特許第6202246号(P6202246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202246ワイヤレス通信ネットワークにおけるルーティング方法およびシステム、ルーティングプログラムならびに通信端末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202246
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ワイヤレス通信ネットワークにおけるルーティング方法およびシステム、ルーティングプログラムならびに通信端末
(51)【国際特許分類】
   H04W 40/02 20090101AFI20170914BHJP
   H04W 40/30 20090101ALI20170914BHJP
   H04W 84/18 20090101ALI20170914BHJP
【FI】
   H04W40/02
   H04W40/30
   H04W84/18
【請求項の数】17
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-71324(P2013-71324)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-195225(P2014-195225A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年2月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発」(大規模災害においても通信を確保する耐災害ネットワーク管理制御技術の研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(72)【発明者】
【氏名】小倉 一峰
(72)【発明者】
【氏名】植田 啓文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 範人
【審査官】 篠田 享佑
(56)【参考文献】
【文献】 西村 貴美 Kimi Nishimura,"動的無線ネットワークのためのルーティング選択アルゴリズム A Routing Selection Algorithm for Dynamic Wireless Networks",電子情報通信学会2013年総合大会講演論文集 通信2 PROCEEDINGS OF THE 2013 IEICE GENERAL CONFERENCE (2013-03-05),2013年 3月 5日
【文献】 小倉 一峰 Kazumine Ogura,"大規模DTN環境下における階層化ルーティング方式 A hierarchical routing protocol scalable DTN environments",電子情報通信学会2013年総合大会講演論文集 通信2 PROCEEDINGS OF THE 2013 IEICE GENERAL CONFERENCE (2013-03-05),2013年 3月 5日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24− 7/26
H04W 4/00−99/00
3GPP TSG RAN WG1−4
SA WG1−4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる通信環境下におけるルーティング方法であって、
ルーティングを行う通信端末が、経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を保持し、
前記通信端末が、自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択する
ことを特徴とするルーティング方法。
【請求項2】
自端末の階層アドレスと宛先通信端末の階層アドレスとのマッチング結果が階層アドレスの先頭不一致であればDTNルーティング方式を、先頭のみ一致すれば階層化ルーティング方式を、完全一致であればMANETルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項1に記載のルーティング方法。
【請求項3】
前記経路情報がMANETルーティングの経路情報であればMANETルーティング方式を、MANETルーティングの経路情報でなければDTNルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項1に記載のルーティング方法。
【請求項4】
前記通信環境は、前記通信端末および前記宛先通信端末が存在する空間、通信端末数、通信端末密度、通信端末移動速度、通信端末の消費電力、通信端末の電池残量および通信リンク状態の少なくとも1つに依存する環境であることを特徴とする請求項1−のいずれか1項に記載のルーティング方法。
【請求項5】
ルーティング機能を有する複数の通信端末からなるルーティングシステムであって、
前記複数の通信端末の各々が、経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を保持し、
前記通信端末が、自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択する
ことを特徴とするルーティングシステム。
【請求項6】
自端末の階層アドレスと宛先通信端末の階層アドレスとのマッチング結果が階層アドレスの先頭不一致であればDTNルーティング方式を、先頭のみ一致すれば階層化ルーティング方式を、完全一致であればMANETルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項5に記載のルーティングシステム。
【請求項7】
前記経路情報がMANETルーティングの経路情報であればMANETルーティング方式を、MANETルーティングの経路情報でなければDTNルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項5に記載のルーティングシステム。
【請求項8】
前記通信環境は、前記通信端末および前記宛先通信端末が存在する空間、通信端末数、通信端末密度、通信端末移動速度、通信端末の消費電力、通信端末の電池残量および通信リンク状態の少なくとも1つに依存する環境であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のルーティングシステム。
【請求項9】
ルーティング機能を有する通信端末であって、
経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を管理するルーティング管理手段と、
自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択するルーティング統括手段と、
を有することを特徴とする通信端末。
【請求項10】
前記ルーティング統括手段は、自端末の階層アドレスと宛先通信端末の階層アドレスとのマッチング結果が階層アドレスの先頭不一致であればDTNルーティング方式を、先頭のみ一致すれば階層化ルーティング方式を、完全一致であればMANETルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項に記載の通信端末。
【請求項11】
前記ルーティング統括手段は、前記経路情報がMANETルーティングの経路情報であればMANETルーティング方式を、MANETルーティングの経路情報でなければDTNルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項9に記載の通信端末。
【請求項12】
前記通信環境は、前記通信端末および前記宛先通信端末が存在する空間、通信端末数、通信端末密度、通信端末移動速度、通信端末の消費電力、通信端末の電池残量および通信リンク状態の少なくとも1つに依存する環境であることを特徴とする請求項11のいずれか1項に記載の通信端末。
【請求項13】
ルーティング機能を有する通信端末としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を管理するルーティング管理機能と、
自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択するルーティング統括機能と、
を前記コンピュータにより実現させることを特徴とするプログラム。
【請求項14】
前記ルーティング統括機能は、自端末の階層アドレスと宛先通信端末の階層アドレスとのマッチング結果が階層アドレスの先頭不一致であればDTNルーティング方式を、先頭のみ一致すれば階層化ルーティング方式を、完全一致であればMANETルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記ルーティング統括機能は、前記経路情報がMANETルーティングの経路情報であればMANETルーティング方式を、MANETルーティングの経路情報でなければDTNルーティング方式を、それぞれ選択することを特徴とする請求項13に記載のプログラム。
【請求項16】
前記通信環境は、前記通信端末および前記宛先通信端末が存在する空間、通信端末数、通信端末密度、通信端末移動速度、通信端末の消費電力、通信端末の電池残量および通信リンク状態の少なくとも1つに依存する環境であることを特徴とする請求項1315のいずれか1項に記載のプログラム。
【請求項17】
前記ルーティング管理手段が、前記階層化ルーティング方式、前記DTNルーティング方式および前記MANETルーティング方式にそれぞれ対応した経路情報を格納し、
前記ルーティング統括手段が、
受信メッセージが自端末宛ではない場合、自端末および宛先通信端末の階層アドレスに基づいて前記複数のルーティング方式から前記ルーティング方式を選択し、
前記選択されたルーティング方式に対応する経路情報から次ホップの通信端末を特定して前記受信メッセージを転送する、
ことを特徴とする請求項9−12のいずれか1項に記載の通信端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤレス通信ネットワークに係り、特に複数の通信端末間でルーティングを行うための方法、システム、プログラム、ならびにそのルーティングを実行する通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信インフラが存在しない地域での、あるいは通信インフラが崩壊した場合のコミュニケーション手段として、モバイルアドホックネットワーク(Mobile Ad-hoc Networks:MANET)が注目されているが、広範囲にわたるMANET環境では、通信端末数増加による経路情報の膨大化が問題となる。そこで、ネットワークを階層構造にしたり経路制御に使用するアドレスを動的に割り当てたりすることによって、経路情報をさらに削減するスケーラブルな階層化ルーティング方式が提案されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
たとえば、図1に示すように、多数の通信端末が物理的に存在する物理トポロジ上の論理トポロジLv1では、ある端末から1ホップ程度の範囲をMANET環境で使用されるルーティングプロトコル(ここではDSR:Dynamic Source Routing)を用いたルーティング粒度とする。さらに上述した階層化ルーティング方式を用いることで、論理トポロジLv2において、論理トポロジLv1でLv1の端末を管理するために選ばれた端末を中心にたとえば数ホップ程度の範囲をルーティング粒度とし、以下同様にして図1の太線で示すような階層ツリーを構築する。
【0004】
一方、災害時などにおけるDTN環境におけるスケーラビリティはさらに広域な範囲の経路情報を管理する必要がある。さらに、ネットワークが分断されて通信接続が保証されない離れたMANET間においても通信できる必要がある。すなわち、DTN環境では、課題として以下の二つがあげられる。
【0005】
(1)経路情報の膨大化抑制
(2)中継通信端末を経由しても通信が確立できない通信端末に対する経路認識のロバスト性
【0006】
経路情報の膨大化抑制については、上述したMANETにおける階層化ルーティング方式により達成可能である。しかしながら、MANETにおいては、通信端末間で常に通信可能なネットワークが安定して繋がっており、宛先までの経路をルーティングプロトコルによって判断することができる範囲をルーティングドメインとしている。したがって、図2に示すようにネットワークが分断された場合、分断されたそれぞれのルーティングドメインMANET1およびMANET2が繋がるまでは、送信元通信端末S1から他のルーティングドメインに所属する通信端末D1にデータを送信しようとしても、宛先への経路が不明となり、宛先通信端末と通信することはできない。
【0007】
一方で、経路認識のロバスト性に関しては、特許文献1や非特許文献3にDTN(Delay /Disruption Tolerant Network:遅延許容ネットワーク)ルーティング技術が提案されている。DTNルーティング技術では、宛先通信端末D1への転送データを蓄積することを特徴とし、遭遇した通信端末M1およびM2間で経路情報を交換し、宛先に届ける可能性が最も高いと思われる通信端末に対して蓄積した転送データを渡すという動作を行っている。これにより、図2に示すようにネットワークが分断されて複数のルーティングドメインが存在した場合においても、互いの通信端末の遭遇を期待して他のルーティングドメインの通信端末との通信が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−205890号公報(第8−11頁)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Xiaoyan Hong,Kaixin Xu and Mario Gerla, “Scalable Routing Protocols for Mobile Ad Hoc Networks,”IEEE Network Magazine, July-Aug,2002,pp.11-21
【非特許文献2】Shu Du,Ahamed Khan,Santashil PalChaudhuri,Ansley Post,Amit Kumar Saha,Peter Druschel,David B.Johnson and Rudolf Riedi,“Safari: A self-organizing,hierarchical architecture for scalable ad hoc networking.”Ad Hoc Netw., 6(4):485-507,2008.
【非特許文献3】DTN Research Group,“Internet Draft draft-irtf-dtnrg-arch-04.txt,”http://www.dtnrg.org/docs/specs/draft-irtf-DTNrg-arch-04.txt
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献3のDTNルーティング技術においては、最初からネットワークの断絶を想定しているため、特にルーティングドメインを考慮することなく、遭遇した個々の通信端末間で経路情報を交換する仕組みを採用している。それゆえ、非特許文献1および非特許文献2のような経路情報の削減を行うことができず、通信端末はネットワークに所属する通信端末ごとに経路情報を保有する必要がある。すなわち、非特許文献3に開示されたDTNルーティング技術では、上述した経路情報の膨大化抑制と経路認識のロバスト性という2つの課題を同時に満たすことができない。
【0011】
一般に、上述した各ルーティング方式は特定の環境にのみ、もしくは想定に近い環境でしか機能しない。例えばMANETのルーティングは、通信端末間で常に通信可能なネットワークが安定して繋がっているような環境に適しており、DTN環境のように中継通信端末を経由しても通信が確立できないような離れた通信端末に対しては機能しない。一方、DTNルーティングは、比較的少ない数の通信端末が中継通信端末を経由しても通信が確立できないような場合に適しており、多数の通信端末が参加するような大規模なルーティングでは経路情報が膨大となるために適していない。
【0012】
このように、上述したルーティング方式を採用したシステムは、多数の通信端末が参加するような大規模環境、通信端末が過密な環境、逆に過疎な環境、通信端末同士が互いに継続的な接続を保持するMANET内に限らず広域なエリアにおいて通信端末同士が互いに継続的な接続を保持できないような環境、水中や空中や衛星など陸上とは異なる環境などが混在するようなエリアでは効率的なルーティングを行うことができない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、異なる環境をまたいで効率的なルーティングを達成できるルーティング方法およびシステム、ルーティングプログラムならびに通信端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるルーティング方法は、異なる通信環境下におけるルーティング方法であって、ルーティングを行う通信端末が、経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を保持し、前記通信端末が、自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択することを特徴とする。
本発明によるルーティングシステムは、ルーティング機能を有する複数の通信端末からなるルーティングシステムであって、前記複数の通信端末の各々が、経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を保持し、前記通信端末が、自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択することを特徴とする。
本発明による通信端末は、ルーティング機能を有する通信端末であって、経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を管理するルーティング管理手段と、自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択するルーティング統括手段と、を有することを特徴とする。
本発明によるプログラムは、ルーティング機能を有する通信端末としてコンピュータを機能させるプログラムであって、経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティング方式と、DTN(Delay /Disruption Tolerant Network)ルーティング方式と、MANET(Mobile Ad-hoc Networks)ルーティング方式とを含む複数のルーティング方式を管理するルーティング管理機能と、自端末および宛先通信端末の階層アドレスまたは前記経路情報に基づいて、前記複数のルーティング方式から、自端末と宛先通信端末とを含む通信環境に適したルーティング方式を選択するルーティング統括機能と、を前記コンピュータにより実現させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、通信環境に適したルーティング方式を選択することで、様々な異なる環境をまたいだ効率的なルーティングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は階層化ルーティング方式について説明するためのネットワーク階層構造を示す模式図である。
図2図2はMANET環境とDTN環境の問題点を説明するための模式的ネットワーク図である。
図3図3は本発明の一実施形態によるルーティング方法を説明するためのネットワーク構成の一例を示す模式的ネットワーク図である。
図4図4は本発明の一実施例による通信端末の機能的構成を示すブロック図である。
図5図5は本実施例におけるMANETルーティングテーブルの一例を示す模式的なテーブル構成図である。
図6図6は本実施例における階層化ルーティングテーブルの一例を示す模式的なテーブル構成図である。
図7図7は本実施例におけるDTNルーティングテーブルの一例を示す模式的なテーブル構成図である。
図8図8は本実施例における通信端末のルーティングテーブル選択制御を示すフローチャートである。
図9図9は本実施例によるルーティング方法を説明するためのネットワーク構成の一例を示す模式的ネットワーク図である。
図10図10は本発明の他の実施例による通信端末の機能的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態によれば、粒度や性質等が異なる複数の通信環境の下でルーティングを行う場合に、それぞれの通信環境に適したルーティングテーブルを構築し、通信環境に応じて使用するルーティングテーブルを選択する。このように、複数の異なるルーティング方式を状況に応じて使い分けることで、様々な異なる環境をまたいだ効率的なルーティングが可能となり、経路情報の膨大化抑制と経路認識のロバスト性という2つの課題を同時に満たすことができる。たとえばMANETルーティングとDTNルーティングとを組合せ、状況に応じていずれかを実行することで、多数の通信端末が参加し、かつDTN環境のように中継通信端末を経由しても通信が確立できない通信端末が存在するような環境においてもルーティングが可能となる。以下、本発明の一実施形態および一実施例について図面を参照しながら説明する。
【0018】
1.一実施形態
説明を複雑化しないために、図3に示すネットワーク構成を一例として説明する。ここでは多数の通信端末が参加する環境1および環境2が通信媒体を通して情報が届かないほど離れた広域な環境3を想定する。また、ここでは、環境2のなかに通信がより確実な環境21が含まれているものとする。図3では、環境1内の送信元端末S1から環境21内の宛先通信端末D1へ複数の通信端末を中継してデータを送信するシナリオを示している。なお、このような大規模環境だけでなく、ネットワーク構成として通信端末数が少なく、または電波が届く範囲に通信端末が集まるような環境であっても本実施形態は適用可能である。
【0019】
また、ここでいう環境とは通信環境であり、たとえば陸上、水中、空中または宇宙などの通信端末が存在する空間、ネットワークに参加する通信端末の数などのネットワークサイズ、ネットワークに参加する通信端末の配置密度、ネットワークに参加する通信端末の移動度、通信端末の消費電力や電池残量、通信端末間の距離、電波干渉等による通信端末間のリンク状態、あるいはそれらを組み合わせに依存する。
【0020】
通信端末は、ワイヤレス通信機能を有するユーザ端末、携帯情報端末、携帯電話機等の通信装置であって、後述するルーティング機能を有する。なお、ワイヤレス通信は、電磁波による通信だけでなく音波を媒体とした通信も含むが、ここでは電波による無線通信を例示する。
【0021】
図3において、各通信端末は互いに無線通信で接続しネットワーク環境を構築しているものとする。1つの環境は1台以上の通信端末から成り、通信端末がお互いに接続を維持することでネットワークを構築している。1つの環境内では、その環境内の通信端末を辿ることで、確実性は異なるが同一環境内の他の通信端末と通信することが可能である。さらに、各通信端末には、環境1、2、3および21にそれぞれ適した複数のルーティング方式が備えられている。
【0022】
図3に示す例おいて、送信元通信端末S1は、宛先通信端末D1との位置関係を指標として宛先通信端末D1が同一環境1内の通信端末ではないと判断し、環境3に適した第1ルーティング方式を選択する。位置関係としては階層アドレスや距離の他に、通信端末密度や環境(水中/空中)の違いなどの状況、あるいは端末電池残量などを用いることもできる。なお、ここでいう距離には、物理的な距離だけでなく、送信元から宛先までのホップ数やデータが到達するまでの予想時間などのネットワーク的な距離も含まれる。
【0023】
この例では、環境1内にある通信端末で同様の判断がされるので、通信端末S1から中継通信端末R1、R2を通して通信端末M1まで、各通信端末は第1ルーティングを実行し、宛先通信端末D1へ向かう経路情報を順次選択していく(動作S10)。
【0024】
このようにして送信元通信端末S1から通信端末M1までルーティングされた後、通信端末M1がデータを蓄積して環境2に移動したとする(動作S11)。このとき、通信端末M1は、判断指標により宛先通信端末D1と同じ環境2に入ったことを知ると、第1ルーティングから環境2に適した第2ルーティングへ切り替え、中継通信端末R3、R4は第2ルーティングにより経路を順次選択していく(動作S12)。最後に、宛先通信端末D1と同じ環境21に属する通信端末R5からは環境21に適した第3ルーティングに切り替わり宛先通信端末D1までのルーティングが完了する(動作S13)。
【0025】
なお、第1〜第3ルーティング方式の選択順はネットワーク構成やリンク状態等に依存して変化しうるものであるから、図3に示す選択順はあくまでも一例に過ぎない。
【0026】
上述したように、本実施形態によれば、複数の異なるルーティング方式を状況に応じて切り替えることで、様々な異なる環境をまたいだルーティングが可能となる。
【0027】
2.一実施例
2.1)通信端末の構成
図4において、本発明の一実施例による通信端末100は、無線通信部101と、異なる通信環境にそれぞれ適したルーティング管理部R1、R2およびR3と、それら異なるルーティング管理部を統括して制御するルーティング統括部102とを有する。無線通信部101は他の通信端末との間で無線通信を行い、宛先通信端末の階層アドレスを取得するためのメッセージ、ルーティング制御による制御メッセージ、ルーティングにより転送される画像や映像といったコンテンツなどを送受信する。
【0028】
本実施例におけるルーティング管理部R1、R2およびR3は、それぞれMANETルーティング管理部、階層化ルーティング管理部およびDTNルーティング管理部である。ただし、ルーティング管理部R1、R2およびR3は、前述したものだけでなく、他のルーティング方式を用いることもできる。たとえば、水中、空中、さらには宇宙などの異なる環境に通信端末がいる場合に適したルーティング、通信端末が密集していたり、逆に過疎であったりする環境を想定したルーティング、通信端末の消費電力あるいは電池消耗を考慮したルーティング、通信端末が高速かつ頻繁に移動する状況に適応したルーティングなど、特徴の異なるルーティング管理部を組み合わせてもよい。
【0029】
ある通信環境に適した、あるいは適さないルーティング方式の例として、MANETのルーティング方式であるOLSR(Optimized Link State Routing)とAODV(Ad Hoc On Demand Distance Vector)を比較する。OLSRはプロアクティブ(Proactive)なルーティング方式であるために、通信端末が頻繁に移動するMANET環境では通信端末の移動により経路構築および経路確立の継続が困難である。一方、AODVはリアクティブ(Reactive)なルーティング方式であり、送信時に経路を構築するため、ある程度モビリティに対して耐性がある。逆に、通信端末が静止している状況では、AODVが実際にデータを送信するまでに時間がかかるのに対して、OLSRは経路を常に保持しているため、すぐにデータを送信できるという利点がある。つまり、通信端末のモビリティが頻繁である環境ではAODVが適しており、通信端末のモビリティがない環境ではOLSRが適している。
【0030】
MANETルーティング管理部R1は経路情報データベース(DB)110とルーティング経路制御部111を有し、例えば、DSR、AODV、DSDV、OLSRなど、いわゆるMANET環境で使用されるルーティング方式である。図5は経路情報DB110に格納されるルーティングテーブルの一例である。
【0031】
階層化ルーティング管理部R2は経路情報DB120とルーティング経路制御部121を有する。階層化ルーティング管理部R2では、多数の通信端末が参加するようなネットワークにおいて経路情報が膨大化するのを抑制するため、階層アドレスにより経路情報を扱うルーティング方式が使用される。例えば、非特許文献2に記載された階層化ルーティング方式、もしくは他のドメインルーティング方式が使用されうる。図6は経路情報DB120に格納されるルーティングテーブルの一例である。
【0032】
DTNルーティング管理部R3は経路情報DB130とルーティング経路制御部131とを有し、例えば、DTNルーティングのように通信端末同士がすれ違った場合にお互いの経路情報を交換するルーティング方式などで構成される。図7は経路情報DB130に格納されるルーティングテーブルの一例である。
【0033】
以下、階層化ルーティング、MANETルーティング、DTNルーティングの順で、それぞれのルーティング管理部について説明する。
【0034】
<階層化ルーティング管理部>
ここでは階層化ルーティング方式として、非特許文献2に記載されたスケーラブルなアドホックネットワーキングのための自己組織化、階層化アーキテクチャを例に挙げて説明する。
【0035】
ルーティング経路制御部121は、経路情報DB121への経路情報の登録、削除、変更、取得の他に、後述する制御メッセージの処理を行う。まずランダムな時間待機し、周りの通信端末から論理トポロジレベルLv1のブロードキャストメッセージを受信しなければ、制御メッセージとして自身がLv1のブロードキャストメッセージを送信する。このブロードキャストメッセージには自身の階層アドレスが含まれており、定期的に送信され、ある特定のTTL(Time To Live)を有する。
【0036】
上記メッセージをルーティング経路制御部121が受信した場合、TTLが0以下にならない限り、ブロードキャストメッセージを転送する。自身が一度送信もしくは転送した制御メッセージは廃棄するなどの処理を行う。
【0037】
また、ブロードキャストメッセージを受信した場合、ルーティング制御部121は、ブロードキャストメッセージの1ホップ前の通信端末を記録する。もし、論理トポロジレベルLv1のブロードキャストメッセージを送っている通信端末が他の送信元によるLv1のブロードキャストメッセージを受信した場合には、条件付きでLv1のブロードキャストメッセージの送信をやめる。一方で、特定の条件の際には、ランダムな時間だけ待ち、周りの通信端末からLv2のブロードキャストメッセージを受信しなければ、制御メッセージとして自身がLv2のブロードキャストメッセージを送信する。
【0038】
このような動作を繰り返すことで、図1に示すような階層を構築していき、最終的にMANET内で先頭の階層アドレスが同じになるように各通信端末に階層アドレスが割り当てられる。MANET内は階層アドレスの先頭が一致することを想定しているが、特に一致する必要はない。たとえば、図1において論理トポロジレベルLv3が存在せず、論理トポロジレベルLv2の通信端末が複数存在してもよい。
【0039】
経路情報DB120は、ルーティング制御部121の制御メッセージの処理で、受信したブロードキャストメッセージから送信元通信端末S1までの階層アドレスによる経路を登録し、これによりMANET内における階層アドレス間の経路を構築する。階層化ルーティングの経路情報DB120の特徴は、MANET環境における経路情報を階層アドレスで管理することで多数の通信端末への経路情報を集約し、宛先通信端末D1が属する階層アドレスまでの経路情報を所持することができる。ただし、宛先通信端末D1が属する階層アドレスまでの経路情報を持っているが、MANET内すべての通信端末までの経路を確実に保証するものではない。
【0040】
<MANETルーティング管理部>
ここでは、後述する階層化ルーティングとの連携のため、特に同一階層アドレスに属する通信端末への経路情報を持つルーティングを取り上げる。
【0041】
ルーティング経路制御部111は、経路情報DB110への経路情報の登録、削除、変更、取得の他に、後述する制御メッセージの処理を行う。また、後述する階層化ルーティングで受信したブロードキャストメッセージの送信元に対してユニキャストのメッセージを定期的に送信することで自身の通信端末100までの経路を伝える。このユニキャストのメッセージを受信した場合、ルーティング制御部111は、ブロードキャストメッセージを受信した際に、階層化ルーティング管理部内の経路情報DBに記録している1ホップ前の通信端末に対してメッセージを転送する。このようにホップ・バイ・ホップ(hop−by−hop)でブロードキャストメッセージの転送経路の逆経路を辿ることでユニキャストメッセージをブロードキャストメッセージの送信元に届けることができる。
【0042】
経路情報DB110は、ルーティング経路制御部111で処理されたブロードキャストメッセージの逆経路を辿ってきたユニキャストメッセージを基に、ユニキャストメッセージの送信元までの経路情報を格納する。これにより、同一階層アドレス内の通信端末の経路情報を知ることができる。経路情報DB110の特徴は、近隣の通信端末への経路情報を管理しており、特に同一階層アドレス内の通信端末までの経路を含む経路情報を所持していることである。
【0043】
<DTNルーティング管理部>
ここでは、前述した階層化ルーティングとの連携のため、経路情報の集約されたルーティングドメインを交換するDTNルーティングを取り上げる。
【0044】
ルーティング経路制御部131は、経路情報DB130への経路情報の登録、削除、変更、取得の他に、後述する制御メッセージの処理を行う。たとえば、通信端末100が移動通信端末M1である場合、前述した階層化ルーティングで使用されたブロードキャストメッセージに含まれる階層アドレスを基に、階層アドレスの先頭が自身の階層アドレスの先頭と異なるデータを受信した場合、自身が属するMANETとは異なるMANETに属する通信端末によるブロードキャストメッセージであると判断する。そして、自身の知る階層アドレス経路情報をリブロードキャストメッセージとして報知する。その際、DTNルーティング管理部R3の経路情報DB130および階層化ルーティング管理部R2の経路情報DB120から、受信したブロードキャストに含まれる階層アドレスの先頭とは異なる階層アドレスをもつ通信端末への経路情報を取得してくる。
【0045】
経路情報DB130は、ルーティング経路制御部131で処理された異なる階層アドレスの先頭をもつブロードキャストメッセージや、受信されたリブロードキャストメッセージに含まれる階層アドレス情報を基に、自身の階層アドレスとは先頭が異なる階層アドレスの経路情報を登録する。その際、図7に示すように、各経路情報のエントリに対して、宛先へのデータ到達の信頼度としての到達確率が設定される。この到達確率は、当該通信端末と宛先通信端末との距離など(物理的な距離、HOP数、前回接続があった時間など)信頼度の指標となりえる情報から算出されることを想定している。実際に継続した通信が維持できるかどうかわからないので、経路情報DB130は到達確率のような宛先通信端末への到達信頼度を設定している。
【0046】
このように、経路情報DB130は、DTN環境のように中継通信端末を経由しても通信の確立が保証されないような経路情報が格納され、宛先のルーティングドメイン(今回は、階層アドレス)の経路情報に対して到達確率が設定されており、宛先通信端末が属する階層アドレスの先頭が一致する通信端末までの経路情報を所持している。
【0047】
<ルーティング統括部>
ルーティング統括部102は以下の機能を有する。
・階層化ルーティングのための宛先通信端末D1の階層アドレス情報を取得する機能。
・得られた階層アドレス情報からMANET、階層化、DTNルーティングのうちどれを使用するかを判断する機能。
・複数のルーティング管理部R1−R3によって経路構築のために使用されるメッセージを無線通信部101に受け渡し、またはそれらのメッセージを受け取って各ルーティング経路制御部111、121あるいは131に振り分ける機能。
・各ルーティング管理部の間で必要な情報を交換する機能。
【0048】
ルーティング管理部R1、R2およびR3の間での情報交換の例としては以下のケースがある。
・階層化ルーティングで生成された階層アドレスの情報がもしある一定期間更新されない場合、その階層アドレスの群から自身が離れた可能性があるので、その階層アドレスの情報をDTNルーティングの経路情報DBに移動する。
・DTNルーティング制御部131にてリブロードキャストメッセージを送信する際に自身の知る階層アドレスの経路情報として階層化ルーティング管理部R2の経路情報DB120の経路情報を取得する。
・MANETルーティング制御部111にて経路通知を行うためにユニキャストメッセージを送信する際の宛先までの経路として、階層化ルーティング管理部R2で行われたブロードキャストメッセージの転送情報を使う。
【0049】
上述したように、異なるルーティング管理部R1−R3は異なるエリアを対象とする経路情報を異なる情報粒度で所持している。各通信端末100が異なるルーティング管理部R1−R3を持つことで、DTN環境や大規模なMANET環境、さらにはそれらを組み合わせた環境であっても、宛先通信端末D1までのルーティングが可能となる。
【0050】
なお、上記説明では、ルーティング統括部102が階層アドレスに基づいてルーティング方式を選択する方法を説明したが、階層アドレス以外にも、上述したように、物理的あるいはネットワーク的な距離、状況(通信端末密度や環境(水中/空中)の違い)、その他端末電池残量などの指標に基づくルーティングの使い分けも可能である。
【0051】
2.2)ルーティング統括制御
次に、通信端末100がルーティング統括部102にてデータ(コンテンツや制御メッセージなど)を受信してから送信もしくは転送されるまでの一連の流れを図8図10を参照しながら説明する。
【0052】
以下、本実施例の動作の説明では、送信元通信端末S1から宛先通信端末D1までの距離に応じてルーティング方式を選択するものとする。距離とは送信元から宛先までのHOP数、物理的な距離、データが到達するまでの予想時間など、物理的な距離からネットワーク的な距離を含むものとする。また、その他さまざまな要素(端末密度や端末の電池残量)や状況に応じてルーティング方式を選択することも可能である。
【0053】
ルーティング統括部102は、届いたメッセージがルーティングの制御メッセージであるか否かを識別し(動作201)、制御メッセージであれば(動作201;YES)、処理する制御メッセージがどのルーティングの制御メッセージであるかを判断し、当該ルーティング経路制御部にメッセージを渡す(動作202)。
【0054】
到達メッセージが制御メッセージでなければ(動作201;NO)、ルーティング統括部102は当該メッセージの宛先を確認する(動作203)。自端末宛てもしくはブロードキャストアドレスであれば受信し(動作203;YES)、自端末宛でなければ(動作203;NO)、自端末は中継通信端末であると判断し、宛先通信端末の階層アドレスを取得する(動作204)。
【0055】
たとえば、図9に示す例に従えば、宛先通信端末D1の階層アドレスである“b.ba”が取得される。ただし、階層アドレスを取得する場合、中継通信端末は、データを受け取る度に名前情報格納端末にアクセスして宛先通信端末の階層アドレスを取得する必要がある。この名前解決の手順を省略するために、一度階層アドレスを取得したら、その階層アドレスをその新鮮度とともに転送するデータに載せてもよい。この新鮮度は、当該通信端末と宛先通信端末との距離など(物理的な距離、HOP数、前回接続があった時間など)の情報から算出されることを想定している。すなわち、それ以降の中継通信端末は、その階層アドレスと新鮮度とに基づいて、到達確率を用いて宛先通信端末への経路情報の信頼度を算出する。そして、一定の条件に該当する場合に、名前情報格納端末へアクセスするようにすることで名前解決のための遅延や手順を省略することも可能である。一定の条件とは、たとえば、到達確率が一定の閾値より高くなって宛先通信端末の階層アドレスに近づいている場合、あるいは到達確率が一定の閾値より低くなる、または経路情報を失うなど、宛先通信端末の階層アドレスから離れている場合などである。
【0056】
続いて、ルーティング統括部102は、宛先通信端末D1の階層アドレスに基づいて、参照すべきルーティング管理部R1、R2あるいはR3を選択し(動作205)、宛先通信端末までの全体の経路を見ると、ルーティングを維持あるいは切り替えるように見える。このルーティング参照選択動作205については後述する。
【0057】
参照すべきルーティング管理部に従って次ホップの経路情報が得られると(動作206;YES)、ルーティング統括部102は、得られた経路情報に基づいてデータ転送処理を実行しデータが無線通信部101を通して次ホップの通信端末へ送信される(動作207)。参照すべきルーティング管理部に従って次ホップの経路情報が得られなかった場合には(動作206;NO)、ルーティング統括部102は、データを一時的に蓄積し(動作208)、階層アドレスの取得動作204へ戻る。これは、宛先通信端末D1の階層アドレスが古い、もしくは間違っている場合があるので、再度、階層アドレス取得からルーティングを開始するためである。
【0058】
このように異なるエリアを対象とする複数のルーティング管理部R1−R3を、階層アドレスを用いて適宜選択することや、複数のルーティング管理部間で情報を補完しあうことで、DTN環境や大規模なMANET環境、さらにはそれらを組み合わせた環境であっても宛先通信端末までのルーティングが可能となる。
【0059】
2.3)ルーティング
以下、説明を複雑化しないために、図9に示すネットワーク構成を一例として説明する。ここでは送信元端末S1から宛先通信端末D1へ複数の通信端末を中継してデータを送信するシナリオを示している。
【0060】
図9において、MANET内では、階層化ルーティング、あるいはランドマークルーティングやクラスタリングルーティングに代表される大規模な環境向けのスケーラブルルーティングを使用することができる。本実施例では階層化ルーティングを使用し、図中のHA(Hierarchy Address)で示される階層アドレスが各通信端末に割り当てられているものとする。なお、階層アドレスは階層化ルーティングを使用するための一例であって、他のスケーラブルルーティングが使用される場合にはそのルーティングで使用されるルーティングドメインが割り当てられる。
【0061】
具体的には、例えば非特許文献2に示すようなルーティングが使用された場合、図1に例示したように、一つのMANET内では理論的には通信端末の階層アドレスの先頭が同じになるように階層アドレスが割り当てられ、さらにMANET内で細分化されたエリアごとに階層アドレスが割り当てられてツリー構造が構築される。ただし、一つのMANET内での階層アドレスの先頭は必ずしも同じである必要はない。図9に示す例では、MANET1は階層アドレスが“a”であり、送信元通信端末S1はMANET1に属し、かつさらにその中で細分化されたMANET11に属しているため、階層アドレスは“a.aa”となる。一方で、MANET2は階層アドレスが“b”であり、宛先通信端末D1はMANET2に属し、かつさらにその中で細分化されたMANET21に属しているため、階層アドレスは“b.ba”となる。
【0062】
図9において、移動通信端末M1はMANET1とMANET2との間を行き来する端末である。通信端末M1は、何かしらの原因(通信端末同士が遠すぎる、電波状況が悪い、電源が落ちている等)で通信が維持できなくなったMANET間あるいはMANET内で通信を行う想定でもよい。移動通信端末M1は、MANET1とMAENT2との間を移動することで、MANET1に属する通信端末の経路情報や階層アドレス情報をMANET2に属する通信端末に伝達し、逆にMANET2に属する通信端末の経路情報や階層アドレス情報をMANET1に属する通信端末に伝達する。
【0063】
このような図9に示す例では、送信元通信端末S1は自身の階層アドレスが“a.aa”であり、宛先通信端末D1と階層アドレス“b.ba”であり、お互いに先頭の階層アドレスが異なっている。したがって、送信元通信端末S1は、宛先通信端末D1が同一MANET内にいる通信端末ではないと判断し、DTNルーティングを参照する(図8の動作205)。この場合、宛先通信端末D1の階層アドレスの先頭“b”のエントリがある経路情報を選択していく。こうして、通信端末S1から中継通信端末を通して通信端末M1まで、各通信端末は図8の動作201〜208をDTNルーティングを参照しながら実行し、宛先通信端末D1へ向かう経路情報を順次選択していく(動作S10a)。
【0064】
このようにして送信元通信端末S1から通信端末M1までルーティングされた後、通信端末M1がデータを蓄積してMANET2に移動したとする(動作S11a)。このとき、通信端末M1は、自身の階層アドレスの先頭が“b”となり、宛先通信端末D1の階層アドレスと一致したので、DTNルーティングから階層化ルーティングへ切り替える(図8の動作205)。そして、階層化ルーティングを参照するにより経路を順次選択していく(動作S12a)。この場合、宛先通信端末D1の階層アドレスである“b.ba”に対してロンゲストマッチするエントリを経路情報として参照する。こうして、MANET2に移動した通信端末M1から中継通信端末を通してMANET21の通信端末まで、各通信端末は図8の動作201〜208を階層化ルーティングを参照しながら実行し、宛先通信端末D1へ向かう経路情報を順次選択していく。
【0065】
こうして自身の階層アドレスと宛先通信端末D1の階層アドレスとが一致した通信端末は、階層化ルーティングをMANETルーティングへ切り替える(図8の動作205)。以下、宛先通信端末D1までの各通信端末は、図8の動作201〜208をMANETルーティングを参照しながら実行し、データを宛先通信端末D1へルーティングすることができる(動作S13a)。
【0066】
なお、上述した例ではDTN、階層化、MANETと経路情報DBを順番に参照し、ルーティングを使い分ける方法を示したが、これは図9に示すネットワーク構成での一動作例である。より自身から近い通信端末への経路を持っているMANETの経路情報から参照し、そこに宛先通信端末への経路がなければ、階層化あるいはDTNの経路情報を参照していく方法も考えられる。その理由は、あるデータを受け取った通信端末がデータの宛先通信端末D1と同じ階層アドレスであればMANETルーティングを選択するが、次に受け渡す通信端末を決めるとき、当該次の通信端末が宛先通信端末D1の階層アドレスとは異なる場合があり、また階層化ルーティングを選択しても宛先通信端末にデータが到達しない場合もあるからである。ルーティング方式の組み合わせには様々なパターンが考えられる。
【0067】
2.4)効果
上述した本実施例によれば、たとえば、中継通信端末を経由しても通信の確立が保証できないような環境においても動作するDTNルーティングと、多数の通信端末によって構成されるMANET環境において経路情報を階層アドレスにより集約する階層化ルーティングと、近隣の経路情報を所持するMANETルーティングとを組み合わせ、それらを適宜選択して使用するように構成する。これにより、従来のルーティング手法では実現できなかった多数の通信端末が参加し、広域なエリアを対象とした大規模DTN環境でのルーティングを実現できる。
【0068】
3.他の実施例
上述した実施例における通信端末100は、図4に示すような機能構成を有するが、同様の機能はメモリに格納されたプログラムをコンピュータ(CPU:Central Processing Unit)上で実行することにより実現することもできる。
【0069】
図10に示すように、通信端末300は無線通信部301、プロセッサ302、ルーティングテーブルメモリ303およびプログラムメモリ304を有する。ルーティングテーブルメモリ303には、図4における複数の経路情報データベース110、120および130と同様のルーティングテーブルが格納されている。プロセッサ302は、プログラムメモリ304からルーティング制御部111、121および131と同じルーティング制御プログラムとルーティング統括部102と同じルーティングテーブル選択制御プログラムとを読み出しながら、図8図9で説明したルーティング制御を実行することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は複数の無線端末間でルーティングを実行するシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
S1 送信元通信端末
D1 宛先通信端末
M1 移動通信端末
HA 階層アドレス
101 無線通信部
102 ルーティング統括部
R1 MANETルーティング管理部
R2 階層化ルーティング管理部
R3 DTNルーティング管理部
110 MANETルーティングの経路情報DB
111 MANETルーティングのルーティング経路制御部
120 階層化ルーティングの経路情報DB
121 階層化ルーティングのルーティング経路制御部
130 DTNルーティングの経路情報DB
131 DTNルーティングのルーティング経路制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10