【実施例】
【0041】
以下、本発明の暗所視認性を改善する、塗装と光線照射方法および光線照射装置について、実施例を提示して、
図1から
図5を用いて説明する。
【0042】
図1は、夜間の釣りを想定した実施例である。
【0043】
実施例中では、光線照射装置1には、630nmの赤色光を放射する発光ダイオード(LED)と、400nmの近紫外光を放射するLEDが装備されている。すなわち、630nmの400nmの光が光線照射装置より照射される。
【0044】
一方、本実施例では特に注目すべき物標として釣り糸を想定しているが、この特に注目すべき物標4は紫外光を照射されたときに緑色の光を放射す蛍光物質5が一部、もしくは全体に塗布されている。
【0045】
なお、蛍光物質は、物標に塗布され、もしくは内部に含浸されたものなどその形態は問わない。なお、緑色は人間の比視感度特性が優れているため、本実施例には有効であるが、そのほか、蛍光放射効率の高い黄色やオレンジの蛍光物質などを用いてもかまわない。
【0046】
当該者2は、釣り糸以外の物標3を視認するときには、人の目が知覚できる赤色の光7を光源として、物標を認知する。このとき、赤色の光は明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い光に相当するので、瞳孔の縮小は必要最小限にとどめられ、目の感度は高い状態を維持できる。
【0047】
さらに、当該者には赤色の光のみで周囲が照らされているため、色彩情報がなく、明暗とその程度のみをよりどころに、脳が物標を視覚・認知している状況が提供されている。また、近紫外光は当該者にも到達するが、ほとんど目には認識されない。
【0048】
図2は光源として、近紫外光を放射するLuckysunny社製3WパワーUV−LED(EpiledS45mil)と赤色光を放射するLuckysunny社製3WパワーRed−LED(EpiledS42mil)を備えた光線照射装置により照らされた、一般の物標表面から発せられる光を、OcianOptics社製マルチチャンネルCCD分光器HR4000を用いて測定した分光結果を示すグラフである。
【0049】
これによると、物標表面からは、人の目に知覚しうる630nmの赤色光と、人間の目にほとんど知覚できない400nmの光が反射されていることが分かる。
【0050】
一方、当該者が釣り糸を視認するときには、光線照射装置より照射される近紫外光6により、釣り糸に含まれている蛍光物質が励起されることで自ら可視光線である緑色の光8を放射し、この可視光線を当該者は知覚する。
【0051】
図3は、
図2と同様の観測手法を用いて、光線照射装置により照らされた釣り糸、(すなわち一般には特に注目すべき物標)から発せられる光の分光結果を示すグラフである。これによると、照射した2成分の光と、これらとは異なる波長、すなわち525nmに中心波長を持つ緑色の光を含む光が、表面から発せられていることが分かる。
【0052】
さらに、当該者には赤色の光のみで周囲が照らされているため、色彩情報がなく、明暗とその程度のみをよりどころに、脳が物標を視覚・認知している環境下におかれているため、釣り糸から放射される赤色以外の可視光線は、明暗以外の色彩情報を伴う情報となるため、脳にとってきわめて知覚・認知されやすく、視認性が向上する。加えて、蛍光物質からの光は、目の比視感度特性の優れた波長を発するので、その相乗効果で視認性が劇的に向上する。
【0053】
図4は、一般的な白色光の照明により照射された、一方、
図5は本発明の光線照射装置により照射された、特に注目すべき物標とその他の物標を同時に撮影した写真である。通常の光線を当てた
図3では、特に注目すべき物標(上)と、そうではない物標(下)が押しなべて同程度に確認できるのに対して、
図4においては、特に注目すべき物標(上)が、そうではない物標(下)に比べて鮮やかに浮かび上がって見えることが確認できる。
【0054】
なお、光線照射装置に装備されている赤色および近紫外を放射するLEDは、その発光出力やそれぞれの発光出力比を自在に調整できてもかまわない。また、パルス点灯により発光出力を増大させたり、パルス周波数、デューテー比を調節することで単位時間当たりの発光出力および発光出力比を自在に調整することも可能である。
【0055】
また、環境光、もしくは光線照射装置から放射される赤色光および近紫外光が、物標の視認を妨げる場合は、蛍光物質から放射される光のみが通過できるバンドパスフィルターを装備すると、対象の物標以外からの光が遮断されるため、格段に視認性が向上する。
【0056】
本発明の第二の実施形態としては、蛍光物質の代わりに、燐光
物質(蓄光物質
を含む)を用いる。蛍光物質は紫外線が照射されているときのみ可視光線を放射するが、燐光
物質(蓄光物質
を含む)は紫外線を照射された後、しばらく時間が経過しても自ら可視光線を放射する特徴を持つ。
【0057】
燐光
物質(蓄光物質
を含む)を含む物標に、光線照射装置より照射される近紫外光が到達すると、物標に含まれている燐光
物質(蓄光物質
を含む)が励起されることで自ら可視光線の光を放射し、この可視光線を目が知覚する。
【0058】
第一の実施例と異なる点は、光線照射装置からの光の照射が停止しても、しばらくの間は物標が自ら光を放ち、この可視光線を目が知覚できる状況が持続できる点である。
【0059】
このため、光線照射装置の近紫外光を放射するLEDを常に点灯させている必要がなくなる。すなわち、例えば、時間的に間歇的に点灯させる、あるいは時間的にその発光出力を増減させるなどすることができる。
【0060】
間歇的に近紫外光を放射するLEDを点灯させることで、光線照射装置の消費電力を低減することができるほか、近紫外光であってもわずかに人間の目に知覚できる波長成分を含むため、これによる瞳孔の収縮に伴う目の感度の低下を抑えることができる。
【0061】
また、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光
(光線B)として、人体や目、あるいは動物、物標に有害な光線を用いる場合は、光線に曝される正味の量を減じることができる。
【0062】
また、光線を放射する正味の量を減じることができるため、例えば近紫外光に走光性をもつ虫類の誘引を減じることができる。
【0063】
なお、本発明は、その目的、すなわち光線の照射規模や、視認性の向上の程度、要求される視認性の分解能に応じて、光源および蛍光物質の種類や塗装の方法を変更できる。
【0064】
例えば光源にLEDではなくレーザー光源や、高輝度放電ランプやハロゲンランプを単色化のためのバンドパスフィルターなどと組み合わせて用いるなどしても良い。LEDやレーザー光源を用いる場合でも、バンドパスフィルターを通して単色化することで、より本発明の効果が高まる。また、物標への塗装には異なる可視光線を放射する、複数種類の蛍光物質などで塗装しても良い。
【0065】
特に光源にレーザー光線を用いると、単色性に優れており、かつコヒーレントな光であるため、より本発明の目指すところである視認性の向上が期待され、また少ない放射強度でも遠方に光を照射することができる。ただし、照射角が限られ、広い範囲を照射できない特性を持つため、必要に応じて高速に光の照射方向を掃引して照射が必要な面の全面を照射するか、光を拡散させるためのレンズを設けるのが望ましい。
【0066】
なお、本発明の光線照射方法および光線照射装置に、利便性向上のため、通常の白色光を放射する光源を搭載しても良いが、このときは、白色光のみを消灯できるシステム備えたほうが、より有効である。
【0067】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。