(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202274
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】空気調和機
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
F25B49/02 550
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-67894(P2014-67894)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-190679(P2015-190679A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田中 順也
【審査官】
伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−005562(JP,A)
【文献】
特開平06−187030(JP,A)
【文献】
特開2006−022730(JP,A)
【文献】
特開2011−220243(JP,A)
【文献】
特開2010−038503(JP,A)
【文献】
特開2008−202868(JP,A)
【文献】
特開2009−216026(JP,A)
【文献】
特開平06−018102(JP,A)
【文献】
特開2003−003961(JP,A)
【文献】
特開平05−087428(JP,A)
【文献】
特開2008−128570(JP,A)
【文献】
特開平09−113476(JP,A)
【文献】
特開平05−060435(JP,A)
【文献】
特開平04−203867(JP,A)
【文献】
特開平05−005565(JP,A)
【文献】
特開平07−098168(JP,A)
【文献】
特開2012−013290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器を含む冷媒回路と、上記圧縮機内の冷凍機油温度を計測する冷凍機油温度センサ、冷凍機油の冷媒による希釈度を計測する希釈度センサおよび上記凝縮器の凝縮温度を計測する凝縮温度センサを含む計測手段と、上記計測手段からの出力に基づいて上記冷媒回路の運転を制御する制御手段とを備えている空気調和機において、
上記制御手段は、上記凝縮温度または上記凝縮温度から換算される凝縮圧力と上記冷凍機油温度に対応する推定希釈度と、上記希釈度センサにより計測された実計測希釈度とを比較して、上記希釈度センサの信頼性を評価する機能を備え、
上記推定希釈度は、上記冷凍機油温度もしくは上記圧縮機内の冷媒温度により求められる圧縮機温度をT1とし、上記凝縮温度をT2として、その温度差ΔT(=T1−T2)がプラスであり、かつ、所定時間内における上記凝縮圧力および上記冷凍機油温度の各変化が一定範囲内に収まっている上記冷媒回路の定常運転状態時における凝縮圧力と冷凍機油温度に対応する希釈度をテーブル化した希釈度データテーブルから求められることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
上記制御手段は、上記冷凍機油温度が上記冷凍サイクルの運転範囲の凝縮温度最大値よりも高い温度であり、かつ、所定時間内における上記凝縮圧力および上記冷凍機油温度の各変化が一定範囲内に収まっている上記冷媒回路の定常運転状態時に、上記希釈度データテーブルから上記推定希釈度を求めることを特徴とする請求項1に記載の空気調和機。
【請求項3】
上記制御手段は、上記推定希釈度に上限値および下限値を含む所定の閾値を設定し、上記実計測希釈度が上記閾値から外れる場合には、所定の表示部に上記希釈度センサが異常であることを表示するとともに、上記希釈度センサにて計測された希釈度を除外して上記冷媒回路の運転を制御するか、もしくは上記冷媒回路の運転自体を停止することを特徴とする請求項1または2に記載の空気調和機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機に関し、さらに詳しく言えば、冷凍機油の冷媒による希釈度を計測する希釈度センサを有する空気調和機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧縮機内に希釈度センサを設け、希釈度センサにて計測された希釈度に基づいて、冷凍サイクルに含まれている例えば電子膨張弁を制御するようにした空気調和機が記載されている。ここで、希釈度とは冷凍機油の冷媒による希釈度のことで、冷凍機油に溶け込んだ冷媒の割合をいい、(冷凍機油に溶け込んだ冷媒の質量)/(冷凍機油に溶け込んだ冷媒の質量+冷凍機油の質量)として定義される。
【0003】
希釈度センサは、冷凍機油と冷媒の比誘電率が異なること利用したもので、誘電体を挟んで対向的に配置された少なくとも一対の電極板を有し、その電極板間の静電容量値を計測することにより比誘電率を求めて、希釈度を算出している。
【0004】
希釈度センサは、圧縮機の冷凍機油貯留部内に配置され、振動等を受ける過酷な条件下で使用されるため、長期間にわたって使用されると、電極板間の距離が変化してしまうことがある。
【0005】
電極板間の距離が変化すると、計測される静電容量値も変化するため、実際の希釈度と希釈度センサにて計測された希釈度とに誤差が生じ、正確でない希釈度にて空気調和機の運転制御が行われてしまう、という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−5562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、希釈度センサを有する空気調和機において、空気調和機の運転中で、実際に使用されている希釈度センサの信頼性(計測値の確度)を評価できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器を含む冷媒回路と、上記圧縮機内の冷凍機油温度を計測する冷凍機油温度センサ、冷凍機油の冷媒による希釈度を計測する希釈度センサおよび上記凝縮器の凝縮温度を計測する凝縮温度センサを含む計測手段と、上記計測手段からの出力に基づいて上記冷媒回路の運転を制御する制御手段とを備えている空気調和機において、
上記制御手段は、上記凝縮温度または上記凝縮温度から換算される凝縮圧力と上記冷凍機油温度に対応する推定希釈度と、上記希釈度センサにより計測された実計測希釈度とを比較して、上記希釈度センサの信頼性を評価する機能を備え
、
上記推定希釈度は、上記冷凍機油温度もしくは上記圧縮機内の冷媒温度により求められる圧縮機温度をT1とし、上記凝縮温度をT2として、その温度差ΔT(=T1−T2)がプラスであり、かつ、所定時間内における上記凝縮圧力および上記冷凍機油温度の各変化が一定範囲内に収まっている上記冷媒回路の定常運転状態時における凝縮圧力と冷凍機油温度に対応する希釈度をテーブル化した希釈度データテーブルから求められることを特徴としている。
【0010】
上記制御手段は、上記冷凍機油温度が上記冷媒回路の運転範囲の凝縮温度最大値よりも高い温度であり、かつ、所定時間内における上記凝縮圧力および上記冷凍機油温度の各変化が一定範囲内に収まっている上記冷媒回路の定常運転状態時に、上記希釈度データテーブルから上記推定希釈度を求める。
【0011】
また、上記制御手段は、上記推定希釈度に上限値および下限値を含む所定の閾値を設定し、上記実計測希釈度が上記閾値から外れる場合には、所定の表示部に上記希釈度センサが異常であることを表示するとともに、上記希釈度センサにて計測された希釈度を除外して上記冷媒回路の運転を制御するか、もしくは上記冷媒回路の運転自体を停止する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、希釈度センサによる希釈度を制御要因の一つとして空気調和機を運転するにあたって、凝縮器の凝縮温度または凝縮温度から換算される凝縮圧力と冷凍機油温度とから求められる推定希釈度と、希釈度センサにより計測された実計測希釈度とを比較して、希釈度センサの信頼性(計測値の確度)を評価するようにしたことにより、希釈度センサが異常を来した際における空気調和機の誤制御運転を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る空気調和機の構成を示す模式図。
【
図3】本発明で用いられる希釈度データテーブルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、
図1ないし
図3により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
図1を参照して、この実施形態に係る空気調和機1は、圧縮機11、四方弁12、室外熱交換器13、電子膨張弁14および室内熱交換器15を基本的な構成要素として冷媒配管を介して順次接続してなる冷媒回路10と、冷媒回路10を制御するマイクロコンピュータ等からなる制御手段20とを備えている。
【0016】
この冷媒回路10において、冷房運転時には、四方弁12が図示実線のように切り替えられ、圧縮機11にて断熱圧縮された高圧のガス冷媒が室外熱交換器13に向けて流され、室外熱交換器13が凝縮器として機能し、室内熱交換器15が蒸発器として機能し、室内熱交換器15にて室内空気と熱交換された低圧の冷媒がアキュムレータ16を介して圧縮機11に戻される。
【0017】
暖房運転時には、四方弁12が図示鎖線のように切り替えられ、圧縮機11にて断熱圧縮された高圧のガス冷媒が室内熱交換器15に向けて流され、室内熱交換器13が凝縮器として機能し、室外熱交換器15が蒸発器として機能し、室外熱交換器15にて室外空気と熱交換された低圧の冷媒がアキュムレータ16を介して圧縮機11に戻される。
【0018】
このように、冷媒回路10は、四方弁12の切り替えにより可逆的なサイクルとして動作するが、以下の説明では、冷房運転動作時の場合とし、室外熱交換器13を凝縮器13Aと言うことがある。
【0019】
この実施形態において、圧縮機11はロータリ圧縮機で、密閉容器110内に、シリンダ内に回転ピストン(ともに図示しない)を収納してなる冷媒圧縮部111と、上記回転ピストンを駆動する電動機112とが収納されている。密閉容器110内には、所定量の冷凍機油が貯留されており、その底部側が冷凍機油貯留部11bとなっている。圧縮機11はスクロール圧縮機であってもよい。
【0020】
また、この実施形態に係る空気調和機1は、計測手段として、少なくとも冷凍機油温度センサ31、希釈度センサ32および凝縮温度センサ33を備えている。これら各センサ31,32,33の計測信号(計測値)は、図示しないA/D変換器を介して制御手段20に送信される。
【0021】
冷凍機油温度センサ31と希釈度センサ32は、ともに冷凍機油貯留部10b内で冷凍機油に浸かるように配置される。凝縮温度センサ33は、凝縮器13Aで冷媒が凝縮する際の冷媒温度を計測するが、凝縮温度センサ33は、好ましくは、凝縮器13A内に通されるパス(冷媒配管)の中間部分に配置され、凝縮温度として凝縮器13Aの中間温度を計測する。
【0022】
冷凍機油温度センサ31と凝縮温度センサ33には、サーミスタや熱電対素子等が用いられてよい。
【0023】
希釈度センサ32には、
図2に例示するように、櫛歯状の第1電極板321と櫛歯状の第2電極板322とを、それらの間に所定の空間324が生じるように、誘電体323をスペーサとして互い違いに組み合わせたキャパシタが用いられ、空間324内に入り込む冷凍機油の比誘電率を計測する。
【0024】
この冷凍機油の比誘電率から希釈度(冷凍機油の冷媒による希釈度)が算出されるが、その算出機能を希釈度センサ32に持たせてもよいし、制御手段20にて、冷凍機油の比誘電率から希釈度を算出するようにしてもよい。
【0025】
制御手段20は、各センサ31,32,33からの計測信号(計測値)に基づいて、冷媒回路10内の例えば圧縮機11の電動機112の回転数や、電子膨張弁14の開度等を制御するが、本発明では、希釈度センサ32の信頼性(計測値の確度)を評価する機能を備えている。
【0026】
希釈度センサ32による希釈度計測が必要となるのは、圧縮機11の起動直後や除霜運転時等の過渡的な運転状態や、圧縮機温度をT1、凝縮温度をT2として、その温度差ΔT(=T1−T2)がマイナス側(ΔT<0)となり、圧縮機11内で冷媒が凝縮(液化)するような異常な運転状態に限られる。
【0027】
なお、圧縮機温度T1には、冷凍機油温度センサ31により計測される冷凍機油温度が用いられてもよいし、
図1に示すように、圧縮機11の冷媒吐出管11aに取り付けられる冷媒吐出温度センサ35により計測される冷媒吐出温度が用いられてもよい。凝縮温度T2は、上記したように凝縮器13Aの中間温度であることが好ましい。
【0028】
上記の過渡的な運転状態や異常な運転状態に対して、冷媒回路10の運転が安定している定常運転状態であれば、凝縮温度T2から換算される凝縮圧力と、冷凍機油温度とから希釈度を推定することができる。
【0029】
そこで、ΔT(=T1−T2)がプラス側(ΔT>0)であり、かつ、冷媒回路10が定常運転状態にあるときの凝縮圧力と冷凍機油温度とをそれぞれ計測し、その各計測値に対応する希釈度をテーブル化した希釈度データテーブルをあらかじめ作成し、この希釈度データテーブルから、定常運転時の推定希釈度を求め、定常運転時における希釈度センサによる実計測希釈度と推定希釈度とを比較して、誤差があるかどうかを判定する。
【0030】
ただし、実計測希釈度と推定希釈度とを比較するのは、次の第1および第2の2つの条件が成立しているときとする。
【0031】
第1の条件:圧縮機温度が、運転範囲の凝縮温度最大値(例えば65℃)よりも高い温度(例えば70℃以上)の場合とする。これにより、常にΔTは5℃以上に確保された状態となる。
【0032】
第2の条件:ある一定時間内の凝縮圧力と冷凍機油温度の各変化が、所定の範囲内に収まっている場合とする。一例として、1分ごとに10回にわたって、凝縮圧力と冷凍機油温度とを計測し、それらの各値が±3℃以内に収まっている場合を定常運転状態と判定する。
【0033】
なお、凝縮圧力と凝縮温度は一対一で対応する比例関係にあるため、凝縮圧力に代えて凝縮温度が用いられてもよい。また、冷凍機油温度についても、冷凍機油センサ31によることなく、
図1に示すように、密閉容器110外側である冷凍機油貯留部11bの外壁に温度センサ34を取り付け、この温度センサ34で計測する圧縮機11の表面温度で代用されてもよい。
【0034】
ここで、R410A冷媒とPOE(ポリオールエステル)冷凍機油とを用いた冷媒回路において計測した凝縮圧力(凝縮温度)と冷凍機油温度に対応して作成された希釈度データテーブルの一部を
図3に示す。
【0035】
冷媒の使用範囲の凝縮温度の上限が65℃の場合、冷凍機油温度がそれよりも高い温度である70℃になったときに、希釈度センサ32による実計測希釈度と推定希釈度との比較を開始するが、凝縮温度と冷凍機油温度とを1分ごとに計測し、10分間の変動が±3℃以内に収まったときに、定常運転状態であると判定する。
【0036】
そして、この定常運転状態時における凝縮温度と冷凍機油温度とから、
図3の希釈度データテーブルより推定希釈度を求める。
【0037】
例えば、凝縮温度50℃、冷凍機油温度70℃の場合の推定希釈度は22.6wt%である。凝縮温度と冷凍機油温度は、それぞれ±3℃の変動を許容するとすると、この範囲内で最も希釈度が低いのは、凝縮温度47℃、冷凍機油温度73℃の19.4wt%である。また、この範囲内で最も希釈度が高いのは、凝縮温度53℃、冷凍機油温度67℃の26.4wt%である。
【0038】
よって、希釈度は7.0wt%(19.4wt%〜26.4wt%)変動している可能性がある。これを希釈度の正常範囲とする。希釈度センサ32により計測された実計測希釈度が、上記正常範囲内に入っていれば、希釈度センサ32は、所期の性能を維持しており「センサ正常」と判定する。
【0039】
判定の閾値として、冷凍機油温度センサ31,希釈度センサ32,凝縮温度センサ33および希釈度データテーブルの各誤差を考慮して、例えば、22.6±5wt%(17.6wt%〜27.6wt%)の範囲を注意範囲とする。
【0040】
希釈度センサ32による実計測希釈度が、正常範囲から外れて注意範囲になった場合の判定の仕方の一例として、1回目の場合はセンサ正常と判定するが、3回連続して注意範囲である場合には「センサ異常」と判定する。また、実計測希釈度が、1回目から注意範囲からも外れている場合には、その時点で「センサ異常」と判定する。
【0041】
制御手段20は、「センサ異常」と判定した場合、その判定結果を例えばLCDやLED等からなる表示部21に表示するとともに、希釈度センサ32にて計測された希釈度を除外して冷媒回路10の運転を制御するか、もしくは冷媒回路10の運転自体を停止する。これにより、ユーザーは希釈度センサに異常があることを知り得、また、希釈度センサの異常(不良)による空気調和機の誤制御運転を未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 空気調和機
10 冷媒回路
10b 冷凍機油貯留部
11 圧縮機
111 冷媒圧縮部
112 電動機
12 四方弁
13 室外熱交換器
13A 冷房運転時の凝縮器
14 電子膨張弁
15 室内熱交換器
16 アキュムレータ
20 制御手段
21 表示部
31 冷凍機油温度センサ
32 希釈度センサ
321 第1電極板
322 第2電極板
323 誘電体(スペーサ)
33 凝縮温度センサ