(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アノードガスとカソードガスの供給を受けて発電する燃料電池と、前記燃料電池のアノード極側出口から排出されたガスを吸引し、供給されるアノードガスとともに前記燃料電池のアノード極側入口に輸送するジェットポンプと、前記ジェットポンプに供給されるアノードガスを加熱する加熱部と、前記ジェットポンプと前記加熱部との間に設けられたバルブと、を備える燃料電池のアノードシステムの制御方法であって、
前記燃料電池の運転停止時又は運転停止後に前記バルブを閉じた後、前記バルブを開くか、或いは前記燃料電池の運転停止時に前記バルブの開度を中間開度に制御すること、
を含む燃料電池のアノードシステムの制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同一又は対応する構成を示す。
【0011】
(第1実施形態)
燃料電池は燃料極であるアノード電極と、酸化剤極であるカソード電極とによって電解質膜を挟み込んだ構造を有する。燃料電池は、燃料ガスとして水素を含有するアノードガスをアノード電極に、酸化剤ガスとして酸素を含有するカソードガスをカソード電極にそれぞれ供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
【0012】
アノード電極 : 2H
2 →4H
+ +4e
- …(1)
カソード電極 : 4H
+ +4e
- +O
2 →2H
2O …(2)
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
【0013】
このような燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きい。このためこの場合には、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして燃料電池を使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
【0014】
以下では、上記のような燃料電池システムのうち燃料電池スタックのアノード極側のガスの流通システムを構成する燃料電池のアノードシステムについて説明する。以下、燃料電池のアノードシステムを単にアノードシステムと称す。
【0015】
図1は、第1実施形態のアノードシステム1の概略構成図である。
【0016】
アノードシステム1は、燃料電池スタック100を備える。燃料電池スタック100は、複数枚の燃料電池を積層した積層電池であり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて発電する。そして、発電した電力を車両駆動用モータなど各種の電装部品に供給する。
【0017】
アノードシステム1は、燃料電池スタック100のほか、高圧タンク2と、供給通路3と、シャット弁4と、排出通路5、気液分離器6と、還流通路7と、ジェットポンプ8と、加熱部9と、バルブ10と、コントローラ50と、を備える。
【0018】
高圧タンク2は、燃料電池スタック100に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
【0019】
供給通路3は、燃料電池スタック100に供給するアノードガスが流れる通路である。供給通路3は、その一端が高圧タンク2に接続され、その他端が燃料電池スタック100のアノード極側入口110に接続される。
【0020】
シャット弁4は、供給通路3に設けられる。シャット弁4は、高圧タンク2からのアノードガスの供給、供給停止を制御する。燃料電池スタック100には、シャット弁4の代わりにレギュレータを用いてもよい。
【0021】
排出通路5は、燃料電池スタック100から排出されたアノードオフガスが流れる通路である。排出通路5は、その一端が燃料電池スタック100のアノード極側出口120に接続され、その他端が気液分離器6に接続される。
【0022】
アノードオフガスは、電極反応で使用されなかった余剰のアノードガスと、カソード側からリークしてきた窒素などの不活性ガスとの混合ガスである。アノードオフガスは、発電過程で生じる水分を含む。
【0023】
気液分離器6は、アノード極側出口120から排出されたガス、すなわちアノードオフガスからアノードオフガスに含まれる水分を分離する。気液分離器6には点線で示す熱媒体通路20が熱媒体を導入する。熱媒体は、気液分離器6内でアノードオフガスに含まれる水分を凝縮し、受熱する。熱媒体通路20はさらに、気液分離器6を流通した熱媒体を加熱部9に供給する。
【0024】
還流通路7は、アノードオフガスを供給通路3に戻すための通路である。還流通路7は、その一端が気液分離器6に接続され、その他端がジェットポンプ8に接続される。還流通路7は具体的には、ジェットポンプ8の負圧発生部に接続される。
【0025】
ジェットポンプ8は、供給通路3に設けられる。ジェットポンプ8は、シャット弁4の下流に配置される。ジェットポンプ8にはアノードガスが供給される。ジェットポンプ8は、供給されたアノードガスの流れによって負圧を発生させる。そして、発生させた負圧でアノードオフガスを吸引しアノード極側入口110に輸送する。ジェットポンプ8は具体的には、アノードオフガスとして気液分離器6を流通したガスを吸引する。そして、吸引したガスを高圧タンク2から供給されるアノードガスとともにアノード極側入口110に輸送する。
【0026】
加熱部9は、供給通路3に設けられる。加熱部9は、シャット弁4の下流、且つジェットポンプ8の上流に配置される。加熱部9は、ジェットポンプ8に供給されるアノードガスを加熱する。加熱部9は具体的には、アノードガスと熱媒体との間で熱交換を行うことで、アノードガスを加熱する熱交換器とされる。熱媒体には、燃料電池スタック100を冷却する冷却液を用いることができる。
【0027】
バルブ10は、供給通路3に設けられる。バルブ10は、加熱部9とジェットポンプ8との間に配置される。バルブ10は具体的には電磁弁であり、コイル10aを備える。コイル10aは、バルブ10の弁体を駆動する。バルブ10には、流量調節弁が用いられる。バルブ10には、防爆仕様のバルブが用いられる。バルブ10は、高圧タンク2から供給通路3に流れ出したアノードガスの圧力を所望の圧力に調節する調圧弁として使用することができる。
【0028】
コントローラ50は電子制御装置であり、シャット弁4やバルブ10を制御する。コントローラ50には、燃料電池スタック100の運転及び運転停止を指示するためのスイッチ60からの信号が入力される。
【0029】
燃料電池スタック100の運転は、アノードガス及びカソードガスを燃料電池スタック100に供給することで行われる。燃料電池スタック100の運転停止は、アノードガス及びカソードガスのうち少なくともいずれかの燃料電池スタック100への供給を停止することで行われる。
【0030】
上記のように構成されたアノードシステム1は、循環回路30を備える。循環回路30は、アノードオフガスをアノード極側入口110に導入することで、アノードオフガスを循環させるアノード側循環回路である。循環回路30は、燃料電池スタック100、気液分離器6及びジェットポンプ8を有して構成される。循環回路30は、燃料電池スタック100を始点として見た場合に、アノード極側出口120、気液分離器6、ジェットポンプ8及びアノード極側入口110の順にアノードオフガスを流通させる。
【0031】
次に、コントローラ50が行う制御の一例を
図2に示すフローチャートを用いて説明する。ステップS11で、コントローラ50は、運転停止指示があったか否かを判定する。運転停止指示があったか否かは、スイッチ60の出力に基づき判定できる。
【0032】
ステップS11で否定判定であれば、本フローチャートの処理を一旦終了する。ステップS11で肯定判定であれば、処理はステップS21、さらにはステップS31に進む。これにより、燃料電池スタック100の運転停止時にステップS21及びステップS31の処理が行われる。
【0033】
ステップS21で、コントローラ50は、シャット弁4を閉じる。具体的には、シャット弁4を全閉にする。これにより、高圧タンク2から燃料電池スタック100にアノードガスが供給されなくなる。本実施形態では、燃料電池スタック100の運転停止時に、加熱部9への熱媒体の供給も停止する。
【0034】
ステップS31で、コントローラ50は、バルブ10を閉じることで、バルブ10の開度を低下させる。ステップS31で、コントローラ50は具体的には、バルブ10を全閉にする。これにより、アノードガスが加熱部9内に滞留した状態で加熱される。コントローラ50は、バルブ10の開度を低下させることで、加熱部9でアノードガスを加熱し易くする。
【0035】
ステップS41で、コントローラ50は、所定時間Aが経過したか否かを判定する。所定時間Aは、加熱部9でのアノードガスの加熱を確保するための時間であり、実験などに基づき予め設定することができる。否定判定であれば、処理はステップS41に戻る。肯定判定であれば、処理はステップS51に進む。
【0036】
ステップS51で、コントローラ50はバルブ10を開く。これにより、加熱部9で加熱されたアノードガスが、ジェットポンプ8に供給される。ステップS51で、コントローラ50は具体的には、バルブ10を全開にする。
【0037】
ステップS61で、コントローラ50は、所定時間Bが経過したか否かを判定する。所定時間Bは、ジェットポンプ8のノズルの昇温を確保するための時間であり、実験などに基づき予め設定することができる。否定判定であれば、処理はステップS61に戻る。肯定判定であれば、処理はステップS71に進む。
【0038】
ステップS71で、コントローラ50は、バルブ10を閉じる。具体的には、バルブ10を全閉にする。これにより、加熱部9からジェットポンプ8へのアノードガスの供給が停止する。ステップS71の後には、本フローチャートの処理は終了する。コントローラ50は、ステップS71でバルブ10を閉じなくてもよい。この場合、所定時間Bの設定は不要である。
【0039】
図3は、コントローラ50が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図3では、各種のパラメータとして熱媒体の温度Tcl、アノードガスの温度Tgas、ジェットポンプ8のノズル温度Tnzl、バルブ10の開度、シャット弁4の開度、及び燃料電池スタック100の運転状態を示す。温度Tclは具体的には、加熱部9における熱媒体の温度を示す。温度Tgasは具体的には、加熱部9で受熱したアノードガスの温度を示す。
【0040】
タイミングT1では、燃料電池スタック100の運転停止が指示される。このため、シャット弁4及びバルブ10が全閉になり、燃料電池スタック100の運転が停止する。また、加熱部9への熱媒体の供給も停止する。これにより、タイミングT1からは、加熱部9に滞留した熱媒体及びアノードガス間で、熱媒体からアノードガスへの放熱が行われる。結果、熱媒体の温度Tclが低下するとともに、アノードガスの温度Tgasが上昇する。
【0041】
タイミングT2は、タイミングT1から所定時間Aが経過したタイミングである。このため、タイミングT2では、バルブ10が全開になり、加熱部9からジェットポンプ8にアノードガスが供給される。そして、供給されたアノードガスによってジェットポンプ8のノズルが暖められる。結果、タイミングT2からは、アノードガスの温度Tgasが低下し、ノズル温度Tnzlが上昇する。
【0042】
タイミングT3は、タイミングT2から所定時間Bが経過したタイミングである。このため、タイミングT3では、バルブ10が全閉になり、加熱部9からジェットポンプ8へのアノードガスの供給が停止する。結果、アノードガスの温度Tgasの低下、及びノズル温度Tnzlの上昇が収まる。
【0043】
ところで、ノズル温度Tnzlを循環回路30における他の部分より高い温度に上昇させれば、ジェットポンプ8のノズルでの水分の凝縮は回避される。ところが、所定時間Aが短すぎれば、熱媒体及びアノードガス間で行われる熱交換が不十分になる。また、所定時間Aが長すぎれば、自然放熱や圧力低下によって、ジェットポンプ8に供給するアノードガスの温度Tgasや圧力が不十分になる。また、所定時間Bが短すぎれば、ジェットポンプ8のノズルに供給するアノードガスの量が不十分になる。
【0044】
このため、所定時間Aや所定時間Bは具体的には、加熱部9で加熱したアノードガスをジェットポンプ8に供給し、ノズル温度Tnzlを循環回路30における他の部分より高い温度に上昇させることが可能な値の範囲内に設定される。
【0045】
次に、本実施形態のアノードシステム1の主な作用効果について説明する。アノードシステム1は、燃料電池スタック100と、ジェットポンプ8と、加熱部9と、バルブ10と、燃料電池スタック100の運転停止時にバルブ10を閉じた後、バルブ10を開くコントローラ50と、を備える。コントローラ50は具体的には、バルブ10を全閉にした後、バルブ10を全開にする。
【0046】
上記構成のアノードシステム1によれば、燃料電池スタック100の運転停止時に、アノードガスを加熱し易くすることができる。また、加熱したアノードガスをジェットポンプ8に供給することで、ジェットポンプ8のノズル先端部を循環回路30における他の部分より暖めることが可能になる。そして、このようにしてジェットポンプ8のノズル先端部を暖めることで、低温環境下で燃料電池スタック100の運転を停止した場合に、当該ノズル先端部で水分が凝縮することを回避することができる。
【0047】
このため、上記構成のアノードシステム1によれば、低温環境下で燃料電池スタック100の運転を停止した場合に、ジェットポンプ8で発生する凍結によるノズル閉塞を改善できる。
【0048】
上記構成のアノードシステム1において、コントローラ50は、燃料電池スタック100の運転停止時にバルブ10を閉じることで、アノードガスを加熱部9に滞留させながら加熱することができる。また、バルブ10を閉じた後、バルブ10を開くことで、加熱部9で加熱したアノードガスを素早くジェットポンプ8に供給することができる。
【0049】
(第2実施形態)
本実施形態のアノードシステム1では、コントローラ50が燃料電池スタック100の運転停止時にバルブ10の開度を中間開度に制御することで、バルブ10の開度を低下させる。この点を除き、本実施形態のアノードシステム1は、第1実施形態のアノードシステム1と同様に構成される。
【0050】
次に、コントローラ50が行う制御の一例を
図4に示すフローチャートを用いて説明する。以下では、
図2に示すフローチャートと同じ処理については適宜説明を省略する。
【0051】
本実施形態では、ステップS21に続きステップS32で、コントローラ50は、バルブ10を全閉にするのではなく、バルブ10の開度を中間開度に制御する。これにより、加熱部9からジェットポンプ8にアノードガスが緩やかに供給される。ステップS32の処理は、ステップS31の処理の代わりに行われる。ステップS32の後には、処理はステップS42に進む。
【0052】
ステップS42で、コントローラ50は所定時間Cが経過したか否かを判定する。所定時間Cは、加熱部9でのアノードガスの加熱及びジェットポンプ8でのノズルの昇温を確保するための時間であり、実験などに基づき予め設定することができる。所定時間Cは、所定時間Aや所定時間Bについて説明した前述の値の範囲内に設定することができる。
【0053】
ステップS42で否定判定であれば、処理はステップS42に戻る。ステップS42で肯定判定であれば、処理はステップS71に進む。ステップS71の後には、本フローチャートの処理は終了する。
【0054】
図5は、コントローラ50が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図5では、各種のパラメータとして
図3と同様のパラメータを示す。本実施形態において、アノードガスの温度Tgasは具体的には、加熱部9で受熱したアノードガスの温度であって、それぞれのタイミングにおいてジェットポンプ8で放熱を行ったときのアノードガスの温度を示す。
【0055】
タイミングT1では、燃料電池スタック100の運転停止が指示される。結果、第1実施形態の場合と同様、シャット弁4が全閉になり、燃料電池スタック100の運転が停止する。また、加熱部9への熱媒体の供給も停止する。
【0056】
本実施形態では、タイミングT1でバルブ10が中間開度に制御される。このため、タイミングT1からは、加熱部9からジェットポンプ8にアノードガスが緩やかに供給される。結果、タイミングT1から、アノードガスの温度Tgas及びノズル温度Tnzlが上昇し、熱媒体の温度Tclが低下する。
【0057】
本実施形態では、タイミングT2でバルブ10は制御されない。このため、タイミングT2でバルブ10は全閉にならず、バルブ10の開度は中間開度に維持される。
【0058】
タイミングT3´は、タイミングT1から所定時間Cが経過したタイミングである。このため、タイミングT3´ではバルブ10が全閉になり、加熱部9からジェットポンプ8へのアノードガスの供給が停止する。結果、アノードガスの温度Tgas及びノズル温度Tnzlの上昇が収まる。なお、タイミングT3´はタイミングT3と同じであってもよい。
【0059】
次に、本実施形態のアノードシステム1の主な作用効果について説明する。本実施形態のアノードシステム1では、コントローラ50が燃料電池スタック100の運転停止時に、バルブ10の開度を中間開度に制御する。
【0060】
上記構成のアノードシステム1によれば、アノードガスの加熱部9での受熱及びジェットポンプ8での放熱を効率良く行わせることができる。結果、アノードガスが効率良く受熱及び放熱を行う分、ノズル温度Tnzlを高めることができる。したがって、ノズル温度Tnzlを高めることができる分、低温環境下で燃料電池スタック100の運転を停止した場合に、ジェットポンプ8で発生する凍結によるノズル閉塞を好適に改善できる。
【0061】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態のアノードシステム1の概略構成図である。
【0062】
本実施形態のアノードシステム1では、バルブ10及びジェットポンプ8が一体構成とされる。バルブ10及びジェットポンプ8には、コイル10aの発熱をジェットポンプ8のノズルに伝える伝熱部11が設けられる。伝熱部11は金属などの伝熱材で構成することができる。バルブ10は、一体に構成されたジェットポンプ8とともにユニット全体として、防爆仕様にすることができる。
【0063】
本実施形態のアノードシステム1では、コントローラ50はバルブ10を閉じた後、開弁電流より小さい電流である微小電流をコイル10aに通電させる通電制御を行う。そして、当該通電制御を行った後に、バルブ10を開く。コントローラ50は具体的には、バルブ10を閉じた時にコイル10aへの微小電流の通電を開始するとともに、バルブ10を開いた時にコイル10aへの微小電流の通電を終了する。本実施形態のアノードシステム1はこれらの点を除き、第1実施形態のアノードシステム1と同様に構成される。
【0064】
次に、コントローラ50が行う制御の一例を
図7に示すフローチャートを用いて説明する。以下では、
図2に示すフローチャートと同じ処理については適宜説明を省略する。
【0065】
本実施形態では、ステップS31の後に処理がステップS36に進む。ステップS36で、コントローラ50は、バルブ10が開かない程度に設定された微小電流をコイル10aに通電させる。これにより、コイル10aで発熱を行い、コイル10aからジェットポンプ8のノズルに熱を供給する。ステップS36の後には、処理はステップS41に進む。そして、ステップS41の処理を経てステップS46で、コントローラ50はコイル10aへの微小電流の通電を停止する。ステップS46の後には、処理はステップS51に進む。その後は、第1実施形態で前述した通りである。
【0066】
図8は、コントローラ50が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図8では、各種のパラメータとして
図3と同様のパラメータを示す。
【0067】
第1実施形態の場合と同様、タイミングT1ではシャット弁4及びバルブ10が全閉になり、燃料電池スタック100の運転が停止する。また、加熱部9への熱媒体の供給も停止する。そして、タイミングT2でバルブ10が全開になり、タイミングT3でバルブ10が全閉になる。
【0068】
本実施形態では、タイミングT1及びタイミングT2間でコイル10aに微小電流を通電することで、コイル10aからジェットポンプ8のノズルに熱を供給する。このため、本実施形態では、ノズル温度TnzlがタイミングT1及びタイミングT2間でも上昇する。
【0069】
次に、本実施形態のアノードシステム1の主な作用効果について説明する。本実施形態のアノードシステム1では、バルブ10がコイル10aを備えるとともに、伝熱部11がバルブ10及びジェットポンプ8に設けられる。また、コントローラ50がバルブ10を閉じた後、微小電流をコイル10aに通電した後に、バルブ10を開く。
【0070】
上記構成のアノードシステム1によれば、加熱部9でアノードガスを暖めている最中に、コイル10aの発熱を利用してジェットポンプ8のノズルを事前に暖めることができる。結果、このようにしてコイル10aからジェットポンプ8のノズルに熱を供給する分、ノズル温度Tnzlを高めることができる。したがって、ノズル温度Tnzlを高めることができる分、低温環境下で燃料電池スタック100の運転を停止した場合に、ジェットポンプ8で発生する凍結によるノズル閉塞を好適に改善できる。
【0071】
(第4実施形態)
本実施形態のアノードシステム1では、コントローラ50が燃料電池スタック100の運転停止後にバルブ10を閉じることで、バルブ10の開度を低下させる。また、その後バルブ10を開く。
【0072】
コントローラ50は具体的には、燃料電池スタック100の運転停止時から所定時間Aより短い所定時間Dが経過したときに、バルブ10を閉じる。また、燃料電池スタック100の運転停止時から所定時間Aが経過したときに、バルブ10を開く。さらに具体的には、コントローラ50は、バルブ10を閉じる場合にはバルブ10を全閉にし、バルブ10を開く場合にはバルブ10を全開にする。上記の点を除き、本実施形態のアノードシステム1は、第1実施形態のアノードシステム1と同様に構成される。
【0073】
次に、コントローラ50が行う制御の一例を
図9に示すフローチャートを用いて説明する。以下では、
図2に示すフローチャートと同じ処理については適宜説明を省略する。
【0074】
本実施形態では、ステップS11の後に処理がステップS26に進む。ステップS26で、コントローラ50は所定時間Dが経過したか否かを判定する。所定時間Dは、加熱部9に滞留させるアノードガスの圧力及び密度を調整するための時間であり、実験などに基づき予め設定することができる。所定時間Dは、所定時間Aや所定時間Bについて説明した前述の値の範囲内に設定することができる。
【0075】
ステップS26で否定判定であれば、処理はステップS26に戻る。ステップS26で肯定判定であれば、処理はステップS31に進む。その後は、第1実施形態の場合と同様に処理が行われる。
【0076】
図10は、コントローラ50が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
図10では、各種のパラメータとして
図3と同様のパラメータを示す。
図10では、第1実施形態の場合の変化を破線で併せて示す。
【0077】
第1実施形態の場合と同様、タイミングT1ではシャット弁4が全閉になり、燃料電池スタック100の運転が停止する。また、加熱部9への熱媒体の供給が停止する。本実施形態では、タイミングT1´でバルブ10が全閉になる。そして、タイミングT2でバルブ10が全開になり、タイミングT3でバルブ10が全閉になる。
【0078】
タイミングT1´は、タイミングT1から所定時間Dが経過したタイミングである。タイミングT1´でバルブ10を全閉にすることで、加熱部9に滞留するアノードガスの圧力及び密度は小さく調整される。結果、アノードガスの温度Tgasは、タイミングT2でバルブ10を全開にするまでの間に、第1実施形態の場合より上昇する。また、ノズル温度Tnzlも、タイミングT2及びタイミングT3間で、第1実施形態の場合より上昇する。
【0079】
次に、本実施形態のアノードシステム1の主な作用効果について説明する。本実施形態のアノードシステム1では、コントローラ50が燃料電池スタック100の運転停止後にバルブ10を閉じ、その後バルブ10を開く。つまり、燃料電池スタック100の運転停止時にシャット弁4を閉じ、その後しばらくしてからバルブ10を閉じる。そして、その後にバルブ10を開く。コントローラ50は具体的には、バルブ10を全閉にした後、バルブ10を全開にする。
【0080】
上記構成のアノードシステム1によれば、加熱部9に滞留するアノードガスの圧力及び密度を小さく調整する分、アノードガスの温度Tgas、さらにはノズル温度Tnzlを高めることができる。したがって、ノズル温度Tnzlを高めることができる分、ジェットポンプ8での凍結によるノズル閉塞の発生を好適に改善できる。
【0081】
上記構成のアノードシステム1において、コントローラ50は燃料電池スタック100の運転停止後にバルブ10を閉じ、その後バルブ10を開くことで、加熱部9で加熱したアノードガスを素早くジェットポンプ8に供給することができる。
【0082】
(第5実施形態)
図11は、本実施形態でコントローラ50が行う制御の一例をフローチャートで示す図である。
図12は、本実施形態でコントローラ50が行う制御に対応するタイミングチャートの一例を示す図である。
【0083】
本実施形態では、バルブ10及びジェットポンプ8が第3実施形態で説明したように一体に構成される。また、コントローラ50が、第4実施形態で説明したように燃料電池スタック100の運転停止後にバルブ10を閉じる。コントローラ50は、バルブ10を閉じた後はさらに、第3実施形態の場合と同様、微小電流をコイル10aに通電させる通電制御を行い、その後にバルブ10を開く。これらの点を除き、本実施形態のアノードシステム1は、第1実施形態のアノードシステム1と同様に構成される。
【0084】
このため、
図11に示す本実施形態におけるフローチャートは、
図2に示すフローチャートに対し、ステップS26、ステップS36及びステップS46の処理を追加したフローチャートとなっている。
【0085】
結果、
図12に示す本実施形態におけるタイミングチャートでは、ノズル温度Tnzlが、タイミングT1及びタイミングT2間で、第3実施形態で説明したように上昇する。また、アノードガスの温度Tgasが、タイミングT2までの間に、第4実施形態で説明したように高まる。このため、ノズル温度Tnzlは、タイミングT2及びタイミングT3間で、さらに第4実施形態で説明したように上昇する。
【0086】
次に、本実施形態のアノードシステム1の主な作用効果について説明する。本実施形態では、バルブ10がコイル10aを備えるとともに、伝熱部11がバルブ10及びジェットポンプ8に設けられる。また、コントローラ50が燃料電池スタック100の運転停止後にバルブ10を閉じ、さらに開弁電流より小さい電流をコイル10aに通電した後に、バルブ10を開く。
【0087】
上記構成のアノードシステム1によれば、加熱部9に滞留するアノードガスの圧力及び密度を低下させることで、第3実施形態で説明したようにノズル温度Tnzlを高めることができる。また、コイル10aからジェットポンプ8のノズルに熱を供給することで、第4実施形態で説明したようにノズル温度Tnzlを高めることができる。結果、第3実施形態の場合や第4実施形態の場合と比較して、ノズル温度Tnzlをさらに高めることができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0089】
バルブ10の開度を低下させるにあたり、コントローラ50は、バルブ10の開度を次第に低下させてもよく、複数の段階で段階的に低下させてもよい。
【0090】
第2実施形態を除く上記各実施形態において、バルブ10は開閉弁であってもよい。第2実施形態において、バルブ10は開度を段階的な態様で中間開度に制御可能なバルブであってもよい。
【0091】
バルブ10を閉じることは、バルブ10を全閉にすることのほか、本発明の作用効果を得ることが可能な範囲内でバルブ10を開いた状態に制御することを含んでもよい。バルブ10を開く場合についても同様である。
【0092】
加熱部9は、防爆仕様の電気ヒータなど熱交換器以外の加熱機器であってもよい。加熱部9は、少なくとも燃料電池スタック100の運転停止時や運転停止後にジェットポンプ8に供給されるアノードガスを加熱するように構成されていればよい。
【0093】
タイミングT2は、温度Tclや温度Tgasや温度Tnzlに基づき設定されてもよい。また、加熱部9におけるアノードガスの圧力に基づき設定されてもよい。これらのパラメータはセンサによって直接的に検出されてもよく、これらのパラメータと相関関係を有するパラメータ等に基づき推定されてもよい。タイミングT3やタイミングT1´についても同様である。
【0094】
本願は2014年11月20日に日本国特許庁に出願された特願2014−235909に基づく優先権を主張し、この出願のすべての内容は参照により本明細書に組み込まれる。