特許第6202241号(P6202241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202241
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】暗所視認性を改善した光線照射方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 13/20 20060101AFI20170914BHJP
   A01K 97/00 20060101ALI20170914BHJP
   A01K 91/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   G09F13/20 D
   A01K97/00 Z
   A01K91/00 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-25174(P2013-25174)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-153639(P2014-153639A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】510101192
【氏名又は名称】株式会社プラズマコンセプト東京
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 秀一
(72)【発明者】
【氏名】沖野 晃俊
【審査官】 砂川 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−16827(JP,A)
【文献】 特開2008−228714(JP,A)
【文献】 特開2007−106341(JP,A)
【文献】 米国特許第6474851(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09F 13/00− 13/46
A01K 91/00
A01K 97/00
F21W 111/00−111/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗所で人間が活動する際に、明順応が発生しにくく暗順応にかかる時間が短い波長の光線である赤色光と、知覚しにくく明順応及び暗順応には大きく影響を及ぼさない波長の光線である近紫外光とを物標に照射し、赤色光のみで周囲が照らされているために色彩情報がない環境下で、前記近紫外光の照射によって蛍光物質または燐光物質を活性化させて前記赤色光および前記近紫外光とは異なる波長の可視光領域の光を物標から発生させる光線照射方法。
【請求項2】
前記物標が釣り糸である請求項に記載の光線照射方法。
【請求項3】
前記赤色光を照射する光源aと、前記近紫外光を照射する光源bとを備えた光線照射装置によって光線を照射する請求項1または2に記載の光線照射方法
【請求項4】
光源aが赤色発光ダイオードであり、光源bが近紫外発光ダイオードである請求項に記載の光線照射方法
【請求項5】
光源a及び光源bの発光出力およびそれらの発光出力比を自在に調整する請求項3又は4に記載の光線照射方法
【請求項6】
光源a及び光源bの少なくとも一方の光源を時間的に間歇的に点灯させる、あるいは時間的に発光出力を増減させる請求項3〜5のいずれかに記載の光線照射方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、暗所で人間が活動する際、視覚により物標を発見、確認、観察する際に、視認性を高めるための光線照射方法および光線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人間は完全に光のない条件下では物体を視覚することができず、おぼろげながらにも物体の形状が判別できるためには0.001ルクス程度、物体の形と色との両方を判別できるためには0.1〜1ルクス程度が必要とされている。
【0003】
このため、暗所での活動の際には、古くはろうそくなど、現代では電球、蛍光灯、LEDなどの発光体から発せられる光線を物体に照射することで、視覚に必要となる光を補うのが一般的である。
【0004】
一方、脳が物体の形状などを認知する場合においては、色彩の情報は不必要であるばかりか、認知の妨げになることもある。
【0005】
たとえば、トンネル内での照明にはナトリウム灯から発せられる588nmの波長半値幅が狭い単色光が用いられるが、これは比視感度が高く、さらに塵などで減衰されにくいという利点に加え、単色光であるがゆえに色彩の情報が失われ、明暗のみを頼りに脳が物体の形状や位置を判断できる。すなわち、トンネル内は、ナトリウム灯により目が見えやすく、脳が認知しやすい環境を提供している。
【0006】
そうした、単色光での色彩情報に乏しく、明暗だけで物体を視認している環境下では、特異的な色情報を伴う物体が発現した際、脳は極端にその物体を知覚・認知する。例えば、赤色のブレーキランプが明滅した際、この赤色は、トンネル内で明暗以外の色情報を伴う情報となるため、脳にとってきわめて知覚・認知されやすく、結果的に安全性の向上に繋がっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】脳波と瞳孔反応に対する単波長光の影響、李花子、勝浦哲夫、岩永光一、下村義弘、東洋邦、一條隆、人間と生活環境、15(1)、21−27、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、暗所で人間が活動する際、視覚により物標を発見、確認、観察する際に、視認性を高めるため、光線照射装置から発せられる光が、従来の可視光線全領域にわたって放射される光源を用いず、かつ、物標に塗装を施すことで、視覚および脳で知覚・認知されやすい環境を提供する。
【0009】
従来の暗所行動に用いられる照明類は、電球、蛍光灯、LEDなどの発光体の発光強度を高め、より広く、より明るくするものが好まれる。
【0010】
中でも、携行用途の照明では、電源が電池などを用いるため、使用できるエネルギー量に限界があることから、高効率の発光体を用い、さらに集光することで、光の照射が必要とされる部位のみを局所的により明るくする工夫がなされている。
【0011】
一方、人間の目は周囲の環境の光量に応じて、瞳孔の直径が変化し、環境光が強い場合には瞳孔を閉じて目の感度を低め、環境光が弱い場合には瞳孔を開いて目の感度を高める機構が備わっている。この機能は生理反応のため、人間が自らコントロールすることができない。
【0012】
短時間で環境光が強くなった場合、自らの意思とは関係なく瞳孔の直径が小さくなり目の感度が下がるが、この生理反応は明順応と呼ばれ、一方、短時間で環境光が弱くなった場合、自らの意思とは関係なく瞳孔の直径が大きくなり目の感度が上がるが、この生理反応は暗順応と呼ばれる。
【0013】
明順応は暗順応に比べてはるかに短時間で行われる。明順応は40秒〜1分で完了するのに対し、暗順応には30分〜1時間かかることも希ではない。
【0014】
このために、いたずらに明るく、かつ、局所的に光を照射する照明方法を用いると、明順応が行われ、照明下ではない環境に移動した際、暗順応が完了するまでほとんど何も視覚できない状態におかれる危険性がある。
【0015】
以上のような点に鑑み、本発明は、従来の暗所行動に用いられる光線照射方法および光線照射装置と比べて、明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短く、かつ、物標を視覚および脳で知覚・認知しやすい塗装と光線照射方法および光線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、暗所で人間が活動する際に、明順応が発生しにくく暗順応にかかる時間が短い波長の光線Aと、知覚しにくく明順応及び暗順応には大きく影響を及ぼさない波長の光線Bとを照射し、光線Bの照射によって物質を活性化させて光線Aおよび光線Bとは異なる波長の可視光領域の光を物標から発生させる光線照射方法を提供することによって解決される。
【0017】
このとき、光線Aが赤色光であり、光線Bが近紫外光であることが好ましい。活性化される物質が蛍光物質又は燐光物質であることも好ましい。また、前記物標が釣り糸であることも好ましい。
【0018】
また上記課題は、明順応が発生しにくく暗順応にかかる時間が短い波長の光線Aを照射する光源aと、知覚しにくく明順応及び暗順応には大きく影響を及ぼさない波長の光線Bを照射する光源bとを備えた光線照射装置を提供することによっても解決される。
【0019】
このとき、光線Aが赤色光であり、光線Bが近紫外光であることが好ましく、光源aが赤色発光ダイオードであり、光源bが近紫外発光ダイオードであることがより好ましい。光源a及び光源bの発光出力およびそれらの発光出力比を自在に調整できることも好ましい。光源a及び光源bの少なくとも一方の光源を時間的に間歇的に点灯させる、あるいは時間的に発光出力を増減させることができることも好ましい。また、夜間の釣り用である上記光線照射装置が好適である。
【0020】
すなわち、明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線(光線A)を照射することと、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)を照射する。さらに、特に注目したい物標に、人間の目が知覚しにくい光を照射された際に、可視光線の光を発光する塗装を施すことで、特に注目したい物標が自ら発光することで目が視覚、脳が認知しやすくなり、また、これと同時に明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線を照射することで、その他の物標を視覚するのに必要な照度を確保する。
【0021】
本発明者らは、鋭意検討の結果、光線照射装置から発せられる光が、従来の可視光線全領域にわたって放射される光源を用いず、かつ、物標に塗装を施すことで、視覚および脳で知覚・認知されやすい環境を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線(光線A)を照射することと、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)を照射する。さらに、物標に、人間の目が知覚しにくい光を照射された際に、可視光線の光を発光する塗装を施すことを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、単色もしくは単色に近い明順応が発生しにくい光を照射することで、目が知覚しやすく、脳が認知しやすい環境を提供することを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、明順応が発生しにくい光を照射することで、光線照射装置が稼動しているか否かにかかわらず、常に目が暗順応し、感度の高い状態を保つことができることを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、明順応が発生しにくい光を照射するため、従来の可視光線全領域にわたる光を照射したときと同程度の明順応を発生させるのに必要となる光の強度よりも、著しく強い光線を照射することが可能であることを特徴とする。
【0025】
本発明によれば、本発明による光の照射により明順応が発生しても、従来の可視光線全領域にわたる光を照射したときに比べ、暗順応にかかる時間が短縮され、目の感度が回復する時間が短縮されることを特徴とする。
【0026】
また、本発明によれば、物標に、人間の目が知覚しにくい光が照射された際に可視光線の光を発光する塗装などが施されており、そこに、人間の目が知覚しにくい光が照射することで、その物標が認知されやすいことを特徴とする。
【0027】
本発明に係る、人間の目が知覚しにくい光が照射された際に可視光線の光を発光する塗装は、単色もしくは単色に近い明順応が発生しにくい光の波長とは異なる波長の光を発光することで、その物標が目が知覚しやすく、脳が認知しやすいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
(1)本発明は、暗所での視認性を高めることができる。
(2)また、本発明は明順応による目の感度低下を低減することができる。
(3)また、本発明は明順応による目の感度低下から、短時間で暗順応し目の感度回復にかかる時間を低減することができる。
(4)このため、本発明はより大強度の光線を照射することができる。
(5)またこのため、本発明はより集光した光線を照射することができる。
(6)また、本発明は、物標が自ら環境光および照射した光と異なる波長の光を発光するため、目が見えやすく、脳が知覚しやすい状況を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る光線照射装置と、塗装された物標からなるシステム
図2】本発明に係る光線照射装置により照らされた表面から発せられる光の分光結果
図3】本発明に係る光線照射装置により照らされた、本発明で言う特に注目すべき物標から発せられる光の分光結果
図4】一般的な光源照射装置により照らされた物標の写真
図5】本発明に係る光線照射装置により照らされた物標の写真
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の暗所視認性を改善する、塗装と光線照射方法および光線照射装置の原理を説明する。
【0031】
本発明の実施の形態においては、明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線(光線A)を照射することと、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)を照射すること、さらに、物標に、人間の目が知覚しにくい光を照射された際に、可視光線の光を発光する塗装を施す手法であれば特に限定されない。
【0032】
まず、本実施形態における原理を説明する。本実施形態で用いる光線照射方法は、明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線(光線A)と、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)を照射する。
【0033】
明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線(光線A)とは、例えば成人男性の場合、非特許文献1で調査されているとおり、670nmに発光強度のピークを持つ赤色の光が一例として挙げられる。
【0034】
非特許文献1で示されているところによると、成人男性の目に対し、各波長の光が3μW/cmとなるよう調光された光を暴露したところ、暴露直後の瞳孔の直径は、550nmの光では平常時の約40%まで縮小しているのに対し、670nmの光では約15%にとどまっている。この数値によれば、網膜に到達する光量は670nmの光のほうが、550nmの光に比べて約7倍多いことになる。
【0035】
また、同じく非特許文献1で示されているところによると、光に暴露された約10分後の瞳孔の直径を測定した結果、550nmの光では暴露直後とほぼ変化はなかったのに対し、670nmの光では約1.4倍にまで拡大した。この数値によれば、網膜に到達する光量は670nmの光のほうが、550nmの光に比べて約2倍多いことになる。
【0036】
一方、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)とは、可視光線の領域である380〜810nmから外れる光であるが、一般に450nm以下および700nm以上の光は、人間の目の感度が極端に低くなるため、それらを総称して人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)として使用することができる。
【0037】
人間の目が知覚しにくい光を照射された際に、可視光線の光を発光する塗装には、具体的には蛍光物質が上げられ、これらは紫外領域の光を吸収して、可視光領域の光を自ら発光する。この場合、明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光として、紫外領域もしくはそれに近い波長を持つ光源を用いる。
【0038】
また、近年では、赤外領域の光を吸収して可視光領域の光を自ら発光する素材も存在するため、明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光として、赤外領域もしくはそれに近い波長を持つ光源を用いる場合には、こうした素材を塗装に用いる物質として用いても良い。
【0039】
いずれも、用途や使用環境に応じて、実施の形態は変化し、例えば、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光としてX線などを用いても良いし、電波を用いても良い。このとき、人間の目が知覚しにくい光を照射された際に可視光線の光を発光する塗装の物質には、照射される光に対応する物質を使用すれば良い。
【0040】
また、明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い光(光線A)、および、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)とは、いずれも裸眼での条件に限定されず、例えばバンドパスフィルターなどを備えたサングラスのようなものを装備すれば、自在に使用する波長領域を選択することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の暗所視認性を改善する、塗装と光線照射方法および光線照射装置について、実施例を提示して、図1から図5を用いて説明する。
【0042】
図1は、夜間の釣りを想定した実施例である。
【0043】
実施例中では、光線照射装置1には、630nmの赤色光を放射する発光ダイオード(LED)と、400nmの近紫外光を放射するLEDが装備されている。すなわち、630nmの400nmの光が光線照射装置より照射される。
【0044】
一方、本実施例では特に注目すべき物標として釣り糸を想定しているが、この特に注目すべき物標4は紫外光を照射されたときに緑色の光を放射す蛍光物質5が一部、もしくは全体に塗布されている。
【0045】
なお、蛍光物質は、物標に塗布され、もしくは内部に含浸されたものなどその形態は問わない。なお、緑色は人間の比視感度特性が優れているため、本実施例には有効であるが、そのほか、蛍光放射効率の高い黄色やオレンジの蛍光物質などを用いてもかまわない。
【0046】
当該者2は、釣り糸以外の物標3を視認するときには、人の目が知覚できる赤色の光7を光源として、物標を認知する。このとき、赤色の光は明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い光に相当するので、瞳孔の縮小は必要最小限にとどめられ、目の感度は高い状態を維持できる。
【0047】
さらに、当該者には赤色の光のみで周囲が照らされているため、色彩情報がなく、明暗とその程度のみをよりどころに、脳が物標を視覚・認知している状況が提供されている。また、近紫外光は当該者にも到達するが、ほとんど目には認識されない。
【0048】
図2は光源として、近紫外光を放射するLuckysunny社製3WパワーUV−LED(EpiledS45mil)と赤色光を放射するLuckysunny社製3WパワーRed−LED(EpiledS42mil)を備えた光線照射装置により照らされた、一般の物標表面から発せられる光を、OcianOptics社製マルチチャンネルCCD分光器HR4000を用いて測定した分光結果を示すグラフである。
【0049】
これによると、物標表面からは、人の目に知覚しうる630nmの赤色光と、人間の目にほとんど知覚できない400nmの光が反射されていることが分かる。
【0050】
一方、当該者が釣り糸を視認するときには、光線照射装置より照射される近紫外光6により、釣り糸に含まれている蛍光物質が励起されることで自ら可視光線である緑色の光8を放射し、この可視光線を当該者は知覚する。
【0051】
図3は、図2と同様の観測手法を用いて、光線照射装置により照らされた釣り糸、(すなわち一般には特に注目すべき物標)から発せられる光の分光結果を示すグラフである。これによると、照射した2成分の光と、これらとは異なる波長、すなわち525nmに中心波長を持つ緑色の光を含む光が、表面から発せられていることが分かる。
【0052】
さらに、当該者には赤色の光のみで周囲が照らされているため、色彩情報がなく、明暗とその程度のみをよりどころに、脳が物標を視覚・認知している環境下におかれているため、釣り糸から放射される赤色以外の可視光線は、明暗以外の色彩情報を伴う情報となるため、脳にとってきわめて知覚・認知されやすく、視認性が向上する。加えて、蛍光物質からの光は、目の比視感度特性の優れた波長を発するので、その相乗効果で視認性が劇的に向上する。
【0053】
図4は、一般的な白色光の照明により照射された、一方、図5は本発明の光線照射装置により照射された、特に注目すべき物標とその他の物標を同時に撮影した写真である。通常の光線を当てた図3では、特に注目すべき物標(上)と、そうではない物標(下)が押しなべて同程度に確認できるのに対して、図4においては、特に注目すべき物標(上)が、そうではない物標(下)に比べて鮮やかに浮かび上がって見えることが確認できる。
【0054】
なお、光線照射装置に装備されている赤色および近紫外を放射するLEDは、その発光出力やそれぞれの発光出力比を自在に調整できてもかまわない。また、パルス点灯により発光出力を増大させたり、パルス周波数、デューテー比を調節することで単位時間当たりの発光出力および発光出力比を自在に調整することも可能である。
【0055】
また、環境光、もしくは光線照射装置から放射される赤色光および近紫外光が、物標の視認を妨げる場合は、蛍光物質から放射される光のみが通過できるバンドパスフィルターを装備すると、対象の物標以外からの光が遮断されるため、格段に視認性が向上する。
【0056】
本発明の第二の実施形態としては、蛍光物質の代わりに、燐光物質(蓄光物質を含む)を用いる。蛍光物質は紫外線が照射されているときのみ可視光線を放射するが、燐光物質(蓄光物質を含む)は紫外線を照射された後、しばらく時間が経過しても自ら可視光線を放射する特徴を持つ。
【0057】
燐光物質(蓄光物質を含む)を含む物標に、光線照射装置より照射される近紫外光が到達すると、物標に含まれている燐光物質(蓄光物質を含む)が励起されることで自ら可視光線の光を放射し、この可視光線を目が知覚する。
【0058】
第一の実施例と異なる点は、光線照射装置からの光の照射が停止しても、しばらくの間は物標が自ら光を放ち、この可視光線を目が知覚できる状況が持続できる点である。
【0059】
このため、光線照射装置の近紫外光を放射するLEDを常に点灯させている必要がなくなる。すなわち、例えば、時間的に間歇的に点灯させる、あるいは時間的にその発光出力を増減させるなどすることができる。
【0060】
間歇的に近紫外光を放射するLEDを点灯させることで、光線照射装置の消費電力を低減することができるほか、近紫外光であってもわずかに人間の目に知覚できる波長成分を含むため、これによる瞳孔の収縮に伴う目の感度の低下を抑えることができる。
【0061】
また、人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光(光線B)として、人体や目、あるいは動物、物標に有害な光線を用いる場合は、光線に曝される正味の量を減じることができる。
【0062】
また、光線を放射する正味の量を減じることができるため、例えば近紫外光に走光性をもつ虫類の誘引を減じることができる。
【0063】
なお、本発明は、その目的、すなわち光線の照射規模や、視認性の向上の程度、要求される視認性の分解能に応じて、光源および蛍光物質の種類や塗装の方法を変更できる。
【0064】
例えば光源にLEDではなくレーザー光源や、高輝度放電ランプやハロゲンランプを単色化のためのバンドパスフィルターなどと組み合わせて用いるなどしても良い。LEDやレーザー光源を用いる場合でも、バンドパスフィルターを通して単色化することで、より本発明の効果が高まる。また、物標への塗装には異なる可視光線を放射する、複数種類の蛍光物質などで塗装しても良い。
【0065】
特に光源にレーザー光線を用いると、単色性に優れており、かつコヒーレントな光であるため、より本発明の目指すところである視認性の向上が期待され、また少ない放射強度でも遠方に光を照射することができる。ただし、照射角が限られ、広い範囲を照射できない特性を持つため、必要に応じて高速に光の照射方向を掃引して照射が必要な面の全面を照射するか、光を拡散させるためのレンズを設けるのが望ましい。
【0066】
なお、本発明の光線照射方法および光線照射装置に、利便性向上のため、通常の白色光を放射する光源を搭載しても良いが、このときは、白色光のみを消灯できるシステム備えたほうが、より有効である。
【0067】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 光源照射装置
2 当該者(観察者)
3 物標
4 特に注目すべき物標
5 塗布された蛍光物質
6 人間の目が知覚しにくく、すなわち明順応・暗順応には大きく影響を及ぼさない光線(光線B)
7 明順応が発生しにくく、また暗順応にかかる時間が短い波長の光線(光線A)
8 蛍光物質が自ら発光することにより放出される可視光線
図1
図2
図3
図4
図5