘導体(化合物12)、(化合物13)、(化合物14)、(化合物15)、(化合物16)を得た。
化合物3を用い、(アセチル化工程)の無水酢酸2.4kgをそれぞれ、無水プロピオン酸2kg/無水酢酸0.3kg、無水n−ブチル酸1.8kg/無水酢酸6kg、無水n−ヘキシル酸0.5kgに変えた以外は上記と同様にして、セルロース誘導体(化合物17)、(化合物18)、(化合物19)を得た。
【0097】
分子量は(化合物1)と同様の方法で、置換度はH
1−NMR測定(日本電子社製、JNM−ECZR)にて求めた。
これらの結果を表2にまとめる。
【0098】
【表2】
【0099】
特開2006−299012号公報の実施例1(段落〔0119〜0121、0129〕)で得られたセルロースエステル系樹脂組成物を(化合物20)とした。
【0100】
【表3】
【0101】
<ペレットの作製>
表4に示す実施例1〜19及び比較例1〜3に示す仕込み組成比、混練温度で、2軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)にて混練を実施し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0102】
【表4】
【0103】
なお、表4に示す(化合物30)乃至(化合物34)の詳細を以下に示す。
−セルロース誘導体−
・化合物30:ジメチルセルロース(ダイセル社製、L40、重量平均分子量140,000)
−可塑剤−
・化合物31:アジピン酸エステル混合物(大八化学工業社製、Daifatty101)
・化合物32:ポリエーテルエステル化合物(ADEKA社製、製品名:RS−1000)
・化合物33:リン酸エステル化合物(大八化学工業社製、製品名:CR741)
・化合物34:ステアリン酸カルシウム(堺化学工業社製、製品名:SC−100)
【0104】
<射出成形>
得られたペレットについて射出成形機(日精樹脂工業社製、PNX40)を用い、表5に示すシリンダ温度、金型温度で、ISO小形角板試験片(角板の長さ60mm、角板の幅60mm、厚み2mm)を作製した。
【0105】
<ブリードアウト試験>
得られた角板試験片について、表面に油性インキで文字を書き、この角板を65℃/90RH%の条件下で1000時間(hr.)放置した。試験片表面のブリードアウト状態を、以下の基準で評価した。
A(○):油性インキの文字のにじみがない。目視で可塑剤のブリードアウトなし。
B(△):ブリードアウトが若干見られ、油性インキの文字が若干滲んでいる。
C(×):油性インキの文字の明らかなにじみ発生、または目視で明らかに可塑剤のブリードアウトあり。
【0106】
【表5】
【0107】
重量平均分子量が1万以上7.5万未満であり、水酸基の一部が炭素数1以上6以下のアシル基で置換されたセルロース誘導体と、可塑剤と、を含有する前記実施例の樹脂組成物及び樹脂成形体は、比較例に比べて、ブリードアウトが良好に抑制されている。