特許第6202217号(P6202217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202217高分子化合物、中間組成物、負極電極、蓄電装置、負極電極用スラリー、高分子化合物の製造方法、及び負極電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202217
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】高分子化合物、中間組成物、負極電極、蓄電装置、負極電極用スラリー、高分子化合物の製造方法、及び負極電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20170914BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20170914BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170914BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170914BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20170914BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20170914BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/38 Z
   H01M4/48
   H01M4/13
   H01M4/139
   C08F8/32
   C08F20/06
【請求項の数】25
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2016-555238(P2016-555238)
(86)(22)【出願日】2015年10月20日
(86)【国際出願番号】JP2015079607
(87)【国際公開番号】WO2016063882
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2017年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-214580(P2014-214580)
(32)【優先日】2014年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-114804(P2015-114804)
(32)【優先日】2015年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】杉山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】合田 信弘
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 正和
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】川本 祐太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 友邦
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】金田 潤
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−213289(JP,A)
【文献】 特開2006−278303(JP,A)
【文献】 特開2009−080971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
C08F 8/32
C08F 20/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物であって、
前記高分子化合物は、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンとが縮合してなる化合物であり、
Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基であることを特徴とする高分子化合物。
【化1】
【請求項2】
前記高分子化合物は、酸無水物構造を有することを特徴とする請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物であって、
ポリアクリル酸により構成される鎖状構造と、前記鎖状構造内又は鎖状構造間におけるカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有し、
前記架橋構造は、下記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造であり、
PAAは、ポリアクリル酸により構成される鎖状構造を示し、Xは、下記一般式(5)に示す構造であり、
Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基であることを特徴とする高分子化合物。
【化2】
【化3】
【請求項4】
前記高分子化合物は、前記架橋構造として、少なくとも一般式(2)及び一般式(4)の架橋構造、又は少なくとも一般式(3)の架橋構造を有することを特徴とする請求項3に記載の高分子化合物。
【請求項5】
前記高分子化合物は、酸無水物構造を有することを特徴とする請求項3に記載の高分子化合物。
【請求項6】
蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物の中間組成物であって、
ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンと、非水溶媒とを含有し、液状をなし、
Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基であることを特徴とする中間組成物。
【化4】
【請求項7】
前記ポリアクリル酸と前記多官能アミンとの配合比は、
前記多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、前記ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が15当量以下となる配合比であることを特徴とする請求項6に記載の中間組成物。
【請求項8】
前記ポリアクリル酸と前記多官能アミンとの配合比は、
前記多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、前記ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が1.5〜15当量となる配合比であることを特徴とする請求項6に記載の中間組成物。
【請求項9】
請求項3に記載の高分子化合物の製造方法であって、
ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンとを、150℃〜230℃の温度で加熱し、
Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基であることを特徴とする高分子化合物の製造方法。
【化5】
【請求項10】
請求項3に記載の高分子化合物の製造方法であって、
請求項6〜8のいずれか一項に記載の中間組成物を、40℃〜140℃の温度で予備加熱した後に、150℃〜230℃の温度で加熱することを特徴とする高分子化合物の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載の高分子化合物の製造方法であって、
ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンとを、180℃〜230℃の温度で加熱し、
Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基であることを特徴とする高分子化合物の製造方法。
【化6】
【請求項12】
請求項5に記載の高分子化合物の製造方法であって、
請求項6〜8のいずれか一項に記載の中間組成物を、40℃〜140℃の温度で予備加熱した後に、180℃〜230℃の温度で加熱することを特徴とする高分子化合物の製造方法。
【請求項13】
蓄電装置の負極電極であって、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子化合物を含有する負極用バインダーと、負極活物質とを備え、
前記負極活物質は、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、及びリチウムと合金化可能な元素を有する化合物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする負極電極。
【請求項14】
前記負極活物質は、CaSiから脱カルシウム化反応を経て得られるシリコン材料、Si、及びSiO(0<v<2)から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項13に記載の負極電極。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の負極電極と、非水電解質とを備えることを特徴とする蓄電装置。
【請求項16】
蓄電装置の負極電極の製造に用いられる負極電極用スラリーであって、
請求項6〜8のいずれか一項に記載の中間組成物と、負極活物質と、溶剤とを含有し、
前記負極活物質は、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、及びリチウムと合金化可能な元素を有する化合物から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする負極電極用スラリー。
【請求項17】
アセチレンブラックを含有し、
前記アセチレンブラックの50%粒子径が0.35〜0.75μmの範囲であることを特徴とする請求項16に記載の負極電極用スラリー。
【請求項18】
蓄電装置の負極電極の製造方法であって、
請求項16又は請求項17に記載の負極電極用スラリーを用いて、集電体に対して負極活物質層を形成することを特徴とする負極電極の製造方法。
【請求項19】
前記負極電極用スラリーは、前記負極活物質として、CaSiから脱カルシウム化反応を経て得られるシリコン材料、Si、及びSiO(0<v<2)から選ばれる少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項18に記載の負極電極の製造方法。
【請求項20】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子化合物を含有する負極用バインダー。
【請求項21】
蓄電装置の負極電極の製造方法であって、
前記中間組成物と負極活物質とを含有する混合物を用いて、集電体上に負極活物質層を形成する活物質層形成工程と、
前記負極活物質層を熱処理することにより、前記ポリアクリル酸と前記多官能アミンとを縮合させる縮合工程と
を有する負極電極の製造方法。
【請求項22】
前記縮合工程において、前記負極活物質層を乾燥させると共に熱処理することを特徴とする請求項21に記載の負極電極の製造方法。
【請求項23】
前記高分子化合物は、前記一般式(1)に示す多官能アミン由来の第1の架橋構造と、その他の多官能アミン由来の第2の架橋構造とを有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子化合物。
【請求項24】
蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物であって、
前記高分子化合物は、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンと、多官能カルボン酸とが縮合してなる化合物であり、
Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基であることを特徴とする高分子化合物。
【化7】
【請求項25】
前記高分子化合物は、前記一般式(1)で示される多官能アミン及び多官能カルボン酸の両方に由来する架橋構造を更に有することを特徴とする請求項24に記載の高分子化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物、その高分子化合物の中間組成物、負極電極、蓄電装置、負極電極用スラリー、高分子化合物の製造方法、及び負極電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池を用いた製品として、携帯電話やノート型パソコン等の携帯機器が、多く利用されている。二次電池は、電気自動車用の大型電源としても、注目されている。
二次電池の電極は、例えば、銅やアルミニウム等の金属材料により形成された集電体と、その集電体上に結着された活物質層とから構成されている。一般に、活物質層は、活物質を集電体に結着させるための電極用バインダーとして、結着剤を含む。近年、電極用バインダーとして、安価な高分子化合物であるポリアクリル酸の利用が試みられている。特許文献1は、ポリアクリル酸リチウム塩やポリアクリル酸ナトリウム塩を含む電極用バインダーを開示する。特許文献2は、ポリアクリル酸とポリエチレンイミンとを含む電極用バインダーを開示する。特許文献3は、ポリアクリル酸とアミン化合物とを含む電極用バインダーを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−080971号公報
【特許文献2】特開2009−135103号公報
【特許文献3】特開2003−003031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本研究者らは、ポリアクリル酸と、特定の分子構造を有する多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物が二次電池等の蓄電装置の負極用バインダーとして有用であることを見出した。よって、本発明の目的は、蓄電装置の負極用バインダーとして有用な高分子化合物、その高分子化合物を得るための中間組成物、その高分子化合物を負極バインダーとして用いた負極電極、蓄電装置、及び負極電極用スラリーを提供することにある。また、本発明の目的は、その高分子化合物の製造方法、及び負極電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の第一の態様によれば、蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物が提供される。高分子化合物は、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンとが縮合してなる化合物であり、Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。
【0006】
【化1】
上記の高分子化合物は、酸無水物構造を有することが好ましい。
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第二の態様によれば、蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物が提供される。高分子化合物は、ポリアクリル酸により構成される鎖状構造と、鎖状構造内又は鎖状構造間におけるカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有し、架橋構造は、下記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造であり、PAAは、ポリアクリル酸により構成される鎖状構造を示し、Xは、下記一般式(5)に示す構造であり、Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。
【0008】
【化2】
【0009】
【化3】
上記の高分子化合物は、架橋構造として、少なくとも一般式(2)及び一般式(4)の架橋構造、又は少なくとも一般式(3)の架橋構造を有することが好ましい。
【0010】
上記の高分子化合物は、酸無水物構造を有することが好ましい。
上記課題を解決するため、本発明の第三の態様によれば、蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物の中間組成物が提供される。中間組成物は、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンと、非水溶媒とを含有して、液状をなし、Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。
【0011】
【化4】
上記の中間組成物において、ポリアクリル酸と多官能アミンとの配合比は、多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が15当量以下となる配合比であることが好ましい。
【0012】
上記の中間組成物において、ポリアクリル酸と多官能アミンとの配合比は、多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が1.5〜15当量となる配合比であることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第四の態様によれば、上記の高分子化合物の製造方法であって、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンとを、150℃〜230℃の温度で加熱する方法が提供され、Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。
【0014】
【化5】
上記課題を解決するため、本発明の第五の態様によれば、高分子化合物の製造方法であって、上記の中間組成物を、40℃〜140℃の温度で予備加熱した後に、150℃〜230℃の温度で加熱する方法が提供される。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第六の態様によれば、高分子化合物の製造方法であって、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンとを、180℃〜230℃の温度で加熱する方法が提供され、Yは、炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子であり、R1,R2はそれぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。
【0016】
【化6】
上記課題を解決するため、本発明の第七の態様によれば、高分子化合物の製造方法が提供され、上記の中間組成物を、40℃〜140℃の温度で予備加熱した後に、180℃〜230℃の温度で加熱する。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の第八の態様によれば、蓄電装置の負極電極が提供される。負極電極は、上記の高分子化合物を含有する負極用バインダーと、負極活物質とを備え、負極活物質は、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、及びリチウムと合金化可能な元素を有する化合物から選ばれる少なくとも一種である。
【0018】
上記の負極電極において、負極活物質は、CaSiから脱カルシウム化反応を経て得られるシリコン材料、Si、及びSiO(0<v<2)から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の第九の態様によれば、上記の負極電極と、非水電解質とを備えた蓄電装置が提供される。
上記課題を解決するため、本発明の第十の態様によれば、蓄電装置の負極電極の製造に用いられる負極電極用スラリーが提供される。負極電極用スラリーは、上記の中間組成物と、負極活物質と、溶剤とを含有し、負極活物質は、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、及びリチウムと合金化可能な元素を有する化合物から選ばれる少なくとも一種である。
【0020】
上記の負極電極用スラリーにおいて、アセチレンブラックを含有し、アセチレンブラックの50%粒子径が0.35〜0.75μmの範囲であることが好ましい。
上記課題を解決するため、本発明の第十一の態様によれば、蓄電装置の負極電極の製造方法であって、上記の負極電極用スラリーを用いて、集電体に対して負極活物質層を形成する方法が提供される。
【0021】
上記の負極電極の製造方法において、負極電極用スラリーは、負極活物質として、CaSiから脱カルシウム化反応を経て得られるシリコン材料、Si、及びSiO(0<v<2)から選ばれる少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0022】
上記課題を解決するため、本発明の第十二の態様によれば、上記の高分子化合物を含有する負極用バインダーが提供される。
上記課題を解決するため、本発明の第十三の態様によれば、蓄電装置の負極電極の製造方法が提供される。この製造方法は、上記の中間組成物と負極活物質とを含有する混合物を用いて、集電体上に負極活物質層を形成する活物質層形成工程と、負極活物質層を熱処理することにより、ポリアクリル酸と多官能アミンとを縮合させる縮合工程とを有する。
【0023】
上記の製造方法において、縮合工程において、負極活物質層を乾燥させると共に熱処理することが好ましい。
上記課題を解決するため、本発明の第十四の態様によれば、一般式(1)に示す多官能アミン由来の第1の架橋構造と、その他の多官能アミン由来の第2の架橋構造とを有する高分子化合物が提供される。
【0024】
上記課題を解決するため、本発明の第十五の態様によれば、蓄電装置の負極用バインダーとして用いられる高分子化合物が提供される。高分子化合物は、ポリアクリル酸と、下記一般式(1)に示す多官能アミンと、多官能カルボン酸とが縮合してなる化合物である。
【0025】
【化7】
上記の高分子化合物において、前記一般式(1)で示される多官能アミン及び多官能カルボン酸の両方に由来する架橋構造を更に有することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、蓄電装置の特性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の高分子化合物は、(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンとが縮合してなる化合物である。
【0028】
(A)ポリアクリル酸は、アクリル酸からなるホモポリマーである。ポリアクリル酸の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、10,000〜2,000,000の範囲であることが好ましく、25,000〜1,800,000の範囲であることがより好ましく、50,000〜1,500,000の範囲であることが更に好ましい。
【0029】
ここで、ポリアミドイミド等の従来の高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合には、高分子化合物の重量平均分子量が低下するにしたがって、蓄電装置のサイクル特性が低下する傾向がある。これに対して、本実施形態の高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合には、高分子化合物を構成するポリアクリル酸の重量平均分子量が低下しても、蓄電装置のサイクル特性が維持される。そのため、(A)ポリアクリル酸として、例えば、250,000以下や100,000以下の低分子量のポリアクリル酸が好適に用いられる。
【0030】
多官能アミンは、下記一般式(1)に示す構造を有する化合物である。
【0031】
【化8】
一般式(1)において、Yは炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子である。また、各ベンゼン環におけるYの結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。
【0032】
Yが直鎖アルキル基及びフェニレン基である場合において、その構造を構成する炭素原子には置換基が結合されてもよい。例えば、直鎖アルキル基を構成する炭素原子に結合される置換基としては、メチル基、エチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、エトキシ基、オキソ基が挙げられる。これらの置換基は、一種のみが結合されてもよいし、二種以上が結合されてもよい。また、一つの炭素原子に結合される置換基の数は、一つであってもよいし、二つであってもよい。また、直鎖アルキル基及びフェニレン基を構成する炭素原子に結合される置換基は、アミノ基、又はアミノ基を含む置換基であってもよく、この場合には、3以上のアミノ基を有する多官能アミンとなる。
【0033】
一般式(1)において、R1,R2は、それぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。R1がメチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である場合において、R1の結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。R2についても同様である。
【0034】
(B)多官能アミンの具体例について記載する。
Yが直鎖アルキル基である多官能アミンとしては、例えば、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−エチレンジアニリン、4,4’−ジアミノ―3,3’−ジメチルジフェニルメタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキサン、9、9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、パラローズアニリンが挙げられる。Yがフェニレン基である多官能アミンとしては、例えば、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼンが挙げられる。Yが酸素原子である多官能アミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが挙げられる。1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン、及びパラローズアニリンは、3つのアミノ基を有する三官能アミンである。上記の多官能アミンのうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0035】
(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンとを縮合する際の配合割合は、(B)多官能アミンのアミノ基の数に応じて設定される。すなわち、(A)ポリアクリル酸におけるカルボキシル基の数が、(B)多官能アミンにおけるアミノ基の数よりも多くなるように上記配合割合は設定される。換言すると、(B)多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、(A)ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が1当量以上となるように上記配合割合は設定される。(A)ポリアクリル酸のカルボキシル基の数と(B)多官能アミンのアミノ基の数との比率(カルボキシル基/アミノ基比率)は、1.5/1〜15/1の範囲であることが好ましく、2/1〜10/1の範囲であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態の高分子化合物は、(A)ポリアクリル酸及び(B)多官能アミンを溶媒中で混合する混合工程と、混合工程にて得られた中間組成物を加熱処理する加熱工程とを経ることにより得られる。
【0037】
混合工程は、(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンと溶媒とが混合されてなる液状の中間組成物を得る工程である。混合工程に用いる溶媒としては、(A)ポリアクリル酸及び(B)多官能アミンが溶解する溶媒を適宜選択して用いることができる。特に、溶解性向上の観点から、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレン、γ―ブチロラクトン、エタノール、プロパノール等の非水溶媒を用いることが好ましい。
【0038】
加熱工程は、中間組成物を加熱処理することにより、中間組成物に含有される(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンとを縮合させる工程である。加熱工程における加熱温度は、架橋構造の形成を促進させる観点、すなわちアミド結合部やイミド結合部の効率的な形成の観点から、150〜230℃の範囲であることが好ましく、180〜200℃の範囲であることがより好ましい。また、加熱工程における加熱温度は、後述する酸無水物構造を形成する観点から、180〜230℃の範囲であることが好ましい。加熱温度を高めると、本実施形態の高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合に、二次電池等の蓄電装置の特性(サイクル特性)が高められる。
【0039】
中間組成物を加熱する際に、アミド結合及びイミド結合を形成する縮合反応を進行させるため、又は縮合反応の反応速度を高めるために、中間組成物に触媒を添加してもよい。上記触媒としては、例えば、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−カルボニルジイミダゾール、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド、塩酸1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ジフェニルリン酸アジド、BOP試薬等の脱水縮合触媒を有効に用いることができる。これらの触媒を添加した場合には、アミド結合及びイミド結合をより低温で形成できるため、高分子化合物の製造効率が高められる。
【0040】
加熱工程に供される中間組成物は、予備加熱処理された中間組成物であることが好ましい。予備加熱処理の温度は、40〜140℃の範囲であることが好ましく、60〜130℃の範囲であることがより好ましい。予備加熱処理により、中間組成物に含有される(A)ポリアクリル酸及び(B)多官能アミンが会合して、カルボキシル基とアミノ基の縮合反応が進行しやすい状態が形成される。その結果、加熱工程において、縮合反応が効率的に進行する。予備加熱処理により、カルボキシル基とアミノ基の縮合反応が部分的に進行して、アミド結合部やイミド結合部が形成されてもよい。
【0041】
また、予備加熱処理された中間組成物を用いる場合、加熱工程は、中間組成物に含有される溶媒を除去した状態で行うことが好ましい。この場合には、(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンとの縮合反応が進行しやすくなる。
【0042】
そして、加熱工程を経ることにより、(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物が得られる。この高分子化合物は、(A)ポリアクリル酸のカルボキシル基と、(B)多官能アミンのアミノ基との間にアミド結合及びイミド結合の少なくとも一方が形成されて、(A)ポリアクリル酸同士が架橋された構造を有していると考えられる。つまり、高分子化合物は、ポリアクリル酸により構成される鎖状構造と、その鎖状構造内又は鎖状構造間のカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有している。その架橋構造は、下記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造である。
【0043】
【化9】
一般式(2)〜(4)において、PAAは、ポリアクリル酸により構成される鎖状構造を示している。また、Xは、下記一般式(5)に示す構造である。イミド構造を有する一般式(3)〜(4)において、一つのイミド構造を構成する二つのカルボニル基は、それぞれ異なる鎖状構造に結合されるカルボニル基であってもよいし、同一の鎖状構造に結合されるカルボニル基であってもよい。例えば、イミド構造を構成する二つのカルボキニル基が、同一の鎖状構造における隣接する炭素に結合されるカルボニル基である場合、イミド構造としてマレイミド構造が形成される。
【0044】
【化10】
一般式(5)において、Yは炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子である。また、各ベンゼン環におけるYの結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。一般式(5)におけるYは、一般式(1)におけるYに準じた構造となる。
【0045】
一般式(5)において、R1,R2は、それぞれ独立して、単数又は複数の水素原子、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である。R1がメチル基、トリフルオロメチル基、又はメトキシ基である場合において、R1の結合位置は、アミノ基に対するオルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよい。R2についても同様である。一般式(5)におけるR1,R2は、一般式(1)におけるR1,R2に準じた構造となる。
【0046】
高分子化合物は、その架橋構造において、アミド結合部及びイミド結合部の両方を有していることが好ましい。つまり、架橋構造として、少なくとも一般式(2)及び一般式(4)の架橋構造、又は少なくとも一般式(3)の架橋構造を有していることが好ましい。
【0047】
また、高分子化合物は、二つのカルボキシル基が脱水縮合することにより形成される酸無水物構造(CO−O−CO)を分子構造内に有していることが好ましい。酸無水物構造は、同一の鎖状構造(PAA)内に形成される構造であってもよいし、異なる鎖状構造(PAA)間に形成される構造であってもよい。すなわち、酸無水物構造に含まれる二つのカルボニル炭素が、同一の鎖状構造(PAA)に結合されてもよいし、それぞれ異なる鎖状構造(PAA)に結合されてもよい。
【0048】
また、本実施形態の高分子化合物は、第2の架橋構造を更に有する高分子化合物であってもよい。
例えば、第2の架橋構造を更に有する高分子化合物として、(A)ポリアクリル酸と(B)一般式(1)で示される多官能アミンと(C)その他の多官能アミンとが縮合してなる高分子化合物であってもよい。この場合、一般式(1)で示される多官能アミン由来の架橋構造に加えて、その他の多官能アミン由来の第2の架橋構造を更に有する高分子化合物となる。この第2の架橋構造を付加することにより、高分子化合物の強度や柔軟性等の物性を調整することができる。
【0049】
(C)その他の多官能アミンとしては、例えば、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,8-ジアミノオクタン、2−アミノアニリン(1,2−フェニレンジアミン)、3−アミノアニリン(1,3−フェニレンジアミン)、4−アミノアニリン(1,4−フェニレンジアミン)、2,4−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,6-ジアミノピリジン、1,3−ジイミノイソインドリンが挙げられる。
【0050】
(C)その他の多官能アミンの配合割合は、(B)一般式(1)で示される多官能アミン10質量部に対して1質量部以下であることが好ましい。上記割合とすることにより、高分子化合物の強度や柔軟性等の物性が大きく変化して負極バインダーに適さなくなることを抑制できる。
【0051】
また、第2の架橋構造を更に有する高分子化合物として、(A)ポリアクリル酸と(B)一般式(1)で示される多官能アミンと(D)多官能カルボン酸とが縮合してなる高分子化合物であってもよい。この場合、一般式(1)で示される多官能アミン由来の架橋構造に加えて、一般式(1)で示される多官能アミン及び多官能カルボン酸の両方に由来する第2の架橋構造を更に有する高分子化合物となる。この第2の架橋構造は、2以上の(B)一般式(1)で示される多官能アミンと、1以上の(D)多官能カルボン酸とがアミド結合又はイミド結合により結合してなり、(B)一般式(1)で示される多官能アミン由来の構造部分と、(D)多官能カルボン酸由来の構造部分とが交互に位置するとともに、末端に位置する(B)一般式(1)で示される多官能アミン由来の構造部分において(A)ポリアクリル酸に結合する架橋構造である。この第2の架橋構造を付加することにより、高分子化合物の強度や柔軟性等の物性を調整することができる。
【0052】
(D)多官能カルボン酸は、2以上のカルボキシル基を有する化合物であればよい。(D)多官能カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、1,2,3−プロパン、トリカルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ジグリコール酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,1,3−シクロペンタントリカルボン酸、1,2,4−シクロペンタントリカルボン酸、1,3,4−シクロペンタントリカルボン酸、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0053】
(D)多官能カルボン酸の配合割合は、(B)一般式(1)で示される多官能アミンのアミノ基の数と、(D)多官能カルボン酸のカルボキシル基の数との比率(アミノ基の数/カルボキシル基の数)が、7〜25の範囲となる配合割合であることが好ましく、5〜15の範囲となる配合割合であることがより好ましい。
【0054】
本実施形態の高分子化合物は、第2の架橋構造として、その他の多官能アミン由来の第2の架橋構造と、一般式(1)で示される多官能アミン及び多官能カルボン酸の両方に由来する第2の架橋構造とを共に有する高分子化合物であってもよい。
【0055】
また、本実施形態の高分子化合物は、モノアミンが結合された構造を有する高分子化合物であってもよい。すなわち、(A)ポリアクリル酸と(B)一般式(1)で示される多官能アミンと(E)モノアミンとが縮合してなる高分子化合物であってもよい。モノアミンは、ポリアクリル酸における、多官能アミンと結合していないカルボキシル基に結合して非架橋構造を構築する。
【0056】
(E)モノアミンとしては、例えば、アニリン、アミノフェノール、モルホリン、3−アミノピリジンが挙げられる。(E)モノアミンの配合割合は、(B)一般式(1)で示される多官能アミン10質量部に対して1質量部以下であることが好ましい。上記割合とすることにより、高分子化合物の強度や柔軟性等の物性が大きく変化して負極バインダーに適さなくなることを抑制できる。
【0057】
次に、本実施形態の高分子化合物を負極用バインダーとして用いた負極電極を製造する方法の一例について記載する。
まず、負極活物質、負極用バインダー、溶剤を混合してスラリーを調製する。その際、必要に応じて導電助剤等の他の成分を更に混合してもよい。
【0058】
負極活物質としては、二次電池等の蓄電装置の負極活物質として用いられる公知の物質、例えば、炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、及びリチウムと合金化可能な元素を有する化合物を用いることができる。
【0059】
炭素系材料としては、例えば、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料を用いることができ、その具体例としては、難黒鉛化性炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭素、カーボンブラック類が挙げられる。
【0060】
リチウムと合金化可能な元素としては、例えば、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが挙げられる。これらのなかでも、Siが特に好ましい。
【0061】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、例えば、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biから選ばれる元素を有する化合物が挙げられる。これらのなかでも、Siを有する化合物であるシリコン系材料が特に好ましい。
【0062】
シリコン系材料としては、例えば、SiB、SiB、MgSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、NiSi、CaSi、CrSi、CuSi、FeSi、MnSi、NbSi、TaSi、VSi、WSi、ZnSi、SiC、Si、SiO、SiO(0<V≦2)、SnSiO、LiSiOが挙げられる。これらのなかでも、SiO(0<V≦2)が特に好ましい。
【0063】
また、シリコン系材料として、国際公開2014/080608号に開示される、CaSiから脱カルシウム化反応を経て得られるシリコン材料を用いることもできる。上記シリコン材料は、例えば、CaSiを酸(例えば、塩酸やフッ化水素)で処理して得られる層状ポリシランを、脱カルシウム化(例えば、300〜1000℃の加熱処理)して得られるシリコン材料である。負極活物質として、一種類の物質を単独で用いてもよいし、複数の物質を併せて用いてもよい。本実施形態の高分子化合物は、充放電時における膨張収縮の度合が大きい負極活物質であるシリコン系材料と組み合わせて用いることが特に好ましい。
【0064】
負極活物質として、上記の物質のうちの一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
スラリーに混合される負極用バインダーとしては、上記中間組成物が用いられる。
【0065】
また、負極用バインダーとして、他の負極用バインダーを併用してもよい。他の負極用バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、変性ポリフェニレンオキシド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、フェノール樹脂が挙げられる。これらの他の負極用バインダーのうち、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。他の負極用バインダーを併用する場合には、負極用バインダーの総固形分に対して、中間組成物の固形分が1質量%以上含まれていることが好ましく、10質量%以上含まれていることがより好ましい。
【0066】
負極活物質と負極用バインダーとの質量比における配合割合(負極活物質:負極用バインダー)は、負極活物質及び負極用バインダーの種類に応じて適宜設定することができる。上記配合割合は、例えば、5:3〜99:1の範囲であることが好ましく、3:1〜97:3の範囲であることがより好ましく、16:3〜95:5の範囲であることが更に好ましい。また、負極活物質が国際公開2014/080608号に開示される上記シリコン材料である場合には、負極活物質と負極用バインダーとの質量比における配合割合(負極活物質:負極用バインダー)は、3:1〜7.5:1の範囲であることが好ましく、4:1〜5:1の範囲であることがより好ましい。
【0067】
溶剤としては、二次電池等の蓄電装置の電極の作製時に用いられる公知の溶剤を、負極活物質及び負極用バインダーの種類に応じて適宜用いることができる。溶剤の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0068】
導電助剤としては、二次電池等の蓄電装置の負極電極に用いられる公知の導電助剤を用いることができる。導電助剤の具体例としては、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの導電助剤のうち、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0069】
例えば、アセチレンブラックと、カーボンナノチューブ又はケッチェンブラックとを併用した場合には、アセチレンブラックを単独で用いた場合と比較して、蓄電装置の特性(サイクル特性)が向上する。なお、アセチレンブラックとカーボンナノチューブとを併用する場合、これら導電助剤の質量比における配合割合(カーボンナノチューブ/アセチレンブラック)は、0.2〜4.0の範囲であることが好ましく、0.2〜1.0の範囲であることがより好ましい。アセチレンブラックとケッチェンブラックとを併用する場合、これら導電助剤の質量比における配合割合(ケッチェンブラック/アセチレンブラック)は、0.2〜1.0の範囲であることが好ましい。
【0070】
導電助剤としてアセチレンブラックを用いる場合、アセチレンブラックは、50%粒子径(D50)が0.35〜0.75μmの範囲であることが好ましく、更に10%粒子径(D10)が0.18〜0.25μmの範囲であり、90%粒子径(D90)が1.6〜3.5μmの範囲であることがより好ましい。上記の範囲に設定することにより、アセチレンブラックによる蓄電装置の特性(サイクル特性)を効果的に向上させることができる。なお、50%粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%でのアセチレンブラックの二次粒子径を意味する。10%粒子径及び90%粒子径についても同様である。
【0071】
また、アセチレンブラックの配合割合は、負極用バインダー1質量部に対して、0.5〜1.5質量部の範囲であることが好ましい。上記の範囲に設定することにより、アセチレンブラックによる蓄電装置の特性(初期効率やサイクル特性)を効果的に向上させることができる。
【0072】
なお、スラリー中に導電助剤を含有させる場合には、導電助剤と共に分散剤を含有させることが好ましい。分散剤の具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、トリアジン化合物等が挙げられる。これらの分散剤のうち、一種のみを用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0073】
次いで、上記のスラリーを集電体に塗布して、集電体の表面にスラリーからなる負極活物質層を形成する。その後、負極活物質層に含有される溶媒(スラリーの溶剤、及び上記中間組成物に含有される溶媒)を除去して、負極活物質層を乾燥処理するとともに、加熱処理することにより負極活物質層を硬化させる。この加熱処理により、上記中間組成物に含有される(A)ポリアクリル酸と(B)多官能アミンとが縮合して、負極活物質層中に本実施形態の高分子化合物が形成される。上記加熱処理は、負極活物質層に溶媒が含まれている状態で行うこともできるが、負極活物質層を乾燥させた状態として行うことがより好ましい。
【0074】
乾燥処理及び加熱処理の具体的方法としては、例えば、常圧下又は減圧下において、熱風、赤外線、マイクロ波、高周波等の熱源を用いて加熱する方法が挙げられる。加熱処理の際は、負極活物質層から加熱するよりも集電体から加熱することが好ましい。また、乾燥処理は、高温で素早く加熱するよりも、低温でゆっくりと加熱することが好ましく、加熱処理は、低温でゆっくり加熱するよりも、高温で素早く加熱することが好ましい。このように加熱することにより、蓄電装置の特性(初期効率やサイクル特性)を高めることができる。
【0075】
集電体として、二次電池等の蓄電装置の負極用の集電体として用いられる公知の金属材料を用いることができる。集電体に利用できる金属材料としては、例えば、銀、銅、金、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、モリブデン、ステンレスが挙げられる。
【0076】
本実施形態の高分子化合物を負極用バインダーとして用いた負極電極は、電解質として非水電解質を備える非水系の蓄電装置に有効に用いることができる。蓄電装置としては、例えば、二次電池、電気二重層コンデンサ、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。また、こうした蓄電装置は、電気自動車及びハイブリッド自動車のモータ駆動用の非水系二次電池や、パソコン、携帯通信機器、家電製品、オフィス機器、産業機器等に利用される非水系二次電池として有用である。
【0077】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)本実施形態の高分子化合物は、ポリアクリル酸と、上記一般式(1)に示す多官能アミンとが縮合してなる化合物である。また、本実施形態の高分子化合物は、ポリアクリル酸により構成される鎖状構造と、鎖状構造内又は鎖状構造間におけるカルボン酸側鎖同士を接続する架橋構造とを有し、架橋構造は、上記一般式(2)〜(4)から選ばれる少なくとも一種の架橋構造である。また、本実施形態の高分子化合物は、ポリアクリル酸と、上記一般式(1)に示す多官能アミンと、非水溶媒とを含有するとともに液状をなす中間組成物を加熱処理してなる化合物である。
【0078】
本実施形態の高分子化合物は、蓄電装置の負極用バインダーとして有用である。そして、本実施形態の高分子化合物を負極用バインダーとして用いることにより、蓄電装置の特性(初期効率やサイクル特性)を高めることができる。
【0079】
また、負極用バインダーとしての本実施形態の高分子化合物は、ポリアクリル酸からなる鎖状構造の重量平均分子量を低くした場合であっても、蓄電装置のサイクル特性が維持されやすい性質を有している。そのため、鎖状構造部分の短い低分子量の高分子化合物とした場合にも、負極用バインダーとして有効に機能することができる。負極用バインダーとして低分子量の高分子化合物を用いた場合には、より少ない量の溶剤でスラリーを調製することができることから、スラリーの固形分比を大きく設定することができる。スラリーの固形分比を大きくすることにより、負極電極を作成する際における負極活物質層から溶剤を揮発させるための乾燥時間が短縮されて、負極電極の生産性が向上する。したがって、本実施形態の高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合には、負極電極の生産性の向上を図ることが容易である。
【0080】
(2)上記一般式(5)に示す、架橋構造の部分構造において、Yは炭素数1〜4の直鎖アルキル基、フェニレン基、又は酸素原子である。
上記構成によれば、架橋構造内に運動が可能な部分構造を有するため、高分子化合物の伸縮性が向上する。これにより、本実施形態の高分子化合物を用いた負極用バインダーは、リチウム等の吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮による体積変化に対して追従しやすくなる。その結果、蓄電装置の特性が高められる。
【0081】
(3)本実施形態の高分子化合物は、ポリアクリル酸のカルボキシル基と、多官能アミンのアミノ基とがアミド結合により結合した部位と、イミド結合により結合した部位とを有する。また、本実施形態の高分子化合物は、架橋構造として、少なくとも上記一般式(2)及び上記一般式(4)の架橋構造、又は少なくとも上記一般式(3)の架橋構造を有する。
【0082】
上記構成によれば、高分子化合物を負極活物質に混合して形成された負極電極の状態において、その電極構造の強度が高められる。これにより、リチウム等の吸蔵及び放出に伴う膨張及び収縮による体積変化に対して、電極構造が維持されやすくなる。その結果、蓄電装置の特性を確実に高めることができる。
【0083】
また、上記構成によれば、非水電解質等の有機物に対する高分子化合物の溶解性が低下する。そのため、電気化学反応中の非水電解質への高分子化合物の溶出を抑制する効果も得られる。
【0084】
(4)ポリアクリル酸と多官能アミン(一般式(1)で示される多官能アミン)との配合比は、多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が15当量以下である。
【0085】
アミノ基に対するカルボキシル基の当量を低下させると、カルボキシル基とアミノ基との縮合部としてイミド結合部が形成されやすい。そのため、上記構成によれば、イミド結合部を効率良く形成することができる。その結果、上記(3)の効果をより確実に得ることができる。
【0086】
(5)ポリアクリル酸と多官能アミン(一般式(1)で示される多官能アミン)との配合比は、多官能アミンにおけるアミノ基1当量に対して、ポリアクリル酸におけるカルボキシル基が1.5当量以上である。アミノ基に対するカルボキシル基の当量を増大させると、より多くの架橋構造が形成されることで、高分子化合物の樹脂強度が高められる。そのため、上記構成によれば、架橋構造が形成されることによる樹脂強度をより確実に向上させることができる。
【0087】
また、アミノ基に対するカルボキシル基の当量を増大させると、架橋構造に関与しないカルボキシル基が増えることで、酸無水物構造が形成されやすくなる。
【実施例】
【0088】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
<試験1>
多官能アミンの異なる実施例1〜3の中間組成物を調製した。以下では、ポリアクリル酸を「PAA」、N−メチル−2−ピロリドンを「NMP」、ポリアミドイミドを「PAI」と、それぞれ表記する。
【0089】
(実施例1:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.1g(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例1の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0090】
(実施例2:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルエーテル)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7mlを窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル0.1g(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例2の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0091】
また、参考例として、PAAと、上記一般式(1)を満たさない多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物を合成した。
(参考例1:PAA+1,6−ジアミノヘキサン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7mlを窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、1,6−ジアミノヘキサン65μl(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、参考例1の中間組成物をNMP懸濁液の状態で得た。
【0092】
(参考例2:PAA+2,2’−オキシビス(エチルアミン))
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7mlを窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、2,2’−オキシビス(エチルアミン)53μl(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、参考例2の中間組成物をNMP懸濁液の状態で得た。
【0093】
(参考例3:PAA+2−メチル−5−アミノアニリン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7mlを窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、2−メチル−5−アミノアニリン0.061g(0.5mmol)を0.4mlのNMPに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、参考例3の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0094】
(電極シートの作製)
次に、実施例1、2の中間組成物を用いて、各中間組成物から得られる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた電極シートを作製した。また、得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。
【0095】
SiO85質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例1、2の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。30μmの電解銅箔(集電体)の表面に、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0096】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて160℃、3時間、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。
【0097】
また、比較対象として、PAA、PAI(分子構造内にアミド結合部及びイミド結合部を有する高分子化合物)を負極用バインダーとして用いた電極シートを同様に作製した。更に、参考例1〜3の中間組成物を用いて電極シートを同様に作製した。
【0098】
(リチウムイオン二次電池の作製)
電極シートを直径11mmの円形に裁断してなる負極電極(評価極)と、厚さ500μmの金属リチウム箔を直径13mmの円形に裁断してなる正極電極との間にセパレータを配置して、電極体電池を得た。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに非水電解質を注入して、電池ケースを密閉することにより、リチウムイオン二次電池を得た。セパレータとしては、ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びセルガード社製celgard2400を用いた。非水電解質としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1Mの濃度となるように溶解した非水電解質を用いた。
【0099】
(電池特性の評価)
得られたリチウムイオン電池について、直流電流0.2mAで負極電極における正極電極に対する電圧が0.01Vになるまで放電を行い、放電が終了してから10分後に、直流電流0.2mAで負極電極における正極電極に対する電圧が1.0Vになるまで充電を行った。このときの放電容量を初期放電容量とするとともに、充電容量を初期充電容量とした。そして、下記式に基づいて初期効率を算出した。その結果を表1に示す。
【0100】
初期効率(%)=(初期充電容量/初期放電容量)×100
また、上記の放電及び充電を1サイクルとして規定サイクルの充放電を行い、下記式に基づいてサイクル特性を算出した。その結果を表1に示す。
【0101】
サイクル特性(%)=(規定サイクル後の充電容量/初期充電容量)×100
【0102】
【表1】
表1に示すように、負極用バインダーとして、実施例1、2を用いた試験例1、2においては、初期効率及びサイクル特性が共に高い値を示す結果が得られた。これに対して、負極用バインダーとして、PAI、PAAを用いた試験例3、4、及び参考例1〜3を用いた試験例5〜7においては、初期効率及びサイクル特性の一方又は両方が低い値を示す結果が得られた。特に、試験例7は、負極用バインダーの構成要素として、芳香族環を有する点において実施例と共通する多官能アミン用いているものの、初期放電容量、初期充電容量、初期効率が低い値を示した。参考例3の負極用バインダーには、上記一般式(1)のY部分に相当する連結部位が存在せず、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化に追従しないことが要因であると考えられる。
【0103】
これらの結果から、ポリアクリル酸と、特定の分子構造を有する多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物は、二次電池等の蓄電装置の負極用バインダーとして有用であることが確認できた。
【0104】
<試験2>
次に、実施例1の中間組成物について、PAAと多官能アミンとの配合割合を異ならせることによって、カルボキシル基/アミノ基比率を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0105】
(実施例1−1〜1−4:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
実施例1の中間組成物について、4,4’−ジアミノジフェニルメタンの配合量を異ならせて、カルボキシル基/アミノ基比率の異なる実施例1−1〜1−4の中間組成物を得た。各実施例のカルボキシル基/アミノ基比率は表2に示すとおりである。実施例1−1については、上記実施例1と同一の中間組成物であり、そのカルボキシル基/アミノ基比率は「9.5/1」である。実施例1−2〜1−4については、4,4’−ジアミノジフェニルメタンの配合量が異なる点を除いて、実施例1と同様の方法により調製した。
【0106】
(電池特性の評価)
実施例1−1〜1−4の中間組成物を用いて、中間組成物から得られる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた電極シートを作製した。また、得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表2に示す。電極シート及びリチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0107】
【表2】
表2に示すように、アミノ基に対するカルボキシル基の比率が大きくなるにしたがって、二次電池のサイクル特性が向上する傾向が確認できた。
【0108】
<試験3>
次に、実施例1の中間組成物について、中間組成物の調製時における予備加熱処理の条件を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0109】
(実施例1−1A:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.1g(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、80℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例1−1Aの中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0110】
(実施例1−1B:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.1g(0.5mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温(25℃)にて3時間撹拌を続けることにより、実施例1−1Bの中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0111】
(電池評価)
実施例1−1A、1−1Bで得られた中間組成物を用いて、中間組成物から得られる高分子化合物を負極バインダーとして用いた電極シートを作製した。また、得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表3に示す。電極シート及びリチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0112】
【表3】
表3に示すように、中間組成物の調製時に予備加熱処理を行っていない試験例13においても、初期効率及びサイクル特性が共に高い値を示す結果が得られた。そして、試験例13と試験例8、12との比較から、中間組成物の調製時に予備加熱処理すること、及び予備加熱処理時の温度を高めることにより、二次電池のサイクル特性が更に向上することが確認できた。
【0113】
<試験4>
次に、電極シートの作製時における負極活物質層の加熱処理の条件を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0114】
(電極シートの作製)
SiO85質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例1−2の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0115】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて、表4に示すように温度及び時間をそれぞれ異ならせて、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。
【0116】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表4に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0117】
【表4】
表4に示すように、180℃、200℃で加熱処理を行った試験例15、16は、160℃で加熱処理を行った試験例9と比較して、二次電池のサイクル特性が向上した。
【0118】
一方、260℃で加熱処理を行った試験例17は、160℃で加熱処理を行った試験例9と比較して、二次電池のサイクル特性が低下した。この原因は、加熱処理時の温度が高すぎることにより、縮合反応により形成された架橋構造を有する高分子化合物に分解が生じたためであると考えられる。また、130℃で加熱処理を行った試験例14も、160℃で加熱処理を行った試験例9と比較して、二次電池のサイクル特性が低下した。この原因は、加熱処理時の温度が低すぎることにより、架橋構造を有する高分子化合物が十分に形成されていないためであると考えられる。
【0119】
これらの結果から、加熱処理による縮合反応を経た、架橋構造を有する高分子化合物の形成が二次電池のサイクル特性の向上に大きく寄与していると考えられる。そして、加熱処理の温度は150〜230℃の範囲が好ましいと考えられる。
【0120】
<試験5>
次に、負極活物質として層状ポリシランから形成されたシリコン材料を用いた場合における電池特性を評価した。本試験では、実施例1の中間組成物から得られる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた。
【0121】
(シリコン材料の作製)
0℃で氷浴したフッ化水素を1質量%の濃度で含有する濃塩酸20mlに、CaSi5gを加えて1時間撹拌した後、水を加えて更に5分間撹拌した。反応液を濾過して得られた黄色粉体を水及びエタノールで洗浄し、これを減圧乾燥することにより、層状ポリシランを得た。得られた層状ポリシランをアルゴン雰囲気下で500℃に加熱することにより、ポリシランから水素が離脱したシリコン材料を得た。
【0122】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料70質量部、天然黒鉛15質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例1の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0123】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて180℃、2時間、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。また、実施例のNMP溶液に代えて、PAI、PAAを用いて同様の電極シートを作製した。
【0124】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表5に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0125】
【表5】
表5に示すように、負極用バインダーとして、実施例1を用いた試験例18においては、初期効率及びサイクル特性が共に高い値を示す結果が得られた。これに対して、負極用バインダーとして、PAI、PAAを用いた試験例19、20においては、初期効率及びサイクル特性の一方又は両方が低い値を示す結果が得られた。この結果から、負極活物質として、層状ポリシランから形成されたシリコン材料を用いた場合においても、ポリアクリル酸と、特定の分子構造を有する多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物は、二次電池等の蓄電装置の負極用バインダーとして有用であることが確認できた。
【0126】
<試験6>
次に、PAAと3官能アミンとを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合における電池特性を評価した。
【0127】
(実施例3:PAA+1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液2.33ml(PAAのモノマー換算で3.0mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、1,3,5−トリス(4−アミノフェニル)ベンゼン0.105g(0.3mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例3の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0128】
(電池特性の評価)
実施例3の中間組成物を負極用バインダーとして用いて、上記と同様の方法により、上記シリコン材料を活物質として用いた電極シートを作製した。得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表6に示す。電極シートの作成方法は、<試験5>の方法と同じである。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0129】
【表6】
表6に示すように、負極用バインダーとして、実施例3の高分子化合物を用いた試験例21における初期効率及びサイクル特性は、負極用バインダーとして、実施例1を用いた試験例18における初期効率及びサイクル特性と同程度であることが確認できた。この結果から、PAAと3官能アミンとを縮合してなる高分子化合物についても、二次電池等の蓄電装置の負極用バインダーとして同様に有用であることが確認できた。
【0130】
<試験7>
次に、負極活物質として天然黒鉛を用いた場合における電池特性を評価した。本試験では、実施例1の中間組成物から得られる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた。
【0131】
(電極シートの作製)
天然黒鉛(粒径15μm)95質量部、実施例1の中間組成物のNMP溶液5質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0132】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて180℃、2時間、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。また、実施例のNMP溶液に代えて、PAA水溶液、PAAのNMP溶液を用いて同様の電極シートを作製した。
【0133】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表7に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0134】
【表7】
表7に示すように、負極用バインダーとして、実施例1を用いた試験例22は、PAAを用いた試験例23、24と比較して、初期効率が高い値を示す結果が得られた。この結果から、負極活物質として、天然黒鉛を用いた場合においても、ポリアクリル酸と、特定の分子構造を有する多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物は、二次電池等の蓄電装置の負極用バインダーとして有用であることが確認できた。
【0135】
負極活物質として天然黒鉛を用いた負極電極も、リチウムの吸蔵及び放出に伴って体積変化することが知られている。そのため、ポリアクリル酸と、特定の分子構造を有する多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物における電池特性の向上効果は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化に対して安定であることに基づくものであると考えられる。
【0136】
<試験8>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する他の多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合における電池特性を評価した。
【0137】
(実施例4:PAA+3,3’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、3,3’−ジアミノジフェニルメタン0.475g(2.375mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例4の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0138】
(実施例5:PAA+3,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、3,4’−ジアミノジフェニルメタン0.475g(2.375mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例5の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0139】
(実施例6:PAA+4,4’−エチレンジアニリン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−エチレンジアニリン0.51g(2.375mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例6の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0140】
(実施例7:PAA+4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジフェニルメタン0.54g(2.375mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例7の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0141】
(実施例8:PAA+2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン0.8g(2.375mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例8の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0142】
(電極シートの作製)
SiO85質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例4〜8の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。30μmの電解銅箔(集電体)の表面に、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて、接合させた。
【0143】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて180℃、3時間、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。
【0144】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表8に示す。なお、リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0145】
【表8】
表8に示すように、負極用バインダーとして、実施例4〜8を用いた試験例25〜29は、初期効率及びサイクル特性が共に高い値を示す結果が得られた。この結果から、上記一般式(1)を満たす構造の多官能アミンであれば、アミノ基の位置や、その他の官能基の有無、及びY部分の構造が異なる場合であっても、負極用バインダーとして有用な高分子化合物が得られることが確認できた。
【0146】
<試験9>
次に、実施例1の中間組成物(PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)から得られる負極用バインダーについて、中間組成物を加熱して硬化させる過程における分子構造の変化を熱走査赤外分光測定により分析した。
【0147】
まず、乳鉢で粉砕したフッ化カルシウムを直径10mmの円盤状の基板を得た。次に、アルゴン雰囲気下において、基板の片面に実施例1の中間組成物のNMP溶液を約10μl滴下し、これを24時間、静置して乾燥させた後、真空中(減圧下)にて1時間、静置して更に乾燥させた。これにより、フッ化カルシウムの基板の片面に約5μm厚の中間組成物の層を有する測定サンプルを作製した。測定サンプルの作製は全て室温にて行った。そして、得られた測定サンプルに対して、熱走査赤外分光測定(透過法)を実施し、各分子構造を示すピークの継時的な増減変化を測定した。測定条件は以下のとおりである。また、測定の結果を表9に示す。
【0148】
測定装置:フーリエ変換赤外分光光度計Cary670(Agilent Technologies社製)
測定温度:昇温速度5℃/分にて30℃から各測定温度まで上昇させた後、200℃の状態を2時間保持した。
【0149】
【表9】
表9に示すように、アミド結合(CONH)を示すピークは、30℃〜125℃の間で検出されはじめ、その後、加熱温度の上昇に伴って徐々に増加した。一方、カルボキシル基(COOH)を示すピーク、及びアミン(NH)を示すピークは、加熱温度の上昇に伴って徐々に減少し、特にアミンを示すピークについては、150℃〜180℃において消失した。この結果から、加熱温度の上昇に伴って、カルボキシル基及びアミンが消費されて、アミド結合が形成されていることが分かる。
【0150】
また、180℃〜200℃においては、酸無水物構造(CO−O−CO)を示すピークが新たに検出された。この酸無水物構造は、加熱温度が180℃以上になることにより、架橋構造(アミド結合)の形成に関与していないカルボキシル基同士が脱水縮合して形成されたカルボン酸無水物であると考えられる。そして、<試験4>において、加熱温度を高めることによるサイクル特性の向上効果を示したが、この向上効果が得られる要因の一つとして、酸無水物構造が形成されていることが考えられる。
【0151】
<試験10>
次に、電極シートの作製時における負極活物質層の加熱処理において、脱水縮合触媒を用いるとともに、その加熱時間を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0152】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料70質量部、天然黒鉛15質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例1−2の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。このスラリー全量に対して、脱水縮合触媒として1−メチルイミダゾール5質量部を加えた。上記シリコン材料は、試験5において用いた、層状ポリシランから形成されたシリコン材料である。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0153】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて、表10に示すように温度をそれぞれ異ならせて、2時間、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。また、比較対象として、脱水縮合触媒を加えていないスラリーを用いて電極シートを作製した。
【0154】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表10に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0155】
【表10】
表10に示すように、脱水縮合触媒の存在下で加熱処理を行った試験例30、32はそれぞれ、脱水縮合触媒の非存在下で加熱処理を行った試験例33、34と比較して、加熱処理の温度が低いにもかかわらず、初期効率及びサイクル特性が同等以上であった。また、脱水縮合触媒の存在下で加熱処理を行った試験例31は、脱水縮合触媒の非存在下で同じ条件で加熱処理を行った試験例34と比較して、サイクル特性が大きく向上した。
【0156】
この結果から、脱水縮合触媒の存在下で加熱処理することにより、高分子化合物の形成時におけるアミド化反応及びイミド化反応が促進されて、より低温において目的の架橋構造が得られることが確認できた。
【0157】
<試験11>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンと、その他の多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合における電池特性を評価した。
【0158】
(実施例9:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+1,4−ジアミノブタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.47g(2.375mmol)と1,4−ジアミノブタン0.02g(0.227mmol)をNMP0.4mlに溶解させたアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例9の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0159】
(実施例10:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+1,6−ジアミノヘキサン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.47g(2.375mmol)と1,6−ジアミノヘキサン0.02g(0.172mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例10の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0160】
(実施例11:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+3−アミノアニリン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.47g(2.375mmol)と3−アミノアニリン0.02g(0.185mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例11の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0161】
(実施例12:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+2,6−ジアミノピリジン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.47g(2.375mmol)と2,6−ジアミノピリジン0.02g(0.183mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例12の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0162】
(実施例13:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+1,3−ジイミノイソインドリン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液7ml(PAAのモノマー換算で9.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.47g(2.375mmol)と1,3−ジイミノイソインドリン0.02(0.137mmol)をNMP0.4mlに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例13の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0163】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料70質量部、天然黒鉛15質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例9〜13の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。このスラリー全量に対して、1−メチルイミダゾール5質量部を加えた。上記シリコン材料は、試験5において用いた、層状ポリシランから形成されたシリコン材料である。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0164】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて180℃、2時間、加熱処理することにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。
【0165】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表11に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0166】
【表11】
表11に示すように、負極用バインダーとして、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンと、その他の多官能アミンとが縮合されている実施例9〜13を用いた試験例35〜39における初期効率及びサイクル特性は、負極用バインダーとして、実施例1−2を用いた試験例30における初期効率及びサイクル特性と同等以上であった。この結果から、その他の多官能アミンが縮合されている高分子化合物についても、二次電池等の蓄電装置の負極用バインダーとして同様に有用であることが確認できた。
【0167】
<試験12>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンと、その他の多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いる場合において、その他の多官能アミンの配合割合を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0168】
(実施例11−1〜11−3:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+3−アミノアニリン)
実施例11の中間組成物について、3−アミノアニリン(その他の多官能アミン)の配合量を異ならせて、実施例11−1〜11−3の中間組成物を得た。各実施例における3−アミノアニリンの配合量は表12におけるその他の多官能アミンの欄に示すとおりである。実施例11−1〜11−3については、3−アミノアニリンの配合量が異なる点を除いて、上記実施例11と同様の方法により調製した。
【0169】
(電池評価)
実施例11−1〜11−3の中間組成物を用いて、中間組成物から得られる高分子化合物を負極バインダーとして用いた電極シートを作製した。電極シートの作製方法は、試験11の方法と同じである。また、得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表12に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0170】
【表12】
表12に示すように、その他の多官能アミンの配合量が増加するにしたがって、初期効率及びサイクル特性が低下する傾向が確認できた。この原因としては、高分子化合物中において、その他の多官能アミンに由来する架橋構造が多くなりすぎると、高分子化合物の架橋状態が大きく変化して、負極のバインダーとしての性質が低下することが考えられる。この結果から、その他の多官能アミンに由来する架橋構造を付与する場合には、その架橋構造を一定量以下に制限することが好ましいことが示唆される。
【0171】
<試験13>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンとを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いる場合において、PAAの分子量を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0172】
(実施例1−5〜1−7:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
実施例1の中間組成物について、異なる分子量(重量平均分子量)のPAAを用いることにより、実施例1−5〜1−7の中間組成物を得た。各実施例におけるPAAの分子量は、表13におけるPAAの分子量の欄に示すとおりである。実施例1−5〜1−7については、PAAの分子量が異なる点を除いて、上記実施例1と同様の方法により調製した。各実施例のポリアクリル酸は和光純薬工業株式会社製のものを用いた。
【0173】
(電池評価)
実施例1−5〜1−7の中間組成物を用いて、中間組成物から得られる高分子化合物を負極バインダーとして用いた電極シートを作製した。活物質、及び電極シートの作製方法は、試験5の方法と同じである。また、得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表13に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0174】
【表13】
表13に示すように、PAAの分子量を異ならせた場合においても、電池特性に大きな差は確認されなかった。この結果から、実施例の中間組成物から得られる高分子化合物の負極用バインダーとしての機能発現においては、高分子化合物の架橋構造(例えば、架橋部位のアミン構造、架橋点のアミド構造及びイミド構造)が重要であり、PAAにより構成される鎖状構造の長さは、本質的な影響を与えないことが示唆される。
【0175】
また、分子量9000のPAAを用いて中間組成物を調製しようとしたところ、液中に固体の析出が確認された。この結果から、中間組成物の調製の容易性の観点から、一定分子量以上のPAAを用いることが好ましいことが示唆される。
【0176】
<試験14>
次に、負極用バインダーとしての高分子化合物の分子量を異ならせた場合におけるスラリーの性質の変化及び電池特性の変化について評価した。
【0177】
(実施例14:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、PAAの固形分濃度が7質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液6g(PAAのモノマー換算で5.83mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをNMPに溶解して、50質量%のアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液0.577g(1.47mmol)を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、110℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例14の中間組成物をNMP溶液の状態(固形分比10.8質量%、粘度3000cP)で得た。
【0178】
(実施例15:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量25万のPAAをNMPに溶解して、PAAの固形分濃度が15質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液6g(PAAのモノマー換算で12.5mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをNMPに溶解して、50質量%のアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液1.236g(3.13mmol)を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、110℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例15の中間組成物をNMP溶液の状態(固形分比21質量%、粘度3000cP)で得た。
【0179】
(実施例16:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量10万のPAA水溶液に対して、真空乾燥とアセトンによる溶媒置換により水分量が1質量%以下になるまで水分を除去した。水分を除去したPAAをNMPに溶解して、PAAの固形分濃度が20質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液6g(PAAのモノマー換算で16.7mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをNMPに溶解して、50質量%のアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液1.648g(4.16mmol)を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、110℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例16の中間組成物をNMP溶液の状態(固形分比26.5質量%、粘度3000cP)で得た。
【0180】
(実施例17:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量5万のPAA水溶液に対して、真空乾燥とアセトンによる溶媒置換により水分量が1質量%以下になるまで水分を除去した。水分を除去したPAAをNMPに溶解して、PAAの固形分濃度が24質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液6g(PAAのモノマー換算で20.0mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをNMPに溶解して、50質量%のアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液1.978g(5.0mmol)を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、110℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例17の中間組成物をNMP溶液の状態(固形分比30.4質量%、粘度3000cP)で得た。
【0181】
(実施例18:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量25000のPAAをNMPに溶解して、PAAの固形分濃度が30質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液6g(PAAのモノマー換算で25.0mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをNMPに溶解して、50質量%のアミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、PAA/NMP溶液中にアミン/NMP溶液2.472g(6.25mmol)を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、110℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例18の中間組成物をNMP溶液の状態(固形分比35.8質量%、粘度3000cP)で得た。
【0182】
また、参考例として、負極用バインダーとしてのPAIの分子量を異ならせた場合におけるスラリーの性質の変化及び電池特性の変化について評価した。
(参考例4:PAI)
4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート2.503g(10mmol)を17.5gのNMPに溶解して第1のNMP溶液を調製した。また、別途、無水トリメリット酸クロリド1.92g(10mmol)を13.4gのNMPに溶解して、第2のNMP溶液を調製した。不活性ガス雰囲気下にて、第1のNMP溶液に第2のNMP溶液を加え、90℃にて5時間、加熱処理することにより、分子量20,000のPAIのNMP溶液(固形分比12.5質量%、粘度200cP)を得た。
【0183】
(参考例5:PAI)
4,4’−メチレンジフェニルジイソシアネート2.503g(10mmol)を11.4gのNMPに溶解して第1のNMP溶液を調製した。また、別途、無水トリメリット酸クロリド1.92g(10mmol)を8.75gのNMPに溶解して、第2のNMP溶液を調製した。不活性ガス雰囲気下にて、第1のNMP溶液に第2のNMP溶液を加え、80℃にて3時間、加熱処理することにより、分子量5,000のPAIのNMP溶液(固形分比18質量%、粘度180cP)を得た。
【0184】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料85質量部、アセチレンブラック5質量部、固形分10質量部相当の実施例14〜18及び参考例4、5のNMP溶液を混合するとともに、この混合物に粘度2500cPとなるようにNMPを加えてスラリーを調製した。このスラリーの総固形分比を表14に示す。そして、集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、電解銅箔を80℃にて15分間、ホットプレート上に静置して、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。この電極シートを直径11mmに裁断して電極体とし、これを真空中(減圧下)にて180℃、2時間、加熱処理を行うことにより、負極活物質層を加熱して硬化させた。
【0185】
また、加熱硬化処理の前後において電極体の質量を測定し、熱硬化処理の前後における減少量を求めた。そして、熱硬化処理後の質量の減少分が全て溶剤の揮発によるものであると仮定して、加熱硬化処理前の負極活物質層に含まれる溶剤の残留量を算出した。
【0186】
(電池評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表14に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0187】
【表14】
表14に示すように、試験13の結果と同様に、実施例を用いた試験例46〜50については、PAAの分子量を異ならせた場合においても、電池特性に大きな差は確認されなかった。一方、参考例を用いた試験例51、52については、PAIの分子量の低下にともなって、サイクル特性が低下した。この結果から、実施例の中間組成物から得られる高分子化合物は、PAIと比較して分子量の低下にともなう樹脂強度の低下が起こり難いことが示唆される。
【0188】
また、実施例を用いた試験例46〜50については、PAAの分子量の低下にともなって、加熱硬化処理前の負極活物質層に含まれる溶剤の残留量が低下している。この結果は、PAAの分子量の低下に基づいて高分子化合物が低分子量化することによって、スラリーの調製に必要な溶剤量が抑えられて、スラリーの総固形分比を大きく設定できることに起因すると考えられる。
【0189】
<試験15>
次に、負極用バインダーとして本実施形態の高分子化合物を用いるとともに、負極活物質として上記シリコン材料(試験5参照。)を用いた電極シートについて、負極活物質と負極用バインダーとの配合割合を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0190】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料、天然黒鉛、アセチレンブラック、実施例1の中間組成物のNMP溶液(負極用バインダー)を表15に示す配合割合(質量比)で混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。以降の工程は、試験5の方法と同じである。
【0191】
(電池評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表15に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0192】
【表15】
表15に示すように、負極活物質と負極用バインダーとの配合割合に応じて電池特性が変化することが確認できた。特に、負極活物質/負極用バインダー比率を7.5以下とした場合に、初期効率及びサイクル特性が大きく向上し、負極活物質/負極用バインダー比率を4〜5の範囲とした場合に、サイクル特性が更に大きく向上することが確認できた。
【0193】
<試験16>
次に、負極用バインダーとして本実施形態の高分子化合物を用いた電極シートについて、導電助剤として含有されるアセチレンブラックの粒子径を異ならせた場合におけるスラリーの性質の変化及び電池特性の変化について評価した。
【0194】
(電極シートの作製)
遊星ボールミル(アシザワ社製:LMZ015)のポット内にアセチレンブラックの粉末、ポリビニルピロリドン(分散剤)、NMPを加えて、遊星ボールミルによりアセチレンブラックを粉砕しつつ、これらを混合して、アセチレンブラックのNMP分散液を調製した。このとき、遊星ボールミルによる処理時間を変化させることによって、アセチレンブラックの粒子径が異なる複数のNMP分散液を調製した。各NMP分散液におけるアセチレンブラックの粒子径(D10、D50、D90)を表16に示す。
【0195】
上記シリコン材料72.5質量部、アセチレンブラック13.5質量部相当の上記NMP分散液、実施例1の中間組成物のNMP溶液14質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。以降の工程は、試験5の方法と同じである。調製したスラリーについて、その粘度を測定するとともに、得られた電極シートについて、その電極抵抗を測定した。
【0196】
(電池評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表16に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0197】
【表16】
表16に示すように、アセチレンブラックの粒子径に応じて電池特性が変化することが確認できた。アセチレンブラックの粒子径の大きい試験例61におけるサイクル特性の低下の原因としては、電極の作製に用いるスラリーが、粘度の高い分散性の良くないスラリーとなったことが考えられる。試験例61においては、アセチレンブラックとして、遊星ボールミルによる粉砕を行っていないものを用いている。また、アセチレンブラックの粒子径の小さい試験例65における初期効率の低下、サイクル特性の低下、及び電極抵抗の増大の原因としては、遊星ボールミルによる粉砕が過剰となること(過分散状態となること)によって、アセチレンブラックの構造の崩壊及び新生面の形成が進み、伝導パスの切断や再凝集が生じていることが考えられる。
【0198】
<試験17>
次に、負極用バインダーとして本実施形態の高分子化合物を用いた電極シートについて、導電助剤として含有されるアセチレンブラックと負極用バインダーとの配合割合を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0199】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料、天然黒鉛、アセチレンブラック、実施例1の中間組成物のNMP溶液(負極用バインダー)を表17に示す配合割合(質量比)で混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。以降の工程は、試験5の方法と同じである。アセチレンブラックとしては、試験例63と同じ粒子径のものを用いた。
【0200】
(電池評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表17に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0201】
【表17】
表17に示すように、アセチレンブラックと負極用バインダーとの配合割合に応じて電池特性が変化することが確認できた。特に、アセチレンブラック/負極用バインダー比率を0.5以上とした場合にサイクル特性が大きく向上し、同比率を1.5以下とした場合に初期効率が大きく向上することが確認できた。
【0202】
<試験18>
次に、負極用バインダーとして本実施形態の高分子化合物を用いた電極シートについて、複数の導電助剤を併用した場合の電池特性の変化について評価した。
【0203】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料、天然黒鉛、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、実施例1の中間組成物のNMP溶液(負極用バインダー)を表18に示す配合割合(質量比)で混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。また、上記シリコン材料、天然黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、実施例1の中間組成物のNMP溶液(負極用バインダー)を表19に示す配合割合(質量比)で混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。以降の工程は、試験5の方法と同じである。アセチレンブラックとしては、試験例63と同じ粒子径のものを用いた。
【0204】
(電池評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表18に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0205】
【表18】
表18に示すように、導電助剤として、アセチレンブラックとカーボンナノチューブとを併用した場合にも、電池特性の向上効果が得られることが確認できた。特にアセチレンブラックを単独で用いた場合と比較して、カーボンナノチューブを併用した場合には、サイクル特性が向上することが確認できた。
【0206】
【表19】
表19に示すように、導電助剤として、アセチレンブラックとケッチェンブラックとを併用した場合にも、電池特性の向上効果が得られることが確認できた。特にアセチレンブラックを単独で用いた場合と比較して、ケッチェンブラックを併用した場合には、サイクル特性が向上することが確認できた。
【0207】
<試験19>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンと、多官能カルボン酸とを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合における電池特性を評価した。
【0208】
(実施例19:PAA+1,2,3−プロパントリカルボン酸+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。この溶液に1,2,3−プロパントリカルボン酸を0.38g(2.1mmol)加え、室温にて30分間攪拌することにより、PAA・カルボン酸/NMP溶液を調製した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)を5mlのNMPに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA・カルボン酸/NMP溶液を撹拌しながら、アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例19の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0209】
(実施例20:PAA+メソ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。この溶液にメソ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸を0.5g(2.1mmol)加え、室温にて30分間攪拌することにより、PAA・カルボン酸/NMP溶液を調製した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)を5mlのNMPに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA・カルボン酸/NMP溶液を撹拌しながら、アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例20の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0210】
(実施例21:PAA+トリメリット酸+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。この溶液にトリメリット酸を0.45g(2.1mmol)加え、室温にて30分間攪拌することにより、PAA・カルボン酸/NMP溶液を調製した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)を5mlのNMPに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA・カルボン酸/NMP溶液を撹拌しながら、アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例21の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0211】
(実施例22:PAA+ピロメリット酸+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。この溶液にピロメリット酸を0.54g(2.1mmol)加え、室温にて30分間攪拌することにより、PAA・カルボン酸/NMP溶液を調製した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)を5mlのNMPに溶解して、アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA・カルボン酸/NMP溶液を撹拌しながら、アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例22の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0212】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料70質量部、天然黒鉛15質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例1−2及び実施例19〜22の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。上記シリコン材料は、試験5において用いた、層状ポリシランから形成されたシリコン材料である。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0213】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて180℃、2時間、加熱処理を行うことにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。
【0214】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表20に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0215】
【表20】
表20に示すように、負極用バインダーとして、多官能カルボン酸を縮合させた実施例19〜22を用いた試験例86〜89においても、負極用バインダーとして、実施例1−2を用いた試験例90と同等の電池特性の向上効果が得られた。また、試験例86〜89の結果から、柔軟な鎖状構造からなる多官能カルボン酸を用いた場合(試験例86、87)には、初期効率が向上し、剛直な環状構造を有する多官能カルボン酸を用いた場合(試験例88、89)には、サイクル特性が向上する傾向が確認できた。これらの結果は、多官能カルボン酸由来の架橋構造を付加することで、高分子化合物の特性を制御可能であることを示唆する。
【0216】
<試験20>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンと、多官能カルボン酸とを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合において、多官能カルボン酸の配合割合を異ならせた場合の電池特性の変化について評価した。
【0217】
(実施例20−1〜20−5:PAA+メソ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸+4,4’−ジアミノジフェニルメタン)
実施例20の中間組成物について、多官能カルボン酸の配合量を異ならせて、多官能カルボン酸の配合割合の異なる実施例20−1〜20−5の中間組成物を得た。各実施例における多官能カルボン酸の配合量は、表21における多官能カルボン酸の欄に示すとおりである。実施例20−1〜20−5については、多官能カルボン酸としてのメソ−1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸の配合量が異なる点を除いて、上記実施例20と同様の方法により調製した。
【0218】
(電池評価)
実施例20−1〜20−5の中間組成物を用いて、中間組成物から得られる高分子化合物を負極バインダーとする電極シートを作製した。電極シートの作製方法は、試験19の方法と同じである。また、得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表21に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、並びにリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0219】
【表21】
表21に示すように、多官能カルボン酸の配合量が減少するにしたがって、初期効率が向上する傾向が確認できた。高分子化合物中において、多官能カルボン酸構造に由来する架橋構造が少ない場合、架橋構造の柔軟性が高くなるために、リチウムの吸蔵放出が効率的に行われるようになると考えられる。
【0220】
一方、多官能カルボン酸の配合量が増加するにしたがって、サイクル特性が向上する傾向が確認できた。高分子化合物中において、多官能カルボン酸構造に由来する架橋構造が多い場合、架橋構造が強固になるために、サイクル特性が高くなると考えられる。
【0221】
これらの結果から、多官能カルボン酸に由来する架橋構造を付加する場合には、その架橋構造を一定量以下に制限することが好ましいことが示唆される。
<試験21>
次に、PAAと、上記一般式(1)を満たす構造を有する多官能アミンと、モノアミンとを縮合してなる高分子化合物を負極用バインダーとして用いた場合における電池特性を評価した。
【0222】
(実施例23:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+アニリン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)とアニリン251mg(0.207mmol)を5mlのNMPに溶解して、混合アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、混合アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例23の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0223】
(実施例24:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+アミノフェノール)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)とアミノフェノール226mg(0.207mmol)を5mlのNMPに溶解して、混合アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、混合アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例24の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0224】
(実施例25:PAA+4,4’−ジアミノジフェニルメタン+モルホリン)
重量平均分子量80万のPAAをNMPに溶解して、10質量%のPAA/NMP溶液を調製し、このPAA/NMP溶液60g(PAAのモノマー換算で83.3mmol)を窒素雰囲気下のフラスコ内に分取した。また、別途、4,4’−ジアミノジフェニルメタン4.1g(20.70mmol)とモルホリン180mg(0.207mmol)を5mlのNMPに溶解して、混合アミン/NMP溶液を調製した。フラスコ内のPAA/NMP溶液を撹拌しながら、混合アミン/NMP溶液の全量を滴下し、室温にて30分間撹拌を続けた。その後、ディーン・スターク装置を用いて、130℃にて3時間、加熱処理(予備加熱処理)することにより、実施例25の中間組成物をNMP溶液の状態で得た。
【0225】
(電極シートの作製)
上記シリコン材料70質量部、天然黒鉛15質量部、アセチレンブラック5質量部、実施例1−2及び実施例23〜25の中間組成物のNMP溶液10質量部を混合するとともに、この混合物にNMPを加えてスラリーを調製した。上記シリコン材料は、試験5において用いた、層状ポリシランから形成されたシリコン材料である。集電体としての30μmの電解銅箔の表面に対して、ドクターブレード法を用いてスラリーを膜状に塗布した。そして、スラリー中のNMPを揮発させて除去することにより、電解銅箔上に負極活物質層を形成した。次いで、ロールプレス機を用いて、負極活物質層の厚さが20μmとなるように電解銅箔及び負極活物質層を圧縮することにより、電解銅箔と負極活物質層を強固に密着させて接合した。
【0226】
その後、NMPが除去されて乾燥した状態の負極活物質層に対して、真空中(減圧下)にて180℃、2時間、加熱処理を行うことにより、負極活物質層に含まれる中間組成物を縮合反応させるとともに、負極活物質層を加熱して硬化させた。これにより、架橋構造を有する高分子化合物を負極用バインダーとして含有する電極シートを得た。
【0227】
(電池特性の評価)
得られた電極シートを用いてリチウムイオン二次電池を作製し、そのリチウムイオン二次電池の電池特性を評価した。その結果を表22に示す。リチウムイオン二次電池の作成方法、及びリチウムイオン二次電池の電池特性の評価方法は、上記の方法と同じである。
【0228】
【表22】
表22に示すように、負極用バインダーとして、モノアミンを縮合させた実施例23〜25を用いた試験例96〜98においても、負極用バインダーとして、実施例1−2を用いた試験例90と同等以上の電池特性の向上効果が得られた。特に、モノアミンを縮合させた実施例23〜25を用いた試験例96〜98では、実施例1−2を用いた試験例90よりも高い初期効率を示す傾向が確認できた。この傾向は、以下のメカニズムによるものと考えられる。すなわち、高分子化合物の分子構造内において、カルボキシル基にモノアミンが結合することで、フリーのカルボキシル基が減少して、カルボキシル基の水素結合に起因する高分子化合物の凝集が抑制される。これにより、リチウムイオンの透過性が高められて、リチウムの吸蔵及び放出が効率的に行われる。
【0229】
この結果から、試験2において示した、カルボキシル基/アミノ基比率に基づいて架橋数を調整することのみならず、カルボキシル基にモノアミンを結合させて化学的に終端させ、高分子化合物の水素結合を減少させることによっても、電池特性を制御できることが確認できた。