【実施例】
【0112】
以下の試験例及び実施例で使用する培地の例と作成手順を以下に表で示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0113】
本発明の培地作成法は3−1項に説明されている。栄養欠失培地、栄養制限培地、および代替化合物添加培地を使用する。ここでは具体的にS源に関する栄養欠失培地、栄養制限培地、および代替化合物添加培地の作成を例に説明する。
【0114】
まずA.基礎培地であるS(―)培地を作成する。S(―)培地はS源となる化合物が無添加であることをしめす。その組成は培地の表(表1−1)記載されている。この培地で微生物は実質的に増殖できない。S(―)培地にオレイン酸(fと略記する)とアミノ酸(aおよび)aaの2種類の混合物がある)、並びに緩衝剤としてSシリーズの培地に加えるグルタミン酸Naを添加する。これでB.栄養欠失培地であるS(―)faが出来上がる。これはS源飢餓培養に使用する。次にS(―)fa培地に制限量のS源と酵母エキス(Yと略記)を添加する、S(αS)Yfa培地、すなわち栄養制培地が出来上がる。最後に取込まれる元素Xからなる含X化合物を添加するとD.代替化合物添加培地S(αS+X)Yfaが出来上がる。P源やC源のシリーズの栄養欠失培地、栄養制限培地、および代替化合物添加培地は同様の手順で作成する。
【0115】
また、以下の試験例及び実施例で使用する略号とその化合物を以下に表で示す。
【表2】
【0116】
化合物の略号は実施例中の表やグラフ中に記載したものであり、この表2で略号の意味を明示する。
【表3】
【0117】
表3は、表2の続きである。
【0118】
[試験例1]
大腸菌の変異株 E. coli K-12 (NBRC3993)を使用し、その生育特性を調べた。
【0119】
GY培地(栄養培地)とS(―)fa培地(S源欠損培地)を使用した。培地組成は次項に示す。
【0120】
S(―)fa培地に含S化合物を添加した培地を作成し、培地10mLをいれた試験管(TTと記す、サイズ2.6 x 18cmφ)中、37℃、1日間NBRC3993株を振盪培養した。その後、濁度法で増殖量を測定した。結果を表4に示す。
【表4】
【0121】
表4の結果からNBRC3993はシステインおよび/またはメチオニン要求株であることが分かる。
【0122】
NBRC3993株を用いてS源制限下でX化合物を取り込ませると、親株であるE. coli K-12株より効率的に取り込まれることが判明した。実施例に記す。
【0123】
[実施例1]
C源欠失培地C(―)培地に制限量のC源(αCと記す)とC源代替化合物(Xと記す)として有機ケイ素化合物を添加したC(αC+X)培地で培養した場合の細菌と真菌3株の増殖を調べた。
【0124】
(方法)
使用菌株として下記3株を使用した。各菌株のC源飢餓培養菌体を種菌として使用した。
【0125】
菌株1:E. coli K12 NBRC3301 (
図1の左3つ)、
菌株2:B. subtilis (former natto) NBRC13169(
図1の中3つ)、
菌株3:Saccharomyces cerevisiae NBRC0268(
図1の右2つ)。
【0126】
培地:C飢餓培養にC源欠失培地であるC(-)培地、増殖試験にはC(-)培地に制限量のC源(αC)と 含X化合物ならびに酵母エキス(Y)を添加したC(αC+X)Y培地を使用した。ただし、制限量のC源(αC)には:glutamic acid Na(表中ではgluと記載する,1mg/mL),またはlactate Na(表中ではlacと記載する,0.5mg/mL),またはglucose(表中ではglcと記載した,0.5mg/mL)にいずれも酵母エキス(Y)0.5mg/mLを合わせたものを用いた。緩衝剤としてリン酸緩衝液(KH
2PO
4-K
2HPO
4,pH 6.4)(8mg/mL)を添加した。
【0127】
C源代替化合物(X):eSi (tetraethyl silicate), emSi (diethoxydimethylsilane)を使用し、添加量は
図1中に示す。
【0128】
培養条件 10mL/TT、33℃、160rpm
種培養、その後の飢餓培養、増殖試験培養などを以下の通り実施した。
【0129】
種菌をGY培地(グルコース10、ペプトン10、酵母エキス5、NaCl
3、グルタミン酸1ナトリウム2、pH7)中、33℃で1昼夜培養後、遠心で菌体を集めた。菌体をリン酸緩衝洗浄液中、遠心で2回洗浄し、OD660nmが約5になるように菌体濃度を調整しながら、C(-)培地に洗浄菌体を再懸濁した。これを30℃で振盪し(すなわちC飢餓培養し)、その後OD5の懸濁液を種菌液として使用培地に5-7%(v/v)播種し、33℃、160rpmで振盪培養した。2日目(d2)に少量を採取し、水で10倍希釈した液のOD660nmを測定して増殖量とした。
【0130】
(結果)
結果を
図1に示す。E. coli K12株の増殖量(OD値)は、制限量のC源の存在下にC源代替化合物としてシラン類を添加した場合に無添加対照よりも増加した。使用したケイ素化合物は培養液中でケイ酸塩とエタノールを生じると予想されるので、比較のためにemSi中のエチル基と等モル相当量のエタノールを添加した場合、ODはemSiの場合より低かった。従ってemSi中のSiを利用して増殖したと考えられた。他の2菌株でも同様の傾向であった。
【0131】
[実施例2]
C源欠失培地C(―)培地に制限量のC源(αCと記す)としてlactate Naを添加したC源制限培地(C(αC)培地)にC源代替化合物すなわち含X化合物としてメチル基を含む有機ケイ素化合物mmSi(メチルトリメトキシシラン、化合物の略号は表2〜3を参照)を添加したC(αC+X)培地を使用して大腸菌の増殖を調べた。また、一代目(T1)培養終了時に同じ組成の培地に2代目を継代培養(T2)、すなわち馴化培養した影響を調べた。
【0132】
(方法)
使用菌株はE. coli K12のC源飢餓培養菌体を使用した。
【0133】
菌株1:E. coli K12 NBRC3301、
培地:C(αC +X)Y培地を使用した。
【0134】
制限量のC源(αC):lactate Na(図中ではlacと記載した。2mg/mL)+酵母エキス(Y)0.5mg/mL。
【0135】
C源代替化合物:X:mmSi(methyltrimethoxylsilane)。添加量を
図2中に示す。
【0136】
培養条件 100mL/三角フラスコ、33℃、130rpm。一代目の培養終了時に培養液の一部を採取し、遠心で菌体を洗浄して、同じ組成の培地に播種した。培養開始時のOD値は1代目の初期OD値と同様になるように調整した。
【0137】
(結果)
結果は
図2に示す。実施例1の場合と同様に、種菌をGY培地で増殖させ、菌体を洗浄後、C源飢餓培養した菌体を種菌として培地に播種した。2日目に1代目(図中ではT1d2と記す)の菌体を洗浄しこれを種菌として同じ培地に播種し2代目として馴化培養し2代目の2日目(T2d2)に生育を測定した。
【0138】
E. coli K12株は制限量のC源だけの無添加対照よりもC源代替化合物としてmmSiを添加した場合にOD値が増加した。OD値の増加は用量に依存して変化した。また初代より2代目の方の増殖量が高い傾向が認められた。使用したケイ素化合物のmmSiは培養液中でケイ酸塩とメタノールを生じると予想される。E. coliはメタノールを利用する能力があるとは知られていない。事実、E. coliはここで使用した条件でmmSi単独(
図2の右端)で増殖しなかった。従って、OD値の増加はmmSi 中のSi部分を利用した結果であると考えられる。また、この結果は初代の培養結果の比較で無添加対照との差がわずかであっても、2代目以降にはより大きな差になる場合があることをしめす。
【0139】
[実施例3]
ケイ素化合物を使用する培地での増殖量をコロニー数で計測した結果をしめす。
【0140】
(方法)
使用菌株は下記3株を使用した。各菌株のC源飢餓培養菌体を種菌として使用した。
菌株1:E. coli K12 NBRC3301、
菌株2:B. subtilis (former natto) NBRC13169、
菌株3:Corynebacterium glutamicum NBRC12168。
【0141】
培地:C源欠失培地であるC(-)培地、並びにC源制限培地、ならびに代替化合物添加培地であるC(αC+X)Y培地を使用した。ただし、制限量のC源(αC)としてlactate Na(図中でlacと記載する。2 mg/mL)またはglucose(図中ではglcと記載した。2 mg/mL)を培地に添加した。またそれぞれに酵母エキス(Y)を0.5mg/mL添加したを合わせたもの。なお菌株3:Corynebacterium glutamicum NBRC12168はビオチン要求性なので、培地にビオチン(5−10 mg/L)を添加した。C源代替化合物:R-Si: CaSi (calcium silicate), emSi (diethoxydimethylsilane),またはborax (BB)。
【0142】
緩衝剤としてリン酸緩衝液(KH
2PO
4-K
2HPO
4,pH 6.4)(8 mg/mL)を添加した。
【0143】
培養条件 10mL/TT、33℃、160rpm
試験菌株を実施例1の場合と同様に種培養並びに飢餓培養して使用した。増殖量はOD 660nmまたはコロニー数計数で測定した。CaSiは水に不溶性であり、培地に10 mg/mL 添加した場合に白濁するので、コロニー数計測の結果がより信頼できると思われる。コロニー法は、培養液を10倍段階希釈した希釈液をGY寒天培地に播種し、35℃、2日間保温した後に、コロニー数を計測した。一方並行して試験に用いたBBは水に可溶なので、培養液の増殖はOD値を測定した。
【表5】
【0144】
(結果)
結果は表5に示す。E. coli K12株は制限量のC源だけよりもC源代替化合物としてCaSiまたはBBを添加した場合にそれぞれコロニー数、またはOD値が増加した。Bacillus属やCorynebacterium属の菌株でも同様の傾向が認められた。
【0145】
[実施例4]
Si化合物を利用して生育した細菌と真菌3株の菌体中のSi含量を測定した結果を示す。
【0146】
使用菌株:以下の3株の洗浄菌体を使用した。
【0147】
E. coli K12 NBRC 3301、
B. subtilis Marburg NBRC13719、
S. cerevisiae NBRC0268。
【0148】
培地:C源代替化合物添加培地C(αC+X)Yを使用した。ただし、Y=酵母エキス1 mg/mL添加、
制限量のC源:αC=lactate Na(図中ではlacと記す。1または3 mg/mL)、C源代替化合物として, emSi (diethoxydimethylsilane),およびmmSi(methyltrimethoxylsilane)を使用した。
【0149】
実施例1の場合と同様に使用菌株をGY培地で種培養した。菌体を遠心で集め、リン酸緩衝洗浄液に懸濁して遠心で2回洗浄し、洗浄菌体液を5%(v/v)培地に播種した。ナルゲン社製500mL 容角形フラスコに培地120mLを入れた。温度35℃,130rpm.培養22時間目に培養を終了し、ODとpHを測定した。
【0150】
約100mLの培養液から得られる菌体を遠心で集め、リン酸緩衝洗浄液中遠心で3回洗浄した。沈渣にアセトンを3mL加え、撹拌してから冷所に1昼夜保存、これを再度繰り返した。
【0151】
この2回目のアセトン処理後、自然乾燥と30℃に保温乾燥してアセトンを除き、アセトン処理乾燥菌体を得た。
【0152】
アセトン処理菌体中のSi元素含量をICP/MS(誘導結合プラズマイオン質量分析法)で測定した。ICP/MS測定の定法に従い、菌体を硝酸で加熱分解後、水で15mLに定容した。これを測定試料とし、ICP/MSで測定した。得られた結果からアセトン処理菌体重量(mg)あたりのSi含有量(ng)を算出した。
【表6】
【0153】
結果は表6に示す。本発明の条件でSi化合物存在下で増殖させた細菌B. subtilisにおいて、アセトン処理菌体中のSi含量は120ppm以上(試験番号3,4)であるのに対し、グルコースで増殖した対照菌体(試験番号2)では80ppm以下であった。酵母S. cerevisiaeにおいても同様の傾向であった。
【0154】
[実施例5]
N源欠失培地N(-)に制限量のN源(αNと記す)とN源代替化合物(Xと記す)を添加したN源代替化合物添加培地すなわちN(αN+X)培地における大腸菌(洗浄菌体)の増殖を調べた。
【0155】
(方法)
使用菌株としてE. coli K12 NBRC3301株の洗浄菌体を種菌として使用した。
培地:増殖試験にはN(αN+X)Yk培地を使用した。ただしN源欠失のN(-)培地に以下を加えた。制限量のN源(αN)として酵母エキス(Y)(0.2 mg/mL), N源代替化合物(X)(0.8 mg/mL)、ならびに2ケトグルタル酸(k)(0.1 mg/mL)。
【0156】
培養条件 10 mL/TT、35℃、130rpmで培養し、2日目(d2)及び4日目(d4)のOD値を測定した。ただし、Te(テルル酸ナトリウム)の培養液は4日目に黒色の析出物を生じたのでOD測定不能であった。
【0157】
(結果)
結果は
図3に示す。E. coli K12株の増殖量(OD値)は、制限量のN源の存在下にN源代替化合物としてSiなどを含有する化合物を添加した場合に無添加対照よりも増加した。しかし増加の程度は僅かであった。
【0158】
[実施例6]
実施例5の場合と同様に制限量のN源(αNと記す)とN源代替化合物(Xと記す)存在下の培地における大腸菌(N源飢餓培養菌体)の増殖を調べた。
【0159】
(方法)
使用菌株としてE. coli K12 NBRC3301株を使用した。N源飢餓培養菌体を種菌として使用した。
【0160】
N源飢餓培養にはN源欠失培地であるN(-)培地を使用した。増殖試験用にはN(αN+X)Yk培地を使用した。ただし制限量のN源(αN)として:グルタミン(0.05 mg/mL)、酵母エキス(Y)(0.1 mg/mL),2ケトグルタル酸(k)(0.1 mg/mL)を使用した。
【0161】
培養条件 10mL/TT、35℃、130rpmで培養し、2日目(d2)及び4日目(d4)のOD値を測定した。
【0162】
(結果)
結果を
図4に示す。E. coli K12の増殖(OD値)は制限量のN源の存在下にN源代替化合物としてNb, B, Si,又はSnなどを含有する有機または無機化合物を添加した場合に無添加対照より増加した。N源代替化合物の種類や増殖の増加は実施例5の場合より多い傾向が認められた。
【0163】
[実施例7]
実施例6の場合と同様の方法でE. coli K12 NBRC3301株を培養した。生育量をコロニー計数法で測定した。
【0164】
(方法)
実施例6の場合と同様に培養した。N源代替化合物の一部が水不溶性物資なので、この場合にも信頼できる結果を与えると思われるコロニ数で計測した。コロニー法は、培養液を10倍段階希釈した希釈液をGY寒天培地に播種し、35℃、2日間保温した後にコロニー数を計測した。
(結果)
結果を
図5に示す。大腸菌のコロニー数はネオビウム、ケイ素、またはスズなどを含有する有機または無機化合物をN源代替化合物として添加した場合に無添加対照より増加した。また大腸菌の増殖はケイ素またはスズ化合物をN源代替化合物として添加した場合に用量に依存的に増加した。
【0165】
[実施例8]
実施例6の場合と同様の方法でB. subtilis Marburg NBRC13719株を培養した。N源飢餓培養菌体を種菌として使用した。
【0166】
(結果)
培養2日目(D2)及び6日目(D6)のOD値を
図6に示す。B. subtilis Marburg株の増殖は、Ti, Nb, Si,またはSnなどを含有する有機または無機化合物をN源代替化合物として添加した場合に、無添加対照より増加した。
【0167】
[実施例9]
P源欠失培地であるP(―)培地に制限量のP源(αPと記す)とP源代替化合物(Xと記す)を添加したP源代替化合物添加培地であるP(αP+X)培地における大腸菌の増殖を調べた。
【0168】
(方法)
使用菌株としてE. coli K12 NBRC3301株を使用した。P源飢餓培養菌体を種菌として使用した。
【0169】
培地:P源飢餓培養にP源欠失培地であるP(-)培地、増殖試験にはP(-)培地にαP+Xを添加したP(αP+X)AA培地を使用した。ただし、制限量のP源(αP)としてKH
2PO
4(0.002 mg/mL)、P源代替化合物(X)として図中に示す化合物(0.5 mg/mL)を培地に添加して培養した。さらに20種アミノ酸混合物(AA,2.8 mg/mL)と緩衝剤glutamate Na(8 mg/mL)を増殖試験培地に添加した。
【0170】
培養条件 10 mL/TT、33℃、160rpm
使用菌株の種培養、その後飢餓培養、増殖試験培養などを以下の通り実施した。
【0171】
種菌をGY培地中33℃で1昼夜培養後、遠心で菌体を集めた。菌体をグルタミン酸緩衝洗浄液中、遠心で2回洗浄し、OD660 nmが約5になるように菌体濃度を調整しながらP(-)培地に洗浄菌体を再懸濁した。これを30℃で振盪し(すなわちP源飢餓培養し)、その後およそOD5の懸濁液を種菌液として使用培地に5-7%(v/v)播種し、33℃、140 rpmで振盪培養した。培養2日目(d2)及び3日目(d3)に少量を採取し、水で10倍希釈した液のOD 660 nmを測定して増殖量とした。
【0172】
(結果)
結果は
図7に示す。E. coli K12株のP源飢餓培養菌体を用いた場合、増殖量(OD値)は、制限量のP源の存在下にP源代替化合物としてB, Si, Ge,またはSnなどを含有する化合物を添加した場合に無添加対照よりも増加した。比較のためにGY培地で増殖させたE. coli K12株の洗浄菌体を使用した場合、P源代替化合物の種類や増殖の増加は少ない傾向が認められた。
【0173】
[実施例10]
実施例9の場合と同様に制限量のP源(αPと記す)とP源代替化合物(Xと記す)を添加した培地におけるNocardia asteroidesの増殖を調べた。
【0174】
(方法)
使用菌株としてNocardia asteroidsNBRC15531株を使用した。洗浄菌体を種菌として使用した。
培地:増殖試験にP源代替化合物添加培地であるP(αP + X)AA 培地を使用した。ただし、制限量のP源(αP)としてKH
2PO
4(0.02 mg/mL)、P源代替化合物(X)として図中に示す化合物(0.3 mg/mL)を使用した。20種アミノ酸混合物(AA, 4.5 mg/mL)とグッドの緩衝剤MOPS(10.5 mg/mL)を増殖試験培地に添加した。Tween 20(0.1 mg/mL)をすべての培地、洗浄液に添加した。
【0175】
培養条件 10 mL/TT、35℃、140rpm
使用菌株の種培養、増殖試験培養などを以下の通り実施した。
【0176】
種菌をGY培地中33℃で2日間培養後、遠心で菌体を集めた。菌体をMOPS緩衝洗浄液中、遠心で2回洗浄し、その後OD5の懸濁液を種菌液として使用培地に5-7%(v/v)播種し、33℃、140rpmで振盪培養した。培養4日目(d4)に少量を採取し、水で10倍希釈した液のOD660 nmを測定して増殖量とした。
【0177】
(結果)
結果は
図8に示す。Nocardia asteroides株の増殖量(OD値)は、制限量のP源の存在下にP源代替化合物としてB, Si, Snなどを含有する化合物を添加した場合に無添加対照よりも増加した。
【0178】
[実施例11]
実施例10と同様の方法で実施し、経時的にNocardia asteroidesの増殖を調べた。
【0179】
(結果)
結果を
図9に示す。Nocardia asteroides株の増殖量(OD値)は、制限量のP源の存在下にP源代替化合物としてSi化合物以外に、Ge含有化合物を添加した場合も増加した。
【0180】
[実施例12]
S源欠失培地S(-)に制限量のS源(αSと記す)とS源代替化合物(Xと記す)を添加したS(αS+X)Yfa培地における大腸菌の増殖を調べた。
【0181】
(方法)
菌株としてE. coli K12 NBRC3301株を使用した。洗浄菌体を種菌として使用した。
【0182】
培地:増殖試験にはS(αS+X)Yfa培地、すなわちS源欠失培地S(-)に制限量のS源(αS)とS源代替化合物(X)を添加した培地を使用した。ただし 制限量のS源(αS)としてNa
2SO
4 0.01 mg/mL, S源代替化合物(X)(0.2mg/mL)として図に示す化合物、その他(Y)酵母エキス(0.1),(f)オレイン酸Na(0.1),(a)アミノ酸として含硫アミノ酸のメチオニンとシステインを除く18種アミノ酸の混合物(4.8 mg/mL)、緩衝剤としてグルタミン酸Na(6 mg/mL)を添加した。
【0183】
培養条件 10mL/TT、35℃、130rpm
使用菌株の種培養、増殖試験培養などを以下の通り実施した。
【0184】
種菌をGY培地中33℃で1昼夜培養後、遠心で菌体を集めた。菌体をグルタミン酸Na緩衝洗浄液中、遠心で2回洗浄し、その後OD5付近になるように懸濁液を作成した。これを種菌液として使用培地に5-7%(v/v)播種し、33℃、140rpmで振盪培養した。培養1日目(d1)と3日目(d3)に少量を採取し、水で10倍希釈した液のOD660 nmを測定して増殖量とした。
【0185】
(結果)
結果を
図10に示す。E. coli K12株の増殖は使用したS源代替化合物の存在下に無添加対照とほぼ同じであった。
【0186】
[実施例13]
S代謝の欠損した大腸菌変異株を用い、実施例12の場合と同様にS源欠失培地S(-)に制限量のS源(αS)とS源代替化合物(Xと記す)を添加したS(αS+X)fa培地で培養し増殖を調べた。
【0187】
(方法)
菌株としてE. coli K12 NBRC3993(met-)株を使用した。試験例(表4)に示す通り、この菌株はL-システインとL-メチオニンの両方を(合計0.2 mg/mL以上)添加した培地で旺盛に生育することを確認した。洗浄菌体を種菌として使用した。
【0188】
培地:実施例12の場合に準じて増殖試験にはS(αS+X)fa培地を使用した。すなわちS源欠失培地S(-)に制限量のS源(αS)とS源代替化合物(X)を添加した培地を使用した。ただし 制限量のS源(αS):L-システインとL-メチオニンの両方合計0.01 mg/mL,
図11に示すS源代替化合物(X)(0.2 mg/mL)、その他実施例12の場合と同様に(Y)酵母エキス(0.1),(f)オレイン酸Na(0.1),(a)含硫アミノ酸を除く18種アミノ酸の混合物(4.8 mg/mL)、緩衝剤としてグルタミン酸Na(6 mg/mL)を添加した。
【0189】
培養条件 10mL/TT、35℃、130rpm、実施例12の場合と同様に実施し、毎日ODを測定し、2日目(d2)及び3日目(d3)の結果を示す。
【0190】
(結果)
結果を
図11に示す。
【0191】
E. coli K12由来の含硫アミノ酸要求変異株NBRC 3993 の増殖量(OD値)は、制限量のS源の存在下にS源代替化合物としてV, Mo, W. B, Si, Ge, Sn, As,またはTeをなどで構成される化合物を添加した場合に無添加対照よりも増加した。この結果は親株を使用した実施例12の結果と対照的である。NBRC3993は変異によりS代謝が欠損しており、しかも培地中に供給する含硫アミノ酸量を制限したので、菌体内S含量が低下しており、この状況ではS元素を含有していない多様な化合物を取り込みやすくなったことによると考えられる。
【0192】
[実施例14]
大腸菌の変異株を用いた実施例13(
図11)の試験で使用しなかった別のS源代替化合物を用いて試験した結果を示す。
【0193】
(方法)
使用菌株と増殖試験培地は酵母エキス添加料を0.005 mg/mLとする以外は実施例13と同様に実施した。培養1日目(d1)と2日目(d2)の結果を示す。
【0194】
(結果)
結果を
図12に示す。
【0195】
E. coli変異株NBRC 3993 の増殖量(OD値)は、制限量のS源の存在下にS源代替化合物としてLa, Nd, Erなどの元素を含有する化合物を添加した場合、無添加対照より増加した。実施例13の結果から陽性対照として用いたB, Si含有化合物は予想通り生育を促進した。
【0196】
[実施例15]
E. coli K12 cys met変異株がSiを利用して増殖するときSi用量と増殖の関係を調べた。
【0197】
(方法)
菌株としてE. coli K12 NBRC3301株とE. coli K12 NBRC3993(met-)株を使用した。
【0198】
培地: 実施例13の場合に準じて増殖試験にはS(αS+X)fa培地、すなわちS源欠失培地S(-)に制限量のS源(αS)とS源代替化合物、さらにオレイン酸(fと略記する)とアミノ酸(aと記す)を添加した培地を使用した。E. coli K12 NBRC3301株(親株)の場合、制限量のS源(αS)としてNa
2SO
4(0.01 mg/mL)を添加し、E.coli K12 NBRC3993 変異株の場合、制限量のS源(αS)としてL-システインとL-メチオニンの両方合計0.02 mg/mLを添加した。さらにS源代替化合物としてケイ酸ナトリウムの濃度を変化させて加えた。
【0199】
培養条件 20 mL/三角フラスコ、35℃、130rpm。
【0200】
(結果)
培養2日目の結果を
図13に示す。E. coli K12 NBRC3301株(親株)の増殖量はケイ酸ナトリウムの用量に依存しなかった。一方E. coli K12の変異株NBRC3993(met-)株の増殖はケイ酸ナトリウムの用量に依存した。この結果はE. coli K12の変異株NBRC3993(met-)株が使用した条件下でケイ酸を必須化合物として取り込み、増殖したことを示唆する。また、実施例12、13、及び14の結果と正に対応している。
【0201】
[実施例16]
大腸菌(親株)をS源飢餓培養1代と馴化培養を5代継続した後、この菌株を使用して制限量のS源と無機ケイ素化合物存在下で増殖させた菌体を元素分析しケイ素含量を計測した。
【0202】
(方法)
使用菌株:E. coli K12NBRC3301株を使用した。S源飢餓培養菌体を種菌として使用した。
【0203】
培地:S源飢餓培養にはS源欠失培地S(-)fa培地を、馴化培養にはS代替化合物として二ケイ素酸ナトリウム(dSiと略記する。表2,表3を参照)を用いたS(dSi)fa培地を、また増殖試験にはS源代替化合物添加培地であるS(αS+dSi)fa培地、すなわちS(-)faに制限量のS源(αS)とケイ素化合物を添加した培地を使用した。ただし制限量のS源(αS)(mg/mL):硫酸ナトリウム(ゼロまたは0.02), S源代替化合物として二ケイ酸ナトリウム(dSi, 0.4)、その他オレイン酸Na(0.1),含硫アミノ酸のメチオニンとシステインを除く18種アミノ酸の混合物(4.8 mg/mL)、緩衝剤としてグルタミン酸Na(8 mg/mL)を添加した。
【0204】
(培養方法)
培養と分析は以下の通り実施した。
【0205】
1.S源飢餓培養と馴化培養
E. coli K12 NBRC3301株をGY培地で種培養し、次に菌体をS(-)fa培地に移しS源飢餓培養した。次にS飢餓培養菌体をS源無添加、かつケイ素化合物としてdSiを添加したS(dSi)fa培地に懸濁し、100 mL 容の三角フラスコ中S(dSi)fa培地(20 mL)で、35℃にて馴化培養した。馴化培養で継代を5回繰り返した。最後に菌体を遠心で集め、菌体を冷所に保存した。
【0206】
2.菌体採取用の培養
次に馴化培養し保存した菌体を使用してS(dSi)fa培地で2代種培養した。これをプラスチックス製500mL容角形ラスコ中120mLのS(αS+dSi)fa培地に播種し、35℃で2−4日培養した。
【0207】
培養終了後、菌体を遠心で集め、グルタミン酸ナトリウム緩衝液で洗浄し、約10 mLに濃縮した。濃縮液を60-65℃で30分保温して大腸菌を不活化して、冷所に保存した。
【0208】
3.菌体の元素分析
菌体の元素分析はICP-MS法(誘導結合プラズマイオン質量分析,Inductively combined plasma ion trapping mass spectrometry)によった。菌体試料を硝酸分解し、60 mLにメスアップし、この一部を機器に負荷して元素分析した。測定後、元の培養液中の濃度に換算して示す。
【0209】
(結果)
まず、S(dSi)fa培地における馴化培養において、1代目から5代目までの培養終了時のOD値は以下の通りであった。培養フラスコ2-3本の平均値を示す。培養開始のOD値は0.4 -0.5であった。
【0210】
(培養日数、OD 660 nm) (1) d 13, OD 2.13, (2) d 9, OD 2.00, (3) d 7, OD 1.91, (4) d 3, OD 1.93, (5) d 3, OD 3.22 。
【0211】
次に、制限量のS源と二ケイ酸ナトリウム (dSi) 存在下の培養とケイ素含量の測定結果を 表7に示す。S含量は試験#1と#2の陽性対照において49 - 67 mcg(マイクログラム、以下同様)/mL であった。試験番号#3では培地S源を制限量にした結果、S含量は9.6 mcg/mL に低下した。一方、ケイ素含量は#1と#2は低い値であったが、ケイ素存在下で増殖した#3と#4では50-100倍増加した。リン酸含量の変動は穏やかであった。
【0212】
この結果は、本特許の培養方法を用いた場合、大腸菌K12株の菌体内S含量を低下させ、同時にケイ素含量を増加させることができることを示す。
【表7】
【0213】
[実施例17]
Nocardiaの株の馴化培養の成績を示す。
【0214】
S源欠失培地S(-)に制限量のS源(αS)とS源代替化合物(X)を添加した培地でNocardia属の菌株を生育させ、続いて同じ組成の培地に継代し、馴化培養を続けた。
【0215】
(方法)
使用菌株はN. asteroides NBRC15531株である。種培養後にS(―)fa培地に懸濁してS飢餓培養をした菌体を種菌として使用した。
【0216】
培地、培養条件:種培養培地と増殖培地などに界面活性剤tween20(0.1 mg/mL)を添加した。ほかの条件は、実施例13の場合と同様に実施した。Nocardia属の菌株を振盪培養し、培養終了時にそれぞれ同じ組成の培地に継代培養する馴化培養を3回繰り返した。馴化培養1代目の6日目(T1d6),馴化培養2代目の6日目(T2d6), 及び馴化培養3代目の8日目(T3d8)の結果を示す。ただし、noneとSでは、馴化培養の2代目、3代目の測定を実施しなかった。
【0217】
(結果)
結果は
図14に示す。N. asteroides NBRC15531株はS源代替化合物としてW, Siなどを含む化合物を添加した場合に無添加対照よりもOD値が増加した。OD値は1代目より3代目の方が高い傾向が認められた。 また、この結果は1代目の比較で無添加対照との差がわずかであっても、2代目以降にはより大きな差になる場合があることをしめす。
【0218】
[実施例18]
S源欠失培地S(-)に制限量のS 源(αS)とS源代替化合物(X)を添加した培地で酵母を生育させ、続いて同じ組成の培地で継代培養を繰り返した場合の増殖を調べた。
【0219】
(方法)
使用菌株はP. pastoris NBRC10777である。洗浄菌体を種菌として使用した。本株はビオチン要求性なので、種培養用のGY培地と試験培養培地に添加した。
【0220】
培地:増殖試験にはS(αS+X)bfa培地、すなわちS源欠失培地S(-)faに制限量のS 源(αS)とS源代替化合物(X)を添加した培地を使用した。ただし制限量のS源(αS)(mg/mL):二硫酸カリウム(0.002),図にしめすS源代替化合物(X)(0.2)、その他ビオチン(0.001),オレイン酸Na(0.1),含硫アミノ酸のメチオニンとシステインを除く18種アミノ酸の混合物(4.8 mg/mL)、緩衝剤としてグルタミン酸Na(8 mg/mL)を添加した。
【0221】
培養条件 100 mL/500 mL容角型フラスコ、27℃、130rpm
(結果)
結果を
図15に示す。
【0222】
1代目の培養2日目の菌体を洗浄しこれを種菌として同じ培地に播種し2代目として馴化培養した。これを第4代まで継続した。
図15は、馴化培養2代目の5日目(T2d5)、馴化培養3代目の5日目(T3d5)、及び馴化培養4代目の6日目(T4d6)の結果を示す。P. pastoris NBRC10777株はS源代替化合物としてB, Si, Ge, Teなどを含む化合物を添加した場合に無添加対照よりもOD値が増加した。OD値の増加は2代より4代目の方が高い傾向が認められた。
【0223】
[実施例19]
上記の実施例以外に、本特許の研究過程の各種試験においても、種々の非必須元素が本発明の微生物に取り込まれる事例を観察した。実施例と各種試験の両方の成績を基に、本発明の培養方法により取込まれた非必須元素の例を微生物別に表8にまとめて示した。表8において例えば大腸菌K12株は本発明の各種の条件下で培養した場合、非必須元素の1ないし2以上を構成元素とする種々の化合物を利用して増殖し、その結果、合計13種の元素を取込むことが出来た。また、他の微生物での成績を総合すると、少なくとも合計15種の元素が細菌5種と酵母2種の7株により必須元素として取込まれることが明らかになった。
【表8】
【0224】
菌株名は以下のとおりである。
【0225】
E. coli: Escherichia coli, B. subtilis: Bacillus subtilis, C. glutamicum: Corynebacterium glutamicum, M. smegmatis: Mycobacterium smegmatis, N. asteroides: Nocardia asteroides, (以上細菌), P. pastoris: Pichia pastoris, S. cerevisiae: Saccharomyces cerevisiae (以上酵母)。