特許第6202109号(P6202109)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202109ステアリング用ラック、操舵装置、自動車、及び、ステアリング用ラックの製造方法、操舵装置の製造方法、自動車の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202109
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ステアリング用ラック、操舵装置、自動車、及び、ステアリング用ラックの製造方法、操舵装置の製造方法、自動車の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20170914BHJP
   F16H 55/26 20060101ALI20170914BHJP
   B21K 1/76 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B62D3/12 503Z
   F16H55/26
   B21K1/76 A
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-559078(P2015-559078)
(86)(22)【出願日】2015年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2015051458
(87)【国際公開番号】WO2015111595
(87)【国際公開日】20150730
【審査請求日】2017年6月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-9670(P2014-9670)
(32)【優先日】2014年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】萩原 信行
(72)【発明者】
【氏名】小林 一登
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−5839(JP,A)
【文献】 特開2008−137473(JP,A)
【文献】 特開昭57−73268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B21K 1/76
F16H 55/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤの入力軸により回転駆動されるピニオンと噛合するステアリング用ラックにおいて、
前記ステアリング用ラックは、軸方向に延びる断面円形のロッド部と、前記ロッド部の軸方向一部の径方向片側面に形成されて前記ピニオンと噛合する複数のラック歯と、を備え、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ラック歯よりも歯丈が小さく、前記ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が形成され
前記ダミー歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面と、前記径方向外側面と、の一対の接続部は、R形状であり、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ダミー歯がn個ずつ形成され(nは自然数)、
前記ラック歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
複数の前記ラック歯のうち軸方向両端に位置する前記ラック歯における、前記ダミー歯と隣り合う前記軸方向外側面の傾斜角度をθとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向内側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2nとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向外側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2n+1とすると、
θ<θ≦θ<θ≦θ<・・・<θ2n≦θ2n+1である
ステアリング用ラック。
【請求項2】
軸方向両端に位置する前記ラック歯の歯丈をHとし、
複数の前記ダミー歯の歯丈を、1〜n番目の前記ダミー歯から順にH、H、・・・、H2n+1とすると、
>H>H>・・・>H2n+1である
請求項1に記載のステアリング用ラック。
【請求項3】
軸方向両端に位置する前記ラック歯の歯丈Hの半分の値をLとし、
1〜n番目の前記ダミー歯の歯丈H、H、・・・、H2n+1の半分の値をL、L、・・・、L2n+1としたとき、
=H−L、L=H−L、・・・、L2n=H2n−1−L2n+1とし、
軸方向両端に位置する前記ラック歯の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、前記ラック歯の前記軸方向外側面に、軸方向外側に向けて生じる力をfとし、
軸方向両端に位置する前記ラック歯の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、1番目の前記ダミー歯の前記軸方向内側面に、軸方向内側に向けて生じる力をfとし、
n−1番目の前記ダミー歯の径方向外側端部から径方向内側にL2n−1の位置で、n−1番目の前記ダミー歯の前記軸方向外側面に、軸方向外側に向けて生じる力をf2n−1とし、
n−1番目の前記ダミー歯の径方向外側端部から径方向内側にL2nの位置で、n番目の前記ダミー歯の前記軸方向内側面に、軸方向内側に向けて生じる力をf2nとすると、
×f=L×f、L×f=L×f、・・・、L2n−1×f2n−1=L2n×f2nである
請求項2に記載のステアリング用ラック。
【請求項4】
自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤの入力軸により回転駆動されるピニオンと噛合するステアリング用ラックにおいて、
前記ステアリング用ラックは、軸方向に延びる断面円形のロッド部と、前記ロッド部の軸方向一部の径方向片側面に形成されて前記ピニオンと噛合する複数のラック歯と、を備え、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ラック歯よりも歯丈が小さく、前記ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が形成され、
少なくとも一つの前記ダミー歯の径方向外側面には、少なくとも一つの溝部が形成されるテアリング用ラック。
【請求項5】
前記ダミー歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面と、前記径方向外側面と、の一対の接続部は、R形状である
請求項4に記載のステアリング用ラック。
【請求項6】
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ダミー歯がn個ずつ形成され(nは自然数)、
前記ラック歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
複数の前記ラック歯のうち軸方向両端に位置する前記ラック歯における、前記ダミー歯と隣り合う前記軸方向外側面の傾斜角度をθとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向内側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2nとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向外側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2n+1とすると、
θ<θ≦θ<θ≦θ<・・・<θ2n≦θ2n+1である
請求項5に記載のステアリング用ラック。
【請求項7】
前記溝部は、歯丈が等しい複数の前記ダミー歯に、合計3個以上形成される請求項4〜6の何れか1項に記載のステアリング用ラック。
【請求項8】
ラック状であるラック歯加工用凹凸を設けた歯成形用パンチを、軸方向に延びる金属材製のロッド部の軸方向一部の径方向片側面に押し付ける事により、前記径方向片側面を塑性変形させて前記径方向片側面に複数のラック歯を形成するステアリング用ラックの製造方法において、
前記複数のラック歯は、自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤの入力軸により回転駆動されるピニオンと噛合し、
前記歯成形用パンチは、前記ラック歯加工用凹凸の軸方向両側に隣接する部分に、前記ラック歯加工用凹凸よりも歯丈が小さいダミー歯加工用凹凸を有し、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ラック歯よりも歯丈が小さく、前記ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が形成され、
前記ラック歯の成形過程において、前記歯成形用パンチの軸方向両端部に位置する歯の軸方向外側面が、前記ロッド部の軸方向内側面に当接し、
前記ダミー歯加工用凹凸は、少なくとも一つの突起部を有し、
前記突起部により、少なくとも一つの前記ダミー歯の径方向外側面には、少なくとも一つの溝部が形成される
ステアリング用ラックの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載のステアリング用ラックを備える操舵装置。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1項に記載のステアリング用ラックを備える自動車。
【請求項11】
請求項8に記載のステアリング用ラックの製造方法を含む操舵装置の製造方法。
【請求項12】
請求項8に記載のステアリング用ラックの製造方法を含む自動車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング用ラック、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図10に示す様な自動車の操舵輪(フォークリフト等の特殊車両を除き、一般的には前輪)に舵角を付与する為の自動車用操舵装置では、ステアリングホイール1の操作に伴って回転するステアリングシャフト2の動きを、自在継手3、3及び中間シャフト4を介して、ステアリングギヤ5の入力軸6に伝達する。ステアリングギヤ5は、入力軸6により回転駆動されるピニオンと、このピニオンと噛合したステアリング用ラックと、を備える。入力軸6と共にピニオンが回転すると、ステアリング用ラックが軸方向に変位し、その両端部に結合した1対のタイロッド7、7を押し引きし、操舵輪に所望の舵角を付与する。
【0003】
また、ステアリングシャフト2を内側に挿通するステアリングコラム8の下端には、ギヤハウジング9が結合している。ギヤハウジング9は電動モータ10を支持している。そして、電動モータ10により、ステアリングシャフト2に回転方向の補助力を付与する様にしている。
【0004】
一方、上述の図10に示したコラムアシスト式の電動式パワーステアリング装置以外にも、ピニオンアシスト式、デュアルピニオン式、ラックアシスト式と呼ばれる電動式パワーステアリング装置も、従来から一部で使用されている。図11は、この様な電動式パワーステアリング装置のうち、デュアルピニオン式と呼ばれるパワーステアリング装置を組み込んだ操舵装置を示している。この操舵装置は、ステアリング用ラック11の軸方向一部で、且つ入力軸6の外周面に設けたピニオンから外れた部分に、第二の入力軸12が配置されている。そして、第二の入力軸12の一端部外周面に設けた第二のピニオンを、ステアリング用ラック11と噛合させている。また、第二の入力軸12を内側に設けたハウジング13の側方に、電動モータ10aを支持している。そして、電動モータ10aにより、減速機14を介して、第二の入力軸12に回転方向の力を付与する。従って、ステアリング用ラック11は、この補助力に基づく力と、運転者がステアリングホイール1に付与する力に基づき入力軸6から加わる力と、により軸方向に変位する。
【0005】
なお、図示の例の場合、ステアリング用ラック11の径方向片側面に、1対のタイロッド7、7(図10参照)と接続する両端部を除き、軸方向に亙って複数のラック歯を設けている。そして、入力軸6の外周面に設けたピニオンのピッチと、第二の入力軸12の一端部外周面に設けた第二のピニオンのピッチと、をそれぞれに異なるものにできると共に、入力軸6の中心軸とステアリング用ラック11の中心軸とが成す角度と、第二の入力軸12の中心軸とこのステアリング用ラック11の中心軸が成す角度と、をそれぞれに異なるものにできる。
【0006】
何れにしても、上述の様なステアリングギヤ用ラックを、素材に切削加工を施して複数のラック歯を形成する事により造ると、製造コストが嵩む上、ラックの強度及び剛性を確保し難い。これに対し、冷間鍛造により素材を塑性変形させてラック歯を形成すれば、ラック歯の加工に要する時間が短縮される上、焼き入れ後の仕上げ加工が不要になることから製造コストを低減できる。しかも、得られるラックの金属組織が緻密になり、また塑性変形時にラックの断面形状を必要に応じて変形させることができるので、ラックの強度及び剛性を確保し易い。この様に、ラック歯を冷間鍛造により加工するステアリング用ラックの製造方法に関する発明として従来から、特許文献1〜5に記載された発明が知られている。
【0007】
図12〜17は、このうちの特許文献5に記載されている、ステアリング用ラック及びその製造方法の従来例を示している。ステアリング用ラック11aは、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材製で断面円形のロッド部15と、ロッド部15の軸方向一部(図12〜14の左部)の径方向片側面に、塑性加工により形成された複数のラック歯16と、を備える。ロッド部15は、全長に亙り、金属材により一体に造られている。ここで、ロッド部15のうちの軸方向一部で、複数のラック歯16を形成した部分から周方向に外れた部分を背面部分17とする。図示の例の場合、背面部分17の断面形状の曲率半径R17図15参照)を、ロッド部15の軸方向他部(図12〜14の右部)である、円筒部18の外周面の曲率半径r18図15参照)よりも大きくしている(R17>r18)。この様な構造により、ラック歯16の幅寸法、強度、剛性を、何れも十分に確保しつつ、ラック歯16を形成した部分以外の外径が必要以上に大きくなるのを抑え、軽量に構成している。
【0008】
次に、上述の様なステアリング用ラック11aの製造方法について、図16〜18により説明する。先ず、図16の(A)に示す様に、炭素鋼、ステンレス鋼等の金属材製で円筒状の素材19を、受型20の上面に設けた、断面円弧形の凹溝部21内にセット(載置)する。次いで、図16の(B)に示す様に、凹溝部21に沿って長い押圧パンチ22の先端面(下端面)により素材19を凹溝部21に向けて強く押圧する、据え込み加工を行う。図16の(B)に示した据え込み加工では、素材19の軸方向に関してラック歯16(図12〜15参照)を形成すべき部分を、上下方向に押し潰すと共に、水平方向の幅寸法を拡げて、中間素材23とする。中間素材23は、外周面に、背面部分17(図12、14、15参照)となるべき部分円筒面部24と、断面の径方向に関してこの部分円筒面部24と反対側に存在する平坦面部25と、部分円筒面部24及び平坦面部25同士を連続させる、曲率半径が比較的小さい、1対の曲面部26、26と、を備える。
【0009】
次いで、中間素材23を、受型20の凹溝部21から取り出して、図16の(C)に示す様に、ダイス27に設けた保持孔28の底部29に挿入(セット)する。保持孔28は、U字形の断面形状を有する。底部29の曲率半径は、受型20の凹溝部21の内面の曲率半径と、ほぼ一致している。また、両内側面30、30は、互いに平行な平面である。更に、上端開口部には、上方に向かう程互いの間隔が拡がる方向に傾斜した、1対のガイド傾斜面部31、31を設けている。
【0010】
中間素材23を、ダイス27の保持孔28にセットしたならば、次いで、図16の(C)→(D)に示す様に、保持孔28内に歯成形用パンチ32を挿入し、歯成形用パンチ32により、中間素材23を保持孔28内に強く押し込む。歯成形用パンチ32の加工面(下面)には、得るべきラック歯16に対応する形状のラック歯加工用凹凸40が設けられている。また、中間素材23の外周面は、保持孔28の内面により、ラック歯16を形成すべき平坦面部25を除き、拘束されている。この為、歯成形用パンチ32により中間素材23を保持孔28内に強く押し込む事で、中間素材23のうちの平坦面部25が、ラック歯加工用凹凸40に倣って塑性変形し、図16の(D)及び図17の(A)に示す様なラック歯16を有する、素ラック33に加工される。但し、この状態での素ラック33は、完成状態のステアリング用ラック11a(図12〜15参照)に比べて、形状精度及び寸法精度が不十分であり、ラック歯16の端縁も尖ったままである。また、ラック歯16の加工に伴って(歯底となるべき部分から)押し出された余肉は、保持孔28の両内側面30、30に強く押し付けられるため、素ラック33の左右両側面には、互いに平行な逃げ平坦面部34、34が形成される。
【0011】
そこで、歯成形用パンチ32を上昇させてから、素ラック33を保持孔28から取り出し、図16の(E)に示す様に、サイジング用ダイス35の上面に形成したサイジング用凹凸面部36に載置する。この際、素ラック33を上下反転させる。サイジング用凹凸面部36は、歯の端縁の面取り部を含め、得るべきラック歯16の形状に対応する(完成後の形状に対して凹凸が反転した)形状を有する。そして、押型37により、図16の(E)→(F)に示す様に、素ラック33のラック歯16を形成した部分を、サイジング用凹凸面部36に向け、強く押し付ける。
【0012】
押型37の下面には、完成後のステアリング用ラック11aの背面部分17の曲率半径R17図15参照)に一致する曲率半径を有する押し凹溝38を形成している。素ラック33は、背面部分17となるベき部分を押し凹溝38に嵌合させた状態で、サイジング用凹凸面部36に向け強く押圧される。この為、図16の(F)に示した、サイジング用ダイス35と押型37とを十分に近付けた状態で、ラック歯16が、図17の(B)に示した完成後の状態(形状及び寸法が適正になり、各歯の端縁に面取りが設けられた状態)になると同時に、背面部分17に関しても、形状及び寸法が適正になる。なお、この様にして行なうサイジングに伴って押し出された余肉は、両逃げ平坦面部34、34部分に集まる。従って、完成後のステアリング用ラック11aには、両逃げ平坦面部34、34は、殆ど残らない。ただし、余肉がサイジング用凹凸面部36や押し凹溝38の内面を、極端に強く押圧する事はないので、サイジングの加工荷重を低く抑えられるだけでなく、サイジング用ダイス35及び押型37の耐久性を確保し易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】日本国特開平10−58081号公報
【特許文献2】日本国特開2001−79639号公報
【特許文献3】日本国特許第3442298号公報
【特許文献4】日本国特開2006−103644号公報
【特許文献5】日本国特開2008−138864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述の様な特許文献5に記載された製造方法を含め、従来のステアリング用ラックの製造方法では、以下に述べる様な問題が生じる可能性がある。上述したように、歯成形用パンチ32により中間素材23を保持孔28内に強く押し込んだ際には、中間素材23のうちの平坦面部25が、歯成形用パンチ32のラック歯加工用凹凸40に倣って塑性変形し、ラック歯16を有する、素ラック33に加工される(図18参照)。
【0015】
ここで、図19図18の破線で囲まれた領域Aに対応する。)に示すように、歯成形用パンチ32のラック歯加工用凹凸40を構成する複数の歯39のうち、軸方向中間部付近のラック歯16を成形する歯成形用パンチ32の歯39は、軸方向両側のラック歯16から均等な力fを歯丈の同じ位置に受ける。これに対し、図20図18の破線で囲まれた領域Bに対応する。)に示すように、軸方向両端のラック歯16(図18及び図20中、軸方向一端のラック歯16のみが示されている。)を成形し、且つ当該ラック歯16の軸方向外側に位置する歯成形用パンチ32の歯39には、軸方向内側のラック歯16からの力fが負荷される。そのため、軸方向両側から負荷されるモーメントのバランスが崩れることによって、当該歯成形用パンチ32の歯39に曲げが生じ、歯39の根元の隅が応力集中し、強い引張り応力が生じて、歯成形用パンチ32の寿命が短くなる虞があった。そして、最悪の場合、歯39の根元の隅に亀裂Cが発生し、割れてしまう可能性もある。
【0016】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷間鍛造で成形した場合に歯成形用パンチの長寿命化を実現可能なステアリング用ラック、操舵装置、自動車、及び、ステアリング用ラックの製造方法、操舵装置の製造方法、自動車の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤの入力軸により回転駆動されるピニオンと噛合するステアリング用ラックにおいて、
前記ステアリング用ラックは、軸方向に延びる断面円形のロッド部と、前記ロッド部の軸方向一部の径方向片側面に形成されて前記ピニオンと噛合する複数のラック歯と、を備え、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ラック歯よりも歯丈が小さく、前記ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が形成され
前記ダミー歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面と、前記径方向外側面と、の一対の接続部は、R形状であり、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ダミー歯がn個ずつ形成され(nは自然数)、
前記ラック歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
複数の前記ラック歯のうち軸方向両端に位置する前記ラック歯における、前記ダミー歯と隣り合う前記軸方向外側面の傾斜角度をθとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向内側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2nとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向外側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2n+1とすると、
θ<θ≦θ<θ≦θ<・・・<θ2n≦θ2n+1である
テアリング用ラック。
) 軸方向両端に位置する前記ラック歯の歯丈をHとし、
複数の前記ダミー歯の歯丈を、1〜n番目の前記ダミー歯から順にH、H、・・・、H2n+1とすると、
>H>H>・・・>H2n+1である
ことを特徴とする()に記載のステアリング用ラック。
) 軸方向両端に位置する前記ラック歯の歯丈Hの半分の値をLとし、
1〜n番目の前記ダミー歯の歯丈H、H、・・・、H2n+1の半分の値をL、L、・・・、L2n+1としたとき、
=H−L、L=H−L、・・・、L2n=H2n−1−L2n+1とし、
軸方向両端に位置する前記ラック歯の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、前記ラック歯の前記軸方向外側面に、軸方向外側に向けて生じる力をfとし、
軸方向両端に位置する前記ラック歯の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、1番目の前記ダミー歯の前記軸方向内側面に、軸方向内側に向けて生じる力をfとし、
n−1番目の前記ダミー歯の径方向外側端部から径方向内側にL2n−1の位置で、n−1番目の前記ダミー歯の前記軸方向外側面に、軸方向外側に向けて生じる力をf2n−1とし、
n−1番目の前記ダミー歯の径方向外側端部から径方向内側にL2nの位置で、n番目の前記ダミー歯の前記軸方向内側面に、軸方向内側に向けて生じる力をf2nとすると、
×f=L×f、L×f=L×f、・・・、L2n−1×f2n−1=L2n×f2nである
ことを特徴とする()に記載のステアリング用ラック。
自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤの入力軸により回転駆動されるピニオンと噛合するステアリング用ラックにおいて、
前記ステアリング用ラックは、軸方向に延びる断面円形のロッド部と、前記ロッド部の軸方向一部の径方向片側面に形成されて前記ピニオンと噛合する複数のラック歯と、を備え、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ラック歯よりも歯丈が小さく、前記ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が形成され、
少なくとも一つの前記ダミー歯の径方向外側面には、少なくとも一つの溝部が形成されるテアリング用ラック。
(5) 前記ダミー歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面と、前記径方向外側面と、の一対の接続部は、R形状である(4)に記載のステアリング用ラック。
(6) 前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ダミー歯がn個ずつ形成され(nは自然数)、
前記ラック歯は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面及び軸方向外側面と、前記軸方向内側面及び前記軸方向外側面を接続する径方向外側面と、を有し、
複数の前記ラック歯のうち軸方向両端に位置する前記ラック歯における、前記ダミー歯と隣り合う前記軸方向外側面の傾斜角度をθとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向内側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2nとし、
複数の前記ダミー歯の前記軸方向外側面の傾斜角度を、前記ラック歯に近い1〜n番目の前記ダミー歯から順にθ、θ、・・・、θ2n+1とすると、
θ<θ≦θ<θ≦θ<・・・<θ2n≦θ2n+1である(5)に記載のステアリング用ラック。
) 前記溝部は、歯丈が等しい複数の前記ダミー歯に、合計3個以上形成される
ことを特徴とする(4)〜(6)の何れか1項に記載のステアリング用ラック。
) ラック状であるラック歯加工用凹凸を設けた歯成形用パンチを、軸方向に延びる金属材製のロッド部の軸方向一部の径方向片側面に押し付ける事により、前記径方向片側面を塑性変形させて前記径方向片側面に複数のラック歯を形成するステアリング用ラックの製造方法において、
前記複数のラック歯は、自動車用操舵装置を構成するステアリングギヤの入力軸により回転駆動されるピニオンと噛合し、
前記歯成形用パンチは、前記ラック歯加工用凹凸の軸方向両側に隣接する部分に、前記ラック歯加工用凹凸よりも歯丈が小さいダミー歯加工用凹凸を有し、
前記ロッド部の前記軸方向一部で、且つ複数の前記ラック歯の軸方向両側に隣接する部分には、前記ラック歯よりも歯丈が小さく、前記ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が形成され
前記ラック歯の成形過程において、前記歯成形用パンチの軸方向両端部に位置する歯の軸方向外側面が、前記ロッド部の軸方向内側面に当接し、
前記ダミー歯加工用凹凸は、少なくとも一つの突起部を有し、
前記突起部により、少なくとも一つの前記ダミー歯の径方向外側面には、少なくとも一つの溝部が形成される
ステアリング用ラックの製造方法。
(9) (1)〜(7)の何れか1項に記載のステアリング用ラックを備える操舵装置。
(10) (1)〜(7)の何れか1項に記載のステアリング用ラックを備える自動車。
(11) (8)に記載のステアリング用ラックの製造方法を含む操舵装置の製造方法。
(12) (8)に記載のステアリング用ラックの製造方法を含む自動車の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ステアリング用ラックにおける、ピニオンと噛合する複数のラック歯の軸方向両側に隣接する部分に、ラック歯よりも歯丈が小さく、ピニオンと噛合しない少なくとも一つのダミー歯が設けられる。したがって、ステアリング用ラックに複数のラック歯を冷間鍛造で成形する場合、軸方向両端のラック歯を成形し且つ当該ラック歯の軸方向外側に位置する歯成形用パンチの歯には、軸方向内側のラック歯から力が負荷され、軸方向外側のダミー歯から力が負荷される。したがって、この歯成形用パンチの歯に負荷されるモーメントのバランスが改善されるので、当該歯に応力が集中してしまうことを防止でき、歯成形用パンチの長寿命化を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係るラック及び歯成形用パンチを示す図である。
図2】従来の歯成形用パンチに生じる応力分布を示す図である。
図3】本発明の歯成形用パンチに生じる応力分布を示す図である。
図4】本発明の歯成形用パンチの寿命のSN線図
図5】第2実施形態に係るラック及び歯成形用パンチを示す図である。
図6】変形例に係るラック及び歯成形用パンチを示す図である。
図7】変形例に係るラック及び歯成形用パンチを示す図である。
図8】変形例に係るラックを示す斜視図である。
図9】変形例に係るラックを示す斜視図である。
図10】ステアリング用ラックを組み込んだステアリングギヤを備えた自動車用操舵装置の従来構造の第1例を示す部分断面図である。
図11】ステアリング用ラックを組み込んだステアリングギヤを備えた自動車用操舵装置の従来構造の第2例を示す部分断面図である。
図12】ステアリング用ラックを示す斜視図である。
図13図12のXIII矢視図である。
図14図12のXIV矢視図である。
図15図14のXV−XV断面図である。
図16】(A)〜(F)は従来構造に係るステアリング用ラックの製造方法を工程順に示す、図15と同方向から見た断面図である。
図17】(A)及び(B)はサイジング前後のラック歯の形状を示す部分斜視図である。
図18】従来のラックの製造方法及び製造装置の問題点を説明するための断面図である。
図19図18の領域Aに対応する拡大断面図である。
図20図18の領域Bに対応する拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態に係るステアリング用ラックについて、図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
本発明のステアリング用ラック、操舵装置、自動車、及び、ステアリング用ラックの製造方法、操舵装置の製造方法、自動車の製造方法の特徴は、ステアリング用ラック11aを構成するロッド部15の軸方向一部の径方向片側面に、ラック歯16を形成する{前述した図16の(C)→(D)に相当する工程}際に、歯成形用パンチ32の歯39に応力が集中することを防止し、歯成形用パンチ32を長寿命化する点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の図16〜18に示した従来の製造方法及び製造装置を含め、従来から知られているステアリング用ラックの製造方法及び製造装置と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略化する。
【0022】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の歯成形用パンチ32は、上述のラック歯加工用凹凸40に加えて、当該ラック歯加工用凹凸40の軸方向両側に隣接する部分にダミー歯加工用凹凸41を有している(図中、軸方向一方側のダミー歯加工用凹凸41のみが示されている。)。ダミー歯加工用凹凸41の歯丈41Lは、ラック歯加工用凹凸40の歯丈40Lよりも小さく形成されている。
【0023】
したがって、歯成形用パンチ32により中間素材23を保持孔28内に強く押し込んだ場合{前述した図16の(C)→(D)に相当する工程}、中間素材23のうちの平坦面部25が、ラック歯加工用凹凸40及びダミー歯加工用凹凸41に倣って塑性変形し、図1に示す様なラック歯16及びダミー歯42を有する、素ラック33に加工される。
【0024】
より具体的には、素ラック33は、軸方向に延びる断面円形のロッド部15と、ロッド部15の軸方向一部の径方向片側面に形成されてピニオンと噛合する複数のラック歯16と、を備える。ロッド部15の軸方向一部で且つ複数のラック歯16の軸方向両側に隣接する部分には、一つずつダミー歯42が形成される。ダミー歯42の歯丈Hは、ラック歯16の歯丈Hよりも小さく形成されるので(H=41L<H=40L)、ダミー歯42はピニオンと噛合しない。
【0025】
また、ダミー歯42は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面42a及び軸方向外側面42bと、軸方向内側面42a及び軸方向外側面42bを接続する径方向外側面42cと、を有する。径方向外側面42cは、軸方向中間部が凸となる断面R形状の曲面であり、軸方向内側面42a及び軸方向外側面42bを滑らかに接続する。したがって、軸方向内側面42a及び軸方向外側面42bと径方向外側面42cとの一対の接続部42dも、R形状に形成される。なお、上述したようにダミー歯42はピニオンと噛合わないので、歯先である径方向外側面42cや一対の接続部42dをR形状としても問題はない。
【0026】
ラック歯16は、径方向外側に向かうにしたがって、軸方向において互いに近接する方向に傾斜する軸方向内側面16a及び軸方向外側面16bと、軸方向内側面16a及び軸方向外側面16bを接続する径方向外側面16cと、を有する。ここで、ラック歯16はピニオンと噛合するので、径方向外側面16cは平面状に形成され、軸方向内側面16a及び軸方向外側面16bと径方向外側面16cとの一対の接続部16dは角ばった形状とされる。
【0027】
そして、複数のラック歯16のうち軸方向両端に位置するラック歯16(図1中、最も右側に位置するラック歯16)における、ダミー歯42と隣り合う軸方向外側面16bの傾斜角度をθとし、ダミー歯42の軸方向内側面42aの傾斜角度をθとし、軸方向外側面42bの傾斜角度をθとすると、θ<θ=θとなるように設定される。
【0028】
また、軸方向両端に位置するラック歯16の歯丈Hの半分の値をLとし(L=0.5×H)とし、ダミー歯42の歯丈Hの半分の値をLとし(L=0.5×H)、L=H−Lとする。この場合、軸方向両端に位置するラック歯16の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、ラック歯16の軸方向外側面16bに、軸方向外側に向けて力fが生じる。また、軸方向両端に位置するラック歯16の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、ダミー歯42の軸方向内側面42aに、軸方向内側に向けて力fが生じる。また、ダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、ダミー歯42の軸方向外側面42bに、軸方向外側に向けて力fが生じる。ここで、上述したようにθ<θ=θに設定されるので、くさび効果によりf>f=fとなる。また、H>Hであるので、0.5×H<H−0.5×Hと変形し、L=0.5×H、L=0.5×H、L=H−Lであることを考慮すると、L<Lとなる。
【0029】
したがって、ラック歯16の軸方向外側面16bにはモーメントL×fが生じ、ダミー歯42の軸方向内側面42aにはモーメントL×fが生じ、ダミー歯42の軸方向外側面42bにはモーメントL×fが生じる。ここで、θやL(H)等は自由に設計できるので、L×f=L×fとなるように構成されている。
【0030】
このように構成した場合、軸方向両端のラック歯16を成形し且つ当該ラック歯16の軸方向外側に位置する歯成形用パンチ32の歯39には、軸方向内側のラック歯16からモーメントL×fが負荷され、軸方向外側のダミー歯42からモーメントL×fが負荷される。したがって、この歯成形用パンチ32の歯39に負荷されるモーメントが釣り合う(L×f=L×f)。
【0031】
また、歯成形用パンチ32の両端の歯39には、軸方向内側のダミー歯42からモーメントL×fが負荷されるが、当該モーメントL×fは、従来のステアリング用ラック(図20参照)を製造する際に、歯成形用パンチ32の歯39に負荷されるモーメントL×fに比べて小さい(L×f<L×f ∵L<L、f<f)。このように、モーメントのバランスが改善されるので、当該歯39に応力が集中してしまうことを防止でき、歯成形用パンチ32の長寿命化を実現することが可能である。
【0032】
さらに、ダミー歯42の径方向外側面42c及び一対の接続部42dがR形状とされているので、当該接続部42dと接触する歯成形用パンチ32の歯39の根元への応力集中が緩和され、歯成形用パンチ32のさらなる長寿命化を実現できる。
【0033】
このようにダミー歯42を設けることによって、歯成形用パンチ32の歯39の根元に生じる引張り応力が減少することは、図2及び図3に示される、弾塑性解析による評価結果からも明らかである。図2には従来技術のようにダミー歯加工用凹凸41を設けなかった場合の歯成形用パンチ32(図18の歯成形用パンチ32に対応する。)が示され、図3には本実施形態の歯成形用パンチ32が示されており、それぞれ濃く示されている部分は引張り応力が大きいことを表している。従来技術の歯成形用パンチ32では、軸方向両端の歯39の根元に非常に大きな応力が発生しているのに対して、本実施形態の歯成形用パンチ32では、歯39の根元に生じる応力が激減していることがわかる。
【0034】
また、図4には、歯成形用パンチ32の寿命のSN線図が示されている。従来技術の歯成形用パンチ32に比べて、本実施形態の歯成形用パンチ32では、歯39の根元に生じる応力が激減することから、破断繰り返し数Nが非常に増加し、長寿命化が実現できる。
【0035】
(第2実施形態)
上述の実施形態では、ロッド部15の軸方向一部で且つ複数のラック歯16の軸方向両側に隣接する部分に、一つずつダミー歯42が形成される構成であったが(図1参照)、図5に示すように、ロッド部15の軸方向一部で且つ複数のラック歯16の軸方向両側に隣接する部分に、複数個ずつダミー歯42が形成される構成であっても構わない。
【0036】
図5中、軸方向一方側においてダミー歯42はn個形成されている(n:2以上の自然数)。そして、複数のダミー歯42の軸方向内側面42aの傾斜角度を、ラック歯16に近い1〜n番目のダミー歯42から順にθ、θ、・・・、θ2n−2、θ2nとし、複数のダミー歯42の軸方向外側面42bの傾斜角度を、ラック歯16に近い1〜n番目のダミー歯42から順にθ、θ、・・・、θ2n−1、θ2n+1とすると、θ<θ=θ<θ=θ<・・・<θ2n−2=θ2n−1<θ2n=θ2n+1となるように設定される。また、複数のダミー歯42の歯丈を、1〜n番目のダミー歯42から順にH、H、・・・、H2n−1、H2n+1とすると、H>H>H>・・・>H2n−1>H2n+1となるように設定される。また、ダミー歯42の歯丈H、H、・・・、H2n−1、H2n+1の半分の値をL、L、・・・、L2n−1、L2n+1とし、L=H−L、L=H−L、・・・、L2n=H2n−1−L2n+1とする。
【0037】
この場合、軸方向両端に位置するラック歯16の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、当該ラック歯16の軸方向外側面16bに、軸方向外側に向けて力fが生じる。軸方向両端に位置するラック歯16の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、ダミー歯42の軸方向内側面42aに、軸方向内側に向けて力fが生じる。1番目のダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、1番目のダミー歯42の軸方向外側面42bに、軸方向外側に向けて力fが生じる。1番目のダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、2番目のダミー歯42の軸方向内側面42aに、軸方向内側に向けて力fが生じる。2番目のダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、2番目のダミー歯42の軸方向外側面42bに、軸方向外側に向けて力fが生じる。n−2番目のダミー歯42(不図示)の径方向外側端部から径方向内側にL2n−2の位置で、n−1番目のダミー歯42の軸方向内側面42aに、軸方向内側に向けて力f2n−2が生じる。n−1番目のダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にL2n−1の位置で、n−1番目のダミー歯42の軸方向外側面42bに、軸方向外側に向けて力f2n−1が生じる。n−1番目のダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にL2nの位置で、n番目のダミー歯42の軸方向内側面42aに、軸方向内側に向けて生じる力f2nが生じる。n番目のダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にL2n+1の位置で、n番目のダミー歯42の軸方向外側面42bに、軸方向外側に向けて力f2n+1が生じる。
【0038】
ここで、上述したようにθ<θ=θ<θ=θ<・・・<θ2n−2=θ2n−1<θ2n=θ2n+1に設定されるので、くさび効果によりf>f=f>f=f>・・・>f2n−2=f2n−1>f2n=f2n+1となる。また、H>H>H>・・・>H2n−1>H2n+1であるので、L<L、L<L、・・・、L2n−1<L2n、となる。
【0039】
したがって、ラック歯16の軸方向外側面16bにはモーメントL×fが生じ、1番目のダミー歯42の軸方向内側面42aにはモーメントL×fが生じ、1番目のダミー歯42の軸方向外側面42bにはモーメントL×fが生じ、2番目のダミー歯42の軸方向内側面42aにはモーメントL×fが生じ、n−1番目のダミー歯42の軸方向外側面42bにはモーメントL2n−1×f2n−1が生じ、n番目のダミー歯42の軸方向内側面42aにはモーメントL2n×f2nが生じる。ここで、L×f=L×f、L×f=L×f、L2n−1×f2n−1=L2n×f2nとなり、左右からのモーメントが釣り合うように構成されている。
【0040】
このように構成した場合、軸方向両端のラック歯16を成形し且つ当該ラック歯16の軸方向外側に位置する歯成形用パンチ32の歯39には、軸方向内側のラック歯16からモーメントL×fが負荷され、軸方向外側のダミー歯42からモーメントL×fが負荷される。また、上記歯39の軸方向外側に隣接する歯39(2番目の歯39)には、軸方向内側の1番目のダミー歯42からモーメントL×fが負荷され、軸方向外側の2番目のダミー歯42からモーメントL×fが負荷される。そして、n番目の歯39には、軸方向内側のn−1番目のダミー歯42からモーメントL2n−1×f2n−1が負荷され、軸方向外側のn番目のダミー歯42からモーメントL2n×f2nが負荷される。したがって、歯成形用パンチ32の複数の歯39に負荷されるモーメントが釣り合う(L×f=L×f、L×f=L×f、L2n−1×f2n−1=L2n×f2n)。
【0041】
また、歯成形用パンチ32の両端の歯39には、軸方向内側のダミー歯42からモーメントL2n+1×f2n+1が負荷されるが、当該モーメントL2n+1×f2n+1は、第1実施形態において歯成形用パンチ32の両端の歯39に負荷されるモーメントL×fに比べて小さい(L2n+1×f2n+1<L×f ∵L2n+1<L、f2n+1<f)。このように、第1実施形態に比べて、モーメントのバランスが改善されるので、当該歯39に応力が集中してしまうことを防止でき、歯成形用パンチ32の長寿命化を実現することが可能である。
【0042】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0043】
例えば、第1実施形態(図1参照)においては、軸方向両端部に位置する歯成形用パンチ32の歯39には、軸方向内側のダミー歯42からモーメントL×fが負荷され、軸方向外側のロッド部15からはモーメントが負荷されない構成であったが、この構成に限定されず、図6に示すように、軸方向外側のロッド部15からモーメントが負荷される構成であってもよい。
【0044】
この場合、軸方向両端部に位置する歯成形用パンチ32の歯39と、ロッド部15とが、軸方向に当接する。そして、軸方向両端に位置するダミー歯42の径方向外側端部から径方向内側にLの位置で、ロッド部15の軸方向内側面15aに、軸方向内側に向けて力fが生じる。そして、ロッド部15の軸方向内側面15aにはモーメントL×fが生じる。なお、図示の例では、Lは0<L<Hを満たす任意の値である。
【0045】
したがって、軸方向両端部に位置する歯成形用パンチ32の歯39には、軸方向内側のダミー歯42からモーメントL×fが負荷され、軸方向外側のロッド部15からモーメントL×fが負荷される。したがって、第1実施形態において歯成形用パンチ32の両端の歯39に負荷されるモーメントL×fに比べて、モーメントのバランスが改善されるので、当該歯39に応力が集中してしまうことを防止でき、歯成形用パンチ32の長寿命化を実現することが可能である。このような構成は、ダミー歯42の数を増やすことが困難な場合に特に効果がある。
【0046】
なお、第2実施形態においても同様に、軸方向両端部に位置する歯成形用パンチ32の歯39に、軸方向内側のダミー歯42からモーメントL2n+1×f2n+1が負荷され、軸方向外側のロッド部15からモーメントL×fが負荷されるようにしてもよい。
【0047】
また、上述の実施形態においては、複数のダミー歯42の軸方向内側面42aの傾斜角度θ、θ、・・・、θ2nと、軸方向外側面42bの傾斜角度θ、θ、・・・、θ2n+1とが、同一であるとしたが(θ=θ<θ=θ<・・・<θ2n−2=θ2n−1<θ2n=θ2n+1)、必ずしも同一でなくても構わない。その場合、少なくともθ<θ≦θ<θ≦θ<・・・<θ2n−2≦θ2n−1<θ2n≦θ2n+1となるように設定される。
【0048】
また、ダミー歯42の径方向外側面42cは、必ずしも軸方向中間部が凸となる断面R形状の曲面とする必要はなく、図7に示すように、断面平面形状としてもよい。この場合であっても、軸方向内側面42a及び軸方向外側面42bと径方向外側面42cとの一対の接続部42dをR形状に形成すれば、当該接続部42dと接触する歯成形用パンチ32の歯39の根元への応力集中を緩和することが可能である。
【0049】
また、図8に示すように、少なくとも一つのダミー歯42の径方向外側面42cには、少なくとも一つの溝部43を形成することが好ましい。図8には、ラック歯16の軸方向両側に隣接する部分に一つずつダミー歯42が形成される第1実施形態において、ダミー歯42の径方向外側面42cの幅方向両端近傍に、一対の溝部43が形成される例が示されている。一対の溝部43は、軸方向に延びて軸方向内側面42a及び軸方向外側面42bを連通する略直線形状である。また、溝部43の寸法は、幅が0.5〜1.0mm程度とされ、深さが0.5〜1.0mm程度とされる。なお、上述したようにダミー歯42はピニオンと噛合わないので、歯先である径方向外側面42cに溝部43を設けても問題はない。
【0050】
このように、少なくとも一つのダミー歯42の径方向外側面42cに少なくとも一つの溝部43を形成することにより、鍛造後の後工程において、溝部43をステアリング用ラック11aの位置決めを行う際の基準とすることが可能となる。例えば、溝部43と同形状のプローブ(探触子)を、溝部43に向かって動作させ、溝部43に係合させることにより位置決めを行う。特に、本例では、ラック歯16の軸方向両側に隣接する部分に設けられた一対のダミー歯42(図中、軸方向一方側のダミー歯42のみが示されている。)のそれぞれに、一対の溝部43が設けられ、合計4個の溝部43が設けられるので、4個のプローブを4個の溝部に係合させて位置決めを行うことで、さらに高精度な位置決めが可能となる。
【0051】
また、図8において、ラック歯16の軸方向両側に隣接する部分に設けられた一対のダミー歯42は、互いに歯丈が等しい。したがって、4個のプローブを4個の溝部43に係合させて、それぞれの溝部43の位置を検出し、少なくとも3個の溝部43の水平位置が等しいことを確認することにより、ステアリング用ラック11aの水平出しを行うことができる。したがって、水平出しを可能とするためには、歯丈が等しい複数のダミー歯42に、合計3個以上の溝部43を形成する必要がある。
【0052】
このような溝部43を形成するために、歯成形用パンチ32のダミー歯加工用凹凸41(図1等参照)には、溝部43と対応する形状を有する突起部(不図示)が形成される。この構成によれば、歯成形用パンチ32がラック歯加工用凹凸40とダミー歯加工用凹凸41と突起部とを有するので、ステアリング用ラック11aにラック歯16とダミー歯42と溝部43とを同時に形成することが可能となる。したがって、溝部43を別工程で加工する必要がないので、作業時間やコストの増加を防止できる。
【0053】
なお、図8では、第1実施形態におけるダミー歯42に溝部43を設ける例を示したが、ラック歯16の軸方向両側に隣接する部分に複数個ずつダミー歯42が形成される第2実施形態(図5参照)においても、ダミー歯42に溝部43を設けても構わない。このとき、少なくとも一つのダミー歯42の径方向外側面42cに、少なくとも一つの溝部43を形成すれば、ステアリング用ラック11aの位置決めが可能となる。また、歯丈が等しい複数のダミー歯42に、合計3個以上の溝部43を形成すれば、水平出しを行うことが可能である。
【0054】
ステアリング用ラック11aの位置決めや水平出しの基準とすることが可能であれば、溝部43の形状は特に限定されず、図9に示すような略半球形状でも構わない。この場合、溝部43の寸法は、直径が0.5〜1.0mm程度とされ、深さが0.5〜1.0mm程度とされる。
【0055】
本出願は、2014年1月22日出願の日本特許出願2014−009670に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0056】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 中間シャフト
5 ステアリングギヤ
6 入力軸
7 タイロッド
8 ステアリングコラム
9 ギヤハウジング
10、10a 電動モータ
11、11a ステアリング用ラック
12 第二の入力軸
13 ハウジング
14 減速機
15 ロッド部
15a 軸方向内側面
16 ラック歯
16a 軸方向内側面
16b 軸方向外側面
16c 径方向外側面
16d 接続部
17 背面部分
18 円筒部
19 素材
20 受型
21 凹溝部
22 押圧パンチ
23 中間素材
24 部分円筒面部
25 平坦面部
26 曲面部
27 ダイス
28 保持孔
29 底部
30 内側面
31 ガイド傾斜面部
32 歯成形用パンチ
33 素ラック
34 逃げ平坦面部
35 サイジング用ダイス
36 サイジング用凹凸面部
37 押型
38 押し凹溝
39 歯
40 ラック歯加工用凹凸
40L 歯丈
41 ダミー歯加工用凹凸
41L 歯丈
42 ダミー歯
42L 歯丈
42a 軸方向内側面
42b 軸方向外側面
42c 径方向外側面
42d 接続部
43 溝部
A、B 領域
C 亀裂
17、r18 曲率半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
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図20