特許第6202397号(P6202397)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ トーヨーカラー株式会社の特許一覧

特許6202397二次電池電極形成用組成物、二次電池用電極および二次電池
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202397
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】二次電池電極形成用組成物、二次電池用電極および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20170914BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20170914BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170914BHJP
   C08L 29/00 20060101ALI20170914BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20170914BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20170914BHJP
   C08F 216/06 20060101ALI20170914BHJP
   C08F 216/38 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   C08K3/04
   C08L29/00
   C08K5/3492
   C08F8/30
   C08F216/06
   C08F216/38
【請求項の数】11
【全頁数】47
(21)【出願番号】特願2014-87572(P2014-87572)
(22)【出願日】2014年4月21日
(65)【公開番号】特開2014-225446(P2014-225446A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2013-89606(P2013-89606)
(32)【優先日】2013年4月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】早川 純平
(72)【発明者】
【氏名】重森 一範
(72)【発明者】
【氏名】石川 万浩
(72)【発明者】
【氏名】森田 雄
【審査官】 小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−184664(JP,A)
【文献】 特開2000−128953(JP,A)
【文献】 特開2011−195696(JP,A)
【文献】 特開平7−10923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C08F 8/30
C08F 216/06
C08F 216/38
C08K 3/04
C08K 5/3492
C08L 29/00
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)により示される樹脂と、導電助剤である炭素材料(C)と、を含んでなる二次電池電極形成用組成物。
一般式(1)
【化1】


[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、または置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または一般式(2)で示される基であり、R2は、炭素数1〜3のアルキル基であり、Meはメチル基であり、
l=0.0〜99.8mol%
m=0.1〜99.9mol%
n=0.1〜30.5mol%
o=0.0〜75.5mol%
l+m+n+o=100mol%である。]

一般式(2)
【化2】
[R3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表し、
αは、1〜3の整数を表す。]
【請求項2】
前記樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂(a)、または、ポリビニルアセタール樹脂(b)と、一般式(3)、または、一般式(4)により示される化合物と、を反応させてなることを特徴とする請求項1記載の二次電池電極形成用組成物。
一般式(3)
【化3】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]

一般式(4)
【化4】
[R3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表す。
αは1〜3の整数を表す。]
【請求項3】
前記樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂(a)、または、ポリビニルアセタール樹脂(b)と、一般式(3)により示される化合物と、を反応させてなることを特徴とする請求項1または2記載の二次電池電極形成用組成物。
一般式(3)
【化5】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【請求項4】
前記樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂(a)、と、一般式(3)により示される化合物と、を反応させてなることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の二次電池電極形成用組成物。
一般式(3)
【化6】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【請求項5】
更に、酸性又は塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および/または、酸性又は塩基性官能基を有するトリアジン誘導体、である誘導体(D)を含んでなる請求項1〜4いずれか記載の二次電池電極形成用組成物。
【請求項6】
更に、溶剤(E)を含んでなる請求項1〜5いずれか記載の二次電池電極形成用組成物。
【請求項7】
更に、バインダー(F)を含んでなる請求項1〜6いずれか記載の二次電池電極形成用組成物。
【請求項8】
更に、活物質(G)を含んでなる請求項1〜7いずれか記載の二次電池電極形成用組成物。
【請求項9】
活物質(G)の平均粒径/炭素材料(C)の分散粒径(D50)の比が、2以上、100以下である請求項8記載の二次電池電極形成用組成物。
【請求項10】
集電体上に合材層を有する電極であって、合材層が請求項1〜9いずれか記載の二次電池電極形成用組成物によって形成されてなる二次電池用電極。
【請求項11】
集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、電解質とを具備する二次電池であって、前記正極もしくは負極の少なくとも一方が、請求項10記載の二次電池用電極である二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池を構成する電極を作製するための二次電池電極形成用組成物およびそれを用いて得られる二次電池用電極と二次電池に関する。特に、リチウム二次電池を製造するための二次電池電極形成用組成物、二次電池用電極、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラや携帯電話のような小型携帯型電子機器では、重量を軽くし、容積を最小限にすることが常に求められてきており、搭載される電池においても、軽量、小型でありながら放電容量の大きい電池が求められている。また、自動車搭載用などの大型二次電池においても、従来の鉛蓄電池に代えて、大型の非水電解質二次電池が求められている。
【0003】
これらの需要に応えるため、リチウム二次電池の開発が活発に行われている。リチウム二次電池の電極としては、正極と負極が使用される。正極は、リチウムイオンを含む正極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を、金属箔の集電体の表面に固着させたものである。一方、負極は、リチウムイオンの脱挿入可能な負極活物質と導電助剤と有機バインダーなどからなる電極合材を金属箔の集電体の表面に固着させたものである。
【0004】
一般的に、正極活物質としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられているが、これらは電子伝導性が低く、単独での使用では十分な電池性能が得られない。そこで、導電性に優れる材料を導電助剤として添加することで導電性を改善し、電極の内部抵抗を低減することが試みられている。一般に、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)やグラファイト(黒鉛)等の炭素材料が検討されている。
【0005】
一方、負極活物質としては、通常黒鉛が用いられている。黒鉛はそれ自身が導電性を有しているものの、黒鉛とともに導電助剤としてアセチレンブラック等のカーボンブラックを添加すると充放電特性が改善されることが知られている。これは、一般に用いられる黒鉛粒子は大きいために、黒鉛単独で使用すると電極層に充填された時の隙間が多くなってしまうが、導電助剤としてカーボンブラックを併用した場合は、微細なカーボンブラック粒子が黒鉛粒子間の隙間を埋めることで接触面積が増え、電気伝導性が高まるためと考えられる。しかしながら、この場合も導電助剤の分散が不十分であると、導電効果が低減する。
【0006】
この様に、大電流での放電や、充放電の効率を向上させる上で、電極の内部抵抗を低減することは、非常に重要な要素技術の一つとなっている。
しかしながら、導電性に優れた炭素材料(導電助剤)は凝集力が強く、リチウム二次電池の電極合材形成用スラリー中に均一に混合・分散することが困難であり、導電助剤である炭素材料の分散性や粒度の制御が不十分な場合、均一な導電ネットワークが形成さないために電極の内部抵抗の低減が図れず、その結果、活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物やグラファイトなどの性能を十分に引き出せず電池性能が低下するという問題が生じる。また、電極合材中の導電助剤の分散が不十分であると、部分的な凝集に起因して電極板上に抵抗分布が生じ、電池として使用した際に電流が集中し、部分的な発熱および劣化が促進される等の不具合が生ずることがある。
【0007】
また、電極合材形成用スラリーは、時間経過により分散性が低下し粒度が増大しやすい。粒度の増大は、塗工性の低下につながり、電池の生産性が低下するなどの問題が生じる。そのため、炭素材料の分散性や粒度を維持する必要がある。
【0008】
また、電極合材形成用スラリー中に使用されるバインダーの電解液に対する耐膨潤性が劣る場合、充放電を繰り返した際に有機材料が電解液中で膨潤する。この場合、活物質と炭素材料との間や、活物質および炭素材料と金属集電体との接触抵抗が増大したり、活物質及び導電材の一部が金属集電体から剥離し、電池特性の劣化をもたらすことが知られている。このことはバインダーに限らず、電極合材形成用スラリーに用いられる分散剤においても同様であり、分散剤は耐膨潤性に優れている必要がある。
【0009】
前述の様な問題や不具合に対して、リチウム二次電池においては、導電助剤である炭素材料の分散が重要な技術の一つと考えられ、いくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1には、導電助剤である炭素材料を分散する際に、分散剤として酸性官能基を有する有機色素誘導体や酸性官能基を有するトリアジン誘導体を用いる例が記載されている。また、特許文献2には、分散剤としてポリビニルアセタール樹脂を用いる例が記載されている。これらの方法によれば、分散安定性に優れた炭素材料の分散体および合材スラリーを調製することができ、炭素材料の分散効果等に起因すると思われる電池性能の向上が図られているものの、電池性能の更なる向上や、電池を安定して生産するために、分散体の更なる経時安定性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2008/108360号
【特許文献2】特開2011−184664号公報
【特許文献3】特許2011−113923号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、導電助剤を含む二次電池電極形成用組成物において、導電助剤の分散安定性および、合材スラリーの分散安定性に優れた二次電池電極形成用組成物を提供することにある。また、これを用いることによって、放電容量に優れた電極と二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、導電助剤としての炭素材料を分散させる際に、樹脂、すなわち、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)または変性ポリビニルブチラール樹脂(B)の少なくとも一つを分散剤として使用することにより、分散安定性に優れ、電極密着性に優れ、二次電池の性能向上に効果を発揮する二次電池電極形成用組成物(分散体および合材スラリー)を得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明の実施態様は、一般式(1)により示される樹脂と、導電助剤である炭素材料(C)と、を含んでなる二次電池電極形成用組成物に関する。
【0014】
一般式(1)
【化1】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、または置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または一般式(2)で示される基であり、R2は、炭素数1〜3のアルキル基であり、Meはメチル基であり、
l=0.0〜99.8mol%
m=0.1〜99.9mol%
n=0.1〜30.5mol%
o=0.0〜75.5mol%
l+m+n+o=100mol%である。]
【0015】
一般式(2)
【化2】
[R3は、各々置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表し、
αは、1〜3の整数を表す。]
【0016】
また、本発明の実施態様は、前記樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂(a)、または、ポリビニルアセタール樹脂(b)と、一般式(3)、または、一般式(4)により示される化合物と、を反応させてなることを特徴とする上記二次電池電極形成用組成物に関する。
【0017】
一般式(3)
【化3】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【0018】
一般式(4)
【化4】
[R3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または、置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表す。
αは1〜3の整数を表す。]
【0019】
また、本発明の実施態様は、前記樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂(a)、または、ポリビニルアセタール樹脂(b)と、一般式(3)により示される化合物と、を反応させてなることを特徴とする前記二次電池電極形成用組成物に関する。
【0020】
一般式(5)
【化5】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【0021】
また、本発明の実施態様は、前記樹脂が、ポリビニルアルコール樹脂(a)と、一般式(3)により示される化合物と、を反応させてなることを特徴とする前記二次電池電極形成用組成物に関する。
【0022】
一般式(3)
【化6】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【0023】
また、本発明の実施態様は、更に、酸性又は塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および/または、酸性又は塩基性官能基を有するトリアジン誘導体、である誘導体(D)を含んでなる前記二次電池電極形成用組成物に関する。
【0024】
また、本発明の実施態様は、更に、溶剤(E)を含んでなる前記二次電池電極形成用組成物に関する。
また、本発明の実施態様は、更に、バインダー(F)を含んでなる前記二次電池電極形成用組成物に関する。
また、本発明の実施態様は、更に、活物質(G)を含んでなる前記二次電池電極形成用組成物に関する。
また、本発明の実施態様は、活物質(G)の平均粒径/炭素材料(C)の分散粒径(D50)の比が、2以上、100以下である前記二次電池電極形成用組成物に関する。
【0025】
また、本発明の実施態様は、集電体上に合材層を有する電極であって、合材層が前記二次電池電極形成用組成物によって形成されてなる二次電池用電極に関する。
【0026】
また、本発明の実施態様は、集電体上に正極合材層を有する正極と、集電体上に負極合材層を有する負極と、電解質とを具備する二次電池であって、前記正極もしくは負極の少なくとも一方が、前記二次電池用電極である二次電池に関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明の好ましい実施態様によれば、活物質や導電助剤の分散性に優れる電極形成用組成物を提供することができる。また、本発明の電極形成用組成物を用いた電極と二次電池は、充放電サイクル特性を向上させることができる。これは、分散剤の使用により分散安定性に優れる炭素材料粒子の分散体および合材スラリーが調製できたためというだけでなく、樹脂、すなわち、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、および、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくとも一つを使用することにより、電極作製時に活物質(E)と炭素材料(C)の均一で強固な相互作用を引き起こすためと考えられる。したがって、本発明の二次電池電極形成用組成物は、リチウム二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドニウム二次電池、アルカリマンガン電池、鉛電池、燃料電池、キャパシタなどに用いることができるが、特にリチウム二次電池に用いると好適である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<樹脂>
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において使用する樹脂は、下記一般式(1)で示される。
【0029】
一般式(1)
【化7】

一般式(1)におけるR1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、または置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、または一般式(2)で示される基であり、R2は、炭素数1〜3のアルキル基であり、Meはメチル基であり、
l=0.0〜99.8mol%
m=0.1〜99.9mol%
n=0.1〜30.5mol%
o=0.0〜75.5mol%
l+m+n+o=100mol%である。
【0030】
一般式(1)における、lの好ましい範囲としてはl=2.1〜94.9mol%であり、より好ましい範囲としてはl=4.1〜89.9mol%であり、さらに好ましい範囲としては、l=34.8〜89.9mol%であり、特に好ましい範囲としては、l=48.7〜89.9mol%である。
【0031】
一般式(1)における、mの好ましい範囲としてはm=1.0〜89.9mol%であり、より好ましい範囲としてはm=2.1〜50.0mol%であり、さらに好ましい範囲としては、m=7.0〜50.0mol%であり、特に好ましい範囲としては、m=7.0〜30.0mol%である。
【0032】
一般式(1)における、oの好ましい範囲としてはn=0.0mol%である。
【0033】
樹脂は、一般式(1)に示す4つの構成単位を、各々限定された範囲で含んでいれさえいればよく、構成単位の並びはランダムでもよい。
【0034】
ここで、一般式(1)のR1における置換基を有していてもよいアルキル基としては、例えば、直鎖アルキル基(メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、n−デシル、n−ドデシル、n−テトラデシル、n−ヘキサデシル及びn−オクタデシル等)、分岐アルキル基(イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、イソヘキシル、2−エチルヘキシル及び1,1,3,3−テトラメチルブチル等)、環状アルキル基(シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル及びシクロヘキシル等)及び架橋環式アルキル基(ノルボルニル、アダマンチル及びピナニル等)が挙げられ、好ましくは、炭素数1〜18のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜18の直鎖アルキル基であり、さらに好ましくはオクタデシル基である。
【0035】
一般式(1)のR1における置換基を有していてもよいアルケニル基としては、例えば、直鎖又は分岐のアルケニル基(ビニル、アリル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチル−1−プロペニル、1−メチル−2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチル−2−プロぺニル、2−メタクリロイルオキシエチル、2−アクリロイルオキシエチル、および2−アクリロイルオキシプロピル基等)、およびシクロアルケニル基(2−シクロヘキセニル及び3−シクロヘキセニル等)が挙げられ、好ましくは2−メタクリロイルオキシエチル基、2−アクリロイルオキシエチル基であり、より好ましくは2−メタクリロイルオキシエチル基である。
【0036】
一般式(1)のR1における置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、単環式アリール基(フェニル、ベンジル、トリル、o-キシリル、トシル基など)があげられ、好ましくはフェニル基、トシル基であり、より好ましくはフェニル基である。
【0037】
一般式(1)のR1における置換基を有していてもよいヘテロアリール基としては、エポキシ基(グリシル基等)、フリル基(テトラヒドロフルフリル基、フルフリル基等)、チエニル基、ピラニル基、ピリジル基等が挙げられ、好ましくはチエニル基、フルフリル基、テトラヒドロフルフリル基である。
【0038】
一般式(1)のR1としては、置換基を有していてもよいアルキル基、および置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、無置換のアルキル基、および無置換のアリール基が更に好ましい。特に好ましい基としては、無置換のアルキル基が挙げられる。
【0039】
一般式(1)のR1は単一の置換基のみならず、異なる複数の置換基を含んでも良く、その場合に置換できる基としては一般式(1)のR1で表される基が置換基を有する場合と同義である。
【0040】
一般式(1)のR1で表される基が置換基を有する場合、置換する事が出来る基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基等から選択される置換基が挙げられる。該ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0041】
一般式(1)のR2は、炭素数1〜3のアルキル基を表す。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などがあげられ、好ましくは、プロピル基である。
【0042】
一般式(1)のR1における一般式(2)の基は、以下で示される。
【0043】
一般式(2)
【化8】
[R3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、または置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表す。
αは、1〜3の整数を表す。]
【0044】
一般式(2)のR3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
【0045】
一般式(2)のR3の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基としては、一般式(1)中のR1の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基と同義であり、
一般式(2)のR3としては、置換基を有していてもよいアルキル基、もしくは置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基を有していてもよいアルキル基がより好ましく、無置換のアルキル基が特に好ましい。
一般式(2)のR3の置換基を有していてもよいアルキル基としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、
一般式(2)のR3の置換基を有していてもよいアルケニル基としては、2−メタクリロイルオキシエチル基、2−アクリロイルオキシエチル基が好ましく、
一般式(2)のR3の置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、トシル基が好ましく、フェニル基がより好ましく、
一般式(2)のR3のヘテロアリール基としては、グリシル基またはテトラヒドロフルフリル基が好ましく、テトラヒドロフルフリル基がより好ましい。
【0046】
一般式(2)のR3で表される基が置換基を有する場合、置換する事が出来る基としては、一般式(1)中のR1の置換することが出来る基と同義である。
【0047】
一般式(2)のR4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表し、αは、1〜3の整数を表す。
α=1の場合、R4としては、置換基を有していてもよい2価の連結基となり、具体的には、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、または下記の(5−1)〜(5−14)に示す基などが挙げられる。
【0048】
一般式(2)のR4における置換基を有していてもよいアルキレン基としては、直鎖アルキレン基(トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ドデカメチレン基など)、分鎖アルキレン基(2,4,4'−トリメチルヘキサメチレン基など)、環状アルキレン基(1,2−シクロペンチル基、1,3−シクロペンチル基、1,2−シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキシル基、1,4−シクロヘキシル基、メチル−2,4−シクロヘキシル基、およびメチル−2,6−シクロヘキシル基など)を挙げることができる。
【0049】
一般式(2)のR4における置換基を有していてもよいフェニレン基としては、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン基、2−メチル−1,3−フェニレン基、4−メチル−1,3−フェニレン、1,3−ジメチルフェニレン、1,4−ジメチルフェニレン基、および1,4−ジエチルフェニレン基が挙げられる。
【0050】
一般式(2)のR4における置換基を有していてもよい連結基の具体例としては、下記の(5−1)〜(5−16)に示す基などが挙げられ、好ましく用いられる。
【0051】
【化9】
【0052】
(5−1)〜(5−16)中の、R8は、炭素数1〜3のアルキル基であり、(5−8)中の、R9は、炭素数1〜3のアルキル基である。
炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などがあげられる。
【0053】
一般式(2)のα=1の場合のR4として、好ましくは(5−1)、もしくは(5−7)であり、特に好ましくは(5−7)である。
【0054】
一般式(2)におけるα=2の場合の、R4としては、置換基を有していてもよい3価の連結基を表し、下記の(6−1)〜(6−3)に示す基などが挙げられる。
【0055】
【化10】
【0056】
一般式(2)のα=2の場合のR4として、好ましくは(6−1)もしくは(6−2)であり、特に好ましくは(6−1)である。
【0057】
一般式(2)におけるα=3の場合、R4における置換基を有していてもよい4価の連結基を表し、下記(7−1)に示す基などが挙げられる。
【0058】
【化11】
【0059】
一般式(2)のR4で表される基が置換基を有する場合、置換することが出来る基とは、一般式(1)中のR1の置換することが出来る基と同義である。
【0060】
一般式(2)のR4中のαとしては、α=1が好ましい。
【0061】
<樹脂の製造>
本発明の樹脂は公知の方法で得ることができ、
ポリビニルアルコール樹脂(a)を、一般式(3)または一般式(4)で示されるイソシアネート化合物と反応させてなる、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、または、
ポリビニルアセタール樹脂(b)を、一般式(3)または一般式(4)で示されるイソシアネート化合物と反応させてなる、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)が挙げられ、好適に用いることができる。
以下、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)について説明する。
【0062】
(変性ポリビニルアルコール樹脂(A))
変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は、ポリビニルアルコール樹脂(a)を、一般式(3)または一般式(4)で示されるイソシアネート化合物と反応させて得ることができる。
[ポリビニルアルコール樹脂(a)]
本発明に用いるポリビニルアルコール樹脂(a)の製法については特に制限はなく、公知の方法で合成された各種ポリビニルアルコール樹脂および市販のポリビニルアルコール樹脂を使用することができる。代表的な合成方法としては、酢酸ビニルのようなビニルアルコール前駆体を重合させて得たポリマーをアルカリでケン化してポリビニルアルコールを製造する方法を挙げることができる。
【0063】
ポリビニルアルコール樹脂(a)は、下記一般式(7)で示される。
【0064】
一般式(7)
【化12】
一般式(7)におけるMeはメチル基であり、pは、69.5〜99.9mol%であり、qは0.1〜30.5mol%であり、p+q=100.0mol%である。
また、ポリビニルアルコール樹脂(a)の平均分子量は1,000〜800,000が好ましく、8,000〜110,000がより好ましい。
【0065】
一般式(7)に示す2つの構成単位の並びに制限はなく、構成単位の並びはランダムでもよい。
【0066】
市販のポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、クラレポバールPVA−102、クラレポバールPVA−103、クラレポバールPVA−110、クラレポバールPVA−205、クラレポバールPVA−405、クラレポバールPVA−HC、クラレポバールPVA−L8(クラレ社製ポリビニルアルコール樹脂)、デンカポバールK−17C、デンカポバールB−05、デンカポバールB−24(電気化学工業社製ポリビニルアルコール樹脂)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
本発明において、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)は主に炭素材料(C)および活物質(G)の分散剤として機能するとともに、電池性能を向上させるに適した電極膜状態を作り出すための役割も担っているものと考えられる。
【0068】
(変性ポリビニルアセタール樹脂(B))
変性ポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアセタール樹脂(b)を、一般式(3)または一般式(4)で示されるイソシアネート化合物と反応させて得ることができる。
【0069】
[ポリビニルアセタール樹脂(b)]
本発明に用いるポリビニルアセタール樹脂(b)の製法については特に制限はなく、公知の方法で合成された各種ポリビニルアセタール樹脂および市販のポリビニルアセタール樹脂を使用することができる。代表的な合成方法としては、酢酸ビニルのようなビニルアルコール前駆体を重合させて得たポリマーをアルカリでケン化して、ビニルアルコール構造に変え、これにアルデヒド類を反応させてアセタール化する方法を挙げることができる。このとき作用させるアルデヒドの種類は、単独もしくは複数の種類を反応させることができる。
【0070】
ポリビニルアセタール樹脂(b)は、下記一般式(8)で示される。
【0071】
一般式(8)
【化13】

一般式(8)におけるsは2.9〜3.9mol%であり、R2は炭素数1〜3のアルキル基であり、Meはメチル基であり、rは20.6〜38.5mol%であり、tは58.7〜75.5mol%であり、r+s+t=100.0mol%である。一般式(8)におけるrは、29.4〜38.5mol%であり、tは58.7〜66.7mol%であることがより好ましい。
【0072】
一般式(8)に示す3つの構成単位の並びに制限はなく、構成単位の並びはランダムでもよい。
【0073】
また、ポリビニルアセタール樹脂(b)の平均分子量は1,000〜800,000が好ましく、15,000〜130,000がより好ましく、25,000〜66,000が特に好ましい。
一般式(8)におけるR2は、一般式(1)におけるR2と同義である。
【0074】
市販のポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、エスレックBL−1、BL−10、BM−1、BH−3(積水化学工業社製ポリビニルブチラール樹脂)、エスレックBX−1、BX−L、KS−10(同社製ポリビニルアセタール樹脂)、デンカブチラール#3000−1、#3000−K、#4000−2(電気化学工業社製ポリビニルブチラール樹脂)、モビタールLPB16H、B20H、B30T、B30H、B30HH、B45M(クラレ社製ポリビニルブチラール樹脂)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本発明において、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)は、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)と同様に、主に炭素材料(C)および活物質(G)の分散剤として機能するとともに、電池性能を向上させるに適した電極膜状態を作り出すための役割も担っているものと考えられる。
【0076】
(一般式(3)または一般式(4)により示される化合物)
次いで、一般式(3)で示されるイソシアネート化合物について説明する。
【0077】
一般式(3)
【化14】
[R1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【0078】
一般式(3)のR1は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基、を表す。
【0079】
一般式(3)のR1の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基は、一般式(1)中のR1の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基と同義であり、
一般式(3)のR1が置換基を有する場合は、置換する事が出来る基としては、一般式(1)中のR1の置換することが出来る基と同義である。
【0080】
次いで、一般式(4)について説明する。
一般式(4)
【化15】
[R3は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
4は、置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基を表す。
αは1〜3の整数を表す。]
【0081】
一般式(4)中のR3の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基としては、一般式(2)中のR3の置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアリール基、または置換基を有していてもよいヘテロアリール基と同義であり、
一般式(4)のR3が置換基を有する場合は、置換する事が出来る基としては、一般式(1)中のR1の置換することが出来る基と同義であり、
一般式(4)のR4の置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基は、一般式(2)中のR4の置換基を有していてもよい(α+1)価の連結基と同義であり、
一般式(4)のR4が置換基を有する場合は、置換する事が出来る基としては、一般式(1)中のR1の置換することが出来る基と同義であり、
一般式(4)のR4のαは、一般式(2)中のR4のαと同義である。
【0082】
本発明に用いる一般式(4)で示されるイソシアネート化合物の製法については特に制限はなく、公知の方法で合成されたイソシアネート化合物を使用することができる。代表的な合成方法としては、市販の多官能イソシアネート化合物に対して、市販のアルコールもしくは市販のフェノールを反応させる方法を挙げることができる。このとき作用させるアルコールの種類は、単独もしくは複数の種類を反応させることができる。
多官能イソシアネートを変性せず、そのまま用いると、余剰のイソシアネート基により、組成物の経時での分散安定性をそこなうため好ましくない。
【0083】
樹脂が変性ポリビニルアルコール樹脂(A)である場合、
一般式(1)における、nは、0.1〜30.5mol%であり、oは0.0mol%であり、
一般式(1)におけるlは、0.0〜99.8mol%であり、mは0.1〜99.9mol%であり、l+n+o+q=100.0mol%とする。
lは7.0〜94.9mol%であり、mは3.5〜89.9mol%であることが好ましく、lは34.8〜89.9mol%であり、mは7.0〜50.0mol%であることがより好ましく、lは48.7〜89.9mol%であり、mは7.0〜30.0mol%であることが特に好ましい。
【0084】
また、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)の平均分子量は1,000〜800,000が好ましく、8,000〜800,000がより好ましい。
【0085】
(樹脂が変性ポリビニルアセタール樹脂(B))
樹脂が変性ポリビニルアルコール樹脂(B)である場合、
一般式(1)中のnは2.9〜5.0mol%であり、oは58.6〜75.5mol%であり、
一般式(1)中のlは0.0〜38.4mol%であり、m=0.1〜38.5mol%であり、
l+m+n+o=100mol%である。
一般式(1)中のlは2.1〜36.6mol%であり、mは1.0〜34.7mol%であることが好ましく、lは、4.1〜34.7mol%であり、mは2.1〜30.8mol%であることがより好ましい。
【0086】
また、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の平均分子量は1,000〜200,000が好ましいく、15,000〜200,000がより好ましい。
【0087】
<炭素材料(C)>
炭素材料(C)としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、およびコスト面から、カーボンブラックの使用が好ましい。
【0088】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0089】
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0090】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいものほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、20m2/g以上、1500m2/g以下、好ましくは50m2/g以上、1500m2/g以下、更に好ましくは100m2/g以上、1500m2/g以下のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合があり、1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0091】
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005〜1μmが好ましく、特に、0.01〜0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された粒子径を平均した値である。
【0092】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC−72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP−Li、(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC−300J、EC−600JD(アクゾ社製)、デンカブラック、デンカブラックHS−100、FX−35(電気化学工業社製、アセチレンブラック)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。グラファイトとしては、例えば、人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い
【0093】
導電性炭素繊維としては、石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることができる。例えば、石油由来の原料で製造される昭和電工社製のVGCFなどを挙げることができる。
【0094】
<誘導体(D)>
本発明において使用する誘導体(D)について説明する。本発明において使用する誘導体(D)は、酸性官能基又は塩基性官能基を有する有機色素誘導体、および/または、酸性官能基又は塩基性官能基を有するトリアジン誘導体である。酸性官能基を有する誘導体の中ではとりわけ、下記一般式(9)で示される酸性官能基を有するトリアジン誘導体、または一般式(12)で示される酸性官能基を有する有機色素誘導体が好ましい。まず、一般式(9)で示される酸性官能基を有するトリアジン誘導体について説明する。
【0095】
一般式(9)
【化16】
【0096】
[X1は、R5への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X3−Y−X4−を表し、X2及びX4は、それぞれ独立に、−NH−または−O−を表し、X3は、R5への結合基を左端として−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表し、Yは、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または置換基を有してもよいアリーレン基を表し、Zは、−SO3M、−COOM、−P(O)(−OM)2または−O−P(O)(−OM)2を表し、Mは、1〜3価のカチオンの一当量を表し、Qは、−O−R6、−NH−R6、ハロゲン基、−X1−R5または−X2−Y−Zを表し、R6は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または置換基を有してもよいアルケニル基を表す。uは、1〜4の整数を表す。R5は、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基または、下記一般式(10)で表される基を表す。]
【0097】
一般式(10)
【化17】
【0098】
[X5は、−NH−または−O−を表し、X6及びX7は、それぞれ独立に、トリアジン環への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−または−CH2NHCOCH2NH−を表し、R7及びR8は、それぞれ独立に、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基または−Y−Zを表し、Y及びZは、一般式(9)におけるY及びZと同義である。]
【0099】
上記において、R5、R7、R8における有機色素残基としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素、フタロシアニン系色素、アントラキノン、ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、ぺリノン系色素、ぺリレン系色素、チオインジゴ系色素、イソインドリン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、スレン系色素、金属錯体系色素等の残基が挙げられる。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましく、中でもアゾ系色素、ジケトピロロピロール系色素、無金属フタロシアニン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素の残基が、分散性に優れた効果を発揮するため好ましい。
【0100】
また、上記において、R5、R7、またはR8における複素環残基および芳香族環残基としては、例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン等の複素環残基、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アントラキノン等の芳香族環残基が挙げられる。とりわけ、S、N、Oのヘテロ原子のいずれかを含む複素環残基が、分散性に優れた効果を発揮するため好ましい。
【0101】
一般式(9)及び一般式(10)のYは、置換基を有していてもよいアルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基を表すが、炭素数20以下が好ましく、炭素数10以下がより好ましい。特に好ましい態様としては、置換されていてもよいフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基または炭素数が10以下の側鎖を有していてもよいアルキレン基が挙げられる。
【0102】
6における置換基を有してもよいアルキル基および置換基を有してもよいアルケニル基の好ましい態様は、炭素数20以下のものである。更に好ましくは、炭素数が10以下の側鎖を有していてもよいアルキル基が挙げられる。ここで、置換基を有するアルキル基および置換基を有するアルケニル基とは、アルキル基またはアルケニル基の水素原子が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン基、水酸基、メルカプト基等に置換されたものを挙げることができる。
【0103】
Mは、1〜3価のカチオンの一当量を表し、例えば、水素イオン(プロトン)、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれかを表す。また、分散剤の構造(一分子)中にMを2つ以上有する場合、Mは、プロトン、金属カチオン、4級アンモニウムカチオンのいずれか一種のみでも良いし、二種以上の組み合わせでも良い。
金属カチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、ニッケル、コバルト等の金属のカチオンが挙げられる。
4級アンモニウムカチオンとしては、一般式(11)で示される構造を有する単一化合物または、混合物である。
【0104】
一般式(11)
【化18】
【0105】
[R9、R10、R11、またはR12は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、または置換基を有してもよいアリール基を表す。]
【0106】
9、R10、R11、またはR12は、それぞれ同一でもよいし、異なっていてもよい。また、R9、R10、R11、またはR12が炭素原子を有する場合、炭素数は1〜40、好ましくは1〜30、更に好ましくは1〜20である。
【0107】
4級アンモニウムカチオンの具体例としては、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ヒドロキシエチルアンモニウム、ジヒドロキシエチルアンモニウム、2−エチルヘキシルアンモニウム、ジメチルアミノプロピルアンモニウム、ラウリルアンモニウム、ステアリルアンモニウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0108】
次いで、一般式(12)で示される酸性官能基を有する有機色素誘導体について説明する。
一般式(12)
【化19】
[X8は、直接結合、或いは、R13への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−、−X9−Y−または−X9−Y−X10−を表し、X9はR13への結合基を左端として、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表し、X10は、−NH−または−O−を表し、Yは、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または置換基を有してもよいアリーレン基を表し、Zは、−SO3M、−COOM、−P(O)(−OM)2または−O−P(O)(−OM)2を表し、Mは1〜3価のカチオンの一当量を表し、R13は、有機色素残基を表し、vは、1〜4の整数を表す。]
【0109】
13の有機色素残基としては、上記R5、R7、またはR8における有機色素残基と同義である。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましく、中でもアゾ系色素、ジケトピロロピロール系色素、無金属フタロシアニン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素の残基が、分散性に優れた効果を発揮するため好ましい。
【0110】
一般式(12)におけるMは、一般式(9)におけるMと同義である。
【0111】
本発明において使用する誘導体(D)の合成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、特公昭39−28884号公報、特公昭45−11026号公報、特公昭45−29755号公報、特公昭64−5070号公報、特開2004−217842号公報等に記載されている方法で合成することができる。
【0112】
本発明において、誘導体(D)は主に分散剤として機能するとともに、電池性能を向上させるに適した電極膜状態を作り出すための役割も担っているものと考えられる。
【0113】
<塩基性顔料誘導体>
塩基性顔料誘導体の中では、とりわけ、下記一般式(13)で示される塩基性官能基を有するトリアジン誘導体、または一般式(18)で示される塩基性官能基を有する有機色素誘導体が好ましい。まず、一般式(13)で示される塩基性官能基を有するトリアジン誘導体について説明する。
一般式(13)
【0114】
【化13】
【0115】
11は、R14への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X12−Y2−X13−を表し、X12は、同様にR14への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表し、X13は、−NH−または−O−を表し、Y2は、炭素数1〜20で構成された、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または置換基を有してもよいアリーレン基を表す。
Pは、一般式(14)、一般式(15)または一般式(16)のいずれかで示される基を表す。
2は、−O−R15、−NH−R15、ハロゲン基、−X11−R14または一般式(14)、一般式(15)もしくは一般式(16)のいずれかで示される基を表す。
15は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基または置換基を有してもよいアリール基を表す。
一般式(14)
【0116】
【化14】


一般式(15)
【0117】
【化15】


一般式(16)
【0118】
【化16】

【0119】
14は、直接結合、或いは、トリアジン環への結合基を左端として−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−、−CH2−または−X15−Y2−X16−を表す。X15は、−NH−または−O−を表し、X16は、直接結合、或いは、トリアジン環への結合基を左端として−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−または−CH2−を表す。
2は、1〜10の整数を表す。
16およびR17は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアリール基または複素環残基を表し、R16とR17が結合して環を形成しても良い。
18、R19、R20およびR21は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基または置換されていてもよいアリール基を表す。
22は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基または置換されていてもよいアリール基を表す。
【0120】
oは、1〜4の整数を表す。
14は、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していて
もよい芳香族環残基または下記一般式(17)で示される基を表す。
一般式(17)
【0121】
【化17】

【0122】
Tは、−X18−R23またはWを表し、Uは、−X19−R24またはW2を表す。
WおよびW2は、それぞれ独立に、−O−R15、−NH−R15、ハロゲン基または一般式(14)、一般式(15)もしくは一般式(16)のいずれかで示される基を表す。
17は、−NH−または−O−を表し、X18およびX19は、それぞれ独立に、トリアジン環への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−または−CH2NHCOCH2NH−を表す。
24およびR25は、それぞれ独立に、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基または置換基を有していてもよい芳香族環残基を表す。
【0123】
一般式(13)のR14および一般式(17)のR24、R25における有機色素残基としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素、フタロシアニン系色素、ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、ぺリノン系色素、ぺリレン系色素、チオインジゴ系色素、イソインドリン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、スレン系色素、金属錯体系色素等の残基が挙げられる。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましい。
【0124】
一般式(13)のR14および一般式(17)のR24、R25における複素環残基および芳香族環残基としては、例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラジン、トリアジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタリン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アントラキノン、アクリドン等の残基が挙げられる。これらの複素環残基および芳香族環残基は、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基等)、アミノ基、アルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等)、ニトロ基、水酸基、アルコキシル基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ハロゲン(塩素、臭素、フッ素等)、フェニル基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)、およびフェニルアミノ基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)等の置換基を有していてもよい。
【0125】
16およびR17は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいアリール基または複素環残基を表し、R16とR17が結合して環を形成しても良い。とりわけ、水素原子であることが、電池内での金属析出を抑える効果が高いと思われ好ましい。
一般式(13)および一般式(17)のY3は、炭素数20以下の置換基を有してもよいアルキレン基、アルケニレン基またはアリーレン基を表すが、好ましくは、置換基を有してもよいフェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基または炭素数が10以下の側鎖を有していてもよいアルキレン基が挙げられる。
【0126】
次いで、一般式(106)で示される塩基性官能基を有する有機色素誘導体について説明する。
一般式(18)
【0127】
【化18】

2は、下記一般式(19)、一般式(20)または一般式(21)で示される基である。mは、1〜4の整数を表す。
一般式(19)
【化19】


一般式(20)
【0128】
【化20】


一般式(21)
【0129】
【化21】

【0130】
20は、直接結合、或いは、R26への結合基を左端として−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−、−CH2−または−X21−Y4−X22−を表す。X21は、−NH−または−O−を表し、X22は、直接結合、或いは、Y4への結合基を左端として−SO2−、−CO−、−CH2NHCOCH2−、−CH2NHCONHCH2−または−CH2−を表す。Y4は、炭素数1〜20で構成された、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または置換基を有してもよいアリーレン基を表す。
v3は、1〜10の整数を表す。
【0131】
27およびR28は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいフェニル基または複素環残基を表し、R27とR28が結合して環を形成しても良い。とりわけ、水素原子であることが、電池内での金属析出を抑える効果が高いと思われ好ましい。
29、R30、R31およびR32は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基または置換されていてもよいアリール基を表す。
33は、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基または置換されていてもよいアリール基を表す。
【0132】
26は、有機色素残基、置換基を有していてもよい複素環残基、置換基を有していてもよい芳香族環残基を表す。
26における有機色素残基としては、例えば、ジケトピロロピロール系色素、アゾ、ジスアゾ、ポリアゾ等のアゾ系色素、フタロシアニン系色素、ジアミノジアントラキノン、アントラピリミジン、フラバントロン、アントアントロン、インダントロン、ピラントロン、ビオラントロン等のアントラキノン系色素、キナクリドン系色素、ジオキサジン系色素、ぺリノン系色素、ぺリレン系色素、チオインジゴ系色素、イソインドリン系色素、イソインドリノン系色素、キノフタロン系色素、スレン系色素、金属錯体系色素の残基が挙げられる。とりわけ、金属による電池の短絡を抑制する効果を高めるためには、金属錯体系色素ではない有機色素残基の使用が好ましい。
【0133】
また、R26における複素環残基および芳香族環残基としては、例えば、チオフェン、フラン、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ベンズチアゾール、ベンズトリアゾール、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、ベンゼン、ナフタリン、アントラセン、フルオレン、フェナントレン、アントラキノン、アクリドン等の残基が挙げられる。これらの複素環残基および芳香族環残基は、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基等)、アミノ基、アルキルアミノ基(ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基等)、ニトロ基、水酸基、アルコキシル基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ハロゲン(塩素、臭素、フッ素等)、フェニル基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)、およびフェニルアミノ基(アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい)等の置換基を有していてもよい。
【0134】
一般式(14)〜(16)および一般式(19)〜(21)で示される置換基を形成するために使用されるアミン成分としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、N,N−エチルイソプロピルアミン、N,N−エチルプロピルアミン、N,N−メチルブチルアミン、N,N−メチルイソブチルアミン、N,N−ブチルエチルアミン、N,N−tert−ブチルエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジプロピルアミン、N,N−sec−ブチルプロピルアミン、ジブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、N,N−イソブチル−sec−ブチルアミン、ジ
アミルアミン、ジイソアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジ(2−エチルへキシル)アミン、ジオクチルアミン、N,N−メチルオクタデシルアミン、ジデシルアミン、ジアリルアミン、N,N−エチル−1,2−ジメチルプロピルアミン、N,N−メチルヘキシルアミン、ジオレイルアミン、ジステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノアミルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルアミン、N,N−ジエチルアミノヘキシルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノペンチルアミン、N
,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノプロピルアミン、N,N−ジブチルアミノエチルアミン、N,N−ジブチルアミノブチルアミン、N,N−ジイソブチルアミノペンチルアミン、N,N−メチルーラウリルアミノプロピルアミン、N,N−エチルーヘキシルアミノエチルアミン、N,N−ジステアリルアミノエチルアミン、N,N−ジオレイルアミノエチルアミン、N,N−ジステアリルアミノブチルアミン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−ルペチジン、2,6−ルペチジン、3,5−ルペチジン、3−ピペリジンメタノール、ピペコリン酸、イソニペコチン酸、イソニコペチン酸メチル、イソニコペチン酸エチル、2−ピペリジンエタノール、ピロリジン、3−ヒドロキシピロリジン、N−アミノエチルピペリジン、N−アミノエチル−4−ピペコリン、N−アミノエチルモルホリン、N−アミノプロピルピペリジン、N−アミノプロピル−2−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、N−アミノプロピルモルホリン、N−メチルピペラジン、N−ブチルピペラジン、N−メチルホモピペラジン、1−シクロペンチルピペラジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、1−シクロペンチルピペラジン等が挙げられる。
【0135】
本発明の塩基性官能基を有する有機色素誘導体または塩基性官能基を有するトリアジン誘導体の合成方法としては、特に限定されるものではないが、特開昭54−62227号公報、特開昭56−118462号公報、特開昭56−166266号公報、特開昭60−88185号公報、特開昭63−305173号公報、特開平3−2676号公報、特開平11−199796号公報等に記載されている方法で合成することができる。
【0136】
例えば、本発明の塩基性官能基を有する有機色素誘導体は、有機色素、複素環化合物(例えば、アクリドン)または芳香族環化合物(例えば、アントラキノン)に式(22)〜式(25)で示される置換基を導入した後、これら置換機とアミン成分(例えば、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N−メチルピペラジン、ジエチルアミンまたは4−[4−ヒドロキシ−6−[3−(ジブチルアミノ)プロピルアミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ]アニリン等)を反応させることによって、合成することができる。
式(22) −SO2Cl
式(23) −COCl
式(24) −CH2NHCOCH2Cl
式(25) −CH2Cl
また、例えば、式(22)で示される置換基を導入する場合には、有機色素、複素環化合物(例えば、アクリドン)または芳香族環化合物(例えば、アントラキノン)をクロロスルホン酸に溶解して、塩化チオニル等の塩素化剤を反応させるが、このときの反応温度、反応時間等の条件により、有機色素、複素環化合物(例えば、アクリドン)または芳香族環化合物(例えば、アントラキノン)に導入する式(22)で示される置換基数をコントロールすることができる。
【0137】
また、式(23)で示される置換基を導入する場合には、まずカルボキシル基を有する有機色素、複素環化合物(例えば、アクリドン)または芳香族環化合物(例えば、アントラキノン)を公知の方法で合成した後、ベンゼン等の芳香族溶媒中で塩化チオニル等の塩素化剤を反応させる方法等が挙げられる。
【0138】
式(22)〜式(25)で示される置換基とアミン成分との反応時には、式(22)〜式(25)で示される置換基の一部が加水分解して、塩素が水酸基に置換することがある。その場合、式(22)で示される置換基はスルホン酸基となり、式(23)で示される置換基はカルボン酸基となるが、いずれも遊離酸のままでもよく、また、1〜3価の金属もしくは、上記のアミンと塩を形成していてもよい。
【0139】
また、有機色素がアゾ系色素である場合は、式(19)〜式(21)または、下記一般式(26)で示される置換基をあらかじめジアゾ成分またはカップリング成分に導入し、その後カップリング反応を行うことによってアゾ系有機色素誘導体を製造することもできる。
一般式(26)
【0140】
【化26】
【0141】
23は、アゾ系色素への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−CH2NHCOCH2NH−または−X24−Y5−X25−を表し、X24は、アゾ系色素への結合基を左端として−NH−、−O−、−CONH−、−SO2NH−、−CH2NH−、−NHCO−または−NHSO2−を表し、X25はそれぞれ独立に−NH−または−O−を表し、Y5は炭素数1〜20で構成された、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基または、置換基を有してもよいアリーレン基を表す。
2は、一般式(14)、(15)または、一般式(16)のいずれかで示される置換基を表す。
3は、−O−R34、−NH−R34、ハロゲン基、−X22−R33または、一般式(14)、(15)もしくは、一般式(16)のいずれかで示される置換基を表す。
34は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基または、置換基を有してもよいアルケニル基もしくは、置換基を有してもよいアリール基を表す。
【0142】
また、本発明の塩基性官能基を有するトリアジン誘導体は、例えば、塩化シアヌルを出発原料とし、塩化シアヌルの少なくとも1つの塩素に式(19)〜式(21)または、一般式(26)で示される置換基を形成するアミン成分(例えば、N,N−ジメチルアミノプロピルアミンまたはN−メチルピペラジン等)を反応させ、次いで塩化シアヌルの残りの塩素と種々のアミンまたはアルコール等を反応させることによって得られる。
【0143】
本発明で使用する顔料誘導体は、酸性または塩基性の官能基を有する有機色素誘導体、または、酸性または塩基性の官能基を有するトリアジン誘導体であることが好ましく、酸性または塩基性の官能基を有するトリアジン誘導体であることがより好ましく、酸性の官能基を有するトリアジン誘導体であることさらに好ましく、アゾ結合を有さず、かつ酸性の官能基を有するトリアジン誘導体であることが特に好ましい。
【0144】
上記顔料誘導体は、1種または2種以上を任意の割合で混合して使用しても良い。
本発明において、顔料誘導体は主に分散剤として機能するとともに、電池性能を向上させるに適した電極膜状態を作り出すための役割も担っているものと考えられる。
【0145】
<溶剤(E)>
本発明の電池用組成物に用いても良い溶剤(E)(本明細書中では、溶媒または液状媒体と称する場合がある)としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類が挙げられる。
【0146】
これらの中でも、比誘電率が15以上の極性溶剤を使用することが好ましい。比誘電率は、溶剤の極性の強さを表す指標のひとつであり、浅原ほか編「溶剤ハンドブック」((株)講談社サイエンティフィク、1990年)等に記載されている。
例えば、メチルアルコール(比誘電率:33.1)、エチルアルコール(23.8)、2−プロパノール(18.3)、1−ブタノール(17.1)、1,2−エタンジオール(38.66)、1,2−プロパンジオール(32.0)、1,3−プロパンジオール(35.0)、1,4−ブタンジオール(31.1)、ジエチレングリコール(31.69)、2−メトキシエタノール(16.93)、2−エトキシエタノール(29.6)、2−アミノエタノール(37.7)、アセトン(20.7)、メチルエチルケトン(18.51)、ホルムアミド(111.0)、N−メチルホルムアミド(182.4)、N,N−ジメチルホルムアミド(36.71)、N−メチルアセトアミド(191.3)、N,N−ジメチルアセトアミド(37.78)、N−メチルプロピオンアミド(172.2)、N−メチル−2−ピロリドン(32.0)、ヘキサメチル燐酸トリアミド(29.6)、ジメチルスルホキシド(48.9)、スルホラン(43.3)、アセトニトリル(37.5)、プロピオニトリル(29.7)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
とりわけ、比誘電率が15以上、200以下、好ましくは15以上、100以下、更に好ましくは、20以上、100以下の極性溶剤を使用することが、活物質や導電助剤の分散性に優れており好ましい。また、溶剤の選択は、活物質との反応性、及びバインダー樹脂に対する溶解性等を鑑みつつ行う。分散性が高く、活物質との反応性が低く、バインダー樹脂の溶解性の高い溶剤を選択することが好ましい。更に、環境負荷軽減や経済的有利性等から、電極製造工程において排出される溶剤を回収・再利用する場合は、混合溶剤ではなく、単一溶剤での使用が好ましい。
【0148】
これら、比誘電率、活物質との反応性、及びバインダー樹脂の溶解性を満たし、単一使用での汎用性を有する溶剤としては、アミド系溶剤が好ましく、特に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチル燐酸トリアミド等のアミド系非プロトン性の非水系溶剤の使用が好ましい。特に本発明の使用態様においては、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0149】
<活物質(G)>
本発明の組成物を正極合材もしくは負極合材に用いる場合は、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)、炭素材料(C)、誘導体(D)、および溶剤(E)以外に、活物質(G)として、少なくとも正極活物質または負極活物質を含んでいてもよい。
【0150】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0151】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することも出来る。
【0152】
これら活物質(G)の大きさは、平均粒径が0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。本明細書でいう活物質(G)の平均粒径とは、活物質(G)を電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0153】
<バインダー(F)>
本発明の組成物には、更に、バインダーを含有させることが好ましい。使用するバインダーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。特に、耐性面から分子内にフッ素原子を含む高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。特に本発明の使用態様においては、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0154】
また、バインダーとしてのこれらの樹脂類の重量平均分子量は、10,000〜1,000,000が好ましい。分子量が小さいとバインダーの耐性が低下することがある。分子量が大きくなるとバインダーの耐性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、合材成分が著しく凝集してしまうことがある。
【0155】
本発明の組成物は、正極合材または負極合材に用いることができる。正極合材または負極合材に用いる場合は、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つと、炭素材料(C)、および溶剤(E)、とを含む組成物に、活物質(G)(正極活物質または負極活物質)、より好ましくは更にバインダー(F)を含有させた正・負極合材スラリーとして使用することが好ましい。また、該組成物には誘導体(D)を含むことができる。
【0156】
電極合材スラリー中の総固形分に占める活物質の割合は、80重量%以上、99重量%以下が好ましい。また、電極合材スラリー中の総固形分に占める、導電助剤としての炭素材料(C)割合は、0.1重量%以上、15重量%以下が好ましい。
また、本発明において、合材スラリー中に占める変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、変性ポリビニルアセタール樹脂(B)、および誘導体(D)の割合は、活物質(G)と導電助剤としての炭素材料(C)の重量の合計に対してそれぞれ0.01〜7.5重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.01〜2.5重量%である。誘導体(D)を添加する場合は、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、および変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の総重量に対して、1重量%以上、80重量%以下の割合が好ましく、10重量%以上、60重量%以下がより好ましい。そして、電極合材スラリー中の総固形分に占める、バインダー成分の割合は、1重量%以上、10重量%以下が好ましい。また、電極合材スラリーの適正粘度は、電極合材スラリーの塗工方法によるが、一般には、100mPa・s以上、30,000mPa・s以下とするのが好ましい。
【0157】
<二次電池電極形成用組成物>
次に、二次電池電極形成用組成物(単に「組成物」と称することがある)の製造方法について説明する。本発明の組成物は、例えば、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つの存在下、導電助剤としての炭素材料(C)を溶剤(E)に分散し、該分散体に、必要に応じて、誘導体(D)、活物質(G)(正極活物質または、負極活物質)、および/またはバインダー(F)、を混合することにより、製造することができる。各成分の添加順序などについては、これに限定されるわけではない。また、必要に応じて、更に溶剤を添加しても良い。尚、本明細書において、「分散体」とは、特に断りがない限り、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、導電助剤としての炭素材料(C)、溶剤(E)からなり、誘導体(D)を含むことができる二次電池電極形成用組成物を指すものとする。また、「合材スラリー」とは、「分散体」に、さらに活物質(G)(正極活物質または負極活物質)およびバインダー(F)を含有してなる二次電池電極形成用組成物を指すものとする。
【0158】
上記製造方法は、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)を、溶剤(E)中で完全ないしは一部溶解させ、その溶液中に導電助剤としての炭素材料(C)を添加、混合することで、これら変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)を、炭素材料(C)に作用(例えば吸着)させつつ、溶剤に分散するものである。このときの分散体中における炭素材料(C)の濃度は、使用する炭素材料(C)の比表面積や表面官能基量などの炭素材料固有の特性値等にもよるが、1重量%以上、50重量%以下が好ましく、更に好ましくは、5重量%以上、35重量%以下である。炭素材料(C)の濃度が低すぎると生産効率が悪くなり、炭素材料(C)の濃度が高すぎると、分散体の粘度が著しく高くなり、分散効率や、後述するコンタミ除去工程の効率および、分散体の作業性が低下する場合がある。とりわけ、コンタミを除く工程を入れる場合は、分散体の粘度を、好ましくは5mPa・s以上、10,000mPa・s以下、より好ましくは5,000mPa・s以下、更に好ましくは3,000mPa・s以下とする。
【0159】
二次電池電極形成用組成物中での導電助剤としての炭素材料(C)の分散粒径は、0.03μm以上、2μm以下、好ましくは、0.05μm以上、1μm以下、更に好ましくは0.05μm以上、0.5μm以下であることが望ましい。
本明細書でいう炭素材料(C)の分散粒径とは、体積粒度分布において、粒径の小さいものからその粒子の体積割合を積算した際に、50%となるところの粒子径(D50)であり、動的光散乱方式の粒度分布計(本明細書の実施例では日機装社製「マイクロトラックUPA」)によって測定される値である。
【0160】
また、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)を、を炭素材料(C)に作用(例えば吸着)させつつ、溶剤に分散するための装置としては、顔料分散等に用いられる分散機を使用できる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS−5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、分散機としては、分散機からの金属混入防止処理を施したものを用いることが好ましい。
【0161】
例えば、メディア型分散機を使用する場合は、アジテーターおよびベッセルが、セラミック製または樹脂製の分散機を使用する方法や、金属製アジテーターおよびベッセル表面をタングステンカーバイド溶射や樹脂コーティング等の処理をした分散機を用いることが好ましい。そして、メディアとしては、ガラスビーズや、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ等のセラミックビーズを用いることが好ましく、中でもジルコニアビーズの使用が好ましい。また、ロールミルを使用する場合についても、セラミック製ロールを用いることが好ましい。分散装置は、1種のみを使用しても良いし、複数種の装置を組み合わせて使用しても良い。また、強い衝撃で粒子が割れたり、潰れたりしやすい正または負極活物質の場合は、メディア型分散機よりは、ロールミルやホモジナイザー等のメディアレス分散機が好ましい。
【0162】
また、分散時に金属異物等のコンタミを除く工程を入れることが好ましい。カーボンブラック、グラファイトおよび、炭素繊維等の炭素材料中には、それらの製造工程由来(ラインコンタミや触媒として)の金属異物が含まれている場合が多く、これら金属異物を除去することは、電池の短絡を防ぐために非常に重要となる。本発明では、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の効果により、炭素材料(C)同士の凝集がよくほぐれること、および分散体の粘度が低くなるため、分散体中の炭素材料濃度が高い場合でも、効率良く金属異物を取り除くことができる。金属異物を除く方法としては、磁石による除鉄や、ろ過、遠心分離等の方法が挙げられる。
【0163】
バインダー(F)の添加方法としては、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)の存在下、導電助剤としての炭素材料(C)を溶剤に分散してなる分散体を攪拌しつつ、固形のバインダー成分を添加し、溶解させる方法が挙げられる。また、バインダーを溶剤に溶解したものを事前に作製しておき、上記分散体と混合する方法が挙げられる。また、バインダー(F)を上記分散体に添加した後に、上記分散装置で再度分散処理を行っても良い。また、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)の存在下、導電助剤としての炭素材料(C)を溶剤(E)に分散するときに、バインダー(F)の一部ないしは全量を、同時に添加して分散処理を行うこともできる。
【0164】
活物質(G)(正極活物質または負極活物質)の添加方法としては、変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)の存在下、導電助剤としての炭素材料(C)を溶剤(E)に分散してなる分散体を攪拌しつつ、正極活物質または負極活物質を添加し、分散させる方法が挙げられる。また、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)の存在下、導電助剤としての炭素材料を溶剤に分散するときに、正極活物質または負極活物質の一部ないしは全量を、同時に添加して分散処理を行うこともできる。また、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)の存在下、導電助剤としての炭素材料(C)を溶剤(E)に分散してなる分散体を攪拌しつつ、バインダー成分を固形もしくは溶液で添加した後に、正極活物質または負極活物質を添加し、分散させる方法が挙げられる。更に、上記変性ポリビニルアルコール樹脂(A)、もしくは変性ポリビニルアセタール樹脂(B)の少なくともいずれか一つ、炭素材料(C)、溶剤(E)、活物質(G)、バインダー(F)さらに誘導体(D)を含む場合は誘導体(D)を混合し、同時に分散処理することもできる。混合、分散を行うための装置としては、通常の顔料分散等に用いられている上述の分散機が使用できる。
【0165】
使用する活物質(G)の大きさは、平均粒径で0.05〜100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜50μmの範囲内である。ここでいう活物質の平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)による観察画像において、個々の一次粒子の長径の平均値である。ただし、活物質の中には活物質の反応面積を増大させるために、合成過程または合成後に微細な一次粒子を造粒処理するなどした凝集体(二次粒子)を用いる場合があり、その場合は、二次粒子の長径を測定し、活物質の平均粒径とする。
活物質(G)の平均粒径が、上述の炭素材料(C)の分散粒径(D50)との比(活物質(G)の平均粒径/炭素材料(C)の分散粒径(D50))で、2以上、100以下であるのが好ましい。更に好ましくは、9以上、70以下である。
【0166】
本発明の組成物は、上述するように、通常は溶剤を含む分散体(液)、ペースト等として、製造、流通、使用できる。これは、導電助剤や活物質と分散剤を乾燥粉体の状態で混合しても、導電助剤や活物質に均一に分散剤を作用させることはできず、液相法で、分散剤の存在下、導電助剤や活物質を溶剤に分散することにより、導電助剤や活物質に均一に分散剤を作用させることができるからである。また、以下に説明するように、集電体に電極合材層を形成する場合には、液状の分散体をできるだけ均一に塗布してこれを乾燥させることが好ましいからである。
しかしながら、例えば、液相法で作製した分散体を、運搬コストなどの理由から、一度溶剤を除去して乾燥粉体として、この乾燥粉体を適当な溶剤で再分散させて、電極合材層の形成に用いても良い。したがって、本発明の組成物は、液状の分散体に限られず、このような、乾燥粉体の状態の組成物であってもよい。
【0167】
本発明の二次電池電極形成用組成物のうち合材スラリーを、集電体上に塗工・乾燥し、合材層を形成し、二次電池用電極を得ることができる。
【0168】
(集電体)
電極に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0169】
集電体上に合材スラリーや下地層形成用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0170】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0171】
正極もしくは負極の少なくとも一方に上記の電極を用い、二次電池を得ることができる。二次電池としては、リチウムイオン二次電池の他、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルカリ二次電池、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、ナトリウム硫黄二次電池、リチウム空気二次電池、燃料電池等が挙げられ、好ましくはリチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、燃料電池であり、より好ましくは、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池であり、特に好ましくは、リチウムイオン二次電池である。それぞれの二次電池において、従来から知られている電解液やセパレーター等を適宜用いることができる。
【0172】
(電解液)
リチウムイオン二次電池の場合を例にとって説明する。電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶剤に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0173】
非水系の溶剤としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶剤は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0174】
さらに上記電解液を、ポリマーマトリクスに保持し、ゲル状とした高分子電解質の形態で使用することもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、及びポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0175】
(セパレーター)
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0176】
(電池構造・構成)
本発明の組成物を用いたリチウムイオン二次電池の構造については特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0177】
以下、実施例に基づき、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、部は、重量部を、%は、重量%を、それぞれ表す。また、溶剤(E)として使用するN−メチル−2−ピロリドンを「NMP」と略記することがある。
【0178】
<一般式(4)で示されるイソシアネート化合物の合成>
(イソシアネート化合物 NCO(7)の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、N−メチル−2−ピロリドン200.0部、イソホロンジイソシアネート100.0部(1当量)、及びメタノール14.42部(1当量)を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を80℃に加熱して、U−810(日東化成製)0.01部を添加した。反応容器内を100℃に加熱して、3時間反応を続けた。その後、NCO価の測定を行い、反応率が95%であることを確認した。その後、N−メチル−2−ピロリドンを加え希釈し、N.V.=30%にした。その後、冷却し、イソシアネート化合物 NCO(7)溶液を得た。
【0179】
(イソシアネート化合物 NCO(8)〜(11)の合成)
表1に示す配合組成で、イソシアネート化合物 NCO(7)の合成と同様の方法で合成し、イソシアネート化合物 NCO(8)〜NCO(11)溶液を得た。
【0180】
【表1】
【0181】
<変性ポリビニルアルコール樹脂の合成>
(樹脂(A−1)の合成(合成例1))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、N−メチル−2−ピロリドン 200.0部、及びPVA−102 50.0部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を60℃に加熱して、ブチルイソシアネート1.11部を添加した。反応容器内を90℃に加熱して、ネオスタンU−810(日東化成製)0.01部を添加した。添加終了後、反応容器内を110℃に加熱して、2時間反応を続けた。その後、NCO価の測定を行い、反応率が95%以上であることを確認した。その後、N−メチル−2−ピロリドンを加え希釈し、N.V.=20%にした。その後、冷却し、変性ポリビニルアルコール樹脂(A−1)を含む樹脂溶液(A’−1)を得た。
【0182】
(変性ポリビニルアルコール樹脂(A−2)〜(A−12)、変性ポリビニルアセタール樹脂(B−1)〜(B−13)、その他樹脂(C−1)〜(C−3)の合成(合成例2〜28))
ポリビニルアルコール樹脂(a)、ポリビニルアセタール樹脂(b)、を表2の配合組成にし、イソシアネート化合物は、反応割合に相当する配合組成に変更した以外は、合成例1と同様の方法で合成し、変性ポリビニルアルコール樹脂(A−2)〜(A−12)を含む樹脂溶液(A’−2)〜(A’−12)、変性ポリビニルアセタール樹脂(B−1)〜(B−13)を含む樹脂溶液(B’−1)〜(B’−13)、およびその他樹脂(C−1)〜(C−3)を含む樹脂溶液(C’−1)〜(C’−3)を得た。
【0183】
<樹脂の評価>
(電解液耐性の評価)
樹脂の電解液耐性評価として、膨潤率の測定を行った。結果を表2に示す。膨潤率の測定は、樹脂溶液を乾燥させた樹脂膜を用いて行った。樹脂膜の作製は、樹脂溶液30gを平底容器へ入れ、真空オーブン(ETAC製「VT220C」、40℃、10hPa以下)で3日間静置して行った。得られた樹脂膜の重量を精秤し、樹脂膜を60℃の電解液(エチレンカーボネート/ジエチレンカーボネート=1/1)に72h浸漬した。浸漬後の樹脂膜を精秤し、「膨潤率」として「浸漬後の樹脂膜重量/浸漬前の樹脂膜重量×100(%)」を算出し、表2に示した。なお、樹脂が電解液に対し溶解した場合は、表2には「溶解」と記載した。
【0184】
【表2】
【0185】
表2中の略称について以下に示す。
<ポリビニルアルコール樹脂(a)>
・PVA−102:クラレポバールPVA−102(クラレ製):ケン化度:98.0―99.0%、重合度:200。
・PVA−103:クラレポバールPVA−103(クラレ製):ケン化度:98.0―99.0%、重合度:300。
・PVA−110:クラレポバールPVA−110(クラレ製):ケン化度:98.0―99.0%、重合度:1000。
・PVA−205:クラレポバールPVA−205(クラレ製):ケン化度:86.5―89.0%、重合度:500。
・PVA−405:クラレポバールPVA−405(クラレ製):ケン化度:78.5−81.5%、重合度:500。
・K−17C:デンカポバールK−17C(電気化学工業製):ケン化度:98.7―99.7%、重合度:1700。
・B−05:デンカポバールB−05(電気化学工業製):ケン化度:86.5%―89.5%、重合度:500。
・B−24:デンカポバールB−24(電気化学工業製):ケン化度:86.0%―89.0%、重合度:2400。
・PVA−HC:クラレポバールPVA−HC(クラレ製):ケン化度:99.85%以上。
・PVA−L8:クラレポバールPVA−L8(クラレ製):ケン化度:69.5%−72.5%。
【0186】
<ポリビニルアセタール樹脂(b)>
・BL−1:エスレックBL−1(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:25%、計算分子量:19,000。
・BL−S:エスレックBL−S(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:15%、計算分子量:23,000。
・BM−1:エスレックBM−1(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:24%、計算分子量:40,000。
・BM−S:エスレックBM−S(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:22%、計算分子量:53,000。
・BH−3:エスレックBH−3(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:24%、計算分子量:110,000。
・BH−6:エスレックBH−6(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:30%、計算分子量:92,000。
・BH−S:エスレックBH−S(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:14%、計算分子量:66,000。
・BX−L:エスレックBX−L(積水化学工業社製):ポリビニルアセタール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:37±3%、計算分子量:20,000。
・BL−5:エスレックBL−5(積水化学工業社製):ポリビニルブチラール樹脂、水酸基を含む繰り返し単位:21%、計算分子量:32,000。
【0187】
合成例1〜28で得られた樹脂(A−1)〜(A−12)、または樹脂(B−1)〜(B−13)の一般式(1)におけるl,m,n,oの値を表3に示す。
【0188】
【表3】
【0189】
<二次電池電極形成用組成物(分散体)の製造>
[実施例1]
表4に示した組成に従い炭素材料分散体を調製した。まず、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン80.0部をミキサーで攪拌しつつ、表2に示した樹脂(A−1)を含む樹脂溶液(A’−1)(固形分20%)を4部加えて撹拌溶解させた。次に、導電助剤となるデンカブラックHS−100(電気化学工業社製)を16部加えてミキサーで混合した後、更にサンドミルで分散を行い、二次電池電極形成用組成物の一態様である分散体1を得た。
【0190】
[実施例2〜25]
表4に示した組成に従い、炭素材料としてデンカブラックHS−100(電気化学工業社製)、又は、Super−P Li(TIMCAL社製)を、分散剤として樹脂溶液(A’−1)を樹脂溶液(A’−2)〜(A’−12)、(B’−1)〜(B’−13)に変更した以外は、実施例1と同様にして、分散体2〜25を得た。
【0191】
[実施例26〜29]
表4に示した組成に従い、炭素材料としてデンカブラックHS−100(電気化学工業社製)を16部、分散剤として、表2に示した各種樹脂溶液3部、及び表5に示す誘導体(D−1)〜(D−4)を0.2部、N−メチル−2−ピロリドン80.8部に加える事に変更した以外は実施例1と同様にして、分散体26〜29を得た。
【0192】
[実施例30]
表4に示した組成に従い、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン82.0部をミキサーで攪拌しつつ、分散剤として樹脂溶液(A’−1)を2.0部加えて撹拌溶解させた以外は、実施例1と同様にして分散体30を得た。
【0193】
[比較例1〜3]
表4に示した組成に従い、炭素材料としてデンカブラックHS−100(電気化学工業社製)、又は、Super−P Li(TIMCAL社製)を、分散剤として表2に示した樹脂溶液(C’−1)〜(C’−3)に変更した以外は、実施例1と同様にして分散体31〜33を得た。
【0194】
[比較例4〜5]
表4に示した組成に従い、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン80.0部をミキサーで攪拌しつつ、分散剤として、PVA−103をN−メチル−2−ピロリドンで固形分20%に溶解させた樹脂溶液PVA−103、及び、PVB BL−1をN−メチル−2−ピロリドンで固形分20%に溶解させた樹脂溶液PVB BL−1を、4.0部加えて撹拌溶解させた以外は、実施例1と同様にして分散体34、および分散体35を得た。
【0195】
<分散体の評価>
(分散安定性の評価)
分散体の分散性評価には、その指標として分散粒径を使用した。結果を表4に示す。分散粒径の測定は、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用い、体積粒度分布において、粒径の小さいものからその粒子の体積割合を積算した際に、50%となるところの粒径(D50)を求めた。この粒径(D50)は、炭素材料(C)の分散粒径に該当する。
測定用のサンプル液は、以下のようにして調製した。N−メチル−2−ピロリドン100gをディスパー攪拌しつつ、その液に、上記で得られた各種分散体を1乃至4滴添加し、1,000rpmで5分攪拌した。当該測定用サンプル液を上記の粒度分布計にセットし、ローディングインデックス(レーザーの散乱強度)が0.8〜1.2の範囲に入っていることを確認してから分散粒径を測定した。上記の調製方法でローディングインデックスが1.2を超える場合は、0.8〜1.2の範囲になるよう、当該サンプル液をN−メチル−2−ピロリドンで適宜希釈してから測定した。測定時間は60秒/1回とし、3回連続で測定して得られた値の平均値を使用した。
分散体の分散性評価結果を表4に示した。数値が小さいものほど、分散性に優れ、均一で良好な分散体であることを示す。尚、分散体の分散粒径は、各種分散体の製造直後および、当該分散体を50℃で10日間保存した後の2回測定を行った。
表4において、「保存安定性(2)/(1)」とは、「50℃で10日間保存した分散体の分散粒径/製造直後の分散体の分散粒径」の比を意味し、1.00からの乖離が小さいほど保存安定性に優れていることを示す。
【0196】
【表4】
【0197】
<炭素材料(C)>
A:デンカブラックHS−100(電気化学工業社製):アセチレンブラック、一次粒子径48nm、比表面積48m2/g、以下「HS−100」と略記することがある。
F:Super−P Li(TIMCAL社製):ファーネスブラック。一次粒子径40nm、比表面積62m2/g。
【0198】
実施例26〜29に用いた誘導体を表5に示す。
【表5】
【0199】
本発明の炭素材料分散体の分散性に関しては、表4に示したように、いずれの分散体も炭素材料の分散性が良好であり、均一に炭素材料が分散された分散体であることが確認された。 また、実施例における炭素材料分散体は比較例に比して、製造直後の分散粒径と50℃で10日保存した後の分散粒径の変化が小さく、保存安定性に優れることが確認された。
【0200】
<二次電池電極形成用組成物(正極合材スラリー)の製造>
[実施例31]
実施例1で製造した分散体1 13.8部とバインダーとしてW#1100のN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分12%)17.5部を採取しディスパーで混合して均一化する。この混合液をディスパーで攪拌しつつ正極活物質として平均粒径6.7μmのLiCoO2(以下、LCOと略記する)68.6部を徐々に添加した後、合材スラリーの固形分が73%となるように溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを更に加えて、ディスパーで30min混合する事で正極合材スラリーを製造した。
【0201】
[実施例32〜39、43〜52、56〜59、比較例6〜10]
表6に示した材料に変更した以外は実施例31と同様にして、正極合材スラリーを製造した。また、活物質としては、LCO、平均粒径12μmのLiMn24(以下、LMOと略記する)、平均粒径15μmのLiNi(1/3)Mn(1/3)Co(1/3)2(以下、NMCと略記)のいずれかを使用した。
【0202】
[実施例40]
実施例10で製造した分散体10 15.6部とバインダー(F)としてW#7200のN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分8%)31.3部を採取しディスパーで混合して均一化する。この混合液をディスパーで攪拌しつつ正極活物質として、表面にカーボンコート層を有する平均粒径1μmのLiFePO4(以下、LFP−01と略記する)45部を徐々に添加した後、合材スラリーの固形分が50%となるように溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを更に加えて、ディスパーで30min混合する事で正極合材スラリーを製造した。
【0203】
[実施例41、53、54、60]
表6に示した材料に変更した以外は、実施例40と同様にして、正極合材スラリーを製造した。
【0204】
[実施例42]
実施例23で製造した分散体23 15.6部とバインダー(F)としてW#7200のN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分8%)28.8部を採取しディスパーで混合して均一化する。この混合液をディスパーで攪拌しつつ正極活物質として、表面にカーボンコート層を有する平均粒径3μmのLiFePO4(以下、LFP−02と略記する)45部を徐々に添加した後、合材スラリーの固形分が50%となるように溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを更に加えて、ディスパーで30min混合する事で正極合材スラリーを製造した。
【0205】
[実施例55]
表6に示した材料に変更した以外は、実施例42と同様にして、正極合材スラリーを製造した。
【0206】
【表6】
【0207】
<バインダー(F)>
KFポリマーW#1100(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、分子量:28万。以下「W#1100」と略記することがある。
KFポリマーW#7200(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、分子量:63万。以下「W#7200」と略記することがある。
【0208】
<二次電池電極形成用組成物(負極合材スラリー)の製造>
[実施例61]
実施例4で製造した分散体4 11.3部とバインダー(F)としてW#7200のN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分8%)28.8部をディスパーで混合して均一化した後、当該液を攪拌しつつ負極活物質として平均粒径15μmの人造黒鉛55.8部を徐々に添加した。次に、合材スラリーの固形分が60%となるように溶剤(E)としてN−メチル−2−ピロリドンを加えてさらに混合し、二次電池電極形成用組成物の一態様である負極合材スラリーを製造した。
【0209】
[比較例11]
表7に示した材料に変更した以外は実施例61と同様にして、負極合材スラリーを調整した。
【0210】
[実施例62]
実施例16で製造した分散体16 17.8部とバインダー(F)としてW#7200のN−メチル−2−ピロリドン溶液(固形分8%)33.8部をディスパーで混合して均一化した後、当該液を攪拌しつつ負極活物質として平均粒径5μmのLi4Ti512(以下、LTOと略記することがある)51.3部、を徐々に添加した。次に、合材スラリーの固形分が57%となるように溶剤(E)としてN−メチル−2−ピロリドンを加えてさらに混合し、負極合材スラリーを製造した。
【0211】
[比較例12、13]
表7に示した材料に変更した以外は実施例62と同様にして、負極合材スラリーを調整した。
【0212】
活物質の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)から得られた観察画像から算出した。ここで、LCO、LMO、LFP、人造黒鉛、LTOついては、一次粒子100個の長径を測定しその平均値から算出した。また、NMCについては、二次粒子100個の長径を測定しその平均値から算出した。
【0213】
【表7】
【0214】
<合材スラリーの評価>
(分散性評価)
正極合材スラリーおよび負極合材スラリーの分散性評価については、グラインドゲージによる粒度の評価(JIS K5600−2−5に準ずる)により実施した。数値が小さいものほど分散性に優れ、均一で良好な分散体であることを示す。尚、合材スラリーの粒度測定は、各種スラリーの製造直後および、当該スラリーを50℃で3日間保存した後、それぞれ測定した。測定にあたっては、スラリー製造直後、遊星回転式の脱泡装置で脱泡した後に粒度の測定を実施した。また、50℃で3日保存した合材スラリーについては、ディスパーで再攪拌後、遊星回転式の脱泡装置で脱泡した後に、粒度の測定を実施した。結果を表8、表9に示す。
【0215】
<二次電池用電極(正極、負極)の製造>
塗工塗膜乾燥後の電極の厚みが100μmとなるように、上記製造した正極合材スラリーを、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布し塗工膜を作成、これを、120℃の乾燥炉で乾燥し塗工物を得た。これに、更に、ロールプレスによる圧延処理を行い、厚みが85μmとなる正極を製造した。
【0216】
塗工塗膜乾燥後の電極の厚みが80μmとなるように、上記製造した負極合材スラリーを、集電体となる厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて塗布し塗工膜を作成、これを、120℃の乾燥炉で乾燥し塗工物を得た。これに、更に、ロールプレスによる圧延処理を行い、厚みが70μmとなる負極を製造した。
【0217】
<二次電池(コイン型電池)の製造>
上記方法により得られた正極または負極を、直径16mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔を対極とした。これら作用極、対極の間にポリプロピレンより成る多孔質セパレーターを挟み積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1(体積比)の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水系電解液)で極間を満たす形でコイン型電池を製造した。コイン型電池は、アルゴンガス置換したグロ−ブボックス内で作製後、以下に示す電池特性評価を行った。
【0218】
<二次電池(正極)の評価>
正極については、50サイクルと200サイクルの放電容量維持率を測定した。結果を表8に示す。負極については、50サイクルと100サイクルの放電容量維持率を測定した。結果を表9に示す。
(サイクル特性(50サイクル))
得られたコイン型電池について、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を用い、充放電測定を行い、充電レート1.0Cで充電終止電圧4.3Vまで定電流定電圧充電を続け満充電とした後に、放電レート1.0Cで放電終止電圧2.8Vに達するまで定電流放電を行った。
これらの充電・放電サイクルを1サイクルとして50サイクルの充電・放電を繰り返し、「放電容量維持率(50サイクル)=50サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量」とし、放電容量維持率によって以下の基準に従って判定した。
◎:「放電容量維持率が95%以上」
○:「放電容量維持率が90%以上、95%未満」
△:「放電容量維持率が85%以上、90%未満」
×:「放電容量維持率が85%未満」
【0219】
(サイクル特性(100サイクル、200サイクル))
50サイクルと同様に、充放電装置(北斗電工社製SM−8)を用いて充放電測定を行った。これらの充電・放電サイクルを1サイクルとして100サイクルまたは200サイクルの充電・放電を繰り返し、「放電容量維持率(100サイクルまたは200サイクル)=100サイクルまたは200サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量」とし、放電容量維持率によって以下の基準に従って判定した。
◎:「放電容量維持率が90%以上」
○:「放電容量維持率が85%以上、90%未満」
△○:「放電容量維持率が80%以上、85%未満」
△:「放電容量維持率が75%以上、80%未満」
×:「放電容量維持率が75%未満」
【0220】
また、使用する活物質がLiMn24、及び、LiNi1/3Mn1/3Co1/32の場合は、充電終止電圧4.3V、放電終止電圧3.0Vとした以外は、LiCoO2の場合と同様にサイクル特性を測定した。
【0221】
また、使用する活物質が、LiFePO4の場合は、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧2.0Vとした以外は、LiCoO2の場合と同様にサイクル特性を測定した。
【0222】
<二次電池(負極)の評価>
負極評価では、人造黒鉛の場合、充電終止電圧0.05V、放電終止電圧が1.5Vとし、チタン酸リチウムの場合、充電終止電圧1.0V、放電終止電圧が1.8Vとした以外は、正極評価の場合と同様にサイクル特性を測定した。
【0223】
【表8】
【0224】
【表9】
【0225】
表8、表9において、「保存安定性(2)/(1)」とは、「50℃で3日間保存した合材スラリーの粒度/製造直後の合材スラリーの粒度」の比を意味し、1からの乖離が小さいほど、保存安定性に優れていることを示す。
【0226】
表8、表9に示すように、実施例31〜62の本発明による合材スラリーは、導電助剤と活物質の分散性に優れた組成物であることが確認された。とりわけ、本発明の分散体は、比較例に比して50℃で3日保存したときの粒度の変化が小さく、保存安定性に優れることが確認された。
【0227】
また、本発明の二次電池電極形成用組成物から形成された二次電池用電極を用いた電池では、比較例に対してサイクル特性(放電容量維持率)に優れることが明らかとなった。また、ポリビニルアルコール樹脂にイソシアネート変性を行った樹脂(実施例31〜42、61)や、炭素材料分散体に樹脂と顔料誘導体を併用した二次電池電極形成用組成物(実施例56〜59)に於いて、100サイクル又は200サイクル経過後も放電容量維持率が高く、良好なサイクル特性となることが確認された。更に、使用する活物質(G)の平均粒径と、炭素材料分散体中の炭素材料(C)の分散粒径(D50)との比(活物質平均粒径/炭素材料分散粒径(D50))が2以上の本発明について、より好ましくは9以上の本発明について、電池のサイクル特性(放電容量維持率)が向上する傾向が見られた。実施例に於いてサイクル特性が向上する効果について、その理由は明らかではないが、本発明の樹脂を用いることで、炭素材料分散体、合材スラリーの分散安定性を向上させる効果があることより、樹脂が、炭素材料、活物質の表面近傍に存在する事で、合材スラリーを使用した塗工物を製造した際、導電パス形成など乾燥後の材料分布状態に良好な影響を与えている、或いは、膜強度が高くなることでサイクル特性が向上したのではないかと類推している。
【0228】
本願に用いられる樹脂からなる二次電池用電極形成用組成物のなかで、電解液耐性に優れる樹脂(A−1〜A−12)を用いた実施例(実施例31〜42、実施例56、実施例58、実施例61)において、とくに放電容量維持率が優れることが確認された。これは、電解液耐性に優れる樹脂は、電池内の電解液により膨潤することが少なく、活物質と炭素材料との間や活物質および炭素材料と金属集電体との接触抵抗増大が少ない、もしくは、活物質及び導電材の一部が金属集電体から剥離したりすることが少ないために、充放電を繰り返した後も放電容量が維持されると考えられる。
【0229】
また、活物質(G)の平均粒径と炭素材料(C)の分散粒径(D50)との乖離が大きい場合に、電池性能の向上が見られた。これについて考えると、合材スラリーが乾燥する際の塗膜状態変化が原因だと類推される。乾燥時において、スラリー中の粒子間(活物質−炭素材料間)の距離は次第に短くなり、最終的には凝集するが、この凝集は凝集体の界面エネルギーをなるべく小さくする形で進んでいくものと思われる。このとき、活物質と炭素材料の粒径がある一定の範囲内であれば、活物質の表面を覆うように炭素材料が配置し、その際に界面エネルギーが小さくなると考えられる。結果として、活物質/炭素材料の分散粒径が2〜100において、活物質の表面を覆うように炭素材料が配置され、電極膜中に均一で強固な導電パスが形成されるなどして、電池性能が向上するのではないかと思われる。