特許第6202422号(P6202422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6202422-高分子電解質の製造方法 図000023
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202422
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】高分子電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/00 20060101AFI20170914BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20170914BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170914BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20170914BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20170914BHJP
【FI】
   C08G61/00
   H01M8/02 P
   H01B13/00 Z
   H01B1/06 A
   !H01M8/10
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-17384(P2013-17384)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-148588(P2014-148588A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2016年1月7日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/劣化機構解析とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早野 哲二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 政廣
(72)【発明者】
【氏名】宮武 健治
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/148814(WO,A1)
【文献】 特開2009−275219(JP,A)
【文献】 特開2010−238374(JP,A)
【文献】 特開2010−013517(JP,A)
【文献】 特開2011−042745(JP,A)
【文献】 特開2012−129175(JP,A)
【文献】 特開2005−082748(JP,A)
【文献】 特開2012−229418(JP,A)
【文献】 特表2007−503513(JP,A)
【文献】 特開2013−131490(JP,A)
【文献】 特開2013−253142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であり、数平均分子量1万以下のオリゴマーを含む固体の高分子電解質を、少なくとも2種の高分子電解質の貧溶媒を用いて洗浄する工程を含む、高分子電解質の製造方法であって、
前記貧溶媒として、アルコール系溶媒および非プロトン性溶媒を使用し、
前記高分子電解質が、少なくとも下記式(1)
【化1】
(式中、Arはベンゼン環、ナフタレン環、またはそれらの環を形成する炭素がヘテロ原子へと置換されたものを示し、Xは水素または陽イオンを示す。aおよびbは、それぞれ0〜4の整数である。また、a+bは1以上である。mは1以上の整数を示し、nは0以上の整数を示す。)
で示される構造を有する、高分子電解質の製造方法。
【請求項2】
スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であり、数平均分子量1万以下のオリゴマーを含む固体の高分子電解質を、少なくとも2種の高分子電解質の貧溶媒を用いて洗浄する工程を含む、高分子電解質の製造方法であって、
前記貧溶媒として、アルコール系溶媒および非プロトン性溶媒を使用し、
前記高分子電解質が、下記式(2)
【化2】
(式中、Arはベンゼン環、ナフタレン環、またはそれらの環を形成する炭素がヘテロ原子へと置換されたものを示す。mは1以上の整数を示し、nは0以上の整数を示す。YはSO、C(CH、またはC(CFであり、Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)および/または下記式(3)
【化3】
(式中、Ar、m、nは前記式(2)と同様である。YはCO、SO、C(CH、またはC(CFであり、Yとは異なる。Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)
で示される構造を有し、式(2)で示される構造成分Aモルに対し、式(3)で示される構造成分Bモルが、B/(A+B)が0〜0.95を満たす、高分子電解質の製造方法。
【請求項3】
スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であり、数平均分子量1万以下のオリゴマーを含む固体の高分子電解質を、少なくとも2種の高分子電解質の貧溶媒を用いて洗浄する工程を含む、高分子電解質の製造方法であって、
前記貧溶媒として、アルコール系溶媒および非プロトン性溶媒を使用し、
前記高分子電解質が、下記式(7)
【化4】
(式中、Arはベンゼン環、ナフタレン環、またはそれらの環を形成する炭素がヘテロ原子へと置換されたものを示し、Xは水素または陽イオンを示す。aおよびbは、それぞれ0〜4の整数である。また、a+bは1以上である。mは1以上の整数を示し、nは0以上の整数を示す。Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。Wは直接結合、CO、SO、C(CH、またはC(CFである。)
で示される構造を主鎖に含む、高分子電解質の製造方法。
【請求項4】
前記非プロトン性溶媒がハロゲン系溶媒である、請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質の製造方法。
【請求項5】
前記数平均分子量1万以下のオリゴマーが、ハロゲン元素により置換された炭化水素化合物および/または不飽和結合を含む炭化水素化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質の製造方法、およびその製造方法により得られる高分子電解質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性置換基を含有する高分子電解質は、燃料電池、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料として使用される。これらの中でも、燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。プロトン伝導性置換基を有する高分子電解質を使用する固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴から、自動車などの移動体、家庭用コンジェネレーションシステム、および民間用小型携帯機器などへの適用が検討されている。例えば、メタノールを直接燃料に使用する直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、単純な構造、燃料供給やメンテナンスの容易さ、高エネルギー密度などの特徴を有し、リチウムイオン二次電池代替として、携帯電話やノート型パソコンなどの民間用小型携帯機器への応用が期待されている。また、固体高分子形燃料電池(PEFC)は電気自動車や家庭用電源として適している。
【0003】
これらPEFCやDMFCは通常80℃以下の温度で運転されるが、高性能化のために、触媒活性、触媒被毒、廃熱利用の点から120℃以上かつ低加湿条件下で運転することが求められている。そのため、PEFCやDMFCに用いられる電解質は、高温でも膜強度を維持するもの、および低加湿条件下でも高いプロトン伝導度を発現するものが求められている。しかしながら、現在主流であるフッ素系電解質膜(パーフルオロアルキルスルホン酸高分子であるナフィオン、アシプレックス、フレミオン等の膜)は、100℃以上で膜強度が低下するなど耐熱性に課題がある。
【0004】
このような問題を解決するため、芳香族化合物を用いた高分子電解質が数多く研究されており、例えば、スルホン酸エステルを有するモノマーと疎水部用オリゴマーを重合したポリアリーレン系の高分子電解質が知られている。しかし、これらの電解質は脱離基を有するモノマーあるいはオリゴマーと遷移金属を用いて調製されるため、重合後のポリマーに脱離基や金属由来の不純物、さらに反応に用いた金属錯体の配位子が残存する恐れがある。そのため、精製が不十分な高分子電解質を燃料電池内部に使用した場合、触媒や高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因になることが知られている。例えば膜中に金属が残存した場合はラジカル発生源となる。また、系中で過酸化物の発生を引き起こし、これにより膜の劣化が進行することが知られている。金属錯体の配位子やハロゲンイオンが残存した場合、触媒の活性を低下させる触媒被毒が起こり、電圧が低下するなどの影響が見られる。例えば、カソード触媒層中にハロゲンアニオンが存在すると、電位によって触媒と化学的に結合するため触媒は活性を失う。金属錯体の配位子としては、触媒への強い相互作用を示すものとして、不飽和結合を有する化合物がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、重合後のポリマー溶液を、スルホン酸基を有するポリアリーレンの貧溶媒中に投入し、スルホン酸基を有するポリアリーレンを析出させて回収し、各金属不純物を100ppm以下に除去する方法が記載されている。この方法では、一旦析出させたスルホン酸基を有するポリアリーレンを再度溶解、析出させる必要があるなど操作が煩雑であり、水系溶媒のみで洗浄している。また、特許文献2には、金属不純物を含有する高分子電解質を、硫酸を含む溶媒に溶解させ、不純物含量が低下した電解質を取り出す精製方法が記載されている。しかし、スルホン化されやすい芳香環は硫酸と反応する可能性が高く、使用できる高分子電解質が限定されるのみならず、この方法も水系の洗浄操作のみである。また、例えば、特許文献3には、ソックスレー抽出器を用いた洗浄操作によって、炭化水素系電解質中のハロゲン元素の含有量を1×10−6mol/g以下にする例が記載されている。
【0006】
このように、従来の精製方法は金属不純物やハロゲン不純物に関する精製法に限られており、それ以外の触媒や電極の劣化要因となる分子の除去に関しては検討されていない。また、不飽和結合を有する化合物は、金属やハロゲン元素と溶解度が異なるため、従来の精製方法では十分に除去できない可能性があった。
【0007】
例えば、高分子電解質を調製する際にビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)などの遷移金属錯体を使用した場合、従来の精製方法ではハロゲン元素や金属不純物の除去が不十分である事に加え、配位性の有機分子が残存する場合があった。本発明者らがこれらの不純物が残存した場合における燃料電池発電時の電圧低下の現象を分析したところ、反応に使用した不純物に加え、高分子電解質中で配位子として使用していた有機分子が変性して数平均分子量1万以下のオリゴマーが生じ、これらが燃料電池用触媒の触媒毒となって発電時の電圧が低下することがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−239833号公報
【特許文献2】特開2009−187933号公報
【特許文献3】特開2009−43457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高分子電解質に含まれる、数平均分子量が1万以下のオリゴマーを含む化合物の含有量を低減させる、高分子電解質の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、更なる鋭意検討を重ねたところ、高分子電解質をすくなくとも2種の高分子電解質の貧溶媒で洗浄することにより、高分子電解質に含まれていた、燃料電池用の触媒と相互作用する、数平均分子量1万以下のオリゴマーを低減させるだけでなく、その他不純物をも効率的に除去でき、電圧低下を抑制した高分子電解質を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、数平均分子量1万以下のオリゴマーを含む高分子電解質を、少なくとも2種の高分子電解質の貧溶媒を用いて洗浄する工程を含む、高分子電解質の製造方法に関する。
【0012】
前記高分子電解質の貧溶媒として、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。
【0013】
前記プロトン性溶媒がアルコール系溶媒であることが好ましい。
【0014】
前記非プロトン性溶媒がハロゲン系溶媒であることが好ましい。
【0015】
前記数平均分子量1万以下のオリゴマーが、ハロゲン元素により置換された炭化水素化合物および/または不飽和結合を含む炭化水素化合物であることが好ましい。
【0016】
前記高分子電解質が、少なくとも下記式(1)
【化1】
(式中、Arはベンゼン環、ナフタレン環、またはそれらの環を形成する炭素がヘテロ原子へと置換されたものを示し、Xは水素または陽イオンを示す。aおよびbは、それぞれ0〜4の整数である。また、a+bは1以上である。mは1以上の整数を示し、nは0以上の整数を示す。)
で示される構造を有することが好ましい。
【0017】
前記高分子電解質が、下記式(2)
【化2】
(式中、Arはベンゼン環、ナフタレン環、またはそれらの環を形成する炭素がヘテロ原子へと置換されたものを示す。mは1以上の整数を示し、nは0以上の整数を示す。YはSO、C(CH、またはC(CFであり、Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)および/または下記式(3)
【0018】
【化3】
(式中、Ar、m、nは前記式(2)と同様である。YはCO、SO、C(CH、またはC(CFであり、Yとは異なる。Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)
で示される構造を有し、式(2)で示される構造成分Aモルに対し、式(3)で示される構造成分Bモルが、B/(A+B)が0〜0.95を満たすことが好ましい。
【0019】
本発明はまた、本発明の製造方法で得られる高分子電解質に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の高分子電解質の製造方法によれば、燃料電池の発電時における電圧低下が抑制された高分子電解質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1に係る発電試験の電圧維持率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではないことを念のため付言しておく。
【0023】
(1.高分子電解質の製造方法)
本発明の製造方法は、数平均分子量1万以下のオリゴマーを含む高分子電解質を、少なくとも2種の高分子電解質の貧溶媒を用いて洗浄する工程を含む。
【0024】
ここで使用する貧溶媒は、ポリマーの貧溶媒であって、その他重合に使用したモノマーやオリゴマー、金属化合物含有物を溶解する溶媒であればよく、プロトン性溶媒および非プロトン性溶媒が挙げられる。プロトン性溶媒としては、アルコール系溶媒などが挙げられる。非プロトン性溶媒としては、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒などが挙げられる。炭化水素系溶媒としては、ベンゼン、トルエン、n−ヘキサン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノールイソプロピルアルコール、ブタノール等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1,1−トリクロロエタン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルtert−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、プロトン性溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が、また、非プロトン性溶媒としてジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒から選択されることが、不純物の溶解度の高さから好ましい。特に、2種の貧溶媒として、第一の貧溶媒及び第二の貧溶媒のいずれか一方がプロトン性溶媒であり、もう一方が非プロトン性溶媒であることが精製効果から特に好ましい。
【0025】
また、洗浄の際、第一の貧溶媒と第二の貧溶媒を混合した溶媒を洗浄に用いても、別々に洗浄に用いても良い。洗浄効率に優れる点から貧溶媒毎、つまり、別々に洗浄することが好ましい。
【0026】
第一の貧溶媒の量は適宜設定すればよく、具体的にはポリマーの仕込み量1重量部に対して0.1重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。また、1000重量部以下が好ましく、500重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。0.1重量部よりも少ないと、電解質と溶媒が十分接触しない可能性があり、1000重量部より多くても洗浄効果の向上は僅かである。
【0027】
第二の貧溶媒の量は適宜設定すればよく、具体的にはポリマーの仕込み量1重量部に対して0.1重量部以上が好ましく、1重量部以上がより好ましい。また、1000重量部以下が好ましく、500重量部以下がより好ましく、100重量部以下がさらに好ましい。0.1重量部よりも少ないと、電解質と溶媒が十分接触しない可能性があり、1000重量部より多くても洗浄効果の向上は僅かである。
【0028】
高分子電解質の洗浄条件としては、高分子電解質中の不純物濃度を効率的に下げられるものであればよく、具体的には、好ましくは0℃〜150℃、より好ましくは30℃〜100℃で、また、好ましくは洗浄溶媒当り10分〜10時間、より好ましくは30分〜2時間撹拌する。0℃より低いと十分な洗浄効果が得られない場合があり、また、150℃より高いと副反応が起きる場合がある。また、10分より短いと十分な洗浄効率が得られない場合があり、10時間より長くても洗浄効果が薄い。
【0029】
高分子電解質の形状は、洗浄効果が高い表面積の大きなものであればよく、繊維状あるいは粉末状でもよい。好ましくは、より表面積の大きな粉末状である。
【0030】
洗浄前の高分子電解質は、燃料電池の触媒や電極への劣化作用を示す不純物として、分子量1万以下の化合物を含有している。このような化合物としては、例えば、重合に使用している遷移金属錯体由来の配位子や中心金属、重合後の工程で該配位子が反応しオリゴマー化した分子や、製造工程において使用した酸が配位子と反応した付加体などが挙げられる。その他、高分子電解質の原料化合物や、重合時に該化合物より生成するオリゴマー等の高分子量体に含まれなかったオリゴマー成分も挙げられる。また、親水性のオリゴマーについても燃料電池として使用している最中に流出する恐れがあり、触媒や電極への硫酸イオンの影響が懸念されることから予め除去しておくことが好ましい。また、よく知られているように、金属元素としては反応に使用した中心金属以外にも製造工程や原料からの混入が考えられ、例えば鉄、ニッケル、クロム、亜鉛、銅などが挙げられる。ハロゲン元素としては、モノマーやオリゴマーから重合時に脱離基として脱離したものや、酸洗浄工程で使用した塩酸の残渣としての塩素イオン、製造工程で混入した臭素イオンなどが挙げられる。
【0031】
上記の不純物には、数平均分子量1万以下のオリゴマーが含まれる。該オリゴマーとしては、金属錯体の配位子(例えば不飽和結合を有する化合物)が自己縮合して生成したオリゴマーやそのハロゲン化物、高分子電解質の原料オリゴマー、重合時に該原料オリゴマーより生成するオリゴマー等が挙げられる。
特に、不飽和結合を含む炭化水素化合物(例えば金属錯体の配位子である1,5−シクロオクタジエンから生成するオリゴマー)、該炭化水素化合物がハロゲン元素により置換されたもの等は、除去しておくことが好ましい。
【0032】
(2.高分子電解質)
本発明で使用する高分子電解質としては、下記式(1):
【化4】
(式中、Arはベンゼン環、ナフタレン環、またはそれらの環を形成する炭素がヘテロ原子へと置換されたものを示し、Xは水素または陽イオンを示す。aおよびbは、それぞれ0〜4の整数である。また、a+bは1以上である。mは1以上の整数を示し、nは0以上の整数を示す。)
【0033】
で示される構造を主鎖に有することが好ましい。ここで陽イオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの第1族の金属イオンや、マグネシウム、カルシウムなどの第2族の金属イオン、アルミニウムなどの第13族金属イオン、第3〜第12族の遷移金属の金属イオンが挙げられる。また、n/(m+n)は、0〜0.95であることが好ましく、0.30〜0.90であることがより好ましい。
【0034】
本発明で使用する高分子電解質において、式(1)で示される構造の総含有量は、全体の20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。上限については特に限定されない。20重量%未満では、十分なプロトン伝導性を有さなくなる可能性がある。ここで、高分子電解質の全体の重量とは、高分子電解質を酸で処理した後の、ポリマー中のスルホン酸基をSOHの状態にしたものの乾燥重量である。スルホン酸基を有する成分がいくつかある場合、H−NMRスペクトルなどの分析手法から成分比を求めることができる。
【0035】
前記式(1)で示される構造は、原料の入手の容易さの点で、Arがベンゼン環である、下記式(4):
【化5】
(式中、X、a、b、m、nは前記式(1)と同様である。)
で示される構造であることが好ましい。
【0036】
本発明で使用する高分子電解質としては、合成の容易さから、下記式(2)
【化6】
(式中、Ar、m、nは前記式(1)と同様である。YはSO、C(CH、またはC(CFであり、Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)および/または下記式(3)
【0037】
【化7】
(式中、Ar、m、nは前記式(1)と同様である。YはCO、SO、C(CH、またはC(CFであり、Yとは異なる。Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)
で示される構造を主鎖に有することが好ましい。また、式(2)で示される構造成分Aモルに対し、式(3)で示される構造成分Bモルが、B/(A+B)が0〜0.95を満たすことが好ましく、0〜0.60であることがより好ましい。また、n/(m+n)は、0〜0.95が好ましく、0.30〜0.90であることがより好ましい。
【0038】
式(2)および式(3)で示される構造の総含有量は、全体の20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。また、95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましく、80重量%以下であることがさらに好ましく、70重量%以下であることが特に好ましい。20重量%未満であると、耐水性が低下する傾向があり、95重量%を超えると、伝導性能が低下する傾向がある。
【0039】
前記式(2)および(3)で示される構造は、原料の入手の容易さの点で、それぞれArがベンゼン環であって、mとnがともに1である、下記式(5)
【化8】
(式中、Y、Zは前記式(2)と同様である。)
および下記式(6)
【化9】
(式中、Y、Zは前記式(3)と同様である。)
で示される構造であることが好ましい。
【0040】
本発明で使用する高分子電解質としては、加工性の容易さの点で、さらに前記式(1)とは異なる構造の下記式(7)
【化10】
(式中、Ar、X、a、b、m、nは、前記式(1)と同様であり、Zは前記式(2)と同様である。Wは直接結合、CO、SO、C(CH、またはC(CFである。)
で示される構造を主鎖に含んでもよい。また、n/(m+n)は、0〜0.95が好ましい。
【0041】
前記式(7)で示される構造を含む場合は、式(1)で示される構造と式(7)で示される構造の総含有量が全体の5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。上限については特に限定されないが、80重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましい。80重量%を超えると水への耐溶解性が低下し、5重量%未満では、加工性が低下する傾向がある。
【0042】
本発明で使用する高分子電解質としては、上記構造を主鎖に有していればランダム共重合体であってもよいし、グラフト共重合体やブロック共重合体でもよい。低加湿条件では高分子電解質膜内部の水が少なくなるが、プロトン伝導を高めるためにはプロトン伝導の媒体となる水を有効に利用する必要があり、そのためにはミクロ相分離構造を形成し、水の多い相を作り出すことのできるブロック共重合体であることがさらに好ましい。
【0043】
さらに、ミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体において、親水性の相と疎水性の相を相分離させることで親水性の相により多くの水を集めることが可能であることから、スルホン酸基を有する親水性セグメントとスルホン酸基を有さない疎水性セグメントからなるブロック共重合体であることが好ましい。
【0044】
スルホン酸基を有する親水性セグメントは、前記式(1)で示される構造を有することが好ましく、式(1)においてa、bおよびnが1である、下記式(8)
【化11】
(式中、Ar、X、mは前記式(1)と同様である。)
で示される構造を有することが好ましい。
【0045】
また、高分子電解質全体の重量の20重量%以上が前記式(1)で示される構造であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。上限については特に限定されない。20重量%未満では、水への耐溶解性が低下する傾向がある。
【0046】
スルホン酸基を有さない疎水性セグメントとしては、高分子量ポリマーが得やすい構造であることが好ましく、下記式(2)
【化12】
(式中、Ar、m、nは前記式(1)と同様である。YはSO、C(CH、またはC(CFであり、Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)および/または下記式(3)
【0047】
【化13】
(式中、Ar、m、nは前記式(1)と同様である。YはCO、SO、C(CH、またはC(CFであり、Yとは異なる。Zは直接結合、酸素、または硫黄を示す。)
で示される構造を含むものが、有機溶媒への溶解性が良好で高分子量ポリマーを得やすいため好ましい。
【0048】
式(2)および式(3)で示される構造の総含有量は、全体の20重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましい。また、95重量%以下であることが好ましく、90重量%以下であることがより好ましく、80重量%以下であることがさらに好ましく、70重量%以下であることが特に好ましい。20重量%未満であると、耐水性が低下する傾向があり、95重量%を超えると、伝導性能が低下する傾向がある。
【0049】
本発明で使用する高分子電解質としては、イオン交換容量が1.0〜4.0ミリ当量/gであるものが好ましく、1.2〜3.8ミリ当量/gであるものがより好ましく、1.4〜3.6ミリ当量/gであるものがさらに好ましい。
【0050】
また、本発明で使用する高分子電解質がグラフト共重合体やブロック共重合体である場合、親水性セグメントのイオン交換容量はプロトン伝導性の面から、1.0〜6.5ミリ当量/gが好ましく、5.3〜6.0ミリ当量/gがより好ましく、5.8〜6.0ミリ当量/gがさらに好ましい。
【0051】
また、本発明で使用する高分子電解質としては一部または全てのスルホン酸基は電子求引性基を有する芳香環上に存在することが好ましい。より好ましくは、下記式
【化14】
(式中、Xは水素か陽イオンである。Yは2価の電子求引性基を示し、例えばCO、SO、あるいはC(CFなどである。)
で示される構造であり、さらに好ましくは下記式
【0052】
【化15】
(式中、Xは水素か陽イオンである。Yは2価の電子求引性基を示し、例えばCO、SO、あるいはC(CFなどである。)
で示される構造であり、もっとも好ましくは下記式
【0053】
【化16】
(式中、Xは水素か陽イオンである。Yは2価の電子求引性基を示し、例えばCO、SO、あるいはC(CFなどである。)
で示される構造である。
【0054】
高分子電解質に含まれる重量比について、スルホン酸基を有する成分とスルホン酸基を有さない成分の重量比は高分子電解質のイオン交換容量から求めることができる。
【0055】
(3.高分子電解質の調製)
本発明で使用する高分子電解質の調製は、一般的な重合反応(「実験化学講座第4版 有機合成VII 有機金属試薬による合成」P353−366(1991)丸善株式会社)などを適用することができる。
【0056】
重合に用いる材料には脱離基を2箇所以上に有する化合物を用いることができ、ハロゲン基やスルホン酸エステル基などの脱離基を有する化合物を用いることができる。材料入手の点と反応性の点から、脱離基として塩素や臭素やヨウ素といったハロゲン基を2箇所に有する化合物であることが好ましい。
【0057】
材料の分子量は50〜1000000であることが好ましく、とくにスルホン酸基を有する親水性セグメントを形成する材料の分子量は100〜50000が好ましく、またスルホン酸基を有さない疎水性セグメントを形成する材料の分子量は1000〜100000が好ましい。これらの材料によって合成される高分子電解質の分子量は10000〜5000000が好ましく、より好ましくは20000〜1000000であることが高分子電解質膜を製造するための加工性と高分子電解質膜の強度が共に優れるため好ましい。
【0058】
重合反応は不活性ガス雰囲気下であれば、窒素ガス雰囲気下でもアルゴンガス雰囲気下でも行なうことができる。
【0059】
末端にハロゲン基などの脱離基を有する材料同士の重合反応を実施する場合、ゼロ価遷移金属錯体の共存下に実施することが好ましい。上記ゼロ価遷移金属錯体は遷移金属にハロゲン元素や配位子が配位したものであり、市販品でも別途多価金属錯体から調製したものでもいずれも使用できる。
【0060】
ゼロ価遷移金属錯体の調製方法は、例えば、遷移金属塩や遷移金属酸化物と配位子とを反応させる方法や、遷移金属化合物を亜鉛やマグネシウムなどの還元剤でゼロ価とする方法等の公知の方法が挙げられる。調製したゼロ価遷移金属錯体は、調製した系から取り出して使用してもよいし、そのままin situで使用してもよい。
【0061】
ゼロ価遷移金属錯体としては、例えば、ゼロ価ニッケル錯体、ゼロ価パラジウム錯体、ゼロ価白金錯体、ゼロ価銅錯体が挙げられる。これら遷移金属錯体の中でもゼロ価ニッケル錯体、ゼロ価パラジウム錯体が好ましく用いられ、ゼロ価ニッケル錯体がより好ましく用いられる。具体的には、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)、(エチレン)ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が挙げられる。中でも、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)が、反応性、得られるポリマー等の収率、得られるポリマー等の高分子量化という点から好ましい。
【0062】
ゼロ価遷移金属錯体を用いた縮合反応の際、得られるポリマーの収率向上の観点から、配位子として該ゼロ価遷移金属と共に錯体を形成し得る化合物を反応系に添加することが好ましい。添加する化合物は使用したゼロ価遷移金属錯体の配位子と同じであっても異なっていてもよい。具体的には、汎用性、経済性、反応性、得られるポリマー等の収率、得られるポリマーの高分子量化の点でトリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジルが好ましい。特に、ポリマーの収率向上や高分子量化の点で2,2’−ビピリジルを用いることが好ましい。配位子の添加量は、ゼロ価遷移金属錯体にある遷移金属原子を基準として、0.2〜10モル倍程度が好ましく、1〜5モル倍程度がより好ましい。
【0063】
ゼロ価遷移金属錯体の使用量は、重合に使用するモノマー等の脱離基を有する化合物の総モル量に対して、0.1モル倍以上であることが好ましい。使用量が過少であると、生成するポリマーの分子量が小さくなる傾向があり、より好ましくは1.5モル倍以上、さらに好ましくは1.8モル倍以上、より一層好ましくは2.1モル倍以上用いる。一方、使用量の上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると配位子に由来する低分子量不純物の除去処理が煩雑になり、これらが高分子電解質の内部に混入した場合、電圧低下等の不具合の原因となるため、5.0モル倍以下であることが好ましい。
【0064】
重合反応における溶媒としては、重合を禁止するものでなければ特に制限は無く、カーボネート化合物(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、1−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(以下DMI)等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル等)、非プロトン極性物質(N,N−ジメチルアセトアミド(以下DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下DMF)、ジメチルスルホキシド(以下DMSO)、スルホラン等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)などが列挙でき、中でも溶解度からDMAcやDMF、NMP、DMI、DMSO等が、ポリマーの溶解性が高いため好ましい。なかでもDMAcとDMSOが溶解性の高さからより好ましく、これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶媒中に微量存在する水を取り除くため、ベンゼンやトルエン、キシレン、シクロヘキサンなどの共沸溶媒を添加して水を共沸により除くことが有効である。
【0065】
重合工程の反応温度は適宜設定すればよい。具体的には0〜200℃が好ましく、より好ましくは20〜170℃であり、さらに好ましくは40〜140℃である。0℃よりも低温であれば反応速度が遅く、200℃よりも高温であれば微量不純物などの影響を大きく受け、高分子の着色や副反応が起きる場合がある。
【0066】
高分子電解質をブロック共重合体として合成する場合、スルホン酸基を有する親水性セグメントを形成する材料として、脱離基を2箇所以上に有する化合物を用いることができる。脱離基としてはハロゲン基やスルホン酸エステル基などが挙げられる。好ましくは芳香環上に脱離基を有する化合物が好ましく、材料の入手の容易さからジクロロベンゼン誘導体、ジクロロベンゾフェノン誘導体、ジクロロフェニルスルホン誘導体がより好ましい。
【0067】
スルホン酸基を有さない疎水性セグメントを形成する材料として、脱離基を2箇所以上に有する化合物を用いることができる。脱離基としてはハロゲン基やスルホン酸エステル基などが挙げられる。好ましくは芳香環上に脱離基を有する化合物が好ましく、材料の入手の容易さからジクロロベンゼン誘導体、ジクロロベンゾフェノン誘導体、ジクロロフェニルスルホン誘導体、或いは少なくともこれらを原料として合成され、脱離基を2箇所以上に有するポリマーがより好ましい。疎水性セグメントを形成する材料がポリマーである場合、分子量は1000〜100000であることが好ましい。
【0068】
本発明におけるような高分子電解質を合成する場合、親水性セグメントおよび疎水性セグメント材料に含まれるカルボニル基の一部、または全てを保護することで剛直性を低下させ、より高分子量のポリマーを得ることができる。
【0069】
カルボニル基の保護とは、有機合成で一般的に行なわれる方法であり、合成の過程においてカルボニル基が不利に働く場合に一時的に性質の異なる官能基へと変換することである。通常、カルボニル基を保護したものは脱保護によりカルボニル基へ変換することが可能である。
【0070】
カルボニル基の保護には、例えば一般的な方法として(Theodora W. Greene著の「Protective Groups in Organic Synthesis Third Edition」p.293−368(1999)John Wiley & Sons,Inc.)を適用することができる。保護はモノマーの段階、オリゴマーの段階、ポリマーの段階のいずれでも行なうことができる。
【0071】
カルボニル基の保護は、具体的な例としてはカルボニル基をアルコールと反応させることでアセタールまたはケタールへと変換する方法がある。例えば、特開2007−59374号公報の方法などが挙げられる。他の例としてはカルボニル基をアミンと反応させてイミンまたはケチミンへと変換する方法がある。例えば、「Macromolecules 1994,27,2354−2356」に記載の方法などが挙げられる。いずれも脱保護の方法としては例示した文献記載の方法などを用いることができる。ここで挙げたアセタールやケタール、イミン、ケチミンは加水分解性があり、水を含む溶媒中で脱保護をすることができる。一般的には脱保護を加速するために酸性条件下で行なう。
【0072】
具体的には前記式(1)のカルボニル基を保護して、CR、またはC=NRへと変換する方法がある。R及びRはアルコキシ基あるいはアリーロキシ基を示し、CRは環状構造を成していてもよい。またR3はアルキル基あるいはアリール基を示す。
【0073】
脱保護する場合は、水または酸性水溶液に接触させると容易に脱保護することができる。さらに脱保護は加工の容易さの点から、フィルム形状で行なうことが好ましい。カルボニル基の保護は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれの段階で行なってもよいが、脱保護はポリマーの段階で行なうことが好ましい。
【0074】
重合工程後の処理として、必要に応じて高分子電解質を酸で洗浄する。ここで使用する酸としては、ポリマーの末端をプロトン化できる酸であればよく、例えば無機酸としては硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、フルオロスルホン酸などが挙げられ、有機酸としては、酢酸、ギ酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが挙げられる。
【0075】
使用する酸の濃度は反応に応じて適宜設定すればよく、具体的には0.1〜20Nが好ましい。より好ましくは、0.5〜15Nであり、さらに好ましくは1〜12Nである。0.1Nより薄いと精製効果が不十分となり、20Nより濃いと後の洗浄が煩雑となる。
【0076】
洗浄に用いる酸の量は適宜設定すればよく、具体的にはポリマーの仕込み量1重量部に対して、0.1〜1000重量部が好ましく、より好ましくは1〜500重量部であり、さらに好ましくは1〜100重量部である。0.1重量部よりも少ないと、析出した固体が十分酸と接触しない可能性があり、1000重量部よりも多いと水洗工程での酸の除去が煩雑になる可能性がある。
【0077】
本発明の製造方法により得られる高分子電解質膜は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については特に制限されるものではないが、高分子電解質膜、膜/電極接合体、燃料電池に好適である。
【0078】
(4.燃料電池用電解質膜)
本発明の製造方法により得られる高分子電解質を用いて、燃料電池用電解質膜を調製することができる。この高分子電解質膜は、上述の高分子電解質を膜形状(フィルム形状)に加工したものである。このような製膜方法としては、公知の方法が適宜適用される。上記公知の方法としては、例えば、ホットプレス法、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、キャスト法、エマルション法などの溶液からの製膜方法が例示されうる。例えば溶液からの製膜方法としては、キャスト法が例示される。これは粘度を調整した高分子電解質の溶液を、ガラス板などの平板上に、バーコーター、ブレードコーターなどを用いて塗布し、溶媒を気化させて膜を得る方法である。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に塗布し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的である。
【0079】
さらに高分子電解質の分子配向などを制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子電解質膜の機械強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス布織布などの補強剤と高分子電解質とをプレスにより複合化させたりしてもよい。
【0080】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚みは薄いほどよい。一方、得られた高分子電解質膜のガス遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚みは1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、取り扱いが容易であり、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。また、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0081】
なお、高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質中に架橋構造などが導入でき、さらに性能が向上する場合がある。また、プラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
調製した高分子電解質の分子量、金属残存量、イオン残存量の測定方法を以下に示す。
【0083】
<分子量の測定>
調製したオリゴマーや高分子電解質の分子量はGPC法により測定し、標準ポリスチレン試料を用いた換算値から算出した。
GPC測定装置 東ソー社製HLC−8220
カラム 昭和電工社製 SuperAW4000、SuperAW2500の2本を直列に接続
カラム温度 40℃
移動相 NMP(LiBr 10mmol/dm
流量 0.3mL/min
検出器 RI検出器
【0084】
<ICP−MS法による金属含有量の測定>
前処理として、試料を秤量後、硫酸及び硝酸を加えてマイクロウェーブ分解装置にて加圧酸分解した。分解液25mLを定容し、ICP−MS法により分析した。
装置 アジレント・テクノロジー社製 Agilent 7500CX
【0085】
<イオンクロマト法による塩素濃度分析>
前処理法 燃焼管燃焼法
前処理装置 三菱化学アナリテック社製AQF−2100H
IC測定装置 日本ダイオネクス社製ICS−2000
カラム IonPac AG18、AS18
溶離液 KOHグラジエント
流量 1.0mL/min
検出器 電気伝導度検出器
【0086】
<膜電極接合体の製造>
本発明における電解質膜の発電性能を測定するために必要な膜電極接合体は、加熱圧接機(テスター産業株式会社製)を用いて次の手順で作製した。
最初に、SUS板、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート(100mm×100mm×0.3mm)、アノード側ガス拡散電極(22mm×22mm)、ガス拡散電極部分を切り抜いたPTFEシート(100mm×100mm×0.2mm)、高分子電解質膜(実施例および比較例)、触媒層部分を切り抜いたPTFEシート(100mm×100mm×0.2mm)、カソード側ガス拡散電極(22mm×22mm)、PTFEシート(100mm×100mm×0.3mm)およびSUS板の順に積層した。この積層物を150℃に加熱した加圧板に設置した後、50kgf/cm、5分間保持の条件で加熱圧接することによって作製した。
<PEFC発電特性評価>
前記膜電極接合体を用いて燃料電池単セルを組み立てた。最初に、アノード側エンドプレート、ガスフロープレート、PTFEガスケット(0.20mm)、膜電極接合体、PTFEガスケット(0.20mm)、ガスフロープレート、エンドプレートの順に積層した。次に、M3のボルトを用いて2Nmで締め付けることによって、燃料電池単セルを作製した。続いて、前記単セルを電子負荷装置(PLZ164WA、菊水電子工業社製)を搭載した評価装置に設置した後に、セル温度80℃にて、燃料(水素、84ml/min、100%RH)をアノード側に供給した。また、酸化剤(空気、400ml/min、100%RH)をカソード側に供給した。次に、電子負荷装置を定電流モードに設定し、前記膜電極接合体を含む燃料電池の電圧0.5Vで24時間保持し、PEFCのコンディショニングを行った。最後に、セル温度80℃にて、燃料(水素、83ml/min、53%RH)をアノード側に供給し、酸化剤(空気、272ml/min、53%RH)をカソード側に供給し、0.2A/cmでの発電特性を評価した。
【0087】
(合成例1)
4,4’−ジクロロベンゾフェノン50.2gと30%発煙硫酸270gを混合し、130℃にて6時間反応させた。反応終了後、室温に戻し、NaCl水(500ml)に注いだ。析出した固体を濾取し、水(500ml)中に加えNaOHにて中和した。系中の固体を濾取した後、減圧乾燥することで目的物を81.1g(収率89%)にて白色固体として得た。
【0088】
(合成例2)
リービッヒ冷却管とDean−Stark管、メカニカルスターラーを備え、窒素パージしている三口フラスコに、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(31.6g)と4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(21.42g)、炭酸カリウム(20.78g)、DMAc(200ml)およびトルエン(50ml)を加えた。この溶液を140℃のオイルバス加熱条件下にて3時間攪拌した後、170℃に昇温し、さらに24時間攪拌した後、室温まで冷却した。反応液をメタノール中に滴下し、生じた白色沈殿を濾取した。水中に固体を入れ、水相を中和した後、60℃にて1時間攪拌した。濾過後、再度60℃の水で洗浄し、さらにメタノール60℃で洗浄した。濾取した固体を70℃にて真空乾燥することで目的物のオリゴマーを白色固体として得た。
【0089】
(合成例3)
リービッヒ冷却管とDean−Stark管、メカニカルスターラーを備え、窒素パージしている三口フラスコに、合成例1で得たスルホン化モノマー12gと合成例2で得たオリゴマー8gと2,2’−ビピリジン11.56gとDMSO240mlとトルエン60mlを加えた。これを170℃のオイルバス加熱条件下にて還流させて系中の水分を除去後、トルエンも除き60℃まで冷却した。ここに、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル20gを加えた後、80℃にて3時間反応させて重合溶液を得た。
【0090】
(実施例1)
合成例3の反応終了後、重合溶液をメタノール1000mlに注ぎ固体を析出させた。室温下にて1時間攪拌した後、固体を濾取した。得られた固体を濃塩酸800mlで酸処理した後、洗液が中性になるまで固体を水洗し、105℃にて減圧乾燥することで目的の高分子電解質を15.1g得た。この高分子電解質の分子量はMn=122,000、Mw/Mn=2.77であった。
【0091】
得られた電解質を細かく粉砕した後、第一の貧溶媒としてジクロロメタンを135ml用いて加熱還流条件下にて1時間撹拌後、固体を濾取した。次に第二の貧溶媒としてメタノールを100ml用いて室温下にて1時間撹拌した。洗浄後の高分子電解質を70℃の加熱条件下減圧乾燥することで、精製後の固体を得た。
【0092】
得られた高分子電解質0.7gをDMSO20mlに溶解した後、溶液をガラス基板上に流延塗布し、80℃にて15時間減圧乾燥した後、さらに100℃にて18時間減圧乾燥した。これを室温下6Nの塩酸で2時間の洗浄を3回繰り返した後、1時間の水洗を2回繰り返し、60℃の乾燥機で乾燥することで高分子電解質膜を得た。
【0093】
(実施例2)
合成例3の反応終了後、重合溶液をイソプロピルアルコール1000mlに注ぎ固体を析出させた。室温下にて1時間攪拌した後、固体を濾取した。得られた固体を濃塩酸800mlで酸処理した後、洗液が中性になるまで固体を水洗し、105℃にて減圧乾燥することで目的の高分子電解質を15g得た。この高分子電解質の分子量はMn=109,000、Mw/Mn=2.32であった。
【0094】
得られた電解質を細かく粉砕した後、第一の貧溶媒としてジクロロメタンを135ml用いて加熱還流条件下にて1時間撹拌後、固体を濾取した。次に第二の貧溶媒としてメタノールを100ml用いて室温下にて1時間撹拌した。洗浄後の高分子電解質を70℃の加熱条件下減圧乾燥することで、精製後の固体を得た。
得られた高分子電解質を実施例1と同様に高分子電解質膜とし、各種評価を実施した。
【0095】
(実施例3)
合成例3の反応終了後、重合溶液を濃塩酸600mlに注ぎ固体を析出させた。室温下にて攪拌した後、固体を濾過した。洗液が中性になるまで固体を水洗し、105℃にて減圧乾燥することで目的の高分子電解質を14.8g得た。この高分子電解質の分子量はMn=53,000、Mw/Mn=4.61であった。
【0096】
得られた電解質を細かく粉砕した後、第一の貧溶媒としてジクロロメタンを135ml用いて加熱還流条件下にて1時間撹拌後、固体を濾取した。次に第二の貧溶媒としてメタノールを100ml用いて室温下にて1時間撹拌した。洗浄後の高分子電解質を70℃の加熱条件下にて減圧乾燥することで、精製後の固体を得た。
得られた高分子電解質を実施例1と同様に高分子電解質膜とし、各種評価を実施した。
【0097】
(比較例1)
合成例3の反応終了後、重合溶液を濃塩酸600mlに注ぎ固体を析出させた。室温下にて1時間攪拌した後、固体を濾過し水洗後、105℃にて減圧乾燥することで目的の高分子電解質を得た。この高分子電解質の分子量はMn=105,000、Mw/Mn=2.34であった。
得られた高分子電解質を実施例1と同様に高分子電解質膜とし、各種評価を実施した。
【0098】
(比較例2)
合成例3の反応終了後、重合溶液を6N硫酸1000mlに注ぎ固体を析出させた。室温下にて30分攪拌した後、固体を濾過し水洗後、105℃にて減圧乾燥することで目的の高分子電解質を得た。この高分子電解質の分子量はMn=113,000、Mw/Mn=2.17であった。
得られた高分子電解質を実施例1と同様に高分子電解質膜とし、各種評価を実施した。
【0099】
(比較例3)
実施例1のジクロロメタン洗浄後の高分子電解質を一部抜き取り70℃の加熱条件下減圧乾燥することで、固体を得た。
得られた高分子電解質を実施例1と同様に高分子電解質膜とし、各種評価を実施した。
【0100】
実施例と比較例から得た高分子電解質膜中に残存する不純物量を定量した結果を表1に、発電試験による900時間後の電圧の維持率を図1に示す。
なお、本文中の分子量1万以下の成分含有率とは、上記のGPC分析条件で測定して得られた分子量分布曲線から1万以下の分子の存在比を見積もった値である。また、電圧維持率とは、発電特性評価試験開始直後の0.2A/cmにおける電圧(初期電圧)で、同条件の試験を900時間継続した際の電圧を除した値を百分率で示した値である。
【0101】
【表1】
【0102】
以上の結果、燃料電池の触媒や電極の劣化因子となる分子量1万以下の不純物を除去した膜が、電圧劣化を抑制可能であることが示された。
図1