特許第6202096号(P6202096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202096
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】熱処理鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170914BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20170914BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20170914BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20170914BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C22C38/00 301S
   C22C38/00 301W
   C22C38/60
   C21D9/46 G
   C21D9/46 T
   C21D9/00 A
   C21D1/18 A
   C21D1/18 C
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-521511(P2015-521511)
(86)(22)【出願日】2014年6月6日
(86)【国際出願番号】JP2014065151
(87)【国際公開番号】WO2014196645
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-120973(P2013-120973)
(32)【優先日】2013年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】田畑 進一郎
(72)【発明者】
【氏名】匹田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 啓達
(72)【発明者】
【氏名】水井 直光
【審査官】 蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102031456(CN,A)
【文献】 特開2004−353026(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01939308(EP,A1)
【文献】 特開2012−077336(JP,A)
【文献】 特開2011−052320(JP,A)
【文献】 特開2011−052321(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/120692(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/118459(WO,A1)
【文献】 Shin-ichiro Tabata、外3名,Effects of Microstructures on Yield Strength of Hot-Pressed Steel Sheets,材料とプロセス,日本,2012年 9月 1日,Vol.25 No.2,Page.253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 〜 38/60
C21D 9/46
C21D 1/18
C21D 9/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.16%〜0.38%、
Mn:0.6%〜1.5%、
Cr:0.4%〜2.0%、
Ti:0.01%〜0.10%、
B:0.001%〜0.010%、
Si:0.20%以下、
P:0.05%以下、
S:0.05%以下、
N:0.01%以下、
Ni:0%〜2.0%、
Cu:0%〜1.0%、
Mo:0%〜1.0%、
V:0%〜1.0%、
Al:0%〜1.0%、
Nb:0%〜1.0%、
REM:0%〜0.1%、
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
残留オーステナイト及びマルテンサイトの両方を含み、
残留オーステナイト:1.5体積%以下、
残部:マルテンサイト
で表される組織を有することを特徴とする熱処理鋼材。
【請求項2】
前記化学組成において、C:0.16〜0.25%であることを特徴とする請求項1に記載の熱処理鋼材。
【請求項3】
前記化学組成において、Mn:0.6%〜1.2%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理鋼材。
【請求項4】
降伏比:0.70以上
で表される機械特性を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱処理鋼材。
【請求項5】
前記化学組成において、
Ni:0.1%〜2.0%、
Cu:0.1%〜1.0%、
Mo:0.1%〜1.0%、
V:0.1%〜1.0%、
Al:0.01%〜1.0%、
Nb:0.01%〜1.0%、若しくは
REM:0.001%〜0.1%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の熱処理鋼材。
【請求項6】
鋼板をAc3点以上の温度域に加熱する工程と、
次いで、前記鋼板を臨界冷却速度以上の冷却速度でMs点まで冷却する工程と、
次いで、前記鋼板をMs点から100℃まで35℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する工程と、
を有する熱処理鋼材の製造方法であって
前記鋼板は、
質量%で、
C:0.16%〜0.38%、
Mn:0.6%〜1.5%、
Cr:0.4%〜2.0%、
Ti:0.01%〜0.10%、
B:0.001%〜0.010%、
Si:0.20%以下、
P:0.05%以下、
S:0.05%以下、
N:0.01%以下、
Ni:0%〜2.0%、
Cu:0%〜1.0%、
Mo:0%〜1.0%、
V:0%〜1.0%、
Al:0%〜1.0%、
Nb:0%〜1.0%、
REM:0%〜0.1%、
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
前記熱処理鋼材は、
残留オーステナイト及びマルテンサイトの両方を含み、
残留オーステナイト:1.5体積%以下、
残部:マルテンサイト
で表される組織を有することを特徴とする熱処理鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記化学組成において、C:0.16〜0.25%であることを特徴とする請求項に記載の熱処理鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記化学組成において、Mn:0.6%〜1.2%であることを特徴とする請求項6又は7に記載の熱処理鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記化学組成において、
Ni:0.1%〜2.0%、
Cu:0.1%〜1.0%、
Mo:0.1%〜1.0%、
V:0.1%〜1.0%、
Al:0.01%〜1.0%、
Nb:0.01%〜1.0%、若しくは
REM:0.001%〜0.1%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の熱処理鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記鋼板をAc3点以上の温度域に加熱してから前記鋼板の温度がMs点に達するまでの間に成形を行う工程を有することを特徴とする請求項乃至のいずれか1項に記載の熱処理鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられる熱処理鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板には、燃費及び耐衝突特性の向上が要請されている。このため、自動車用鋼板の高強度化が図られている。しかし、一般的に、強度の向上に伴ってプレス成形性等の延性が低下するため、複雑な形状の部品を製造することが困難になる。例えば、延性の低下に伴って加工度が高い部位が破断したり、スプリングバック及び壁反りが大きくなって寸法精度が劣化したりする。したがって、高強度鋼板、特に、780MPa以上の引張強さを有する鋼板をプレス成形することによって部品を製造することは容易ではない。プレス成形ではなく、ロール成形によれば、高強度の鋼板を加工しやすいが、その適用先は長手方向に一様な断面を有する部品に限定される。
【0003】
高強度鋼板において高い成形性を得ることを目的とした熱間プレスとよばれる方法が特許文献1に記載されている。熱間プレスによれば、高強度鋼板を高い精度で成形し、高強度の熱間プレス鋼板部材を得ることができる。
【0004】
安定した強度及び靱性の取得を目的とした熱間成形法が特許文献2に記載され、成形性及び焼入れ性の向上を目的とした鋼板が特許文献3に記載されている。強度及び成形性の両立を目的とした鋼板が特許文献4に記載され、同一鋼種から複数の強度レベルの鋼板を製造することを目的とした技術が特許文献5に記載され、成形性及び耐ねじり疲労特性の向上を目的とした鋼管の製造方法が特許文献6に記載されている。熱間成形時の冷却速度を向上させる技術が特許文献7に記載されている。非特許文献1に、焼入れ時の冷却速度と熱間プレス鋼材の硬さ及び組織との関係が記載されている。
【0005】
ところで、自動車の耐衝突特性は、引張強度の他に、引張強度に相応した降伏強度及び靱性にも依存する。例えば、バンパーレインフォース及びセンターピラー等においては、塑性変形が極力抑制され、たとえ変形しても早期に破断しないことが求められている。
【0006】
しかしながら、上記の従来の技術によって、優れた耐衝突特性を得ることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−102980号公報
【特許文献2】特開2004−353026号公報
【特許文献3】特開2002−180186号公報
【特許文献4】特開2009−203549号公報
【特許文献5】特開2007−291464号公報
【特許文献6】特開2010−242164号公報
【特許文献7】特開2005−169394号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鉄と鋼 Vol. 96 (2010) No. 6 378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた耐衝突特性を得ることができる熱処理鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ホットスタンプ等の熱処理を経て製造される従来の熱処理鋼材において、十分な引張強度、それに相応した降伏強度及び靱性を得ることが困難である原因を究明すべく鋭意検討を行った。この結果、適切な熱処理が行われていても熱処理鋼材の組織に残留オーステナイトが不可避的に含有されてしまうこと、残留オーステナイトの体積率が高いほど降伏強度が低くなること、降伏強度の低下は主として残留オーステナイトにより引き起こされていることを見出した。
【0011】
本発明者らは、残留オーステナイトの抑制には、焼入れの際の冷却速度、特にマルテンサイト変態点(Ms点)以下の温度範囲での冷却速度が重要であることも見出した。
【0012】
本発明者らは、焼入れ性の向上に大きく寄与するCr及びBが、熱処理鋼材の製造に用いられる熱処理用の鋼板に含有されていても、当該鋼板から製造される熱処理鋼材の靱性は劣化しないことも見出した。従来の熱処理鋼材には、焼入れ性の向上の目的のためにMnが含有されているが、Mnは靱性の低下を引き起こす。Cr及びBが熱処理用の鋼板に含有されていれば、Mn含有量を低く抑えても焼入れ性が確保できるため、熱処理鋼材の靱性を向上することができる。
【0013】
そして、本願発明者らは、これらの知見に基づいて、以下に示す発明の諸態様に想到した。
【0014】
(1)
質量%で、
C:0.16%〜0.38%、
Mn:0.6%〜1.5%、
Cr:0.4%〜2.0%、
Ti:0.01%〜0.10%、
B:0.001%〜0.010%、
Si:0.20%以下、
P:0.05%以下、
S:0.05%以下、
N:0.01%以下、
Ni:0%〜2.0%、
Cu:0%〜1.0%、
Mo:0%〜1.0%、
V:0%〜1.0%、
Al:0%〜1.0%、
Nb:0%〜1.0%、
REM:0%〜0.1%、
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
残留オーステナイト及びマルテンサイトの両方を含み、
残留オーステナイト:1.5体積%以下、
残部:マルテンサイト
で表される組織を有することを特徴とする熱処理鋼材。
【0015】
(2)
前記化学組成において、C:0.16〜0.25%であることを特徴とする(1)に記載の熱処理鋼材。
【0016】
(3)
前記化学組成において、Mn:0.6%〜1.2%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の熱処理鋼材。
(4)
降伏比:0.70以上
で表される機械特性を有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の熱処理鋼材。
【0017】

前記化学組成において、
Ni:0.1%〜2.0%、
Cu:0.1%〜1.0%、
Mo:0.1%〜1.0%、
V:0.1%〜1.0%、
Al:0.01%〜1.0%、
Nb:0.01%〜1.0%、若しくは
REM:0.001%〜0.1%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする(1)〜()のいずれかに記載の熱処理鋼材。
【0018】

鋼板をAc3点以上の温度域に加熱する工程と、
次いで、前記鋼板を臨界冷却速度以上の冷却速度でMs点まで冷却する工程と、
次いで、前記鋼板をMs点から100℃まで35℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する工程と、
を有する熱処理鋼材の製造方法であって
前記鋼板は、
質量%で、
C:0.16%〜0.38%、
Mn:0.6%〜1.5%、
Cr:0.4%〜2.0%、
Ti:0.01%〜0.10%、
B:0.001%〜0.010%、
Si:0.20%以下、
P:0.05%以下、
S:0.05%以下、
N:0.01%以下、
Ni:0%〜2.0%、
Cu:0%〜1.0%、
Mo:0%〜1.0%、
V:0%〜1.0%、
Al:0%〜1.0%、
Nb:0%〜1.0%、
REM:0%〜0.1%、
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
前記熱処理鋼材は、
残留オーステナイト及びマルテンサイトの両方を含み、
残留オーステナイト:1.5体積%以下、
残部:マルテンサイト
で表される組織を有することを特徴とする熱処理鋼材の製造方法。
【0019】

前記化学組成において、C:0.16〜0.25%であることを特徴とする()に記載の熱処理鋼材の製造方法。
【0020】
(8)
前記化学組成において、Mn:0.6%〜1.2%であることを特徴とする(6)又は(7)に記載の熱処理鋼材の製造方法。

前記化学組成において、
Ni:0.1%〜2.0%、
Cu:0.1%〜1.0%、
Mo:0.1%〜1.0%、
V:0.1%〜1.0%、
Al:0.01%〜1.0%、
Nb:0.01%〜1.0%、若しくは
REM:0.001%〜0.1%、
又はこれらの任意の組み合わせが成り立つことを特徴とする(6)〜(8)のいずれかに記載の熱処理鋼材の製造方法。
【0021】
10
前記鋼板をAc3点以上の温度域に加熱してから前記鋼板の温度がMs点に達するまでの間に成形を行う工程を有することを特徴とする()〜()のいずれかに記載の熱処理鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた耐衝突特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る熱処理鋼材は、詳細は後述するが、所定の熱処理用の鋼板の焼入れを行うことにより製造される。従って、熱処理用の鋼板の焼入れ性及び焼入れの条件は熱処理鋼材に影響を及ぼす。
【0024】
先ず、本発明の実施形態に係る熱処理鋼材及びその製造に用いる熱処理用の鋼板の化学組成について説明する。以下の説明において、熱処理鋼材及びその製造に用いられる鋼板に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。本実施形態に係る熱処理鋼材及びその製造に用いられる鋼板は、C:0.16%〜0.38%、Mn:0.6%〜1.5%、Cr:0.4%〜2.0%、Ti:0.01%〜0.10%、B:0.001%〜0.010%、Si:0.20%以下、P:0.05%以下、S:0.05%以下、N:0.01%以下、Ni:0%〜2.0%、Cu:0%〜1.0%、Mo:0%〜1.0%、V:0%〜1.0%、Al:0%〜1.0%、Nb:0%〜1.0%、REM(希土類金属):0%〜0.1%、残部:Fe及び不純物で表される化学組成を有している。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0025】
(C:0.16%〜0.38%)
Cは、熱処理用の鋼板の焼入れ性を高め、熱処理鋼材の強度を主に決定する非常に重要な元素である。C含有量が0.16%未満では、熱処理鋼材の強度が十分なものとならない。従って、C含有量は0.16%以上とする。C含有量が0.38%超では、熱処理鋼材の強度が高くなり過ぎて、靱性の劣化が著しくなる。従って、C含有量は0.3%以下とする。C含有量は好ましくは0.36%以下である。
【0026】
なお、1400MPa以上1700MPa以下の引張強度を得るためには、C含有量は0.16%〜0.25%であることが好ましく、1700MPa超2200MPa以下の引張強度を得るためには、C含有量は0.25%超0.38%以下であることが好ましい。
【0027】
(Mn:0.6%〜1.5%)
Mnは、熱処理用の鋼板の焼入れ性を向上し、熱処理鋼材の強度の安定した確保を可能にする作用を有する。Mn含有量が0.6%未満では、上記作用による効果が十分には得られないことがある。従って、Mn含有量は0.6%以上とする。Mn含有量が1.5%超では、偏析が著しくなるため、機械的特性の均一性が低下し、靱性が劣化する。従って、Mn含有量は1.5%以下とする。Mn含有量は好ましくは1.3%以下である。
【0028】
(Cr:0.4%〜2.0%)
Crは、熱処理用の鋼板の焼入れ性を向上し、熱処理鋼材の強度の安定した確保を可能にする作用を有する。Cr含有量が0.4%未満では、上記作用による効果が十分には得られないことがある。従って、Cr含有量は0.4%以上とする。Cr含有量が2.0%超では、Crが熱処理用の鋼板中の炭化物に濃化して、焼入れ性が低下する。Crの濃化に伴って、焼入れのための加熱の際に炭化物の固溶が遅延するためである。従って、Cr含有量は2.0%以下とする。Cr含有量は好ましくは1.0%以下である。
【0029】
(Ti:0.01%〜0.10%)
Tiは、熱処理鋼材の靱性を大きく向上させる作用を有する。すなわち、Tiは、焼入れのためのAc点以上の温度での熱処理の際に、再結晶を抑制し、更に微細な炭化物を形成してオーステナイトの粒成長を抑制する。粒成長の抑制により、細かいオーステナイト粒が得られ、靱性が大きく向上する。Tiは、熱処理用の鋼板中のNと優先的に結合することで、BNの析出によりBが消費されることを抑制するという作用も有する。後述のように、Bは焼入れ性を向上する作用を有するため、Bの消費の抑制により、Bによる焼入れ性の向上の効果を確実に得ることができる。Ti含有量が0.01%未満では、上記作用による効果が十分には得られないことがある。従って、Ti含有量は0.01%以上とする。Ti含有量が0.10%超では、TiCの析出量が増加してCが消費されるため、十分な強度が得られないことがある。従って、Tiの含有量は0.10%以下とする。Ti含有量は好ましくは0.08%以下である。
【0030】
(B:0.001%〜0.010%)
Bは、熱処理用の鋼板の焼入れ性を著しく高める作用を有する非常に重要な元素である。Bは、粒界に偏析することで、粒界を強化して靱性を高める作用も有する。Bは、Tiと同様に、オーステナイトの粒成長を抑制して靱性を向上する作用も有する。B含有量が0.001%未満では、上記作用による効果が十分には得られないことがある。従って、B含有量は0.001%以上とする。B含有量が0.010%超では、粗大な硼化物が多く析出し、靱性が劣化する。従って、B含有量は0.010%以下とする。B含有量は好ましくは0.006%以下である。
【0031】
(Si:0.20%以下)
Siは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Siは、残留オーステナイトの増加に伴う降伏強度の低下を引き起こす。また、Si含有量が高いほど、オーステナイト変態が生じる温度が高くなる。この温度が高いほど、焼入れのための加熱に要するコストが上昇したり、加熱不足に伴う焼入れ不足が生じやすくなったりする。更に、Si含有量が高いほど、熱処理用の鋼板のぬれ性及び合金化処理性が低下するため、溶融めっき処理及び合金化処理の安定性が低下する。このため、Si含有量は低ければ低いほどよい。特にSi含有量が0.20%超で、降伏強度の低下が顕著となる。従って、Si含有量は0.20%以下とする。Si含有量は好ましくは0.15%以下である。
【0032】
(P:0.05%以下)
Pは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Pは、熱処理鋼材の靱性を劣化させる。このため、P含有量は低ければ低いほどよい。特にP含有量が0.05%超で、靱性の低下が顕著となる。従って、P含有量は0.05%以下とする。P含有量は好ましくは0.005%以下である。
【0033】
(S:0.05%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、熱処理鋼材の靱性を劣化させる。このため、S含有量は低ければ低いほどよい。特にS含有量が0.05%超で、靱性の低下が顕著となる。従って、S含有量は0.05%以下とする。S含有量は好ましくは0.02%以下である。
【0034】
(N:0.01%以下)
Nは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Nは、粗大な窒化物の形成に寄与し、熱処理鋼材の局部変形能及び靭性を劣化させる。このため、N含有量は低ければ低いほどよい。特にN含有量が0.01%超で、局部変形能及び靱性の低下が顕著となる。従って、N含有量は0.01%以下とする。なお、N含有量を0.0008%未満まで低下させるためには相当なコストを要し、0.0002%未満まで低下させるためには更に莫大なコストを要することがある。
【0035】
Ni、Cu、Mo、V、Al、Nb及びREMは、必須元素ではなく、熱処理用の鋼板及び熱処理鋼材に所定量を限度に適宜含有されていてもよい任意元素である。
【0036】
(Ni:0%〜2.0%、Cu:0%〜1.0%、Mo:0%〜1.0%、V:0%〜1.0%、Al:0%〜1.0%、Nb:0%〜1.0%、REM:0%〜0.1%)
Ni、Cu、Mo、V、Al、Nb及びREMは、熱処理用の鋼板の焼入れ性及び/又は靱性を向上する作用を有する。従って、これらの元素からなる群から選択された1種又は任意の組み合わせが含有されていてもよい。しかし、Ni含有量が2.0%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、Ni含有量は2.0%以下とする。Cu含有量が1.0%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、Cu含有量は1.0%以下とする。Mo含有量が1.0%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、Mo含有量は1.0%以下とする。V含有量が1.0%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、V含有量は1.0%以下とする。Al含有量が1.0%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、Al含有量は1.0%以下とする。Nb含有量が1.0%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、Nb含有量は1.0%以下とする。REM含有量が0.1%超では、上記作用による効果が飽和し、徒にコストが上昇するだけである。従って、REM含有量は0.1%以下とする。上記作用による効果を確実に得るために、Ni含有量、Cu含有量、Mo含有量及びV含有量は、いずれも好ましくは0.1%以上であり、Al含有量及びNb含有量は、いずれも好ましくは0.01%以上であり、REM含有量は好ましくは0.001%以上である。つまり、「Ni:0.1%〜2.0%」、「Cu:0.1%〜1.0%」、「Mo:0.1%〜1.0%」、「V:0.1%〜1.0%」、「Al:0.01%〜1.0%」、「Nb:0.01%〜1.0%」、若しくは「REM:0.001%〜0.1%」、又はこれらの任意の組み合わせが満たされることが好ましい。REMは、例えばFe−Si−REM合金を使用して溶鋼に添加され、この合金には、例えば、Ce、La、Nd、Prが含まれる。
【0037】
次に、本実施形態に係る熱処理鋼材の組織について説明する。本実施形態に係る熱処理鋼材は、残留オーステナイト:1.5体積%以下、残部:マルテンサイトで表される組織を有している。マルテンサイトは、例えばオートテンパードマルテンサイトであるが、オートテンパードマルテンサイトに限定されない。
【0038】
(残留オーステナイト:1.5体積%以下)
残留オーステナイトは、必須の組織ではなく、熱処理鋼材の組織に不可避的に含まれてしまう。そして、上記のように、残留オーステナイトは降伏強度の低下を引き起こし、残留オーステナイトの体積率が高いほど降伏強度が低くなる。特に残留オーステナイトが1.5体積%超で、降伏強度の低下が顕著となり、熱処理鋼材のバンパーレインフォース及びセンターピラー等への適用が困難となる。従って、残留オーステナイトの体積率は1.5体積%以下とする。
【0039】
次に、本実施形態に係る熱処理鋼材の機械特性について説明する。本実施形態に係る熱処理鋼材は、好ましくは降伏比:0.70以上で表される機械特性を有している。耐衝突特性は、引張強度並びに引張強度に相応した降伏強度及び靱性により評価することができ、引張強度に相応した降伏強度は降伏比で表される。そして、引張強度又は降伏強度が同程度であれば、降伏比が高いことが好ましい。降伏比が0.70未満であると、バンパーレインフォース又はセンターピラーに用いられた場合に、十分な耐衝突特性が得られないことがある。従って、降伏比は0.70以上であることが好ましい。
【0040】
次に、熱処理鋼材の製造方法、つまり、熱処理用の鋼板を処理する方法について説明する。熱処理用の鋼板の処理では、熱処理用の鋼板をAc点以上の温度域に加熱し、その後、臨界冷却速度以上の冷却速度でMs点まで冷却し、その後、Ms点から100℃まで35℃/秒以上の平均冷却速度で冷却する。
【0041】
熱処理用の鋼板をAc点以上の温度域に加熱すると、組織がオーステナイト単相となる。その後、臨界冷却速度以上の冷却速度でMs点まで冷却すると、拡散変態が生じることなくオーステナイト単相の組織が維持される。その後、Ms点から100℃まで35℃/秒以上の平均冷却速度で冷却すると、残留オーステナイトの体積率が1.5体積%以下、残部がマルテンサイトの組織が得られる。
【0042】
このようにして、優れた耐衝突特性を備えた本実施形態に係る熱処理鋼材を製造することができる。
【0043】
一連の加熱及び冷却の際に、ホットスタンプ等の熱間成形を行ってもよい。すなわち、Ac点以上の温度域に加熱してから温度がMs点に達するまでの間に、熱処理用の鋼板を金型で成形してもよい。熱間成形としては、曲げ加工、絞り成形、張出し成形、穴広げ成形、フランジ成形等が挙げられる。これらはプレス成形に属するが、熱間成形と並行して、又は熱間成形の直後に鋼板を冷却することが可能であれば、ロール成形等のプレス成形以外の熱間成形を行ってもよい。
【0044】
熱間成形を行う場合、金型に冷却媒体用の配管及び噴出孔を設けておき、Ms点から100℃までの冷却の際に、例えばプレス下死点での保持中に、冷却媒体を熱処理用の鋼板に直接吹き付けることが好ましい。冷却媒体としては、例えば、水、多価アルコール類、多価アルコール類水溶液、ポリグリコール、引火点120℃以上の鉱物油、合成エステル、シリコンオイル、フッ素オイル、滴点120℃以上のグリース、鉱物油、合成エステルに界面活性剤を配合した水エマルションが例示される。これらの1種又は任意の2種以上の組み合わせを用いることができる。このような金型及び冷却媒体を用いることにより、35℃/秒以上の冷却速度を容易に実現することができる。このような冷却方法は、例えば特許文献7に記載されている。一連の加熱及び冷却として、高周波加熱焼入れを行ってもよい。
【0045】
Ac点以上の温度域における保持時間は、オーステナイトへの変態を十分に生じさせるために1分間以上とすることが好ましい。一般的に、10分間の保持を行えば、組織がオーステナイト単相となり、10分間を超えて保持すると生産性が低下する。従って、生産性の観点からは保持時間を10分間以下とすることが好ましい。
【0046】
熱処理用の鋼板は、熱延鋼板であってもよく、冷延鋼板であってもよい。熱延鋼板又は冷延鋼板に焼鈍を施した焼鈍熱延鋼板又は焼鈍冷延鋼板を熱処理用の鋼板として用いてもよい。
【0047】
熱処理用の鋼板がめっき鋼板等の表面処理鋼板であってもよい。つまり、熱処理用の鋼板にめっき層が設けられていてもよい。めっき層は、例えば耐食性の向上等に寄与する。めっき層は、電気めっき層であってもよく、溶融めっき層であってもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき層、電気Zn−Ni合金めっき層等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融アルミニウムめっき層、溶融Zn−Al合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき層等が例示される。めっき層の付着量は特に制限されず、例えば一般的な範囲内の付着量とする。熱処理用の鋼板と同様に、熱処理鋼材にめっき層が設けられていてもよい。
【0048】
次に、熱処理用の鋼板の製造方法の一例について説明する。この製造方法では、例えば、熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍及びめっき処理を行う。
【0049】
熱間圧延では、上記の化学組成を有する鋼塊又は鋼片の温度を1050℃以上として熱間圧延を行い、その後に400℃以上700℃以下の温度域で巻き取りを行う。
【0050】
鋼塊又は鋼片は、熱処理用鋼板の焼入れにより得られる熱処理鋼材の靭性及び局部変形能を劣化させる原因となる非金属介在物を含有する場合がある。従って、鋼塊又は鋼片を熱間圧延に供する際に、これらの非金属介在物を十分に固溶させることが好ましい。上記化学組成の鋼塊又は鋼片については、熱間圧延に供する際に1050℃以上となっていれば、上記非金属介在物の固溶が促進される。従って、熱間圧延に供する鋼塊又は鋼片の温度は1050℃以上とすることが好ましい。鋼塊又は鋼片の温度は熱間圧延に供する際に1050℃以上であればよい。つまり、連続鋳造等の後に1050℃未満となった鋼塊又は鋼片を加熱して1050℃以上としてもよく、連続鋳造後の鋼塊又は分塊圧延後の鋼片を1050℃未満に低下させることなく熱間圧延に供してもよい。
【0051】
巻取温度を400℃以上とすることにより、高いフェライト面積率を得ることができる。フェライト面積率が高いほど、熱間圧延により得られる熱延鋼板の強度が抑えられるため、後に冷間圧延をする際の荷重制御並びに鋼板の平坦度及び厚さの制御が容易になり、製造能率が向上する。従って、巻取温度は400℃以上とすることが好ましい。
【0052】
巻取温度を700℃以下とすることにより、巻取後におけるスケール成長が抑えられ、スケール疵の発生が抑制される。巻取温度を700℃以下とすることにより、巻取後におけるコイルの自重による変形も抑えられ、この変形によるコイルの表面のすり疵の発生が抑制される。従って、巻取温度は700℃以下とすることが好ましい。上記変形は、熱間圧延の巻取り後において未変態オーステナイトが残存し、該未変態オーステナイトが巻取り後にフェライトに変態した場合に、フェライト変態による体積膨張及びその後の熱収縮に伴ってコイルの巻取り張力が失われることにより生じる。
【0053】
酸洗は、常法に従って行えばよい。酸洗前又は酸洗後にスキンパス圧延を行ってもよい。スキンパス圧延により、例えば、平坦度が矯正されたり、スケールの剥離が促進されたりする。スキンパス圧延を行う場合の伸び率は特に限定されず、例えば0.3%以上3.0%以下とする。
【0054】
熱処理用の鋼板として冷延鋼板を製造する場合、酸洗により得られた酸洗鋼板の冷間圧延を行う。冷間圧延は常法に従って行えばよい。冷間圧延の圧下率は特に限定されず、通常の範囲内の圧下率、例えば30%以上80%以下とする。
【0055】
熱処理用の鋼板として焼鈍熱延鋼板又は焼鈍冷延鋼板を製造する場合、熱延鋼板又は冷延鋼板の焼鈍を行う。焼鈍では、例えば550℃以上950℃以下の温度域に熱延鋼板又は冷延鋼板を保持する。
【0056】
焼鈍で保持する温度を550℃以上とすることにより、焼鈍熱延鋼板又は焼鈍冷延鋼板のいずれを製造する場合であっても、熱延条件の相違に伴う特性の相違が低減され、焼入れ後の特性を更に安定したものとすることができる。また、冷延鋼板の焼鈍を550℃以上で行った場合には、再結晶により冷延鋼板が軟質化するため、加工性を向上することができる。つまり、良好な加工性を備えた焼鈍冷延鋼板を得ることができる。従って、焼鈍で保持する温度は550℃以上とすることが好ましい。
【0057】
焼鈍で保持する温度を950℃超とすると、組織が粗粒化することがある。組織の粗粒化は焼入れ後の靭性を低下させることがある。また、焼鈍で保持する温度を950℃超としても、温度を高くしただけの効果は得られず、コストが上昇し、生産性が低下するだけである。従って、焼鈍で保持する温度は950℃以下とすることが好ましい。
【0058】
焼鈍後には、550℃までを3℃/秒以上20℃/秒以下の平均冷却速度で冷却することが好ましい。上記平均冷却速度を3℃/秒以上とすることにより、粗大パーライト及び粗大なセメンタイトの生成が抑制され、焼入れ後の特性を向上させることができる。また、上記平均冷却速度を20℃/秒以下とすることにより、強度むら等の発生を抑制して、焼鈍熱延鋼板又は焼鈍冷延鋼板の材質を安定したものとすることが容易になる。
【0059】
熱処理用の鋼板としてめっき鋼板を製造する場合、例えば電気めっき処理又は溶融めっき処理を行う。電気めっき処理及び溶融めっき処理は、いずれも常法に従って行えばよい。例えば、溶融亜鉛めっき処理を行う場合に、連続溶融亜鉛めっき設備を使用して、上記の焼鈍に引き続いて連続的にめっき処理を行ってもよい。また、上記の焼鈍から独立させてめっき処理を行ってもよい。溶融亜鉛めっき処理において、合金化処理を行って合金化溶融亜鉛めっき層を形成してもよい。合金化処理を行う場合、合金化処理温度を480℃以上600℃以下とすることが好ましい。合金化処理温度を480℃以上とすることで、合金化処理むらを抑制することができる。合金化処理温度を600℃以下とすることで、製造コストを抑制するとともに高い生産性を確保することができる。溶融亜鉛めっき処理後にスキンパス圧延を行ってもよい。スキンパス圧延により、例えば平坦度が矯正される。スキンパス圧延を行う場合の伸び率は特に限定されず、常法と同様の伸び率とすればよい。
【0060】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【実施例】
【0061】
次に、本願発明者らが行った実験について説明する。
【0062】
(第1の実験)
第1の実験では、表1に示す化学組成を有する厚さが1.4mmの冷延鋼板を熱処理用鋼板として製造した。これらの鋼板は、実験室にて溶製したスラブの熱間圧延及び冷間圧延により製造した。表1中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0063】
【表1】
【0064】
そして、各冷延鋼板から、厚さが1.4mm、幅が30mm、長さが200mmの試料を作製し、表2に示す条件で試料の熱処理(加熱及び冷却)を行った。この熱処理は、熱間成形における熱処理を模擬したものである。この実験での加熱は、通電加熱により行った。熱処理の後に、試料から均熱部位を切り出し、この均熱部位をX線回折試験、引張試験及びシャルピー衝撃試験に供した。Ms点までの冷却速度(80℃/秒)は臨界冷却速度以上である。
【0065】
X線回折試験では、フッ化水素酸及び過酸化水素水を用いて、均熱部位の表面からの深さが厚さの1/8までの部分を化学研磨してX線回折試験用の試験片を作製し、この試験片中の残留オーステナイト(残留γ)の体積率(体積%)を求めた。なお、残留オーステナイトの残部はマルテンサイトであった。
【0066】
引張試験では、均熱部位を厚さが1.2mmのASTM E8のハーフサイズ板状試験片に加工し、この試験片の引張試験を行って引張強度及び降伏強度を測定した。このハーフサイズ板状試験片の平行部の長さは32mmであり、平行部の幅は6.25mmである。また、引張強度及び降伏強度から降伏比を算出した。
【0067】
シャルピー衝撃試験では、均熱部位を厚さが1.2mmとなるまで研削し、これを3枚積層したVノッチ入り試験片を作製し、この試験片のシャルピー衝撃試験を行って−80℃における衝撃値を求めた。
【0068】
これらの結果を表2に示す。表2中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、試料No.1、No.2、No.5、No.6、No.9、No.10、No.13、No.14、No.16及びNo.17では、化学組成及び組織が本発明の範囲内にあるため、1400MPa以上の引張強度が得られ、0.70以上の優れた降伏比も得られ、引張強度が1400MPa以上の場合に好ましい50J/cm以上の衝撃値が得られた。
【0071】
試料No.3、No.4、No.7、No.8、No.11、No.12及びNo.15では、化学組成が本発明の範囲内にあるが、組織が本発明の範囲から外れているため、降伏比が0.70未満と低かった。
【0072】
試料No.1、No.2、No.5、No.6、No.9、No.10、No.13、No.14、No.16及びNo.17では、いずれもMs点から100℃までの平均冷却速度が35℃/s以上であり、製造条件が本発明の範囲内にあったため、所望の組織が得られた。これに対し、試料No.3、No.4、No.7、No.8、No.11、No.12及びNo.15では、いずれもMs点から100℃までの平均冷却速度が35℃/s未満であり、製造条件が本発明の範囲から外れていたため、所望の組織が得られなかった。
【0073】
試料No.18及びNo.19では、Si含有量が本発明の範囲から外れているため、Ms点から100℃までの平均冷却速度が35℃/s以上であっても、残留オーステナイトの体積率が1.5体積%超であり、降伏比が0.70未満であった。
【0074】
試料No.20及びNo.21では、Mn含有量が本発明の範囲から外れているため、衝撃値が50J/cm未満であり、所望の靱性が得られなかった。
【0075】
(第2の実験)
第2の実験では、表3に示す化学組成を有する厚さが1.4mmの冷延鋼板を熱処理用鋼板として製造した。これらの鋼板は、実験室にて溶製したスラブの熱間圧延及び冷間圧延により製造した。表3中の下線は、その数値が本発明の範囲から外れていることを示す。
【0076】
【表3】
【0077】
そして、第1の実験と同様の熱処理及び評価試験を行った。この結果を表4に示す。表4中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示すように、試料No.31、No.32、No.34、No.35、No.37、No.38、No.40、No.41、No.43及びNo.44では、化学組成及び組織が本発明の範囲内にあるため、1800MPa以上の引張強度が得られ、0.70以上の優れた降伏比も得られ、引張強度が1800MPa以上の場合に好ましいとされる40J/cm以上の衝撃値が得られた。
【0080】
試料No.33、No.36、No.39及びNo.42では、化学組成が本発明の範囲内にあるが、組織が本発明の範囲から外れているため、降伏比が0.70未満と低かった。
【0081】
試料No.31、No.32、No.34、No.35、No.37、No.38、No.40、No.41、No.43及びNo.44では、いずれもMs点から100℃までの平均冷却速度が35℃/s以上であり、製造条件が本発明の範囲内にあったため、所望の組織が得られた。これに対し、試料No.33、No.36、No.39及びNo.42では、いずれもMs点から100℃までの平均冷却速度が35℃/s未満であり、製造条件が本発明の範囲から外れていたため、所望の組織が得られなかった。
【0082】
試料No.45及びNo.46では、Si含有量が本発明の範囲から外れているため、Ms点から100℃までの平均冷却速度が35℃/s以上であっても、残留オーステナイトの体積率が1.5体積%超であり、降伏比が0.70未満であった。
【0083】
試料No.47及びNo.48では、Mn含有量が本発明の範囲から外れているため、衝撃値が40J/cm未満であり、所望の靱性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、例えば、バンパーレインフォース及びセンターピラー等の自動車に用いられる熱処理部材等の製造産業及び利用産業に利用することができる。本発明は、他の機械構造部品の製造産業及び利用産業等に利用することもできる。