(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(a)成分が、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体およびビニル基含有単量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1に記載の一液型水性シーラー用エマルション組成物。
さらに、成膜助剤が、上記(a)成分100質量部に対して50質量部以下の範囲で含有されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の一液型水性シーラー用エマルション組成物。
前記(b)成分を1.5〜30質量部、且つ、前記(c)成分を1.0〜20質量部で使用して乳化重合をする請求項5に記載の一液型水性シーラー用エマルション組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に開示されているプライマー組成物は、二液混合型であるため配合が煩雑であり、また、ポットライフを有するため、使用する際に、性能上問題なく使用することができるかどうかの判断が必要となり、使用者にとって使い勝手が悪いという問題もある。また、特許文献1に記載の水系プライマー組成物の主剤は、溶剤中で重合し得られた重合体の溶液を、中和剤を使用して中和した後、水で相転換することにより水系としたものであるため、主剤中の残留溶剤を留去するために多大な時間とコストがかかり、経済性に劣るといった別の課題もある。また、上記した特許文献2に開示されている水性シーラー組成物は、一液型であるものの、架橋による高分子量化の効果が非常に低く、本発明者らの検討によれば、耐水性、さらには、本発明者らが新たに注目した耐温水付着性の点で明らかに劣り、これらの課題を十分に解決するに至っていない。さらに、上記した特許文献3に開示されているシーラー用水性エマルションは、溶液重合で作製した分散剤を用いているため、エマルション中の残留溶剤を除去することが難しく、安全・衛生面に問題が残り、環境への配慮の点で十分なものではなかった。また、本発明者らの検討によれば、当該技術によって得られるシーラー皮膜は、そのゲル分率が低いために皮膜強度が不足し、基材への付着性が不十分であり、従来の課題を十分に解決するには至っていない。
【0007】
従って、本発明の目的は、各種上塗り塗料に対する密着性は勿論のこと、旧塗膜や、無機基材であるモルタル・コンクリート面や窯業系サイディングボードのいずれに対しても優れた付着性を発現し、且つ、形成した皮膜が耐水性、特に、耐温水付着性にも優れ、また、環境面、衛生面に対しても十分に配慮された低臭気で保存安定性の良好な一液型水性シーラー用エマルション組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は、以下本発明によって達成される。すなわち、本発明は、カチオン性水性シーラー用エマルションであって、架橋性樹脂成分
が、アミノ基非含有エチレン性不飽和単量体である(a)成分100質量部に対して、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体およびその4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる(b)成分を0.1〜40質量部と、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物およびその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる(c)成分を0.1〜30質量部とを含有し、且つ、上記(b)成分と上記(c)成分との使用割合が(b)/(c)=0.5〜5.0であ
る混合液を用いて乳化重合してなり、さらに、形成した架橋性樹脂皮膜のゲル分率が80〜100%となることを特徴とする一液型水性シーラー用エマルション組成物を提供する。
【0009】
本発明の一液型水性シーラー用エマルション組成物の好ましい形態としては、以下のものが挙げられる。前記(a)成分が、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体およびビニル基含有単量体からなる群から選ばれる1種又は2種以上であること;前記(c)成分が
、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン
、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランおよびこれらの部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上であること;さらに、成膜助剤が、上記(a)成分100質量部に対して50質量部以下の範囲で含有されていることが挙げられる。
【0010】
また、本発明は、他の実施形態として、上記いずれかの一液型水性シーラー用エマルション組成物の製造方法であって、少なくとも、界面活性剤を含む水中に、アミノ基非含有エチレン性不飽和単量体である(a)成分100質量部に、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体およびその4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる(b)成分0.1〜40質量部と、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物およびその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる(c)成分0.1〜30質量部を加えて乳化混合液を調製し、該乳化混合液を、水、界面活性剤および重合開始剤の存在下に滴下して乳化重合する工程と、必要に応じて成膜助剤を添加する工程を有することを特徴とする一液型水性シーラー用エマルション組成物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の一液型水性シーラー用エマルション組成物の製造方法の好ましい形態としては、前記(b)成分を1.5〜30質量部、且つ、前記(c)成分を1.0〜20質量部で使用して乳化重合をすること;前記乳化重合する工程を、多層に分けて行うことが挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各種上塗り塗料に対する密着性は勿論のこと、旧塗膜や、無機基材であるモルタル・コンクリート面や窯業系サイディングボードのいずれに対しても優れた付着性を発現し、且つ、形成した皮膜が、耐水性、特に、耐温水付着性にも優れ、また、環境面、衛生面に対しても十分な配慮がされた、低臭気で保存安定性の良好な一液型水性シーラー用エマルションの提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明の一液型水性シーラー用エマルション組成物(以下、単に「シーラー用エマルション組成物」或いは「エマルション組成物」と呼ぶ)は、架橋性樹脂成分として下記の(a)〜(c)成分を特定の範囲で含み、且つ、(b)成分と(c)成分との比率が特定の範囲内となる組成を有し、さらに、形成した架橋性樹脂皮膜のゲル分率が80〜100%となるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のシーラー用エマルション組成物は、(a)成分としてアミノ基非含有エチレン性不飽和単量体を用い、(b)成分としてアミノ基含有エチレン性不飽和単量体およびその4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる化合物を用い、(c)成分として、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物およびその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる化合物を、(a)成分100質量部に対して、(b)成分を0.1〜40質量部と、(c)成分を0.1〜30質量部の範囲となるように用いるが、さらに、上記(b)成分と上記(c)成分との使用割合が(b)/(c)=0.5〜5.0であることを要する。また、必要に応じて成膜助剤が、上記(a)成分100質量部に対して50質量部以下の範囲で含有されていてもよい。以下、各構成について説明する。
【0015】
[(a)成分]
本発明のシーラー用エマルション組成物を構成する(a)成分としてのアミノ基非含有エチレン性不飽和単量体(以下、単量体(a)とも略記する)は、アルキル基の炭素数が1〜18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体およびビニル基含有単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。具体的には、以下のような化合物が挙げられる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体や、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、4−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル系単量体や、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。本発明のシーラー用エマルション組成物を構成する(a)成分としては、上記に挙げたような単量体から選ばれた1種又は2種以上を適宜に使用できる。
【0016】
[(b)成分]
本発明のシーラー用エマルション組成物を構成する(b)成分(以下、単量体(b)とも略記)は、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体およびその4級アンモニウム塩からなる群から選ばれるが、(b)成分の配合量は、上記した単量体(a)100質量部に対して、0.1〜40質量部の範囲である。(b)成分としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド、2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド等が挙げられる。本発明のシーラー用エマルション組成物を構成する(b)成分としては、上記に挙げたような単量体から選ばれた1種又は2種以上を適宜に使用できる。特には、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。
【0017】
上記単量体(b)の使用量は、前記単量体(a)100質量部に対し、0.1〜40質量部であることを要し、より好ましくは1.0〜35質量部、さらに好ましくは、1.5〜30質量部である。単量体(b)の使用量が0.1質量部未満であると、重合したエマルションが不安定なものとなり保存安定性に劣るだけでなく、下地基材(特に無機基材)に対しての付着性が不十分なものとなる。また、使用量が40質量部を超えると、下地基材への付着性は良好であるが、エマルションを構成する樹脂中のアミノ基が過多となり、形成した皮膜の耐水性が低下するといった問題が生じる。
【0018】
[(c)成分]
本発明のシーラー用エマルション組成物を構成する(c)成分(以下、化合物(c)とも略記)は、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物およびその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれるが、その配合量は、先に説明した(a)成分のアミノ基非含有エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、0.1〜30質量部の範囲である。より好ましい範囲は、1.0〜20質量部である。(c)成分の使用量が、0.1質量部未満であると、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体およびその4級アンモニウム塩との架橋反応が乏しく、ゲル分率が上がらないために皮膜強度が不足し、基材への付着性が不十分となり、また架橋密度が低いために形成した皮膜の耐水性が著しく低下する。一方、30質量部を超えると、過度な架橋構造となるため、エマルションの製造安定性が低下しゲル化を起こし易くなる。
【0019】
(c)成分としては、以下の化合物等が挙げられる。例えば
、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン
、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランの群から選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。上記した各化合物は、その部分加水分解縮合物であっても問題なく使用することができる。
【0020】
[(b)成分/(c)成分の比]
本発明のシーラー用エマルション組成物を構成する上記した単量体(b)と化合物(c)の使用割合は、0.5〜5.0であることを要する。(b)成分/(c)成分の比のより好ましい範囲は、1.5〜4.5である。使用割合が0.5未満であると、エマルションを構成する架橋性樹脂成分中のアミノ基の割合が減少するためエマルションの不安定要素が増し、乳化重合する際にゲル化を起こし易い。一方、アミノ基(アミン量)が少ない場合には、エマルションを用いて形成した皮膜の下地基材への付着性が不十分となる。一方、使用割合が5.0を超えると、モルタル・コンクリート面や窯業系サイディングボードなどの下地基材への付着性は良好であるが、アミノ基が過多となるおそれがあり、その場合には、形成した皮膜の耐水性が低下するといった問題が生じる。
【0021】
[成膜助剤]
本発明のシーラー用エマルション組成物は、上記以外の構成成分として、必要に応じて成膜助剤を、上記(a)成分100質量部に対して50質量部以下の範囲、より好ましくは40質量部以下で用いることができる。必要に応じて成膜助剤を用いることで、成膜性アップ、密着性アップ、塗料性質の改良などを図ることができる。本発明で使用することができる成膜助剤は、従来より水系塗材に用いられている、例えば、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート、グリコールエーテル系溶剤、ミネラルスピリット(石油系溶剤)、アルコール系溶剤などをいずれも使用することができる。
【0022】
本発明のシーラー用エマルション組成物は、上記に例示したような(a)〜(c)成分を特定の範囲で含み、かつ、(b)成分と(c)成分との比率が特定の範囲内となる組成を有するものであることを要するが、これに加えて、形成した架橋性樹脂皮膜のゲル分率(架橋度)が80〜100%、より好ましくは85〜100%となるように構成されていることを特徴とする。なお、ゲル分率の測定方法については、後述する。
【0023】
前記した(a)成分に対して特定の量で(b)成分と(c)成分を用い、さらに、(b)成分/(c)成分の比を特定の範囲とした成分から合成されてなる架橋性樹脂は、その形成した皮膜のゲル分率(架橋度)が上記したような高いものとなるが、特に、エマルション組成物の配合を設計する場合に、架橋性樹脂皮膜のゲル分率が本発明で規定する範囲内となるようにすることが重要である。本発明者らの検討によれば、このゲル分率(架橋度)が80%未満と低いと、旧塗膜や基板への付着性に劣り、特に耐温水付着性に劣るものとなり、シーラーとしての高い機能が実現できないことになる。本発明のシーラー用エマルション組成物の構成を、その架橋性樹脂皮膜のゲル分率(架橋度)が本発明で規定する範囲内に安定してなるようにするためには、(b)成分と(c)成分との比率が特定の範囲内となる組成であることに加え、例えば、エマルション組成物を合成する際に、重合反応を最適な反応時間と反応温度で行い、さらに、重合を分割して多層に分けて行うといった方法も有効である。
【0024】
[中和剤]
本発明のシーラー用エマルション組成物は、後述する本発明の製造方法で上記した(a)成分と(b)成分と(c)成分とを少なくとも用いて乳化重合して得られるが、その際に、(b)成分として、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体の4級アンモニウム塩以外の化合物を用いる場合には、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体を中和して反応系を酸性サイドにするとよい。このようにすれば、重合反応を良好な状態で円滑に行うことができる。
【0025】
上記した乳化重合において使用する中和剤としては、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸、プロピオン酸、テレフタル酸およびクエン酸等から選ばれる有機酸や、例えば、硫酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸およびホウ酸等から選ばれる無機酸が挙げられ、これらから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。しかし、本発明は、上記に挙げた例示化合物に限定されず、反応系を酸性サイドにすることができるものであれば適宜に使用することができる。
【0026】
乳化重合において、これらの中和剤を使用する場合における使用量は、上記したアミノ基含有エチレン性不飽和単量体を中和して反応系を酸性サイドにすることができればよいが、例えば、(b)成分の100質量部に対し、40〜100質量部の範囲とすればよい。乳化重合において使用する中和剤のより好ましい使用量は、(b)成分100質量部に対し、50〜80質量部の範囲である。中和剤の使用量が上記した範囲よりも少なすぎると、中和対象の(b)成分であるアミノ基含有エチレン性不飽和単量体の中和が完全に行えず、乳化重合の反応系が酸性サイドとならないため、エマルションの凝集・重合粕が多量に生成し不具合が生じるおそれがある。一方、中和剤の使用量が上記した範囲を超えると多すぎて、酸臭気により低臭気のシーラー用エマルションが得られず、また皮膜にした場合、中和剤が皮膜に残留すると、このことに起因して皮膜の耐水性の低下を招く原因となるので好ましくない。
【0027】
[合成方法]
本発明のシーラー用エマルション組成物の製造方法は、特に限定されず、従来の乳化重合方法を利用することで合成できる。ただし、本発明では、本発明のシーラー用エマルション組成物で形成した架橋性樹脂皮膜のゲル分率(架橋度)が80〜100%となるように構成する必要があるため、その合成温度や、反応に要する時間や、重合開始剤の添加方法などの条件を工夫して、安定して所望するゲル分率の皮膜を形成できる形態のエマルション組成物を合成することが好ましい。
【0028】
本発明のシーラー用エマルション組成物は、例えば、少なくとも、界面活性剤を含む水中に、アミノ基非含有エチレン性不飽和単量体である(a)成分100質量部に、アミノ基含有エチレン性不飽和単量体およびその4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる(b)成分を0.1〜40質量部と、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物およびその部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる(c)成分を0.1〜30質量部加えて乳化混合液を調製し、該乳化混合液を、水、界面活性剤および重合開始剤の存在下に滴下して乳化重合する工程を有する製造方法によって容易に得ることができる。先に述べたように、(b)成分としてアミノ基含有エチレン性不飽和単量体の4級アンモニウム塩以外のものを使用する場合は、中和剤で(b)成分を中和して反応系を酸性サイドにして乳化重合することが好ましい。また、(b)成分を1.5〜30質量部、且つ、(c)成分を1.0〜20質量部で使用して乳化重合をするように構成すれば、得られたエマルション組成物で形成した架橋性樹脂皮膜のゲル分率を、より安定に本発明で規定する80〜100%にする高いものにすることができる。さらに、その際の反応条件は、反応温度が60〜85℃程度、反応時間4〜8時間程度であることが好ましく、このようにすれば、より安定に所望する皮膜のゲル分率を達成し得るエマルション組成物が得られる。また、乳化重合する工程を、多層に分けて行うことで、より安定して得られるエマルション組成物を、所望の特性のものにすることができる。また、必要に応じて成膜助剤を用いる場合は、成膜助剤を添加する工程を設ければよい。
【0029】
上記した乳化重合において使用する界面活性剤としては、ノニオン性、カチオン性および両性界面活性剤などの通常使用される公知の非反応性乳化剤および/または反応性乳化剤を使用することができ、これらの1種類または2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型またはアルキルエーテル型のものなどが挙げられる。カチオン性界面活性剤の例としては、脂肪族アミン塩およびその4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、複素環4級アンモニウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤の例としては、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体などが挙げられる。これらの乳化剤は、1種類または2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤や、アルキルフェニルエーテル型のノニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0031】
本発明においては、乳化重合の際に、得られるエマルション中の共重合体の分子量を調整する目的で、t−オクチルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物やアルコールなどの連鎖移動剤を使用することもできる。
【0032】
本発明のシーラー用エマルション組成物を合成する際に使用する重合開始剤としては、アクリル樹脂の乳化重合で使用される従来公知の重合開始剤を適宜に使用することができる。例えば、水溶性の重合開始剤として、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過酸化水素などを1種類または2種類以上を組み合わせて使用することができるが、本発明では、特に、10時間半減期温度が60℃前後であるアゾ重合開始剤を使用することが好ましい。例えば、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリディノ−2−メチルプロパン)ジハイドロクロライドのような水溶性アゾ重合開始剤、また2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)のような油溶性アゾ重合開始剤、ポリジメチルシロキサンユニット含有高分子重合開始剤、ポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合開始剤のような高分子アゾ重合開始剤、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)のようなノンシアンアゾ系重合開始剤等が挙げられる。水溶性の重合開始剤と油溶性の重合開始剤とを組み合わせて使用することもできる。これらの重合開始剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸、チオ尿素系などの還元剤との組み合わせからなるレドックス系開始剤なども使用することができる。
【0033】
本発明のシーラー用エマルション組成物を合成する際に行う乳化重合は、前記した(a)〜(c)成分である、単量体(a)、単量体(b)および化合物(c)を本発明で規定する特定の組成で含む乳化混合液を、水性液中で、前記したラジカル重合開始剤および界面活性剤(乳化剤)の存在下、撹拌下に加熱することによって実施できる。反応温度は、例えば、30〜100℃程度、使用する重合開始剤等にもよるが、好ましくは60〜80℃、反応時間は、例えば、2〜10時間程度、より好ましくは、4〜8時間で反応させて十分に高いゲル分率(架橋度)を実現できるようにするとよい。水と界面活性剤(乳化剤)とを仕込んだ反応容器に、上記した乳化混合液を暫時滴下することによって反応を調節しつつ行うことが好ましい。
【0034】
乳化重合の方法としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法も採ることができる。
【0035】
上記のようにして合成した本発明のエマルション組成物は、架橋型水性エマルションであり、かつ、ゲル分率(架橋度)が高く、耐水性・皮膜強度に優れているため、特に、従来にない耐温水付着性に優れたものとなる。本発明のエマルションによって形成される皮膜の、後述する実施例に記載の方法で測定したゲル分率(%)は80〜100%、より好ましくは85〜100%であるが、上記ゲル分率が80%未満では、皮膜強度が低下することにより付着性が低下したり、耐水性が低下することにより耐温水付着性が不十分となる。上記ゲル分率は、先に述べたように、各単量体の使用比率や架橋反応性単量体の使用量の変更、さらには乳化重合の条件を適宜に調節することで容易に達成できる。
【0036】
以上のようにして得られる本発明の一液型水性シーラー用エマルション組成物は、一液型であるため2液型のようにポットライフに心配はなく、また、水性で低VOCタイプであるため、衛生面および環境面にも優れ、各種上塗り塗料に対する密着性のみならず、旧塗膜や、無機基材であるモルタル・コンクリート面や窯業系サイディングボードに対しても優れた付着性を発現し、且つ耐水性にも優れたものとなる。
【実施例】
【0037】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、文中「部」および「%」とあるのは質量基準である。
【0038】
[実施例1]
イオン交換水65.2部に、カチオン性界面活性剤であるセチルトリメチルアンモニウムクロライド(商品名:コータミン60W、花王社製)を10.0部と、ノニオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(商品名:ニューコール723、日本乳化剤社製)を1.0部加え、これに、架橋性樹脂成分のうちの(a)成分として、n−ブチルアクリレート34.0部と、メチルメタクリレート10.0部と、スチレン56.0部とを加え、さらに、(b)成分として、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(商品名:同名、興人社製)20.0部、(c)成分として、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:信越シリコーンKBE−403、信越化学工業(株)製)10.0部を秤量して撹拌し、乳化混合液を調製した。
【0039】
次いで、撹拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置および窒素ガス導入管を装備した反応装置に、イオン交換水145.8部およびポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(商品名:ニューコール723、日本乳化剤社製)1.0部、氷酢酸(商品名:99%純良酢酸、日本合成化学工業社製)12.0部を仕込んだ。そして、上記装置内の空気を窒素ガスに置換した後、仕込んだ溶液を撹拌しながら、上記装置の内温が75℃になるように加温した。そして加温した溶液中に、重合開始剤として、10%水溶液の2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(商品名:V−50、和光純薬工業社製)を3.0部添加した後、直ちに、先に調製した乳化混合液と2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドの5%水溶液7部とを3時間かけて滴下した。滴下終了後、上記装置の内温を75℃に保ちながら、さらに3時間反応を行なった後、内温を室温まで冷却した。次いで、成膜助剤としてテキサノール(C
12H
24O
3:イーストマン・ケミカル社製)20.0部を添加し、固形分濃度33%に調整して、実施例1のエマルション組成物を得た。分析の結果、得られたエマルション組成物の粘度は150mPa・s/25℃であり、固形分は32.5%、pHは4.6、平均粒子径は125nmであった。下記の方法で測定したところ、得られたエマルション組成物のゲル分率は94%であった。
【0040】
(ゲル分率の測定)
上記で得たエマルション組成物を、130℃で30分間乾燥させ、樹脂皮膜を形成させた後、該樹脂皮膜を剥がし、これを測定試料とした。そして、この試料を0.5g秤量し、23℃のテトラヒドロフラン100ml中に浸漬し、23℃に3日間放置した。その後、上記のテトラヒドロフラン溶液をろ紙にて濾過し、ろ紙上に残った不溶解分を130℃で1時間乾燥させ、23℃に戻してからその重量を測定した。そして、下記の式にてゲル分率(%)を求めた。なお、他の実施例および比較例のエマルション組成物についても、同様の方法でゲル分率を求めた。
ゲル分率(%)=不溶解分/浸漬前の重量×100
【0041】
[実施例2〜6]
実施例1における構成成分および配合量を、表1−1、1−2に記載のものに変える以外は、実施例1と全く同様の重合条件により、実施例2〜6のエマルション組成物を作製した。但し、多層重合の場合は、単量体比率に応じて、実施例1で使用した界面活性剤量および重合開始剤量を各々の段階に分割して用いた。
【0042】
[比較例1〜4]
実施例1における構成成分および配合量を、表2に記載のものに変えた以外は、実施例1と同様の重合条件により、比較例1〜4の一液型水性シーラー用エマルションを得た。なお、多層重合の場合は、実施例の場合と同様、界面活性剤量および重合開始剤量を各々分割して用いた。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
[評価]
実施例および比較例の各エマルション組成物について、付着性試験、耐温水付着性試験およびゲル分率試験を、下記の試験方法で行った。そして、下記の評価基準で評価を行い、結果を表3にまとめて示した。なお、比較例4は、エマルション重合中にゲル化を起こしたため、ゲル分率および以降の試験を行うことができなかった。
【0047】
<付着性試験:クロスカット法>
〔試験板の作製〕
実施例および比較例の各エマルション組成物を、固形分濃度が11%になるように調整して塗工液を作製した。そして、得られた各塗工液を用い、以下のようにして、各種の無機基材または各種の塗膜にそれぞれに塗装して試験試料をそれぞれ作製した。作製した試験試料を用い、クロスカット法により、各種の無機基材または各種の塗膜に形成された塗膜の付着性を評価した。
【0048】
(無機基材に形成した塗膜の付着性の評価試料の作製)
下記のようにして、各種無機基材に対するシーラー塗膜の付着性を評価するための試験試料を作製した。上記で調製した実施例および比較例のシーラー組成物を含んでなる各塗工液を用い、押出成形セメント板(ECP)、スレート板および珪酸カルシウム板のそれぞれの表面に、0.12kg/m
2となるように塗装した後、23℃×50%の雰囲気下で2時間乾燥してシーラー塗膜を形成し、これを試験試料とした。
【0049】
(旧塗膜上に形成した塗膜の付着性評価試料の作製)
下記のようにして、旧塗膜に対する本発明の実施例及び比較例のシーラー組成物からなる塗膜の付着性を評価するための試験試料を作製した。まず、スレート板に二液溶剤型シーラー(商品名:浸透性シーラー、日本ペイント社製)を0.12kg/m
2となるように塗装し、23℃×50%の雰囲気下で2時間乾燥を行って下地処理した。次に、以下の(1)〜(3)の各塗料を、以下の各塗工量でそれぞれに塗工し、23℃×50%の雰囲気下で7日間乾燥を行うことで、スレート板上に旧塗膜をそれぞれ形成した。
【0050】
(1)一液水性フッ素樹脂塗料(商品名:DANフレッシュF100III、日本ペイント社製)を、塗工量が0.15kg/m
2となるように塗装した。
(2)二液弱溶剤アクリルシリコン塗料(商品名:ファインシリコンフレッシュ、日本ペイント社製)を、塗工量が0.13kg/m
2となるように塗装した。
(3)二液弱溶剤ウレタン塗料(商品名:ファインウレタンU100、日本ペイント社製)を、塗工量が0.13kg/m
2となるように塗装した。
【0051】
次に、上記のようにして各種の塗料からなる旧塗膜が形成された各スレート板を用い、旧塗膜の上に、実施例および比較例のシーラー組成物を含んでなる各塗工液(固形分濃度11%)をそれぞれ0.12kg/m
2となるように塗装し、23℃×50%の雰囲気下で24時間乾燥してシーラー塗膜を形成し、これを試験試料とした。
【0052】
〔クロスカット法による付着性の評価〕
上記で作製した各試験試料を用い、基材或いは旧塗膜に対するシーラー塗膜の付着性の評価を、JIS K5600−5−6(クロスカット法)に準拠して行い、目視にて、下記の分類0〜5の6段階の基準を用いて評価した。結果を表3にまとめて示した。本発明では、分類0、1を合格として、分類2〜5を不合格とした。
【0053】
(評価基準)
分類0:どの格子の目にも剥れが無い
分類1:カットの交差点の塗膜の小さな剥れ、クロスカット部分の剥れは、5%以下
分類2:塗膜がカットの縁に沿って、および/又は交差点で剥れ、クロスカット部分の剥れは、5%超15%以下である
分類3:塗膜がカットの縁に沿って、全面的に大剥れを生じ、クロスカット部分の剥れは、15%超35%以下である
分類4:塗膜がカットの縁に沿って、全面的に大剥れを生じ、クロスカット部分の剥れは、35%を上回る
分類5:分類4以上の剥れの場合
【0054】
<耐温水付着性試験>
前記した付着性試験で用いたのと同様にして作製した各試験試料を用いて、下記のようにして耐温水付着性の評価を行った。各試験試料を、40℃の温水に3日間浸漬し、取り出し後、さらに23℃×50%の雰囲気下で3日間乾燥したものを耐温水付着性試験用の各試験試料とした。そして、得られた耐温水付着性試験用の試料を用いた以外は、前記付着性試験と同様にして耐温水付着性の評価を行った。なお、本発明では、耐温水付着性も、分類0、分類1を合格として、分類2〜5を不合格とした。結果を表3にまとめて示した。
【0055】