特許第6202097号(P6202097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202097
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】注入制御方法、および注入制御装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/77 20060101AFI20170914BHJP
   B29C 45/78 20060101ALI20170914BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B29C45/77
   B29C45/78
   B29C45/26
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-530743(P2015-530743)
(86)(22)【出願日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】JP2014066224
(87)【国際公開番号】WO2015019721
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-166697(P2013-166697)
(32)【優先日】2013年8月9日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-255063(P2013-255063)
(32)【優先日】2013年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】落合 健一
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−128725(JP,A)
【文献】 特開平09−123214(JP,A)
【文献】 特開昭56−144939(JP,A)
【文献】 特開平04−279310(JP,A)
【文献】 特表2010−538877(JP,A)
【文献】 米国特許第05993704(US,A)
【文献】 スイス国特許発明第00667843(CH,A5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/24
B29C 45/46−45/63
B29C 45/70−45/72
B29C 45/74−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティに注入材を注入する注入手段を制御する注入制御方法であって、
前記キャビティにおいて前記注入材が注入位置から離れた所定位置に到達することを検知する検知ステップと、
前記注入材の注入開始から前記検知ステップによる検知までの時間に基づいて、注入終了時間を変更する変更ステップと、を有し、
前記変更ステップは、前記注入材の注入開始から前記検知ステップによる検知までの時間と、前記キャビティに前記注入材が所定量注入されるまでの時間と、の関係を表す関係式を用いて、前記注入終了時間を決定する、注入制御方法。
【請求項2】
前記変更ステップにより変更された前記注入終了時間に、前記注入手段による注入を終了する注入終了ステップ、をさらに有する請求項1に記載の注入制御方法。
【請求項3】
前記注入位置は、前記キャビティが前記注入材により充填されたと仮定したときの、当該注入材の重心位置である、請求項1または2に記載の注入制御方法。
【請求項4】
前記所定位置は、前記注入位置と、前記注入位置から注入された前記注入材の流動が停止する流動末端と、の間の位置である、請求項1〜のいずれか一項に記載の注入制御方法。
【請求項5】
前記検知ステップでは、温度センサー、圧力センサー、およびファイバーセンサーの少なくともいずれか一つを用いて、前記注入材の前記所定位置への到達を検知する、請求項1〜のいずれか一項に記載の注入制御方法。
【請求項6】
前記検知ステップでは、赤外線式温度センサーを用いて、前記注入材の前記所定位置への到達を検知する、請求項1〜のいずれか一項に記載の注入制御方法。
【請求項7】
前記検知ステップでは、センサーを用いて前記注入材の前記所定位置への到達を検出し、
前記センサーは、前記キャビティ、または、前記注入材の注入により前記キャビティに成形された成形品を前記金型から離型するためのエジェクタピン、に設けられる、請求項1〜のいずれか一項に記載の注入制御方法。
【請求項8】
少なくとも一つの金型のキャビティに注入材を注入する注入手段と、
前記キャビティにおいて前記注入材の注入位置から離れた所定位置に設けられ、前記注入材の到達を検知する検知手段と、
前記注入材の注入開始から前記検知手段による検知までの時間に基づいて、注入終了時間を変更する変更手段と、を備え
前記変更手段は、前記注入材の注入開始から前記検知手段による検知までの時間と、前記キャビティが前記注入材で満たされるまでの時間と、の関係を表す関係式を用いて、前記注入終了時間を決定する、注入制御装置。
【請求項9】
前記変更手段により変更された前記注入終了時間に、前記注入手段による前記注入材の注入を終了する注入終了手段を、さらに備える請求項8に記載の注入制御装置。
【請求項10】
前記注入位置は、前記キャビティが前記注入材により充填されたと仮定したときの、当該注入材の重心位置である、請求項8または9に記載の注入制御装置。
【請求項11】
前記所定位置は、前記注入位置と、前記注入位置から注入された前記注入材の流動が停止する流動末端と、の間の位置である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の注入制御装置。
【請求項12】
前記検知手段は、温度センサー、圧力センサー、およびファイバーセンサーの少なくともいずれか一つを含む、請求項8〜11のいずれか一項に記載の注入制御装置。
【請求項13】
前記検知手段は、赤外線式温度センサーを含む、請求項8〜11のいずれか一項に記載の注入制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入制御方法、および注入制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品が実装された回路基板に対して熱可塑性樹脂を射出形成し、回路基板全体を覆うように封止する技術がある。この技術は、たとえば、薄型の二次電池を製作する際に用いられる。
【0003】
熱可塑性樹脂が低粘度である場合には、金型のキャビティ部に注入されたときに乱流が起こりやすく、ボイドが発生することが多い。
【0004】
そこで、特許文献1では、熱可塑性樹脂の注入圧力を検知して、金型内で乱流が起こらないように流速を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−351777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、熱可塑性樹脂の流速を制御したとしても、実際には、材料ロットや樹脂温度などのさまざまな要因によって熱可塑性樹脂の粘度は変化するため、理想の流速を維持することは難しい。そのため、熱可塑性樹脂の金型への総注入量が安定せず、ショートショットやオーバーフローなどの不具合が発生する、という問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂などの注入材の金型への総注入量を安定化させる注入制御方法、および注入制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明は、金型のキャビティに注入材を注入する注入手段を制御する注入制御方法であって、前記キャビティにおいて注入材が注入位置から離れた所定位置に到達することを検知する検知ステップと、注入材の注入開始から前記検知ステップによる検知までの時間に基づいて、注入終了時間を決定する決定ステップと、を行う。
【0009】
また、上記目的を達成する本発明は、注入制御装置であって、金型のキャビティに注入材を注入する注入手段と、前記キャビティにおいて注入材が注入される位置から離れた位置に設けられ、前記注入材の到達を検知する検知手段と、熱溶融材料の注入開始から前記検知手段による検知までの時間に基づいて、注入終了時間を決定する決定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、注入位置から離れた所定位置に注入材が到達するまでの時間に基づいて、注入終了時間を決定している。これにより、材料ロットや樹脂温度などのさまざまな要因によって注入材の注入条件(粘度など)が当初の予定と異なる場合でも、最終的に金型に注入される注入材の総注入量は一定となる。そのため、注入圧力、樹脂温度、金型温度などの調整を個々に行わなくても、注入終了時間を変えるだけの簡易な方法によって、注入材の総注入量を安定化できる。その結果、ショートショットやオーバーフローなどの不具合も発生せず、歩留りが高くなる。
【0011】
上記した以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】注入制御システムの概略構成図である。
図2】電池セルおよび作製される成形品を示す概略図である。
図3】金型装置の概略外観図である。
図4】金型装置を構成する上型の下面図である。
図5】上型において注入材が注入された様子を示す図である。
図6図3および図5のVI−VI線に沿った断面を示す図である。
図7図3および図5のVII−VII線に沿った断面を示す図である。
図8】金型装置に注入された注入材がセンサーに到達するまでの時間と、不具合のない成形品を作製するのに最適な注入終了時間の関係を示すグラフである。
図9】成形品の作製処理の手順を示すフローチャートである。
図10】注入材の注入時間と実際の注入量の関係を示すグラフである。
図11】赤外線式温度センサーによって測定された温度と、そのときに赤外線式温度センサーが出力する電圧値との対応関係を示すグラフである。
図12】複数の吐出ポンプを有する吐出装置と、1つのセンサーしか持たない複数の金型装置とを接続したときの構成例(2ポンプ1センサー)を示す図である。
図13】複数の吐出ポンプを有する吐出装置と、2つのセンサーを持つ複数の金型装置とを接続したときの構成例(2ポンプ2センサー)を示す図である。
図14】1つの吐出ポンプを有する吐出装置と、1つのセンサーしか持たない複数の金型装置とを接続したときの構成例(1ポンプ1センサー)を示す図である。
図15】金型装置に注入された注入材がセンサーに到達するまでの時間と、不具合のない成形品を作製するのに最適な注入終了時間の関係を示す1次関数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0014】
<注入制御システム1>
図1は、本実施形態に係る注入制御システム1の概略構成図である。
【0015】
注入制御システム1は、射出成形により成形品を作製するシステムであり、成形品として、たとえば、所望の対象物を補強するための補強部材を作製する。本実施形態では、対象物として、電池セルを補強する場合について説明する。
【0016】
注入制御システム1は、図1に示すように、金型装置10、注入材供給源20、圧送装置30、除去装置40、エア供給源50、電気的駆動弁60、吐出装置70、センサー80、および注入制御装置90を備える。注入制御システム1は、金型装置10内部に電池セル100を配置しつつ、金型装置10内に溶融した熱溶融材料を注入材として注入して、電池セル100の周囲に成形品を作製する。電池セル、成形品等の詳細については、後述する。まず、注入制御システム1の各構成の概略について説明する。
【0017】
金型装置10は、上型および下型を有し、上下型を合わせることによって、内部に電池セル100を収納する。電池セル100の周囲には注入材が注入されるキャビティが形成されており、キャビティの形状に従って電池セル100の周囲に成形品を作製できる。金型装置10の詳細については、後述する。
【0018】
注入材供給源20は、金型装置10に注入される注入材の供給源である。たとえば、注入材供給源20は、注入材を収容可能なタンクである。
【0019】
圧送装置30は、注入材供給源20と接続されており、注入材供給源20に収容されている注入材を、除去装置40へと圧送する。圧送装置30は、除去装置40へ圧送する注入材の量(「供給量」ともいう)を調整できる。圧送装置30は、除去装置40への圧送を停止する(供給量を「0」にする)こともできる。なお、圧送装置30には、油圧駆動ポンプ(たとえば、ギヤポンプ)が用いられる。ただし、これに限らず、エア駆動ポンプなどが用いられてもよい。
【0020】
除去装置40は、圧送装置30および吐出装置70の間に設けられ、圧送装置30から圧送された注入材に含まれている異物を除去するフィルターである。フィルターの種類としては、ステンレス製のリーフディスクフィルターを使用するのが好ましく、フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。
【0021】
エア供給源50は、吐出装置70にエアを供給する供給源である。たとえば、エア供給源50は、モーターの回転によりエアを圧縮して出力するエアコンプレッサーである。
【0022】
電気的駆動弁60は、弁(バルブ)の開閉量を調整することにより、エア供給源50から吐出装置70に供給されるエアの圧力を制御する。なお、電気的駆動弁60には、電磁石の磁力を用いてプランジャと呼ばれる鉄片を動かすことで開閉する電磁弁(ソレノイドバルブ)が用いられる。ただし、これに限らず、モーターで駆動する電動弁などが用いられてもよい。
【0023】
吐出装置70は、注入材供給源20から供給された注入材を、エア供給源50から供給されるエアの圧力によって吐出量を調整しつつ、金型装置10のキャビティに吐出する。電気的駆動弁60の開閉度を大きくすれば、エア供給源50から供給されるエアの圧力も大きくなり、吐出装置70の単位時間当たりの吐出量を大きくできる。逆に、電気的駆動弁60の開閉度を小さくすれば、吐出装置70の単位時間当たりの吐出量を小さくできる。また、電気的駆動弁60の開閉度を一定にすれば、吐出装置70の単位時間当たりの吐出量を一定にできる。電気的駆動弁60が閉じれば、エア供給源50から供給されるエアの圧力がなくなり、吐出装置70からキャビティ部17への注入は停止する。
【0024】
センサー80は、金型装置10に取り付けられ、注入材の流動を検知する。センサー80による検知結果は、注入制御装置90に逐次送信される。センサー80の詳細については後述する。
【0025】
注入制御装置90は、金型装置10、圧送装置30、電気的駆動弁60、およびセンサー80に接続されており、各構成を制御する。たとえば、注入制御装置90は、金型装置10の型の開閉を制御したり、圧送装置30から除去装置40へ圧送する注入材の供給量を調整したり、電気的駆動弁60の弁の開閉度を調整したりする。また、注入制御装置90は、注入材の注入時間を計測し、センサー80の検知結果に基づいて、注入材の注入を終了すべき最適な時間(以下、「注入終了時間」とも称する)を予測(決定)する。
【0026】
注入制御装置90は、CPU(不図示)が、ストレージ(不図示)にインストールされているプログラムをメモリー(不図示)に読み出して実行する一般的なコンピューターにより実現される。たとえば、注入制御装置90には、デスクトップ型のPC(パーソナルコンピューター)が用いられてもよいし、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話、等の携帯端末が用いられてもよい。注入制御装置90による詳細な制御については、後述する。
【0027】
以下、上記の構成について、より具体的に説明する。
【0028】
(電池セル100および成形品)
図2は、電池セルおよび作製される成形品を示す概略図である。図2(A)は電池セルの平面図であり、図2(B)は電池セルの側面図である。
【0029】
電池セル100は、正極、セパレータ、負極が積層された電池要素が外装に内包されてなる扁平形の二次電池である。外装は、2枚のラミネートシートを電池要素の積層方向両側から挟み、端辺が相互に溶着されることで、電池要素を密閉する。電池セル100の外周は、融着されたラミネートシートなので、柔らかく、ハンドリングの際や、電池セル100を積層する際に変形しやすい。
【0030】
そこで、本実施形態では、電池セル100の外周(端辺)を補強するために、注入制御システム1は、図2に示す補強部材150を成形する。補強部材150は、矩形の電池セル100の薄い外周を覆うように作製される。
【0031】
(金型装置10)
金型装置10について説明する。
【0032】
図3は金型装置の概略外観図、図4は金型装置を構成する上型の下面図、図5は上型において注入材が充填された様子を示す図である。なお、図3〜5では、金型内に配置される電池セルの図示を省略している。図6図3および図5をVI−VI線に沿って切った断面図、図7図3および図5をVII−VII線に沿って切った断面図である。
【0033】
金型装置10は、たとえば、図3に示すように、固定金型である下型11と、不図示の駆動機構により上下動する可動金型である上型12と、を備えている。下型11および上型12には、それぞれ、電池セル100を収納可能な収納部13a、13bがそれぞれ形成されている。上型12を下型11に接近させ、型合わせすると、収納部13aおよび収納部13bにより収納部13が形成される。
【0034】
下型11および上型12には、図3には表れないが、型内に注入材を注入するための注入口およびキャビティが設けられている。図4に示すように、上型12を底面から見ると、注入口14およびキャビティ15が形成されている。下型11にも、上型12と対応する位置に少なくともキャビティ15が設けられる。キャビティ15は、所望の補強部材150の形状に合致して形成されている。注入材が注入口14から注入されると、注入材は、位置Aを通り、流動末端B、B’に向かって二手に分かれ進行する。位置Aは、注入口14とキャビティ15との境界部分であり、注入口14から見て、補強部材150として注入材が残る最初の位置である。位置Aを、以下では、注入位置Aとも呼ぶ。
【0035】
流動末端B、B’は、注入材の流動が停止する部分、すなわち、注入材が充填される末端部である。注入材は、所定位置Cを通過して流動末端Bに到達し、また、流動末端B’に到達する。このように、注入材がキャビティ15に充填されると、図5図7に示す補強部材150の形状が得られる。これにより、補強部材150は、図2に示すように、電池セル100の端部を覆うように形成される。
【0036】
なお、注入位置Aは、キャビティ15が注入材により充填されたと仮定したときの、注入材(補強部材150)の重心位置であることが好ましい。このような位置に注入位置Aおよび注入口14が設けられることにより、注入材の流動が停止する流動末端B、B’が複数ある場合には、それぞれの流動末端B、B’に注入材が到達するまでの時間を概ね等しくできる。そのため、キャビティ15全体へ偏りなく注入材を注入できる。その結果、どちらかの流動末端B、B’に注入材が到達しているにもかかわらずその流動末端B、B’に向けてさらに注入材が注入されるといったことはなくなり、注入材が無理に注入されることによる金型装置10への負荷を軽減できる。
【0037】
(センサー80)
センサー80について説明する。図4および図7に示すように、センサー80は、キャビティ15に向かって露出するように、換言すると、注入時の注入材と接触するように、上型12に設けられている。センサー80は、独立したキャビティ15の数だけ設けられる。センサー80は、キャビティ15において注入材が注入位置Aから離れた所定位置Cに到達することを検知する。
【0038】
センサー80が設けられる所定位置Cは、図4に示すように、注入位置Aと流動末端Bとの間の位置であることが好ましい。なお、本実施形態において、注入位置Aと流動末端Bとの間とは、注入位置Aから流動末端Bまでの全容量のうち、10%注入した位置から90%注入した位置までの範囲と定義する。ただし、これに限定されず、任意の範囲としてもよいが、注入位置Aおよび流動末端Bには、センサー80を設けないようにする。
【0039】
仮に、センサー80が、流動末端B付近に設けられると、注入位置Aから遠くなるため、注入材がセンサー80の位置に到達するときには温度が低下してしまう。このとき、注入制御装置90は、センサー80の検知結果に基づいて、注入材がセンサー80の位置に到達した時間を正確に把握できない。そのため、注入制御装置90が注入材の注入を終了すべき最適な時間を予測しても、予測誤差が大きくなる場合がある。加えて、流動末端B付近で注入材を検知しても、流動末端Bまでの残りの容量は少なくて、注入量を制御する余地がない場合がある。反対に、センサー80が、注入位置A付近に設けられると、注入材が所定位置Cに到達するまでの時間が極端に短くなる。このようなセンサー80の検知結果に基づいて注入制御装置90が注入材の注入を終了する時間を予測しても、その後の注入が予測どおりに進まない可能性が高く、予測誤差が大きくなる場合がある。したがって、本実施形態のように、注入位置Aと流動末端Bの間の位置にセンサー80を設けることにより、注入材の注入を終了すべき最適な時間を精度良く予測できるようになる。
【0040】
あるいは、センサー80は、成形品を金型装置10から離型するためのエジェクタピンの位置に設けることが好ましい。これにより、新たにセンサー80を設けるために金型装置10(たとえば、上型12)を加工しなくても、既存のエジェクタピン用の孔にセンサー80を挿入するだけの簡易な方法によって安価に設置できる。
【0041】
なお、センサー80は、たとえば、温度センサー、圧力センサー、およびファイバーセンサーの少なくともいずれか一つにより構成される。センサー80が温度センサーである場合には、センサー80は、検知した注入材の温度を、センサー値として注入制御装置90へ送信する。また、センサー80が圧力センサーである場合には、センサー80は、検知した圧力値を、センサー値として注入制御装置90へ送信する。また、センサー80がファイバーセンサーである場合には、センサー80は、検知した光量を、センサー値として注入制御装置90へ送信する。センサー80が以上のように構成されることにより、キャビティ15における所定位置C付近の状態を、確実に注入制御装置90へ知らせることができる。
【0042】
(注入制御装置90)
注入制御装置90は、金型装置10のキャビティ15への注入材の注入量を制御する。たとえば、注入制御装置90は、注入材の注入開始からの経過時間を測定するタイマーを有し、センサー80からのセンサー値に基づいて、注入位置Aから注入された注入材が所定位置Cに到達するまでの経過時間を計測する。そして、注入制御装置90は、計測した経過時間に基づいて、成形品(たとえば、補強部材150)を作製するのに必要十分な注入量の注入材を注入することができる注入終了時間を決定する。ここで、必要十分な注入量とは、上述したショートショットやオーバーフローなどの不具合が発生しない程度のキャビティ15への総注入量を指す。
【0043】
なお、実験によって、事前に、注入材のセンサー80への到達時間Xと、キャビティ15に所定量(たとえば、成形品を作製するのに必要十分な総注入量)の注入材が注入されるまでの注入終了時間Yと、の関係を表す関係式「Y=F(X)」を求めておく。具体的には、成形品の試作を繰り返し、その試作ごとに、上記の到達時間Xを測定し、試作の状況を観察して不具合のない成形品が作製される最適な注入終了時間Yを特定する。この複数回の試作により得られた複数組のデータ(到達時間X,注入終了時間Y)を二次元平面上の点としてプロットし、プロットされた各点に最もフィットする曲線(上述の関係式「Y=F(X)」)を最小二乗法などの一般的な手法によって求める。なお、本実施形態では、求める関係式Fを二次関数とする。
【0044】
たとえば、図8に示す例のように、低粘度、中粘度、高粘度といった粘性の異なる注入材を用いて、成形品の試作を繰り返すことによって、上記の関係式Fを求めることができる。なお、低粘度の注入材を注入する場合には、(A1)注入材:規格内において粘度値が下限の材料、(A2)樹脂温度:設定温度200℃+温度バラツキ上限3℃=203℃、(A3)金型温度:金型製品面温度20℃+パラツキ3℃=23℃、の条件を満たすものとする。また、高粘度の注入材を注入する場合には、(B1)注入材:規格内において粘度値が上限の材料、(B2)樹脂温度:設定温度200℃−温度バラツキ3℃=197℃、(B3)金型温度:金型製品面温度20℃−パラツキ3℃=17℃、の条件を満たすものとする。なお、中粘度の注入材を注入する場合には、低粘度と高粘度の中間の条件を満たすものとする。
【0045】
図8には、以上の注入条件で試作が繰り返されたときに得られた複数組のデータ(到達時間X,注入終了時間Y)がプロットされている(ひし形の点)。そして、最小二乗法によりプロットされた各点に最もフィットする曲線を求めると、「Y=−0.58X+2.5549X−0.3737」という関係式Fが得られた。なお、このときの決定係数Rは、0.9625であり「1」に近い値であるため、フィットの良い関係式Fと言える。
【0046】
以上の例のような方法によって、注入制御装置10は、到達時間Xと注入終了時間Yの関係式Fを求めておき、図示しない記憶部に予め登録している。
【0047】
(注入制御装置90による制御)
次に、本実施形態に係る注入制御システム1による制御について説明する。
【0048】
図9は、注入制御装置において実行される成形品の作製処理の手順を示すフローチャートである。図10は、注入材の注入時間と実際の注入量の関係を示すグラフである。
【0049】
(ステップS101)
まず、注入制御装置90は、成形品の作製に先立って、注入材の注入を開始してから終了するまでの注入時間(以下、「目標終了時間T」と称する)を設定する。目標終了時間Tは、注入材の注入条件(粘度、温度等)等に基づいて注入制御装置90が自動で算出してもよいし、あるいはユーザーが手動で入力してもよい。
【0050】
(ステップS102)
注入制御装置90は、金型装置10のキャビティ15に対して、注入材の注入を開始する。具体的には、注入制御装置90は、指示信号を送信して電気的駆動弁60を所定の開閉度で開く。
【0051】
電気的駆動弁60を開くと、キャビティ15への注入が開始される。ただし、電気的駆動弁60の開閉度は一定にし、吐出装置70による注入材の単位時間当たりの吐出量を一定にする。それでも、注入材の特性(粘性など)や、注入制御システム1の使用環境などによって、実際にキャビティ15に注入される単位時間当たりの注入量は変化する。たとえば、図10に示すように、注入時間に対して実際にキャビティ15に注入される注入量は、必ずしも比例せず、注入材の粘性によって単位時間当たりの注入量(グラフの傾きに相当)も変化する。
【0052】
そのため、注入材の特性などに関わらず一律に目標終了時間Tに注入を終了させると、キャビティ15への総注入量が安定せず、ショートショットやオーバーフローなどの不具合が生じてしまう。たとえば、図10の破線のグラフのように注入されることが予測されて目標終了時間Tが設定された場合について検討する。実際には、図10の細実線のグラフのように、センサー80が注入材の到達を検知した時間P1が、事前に予測した時間P0より遅い場合がある。この場合は、注入材が予測よりも高粘度(高粘度材料)であったことを示している。そのため、当初の予定どおり目標終了時間Tに注入を終了させると、目標注入量の注入材を注入できず、ショートショットとなる(図10の「△」)。また、図10の太実線のグラフのように、実際には、センサー80が注入材の到達を検知した時間P2が、事前に予測した設定した時間P0より早い場合もある。この場合は、注入材が予測よりも低粘度(低粘度材料)であったことを示している。そのため、当初の予定どおり目標終了時間Tに注入を終了させると、目標注入量より多くの注入材を注入してしまい、オーバーフローとなる(図10の「○」)。
【0053】
そこで、注入制御装置90は、注入途中の段階において実際の注入状況を確認し、その注入状況に応じて注入終了時間を変更(補正)する。
【0054】
(ステップS103)
具体的には、注入制御装置90は、まず、注入材の注入を開始してから、注入材がキャビティ15の所定位置C(図4参照)に到達するまでの到達時間Xを計測する。たとえば、注入制御装置90は、注入材の注入開始と同時にタイマーを稼働する。これとともに、注入制御装置90は、センサー16から送信されたセンサー値を監視しておき、センサー値が所定値以上変化したときに、注入材が所定位置Cに到達したことを検知する。注入制御装置90は、注入材が所定位置Cに到達したことを検知したときのタイマーの値を参照して、注入開始から注入材が所定位置Cに到達するまでの到達時間Xを計測する。
【0055】
(ステップS104)
続いて、注入制御装置90は、事前に登録されている上記関係式Fを記憶部から読み出し、ステップS103において計測された到達時間Xを、関係式Fに代入する。これにより、注入制御装置90は、今回の注入材の注入(ショット)における、実際の注入状況に応じて不具合のない成形品を作製するのに最適な注入終了時間Yを求められる。
【0056】
(ステップS105)
そして、注入制御装置90は、注入終了時間を、ステップS101において設定された目標となる目標終了時間Tから、ステップS104において求められた注入終了時間Yに変更(補正)する。たとえば、図10の細実線のグラフのように、注入材が予測よりも高粘度(高粘度材料)であった場合には、注入制御装置90は、注入終了時間を、TからY1へと遅らせる。また、図10の太実線のグラフのように、注入材が予測よりも低粘度(低粘度材料)であった場合には、注入制御装置90は、注入終了時間を、TからY2へと早める。
【0057】
(ステップS106)
その後、注入制御装置90は、吐出装置70による注入材の単位時間当たりの吐出量は変更せず、そのまま注入材の注入を継続し、ステップS105において決定された注入終了時間になると、電気的駆動弁60を閉じる制御をして、注入を終了する。これにより、注入材の特性や、注入制御システム1の使用環境によらず、不具合のない成形品を作製するために必要十分な注入量(総注入量)の注入材をキャビティ15に注入できる。
【0058】
ステップS106の終了に伴い、注入制御装置90は、成形品の作製処理を終了する。
【0059】
以上の成形品の作製処理では、注入位置Aから離れた所定位置Cに注入材が到達するまでの時間に基づいて、注入終了時間を決定している。すなわち、注入材の注入が開始された後、実際の注入状況をみて、注入終了時間を変えることで総注入量を制御している。これにより、材料ロットや樹脂温度などのさまざまな要因によって注入材の注入条件(粘度など)が当初の予定と異なる場合でも、最終的に金型に注入される注入材の総注入量は一定となる。そのため、注入圧力、樹脂温度、金型温度などの調整を個々に行わなくても、注入終了時間を変えるだけの簡易な方法によって、注入材の総注入量を安定化できる。その結果、ショートショットやオーバーフローなどの不具合も発生せず、歩留りが高くなる。
【0060】
なお、上記したフローチャートの各処理単位は、注入制御装置90の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものである。処理ステップの分類の仕方やその名称によって、本願発明が制限されることはない。注入制御装置90で行われる処理は、さらに多くの処理ステップに分割することもできる。また、1つの処理ステップが、さらに多くの処理を実行してもよい。
【0061】
(変形例)
また、上記の実施形態は、本発明の要旨を例示することを意図し、本発明を限定するものではない。多くの代替物、修正、変形例は当業者にとって明らかである。
【0062】
たとえば、上記実施形態では、注入制御システム1によって作製される成形品を、電池セル100の補強部材150としている。しかし、本発明は、一般的な金型により成形可能なものであれば、これに限定されない。
【0063】
また、上記実施形態では、熱可塑性樹脂を注入材として、金型装置10のキャビティ15に注入し、成形品を作製している。しかし、本発明は、これに限定されず、熱硬化性樹脂を注入材として用いてもよい。熱硬化性樹脂は、常温では液体であり、加熱した金型装置10のキャビティ15に注入されると、溶融して固化する。このような性質を持つ熱硬化性樹脂を用いて成形品を作製する場合であっても、上記実施形態の注入制御方法によって注入終了時間を制御することにより、熱可塑性樹脂を注入材として用いる場合と同様の効果が得られる。
【0064】
また、上記実施形態では、注入材のセンサー80への到達時間Xと、注入材の注入開始から終了までの注入終了時間Yと、の関係を表す関係式Fは、二次関数である。しかし、本発明は、これに限定されず、要求する精度などに応じて、一次関数や、三次以上の高次関数としてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、センサー80に、温度センサー、圧力センサー、ファイバーセンサーなどを使用する例について説明したが、赤外線式温度センサーを使用してもよい。ここで、赤外線式温度センサーは、赤外線の量を検知して温度を測定するセンサーである。赤外線式温度センサーは、測定した温度に相当する電圧値を、センサー値として注入制御装置90に出力して、キャビティ15における所定位置C付近の温度を、注入制御装置90へ知らせることができる。
【0066】
ただし、赤外線式センサーから出力される電圧値は、測定した温度によってはノイズに埋もれやすく、正確な値とならない場合がある。図11は、赤外線式温度センサーによって測定された温度Sと、そのときに赤外線式温度センサーが出力する電圧値Vとの対応関係を示すグラフである。図11のグラフに示すように、測定された温度Sと、出力する電圧値Vは、正比例の関係にない。そのため、温度Sに対する電圧値Vの変化量が相対的に小さい領域(たとえば、図中の領域1)と、温度Sに対する電圧値Vの変化量が相対的に大きい領域(たとえば、図中の領域2)とでは、出力可能な電圧値Vのダイナミックレンジが異なる。この点を考慮して、赤外線式温度センサーは、出力する電圧値Vのダイナミックレンジが広くなる領域(たとえば、図中の領域2)で注入材の温度を計測可能な位置に設けられるとよい。たとえば、図4に示す所定位置Cに赤外線式温度センサーを設ければ、図11に示す領域2の範囲の温度で注入材を計測できる。これにより、赤外線式温度センサーから出力される電圧値Vは、ノイズに埋もれない正確な値となる。その結果、注入制御装置90では、注入材がセンサー80の位置(所定位置C)に到達したことを確実に検知できるようになる。
【0067】
また、センサー応答が10ms以下である赤外線式温度センサーを使用すれば、注入材を注入しているサイクル内に、注入終了時間を変更するためのフィードバックが可能になる。
【0068】
また、センサー80として赤外線式温度センサーを使用する場合であっても、成形品を金型装置10から離型するためのエジェクタピンの位置に設けられることが好ましい。
【0069】
また、上記実施形態では、吐出装置70から1つの金型装置10に注入材を注入する例について説明している。しかし、本発明は、これに限定されず、吐出装置70から複数の金型装置10にそれぞれ注入材を注入可能な構成としてもよい。
【0070】
図12は、複数の吐出ポンプを有する吐出装置と、1つのセンサーしか持たない複数の金型装置10とを接続したときの構成例(2ポンプ1センサー)を示す図である。図13は、複数の吐出ポンプを有する吐出装置と、2つのセンサーを持つ複数の金型装置10とを接続したときの構成例(2ポンプ2センサー)を示す図である。図14は、1つの吐出ポンプを有する吐出装置と、1つのセンサーしか持たない複数の金型装置10とを接続したときの構成例(1ポンプ1センサー)を示す図である。
【0071】
図12に示す構成では、第1吐出ポンプP1から吐出された注入材は、第1金型装置10Aの左右のキャビティ15に同時に注入される。これと共に、第2吐出ポンプP2から吐出された注入材は、第2金型装置10Bの左右のキャビティ15に同時に注入される。また、センサー80は、金型装置10(A、B)ごとに1つずつ設けられ、たとえば、第1金型装置10Aの右側のキャビティ15内と、第2金型装置10Bの右側のキャビティ15内に設けられる。このように構成することによって、複数の金型装置10(A、B)に、同時に注入材を注入できる。そして、金型装置10(A、B)の左右のキャビティ15に注入される注入材の量は、金型装置10(A、B)の右側のキャビティ15に設けられたセンサー80のセンサー値に基づいて制御されるため、より簡単な制御となる。
【0072】
図13に示す構成では、第1吐出ポンプP1から吐出された注入材は、第1金型装置10Aの一方(右)のキャビティ15と、第2金型装置10Bの一方(左)のキャビティ15とに、2段階に分けて注入される。これと共に、第2吐出ポンプP2から吐出された注入材は、第1金型装置10Aの他方(左)のキャビティ15と、第2金型装置10Bの他方(右)のキャビティ15とに、2段階に分けて注入される。また、センサー80は、金型装置10(A、B)の左右のキャビティ15ごとに設けられ、たとえば、第1金型装置10Aの左右のキャビティ15内と、第2金型装置10Bの左右のキャビティ15内に設けられる。このように構成することによって、複数の金型装置10(A、B)に、並行して注入材を注入できる。そして、各金型装置10(A、B)の左右のキャビティ15に注入される注入材の量は、各キャビティ15にそれぞれ設けられたセンサー80のセンサー値に基づいて制御されるため、図12の構成と比べて、より正確な注入量の制御が可能になる。
【0073】
図14に示す構成では、第1吐出ポンプP1から吐出された注入材は、第1金型装置10Aの左右のキャビティ15と、第2金型装置10Bの左右のキャビティ15とに、それぞれ4段階に分けて注入される。また、センサー80は、金型装置10(A、B)ごとに1つずつ設けられ、たとえば、第1金型装置10Aの右側のキャビティ15内と、第2金型装置10Bの右側のキャビティ15内に設けられる。このように構成することによって、複数の金型装置10(A、B)に、並行して注入材を注入できる。そして、金型装置10(A、B)の左右のキャビティ15に注入される注入材の量は、金型装置10(A、B)の右側のキャビティ15に設けられたセンサー80のセンサー値に基づいて制御されるため、より簡単な制御となる。
【0074】
また、図12図14には、吐出装置70に2台の金型装置10が接続された例しか示されていないが、3台以上の金型装置10が接続されてもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、図8に示す2次関数の関係式Fを用いて、最適な注入終了時間を決定している。しかし、本発明は、これに限定されず、1次関数の関係式F’を用いてもよい。図15は、金型装置に注入された注入材がセンサーに到達するまでの時間と、不具合のない成形品を作製するのに最適な注入終了時間の関係を示す1次関数のグラフである。図15に示す1次関数の関係式F’は、注入材の温度を異ならせて複数回注入し、注入材がセンサー80に到達するまでの時間と、注入材の総注入量がキャビティ15のフル注入量の95%になる注入終了時間とを、それぞれプロットして求められる。具体的には、210℃、200℃、190℃の温度の注入材をそれぞれ注入して、「Y=2.3717X−0.1998」という関係式F’が得られた。なお、このときの決定係数Rは、0.9901であり、フィットの非常に良い関係式F’と言える。このように、関係式F’は、数回程度の注入材の注入によって簡単に求められるため、注入制御システム1を設置した状況においても容易に注入量増減の微調整ができる。
【0076】
以上の注入制御システム1の構成は、上記実施形態および上記変形例の特徴を説明するにあたって主要構成を説明したのであって、上記の構成に限られない。また、注入制御システム1が備える一般的な構成を排除するものではない。
【0077】
また、注入制御装置90を動作させるプログラムは、USBメモリー、フレキシブルディスク、CD−ROM等のコンピューター読み取り可能な記録媒体によって提供されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してオンラインで提供されてもよい。この場合、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録されたプログラムは、通常、ROMやハードディスク等に転送され記憶される。また、このプログラムは、たとえば、単独のアプリケーションソフトとして提供されてもよいし、注入制御装置90の一機能としてその装置のソフトウェアに組み込んでもよい。
【0078】
また、注入制御装置90において実行される処理は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェア回路によっても実現することもできる。この場合には、1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアで実行されてもよい。
【0079】
(注入材)
最後に、参考までに、注入材の材料について説明する。
【0080】
注入材は、熱溶融材料を含む。熱溶融材料は、いわゆる、熱可塑性樹脂(ホットメルト)である。熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化して成形が容易になり、冷却すると固化する性質を有する。熱可塑性樹脂は、汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック(以下、「エンプラ」と省略する)、スーパーエンプラ、などに分類される。
【0081】
なお、汎用プラスチックは、耐熱温度が約60〜100℃の範囲に含まれるものが多い。たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、テフロン(登録商標)、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂、などが挙げられる。
【0082】
エンプラは、耐熱温度が約100〜150℃の範囲に含まれるものが多い。たとえば、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、などが挙げられる。特に限定するものではないが、好ましくは、加熱されたときに低粘度となるポリアミド系の熱可塑性樹脂が使用される。
【0083】
スーパーエンプラは、耐熱温度が約150〜350℃の範囲に含まれるものが多い。たとえば、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、などが挙げられる。
【0084】
なお、本出願は、2013年8月9日に出願された日本特許出願番号2013−166697号および2013年12月10日に出願された日本特許出願番号2013−255063号に基づいており、それらの開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0085】
1 注入制御システム、
10 金型装置、
11 下型、
12 上型、
13 収納部、
14 注入口、
15 キャビティ、
20 注入材供給源、
30 圧送装置、
40 除去装置、
50 エア供給源、
60 電気的駆動弁、
70 吐出装置、
80 センサー、
90 注入制御装置、
100 電池セル、
150 補強部材、
A 注入位置、
B、B’ 流動末端、
C 所定位置(センサー位置)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15