特許第6202339号(P6202339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202339GM−CSF産生T細胞制御剤、及びTh1/Th2免疫バランス調節剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202339
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】GM−CSF産生T細胞制御剤、及びTh1/Th2免疫バランス調節剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7032 20060101AFI20170914BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170914BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20170914BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20170914BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20170914BHJP
【FI】
   A61K31/7032
   A61P43/00 105
   A61P37/02
   A61P37/06
   !C12N5/0783
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2014-99587(P2014-99587)
(22)【出願日】2014年5月13日
(65)【公開番号】特開2015-134742(P2015-134742A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-262876(P2013-262876)
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510147776
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆
(72)【発明者】
【氏名】能登 大介
(72)【発明者】
【氏名】三宅 幸子
【審査官】 深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/016326(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/151279(WO,A1)
【文献】 特表2012−504425(JP,A)
【文献】 特開2004−131481(JP,A)
【文献】 特表2010−523724(JP,A)
【文献】 NATURE,2001年10月 4日,V413,P531-534
【文献】 Immunity,2013年,Vol.38,p.514-527
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7028−31/704
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS
(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有し、
GM−CSFの産生能を有する活性T細胞の増殖又はそのGM−CSF産生能を抑制するGM−CSF産生T細胞制御剤。
【化1】

(式中、Rはアルドピラノース残基を表し、Rは水素原子又は水酸基を表し、Rは−CH−、−CH(OH)−CH−、又は−CH=CH−を表し、Rは水素原子又はCHを表し、xは0〜35であり、y及びzは、y+z=0〜3を満たす整数を表す。)
【請求項2】
前記Rが以下の式(II)で示される、請求項1に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【化2】
【請求項3】
前記Rが−CH−、又は−CH(OH)−CH−を表し、xが10〜32である、請求項2に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【請求項4】
前記Rが−CH(OH)−CH−を表す、請求項3に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【請求項5】
前記R及びRが水素原子を表し、xが11〜23であり、zが0である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【請求項6】
ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が投与されるように用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【請求項7】
ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が経口投与されるように用いられる、請求項6に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【請求項8】
以下の一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有するGM−CSF低下剤。
【化3】

(式中、Rはアルドピラノース残基を表し、Rは水素原子又は水酸基を表し、Rは−CH−、−CH(OH)−CH−、又は−CH=CH−を表し、Rは水素原子又はCHを表し、xは0〜35であり、y及びzは、y+z=0〜3を満たす整数を表す。)
【請求項9】
以下の一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有し、
ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上30mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が投与されるように用いられる、Th1/Th2免疫バランス調節剤。
【化4】

(式中、R式(II)で示されるアルドピラノース残基を表し、Rは水素原子を表し、Rは−CH(OH)−CH−を表し、Rは水素原子を表し、xは18〜23であり、zが0であり、yが1〜3である。)
【化5】
【請求項10】
ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上30mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が経口投与されるように用いられる、請求項9に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
【請求項11】
Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患又はTh1細胞が病態を悪化させる疾患の治療剤又は予防剤である、請求項9又は10に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
【請求項12】
自己免疫疾患の治療剤又は予防剤である、請求項9〜11のいずれか一項に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−ガラクトセラミドの誘導体を有効成分とするGM−CSF産生T細胞制御剤に関する。本発明はまた、Th1/Th2免疫バランス調節剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
GM−CSF(granulocyte・macrophage colony−stimulating factor;顆粒球・マクロファージコロニー刺激細胞)は、顆粒球及びマクロファージの骨髄系前駆細胞に作用して、その分化や成熟を促進する他、造血成長因子として多能性造血幹細胞に作用する等、造血機構にも関与することが知られている糖タンパク質である(非特許文献1)。GM−CSFは、主として活性化T細胞から産生されるが、細菌感染、外傷、自己免疫疾患等で炎症が生じた場合にはマクロファージ、線維芽細胞、内皮細胞など様々な細胞からも産生され、好中球や好酸球の増殖や活性を促進する炎症性サイトカインとしても機能することが知られている(非特許文献1)。GM−CSFの発現上昇は、関節炎、乾癬、及び肺疾患等の様々な炎症部位で認められ、炎症誘導に関与することが示唆されている。
【0003】
GM−CSFの炎症惹起作用は、本来は生体防御反応であるが、過剰な反応は病態形成の初発過程にもなり得る。例えば、RA(慢性関節リウマチ)の関節炎病変局所では、GM−CSFが滑膜関節内に存在することが明らかにされており、RAの発症と過剰量のGM−CSFとの関連性が示唆されている(非特許文献2及び3)。また、SIRS(全身性炎症反応症候群)は、細菌感染、外傷、熱傷によって誘発される致命的な臓器機能不全であるが、その原因は、細菌感染等により血中に放出されたGM−CSFをはじめとする多量の炎症性サイトカインによる急性炎症反応であることが明らかとなっている。
【0004】
したがって、GM−CSFを抗炎症療法の標的として、その生体内の存在量を低減するか又はその機能を阻害すれば、炎症性疾患を軽減又は治癒できることが期待できる。実際、マウスのin vivo実験では中和抗体によるGM−CSFの機能阻害実験で、関節炎をはじめとする種々の炎症モデルの炎症性疾患を予防、又は治癒できたことが示されている(非特許文献4及び5)。
【0005】
また、特許文献1には、関節リウマチ等の炎症性疾患治療用の抗体医薬としてGM−CSFに対する特異的な抗体及びその機能性フラグメントが開示されている。
【0006】
特許文献2には、フジ属植物の葉又は/及び蔓の抽出物、イポルルの抽出物、胡麻の抽出物、メカブの抽出物、リシン−バリン−リシンであるトリペプチド又は/及びその誘導体を有効成分とするGM−CSF産生抑制剤を配合したアトピー性皮膚炎治療剤、化粧料、食品及び皮膚外用剤が開示されている。また、特許文献3には、キャッツクローの抽出物、イエルバ・マテの抽出物、エゴマの抽出物、センキュウの抽出物、サボテンの抽出物、Jusitia gendarussaの抽出物、ハナビラタケの抽出物及びL−エルゴチオネインから選ばれる少なくとも一種以上を有効成分として配合するアトピー性皮膚炎治療剤及び食品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−116912
【特許文献2】特開2007−230976
【特許文献3】特開2007−230977
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hamilton JA,2008,Nature Reviews Immunology,8:533−544
【非特許文献2】Alvaro−Gracia JM,et al.,1991,J Immunol.,146:3365−3371.
【非特許文献3】Xu WD,et al.,1989,J Clin Invest,83:876−882.
【非特許文献4】Campbell IK,et al.,1997,Ann. Rheum. Dis.,56:364−368.
【非特許文献5】Campbell IK,et al.,1998,J. Immunol1.,61:3639−3644.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、抗体医薬は、タンパク質を有効成分とすることから経口投与は困難であり、通常は注射で投与される。したがって、経口投与に比べると侵襲性が高く、投与も容易とは言い難い。また、抗体医薬は、従来の低分子医薬と比較すると生産コストが高いという問題がある。特に、抗体医薬は、十分な効果を得る上で他のタンパク質医薬と比較して多量の投与を必要とすることから、治療コストがさらに増大してしまう。
【0010】
しかし、特許文献2及び3に記載の発明は、有効成分が主に植物の抽出液でクルードな状態であることから、効果の安定性に問題が残る。また、アトピー性皮膚炎等の比較的軽度な皮膚炎症反応に対する経皮薬剤であり、RAやSIRSのような重篤な炎症疾患への効果は期待できない。
【0011】
一方、前述のようにGM−CSFを主に生産している細胞は活性化T細胞であり、経口投与可能な低分子医薬により生体内のGM−CSF産生T細胞の増殖を抑制するか、又は当該T細胞によるGM−CSFの産生能を抑制することができれば、生体内のGM−CSF量を効率的に低減することができ、様々な炎症疾患の効果的な治療薬となり得る。しかし、これまでにGM−CSFを産生するT細胞を標的として、その増殖を抑制する、又はそのGM−CSF産生能を抑制することのできる薬剤の報告は知られていない。
【0012】
本発明は、GM−CSFを産生する標的T細胞の増殖、又はGM−CSF産生能を抑制することによって、生体内におけるGMC−SF量を低減することのできる低分子化合物を有効成分とする薬剤を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、以前にNKT細胞を刺激してIL−4産生の選択的な産生を誘導する合成糖脂質リガンドであるαガラクトシルセラミドの誘導体を同定した(特許4064346号)。当該誘導体は、IL−4産生を介することによって、Th1細胞免疫応答の抑制を制御する活性を持ち、経口又は腹腔内投与により、自己免疫性中枢神経炎症を本態とするEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を予防・治療する効果を有する(Miyamoto K et al.,2001,Nature,413:531−534)。前記誘導体をマウスに経口投与すると、当該誘導体によって活性化されたNKT細胞による選択的なIL−4産生を介したTh1細胞免疫応答の抑制が起こり、EAEは抑制される。また、前記誘導体は、ヒトNKT細胞に対して、Th2サイトカインの優先的産生を誘導する(Araki M,et al.,2008,Current Medicinal Chemistry,15:2337−2345)。それ故にαガラクトシルセラミドの誘導体は、ヒトMS(多発性硬化症;Multiple sclerosis)の治療薬となることが示唆されている。
【0014】
前記αガラクトシルセラミドの誘導体(以下、しばしば「本発明の合成糖脂質」と表記する)における新たな薬効を探索するため、健常者を対象とした当該誘導体の経口単回投与試験において末梢血中のT細胞亜分画を検証したところ、GM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞分画及びGM−CSF産生CD8陽性T細胞分画が、投与前値に比べて有意に減少する傾向を見出した。さらに、本発明の合成糖脂質をマウスに経口投与したところ、低用量の投与により、リンパ節T細胞からのGM−CSF産生が有意に抑制されることが明らかとなった。
【0015】
本発明は、上述の新たな知見に基づいてなされたもので、以下を提供する。
(1)以下の一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有するGM−CSF産生T細胞制御剤。
【化1】

(式中、Rはアルドピラノース残基を表し、Rは水素原子又は水酸基を表し、Rは−CH−、−CH(OH)−CH−、又は−CH=CH−を表し、Rは水素原子又はCHを表し、xは0〜35であり、y及びzは、y+z=0〜3を満たす整数を表す。)
(2)前記Rが以下の式(II)で示される、(1)に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
【化2】

(3)前記Rが−CH−、又は−CH(OH)−CH−を表し、xが10〜32である、(2)に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
(4)前記Rが−CH(OH)−CH−を表す、(3)に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
(5)前記R及びRが水素原子を表し、xが11〜23であり、zが0である、(1)〜(4)のいずれかに記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
(6)ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が投与されるように用いられる、(1)〜(5)のいずれかに記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
(7)ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が経口投与されるように用いられる、(6)に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤。
(8)上記一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有するGM−CSF低下剤。
【0016】
本発明はまた、以下の発明を提供する。
(9)以下の一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有し、
ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が投与されるように用いられる、Th1/Th2免疫バランス調節剤。
【化3】

(式中、Rはアルドピラノース残基を表し、Rは水素原子又は水酸基を表し、Rは−CH−、−CH(OH)−CH−、又は−CH=CH−を表し、Rは水素原子又はCHを表し、xは0〜35であり、y及びzは、y+z=0〜3を満たす整数を表す。)
(10)ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の前記糖脂質化合物又はその塩が経口投与されるように用いられる、(9)に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
(11)前記Rが以下の式(II)で示される、(9)又は(10)に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
【化4】

(12)前記Rが−CH−、又は−CH(OH)−CH−を表し、xが10〜32である、(11)に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
(13)前記Rが−CH(OH)−CH−を表す、(12)に記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
(14)前記R及びRが水素原子を表し、xが11〜23であり、zが0である、(9)〜(13)のいずれかに記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
(15)Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患又はTh1細胞が病態を悪化させる疾患の治療剤又は予防剤である、(9)〜(14)のいずれかに記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
(16)自己免疫疾患の治療剤又は予防剤である、(9)〜(15)のいずれかに記載のTh1/Th2免疫バランス調節剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、GM−CSFを産生するT細胞の増殖を抑制、又はそのGM−CSF産生能を抑制することができる。その結果、生体内におけるGM−CSF量を低減できる。それによって、GM−CSF量の増加に起因する疾患の治療薬となり得る。
【0018】
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤、及びTh1/Th2免疫バランス調節剤は、ヒトに対して、モデル動物(マウス、ラット、カニクイザル)における試験結果から予測される投与量よりもはるかに少ない投与量でも作用効果を奏する。この作用効果は、経口投与した場合に顕著に奏される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与した健常被験者より調製した末梢血単核細胞中のGM−CSF産生細胞をFACSにて分離、同定したサイトグラムを示す図である。Aの横軸はAPC−Cy7−抗CD3抗体の、また縦軸はECD−抗CD8抗体の蛍光強度をそれぞれ対数スケールで示している。Bの横軸はAPC−Cy7−抗CD3抗体の、また縦軸はPB−抗CD45RA抗体の蛍光強度をそれぞれ対数スケールで示している。C及びDの横軸はPE−抗GM−CSF抗体の、また縦図はPerCP−Cy5.5−抗IFN−γ抗体の蛍光強度をそれぞれ対数スケールで示している。
図2】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与した健常被験者より調製した末梢血単核細胞中のGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞の割合の時間的変化を示す図である。図中A〜Dは、コホートA(0.3mg投与)、コホートB(1mg投与)、コホートC(3mg投与)及びコホートD(10mg投与)を示す。また、day−1は、化合物31投与1日前、day1、day2、day3及びday7は、それぞれ化合物31投与後1日後、2日後、3日後及び7日後を示す。
図3】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与した健常被験者より調製した末梢血単核細胞中のGM−CSF産生CD8陽性T細胞の割合の時間的変化を示す図である。図中A〜Dは、コホートA(0.3mg投与)、コホートB(1mg投与)、コホートC(3mg投与)及びコホートD(10mg投与)を示す。また、day−1は、化合物31投与1日前、day1、day2、day3及びday7は、それぞれ化合物31投与後1日後、2日後、3日後及び7日後を示す。
図4】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与したマウスのリンパ節細胞培養上清におけるGM−CSF量を示す図である。day2及びday7は、それぞれ化合物31投与後2日後及び7日後のマウスから採取したリンパ節細胞の培養上清を示す。vehicleは、化合物31投与に代えて水(マウス飲料水)のみを投与した対照である。
図5】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与(0.3mg投与)したMS患者より調製した末梢血単核細胞中のGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞の割合の時間的変化を示す図である。また、day−1は、化合物31投与1日前、day1、day3及びday7は、それぞれ化合物31投与後1日後、3日後及び7日後を示す。
図6】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与(0.3mg投与)したMS患者より調製した末梢血単核細胞からセルソーティングにより回収したCD4陽性メモリーT細胞分画(CD3+CD4+CD45RA−)におけるIFN−γ発現量の変化を示す図である。また、day−1は、化合物31投与1日前、day8は、化合物31投与後8日後を示す。
図7】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与(0.3mg投与)したMS患者より調製した末梢血単核細胞からセルソーティングにより回収したCD4陽性メモリーT細胞分画(CD3+CD4+CD45RA−)におけるIL−4発現量の変化を示す図である。また、day−1は、化合物31投与1日前、day8は、化合物31投与後8日後を示す。
図8】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与(0.3mg投与)したMS患者より調製した末梢血単核細胞からセルソーティングにより回収したCD4陽性メモリーT細胞分画(CD3+CD4+CD45RA−)におけるIL−17発現量の変化を示す図である。また、day−1は、化合物31投与1日前、day8は、化合物31投与後8日後を示す。
図9】本発明の合成糖脂質の一つである化合物31を経口で単回投与(0.3mg投与)したMS患者より調製した末梢血単核細胞からセルソーティングにより回収したCD4陽性メモリーT細胞分画(CD3+CD4+CD45RA−)におけるGM−CSF発現量の変化を示す図である。また、day−1は、化合物31投与1日前、day8は、化合物31投与後8日後を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.GM−CSF産生T細胞制御剤
1−1.概要
本発明の第1の態様は、GM−CSF産生T細胞制御剤に関する。
本明細書において「GM−CSF産生T細胞制御剤」とは、炎症性サイトカインであるGM−CSFの産生能を有する活性T細胞の増殖を抑制する、又はそのGM−CSF産生能を抑制する薬剤をいう。本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、本発明の合成糖脂質又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0021】
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤によれば、GM−CSF産生T細胞の増殖を抑制することによって、生体内におけるGM−CSF濃度を低減することが可能となる。
【0022】
1−2.有効成分
前述のように、本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、本発明の合成糖脂質又はその塩を有効成分として含有する。
【0023】
本明細書において「本発明の合成糖脂質」とは、前述のようにαガラクトシルセラミドの誘導体を意味する。また、ここでいう「αガラクトシルセラミドの誘導体」とは、以下の一般式(I)で示される特許第4064346号に記載のαガラクトシルセラミド(α−galactosylceramide:α−GalCer)の誘導体をいう。
【化5】
【0024】
一般式(I)中、Rはアルドピラノース残基を表す。アルドピラノース残基には、例えば、α−D−グルコシル、α−D−ガラクトシル、α−D−マンノシル、β−D−グルコシル、β−D−ガラクトシル、β−D−マンノシル、2−デオキシ−2−アミノ−α−D−ガラクトシル、2−デオキシ−2−アミノ−β−D−ガラクトシル、2−デオキシ−2−アセチルアミノ−α−D−ガラクトシル、2−デオキシ−2−アセチルアミノ−β−D−ガラクトシル、β−D−アロピラノシル、β−D−アルトロピラノシル、β−D−イドシル等が挙げられる。これらのうち好ましいRはα体である。以下の式(II)で示される、α−D−ガラクトピラノシルである。
【化6】
【0025】
一般式(I)中、Rは水素原子(−H)又は水酸基(−OH)を表す。好ましくは水素原子である。
【0026】
一般式(I)中、Rは−CH−、−CH(OH)−CH−、又は−CH=CH−を表す。−CH−、又は−CH(OH)−CH−はより好ましく、−CH(OH)−CH−はさらに好ましい。
【0027】
一般式(I)中、Rは水素原子(−H)又はCHを表す。好ましくは水素原子である。
【0028】
一般式(I)中、xは0〜35の整数であり、好ましくは0〜26の整数であり、より好ましくは11〜26の整数であり、さらに好ましくは11〜23の整数であり、特に好ましくは18〜23の整数である。
【0029】
また、一般式(I)中、y及びzは、y+z=0〜3を満たす整数を表す。好ましくはzが0であり、かつyが0〜3である。より好ましくはzが0であり、かつyが1〜3である。なお、−(CH(CH(CH3))−は、(CH)と(CH(CH))の順序が記載の順序に従うことを意味するのではなく、単に(CH)と(CH(CH))の量的関係を示しているに過ぎない。例えば、y=2及びz=1の場合には、−(CH(CH(CH3))−内において(CH)が2つ、及び(CH(CH3))が1つであることを意味するのであって、2つの(CH)と1つの(CH(CH))の並びは問わない。具体的には、−CH(CH)CHCH−、−CHCH(CH)CH−、又は−CHCHCH(CH)−のいずれであってもよい。
【0030】
本発明の上記一般式(I)で示す本発明の合成糖脂質の具体例としては、以下の(1)〜(48)に記載の化合物が挙げられる。(3)〜(9)、(15)〜(21)、(27)〜(33)及び(39)〜(45)の化合物は、本発明の有効成分として、より好ましい。
【0031】
(1)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリアコンタノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(2)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(3)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−オクタコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール、
(4)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘプタコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(5)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(6)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ペンタコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(7)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−テトラコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(8)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(9)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ドコサコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(10)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘネイコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(11)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−エイコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(12)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナデカノイルアミノ)−1,3,4−ヘプタントリオール
(13)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリアコンタノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(14)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(15)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−オクタコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(16)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘプタコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(17)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(18)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ペンタコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(19)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−テトラコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(20)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(21)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ドコサコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール、
(22)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘネイコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(23)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−エイコサノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(24)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナデカノイルアミノ)−1,3,4−オクタントリオール
(25)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリアコンタノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(26)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール、
(27)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−オクタコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(28)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘプタコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(29)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(30)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ペンタコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(31)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−テトラコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(32)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(33)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ドコサコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(34)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘネイコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(35)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−エイコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(36)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナデカノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオール
(37)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリアコンタノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(38)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(39)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−オクタコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(40)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘプタコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(41)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘキサコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(42)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ペンタコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(43)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−テトラコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(44)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−トリコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(45)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ドコサコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(46)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ヘネイコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(47)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−エイコサノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
(48)(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−ノナデカノイルアミノ)−1,3,4−ヘキサントリオール
が挙げられる。
【0032】
「本発明の合成糖脂質の塩」又は「αガラクトシルセラミドの誘導体の塩」とは、一般式(I)で示されるαガラクトシルセラミドの誘導体の塩であって、その化合物上の特定の置換基に基づいて塩基又は酸を用いて調製された塩をいう。使用した塩基又は酸により塩基性付加塩と酸付加塩とに分類できる。
【0033】
塩基性付加塩としては、例えば、ナトリウム塩若しくはカリウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩若しくはマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩若しくはブロカイン塩のような脂肪族アミン塩、N,N−ジベンジルエチレンジアミンのようなアラルキルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩若しくはイソキノリン塩のような複素環芳香族アミン塩、アルギニン塩若しくはリジン塩のような塩基性アミノ酸塩、アンモニウム塩又はテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩若しくはテトラブチルアンモニウム塩のような第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0034】
酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩若しくは過塩素酸塩のような無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩若しくはアスコルビン酸塩のような有機酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩若しくはp−トルエンスルホン酸塩のようなスルホン酸塩又はアスパラギン酸塩及びグルタミン酸塩のような酸性アミノ酸等が挙げられる。
【0035】
なお、本明細書において、前記本発明の合成糖脂質の塩は、本発明の合成糖脂質のプロドラッグも包含するものとする。ここでいう「本発明の合成糖脂質のプロドラッグ」とは、生理学的条件下で容易に化学変化を受け、その結果としてGM−CSF産生T細胞の増殖又はGM−CSF産生能を抑制する活性を提供し得る化合物である。例えば、投与前は、一般式(I)で示される本発明の合成糖脂質やその塩基性付加塩若しくは酸付加塩とは異なる化合物形態であるが、消化管内で消化酵素等の作用によって一般式(I)で示される本発明の合成糖脂質に変換される化合物をいう。
【0036】
1−3.担体・溶媒
GM−CSF産生T細胞制御剤は、有効成分である本発明の合成糖脂質又はその塩のみで構成することもできるが、それ以外に製薬上許容される公知慣用の担体及び/又は溶媒を包含してもよい。
【0037】
「製薬上許容される担体」とは、ヒトをはじめとする動物に対して、副作用等の有害な影響がないか又は非常に小さいことから製剤技術分野においてその使用が認められる物質をいう。例えば、製剤技術分野において通常使用し得る非毒性の賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤等をいう。
【0038】
賦形剤としては、例えば、糖(例えば、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
結合剤としては、例えば、デンプン糊、シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0040】
崩壊剤としては、例えば、デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0041】
充填剤としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
【0042】
乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0043】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
【0044】
本発明の薬学的に許容可能な担体は、上記の他、必要に応じて、等張化剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤(例えば、第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム)、増量剤、pH調整剤、保湿剤(例えば、グリセリン、デンプン)、吸着剤(例えば、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸)、崩壊抑制剤(例えば、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油)、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、無痛化剤等を含むこともできる。
【0045】
「製薬上許容される溶媒」とは、ヒトをはじめとする動物に対して、副作用等の有害な影響がないか又は非常に小さいことから製剤技術分野においてその使用が認められ得る溶媒をいう。例えば、製剤技術分野において通常使用し得る非毒性の溶媒であって、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。これらは、血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0046】
上記担体や溶媒は、主として前記製剤化や投与を容易にし、また剤形及び薬剤効果を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0047】
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、有効成分である本発明の合成糖脂質又はその塩が薬理効果すなわちGM−CSF産生T細胞制御活性を失わない範囲において、同一及び/又は異なる薬理効果を有する一以上の薬剤を含有することもできる。例えば、本発明のGM−CSF産生T細胞の増殖抑制又はGM−CSFの産生能抑制の場合であれば、必要に応じて胃粘膜保護剤を所定量含有することができる。
【0048】
1−4.製造方法
1−4−1.有効成分である本発明の合成糖脂質の製造方法
本発明の合成糖脂質であるαガラクトシルセラミドの誘導体は、当該分野で公知の種々の方法で製造することができる。例えば、特許第4064346号に記載の方法に従って製造すればよい。
【0049】
1−4−2.GM−CSF産生T細胞制御剤の製造方法
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、本発明の合成糖脂質又はその塩を利用して、当該分野で公知の方法を用いてGM−CSF産生T細胞の増殖に起因する疾患の改善、治療を目的とする製剤を調製することができる。製剤化には、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences (Merck Publishing Co., Easton, Pa.)に記載の方法を用いればよい。
【0050】
GM−CSF産生T細胞制御剤の剤形は、その投与方法、及び/又は処方条件に応じて適宜選択される。投与方法については、経口投与及び非経口投与に大別することができる。
【0051】
経口投与に適した剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドロップ剤、舌下剤、トローチ剤、液剤等を挙げることができる。
【0052】
錠剤は、必要に応じ、当該分野で公知の剤皮を施した錠剤、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠又は多層錠とすることができる。例えば、カプセル剤であれば、粉末化した有効成分を乳糖、澱粉又はその誘導体、セルロース誘導体等の賦形剤と混合してゼラチンカプセルに詰めて調製すればよい。また、錠剤であれば、上記賦形剤の他にカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、アラビアゴム等の結合剤と水を加えて混練し、必要により顆粒とした後、さらにタルク、ステアリン酸等の潤滑剤を添加して通常の圧縮打錠機を用いて調製すればよい。経口投与の場合、前記各剤形の形状、大きさについては、いずれも当該分野で公知の範囲内にあればよく、特に限定はしない。
【0053】
非経口剤に適した剤形としては、例えば、液剤(懸濁剤を含む)、乳剤(クリーム剤)、ゲル剤、軟膏剤(ペースト剤を含む)、硬膏剤、粉剤、又は座剤等が挙げられる。これらは、全身投与、局所投与又は経直腸的投与のように、その投与方法に適した剤形にすることができる。全身投与に適した剤形には、例えば、注射剤としての液剤が挙げられる。注射の場合、有効成分を溶解補助剤と共に滅菌蒸留水又は滅菌生理食塩水に溶解し、アンプルに封入して注射製剤とする。必要により安定化剤、緩衝物質を含有させても良い。局所投与に適した剤形には、例えば、点眼剤又は点鼻剤等としての液剤、乳剤、点鼻剤等としての粉剤、ペースト剤、ゲル剤、軟膏剤、硬膏剤等を挙げることができる。経直腸的投与に適した剤形には、例えば、坐剤を挙げることができる。
【0054】
一投与単位のGM−CSF産生T細胞制御剤中には、有効量の有効成分が含有されていることが好ましい。本明細書で使用する場合、「有効量」とは、有効成分がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、本発明では本発明の合成糖脂質又はその塩がGM−CSF産生T細胞の増殖又はGM−CSFの産生能を抑制する上で必要な量であって、かつ投与する被験体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、剤型及び投与経路等の様々な条件によって変化し得る。「被験体の情報」とは、疾患の進行度若しくは重症度、全身の健康状態、年齢、体重、性別、食生活、薬剤感受性、併用医薬の有無及び治療に対する耐性等をいう。GM−CSF産生T細胞制御剤における有効量の具体例として、ヒト成人男子(体重60kg)に対して、本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤を経口によって投与する場合、投与単位あたり0.01重量%〜100重量%、好ましくは0.1重量%〜100重量%の有効成分を含んでいればよい。また、本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤を注射液によって投与する場合、注射液一投与単位あたり0.01%(w/v)〜20%(w/v)、好ましくは0.1%(w/v)〜10%(w/v)の有効成分を含んでいればよい。錠剤、丸剤又はカプセル剤のような剤型の場合、GM−CSF産生T細胞の有効量は、剤数によって調整する分割投与が可能であるため、必ずしも1錠中に有効量を含有する必要はない。
【0055】
1−5.投与方法
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤の投与対象となる生体は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0056】
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤の具体的な投与形態には、前述のように経口投与、又は非経口投与がある。非経口投与は、さらに全身投与と局所投与(例えば、皮下投与、経皮投与、経粘膜投与、又は経直腸的投与等)に分けられる。本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤の投与方法は、疾患の発症箇所又は進行度等に応じて適宜選択することが可能であり、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。好ましくは侵襲性の低い経口投与である。また、有効成分を血流等の循環系を介して迅速に行き渡らせる場合には、血管内注射を介した全身投与が、好適である。対象疾患が局部的であれば、局所注射により発症箇所及びその周辺に直接投与する局所的投与も採用できる。注射による医薬組成物の注入部位は特に限定しない。例えば、血管内若しくは心室内のような循環系内や、肝臓内、筋肉内、関節内、骨髄内、髄腔内、経皮、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、腸内、舌下等の器官若しくは組織内が挙げられる。
【0057】
具体的な投与量の一例として、例えば、ヒト成人男子(体重60kg)に投与する場合、一日当たりのGM−CSF産生T細胞制御剤の投与量は、通常、0.001mg〜5000mg/日/人、好ましくは0.01mg〜500mg/日/人、さらに好ましくは0.01mg〜50mg/日/人である。後述の実施例に示す通り、有効成分である本発明の合成糖脂質は、低用量でも十分な薬理効果を得ることができる。しかし、GM−CSF産生T細胞制御剤の大量投与が必要な場合には、患者に対する負担軽減のために数回に分割して投与してもよい。
【0058】
1−5−2.低用量投与
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、ヒトに対して、モデル動物(マウス、ラット、カニクイザル)における試験結果から予測される投与量よりもはるかに少ない投与量で作用効果を奏する。したがって、一実施態様として、本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の本発明の合成糖脂質(すなわち、一般式(I)で示される糖脂質化合物)又はその塩が投与されるように用いられてもよい。ここで、投与量として示した「0.01mg以上50mg以下」は、GM−CSF産生T細胞制御剤中の有効成分(すなわち一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩)の量を意味する。当該投与量は、例えば、0.05mg以上30mgであってもよく、0.1mg以上30mg以下であってもよく、0.15mg以上25mg以下であってもよく、0.15mg以上10mg以下であってもよく、0.2mg以上3mg以下であってもよく、0.2mg以上1mg以下であってもよく、0.2mg以上0.5mg未満であってもよく、0.2mg以上0.4mg以下であってもよい。本実施態様における投与方法としては、上記効果を顕著に奏することから、経口投与であることが好ましい。
【0059】
他の実施態様として、本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、ヒトに対して、1回あたり0.1μg/kg−体重以上1020μg/kg−体重以下の本発明の合成糖脂質(すなわち、一般式(I)で示される糖脂質化合物)又はその塩が投与されるように用いられてもよい。当該投与量は、0.7μg/kg−体重以上615μg/kg−体重以下であってもよく、1.4μg/kg−体重以上615μg/kg−体重以下であってもよく、2μg/kg−体重以上515μg/kg−体重以下であってもよく、2.1μg/kg−体重以上205μg/kg−体重以下であってもよく、2.8μg/kg−体重以上65μg/kg−体重以下であってもよく、2.8μg/kg−体重以上25μg/kg−体重以下であってもよく、2.8μg/kg−体重以上15μg/kg−体重以下であってもよく、4μg/kg−体重以上10μg/kg−体重以下であってもよい。ここで、例えば「4μg/kg−体重」とは、体重1kgあたり有効成分が4μgであることを意味する。本実施態様における投与方法としては、上記効果を顕著に奏することから、経口投与であることが好ましい。
【0060】
上記各実施態様に係る発明は、一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を1回あたり0.01mg〜50mgの量で、それを必要とするヒト対象に投与するステップを含む、GM−CSF産生T細胞の制御方法とみることもできる。投与量は、2μg/kg−体重以上1020μg/kg−体重以下であってもよい。投与方法は、経口投与であることが好ましい。
【0061】
上記各実施態様において、投与間隔は目的に応じて適宜設定することができる。投与間隔としては、例えば、1日1回投与してもよく、2日に1回投与してもよく、3日に1回投与してもよく、7日(1週間)に1回投与してもよい。経口投与する場合の投与間隔も同様である。
【0062】
1−6.薬理効果
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、有効成分であるαガラクトシルセラミドの誘導体又はその塩の薬理効果によりGM−CSFを産生する活性化T細胞の増殖を抑制し、またGM−CSF産生能を抑制することができる。
【0063】
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤の有効成分であるαガラクトシルセラミドの誘導体又はその塩によるGM−CSF産生T細胞制御効果及びGM−CSF濃度の低減効果は、一過的であり、投与後は時間の経過と共にその効果が徐々に弱まる。したがって、投与量や投与期間を調節することで、その薬理効果を制御することができる。
【0064】
本発明のGM−CSF産生T細胞制御剤は、その薬理効果を利用して、生体内におけるGM−CSF濃度の増加に起因する疾患、例えば、慢性臓器炎や関節リウマチ等の慢性炎症性疾患の治療に利用することができる。
【0065】
2.GM−CSF低下剤
2−1.概要及び定義
本発明の第2の態様は、GM−CSF低下剤に関する。
本明細書において「GM−CSF低下剤」とは、生体内におけるGM−CSF濃度を低減させる作用を有する薬剤をいう。本発明のGM−CSF低下剤は、本発明の合成糖脂質又はその塩を有効成分として含有する。
【0066】
2−2.有効成分及び担体・溶媒
前述のように、本発明のGM−CSF低下剤は、第1態様のGM−CSF産生T細胞制御剤と同じ本発明の合成糖脂質又はその塩を有効成分として含有する。つまり、本態様のGM−CSF低下剤は、第1態様のGM−CSF産生T細胞制御剤と同じ組成を有する。これは、本態様のGM−CSF低下剤がGM−CSF産生T細胞制御剤としても機能し、また第1態様のGM−CSF産生T細胞制御剤が本態様のGM−CSF低下剤としても機能し得ることを意味する。
【0067】
したがって、本態様の有効成分及び担体・溶媒は、第1態様に記載の有効成分及び担体・溶媒と同じでよいことから、ここではその説明を省略する。
【0068】
2−3.製造方法
2−3−1.有効成分の製造方法
本発明の有効井成分である合成糖脂質(αガラクトシルセラミドの誘導体)は、当該分野で公知の種々の方法で製造することができる。例えば、上述した特許第4064346号に記載の方法に従って製造すればよい。
【0069】
2−3−2.GM−CSF低下剤の製造方法
上述のように、本態様の有効成分である本発明の合成糖脂質及び担体・溶媒は、第1態様に記載の有効成分及び担体・溶媒と同じでよいことから、GM−CSF低下剤の製造方法も第1態様に記載の「GM−CSF産生T細胞制御剤の製造方法」と同じでよい。したがって、ここではその具体的な説明を省略する。
【0070】
2−4.投与方法
GM−CSF低下剤の投与方法についても、原則として第1態様に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤の投与方法と同じでよい。したがって、ここではその具体的な説明を省略する。
【0071】
2−4−2.低用量投与
GM−CSF低下剤の低用量投与に関する態様は、原則として第1態様に記載のGM−CSF産生T細胞制御剤における態様と同じでよい。したがって、ここではその具体的な説明を省略する。
【0072】
2−5.薬理効果
本発明のGM−CSF低下剤によれば、生体内におけるGM−CSF濃度を低減することが可能となる。これは、第1態様のGM−CSF産生T細胞制御剤の薬理効果と同じである。つまり、有効成分である本発明の合成糖脂質又はその塩は、GM−CSF産生T細胞に作用してそのGM−CSF産生能を抑制する。それによって、生体内におけるGM−CSF産生量が減少し、結果的に生体内のGM−CSF濃度を低減することができる。したがって、本発明のGM−CSF低下剤によるGM−CSF濃度の低減は、GM−CSF産生T細胞制御剤の二次的効果と解することができる。
【0073】
3.Th1/Th2免疫バランス調節剤
3−1.概要
本発明の第3の態様は、Th1/Th2免疫バランス調節剤に関する。
本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を有効成分として含有する。一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩は、IFN−γ産生の誘導を回避し、IL−4産生を選択的に誘導する。これにより、Th1/Th2免疫バランスをTh2が増加する方向に調節することができる。本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、このような作用を介して、Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患又はTh1細胞が病態を悪化させる疾患に対する予防効果、抑制効果又は治療効果が得られる。同様に、本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、このような作用を介して、自己免疫疾患に対する予防効果、抑制効果又は治療効果が得られる。
【0074】
したがって、本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患又はTh1細胞が病態を悪化させる疾患の治療剤又は予防剤としても用いることができる。また、本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、自己免疫疾患の治療剤又は予防剤としても用いることができる。更に本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、選択的IL−4産生誘導剤としても用いることができる。
【0075】
Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患とは、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、I型糖尿病、ぶどう膜炎、シェーグレン症候群等の自己免疫疾患に加え、劇症肝炎、移植片拒絶、細胞内感染病原体による感染症等の主として細胞性免疫による疾患を意味する。自己免疫疾患とは、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、クローン病、尋常性白斑、ベーチェット病、膠原病、I型糖尿病、ぶどう膜炎、シェーグレン症候群、自己免疫性心筋炎、自己免疫性肝疾患、自己免疫性胃炎、天疱瘡、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、HTLV−1関連脊髄症等の疾患を意味する。
【0076】
3−2.有効成分及び担体・溶媒
前述のように、本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、第1態様のGM−CSF産生T細胞制御剤と同じ本発明の合成糖脂質又はその塩を有効成分として含有する。つまり、本態様のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、第1態様のGM−CSF産生T細胞制御剤と同じ組成を有する。
【0077】
したがって、本態様の有効成分及び担体・溶媒は、第1態様に記載の有効成分及び担体・溶媒と同じでよいことから、ここではその説明を省略する。
【0078】
3−3.製造方法
3−3−1.有効成分の製造方法
本発明の有効成分である合成糖脂質(αガラクトシルセラミドの誘導体)は、当該分野で公知の種々の方法で製造することができる。例えば、上述した特許第4064346号に記載の方法に従って製造すればよい。
【0079】
3−3−2.Th1/Th2免疫バランス調節剤の製造方法
上述のように、本態様の有効成分である本発明の合成糖脂質及び担体・溶媒は、第1態様に記載の有効成分及び担体・溶媒と同じでよいことから、Th1/Th2免疫バランス調節剤の製造方法も第1態様に記載の「GM−CSF産生T細胞制御剤の製造方法」と同じでよい。したがって、ここではその具体的な説明を省略する。
【0080】
3−4.投与方法(低用量投与)
本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤の投与対象となる生体は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0081】
本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤の具体的な投与形態には、前述のように経口投与、又は非経口投与がある。非経口投与は、さらに全身投与と局所投与(例えば、皮下投与、経皮投与、経粘膜投与、又は経直腸的投与等)に分けられる。本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤の投与方法は、Th1/Th2免疫バランスの調節が必要な箇所、自己免疫疾患等の発症箇所又は進行度等に応じて適宜選択することが可能であり、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。好ましくは侵襲性の低い経口投与である。また、有効成分を血流等の循環系を介して迅速に行き渡らせる場合には、血管内注射を介した全身投与が、好適である。対象疾患等が局部的であれば、局所注射により発症箇所及びその周辺に直接投与する局所的投与も採用できる。注射による医薬組成物の注入部位は特に限定しない。例えば、血管内若しくは心室内のような循環系内や、肝臓内、筋肉内、関節内、骨髄内、髄腔内、経皮、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、腸内、舌下等の器官若しくは組織内が挙げられる。
【0082】
本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、ヒトに対して、モデル動物(マウス、ラット、カニクイザル)における試験結果から予測される投与量よりもはるかに少ない投与量で作用効果を奏する。したがって、一実施態様として、本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、ヒトに対して、1回あたり0.01mg以上50mg以下の本発明の合成糖脂質(すなわち、一般式(I)で示される糖脂質化合物)又はその塩が投与されるように用いられてもよい。ここで、投与量として示した「0.01mg以上50mg以下」は、Th1/Th2免疫バランス調節剤中の有効成分(すなわち一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩)の量を意味する。当該投与量は、例えば、0.05mg以上30mgであってもよく、0.1mg以上30mg以下であってもよく、0.15mg以上25mg以下であってもよく、0.15mg以上10mg以下であってもよく、0.2mg以上3mg以下であってもよく、0.2mg以上1mg以下であってもよく、0.2mg以上0.5mg未満であってもよく、0.2mg以上0.4mg以下であってもよい。本実施態様における投与方法としては、上記効果を顕著に奏することから、経口投与であることが好ましい。
【0083】
他の実施態様として、本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、ヒトに対して、1回あたり0.1μg/kg−体重以上1020μg/kg−体重以下の本発明の合成糖脂質(すなわち、一般式(I)で示される糖脂質化合物)又はその塩が投与されるように用いられてもよい。当該投与量は、0.7μg/kg−体重以上615μg/kg−体重以下であってもよく、1.4μg/kg−体重以上615μg/kg−体重以下であってもよく、2μg/kg−体重以上515μg/kg−体重以下であってもよく、2.1μg/kg−体重以上205μg/kg−体重以下であってもよく、2.8μg/kg−体重以上65μg/kg−体重以下であってもよく、2.8μg/kg−体重以上25μg/kg−体重以下であってもよく、2.8μg/kg−体重以上15μg/kg−体重以下であってもよく、4μg/kg−体重以上10μg/kg−体重以下であってもよい。ここで、例えば「4μg/kg−体重」とは、体重1kgあたり有効成分が4μgであることを意味する。本実施態様における投与方法としては、上記効果を顕著に奏することから、経口投与であることが好ましい。
【0084】
上記各実施態様に係る発明は、一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を1回あたり0.01mg〜50mgの量で、それを必要とするヒト対象に投与するステップを含む、Th1/Th2免疫バランスの調節方法とみることもできる。また、上記各実施態様に係る発明は、一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を1回あたり0.01mg〜50mgの量で、それを必要とするヒト対象に投与するステップを含む、Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患又はTh1細胞が病態を悪化させる疾患の治療方法、又は予防方法とみることもできる。更に上記各実施態様に係る発明は、一般式(I)で示される糖脂質化合物又はその塩を1回あたり0.01mg〜50mgの量で、それを必要とするヒト対象に投与するステップを含む、自己免疫疾患の治療方法、又は予防方法とみることもできる。投与量は、2μg/kg−体重以上1020μg/kg−体重以下であってもよい。投与方法は、経口投与であることが好ましい。
【0085】
上記各実施態様において、投与間隔は目的に応じて適宜設定することができる。投与間隔としては、例えば、1日1回投与してもよく、2日に1回投与してもよく、3日に1回投与してもよく、7日(1週間)に1回投与してもよい。
【0086】
3−5.薬理効果
本発明のTh1/Th2免疫バランス調節剤は、ヒトに投与することにより、IFN−γ産生の誘導を回避し、IL−4産生を選択的に誘導する。これにより、Th1/Th2免疫バランスが、Th2が増加する方向に変化し、Th1細胞免疫応答の抑制が起こり、自己免疫疾患の治療効果又は予防効果、Th1/Th2免疫バランスがTh1に偏向した疾患又はTh1細胞が病態を悪化させる疾患の治療効果又は予防効果を発揮する。
【実施例】
【0087】
<実施例1:本発明の合成糖脂質によるGM−CSF産生T細胞の抑制>
(目的)
本発明の合成糖脂質の投与によるGM−CSF産生T細胞の抑制効果を検証した。
【0088】
(方法)
(1)健常被験者への本発明の合成糖脂質の投与
【表1】
【0089】
上記表1に示すインフォームドコンセントを得た各3名の健常者からなる4つのコホート(A、B、C及びDコホート)の被験者に本発明の合成糖脂質の一つである第1態様に記載の化合物31、すなわち以下の式(III)で示される、(2S,3S,4R)−1−O−(α−D−ガラクトシル)−2−(N−テトラコサノイルアミノ)−1,3,4−ノナントリオールを経口で単回投与した。
【化7】
【0090】
投与量は、Aコホートが一人当たり0.3mg、Bコホートが一人当たり1mg、Cコホートが一人当たり3mg、及びDコホートが一人当たり10mgとした。
【0091】
(2)末梢血単核細胞(PBMC)の調製
続いて、密度勾配遠心法を用いて各被験者の末梢血からT細胞亜分画を調製した。まず、10 mLヘパリンナトリウム含有真空採血管2本を用いて、化合物31投与して24時間後(1日目)、48時間後(2日目)、72時間後(3日目)及び168時間後(7日目)に、各被験者の静脈より計20mLの血液を採取した。なお、化合物31投与前の対照用として、投与1日前にも各被験者の静脈より同様に20mLの血液を採取しておいた。
【0092】
次に、15mLコニカルチューブ4本のそれぞれにFicol−Paque Plus(GEヘルスケアバイオサイエンス)を4mL入れ、その上に、Phosphate Buffered Saline(PBS)で2倍に希釈した血液を10mLずつ静かに重層した。その後、常温で、1800rpm、30分間遠心し、密度勾配遠心を行った。遠心後、血漿や血小板を含む上清を廃棄し、上清層とFicol−Paque Plus層の境界層に存在するリンパ球を新しい50mLコニカルチューブに回収した。そこにPBSを加え、50mLコニカルチューブを満たした後、常温にて1800rpmで5分間遠心した。上清を吸引除去し、PBSを加え、ピペッティングした後、径40μmのBDファルコン セルストレイナー(BD)を通しながら新しい15mLコニカルチューブに移した後、1500rpmで5分間遠心した。上清を再び吸引除去した後、AIM−V培養液(life technologies)を1mL加えて単細胞浮遊液を調製した後、血球計算盤にて細胞数を計測した。BDファルコン96well flat bottomプレート(BD)の4ウェルに5×10cells/wellの細胞を含む前記単細胞浮遊液を蒔いた。各ウェルにPMA(シグマ)、イオノマイシン(シグマ)、及びモネンシン(シグマ)を、最終濃度がそれぞれ50ng/mL、500ng/mL、及び2μMとなるように加えて細胞を刺激した。続いて、37℃、5%COインキュベーターで4時間培養した後、4ウェル分の細胞をそれぞれ一本のBD製フローサイトメトリーチューブに回収した。常温で1500rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去し、末梢血単核細胞(PBMC)を回収した。
【0093】
(3)抗体染色及びフローサイトメトリー
回収したPBMCを以下の方法で抗体染色した。まず、2×10cellsのPBMCに0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBS8μL,APC−Cy7−抗CD3抗体(BioLegend)0.5μL,ECD−抗CD8抗体(Beckman Coulter)0.5μL,PB−抗CD45RA抗体(BioLegend)1μLからなる溶液10μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。なお、CD3はT細胞の検出マーカーであり、CD3+細胞は、T細胞であることを示す。またCD45RAはナイーブT細胞の検出マーカーであり、CD45RA+細胞はナイーブT細胞であることを、またCD45RA−細胞はメモリーT細胞であることを示す。さらに、CD8−細胞は、CD4+細胞であることを示す。0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBSを1mL加えて、1500rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。次に、BD FIXバッファー(BD)100μLを1滴ずつボルテックスしながら加えた後、氷上に20分間置いた。再び、MACS bufferを1mL加えて、1500rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。続いて、0.1%サポニンを1mL加えて、室温遮光下に2分間置いた。
【0094】
続いて、250μL(I群)と750μL(II群)に分注して、2200rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。
【0095】
I群には、0.1%サポニン7μL,PerCP−Cy5.5−抗mouse IgG1抗体(BioLegend)1μL,Alexa488−抗mouse IgG1抗体(BioLegend)1μL,APC−抗mouse IgG1抗体(BioLegend)1μL,PE−抗rat IgG1抗体(BD)1μLからなる溶液11μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。0.1%サポニンを1mL加えて、2200rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。MACS bufferを300μL加えた後、2200rpmで、5分間遠心を行った。0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBS 350μLを加え、BDファルコン セルストレイナー(BD)を通した。得られた細胞を「対照用リンパ球細胞」とした。
【0096】
II群には、0.1%サポニン7μL,PerCP−Cy5.5−抗IFN−γ抗体(BioLegend),Alexa488−抗IL−17抗体(BioLegend)3μL,APC−抗IL−4抗体(BioLegend)1μLからなる溶液12μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。0.1%サポニンを20μL加えて総量32μLとした後、10μLを取り出して、PE−抗GM−CSF抗体(BioLegend)5μLを加えて15μLとした後、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。0.1%サポニンを1mL加えて、2200rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。続いて0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBSを300μL加えた後、2200rpmで、5分間遠心を行い、0.5%BSA/2μM EDTA・2Na含有PBS 350μLを加え、BDファルコン セルストレイナー(BD)を通した。得られた細胞を「リンパ球細胞」とした。
【0097】
抗体染色した各リンパ球細胞の蛍光標識に基づいて、FACS AriaII(BD)により各細胞を分離、同定した。図1にFACSで得られたサイトグラムを示す。各抗体の蛍光強度に基づいてA〜Dのサイトグラムを4つの区画(1〜4)に分画している。A2区画はCD3+CD8+細胞区画であり、A4区画はCD3+CD8−細胞区画である。
【0098】
A2区画内のCD3+CD8+細胞をPerCP−Cy5.5−抗IFN−γ抗体及びPE−抗GM−CSF抗体の蛍光に基づいてFACSで再分画したサイトグラムがCであり、C2/C4区画の細胞が目的のGM−CSF産生CD8陽性T細胞分画となる。
【0099】
一方、A4区画内のCD3+CD8−細胞をAPC−Cy7−抗CD3抗体及びPB−抗CD45RA抗体の蛍光に基づいてFACSで再分画したサイトグラムがBであり、CD3+CD8−CD45RA−のB4区画がCD4陽性メモリーT細胞分画となる。この分画をさらにPerCP−Cy5.5−抗IFN−γ抗体及びPE−抗GM−CSF抗体の蛍光に基づいてFACSで再分画したサイトグラムがDであり、D2/D4区画の細胞が目的のGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞分画となる。
【0100】
GM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞分画及びGM−CSF産生CD8陽性T細胞分画のそれぞれに含まれる細胞について、測定したPBMCにおける存在比率(%)を算出した。
【0101】
(結果)
図2にPBMC中のGM−CSF産生 CD4陽性メモリーT細胞の存在比率の結果を、また図3にPBMC中のGM−CSF産生CD8陽性T細胞の存在比率の結果を示す。
【0102】
図2及び3におけるA〜Dは、各コホートを構成する3名の被験者のPBMC中のCD4陽性メモリーT細胞率の平均値(図2)及びCD8陽性T細胞率の平均値(図3)を示す。
【0103】
図2では、いずれのコホートも化合物31投与前値(day−1)と比較して、化合物31投与後はGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞率は減少しており、化合物31の投与によりCD4陽性メモリーT細胞の増殖が抑制、又はそのGM−CSF産生能を抑制されていることが示された。また、Aコホートの結果から、化合物31は低用量でもCD4陽性メモリーT細胞の抑制効果が高いことが明らかとなった。
【0104】
化合物31の投与量が多い(C及びDコホート)場合には、化合物31投与1日後にはGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞の増殖が促進されたが、その効果は一過的でいずれも翌日には強く抑制されることも判明した。
【0105】
化合物31を単回投与した場合には、いずれのコホートも化合物31投与後48時間(Day2)〜72時間(Day3)で抑制効果がピークとなり、その後はCD4陽性メモリーT細胞が徐々に回復過程に入ることも明らかとなった。これは、化合物31のCD4陽性メモリーT細胞の抑制効果が数日は持続するが、永続的ではないことを示唆しており、化合物31の効果を投与量や投与期間によって、CD4陽性メモリーT細胞の抑制を制御できることを示唆している。
【0106】
一方、図3でも基本的な傾向は、図2と同様であった。すなわち、いずれのコホートも化合物31投与前値(day−1)と比較して、化合物31投与後はCD8陽性T細胞率が減少した。また、化合物31の投与量が多い場合には、化合物31投与1日後にはCD8陽性T細胞の増殖が、投与1日後に一過的に促進された(Cコホート)。さらに、化合物31を単回投与した場合には、B〜Dコホートでは化合物31投与後48時間(Day2)〜72時間(Day3)で抑制効果がピークとなり、徐々に回復過程に入ることも明らかとなった。ただし、投与量の最も少ないAコホートでは、投与7日後にも抑制効果が強まっていた。
【0107】
<実施例2:マウスT細胞GM−CSF産生に対する化合物31の影響>
(目的)
実施例1の健常被験者で見られた結果がマウスでも再現できることを検証した。なお、マウスでは末梢血を解析することが困難なため、リンパ節細胞のGM−CSF産生能として、化合物31を投与したマウスのリンパ節細胞培養上清におけるGM−CSF量を解析した。
【0108】
(方法)
(1)マウスへの本発明の合成糖脂質の投与
8週齢C57BL/6マウス(メス)に、ゾンデを用いて化合物31を経口投与した。投与量は、マウス飲料水200μLに化合物31 15μg/kg(低用量)、又は化合物31 1mg/kg(高用量)を溶解したものを用いた。コントロールとして、マウス飲料水200μLのみを投与した。
【0109】
(2)リンパ節細胞の調製
化合物31を経口投与した2日後、及び7日後にマウスを頸椎脱臼により安楽死させ、腋窩、及び鼠径リンパ節を採取した。採取したリンパ節を、径40μmのBDファルコン セルストレイナー(BD)上で破砕し、PBSを加えて50mLコニカルチューブに回収し、1500rpmで5分間遠心した後、上清を吸引除去した。
【0110】
回収した細胞に1000μLの10% FBS(Fetal Bovine Serum;life technologies)含有RPMI培養液(life technologies)を加えて懸濁し、単細胞浮遊液とした後、血球計算盤にて細胞数を計測した。
【0111】
(3)抗体刺激及び培養上清中のGM−CSFの検出
投与後のマウスからリンパ節採取する前日に、抗CD3モノクローナル抗体(自作)及び、抗CD28抗体(BD)をPBSで1μg/mLに調整し、BDファルコン96well flat bottomプレート(BD)の各ウェルに50μLずつ入れて、4℃で保存し、プレートを抗CD3/CD28抗体でコーティングした。調製した単細胞浮遊液を5×10cells/wellで、前記プレートに蒔いた後、5%COインキュベーターで37℃にて48時間培養して抗CD3抗体及び抗CD28抗体による刺激を行った。
【0112】
上清を回収し、ELISAキット(OptEIA Mouse GM−CSF ELISA set;BD)を用いて、添付文書に従い、培養上清中に含まれるGM−CSの濃度を測定した。
【0113】
(結果)
図4に結果を示す。化合物31の低用量投与(15μg/kg)では、リンパ節T細胞からのGM−CSF産生が有意に抑制されることが判明した。一方、高用量群(1mg/kg)では化合物31の投与後2日目には抑制効果は見られなかったが、投与後7日目には観察された。このように化合物31の効果が生じ始める時期が投与量によって異なるものの、最終的にはリンパ節T細胞からのGM−CSF産生が有意に抑制されることが示された。これは、ヒトの末梢血を用いた実施例1及び2の結果と同様の傾向がマウスでも再現できたことを示唆している。また、化合物31投与によりリンパ節T細胞の培養上清中のGM−CSF量が減じたことから、生体内におけるGM−CSF産生T細胞の抑制は、生体内のGM−CSF濃度を低減する効果をもたらすことが立証された。
【0114】
<実施例3:MS患者におけるGM−CSF産生T細胞の抑制>
(目的)
多発性硬化症を発症した患者(MS患者)における本発明の合成糖脂質の投与によるGM−CSF産生T細胞の抑制効果を検証した。
【0115】
(方法)
(1)MS患者への本発明の合成糖脂質の投与
【表2】
【0116】
上記表2に示すインフォームドコンセントを得た2名のMS患者(被験者)に本発明の合成糖脂質の一つである第1態様に記載の化合物31を経口で単回投与した。なお、投与量は、一人当たり0.3mgとした。
【0117】
(2)末梢血単核細胞(PBMC)の調製
続いて、密度勾配遠心法を用いて各被験者の末梢血からT細胞亜分画を調製した。まず、10mLヘパリンナトリウム含有真空採血管2本を用いて、化合物31投与して24時間後(1日目)、48時間後(2日目)、72時間後(3日目)、168時間後(7日目)及び192時間後(8日目)に、各被験者の静脈より計20mLずつの血液を採取した。なお、化合物31投与前の対照用として、投与1日前にも各被験者の静脈より同様に20mLの血液を採取しておいた。
【0118】
以下、実施例1と同様の操作により、末梢血単核細胞(PBMC)を回収した。
【0119】
(3)抗体染色及びフローサイトメトリー
回収したPBMCを以下の方法で抗体染色した。まず、2×10cellsのPBMCに0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBS8μL,APC−Cy7−抗CD3抗体(BioLegend)0.5μL,ECD−抗CD8抗体(Beckman Coulter)0.5μL,PB−抗CD45RA抗体(BioLegend)1μLからなる溶液10μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。なお、CD3はT細胞の検出マーカーであり、CD3+細胞は、T細胞であることを示す。またCD45RAはナイーブT細胞の検出マーカーであり、CD45RA+細胞はナイーブT細胞であることを、またCD45RA−細胞はメモリーT細胞であることを示す。さらに、CD8−細胞は、CD4+細胞であることを示す。0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBSを1mL加えて、1500rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。次に、BD FIXバッファー(BD)100μLを1滴ずつボルテックスしながら加えた後、氷上に20分間置いた。再び、MACS bufferを1mL加えて、1500rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。続いて、0.1%サポニンを1mL加えて、室温遮光下に2分間置いた。
【0120】
続いて、250μL(I群)と750μL(II群)に分注して、2200rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。
【0121】
I群には、0.1%サポニン7μL,PerCP−Cy5.5−抗mouse IgG1抗体(BioLegend)1μL,Alexa488−抗mouse IgG1抗体(BioLegend)1μL,APC−抗mouse IgG1抗体(BioLegend)1μL,PE−抗rat IgG1抗体(BD)1μLからなる溶液11μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。0.1%サポニンを1mL加えて、2200rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。MACS bufferを300μL加えた後、2200rpmで、5分間遠心を行った。0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBS 350μLを加え、BDファルコン セルストレイナー(BD)を通した。得られた細胞を「対照用リンパ球細胞」とした。
【0122】
II群には、0.1%サポニン7μL,PerCP−Cy5.5−抗IFN−γ抗体(BioLegend),Alexa488−抗IL−17抗体(BioLegend)3μL,APC−抗IL−4抗体(BioLegend)1μLからなる溶液12μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。0.1%サポニンを20μL加えて総量32μLとした後、10μLを取り出して、PE−抗GM−CSF抗体(BioLegend)5μLを加えて15μLとした後、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に10分間置いた。0.1%サポニンを1mL加えて、2200rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。続いて0.5%BSA/2mM EDTA−2Na含有PBSを300μL加えた後、2200rpmで、5分間遠心を行い、0.5%BSA/2μM EDTA・2Na含有PBS 350μLを加え、BDファルコン セルストレイナー(BD)を通した。得られた細胞を「リンパ球細胞」とした。
【0123】
抗体染色した各リンパ球細胞の蛍光標識に基づいて、FACS AriaII(BD)により各細胞を分離、同定した。図1にFACSで得られたサイトグラムを示す。各抗体の蛍光強度に基づいてA〜Dのサイトグラムを4つの区画(1〜4)に分画している。A2区画はCD3+CD8+細胞区画であり、A4区画はCD3+CD8−細胞区画である。
【0124】
A4区画内のCD3+CD8−細胞をAPC−Cy7−抗CD3抗体及びPB−抗CD45RA抗体の蛍光に基づいてFACSで再分画したサイトグラムがBであり、CD3+CD8−CD45RA−のB4区画がCD4陽性メモリーT細胞分画となる。この分画をさらにPerCP−Cy5.5−抗IFN−γ抗体及びPE−抗GM−CSF抗体の蛍光に基づいてFACSで再分画したサイトグラムがDであり、D2/D4区画の細胞が目的のGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞分画となる。
【0125】
GM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞分画及びGM−CSF産生CD8陽性T細胞分画のそれぞれに含まれる細胞について、測定したPBMCにおける存在比率(%)を算出した。
【0126】
(結果)
表3及び図5にPBMC中のGM−CSF産生 CD4陽性メモリーT細胞の存在比率の結果を示す。図5では、化合物31投与前値(day−1)と比較して、化合物31投与後はGM−CSF産生CD4陽性メモリーT細胞率が減少しており、化合物31の投与により、MS患者においてもCD4陽性メモリーT細胞の増殖が抑制、又はそのGM−CSF産生能を抑制されていることが示された。
【表3】
【0127】
<実施例4:MS患者におけるT細胞の活性制御>
(目的)
多発性硬化症を発症した患者(MS患者)における本発明の合成糖脂質の投与によるT細胞の活性制御効果を検証した。
【0128】
(方法)
(1)ソーティング及び染色
回収したPBMCを以下の方法で抗体染色した。まず、6×10cellsのPBMCにMACS buffer 20μL,APC−Cy7−抗CD3抗体(BioLegend)0.25μL,PB−抗CD4抗体(BioLegend)1μL,PerCP−Cy5.5−抗CD45RA抗体(BioLegend)1μL,PC7−抗CD56抗体(Beckman Coulter)1μLからなる溶液10μLを加え、ボルテックスにより十分に混合した後、氷上に20分間置いた。なお、CD56はNK活性を持つ細胞の検出マーカーであり、CD3−CD56−細胞は抗原提示細胞(APC)であることを示す。MACS bufferを1mL加えて、1500rpm、5分間遠心後、上清を吸引除去した。沈殿をMACS buffer 500μLに再懸濁させた後、ろ過して、フローサイトメトリー分析に供した。
CD3+CD4+CD45RA−を示す細胞区画に含まれる細胞、及びCD3−CD56−の細胞区画に含まれる細胞それぞれをソーティングして回収した。なお、CD3+CD4+CD45RA−を示す細胞区画の細胞がCD4陽性メモリーT細胞(mCD4T)分画となる。同様に、CD3−CD56−の細胞区画の細胞が抗原提示細胞(APC)分画となる。
【0129】
(2)細胞準備
上記ソーティングにより得られたmCD4T及びAPCを、RPMI1640(GIBCO)500mL、グルタミン(200mM,Wako)5mL、Pen/strep(10,000U/mL,GIBCO社)5mL、2−Mercapto ethanol(GIBCO)0.5mL、及び10%(v/v)Cell ect FETAL BOVINE SERUM(MP Biomedicals)50mLからなる培地に再懸濁し、細胞数を計数した。なお、APCについては、放射線照射(30Gy)による処理を行った。
【0130】
(3)培養
表4に示した培養条件A又はBに記載の割合となるように(2)で準備した細胞を及び各添加物を96well平底プレート(BD Biosciences,品番:BD3072)に添加し(各50μL/well)、5%COインキュベーターで37℃にて6時間培養した。表4中、OVAとはオボアルブミンを意味し、MBPとはミエリン塩基性タンパクを意味する。
【表4】
【0131】
(4)ELISA
培養後、培養上清を回収し、ELISA法によってIFN−γ、IL−4、IL−17及びGM−CSFを測定した。ELISA法に用いた抗体は、抗IFN−γ抗体(BD Biosciences,品番:555142,使用時の希釈倍率:20倍)、抗IL−4抗体(BD Biosciences,品番:555194,使用時の希釈倍率:4倍)、抗IL−17抗体(R&D systems,品番:DY317,使用時の希釈倍率:4倍)及び抗GM−CSF抗体(BD Biosciences,品番:555126,使用時の希釈倍率:4倍)である。
【0132】
(結果)
表5及び図6〜9に結果を示す。図6〜9は、化合物31投与1日前(day−1)と投与192時間後(day8)の時点における各種サイトカインの発現量を示すグラフである。図6〜9に示されるように、IFN−γ、IL−4、IL−17、GM−CSFの発現量が変化した。具体的には、化合物31の投与により、IFN−γ、IL−17及びGM−CSFの発現量が低下し、IL−4の発現量が増加した。すなわち、Th1/Th2バランスが変化し、Th2優位な状態になったことが明らかとなった。また、培養条件A(OVA刺激)と培養条件B(MBP刺激)との間に違いは見られなかったため、このサイトカイン発現の様相の変化は、MBP特異的なもののみではなく、T細胞全体における変化であると考えられる。
【表5】
【0133】
<実施例5:化合物の体内動態における種差の影響>
(目的)
マウス、ラット、サル及びヒトにおいて、化合物31を経口投与した場合の体内動態の経時変化を比較した。
【0134】
(方法)
絶食条件下の雄性マウス、雄性ラット及び雄性カニクイザルに対して、14Cで標識された化合物31を所定の投与量で単回経口投与した後、一定時間経過後の血中濃度を測定し、最高血中濃度Cmax、最高血中濃度に達した時間Tmax、半減期t1/2、曲線下面積AUC0−∞、平均滞留時間MRT0−∞、バイオアベイラビリティBA等のパラメータを算出した。14Cで標識していない化合物31を用いたこと以外は同様にして、ヒト(健常被験者)の血中濃度を測定し、上記各パラメータを算出した。
【0135】
(結果)
結果を表6〜表9に示す。表6は、マウス(投与量5mg/kg)、ラット(投与量10mg/kg)及びカニクイザル(投与量10mg/kg)に単回経口投与したときの血中濃度の経時変化を示す。表7は、表6に示された血中濃度を基に算出されたパラメータを示す。表8は、ヒト(投与量0.3、1、3、10、30mg)に経口投与したときの血中濃度の経時変化を示す。表9は、表8に示された血中濃度を基に算出されたパラメータを示す。表中、「N.D.」は未検出を意味する。
【表6】

【表7】

【表8】

【表9】
【0136】
ここで、ヒトの体重を60kgと仮定して、投与量が同じになるように補正して、マウス、ラット及びカニクイザルとヒトとのAUC0−∞の値を比較した。以下の式により種差(倍)を計算した結果を、表10に示す。表10に示すように、化合物31は、マウス、ラット及びカニクイザルと比較して、ヒトにおいて極めて低い投与量で高い血中濃度を示した。具体的には、ヒトのAUC0−∞は、マウスのAUC0−∞の2.72〜8.94倍、ラットのAUC0−∞の4.77〜15.7倍、カニクイザルのAUC0−∞の6.69〜22.0倍であった。
【数1】

【表10】
【0137】
<実施例6:MS患者における化合物の体内動態>
(目的)
MS患者において、化合物31を経口投与した場合の体内動態の経時変化を比較した。
【0138】
(方法)
実施例5と同様にして、インフォームドコンセントを得た2名のMS患者(被験者)に14Cで標識された化合物31を経口単回投与し、所定の時間経過後に採血することにより、当該化合物の血中濃度を測定し、各パラメータを算出した。
【0139】
結果を表11に示す。表中、「N.C.」は未計算を意味する。化合物31のMS患者における体内動態は、健常人における体内動態と比較すると、血中濃度が低かった。しかしながら、実施例3のデータと同様、実施例6においても、化合物31の薬理効果が観察された。
【表11】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9