(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0017】
本発明の正極活物質層は、
第1正極活物質、該第1正極活物質よりも充放電電位の低い第2正極活物質及び添加剤を有する正極活物質層であって、
前記第1正極活物質のタップ密度をdt
1、前記第2正極活物質のタップ密度をdt
2、前記添加剤の真密度をd
3とし、
前記正極活物質層における、前記第1正極活物質の質量%をWt
1、前記第2正極活物質の質量%をWt
2、前記添加剤の質量%をWt
3とし、
前記正極活物質層における空隙率をpとしたとき、
(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38(以下、「本発明のパラメータ」ということがある。)を満足することを特徴とする。
【0018】
第1正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として機能する材料である。
第1正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極活物質として機能する公知の材料を採用すれば良い。具体的な第1正極活物質としては、高容量である点から、層状岩塩構造の一般式:Li
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦1.7、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)で表される化合物(以下、「NCM」ということがある。)が好ましい。
【0019】
上記一般式:Li
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦1.7、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、Zr、S、Si、Na、K、Alから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦2.1)において、b、c及びdの値は、上記条件を満足するものであれば特に制限はないが、0<b<1、0<c<1、0<d<1であるものが良く、また、b、c、dの少なくともいずれか一つが0<b<80/100、0<c<70/100、10/100<d<1の範囲であることが好ましく、10/100<b<68/100、12/100<c<60/100、20/100<d<68/100の範囲であることがより好ましく、25/100<b<60/100、15/100<c<50/100、25/100<d<60/100の範囲であることがさらに好ましく、1/3≦b≦50/100、20/100≦c≦1/3、30/100≦d≦1/3の範囲であることが特に好ましく、b=1/3、c=1/3、d=1/3、または、b=50/100、c=20/100、d=30/100であることが最も好ましい。
【0020】
aは、0.5≦a≦1.5の範囲内が好ましく、0.7≦a≦1.3の範囲内がより好ましく、0.9≦a≦1.2の範囲内がさらに好ましく、1≦a≦1.1の範囲内が特に好ましい。
【0021】
e、fについては一般式で規定する範囲内の数値であればよく、e=0、f=2を例示することができる。
【0022】
第1正極活物質はその形状が特に制限されるものではないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.1μm以上50μm以下がさらに好ましい。0.1μm未満では、電極を製造した際に集電体との密着性が損なわれやすいなどの不具合を生じることがある。100μmを超えると電極の大きさに影響を与えたり、二次電池を構成するセパレータを損傷するなどの不具合を生じることがある。なお、本明細書における平均粒子径は、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で計測した場合のD50の値を意味する。
【0023】
第2正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極活物質として機能できる材料であって、上記第1正極活物質よりも充放電電位の低い材料である。
【0024】
例えば、第1正極活物質がNCMの場合、第2正極活物質としては、具体的に、一般式:LiM
hPO
4(MはMn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B,Te及びMoから選ばれる少なくとも1の元素、0<h<2)で表される材料を挙げることができる。本発明の正極活物質層を具備するリチウムイオン二次電池においては、第2正極活物質の充放電電位が第1正極活物質の充放電電位よりも低いため、実質的に第1正極活物質が正極の充放電の役割を担う。リチウムイオン二次電池の正極活物質層に第2正極活物質が存在すると、電池の正極と負極の短絡時であっても、電池の発熱をある程度抑制することができる。
【0025】
さらに具体的な第2正極活物質としては、LiFePO
4、LiMnPO
4、LiVPO
4、LiNiPO
4、LiCoPO
4、LiTePO
4、LiV
2/3PO
4、LiFe
2/3PO
4、LiMn
7/8Fe
1/8PO
4を挙げることができる。第2正極活物質としては、特にLiFePO
4が好ましい。その理由は次のとおりである。LiFePO
4は放電時に比較的平坦な放電曲線を示す。そうすると、仮に、リチウムイオン二次電池の正極と負極が短絡して急激な放電が生じたとしても、LiFePO
4の存在箇所では放電に伴う急激な電位差が生じない。そのため、電極内の他の箇所からの電荷移動を誘起しにくく、過電流の発生を抑制することができる。その結果、二次電池の発熱を好適に抑制することができる。
【0026】
第2正極活物質はその形状が特に制限されるものではないが、平均粒子径でいうと、100μm以下が好ましく、0.01μm以上10μm以下がより好ましい。なお、第2正極活物質としては、その表面をカーボンコートしたものを採用するのが好ましい。また、第2正極活物質の平均粒子径は、第1正極活物質の平均粒子径よりも小さいほうが好ましい。
【0027】
正極活物質層における第1正極活物質と第2正極活物質の配合量は、本発明のパラメータを満足する値であればよい。あえて本発明の正極活物質層における第1正極活物質と第2正極活物質の配合質量比を挙げると、95:5〜50:50の範囲内が好ましく、85:15〜55:45の範囲内がより好ましく、75:25〜60:40の範囲内がさらに好ましく、72:28〜65:35の範囲内が特に好ましい。また、あえて本発明の正極活物質層における第1正極活物質と第2正極活物質の合計配合量を挙げると、50〜99質量%の範囲内が好ましく、60〜98質量%の範囲内がより好ましく、70〜97質量%の範囲内が特に好ましい。
【0028】
添加剤としては、導電助剤、結着剤、分散剤などを挙げることができる。
【0029】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
【0030】
導電助剤はその形状が特に制限されるものではないが、その役割からみて、平均粒子径は小さいほうが好ましい。導電助剤の好ましい平均粒子径を挙げると、10μm以下が良く、0.01〜1μmの範囲内がさらに好ましい。
【0031】
導電助剤の配合量は、本発明のパラメータを満足する値であればよい。あえて本発明の正極活物質層における導電助剤の配合量を挙げると、0.5〜10質量%の範囲内が好ましく、1〜7質量%の範囲内がより好ましく、2〜5質量%の範囲内が特に好ましい。
【0032】
結着剤は、正極活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止める役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂を例示することができる。また、結着剤として、親水基を有するポリマーを採用してもよい。親水基を有するポリマーの親水基としては、カルボキシル基、スルホ基、シラノール基、アミノ基、水酸基、リン酸基が例示される。親水基を有するポリマーの具体例として、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリメタクリル酸、ポリ(p−スチレンスルホン酸)を挙げることができる。
【0033】
結着剤の配合量は、本発明のパラメータを満足する値であればよい。あえて本発明の正極活物質層における結着剤の配合量を挙げると、0.5〜10質量%の範囲内が好ましく、1〜7質量%の範囲内がより好ましく、2〜5質量%の範囲内が特に好ましい。結着剤の配合量が少なすぎると組成物を正極活物質層とした場合に当該層の成形性が低下するおそれがある。また、結着剤の配合量が多すぎると、正極活物質層における正極活物質の量が減少するため、好ましくない。
【0034】
導電助剤及び結着剤以外の分散剤などの添加剤は、公知のものを採用することができ、それらは正極活物質層に本発明のパラメータを満足するように配合すればよい。
【0035】
本発明のパラメータについて説明する。
本発明のパラメータは、(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38である。
【0036】
ここで、pは正極活物質層における空隙率を意味するので、(1−p)は正極活物質層における固形物の率を意味する。空隙率pは、製造した正極活物質層の現実の体積(Vr)から、正極活物質層に含まれる各成分の配合量及び真密度から算出した各成分の理論上の体積の和(Vt)を減じ、それを、製造した正極活物質層の現実の体積(Vr)で除した値である。数式で表すと、p=(Vr−Vt)/Vrとなる。pの範囲には特段の制限はないが、あえて好ましい範囲を挙げると、0.10<p<0.50の範囲内が好ましく、0.20<p<0.40の範囲内がより好ましく、0.25<p<0.30の範囲内が特に好ましい。
【0037】
dt
1は第1正極活物質のタップ密度を意味し、Wt
1は正極活物質層における第1正極活物質の質量%を意味するので、(Wt
1/dt
1)は、正極活物質層における第1正極活物質の現実の体積%を意味する。同様に(Wt
2/dt
2)は、正極活物質層における第2正極活物質の現実の体積%を意味する。本明細書のタップ密度とは、JIS R 1628 ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法で定義される「タップかさ密度」を意味し、その測定方法は、定質量測定法とする。
【0038】
d
3は添加剤の真密度を意味し、Wt
3は添加剤の質量%を意味するので、(Wt
3/d
3)は、正極活物質層における添加剤の体積%を意味する。ここで、添加剤についてはタップ密度ではなく真密度を採用したのは、以下の理由による。まず、添加剤として汎用される結着剤は、正極活物質層を製造するための分散液において溶剤に溶解しており固体状態でない。そして、分散液から溶剤を除去し製造される正極活物質層における結着剤の状態が溶剤に溶解前の結着剤の状態と同一とはいえないため、本発明のパラメータに、溶剤に溶解前の結着剤のタップ密度を採用する意義が無い。また、添加剤として汎用される導電助剤は、通常、平均粒子径が第1正極活物質又は第2正極活物質と比較して著しく小さく、タップ密度と真密度の著しい差は生じないと推定される。さらに、通常、添加剤は正極活物質層においてマイナー成分であるため、仮に導電助剤のタップ密度と真密度の間に著しい差が生じる場合、又は同一の導電助剤間のタップ密度に著しい差が生じる場合があったとしても、実際の製造現場において特段の不具合は想定されないし、また、本発明のパラメータが表現しようとする電池の安全性に特段の影響を与えないと推定される。
【0039】
添加剤を複数採用した正極活物質層においては、(Wt
3/d
3)は添加剤の数に分画される。例えば、第1添加剤及び第2添加剤なる2種の添加剤を採用した正極活物質層においては、第1添加剤の質量%をWt
3−1、真密度をd
3−1とし、第2添加剤の質量%をWt
3−2、真密度をd
3−2として、本発明のパラメータの(Wt
3/d
3)を((Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))に置換すればよい。なお、添加剤を採用しない場合は、本発明のパラメータから(Wt
3/d
3)を削除すればよい。
【0040】
上述の事項から、(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))は、正極活物質層における固形物のうち、第1正極活物質の占有率又は近似占有率(「正極活物質層における固形物のうち、第1正極活物質の占有率又は近似占有率」につき、以下、単に「占有率」ということがある。)を表現したものである。そして、占有率は0.38未満であり、0.37未満が好ましく、0.36未満がより好ましい。占有率の下限値は0を超える数値であれば良い。しかし、電池の性能を考慮すると、占有率が高い方が高容量の電池となるので、占有率は0.10以上が好ましく、0.20以上がより好ましく、0.30以上がさらに好ましく、0.32以上が特に好ましい。
【0041】
なお、ここまでは(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))につき、例えばWt
1を正極活物質層における第1正極活物質の質量%と定義した。しかし、本発明のパラメータで表現しているのは占有率であるから、例えば、下記で説明する本発明の正極の製造方法におけるa)工程で使用した各成分の配合質量の値を、そのまま、それぞれWt
1、Wt
2、Wt
3として、本発明のパラメータに代入してもよい。
【0042】
本発明の正極活物質層を具備する、本発明の正極の製造方法について説明する。
本発明の正極の製造方法は、
a)第1正極活物質、該第1正極活物質よりも充放電電位の低い第2正極活物質、添加剤及び溶剤を混合し、分散液を製造する工程(以下、「a)工程」ということがある。)、
b)前記分散液を集電体に塗布し、該分散液に含まれる前記溶剤を除去して、正極活物質層を形成する工程(以下、「b)工程」ということがある。)、
c)前記第1正極活物質のタップ密度をdt
1、前記第2正極活物質のタップ密度をdt
2、前記添加剤の真密度をd
3とし、
前記正極活物質層における、前記第1正極活物質の質量%をWt
1、前記第2正極活物質の質量%をWt
2、前記添加剤の質量%をWt
3とし、
下記d)工程後の正極活物質層における空隙率をpとしたとき、
(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38を満足するpとなるように、
圧縮厚みを圧縮装置に入力する工程又は正極活物質層に対する圧縮圧力を圧縮装置に入力する工程(以下、「c)工程」ということがある。)、
d)前記b)工程で得られた正極活物質層を前記圧縮装置で圧縮する工程(以下、「d)工程」ということがある。)、
を有することを特徴とする。
【0043】
a)工程は、第1正極活物質、該第1正極活物質よりも充放電電位の低い第2正極活物質、添加剤及び溶剤を混合し、分散液を製造する工程である。
【0044】
溶剤としては、具体的にN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略す場合がある。)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、及びテトラヒドロフランを例示できる。これらの溶剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。a)工程の分散液は、溶剤及び溶剤以外の固形分からなる。溶剤以外の固形分とは、第1正極活物質、第2正極活物質、並びに、必要に応じて用いられる結着剤、導電助剤及び分散剤等の添加剤をいう。a)工程の分散液において、溶剤以外の固形分の配合量は、30〜90質量%の範囲内が好ましく、50〜80質量%の範囲内がより好ましく、60〜70質量%の範囲が特に好ましい。
【0045】
a)工程では、各成分を同時に又は順に加えて混合装置で混合すればよい。
【0046】
混合装置としては、混合攪拌機、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、分散機、超音波分散機、ホモジナイザー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー、遊星式攪拌脱泡装置を例示できる。具体的な混合装置としては、商品名ディスパーミキサー(プライミクス株式会社)、商品名クレアミックス(エム・テクニック株式会社)、商品名フィルミックス(プライミクス株式会社)、商品名ペイントコンディショナー(レッドデビル社)、商品名DYNO-MILL(株式会社シンマルエンタープライゼス)、商品名アイリッヒ インテンシブ ミキサー(日本アイリッヒ株式会社)、商品名脱泡機DP-200(エム・テクニック株式会社)、商品名あわとり練太郎(株式会社シンキー)を挙げることができる。混合装置における混合速度は、組成物の各成分が好適に分散若しくは溶解できる速度を適宜設定すればよい。
【0047】
b)工程は、a)工程で製造された分散液を集電体に塗布し、該分散液に含まれる前記溶剤を除去して、正極活物質層を形成する工程である。
【0048】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。
【0049】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状などの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが10μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0050】
分散液を集電体に塗布する具体的な方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を挙げることができる。
【0051】
そして、分散液に含まれる溶剤を除去する具体的な方法としては、加温条件及び/又は減圧条件で分散液の乾燥を行い、分散液に含まれる溶剤を気体として除去する方法を挙げることができる。
【0052】
c)工程は、前記第1正極活物質のタップ密度をdt
1、前記第2正極活物質のタップ密度をdt
2、前記添加剤の真密度をd
3とし、
前記正極活物質層における、前記第1正極活物質の質量%をWt
1、前記第2正極活物質の質量%をWt
2、前記添加剤の質量%をWt
3とし、
下記d)工程後の正極活物質層における空隙率をpとしたとき、
(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38を満足するpとなるように、圧縮厚みを圧縮装置に入力する工程又は正極活物質層に対する圧縮圧力を圧縮装置に入力する工程である。
なお、「圧縮厚み」とは、圧縮装置により圧縮圧力を負荷した際の、圧縮時厚み寸法を意味する。
【0053】
圧縮装置としては、従来から公知のものを採用すればよい。具体的な圧縮装置としては、ロールプレス機、真空プレス機、水圧プレス機、油圧プレス機を挙げることができる。
【0054】
空隙率pは、製造した正極活物質層の現実の体積(Vr)から、正極活物質層に含まれる各成分の配合量及び真密度から算出した各成分の理論上の体積の和(Vt)を減じ、それを、製造した正極活物質層の現実の体積(Vr)で除した値である。よって、製造しようとする正極活物質層の高さ(厚み)を制御することで、所望のpの正極活物質層を得ることができる。この場合、c)工程に、(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38を満足するpとなるように、製造しようとする正極活物質層の高さ(厚み)を算出する、算出工程を採用するのが好ましい。具体的には、b)工程で使用した分散液に含まれる第1正極活物質の真密度d
1、第2正極活物質の真密度d
2、添加剤の真密度d
3と、Wt
1、Wt
2、Wt
3並びにb)工程で得られた正極活物質層の質量からVtを算出し、所望のpとなるよう、d)工程で製造されるべき正極活物質層の体積を算出することができる。このように算出された体積から、製造しようとする正極活物質層の高さ(厚み)を算出できる。
そして、算出された正極活物質層の高さに基づいて、復元力や集電体の厚みを考慮した適宜適切な圧縮厚みを圧縮装置に入力すればよい。
【0055】
また、ある圧縮圧力若しくはある厚みで製造した正極活物質層のp’を算出し、その圧縮圧力若しくは厚み、及びp’を基準として、圧縮圧力若しくは厚みを適宜増減して圧縮装置に入力することで、所望のpの正極活物質層を得ることもできる。圧縮圧力を制御することは製造しようとする正極活物質層の高さ(厚み)を制御することと実質的に同義である。
圧縮装置における圧縮圧力としては、例えば、1〜5000kNの範囲を挙げることができる。
【0056】
d)工程は、b)工程で得られた正極活物質層を圧縮装置で圧縮する工程である。d)工程は加熱条件下で行ってもよい。また、d)工程の後に、正極を乾燥する乾燥工程を行っても良い。そして、d)工程の後に、製造した正極活物質層が(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38を満足するか否かを確認する確認工程を行うのが好ましい。
【0057】
なお、本発明の製造方法は、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
本発明の正極を採用して、リチウムイオン二次電池を製造できる。リチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、正極、負極、セパレータ及び電解液を含む。
【0058】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を含む。集電体、結着剤及び導電助剤は、正極で説明したものを採用すればよい。また、負極活物質層用の結着剤としてスチレン−ブタジエンゴムを採用しても良い。
【0059】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
【0060】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0061】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0062】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、 CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
v(0<v≦2)、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特に、SiO
x(0.3≦x≦1.6)が好ましい。また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
【0063】
高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
【0064】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン若しくはポリエチレンなどの合成樹脂を1種又は複数用いた多孔質膜、又はセラミックス製の多孔質膜が例示できる。
【0065】
電解液は、非水溶媒とこの非水溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0066】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。電解液には、これらの非水溶媒を単独で用いてもよいし、又は、複数を併用してもよい。
【0067】
電解質としては、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を例示できる。
【0068】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0069】
リチウムイオン二次電池の製造方法としては、本発明の正極を配置する工程を有していればよい。以下、リチウムイオン二次電池の具体的な製造方法を例示する。正極および負極にセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0070】
リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。リチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量を維持し、かつ優れたサイクル性能を有するため、これを搭載した車両は、高性能の車両となる。
【0071】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0072】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0074】
(実施例1)
a)工程
遊星式攪拌脱泡装置を用いて、第1正極活物質として平均粒子径5μmのLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2を66.7部、第2正極活物質として表面をカーボンコートした平均粒子径1μmのLiFePO
4を27.3部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3部、溶剤としてNMPを全量で約54部混合し、分散液とした。
ここで、LiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2の真密度は4.8g/cm
3、LiFePO
4の真密度は3.6g/cm
3、アセチレンブラックの真密度は2g/cm
3、ポリフッ化ビニリデンの真密度は1.78g/cm
3であり、LiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2のタップ密度は2.2g/cm
3、LiFePO
4のタップ密度は0.8g/cm
3であった。
【0075】
b)工程
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。該アルミニウム箔の表面に、a)工程で製造した分散液をのせ、ドクターブレードを用いて該分散液が膜状になるように塗布した。分散液を塗布したアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発により除去し、アルミニウム箔表面に正極活物質層を形成させた。
【0076】
c)工程
圧縮装置として、ロールプレス機(大野ロール株式会社)を用いた。圧縮装置にb)工程の正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を配置した。圧縮後の正極活物質層の空隙率pが0.277となるように圧縮装置にロールギャップ値として80μmを入力した。
ここで、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.32となる。
【0077】
d)工程
圧縮装置を起動させ、正極活物質層を圧縮した。得られた正極を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(40mm×80mmの矩形状)に切り取り、実施例1の正極とした。
【0078】
ここで、実施例1の正極の質量は1098.7mg、正極活物質層の質量は900.3mg、正極の塗膜厚みは0.096mmであり、これらの結果から、正極活物質層の体積は0.3072cm
3と算出された。そして、0.3072cm
3から、正極活物質層に含まれる各成分の配合量(質量部)及び真密度から算出した理論上の各成分の体積の和を減じ、それを0.3072cm
3で除して算出された空隙率pは0.2772であった。
さらに、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.324と確認された。
【0079】
(実施例2)
a)工程
遊星式攪拌脱泡装置を用いて、第1正極活物質として平均粒子径5μmのLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2を68.6部、第2正極活物質として表面をカーボンコートした平均粒子径1μmのLiFePO
4を25.4部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3部、溶剤としてNMPを全量で約54部混合し、分散液とした。
b)工程は、実施例1と同様に行った。
c)工程は、圧縮後の正極活物質層の空隙率pが0.279となるように圧縮装置にロールギャップ値として80μmを入力した以外は、実施例1と同様に行った。ここで、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.34となる。
d)工程を実施例1と同様に行い、実施例2の正極を得た。
ここで、実施例2の正極の質量は1101.2mg、正極活物質層の質量は902.8mg、正極の塗膜厚みは0.096mmであり、これらの結果から、正極活物質層の体積は0.3072cm
3と算出された。そして、空隙率pは0.2790と算出された。さらに、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.340と確認された。
【0080】
(実施例3)
a)工程
遊星式攪拌脱泡装置を用いて、第1正極活物質として平均粒子径5μmのLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2を71.4部、第2正極活物質として表面をカーボンコートした平均粒子径1μmのLiFePO
4を22.6部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3部、溶剤としてNMPを全量で約54部混合し、分散液とした。
b)工程は、実施例1と同様に行った。
c)工程は、圧縮後の正極活物質層の空隙率pが0.287となるように圧縮装置にロールギャップ値として90μmを入力した以外は、実施例1と同様に行った。ここで、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.36となる。
d)工程を実施例1と同様に行い、実施例3の正極を得た。
ここで、実施例3の正極の質量は1107.6mg、正極活物質層の質量は909.2mg、正極の塗膜厚みは0.097mmであり、これらの結果から、正極活物質層の体積は0.3104cm
3と算出された。そして、空隙率pは0.2871と算出された。さらに、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.362と確認された。
【0081】
(実施例4)
a)工程
遊星式攪拌脱泡装置を用いて、第1正極活物質として平均粒子径5μmのLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2を66.7部、第2正極活物質として表面をカーボンコートした平均粒子径1μmのLiFePO
4を27.3部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3部、溶剤としてNMPを全量で約54部混合し、分散液とした。
b)工程は、実施例1と同様に行った。
c)工程は、圧縮後の正極活物質層の空隙率pが0.3142となるように圧縮装置にロールギャップ値として90μmを入力した以外は、実施例1と同様に行った。ここで、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.32となる。
d)工程
圧縮装置を起動させ、正極活物質層を圧縮した。得られた正極を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(40mm×80mmの矩形状)に切り取り、実施例4の正極とした。
ここで、実施例4の正極の質量は1100.8mg、正極活物質層の質量は902.4mg、正極の塗膜厚みは0.099mmであり、これらの結果から、正極活物質層の体積は0.3168cm
3と算出された。そして、0.3168cm
3から、正極活物質層に含まれる各成分の配合量(質量部)及び真密度から算出した理論上の各成分の体積の和を減じ、それを0.3168cm
3で除して算出された空隙率pは0.3142であった。
さらに、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.307と確認された。
【0082】
(比較例1)
a)工程
遊星式攪拌脱泡装置を用いて、第1正極活物質として平均粒子径5μmのLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2を73.3部、第2正極活物質として表面をカーボンコートした平均粒子径1μmのLiFePO
4を20.7部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3部、溶剤としてNMPを全量で約54部混合し、分散液とした。
b)工程は、実施例1と同様に行った。
c)工程は、圧縮後の正極活物質層の空隙率pが0.285となるように圧縮装置にロールギャップ値として90μmを入力した以外は、実施例1と同様に行った。ここで、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.38となる。
d)工程を実施例1と同様に行い、比較例1の正極を得た。
ここで、比較例1の正極の質量は1115.3mg、正極活物質層の質量は916.9mg、正極の塗膜厚みは0.097mmであり、これらの結果から、正極活物質層の体積は0.3104cm
3と算出された。そして、空隙率pは0.2850と算出された。さらに、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.382と確認された。
【0083】
(比較例2)
a)工程
遊星式攪拌脱泡装置を用いて、第1正極活物質として平均粒子径5μmのLiNi
5/10Co
2/10Mn
3/10O
2を75.2部、第2正極活物質として表面をカーボンコートした平均粒子径1μmのLiFePO
4を18.8部、導電助剤として平均粒子径0.05〜0.1μmのアセチレンブラックを3部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3部、溶剤としてNMPを全量で約54部混合し、分散液とした。
b)工程は、実施例1と同様に行った。
c)工程は、圧縮後の正極活物質層の空隙率pが0.283となるように圧縮装置にロールギャップ値として90μmを入力した以外は、実施例1と同様に行った。ここで、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.38となる。
d)工程を実施例1と同様に行い、比較例2の正極を得た。
ここで、比較例2の正極の質量は1122.6mg、正極活物質層の質量は924.2mg、正極の塗膜厚みは0.097mmであり、これらの結果から、正極活物質層の体積は0.3104cm
3と算出された。そして、空隙率pは0.2832と算出された。さらに、占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3−1/d
3−1)+(Wt
3−2/d
3−2))=0.403と確認された。
【0084】
なお、実施例2〜4、比較例1〜2で使用した各成分は、実施例1で使用したものと同一のものである。
【0085】
(実施例5)
実施例1の正極を用いて、実施例5のリチウムイオン二次電池を以下のとおり作製した。
負極は以下のように作製した。
負極活物質としてSiO
x(0.3≦x≦1.6)及び天然黒鉛を用いた。結着剤としてポリイミド及びポリアミドイミドを用いた。導電助剤としてアセチレンブラックを用いた。SiO
x(0.3≦x≦1.6):天然黒鉛:ポリイミド:ポリアミドイミド:アセチレンブラックが質量比で32:50:5:5:8となるように混合し、NMPを加えて、スラリー状の負極合材調製液を得た。負極合材調製液を負極集電体としての厚み20μmのアルミニウム箔表面に塗布し、次いで、上記実施例1の正極と同様に、乾燥工程及び圧縮工程を経て、負極を得た。なお、負極集電体の塗工面単位面積あたりの負極合材の目付量は、7.7mg/cm
2であり、負極集電体の塗工面は42mm×82mmであった。
実施例1の正極及び上記負極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を以下のとおり作製した。
正極および負極の間に、セパレータとしてポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造の樹脂膜からなる矩形状シート(50×90mm、厚さ25μm)を挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としては、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比3:3:4で混合した溶媒にLiPF
6を1モル/Lとなるよう溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉された実施例5のラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極および負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。
【0086】
(実施例6)
実施例2の正極を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0087】
(実施例7)
実施例3の正極を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、実施例7のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0088】
(実施例8)
実施例4の正極を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、実施例8のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0089】
(比較例3)
比較例1の正極を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、比較例3のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0090】
(比較例4)
比較例2の正極を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、比較例4のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0091】
(評価例1)
実施例5〜8、比較例3〜4のリチウムイオン二次電池につき、以下の方法で釘刺し試験を行い、内部短絡時のリチウムイオン二次電池の表面温度を測定した。結果を表1に示す。
リチウムイオン二次電池に対し、4.5Vの電位で安定するまで定電圧充電を行った。充電後のリチウムイオン二次電池(放電容量は4Ah程度と見込まれる。)を、径20mmの孔を有する拘束板上に配置した。上部に釘が取り付けられたプレス機に拘束板を配置した。釘が拘束板上のリチウムイオン二次電池を貫通して、釘の先端部が拘束板の孔内部に位置するまで、釘を上部から下部に20mm/sec.の速度で移動させた。釘貫通後の電池の表面温度を測定した。表1には、観測された表面温度のうち、最高温度を記載した。なお、使用した釘の形状は径8mm、先端角度60°であり、釘の材質はJIS G 4051で規定するS45Cであった。
【0092】
【表1】
【0093】
表1の結果から、占有率と最高表面温度との関係を考慮すると、占有率が0.362と0.382との間に、最高表面温度が著しく増大する点が存在するのがわかる。
占有率:(1−p)×(Wt
1/dt
1)/((Wt
1/dt
1)+(Wt
2/dt
2)+(Wt
3/d
3))<0.38を満足する正極活物質層であれば、内部短絡したリチウムイオン二次電池の発熱を一定程度が抑制できることが裏付けられた。