(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のエンジン動力伝達ギヤ列の減速比及び前記第2のエンジン動力伝達ギヤ列の減速比のうち、いずれか一方は前記車両が最高車速に達するための第1の減速比に設定され、他方は前記第1の減速比よりも小さな値である第2の減速比に設定されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両のトランスアクスル装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のトランスアクスル装置では、エンジンの駆動軸と出力軸とが1組のギヤからなる1つの動力伝達機構を介して動力を伝達し走行駆動可能な構成になっている。
したがって、エンジン直結モード時には、トランスアクスル装置における減速比は一定となる。ところで、エンジンにおいて出力トルクが効率よく得られる回転速度は、一般的に電動モータに比べて狭い範囲である。したがって、エンジンの効率の低い回転速度範囲では、電動モータによって駆動をアシストしなければならない場合がある。
【0006】
しかしながら、例えばハイブリッド車では、電動モータに供給する電力は、エンジンによって発電機を駆動して発生した電力を用いていることから、電動モータにより走行駆動すると、適切な回転速度範囲でエンジンによって走行駆動するよりも効率が低く、燃費が低下してしまう虞がある。したがって、エンジンの回転速度範囲を適切に維持した上で駆動可能な走行速度範囲を広げて、エンジンによる走行駆動の機会を極力増加させ、燃費を向上させることが望まれている。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、走行駆動源としてエンジンと電動機を備えた車両のトランスアクスル装置であって、広い走行速度範囲でエンジンによる走行駆動を可能とする車両のトランスアクスル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両に搭載されたエンジンの駆動軸と同軸配置され、当該駆動軸に接続される第1の駆動軸と、第1の駆動軸と平行に配置され、車両の走行駆動軸に差動装置を介して動力を伝達する出力軸と、出力軸と平行に配置され、車両に搭載された第1の電動機に接続される第2の駆動軸と、
第2の電動機に接続された第3の駆動軸と、複数のギヤを噛み合わせて構成され第1の駆動軸と出力軸との間で動力を伝達するエンジン動力伝達ギヤ列と、複数のギヤを噛み合わせて構成され第2の駆動軸と出力軸との間で動力を伝達する第1の電動機動力伝達ギヤ列と、
複数のギヤを噛み合わせて構成され第1の駆動軸と第3の駆動軸との間で動力を伝達する第2の電動機動力伝達ギヤ列と、を備えた車両のトランスアクスル装置であって、エンジン動力伝達ギヤ列は、第1の駆動軸と出力軸との間で動力を伝達する第1のエンジン動力伝達ギヤ列と、第1の駆動軸と出力軸との間で動力を伝達し第1のエンジン動力伝達ギヤ列と減速比が異なる第2のエンジン動力伝達ギヤ列と、を具備し、第1のエンジン動力伝達ギヤ列は、第1の駆動軸と出力軸との間の動力の伝達路を接続または切断に切り換える第1の動力断接手段を有し、第2のエンジン動力伝達ギヤ列は、
第1の駆動軸に設けられた第3のギヤと、出力軸に回転可能に支持され第3のギヤと噛み合う第4のギヤと、第1の駆動軸と出力軸との間の動力の伝達路を接続または切断に切り換える第2の動力断接手段
と、を有し、第2の電動機動力伝達ギヤ列は、第3の駆動軸に設けられた第5のギヤと第3のギヤとにより構成され、当該第2の電動機動力伝達ギヤ列を構成するギヤの噛み合い数が奇数であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項
2の発明は、請求項
1において、第2の動力断接手段は、出力軸に対して第4のギヤを断接切り換え可能な同期噛み合い装置であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項
3の発明は、請求項
1または2において、第1の電動機は、車両に搭載されたバッテリから電力を供給されて駆動する電動モータとして作動し、第2の電動機は発電機として作動することを特徴とする。
また、請求項
4の発明は、請求項
3において、第2の電動機動力伝達ギヤ列の減速比は、第1の電動機動力伝達ギヤ列の減速比より小さいことを特徴とする。
【0013】
請求項
5の発明は、請求項1から
4のいずれか1項において、第1のエンジン動力伝達ギヤ列の減速比及び第2のエンジン動力伝達ギヤ列の減速比のうち、いずれか一方は車両が最高車速に達するための第1の減速比に設定され、他方は第1の減速比よりも小さな値である第2の減速比に設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1の車両のトランスアクスル装置では、エンジン動力伝達ギヤ列を介して第1の駆動軸から出力軸に動力が伝達されてエンジンによる走行駆動が可能になるとともに、第1の電動機動力伝達ギヤ列を介して第2の駆動軸から出力軸に動力が伝達されて第1の電動機による走行駆動が可能になる。
更に、エンジン動力伝達ギヤ列が減速比の異なる第1のエンジン動力伝達ギヤ列と第2のエンジン動力伝達ギヤ列とを具備し、第1の動力断接手段を接続することで第1のエンジン動力伝達ギヤ列を介してエンジンから出力軸に動力が伝達可能となり、第2の動力断接手段を接続することで第2のエンジン動力伝達ギヤ列を介してエンジンから出力軸に動力が伝達可能となる。
【0015】
これにより、エンジンと第1の電動機により走行駆動可能な車両において、第1の動力断接手段及び第2の動力断接手段を選択的に接続することで、エンジンによる走行駆動時に減速比を変化させることができ、エンジンの回転速度を適切な範囲に限定した上で広い走行速度範囲でエンジンによる走行駆動が可能となる
。
【0019】
また、第1の駆動軸と第3の駆動軸とが第2の電動機動力伝達ギヤ列を介して動力を伝達するので、エンジンにより第2の電動機を駆動することができる。
また、第3のギヤ組のギヤの噛み合い数が奇数であるので、第1の駆動軸と第3の駆動軸とが逆方向に回転する。これにより、エンジンと第2の電動機が同時に作動したときに、エンジンにより車体が受ける反動トルクと、第2の電動機により車体が受ける反動トルクとが相殺され、車体(パワープラント)の揺れ
を軽減することができる。
【0020】
また、第2のエンジン動力伝達ギヤ列は、第3のギヤと第4のギヤとにより構成され、第2の電動機動力伝達ギヤ列は、第5のギヤと第3のギヤとにより構成されるので、第2のエンジン動力伝達ギヤ列と第2の電動機動力伝達ギヤ列とで第3のギヤを共有する。これにより、ギヤの使用枚数を低減し、部品点数を低減させることができるとともに、第2のエンジン動力伝達ギヤ列と第2の電動機動力伝達ギヤ列とを軸線方向で同一位置に配置して、トランスアクスル装置のギヤ列数を抑制し、軸線方向での寸法を低減させることができる。
【0021】
本発明の請求項
2の車両のトランスアクスル装置では、第2の動力断接手段により第4のギヤと出力軸とを接続することで、エンジンから第2のエンジン動力伝達ギヤ列を介して出力軸に動力を伝達することができる。
また、第2の動力断接手段が同期噛み合い装置であるので、第4のギヤと出力軸との接続を滑らかに行うことができるとともにコンパクトに構成することができる。更には非結合時のフリクションを抑えて燃費を向上させるとともに、第2の動力断接手段の切り換え作動に必要とする消費エネルギーを低減させることができる。
【0022】
本発明の請求項
3の車両のトランスアクスル装置では、エンジンにより車両の走行駆動軸を駆動するエンジン直結モードが2つと、電動モータにより走行駆動軸を駆動するEV走行モード、エンジン及び電動モータの両方で走行駆動軸を駆動するパラレル走行モードが可能となり、エンジンによって発電機を駆動することも可能となるので、ハイブリッド車に好適なトランスアクスル装置を提供することができる。
【0023】
本発明の請求項
4の車両のトランスアクスル装置では、エンジンと発電機との間に介装される第2の電動機動力伝達ギヤ列の減速比は、電動モータと出力軸との間に介装される第1の電動機動力伝達ギヤ列の減速比より小さいので、エンジンにより発電機を高速で駆動して発電能力を向上させ、電動モータによる走行駆動時に減速比を大きくして走行駆動トルクを向上させることができる。
【0024】
本発明の請求項
5の車両のトランスアクスル装置では、第1のエンジン動力伝達ギヤ列及び第2のエンジン動力伝達ギヤ列のうち、減速比が第1の減速比に設定されたエンジン動力伝達ギヤ列を介してエンジンから出力軸に動力を伝達して走行することで、車両が最高車速に達することができ、減速比が第1の減速比より低い第2の減速比に設定されたエンジン動力伝達ギヤ列を介してエンジンから出力軸に動力を伝達して走行することで、エンジンの回転速度を抑えて高効率走行が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るトランスアクスル装置の模式図である。
図2は、第1の実施形態のトランスアクスル装置におけるギヤの噛み合い状態を示す説明図である。なお、
図2は、第1の実施形態トランスアクスル装置の側方から見た図である。
本発明の第1の実施形態に係るトランスアクスル装置1は、走行駆動源としてエンジン2と電動モータ3(第1の電動機)を横置きに搭載したハイブリッド車両(以下、車両という)に採用される。本実施形態の車両は、車両の前部にエンジン2と電動モータ3を搭載し、前車軸であるドライブシャフト4(走行駆動軸)を駆動するFF車である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態に係る車両では、エンジン2と電動モータ3は、トランスアクスル装置1を挟んで車両の左右方向に離間して配置されている。また、電動モータ3の車両左方には、発電機5(第2の電動機)が隣接して備えられている。なお、エンジン2、電動モータ3、トランスアクスル装置1及び発電機5は、車両のパワープラントを構成し、車体に一体的に支持されている。
【0028】
トランスアクスル装置1は、ドライブプレート10を介して、エンジン2のクランクシャフト(駆動軸)と同軸配置され、当該クランクシャフトに接続されるエンジン軸11(第1の駆動軸)と、電動モータ3により駆動されるモータ軸12(第2の駆動軸)、発電機5の駆動軸である発電機軸13(第3の駆動軸)及び出力軸14を備えている。
エンジン軸11、モータ軸12、発電機軸13、及び出力軸14は、互いに平行に車両左右方向に延びるように配置されている。
【0029】
エンジン軸11の車両右方端部に、ドライブプレート10が接続されている。
モータ軸12は、中空状に形成され、その内部に発電機軸13が同軸上に配置されている。発電機軸13は、モータ軸12よりも長く形成され、両端部が夫々モータ軸12よりも外方に突出している。モータ軸12の両端部内部には、モータ軸12と発電機軸13との間に夫々ベアリング15(軸受け手段)が備えられている。ベアリング15は、モータ軸12と発電機軸13とを互いに回転可能に支持している。モータ軸12及び発電機軸13は、夫々車両左方端部がトランスアクスル装置1から突出しており、モータ軸12の車両左方端部近傍が電動モータ3に接続され、発電機軸13の車両左方端部近傍が発電機5に接続されている。
【0030】
また、トランスアクスル装置1には、左右のドライブシャフト4に動力を配分する差動装置16が備えられている。
出力軸14は、その車両右方端部近傍に設けられたファイナルギヤ20を介して差動装置16に動力を伝達可能に構成されている。
エンジン軸11には、車両右方(エンジン2側)から順番に、エンジン軸固定ギヤ21(第3のギヤ)及びアイドラギヤ22が配置されている。
【0031】
エンジン軸固定ギヤ21はエンジン軸11に固定され、エンジン軸11の回転に伴って回転する。アイドラギヤ22は、エンジン軸11に対して回転可能に支持されている。更に、エンジン軸11には、エンジン軸11とアイドラギヤ22とを接続及び切断を切り換え可能な第1のシンクロナイザ23(同期噛み合い装置、第1の動力断接手段)が備えられている。第1のシンクロナイザ23は、図示しないアクチュエータ等により切り換え操作可能となっている。
【0032】
モータ軸12の車両右方端部近傍には、モータ軸固定ギヤ26(第2のギヤ)が備えられている。モータ軸固定ギヤ26は、モータ軸12に固定されており、モータ軸12とともに回転する構成になっている。更に、モータ軸固定ギヤ26とアイドラギヤ22とは噛み合うように、エンジン軸11の軸方向で一致するように配置されている。
また、出力軸14の車両左方端部近傍には、出力軸固定ギヤ27(第1のギヤ)が備えられている。出力軸固定ギヤ27は、出力軸14に固定されており、出力軸14とともに回転する構成になっている。更に、出力軸固定ギヤ27とアイドラギヤ22とは噛み合うように、エンジン軸11の軸方向で一致するように配置されている。なお、アイドラギヤ22と出力軸固定ギヤ27とは、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28を構成している。即ちエンジン軸11と出力軸14とは、
図1、2に示すように、2つのギヤ22、27からなり噛み合い数が1つである第1のエンジン動力伝達ギヤ列28を介して動力伝達可能に構成されている。ここで、噛み合い数とは、複数のギヤが動力を伝達することによってギヤの回転方向が切り換わる回数のことを表しており、ギヤ同士の歯と歯が接触する箇所の数を表したものではない。
【0033】
また、モータ軸固定ギヤ26とアイドラギヤ22と出力軸固定ギヤ27とは、モータ動力伝達ギヤ列29を構成している。即ちモータ軸12と出力軸14とは、3つのギヤ26、22、27からなり噛み合い数が2つであるモータ動力伝達ギヤ列29(第1の電動機動力伝達ギヤ列)を介して動力伝達可能に構成されている。
発電機軸13の車両右方端部近傍には、発電機軸固定ギヤ31(第5のギヤ)が備えられている。発電機軸固定ギヤ31は、発電機軸13に固定されており、発電機軸13とともに回転する構成になっている。更に、発電機軸固定ギヤ31とエンジン軸固定ギヤ21とは噛み合うように、エンジン軸11の軸方向で一致するように配置されている。なお、エンジン軸固定ギヤ21と発電機軸固定ギヤ31は、発電機動力伝達ギヤ列32(第2の電動機動力伝達ギヤ列)を構成している。即ちエンジン軸11と発電機軸13とは、2つのギヤ21、31からなり噛み合い数が1つである発電機動力伝達ギヤ列32を介して常に動力伝達可能に構成されている。
【0034】
また、出力軸14には、ファイナルギヤ20と出力軸固定ギヤ27との間に、出力軸遊転ギヤ35(第4のギヤ)が設けられている。出力軸遊転ギヤ35は、出力軸14に回転可能に支持され、エンジン軸固定ギヤ21に噛み合うように、エンジン軸の軸方向位置が一致して配置されている。更に、出力軸14には、出力軸遊転ギヤ35と出力軸14とを接続及び切断に切り換え可能な第2のシンクロナイザ36(同期噛み合い装置、第2の動力断接手段)が備えられている。第2のシンクロナイザ36は、図示しないアクチュエータ等により切り換え操作可能となっている。なお、エンジン軸固定ギヤ21と出力軸遊転ギヤ35は、第2のエンジン動力伝達ギヤ列37を構成している。更に、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28の減速比と第2のエンジン動力伝達ギヤ列37の減速比とは異なるように設定されている。
【0035】
例えば、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28の減速比を車両が最高車速に達するための第1の減速比に設定し、第2のエンジン動力伝達ギヤ列37の減速比を第1のエンジン動力伝達ギヤ列28における第1の減速比よりも小さい値である第2の減速比にすればよい。
以上のような構成により、第1の実施形態のトランスアクスル装置1では、エンジン軸11と発電機軸13とは発電機動力伝達ギヤ列32を介して常に動力伝達可能に構成され、モータ軸12と出力軸14とはモータ動力伝達ギヤ列29を介して常に動力伝達可能に構成されている。
【0036】
図3は、第1の実施形態のトランスアクスル装置1におけるEV走行モード時での動力伝達経路を示す説明図である。
図4は、第1の実施形態のトランスアクスル装置1におけるシリーズモード時での動力伝達経路を示す説明図である。
図3に示すように、エンジン軸11とアイドラギヤ22とが接続されないように第1のシンクロナイザ23を作動制御するとともに、出力軸14と出力軸遊転ギヤ35とが接続されないように第2のシンクロナイザ36を作動制御し、車両に搭載された図示しないバッテリから電力を供給して電動モータ3を駆動することで、EV走行モードが可能となる。このとき、モータ軸12からモータ動力伝達ギヤ列29を介して出力軸14に動力が伝達し、ドライブシャフト4を駆動する。
【0037】
また、EV走行モードと同様に、第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36を切断するように作動制御することで、シリーズ走行モードも可能である。詳しくは、
図4に示すように、エンジン2を駆動することで、エンジン軸11から発電機動力伝達ギヤ列32を介して動力が伝達し、発電機5を駆動する。そして、発電機5により発電された電力を電動モータ3に供給して駆動することで、上記EV走行モードと同様に電動モータ3から出力軸14に動力が伝達し、ドライブシャフト4を駆動して、車両の走行駆動輪を駆動する。
【0038】
このように、エンジン軸11とアイドラギヤ22とが接続されないように第1のシンクロナイザ23を作動制御するとともに、出力軸14と出力軸遊転ギヤ35とが接続されないように第2のシンクロナイザ36を作動制御することで、EV走行モード及びシリーズ走行モードが可能となる。
図5は、第1の実施形態のトランスアクスル装置1におけるエンジン直結1速モード時での動力伝達経路を示す説明図である。
図6は、第1の実施形態のトランスアクスル装置1におけるエンジン直結2速モード時での動力伝達経路を示す説明図である。
【0039】
本実施形態のトランスアクスル装置1は、第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36のいずれか一方を接続させることで、エンジン2からドライブシャフト4に動力を伝達するエンジン直結モード(エンジン直結1速モード、エンジン直結2速モード)が可能である。
図5に示すように、エンジン軸11とアイドラギヤ22とが接続するように第1のシンクロナイザ23を作動制御するとともに、出力軸14と出力軸遊転ギヤ35とが切断するように第2のシンクロナイザ36を作動制御することで、エンジン軸11から第1のエンジン動力伝達ギヤ列28を介して出力軸14に動力が伝達可能となる。(エンジン直結1速モード)
また、
図6に示すように、出力軸14と出力軸遊転ギヤ35とが接続するように第2のシンクロナイザ36を作動制御するとともに、エンジン軸11とアイドラギヤ22とが切断するように第1のシンクロナイザ23を作動制御することで、エンジン軸11から第2のエンジン動力伝達ギヤ列37を介して出力軸14に動力が伝達可能となる。(エンジン直結2速モード)
第1のエンジン動力伝達ギヤ列28と第2のエンジン動力伝達ギヤ列37とは減速比が異なるので、第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36のいずれかを選択して接続することで、エンジン軸11と出力軸14とを接続するエンジン直結モードにおいて減速比を変更することができる。
【0040】
これにより、エンジン2の回転速度を適切な範囲に限定した上で、走行速度範囲を広げることができ、エンジン2のみにより走行駆動するエンジン直結モードの機会を増加させ、燃費の低減を図ることができる。
特に、上記のように、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28の減速比を車両が最高車速に達するための第1の減速比に設定し、第2のエンジン動力伝達ギヤ列37の減速比を第1のエンジン動力伝達ギヤ列28における第1の減速比よりも小さい値である第2の減速比にすることで、高速走行と高効率走行との両立を図ることができる。
【0041】
詳しくは、例えば6速AT車のように多段変速が可能な車両においては、一般的に最高車速に達するのは、最も大きい変速段(例えば6速)ではなく、それよりも小さい変速段(例えば4速または5速)であり、このときの変速比は車両によって一意的に決定される。そこで、第1の減速比を車両が最高車速に達する減速比に設定することにより、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28を介して走行駆動することで、最高車速に達する高速走行が可能となる。
【0042】
また、第2の減速比を第1の減速比よりも小さい値(例えば6速相当)に設定することにより、第2のエンジン動力伝達ギヤ列37を介して走行駆動することで、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28を介するよりも減速比の小さい、即ちエンジン2の回転速度を抑えた高効率走行が可能となる。これは、中高速で定常走行(クルーズ走行)する場合に適しており、車両の燃費を改善することができる。
【0043】
なお、エンジン直結モード時に、エンジン2の駆動とともに電動モータ3を駆動することで、エンジン2と電動モータ3の両方から出力軸14に動力が伝達されてドライブシャフト4を駆動するパラレル走行モードも可能である。したがって、パラレル走行モードによって、最高速度を実現させる車両においては、上記第1の減速比、即ち第1のエンジン動力伝達ギヤ列28の減速比を、パラレル走行モードにおいて最高車速が実現されるように設定すればよい。
【0044】
また、本実施形態では、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28とモータ動力伝達ギヤ列29とでアイドラギヤ22を共用している。また、発電機動力伝達ギヤ列32と第2のエンジン動力伝達ギヤ列37とでエンジン軸固定ギヤ21を共用している。したがって、ギヤの使用枚数を抑制することができ、トランスアクスル装置1の部品コスト及び重量の低減を図ることができる。
【0045】
また、アイドラギヤ22やエンジン軸固定ギヤ21の共用により、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28及びモータ動力伝達ギヤ列29、発電機動力伝達ギヤ列32及び第2のエンジン動力伝達ギヤ列37をコンパクトかつ簡易な構成にすることができる。
また、アイドラギヤ22に対してモータ軸固定ギヤ26及び出力軸固定ギヤ27を噛み合わせるように、エンジン軸11、モータ軸12及び出力軸14を配置すればよいので、例えばエンジン軸11と出力軸14の位置があらかじめ制約されていたとしても、モータ軸12はエンジン軸11を中心とした円周上に自由に設定することができる。したがって、エンジン軸11、モータ軸12及び出力軸14の配置の自由度を向上させることができる。
【0046】
また、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28のギヤとモータ動力伝達ギヤ列29のギヤとがエンジン軸11の軸方向で同一位置に配置されているとともに、発電機動力伝達ギヤ列32のギヤと第2のエンジン動力伝達ギヤ列37のギヤとがエンジン軸11の軸方向で同一位置に配置されているので、トランスアクスル装置1のギヤ(20、21、22、26、27、31、35)を、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28及びモータ動力伝達ギヤ列29のギヤ(22、26、28)、発電機動力伝達ギヤ列32及び第2のエンジン動力伝達ギヤ列37のギヤ(21、31、35)、ファイナルギヤ20の3列にまとめることができ、トランスアクスル装置1の軸方向(車両左右方向)の寸法を抑制して小型化を図ることができ、車両搭載性を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態では、第1のシンクロナイザ23がアイドラギヤ22の車両右側に配置され、第2のシンクロナイザ36が出力軸遊転ギヤ35の車両の左側に配置されており、エンジン軸11の軸方向でエンジン軸固定ギヤ21とアイドラギヤ22との間に配置している。したがって、第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36をトランスアクスル装置1の軸方向(車両左右方向)で略同じ位置にまとめることができ、軸方向に更に小型化することができる。
【0048】
図7は、第1の実施形態のトランスアクスル装置1における各軸の回転方向を示す説明図である。
図7は、エンジン2と電動モータ3の両方から動力を出力軸14に伝達するパラレル走行モードで、車両を前進させる場合での、各軸の回転方向を示している。なお、以下、車両に前進させる場合でのドライブシャフト4の回転方向と同一の回転方向を正転、この正転と逆方向の回転方向を逆転という。
【0049】
図7に示すように、車両に前進させる場合には、ドライブシャフト4が正転であり、出力軸14が逆転となる。
そして、モータ軸12と出力軸14との間で動力を伝達するモータ動力伝達ギヤ列29が3枚のギヤ26、22、27から構成されてその噛み合い数が2つであることから、モータ軸12は出力軸14と同方向の回転に、即ち逆転となる。また、エンジン軸11と出力軸14との間で動力を伝達する第1のエンジン動力伝達ギヤ列28が2枚のギヤ22、27から構成されて噛み合い数が1つであり、第2のエンジン動力伝達ギヤ列37が2枚のギヤ21、35から構成されて噛み合い数が1つであることから、エンジン軸11は出力軸14と逆方向の回転に、即ち正転となる。また、発電機軸13とエンジン軸11との間で動力を伝達する発電機動力伝達ギヤ列32が2枚のギヤ21、31から構成されて噛み合い数が1つであることから、発電機軸13はエンジン軸11と逆方向の回転に、即ち逆転となる。
【0050】
このように、パラレル走行モード時には、エンジン軸11は正転し、モータ軸12は逆転するので、エンジン2や電動モータ3の回転速度が変化したときに、エンジン2により車体が受ける反動トルクと電動モータ3により車体が受ける反動トルクとが逆方向となり、これらの反動トルクが相殺され、車体、詳しくはパワープラントの揺れを低減させることができる。
【0051】
なお、エンジン2が作動すると、主にクランクシャフトに備えられたフライホイールの回転によりジャイロモーメントが発生する。また、電動モータ3の作動時においても、回転動する重量部材により、同様にジャイロモーメントが発生する。エンジン2及び電動モータ3が横置きで配置されている車両では、このようなジャイロモーメントが車両の旋回(ヨー方向の回転運動)を抑制する方向に作用し、車両の旋回時における操舵フィーリングを悪化させる虞がある。そして、このような現象は、特にエンジン2や電動モータ3の高回転駆動時に強く表れ、車両の旋回性能を低下させる虞がある。これに対し、本実施形態では、上記のように、エンジン軸11とモータ軸12とが互いに逆回転になるので、発生するジャイロモーメントが互いに打ち消し合い、車両の旋回性能を向上させることができる。
【0052】
また、上記のように、エンジン軸11と発電機軸13とが互いに逆方向の回転になるので、エンジン2や発電機5の回転速度が変化したときに、エンジン2により車体が受ける反動トルクと発電機5により車体が受ける反動トルクとが相殺されて、更に車体揺れを低減させることができるとともに、ジャイロモーメントを互いに打ち消し合って、更に車両の旋回性能を向上させることができる。
【0053】
また、同軸上に配置されるモータ軸12と発電機軸13は共に回転方向が逆転となり、よって互いに同方向に回転する。これにより、モータ軸12と発電機軸13との間を回転可能に支持するベアリング15は、モータ軸12と発電機軸13とが互いに逆方向に回転する場合よりも回転速度差を大幅に低減させることができ、その寿命を向上させることができる。
【0054】
また、モータ軸12と発電機軸13とが同軸上に配置されているので、電動モータ3と発電機5とを隣接して配置し、これらのハウジングを共用してコンパクトに構成することができる。これにより、電動モータ3及び発電機5を含むパワープラントの全体構造をコンパクトに構成して車両への搭載性能を向上させることができる。あるいは電動モータ3及び発電機5のハウジングをコンパクトにした分、電動モータ3を大型化することが可能であり、車両への搭載性を低下させずにモータ出力の向上を図ることができる。
【0055】
また、本実施形態では、第1のシンクロナイザ23、第2のシンクロナイザ36によって、エンジン軸11と出力軸14との動力伝達の断接を切り換えるので、EV走行モード等で第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36を切断したときに、エンジン2の連れ回りによるエネルギー効率の低下を防止することができる。
更には、第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36によって動力の断接を行うので、動力の断接に広く利用される湿式多板クラッチを用いた場合と比較して、コンパクトに構成することができるとともに、非接続時でのフリクションを抑制することができ、よってEV走行モード時における燃費の向上を図ることができる。また、第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36を例えば電動アクチュエータで駆動する場合、断接切換え時のみ電動アクチュエータを作動すればよく、保持のために電動アクチュエータを作動させる必要がないので、エネルギー消費を抑えることができる。
【0056】
図8は、本発明の第2の実施形態に係るトランスアクスル装置の模式図である。
本発明の第2の実施形態に係るトランスアクスル装置40は、上記第1の実施形態のトランスアクスル装置1に対して、出力軸固定ギヤ27を介して出力軸14と差動装置16とが動力を伝達可能に構成されている点が異なる。
このように構成することで、ファイナルギヤ20が不要になり、部品点数を削減して、コスト及び重量の低下を図ることができる。また、トランスアクスル装置40のギヤ(21、22、26、27、31、35)を、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28及びモータ動力伝達ギヤ列29のギヤ(22、26、27)、発電機動力伝達ギヤ列32及び第2のエンジン動力伝達ギヤ列37のギヤ(21、31、35)の2列にまとめることができ、トランスアクスル装置1の軸方向(車両左右方向)の寸法を更に抑制することができる。
【0057】
なお、本願発明は、以上の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態(第1の実施形態または第2の実施形態)の第1のシンクロナイザ23及び第2のシンクロナイザ36については、同期噛み合い機能を有するものでなくとも、クラッチ等のように動力の伝達を断接切り換え可能なものであればよい。
また、上記実施形態では、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28及び第2のエンジン動力伝達ギヤ列37が2枚のギヤで構成されて噛み合い数が1つであり、モータ動力伝達ギヤ列29が3枚のギヤ26、22、27で構成されて噛み合い数が2つであり、発電機動力伝達ギヤ列32が2枚のギヤ21、31で構成されて噛み合い数が1つであるが、第1のエンジン動力伝達ギヤ列28、第2のエンジン動力伝達ギヤ列37及び発電機動力伝達ギヤ列32のギヤの噛み合い数を
奇数とし、モータ動力伝達ギヤ列29の噛み合い数を
偶数とすれば、夫々ギヤ数を増やしてもよい。
【0058】
また、本願発明は、FR車やRR車においても適用することができ、エンジンと電動機によって走行駆動可能な車両に広く適用することができる。