特許第6202325号(P6202325)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202325
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/184 20060101AFI20170914BHJP
   F16D 7/08 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B62D1/184
   F16D7/08
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-244193(P2013-244193)
(22)【出願日】2013年11月26日
(65)【公開番号】特開2015-101247(P2015-101247A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】武井 清登
(72)【発明者】
【氏名】和田 吉典
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−341844(JP,A)
【文献】 特開平3−182871(JP,A)
【文献】 特開平6−211139(JP,A)
【文献】 特開2007−91210(JP,A)
【文献】 特開2008−18803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00−1/28
F16D 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定される固定側板と、
ステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラムに固定されたコラム側板と、
前記固定側板および前コラム側板にそれぞれ設けられた締付軸挿通溝を挿通した締付軸と、
前記締付軸の中心軸線の回りに回転操作される操作レバーと、
前記締付軸によって支持され前記操作レバーと共に前記中心軸線の回りに回転する第1部材と、
前記締付軸によって支持され前記締付軸挿通溝によって回転規制された第2部材と、
前記締付軸によって支持され前記第1部材と前記第2部材との間に介在する第3部材と、
前記第2部材と前記第3部材との間に介在し前記第2部材に対して前記第3部材を回転可能にスラスト支持する摩擦低減機構と、
前記第1部材および前記第3部材に設けられ前記締付軸の軸方向に互いに対向する一対の軸方向対向面と、前記第1部材の軸方向対向面に形成されたカム面と、前記第1部材と前記第3部材の相対回転に伴って両軸方向対向面間を転動する複数の転動体と、各前記転動体をそれぞれ保持するポケットを有し前記第2部材によって前記中心軸線の回りの回転が規制された環状の保持器と、を含み、前記固定側板を前記コラム側板に締め付けてロックを達成するカム機構と、を備え、
前記ポケットの内周は、ロック時に前記転動体と接触する第1領域と、ロック解除時に前記転動体と接触する第2領域と、を含み、
前記第1領域の摩擦係数が、前記第2領域の摩擦係数よりも小さくされているステアリング装置。
【請求項2】
車体に固定される固定側板と、
ステアリングシャフトを回転可能に支持するステアリングコラムに固定されたコラム側板と、
前記固定側板および前コラム側板にそれぞれ設けられた締付軸挿通溝を挿通した締付軸と、
前記締付軸の中心軸線の回りに回転操作される操作レバーと、
締付軸によって支持され前記操作レバーと共に前記中心軸線の回りに回転する第1部材と、
前記締付軸によって支持され前記締付軸挿通溝によって回転規制された第2部材と、
前記締付軸によって支持され前記第1部材と前記第2部材との間に介在する第3部材と、
前記第1部材と前記第3部材との間に介在し前記第1部材および前記第3部材の一方を他方に対して回転可能にスラスト支持する摩擦低減機構と、
前記第2部材および前記第3部材に設けられ前記締付軸の軸方向に互いに対向する一対の軸方向対向面と、前記第2部材の軸方向対向面に形成されたカム面と、前記第2部材と第3部材の相対回転に伴って両軸方向対向面間を転動する複数の転動体と、各前記転動体をそれぞれ保持するポケットを有し前記第1部材と一体回転する環状の保持器と、を含み、前記固定側板を前記コラム側板に締め付けてロックを達成するカム機構と、を備え、
前記ポケットの内周は、ロック時に前記転動体と接触する第1領域と、ロック解除時に前記転動体と接触する第2領域と、を含み、
前記第1領域の摩擦係数が、前記第2領域の摩擦係数よりも小さくされているステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、各前記ポケットの第1領域と第2領域とは、前記保持器の周方向に対向しているステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の体格や運転姿勢に応じてステアリングホイールの位置を可変する位置調整式のステアリング装置がある。例えば特許文献1のステアリングコラム用のロッキングモジュールでは、位置調整後に、制御レバーを回転操作して、一方のロッキングフランジを他方のロッキングフランジに対して回転させる。両ロッキングフランジの対向面に形成されたカム形状部の間でボールが転動し、他方のロッキングフランジが軸方向に移動されて、ロックが達成される。
【0003】
特許文献1では、解除状態で相対回転する際の両ロッキングフランジ間に制動力を与える制動装置が設けられている。制動装置は、一方のロッキングフィンガーに固定され、スロットを形成した挿入部材と、他方のロッキングフランジに固定され、前記スロットに挿入されたロッキングフィンガーとを含む。スロットは、解除状態に対応するロッキングフィンガーの位置に向かって幅が狭くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−341844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、スロットを形成した挿入部材やロッキングフィンガーが必要であり、構造が複雑になる。
そこで、本発明の目的は、ロックし易く且つロック解除し難い簡単な構造のステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、車体(14)に固定される固定側板(26,27)と、ステアリングシャフト(4)を回転可能に支持するステアリングコラム(8)に固定されたコラム側板(23,24)と、前記固定側板および前コラム側板にそれぞれ設けられた締付軸挿通溝(34,33)を挿通した締付軸(35)と、前記締付軸の中心軸線(C1)の回りに回転操作される操作レバー(20)と、前記締付軸によって支持され前記操作レバーと共に前記中心軸線の回りに回転する第1部材(37)と、前記締付軸によって支持され前記締付軸挿通溝によって回転規制された第2部材(38)と、前記締付軸によって支持され前記第1部材と前記第2部材との間に介在する第3部材(70)と、前記第2部材と前記第3部材との間に介在し前記第2部材に対して前記第3部材を回転可能にスラスト支持する摩擦低減機構(80)と、前記第1部材および前記第3部材に設けられ前記締付軸の軸方向(Y1)に互いに対向する一対の軸方向対向面と、前記第1部材(37a;70a)の軸方向対向面に形成されたカム面(44)と、前記第1部材と前記第3部材の相対回転に伴って両軸方向対向面間を転動する複数の転動体(41)と、各前記転動体をそれぞれ保持するポケットを有し前記第2部材によって前記中心軸線の回りの回転が規制された環状の保持器(42)と、を含み、前記固定側板を前記コラム側板に締め付けてロックを達成するカム機構(40)と、を備え、前記ポケットの内周(54a)は、ロック時に前記転動体と接触する第1領域(A1)と、ロック解除時に前記転動体と接触する第2領域(A2)と、を含み、前記第1領域の摩擦係数が、前記第2領域の摩擦係数よりも小さくされているステアリング装置(1)を提供する。
【0007】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、車体(14)に固定される固定側板(26,27)と、ステアリングシャフト(4)を回転可能に支持するステアリングコラム(8)に固定されたコラム側板(23,24)と、前記固定側板および前コラム側板にそれぞれ設けられた締付軸挿通溝(34,33)を挿通した締付軸(35)と、前記締付軸の中心軸線(C1)の回りに回転操作される操作レバー(20)と、締付軸によって支持され前記操作レバーと共に前記中心軸線の回りに回転する第1部材(37P)と、前記締付軸によって支持され前記締付軸挿通溝によって回転規制された第2部材(38P)と、前記締付軸によって支持され前記第1部材と前記第2部材との間に介在する第3部材(70P)と、前記第1部材と前記第3部材との間に介在し前記第1部材および前記第3部材の一方を他方に対して回転可能にスラスト支持する摩擦低減機構(80)と、前記第2部材および前記第3部材に設けられ前記締付軸の軸方向に互いに対向する一対の軸方向対向面(48Pb,70a)と、前記第2部材の軸方向対向面に形成されたカム面(44P)と、前記第2部材と第3部材の相対回転に伴って両軸方向対向面間を転動する複数の転動体(41)と、各前記転動体をそれぞれ保持するポケットを有し前記第1部材と一体回転する環状の保持器(42)と、を含み、前記固定側板を前記コラム側板に締め付けてロックを達成するカム機構(40P)と、を備え、前記ポケットの内周(54a)は、ロック時に前記転動体と接触する第1領域(A1)と、ロック解除時に前記転動体と接触する第2領域(A2)と、を含み、前記第1領域の摩擦係数が、前記第2領域の摩擦係数よりも小さくされているステアリング装置(1P)を提供する。
【0008】
また、各前記ポケットの第1領域と第2領域とは、前記保持器の周方向(Z1)に対向していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、操作レバーを回転させると、操作レバーと共に第1部材が回転して第1部材のカム面に対して転動体が転動する。一方、回転が規制された第2部材によって摩擦低減機構を介して回転可能に支持された第3部材が、第1部材の回転方向とは反対方向に回転することで、転動体が第3部材に対して転動する。保持器のポケットの内周において、ロック時に転動体が接触する第1領域の摩擦係数が、ロック解除時に転動体が接触する第2領域の摩擦係数よりも小さくされている。したがって、ロック動作時に保持器が転動体の転動に対して与える摩擦抵抗が、ロック解除動作時に保持器が転動体の転動に対して与える摩擦抵抗よりも小さくなる。その結果、別途に部品を追加する必要がなく簡単な構造で、ロックし易く且つロック解除し難い特性を実現することができる。
【0010】
請求項2の発明によれば、操作レバーを回転させると、操作レバーと共に第1部材が回転する一方、第1部材と第3部材との間に介在する摩擦低減機構が第1部材と第3部材の相対回転を許容することで、転動体が第1部材および第3部材に対して転動する。保持器のポケットの内周において、ロック時に転動体が接触する第1領域の摩擦係数が、ロック解除時に転動体が接触する第2領域の摩擦係数よりも小さくされている。したがって、ロック動作時に保持器が転動体の転動に対して与える摩擦抵抗が、ロック解除動作時に保持器が転動体の転動に対して与える摩擦抵抗よりも小さくなる。その結果、別途に部品を追加する必要がなく簡単な構造で、ロックし易く且つロック解除し難い特性を実現することができる。
【0011】
請求項3の発明によれば、第1領域と第2領域とが保持器の周方向に対向しているので、両領域のレイアウトが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態のステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2図1におけるII−II線に沿うステアリング装置の図解的な断面図である。
図3】第1実施形態のステアリング装置の分解斜視図である。
図4】第1実施形態における締付機構とその周辺の拡大断面図であり、図2の一部を拡大した図に相当する。
図5】第1実施形態における第1部材の軸方向対向面としての内側面を正面から見た図である。
図6】第1実施形態における第1部材の軸方向断面図であり、図5のVI−VI線に沿う断面を示している。
図7】第1実施形態における第1部材の保持溝の断面図であり、カム面の輪郭を示している。
図8】第1実施形態における第2部材の軸方向対向面としての外側面を正面から見た図である。
図9図8の第2部材の断面図であり、図8のIX−IX線に沿う断面を示している。
図10】第1実施形態における第3部材の正面図である。
図11】第1実施形態における第3部材の断面図である。
図12】第1実施形態におけるスラストベアリングの断面図である。
図13】第1実施形態における保持器の正面図である。
図14図13の保持器の断面図であり、図13のXIV−XIV線に沿う断面を示している。
図15】第1実施形態におけるカム機構の概略断面図であり、(a)はロック解除状態を示し、(b)はロック状態を示している。
図16】第1実施形態においてボールを保持した保持器の概略平面図であり、 (a)はロック解除時を示し、(b)はロック時を示している。
図17】第1実施形態において、第1部材と第2部材との相対回転量の最大値を規制する第1ストッパと第2ストッパとの概略図である。
図18】第1実施形態における第1部材と保持器との概略図であり、カム機構によるロック時に、第1部材の凹部(被係合部)に保持器の凸部(係合部)が係合して、第1部材と第2部材との相対回転が規制された状態を示している。
図19】本発明の第2実施形態において、締付機構とその周辺の拡大断面図であり、摩擦低減機構として、潤滑剤を用いた例を示している。
図20】本発明の第3実施形態において、締付機構とその周辺の拡大断面図であり、摩擦低減機構として、低摩擦材の被覆層を用いた例を示している。
図21】本発明の第4実施形態における第1部材の保持溝の断面図であり、カム面の輪郭を示している。
図22】本発明の第5実施形態における締付機構とその周辺の拡大断面図である。
図23】第5実施形態におけるカム機構の概略断面図であり、(a)はロック解除状態を示し、(b)はロック状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下には、図面を参照して、本発明の実施形態を具体的に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る位置調整式のステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、操舵部材2の操舵に連動して転舵輪(図示せず)を転舵するステアリング機構3とを備えている。ステアリング機構3としては、例えばラックアンドピニオン機構が用いられている。
【0014】
操舵部材2とステアリング機構3とは、操舵軸としてのステアリングシャフト4および中間軸5等を介して機械的に連結されている。操舵部材2の回転は、ステアリングシャフト4および中間軸5等を介してステアリング機構3に伝達されるようになっている。また、ステアリング機構3に伝達された回転は、図示しないラック軸の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪が転舵される。
【0015】
ステアリングシャフト4は、例えばスプライン嵌合やセレーション嵌合によって相対摺動可能に嵌合された筒状のアッパーシャフト6およびロアーシャフト7を有している。操舵部材2は、アッパーシャフト6の一端に連結されている。ステアリングシャフト4は、その軸方向X1に伸縮可能である。また、ステアリング装置1は、筒状のステアリングコラム8を備える。ステアリングシャフト4は、ステアリングコラム8内に挿通されており、複数の軸受9,10を介してステアリングコラム8によって回転可能に支持されている。
【0016】
ステアリングコラム8は、アッパーチューブとしてのアウターチューブ11と、ロアーチューブとしてのインナーチューブ12とを有している。両チューブ11,12は、軸方向に相対摺動可能に嵌合されている。これにより、ステアリングコラム8は、その軸方向に伸縮可能となり、後述するテレスコピック調整が可能となっている。
アウターチューブ11は、軸受9を介してアッパーシャフト6を回転可能に支持している。また、アウターチューブ11は、軸受9を介してステアリングシャフト4の軸方向X1に同行移動可能にアッパーシャフト6に連結されている。
【0017】
また、インナーチューブ12の外周には、ロアーコラムブラケット13が固定されている。ロアーコラムブラケット13は、車体14に固定されたロアー固定ブラケット15に、チルト中心軸16を介して回動可能に支持されている。ステアリングコラム8およびステアリングシャフト4は、チルト中心軸16の回りに回動可能である。
チルト中心軸16の回りに、ステアリングシャフト4およびステアリングコラム8を回動させることで、操舵部材2の高さ位置を調整できるようになっている(いわゆるチルト調整)。また、ステアリングシャフト4およびステアリングコラム8を軸方向X1に伸縮させることで、操舵部材2の高さ位置および前後方向位置を調整できるようになっている(いわゆるテレスコピック調整)。
【0018】
ステアリング装置1は、高さ調整された操舵部材2の位置を固定するべくチルトロックおよびテレスコロックを達成するための締付機構17を備えている。また、ステアリング装置1は、アッパーコラムブラケット18と、アッパー固定ブラケット19と、締付機構17とを備える。具体的には、アウターチューブ11には、可動ブラケットとしてのアッパーコラムブラケット18が固定されている。アッパーコラムブラケット18が、車体14に固定されたアッパー固定ブラケット19に、締付機構17によって連結されることで、チルトロックおよびテレスコロックが達成される。その結果、ステアリングコラム8の位置が車体14に対して固定されて操舵部材2の位置が固定されるようになっている。
【0019】
また、締付機構17は、テレスコロックされた両チューブ11,12間のガタつきを抑制する機能を有している。具体的には、締付機構17は、操作レバー20の回転操作に伴って回転するスリーブ21と、スリーブ21の外周に同伴回転可能に設けられた、カム状突起からなる押圧部22とを備えている。操作レバー20の操作によってスリーブ21が回転することで、押圧部22がインナーチューブ12を押し上げる。これにより、インナーチューブ12がアウターチューブ11に径方向に押し付けられて、アウターチューブ11に対するインナーチューブ12の径方向のガタつきが抑制されるようになっている。
【0020】
図2は、図1におけるII−II線に沿うステアリング装置1の図解的な断面図である。図2を参照して、アッパーコラムブラケット18は、上向きに開放する溝形の部材であり、左右対称に形成されている。すなわち、アッパーコラムブラケット18は、それぞれの一端がアウターチューブ11の外周に固定された一対のコラム側板23,24と、一対のコラム側板23,24の他端間を連結した連結板25とを備えている。
【0021】
アッパー固定ブラケット19は、下向きに開放する全体として溝形の部材であり、左右対称に形成されている。すなわち、アッパー固定ブラケット19は、左右方向に相対向する一対の固定側板26,27と、一対の固定側板26,27の上端同士を連結する連結板28と、この連結板28の上面に固定され概ね上記左右方向に延びる板状の取付ステー29とを含む。
【0022】
ステアリングシャフト4、ステアリングコラム8およびアッパーコラムブラケット18は、図2において、アッパー固定ブラケット19の一対の固定側板26,27の間に配置されている。また、アッパー固定ブラケット19は、取付ステー29に連結された一対の取付体30を介して車体14に固定されている。
各取付体30と取付ステー29とは、それぞれ取付ステー29を上下方向に貫通する破断可能な連結部材としての合成樹脂製のピン31によって連結されており、各取付体30は、固定ボルト32によって車体14に固定されている。
【0023】
アッパー固定ブラケット19の各固定側板26,27の内側面に、アッパーコラムブラケット18の対応するコラム側板23,24の外側面が沿わされている。アッパーコラムブラケット18の一対のコラム側板23,24には、紙面と直交する方向(軸方向X1に相当)に延びる、締付軸挿通溝としての横長のテレスコ溝33が形成されている。アッパー固定ブラケット19の一対の固定側板26,27には、締付軸挿通溝としての縦長のチルト溝34が形成されている。
【0024】
締付機構17は、固定側板26,27のチルト溝34およびコラム側板23,24のテレスコ溝33に挿通された締付軸35と、締付軸35の一端35aに設けられた頭部351と一体回転可能に連結された操作レバー20と、締付軸35の他端35bに形成されたねじ部に螺合するナット36と、締付軸35の他端35bの近傍の軸部35cに嵌合しナット36と他方の固定側板27との間に介在する第1介在部材61および第2介在部材62とを備えている。
【0025】
また、締付機構17は、締付軸35の一端35aの近傍の軸部35cに軸方向移動不能に嵌合し操作レバー20と一体回転する第1部材37と、締付軸35の一端35aの近傍の軸部35cに相対回転可能に且つ軸方向移動可能に嵌合し固定側板26のチルト溝34によって回転規制された第2部材38と、第1部材37と第2部材38との間に介在する第3部材70と、第2部材38と第3部材70との間に介在する摩擦低減機構としてのスラストベアリング80と、カム機構40とを備えている。
【0026】
スラストベアリング80としては、図示のようなスラストワッシャであってもよいし、また、スラスト玉軸受やスラストころ軸受であってもよい。
カム機構40は、第1部材37および第3部材70にそれぞれ設けられ少なくとも一方にカム面44が形成された軸方向対向面37aおよび軸方向端面70aと、これら軸方向端面37a,70a間を転動する複数の転動体としてのボール41と、ボール41を保持し第2部材38によって中心軸線C1の回りの回転が規制された保持器42とを含んでいる。
【0027】
操作レバー20は、締付軸21の中心軸線C1の回りに回転操作される。カム機構40は、操作レバー20の回転に伴う第1部材37の回転を第3部材70の軸方向移動に変換して各固定側板26,27を対応するコラム側板23,24に圧接する運動変換機構として機能する。
ここで、カム機構とは、カムの表面形状(本実施形態ではカム面44の形状に相当)に従って,従動部(本実施形態では第3部材70に相当)に所定の運動(本実施形態では締付軸35の軸方向Y1への直動)を与える機械的な連動機構である。
【0028】
図2に示すように、スリーブ21の内周21aには、締付軸35の軸方向Y1の中間部に設けられたスプライン39と係合するスプライン(図示せず)が設けられている。スリーブ21および締付軸35はスプライン結合されており、両者21,35は一体回転する。
スリーブ21の外周21bには、前述したようにカム状突起からなる押圧部22が設けられている。押圧部22は、スリーブ21の回転に伴って、アウターチューブ11に設けられた挿通孔11aを挿通して、インナーチューブ12の外周12aを押圧可能である。
【0029】
図3に示すように、第1部材37は孔空き円板からなる。図5に示すように、第1部材37の軸方向対向面37aには、それぞれボール41を保持する複数の円弧状の保持溝43が、周方向Z1に等間隔離隔して形成されている。
図5図5のVI−VI線に沿う断面図である図6、および第1部材37の周方向断面図である図7に示すように、保持溝43の底に、周方向Z1に進むにしたがって軸方向Y1に起伏するカム面44が形成されている。
【0030】
図4および図6に示すように、第1部材37の軸方向対向面37aの裏面には、例えば矩形の嵌合凸部45が設けられている。図4に示すように、嵌合凸部45が操作レバー20の基端の嵌合孔46に嵌合されることで、第1部材37が操作レバー20に一体回転可能に連結されている。
図5に示すように、第1部材37の周縁部には、軸方向対向面37aから第2部材38側へ突出する複数の円弧状突起からなる第1ストッパ47が、周方向Z1に等間隔離隔して形成されている。各第1ストッパ47は、周方向Z1に対向する一対のストッパ面としての周方向端面47aを有している。
【0031】
第1ストッパ47において、図18に示すように、保持器42の外周42a(径方向対向面)に対向する径方向対向面47bには、カム機構40によるロック時に、保持器42の外周42aの係合部としての凸部56(図13参照)が係合する、被係合部としての凹部55が形成されている。
図4図8および図8のIX−IXに沿う断面図である図9に示すように、第2部材38は、固定側板26の外側面に沿う環状の締付面48aと締付面48aの反対側でスラストベアリング80を受ける平坦な環状の座面48bとを有する孔空き円板状の本体48と、締付面48aに形成された筒状の嵌合凸部49と、座面48bの周縁から嵌合凸部49とは反対方向(第1部材37側)に立ち上がる周側壁50とを備えている。
【0032】
図4に示すように、嵌合凸部49は、アッパー固定ブラケット19の一方の固定側板26のチルト溝34およびアッパーコラムブラケット18の一方のコラム側板23のテレスコ溝33に、各溝34,33の延びる方向に沿って移動可能に嵌合されている。嵌合凸部49は、固定側板26のチルト溝34に嵌合する部分に、例えば互いの間に二面幅を形成する一対の平坦面(図示せず)を設けている。嵌合凸部49がチルト溝34に係合することによって、第2部材38の回転が規制されている。
【0033】
図8および図9に示すように、周側壁50の軸方向の端面には、周方向に等間隔に配置された複数の突起51が設けられている。各突起51には、保持器42の外周に設けられた対応する係合突起52(図13参照)に係合する係合溝53が形成されている。図18に示すように、保持器42の各係合突起52が、回転規制された第2部材38の対応する係合溝53に係合することにより、保持器42の中心軸線C1回りの回転が規制されている。
【0034】
第2部材38の各突起51は、第1部材37の第1ストッパ47と共同して第2部材38に対する第1部材37の回転量を規制する第2ストッパとして機能する。すなわち、概略図である図17および図18に示すように、第1ストッパ47と第2ストッパ(突起51)とは、周方向Z1の交互に配置されている。第1ストッパ47の周方向端面47a(ストッパ面)と、その周方向端面47aに対向する、第2ストッパ(突起51)の周方向端面51a(ストッパ面)とが当接することにより、第2部材38に対する第1部材37の回転量の最大値が規制される。
【0035】
図13に示すように、保持器42は孔空き円板からなり、例えば板金を用いたプレス成形により形成される。図13および図13のXIV−XIV線に沿う断面図である図14に示すように、保持器42は、それぞれ対応するボール41を転動可能に保持するポケット54を備えている。
各ポケット54の内周54aは、ロック状態でボール41と接触する第1領域A1と、ロック解除状態でボール41と接触する第2領域A2とを含む。第1領域A1と第2領域A2とは、周方向Z1に対向して配置されている。第1領域A1の摩擦係数が、第2領域A2の摩擦係数よりも小さくされている。具体的には、第2領域A2の面粗さが、第1領域A1の面粗さよりも粗くされることにより、第1領域A1の摩擦係数が、第2領域A2の摩擦係数よりも小さくされている。
【0036】
保持器42の外周42a(径方向対向面)には、第2部材38の各突起51の係合溝53に係合するように、径方向R1の外方に突出する1または複数の係合突起52が設けられている。また、保持器42の外周42aには、ロック時に、第1部材37の第1ストッパ47の対応する凹部55と係合することで、第1部材37と第2部材38との相対回転を規制するための凸部56が設けられている。
【0037】
図13に示すように、各凸部56は、径方向に弾性変位可能な可撓部57に設けられている。具体的には、保持器42が、凸部56の径方向の内方に、例えば扇形形状の肉抜き孔58を設けることで、凸部56と肉抜き孔58との間に、可撓部57を形成している。 カム機構40によるロック時には、図18に示すように、保持器42の各凸部56(係合部)と第1部材37の第1ストッパ47の対応する凹部55(被係合部)とが係合することによって、第1部材37および第2部材38の相対回転が規制される。凸部56と凹部55によって相対回転規制機構59が構成されている。
【0038】
図10および図10のXI−XI線に沿う断面図である図11に示すように、第3部材70は、孔空き円板からなる。第3部材70は、軸方向に対向する一対の軸方向端面70a,70bを有している。図4に示すように、一方の軸方向端面70aが第1部材37の軸方向対向面37aに対向し、他方の軸方向端面70bがスラストベアリング80と対向している。一方の軸方向対向面70aには、転動するボール41を周方向(回転方向Z1に相当)に案内する環状の案内溝71が形成されている。
【0039】
図4および図12に示すように、摩擦低減機構としてのスラストベアリング80は、例えばスラストワッシャである。スラストベアリング80としてのスラストワッシャは、孔空き円板からなり、環状をなす一対の軸方向端面80a,80bを有している。一方の軸方向端面80aが、第3部材70の他方の軸方向端面70bに摺接する。他方の軸方向端面80bは、第2部材38の本体48の座面48bに摺接する。スラストベアリング80の少なくとも一方の軸方向端面80aが、例えばフッ素樹脂等の低摩擦材により形成されている。ただし、両軸方向端面80a,80bが低摩擦材により形成されていてもよい。低摩擦材は、所要の軸方向端面に被覆された被覆層を構成していてもよいし、スラストベアリング80の全体が低摩擦材により形成されていてもよい。
【0040】
なお、スラストベアリング80として、スラストワッシャに代えて、図示しない、スラスト玉軸受やスラストころ軸受を用いることができる。例えば、保持器ところにより構成されるスラストニードルローラベアリングを用いてもよいし、軸方向に対向する一対の軌道板間に、保持器により保持されたころが介在するスラストニードルローラベアリングを用いてもよい。
【0041】
摩擦低減機構としてのスラストベアリング80は、第2部材38に対する第3部材70の回転抵抗を、ボール41の転がり抵抗により記第3部材70が受ける反力よりも小さくするように機能する。
再び図2を参照して、締付軸35の一端部に螺合されたナット36とアッパー固定ブラケット19の他方の固定側板27との間には、第1介在部材61と第2介在部材62とが介在している。第1介在部材61は、第1部分611と第2部分612とを有している。第2介在部材61の第1部分611は、アッパー固定ブラケット19の他方の固定側板27の外側面に沿わされている。
【0042】
第1介在部材61の第2部分612は、アッパー固定ブラケット19の他方の固定側板27のチルト溝34およびアッパーコラムブラケット18の他方のコラム側板24のテレスコ溝33に、各溝34,33の延びる方向に沿って移動可能に嵌合されている。また、第2部分612は、固定側板27のチルト溝34に嵌合する部分に、例えば二面幅を形成する一対の平坦面を設けることで、チルト溝34によって、その回転が規制されている。
【0043】
第2介在部材62は、第1介在部材61の第1部分611とナット36との間に介在するスラストワッシャ63と、スラストワッシャ63と第1介在部材61の第1部分611との間に介在するスラスト用の針状ころ軸受64とを備えている。針状ころ軸受64を含む第2介在部材62の働きで、ナット36が締付軸35とともにスムーズに回転できるようになっている。
【0044】
操作レバー20の回転に伴って、第1部材37が第2部材38に対して回転することにより、第2部材38が締付軸35の軸方向Y1に移動される。移動した第2部材38と第1介在部材61との間で、アッパー固定ブラケット19の一対の固定側板26,27が挟持されて締め付けられるので、アッパー固定ブラケット19の各固定側板26,27が、アッパーコラムブラケット18の対応するコラム側板23,24を締め付けて、チルトロックおよびテレスコロックが達成される。
【0045】
図15(b)に示すロック状態から図15(a)に示すロック解除状態に移行するとき、第1部材37がロック解除方向[図15(b)では左方に相当]へ移動(回転)するに伴って、第3部材70が、第1部材37とは反対方向に[図15(b)では右方に相当]に移動(回転)する。このとき、ボール41が、周方向Z1に関する位置を変えずに、第1部材37のカム面44および第3部材70の軸方向対向面70aの案内溝71に対して転動する。一方、保持器42は、回転不能な第2部材38によって回転規制されている。したがって、保持器42のポケット54内に収容されたボール41は、ロック解除状態に移行するロック解除動作時において、図16(a)に示すように、ポケット54の内周54aの第2領域A2と接触する。これにより、ロック解除動作時に、保持器42が、ボール41に対してボール41の回転(自転)に抗する第2摩擦抵抗を付与する。
【0046】
逆に、図15(a)に示すロック解除状態から図15(b)に示すロック状態に移行するとき、第1部材37がロック方向[図15(a)では右方に相当]へ移動(回転)するに伴って、第3部材70が、第1部材37とは反対方向に[図15(a)では左方に相当]に移動(回転)する。このとき、ボール41が、周方向Z1に関する位置を変えずに第1部材37のカム面44および第3部材70の軸方向対向面70aの案内溝71に対して転動する。一方、保持器42は、回転不能な第2部材38によって回転規制されている。したがって、保持器42のポケット54内に収容されたボール41は、ロック状態に移行するロック動作時において、図16(b)に示すように、ポケット54の内周54aの第1領域A1と接触する。これにより、ロック動作時に、保持器42が、ボール41に対してボール41の回転(自転)に抗する第1摩擦抵抗を発生する。
【0047】
ロック時にボール41が接触する第1領域A1の摩擦係数が、ロック解除時にボール41が接触する第2領域A2の摩擦係数よりも小さくされているので、ロック動作時の第1摩擦抵抗が、ロック解除動作時の第2摩擦抵抗よりも小さくなる。
本実施形態によれば、操作レバー20を回転させると、操作レバー20と共に第1部材37が回転して第1部材37のカム面44に対して転動体(ボール41)が転動する。一方、回転が規制された第2部材38によって摩擦低減機構(スラストベアリング80)を介して回転可能に支持された第3部材70が、第1部材37の回転方向とは反対方向に回転しつつ、転動体(ボール41)が第3部材70に対して転動する。保持器42のポケット54の内周54aにおいて、ロック時に転動体(ボール41)が接触する第1領域A1の摩擦係数が、ロック解除時に転動体(ボール41)が接触する第2領域A2の摩擦係数よりも小さくされている。したがって、ロック動作時に保持器42から転動体(ボール41)に与えられる第1摩擦抵抗が、ロック解除動作時に保持器42から転動体(ボール41)に与えられる第2摩擦抵抗よりも小さい。これにより、別途に部品を追加する必要がなく簡単な構造で、ロックし易く且つロック解除し難い特性を実現することができる。
【0048】
また、各ポケットの第1領域A1と第2領域A2とが保持器42の周方向Z1に対向しているので、両領域A1,A2のレイアウトが容易である。
また、ボール41を保持した保持器42が締付軸35の中心軸線C1の回りの回転を規制されており、また、摩擦低減機構としてのスラストベアリング80は、第2部材38に対する第3部材70の回転抵抗を、ボール41の転がり抵抗により第3部材70が受ける反力よりも小さくするように機能する。したがって、操作レバー20を回転させると、操作レバー20と共に第1部材37が回転する一方、回転が規制された第2部材38によってスラストベアリング80を介して回転可能に支持された第3部材70が、第1部材37の回転方向とは反対方向に回転することで、ボール41を第1部材37および第3部材70に対して確実に転動させることができる。その結果、操作レバー20の操作力を低減することができる。
【0049】
第2部材38と第3部材70との間に介在する摩擦低減機構としてのスラストベアリング80によって、第2部材38に対する第3部材70の摩擦抵抗を格段に低減することができる。
次いで、図19は本発明の第2実施形態を示している。図19の第2実施形態が図4の第1実施形態と主に異なるのは、下記である。すなわち、第1実施形態では、摩擦低減機構として、スラストベアリング80を用いている。これに対して、本第2実施形態では、摩擦低減機構として、第3部材70(の軸方向端面70b)と、第2部材38(の本体48の座面48b)との間に介在する、潤滑剤LUBを用いている。潤滑剤LUBとしては、グリースの他、第3部材70(の軸方向端面70b)と第2部材38(の本体48の座面48b)との少なくとも一方に固着された固体潤滑剤(例えばPTFE)を用いることができる。
【0050】
図19の第2実施形態の構成要素のうち、図4の第1実施形態の構成要素と同じ構成要素には、図4の第1実施形態の構成要素と同じ構成要素の参照符号と同じ参照符号を付してある。本第2実施形態においても、第1実施形態と同じ効果を奏することができ、操作レバー20の操作力を低減することができる。
次いで、図20は本発明の第3実施形態を示している。図20の第3実施形態が図4の第1実施形態と主に異なるのは、下記である。すなわち、第1実施形態では、摩擦低減機構として、スラストベアリング80を用いている。これに対して、本第3実施形態では、摩擦低減機構として、第3部材70(の軸方向端面70b)と、第2部材38(の本体48の座面48b)との何れか一方に被覆された例えばフッ素樹脂等の低摩擦材の被覆層CTLを用いている。図示していないが、第3部材70(の軸方向端面70b)と、第2部材38(の本体48の座面48b)との双方に、低摩擦材の被覆層CTLを設けてもよい。
【0051】
図20の第3実施形態の構成要素のうち、図4の第1実施形態の構成要素と同じ構成要素には、図4の第1実施形態の構成要素と同じ構成要素の参照符号と同じ参照符号を付してある。本第3実施形態においても、第1実施形態と同じ効果を奏することができ、操作レバー20の操作力を低減することができる。
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば前記実施形態では係合部が凸部56であり、被係合部が凹部55であったが、これに限らず、係合部および被係合部の何れか一方が凸部を含み、他方が前記凸部に係合する凹部を含んでいればよい。その場合、係合部と被係合部とが凹凸係合するので、摩擦係合する場合と比較して、ロック状態の保持がより確実になる。
【0052】
また、前記実施形態では、凸部56が径方向R1に弾性変形可能な可撓部57に設けられていたが、これに限らず、凸部および凹部の少なくとも一方が、径方向に弾性変形可能な可撓部に設けられていればよい。その場合、第1部材37および第2部材38の少なくとも一方と、その一方に対して相対回転する部材との相対回転に伴って、一旦、可撓部が径方向に弾性変位した後、凸部と凹部とが係合するので、スムーズに凹凸係合させることができる。すなわち、凸部または凹部が、相対回転する部材としての保持器に設けられる場合には、保持器に可撓部が設けられる。保持器に可撓部が設けられる場合、保持器に可撓部を形成するための肉抜き孔を設けてもよい。また、凸部または凹部が、相対回転する部材としての第1部材または第2部材に設けられる場合には、その第1部材または第2部材に可撓部が設けられることになる。第1部材または第2部材に可撓部が設けられる場合、可撓部が設けられた第1部材または第2部材に肉抜き孔を設けてもよい。
【0053】
前記実施形態では、係合部(凸部56)を保持器42に設けるとともに、被係合部(凹部55)を第1部材37に設けていたが、これに限らず、図示していないが、被係合部(凹部または凸部)を、第1部材37に代えて、第2部材38に設けてもよいし、被係合部(凹部または凸部)を、第1部材37および第2部材38の双方に設けてもよい。第1部材37ないし第2部材38に被係合部を設ける場合、その被係合部を第1ストッパ47ないし第2ストッパ(突起51)に設けてもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、保持器42に係合部(凸部56)を設けていたが、これに限らず、係合部や被係合部を保持器42に設けなくてもよい。例えば、カム機構40によるロック時に、第1部材37と第2部材38との相対回転を規制する相対回転規制機構として、第1部材37および第2部材38の何れか一方に設けられた係合部(凸部または凹部)と、第1部材37および第2部材38の他方に設けられた被係合部(凹部または凸部)とを設けてもよい。
【0055】
また、図21の第4実施形態に示すように、カム面44Aに対して、ボール41が左方(ロック側)へ相対移動する中途で、山の頂部44A1を乗り越えて、浅い谷となるロック保持部44A2に保持されるようにして、ロック保持力を高めるようにしてもよい。
また、図22および図23は、本発明の第5実施形態を示している。図22および図23のの第5実施形態が、図4および図15の第1実施形態、図19の第2実施形態、図20の第3実施形態と主に異なるのは、下記である。
【0056】
すなわち、第1〜第3実施形態では、締付機構17において、カム機構40の保持器42が、回転不能な第2部材38によって回転規制されており、摩擦低減機構(スラストベアリング80、潤滑剤LUB、被覆層CTL)が、第2部材38と第3部材70との間に介在している。また、カム面44が、第1部材37に設けられている。
これに対して、図22の第5実施形態では、ステアリング装置1Pの締付機構17Pにおいて、カム機構40Pの保持器42が、操作レバー20と一体回転する第1部材37Pと一体回転し、スラストベアリング80P(摩擦低減機構)が、第1部材37Pと第3部材70Pとの間に介在している。また、カム面44P(図21のカム面44Aと同じ形状であってもよい)が、第2部材38Pの本体48Pの締付面48Paとは反対側の軸方向対向面48Pbに設けられている。
【0057】
具体的には、第1部材37Pの外周縁から嵌合凸部45とは反対方向(第2部材38P)側に向けて延びる周側壁50Pが設けられている。保持器42の係合突起52が、周側壁50Pの係合溝53Pに係合している。第1部材37Pの平坦な環状の座面37Paがスラストベアリング80P(摩擦低減機構)を受けている。
ボール41(転動体)を保持した保持器42が、第1部材37Pと一体回転し、第2部材38Pのカム面44Pに対して、ボール41が転動する。スラストベアリング80P(摩擦低減機構)は、第1部材37Pに対する第3部材70Pの回転抵抗を、ボール41の転がり抵抗により第3部材70Pが受ける反力よりも小さくするように機能する。
【0058】
図23(b)に示すロック状態から図23(a)に示すロック解除状態に移行するとき、保持器42が、第1部材37P(図22参照)とともに、ロック解除方向[図23(b)では左方に相当]へ移動(回転)するに伴って、第3部材70Pが、第1部材37Pとは反対方向[図23(b)では右方に相当]に移動(回転する)。このとき、ボール41が、回転規制された第2部材38Pのカム面44Pに対してロック解除側[図23(b)では左方]へ移動する。したがって、保持器42のポケット54内に収容されたボール41は、ロック解除状態に移行するロック解除動作時に、図23(a)に示すように、ポケット54の内周54aの第2領域A2と接触する。これにより、ロック解除動作時に、保持器42が、ボール41に対してボール41の回転(自転)に抗する第2摩擦抵抗を付与する。
【0059】
逆に、図23(a)に示すロック解除状態から図23(b)に示すロック状態に移行するとき、保持器42が、第1部材37P(図22参照)とともに、ロック方向[図23(a)では右方に相当]へ移動(回転)するに伴って、第3部材70Pが、第1部材37Pとは反対方向[図23(a)では左方に相当]に移動(回転する)。このとき、ボール41が、回転規制された第2部材38Pのカム面44Pに対してロック側[図23(a)では右方]へ移動する。したがって、保持器42のポケット54内に収容されたボール41は、ロック状態に移行するロック動作時に、図23(b)に示すように、ポケット54の内周54aの第1領域A1と接触する。これにより、ロック動作時に、保持器42が、ボール41に対してボール41の回転(自転)に抗する第1摩擦抵抗を付与する。ロック動作時に発生する第1摩擦抵抗は、ロック解除動作時に発生する第2摩擦抵抗よりも小さい。
【0060】
図22および図23の第5実施形態の構成要素において、図4および図15の第1実施形態の構成要素と同じ構成要素には、図4および図15の第1実施形態の構成要素の参照符号と同じ参照符号を付してある。
本第5実施形態においても、第1実施形態と同じく、ロック動作時にボール41に付与される第1摩擦抵抗は、ロック解除動作時にボール41に付与される第2摩擦抵抗よりも小さくなる。したがって、別途に部品を追加する必要がなく簡単な構造で、ロックし易く且つロック解除し難い特性を実現することができる。
【0061】
また、各ポケットの第1領域A1と第2領域A2とが保持器42の周方向Z1に対向しているので、両領域A1,A2のレイアウトが容易である。
また、第1部材37Pと第3部材70Pとの間に介在するスラストベアリング80P(摩擦低減機構)が第1部材37Pと第3部材70Pの相対回転を許容することで、ボール41を第1部材37Pおよび第3部材70Pに対して確実に転動させることができる。その結果、操作レバー20の操作力を低減することができる。
【0062】
本第5実施形態において、摩擦低減機構として、スラストベアリング80Pに代えて、潤滑剤や、低摩擦材の被覆層を用いてもよい。
その他、本発明において、転動体として、ボールに代えてころを用いる等、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0063】
1;1P…ステアリング装置、2…操舵部材、3…ステアリング機構、4…ステアリングシャフト(操舵軸)、8…ステアリングコラム、11…アウターチューブ、12…インナーチューブ、14…車体、17;17P…締付機構、18…アッパーコラムブラケット、19…アッパー固定ブラケット、20…操作レバー、23,24…コラム側板、26,27…固定側板、33…テレスコ溝(締付軸挿通溝)、34…チルト溝(締付軸挿通溝)、35…締付軸、37;37P…第1部材、37a…軸方向対向面、38;38P…第2部材、40;40P…カム機構、41…ボール(転動体)、42…保持器、43…保持溝、44;44A;44P…カム面、48Pb…軸方向対向面、54…ポケット、54a…内周面、70;70P…第3部材、70a…軸方向対向面、71…案内溝、80;80P…スラストベアリング(摩擦低減機構)、A1…第1領域、A2…第2領域、C1…(締付軸の)中心軸線、CTL…被覆層、LUB…潤滑剤、R1…径方向、X1…(操舵軸の)軸方向、Y1…(締付軸の)軸方向、Z1…(保持器の)周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23