特許第6202061号(P6202061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202061ラック及びその製造方法、操舵装置及びその製造方法、並びに、自動車及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202061
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ラック及びその製造方法、操舵装置及びその製造方法、並びに、自動車及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/26 20060101AFI20170914BHJP
   B62D 3/12 20060101ALI20170914BHJP
   B21K 1/76 20060101ALI20170914BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   F16H55/26
   B62D3/12 503Z
   B21K1/76 A
   B21J5/02 B
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-165384(P2015-165384)
(22)【出願日】2015年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-44228(P2017-44228A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年6月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 一登
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−264452(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/111595(WO,A1)
【文献】 特開2014−5839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/26
B21J 5/02
B21K 1/76
B62D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製で、全体が円柱状又は円筒状に構成されており、
軸方向一部の径方向片側面に、軸方向に対して直角な方向に対し傾斜した状態で形成された、複数のラック歯と、径方向片側面のうちでこれら各ラック歯が形成された部分から軸方向に外れた部分に、これら各ラック歯と並んだ状態で形成された、1乃至複数のダミー歯とを備え、
軸方向に対し直交する仮想平面と前記ダミー歯の形成方向との成す角度が、同じく前記各ラック歯の形成方向との成す角度よりも小さいラック。
【請求項2】
金属製で、全体が円柱状又は円筒状に構成されており、
軸方向一部の径方向片側面に、軸方向に対して直角な方向に対し傾斜した状態で形成された、複数のラック歯と、径方向片側面のうちでこれら各ラック歯が形成された部分から軸方向に外れた部分に、これら各ラック歯と並んだ状態で形成された、1乃至複数のダミー歯とを備え、
軸方向に対し直交する仮想平面と、前記ダミー歯の幅方向両側縁のうち前記各ラック歯に遠い側の側縁との成す角度を、同じく近い側の側縁との成す角度よりも小さいラック。
【請求項3】
金属製で、全体が円柱状又は円筒状に構成されており、
軸方向一部の径方向片側面に、軸方向に対して直角な方向に対し傾斜した状態で形成された、複数のラック歯と、径方向片側面のうちでこれら各ラック歯が形成された部分から軸方向に外れた部分に、これら各ラック歯と並んだ状態で形成された、1乃至複数のダミー歯とを備え、
径方向片側面のうち、前記ダミー歯と軸方向に隣接する部分を、断面形状が部分円弧形の曲面により構成しているラック。
【請求項4】
金属製で、全体が円柱状又は円筒状に構成されており、
軸方向一部の径方向片側面に、軸方向に対して直角な方向に対し傾斜した状態で形成された、複数のラック歯と、径方向片側面のうちでこれら各ラック歯が形成された部分から軸方向に外れた部分に、これら各ラック歯と並んだ状態で形成された、1乃至複数のダミー歯とを備え、
前記ダミー歯の形成方向に関する中間部の1乃至複数箇所に、このダミー歯を軸方向に貫通する状態でスリットを設けているラック。
【請求項5】
請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したラックの製造方法であって、
円柱状又は円筒状の金属素材の軸方向一部の径方向片側面に平坦面状の被加工面を形成した後、ラック状の加工面を有するパンチ又は金型を、この被加工面に押し付ける事により、この被加工面を塑性変形させて、前記各ラック歯及び前記ダミー歯を形成する、
ラックの製造方法。
【請求項6】
ステアリングシャフトと、
このステアリングシャフトの回転に伴って回転駆動されるピニオンと、このピニオンと噛合するラックとを有するステアリングギヤユニットとを備える操舵装置であって、
前記ラックが、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したラックである、操舵装置。
【請求項7】
請求項6に記載した操舵装置を備える自動車。
【請求項8】
ステアリングシャフトと、
このステアリングシャフトの回転に伴って回転駆動されるピニオンと、このピニオンと噛合するラックとを有するステアリングギヤユニットとを備える操舵装置の製造方法であって、
前記ラックを、請求項5に記載したラックの製造方法により製造する、
操舵装置の製造方法。
【請求項9】
操舵装置を備える自動車の製造方法であって、
前記操舵装置を、請求項8に記載した操舵装置の製造方法により製造する、
自動車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤに組み込んで、軸方向の変位に伴ってタイロッドを押し引きする為のラック、及び、その製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば図8に示す様な自動車の操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、一般的には前輪)に舵角を付与する為の操舵装置では、ステアリングホイール1の操作に伴って回転するステアリングシャフト2の動きを、自在継手3、3及び中間シャフト4を介して、ステアリングギヤユニット5の入力軸6に伝達する。このステアリングギヤユニット5は、この入力軸6により回転駆動されるピニオンと、このピニオンと噛合したラックとを備える。この入力軸6と共にこのピニオンが回転すると、このラックが軸方向に変位し、その両端部に結合した1対のタイロッド7、7を押し引きし、前記操舵輪に所望の舵角を付与する。
【0003】
前記ステアリングギヤユニット5を構成するラックの径方向片側面の軸方向一部には、複数のラック歯を等間隔に設けている。この様なラックを、金属製の素材に切削加工を施す事により複数のラック歯を形成して造ると、製造コストが嵩む上、これら各ラック歯の強度及び剛性を確保し難い。これに対し、素材を塑性変形させる事で複数のラック歯を形成すれば、これら各ラック歯の加工に要する時間を短縮して、製造コストを低減でき、しかも、得られるラック歯の金属組織が緻密になる為、これら各ラック歯の強度及び剛性を確保し易い。この様に、ラック歯を塑性変形により加工するラックの製造方法に関する発明として従来から、特許文献1〜2に記載された発明が知られている。
【0004】
図9〜14は、このうちの特許文献1に記載されている、ラック及びその製造方法の従来例を示している。ラック9は、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属製で、全体を円柱状に形成されており、軸方向一部(図9〜11の左端寄り部分)の径方向片側面(図9、11の上面、図10の表側面)に塑性加工により形成された、複数のラック歯11、11を備える。尚、図示の例の場合には、前記ラック9のうちの軸方向一部で、これら各ラック歯11、11を形成した部分から周方向に外れた背面部分12の断面形状の曲率半径R12図12参照)を、前記ラック9のうちの軸方向残部(図9〜11の右側部分)である、断面円形の円杆部13の外周面の曲率半径r13図12参照)よりも大きく(R12>r13)している。この様な構造により、前記各ラック歯11、11の幅寸法、強度、剛性を、何れも十分に確保しつつ、これら各ラック歯11、11を形成した部分以外の外径が必要以上に大きくなるのを抑え、軽量に構成している。
【0005】
次に、上述の様なラック9の製造方法に就いて、図13〜14により説明する。
先ず、図13の(A)に示す様に、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材製で、円柱状又は円筒状の素材14を、受型15の上面に設けた、断面円弧形の凹溝部16内にセット(載置)する。次いで、図13の(B)に示す様に、この凹溝部16に沿って長い押圧パンチ17の先端面(下端面)により前記素材14をこの凹溝部16に向けて強く押圧する、据え込み加工を行う。この据え込み加工では、前記素材14の軸方向一部{前記各ラック歯11、11(図9〜12参照)を形成すべき部分}を、上下方向に押し潰すと共に、水平方向の幅寸法を拡げて、中間素材18とする。この中間素材18は、軸方向一部の外周面に、前記背面部分12(図9、11、12参照)となるべき部分円筒面部19と、断面の径方向に関してこの部分円筒面部19と反対側に存在する平坦面状の被加工面部20と、これら両面部19、20同士を連続させる、曲率半径が比較的小さい、1対の曲面部46、46とを備える。
【0006】
次いで、前記中間素材18を、前記受型15の凹溝部16から取り出して、図13の(C)に示す様に、ダイス21に設けた保持孔22の底部23に挿入(セット)する。この保持孔22は、U字形の断面形状を有し、この底部23の曲率半径は、前記受型15の凹溝部16の内面の曲率半径と、ほぼ一致している。又、前記保持孔22の1対の内側面24、24は、互いに平行な平面としている。更に、この保持孔22の上端開口部には、上方に向かう程互いの間隔が拡がる方向に傾斜した、1対のガイド傾斜面部25、25を設けている。
【0007】
前記中間素材18を、前記ダイス21の保持孔22にセットしたならば、次いで、図13の(C)→(D)に示す様に、この保持孔22内に歯成形用パンチ26を挿入し、この歯成形用パンチ26により、前記中間素材18を前記保持孔22内に強く押し込む。この歯成形用パンチ26の加工面(下面)には、得るべきラック歯11、11に見合う形状の、成形用の波形凹凸を設けている。又、前記中間素材18の外周面は、前記保持孔22の内面により、前記各ラック歯11、11を形成すべき前記被加工面部20を除き、拘束されている。この為、前記歯成形用パンチ26により前記中間素材18を前記保持孔22内に強く押し込む事で、この中間素材18のうちの被加工面部20が、前記波形凹凸に倣って塑性変形し、図13の(D)及び図14の(A)に示す様なラック歯11、11を有する、素ラック27に加工される。但し、この状態での素ラック27は、完成状態のラック9(図9〜12参照)に比べて、形状精度及び寸法精度が不十分であり、前記各ラック歯11、11の端縁も尖ったままである。又、これら各ラック歯11、11の加工に伴って(歯底となるべき部分から)押し出された余肉は、前記保持孔22の1対の内側面24、24に強く押し付けられる為、前記素ラック27の左右両側面には、互いに平行な逃げ平坦面部28、28が形成される。
【0008】
そこで、前記歯成形用パンチ26を上昇させてから、前記素ラック27を前記保持孔22から取り出し、図13の(E)に示す様に、サイジング用ダイス29の上面に形成したサイジング用凹凸面部30に載置する。この際、前記素ラック27を上下反転させる。このサイジング用凹凸面部30は、歯の端縁の面取り部を含め、得るべきラック歯11、11の形状に見合う(完成後の形状に対して凹凸が反転した)形状を有する。そして、押型31により、図13の(E)→(F)に示す様に、前記素ラック27のラック歯11、11を形成した部分を、前記サイジング用凹凸面部30に向け、強く押し付ける。
【0009】
前記押型31の下面には、完成後のラック9の背面部分12の曲率半径R12図12参照)に一致する曲率半径を有する押し凹溝32を形成しており、前記素ラック27は、前記背面部分12となるベき部分をこの押し凹溝32に嵌合させた状態で、前記サイジング用凹凸面部30に向け強く押圧される。この為、前記図13の(F)に示した、前記サイジング用ダイス29と前記押型31とを十分に近付けた状態で、前記各ラック歯11、11が、図14の(B)に示した完成後の状態(形状及び寸法が適正になり、各歯の端縁に面取りが設けられた状態)になると同時に、前記背面部分12に関しても、形状及び寸法が適正になる。尚、この様にして行うサイジングに伴って押し出された余肉は、前記両逃げ平坦面部28、28部分に集まる。従って、完成後のラック9には、これら両逃げ平坦面部28、28は、殆ど残らない。但し、余肉が前記サイジング用凹凸面部30や前記押し凹溝32の内面を、極端に強く押圧する事はないので、前記サイジングの加工荷重を低く抑えられるだけでなく、前記サイジング用ダイス29及び前記押型31の耐久性を確保し易い。
【0010】
上述の様な特許文献1に記載された構造を含め、従来のラックの製造方法の場合、次の様な問題を生じる可能性がある。即ち、図13の(C)→(D)に示す様に、歯成形用パンチ26により中間素材18を保持孔22内に強く押し込む際には、この歯成形用パンチ26の押し付けに伴って、この中間素材18を構成する金属材料の一部が、ラック歯11、11を形成すべき部分の軸方向端部から軸方向外方(前記歯成形用パンチ26により押圧される部分から軸方向に外れた部分)に向け移動する。この結果、図15に示す様に、前記各ラック歯11、11のうちで、軸方向端部(図15の右端部)に存在するラック歯11の歯丈が小さくなり(歯高が低くなり)、完成後のラックをステアリングギヤユニット5(図8参照)に組み付けた場合に、前記軸方向端部で、前記各ラック歯11、11と入力軸6(図8参照)の外周面に形成したピニオンとの噛合状態を適正に維持できない可能性がある。
【0011】
これに対し、径方向片側面のうちで、ラック歯が形成された部分から軸方向に外れた部分に、これら各ラック歯と並んだ状態で、これら各ラック歯よりも歯丈が小さいダミー歯(余肉部)を設ける事が、従来から行われている。図16〜19は、特許文献2に記載されている、ダミー歯を備えるラック及びその製造方法の従来例を示している。ラック9aは、軸方向一部の径方向片側面(図16の表側面)に複数のラック歯11a、11aを、塑性加工により、このラック9aの中心軸Oに対して直角な方向(図16の上下方向)に対し傾斜した方向に形成している。又、このラック9aの径方向片側面のうちで、前記各ラック歯11a、11aが形成された部分の軸方向片側(図16の右側)に存在する部分に、これら各ラック歯11a、11aと並んだ状態で、これら各ラック歯11a、11aよりも歯丈が小さい複数(図示の例の場合、2個)のダミー歯33、33を、これら各ラック歯11a、11aの形成方向と同方向に設けている。この様なダミー歯33、33は、ステアリングギヤユニット5(図8参照)の使用状態に於いても、入力軸6の外周面に形成したピニオンと噛合する事がない。
【0012】
上述の様なラック9aを造るには、先ず、金属製の円筒状部材に塑性加工を施す事により、軸方向一部の径方向片側面(図17〜19の上面)に平坦面状の被加工面部34を有する円筒状の素材35を得る。尚、図示の例の場合には、この素材35のうちの軸方向一部で、前記被加工面部34から周方向に外れた部分である小径側円筒部36の断面形状の曲率半径を、前記素材35のうちの軸方向残部である大径側円筒部37の断面形状の曲率半径よりも小さくしている。次に、図17に示す様に、前記素材35の被加工面部34を、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33、33に見合う凹凸形状を有する、金型38に突き当てる。即ち、この金型38は、前記各ラック歯11a、11aに見合う形状を有するラック歯成形用凹部39、39と、前記各ダミー歯33、33に見合う形状を有するダミー歯成形用凹部40、40とを、それぞれ下面から凹んだ状態で設けている。次いで、図18に示す様に、径方向片側面に凸部41、41を設けた芯金42を前記素材35内に、軸方向片側(図17〜19の右側)開口から挿入し、前記小径側円筒部36の内側に圧入する。これにより、前記素材35を構成する金属材料のうちで、前記被加工面部34の内径側に存在する金属材料を、前記各ラック歯成形用凹部39、39及び前記各ダミー歯成形用凹部40、40内に移動させる。更に、図19に示す様に、前記芯金42をこの芯金42よりも外径が大きい芯金42aと交換し、この芯金42aを前記小径側円筒部36の内側に圧入する事で、前記被加工面部34の内径側に存在する金属材料を、前記各ラック歯成形用凹部39、39及び前記各ダミー歯成形用凹部40、40内に充填させ、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33、33を形成する。
【0013】
上述の様な特許文献2に記載されたラック及びその製造方法の場合、ラック歯11a、11aの形状精度を確保し易くする面からは、改良の余地がある。
即ち、前記ラック9aは、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33、33を、このラック9aの軸方向に対し直交する仮想平面に対し傾斜した方向に形成している。この為、前記各ダミー歯33、33のうち、軸方向片側のダミー歯33の軸方向片側に隣接する部分に存在する平坦面部43は、前記ラック9aの中心軸Oに対して直角な方向(この平坦面部43と平行な仮想平面上で、この中心軸Oに直交する方向)の一方から他方(図16の上方から下方)に向かう程幅寸法(このラック9aの軸方向に関する寸法)が狭くなる台形状となっている。換言すれば、前記平坦面部43のうち、前記ラック9aの中心軸Oに対して直角な方向に関する一端縁(図16の上端縁)の軸方向寸法Lが、同じく他端縁(図16の下端縁)の軸方向寸法Lよりも大きくなっている(L>L)。ここで、鍛造等の塑性加工の際に、金属材料が移動する事に対する抵抗(流動抵抗)は、この金属材料の移動方向に平行な平坦面の近傍部分でそれ以外の部分よりも小さい(金属材料が移動し易い)。要するに、図18、19に示す様に、前記素材35の小径側円筒部36の内側に、前記芯金42、42aを圧入する事で、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33、33を形成する際に、前記素材35を構成する金属材料が移動する事に対する抵抗は、前記平坦面部43の近傍部分のうち、前記直角な方向に関する一端側で、同じく他端側よりも小さくなる。従って、前記特許文献2に記載されたラックの製造方法の場合、前記芯金42、42aを圧入する事で前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33、33を形成する際に、前記平坦面部43の近傍部分の一端側で、前記金属材料が、前記被加工面部34の内径側から前記大径側円筒部37側に向けて移動し易くなって、前記金属材料を、前記各ラック歯成形用凹部39、39及び前記各ダミー歯成形用凹部40、40内に充填し難くなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−138864号公報
【特許文献2】特開2014−5839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、ラック歯の形状精度を確保し易い、ラックの構造及びその製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のラック及びその製造方法の対象となるラックは、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属製で、全体が円柱状又は円筒状に構成されており、複数のラック歯と、1乃至複数のダミー歯とを備える。
このうちのラック歯は、前記ラックの軸方向一部の径方向片側面(外周面の一部)に、軸方向に対して直角な方向に対し傾斜した状態で形成されている。この様なラック歯は、軸方向一部の径方向片側面に、鍛造等の塑性加工を施す事により形成されるものである。
前記ダミー歯は、前記ラックの径方向片側面のうちで前記各ラック歯が形成された部分から軸方向に外れた部分に、これら各ラック歯と並んだ状態で形成されている。この様なダミー歯は、これら各ラック歯を前記塑性加工により形成する際に同時に(同一工程内で)形成されるものである。
【0017】
特に請求項1に記載したラックの場合には、軸方向に対し直交する仮想平面と前記ダミー歯の形成方向との成す角度を、同じく前記各ラック歯の形成方向との成す角度よりも小さくしている。
【0018】
又、請求項2に記載したラックの場合には、軸方向に対し直交する仮想平面と、前記ダミー歯の幅方向両側縁(ラックの軸方向に関する両側縁)のうち前記各ラック歯に遠い側の側縁との成す角度を、同じく近い側の側縁との成す角度よりも小さくしている。これにより、前記ダミー歯の歯厚(軸方向に関する厚さ寸法)を、このダミー歯の形成方向に関して一方から他方に向かう程小さくしている。
【0019】
又、請求項3に記載したラックの場合には、このラックの径方向片側面のうち、前記ダミー歯と軸方向に隣接する部分(ダミー歯同士の間に存在する歯底面を含む)を、断面形状が部分円弧形の曲面により構成している。
この様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、前記ダミー歯の歯面及び歯先面を、それぞれ断面形状が部分円弧形の曲面により構成する。
【0020】
又、請求項4に記載したラックの場合には、前記ダミー歯の形成方向に関する中間部の1乃至複数箇所に、このダミー歯を軸方向に貫通する状態でスリットを設けている。
この様な請求項4に記載した発明を実施する場合に具体的には、前記各ラック歯が形成された部分と軸方向に隣接する部分に存在する平面部分の面積が、前記ラックの中心軸を含みこの平面部分に直交する仮想平面の両側部分でほぼ同じとなる様に、前記スリットの個数や形状、幅寸法等を調整する。
【0021】
尚、上述の様な請求項1〜4に記載した各発明は、単独で実施する他、組み合わせて実施する事も可能である。何れにしても、前記各ラック歯が形成された部分と軸方向に隣接する部分に存在する平面部分の面積が、前記ラックの中心軸を含みこの平面部分に直交する仮想平面の両側部分でほぼ同じとなるか、或いは、前記平面部分が、前記ラックの軸方向に関して長く連続しない様に、前記ダミー歯の形状を工夫している。
【0022】
又、請求項5に記載したラックの製造方法は、上述の様な請求項1〜4に記載したラックを造る為、円柱状又は円筒状の金属素材の軸方向一部の径方向片側面に平坦面状の被加工面部を形成した後、ラック状の加工面を有するパンチ又は金型を、この被加工面部に押し付ける事により、この被加工面部を塑性変形させて、前記各ラック歯及び前記ダミー歯を同時に(同一行程で)形成する。
【発明の効果】
【0023】
上述の様に構成する本発明のラック及びその製造方法によれば、ダミー歯の形状を工夫する事で、このラックの径方向片側面のうち、ラック歯が形成された部分と軸方向に隣接する部分に存在する平面部分の面積を、前記ラックの中心軸を含みこの平面部分に直交する仮想平面の両側部分でほぼ同じにするか、或いは、この平面部分が、軸方向に長く連続しない様にしている。この為、前記各ラック歯及びダミー歯を塑性加工により形成する際に、前記ラックを構成する金属材料が移動する事に対する抵抗(流動抵抗)を、前記仮想平面の両側でほぼ同じにできて、前記各ラック歯の形状精度を確保し易くできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、要部拡大平面図。
図2】同第2例を示す、図1と同様の図。
図3】同第3例を示す、図1と同様の図。
図4図3のa−a断面図。
図5図3のb−b断面図。
図6】本発明の実施の形態の第4例を示す、図1と同様の図。
図7】ダミー歯に形成したスリットを示す、要部拡大斜視図。
図8】本発明の対象となるラックを組み込んだステアリングギヤを備えた自動車用操舵装置の従来構造の1例を示す部分断面図。
図9】ラックの従来構造の第1例を示す斜視図。
図10図9のc矢視図。
図11】同d矢視図。
図12図11の拡大e−e断面図。
図13】従来構造に係るラックの製造方法の第1例を工程順に示す、図12と同方向から見た断面図。
図14】サイジング前後のラック歯の形状を示す部分斜視図。
図15】従来のラックの製造方法の第1例の問題点を説明する為の断面図。
図16】ラックの従来構造の第2例を示す、要部拡大平面図。
図17】この従来構造の第2例のラックの製造方法を示す図であり、金型を素材の平坦面部に突き当てた状態で示す断面図。
図18】同じく小径側円筒部の内側に芯金を圧入した状態で示す断面図。
図19】同じく小径側円筒部の内側に、外径が大きい芯金を圧入した状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含め、本発明の特徴は、ダミー歯33a、33aの形状を工夫する事により、ラック歯11a、11a及びこれら各ダミー歯33a、33aを塑性加工により形成する際に、ラック9bを構成する金属材料が移動する事に対する抵抗(流動抵抗)を調整して、前記各ラック歯11a、11aの形状精度を確保し易くする点にある。
【0026】
本例のラック9bは、軸方向一部の径方向片側面(図1の表側面)に複数のラック歯11a、11aを、このラック9bの軸方向に直交する仮想平面に対し傾斜した状態で形成している。又、前記ラック9bのうちで前記各ラック歯11a、11aが形成された部分の軸方向片側(図1の右側)に位置する部分に、これら各ラック歯11a、11aと並んだ状態で、これら各ラック歯11a、11aよりも歯丈が小さい、複数(図示の例の場合、2個)のダミー歯33a、33aを設けている。この様なダミー歯33a、33aは、前記ラック9bを組み込んだステアリングギヤユニット5(図8参照)の使用状態に於いても、入力軸6の外周面に形成したピニオン歯と噛合する事はない。
【0027】
特に本例のラック9bは、径方向片側面のうち、前記各ラック歯11a、11aが形成された部分よりも軸方向片側に存在する、図1に斜格子を付して示す平面部分(これら各ラック歯11a、11aと前記各ダミー歯33a、33aとの間部分、これら各ダミー歯33a、33a同士の間部分、及び、これら各ダミー歯33a、33aと後述する傾斜面部45との間部分)が、前記ラック9bの軸方向に長く連続しない(軸方向に連続する長さが、前述の図16に示した従来構造のラック9aの平坦面部43よりも短くなる)様にしている。この為に、本例の場合には、前記ラック9bの軸方向に対し直交する仮想平面と、前記各ダミー歯33a、33aの形成方向との成す角度θ、θを、同じくラック歯11a、11aの形成方向との成す角度φよりも小さくしている。更に、本例の場合には、前記ラック9bの軸方向に対し直交する仮想平面と、前記各ダミー歯33a、33aのうち軸方向片側の(前記各ラック歯11a、11aから遠い側に存在する)ダミー歯33aの形成方向との成す角度θを、同じく軸方向他側の(前記各ラック歯11a、11aに近い側に存在する)ダミー歯33aの形成方向との成す角度θよりも小さくしている(φ>θ>θ)。これにより、前記ラック9bの径方向片側面のうちで、前記軸方向片側のダミー歯33aの軸方向片側に隣接する部分に存在する平坦面部43aの形状を、前述の図16に示した従来構造のラック9aの平坦面部43よりも長方形に近くしている。即ち、前記平面部分のうちで軸方向に関する寸法が最も長い部分である、前記平坦面部43aのうち前記ラック9bの中心軸Oに対して直角な方向(この平坦面部43aと平行な仮想平面上で、この中心軸Oに直角な方向)に関する一端縁(図1の上側縁)の軸方向寸法LA1を、前記従来構造に係るラック9aの平坦面部43のうちこのラック9aの中心軸Oに対して直角な方向に関する一端縁(図16の上端縁)の軸方向寸法Lよりも小さくしている(LA1<L)。又、前記平坦面部43aの他端縁(図1の下側縁)の軸方向寸法LB1は、前記従来構造に係るラック9aの平坦面部43の他端縁の軸方向寸法Lと同じにしている(LB1=L)。尚、前記ラック9bの径方向片側面のうち、前記平坦面部43aと、このラック9bのうちの軸方向残部である、断面円形の円杆部44とは、弓形の傾斜面部45により連続させている。尚、本例の場合、前記各ダミー歯33a、33a同士の間部分に存在する平坦面部43b、及び、前記軸方向他側のダミー歯33aの軸方向他側に隣接する部分に存在する平坦面部43cを、前記中心軸Oに対して直角な方向の一方から他方に向かう程幅寸法が狭くなる台形状としている。即ち、前記平坦面部43aの一端縁の軸方向寸法LA1を、前記従来構造に係るラック9aの平坦面部43の一端縁の軸方向寸法Lよりも小さくした分、前記平坦面部43bの一端縁の軸方向寸法LA2、及び、前記平坦面部43cの一端縁の軸方向寸法LA3を大きくしている。これに対し、前記平坦面部43bの他端縁の軸方向寸法LB2は、前記従来構造に係るラック9aのダミー歯33、33同士の間部分の他端縁の軸方向寸法と同じとし、前記平坦面部43cの他端縁の軸方向寸法LB3は、同じく軸方向他側のダミー歯33の軸方向他側に隣接する部分の他端縁の軸方向寸法と同じとしている。これにより、本例の場合には、前記平面部分の面積を、前記従来構造のラック9aとほぼ同じとしたまま、この平面部分のうち軸方向に連続する部分の軸方向に関する寸法(最も長い寸法、即ち、前記平坦面部43aの一端縁の軸方向寸法LA1)を、前記従来構造のラック9aよりも短くしている。
【0028】
上述の様な本例のラック9bを、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材製で、円柱状又は円筒状の素材に塑性加工(冷間鍛造)を施す事により造る方法に就いては、基本的には、前述の図13に示した従来方法の第1例、又は、図17〜19に示した従来方法の第2例と同様である。
即ち、例えば図13の(A)→(B)に示す様に、円柱状又は円筒状の素材14に所定の塑性加工を施して得た中間素材18を、同図の(C)→(D)に示す様に、ダイス21の保持孔22にセットし、この保持孔22内に歯成形用パンチ26を挿入し、この歯成形用パンチ26により、前記中間素材18を前記保持孔22内に強く押し込む。本例のラック9bの製造方法に使用する歯成形用パンチ26の加工面(下面)には、得るべき前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33a、33aに見合う形状の、成形用の波形凹凸部を設けている。この様にして得た素ラック27に、図13の(E)→(F)に示す様に、前記各ラック歯11a、11aの形状を整えるサイジングを施して前記ラック9bを得る。尚、このサイジングに使用するサイジング用ダイス29の上面に形成したサイジング用凹凸面部30を、得るべき前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33a、33aに見合う形状としている。
【0029】
或いは、図17〜19に示す様に、円筒状の素材35の被加工面34に、金型38を突き当る。この金型38には、前記各ラック歯11a、11aに見合う形状を有するラック歯成形用凹部39、39と、前記各ダミー歯33a、33aに見合う形状を有するダミー歯成形用凹部40、40とを、それぞれ下面から凹む状態で設けている。この状態で、図18〜19に示す様に、前記素材35の内側に、径方向片側面に凸部41、41を設けた芯金42、42aを挿入して、この素材35を構成する金属材料のうちで、前記被加工面部34の内径側に存在する金属材料を、前記各ラック歯成形用凹部39、39及び前記各ダミー歯成形用凹部40、40内に移動させ、更に充填させる。これにより、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33a、33aを形成して、前記ラック9bを造る。
【0030】
何れの方法を採用した場合でも、本例のラック9b及びその製造方法によれば、前記各ラック歯11a、11aの形状精度を確保し易くする事ができる。
即ち、本例の場合、前記ラック9bの軸方向に対し直交する仮想平面と、前記各ダミー歯33a、33aの形成方向との成す角度θ、θを、同じくラック歯11a、11aの形成方向との成す角度φよりも小さくしている。これにより、前記ラック9bの径方向片側面のうち、前記各ラック歯11a、11aが形成された部分よりも軸方向片側に存在する平面部分が、前記ラック9bの軸方向に関して長く連続しない様にしている。より具体的には、前記平坦面部43aの一端縁の軸方向寸法LA1を、前記従来構造に係るラック9aの平坦面部43の一端縁の軸方向寸法Lよりも小さくしている(LA1<L)。これにより、前記平坦面部43aの近傍部分のうちの一端側での、前記ラック9bを構成する金属材料が軸方向に移動する事に対する抵抗(流動抵抗)を、前記従来構造に係るラック9aの平坦面部43の近傍部分のうちの一端側での流動抵抗よりも大きくしている。従って、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33a、33aを形成する際に、前記金属材料が、これら各ラック歯11a、11a及びダミー歯33a、33aを形成すべき部分の内径側から、前記円杆部44側に向けて移動し難くできる。即ち、前記金属材料が、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33a、33aを形成すべき部分に向けて移動し易くできる。この結果、前記金属材料を、当該部分に充填し易くなり、前記各ラック歯11a、11aの形状精度を確保できる。尚、本例の場合には、これら各ラック歯11a、11aの形状精度を確保し易い製造方法を、歯成形用パンチ26又は金型38の加工面に形成した波形凹凸部の形状を変更するだけで実現している。従って、前記ラック9bの製造コストが徒に増大するのを防止する事ができる。
【0031】
尚、本例の場合、前記ラック9bの軸方向に対し直交する仮想平面と、前記軸方向片側のダミー歯33aの形成方向との成す角度θを、同じく軸方向他側のダミー歯33aの形成方向との成す角度θよりも小さくする(φ>θ>θ)事により、前記平面部分に、前記ラック9bの軸方向に関する寸法が、前記平坦面部43aの一端縁よりも長い部分が存在しない様にしている。この様に本例の場合には、前記平面部分の面積は、前記従来構造のラック9aとほぼ同じとしたまま、この平面部分のうち軸方向に連続する部分の軸方向に関する寸法(最も長い寸法)を、この従来構造のラック9aよりも短くする事で、前記流動抵抗を調整している(前記ラック9bの中心軸Oに対して直角な方向の一端側部分と他端側部分とで、前記流動抵抗の差を小さくしている)。
【0032】
尚、本例を実施する場合に、前記角度θが0度となる様に、前記軸方向片側のダミー歯33aを形成する(この軸方向片側のダミー歯33aを、前記ラック9bの軸方向に対し直角な方向に形成する)、即ち、前記平坦面部43aを長方形にしても良い。この平坦面部43aを長方形にすれば、この平坦面部43aの面積を、前記ラック9bの中心軸Oを通りこの平坦面部43aに直交する仮想平面αの両側部分で同じにする事ができ、前記流動抵抗もこれら両側部分でほぼ同じにする事ができる。この結果、前記各ラック歯11a、11aの形状精度をより確保し易くできる。
又、前記流動抵抗は、前記ラック9bの軸方向に対し直交する仮想平面と、前記各ダミー歯33a、33aの形成方向との成す角度θ、θが小さい程大きくなる。本例の場合、これら各角度θ、θを、前記仮想平面と前記ラック歯11a、11aの形成方向との成す角度φよりも小さくしている(φ>θ>θ)為、前記平面部分の流動抵抗を、前述の図16に示した従来構造の場合よりも大きくできる。この結果、前記金属材料を、前記円杆部44側に向けて移動し難くできて、この面からも前記各ラック歯11a、11aの形状精度を確保できる。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図2は、請求項2、5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のラック9cは、このラック9cの軸方向に対し直交する仮想平面と、複数のダミー歯33b、33bの幅方向両側縁(このラック9cの軸方向に関する両側縁)のうち片側縁(ラック歯11a、11aから遠い側の側縁)との成す角度を、同じく他側縁(これら各ラック歯11a、11aに近い側の側縁)との成す角度よりも小さくしている。換言すれば、前記各ダミー歯33b、33bの歯厚を、これら各ダミー歯33b、33bの形成方向に関して一方から他方(図2の上方から下方)に向かう程小さくしている。これにより、前記ラック9cの径方向片側面のうち、前記各ラック歯11a、11aが形成された部分よりも軸方向片側に存在する平面部分が、前記ラック9cの軸方向に関して長く連続しない様にしている。更に、本例のラック9cは、前記各ラック歯11a、11aが形成された部分よりも軸方向片側に存在する平面部分の軸方向長さを、上述した実施の形態の第1例のラック9bの場合と比較して短くできる。この為、前記ラック9cを塑性加工により造る際に、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33b、33bを形成すべき部分の内径側から円杆部44側への前記ラック9cを構成する金属材料の移動をより少なく抑える事ができる。この結果、前記各ラック歯11a、11aの形状精度をより確保し易くできる。尚、前記各ダミー歯33b、33bのうち、軸方向片側(図2の右側)のダミー歯33bの片側縁は、前記仮想平面と平行にしても良い。
その他の部分の構成及び作用は、前記実施の形態の第1例と同様である。
【0034】
[実施の形態の第3例]
図3〜5は、請求項3、5に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例のラック9dは、複数のダミー歯33c、33cの歯面、歯先面及び歯底面{これら各ダミー歯33c、33cのうち軸方向片側(図3〜4の右側)のダミー歯33cの歯元と傾斜面部45との連続部、及び、同じく軸方向他側(図3〜4の左側)のダミー歯33cの歯元とこの軸方向他側のダミー歯33cの軸方向他側に隣接する部分との連続部を含む}を、これら各ダミー歯33c、33cの形成方向に直交する仮想平面に関する断面形状が部分円弧形の曲面により構成している。これにより、前記ラック9dの径方向片側面のうち、ラック歯11a、11aが形成された部分よりも軸方向片側に存在する平面部分が、前記ラック9dの軸方向に関して長く連続しない様にしている。更に、本例の場合には、前記各ダミー歯33c、33cの歯面、歯先面及び歯底面を曲面としている為、これら各ダミー歯33c、33cを塑性加工により形成するのに要する荷重を小さく抑える事ができる。従って、前記ラック9dの製造コストの低減を図れる。尚、本例の場合、前記各ダミー歯33c、33cの形成方向を、前記各ラック歯11a、11aの形成方向と平行にしている。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様である。
【0035】
[実施の形態の第4例]
図6〜7は、請求項4〜5に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例のラック9eは、複数のダミー歯33d、33dの形成方向中間部2箇所位置に、これら各ダミー歯33d、33dを幅方向に貫通する状態で、スリット47a、47bを形成している。これら各スリット47a、47bのうち、前記各ダミー歯33d、33dの形成方向一端寄り部分(図6の上側)に形成されたスリット47a、47aの幅寸法を、同じく他端寄り部分(図6の下側)に形成されたスリット47b、47bの幅寸法よりも小さくしている。これにより、前記ラック9eの径方向片側面のうち、ラック歯11a、11aが形成された部分よりも軸方向片側(図6の左側)に存在する平面部分(図6に斜格子で示した部分であって、前記各ラック歯11a、11aと前記各ダミー歯33d、33dとの間部分、これら各ダミー歯33d、33d同士の間部分、及び、これら各ダミー歯33d、33dと傾斜面部45との間に存在する平坦面部43、並びに、前記各スリット47a、47bの底面)の面積を、前記ラック9eの中心軸Oを含みこの平面部分に直交する仮想平面αの両側部分でほぼ同じにしている。これにより、前記各ラック歯11a、11a及び前記各ダミー歯33d、33dを形成する際に、前記ラック9eを構成する金属材料が、円杆部44側に向けて移動する事に対する抵抗を、前記仮想平面αの両側部分でほぼ同じにする事ができる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述した実施の形態の各例を実施する場合には、矛盾を生じない限り、これら各例を適宜組み合わせて実施する事もできる。この場合には、ラック歯が形成された部分と軸方向に隣接する部分に存在する平面部分の面積が、中心軸を含みこの平面部分に直交する仮想平面の両側部分でほぼ同じとなるか、或いは、前記平面部分が、ラックの軸方向に関して長く連続しない様に、ダミー歯の形状を工夫する。
【符号の説明】
【0037】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 中間シャフト
5 ステアリングギヤユニット
6 入力軸
7 タイロッド
8 ステアリングコラム
9、9a〜9e ラック
11、11a ラック歯
12 背面部分
13 円杆部
14 素材
15 受型
16 凹溝部
17 押圧パンチ
18 中間素材
19 部分円筒面部
20 被加工面部
21 ダイス
22 保持孔
23 底部
24 内側面
25 ガイド傾斜面部
26 歯成形用パンチ
27 素ラック
28 逃げ平坦面部
29 サイジング用ダイス
30 サイジング用凹凸面部
31 押型
32 押し凹溝
33、33a〜33d ダミー歯
34 被加工面部
35 素材
36 小径側円筒部
37 大径側円筒部
38 金型
39 ラック歯成形用凹部
40 ダミー歯成形用凹部
41 凸部
42、42a 芯金
43、43a 平坦面部
44 円杆部
45 傾斜面部
46 曲面部
47a、47b スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19