特許第6202294号(P6202294)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202294
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】視力調整用シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20170914BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20170914BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   G02B5/02 B
   G02C7/10
   G02C7/00
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-128408(P2012-128408)
(22)【出願日】2012年6月5日
(65)【公開番号】特開2013-254040(P2013-254040A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 常人
(72)【発明者】
【氏名】田原 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 満
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−532336(JP,A)
【文献】 特開平08−082773(JP,A)
【文献】 特開平10−115810(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/019225(WO,A1)
【文献】 特表2013−501959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00 − 5/136
G02C 1/00 −13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状である視力調整用シートであって、
基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である弱視の矯正用の視力調整用シート。
【請求項2】
前記シートのヘイズ値が、20%以上50%以下である請求項1記載の視力調整用シート。
【請求項3】
前記透光性微粒子の平均粒子径が、0.3〜50μmである請求項1または2記載の視力調整用シート。
【請求項4】
前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の視力調整用シート。
【請求項5】
前記基材が、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル樹脂から選ばれた少なくとも一つ以上の高分子材料である請求項1〜4のいずれか1項に記載の視力調整用シート。
【請求項6】
前記透光性微粒子を含有する層の厚みが、50μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の視力調整用シート。
【請求項7】
眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状である視力調整用シートの製造方法であって、
透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより基材上に透光性微粒子を含有する層を作成する弱視の矯正用の視力調整用シートの製造方法。
【請求項8】
前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子であり、その平均粒子径が0.3〜50μmである請求項記載の視力調整用シートの製造方法。
【請求項9】
前記塗液における透光性微粒子の濃度が、1〜50重量%である請求項または記載の視力調整用シートの製造方法。
【請求項10】
前記接着剤が、エマルジョン系接着剤である請求項のいずれか1項に記載の視力調整用シートの製造方法。
【請求項11】
眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状であり、視力調整に用いられる視力調整用シートの製造方法であって、
基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下から選択され、
前記ヘイズ値が、視力調整量に応じて選択された所定のヘイズ値である弱視の矯正用の視力調整用シートの製造方法。
【請求項12】
眼鏡に貼りつけられるまたは眼鏡用レンズの形状である視力調整用シートのセットであって、
前記セットが、基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である複数のシートを有し、
前記複数のシートが異なるヘイズ値のものを含む弱視の矯正用の視力調整用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の視力低下効果を得ることができる視力調整用シートおよびその製造方法に関する。詳しくは、基材上に透光性微粒子を含有する層を有する視力調整用シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
弱視治療の現場等において、患眼ではない視力の良い方の眼(健眼)の視力を低下させる方法が求められている。
従来、視力低下方法として、健眼を眼帯で完全に隠す完全遮閉方法や調節麻痺剤(特許文献1)を使用し健眼の視力を低下させる薬理的治療法が用いられてきた。しかし、これらの方法は、健眼の視力を大きく低下させるものであり、生活に支障をきたす恐れがあるばかりでなく、両目で見ることで初めて成立する立体視の発達を阻害し、その結果、治療が長期化するといった問題があった。
【0003】
また、他の方法として、Bangerterの原理に基づく弱視治療用の眼鏡箔が臨床で使用されている。この方法は、健眼の視力を患眼と同程度の視力まで落とすことで、両方の目を使うことを目的とした不完全遮閉法である。しかし、Bangerterの原理に基づく眼鏡箔は、非特許文献1に指摘されているように、表示されている視力値の低下効果と実際の視力低下効果が異なることが多く、適正な眼鏡箔の選択を医師の経験則にゆだねる必要があった。
【0004】
一方、特許文献2には、レンズの研磨等により視認性を低下させたレンズが記載されているが、これは、視認性を大きく低下させることを目的とするものでその程度に言及するものではない。さらに、特許文献3には、弱視治療用レンズおよび眼鏡の記載があるが、これは、凹凸面の上に無反射のマルチコーティング層を設けることで、外部から着用者の目がはっきり見えることを目的としたもので、これも視力低下の程度に言及するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許公表2010−514517号公報
【特許文献2】特開平10−1158110号公報
【特許文献3】特開平8−82773号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本視能訓練士協会誌 第31巻:191頁−198頁、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
かかる状況において、本発明は、上記したような従来の健眼の能力を大きく損ねる完全遮閉方法や薬理治療方法、およびその視力の低下効果が十分とは言えないBangerterの原理に基づく弱視治療用の眼鏡箔の問題点を解決した、視力調整用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果えられたもので、適切な視力低下効果を得ることができる視力調整用シートおよびその製造方法に係るものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1>基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である視力調整用シート。
<2>前記シートのヘイズ値が、10%以上70%以下から選択される所定のヘイズ値である前記<1>記載の視力調整用シート。
<3>前記シートのヘイズ値が、20%以上50%以下である前記<1>または<2>記載の視力調整用シート。
<4>前記透光性微粒子の平均粒子径が、0.3〜50μmである前記<1>〜<3>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<5>前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子を含む前記<1>〜<4>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<6>前記基材が、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル樹脂から選ばれた少なくとも一つ以上の高分子材料である前記<1>〜<5>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<7>前記透光性微粒子を含有する層の厚みが、50μm以下である前記<1>〜<6>のいずれかに記載の視力調整用シート。
<8>前記<1>〜<7>のいずれかに記載のシートが、弱視の矯正用シートである視力調整用シート。
<9>透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより基材上に透光性微粒子を含有する層を作成する視力調整用シートの製造方法。
<10>前記透光性微粒子が、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた少なくとも一つ以上の微粒子であり、その平均粒子径が0.3〜50μmである前記<9>記載の視力調整用シートの製造方法。
<11>前記塗液における透光性微粒子の濃度が、1〜50重量%である前記<9>または<10>に記載の視力調整用シートの製造方法。
<12>前記接着剤が、エマルジョン系接着剤である前記<9>〜<11>のいずれかに記載の視力調整用シートの製造方法。
<13>前記<9>〜<12>のいずれかに記載の製造方法により得られてなる視力調整用シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる視力調整用シートは、透光性微粒子層を有し、所定の全光線透過率、ヘイズ値を有するシートであるため、安定した視力低下効果を示す。このため、特に弱視治療用のシートとして用いたとき治療計画をたてやすくなり非常に有用である。
また、本発明にかかる視力調整用シートは、弱視治療期間中に視力を正確に調整することができ、視機能への副作用を及ぼす危険性も少ない。さらに、健眼と患眼の視力を均等に保つことができるため立体視の発達を阻害することがなく、矯正時間に制約を受けたり、治療の完了までに長時間を要したりすることがなく、短期間で適切な治療効果を得ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】塗液(C)のシリカ微粒子濃度と得られたシートの全光線透過率との関係を示した図である。
図2】塗液(C)のシリカ微粒子濃度と得られたシートのヘイズ値との関係を示した図である。
図3】塗液(C)のシリカ微粒子濃度と得られたシートのlogMARとの関係を示した図である。
図4】Bangerterの原理に基づく(Ryser社製)眼鏡箔表示視力と全光線透過率との関係を示した図である。
図5】Bangerterの原理に基づく(Ryser社製)眼鏡箔表示視力とヘイズ値との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について具体例を示して詳細に説明する。
【0013】
本発明は、基材上に透光性微粒子を含有する層を有し、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下である視力調整用シート(以下、単に「シート」ということがある。)に関する。本発明のシートは、特に、弱視治療の現場で、視力低下量を調整あるいは矯正する目的で使用される。
以下本発明のシートおよびその原材料、シートの製造方法について詳述する。
【0014】
[シート]
本発明の視力調整用シートは、基材上に透光性微粒子を含有する層を有する視力調整用シートである。本発明の視力調整用シートは、全光線透過率が85%以上であり、かつヘイズ値が10%以上70%以下であることが必要である。
【0015】
本発明におけるシートの全光線透過率が85%未満であると、本シートを用いる方の目の視界が暗くなるため本シートをかけていない方の目の見え方との差が大きくなり好ましくない。全光線透過率は好ましくは90%以上である。本発明におけるシートの全光線透過率は95%以下であることが好ましい。
【0016】
本発明におけるシートのヘイズ値は、10%以上70%以下である。好ましくは20%以上50%以下である。本発明によるシートのヘイズ値と、視力低下量の評価方法の一つであるlogMARは、高い相関関係があり、シートにより視力低下量の調整が正確に行え、健眼と患眼の視力を均等に保つことができる。一般に、治療等の目的で視力低下量を調整したい範囲は、logMARがおおむね0.1〜1.5の範囲であるが、この範囲と対応する視力低下効果がある本シートのヘイズ値は10%〜70%である。特に、logMARが安定して0.4〜1.0の範囲に対応するものは従来の方法では調整することが非常に困難な範囲であり、この範囲に対応するヘイズ値は20%〜50%である。
【0017】
なお、本発明でいうシートのヘイズ値は10%〜70%から選択される所定のヘイズ値であることが好ましい。ここで「選択される所定のヘイズ値」とは、目的とする視力調整量に応じて特定のヘイズ値のシートを適宜選択した場合における、選択された当該シートのヘイズ値をいう。視力調整用シートは、後述するようにヘイズ値の程度に応じてその視力調整量(logMARなどで表される)は変化する。また視力調整量は個人による差もある。よって、安定した効果を得るためには、目的とする視力調整量に応じて適宜所定のヘイズ値を有するシートを選択することが好ましい。
【0018】
本発明の視力調整用シートは、基材上に透光性微粒子を含有する層を有する視力調整用シートである。シートの厚みは、特に制限がなく、シートの形状はフィルム、箔、膜、板、レンズ等を含む概念である。シートは上記のいずれの形状でもよく、フィルムや、箔といった比較的薄い形状の場合、眼鏡に本発明のシートを貼りつけることで目的とする視力低下量調整機能を達成することができる。さらには、眼鏡レンズ上に透光性微粒子を含有する層を設けることでも達成することができる。
【0019】
[基材]
本発明の視力調整用シートを構成する基材としては、透明性を有する高分子材料や無機材料が使用できる。
高分子材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂等が挙げられる。その中でも、ポリエチレンテレフタレート、トリセチルセルロース、ポリカーボネート、アクリル樹脂が好ましく使用される。また、無機材料として、ガラス等が示される。
【0020】
これらの基材は、後述する透光性微粒子を含有する塗液を塗布し、透光性微粒子を含有する層を形成するための構造体を構成するものである。
かかる基材の形状は、最終製品である本発明の視力調整用シートの形状とほぼ同じであり、フィルム、箔、膜、板、レンズ等の形状を有する。
レンズとして達成する場合、ガラスレンズ、プラスチック製のレンズ等、公知の眼鏡用途に用いられるレンズを基材として用いることができる。
【0021】
[透光性微粒子]
次に、本発明の透光性微粒子としては、有機微粒子のものでは、スチレン樹脂ビーズ、メラミン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズ、アクリル−スチレン樹脂ビーズ、ポリカーボネートビーズ、ポリエチレンビーズ、ポリ塩化ビニルビーズ、シリコーンビーズなどが挙げられる。また、無機微粒子としては、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、Al−SiO2、GeO2等の微粒子が挙げられる。これらの中でもシリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアから選ばれた1種又は2種以上の無機微粒子が好適に使用され、特に、入手性の点でシリカ微粒子が好ましい。
平均粒子径は塗工膜厚にも依存するが、0.3〜50μmであることが好ましく、塗工適性に優れるという点で0.5〜10μmが最も好ましい。平均粒子径は、電子顕微鏡写真を撮影し、形状を観察するとともに100個の粒子について粒子径を測定し、その平均値として得られる。粒子の観察画像が円状でない場合は、円相当径を求め粒子径として計算する。
【0022】
[接着剤]
透光性微粒子を透明フィルム上に積層する場合、透光性微粒子をフィルム上に固定させるための接着剤を用いることが好ましい。本目的の接着剤は、公知の接着剤を用いることができるが、たとえば、溶剤系粘着剤、エマルジョン系粘着剤、UV硬化型無溶剤系粘着剤がある。水性エマルジョン樹脂には、無機−有機複合樹脂エマルジョン、フッ素樹脂エマルジョン、アクリル−スチレン樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョン、ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョン、不飽和カルボン酸の不飽和ビニルとアクリル共重合樹脂エマルジョン、酢ビ系樹脂エマルジョン、酢ビ−アクリル系樹脂エマルジョン、酢ビと不飽和カルボン酸の不飽和ビニル共重合樹脂エマルジョン、エチレン−酢ビ樹脂エマルジョン、ウレタン−アクリル複合樹脂エマルジョン、無機−有機複合樹脂エマルジョン、シリコン−アクリル複合樹脂エマルジョン等がある。特に、環境負荷の少ないエマルジョン系粘着剤を用いることが好ましい。
【0023】
次に、本発明の視力調整用シートの製造方法につき具体的に説明する。
[視力調整用シートの製造方法]
本発明の視力調整用シートの製造方法は、透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材上に塗布し、乾燥することにより基材上に透光性微粒子を含有する層を作成するものである。
【0024】
[塗液の調整]
透光性微粒子と接着剤とを含む塗液の調整は以下の方法による。塗液は、前述した透光性微粒子と接着剤を含むものとして作成されるが、必要に応じて溶剤を添加してもよい。ここで用いる溶剤は主に水や各種有機溶媒である。有機溶媒としては、アルコール系やケトン系、芳香族系等の溶媒から、良好な塗膜を得るために適した溶媒を適宜選択すればよいが、生産性の観点から沸点が150℃以下、また塗布性を高めるために常温における粘度が低く、かつ本発明にかかるシートは目の近くで使用されるもののため人体に対する影響が比較的少ない溶媒であることが好ましい。このような好ましい溶媒として、水やエタノールが例示される。
【0025】
塗液中の透光性微粒子の濃度は、基材上に透光性微粒子を含有する層を作成することができれば限定されないが、1〜50重量%であることが好ましい。微粒子濃度が低すぎる場合、目的とするヘイズ値を達成するために塗布する塗液の厚さを厚くする必要があり、生産性が低くなる。微粒子濃度が高すぎる場合、透光性微粒子を含有する層の厚みを調整しにくくなることがある。
【0026】
接着剤は、基材上に作成する透光性微粒子層が実用上、問題がない程度に接着することができる程度添加されればよいが、塗液中における接着剤濃度が1〜70重量%程度の範囲から選択されることが好ましい。接着剤が少なすぎる場合、接着力が弱く透光性微粒子層が脱落しやすくなることがあり、高すぎる場合、相対的に透光性微粒子濃度が低くなるため透光性微粒子層の厚みの調整が難しくなることがある。
これらの塗液の原料は、十分に溶解または分散するように撹拌したほうがよい。
【0027】
本発明の塗液を調整するにあたっては、透光性微粒子、接着剤、溶剤の他にも添加剤を加えることもできる。たとえば、透光性微粒子が均一に分散するように添加される分散剤や、塗液の濡れ性向上のために添加される表面調整剤や、耐候性を付与するための紫外線吸収剤等が例示される。
【0028】
[塗布方法]
前記、透光性微粒子と接着剤とを含む塗液を基材に塗布する方法については、特に制限はなく、公知の方法、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバー法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレーコート法、流延製膜法、バーコート法、グラビアコート法、ドクターブレード法、ダイコーター法等の方法などを用いることができる。塗布は、常温でおこなってよいが、塗液の濃度や、用いた溶媒によっては、常温以下、たとえば0℃〜20℃の低い温度でおこなってもよいし、常温以上、たとえば、30℃〜80℃で塗布してもよい。また、埃等の異物の混入を避けるため、クリーン度の高い環境で塗布することが好ましい。
【0029】
なお、塗膜の厚みは適宜選択されるが、乾燥後塗膜の厚みを50μm以下となるように塗布することが好ましい。50μmを越えると基材との密着性が悪化したり、乾燥にかかる時間が長くなりすぎ製造効率が悪くなったりするなどの問題がある。より好ましくは、十分な拡散効果を得やすく、製造効率がよいことから0.5〜10μmである。
【0030】
[塗膜を形成する方法]
塗膜の形成は、基材上に、前記塗液に水や有機溶媒のような溶媒を加えた塗液を用いて塗膜を形成した後、水や有機溶媒のような、揮発性のものを乾燥により揮発させることにより行われる。乾燥方法は、特に限定されるものではないが、たとえばドライオーブンを用いて乾燥することができる。
本発明のシートの製造において、塗膜の乾燥温度は20℃以上150℃以下とすることが好ましい。乾燥温度が低すぎる場合、溶剤乾燥に要する時間が長くなり生産性が低下することがあり、また溶剤が十分に揮発せず接着剤が固まらずに透光性微粒子層が脱落しやすくなることがある。乾燥温度が高すぎる場合、基材の耐熱性が不足するために、全体に熱による劣化が生じたり、厚みムラが発生したりすることがあり、面状が悪化することがある。乾燥温度は、一定ではなく、はじめ常温〜50℃程度の低い温度で乾燥させ、その後50℃以上の高温で乾燥する、多段乾燥とした方が、透光性微粒子層の面状がよくなることがある。
【0031】
所定のヘイズ値を有するシートとするためには、透光性微粒子の平均粒子径等に起因する拡散程度を考慮し、その透光性微粒子を含有する層の厚みや微粒子の分散の程度を調整する。これらの調整は、塗液中の透光性微粒子の濃度や他の成分(接着剤や溶剤、添加剤等)との相性、塗布する塗液の厚み、乾燥条件等により変化するため、これらを適宜調整することが必要である。
【0032】
[シートの使用方法]
かくして得られた本発明のシートを用いるにあたっては、眼鏡の上に、本シートを重ねる等の方法で使用することができる。本発明の視力調整用シートを用いると、目的とする視力低下量調整機能を容易に達成することが可能である。弱視治療用として用いるには、シートは患眼の回復に合わせて、段階的に変更することが好ましい。そのため、着脱が容易な方法で達成されることが望まれる場合がある。シートを眼鏡に単に重ねるのみでは、剥がれやすいため、シートと眼鏡を粘着剤により固定することで、安定した視力低下効果を得ることができるが、より好ましくは、取り換えが可能な粘着剤により貼付することがより好ましい。または簡易的には、シートを水でレンズに接着させて用いることもできる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
[視力]
視力とは、二次元的に広がったものの形や位置を見分ける能力である。実用的には、1909年の国際眼科学会で決められた最小分離閾、あるいは最小可読閾で規定される。本実施例では、最小分離閾を用いて視力を測定した。最小分離閾とは、2つの点または線を分離して見分けることのできる最小視角(MAR:minmum angle of resolution;単位:分)で、一般的にはランドルト環の切れ目の方向を識別できる最も小さなランドルト環の切れ目の大きさをいう。視力値は、この識別できる最小視角から換算される。ここで、小数視力値、対数視力値とMARの関係は次の通りである。
小数視力値=1/MAR
対数視力値=log(MAR)
【0035】
(実施例1〜8)
1)塗液調整用溶液(A)の調整
接着剤として用いたエマルジョン系粘着剤(DIC株式会社製、商品名:ボンコート(登録商標) DV−961)をエチルアルコールを用いて希釈して、塗液調整用溶液(A)を調整した。希釈濃度は各組成物の重量比が、接着剤:エタノール=1:1となるように調整した。
【0036】
2)塗液調整用溶液(B)の調整
透光性微粒子として用いたシリカ微粒子(日揮触媒化成株式会社製、商品名:SILICA MICROBEADS Series P−1500、SiO2濃度99%、平均粒子径4μm)を水に混合した液を調整した。本液は、シリカ粒子の濃度が20重量%となるように秤量し、超音波装置を用いて20分処理し、調整溶液中にシリカ粒子が十分に分散するようにした。
【0037】
3)塗液(C)の調整
塗液(C)は塗液調整用溶液(A)と塗液調整用溶液(B)を用いてシリカ微粒子濃度が表1に示す濃度となるように調整した。
【表1】
【0038】
4)塗膜の形成
塗液(C)をバーコーター(第一理化株式会社製、番線の番号No.09、膜厚約20μm)を用いて、OHPシート(富士ゼロックス製,REORDER No.V515)上に塗布する。塗布後2分間、常温(25℃)で乾燥。その後,ドライオーブンを用いて乾燥温度80℃にて30分間乾燥することで、基材であるOHPシート上にシリカ微粒子を含有する層を設けたシートを得た。
【0039】
[全光線透過率およびヘイズ値の測定機器]
濁度計(ヘーズメータ)NDH−300A (日本電色工業株式会社製、JIS K7105に対応する。)を用いて、全光線透過率およびヘイズ値を測定した。
全光線透過率(%)=平行透過率(%)+拡散透過率(%)
ヘイズ値(%)=拡散透過率(%)/全光線透過率(%)×100
【0040】
得られたシートの全光線透過率、ヘイズ値の測定結果をそれぞれ図1、2に示す。
【0041】
[本発明のシートの視力低下量評価]
実施例1〜8のシートの視力低下量を以下の条件で評価した。
被験者:屈折異常以外の眼科的疾患のない成人2名
視力表:ランドルト環表記のlogMAR視力表
測定視力値:5mからの遠見視力値
測定眼:右目
試験回数:1人あたり4回測定
まず、被験者の視力値を、logMAR視力値で−0.1(小数視力値で1.26)になるように矯正した。次に試験枠に各箔を取り付けたものを被験者に装用させ、視力検査を行った。各実施例のシートごとに使用する視力表は新しいものにとりかえて、測定順による視力値の測定結果の変化が起こらないようにした。
本実施例により得られたシートのlogMARの測定結果を図3に示す。本発明にかかるシートはシリカ微粒子濃度の調整によりヘイズ値を調整しており、図2に示すように、シリカ微粒子濃度とヘイズ値は相関する。また、シリカ微粒子濃度と視力調整効果logMARの相関性が高く、また、logMARが0.4を超えるような視力低下量の大きい範囲でも、安定して期待される視力低下効果を得られている。このことから、透光性微粒子を用いてヘイズ値を制御したシートにより、安定した視力調整効果を得ることができることがわかる。
【0042】
(参考例)
[Bangerterの眼鏡箔]
参考例として、透光性微粒子を用いていない、従来、弱視治療用眼鏡箔として利用されてきたBangerterの原理に基づく眼鏡箔である、Ryser社製弱視治療用フィルムの光学特性を評価した。測定結果を表2および図4図5に示す。表2および図4図5においてRyser社の眼鏡箔表示視力は、小数視力値で示した視力低下量である。非特許文献1に示されているようにその実際の視力低下効果は表示されている値との差が大きいことが指摘されており、表2および図4、5に示すように全光線透過率、ヘイズ値の調整により視力低下量を調整しようとするものではない。前述の非特許文献1に記載されている、Bangerterの原理に基づく眼鏡箔の表面構造を観察した写真によると、200〜300μm程度の円状の凹凸を配列させることで視認性を低下させるものであると考えられる。
【0043】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の視力調整用シートは、従来の薬理療法や弱治療用眼鏡箔を用いた視力低下方法と比べ、安定した視力低下量調整機能を有しており、特に弱視治療用シートとして用いたとき有用である。
図1
図2
図3
図4
図5