特許第6202430号(P6202430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202430
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】手術用器具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/29 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   A61B17/29
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-167175(P2013-167175)
(22)【出願日】2013年8月10日
(65)【公開番号】特開2015-35990(P2015-35990A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年8月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年3月4日東京大学において開催されたThe first CIRP conference on BioManufacturing 2013で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 貴大
【審査官】 木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−280700(JP,A)
【文献】 特開2012−16585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/28 ― 17/295
A61B 34/30 ― 34/37
B25J 1/00 ― 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸部と、
重ねあわされて開閉可能な挟み部材を有する第一の把持部と、
前記主軸部の軸方向に対し反対に前記第一の把持部を折り曲げるための折曲部と、前記折曲部の両側に備えられる一対の挟み部材を有する第二の把持部と、を備える手術用器具であって、
前記第二の把持部は前記主軸部と前記第一の把持部の間に設けられており、
前記第二の把持部が有する前記一対の挟み部材及び前記折曲部は重ねあわされて構成されており、前記折曲部は前記第一の把持部が前記主軸部の軸方向に対し反対に折り曲げられた場合に、物を挟むための開閉可能な先端部分となる手術用器具。
【請求項2】
前記第一の把持部は、さらに、それぞれのはさみ部材に接続される接続部材と、前記接続部材に接続される第一の軸部材と、第二の軸部材と、前記第一の軸部材及び前記第二の軸部材に巻きまわされるワイヤとを備え、前記ワイヤを引くことによって開閉可能となっている請求項1記載の手術用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は手術用器具に関し、より具体的には内視鏡を用いた手術において好適な手術用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡下手術とは、体表部に5〜10mm程度の創を数箇所設け、そこにφ2〜16mmのトロカールとよばれる筒を挿入し、そこから内視鏡や長鉗子と呼ばれるφ3〜10mm程度の手術器具を挿入し行なう手術である。この手術は低侵襲性という患者への大きなメリットがある反面、手術器具の形状・操作性に制限があり、術式の難易度は開腹手術に比して高いため、より高機能なエンドエフェクタを有するものが望まれている。
【0003】
内視鏡等を挿入するために設けられる創のサイズの制限に関する問題を緩和するエンドエフェクタとして、例えばリトラクタ(圧排器具)や、腹腔内組立式ロボットハンドがある。
【0004】
公知のリトラクタを備えた手術用器具として、例えば下記特許文献1に、人の手のひらと同程度(150mm×70mm)まで展開できるものが開示されている。
【0005】
また、下記非特許文献1には、複数のパーツに分解して体内へ導入した後に腹腔内で組み立てる組立式タバコ縫合器を有する手術器具が開示されている。
【0006】
更に、下記特許文献2には、3指を有するロボットハンドを複数のパーツに分解して体内に導入した後に腹腔内で組み立てるロボットハンドを有する手術器具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−48907号公報
【特許文献2】特開2012−16585号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高山俊男他、日本コンピュータ外科学会、10(2)、131−138、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、シンプルな構造であるため、大きさや形状が異なるそれぞれの臓器に適した圧排や把持・挙上などの操作が困難であるといった課題がある。また、トロカールの径内に収まるように重ねられた複数の板状の部品により作業面が構成されるため、強度の確保が難しいといった課題がある。
【0010】
また、上記非特許文献1のように、複数のパーツに分解して体内へ導入した後に腹腔内で組み立てる技術は、体内においてパーツが脱落・遺失してしまう危険性がある。また、構成によっては複数の創を設けてそのそれぞれからパーツを導入しなければならない場合があり、一つの手術器具のために2つ以上の開創を要求してしまうため、低非侵襲性の観点から課題を残す。
【0011】
また、上記特許文献2の鉗子は把持部が1つであり、大きさや構造が異なる臓器で使用するときに、術具を交換する作業が必要になる。また、鉗子を使用するためには、体内に挿入後器具を鉗子の形態に変化させる作業が必要であり、体内に挿入後すぐに使用したいといった要求に答えるためには検討すべき課題が残る。
【0012】
そこで、本発明は上記課題を解決し、非侵襲性を確保しつつ、操作性・強度に優れ、パーツ脱落のおそれも少なく、器具の形態変化の手順がより簡単な手術用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する一の手段に係る手術用器具は、主軸部と、重ねあわされて開閉可能な挟み部材を有する第一の把持部と、主軸部に対し第一の把持部を折り曲げる折曲部と、折曲部の両側に備えられる、一対の挟み部材と、を有する第二の把持部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
以上本発明により、非侵襲性を確保しつつ、操作性・強度に優れ、パーツ脱落のおそれも少なく、器具の形態変化の手順がより簡単な手術用器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る手術用器具の概略を示す図である。
図2】第一の把持部の開閉動作の説明のための図である。
図3】第二の把持部の折りたたみ動作の説明のための図である。
図4】第二の把持部の折りたたみ動作の説明のための図である。
図5】第二の把持部の開閉動作の説明のための図である。
図6】実際に作製した手術用器具の写真図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であって、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるわけではない。
【0017】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る手術用器具(以下「本手術用器具」という。)1の概略を示す斜視図である。本図で示すように、本手術用器具1は、主軸部2と、重ねあわされて開閉可能な挟み部材31を有する第一の把持部3と、主軸部2に対し第一の把持部3を折り曲げる折曲部41と、折曲部41の両側に備えられる一対の挟み部材42とを有する第二の把持部4と、を備える。
【0018】
本実施形態において、主軸部2は、本手術用器具の主軸を定める部材であり、術者はこの主軸を把持して手術用器具の主軸を定める。なお本主軸部において、主軸部2が延伸する方向(延伸方向)が主軸となっている。また主軸部2の内部には、第一の把持部3を開閉するためのワイヤ、折曲部41で第一の把持部3を折り曲げるためのリンク機構及びワイヤ、第二の把持部を開閉するためのリンク機構等の駆動部材が収納されていることが好ましい。なお、主軸部2の材質としては特に限定されるわけではないが、金属又は樹脂であることは好ましい一例である。
【0019】
また本実施形態において、第一の把持部3は、本手術用器具の先端部分に設けられており、手術の際、様々な物を把持するために用いられる部材である。本実施形態において第一の把持部3は、上述のとおり開閉する必要から、開閉可能な挟み部材31が重ねあわされており、重ねあわされた状態では一方向(延伸方向)に延びた棒状である。第一の把持部3の材質としては特に限定されるわけではないが、金属又は樹脂であることは好ましい一例である。
【0020】
第一の把持部3における挟み部材31は、一対で構成されており、それぞれが、物を挟むための接続部材と、挟み部材31同士を開閉可能な状態で保持するための軸部材312と、を有し、それぞれの軸部材312は同軸に組み合わされて構成されていることが好ましい。本実施形態では、開閉が可能である限りにおいて限定されないが、主軸部2からワイヤを伸ばしてこの軸部材312に巻きつける一方、このワイヤを引っ張ることで軸部材312を回転させ、結果挟み部材31の開閉を行わせる構成としておくことが好ましい。この場合のイメージを図2に示しておく。本図は、第一の把持部3における挟み部材、接続部材、軸部材及びワイヤ以外の構成を省略し側面から見た場合の図である。なおこの場合、軸部材312のほか、ワイヤを巻きつけるためのガイド軸部材313を設けておくことで、一本のワイヤを巻きつけてワイヤを折り返して巻きつけるとともに、ワイヤの引く側を変えることで簡便に開閉を行わせることができる。なお、本図において、(A)は閉じた状態の図を、(B)は開いた状態の図をそれぞれ示しておく。
【0021】
また、第一の把持部3には、接続部材314が備えられており、接続部材314によって第二の把持部4と接続されている。
【0022】
また本実施形態において、第二の把持部4は、上記のとおり折曲部41と、この折曲部41の両側に備えられる一対の挟み部材42を有している。
【0023】
本実施形態において、折曲部41は、主軸部2に対し第一の把持部3、より詳細には、第一の把持部3及び第二の把持部4における一方の(第一の把持部側の)挟み部材42を主軸部の軸方向に対して反対に(180度に)折り曲げることができるよう設けられるものである。本実施形態において折曲部41の材質としては特に限定されるわけではないが、金属又は樹脂であることは好ましい一例である。
【0024】
本実施形態において折曲部41は、一辺の両角が丸くなっている四角形状をしており、その一対の折曲部材411が第二の把持部4における挟み部材42を挟んで重ねあわされて構成されている。また、そのそれぞれにおいて、第一の軸4111、第二の軸4112の二つの軸が貫通して設けられており、隣接する挟み部材42が回転可能となるよう挟み込まれて接続されている。なお、ここで第一の軸4111および第二の軸4112の2つの軸は回転する必要から平行となっている。また、折曲部41において折曲面とは、第一の把持部が軸を中心に折り曲げられる際、第二の把持部5と第一の把持部3が回転する面をいい、具体的にはこの第一の軸及び第二の軸に対して垂直な面をいう。後述の記載からも明らかとなるが、本実施形態において折曲部41は、折り曲げられた状態において、物を挟むための先端部分となる。図3に、折曲部41によって折り曲げられる場合の概略図を示しておく。なお本図において、紙面と平行な面が折曲面である。なお本図において(A)は直線の状態における概略図を、(B)は折り曲げた状態における概略図をそれぞれ示す。
【0025】
また、本実施形態において、折曲部41で折り曲げる手段としては、ワイヤ及びリンク機構を用いるは好ましい一例である。この例を図4に示しておく。本図は図3における折曲部材411を省略した図であって、一対の折曲部材411に挟まれた第二の把持部4における挟み部材42を主として示している。本図で示すように、二つの挟み部材42は、第一の軸4111、第二の軸4112、及び、折曲部材411(本図では図示省略)により接続されている。そして、本図の例では、先端側の挟み部材42の一方の側部にワイヤの一端が固定され、そこから挟み部材42の側部に沿って第一の軸4111、第二の軸4112の間で交差しつつ手元側(先端の反対側)の挟み部材の他方の側部に沿って配置される。そして、手元側の軸等によって折り返された後、再び挟み部材の一方の側部に沿って配置され、第一の軸4111、第二の軸4112の間で交差し、先端側の挟み部材42の他方の側部に他端が固定されている。また、折曲部材411にはリンク機構が接続されており、リンク軸を介してして二つの棒状部材が接続されている。この構成を用いれば、例えば、リンク機構の棒状部材を引くと、折曲部材411が引っ張られ、回転を開始する。すると、一方のワイヤの張力により先端側の挟み部材42も同様に回転を行う。そして、リンク機構を十分引くことで先端側の挟み部材42を手元側の挟み部材42に付けることが可能となる。
【0026】
また本実施形態において、第二の把持部4には、手術の際、様々な物を把持するために用いられる部材としての挟み部材42が折曲部の両側に一対設けられている。本実施形態において挟み部材42の材質としては特に限定されるわけではないが、金属又は樹脂であることは好ましい一例である。
【0027】
さらに、一対の挟み部材42のそれぞれは、上記第一の把持部3の構造と同様、重ねあわされて一対に構成されており、そのそれぞれが、物を挟むための平板部分を有する平板部材421と、挟み部材42同士を開閉可能な状態で保持するための軸部材422と、を有して構成されている。本実施形態では、開閉が可能である限りにおいて限定されないが、軸部材422にリンク機構を接続し、このリンク機構を引く又は押すことで開閉させる構成としておくことが好ましい。この場合の概略を図5に示しておく。なお、図中、(A)は、リンク機構の棒状部材を引いて第二の把持部を閉じた状態の図を、(B)は、リンク機構の棒状部材を押して第二の把持部を閉じた状態の図をそれぞれ示しておく。
【0028】
ここで、本実施形態に係る手術用器具1の手術前動作について図面を用いて説明する。
【0029】
まず、術者は、通常の手法により、手術対象者の体表部に5〜10mm程度の創を数箇所設け、トロカールを挿入し、そこから本実施形態に係る手術用器具を挿入する。なお挿入の際、本手術用器具は、各把持部の延伸方向が同一に揃えられ、直線状となっている。
【0030】
まず、体内に本手術用器具を挿入後、術者は、所望の位置でワイヤを引くことによって第一の把持部3の挟み部材31を開閉させ、ターゲットの臓器等を把持することができる。この状態の図は、上記図2に示したとおりである。この場合、折りたたんでいない状態のため、細い先端部によって細かい作業が可能となる。
【0031】
また、より大きな把持部が必要な場合には、術者はリンク機構を引きつつワイヤの張力を利用することで、折曲部41を起点として第一の把持部3、第二の把持部のうち先端側の挟み部材42を折り曲げ、第一の把持部3と主軸部2を平行になるように重ねる。この場合の折曲部41近傍の概略は図3、4で示したとおりである。
【0032】
そして、さらに、折り曲げた後、リンク機構を操作することで、第一の把持部3よりも大きな第二の把持部5を開閉させて、ターゲットを把持する。この開閉の状態については上記図5で示したとおりである。
【0033】
以上、本実施形態に係る手術用器具は、折り返すことで、異なる大きさの把持部を有し、様々なものを把持することができる。また、挿入後変形なしで把持部を使用することができ、折り曲げ回数も少ないため操作も容易である。更に一つの連結した部材を用いているためパーツ脱落のおそれも少ない手術用器具となっている。
【0034】
なお本実施形態では、各把持部の折り返しにワイヤを用いた例を示しているが、折曲部にアクチュエータを内蔵させて折り返しさせる構造とすることも可能である。
【実施例】
【0035】
ここで、上記手術器具について、実際に作製し、その効果を確認した。この作製した器具の写真図を図6に示しておく。本実施例では、直線状態において、直径5mmとし、折り曲げた場合における第二の把持部全体の幅は10mmとなるように設計した。上記の構造を採用して作製したところ、直線状態においては第一の把持部で、折り曲げた状態では第二の把持部でそれぞれ良好に物を把持することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、手術用器具として産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6