(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記有効幅を、隣り合う前記スポット溶接部間のスポット距離と、前記平坦面の前記スポット距離の方向に直交する方向の幅との関数を用いて算出することを特徴とする請求項1に記載の破断予測方法。
前記荷重を前記平坦面に投影させ、投影された前記荷重の方向に直交する方向の前記有効幅を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の破断予測方法。
前記算出手段は、前記有効幅を、隣り合う前記スポット溶接部間のスポット距離と、前記スポット距離の方向に直交する方向の平坦部幅との関数を用いて算出することを特徴とする請求項8に記載の破断予測装置。
前記算出手段は、前記荷重を前記平坦面に投影させ、投影された前記荷重の方向に直交する方向の前記有効幅を算出することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の破断予測装置。
前記第1手順は、前記有効幅を、隣り合う前記スポット溶接部間のスポット距離と、前記平坦面の前記スポット距離の方向に直交する方向の幅との関数を用いて算出することを特徴とする請求項15に記載のプログラム。
前記第1手順は、前記荷重を前記平坦面に投影させ、投影された前記荷重の方向に直交する方向の前記有効幅を算出することを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載のプログラム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、破断予測方法及び装置、並びにプログラム及び記録媒体の諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
本実施形態では、スポット溶接で接合された部材を被測定対象物として、有限要素法(FEM)による変形シミュレーションを行い、当該部材のスポット溶接部の破断を予測する。
図2は、第1の実施形態による破断予測装置の概略構成を示す模式図である。
図3は、第1の実施形態による破断予測方法をステップ順に示すフロー図である。
【0014】
本実施形態では、
図4に示すように、被測定対象物としてハット型部材10を用いる。ハット型部材10は、ハット型に成形されたハット型断面状鋼板である母材11と、平面状鋼板である母材12とをフランジ部13の平坦なフランジ面13aで重ね合わせ、フランジ部13をスポット溶接で接合したハット型閉断面構造を有する構造部材である。フランジ面13aには、長手方向に沿ってスポット溶接部14が等間隔で形成されている。隣り合うスポット溶接部14間の距離をスポット間距離、フランジ部13の短手方向の幅をフランジ幅と定義する。
【0015】
本実施形態による破断予測装置は、
図2のように、スポット溶接部の破断予測式を作成する第1の算出部1と、作成された破断予測式を用いてスポット溶接部の破断を予測する第2の算出部2とを備えて構成されている。
【0016】
ハット型部材10について、スポット溶接部14の破断予測を行うには、
図3のように、先ずユーザは破断予測装置に、ハット型部材10についての各種条件を入力する(ステップS1)。各種条件としては、ハット型部材10の材料の引張強度、全伸び、炭素当量、ヤング率、板厚、スポット溶接部のナゲット径、要素サイズ、第1幅、及び第2幅がある。
【0017】
第1幅及び第2幅は、後述するステップS2において有効幅を算出するために用いられる値である。第1幅は、部材の平坦面(フランジ面13a)において、着目するスポット溶接部とこれと隣り合うスポット溶接部との距離(スポット間距離)である。第2幅は、フランジ面13aにおいて、着目するスポット溶接部を通って第1幅と直交し、当該平坦面のエッジ又は稜線と接する点を両端とする仮想線分の長さである。本実施形態では、スポット溶接部14のスポット間距離が第1幅、フランジ面13aのフランジ幅が第2幅となる。
【0018】
続いて、第1の算出部1は、入力されたスポット間距離及びフランジ幅を用いて有効幅を算出する(ステップS2)。有効幅は、破断予測の指標となる予測条件値の一つであり、本実施形態では、スポット溶接部が設けられた部材の平坦面において、当該スポット溶接部を含む入力荷重の方向に直交する方向の幅である。
【0019】
ステップS2は、
図5のステップS11〜S13からなる。
ステップS11では、第1の算出部1は、スポット溶接部14に時々刻々に加わる荷重のせん断力成分や軸力を取得し、合力及びその方向を算出する。
ステップS12では、第1の算出部1は、スポット溶接部14に加わる荷重の方向をフランジ面13a上に投影させる。ステップS11にて算出された合力は、任意の3次元方向を取り得るため、スポット溶接部が設けられた面に荷重方向を投影する。
【0020】
ステップS13では、第1の算出部1は、フランジ面13aに投影された荷重の方向に対して直交する方向の有効幅を算出する。
本実施形態では、有効幅の算出に、スポット距離及びフランジ幅の一方を長軸、他方を短軸とする楕円則を適用する。
図6A、
図6Bに示すように、スポット溶接部14を中心とし、第1幅であるスポット間距離を長軸、第2幅であるフランジ幅を短軸として楕円式を作成する。第1の算出部1は、スポット溶接部14においてフランジ面13a上に投影された荷重の方向と直交する方向の楕円の直径を、有効幅として算出する。
【0021】
他の有効幅の算出方法として、楕円則の代わりにスポット間距離及びフランジ幅の一方を長軸、他方を短軸とする菱形則を適用しても良い。
図7A、
図7Bに示すように、スポット溶接部14を中心とし、スポット距離を長軸、フランジ幅を短軸として菱形式を作成する。第1の算出部1は、スポット溶接部14においてフランジ面13a上に投影された荷重の方向と直交して菱形の辺と交わる線分の長さを、有効幅として算出する。
【0022】
更に、楕円則や菱形則等を用いることなく、スポット間距離及びフランジ幅のうち、入力荷重に直交する方向により近い方を有効幅として選択することもできる。具体的には、
図8に示すように、スポット溶接部14を原点として直交するスポット間距離方向及びフランジ幅方向を二分する(スポット間距離方向及びフランジ幅方向の双方と45°をなす)仮想の境界線15を想定する。フランジ面13a上に投影された荷重の方向が境界線15を基準としてスポット間距離方向に近い場合には、第1の算出部は、フランジ幅を有効幅と規定する。一方、フランジ面13a上に投影された荷重の方向が境界線15を基準としてフランジ幅方向に近い場合には、第1の算出部は、スポット間距離を有効幅と規定する。フランジ面13a上に投影された荷重の方向が境界線15と一致する場合には、予め決められたスポット間距離又はフランジ幅を有効幅と規定する。或いは、当該一致の場合には、スポット間距離及びフランジ幅の平均値を有効幅と規定することも考えられる。
図8の例では、荷重の方向が境界線15を基準としてスポット間距離方向に近い場合を示す。
【0023】
続いて、第1の算出部1は、ステップS1で入力された材料強度TS、板厚t、スポット溶接のナゲット径D、及びステップS2で算出された有効幅Wを用いて、破断予測式を作成する(ステップS3)。
具体的に、スポット溶接部にせん断力が主に加わる場合の破断予測式は、
Fs=TS・W・t/α ・・・(1)
α=a/(D/W)
b+c
ここで、Fsは破断予測荷重、a,b,cは実験結果をフィッティングするためのパラメータである。
【0024】
また、スポット溶接部に軸力が主に加わる場合の破断予測式は、
Fn=(d・D・t+e)・(f・t+g)・(h・TS+i)・(j・C
eq+k) ・・・(2)
ここで、Fnは破断予測荷重、C
eqは炭素当量、d,e,f,g,h,i,j,kは、実験結果をフィッティングするためのパラメータである。
【0025】
また、スポット溶接部にモーメントが主に加わる場合の破断予測式は、
Mf=(l・el・E・D・t
3+m)・(n・t+o)・(p・D+q)・(r・W+s)・(u・L+v)・(y・Me+z) ・・・(3)
ここで、Mfは破断予測モーメント、elは材料の全伸び、Eは部材のヤング率、Lはアーム長、Meは要素サイズ、l,m,n,o,p,q,r,s,u,v,y,zは、実験結果をフィッティングするためのパラメータである。アーム長とは、L字継ぎ手においてはスポット溶接中心と縦壁間の距離で定義されるが、本検討対象の部材においては、ステップS2で算出される有効幅と直交する方向の幅の1/2の値、即ち荷重の方向と平行な方向の幅の1/2の値をアーム長と定義する。
なお、必ずしも(1)式、(2)式、(3)式を用いなくとも、実験結果をフィッティングできる式であれば良い。
【0026】
続いて、第2の算出部2を用いてスポット溶接部の破断を予測する。
具体的には、スポット溶接部に加わる入力が、せん断力S、軸力A、モーメントMとすると、これらの値と(1)式、(2)式、(3)式からなる関係式である、(4)式、(5)式、(6)式のいずれかが成立した時に破断が生じたものと判定する。
(S
2+A
2)
0.5/Fs≧1 ・・・(4)
A/Fn≧1 ・・・(5)
M/Mf≧1 ・・・(6)
【0027】
ハット型部材10の有限要素法による衝突変形シミュレーションは、所定の時間間隔毎に都度計算される。部材の変形に応じてスポット溶接部14に加わる荷重成分も所定の時間間隔毎に都度計算される。第1の算出部1は、所定の時間間隔毎に都度算出した荷重の方向に対して直交する方向の有効幅を取得して破断予測式を作成し、第2の算出部2は破断予測を行う。
【0028】
具体的には、所定の時間間隔毎に、上記したステップS2(ステップS11〜S13)を実行して有効幅を算出し、ステップS3を実行して、ステップS2で算出された有効幅Wを用い作成された破断予測式に基づいて破断予測を行う。ここで、ステップS13における楕円式の作成は最初のステップS13のみ行い、続く所定の時間間隔毎のステップS13では、最初のステップS13で作成された楕円式を用いて、所定の時間間隔毎に都度算出した荷重の方向に対応した有効幅を算出する。
【0029】
以上説明したように、本実施形態によれば、例えば自動車部材の衝突変形予測をコンピュータ上で行う場合において、スポット溶接をモデル化したスポット溶接部の破断予測を高精度に行うことができる。そのため、実際の自動車部材での衝突試験を省略、又は衝突試験の回数を大幅に削減することができる。また、衝突時の破断を防止する部材設計をコンピュータ上で正確に行うことができるため、大幅なコスト削減、開発期間の短縮に寄与することが可能となる。
【0030】
(実施例)
以下、上述した第1の実施形態について、従来技術との比較に基づいて、その奏する作用効果について説明する。
本実施例では、
図9A、
図9Bに示すように、高さ60mm、幅120mmのハット型部材100を用いて3点曲げ試験を行った。ハット型部材100において、ハット型断面状鋼板である母材111と平面状鋼板である母材112とが66点のスポット溶接部で接合されており、スポット間距離は30mm、フランジ幅は15mmである。
図9Bに示すように、ハット型部材100において、各スポット溶接部の位置をA列(A1〜A33)、B列(B1〜B33)と定義している。
【0031】
ハット型部材100の材料は、引張強度1500MPa級鋼板であって、母材111,112共に板厚1.6mmに作製した。このとき、スポット溶接部のナゲット径は6.3mmである。固定治具113,114でハット型部材100を支持し、固定治具113,114の支点間距離を700mmとし、R150mmのインパクタ115を母材112側から60mmのストロークで押しつけて3点曲げ試験を行った。
【0032】
また、当該実験条件を再現したFEMモデルを作成し、本発明によるプログラムを組み込んだ。スポット溶接部に加わる荷重方向を所定の時間間隔毎に逐次計算し、当該荷重方向に直交する方向の有効幅を楕円則で計算し、当該有効幅を用いて破断クライテリアを算出し、各スポット溶接部の破断予測を行った。なお、比較のため、従来技術1として有効幅をスポット間隔に固定した場合、従来技術2として有効幅をフランジ幅に固定した場合の破断予測も行った。
【0033】
図10は、各スポット溶接部の位置であるA列(A1〜A33)、B列(B1〜B33)について、3点曲げ試験後の各スポット溶接部の破断発生の有無をまとめた結果を示す表である。各スポット溶接部の破断の発生有無を実験結果と比較し、全66打点について、破断発生有無を正しく予測できている打点数の比率を求めた。
【0034】
第1の実施形態の方法により破断を予測した場合の的中率は100%であった。従来技術である、有効幅をスポット間隔で固定とした場合の的中率は80.3%、有効幅をフランジ間隔で固定した場合の的中率は90.9%であった。
【0035】
これらの結果から、従来技術においては、有効幅をスポット間隔とした場合と、フランジ幅とした場合とで破断予測精度にばらつきが生じることが判る。これに対して、第1の実施形態の方法を用いることにより、大幅に破断予測精度が向上することに加え、部材の変形による、スポット溶接部に加わる荷重方向の変化に応じて安定した破断予測精度が得られることを確認することができた。
【0036】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、スポット溶接で接合された部材を被測定対象物として、有限要素法(FEM)による変形シミュレーションを行い、当該部材のスポット溶接部の破断を予測する。本実施形態では、有効幅を算出するための第1幅及びこれと直交する第2幅をより高精度に取得できる。第1の実施形態と組み合わせることで、破断予測の精度がより向上する。
【0037】
−本実施形態の基本構成−
初めに、本実施形態による条件取得方法の基本構成について説明する。
ハット型部材20Aでは、
図11A、
図11Bに示すように、例えば母材101の裏面側に母材103が配置され、母材101,103がスポット溶接部22で接合される場合がある。この場合に、例えば特許文献5の技術を用いて、着目するスポット溶接部とこれに最近接するスポット溶接部との間の距離を有効幅として取得する場合について考察する。スポット溶接部21aに着目する場合、スポット溶接部21が母材101,102を接合するものであることから、スポット溶接部21aに最近接するスポット溶接部を21bとし、スポット溶接部21a,21b間の距離d1を、有効幅を算出するための第1幅とするべきである。ところが、母材101の表面でスポット溶接部101aに最近接するスポット溶接部は22aであることから、スポット溶接部21a,22a間の距離d2を第1幅として取得してしまう。スポット溶接部22aは母材101,103を接合するものであることから、誤った第1幅が取得されることになり、正確なシミュレーションを行うことができない。つまり、スポット溶接間の距離のみに着目する場合、異なる部材または平面においてスポット溶接間の距離を採用し、正しい破断予測が実施されない可能性がある。
【0038】
(1)本実施形態では、スポット溶接により接合される部材について、母材のシェル要素の法線方向の角度差を取得する。取得された角度差に基づいて、母材部を構成面ごとに分類する。構成面ごとに、当該構成面に属するスポット溶接部を分類する。そして、構成面ごとにスポット溶接部に関する第1幅及び第2幅を取得し、第1の実施形態で説明した方法により有効幅を取得する。
【0039】
第1幅として、着目するスポット溶接部と同一構成面に属する最近接のスポット溶接部との距離を採用する。第2幅として、着目するスポット溶接部と最近接のスポット溶接部との距離と直交する方向の当該構成面の幅(構成面は、シェル要素の法線方向の角度差で分類されており、所定の角度差内に対応した平坦面とされている。)を採用する。
【0040】
母材はシェル要素で、スポット溶接部は、ビーム要素(バー要素)、シェル要素、ソリッド要素等でモデル化される。ビーム要素とは2点の節点を持つ線分要素、シェル要素とは例えば4点の節点を持つ平面要素、ソリッド要素とは例えば8点の節点を持つ立体要素である。例えば、母材A,Bをスポット溶接で接続しているモデルにおいて、スポット溶接部を端点a,bを持つビーム要素(a側は母材Aと接続、b側は母材Bと接続)でモデル化、母材A,Bはシェル要素でモデル化する。そして、ビーム要素の両端である端点a,bのそれぞれについて、接続する母材における、最近接のスポット溶接部間距離及びスポット溶接部間距離に直交する方向の平坦面幅を取得し、第1幅及び第2幅とする。
【0041】
(1)の具体例を
図12A及び
図12Bに示す。ここでは、ハット型部材20Bを構成する母材101〜103のうち、母材101を例に採って説明する。
母材101の表面を構成する各平坦面(以下、構成面と言う。)について考える。同一の構成面に形成されたスポット溶接部について取得した有効幅が、スポット破断予測に供される正確な有効幅である。そこで本実施形態では、
図12Aに示すように、母材101を各構成面に分離して扱うべく、母材101について、隣接するシェル要素の法線方向の角度差を順次計算し、母材101の表面を構成面ごとに分類する。当該角度差が所定値以内、0°〜45°程度の範囲内で規定された所定値以下、例えば15°以下であるときには、対応するシェル要素間における母材101の表面は平坦面であるとみなす。即ち、当該角度差が所定値以内にある複数のシェル要素は、同一の構成面に属するものとする。このようにして例えば、
図12Bに示すように、母材101の表面を、天板面である構成面A、各連結面である構成面B1,B2、各縦壁面である構成面C1,C2、各連結面である構成面D1,D2、フランジ面である構成面E1,E2に分類する。
【0042】
そして、構成面A〜E2について、同一の構成面に属するスポット溶接部を分類する。
図12Bの例では、構成面Aについて2つのスポット溶接部22、構成面C1,C2についてそれぞれ2つのスポット溶接部22、構成面E1,E2についてそれぞれ4つのスポット溶接部21が分類される。そして、同一の構成面に形成されたものとして分類されたスポット溶接部について、第1幅及び第2幅を取得する。以上により、スポット破断予測に供される正確な有効幅を取得することができる。構成面E1を例に採ってスポット溶接部21aに着目すれば、
図11A、
図11Bのように誤った距離d2を第1幅とすることなく、
図12Bのように正しい距離d1を第1幅として取得することになる。
【0043】
(2)本実施形態では、当該母材と対向して配置されてスポット溶接部により接合される裏面側の母材についても、上記と同様に第1幅及び第2幅を取得する。
【0044】
(2)の具体例を
図13A及び
図13Bに示す。ハット型部材20Bにおいて、母材101は、その裏面の母材102,103とスポット溶接部21,22により接合されている。母材102,103についても、母材101と同様にして第1幅及び第2幅を取得し、有効幅を算出する。ここでは、ハット型部材20Bを構成する複数の母材のうち、母材101,102を例に採って説明する。
【0045】
図13A、
図13Bのように、スポット溶接部21aに着目すれば、先述したように母材101では、距離d1が第一幅として取得され、距離d1と直交する方向の構成面の幅である距離d4が第2幅として取得される。母材102では、そのシェル要素の法線方向の角度差から、その構成面は1つである。母材102の第1幅については、母材101の距離d1と同様に距離d3が第1幅として取得され、
図13Bのように、距離d3と直交する方向の構成面の幅である距離d5が第2幅として取得される。但し、実際のシミュレーションでは、第1幅及び第2幅の上限値が設定されており、距離d5よりも小さい所定値を第2幅としている。
【0046】
(3)本実施形態では、着目するスポット溶接部により接合された裏面側の母材と、着目するスポット溶接部と最近接のスポット溶接部により接合された裏面側の母材とが同一である場合に、着目するスポット溶接部について第1幅及び第2幅を取得する。
【0047】
(3)の具体例を
図14A及び
図14Bに示す。ハット型部材20Cにおいて、母材101は、その裏面の母材102,103,104とスポット溶接部21,22により接合されている。母材104は、母材101の構成面Aとスポット溶接部23により接合されている。
【0048】
図14A、
図14Bのように、母材101の構成面Aには2つのスポット溶接部22と2つのスポット溶接部23とが含まれている。母材101について第1幅及び第2幅を取得する際に裏面側の母材103,104の情報を考慮しないとすると、着目するスポット溶接部22aに最近接のスポット溶接部は、スポット溶接部22bではなくスポット溶接部23aであると誤って判定してしまう。そうすると、母材101の構成面Aにおける第1幅は、距離d6ではなく距離d7が誤って取得される。着目するスポット溶接部22aは母材101と103を接合するものであり、同様に母材101と103を接合する最近接のスポット溶接部は22bであるため、正しい第1幅は距離d6である。スポット溶接部23aは母材101,104を接合するものであり、距離d7は誤った第1幅である。
【0049】
そこで本実施形態では、着目するスポット溶接部22aと最近接のスポット溶接部23aについては、接合するものが母材104であってスポット溶接部22aが接合する母材103とは異なることから、距離d7は第1幅として採用しない。そして、着目するスポット溶接部22aと次に近接する最近接のスポット溶接部23aについて、これが接合するものが母材103であってスポット溶接部22aが接合する母材103と同一であることから、距離d6を第1幅として採用する。このように本実施形態では、同一の構成面に属するスポット溶接部でも、当該構成面の母材と接合される母材が異なる場合があることを考慮して、そのような場合でも正確な第1幅及び第2幅を取得することができる。
【0050】
−条件取得装置及び方法の具体的構成−
図15は、第2の実施形態による条件取得装置の概略構成を示す模式図である。
図16は、第2の実施形態による条件取得方法をステップ順に示すフロー図である。
【0051】
本実施形態による条件取得装置は、
図15のように、角度差取得部31、構成面分類部32、溶接部分類部33、及び幅取得部34を備えて構成されている。
【0052】
角度差取得部31は、スポット溶接により接合される各母材について、それぞれ母材のシェル要素の法線方向の角度差を取得する。
【0053】
構成面分類部32は、取得された角度差に基づいて、各母材の表面を構成面ごとに分類する。
【0054】
溶接部分類部33は、各母材について、分類された構成面ごとに当該構成面に属するスポット溶接部を分類する。
【0055】
幅取得部34は、各母材について、分類された構成面ごとにスポット溶接部に関する第1幅及び第2幅を取得する。ここで、着目するスポット溶接部により接合された裏面側の母材と、着目するスポット溶接部と最近接のスポット溶接部により接合された裏面側の母材とが同一である場合に、着目するスポット溶接部について第1幅及び第2幅を取得する。
【0056】
例えばハット型部材を被測定対象物として、FEMによるシミュレーションを行うための解析モデルを作成し、当該解析モデルの有効幅を取得するには、
図16に示すように、先ず角度差取得部31は、スポット溶接により接合されるシェル要素で構成された各母材について、それぞれ母材の隣接するシェル要素の法線方向の角度差を取得する(ステップS21)。
図14A、
図14Bを例に採れば、母材101〜104の各々について、隣接するシェル要素の法線方向の角度差を取得することになる。
【0057】
続いて、構成面分類部32は、取得された角度差に基づいて、各母材の表面を構成面ごとに分類する(ステップS22)。当該角度差が0°〜45°程度の範囲内で規定された所定値以下、例えば15°以下であれば、同一構成面として分類する。
図12A、
図12Bの母材101を例に採れば、天板面である構成面A、各連結面である構成面B1,B2、各縦壁面である構成面C1,C2、各連結面である構成面D1,D2、フランジ面である構成面E1,E2に分類する。
【0058】
続いて、溶接部分類部33は、各母材について、分類された構成面ごとに当該構成面に属するスポット溶接部を分類する(ステップS23)。
図12A、
図12Bの母材101を例に採れば、構成面Aには2つのスポット溶接部22と2つのスポット溶接部23、構成面C1,C2にはそれぞれ2つのスポット溶接部22、構成面E1,E2にはそれぞれ4つのスポット溶接部21が分類される。
【0059】
続いて、幅取得部34は、各母材について、分類された構成面ごとにスポット溶接部に関する第1幅及び第2幅を取得する(ステップS24)。ここで、着目するスポット溶接部により接合された裏面側の母材と、着目するスポット溶接部と最近接のスポット溶接部により接合された裏面側の母材とが同一である場合に、着目するスポット溶接部について第1幅及び第2幅を取得する。
図14A、
図14Bの母材101を例に採り、スポット溶接部22aに着目する。この場合には、スポット溶接部22aが母材101,103を接合することから、幅取得部34は、構成面A内でスポット溶接部22aに近接するスポット溶接部のうち、同様に母材101,103を接合するスポット溶接部22bとの距離d6を第1幅として取得する。また、幅取得部34は、構成面Aと対向する母材103の構成面における第1幅と直交する幅を第2幅として取得する。
【0060】
本実施形態では、上記のようにして各母材の構成面のスポット溶接部ごとに第1幅及び第2幅を取得した後、第1幅及び第2幅を用いて第1の実施形態で説明したステップS1,S2(ステップS11〜S13),S3を実行する。第1の算出部1は、第1幅及び第2幅を用いて所定時間間隔毎に都度算出した荷重の方向に対して直交する方向の有効幅を取得して破断予測式を作成し、第2の算出部2は破断予測を行う。
【0061】
以上説明したように、本実施形態によれば、試験対象の部材が例えば3つ以上の母材がスポット溶接で接合されてなる場合でも、第1の実施形態により取得される有効幅を算出するために必要な部材の所定幅(第1幅及び第2幅)を正確に得ることが可能となり、スポット溶接をモデル化したスポット溶接部の破断予測をより正確に行うことができる。
【0062】
(実施例)
以下、上述した第2の実施形態について、従来技術との比較に基づいて、その奏する作用効果について説明する。
本実施例で被測定対象として用いるハット型部材200を
図17A、
図17Bに示す。ハット型部材200は、ハット型断面状鋼板である母材211と平面状鋼板である母材212とがフランジ面でスポット溶接により接合されており、更に母材211の裏面側に補強用鋼板である母材213,214が配置され、母材211と母材213及び母材211と母材214がスポット溶接で接合されている。母材211,212を接合するスポット溶接部を221とする。母材211,213を接合するスポット溶接部を222とする。母材211,214を接合するスポット溶接部を223とする。ハット部材200では、母材211,212を接合するスポット溶接部221のスポット溶接間距離(例えば、隣り合うスポット溶接部221a,221b間の距離d1)よりも、母材211,213を接合するスポット溶接部222のスポット溶接間距離(例えば、スポット溶接部221a,222a間の距離d2)の方が短くなっている。
【0063】
本実施例では、
図18A、
図18Bに示すように、高さ60mm、幅120mmのハット型部材200を用いて3点曲げ試験を行った。ハット型部材200において、ハット型断面状鋼板である母材211と裏側の平面状鋼板である母材212とが66点のスポット溶接部で接合され、母材211の裏側に補強板として母材213,214が母材211とそれぞれ66点のスポット溶接部で接合されており、スポット間距離は30mm、フランジ幅は15mmである。
図18Bに示すように、ハット型部材200において、母材211,212を接合するスポット溶接部について、各スポット溶接部の位置をA列(A1〜A33)、B列(B1〜B33)と定義している。
【0064】
ハット型部材200の材料は、引張強度1500MPa級鋼板であって、母材211〜214の全てについて板厚1.6mmに作製した。このとき、スポット溶接部のナゲット径は6.3mmである。固定治具215,216でハット型部材100を支持し、固定治具215,216の支点間距離を700mmとし、R150mmのインパクタ217を母材212側から60mmのストロークで押しつけて3点曲げ試験を行った。
【0065】
また、当該実験条件を再現したFEMモデルを作成し、本発明によるプログラムを組み込んだ。スポット溶接部に加わる荷重方向を所定の時間間隔毎に逐次計算し、当該荷重方向に直交する方向の有効幅を楕円則で計算し、当該有効幅を用いて破断クライテリアを算出し、スポット溶接部の破断予測を行った。
【0066】
本実施例では、
図19に示すように、「第2の実施形態」、「第1の実施形態」、「従来技術」について、FEM解析による破断予測結果を調べた。「第1の実施形態」では、前述の第1の実施形態の方法により、ハット型部材200について、荷重方向の変化に応じて所定の時間間隔毎に有効幅を取得した。「第2の実施形態」では、「第1の実施形態」の手法に加え、前述の第2の実施形態の方法により、ハット型部材200の構成面及び母材を考慮した上で適切な第1幅及び第2幅を設定し、有効幅を取得した。「従来技術」では、第1及び第2の実施形態のいずれの方法も実施することなく、有効幅をスポット間隔に固定した。
【0067】
図19の表では、母材211〜214のうち、母材211,212を接合する各スポット溶接部の位置であるA列(A1〜A33)、B列(B1〜B33)について、3点曲げ試験後の各スポット溶接部の破断発生の有無をまとめた結果を示している。各スポット溶接部の破断の発生有無を実験結果と比較し、全66打点について、破断発生有無を正しく予測できている打点数の比率を求めた。
【0068】
「第2の実施形態」により破断を予測した場合の的中率は100%であった。「第1の実施形態」により破断を予測した場合の的中率は92.4%であった。「従来技術」により破断を予測した場合の的中率は77.2%であった。
【0069】
これらの結果から、母材211〜214を備えたハット型部材200については、「従来技術」では破断予測精度は低いことが判る。これに対して、「第1の実施形態」では破断予測精度が向上する。但し、「第1の実施形態」では、構成面や母材213,214を考慮していないため、
図11A、
図11Bで説明したように、誤ったスポット溶接間距離を第1幅及び第2幅として取得する可能性がある。具体例としては、例えば
図17A、
図17Bのように、距離d1を有効幅を算出するための第1幅とすべきところ、距離d2を第1幅として取得してしまう。つまり、「第1の実施形態」では、ハット型部材200の構成面ごとのスポット溶接部に関する第1幅及び第2幅を正しく取得できず、誤った破断予測を示すスポット溶接部もある。一方、「第2の実施形態」では、破断予測の精度が100%であり、被測定対象である部材の構造に関わらず安定した破断予測精度が得られることを確認できた。
【0070】
(第3の実施形態)
上述した第1の実施形態による破断予測装置の各構成要素(
図2の第1の算出手段101及び第2の算出手段102等)の機能、及び第2の実施形態による条件取得装置の各構成要素(
図15の31〜34等)の機能は、コンピュータのRAMやROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。同様に、第1の実施形態による破断予測方法の各ステップ(
図3のステップS2〜S3、
図5のステップS11〜S13等)、第2の実施形態による条件取得方法の各ステップ(
図16のステップS21〜S24等)は、コンピュータのRAMやROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、第3の実施形態に含まれる。
【0071】
具体的に、上記のプログラムは、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、或いは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。上記のプログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、上記のプログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワークシステムにおける通信媒体を用いることができる。ここで、コンピュータネットワークとは、LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等であり、通信媒体とは、光ファイバ等の有線回線や無線回線等である。
【0072】
また、本実施形態に含まれるプログラムとしては、供給されたプログラムをコンピュータが実行することにより第1又は第2の実施形態の機能が実現されるようなもののみではない。例えば、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して第1又は第2の実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本実施形態に含まれる。また、供給されたプログラムの処理の全て或いは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて第1又は第2の実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本実施形態に含まれる。
【0073】
本実施形態では、スポット溶接で接合されたハット型部材の衝突FEM解析におけるスポット溶接部の破断を予測する場合、例えば汎用の衝突解析ソフトであるLS−DYNAのサブルーチンプログラムとして、本発明のプログラムを連動させることが可能である。即ち、衝突時の部材の変形解析にはLS−DYNAを用い、スポット溶接部の破断判定のみに本発明のプログラムを用いる。
【0074】
例えば、
図20は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。この
図19において、1200はCPU1201を備えたパーソナルコンピュータ(PC)である。PC1200は、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、又はフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行する。このPC1200は、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0075】
PC1200のCPU1201、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、第1の実施形態の
図3におけるステップS2〜S3(
図5のステップS11〜S13)の手順、第2の実施形態の
図16におけるステップS21〜S24の手順等が実現される。
【0076】
1203はRAMであり、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209や不図示のデバイス等からの指示入力を制御する。
【0077】
1206はCRTコントローラ(CRTC)であり、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。1207はディスクコントローラ(DKC)である。DKC1207は、ブートプログラム、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイル、ネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211、及びフレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。ここで、ブートプログラムとは、パソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始する起動プログラムである。
【0078】
1208はネットワーク・インターフェースカード(NIC)であり、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、或いは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
なお、パーソナルユーザ端末装置を用いる代わりに、破断予測装置に特化された所定の計算機等を用いても良い。
スポット溶接で接合された部材の変形シミュレーションにおいて、部材(10)のスポット溶接部(14)が設けられた平坦面(13a)において、スポット溶接部(14)を中心とした荷重の方向に直交する方向の幅であって、荷重の変化に対応して変化する有効幅を所定の時間間隔毎に算出し、算出された有効幅を用いてスポット溶接部(14)の破断を予測する。この構成により、例えば自動車部材の衝突変形予測をコンピュータ上で行う場合において、スポット溶接をモデル化したスポット溶接部の破断予測を正確に行うことができる。