(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202116
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ポリキャピラリー光学素子およびX線回折装置
(51)【国際特許分類】
G21K 1/06 20060101AFI20170914BHJP
G01N 23/207 20060101ALI20170914BHJP
G21K 1/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
G21K1/06 C
G01N23/207
G21K1/02 R
G21K1/02 C
G21K1/06 S
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-25581(P2016-25581)
(22)【出願日】2016年2月15日
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3183328号
【原出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2016-85232(P2016-85232A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100098671
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 俊文
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小川 理絵
(72)【発明者】
【氏名】小柳 和夫
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−044940(JP,A)
【文献】
特開2012−074290(JP,A)
【文献】
特開2001−343511(JP,A)
【文献】
特開平11−352297(JP,A)
【文献】
特開平07−243996(JP,A)
【文献】
特開平06−258259(JP,A)
【文献】
米国特許第06271534(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/00−3/00
G21K 5/00−7/00
G01N 23/207
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス製中空チューブを筒状ハウジング内に収容し、筒状ハウジングの両端を、X線を透過する金属薄膜で封止して筒状ハウジング内を密閉状態に保持するとともに、複数のガラス製中空チューブの一方側の外方に位置するX線源から放射されたX線を取り込み、反対側の出口で平行ビームを得るポリキャピラリー光学素子において、前記金属薄膜の一方または両方を、前記X線源から放射されたX線のKβ線を吸収する金属薄膜で形成したことを特徴とするポリキャピラリーレンズ。
【請求項2】
複数の直線状ガラス製中空チューブを筒状ハウジング内に収容し、筒状ハウジングの両端を、X線を透過する金属薄膜で封止して筒状ハウジング内を密閉状態に保持するとともに、複数の直線状ガラス製中空チューブを互いに平行に配列して、X線の散乱角を規制し特定の角度の回折X線を透過させるポリキャピラリー光学素子において、前記金属薄膜の一方または両方を、前記回折X線のKβ線を吸収する金属薄膜で形成したことを特徴とするポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット。
【請求項3】
X線発生部、試料室、X線検出部からなり、X線発生部と試料室との間のX線光軸上にポリキャピラリーレンズを備え、試料室とX線検出部との間のX線光軸上に平行ビーム用ソーラスリットを配置したX線回折装置において、前記ポリキャピラリーレンズに、請求項1記載のポリキャピラリーレンズを用いたことを特徴とするX線回折装置。
【請求項4】
X線発生部、試料室、X線検出部からなり、X線発生部と試料室との間のX線光軸上にポリキャピラリーレンズを備え、試料室とX線検出部との間のX線光軸上に平行ビーム用ソーラスリットを配置したX線回折装置において、前記平行ビーム用ソーラスリットに、請求項2記載のポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットを用いたことを特徴とするX線回折装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線源が発生するX線を平行ビームに形成するポリキャピラリーレンズなどのポリキャピラリーを用いた光学素子およびX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折装置は、大気雰囲気で物質を非破壊で分析でき、物質の定性分析、格子定数の決定や応力測定などができるほか、ピークの面積計算などから定量分析ができ、さらに、ピークの角度広がりやプロファイルなどから結晶粒子径・結晶化度・精密X線構造解析など、さまざまな分析ができるので、幅広い分野で用いられている。
【0003】
一般的なX線回折装置の構成としては、通常、試料ホルダを用いて所定の大きさの平板状に成形された試料をθ軸上のゴニオメータの中心に載置し、X線管球のターゲットで発生したX線を所定の位置に配置された発散スリットでその広がりを1〜3°程度に規制して試料の表面に照射する。
ゴニオメータは、その2θ軸がθ軸に対して2倍の関係を維持しながら連動して回転駆動され、試料から放射される回折X線を2θ軸に搭載した検出スリットおよびX線検出器により検出する(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1のX線回折装置では、光学系として集中法(Bragg−Brentano法)が用いられているが、
図3の模式図に示すように、X線管球10のターゲット11(点光源)から出たX線が、大きい立体角でポリキャピラリーレンズ12に取り込まれ、反対側の出口から平行ビーム20としてθ軸17上のゴニオメータ19の中心に載置した試料13に照射され、平行ビーム用ソーラスリット14によって入射X線の角度と同一角度の試料13からの回折X線を、平板結晶を用いたモノクロメータ15で単色化して、その2θ軸18がθ軸17に対して2倍の関係を維持しながら連動して回転駆動されるゴニオメータ19の2θ軸18に搭載したX線検出器16で検出するようにした平行ビーム光学系のX線回折装置も知られている。
【0005】
このような平行ビーム光学系では、集中法の光学系(集中ビーム光学系)に比較して、X線管球10から発生したX線を有効に利用できるため高い回折X線強度が得られる。また、集中ビーム光学系では試料の位置ずれなどにより、集中条件から外れた場合、回折角度に大きなずれが生じるとともに、回折X線強度が著しく減衰するが、平行ビーム光学系では数mmのずれが生じても回折角度は変わらず、回折X線強度の減衰も大きなものにはならず、その結果、曲面や凹凸のある試料面でも高感度・高精度の測定ができる利点がある。
【0006】
上記平行ビーム光学系に用いられるポリキャピラリーレンズ12は、たとえば特許文献2に示されているとおり、多数のキャピラリー(たとえば極細のガラス管)を束ねたもので、それぞれのキャピラリーの内面においてX線が全反射を繰り返しながら進む。また、モノリシックタイプであって、軸方向に垂直な断面においてハニカム構造(蜂の巣構造)になっているものも知られている(特許文献2、
図1(A)参照)。
また、ポリキャピラリーレンズは、通常、ゴミなどコンタミがガラス管内面に付着してX線透過効率が減少するのを防止するため、円筒ハウジング内に収容するとともに、円筒ハウジングの両端を、たとえば金属ベリリウム(Be)薄膜で封止し、円筒ハウジング内を真空状態に保持している。
【0007】
平行ビーム用ソーラスリット14は、たとえば、スペーサによって互いに間隔をおいて積層された複数の金属箔からなる構造である(特許文献3)。この平行ビーム用ソーラスリット14は、試料からの回折X線以外の散乱X線がX線検出器16に入るのを防止し、試料への入射X線と同一角度の試料からの回折X線のみをX線検出器16に導くものである。
【0008】
さらに、X線回折では、単一波長の特性X線を用いるため、通常、X線管球のターゲット材料によって決まる特性X線のKα線を利用するが、ターゲット材料からは目的とするKα線の他に、Kα線に波長の近いKβ線も同時に発生するので、このKβ線を除去し単色化しなければならず、金属箔でつくられたKβ線カット用フィルターを検出スリットの前に挿入するか、またはモノクロメータを用いてX線ビームの単色化を行うことが知られている(特許文献4)。
【0009】
Kβ線カット用フィルターは、Kα線とKβ線との波長間でX線吸収係数が大きく変化する材料で作製され、これを検出スリットのX線入射側に設置して、Kα線はX線吸収の影響をあまり受けることなく透過し、一方、Kβ線は大きく吸収されて僅かしか透過しない(Kβ線の強度がKα線の1/100以下になるようにフィルターの厚みを選択する)ようにしたものである。このKβ線カット用フィルターの材料には、ターゲット材料に使用する金属より原子番号が1つ小さい金属を使用することが知られている。
【0010】
また、平板結晶を用いたモノクロメータ15は、
図3に示すとおり、平行ビーム用ソーラスリット14とX線検出器16との間のX線光軸上に設置され、Kα線(単色光)だけが反射されてX線検出器16に入るようにするものである。また、平行ビーム用ソーラスリット14は、モノクロメータ15の前段において、X線の散乱角を規制して特定の角度の回折X線をモノクロメータ15に導く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−185844号公報
【特許文献2】特開2008−96180号公報
【特許文献3】特開2000−98091号公報
【特許文献4】特開2002−98657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来のKβ線カット用フィルターは主に集中ビーム光学系に用いられるもので、これを平行ビーム光学系に使用するには、当該フィルターをX線光軸上に配置する取り付け用アタッチメントが必要となるが、現状ではこのような適切なアタッチメントがなく、Kβ線カット用フィルターは平行ビーム光学系には使用されていなかった。
Kβ線を除去して単色化する場合、平板結晶を備えたモノクロメータを用いてKα線のみをX線検出器に導入しているが、せっかく平行ビーム光学系を用いてX線源から発生したX線を有効に利用し高い回折X線強度を得るようにしても、モノクロメータによりX線強度が減衰され、平行ビーム光学系の利点を十分に生かすことができなかった。
【0013】
また、平板結晶を備えたモノクロメータを用いる場合、X線光軸に対するモノクロメータの光軸調整の作業が必要となるなど煩雑な手間がかかり、また、モノクロメータを用いることによるX線回折装置のコストアップは避けられなかった。
【0014】
本発明は、上述した従来技術の課題を解決するため、平行ビーム光学系において、モノクロメータを用いることなく、Kβ線を効果的に除去できるポリキャピラリー光学素子およびそのようなポリキャピラリー光学素子を用いたX線回折装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明の光学素子としてのポリキャピラリーレンズは、
複数のガラス製中空チューブを筒状ハウジング内に収容し、筒状ハウジングの両端を、X線を透過する金属薄膜で封止して筒状ハウジング内を密閉状態に保持するとともに、
複数のガラス製中空チューブの一方側の外方に位置するX線源から放射されたX線を取り込み、反対側の出口で平行ビームを得るポリキャピラリーレンズであって、前記金属薄膜の一方または両方を、前記X線源から放射されたX線のKβ線を吸収する金属薄膜により形成したものである。
複数のガラス製中空チューブの一方側は、外方に位置するX線源から放射されたX線を取り込むため、X線源に向けて所定の曲率半径で曲げられている。
【0016】
Kβ線を吸収する金属薄膜の材料としては、X線源となるX線管球のターゲットに使用する金属より原子番号が1つ小さい金属が使用される。たとえば、粉末X線回折においてターゲットとしてよく用いられるCuに対してはNi薄膜が使用される。同様に、ターゲットCoにはFe薄膜、ターゲットFeにはMn薄膜、ターゲットCrにはV薄膜、ターゲットMoにはZr薄膜がそれぞれ使用される。
また、多数のガラス製中空チューブが収容される筒状ハウジングには、ステンレス製の筒状容器が用いられ、筒状ハウジング内の密閉状態はゴミなどガラス内面にコンタミが付着してX線透過率が減少するのを防止することができれば十分であり、必ずしも筒状ハウジング内を真空状態としなくてもよい。
【0017】
Kβ線を吸収する金属薄膜の厚みは、たとえば、ターゲットCuからのCuKα線に対してCuKβ線の強度が1/100以下になるように選択される。この厚みは筒状ハウジングの両端を封止する金属薄膜の一方または両方の合計の厚みである。
【0018】
請求項2記載の本発明の光学素子としてのポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットは、
複数の直線状ガラス製中空チューブを筒状ハウジング内に収容し、筒状ハウジングの両端を、X線を透過する金属薄膜で封止して筒状ハウジング内を密閉状態に保持するとともに、
複数の直線状ガラス製中空チューブを互いに平行に配列して、X線の散乱角を規制し特定の角度の回折X線を透過させるポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットであって、前記金属薄膜の一方または両方を、前記回折X線のKβ線を吸収する金属薄膜で形成したものである。
すなわち、本発明のポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットは、
複数の直線状ガラス製中空チューブが筒状ハウジング内で互いに平行に配列されている構成において、一方側が所定の曲率半径で曲げられているポリキャピラリーレンズと相違する。
【0019】
また、請求項3記載の本発明のX線回折装置は、X線発生部、試料室、X線検出部からなり、X線発生部と試料室との間のX線光軸上にポリキャピラリーレンズを備え、試料室とX線検出部との間のX線光軸上に平行ビーム用ソーラスリットを配置したX線回折装置であって、前記ポリキャピラリーレンズに、請求項1記載のポリキャピラリーレンズを用いたものである。
【0020】
さらに、請求項4記載の本発明のX線回折装置は、X線発生部、試料室、X線検出部からなり、X線発生部と試料室との間のX線光軸上にポリキャピラリーレンズを備え、試料室とX線検出部との間のX線光軸上に平行ビーム用ソーラスリットを配置したX線回折装置であって、前記平行ビーム用ソーラスリットに、請求項2記載のポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットを用いたものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリキャピラリーレンズによれば、多数のガラス製中空チューブが収容されている筒状ハウジングの両端を密閉封止している金属薄膜の一方または両方を、X線源から放射されたX線のKβ線を吸収する金属薄膜で形成したので、平行ビーム光学系であっても、効果的にKβ線を除去することができる。したがって、高価なモノクロメータの設置が不要となり、光軸調整などの煩雑な作業も解消される。
とくに、従来、筒状ハウジングの両端を真空封止していた金属ベリリウム(Be)薄膜は、人体に対して有害物質であるばかりでなく、薄膜にした場合、非常に壊れやすく、また筒状ハウジングの材料、たとえばステンレスとの真空封じ用ロー付け作業が難しく、高価になるなどの問題点があったが、Kβ線を吸収する金属薄膜の材料は一般的な金属であり、Be薄膜に比べてそのような不都合がなくなる副次的効果もある。
【0022】
また、本発明のポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットによれば、多数の直線状ガラス製中空チューブを互いに平行に配列したものであり、より平行性の高い平行ビーム用ソーラスリットとなり分解能が向上するとともに、ゴニオメータのスキャン方向と直角方向の散乱X線がX線検出器に入るのを防止することができる。
【0023】
さらに、本発明のX線回折装置によれば、本発明のポリキャピラリーレンズまたはポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットを用いるので、モノクロメータの設置が不要となり、モノクロメータによりX線強度が減衰されることもなく、平行ビーム光学系を用いてX線発生部から出たX線を有効に利用し、高い回折X線強度を得る平行ビーム光学系の利点を十分に生かすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のポリキャピラリー光学素子の実施形態を示す図で、図(A)はポリキャピラリーレンズ、図(B)はポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットである。
【
図2】
図1に示した本発明のポリキャピラリー光学素子を用いた平行ビーム光学系のX線回折装置を示す模式図である。
【
図3】従来のポリキャピラリー光学素子を用いた平行ビーム光学系のX線回折装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明のポリキャピラリー光学素子およびポリキャピラリー光学素子を用いたX線回折装置の実施形態の一例を説明する。
図1(A)は、本発明のポリキャピラリー光学素子の実施態様であるポリキャピラリーレンズを示す図であり、
図1(B)は、本発明のポリキャピラリー光学素子の他の実施態様であるポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリットを示す図である。
【0026】
図1(A)において、ポリキャピラリーレンズ1は、X線管球(図示せず)のターゲット11(X線源)から出たX線を取り込み、反対側の出口から平行ビーム20を得るもので、全反射を繰り返しながらX線を導く多数の小さな(数μm)チャネルをもつガラス製のポリキャピラリー2の一方側(X線入射側)を、X線管球のターゲット11に向けてX線の全反射が継続できる曲率半径で屈曲させて、ポリキャピラリー2の一方側の外方に位置しているターゲット11から出たX線を大きい立体角で取り込むようステンレス製円筒ハウジング3内に収容した構造である。
ガラス製のポリキャピラリー2を所定の曲率半径で屈曲させる方法としては、たとえば一体に束ねたポリキャピラリー2の一方側を一点(ターゲット11のX線発生点)に向けて引き延ばすことにより作製することができる。
【0027】
円筒ハウジング3の両端は、円筒ハウジング3内を所定の真空状態に保持するため、ターゲット11から放射されたX線のKβ線を吸収する金属薄膜4、5によりロー付けで封止されている。円筒ハウジング3内を密閉状態に加えて真空状態とすることにより、ゴミなどの混入を防止するだけでなく、空気によるX線の減衰を防ぐことも期待できる。
Kβ線を吸収する金属薄膜4、5の材料としては、X線管球のターゲット11に使用する金属より原子番号が1つ小さい金属が使用される。たとえば、粉末X線回折でターゲットとしてよく用いられるCuに対してはNi薄膜が使用される。同様に、ターゲットCoにはFe薄膜、ターゲットFeにはMn薄膜、ターゲットCrにはV薄膜、ターゲットMoにはZr薄膜がそれぞれ使用される。
したがって、ステンレス製円筒ハウジング3の両端をターゲット11から放射されたX線のKβ線を吸収する金属薄膜4、5で封止する場合、これら金属薄膜4、5として使用されるNi(ニッケル)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、V(バナジウム)、Zr(ジルコニウム)などは一般的な金属であり、Be薄膜に比べてロー付け等により容易に行うことができる。
【0028】
Kβ線を吸収する金属薄膜4、5の厚みは、たとえば、ターゲットにCuを用い、金属薄膜としてNi薄膜を使用した場合、CuKα線に対してCuKβ線の強度が1/100になるNi薄膜の厚みを計算すれば15μmとなる。同様にCuKβ線の強度がCuKα線の1/600になるNi薄膜の厚みは21μmとなる。この厚みは円筒ハウジング3の両端を封止する金属薄膜4、5の合計の厚みであり、真空封じ用薄膜として使用できる十分な厚みである。
すなわち、本発明のポリキャピラリーレンズ1は、機能的には、平行ビームを形成する機能と、Kβ線を除去するフィルター機能を有する。
【0029】
図1(B)において、ポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21は、ポリキャピラリーレンズ1と同様に、多数のX線を導く小さな(数μm)チャネルをもつ直線状のガラス製ポリキャピラリー2を円筒ハウジング3内に互いに平行に配列して収容し、円筒ハウジング3の両端を、試料(図示せず)から放射された回折X線のKβ線を吸収する金属薄膜4、5で封止して円筒ハウジング3内を真空状態に保持している。
このようなポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21は、X線回折装置の平行ビーム20の光学系において試料室(図示せず)の出射側のX線光軸上に配置され、試料から放射された回折X線の散乱角を規制し、特定の角度の回折X線を透過させるものである。
なお、
図1(A)、(B)の実施態様においては、ポリキャピラリー2を収容するハウジングの形状を円筒形(円筒ハウジング3)として説明したが、断面外形は円形に限定される必要はなく、断面が多角形の角筒形状であってもよい。
【0030】
図2により、本発明のポリキャピラリーレンズ1またはポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21を用いた平行ビーム光学系のX線回折装置の実施態様を説明する。
X線は、X線発生部を構成するX線管球10内でフィラメント(図示せず)とターゲット11の間に数十kVの高電圧をかけた状態で、フィラメントに電流を流すことにより発生した熱電子が高電圧により加速され、ターゲット11に衝突することで発生する。
ターゲット11から出たX線は、大きい立体角でポリキャピラリーレンズ1に取り込まれ、反対側の出口から平行ビーム20として取り出される。平行ビーム20はポリキャピラリーレンズ1の両側のKβ線を吸収する金属薄膜4、5により、Kβ線の強度がKα線の1/100以下になるよう吸収されてθ軸17上のゴニオメータ19の中心に載置した試料室の試料13に照射される。
【0031】
試料13から放射された回折X線は、X線光軸上に配置されたポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21でその散乱が規制され、両側の金属薄膜4、5でKβ線を吸収して入射X線の角度と同一角度の回折X線をX線検出器16(X線検出部)へ導く。
X線検出器16としては、通常、シンチレーションカウンタがよく用いられ、その2θ軸18がθ軸17に対して2倍の関係を維持しながら連動して回転駆動されるゴニオメータ19の2θ軸に搭載されている。
なお、
図2のX線回折装置の実施態様では、本発明のポリキャピラリーレンズ1およびポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21の両方をX線光軸上に配置した構成を示しているが、本発明のX線回折装置においては、少なくともポリキャピラリーレンズ1またはポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21のいずれか一方のみを用いればよい。
【0032】
すなわち、ポリキャピラリーレンズに本発明のポリキャピラリーレンズ1を用いた場合には、平行ビーム用ソーラスリットとして、たとえば複数の金属箔を積層した平行ビーム用ソーラスリットを用いることができる。他方、平行ビーム用ソーラスリットに本発明のポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット21を用いた場合には、ポリキャピラリーレンズとして、ポリキャピラリーを収容した円筒ハウジングの両端を、Kβ線を吸収する金属薄膜により封止する必要はない。
【符号の説明】
【0033】
1 ポリキャピラリーレンズ
2 ポリキャピラリー
3 円筒ハウジング
4 金属薄膜
5 金属薄膜
10 X線管球
11 ターゲット
12 ポリキャピラリーレンズ
13 試料
14 平行ビーム用ソーラスリット
15 モノクロメータ
16 X線検出器
17 θ軸
18 2θ軸
19 ゴニオメータ
20 平行ビーム
21 ポリキャピラリー平行ビーム用ソーラスリット