特許第6202282号(P6202282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202282
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   G01R33/06 R
【請求項の数】14
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-28145(P2015-28145)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2016-151448(P2016-151448A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】駒▲崎▼ 洋亮
【審査官】 小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−42105(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/010649(WO,A1)
【文献】 特開2005−286340(JP,A)
【文献】 特開2003−218429(JP,A)
【文献】 米国特許第5764056(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00−33/26
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出磁界を検出する少なくとも1つの磁気検出素子と、
前記少なくとも1つの磁気検出素子に印加されるバイアス磁界を発生するバイアス磁界発生部とを備えた磁気センサであって、
前記バイアス磁界発生部は、第1の方向に沿って積層された強磁性層と第1の反強磁性層を含むと共に、前記第1の方向の両端に位置する第1の端面と第2の端面を有し、
前記強磁性層は、前記第1の方向の両端に位置する第1の面と第2の面を有し、
前記第1の反強磁性層は、前記強磁性層の前記第1の面に接して前記強磁性層と交換結合し、
前記強磁性層は、前記第1の方向に直交する第2の方向に平行な方向の磁化を有し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子の位置における前記バイアス磁界は、前記強磁性層の前記磁化の方向とは反対方向の成分を含み、
前記バイアス磁界発生部の前記第1の端面は、それぞれ面積を有する第1の端部領域と第2の端部領域と中央領域とを含み、
前記第1の端部領域は、前記第1の端面における前記第2の方向の一方の端に位置する第1の端部を含み、
前記第2の端部領域は、前記第1の端面における前記第2の方向の他方の端に位置する第2の端部を含み、
前記中央領域は、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域の間に位置して、前記第2の方向に直交する第1の境界線を介して前記第1の端部領域に隣接すると共に、前記第2の方向に直交する第2の境界線を介して前記第2の端部領域に隣接し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記中央領域に相当する仮想の平面を前記第1の方向に沿って前記バイアス磁界発生部の前記第2の端面とは反対側に移動してできる空間内に前記少なくとも1つの磁気検出素子の全体が含まれるように、配置されていることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記第1の端部と前記第1の境界線の間の距離と、前記第2の端部と前記第2の境界線の間の距離は、いずれも前記第1の端部と前記第2の端部の間の距離の10%であることを特徴とする請求項記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記第1の端部と前記第1の境界線の間の距離と、前記第2の端部と前記第2の境界線の間の距離は、いずれも前記第1の端部と前記第2の端部の間の距離の35%であることを特徴とする請求項記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項1ないしのいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、前記被検出磁界に応じて磁化が変化する自由層と、前記磁化固定層と前記自由層の間に配置された非磁性層とを有し、
前記磁化固定層、前記非磁性層および前記自由層は、前記第1の方向に沿って積層されていることを特徴とする請求項記載の磁気センサ。
【請求項6】
更に、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子に対して前記第1の方向の両側に位置して、前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子に電流を供給する第1の電極および第2の電極を備え、
前記バイアス磁界発生部は、前記第1の電極と前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子の間に配置されていることを特徴とする請求項記載の磁気センサ。
【請求項7】
被検出磁界を検出する少なくとも1つの磁気検出素子と、
前記少なくとも1つの磁気検出素子に印加されるバイアス磁界を発生するバイアス磁界発生部とを備えた磁気センサであって、
前記バイアス磁界発生部は、第1の方向に沿って積層された強磁性層と第1の反強磁性層を含むと共に、前記第1の方向の両端に位置する第1の端面と第2の端面を有し、
前記強磁性層は、前記第1の方向の両端に位置する第1の面と第2の面を有し、
前記第1の反強磁性層は、前記強磁性層の前記第1の面に接して前記強磁性層と交換結合し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記バイアス磁界発生部の前記第1の端面に相当する仮想の平面を前記第1の方向に沿って前記第2の端面とは反対側に移動してできる空間内に前記少なくとも1つの磁気検出素子の各々の少なくとも一部が含まれるように、配置され、
前記バイアス磁界発生部は、更に、前記強磁性層の前記第2の面に接して前記強磁性層と交換結合する第2の反強磁性層を含むことを特徴とする磁気センサ
【請求項8】
前記強磁性層は、前記第1の方向に直交する第2の方向に平行な方向の磁化を有し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子の位置における前記バイアス磁界は、前記強磁性層の前記磁化の方向とは反対方向の成分を含むことを特徴とする請求項7記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記バイアス磁界発生部の前記第1の端面は、それぞれ面積を有する第1の端部領域と第2の端部領域と中央領域とを含み、
前記第1の端部領域は、前記第1の端面における前記第2の方向の一方の端に位置する第1の端部を含み、
前記第2の端部領域は、前記第1の端面における前記第2の方向の他方の端に位置する第2の端部を含み、
前記中央領域は、前記第1の端部領域と前記第2の端部領域の間に位置して、前記第2の方向に直交する第1の境界線を介して前記第1の端部領域に隣接すると共に、前記第2の方向に直交する第2の境界線を介して前記第2の端部領域に隣接し、
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、前記中央領域に相当する仮想の平面を前記第1の方向に沿って前記バイアス磁界発生部の前記第2の端面とは反対側に移動してできる空間内に前記少なくとも1つの磁気検出素子の全体が含まれるように、配置されていることを特徴とする請求項8記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記第1の端部と前記第1の境界線の間の距離と、前記第2の端部と前記第2の境界線の間の距離は、いずれも前記第1の端部と前記第2の端部の間の距離の10%であることを特徴とする請求項9記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記第1の端部と前記第1の境界線の間の距離と、前記第2の端部と前記第2の境界線の間の距離は、いずれも前記第1の端部と前記第2の端部の間の距離の35%であることを特徴とする請求項9記載の磁気センサ。
【請求項12】
前記少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であることを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の磁気センサ。
【請求項13】
前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、前記被検出磁界に応じて磁化が変化する自由層と、前記磁化固定層と前記自由層の間に配置された非磁性層とを有し、
前記磁化固定層、前記非磁性層および前記自由層は、前記第1の方向に沿って積層されていることを特徴とする請求項12記載の磁気センサ。
【請求項14】
更に、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子に対して前記第1の方向の両側に位置して、前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子に電流を供給する第1の電極および第2の電極を備え、
前記バイアス磁界発生部は、前記第1の電極と前記少なくとも1つの磁気抵抗効果素子の間に配置されていることを特徴とする請求項13記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気検出素子と、この磁気検出素子に印加されるバイアス磁界を発生するバイアス磁界発生部とを備えた磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の用途で、動作体の回転動作や直線的動作に関連する物理量を検出する磁気センサシステムが用いられている。一般的に、磁気センサシステムは、スケールと磁気センサとを備え、磁気センサによって、スケールと磁気センサとの相対的位置関係に関連する信号を生成するようになっている。
【0003】
磁気センサは、被検出磁界を検出する磁気検出素子を含んでいる。特許文献1ないし3には、磁気検出素子として、いわゆるスピンバルブ型の磁気抵抗効果素子(以下、MR素子とも記す。)を用いた磁気センサが記載されている。スピンバルブ型のMR素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、被検出磁界に応じて磁化が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。スピンバルブ型のMR素子には、非磁性層がトンネルバリア層であるTMR素子と、非磁性層が非磁性導電層であるGMR素子とが含まれる。
【0004】
磁気センサには、磁気検出素子に対してバイアス磁界を印加する手段を備えたものがある。バイアス磁界は、例えば、被検出磁界の強度の変化に対して磁気検出素子が線形に応答するようにするために用いられる。また、スピンバルブ型のMR素子を用いた磁気センサでは、バイアス磁界は、被検出磁界がないときに、自由層を単磁区化し、且つ自由層の磁化の方向を一定の方向に向かせるためにも用いられる。
【0005】
特許文献1および2には、スピンバルブ型のMR素子と、バイアス磁界を発生する永久磁石とを備えた磁気センサが記載されている。
【0006】
特許文献3には、スピンバルブ型のMR素子と、MR素子の自由層に接して自由層との間で交換結合磁界を生じさせる反強磁性層とを備えた磁気センサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−215145号公報
【特許文献2】特開2008−151759号公報
【特許文献3】特開2012−185044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2に記載されているような、バイアス磁界を発生する手段として永久磁石を用いた磁気センサでは、以下のような問題点がある。このような磁気センサは、通常、被検出磁界の強度が永久磁石の保磁力を超えないという条件の下で使用される。しかし、磁気センサは、様々な環境で使用され得るため、永久磁石の保磁力を超える強度の外部磁界が、一時的に永久磁石に印加されることが起こり得る。このような外部磁界が一時的に永久磁石に印加されると、永久磁石の磁化の方向が、当初の方向から変化し、外部磁界がなくなっても当初の方向から変化したままになる場合がある。この場合、バイアス磁界の方向が所望の方向から変化してしまう。
【0009】
一方、特許文献3に記載されているように、MR素子の自由層に接するように反強磁性層を設けた磁気センサでは、以下の第1および第2の問題点がある。第1の問題点は、自由層と反強磁性層が交換結合することによって自由層に磁気異方性が付与され、その結果、自由層の保磁力が増加して、被検出磁界に対するMR素子の応答の線形性が悪化するおそれがあることである。第2の問題点は、反強磁性層を構成する原子、例えばIrMn等のMn系反強磁性材料におけるMnが、自由層内に拡散して、その結果、MR素子の磁気抵抗効果率が低下するおそれがあることである。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、磁気検出素子に対して安定したバイアス磁界を印加できるようにした磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の磁気センサは、被検出磁界を検出する少なくとも1つの磁気検出素子と、少なくとも1つの磁気検出素子に印加されるバイアス磁界を発生するバイアス磁界発生部とを備えている。バイアス磁界発生部は、第1の方向に沿って積層された強磁性層と第1の反強磁性層を含むと共に、第1の方向の両端に位置する第1の端面と第2の端面を有している。強磁性層は、第1の方向の両端に位置する第1の面と第2の面を有している。第1の反強磁性層は、強磁性層の第1の面に接して強磁性層と交換結合している。少なくとも1つの磁気検出素子は、バイアス磁界発生部の第1の端面に相当する仮想の平面を第1の方向に沿って第2の端面とは反対側に移動してできる空間内に少なくとも1つの磁気検出素子の各々の少なくとも一部が含まれるように、配置されている。
【0012】
本発明の磁気センサにおいて、強磁性層は、第1の方向に直交する第2の方向に平行な方向の磁化を有していてもよく、少なくとも1つの磁気検出素子の位置におけるバイアス磁界は、強磁性層の磁化の方向とは反対方向の成分を含んでいてもよい。
【0013】
また、バイアス磁界発生部の第1の端面は、それぞれ面積を有する第1の端部領域と第2の端部領域と中央領域とを含んでいてもよい。第1の端部領域は、第1の端面における第2の方向の一方の端に位置する第1の端部を含んでいる。第2の端部領域は、第1の端面における第2の方向の他方の端に位置する第2の端部を含んでいる。中央領域は、第1の端部領域と第2の端部領域の間に位置して、第2の方向に直交する第1の境界線を介して第1の端部領域に隣接すると共に、第2の方向に直交する第2の境界線を介して第2の端部領域に隣接している。少なくとも1つの磁気検出素子は、中央領域に相当する仮想の平面を第1の方向に沿ってバイアス磁界発生部の第2の端面とは反対側に移動してできる空間内に少なくとも1つの磁気検出素子の全体が含まれるように、配置されていてもよい。第1の端部と第1の境界線の間の距離と、第2の端部と第2の境界線の間の距離は、いずれも第1の端部と第2の端部の間の距離の10%あるいは35%であってもよい。
【0014】
また、本発明の磁気センサにおいて、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子であってもよい。少なくとも1つの磁気抵抗効果素子は、方向が固定された磁化を有する磁化固定層と、被検出磁界に応じて磁化が変化する自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有していてもよい。磁化固定層、非磁性層および自由層は、第1の方向に沿って積層されていてもよい。本発明の磁気センサは、更に、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子に対して第1の方向の両側に位置して、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子に電流を供給する第1の電極および第2の電極を備えていてもよい。この場合、バイアス磁界発生部は、第1の電極と少なくとも1つの磁気抵抗効果素子の間に配置されていてもよい。
【0015】
また、本発明の磁気センサにおいて、バイアス磁界発生部は、更に、強磁性層の第2の面に接して強磁性層と交換結合する第2の反強磁性層を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の磁気センサにおけるバイアス磁界発生部では、第1の反強磁性層と強磁性層が交換結合することによって、強磁性層の磁化の方向が規定される。このバイアス磁界発生部では、強磁性層の磁化の方向を反転させるほど大きな強度の外部磁界が一時的に印加されても、そのような外部磁界がなくなれば、強磁性層の磁化の方向は、当初の方向に戻る。従って、本発明の磁気センサによれば、磁気検出素子に対して安定したバイアス磁界を印加することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施の形態における磁気センサシステムの概略の構成を示す斜視図である。
図2】本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサの斜視図である。
図3】本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサの回路図である。
図4図2に示した磁気センサの一部を拡大して示す斜視図である。
図5図2に示した磁気センサの一部を拡大して示す側面図である。
図6図2に示したバイアス磁界発生部の構成の一例を示す側面図である。
図7図2に示したMR素子の構成の一例を示す側面図である。
図8図2に示した磁気センサにおけるバイアス磁界発生部とMR素子の位置関係を示す平面図である。
図9図2に示した磁気センサにおけるバイアス磁界発生部とMR素子の位置関係を示す斜視図である。
図10】永久磁石の磁化曲線を示す特性図である。
図11図6に示したバイアス磁界発生部の磁化曲線を示す特性図である。
図12図9に示した基準平面上におけるバイアス磁界の基準成分の強度分布を示す特性図である。
図13】本発明の第2の実施の形態に係る磁気センサの一部を拡大して示す側面図である。
図14】本発明の第3の実施の形態における磁気センサシステムの概略の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る磁気センサを含む磁気センサシステムの一例について説明する。図1は、本実施の形態における磁気センサシステムの概略の構成を示す斜視図である。図1に示した磁気センサシステムは、本実施の形態に係る磁気センサ1と、磁気センサ1が検出する被検出磁界を発生する回転スケール50とを備えている。回転スケール50は、回転動作をする図示しない動作体に連動し、所定の中心軸Cを中心として回転方向Dに回転する。これにより、回転スケール50と磁気センサ1との相対的位置関係は、回転方向Dに変化する。磁気センサシステムは、回転スケール50と磁気センサ1との相対的位置関係に関連する物理量を検出する。具体的には、磁気センサシステムは、上記物理量として、回転スケール50と連動する上記動作体の回転位置や回転速度等を検出する。
【0019】
図1に示したように、回転スケール50は、円周方向に交互に配列された複数組のN極とS極を有する多極着磁磁石である。図1に示した例では、回転スケール50は、6組のN極とS極を有している。磁気センサ1は、回転スケール50の外周面に対向する位置に配置されている。
【0020】
被検出磁界の方向は、回転スケール50と磁気センサ1の相対的位置関係の変化に応じて周期的に変化する。本実施の形態では、被検出磁界の方向は、回転スケール50の回転に伴って変化する。図1に示した例では、回転スケール50が1回転すると、被検出磁界の方向は6回転すなわち6周期変化する。
【0021】
次に、図2および図3を参照して、磁気センサ1について説明する。図2は、磁気センサ1の斜視図である。図3は、磁気センサ1の回路図である。磁気センサ1は、被検出磁界を検出する少なくとも1つの磁気検出素子と、少なくとも1つの磁気検出素子に印加されるバイアス磁界を発生する少なくとも1つのバイアス磁界発生部とを備えている。本実施の形態では、少なくとも1つの磁気検出素子は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子(以下、MR素子と記す。)である。本実施の形態では、MR素子として、スピンバルブ型のMR素子を用いている。後で詳しく説明するが、スピンバルブ型のMR素子は、磁化固定層と、自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層とを有している。磁化固定層、非磁性層および自由層は、第1の方向に沿って積層されている。本実施の形態では、第1の方向をZ方向と定義する。また、Z方向に垂直な2方向であって、互いに直交する2つの方向をX方向とY方向と定義する。
【0022】
なお、本出願において用いるX方向、Y方向、Z方向は、いずれも、図2において双方向の矢印で示したように、特定の一方向とその反対方向とを含むものとして定義される。一方、磁界の方向や磁化の方向は、特定の一方向のみを表すものとして定義される。
【0023】
本実施の形態では特に、磁気センサ1は、少なくとも1つのMR素子として4つのMR素子10A,10B,10C,10Dを備えている。また、磁気センサ1は、少なくとも1つのバイアス磁界発生部として、MR素子10A,10B,10C,10Dに対応した4つのバイアス磁界発生部20A,20B,20C,20Dを備えている。バイアス磁界発生部20A,20B,20C,20Dは、それぞれ、対応するMR素子10A,10B,10C,10Dに印加されるバイアス磁界を発生する。以下、任意のMR素子については符号10を付して表し、任意のバイアス磁界発生部については符号20を付して表す。
【0024】
磁気センサ1は、更に、図示しない基板と、2つの上部電極31,32と、2つの下部電極41,42とを備えている。下部電極41,42は、図示しない基板の上に配置されている。上部電極31は、基部310と、基部310から二又に分岐した枝部311,312を有している。上部電極32は、基部320と、基部320から二又に分岐した枝部321,322を有している。下部電極41は、基部410と、基部410から二又に分岐した枝部411,412を有している。下部電極42は、基部420と、基部420から二又に分岐した枝部421,422を有している。上部電極31の枝部311は、下部電極41の枝部411に対向している。上部電極31の枝部312は、下部電極42の枝部421に対向している。上部電極32の枝部321は、下部電極41の枝部412に対向している。上部電極32の枝部322は、下部電極42の枝部422に対向している。
【0025】
MR素子10Aは、下部電極41の枝部411の上に配置されている。MR素子10Bは、下部電極42の枝部421の上に配置されている。MR素子10Cは、下部電極42の枝部422の上に配置されている。MR素子10Dは、下部電極41の枝部412の上に配置されている。バイアス磁界発生部20A,20B,20C,20Dは、それぞれ、MR素子10A,10B,10C,10Dの上に配置されている。上部電極31の枝部311は、バイアス磁界発生部20Aの上に配置されている。上部電極31の枝部312は、バイアス磁界発生部20Bの上に配置されている。上部電極32の枝部322は、バイアス磁界発生部20Cの上に配置されている。上部電極32の枝部321は、バイアス磁界発生部20Dの上に配置されている。
【0026】
上部電極31および下部電極41は、MR素子10Aに対して第1の方向(Z方向)の両側に位置して、MR素子10Aに電流を供給する。バイアス磁界発生部20Aは、上部電極31とMR素子10Aの間に配置されている。
【0027】
上部電極31および下部電極42は、MR素子10Bに対して第1の方向(Z方向)の両側に位置して、MR素子10Bに電流を供給する。バイアス磁界発生部20Bは、上部電極31とMR素子10Bの間に配置されている。
【0028】
上部電極32および下部電極42は、MR素子10Cに対して第1の方向(Z方向)の両側に位置して、MR素子10Cに電流を供給する。バイアス磁界発生部20Cは、上部電極32とMR素子10Cの間に配置されている。
【0029】
上部電極32および下部電極41は、MR素子10Dに対して第1の方向(Z方向)の両側に位置して、MR素子10Dに電流を供給する。バイアス磁界発生部20Dは、上部電極32とMR素子10Dの間に配置されている。
【0030】
上部電極31,32の各々は、本発明における第1の電極に対応する。下部電極41,42の各々は、本発明における第2の電極に対応する。
【0031】
図2に示したように、上部電極31の基部310は、第1の出力ポートE1を含んでいる。上部電極32の基部320は、第2の出力ポートE2を含んでいる。下部電極41の基部410は、電源ポートVを含んでいる。下部電極42の基部420は、グランドポートGを含んでいる。
【0032】
MR素子10AとMR素子10Bは、上部電極31を介して直列に接続されている。MR素子10CとMR素子10Dは、上部電極32を介して直列に接続されている。
【0033】
図3に示したように、MR素子10Aの一端は、電源ポートVに接続されている。MR素子10Aの他端は、第1の出力ポートE1に接続されている。MR素子10Bの一端は、第1の出力ポートE1に接続されている。MR素子10Bの他端は、グランドポートGに接続されている。MR素子10A,10Bは、ハーフブリッジ回路を構成している。MR素子10Cの一端は、第2の出力ポートE2に接続されている。MR素子10Cの他端は、グランドポートGに接続されている。MR素子10Dの一端は、電源ポートVに接続されている。MR素子10Dの他端は、第2の出力ポートE2に接続されている。MR素子10C,10Dは、ハーフブリッジ回路を構成している。MR素子10A,10B,10C,10Dは、ホイートストンブリッジ回路を構成している。
【0034】
電源ポートVには、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポートGはグランドに接続される。MR素子10A,10B,10C,10Dの各々の抵抗値は、被検出磁界に応じて変化する。MR素子10A,10Cの抵抗値は、同じ位相で変化する。MR素子10B,10Dの抵抗値は、MR素子10A,10Cの抵抗値とは180°異なる位相で変化する。第1の出力ポートE1は、MR素子10A,10Bの接続点の電位に対応した第1の検出信号を出力する。第2の出力ポートE2は、MR素子10D,10Cの接続点の電位に対応した第2の検出信号を出力する。第1および第2の検出信号は、被検出磁界に応じて変化する。第2の検出信号は、第1の検出信号とは位相が180°異なる。磁気センサ1の出力信号は、第1の検出信号と第2の検出信号の差を求めることを含む演算によって生成される。例えば、磁気センサ1の出力信号は、第1の検出信号から第2の検出信号を引いて得られる信号に所定のオフセット電圧を加えることによって生成される。この磁気センサ1の出力信号は、被検出磁界に応じて変化する。
【0035】
次に、図4ないし図6を参照して、バイアス磁界発生部20について詳しく説明する。図4は、図2に示した磁気センサ1の一部を拡大して示す斜視図である。図5は、図2に示した磁気センサ1の一部を拡大して示す側面図である。図6は、図2に示したバイアス磁界発生部20の構成の一例を示す側面図である。なお、図4および図5において、符号30は任意の上部電極(第1の電極)を表し、符号40は任意の下部電極(第2の電極)を表している。
【0036】
図6に示したように、バイアス磁界発生部20は、第1の方向(Z方向)の両端に位置する第1の端面20aと第2の端面20bを有している。図5に示したように、第1の端面20aは、下部電極40に向き、MR素子10に接している。第2の端面20bは、上部電極30に接している。
【0037】
また、図6に示したように、バイアス磁界発生部20は、第1の方向に沿って積層された強磁性層22と第1の反強磁性層21を含んでいる。強磁性層22は、第1の方向(Z方向)の両端に位置する第1の面22aと第2の面22bを有している。第1の反強磁性層21は、強磁性層22の第1の面22aに接して強磁性層と交換結合している。図6に示した例では、バイアス磁界発生部20は、更に、強磁性層22の第2の面22bに接して強磁性層22と交換結合する第2の反強磁性層23を含んでいる。この例では、第1の方向に沿って、第1の反強磁性層21と強磁性層22と第2の反強磁性層23が、この順で積層されている。
【0038】
強磁性層22は、第1の方向(Z方向)に直交する第2の方向に平行な方向の磁化を有している。本実施の形態では、第2の方向をY方向とする。バイアス磁界発生部20では、第1および第2の反強磁性層21,23と強磁性層22が交換結合することによって、強磁性層22の磁化の方向が規定される。図5における白抜きの矢印は、強磁性層22の磁化の方向を表している。強磁性層22の磁化に基づいて、バイアス磁界発生部20は、MR素子10に印加されるバイアス磁界Hbを含む磁界を発生する。図5における曲線の矢印は、バイアス磁界発生部20が発生する磁界を表している。MR素子10の位置におけるバイアス磁界Hbは、主成分として、第2の方向(Y方向)に平行な成分であって、強磁性層22の磁化の方向とは反対方向の成分を含んでいる。
【0039】
強磁性層22は、Co、Fe、Niのうちの1つ以上の元素を含む強磁性材料によって形成されている。このような強磁性材料の例としては、CoFeや、CoFeBや、CoNiFeが挙げられる。強磁性層22は、複数の層の積層体であって、隣接する2つの層が互いに異なる強磁性材料よりなる積層体によって構成されていてもよい。このような強磁性層22の例としては、Co層とCoFe層とCo層の積層体や、Co70Fe30層とCo30Fe70層とCo70Fe30層の積層体が挙げられる。なお、Co70Fe30は、70原子%のCoと30原子%のFeよりなる合金を表し、Co30Fe70は、30原子%のCoと70原子%のFeよりなる合金を表している。第1および第2の反強磁性層21,23は、IrMn、PtMn等の反強磁性材料によって形成されている。強磁性層22の厚みは、8nm以上であることが好ましい。強磁性層22の材料をCoFeとし、強磁性層22の厚みを8nm程度とすると、バイアス磁界発生部20によって、10Oe(1Oe=79.6A/m)程度の強度のバイアス磁界Hbを生成することができる。
【0040】
なお、第2の反強磁性層23は、バイアス磁界発生部20の必須の構成要素ではなく、設けられていなくてもよい。
【0041】
次に、図7を参照して、MR素子10の構成の一例について説明する。図7は、MR素子10の構成の一例を示す側面図である。MR素子10は、少なくとも、方向が固定された磁化を有する磁化固定層13と、被検出磁界に応じて磁化が変化する自由層15と、磁化固定層13と自由層15の間に配置された非磁性層14とを有している。
【0042】
図7に示した例では、MR素子10は、更に、下地層11、反強磁性層12および保護層16を有している。この例では、下地層11、反強磁性層12、磁化固定層13、非磁性層14、自由層15および保護層16が、下部電極40側からこの順に、第1の方向(Z方向)に沿って積層されている。下地層11と保護層16は、導電性を有している。下地層11は、図示しない基板の結晶軸の影響を排除し、下地層11の上に形成される各層の結晶性や配向性を向上させるために用いられる。下地層11の材料としては、例えばTaやRuが用いられる。反強磁性層12は、磁化固定層13との交換結合により、磁化固定層13における磁化の方向を固定する層である。反強磁性層12は、IrMn、PtMn等の反強磁性材料によって形成されている。
【0043】
磁化固定層13では、反強磁性層12との交換結合により、磁化の方向が固定されている。図7に示した例では、磁化固定層13は、反強磁性層12の上に順に積層されたアウター層131、非磁性中間層132およびインナー層133を有し、いわゆるシンセティック固定層になっている。アウター層131とインナー層133は、例えば、CoFe、CoFeB、CoNiFe等の強磁性材料によって形成されている。アウター層131は、反強磁性層12との交換結合により、磁化の方向が固定されている。アウター層131とインナー層133は、反強磁性的に結合し、磁化の方向が互いに逆方向に固定されている。非磁性中間層132は、アウター層131とインナー層133の間に反強磁性交換結合を生じさせ、アウター層131の磁化の方向とインナー層133の磁化の方向を互いに逆方向に固定する。非磁性中間層132は、Ru等の非磁性材料によって形成されている。磁化固定層13がアウター層131、非磁性中間層132およびインナー層133を有する場合には、磁化固定層13の磁化の方向とは、インナー層133の磁化の方向を指す。
【0044】
MR素子10がTMR素子である場合には、非磁性層14はトンネルバリア層である。トンネルバリア層は、例えば、マグネシウム層の一部または全体を酸化させて形成したものであってもよい。MR素子10がGMR素子である場合には、非磁性層14は非磁性導電層である。自由層15は、例えば、CoFe、CoFeB、NiFe、CoNiFe等の軟磁性材料によって形成されている。保護層16は、その下の各層を保護するための層である。保護層16の材料としては、Ta、Ru、W、Ti等が用いられる。
【0045】
下地層11は下部電極40に接続され、保護層16はバイアス磁界発生部20に接続されている。MR素子10には、下部電極40と、バイアス磁界発生部20に接続された上部電極30によって、電流が供給されるようになっている。この電流は、MR素子10を構成する各層の面と交差する方向、例えばMR素子10を構成する各層の面に対して垂直な方向である第1の方向(Z方向)に流れる。
【0046】
MR素子10では、自由層15に印加される磁界に応じて、自由層15の磁化が変化する。より詳しく説明すると、自由層15に印加される磁界の方向および大きさに応じて、自由層15の磁化の方向および大きさが変化する。MR素子10の抵抗値は、自由層15の磁化の方向および大きさによって変化する。例えば、自由層15の磁化の大きさが一定の場合には、自由層15の磁化の方向が磁化固定層13の磁化の方向と同じであるときに、MR素子10の抵抗値は最小値となり、自由層15の磁化の方向が磁化固定層13の磁化の方向とは反対方向であるときに、MR素子10の抵抗値は最大値となる。
【0047】
次に、図2を参照して、MR素子10A〜10Dのそれぞれの磁化固定層13の磁化の方向について説明する。図2において、符号10AP,10BP,10CP,10DPを付した矢印は、それぞれ、MR素子10A,10B,10C,10Dにおける磁化固定層の磁化の方向を表している。図2に示したように、MR素子10Aにおける磁化固定層13の磁化の方向10APは、X方向に平行な第3の方向(図2では左側に向かう方向)であり、MR素子10Bにおける磁化固定層13の磁化の方向10BPは、第3の方向とは反対側の第4の方向(図2では右側に向かう方向)である。この場合、第3および第4の方向に平行な方向すなわちX方向についての被検出磁界の成分の強度に応じて、MR素子10A,10Bの接続点の電位が変化する。第1の出力ポートE1は、MR素子10A,10Bの接続点の電位に対応した第1の検出信号を出力する。第1の検出信号は、X方向についての被検出磁界の成分の強度を表している。
【0048】
また、図2に示したように、MR素子10Cにおける磁化固定層13の磁化の方向10CPは、上記第3の方向であり、MR素子10Dにおける磁化固定層13の磁化の方向10DPは、上記第4の方向である。この場合、第3および第4の方向に平行な方向すなわちX方向についての被検出磁界の成分の強度に応じて、MR素子10C,10Dの接続点の電位が変化する。第2の出力ポートE2は、MR素子10C,10Dの接続点の電位に対応した第2の検出信号を出力する。第2の検出信号は、X方向についての被検出磁界の成分の強度を表している。
【0049】
MR素子10AとMR素子10Dでは、それらに含まれる磁化固定層13の磁化の方向が互いに反対方向である。また、MR素子10BとMR素子10Cでは、それらに含まれる磁化固定層13の磁化の方向が互いに反対方向である。そのため、第1の検出信号に対する第2の検出信号の位相差は180°になる。
【0050】
なお、MR素子10A〜10Dにおける磁化固定層13の磁化の方向は、MR素子10A〜10Dの作製の精度等の観点から、上述の方向からわずかにずれていてもよい。
【0051】
次に、図2を参照して、バイアス磁界発生部20A〜20Dが発生するバイアス磁界Hbについて説明する。図2において記号Hbを付した矢印は、その矢印に最も近い位置にあるMR素子10の位置におけるバイアス磁界Hbの方向を表している。図2に示したように、バイアス磁界Hbは、MR素子10A〜10Dの位置において、Y方向(第2の方向)に平行な方向(図2では右上側に向かう方向)の成分を含んでいる。バイアス磁界Hbは、磁化固定層13の磁化の方向に平行な方向(X方向)についての被検出磁界の成分の強度が0になるときに、自由層15を単磁区化し、且つ自由層15の磁化の方向を一定の方向に向かせるために用いられる。
【0052】
図1に示した磁気センサシステムにおいて、磁気センサ1は、Z方向が、磁気センサ1が配置された位置と中心軸Cとを結ぶ直線に対して平行またはほぼ平行になり、X方向が、中心軸Cに垂直な仮想の平面に対して平行またはほぼ平行になる姿勢で、回転スケール50の外周面に対向する位置に配置されている。この場合、MR素子10の位置におけるバイアス磁界Hbの主成分の方向(Y方向)は、図1に示した中心軸Cに対して平行またはほぼ平行になる。
【0053】
次に、図2図5図8および図9を参照して、磁気検出素子(MR素子10)とバイアス磁界発生部20の位置関係について説明する。図8は、図2に示した磁気センサ1におけるバイアス磁界発生部20とMR素子10の位置関係を示す平面図である。図9は、図2に示した磁気センサ1におけるバイアス磁界発生部20とMR素子10の位置関係を示す斜視図である。まず、図5および図9に示したように、バイアス磁界発生部20の第1の端面20aに相当する仮想の平面を第1の方向(Z方向)に沿って第2の端面20bとは反対側に移動してできる空間を、空間Sと定義する。少なくとも1つの磁気検出素子は、空間S内に少なくとも1つの磁気検出素子の各々の少なくとも一部が含まれるように配置される。本実施の形態では特に、少なくとも1つの磁気検出素子としての1つのMR素子10が、その全体が空間S内に含まれるように配置されている。
【0054】
図8および図9に示したように、バイアス磁界発生部20の第1の端面20aは、それぞれ面積を有する第1の端部領域R1と第2の端部領域R2と中央領域R3とを含んでいる。第1の端部領域R1は、第1の端面20aにおける第2の方向(Y方向)の一方の端に位置する第1の端部20a1を含んでいる。第2の端部領域R2は、第1の端面20aにおける第2の方向(Y方向)の他方の端に位置する第2の端部20a2を含んでいる。中央領域R3は、第1の端部領域R1と第2の端部領域R2の間に位置して、第2の方向に直交する第1の境界線L1を介して第1の端部領域R1に隣接すると共に、第2の方向に直交する第2の境界線L2を介して第2の端部領域R2に隣接している。図8では、第1および第2の境界線L1,L2を一点鎖線で示している。
【0055】
ここで、図9に示したように、第1の端部領域R1、第2の端部領域R2、中央領域R3に相当する3つの仮想の平面を第1の方向(Z方向)に沿ってバイアス磁界発生部20の第2の端面20bとは反対側に移動してできる空間を、それぞれ、第1の端部空間R1S、第2の端部空間R2S、中央空間R3Sと定義する。少なくとも1つの磁気検出素子としての1つのMR素子10は、その全体が中央空間R3S内に含まれるように配置されていることが好ましい。以下、このようにMR素子10が配置されている場合について説明する。
【0056】
図8に示したように、第1の端部20a1と第1の境界線L1の間の距離を記号D1で表し、第2の端部20a2と第2の境界線L2の間の距離を記号D2で表し、第1の端部20a1と第2の端部20a2の間の距離をD3で表す。距離D1,D2は、いずれも距離D3の10%であることが好ましく、距離D3の35%であることがより好ましい。その理由については、後で詳しく説明する。
【0057】
図2図4図5図8および図9には、1つのバイアス磁界発生部20によって規定される空間S内あるいは中央空間R3S内に1つのMR素子10のみが配置されている例を示している。しかし、後で第2の実施の形態で説明するように、1つのバイアス磁界発生部20によって規定される空間S内あるいは中央空間R3S内に複数のMR素子10が配置されていてもよい。
【0058】
次に、本実施の形態に係る磁気センサ1および磁気センサシステムの作用および効果について説明する。本実施の形態では、バイアス磁界発生部20は、強磁性層22と第1の反強磁性層21を含み、第1の反強磁性層21は、強磁性層22と交換結合している。これにより、強磁性層22の磁化の方向が規定される。バイアス磁界発生部20は、強磁性層22の磁化に基づいて、MR素子10に印加されるバイアス磁界Hbを発生する。
【0059】
ここで、バイアス磁界を発生する手段としてバイアス磁界発生部20の代わりに永久磁石を用いた比較例の磁気センサと比較しながら、本実施の形態に係る磁気センサ1の効果について説明する。まず、図10図11を参照して、永久磁石の磁化曲線とバイアス磁界発生部20の磁化曲線とを比較する。図10は、永久磁石の磁化曲線を示す特性図である。図11は、バイアス磁界発生部20の磁化曲線を示す特性図である。図10および図11において、横軸は磁界を示し、縦軸は磁化を示している。磁界と磁化のいずれに関しても、所定の方向についての大きさを正の値で表し、所定の方向とは反対方向についての大きさを負の値で表す。また、磁化曲線中の矢印は、磁界の変化の方向を表している。また、符号HSで示した磁界の範囲は、被検出磁界の範囲を表している。
【0060】
比較例の磁気センサは、被検出磁界の強度が永久磁石の保磁力を超えないという条件の下で使用される。しかし、磁気センサは、様々な環境で使用され得るため、永久磁石の保磁力を超える強度の外部磁界が、一時的に永久磁石に印加されることが起こり得る。永久磁石の保磁力を超える強度の外部磁界が、一時的に永久磁石に印加されると、永久磁石の磁化の方向が、当初の方向から変化し、外部磁界がなくなっても当初の方向から変化したままになる場合がある。例えば、図10に示したように、被検出磁界の範囲HSを超える正の値の外部磁界が一時的に永久磁石に印加された場合には、外部磁界がなくなった後で、永久磁石の磁化の方向は正の方向に固定される。一方、被検出磁界の範囲HSを超える負の値の外部磁界が一時的に永久磁石に印加された場合には、外部磁界がなくなった後で、永久磁石の磁化の方向は負の方向に固定される。このようなことから、比較例の磁気センサでは、永久磁石の保磁力を超える強度の外部磁界が、一時的に永久磁石に印加されると、バイアス磁界の方向が所望の方向から変化してしまう場合がある。
【0061】
これに対し、本実施の形態におけるバイアス磁界発生部20では、図11から理解されるように、強磁性層22の磁化の方向を反転させるほど大きな強度の外部磁界が一時的に印加されても、そのような外部磁界がなくなれば、強磁性層22の磁化の方向は、当初の方向に戻る。従って、本実施の形態によれば、MR素子10に対して安定したバイアス磁界Hbを印加することが可能になる。この効果は、バイアス磁界発生部20が第2の反強磁性層23を含むことによって増強される。
【0062】
また、本実施の形態では、少なくとも1つのMR素子10は、バイアス磁界発生部20の第1の端面20aに相当する仮想の平面を第1の方向(Z方向)に沿って第2の端面20bとは反対側に移動してできる空間S(図5および図9参照)内に少なくとも1つのMR素子10の各々の少なくとも一部が含まれるように配置されている。すなわち、本実施の形態では、バイアス磁界発生部20の強磁性層22および第1の反強磁性層21と、MR素子10が第1の方向(Z方向)に沿って並ぶ。また、本実施の形態では、上部電極30および下部電極40が少なくとも1つのMR素子10に対して第1の方向(Z方向)の両側に位置し、バイアス磁界発生部20は、上部電極30と少なくとも1つのMR素子10の間に配置されている。これらのことから、本実施の形態によれば、バイアス磁界発生部20、MR素子10、上部電極30および下部電極40を含む積層体を、少ない工程で容易に作成することができる。
【0063】
なお、本実施の形態では、MR素子10の自由層15とバイアス磁界発生部20の第1の反強磁性層21との間には、MR素子10の保護層16が介在している。従って、本実施の形態では、反強磁性層が自由層15に接することはない。そのため、本実施の形態では、反強磁性層が自由層15に接することによる問題は発生しない。
【0064】
また、本実施の形態では、図9に示したように、少なくとも1つのMR素子10は、中央空間R3S内に少なくとも1つのMR素子10の全体が含まれるように配置されている。これにより、本実施の形態によれば、MR素子10に対して均一性の高いバイアス磁界Hbを印加することができ、且つバイアス磁界発生部20とMR素子10の相対的な位置関係の変動に対するバイアス磁界Hbの変動を抑えることができる。以下、この効果について詳しく説明する。
【0065】
始めに、図9に示したように、MR素子10の自由層15と交差しバイアス磁界発生部20の第1の端面20aに平行な仮想の平面を基準平面RPと定義する。また、基準平面RPにおいて、第1の端部空間R1S、第2の端部空間R2S、中央空間R3Sと交差する領域を、それぞれ、第1の投影端部領域R1P、第2の投影端部領域R2P、投影中央領域R3Pと定義する。また、基準平面RP上において、強磁性層22の磁化の方向と反対方向のバイアス磁界Hbの成分を、基準成分と定義する。基準成分は、MR素子10に印加されるバイアス磁界Hbの主成分である。
【0066】
図12は、基準平面RP上におけるバイアス磁界Hbの基準成分の強度を示す特性図である。図12において、横軸は、基準平面RP上において、投影中央領域R3PのX方向およびY方向の中心を通り、Y方向に平行な直線上の位置を示している。図12の横軸では、投影中央領域R3PのX方向およびY方向の中心(以下、中心位置と言う。)を0μmとし、中心位置に対して第1の端部20a1(図8および図9参照)側の位置を負の値で表し、中心位置に対して第2の端部20a2(図8および図9参照)側の位置を正の値で表している。縦軸は、上記基準平面RP上におけるバイアス磁界Hbの基準成分の強度を示している。なお、図12では、上記中心位置におけるバイアス磁界Hbの基準成分の強度が100%になるように規格化している。
【0067】
また、図12では、図8に示した第1の端部20a1と第2の端部20a2の間の距離D3を10μmとしている。図12において、基準成分の強度の2つのピークの位置(±5μmの位置)は、第1の端部20a1と第2の端部20a2に相当する2つの仮想の直線を第1の方向(Z方向)に沿ってバイアス磁界発生部20の第2の端面20bとは反対側に移動したときに、この2つの仮想の直線が基準平面RPと交差する位置を表している。また、図12において、記号L11,L12を付した直線の位置は、いずれも、図8に示した第1の端部領域R1と中央領域R3の間に位置する第1の境界線L1に相当する仮想の直線を第1の方向(Z方向)に沿ってバイアス磁界発生部20の第2の端面20bとは反対側に移動したときに、この仮想の直線が基準平面RPと交差する位置を表している。直線L11の位置は、図8に示した第1の端部20a1と第1の境界線L1の間の距離D1を、距離D3の10%とした場合の位置を表している。直線L12の位置は、距離D1を距離D3の35%とした場合の位置を表している。
【0068】
同様に、記号L21,L22を付した直線の位置は、いずれも、図8に示した第2の端部領域R2と中央領域R3の間に位置する第2の境界線L2に相当する仮想の直線を第1の方向(Z方向)に沿ってバイアス磁界発生部20の第2の端面20bとは反対側に移動したときに、この仮想の直線が基準平面RPと交差する位置を表している。直線L21の位置は、図8に示した第2の端部20a2と第2の境界線L2の間の距離D2を、距離D3の10%とした場合の位置を表している。直線L22の位置は、距離D2を距離D3の35%とした場合の位置を表している。
【0069】
直線L11と直線L21の間における基準成分の強度分布は、距離D1,D2をいずれも距離D3の10%としたときの投影中央領域R3Pにおける基準成分の強度分布を表している。直線L12と直線L22の間における基準成分の強度分布は、距離D1,D2をいずれも距離D3の35%としたときの投影中央領域R3Pにおける基準成分の強度を表している。直線L11または直線L12と−5μmの位置との間における基準成分の強度分布は、第1の投影端部領域R1Pにおける基準成分の強度を表している。直線L21または直線L22と5μmの位置との間における基準成分の強度分布は、第2の投影端部領域R2Pにおける基準成分の強度を表している。
【0070】
図12に示したように、投影中央領域R3Pでは、第1および第2の投影端部領域R1P,R2Pに比べて、第2の方向(Y方向)についての位置の変化に対する基準成分の強度の変化の勾配が小さい。そのため、MR素子10の少なくとも一部が中央空間R3S外に位置するようにMR素子10を配置した場合に比べて、中央空間R3S内にMR素子10の全体が含まれるようにMR素子10を配置した方が、MR素子10に対して均一性の高いバイアス磁界Hbを印加することができ、且つバイアス磁界発生部20とMR素子10の相対的な位置関係の変動に対するバイアス磁界Hbの変動を抑えることができる。
【0071】
図12から、距離D1,D2をいずれも距離D3の10%とした場合、投影中央領域R3Pでは、バイアス磁界Hbの基準成分の強度が、前述の中心位置における基準成分の強度の100%〜300%の範囲内に収まる。また、距離D1,D2をいずれも距離D3の35%とした場合、投影中央領域R3Pでは、バイアス磁界Hbの基準成分の強度が、前述の中心位置における基準成分の強度の100%〜120%の範囲内に収まる。MR素子10が配置される中央空間R3Sにおけるバイアス磁界Hbの基準成分の強度の変動を小さくする観点から、距離D1,D2は、いずれも距離D3の10%であることが好ましく、距離D3の35%であることがより好ましい。
【0072】
[第2の実施の形態]
次に、図13を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図13は、本実施の形態に係る磁気センサの一部を拡大して示す側面図である。本実施の形態に係る磁気センサ1は、8つのMR素子10と、4つのバイアス磁界発生部20と、図示しない基板と、2つの上部電極(第1の電極)30と、2つの下部電極(第2の電極)40とを備えている。本実施の形態では、第1の実施の形態で説明したMR素子10A,10B,10C,10Dのそれぞれの位置に、上部電極30および下部電極40によって並列接続された2つのMR素子10が配置されている。
【0073】
本実施の形態では、並列接続された2つのMR素子10は、対応するバイアス磁界発生部20によって規定される空間S内に2つのMR素子10の各々の少なくとも一部が含まれるように配置されている。この2つのMR素子10における磁化固定層13の磁化の方向は同一である。この2つのMR素子10は、第1の実施の形態で説明した中央空間R3S内に2つのMR素子10の全体が含まれるように配置されていることが好ましい。この場合には、2つのMR素子10に対して均一性の高いバイアス磁界Hbを印加することができると共に、2つのMR素子10に印加されるバイアス磁界Hbの強度差を小さくすることができる。
【0074】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0075】
[第3の実施の形態]
次に、図14を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。図14は、本実施の形態における磁気センサシステムの概略の構成を示す斜視図である。本実施の形態における磁気センサシステムは、以下の点で第1の実施の形態と異なっている。本実施の形態における磁気センサシステムは、回転スケール50の代わりにリニアスケール150を備えている。リニアスケール150は、交互に直線状に配列された複数組のN極とS極を有している。リニアスケール150は、N極とS極とが並ぶ方向に平行な側面を有している。磁気センサ1は、リニアスケール150の側面に対向する位置に配置されている。
【0076】
リニアスケール150と磁気センサ1の一方は、図示しない動作体に連動して、所定の方向Dに直線的に移動する。これにより、磁気センサ1に対するリニアスケール150の相対的位置が方向Dに変化する。方向Dは、リニアスケール150のN極とS極が並ぶ方向である。磁気センサシステムは、リニアスケール150と磁気センサ1との相対的位置関係に関連する物理量として、例えば、リニアスケール150と磁気センサ1の一方に連動する上記動作体の位置や速度を検出する。
【0077】
本実施の形態では、被検出磁界は、リニアスケール150によって発生され、且つ被検出磁界の方向は、磁気センサ1に対するリニアスケール150の相対的位置の変化に伴って変化する。
【0078】
磁気センサ1の構成は、第1の実施の形態と同じ構成であってもよいし、第2の実施の形態と同じ構成であってもよい。本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1または第2の実施の形態と同様である。
【0079】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、請求の範囲の要件を満たす限り、バイアス磁界発生部20の形状および配置、ならびにMR素子10の数、形状および配置は、各実施の形態に示した例に限られず、任意である。
【0080】
また、MR素子10は、下から、下地層11、自由層15、非磁性層14、磁化固定層13、反強磁性層12および保護層16の順に積層されて構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…磁気センサ、10…MR素子、13…磁化固定層、14…非磁性層、15…自由層、20…バイアス磁界発生部、20a…第1の端面、20b…第2の端面、21…第1の反強磁性層、22…強磁性層、23…第2の反強磁性層、30,31,32…第1の電極、40,41,42…第2の電極、50…回転スケール、150…リニアスケール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14