(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に提案されたGaN系ヘテロ接合バイポーラトランジスタでは、高周波パワー増幅や高周波パワースイッチングを行うことは困難であると考えられる。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、高周波パワー増幅や高周波パワースイッチングを容易に行うことができる高性能のヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することである。
【0007】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記のヘテロ接合バイポーラトランジスタを用いた高性能の電気機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は、
第1のn型GaN層と、
前記第1のn型GaN層上のAl
x Ga
1-x N層(0.1≦x≦0.5)と、
前記Al
x Ga
1-x N層上の、厚みが20nm以上のアンドープGaN層と、
前記アンドープGaN層上の、厚みが100nm以上のMgがドープされたp型GaN層と、
前記p型GaN層上の第2のn型GaN層と、
前記第1のn型GaN層に電気的に接続されたエミッタ電極と、
前記p型GaN層に電気的に接続されたベース電極と、
前記第2のn型GaN層に電気的に接続されたコレクタ電極とを有し、
前記第1のn型GaN層および前記Al
x Ga
1-x N層によりエミッタが構成され、前記アンドープGaN層および前記p型GaN層によりベースが構成され、前記第2のn型GaN層によりコレクタが構成され、
非動作時において、前記Al
x Ga
1-x N層と前記アンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記アンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、
前記p型GaN層の厚みをb[nm]、前記p型GaN層の正孔濃度をp[cm
-3]、前記2次元正孔ガスの濃度をP
s [cm
-2]と表したとき、p×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]であるヘテロ接合バイポーラトランジスタである。
【0009】
ここで、非動作時とは、熱平衡状態と言い換えることもできる。Al
x Ga
1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層に形成される2次元正孔ガスは、ピエゾ分極および自発分極により、Al
x Ga
1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAl
x Ga
1-x N層に負の固定電荷が誘起されることにより形成される。
【0010】
ベースの正孔としては、p型GaN層にドープされたMg(マグネシウム)、すなわちアクセプタから供給される正孔だけでなく、アンドープGaN層に形成される高濃度の2次元正孔ガスも寄与するため、ベース全体として十分な正孔濃度を得ることができる。本発明者らの検討によれば、後に詳述するように、高周波動作可能なヘテロ接合バイポーラトランジスタを実現するためには、ベースの正孔濃度(シート濃度)は1×10
13cm
-2以上である必要がある。この条件が、p×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]である。ここで、左辺の10
-7はnm単位のbをcmに変換するための乗数である。p型GaN層にドープするMgの濃度およびアンドープGaN層に形成される2次元正孔ガスの濃度P
s の選択によりこの条件を満たすことができる。すなわち、p型GaN層にドープされたMgの濃度をN
Mg[cm
-3]、p型GaN層にドープされたMgの電気的活性化率をrと表したとき、N
Mg×r×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]と表すことができる。rは一般的には0.01(1%)程度である。p型GaN層にドープするMgの濃度が高過ぎると、p型GaN層の結晶性が悪化し、ヘテロ接合バイポーラトランジスタの特性を悪化させるため、P
s を高くすることでN
Mgを低く抑えることが望ましい。例えば、ベースの正孔濃度として必要な1×10
13cm
-2の1/2、つまり5×10
12[cm
-2]を2次元正孔ガスで賄うとすると、言い換えるとP
s =5×10
12[cm
-2]とすると、N
Mg×r×b×10
-7≧5×10
12[cm
-2]であればよい。一般的には5×10
19[cm
-3]≦N
Mg≦9×10
19[cm
-3]である。一方、ヘテロ接合バイポーラトランジスタの動作時にベース−コレクタ間に逆バイアス電圧が印加された時、ベースが完全に空乏化してパンチスルーしてしまうのを防止するためには、p型GaN層の厚みは100nm以上であること、すなわちb≧100nmであることが必要である。例えば、b=100nmである場合、r=0.01=10
-2とすると、N
Mg×10
-2×100×10
-7≧5×10
12[cm
-2]が成立するためには、N
Mg≧5×10
19[cm
-3]であればよい。
【0011】
高濃度の2次元正孔ガスを得るためには、Al
x Ga
1-x N層のAl組成xおよび厚みt[nm]が下記式
【数1】
を満足するようにすればよい。ただし、式中のxは%表示した時の数値である。例えば、Al組成xが0.25である場合、式中のxは25である。また、式中、α、βは、必要な2次元正孔ガス濃度P
s に応じて決まる数値であり、後述のように計算により求められる。例えば、P
s ≧5×10
12[cm
-2]とする場合、α=11290、β=−1.865である。この場合、上式はt≧11290x
-1.865となる。Al組成xは、典型的にはAl
x Ga
1-x N層の全体で一定であるが、必要に応じて、例えば、厚み方向に変化させてもよい。Al
x Ga
1-x N層は、典型的にはアンドープであるが、必要に応じて、ドナー(n型不純物)、例えばSiが例えば1×10
16〜1×10
18cm
-3にドープされたn型Al
x Ga
1-x N層であってもよい。Al
x Ga
1-x N層は、場合によっては、アクセプタ(p型不純物)、例えばMgが極低濃度にドープされた殆どi型に近いp型Al
x Ga
1-x N層であってもよい。
【0012】
典型的には、第1のn型GaN層は第1のn
+ 型GaN層上に設けられ、第2のn型GaN層はp型GaN層上にメサ状に設けられ、第2のn型GaN層上に第2のn
+ 型GaN層が設けられる。また、典型的には、エミッタ電極は第1のn
+ 型GaN層の、第1のn型GaN層と反対側の面に設けられ、ベース電極は第2のn型GaN層が設けられていない部分のp型GaN層上に設けられ、コレクタ電極は第2のn
+ 型GaN層上に設けられる。第1のn
+ 型GaN層はオーミックコンタクト層であり、そのドナー濃度は、エミッタ電極がオーミックコンタクトすることができるように十分に高く選ばれる。p型GaN層のアクセプタ濃度は、ベース電極がオーミックコンタクトすることができるように十分に高く選ばれる。第2のn
+ 型GaN層のドナー濃度は、コレクタ電極がオーミックコンタクトすることができるように十分に高く選ばれる。
【0013】
必要に応じて、Al
x Ga
1-x N層とアンドープGaN層との間に、Al
x Ga
1-x N層からアンドープGaN層に向かってAl組成yがxから0に単調に減少するAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層が設けられる。この場合、このAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層もエミッタを構成する。このAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層は、好適にはアンドープであるが、必要に応じて、ドナー(n型不純物)、例えばSiが例えば1×10
16〜1×10
18cm
-3にドープされたn型Al
x Ga
1-x N層であってもよい。このようにAl
x Ga
1-x N層とアンドープGaN層との間にAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層が設けられることにより、Al
x Ga
1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面における伝導帯および価電子帯の不連続を解消することができ、それによってヘテロ接合バイポーラトランジスタのコレクタ電流を増大させることができるとともに、出力特性におけるコレクタ電流が流れ始めるエミッタ−コレクタ間電圧のオフセットを解消することができる。Al
y Ga
1-y Nグレーデッド層のAl組成yは、xから0に直線的に減少してもよいし、曲線的に減少してもよい。このヘテロ接合バイポーラトランジスタは、必要に応じて、第2のn型GaN層と第2のn
+ 型GaN層との間に設けられたp型GaN層をさらに有する。このように第2のn型GaN層と第2のn
+ 型GaN層との間にp型GaN層が設けられていることにより、このヘテロ接合バイポーラトランジスタの動作時における第2のn型GaN層のエネルギーバンドの傾斜が減少し、それによって第2のn型GaN層に印加される電界が緩和される。このため、第2のn型GaN層における谷間散乱および光学フォノン散乱の抑制を図ることができ、ひいてはヘテロ接合バイポーラトランジスタの高速化を図ることができる。
【0014】
このヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいては、このヘテロ接合バイポーラトランジスタの特性を損なわない限り、必要に応じて、上記の各層の間に、何らかの機能を有する中間層が設けられていてもよい。
【0015】
この発明は、
少なくとも一つの半導体素子を有し、
前記半導体素子が、
第1のn型GaN層と、
前記第1のn型GaN層上のAl
x Ga
1-x N層(0.1≦x≦0.5)と、
前記Al
x Ga
1-x N層上の、厚みが20nm以上のアンドープGaN層と、
前記アンドープGaN層上の、厚みが100nm以上のMgがドープされたp型GaN層と、
前記p型GaN層上の第2のn型GaN層と、
前記第1のn型GaN層に電気的に接続されたエミッタ電極と、
前記p型GaN層に電気的に接続されたベース電極と、
前記第2のn型GaN層に電気的に接続されたコレクタ電極とを有し、
前記第1のn型GaN層および前記Al
x Ga
1-x N層によりエミッタが構成され、前記アンドープGaN層および前記p型GaN層によりベースが構成され、前記第2のn型GaN層によりコレクタが構成され、
非動作時において、前記Al
x Ga
1-x N層と前記アンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における前記アンドープGaN層に2次元正孔ガスが形成され、
前記p型GaN層の厚みをb[nm]、前記p型GaN層の正孔濃度をp[cm
-3]、前記2次元正孔ガスの濃度をP
s [cm
-2]と表したとき、p×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]であるヘテロ接合バイポーラトランジスタである電気機器である。
【0016】
ここで、電気機器は、およそ電気を用いるもの全てを含み、用途、機能、大きさなどを問わないが、例えば、電子機器、移動体、動力装置、建設機械、工作機械などである。電子機器は、例えば、通信機器、ロボット、コンピュータ、ゲーム機器、車載機器、家庭電気製品(エアコンディショナーなど)、工業製品、携帯電話、モバイル機器、IT機器(サーバーなど)、太陽光発電システムで使用するパワーコンディショナー、送電システムなどである。移動体は、鉄道車両、自動車(電動車両など)、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船などである。取り分け、電子機器としては、移動通信システムの次世代基地局、航空管制レーダー、ミリ波による透視検査装置、無線電力送信器、粒子加速器などに用いられる高出力パワー増幅器が挙げられる。
【0017】
上記の電気機器の発明においては、その性質に反しない限り、上記のヘテロ接合バイポーラトランジスタの発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、ベースの正孔濃度が1×10
13[cm
-2]以上と十分に高く、しかもベースを構成するp型GaN層の厚みが100nm以上であることにより、動作時にベース−コレクタ間に100V以上の電圧が印加されても、ベース−コレクタ間でベース側がパンチスルーしてしまうのを効果的に防止することができるとともに、ベース抵抗を十分に低くすることができ、それによってヘテロ接合バイポーラトランジスタの電流増幅率の向上を図ることができる。また、ベースの正孔濃度の一部を高濃度の2次元正孔ガスにより賄うことができるので、p型GaN層にドープするMgの濃度を過度に高くする必要がなく、そのためp型GaN層の結晶性を良好にすることができ、それによってヘテロ接合バイポーラトランジスタの特性の向上を図ることができる。また、Al
x Ga
1-x N層とMgがドープされたp型GaN層との間に設けられた厚みが20nm以上のアンドープGaN層がMgの拡散防止層となることにより、p型GaN層中のMgがAl
x Ga
1-x N層に拡散するのを効果的に防止することができ、それによってエミッタ−ベース間のpn接合界面がAl
x Ga
1-x N層中に位置してしまうのを防止することができ、ひいてはベース無効電流の低減を図ることができる。また、コレクタが上側に位置するコレクタアップ構造を容易に得ることができることによりコレクタ容量を大幅に減少させることができ、それによってヘテロ接合バイポーラトランジスタの高速化を図ることができる。以上により、高周波パワー増幅や高周波パワースイッチングを容易に行うことができる高性能のヘテロ接合バイポーラトランジスタを実現することができる。そして、このヘテロ接合バイポーラトランジスタを用いることにより、高性能の電気機器を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施の形態と言う。)について説明する。
〈1.第1の実施の形態〉
[GaN系HBT]
第1の実施の形態によるGaN系HBTについて説明する。このGaN系HBTの基本構造を
図1に示す。
【0021】
図1に示すように、このGaN系HBTにおいては、n
+ 型GaN層11、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17が順次積層されている。n
+ 型GaN層11は、成長層により構成されることも、結晶成長に用いられるGaN基板により構成されることもある。これらのn
+ 型GaN層11、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17は、典型的には(0001)面方位(C面方位)であり、積層方向は[0001]方向であるが、これに限定されるものではない。n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17はp型GaN層15上に選択的に設けられており、メサ形状を有する。これらのn型GaN層16およびn
+ 型GaN層17は、例えば、一方向に延在するストライプ形状を有する。これらのストライプ形状のn型GaN層16およびn
+ 型GaN層17の延在方向は、典型的には[10−10]方向であるが、これに限定されるものではない。n
+ 型GaN層11、n型GaN層12、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17にドープされたドナー(n型不純物)は例えばSiである。p型GaN層15にはアクセプタ(p型不純物)としてMgがドープされている。アンドープAl
x Ga
1-x N層13のAl組成xは0.1以上0.5以下(10%以上50%以下)である。アンドープGaN層14は厚みが20nm以上、好適には30nm以上であり、p型GaN層15にドープされたMgがアンドープAl
x Ga
1-x N層13に拡散するのを防止するための拡散防止層の役割を有する。アンドープGaN層14の厚みは1000nm以下であることが望ましいが、一般的には100nm以下に選ばれる。p型GaN層15の厚みはこのGaN系HBTに要求される耐圧特性を考慮して選択されるが、少なくとも100nm以上あるいは190nm以上であり、一般的には800nm以下である。n
+ 型GaN層11の、n型GaN層12と反対側の面、すなわち裏面にエミッタ電極18がn
+ 型GaN層11にオーミックコンタクトして設けられている。エミッタ電極18は、n
+ 型GaN層11の裏面の一部に設けられてもよいし、n
+ 型GaN層11の裏面の全体に設けられてもよいが、
図1においては、n
+ 型GaN層11の裏面の一部に設けられている場合が図示されている。n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17が設けられていない部分のp型GaN層15上にベース電極19がオーミック接触して設けられている。n
+ 型GaN層17上にコレクタ電極20がオーミックコンタクトして設けられている。コレクタ電極20は、n
+ 型GaN層17の表面の一部に設けられてもよいし、n
+ 型GaN層17の表面の全体に設けられてもよいが、
図1においては、n
+ 型GaN層17の表面の一部に設けられている場合が図示されている。ベース電極19およびコレクタ電極20は、典型的には、ストライプ形状のn型GaN層16およびn
+ 型GaN層17と同じ方向に延在するストライプ形状を有する。この場合、n
+ 型GaN層11、n型GaN層12およびアンドープAl
x Ga
1-x N層13によりエミッタが構成され、アンドープGaN層14およびp型GaN層15によりベースが構成され、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17によりコレクタが構成され、これらのエミッタ、ベースおよびコレクタによりnpn型GaN系HBTが構成されている。n
+ 型GaN層11はサブエミッタと呼ばれることもあり、n
+ 型GaN層17はサブコレクタと呼ばれることもある。
【0022】
このGaN系HBTにおいては、非動作時(熱平衡状態)において、ピエゾ分極および自発分極により、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とn型GaN層11との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープAl
x Ga
1-x N層13に正の固定電荷21が誘起され、また、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAl
x Ga
1-x N層13に負の固定電荷22が誘起されている。このため、このGaN系HBTにおいては、非動作時に、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とn型GaN層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるn型GaN層12に2次元電子ガス(2DEG)23が形成され、かつ、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層14に2次元正孔ガス(2DHG)24が形成されている。
【0023】
このGaN系HBTにおいては、p型GaN層15の厚みをb[nm]、p型GaN層15の正孔濃度をp[cm
-3]、2次元正孔ガス24の濃度をP
s [cm
-2]と表したとき、p×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]の条件が満たされている。この条件は、p型GaN層15にドープされたMgの濃度をN
Mg[cm
-3]、p型GaN層15にドープされたMgの電気的活性化率をrと表すと、N
Mg×r×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]と表すことができる。r=10
-2とすると、N
Mg×10
-2×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]となる。また、後述のように、このGaN系HBTの動作時にベース−コレクタ間に逆バイアス電圧が印加された時、ベースが完全に空乏化してしまいベース側がパンチスルーしてしまうのを防止するために、b≧100[nm]に選ばれている。
【0024】
このGaN系HBTにおいては、アンドープAl
x Ga
1-x N層13のAl組成xおよび厚みt[nm]は、下記の式を満足するように選択されている。ただし、下記の式におけるxとしては%で表示したときの数値を用いる。例えば、x=0.25であれば下記の式におけるxとして25を用いる。
【数1】
α、βはどの程度の濃度の2DHG24を得るかによって決まり、後述のように、計算により求められる。例えば、2DHG24の濃度P
s を5×10
12cm
-2とするためには、α=11290、β=−1.865である。
【0025】
典型的には、ストライプ形状のn型GaN層16およびn
+ 型GaN層17は、互いに平行に複数設けられ、それぞれのn
+ 型GaN層17上にコレクタ電極20が設けられ、互いに隣接する一対のコレクタ電極20の間の部分におけるp型GaN層15上にそれぞれベース電極19が設けられる。これらのベース電極19およびコレクタ電極20は、典型的にはストライプ形状を有し、互いに平行に設けられる。そして、
図2に示すように、ベース電極19およびコレクタ電極20にそれぞれ接触するようにベースパッド電極25およびコレクタパッド電極26が設けられる。これらのベースパッド電極25およびコレクタパッド電極26の平面形状の一例を
図3に示す。また、
図4および
図5はそれぞれ、
図3のA−A’線およびB−B’線に沿っての断面図である。
図3に示すように、この例では、ベースパッド電極25およびコレクタパッド電極26は櫛型形状を有し、これらのベースパッド電極25およびコレクタパッド電極26のうちの櫛歯に相当する部分がそれぞれベース電極19およびコレクタ電極20上に設けられて接触している。
図4および
図5に示すように、ベースパッド電極25およびコレクタパッド電極26のうちの櫛歯に相当する部分以外の部分の下方には、実質的に電気的絶縁体として働く高抵抗層27が設けられている。高抵抗層27は、例えば、SiO
2 やSi
3 N
4 膜などの絶縁膜や、ホウ素(B)などのイオン注入層からなる。
【0026】
n
+ 型GaN層11、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17の厚みは必要に応じて選ばれるが、例えば、n
+ 型GaN層11は1〜10μm、n型GaN層12は0.2〜1μm、アンドープAl
x Ga
1-x N層13は20〜200nm、アンドープGaN層14は既に述べたように20〜100nm、より一般的には20〜50nm、p型GaN層15は既に述べたように0.1〜0.9μm、n型GaN層16は0.5〜5μm、n
+ 型GaN層17は0.05〜0.5μmである。また、n
+ 型GaN層11、n型GaN層12、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17のドナー濃度は必要に応じて選ばれるが、例えば、n
+ 型GaN層11は1×10
18〜1×10
19cm
-3、n型GaN層12は(0.5〜2)×10
18cm
-3、n型GaN層16は(0.5〜5)×10
16cm
-3、n
+ 型GaN層17は(1〜10)×10
18cm
-3である。また、p型GaN層15のMg濃度N
Mg(アクセプタ濃度N
A )[cm
-3]は、一般的には、(1〜9)×10
19cm
-3である。また、アンドープAl
x Ga
1-x N層13のAl組成xは必要に応じて選ばれるが、例えば0.1〜0.4である。エミッタ電極18およびコレクタ電極20は、少なくともその最下層がn型GaNにオーミックコンタクトする金属、例えばTiにより構成され、例えば、Ti/Al/Au積層膜により構成される。ベース電極19は、少なくともその最下層がp型GaNにオーミックコンタクトする金属、例えばNiにより構成され、例えば、Ni/Al積層膜により構成される。
【0027】
このGaN系HBTの一つの具体的構成例を説明すると、n
+ 型GaN層11は薄化されたn型GaN基板、n型GaN層11は厚み0.5μm、ドナー濃度1×10
18cm
-3、アンドープAl
x Ga
1-x N層13は厚み45nm、Al組成x=0.25、アンドープGaN層14は厚み20nm、p型GaN層15は厚み0.5μm、アクセプタ濃度5×10
19cm
-3(正孔濃度〜5×10
17cm
-3)、n型GaN層16は厚み1.0μm、ドナー濃度1×10
16cm
-3、n
+ 型GaN層17は厚み0.1μm、ドナー濃度5×10
18cm
-3である。また、エミッタ電極18およびコレクタ電極20はTi/Al/Au積層膜により構成され、ベース電極19はNi/Al積層膜により構成される。
【0028】
このGaN系HBTの非動作時のエネルギーバンド構造を
図6に示す。
図6中、E
c は伝導帯の下端のエネルギー、E
V は価電子帯の上端のエネルギー、E
F はフェルミエネルギーを示す。
図6に示すように、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とn型GaN層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるn型GaN層12に2DEG23が形成され、かつ、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層14に2DHG24が形成されている。
【0029】
[GaN系HBTの動作]
動作時にGaN系HBTに印加される電圧は、基本的には、一般的なnpn型バイポーラトランジスタと同様である。すなわち、エミッタ−ベース間のpn接合は順方向バイアスされ、ベース−コレクタ間のpn接合は逆方向バイアスされる。このGaN系HBTの動作時にベース−エミッタ間に電圧V
beが印加され、コレクタ−エミッタ間に電圧V
ceが印加されたときのエネルギーバンド構造を
図7に示す。電圧V
beが印加されることによりベース−エミッタ間のpn接合が順方向バイアスされ、エミッタを構成するn型GaN層12から電子がベースを構成するアンドープGaN層14およびp型GaN層15に注入される。こうして注入された電子はベース内を流れて逆バイアスされたベース−コレクタ間のpn接合に到達し、このpn接合を通ってコレクタに流れる。ベースを構成するp型GaN層15においては、エミッタを構成するn型GaN層12から注入された電子の一部は正孔と再結合して消滅する。
【0030】
[GaN系HBTの製造方法]
まず、
図8に示すように、例えば(0001)面(C面)方位のn型GaN基板31上に、従来公知のMOCVD(有機金属化学気相成長)法により、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17を順次成長させる。n型GaN基板31はn
+ 型GaN層11に対応するドナー濃度を有する。Ga原料としては例えばTMG(トリメチルガリウム)、Al原料としては例えばTMA(トリメチルアルミニウム)、窒素原料としては例えばNH
3 (アンモニア)、キャリアガスとしては例えばN
2 ガスおよびH
2 ガスが用いられる。また、成長温度は例えば1100℃程度である。
【0031】
次に、図示は省略するが、n
+ 型GaN層17の全面に例えばSiO
2 膜やSiN膜などの絶縁膜を形成した後、この絶縁膜上に所定形状のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてこの絶縁膜をエッチングすることにより所定形状にパターニングする。次に、この絶縁膜をマスクとして例えばホウ素(B)を所定の条件でn型GaN層12に達する深さまでイオン注入する。こうしてBがイオン注入された領域は高抵抗化し、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17の所定部分に高抵抗層27が形成される。
【0032】
次に、n
+ 型GaN層17上にストライプ形状のコレクタ電極20を形成する。具体的には、例えば、n
+ 型GaN層17の全面に真空蒸着法などによりコレクタ電極形成用の金属膜を形成し、この金属膜上にストライプ形状のレジストパターンを形成した後、このレジストパターンをマスクとして金属膜をエッチングによりパターニングする。こうして、ストライプ形状のコレクタ電極20が形成される。この後、レジストパターンを除去する。次に、このコレクタ電極20をマスクとしてn
+ 型GaN層17およびn型GaN層16を順次エッチングし、p型GaN層15を露出させる。このエッチングは、例えば塩素系エッチングガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)により行う。ここで、n
+ 型GaN層17およびn型GaN層16が完全にエッチングされた時点でエッチングが自動的に停止し、p型GaN層15がエッチングされないようにするために、必要に応じて、p型GaN層15とn型GaN層16との間にエッチング停止層あるいはエッチングの監視層(モニタリング層)が形成される。こうして、n
+ 型GaN層17およびn型GaN層16がコレクタ電極20と同様なストライプ形状にパターニングされる。このストライプ形状のコレクタ電極20、n
+ 型GaN層17およびn型GaN層16のパターンは[10−10]方向に複数、互いに平行に形成される(
図9参照)。次に、例えば真空蒸着法により全面にSiO
2 膜を形成した後、このSiO
2 膜上にベース電極19に対応する部分に開口を有する所定形状のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてSiO
2 膜を例えば誘導結合プラズマ(ICP)ガスエッチング法などによりエッチングする。こうして、コレクタ電極20を覆うSiO
2 膜32のみが残される。次に、ストライプ形状のn型GaN層16およびn
+ 型GaN層17の側壁部に形成されたエッチングダメージを除去するとともに、側壁の平坦性を確保するため、ウエットエッチングによりn型GaN層16およびn
+ 型GaN層17の側壁部を選択的にエッチングする。エッチング液としては、例えば、KOHとTMAH(Tetra-methyl-ammonium acid) との混合溶液を用いる。次に、n
+ 型GaN層17に対するコレクタ電極20のオーミックコンタクト特性の向上やp型GaN層15にドープされたMgの電気的活性化のために熱処理を行う。コレクタ電極20がTi/Al/Au積層膜により構成される場合、この熱処理は、例えば、窒素ガス(N
2 )中、750℃、5分間の条件で行う。
【0033】
次に、
図10に示すように、n型GaN基板31に垂直な方向から真空蒸着を行うことによりベース電極形成用の金属膜33を形成した後、p型GaN層15上に形成された金属膜33のp型GaN層15に対するオーミックコンタクト特性の向上のために熱処理を行う。ベース電極19がNi/Au積層膜により構成される場合、この熱処理は、例えば、N
2 ガス中、500℃、1分間の条件で行う。次に、ウエットエッチングによりSiO
2 膜32を除去し、このSiO
2 膜32上の金属膜33を除去する。こうして、
図11に示すように、p型GaN層15上にのみ、金属膜33からなるベース電極19が形成される。
【0034】
次に、真空蒸着法などにより全面にSiO
2 膜やポリイミド膜などの絶縁膜34を形成した後、この絶縁膜34上にフォトリソグラフィーによりベースパッド電極形成部およびコレクタパッド電極形成部に対応する部分に開口を有するレジストパターンを形成する。次に、n型GaN基板31に垂直な方向から真空蒸着を行うことにより電気メッキの下地金属となるAu膜などの金属膜(図示せず)を全面に形成した後、レジストパターンを除去することによりその上に形成された金属膜を除去する。次に、下地金属となるこの金属膜上に電気メッキによりAu層などのメッキ層を選択的に形成する。メッキ層の厚みは例えば1μm程度である。こうして、ベース電極19と電気的に接続されたベースパッド電極25およびコレクタ電極20と電気的に接続されたコレクタパッド電極26が形成される。
【0035】
次に、n型GaN基板31の裏面側から研削加工、研磨加工などを施し、最終的にウエットエッチングを施すことにより所定の厚みに薄化する。こうして薄化されたn型GaN基板31によりn
+ 型GaN層11が構成される。この後、このn
+ 型GaN層11の裏面に真空蒸着法などによりエミッタ電極形成用の金属膜を形成し、必要に応じてこの金属膜をパターニングする。こうして、エミッタ電極18が形成される。ここで、n
+ 型GaN層11の裏面はGaN結晶のN原子が配列したN面であるため、エミッタ電極形成用の金属膜を形成した後に熱処理(合金化処理)を行わないでも低抵抗のオーミックコンタクトを実現することができる。
【0036】
以上により、目的とするGaN系HBTが製造される。
【0037】
このGaN系HBTの別の製造方法について説明する。
【0038】
この製造方法においては、GaN系半導体層の成長に従来公知のPENDEO法を用いる。すなわち、
図12に示すように、まず、サファイア基板などの絶縁基板やSi基板などのベース基板41の主面をエッチングによりパターニングしてストライプ形状の凸部41aを互いに平行に複数形成する。凸部41aの高さおよび幅は必要に応じて選ばれる。次に、これらの凸部41aを除いたベース基板41の主面にSiO
2 膜やSiN膜などの絶縁膜42を形成する。この際、凸部41aの上部が露出するようにする。次に、MOCVD法により、n
+ 型GaNを成長させる。この際、最初にまず、凸部41aの上部の側壁にn
+ 型GaNが成長し、このn
+ 型GaNが横方向(ベース基板41の主面に平行な方向)に成長するとともに、縦方向にも成長し、n
+ 型GaN層11が成長する。このn
+ 型GaN層11には、互いに隣接する二つの凸部41aの側壁からそれぞれ横方向成長した二つの成長層が合体した界面(成長層合体面)に転位などの結晶欠陥(
図12中、×で示す)が発生する。次に、このn
+ 型GaN層11上にn型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17を順次成長させる。n
+ 型GaN層11の合体面に発生した結晶欠陥は、これらのn型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17にも引き継がれる。互いに隣接する二つの成長層合体面に挟まれた領域のn
+ 型GaN層11、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17は高品質の結晶層となる。次に、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17を所定形状にパターニングする。次に、例えばSiO
2 膜やSiN膜などの絶縁膜を全面に形成した後、この絶縁膜上に所定形状のレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてこの絶縁膜をエッチングすることにより所定形状にパターニングする。次に、この絶縁膜をマスクとして例えばホウ素(B)を所定の条件でイオン注入する。こうして、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17が除去された部分におけるn
+ 型GaN層11、n型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14およびp型GaN層15と、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17が残された部分のn型GaN層12、アンドープAl
x Ga
1-x N層13、アンドープGaN層14、p型GaN層15、n型GaN層16およびn
+ 型GaN層17とにそれぞれ、Bのイオン注入層からなる高抵抗層27が形成される。次に、上述の製造方法と同様にしてn
+ 型GaN層17上にコレクタ電極20を形成するとともに、p型GaN層15上にベース電極19を形成し、コレクタ電極20とベース電極19との間の部分にSiO
2 膜などの絶縁膜43を形成する。
【0039】
次に、
図13に示すように、ベース基板41を剥がし、さらにn
+ GaN層11の裏面を研磨して平坦化した後、こうして平坦化された裏面にエミッタ電極18を形成する。
【0040】
図示は省略するが、この後、上述の製造方法と同様にしてベースパッド電極25およびコレクタパッド電極26を形成する。
【0041】
以上により、目的とするGaN系HBTが製造される。
【0042】
ここで、ベースの正孔濃度を1×10
13[cm
-2]以上、すなわち、p×b×10
-7+P
s ≧1×10
13[cm
-2]とする根拠を説明する。
【0043】
GaN系HBTにおいては、ベースの正孔濃度は、ベースポテンシャルを高く維持するためにできるだけ高いことが望ましい。しかし、ベースを構成するp型GaN層15の成長中に高濃度のMgをドープすると、そのMgがヘテロ界面を越えてエミッタを構成するアンドープAl
x Ga
1-x N層13側に拡散することから、pn接合界面がアンドープAl
x Ga
1-x N層13中に移動し、無効なベース電流の増加により増幅率β=I
c /I
b が低下する。従って、ベース−コレクタ間のヘテロ接合の近くに、Mgに依らないで正孔を生成させることは高性能GaN系HBTに不可欠であるが、このGaN系HBTにおいては、p型GaN層15とアンドープAl
x Ga
1-x N層13との間にMgの拡散防止層となるアンドープGaN層14を設けていることによりアンドープAl
x Ga
1-x N層13へのMgの拡散を防止するとともに、このアンドープGaN層14に2DHG24を形成していることにより、この課題が解決されている。
【0044】
次に、GaN系HBTのオフ時(ベース−エミッタ間電圧V
be=0V)には、逆バイアス電圧の印加によりベース/コレクタのpn接合が空乏化するが、ベースポテンシャルを維持するために、ベースは高濃度の正孔が必要とされる。ベースポテンシャルが低下すると、いわゆるパンチスルー現象によりエミッタ電流が制御できなくなる。
【0045】
一般に、pn接合に関し、空乏層幅Wと印加電圧V
t 、アクセプタ濃度N
A およびドナー濃度N
D との関係は、
W=[(2ε/q){(1/N
A )+(1/N
D )}V
t ]
で表される。ここで、εはGaNの誘電率、qは電子電荷の絶対値であり、アクセプタおよびドナーとも電気的活性化率は100%と仮定している。パンチスルーとの関係で、空乏層の広がりを見積もる。今、アクセプタ濃度N
A が1×10
18cm
-3、ドナー濃度N
D が5×10
16cm
-3とする。印加電圧V
t を100Vとすると、上式より、W〜1500nmである。上式より、ドナー濃度が低いコレクタ側に空乏層が伸びるが、ベース側にも5×10
16/1×10
18=1/20程度の割合で伸び、従って、1500/20〜75nm空乏化する。このことより、ベース側にパンチスルーしないためには、p型GaN層15の厚みとして概略100nm程度以上必要である。従って、大雑把な見積もりでは、耐圧100Vの高周波GaN系HBTのp型GaN層15の厚みは、正孔濃度p〜1×10
18cm
-3とすると、100nm程度以上となる。ここで、ベース中の正孔の総量(面濃度)は1×10
18×100×10
-7=1×10
13cm
-2である。
【0046】
結論として、ベースの正孔濃度が1×10
13cm
-2以上であることがこの高周波GaN系HBTに必要な条件である。
【0047】
Mgのドーピングによりp型GaN層15の正孔濃度を1×10
18cm
-3とするためには、Mgの電気的活性化率が1%程度であるので、Mg濃度は1×10
20cm
-3を必要とする。このような高濃度のMgドーピングを行うとp型GaN層15の結晶性が悪化し、p型GaN層15での電子・正孔再結合を引き起こし、電流増幅率を低下させてしまうため、p型GaN層15のMg濃度は1×10
20cm
-3より低くすることが望ましい。そのためには、高濃度のMgドーピングに依らないで正孔濃度を高くすることが必須となる。これを実現するために、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14とによりヘテロ接合を形成し、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層14に2DHG24を形成し、その2DHG24の正孔を利用している。
【0048】
2DHG24の正孔濃度を高くすることが重要であるが、アンドープAl
x Ga
1-x N層13のAl組成xおよび厚みt[nm]を既に述べたように選択する根拠を説明する。
【0049】
[実験]
アンドープAl
x Ga
1-x N層13のAl組成xおよび厚みt[nm]と2DHG24の正孔濃度との関係を調べるために、実験およびシミュレーションにより考察を検討を行った。
【0050】
そのために次のようにして試料を作製した。
【0051】
まず、
図14に示すような層構造を形成した。
図14に示すように、(0001)面、すなわちC面サファイア基板51上に、MOCVD法により、Ga原料としてTMG、Al原料としてTMA、窒素原料としてNH
3 、キャリアガスとしてN
2 ガスおよびH
2 ガスを用いて、低温成長(530℃)GaNバッファ層(図示せず)を厚み30nm積層した後、成長温度を1100℃に上昇させ、厚み800nmのアンドープGaN層52、厚み40nmでx=0.27のAl
x Ga
1-x N層53、厚み80nmのアンドープGaN層54、Mg濃度が5.0×10
19cm
-3で厚み50nmのMgドープのp型GaN層55およびMg濃度が2.0×10
20cm
-3で厚み3nmのMgドープのp
+ 型GaNコンタクト層56を順次成長させた。Al
x Ga
1-x N層53とアンドープGaN層52との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層52に2DEG57が形成され、かつ、Al
x Ga
1-x N層53とアンドープGaN層54との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層54に2DHG58が形成されている。
図1に示すGaN系HBTとの関係では、アンドープGaN層52がn型GaN層12に、Al
x Ga
1-x N層53がアンドープAl
x Ga
1-x N層13に、アンドープGaN層54がアンドープGaN層14に、2DEG57が2DEG23に、2DHG58が2DHG24にそれぞれ対応する。
【0052】
この
図14に示す層構造を用い、2DHGの濃度(以下、cm
-2を単位とする濃度はシート濃度、cm
-3を単位とする濃度は体積濃度を意味する)を測定するために、
図15および
図16A〜Cに示すホール(Hall)素子を作製した。ここで、
図15はこのホール素子の上面図、
図16A、BおよびCはそれぞれ、
図15のA−A’線、B−B’線およびC−C’線に沿っての断面図である。アンドープGaN層54の途中の深さまでエッチングして、2DEG57および2DHG58の濃度を測定した。2DHG58の濃度の測定には、アンドープGaN層54の四隅のp
+ 型GaNコンタクト層56の上に形成した4個のp電極59を用いる。2DEG57の濃度の測定には、Al
x Ga
1-x N層53の四隅の上に形成した4個の電極60を用いる。
【0053】
測定結果を表1に示す。試料No.1は、アンドープGaN層54の残し厚みが60nm、試料No.2は、アンドープGaN層54の残し厚みが40nm、試料No.3は、アンドープGaN層54の残し厚みが5nmである。表1より、試料No.1および試料No.2では、分極超接合(PSJ)効果によって、2DEG57および2DHG58が誘起・蓄積されていることが分かる。試料No.3では正孔に対するホール電圧が発生せず、測定できなかった。
【0055】
試料No.2の2DHG濃度は試料No.1の2DHG濃度よりも少ないことから、2DHG濃度はアンドープGaN層54の厚みに依存していることが明らかになった。これは、アンドープGaN層54の表面ピンニング(pinning)効果およびドナー型準位(電子放出型)または正孔トラップ準位の存在によるものである。2DHG58の生成量とAl
x Ga
1-x N層53およびアンドープGaN層55の構成との関係を調べ、その関係を定量的に調べた。
【0056】
[モデル計算と実測2DHG濃度との比較]
Al
x Ga
1-x N層53/アンドープGaN層54からなる分極超接合の層構成と2DHG濃度との関係を導出するためにバンド計算を行った。すなわち、
図16の積層方向に沿った一次元モデルについて計算を行った。シミュレータソフトはシルバコ社のアトラスを用いた。
図17に、計算されたアンドープGaN層54(厚み60nm)/Al
x Ga
1-x N層53(x=0.27、厚み40nm)/アンドープGaN層52の平衡状態におけるバンド図を、
図18に2DHGおよび2DEGの濃度プロファイルを示した。アンドープGaN層52とAl
x Ga
1-x N層53との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAl
x Ga
1-x N層53に誘起される正の固定電荷(分極電荷)およびAl
x Ga
1-x N層53とアンドープGaN層54との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるAl
x Ga
1-x N層53に誘起される負の固定電荷(分極電荷)によりそれぞれバンド曲りが生じ、Al
x Ga
1-x N層53とアンドープGaN層54との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層54に2DHGが誘起され、Al
x Ga
1-x N層53とアンドープGaN層52との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層52に2DEGが誘起されている。2DHG濃度はピーク濃度が1×10
20cm
-3、2DEG濃度はピーク濃度が6×10
19cm
-3で、いずれもヘテロ界面から離れるに従って指数関数的に減少している。アンドープGaN層52の深いところで2DEG濃度が1×10
15cm
-3で一定値となっているのは、アンドープGaN層52のアンドープレベルを計算の都合上、1×10
15cm
-3に設定したからであり、このようにしてもこれからの議論には特に問題は発生しない。
【0057】
キャリア濃度の深さ方向の積分値がシートキャリア濃度を表す。シートキャリア濃度としての2DHG濃度を
図19に示す。
図19は、横軸にアンドープGaN層54の厚みをとり、縦軸に2DHG濃度をとったものである。
図19に試料No.1および試料No.2の2DHG濃度をプロットした。
【0058】
図19により、シミュレーション結果(バンド計算による計算値) は実測値をよく再現しており、シミュレーションで用いたモデル物性パラメータ(詳細は示していない)は、実用的な分極超接合構造を探索する目的において必要条件を満足していることが分かる。
【0059】
さて、
図19より、シミュレーションでは、アンドープGaN層54の厚みが7nmの場合、2DHG濃度が1×10
12cm
-2程度と計算されている。この領域では、アンドープGaN層54の厚みの減少に対して2DHG濃度が急激に減少していて、5nmでは0.6×10
12cm
-2であった。これに対応する試料の実測は不可能であった。この原因は、試料の2DHG濃度が上記の0.6×10
12cm
-2だとしても、正孔移動度を3cm
2 /Vs程度と仮定すると、シート抵抗値は、1/neμ=1/(0.6×10
12×1.6×10
-19 ×3)〜3.5MΩ/□となってホール測定は困難な値であるからである。ここで、nはシート濃度、eは電子電荷の絶対値、μは正孔移動度である。実測できなかったもう一つの原因は、エッチングによりメサ部を形成する際に発生するエッチング損傷がアンドープGaN層54とAl
x Ga
1-x N層53とのヘテロ界面にまで到達していて2DEG濃度を更に減少させている可能性も考えられる。このことは、実際のデバイス作製では、アンドープGaN層54の残し厚みには限界があり、5nmでは不足であることを示している。更に、たとえ表面損傷の効果がないとしても、素子作製時のエッチングの精度等を考慮すれば、やはり、アンドープGaN層54の残し厚みには制限があり、実用的には10nm以上が必要であると考えられる。
【0060】
また、2DHG濃度としては、1×10
11cm
-2でも、原理的には問題ないが、p型GaN層15のMg濃度を高くし過ぎないでもベースの正孔濃度を1×10
13[cm
-2]以上とするためには、2DHG濃度は最低でも1×10
12cm
-2以上とするのが望ましく、より高くするのがより望ましい。また、アンドープGaN層54の厚みは、厚い方が2DHG濃度が大きくなり望ましいが、余りに厚いと、素子製作が困難となる。従って、アンドープGaN層54の厚みは、望ましくは1000nm以下である。これがアンドープGaN層14の厚みを1000nm以下とすることが望ましいとした理由である。
【0061】
[アンドープGaN層54/アンドープAl
x Ga
1-x N層53からなる分極超接合構造におけるアンドープAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtと2DHG濃度との関係を調べる計算]
アンドープGaN層54の厚みaをパラメータとして、a=10nm、50nm、100nm、1000nmと取り、Al
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtを変化させた場合の2DHG濃度を計算した。ここで、xは0.05〜0.5(5〜50%)の範囲内で0.05ずつ変化させ、tは5〜10nmの範囲内では1nmずつ変化させ、10〜100nmの範囲内では5nmずつ変化させ、xの各値とtの各値とを組み合わせたマトリックス状に計算した。以下に述べるAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtの計算結果は、そのまま、このGaN系HBTのアンドープAl
x Ga
1-x N層13のAl組成xおよび厚みtについて適用することができる。
【0062】
図20に、アンドープGaN層54の厚みaが10nmのときの、アンドープAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みt(nm)に対する2DHG濃度の計算値の表を示す。なお、言うまでもないが、
図20中、例えば「1.03E+12」は1.03×10
12を意味する(
図21〜
図23においても同様)。
図21に、アンドープGaN層54の厚みaが50nmのときの同様な2DHG濃度の計算値の表を示す。
図22に、アンドープGaN層54の厚みaが100nmのときの同様な2DHG濃度の計算値の表を示す。
図23に、アンドープGaN層54の厚みaが1000nmのときの同様な2DHG濃度の計算値の表を示す。
【0063】
図20〜
図23に示される2DHG濃度の分布状況を調べると、xが大きい程、そしてtが大きい程、2DHG濃度が増加していることが分かる。このうち、1.00×10
12cm
-2の濃度を与えるxおよびtの値を抽出する。但し、
図20〜
図23中、2DHG濃度が1.00×10
12cm
-2近辺のセルを太線で囲んで示してある。表のセルの値が正確に1.00×10
12cm
-2でないので、そのセルの前後の値から按分したxおよびtの値を取り出した。
【0064】
図24は、そのようにして、2DHG濃度=1×10
12cm
-2の値を示す(t,x)の点を
図20〜
図23からピックアップして、(x,t)座標平面にプロットしたものである。
図24中の各々の点の右側(または上側)の領域が2DHG濃度≧1×10
12cm
-2なる範囲である。これを見れば、アンドープGaN層54の厚みaが小さい場合、1×10
12cm
-2以上の2DHG濃度を得るためのAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtは大きいことが理解できる。アンドープGaN層54の厚みaが100nm以上と大きくなると2DHG濃度の変化は飽和してゆくことが分かった。これは、アンドープGaN層54の厚みaが増加しても、アンドープGaN層54とAl
x Ga
1-x N層53とのヘテロ界面付近のバンド形状が変化しないからであると解釈される。
【0065】
さて、
図24に示されているアンドープGaN層54の厚みaの各々の系列の座標値(x,t)を表現する近似式を求めよう。この近似式は、2DHG濃度として1×10
12cm
-2を与える近似曲線を表す。この近似式を
【数2】
で表す。ここで、αおよびβはアンドープGaN層54の厚みaの関数となっている。
【0066】
そうすると、
図24において点線で示される曲線がフィットし、そのときの(1)式のパラメータαおよびβの値は表2に示すようになる。
【0068】
従って、アンドープGaN層54の、10nm以上1000nm以内の範囲の任意の厚みaに対し、式(1)によって、Al
x Ga
1-x N層53のAl組成xに対して2DHG濃度=1×10
12cm
-2を与えるAl
x Ga
1-x N層53の厚みtが与えられる。一方、このGaN系HBTにおいては、アンドープGaN層14上にp型GaN層15が積層されているが、2DHG濃度に関しては、それは、アンドープGaN層14の厚みが非常に大きくなったものと等価と考えてよい。従って、2DHG濃度が1×10
12cm
-2以上を与えるAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtに関しては、表2のα、βのうち、a=1000nmの時のα、βの値を採用して
t[nm]≧641x
-1.196(ただし、x≧10%)
である。
【0069】
次に、2DHG濃度P
s =4×10
12cm
-2または5×10
12cm
-2を与えるAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtの関係式を求める。
【0070】
まず、
図20〜
図23のデータより、P
s =4×10
12cm
-2を与えるAl組成xおよび厚みtは表3に示すようになる。
【0071】
表3
x(%) t(nm)
15 57.80
20 31.75
25 21.73
30 16.42
35 13.11
40 10.63
45 9.05
50 7.83
【0072】
表3のデータを
図25にプロットした。プロット点に対して
【数3】
によってフィッティングすると、α=4390、β=−1.631が得られた。従って、2DHG濃度P
s が4×10
12cm
-2以上を与えるAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtは
t[nm]≧4390x
-1.631
である。
【0073】
次に、
図20〜
図23のデータより、P
s =5×10
12cm
-2を与えるAl組成xおよび厚みtは表4に示すようになる。
【0074】
表4
x(%) t(nm)
15 85.0
20 39.2
25 24.0
30 18.4
35 14.3
40 11.8
45 9.77
50 8.34
【0075】
表4のデータを
図25にプロットした。プロット点に対して(2)式によってフィッティングすると、α=11290、β=−1.865が得られた。従って、2DHG濃度P
s が5×10
12cm
-2以上を与えるAl
x Ga
1-x N層53のAl組成xおよび厚みtは
t[nm]≧11290x
-1.865
である。
【0076】
次に、アンドープGaN層14の厚みを20nm以上とする根拠について説明する。
図14に示す試料について、2次イオン質量分析(SIMS)によりMgの深さ分布を測定した。その結果を
図26に示す。
図26に示すように、Mg濃度が5×10
19cm
-2のp型GaN層55の下20nm、言い換えるとp型GaN層55とアンドープGaN層54との界面から20nmの深さにおけるアンドープGaN層54中のMg濃度は1.0×10
16cm
-3程度に減少しており、SIMS検出限界に近いことが確認された。このことから、厚みが20nm以上のアンドープGaN層がMgの拡散防止層として働くことが分かる。これがアンドープGaN層14の厚みを20nm以上とした根拠である。
【0077】
ここで、このGaN系HBTのベース−コレクタ間の最大印加電圧について検討する。
図27は、このGaN系HBTのp型GaN層15とn型GaN層16とのpn接合の電界分布を示す。
図27の縦軸は電界E、横軸はp型GaN層15およびn型GaN層16の厚み方向の距離である。p型GaN層15の正孔濃度はp=1×10
18cm
-3、n型GaN層16の電子濃度はn=5×10
16cm
-3とする。例えば、コレクタを構成するn型GaN層16の厚みが1.5μm(1500nm)の場合、ベース−エミッタ間電圧V
be=0V(オフ状態)でベース−コレクタ間電圧V
ce=100Vを印加したとき、n型GaN層16が完全に空乏化し、ベース−コレクタ界面に印加される最大電界強度E
max はE
max =2×100/(1.5×10
-4)=1.3MV/cmとなるが、これは理論破壊電界(3.3MV/cm)よりもはるかに小さい。
【0078】
このGaN系HBTがV
t =400Vのパワースイッチング素子として使用できるか調べた。V
ceに400−100=300Vが上乗せされると、E
max はE
max =1.3+2=3.3MV/cmとなるが、電界が3.3MV/cmとなる範囲は極短い距離であるから、使用可能と考えられる。しかし、ベース側、すなわちp型GaN層15側の空乏層は(3.3/1.3)×75=190nmに延びるから、p型GaN層15の厚みbはそれ以上にする必要がある。また、n型GaN層16の厚みが0.5μmのGaN系HBTでは、E
max =1.3MV/cmに抑えるとすると最大印加電圧は56Vであり、E
max =3.3MV/cmまで可能とすると、最大印加電圧は100+56=156Vとなる。p型GaN層15の厚みbは190nm以上にする必要があることは上記と同様である。
【0079】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、p型GaN層15にドープするMgの濃度の選定と、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との分極超接合においてアンドープGaN層14に形成される2DHG24の濃度との選定によりベースの正孔濃度が1×10
13cm
-2以上に設定されているだけでなく、p型GaN層15の厚みが100nm以上に設定されているため、GaN系HBTのオフ時にベース−コレクタ間のpn接合に100V程度の逆方向バイアス電圧が印加されても、パンチスルーが発生するのを効果的に防止することができる。また、ベースの正孔濃度が1×10
13cm
-2以上と十分に高いので、ベース抵抗を十分に低くすることができ、ひいてはGaN系HBTの電流増幅率の向上を図ることができる。また、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とp型GaN層15との間に厚みが20nm以上のアンドープGaN層14が設けられていることにより、p型GaN層15にドープされたMgがアンドープAl
x Ga
1-x N層13に拡散するのを防止することができ、それによってpn接合界面がアンドープAl
x Ga
1-x N層13中に移動してしまうのを防止することができ、ひいては無効なベース電流が流れるのを防止することができる。また、このGaN系HBTはコレクタアップ構造を有するため、コレクタ容量を大幅に減少させることができ、ひいてはこのGaN系HBTの高速化を図ることができる。以上により、高周波パワー増幅や高周波パワースイッチングを容易に行うことができ、しかも高耐圧かつ高出力の高性能のパワーGaN系HBTを実現することができる。例えば、コレクタの厚みが1μmである場合、耐圧が200V以上、トランジション周波数f
t が100GHz以上、電流増幅率β=I
c /I
b が100以上の、高周波パワー増幅可能な極めて高性能のGaN系HBTを実現することができる。また、コレクタの厚みが10μmである場合、耐圧が2000V以上、コレクタ電流の立ち上がり時間および立ち下がり時間が数ns以下、電流増幅率β=I
c /I
b が100以上の、高周波パワースイッチング可能な極めて高性能のGaN系HBTを実現することができる。そして、この高性能のGaN系HBTを用いることにより、高性能の電気機器を実現することができる。
【0080】
〈2.第2の実施の形態〉
[GaN系HBT]
第2の実施の形態によるGaN系HBTについて説明する。このGaN系HBTの基本構造を
図28に示す。
【0081】
図28に示すように、このGaN系HBTは、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間に、アンドープAl
x Ga
1-x N層13からアンドープGaN層14に向かってAl組成yがxから0に単調に、例えば直線的または曲線的に増加するAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層71が設けられていることを除いて、第1の実施の形態によるGaN系HBTと同様な構造を有する。このようにアンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間にAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層71が設けられていることにより、非動作時のエネルギーバンドは
図29に示すようになる。
図29に示すように、Al
y Ga
1-y Nグレーデッド層71とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面では、Al
y Ga
1-y Nグレーデッド層71のyは0であり、従ってAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層71はアンドープGaN層14と組成が一致し、また、Al
y Ga
1-y Nグレーデッド層71とアンドープAl
x Ga
1-x N層13との間のヘテロ界面では、Al
y Ga
1-y Nグレーデッド層71のyはxであり、従ってAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層71はアンドープAl
x Ga
1-x N層13と組成が一致する。このため、Al
y Ga
1-y Nグレーデッド層71とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面およびAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層71とアンドープAl
x Ga
1-x N層13とのヘテロ界面において伝導帯および価電子帯は連続となっている。
【0082】
[GaN系HBTの動作]
第2の実施の形態によるGaN系HBTの動作方法は、基本的に第1の実施の形態によるGaN系HBTと同様である。
【0083】
[GaN系HBTの製造方法]
第2の実施の形態によるGaN系HBTの製造方法は、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間にAl
y Ga
1-y Nグレーデッド層71を形成することを除いて第1の実施の形態によるGaN系HBTの製造方法と同様である。
【0084】
この第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて次のような利点を得ることができる。すなわち、アンドープAl
x Ga
1-x N層13とアンドープGaN層14との間のヘテロ界面における伝導帯の不連続(ΔE
c )が解消されていることにより、
図30に示すように、このヘテロ界面における伝導帯および価電子帯にΔE
c が存在する場合に比べてコレクタ電流を増大させることができる。
図30中、I
c はコレクタ電流を示す。また、
図31に示すように、ΔE
c が存在する場合には、GaN系HBTの出力特性、すなわちコレクタ−エミッタ間電圧(V
ce)−コレクタ電流(I
c )曲線にコレクタ−エミッタ間電圧のオフセットが生じるのに対し、ΔE
c が存在しないこの第2の実施の形態によれば、コレクタ−エミッタ間電圧のオフセットを解消することができる。
【0085】
〈3.第3の実施の形態〉
[GaN系HBT]
第3の実施の形態によるGaN系HBTについて説明する。このGaN系HBTの基本構造を
図32に示す。
【0086】
図32に示すように、このGaN系HBTは、n型GaN層16とn
+ 型GaN層17との間にp型GaN層81が設けられていることを除いて第1の実施の形態と同様な構造を有する。p型GaN層81の厚みおよびアクセプタ濃度は必要に応じて選ばれるが、例えば、厚みは5〜20nm、アクセプタ濃度は(1〜8)×10
19cm
-3である。このGaN系HBTの動作時のエネルギーバンドは
図33に示すようになる。
図33に示すように、n型GaN層16とn
+ 型GaN層17との間にp型GaN層81が設けられていることにより、p型GaN層81が設けられていない場合に比べて、n
+ 型GaN層17のエネルギーバンドの傾斜が大幅に減少している。p型GaN層81の厚みを5〜20nmと小さくすることにより、p型GaN層13を通り抜けてn型GaN層16に到達した電子はこのp型GaN層81をバリスティック(ballistic)に突き抜けてn
+ 型GaN層17に到達することにより、このGaN系HBTの高速化を図ることができる。
【0087】
[GaN系HBTの動作]
第3の実施の形態によるGaN系HBTの動作方法は、基本的に第1の実施の形態によるGaN系HBTと同様である。
【0088】
[GaN系HBTの製造方法]
第3の実施の形態によるGaN系HBTの製造方法は、n型GaN層16とn
+ 型GaN層17との間にp型GaN層81を形成することを除いて第1の実施の形態によるGaN系HBTの製造方法と同様である。
【0089】
この第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様な利点に加えて次のような利点を得ることができる。すなわち、
図33に示すように、n
+ 型GaN層17のエネルギーバンドの傾斜が大幅に減少していることにより、n
+ 型GaN層17に印加される電界が大幅に緩和されている。このため、n
+ 型GaN層17における谷間散乱(intervalley scattering)および光学フォノン散乱(optical phonon scattering)を抑制することができ、それによってGaN系HBTの高速化を図ることができる。
【0090】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0091】
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、形状、材料などを用いてもよい。