(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スイッチング素子は、制御端子に制御信号が与えられることにより、前記第3象限での動作で逆方向電圧の大きさが小さくなる電気特性を有する化合物半導体トランジスタである、請求項1に記載のワイヤレス給電装置。
前記出力情報送信回路は、電気信号を光信号に変換して前記出力情報を送信する回路であり、前記出力情報受信回路は、光信号を電気信号に変換して前記出力情報を受信する回路である、請求項7または8に記載のワイヤレス給電装置。
前記受電側整流回路は、前記受電側整流回路の出力部から電力を受けて前記送電側交流電圧発生回路として作用し、前記送電側交流電圧発生回路は、出力部から電力を受けて前記受電側整流回路として作用する、請求項1から14のいずれかに記載のワイヤレス給電装置。
前記送電側共振機構または前記受電側共振機構はインダクタを含み、当該インダクタは、前記送電コイルまたは前記受電コイルのインダクタンス成分のうち、結合に関与しない漏れインダクタンス成分である、請求項1から16のいずれかに記載のワイヤレス給電装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の小型軽量化とともに、スイッチング電源回路の高効率化の市場要求はいっそう高まっている。一般に、スイッチング電源回路の高効率化のため、スイッチング制御の高精度化は重要である。しかし、動作周波数がMHz帯となるような高周波パワーエレクトロニクスと呼ばれる技術分野におけるスイッチング制御技術や、新しい電力用半導体、具体的には化合物(GaN:ガリウムナイトライド、GaAs:ガリウムヒ素、SiC:シリコンカーバイド)半導体や特殊な電力用半導体素子などを用いた場合において、高い電力変換効率を得るための高度なスイッチング制御技術については、ほとんど明らかになっていない。たとえば、ワイヤレス給電装置において電力用GaN半導体を用いた場合に、どのようにデッドタイムを調整すれば、スイッチング素子における導通損失やスイッチング損失を低減して、スイッチング素子の発熱を抑制し、装置における電力変換効率を高めることができるかという技術については、これまでほとんど明らかにされていない。特に、化合物半導体をスイッチング素子として用いた場合に、一般的なシリコン(Si:シリコン)半導体と異なる電流・電圧特性をどのように活かせば高い電力変換効率が得られるか、という技術については、ほとんど明らかではない。送電装置から受電装置へ、空間を超えて電力を給電するワイヤレス給電技術については、高効率化、小型軽量化の要求は高く、高い電力変換効率を得るためのスイッチング素子の制御技術を開発することは、科学技術の発展に寄与する重要な技術になっている。
【0005】
本発明の目的は、電力用半導体素子が有する固有の電気的な電流・電圧特性を積極的に活用して、電力変換効率をより一層高めたワイヤレス給電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のワイヤレス給電装置は次のように構成される。
【0007】
(1)送電装置から受電装置へワイヤレスで電力を給電するワイヤレス給電装置であって、
前記送電装
置の送電コイルおよび前記受電装
置の受電コイルを備える(前記送電コイルと前記受電コイルとの間で相互インダクタンスを介した磁界結合または相互キャパシタンスを介した電界結合とが混合した電磁界共鳴回路を構成する)電磁界結合回路と、
スイッチング素子、等価的なダイオード、およびキャパシタの並列接続回路で構成され、前記送電コイルに電気的に接続されたスイッチング回路を備え、該スイッチング回路のスイッチングにより、入力される直流電圧から
前記送電コイルに交流電圧を発生する送電側交流電圧発生回路と、
前記送電側交流電圧発生回路の
前記スイッチング素子を、デッドタイムを挟んで交互にオン/オフすることにより、前記送電側交流電圧発生回路から方形波状または台形波状の交流電圧を発生させるスイッチング制御回路と、
前記受電コイルに発生する交流電圧を直流電圧に整流する受電側整流回路と、
送電側に構成され、第1共振キャパシタを含む送電側共振機構と、
受電側に構成され、第2共振キャパシタを含む受電側共振機構と、
を備え、
前記電磁界結合回路は、前記送電側共振機構と前記受電側共振機構との間で電界エネルギーまたは磁界エネルギーを相互にやり取りし、
前記電磁界結合回路、前記送電側共振機構、および前記受電側共振機構は、合わせて複共振回路を構成し、
前記スイッチング制御回路は、
前記複共振回路のインピーダンスが誘導性となるスイッチング周波数で、(前記複共振回路に流入する電流が、前記送電側交流電圧発生回路から発生する交流電圧よりも遅れる正弦波状の共振電流波形となって、前記スイッチング素子のオン期間およびオフ期間の両期間に、前記電磁界結合回路を介して送電側から受電側へ電力を送るように、)前記送電側交流電圧発生回路の
前記スイッチング素子をスイッチングし、
前記スイッチング素子の電流電圧特性の第3象限での動作において、前記スイッチング素子の制御端子に制御信号を与えて前記スイッチング素子を導通させ、
前記スイッチング回路の両端電圧が変化する転流期間をtc、前記第3象限での動作となる期間をta、前記デッドタイムをtdでそれぞれ表すと、tc≦td<tc+taを満たすように前記デッドタイムを定めて、前記スイッチング素子における導通損失とスイッチング損失をともに低減する、ことを特徴とする。
【0008】
(2)前記スイッチング素子は、制御端子に制御信号が与えられることにより、前記第3象限での動作で逆方向電圧の大きさが小さくなる電気特性を有する化合物半導体トランジスタであることが好ましい。このことにより、次のような効果を奏する。
【0009】
・化合物半導体トランジスタの電流電圧特性における第3象限動作での電力損失を大きく低減することができる。
【0010】
・化合物半導体の有する高速動作の特性を活かしながら、化合物半導体トランジスタにおける導通損失とスイッチング損失の双方を低減できる。
【0011】
・順方向電圧降下の小さい逆並列ダイオードを接続することが不要となり、部品数を削減できる。そのため、ワイヤレス給電装置の小型化が可能となる。
【0012】
・一般に、化合物半導体トランジスタではゲート充電電荷量が小さいことから、化合物半導体トランジスタを駆動するスイッチング制御回路の電力損失を低減することができる。
【0013】
(3)前記送電側共振機構または前記受電側共振機構は構造的に構成されたものであることが好ましい。このことにより、次のような効果を奏する。
【0014】
・共振機構をシンプルに構成することができ、部品数の削減できる。
【0015】
・ワイヤレス給電システムの小型化を図ることができる。
【0016】
(4)前記送電側交流電圧発生回路と前記送電側共振機構との間に、インダクタ要素(Lfp)およびキャパシタ要素(Cfp)を含む第1フィルタ、または前記受電側共振機構と前記
受電側整流回路との間に、インダクタ要素(Lfs)およびキャパシタ要素(Cfs)を含む第2フィルタを備えることが好ましい。このことにより、次のような効果を奏する。
【0017】
・フィルタを備えることにより共振機構に流れる電流波形の高調波成分を低減できる。
【0018】
・EMI(電磁干渉)ノイズを低減することで他の電子機器とのEMC(電磁両立性)を高められる。
【0019】
・無線通信機器などとの混信を抑制することができる。
【0020】
・フィルタの特性インピーダンスを調整することでインピーダンスを変換し、負荷に適した電流と電圧を供給することができる。
【0021】
(5)前記送電コイルおよび前記受電コイルは空芯のコイル(インダクタ)であることが好ましい。このことにより、電磁共鳴現象を用いた電磁界結合を形成して、高効率でワイヤレス給電できる。また、鉄心が不要になり、電力給電距離を長くできる。
【0022】
(6)前記電磁界結合回路は、前記第1共振キャパシタと前記第2共振キャパシタとの電界結合により
前記送電
装置から
前記受電
装置へ電力を送るものであることが好ましい。この構成により、前記第1の共振キャパシタと前記第2の共振キャパシタとの間で、静電誘導現象を用いた電界結合を形成して、高効率でワイヤレス給電できる。ワイヤレス部分において、電界結合を積極的に活用することで磁界の空間への広がりを抑制でき、磁界結合において利用される磁性体、もしくは送電装置または受電装置において不要輻射対策、電磁ノイズ対策、リップル低減対策に必要とされる磁性体を小さくする、または無くすことができる。これらにより、送電装置または受電装置を小型化することができる。また、広い面積を有する電極を用いることで、広い面積での給電などが可能となり、ワイヤレス給電装置の薄型化が可能となる。
【0023】
(7)前記受電装置は、前記受
電側整流回路の出力に関する出力情報を検出して前記送電装
置に前記出力情報を伝送する出力情報送信回路を備え、
前記送電装置は、前記出力情報を受信する出力情報受信回路と、前記出力情報に応じて前記送電側交流電圧発生回路を制御して給電電力を制御する給電電力制御回路とを備えることが好ましい。このことにより、給電電力を制御することで負荷に適した電圧、電流を供給することができる。
【0024】
(8)前記出力情報送信回路は、無線通信で前記出力情報を送信する回路であり、前記出力情報受信回路は、無線通信で前記出力情報を受信する回路であることが好ましい。このことにより、電気的に絶縁状態で、送信側で出力電力を調整することができる。
【0025】
(9)前記出力情報送信回路は、電気信号を光信号に変換して前記出力情報を送信する回路であり、前記出力情報受信回路は、光信号を電気信号に変換して前記出力情報を受信する回路であることが好ましい。このことにより、電気的に絶縁状態で、送信側で出力電力を調整することができる。
【0026】
(10)例えば、前記スイッチング回路はハイサイドスイッチング回路とローサイドスイッチング回路とを備え、
スイッチング制御回路は、例えば前記ハイサイドスイッチング回路と前記ローサイドスイッチング回路を交互にオン/オフするスイッチング周波数を変化させる周波数変調PFM(Pulse Frequency Modulation)制御を用いる。
【0027】
上記構成により、給電電力を制御することが可能となり、出力電力を調整することができる。
【0028】
(11)例えば、前記スイッチング回路はハイサイドスイッチング回路とローサイドスイッチング回路を備え、
スイッチング制御回路は、例えば前記ハイサイドスイッチング回路と前記ローサイドスイッチング回路を一定のスイッチング周波数で交互にオン/オフして、前記ハイサイドスイッチング回路と前記ローサイドスイッチング回路の導通期間の比率を制御するオン期間比変調ORM(On-periods Ratio Modulation)制御を用いる。
【0029】
上記構成により、給電電力を制御することが可能となり、出力電力を調整することができる。また、固定のスイッチング周波数を用いることにより利用周波数帯域を限定することができEMC対策も容易となる。また、出力を制御する制御性も改善できる。
【0030】
(12)前記受電側整流回路はスイッチング素子を備えた同期整流回路であることが好ましい。これにより、受電側の整流損失を低減でき、ワイヤレス給電装置の小型化が可能となる。
【0031】
(13)前記受電装置は、前記同期整流回路の動作周波数(スイッチング周波数)を制御する動作周波数制御回路を備えることが好ましい。これにより、送電側ではない受電側で、給電電力の調整が可能となる。
【0032】
(14)前記受電装置は、該受電装
置の回路を制御する受電装置側制御回路を備え、該受電装置側制御回路は、前記受電装置が受電した電力によって動作することが好ましい。これにより、受電側に電源を備える必要がなく、ワイヤレス給電装置の小型軽量化を図ることができる。
【0033】
(15)前記受電側整流回路は、前記受電側整流回路の出力部から電力を受けて前記送電側交流電圧発生回路として作用し、前記送電側交流電圧発生回路は、出力部から電力を受けて前記受電側整流回路として作用すること、すなわち双方向に給電されることが好ましい。このことにより、双方向の給電が可能となり、受電装置側から送電装置側へ電力を給電したり、受電装置側を中継点として、受電した電力をさらに別のところへ送電したりすることもできる。また、中継システムとしても利用可能で、本装置を複数用意して中継することで、長距離の電力給電が可能となる。
【0034】
(16)
前記電磁界結合回路は、前記送電コイルと前記受電コイルとの間で相互インダクタンスを介した磁界結合と相互キャパシタンスを介した電界結合との混合である電磁界共鳴をし、
前記相互インダクタンスは、前記送電コイルと前記受電コイルとの間に形成される磁界結合により生じる等価的な励磁インダクタンスであることが好ましい。これにより、相互インダクタの部品が不要、または小さくすることができ、電力伝送システム装置の小型軽量化を図ることができる。
【0035】
(17)前記送電側共振機構または前記受電側共振機構はインダクタを含み、当該インダクタは、前記送電コイルまたは前記受電コイルのインダクタンス成分のうち、結合に関与しない漏れインダクタンス成分であることが好ましい。これにより、共振インダクタの部品が不要になり、ワイヤレス給電装置の小型軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、次のような効果を奏する。
【0037】
(a)スイッチング素子における導通損失とスイッチング損失の双方を低減することができるので、スイッチング素子における発熱を大きく抑制できる。
【0038】
(b)スイッチング素子における導通損失とスイッチング損失の双方を低減できるので、ワイヤレス給電システムの電力伝送効率を高めることができる。
【0039】
(c)デッドタイムを調整することで、スイッチング素子におけるブリッジ短絡を防止し、信頼性の高いワイヤレス給電装置を構築できる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付す。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点について説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0042】
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態のワイヤレス給電装置101の回路図である。
図1(B)は
図1(A)の一部の等価回路図である。
【0043】
ワイヤレス給電装置101は送電コイルnpを備える送電装置PSUと受電コイルnsを備える受電装置PRUとで構成されている。このワイヤレス給電装置101は、送電装置PSUの入力部に入力電源Viを備え、受電装置PRUの負荷Roへ安定した直流のエネルギーを給電するシステムである。
【0044】
送電装置PSUは、送電コイルnpと、共振キャパシタCrと、スイッチング回路S1,S2と、を含む送電側共振機構を備えている。
【0045】
スイッチング回路S1は、スイッチング素子Q1、逆並列ダイオードDds1および寄生容量Cds1の並列接続回路で構成されている。同様に、スイッチング回路S2は、スイッチング素子Q2、逆並列ダイオードDds2および寄生容量Cds2の並列接続回路で構成されている。以下、逆並列ダイオード(寄生ダイオード)を単に「ダイオード」という。
【0046】
また、送電装置PSUはスイッチング素子Q1,Q2を制御するスイッチング制御回路10を備えている。
【0047】
スイッチング制御回路10は、スイッチング回路S1,S2を所定のスイッチング周波数で交互にオンオフさせることにより、直流電圧を送電側共振機構に断続的に与えて送電側共振機構に共振電流を発生させる。例えば、国際的なISM(Industrial, Scientific and Medical)バンドである6.78MHzでスイッチング動作させる。
【0048】
この例では、送電側交流電圧発生回路は2つのスイッチング回路S1,S2を備えたハーフブリッジ回路を構成している。
【0049】
受電装置PRUは、受電コイルnsと、共振キャパシタCrsと、スイッチング回路S3,S4と、を含む受電側共振機構と、キャパシタCoとを備えている。
【0050】
スイッチング回路S3は、スイッチング素子Q3、ダイオードDds3およびキャパシタCds3の並列接続回路で構成されている。同様に、スイッチング回路S4は、スイッチング素子Q4、ダイオードDds4およびキャパシタCds4の並列接続回路で構成されている。
【0051】
また、受電装置PRUは、スイッチング素子Q3,Q4を制御するスイッチング制御回路20を備えている。
【0052】
スイッチング制御回路20は受電コイルnsに流れる電流を検出し、その極性反転に同期してスイッチ素子Q3,Q4を交互にオンオフする。これにより、受電側共振機構に流れる共振電流が電流の流れる方向の変化に同期して整流されて、負荷に電流が供給される。これらのスイッチング回路S3,S4およびスイッチング制御回路20で受電側共振機構が構成されている。
【0053】
送電側のスイッチング制御回路10は入力電圧Viを電圧源にして動作する。受電側のスイッチング制御回路20は、受電側共振機構に発生する電圧、負荷への出力電圧、または別途設けられた電力供給源などを電源にして動作する。
【0054】
図1(B)は送電コイルnpおよび受電コイルnsにより構成される回路の等価回路図である。送電コイルnpおよび受電コイルnsはいずれも、理想トランス、相互インダクタンスおよび漏れインダクタンスによる等価回路で表している。すなわち、送電コイルnpは相互インダクタンスLmおよび漏れインダクタンスLrで表される。同様に、受電コイルnsは相互インダクタンスLmsおよび漏れインダクタンスLrsで表される。なお、
図1(B)では明示していないが、送電コイルnpと受電コイルnsとの間には等価的な相互キャパシタンスCm1,Cm2も生じる。
【0055】
上記送電コイルnpと受電コイルnsとは、この間に等価的に形成される相互インダクタンスを介する磁界結合、および相互キャパシタンスCm1,Cm2を介する電界結合とが混合して電磁界共鳴回路が構成される。この電磁界共鳴現象により、送電装置PSUから受電装置PRUへワイヤレス給電される。この「電磁界共鳴回路」は本発明に係る「電磁界結合回路」の例である。
【0056】
一方、送電装置から送電されずに反射したエネルギー(無効電力)は送電側共振機構に共振エネルギーとして保存される。また、受電装置が受電したエネルギーのうち出力に供給されずに反射したエネルギー(無効電力)も受電側共振機構に共振エネルギーとして保存される。このように入射電力に対して透過電力とならない反射電力をエネルギー損失とすることなく、共振エネルギーとして保存することができる。
【0057】
なお、送電コイルnpと受電コイルnsとの間に形成される、磁界結合による等価的なインダクタンスとなる励磁インダクタンスを用いることで、相互インダクタLm,Lmsの部品が不要、または小さくすることができ、電力伝送システム装置の小型軽量化を図ることができる。
【0058】
また、送電コイルnpもしくは受電コイルnsのインダクタンス成分のうち、結合に関与しない漏れインダクタンスLr,Lrsを、送電側共振機構もしくは受電側共振機構を構成するインダクタとして用いることで、共振インダクタの部品が不要、または小さくすることができ、電力伝送システム装置の小型軽量化を図ることができる。
【0059】
図2(A)は、
図1に示したワイヤレス給電装置101のエネルギー変換動作について示す、各部の電圧電流波形図である。この例は、スイッチング素子が最適ゼロ電圧スイッチング(optimum ZVS)動作を行う場合でのスイッチング動作波形である。
図2(B)は従来のワイヤレス給電装置のスイッチングタイミングの例を示す図であり、
図2(A)に対応させて表す図である。
【0060】
ワイヤレス給電装置101の各タイミングでの動作は次のとおりである。
【0061】
本動作では、送電装置PSUの動作状態は、等価回路ごとにオン期間、オフ期間、2つの転流期間の4つの状態に区分できる。スイッチング素子Q1,Q2のゲート・ソース間電圧を電圧Vgs1,Vgs2、ドレイン・ソース間電圧を電圧Vds1,Vds2で表す。電磁界結合を含めた複共振回路の共鳴周波数frは、6.78MHzよりも僅かに低く設計し、リアクタンスは十分小さい誘導性とする。スイッチング素子Q1、Q2は、両方がオフとなる短いデットタイムtdを挟んで交互にオン/オフ動作を行う。2つのスイッチング素子Q1,Q2がオフとなるデッドタイムtdにおいて、共振電流irの遅れ電流を用いて2つのスイッチング素子Q1,Q2の寄生容量Cdsを充放電して転流を行う。ZVS動作は、転流期間tcの後、寄生ダイオードの導通期間taにおいてスイッチング素子Q1,Q2をターンオンして実現する。1スイッチング周期における各状態でのエネルギー変換動作を次に示す。
【0062】
(1) 状態1 時刻t1〜t2
送電側では、状態1において、スイッチング素子Q1は見かけ上、導通している。例えば、スイッチング素子Q1がGaN FETの場合は、スイッチング素子Q1の両端に逆方向の電圧-Vds1が与えられてゲート・ドレイン間に電圧(Vgd1)が与えられる。スイッチング素子Q1は、しきい値電圧をオフセット電圧とする逆導通モードとなり、逆並列ダイオードのように動作する。スイッチング素子 Q1の両端の等価的なダイオードDds1は導通し、この期間においてスイッチング素子Q1をターンオンすることでZVS動作が行われる。送電コイルnpには共振電流irが流れ、キャパシタCrは充電される。
【0063】
図2(A)において、期間TQ1は、スイッチング素子Q1のドレイン・ソース間電圧(Vds1)が僅かに負電圧になる期間であり、且つゲート・ソース間電圧(Vgs1)が印加されて導通する期間である。すなわちスイッチング素子Q1の第3象限での動作期間である。このように、スイッチング素子Q1のターンオン時に、第3象限でゲート・ソース間電圧(Vgs1)を印加することで、その期間でのスイッチング素子Q1のドレイン・ソース間に掛かる逆方向の電圧は低くなり、導通損失とスイッチング損失が低減される。
【0064】
受電側では、ダイオードD3またはD4は導通し、受電コイルnsに共振電流irsが流れる。ダイオードD3が導通する際は、キャパシタCrsは放電し、受電コイルnsに誘起された電圧とキャパシタCrsの両端電圧とが加算されて、負荷Roに電圧(電力)が供給される。ダイオードD4が導通する際は、キャパシタCrsは充電される。負荷RoにはキャパシタCoの電圧が印加されて電力が供給される。スイッチング素子Q1がターンオフすると状態2となる。
【0065】
(2) 状態2 時刻t2〜t3
送電コイルnpに流れていた共振電流irによりスイッチング素子Q1の両端キャパシタCds1は充電され、スイッチング素子Q2の両端キャパシタCds2は放電される。電圧Vds1が電圧Vi、電圧Vds2が0Vになると状態3となる。
【0066】
(3) 状態3 時刻t3〜t4
送電側では、状態3において、スイッチング素子Q2は導通している。例えば、スイッチング素子Q2がGaN FETの場合は、スイッチング素子Q2の両端に逆方向の電圧-Vds2が与えられてゲート・ドレイン間に電圧(Vgd2)が与えられる。スイッチング素子Q2は、しきい値電圧をオフセット電圧とする逆導通モードとなり、逆並列ダイオードのように動作する。スイッチング素子Q2の両端の等価的なダイオードDds2は導通し、この期間においてスイッチング素子Q2をターンオンすることでZVS動作が行われる。送電コイルnpには共振電流irが流れ、キャパシタCrは放電される。
【0067】
図2(A)において、期間TQ2は、スイッチング素子Q2のドレイン・ソース間電圧(Vds2)が僅かに負電圧になる期間であり、且つゲート・ソース間電圧(Vgs2)が印加されて導通する期間である。すなわちスイッチング素子Q2の第3象限での動作期間である。このように、スイッチング素子Q2のターンオン時に、第3象限でゲート・ソース間電圧(Vgs2)を印加することで、その期間でのスイッチング素子Q2のドレイン・ソース間に掛かる逆方向の電圧は低くなり、導通損失とスイッチング損失が低減される。
【0068】
受電側では、ダイオードD3またはD4は導通し、受電コイルnsに共振電流irsが流れる。ダイオードD3が導通する際は、キャパシタCrsは放電し、コイルnsに誘起された電圧とキャパシタCrsの両端電圧とが加算されて、負荷Roに電力が供給される。ダイオードD4が導通する際は、キャパシタCrsは充電される。負荷RoにはキャパシタCoの電圧が印加されて電力が供給される。スイッチング素子Q2がターンオフすると状態4となる。
【0069】
(4) 状態4 時刻t4〜t1
送電コイルnpに流れていた共振電流irによりスイッチング素子Q1の両端キャパシタCds1は放電され、スイッチング素子Q2の両端キャパシタCds2は充電される。電圧Vds1が0V、電圧Vds2が電圧Viになると、再び状態1となる。以降、状態1〜4を周期的に繰り返す。
【0070】
受電回路では、ダイオードD3またはD4が導通して順方向に電流が流れる。周期的な定常動作では、電流ir、irsの波形は共鳴現象によりほぼ正弦波となる。
【0071】
一方、従来のワイヤレス給電装置においては、
図2(B)に示すように、第3象限動作ではないタイミング(期間ta以外のタイミング)でターンオンしている。そのため、スイッチング素子Q1,Q2のターンオン時に、第3象限でゲート・ソース間電圧(Vgs1,Vgs2)が印加されず、その期間でのスイッチング素子Q1,Q2のドレイン・ソース間に掛かる逆方向の電圧は高く、導通損失とスイッチング損失が生じる。第3象限動作およびその期間での損失については後に述べる。
【0072】
スイッチング制御による給電電力の制御として、幾つかの形態をとることができる。その一つは周波数制御PFM(Pulse Frequency Modulation)である。複共振回路の合成インピーダンスが周波数によって変化することを利用して、スイッチング周波数を変化させることにより、共鳴電流の振幅を変化させて給電電力を制御することができ、電子機器の要求に応じた電力を供給して適切に動作させることができる。
【0073】
また、別のスイッチング制御は、スイッチング素子Q2(ハイサイドスイッチング回路)とスイッチング素子Q1(ローサイドスイッチング回路)を一定のスイッチング周波数で交互にオン/オフして、ハイサイドスイッチング回路とローサイドスイッチング回路の導通期間の比率を制御するオン期間比制御ORM(On-periods Ratio Modulation)である。ORMによれば、スイッチング周波数を一定にして動作させる場合においては、2つのスイッチング回路S1,S2の導通期間の比率となるオン期間比Daを制御する。オン期間比制御では、スイッチング周期に対する第1のスイッチング回路S1の導通期間の比率である、オン時比率DがD=0.5に近づくほど出力電力は増加する。オン期間比制御によれば、固定のスイッチング周波数を用いることにより利用周波数帯域を限定できるので、EMC対策も容易となる。また、出力を制御する制御性も改善できる。
【0074】
なお、受電装置PRU側の同期整流回路の動作周波数を制御することで、送電装置PSU側ではなく、受電装置PRU側で受電電力を調整することもできる。送電装置PSU側での動作周波数に対して、同期して同期整流回路を動作させることでより大きな電力を得ることができる。一方、送電装置PSU側での動作周波数に対して、同期をずらせて同期整流回路を動作させることで受電電力を抑制して小さな電力を扱うことができる。
【0075】
本実施形態のワイヤレス給電装置101は、送電装置PSUと受電装置PRUは同様構成の回路であり、対称性があるので、双方向電力伝送システム装置として用いることができる。すなわち、受電側整流回路(S3,S4)は、出力部から電力を受けて、スイッチングにより送電側交流電圧発生回路として作用し、送電側交流電圧発生回路(S1,S2)は、出力部から電力を受けてスイッチングにより受電側整流回路として作用する。
【0076】
このことにより、双方向の給電が可能となり、受電装置PRU側から送電装置PSU側へ電力を給電したり、受電装置PRU側を中継点として、受電した電力をさらに別のところへ送電したりすることもできる。また、中継システムとしても利用可能で、本装置を複数用意して中継することで、長距離の電力給電が可能となる。
【0077】
本実施形態の特徴的な構成・作用は次の(A)(B)(C)とおりである。
【0078】
(A)
図1に示したスイッチング制御回路は、複共振回路に対してインピーダンスが誘導性となるスイッチング周波数で、送電側交流電圧発生回路のスイッチング素子をスイッチングする。すなわち、複共振回路(電磁界結合回路、送電側共振機構、および受電側共振機構による回路)に流入する電流irが、送電側交流電圧発生回路(S1,S2)から発生する交流電圧よりも遅れる正弦波状の共振電流波形となって、スイッチング素子Q1,Q2のオン期間およびオフ期間の両期間に、電磁界結合回路を介して送電側から受電側へ電力を送る。このように、送電側交流電圧発生回路から負荷側を視たインピーダンスは誘導性のリアクタンスとなる。このことにより、スイッチング期間において「遅れ共振電流」を発生させ、スイッチング回路S1,S2の並列キャパシタCds1,Cds2の充電または放電を行う転流(commutation)が可能となる。
【0079】
(B)スイッチング制御回路10は、スイッチング素子Q1,Q2の電流電圧特性の第3象限での動作において、制御信号を与えてスイッチング素子を導通させる。ここで、電流電圧特性の4つの象限は次のとおりである。
【0080】
________________
電流 電圧
________________
第1象限 正 正
第2象限 正 負
第3象限 負 負
第4象限 負 正
_______________
図2において、時刻t3でスイッチング素子Q2のゲート・ソース間に制御電圧Vgs2を正電圧にしてスイッチング素子Q2をターンオンさせる。この時刻t3から始まる期間taが、スイッチング素子Q2の第3象限での動作に相当する。また、時刻t1でスイッチング素子Q1のゲート・ソース間に制御電圧Vgs1を正電圧にしてスイッチング素子Q1をターンオンさせる。この時刻t1から始まる期間taが、スイッチング素子Q1の第3象限での動作に相当する。
【0081】
このように、スイッチング制御回路10は、スイッチング素子Q1,Q2の第3象限動作において、制御信号を与えてスイッチング素子を導通させることにより、スイッチング素子Q1,Q2における導通損失が低減される。
【0082】
(C)デッドタイムtdは、スイッチング素子Q1,Q2の両端電圧が変化する転流期間tcと、電流電圧特性の第3象限での動作期間taとを合わせた時間(tc+ta)よりも小さい。更には、tc≦td<(tc+ta)を満たしながら、転流期間tcに十分に近い値となるように定められている。このことにより、スイッチング素子Q1,Q2における導通損失とスイッチング損失の双方が低減される。
【0083】
図3は、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4として用いる化合物半導体の構成を示す断面図である。この素子は、GaN FETである。特に、エンハンスメントモードのガリウムナイトライド(窒化ガリウム)をベースにした電力用トランジスタである。このトランジスタは、小さなゲート電極16の領域とダイ領域をもつ横型構造である。Si基板9上に窒化アルミニウム絶縁層11が形成され、その上部にGaN層12が形成されている。このGaN層の表面にAlGaN電子生成層14が形成されていて、このAlGaN電子生成層14の下面に2DEG(二次元電子ガス層)13が形成されている。AlGaN電子生成層14とソース電極17との間には誘電体層15が形成されている。ソース電極17とドレイン電極18は、2DEG(二次元電子ガス層)13を伴って接触するように、AlGaN層14の上部に突き抜ける。これによりソースとドレインとの間で、2DEGにおける電子溜りが消失するまでの期間、短絡回路を形成する。ゲート電極16はAlGaN層の上部につくられ、ゲート構造の下にはキャリア不在層が形成され、ここには電子は存在しない。その結果、ノーマリオフ、すなわちエンハンスメントモードのデバイスとなっている。
【0084】
GaN FETの電気特性は、Si MOSFETと非常によく似ている。GaN FETは、Si MOSFETのような寄生ダイオードはなく、異なるメカニズムによって逆方向の導通を実現する。GaN FETのドレイン・ソース間に逆方向の電圧-Vdsが与えられると、ゲート・ドレイン間に電圧Vgdが与えられる。GaN FETは、しきい値電圧をオフセット電圧とする逆導通となり、逆並列ダイオードのように動作する。GaN FETの両端に等価的なダイオードを想定することができる。多数キャリアのみがGaN半導体の導通に関係し、一般的なダイオードのような、「逆回復」の現象はない。等価的な内部ダイオードの順方向電圧は、Si MOSFETが有するダイオードの順方向電圧降下よりも高く、Siよりも僅かに高い順方向電圧降下を有するショットキー・ダイオードのように動作する。少数キャリアはなく、逆回復電荷量の値は0となる。そのため、逆回復特性による大きな電力損失は生じない。また、ゲート容量や出力容量は小さく、高速スイッチング動作が可能である。小型のパッケージを用いることで、寄生容量や寄生インダクタンスを小さくすることも可能である。
【0085】
図4(A)は化合物半導体トランジスタであるGaN FETの、ドレイン電流idとドレイン電圧Vdsとの電流電圧特性をゲート電圧Vgsごとに示す代表的な図である。
図4(A)において、横軸はドレイン電圧Vds、縦軸はドレイン電流idであり、4つの象限が表れている。第3象限の動作において、ゲート電圧が与えられていないVgs=0Vの状態では、小さなドレイン電流idにおいても、大きな逆方向ドレイン電圧(-Vds)が発生している。このため、電力損失(id×Vds)は非常に大きくなる。
【0086】
本実施形態においては、第3象限動作において、ゲート電圧(例えばVgs=5V)を与えることにより、逆方向ドレイン電圧Vdsの大きさを小さくできる。このため、電力損失(id×Vds)を大きく低減できる。
【0087】
また、
図4(B)は、別の化合物半導体トランジスタのドレイン電流idとドレイン電圧Vdsとの電流電圧特性をゲート電圧Vgsごとに示す代表的な図である。
図4(B)に示す第3象限の動作において、ゲート電圧が与えられていないVgs=0Vの状態に対して、ゲート電圧が負電位となると、さらに大きな逆方向ドレイン電圧(-Vds)が発生していることが分かる。このため、ゲート電圧Vgsが0Vより小さな負電位となると電力損失(id×Vds)は非常に大きくなる。
【0088】
本実施形態においては、第3象限動作において、ゲート電圧を負電圧とならないように制御することで、第3象限動作における電力損失(id×Vds)を低減でき、ゲート電圧(例えばVgs=+6V)を与えることにより、逆方向ドレイン電圧Vdsの大きさを小さくして、電力損失(id×Vds)を低減することができる。
【0089】
また、本実施形態によれば、化合物半導体トランジスタを用いることにより、さらに次のような効果を奏する。
【0090】
・化合物半導体トランジスタの有する高速動作の特性を活かしながら、化合物半導体トランジスタにおける導通損失とスイッチング損失の双方を低減できる。
【0091】
・順方向電圧降下の小さい逆並列ダイオードを接続することが不要となり、部品数を削減できる。このことにより、ワイヤレス給電装置の小型化が可能となる。
【0092】
・一般に、化合物半導体トランジスタでは、ゲート充電電荷量が小さいことから、化合物半導体を駆動するスイッチング制御回路の電力損失を低減できる。
【0093】
図3に示した構造のトランジスタは、Si MOSFETのような寄生ダイオードはないが、異なるメカニズムによって逆方向の導通を実現する。ドレイン・ソース間に逆電圧が与えられると、ゲート・ドレイン間にも電圧Vgdが与えられる。結果的に、しきい値電圧をオフセット電圧とする逆導通が可能となり、逆並列接続したダイオードのように動作する、等価的なダイオードを想定することができる。但し、第3象限動作における逆方向の電圧降下-Vdsは、Si MOSFETの寄生ダイオードの電圧降下よりも大きい値となる。Vgs=0Vの場合、小さな電流でも、オフセット電圧を有するために、-1.8V程度と大きい。最適ZVS動作を除くZVS動作では、等価的な寄生ダイオードが導通して導通損が発生する。既に述べたように、この導通損を低減するには、転流期間を確保する範囲でデッドタイムを最小にして電圧Vgsを印加し、同期整流動作のようにオンして、オン抵抗Ronを小さくする。
【0094】
tc≒tr≒tf≦td≦(tc+ta) …(1)
式1において、期間tc = td とすることで、最適ZVS動作に準ずる低い導通損失動作が実現できる。電圧Vgs=2〜3V以上とすることにより、逆方向の電圧降下-Vdsは、第1象限動作と同様に十分に小さな値にできる。
【0095】
図5(A)は、負荷に対する電力変換効率の関係を示す図であり、
図5(B)は入力電圧に対する電力変換効率の関係を示す図である。
図5(A)は、デッドタイムtdを0〜16nsに調整し、入力電圧Vi = 15Vとして負荷抵抗Ro = 90〜160Ωに変化させた場合の図であり、
図5(B)は、負荷抵抗Ro = 110Ωとして入力電圧Vi = 5〜17Vに変化させた場合の図である。いずれも、距離dx = 3mmの直流共鳴システムにおいて、最適ZVS動作に準じた動作とした。
【0096】
最小のスイッチング期間となる転流期間tcは10ns程度である。
図5(A)(B)に表れているように、デッドタイムtd = 10nsに設定したとき、電力効率は最も高い。このように、転流期間tcとデッドタイムtd をほぼ等しくしたとき、最適ZVS動作に準じた動作が実現できる。
【0097】
一方、デッドタイムtd = 10ns未満では、FETは能動領域動作となって電流と電圧の重なりが発生し、十分なZVS動作が実現できないため、スイッチング損失は増加する。またtd = 10ns以上では、FETにおいて電流電圧特性の第3象限での動作において、FETの制御端子に制御信号を与えてFETを導通させていない期間が発生して導通損失は増加する。また、十分なFETのオン期間、すなわち、導通期間が確保できなくなり、共振電流は小さくなり、出力電力が小さくなって、電力変換効率は低下する。
【0098】
図6(A)(B)は、スイッチング素子にGaN FETを用いた場合とSi MOSFETを用いた場合とでの電力変換効率を比較する図である。
図6(A)は、入力電圧Vi = 15Vとして負荷抵抗Ro = 20〜160Ωに変化させた場合の図であり、
図6(B)は、負荷抵抗Ro = 110Ωとして入力電圧をVi = 5〜17Vに変化させた場合の図である。いずれも、GaN FETとSi MOSFETとについて、距離dx = 3mmの直流共鳴システムにおいて、最適ZVS動作に準じた動作とした。
【0099】
図6(A)より、Si MOSFETでは、Vi = 15V、Ro = 40Ωにて、最高電力変換効率87.1%、出力4.01Wを得ている。これに対し、GaN FETでは、td = 10nsのデッドタイムに調整して、負荷Ro = 110Ωにて、圧倒的に高効率な電力変換効率89.5%、出力11.1Wを達成している。
【0100】
図6(B)より、Si MOSFETでは、Vi = 7Vにて、最高DC-DC電力効率85.1%、出力2.01Wであるのに対し、GaN FETは、td = 10nsのデッドタイムに調整して、Vi = 17Vにて、非常に高いDC-DC電力効率89.4%、出力14.3Wを達成している。Si FETでは、スイッチング速度が遅いために電力効率および出力電圧が低下する。一方、GaN FETは6.78MHzの高速動作に十分対応でき、デッドタイム調整により、これまでにない圧倒的の高い電力変換効率を達成している。
【0101】
本実施形態によれば、次のような効果を奏する。
【0102】
(1)スイッチング素子における導通損失とスイッチング損失の双方を低減することができることから、スイッチング素子における発熱を大きく抑制できる。
【0103】
(2)スイッチング素子における導通損失とスイッチング損失の双方を低減できることから、ワイヤレス給電システムの電力効率を高めることができる。
【0104】
(3)デッドタイムを調整することで、スイッチング素子におけるブリッジ短絡を防止し、信頼性の高いワイヤレス給電システムを構築できる。
【0105】
(4)送電コイルnpと受電コイルnsがそれぞれ空芯のコイル(インダクタ)であることにより、高周波数領域における磁性体による損失が無い。そのため、MHz帯での高い電力変換効率が得られる。
【0106】
(5)送電コイルnpと受電コイルnsの共振を用いて磁界結合と電界結合を融合した電磁界結合回路(電磁界共鳴回路)を構成することにより、すなわち、磁界結合だけでなく電界結合によっても電力伝送を行うことにより、電力伝送効率が高くなり、高効率動作が可能となる。
【0107】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、送電側共振機構と受電側共振機構をそれぞれ構造的に構成した例を示す。
【0108】
図7は第2の実施形態のワイヤレス給電装置102の回路図である。この例は、送電コイルnpと受電コイルnsにヘリカル状のコイルを用い、それぞれ中央で給電している。そのため、送電装置側のヘリカルコイルは等価的インダクタンスLpおよび等価的キャパシタンスCrを有し、共振回路を構成している。同様に、受電装置側のヘリカルコイルはインダクタンスLsおよびキャパシタンスCrsを有し、共振回路を構成している。そして、この二つのヘリカル状コイルは巻回軸がほぼ揃っている(ほぼ同軸)であることにより、送電コイルnpと受電コイルnsとの間に電磁界共鳴結合回路が形成される。その他の構成は第1の実施形態で示したものと同じである。
【0109】
このように、送電側共振機構と受電側共振機構とで、電界エネルギーと磁界エネルギーを相互にやり取りして、空間を超えて電力を給電できる。
【0110】
本実施形態によれば、共振機構をシンプルに構成することができ、部品数の削減を図ることができる。また、ワイヤレス給電システムの小型化を図ることができる。
【0111】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、フィルタを備えたワイヤレス給電装置について示す。
【0112】
図8は第3の実施形態のワイヤレス給電装置103の回路図である。この例では、送電側交流電圧発生回路と送電側共振機構との間に、インダクタ要素Lfpおよびキャパシタ要素Cfpを含む第1フィルタを備える。また、受電側共振機構と整流回路との間に、インダクタ要素Lfsおよびキャパシタ要素Cfsを含む第2フィルタを備える。その他の構成は第1の実施形態および第2の実施形態で示したものと同じである。
【0113】
第1フィルタ、第2フィルタはいずれもローパスフィルタとして作用する。これらローパスフィルタは、共振機構に流れる電流波形の高調波成分を低減するように、遮断周波数が定められている。このように、フィルタを備えることにより、共振機構に流れる電流波形の高調波成分を低減し、EMI(電磁干渉)ノイズを低減することができる。これにより、他の電子機器とのEMC(電磁両立性)を高めることができる。例えば、無線通信機器などとの混信を抑制できる。また、フィルタにより共振機構のインピーダンスを変換することができる。すなわちインピーダンス整合を図ることができる。これにより、負荷に適した電流と電圧を供給することができる。
【0114】
《第4の実施形態》
図9は第4の実施形態のワイヤレス給電装置104の回路図である。
【0115】
スイッチング制御回路20は、出力情報(負荷Roへ出力される電圧、電流、または電力等)を検出し、受電側通信回路50を介して送電装置PSU側へフィードバック情報を伝達する。送電側通信回路40は、信号伝達手段30を介して受電側通信回路50から受信した出力情報に基づいて送電側交流電圧発生回路(スイッチング回路S1,S2)を制御して給電電力を制御する。
【0116】
上記受電側通信回路50は本発明に係る「出力情報送信回路」の例である。また、送電側通信回路40は本発明に係る「出力情報受信回路」の例である。
【0117】
このように受電装置からフィードバックされた情報に基づいて給電電力を制御することで、負荷に適した電圧、電流を供給することができる。
【0118】
なお、送電側通信回路40は、スイッチング素子Q1,Q2に対する制御タイミング信号を受電側通信回路50へ伝達する。スイッチング制御回路20は、このタイミング信号に同期してスイッチング素子Q3,Q4をスイッチングすることにより同期整流制御を行う。
【0119】
上記信号伝達手段30は、例えば無線通信回路を用いて出力情報を送電装置側に伝達する。また、上記信号伝達手段30は、出力信号を光信号に変換して伝達し、光信号を電気信号(受信信号)に変換する。これらの構成により、電気的に絶縁して送電装置側で給電電力を調整することができる。
【0120】
《第5の実施形態》
図10は第5の実施形態のワイヤレス給電装置105の回路図である。このワイヤレス給電装置105において、送電装置PSUには、入力電源Viを電源として動作し、送電コイルnpを通信用のコイル(近傍界アンテナ)として利用する送電側通信回路41を備えている。また、受電装置PRUには、受電装置の出力電圧を電源として動作し、受電コイルnsを通信用のコイル(近傍界アンテナ)として利用する受電側通信回路51を備えている。すなわち、送電コイルnpおよび受電コイルnsは電力伝送と信号通信の役割を兼ねる。これにより、送電装置の小型軽量化を達成できる。
【0121】
通信信号は電力伝送の周波数をキャリア周波数とし、それを変調することで重畳される。したがって、通信信号も電磁界共鳴フィールドを介して通信される。この通信により、送電装置から適切な(目的の)受電装置へ各種データやタイミング信号を伝送できる。または、受電装置から適切な(目的の)送電装置へ各種データやタイミング信号を伝送できる。例えば、送電装置側の各種状態または受電装置側の各種状態を相互にやりとりできる。あるいは、受電装置は送電装置のスイッチ素子のスイッチングに同期して同期整流することもできる。
【0122】
信号伝送は電力伝送とは異なり、電力伝送効率が悪くても損失増大には繋がらないので、上記通信信号は電力伝送用の周波数とは独立させてもよい。
【0123】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。例えば、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。