(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ロータのインナ側に配置されたシリンダ部と、前記ロータのアウタ側に配置されてシリンダ配置位置と対向する位置に内周側切欠き部を有する爪部とをセンタブリッジと当該センタブリッジを基点として前記ロータの回入側および回出側に配置されたサイドブリッジとにより接続し、前記センタブリッジと前記サイドブリッジとの間に設けられた外周側切欠き部とを備えるキャリパボディと、
前記シリンダ部と前記爪部との間であり、前記外周側切欠き部からキャリパボディ外部に露出し、前記センタブリッジおよび前記サイドブリッジを構成する背肉の厚みの範囲内に配置されるガイドピン案内部を備えるサポートと、
前記サポートにおける前記ガイドピン案内部に摺動するガイドピンと、
前記ロータのインナ側およびアウタ側にそれぞれ配置される一対のブレーキパッドと、を備え、
アウタ側ブレーキパッドは、前記内周側切欠き部における前記ロータの回入側と回出側のそれぞれで、前記爪部の前記ロータ対向面に螺合されていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
前記ガイドピン案内部には、前記ガイドピンと同様な強度を有する部材により構成されたスリーブが備えられ、前記ガイドピンは、前記スリーブの内周側を摺動することを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキ装置。
前記外周側切欠き部は、前記ロータの回入側に位置する前記サイドブリッジ側の側壁に、前記スリーブに対する当接面を有することを特徴とする請求項4に記載のディスクブレーキ装置。
前記ロータの中心と前記シリンダ配置位置の中心とを通る直線に平行な軸をY軸と定めた場合に、前記スリーブに対する2面または4面の前記当接面がそれぞれ平行で、かつ前記Y軸に平行に配置されていることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載のディスクブレーキ装置。
前記プレッシャプレートにおける前記爪部との対向面側には、螺号のために前記爪部に設けられた貫通孔に嵌入可能なボスが設けられることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のディスクブレーキ装置。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置において、高い制動力を得るためには、大径のロータを採用することが望ましいとされている一方で、ホイールの内径に収容されるディスクブレーキ装置には、その配置に際してスペース的な制限が課せられている。
【0003】
このような観点から、ディスクブレーキ装置を構成するキャリパボディには、小型化の要請が強い。さらに、車両の運動性能を向上させるため、軽量化といった課題も課せられている。ここで、フローティング型のディスクブレーキ装置は、ロータのインナ側とアウタ側の双方にピストンを備えるオポーズド型のディスクブレーキ装置に比べ、小型、軽量化に適し、廉価に製造することができることで知られている。
【0004】
フローティング型のディスクブレーキ装置において、特に小型、軽量化を図る目的で提案されているものとして、特許文献1、2に開示されているようなタイプのものが知られている。特許文献1、2に開示されているディスクブレーキ装置は、通常、ロータのインナ側に配置されたピストンによる押圧力を受ける反力受けとなる爪部の役割をアウタ側に配置するブレーキパッドの背板であるプレッシャプレートに代用させた構造を採っている。すなわち、アウタ側ブレーキパッドのプレッシャプレートをそのまま、キャリパボディの一部として固定する構成である。
【0005】
このような構成のディスクブレーキ装置は、確かに小型、軽量化を図ることができる。しかし、反力受けがプレッシャプレートのみとなるため、キャリパボディの強度不足が懸念される。
【0006】
また、従来、ロータのアウタ側に配置されていたサポートのアウタブリッジを廃し、装置全体の軽量化を図った構成のフローティング型ディスクブレーキ装置が、特許文献3に開示されている。特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置は、従来は、アウタ側に延設されたサポートにガイドされるアウタ側ブレーキパッドのプレッシャプレートを、キャリパボディにおける反力受けである爪部にボルト固定する構成を採っている。このような構成のディスクブレーキ装置では、プレッシャプレートがキャリパボディの剛性を補助する一方で、キャリパボディにおけるブリッジの肉厚が薄いため、制動時にキャリパボディに生ずるチルト量が増え、偏摩耗等が生じる虞がある。
【0007】
さらに、特許文献4には、キャリパの安定性とねじれ剛性を高めるために、キャリパの下側縁部を取り囲むフレームを備える構成としたディスクブレーキ装置が開示されている。このような構成のディスクブレーキ装置では、サポートのアウタ側フレームを、ロータの回入側と回出側とで接続するサポートのアウタ側ブリッジを排除し、軽量化が図られている。そして、アウタ側ブレーキパッドを爪部にバネ支持することで、制動トルクの一部をキャリパにおける爪部で受けるようにし、キャリパの縁部を囲むフレームにより、キャリパ全体の剛性を高めるようにしている。
【0008】
ディスクブレーキ装置の性能を高める手法として、ロータの回出側と回入側における制動トルクの受け方の使い分けを適切に行うことが知られている。特許文献4や、特許文献5のように、サポートのアウタブリッジを廃したディスクブレーキ装置では、アウタ側ブレーキパッドの制動時のトルクを摺動部材により受ける構成としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、上記特許文献1、2に開示されているディスクブレーキ装置によれば、キャリパのアウタ側に配置されていた爪部が排除されるため、従来に比べて小型化、軽量化を図ることができる。しかし、アウタ側ブレーキパッドのプレッシャプレートが、ピストンによる押圧に対する反力受けとなるため、制動時に生ずるキャリパの開きが大きくなる虞があり、キャリパの剛性不足が懸念される。
【0011】
また、特許文献3に開示されているディスクブレーキ装置においても、アウタ側ブレーキパッドを爪部にボルト固定することで、アウタ側に配置されるサポートが不要となり、軽量化を図ることができる。しかし、このような構成とした場合、アウタ側ブレーキパッドの制動トルクを全て爪部で受けることとなる。このため、キャリパのチルト量が増加し、偏摩耗等が生ずることが懸念される。
【0012】
さらに、特許文献4に開示されているディスクブレーキ装置では、サポートのアウタ側ブリッジの排除により軽量化が図られているが、キャリパ下側縁部全域を囲うフレームが設けられているため、軽量化としての効果が薄い。また、サポートのアウタ側フレームをロータの外周よりも内側に配置しているため、キャリパとの干渉を防ぐための切欠きについても、爪部を大きくえぐるように設ける必要があり、キャリパの剛性を下げている。このため、キャリパのシリンダ部と爪部を接続するブリッジの背肉を厚くすることで、全体の剛性不足を補っているが、このような対応を採った場合には、ロータとホイール内壁との隙間を厚くした背肉分だけ広くする必要が生じてしまう。
【0013】
そこで本発明では、軽量化を図りつつ適正な剛性を保ち、かつ狭隘な車輪スペースにも搭載可能なディスクブレーキ装置を提供することを第1の目的とする。
また、近年では、車輪を構成するホイールの軽量化の他、デザイン性を重視したものが流行している。このようなホイールを採用した場合、ホイールを構成するスポーク間から、ディスクブレーキ装置のアウタ側外観が視認することができ、そのデザイン性にも需要者の関心が高められている。
【0014】
このため、フローティング型のディスクブレーキ装置を採用している車両等では、キャリパ全体を被覆し、オポーズド型のディスクブレーキ装置のような外観を得るカバーが提案されている。しかし、キャリパ全体を覆う従来のカバーは、ディスクブレーキ装置全体の重量を増加させることにより、車両としての燃費性能を低下させることとなる。また、汎用性を高めるために組付け性が不安定となっており、走行中に脱落する危険性もある。また、キャリパ全体を覆った場合、制動時に生じる熱を放熱する作用が低下し、ブレーキ性能を低下させる虞もある。このように、従来のカバーは、機能的でないばかりでなく、環境問題対策(ecology)的にもこれに反する作用を成すものであった。
【0015】
そこで本発明では、ディスクブレーキ装置の外観デザインを向上させることができ、かつ軽量で組付け安定性が良く、ブレーキ性能の低下を招く虞の無いことを基本とし、さらには、キャリパボディの剛性を高める作用を担うことのできるディスクブレーキ用カバーを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的のうちの少なくとも1つを解決するための提案であり、第1の目的を解決するためのディスクブレーキ装置は、ロータのインナ側に配置されたシリンダ部と、前記ロータのアウタ側に配置されてシリンダ配置位置と対向する位置に内周側切欠き部を有する爪部とをセンタブリッジと当該センタブリッジを基点として前記ロータの回入側および回出側に配置されたサイドブリッジとにより接続し、前記センタブリッジと前記サイドブリッジとの間に設けられた外周側切欠き部とを備えるキャリパボディと、前記シリンダ部と前記爪部との間であり、前記外周側切欠き部からキャリパボディ外部に露出し、前記センタブリッジおよび前記サイドブリッジを構成する背肉の厚みの範囲内に配置されるガイドピン案内部を備えるサポートと、前記サポートにおける前記ガイドピン案内部に摺動するガイドピンと、前記内周側切欠き部における前記ロータの回入側と回出側のそれぞれで、前記爪部の前記ロータ対向面に螺合されたアウタ側ブレーキパッドと、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記ガイドピン案内部には、前記ガイドピンと同様な強度を有する部材により構成されたスリーブが備えられ、前記ガイドピンは、前記スリーブの内周側を摺動する構成とすると良い。
【0018】
このような構成とすることによれば、ガイドピン構成部材とサポート構成部材とを異なる材質の部材により構成した場合であっても、ガイドピンの摺動面は、同様な強度を有する部材により構成されたスリーブの内周面となる。このため、摺動面に電蝕(電気科学的腐食)や傷などが生じ、摺動性の悪化を招く虞が無く、いずれか一方の部材(軟らかい部材により構成されている側)の摩滅が進行し易くなるという虞も無い。
【0019】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記ガイドピンは、前記スリーブ内において、前記爪部における前記ロータとの対向面に至る長さを有し、前記アウタ側ブレーキパッドは、摩擦部材と前記爪部に螺合されるプレッシャプレートを有し、前記プレッシャプレートには、制動時に前記スリーブに当接する耳部が設けられている構成とすると良い。
【0020】
このような構成とすることによれば、キャリパが撓むことによりチルト量が増加した際には、アウタ側ブレーキパッドからの接線力をスリーブ(スリーブ内に配置されたガイドピン)が受けることとなり、チルト量の増大による偏摩耗の発生等を防ぐことが可能となる。
【0021】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記耳部は、前記ロータの回出側に位置するスリーブに対する当接面を有するものとすることができる。
【0022】
このような構成とした場合には、制動時の接線力が大きくなった際に、スリーブに対して耳部は、押しアンカ状態となる。
【0023】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記外周側切欠き部は、前記ロータの回入側に位置する前記サイドブリッジ側の側壁に、前記スリーブに対する当接面を有することを特徴とするものとすることができる。
【0024】
このような構成とした場合には、制動時の接線力に対し、サイドブリッジに設けた当接面が引きアンカ状態となり、アウタ側ブレーキパッドの耳部が、押しアンカ状態となる。
【0025】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記耳部は、前記ロータの回入側、および回出側の双方に位置するスリーブに対する当接面を有するものとすることが望ましい。
【0026】
このような構成とした場合には、制動時の接線力が大きくなった際に、スリーブに対して耳部は、押し、引き、両方でアンカ作用を得ることができる。
【0027】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記ロータの中心と前記シリンダ配置位置の中心とを通る直線に平行な軸をY軸と定めた場合に、前記スリーブに対する2面または4面の前記当接面がそれぞれ平行で、かつ前記Y軸に平行に配置されるようにすると良い。
【0028】
このような構成とすることによれば、プレッシャプレートからスリーブに対する接線力の伝達ロスが少なくなる。
【0029】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において前記プレッシャプレートにおける前記爪部との対向面側には、螺号のために前記爪部に設けられた貫通孔に嵌入可能なボスが設けられるようにすると良い。
【0030】
このような構成とした場合には、螺号のために設けたボルトが仮に脱落した場合であっても、アウタ側ブレーキパッドは、ボスによる引っ掛かりにより保持され、脱落する虞が無い。
【0031】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において、前記キャリパボディと、前記スリーブとの間に、アンチラトルスプリングを設けるようにしても良い。
【0032】
アンチラトルスプリングを設けることによれば、キャリパボディのガタツキと共に倒れ込みも抑制することができる。このため、ラトル音を抑制することができると共に、キャリパボディの姿勢安定化に伴い、ライニングの片摩耗等を抑制し、安定した制動性能を発揮することが可能となる。
【0033】
また、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置において、前記スリーブにおける前記アウタ側ブレーキパッドおよび/または前記キャリパボディとの接触部を覆うカバープレートと、前記プレッシャプレートと前記爪部との間に介在される本体プレートとを備え、前記カバープレートと前記本体プレートとをバネ部材で接続しているパッドクリップを設けるようにしても良い。
【0034】
このような構成とすることによれば、異金属間の接触による電蝕や、摺動、衝撃等による摩耗や摩滅を抑制することが可能となる。
【0035】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記内周側切欠き部と前記爪部との段差を埋めるカバーを備えるようにすることが望ましい。
【0036】
このような構成とした場合には、ディスクブレーキ装置における外観のデザイン性を向上させることができる。
【0037】
また、上記第2の目的を達成するためのカバーを備えたディスクブレーキ装置としては、上記のような構成に加え、前記カバーが、前記アウタ側ブレーキパッドのプレッシャプレートと、前記爪部との間に介在されるベースプレートと、前記爪部に形成された前記内周側切欠き部を介してアウタ側に露出するカバープレートと、を有することを特徴とするものとすると良い。
【0038】
このような構成とすることによれば、ディスクブレーキ装置の外観デザインを向上させることができ、かつ軽量で組付け安定性が良く、ブレーキ性能の低下を招く虞が無い。また、カバーによりキャリパボディの剛性を高めることもできる。
【0039】
さらに、上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置では、前記ベースプレートには、前記アウタ側ブレーキパッドと共に爪部に共締め可能とするための固定孔を設けるようにすると良い。
【0040】
このような構成とした場合には、キャリパに対するカバーの組付け状態を、より確実なものとすることが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
上記のような特徴を有するディスクブレーキ装置によれば、軽量化を図りつつ適正な剛性を保ち、かつ狭隘な車輪スペースにも搭載可能なディスクブレーキ装置とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明のディスクブレーキ装置に係る実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0044】
まず、
図1から
図9を主に参照して、本発明のディスクブレーキ装置に係る第1の実施形態について説明する。なお、
図1は、実施形態に係るディスクブレーキ装置の正面構成を表す図である。また、
図2は、同左側面の構成を表す図であり、
図3は同背面構成、
図4は同上面構成、
図5は同底面構成をそれぞれ表す図である。また、
図6は、
図1におけるA−A断面を示す図である。
図7は、キャリパボディを取り外したサポートをインナ側から見た構成を示す図である。
図8は、
図2におけるB−B断面を示す図である。
図9は、実施形態に係るディスクブレーキ装置に装着可能なカバーの構成を示す正面、左側面、斜視を示す3面図である。
【0045】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10は、キャリパボディ12、サポート24、インナ側ブレーキパッド34、アウタ側ブレーキパッド42、およびロータ60を基本として構成されている。
【0046】
キャリパボディ12は、シリンダ部14と爪部16、センタブリッジ18、およびサイドブリッジ20を有する。シリンダ部14は、実施形態に係るディスクブレーキ装置10の駆動源であり、ピストン14aと、ピストン14aを収容、および突出させるためのシリンダ14bを有する。また、シリンダ部14には、詳細を後述するガイドピン52を組付けるためのガイドピン組付け部22が設けられている。ガイドピン組付け部22は、ロータ60の外周よりも外側に位置するように設けられている。組付けられたガイドピン52をロータ60の外周よりも外側に位置させ、ロータ60とガイドピン52の干渉を避けるためである。
【0047】
爪部16は、ピストン14aによって生ずる押圧力に対する反力受けである。爪部16には、シリンダ部14におけるシリンダ形成位置と対向する位置に、切欠き部16a(内周側切欠き部)が設けられている。切欠き部16aを利用して、シリンダ部14におけるシリンダ14bの内周加工が行われるからである。爪部16を構成する各ブロック(本実施形態に示す例では2つのブロック)には、それぞれボルトを挿通させるための貫通孔16b(
図12参照)が形成されている。貫通孔16bは、段孔とされ、締結に用いられるボルト17のボルト頭が外部に突出しない形態とすることが望ましい。キャリパボディ12は、ロータ60とホイール内壁との限られたスペースに配置されるため、ボディからの突出部位を減らすことにより、ホイールとの干渉を抑制することができると共に、フラット面の形成による美観の向上にも繋がるからである。
【0048】
シリンダ部14と爪部16とは、ロータ60の外周よりも外側を跨ぐセンタブリッジ18とサイドブリッジ20により接続されている。実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、センタブリッジ18の中央に、貫通孔19が設けられている。貫通孔19を設けることにより、ブレーキパッド(インナ側ブレーキパッド34およびアウタ側ブレーキパッド42)におけるライニング36,44の減り具合の視認を容易に行うことが可能となると共に、制動時に生ずる熱の放熱にも寄与させることができる。サイドブリッジ20は、センタブリッジ18を基点として、ロータ60の回入側と回出側にそれぞれ設けられる。サイドブリッジ20を設けることによりキャリパボディ12は、平面視で枠型のフレームを有する構造となる。このため、キャリパボディ12の剛性を高めることができる。
【0049】
よって、鋳鉄よりも軟質なアルミニウム(アルミニウムを主体とした合金を含む)などによりキャリパボディ12を構成する場合であっても、センタブリッジ18の肉厚(いわゆる背肉)を薄くしつつ、制動時に生ずるシリンダ部14と爪部16との間の開きや、ロータ回転方向への歪み(チルト)を抑制することができる。センタブリッジ18やサイドブリッジ20の肉厚を薄くすることによれば、車輪のホイール内壁とロータ60の外周との隙間が狭い場合であっても、その隙間にキャリパボディ12を配置することができる。
【0050】
ホイール内壁とロータ60の外周の間にキャリパ12が収まらない場合、ホイールのインチアップや、ロータのサイズダウンといった対策を採る必要が生ずる。そうした場合、例えばホイールのインチアップを図ると、タイヤの偏平を小さくする必要が生じ、乗り心地の悪化を招いたり、大径ホイールの装着によるコストアップが懸念される。また、ロータのサイズダウンを図った場合には、ピストン径を大きくし、ロータに対して同じ液圧を付与した際に、広い押圧面を確保する必要が生ずる。液圧を高めることによりロータに対して高い押圧力を付与するようにした場合には、制動時に生ずるシリンダ部と爪部との間の広がりが大きくなってしまうためである。また、大径のピストンを採用する場合には、重量の増大や、ブレーキ操作時におけるペダルのタッチフィーリングの悪化等の問題が生ずることが懸念される。
【0051】
また、上記のような構成とし、キャリパボディ12をアルミニウム等の軽量部材により構成することによれば、ディスクブレーキ装置10全体の軽量化を図ることができ、車両の運動性能向上にも寄与することができる。
【0052】
センタブリッジ18とサイドブリッジ20との間にはそれぞれ、爪部16に掛かるように形成された切欠き部21(外周側切欠き部)が設けられている。切欠き部21は、シリンダ部14におけるガイドピン組付け部22に対応する位置に設けられている。ガイドピン52を摺動させるためのサポート24におけるガイドピン案内部32(本実施形態においてはガイドピン案内部32に設けられたスリーブ50)と、キャリパボディ12との干渉を避けるためである。
【0053】
また、爪部16側における切欠き部21は、ロータ60の外周よりも外側にあたる部位の範囲で設けられている。爪部16においてロータ60の外周よりも内側の範囲にまで切欠き部21を広げた場合、サイドブリッジ20に接続された爪部16の構成部位とセンタブリッジ18に接続された爪部16の構成部位との連結部位が小さくなり、当該連結部位での撓みが生じる。このため、サイドブリッジ20の剛性によりセンタブリッジ18の撓みを抑制するという効果が薄らぎ、キャリパボディ12の開きや捻れを抑制するために、センタブリッジ18の肉厚を厚くするという手段を採る必要が生じることとなる。これに対し、切欠き部21の範囲をロータ60の外周よりも外側にあたる部位といった最小限の範囲に抑えることにより、キャリパボディ12全体としての剛性を高めることができると共に、捻れや開きに関する力の分散を図ることができる。
【0054】
サポート24は、車体に固定され、キャリパボディ12を摺動自在に支持する役割を担う。本実施形態においてサポート24は、キャリパボディ12におけるシリンダ部14と爪部16との間、すなわちキャリパボディ12のフレーム内に配置されている。
【0055】
サポート24には、少なくとも、アンカ26と、ブリッジ28、取り付け孔30、およびガイドピン案内部32が備えられている。アンカ26は、ロータ60の回入側と回出側のそれぞれに配置されている。本実施形態においては、インナ側ブレーキパッド34を支持すると共に、インナ側ブレーキパッド34が制動時に、ロータ60の回転に供回りしようとする力を受けとめるトルク受け部としての役割を担う。
【0056】
ブリッジ28は、ロータ60の回入側に配置されるアンカ26と回出側に配置されるアンカ26とを接続する接続部材である。取り付け孔30は、各アンカ26とブリッジ28との接続部に設けられ、車両に設けられた取り付け穴(不図示)に対してボルト(不図示)を介してサポート24を締結するための孔である。
【0057】
ガイドピン案内部32は、対を成すアンカ26の先端であって、組付け状態においてはロータ60の外周よりも外側となる位置に設けられた貫通孔、あるいは袋穴である。本実施形態では、ガイドピン案内部32を貫通孔とし、当該貫通孔に袋状に形成したスリーブ50を配置する構成とし、当該スリーブ50内にガイドピン52を摺動させるようにしている。
【0058】
ディスクブレーキ装置10の軽量化を図るために、サポート24をアルミニウム等の軽量金属で形成した場合であっても、摺動部材であるガイドピン52には、鉄などの鋼材が採用される。こうした場合、両者の間には構成材料の違いから、電蝕(電気科学的腐食)が生じ、摺動性能の悪化を招く虞がある。このため、摺動部材が接触する箇所にスリーブ50を配置し、当該スリーブ50をガイドピン52と同質部材により構成することで、両者の間に生じる電蝕を防ぐことができ、かつ軽量化も図ることができる。また、サポート24構成部材がガイドピン52の構成部材よりも軟質である場合には、摺動に起因してガイドピン案内部32が摩耗する虞があるが、硬質のスリーブ50を配置することによれば、これを防ぐことができる。
【0059】
なお、ガイドピン52は、上述したキャリパボディ12におけるシリンダ部14の、ガイドピン組付け部22に組付けられる棒状部材である。組付けに関しては、ガイドピン52の基端をシリンダ部14に配置し、先端を爪部16側に配置するようにする。ここで、ガイドピン52の長さは、組付け状態において爪部16におけるロータ60の対向面に至る程度の長さとすれば良い。
【0060】
ここで、ガイドピン案内部32、スリーブ50、およびガイドピン52は、組付け状態においてキャリパボディ12に形成された切欠き部21に位置するように配置されている。このような構成とすることで、ロータ60の外周よりも外側に配置されることとなるガイドピン案内部32、スリーブ50、およびガイドピン52が、キャリパボディ12と干渉することを防ぐことができる。なお、ガイドピン案内部32、スリーブ50、およびガイドピン52は、いずれもキャリパボディ12におけるセンタブリッジ18と2つのサイドブリッジ20を結ぶことで構成される円弧の内側、すなわち、背肉部の厚みの範囲内となるように配置構成されている。このような構成とすることで、キャリパボディ12が収容可能な領域であれば、ガイドピン案内部32等がホイール等と干渉することが無いからである。
【0061】
インナ側ブレーキパッド34は、ロータ60のインナ側に配置され、シリンダ部14に備えられたピストン14aにより直接押圧されるブレーキパッドである。インナ側ブレーキパッド34は、ロータ60の摺動面に当接する摩擦部材であるライニング36と、ライニング36が貼付される鋼板であるプレッシャプレート38から構成されている。インナ側ブレーキパッド34は、サポート24のアンカ26に保持され、ロータ60の軸方向へ摺動する構成を採る。このため、プレッシャプレート38の端部(組付け状態でロータ60の回入側と回出側に位置する端部)には、アンカ26の内側に形成された凹形状に対応する凸状の耳部40が形成されている。なお、組付け時においては、アンカ26と耳部40との間に、インナ側ブレーキパッド34のガタつきを抑えると共に軸方向への摺動性を保つためのパッドクリップ54が配置されることとなる。
【0062】
アウタ側ブレーキパッド42は、ロータ60のアウタ側に配置され、インナ側ブレーキパッド34がロータ60に押し付けられることによる反力で、爪部16によりロータ60側へ押圧されるブレーキパッドである。アウタ側ブレーキパッド42も、インナ側ブレーキパッド34と同様に、ライニング44とプレッシャプレート46から構成されている。本実施形態におけるインナ側ブレーキパッド34とアウタ側ブレーキパッド42との違いは、プレッシャプレート46の形態にある。本実施形態に係るディスクブレーキ装置10では、アウタ側ブレーキパッド42を爪部に螺合、すなわちボルト17により固定する構成を採っている。このため、プレッシャプレート46には、ボルト締めするための雌ネジ穴46aが形成されている。
【0063】
雌ネジ穴46aの形成位置は、爪部16に設けた貫通孔16bに対応する位置とすると良い。これにより、貫通孔16bを介してボルト17により、アウタ側ブレーキパッド42を爪部16に固定することができる。切欠き部16aにより2つのブロックに分割された爪部16におけるそれぞれのブロックにて、鋼板のプレッシャプレート46をボルト締めすることにより、爪部16とプレッシャプレート46を一塊の構造体とみなすことができ、プレッシャプレート46を強度メンバとして爪部16(キャリパボディ12)の剛性を向上させることができる。また、アウタ側ブレーキパッド42を爪部16に固定することにより、サポート24による摺動保持が不要となる。よって、サポート24にアウタ側フレームを形成する必要が無く、サポート24の小型化による製造コストの削減、および軽量化の他、干渉防止のために設けるキャリパボディ12における切欠き部21の面積を抑制することにも寄与することができる。
【0064】
また、雌ネジ穴46aは、ロータ60を基準とした場合には、ロータ60の外周を基点として、その内側(内周側)に配置される。さらに、雌ネジ穴46aは、アウタ側ブレーキパッド42を正面から見た場合、ライニング44における摩擦面の範囲内に配置される構成とする。
【0065】
また、雌ネジ穴46aは、組付け状態において、2つの雌ネジ穴46aの中心を繋ぐ直線lが、キャリパボディ12に設けられたシリンダ14bの中心O1近傍を通るように配置する。このような構成とすることにより、ロータ60から爪部16にボルト固定されたアウタ側ブレーキパッド42に伝達された制動トルクを無駄なく、キャリパボディ12(爪部16)に伝達することができる。すなわち、制動時のトルクが負荷される接線方向に対して、爪部16とアウタ側ブレーキパッド42との一体性を高めることができ、キャリパボディ12の構成の一部として、スリーブ50、およびサポート24へ、接線力を伝達することができる。
【0066】
プレッシャプレート46に形成されている耳部48は、制動時に、スリーブ50に当接する配置形態とすることが望ましい。制動時にキャリパボディ12に撓みが生じた際、アウタ側ブレーキパッド42の耳部48がスリーブ50に当接することで、スリーブ50がアンカとしての役割を果たし、センタブリッジ18やサイドブリッジ20、および爪部16に掛かる負荷を軽減することができるからである。ここで、スリーブ50内に収容されているガイドピン52は上述したように、シリンダ部14を基点として、爪部16におけるロータ60の対向面に至る長さを持つ。このため、爪部16のロータ60の対向面に固定されたアウタ側ブレーキパッド42のプレッシャプレート46がスリーブ50に当接する際には、その内部にガイドピン52が配置されていることとなる。よって、耳部48の当接によりスリーブ50が凹み等の損傷を受ける虞は無い。
【0067】
本実施形態に係るアウタ側ブレーキパッド42におけるプレッシャプレート46の耳部48は、
図8に示すように、スリーブ50を上方から覆うハンガ型とし、ロータ60の半径方向内周側に向けた開口部を持つ凹部を形成している。耳部48をこのような形態とした場合、ロータ60の回入側に位置する耳部48では、耳部48の先端側がスリーブに当接し、いわゆる引きアンカ状態となる。一方で、ロータ60の回出側に位置する耳部48では、耳部48の基端側がスリーブ50に当接し、いわゆる押しアンカ状態となる。また、このような形態によれば、アウタ側ブレーキパッド42を爪部16に組み付けた後、スリーブ50が配置されたサポート24に、キャリパボディ12を組付けることができる。
【0068】
本実施形態では
図8に示すように、平面視で、ロータ60の回転中心O0とシリンダ14bの中心O1とを通る直線に平行な軸をY軸と定める。また、図中Y軸に直交する直線をX軸と定め、Y軸、X軸と交差し、ロータ60の回転軸に平行な直線をZ軸と定める。
【0069】
このような環境下においては、耳部48とスリーブ50との当接面である当接面a、当接面b、当接面c、当接面dの4面は、それぞれ平行となるように形成されている。そして、各当接面a〜dは、Y軸、より具体的にはY軸とZ軸の成す面(YZ面)と平行に形成されることとなる。スリーブ50における外周面がZ軸に平行に配置されるため、このような構成とすることにより、当接時における制動トルクの伝達ロスが少なくなるからである。なお、耳部48の形態をこのようなものとする場合、耳部48とスリーブ50との間の隙間を調整することにより、押しアンカのみ、引きアンカのみ、あるいは、制動初期時は押しアンカ(または引きアンカ)のみで、本制動時には押しアンカと引きアンカ(または引きアンカと押しアンカ)となるようにすることもできる。押し引きアンカとスリーブとの関係については、
図10、
図11にそれぞれ一例を示す。なお、以下の説明は、
図8に示すようにロータ60の回転方向を時計回り(右回り)と想定した際の説明である。
【0070】
図10に示す例は、耳部48のフック部分の中心間距離L2が、スリーブ50(ガイドピン52)の中心間距離L1よりも長い場合の例を示すものである。このような構成とした場合、スリーブ50と耳部48におけるフック部分との間に生ずる隙間が、プレッシャプレート46の中心側に生じる隙間d1よりも、プレッシャプレートの端部側に生じる隙間d2の方が大きくなる。このため、制動初期時であって、キャリパボディ12あるいはガイドピン52を含むスリーブ50の撓みが少ない場合には、ロータ60の回出側に配置されたスリーブ50と耳部48との隙間d1がゼロとなり、当接面cがスリーブ50と接触して押しアンカ状態となる。その後、接線力が高まった場合、ロータ60の回入側に配置されたスリーブ50と耳部48との隙間d2がゼロとなり、当接面aとスリーブ50とが接触して引きアンカ状態となる。つまり、L1<L2とした場合には、d1<d2となり、押しアンカから押し引きアンカの状態に至る構成となる。
【0071】
一方、
図11に示す例は、耳部48のフック部分の中心間距離L2が、スリーブ50(ガイドピン52)の中心間距離L1よりも短い場合の例を示すものである。このような構成とした場合、スリーブ50と耳部48におけるフック部分との間に生ずる隙間が、プレッシャプレート46の中心側に生じる隙間d1よりも、プレッシャプレートの端部側に生じる隙間d2の方が小さくなる。このため、制動初期時であって、キャリパボディ12あるいはガイドピン52を含むスリーブ50の撓みが少ない場合には、ロータ60の回入側に配置されたスリーブ50と耳部48との隙間d2がゼロとなり、当接面aがスリーブ50と接触して引きアンカ状態となる。その後、接線力が高まった場合、ロータ60の回出側に配置されたスリーブ50と耳部48との隙間d1がゼロとなり、当接面cがスリーブ50と接触して押しアンカ状態となる。つまり、L1>L2とした場合には、d1>d2となり、引きアンカから引き押しアンカの状態に至る構成となる。なお、本説明では、ロータ60の回転方向が時計回り(右回り)の場合を想定して説明したために、スリーブ50と接触する当接面は、当接面aと当接面cとなったが、ロータ60の回転方向を反時計回り(左回り)とした場合には、当接面bと当接面dがスリーブ50と接触することとなる。また、
図10および
図11では、説明の理解を促すために、スリーブ50と各当接面a〜dの間に明らかな隙間があるように記載しているが、実際には、スリーブ50と各当接面a〜dの間の隙間は、ごく僅か、あるいはほぼ接触している状態となっており、制動時に、各当接面a〜dに接線力が負荷されることとなる。
【0072】
ロータ60は、インナ側ブレーキパッド34とアウタ側ブレーキパッド42との間に配置される回転板であり、各ブレーキパッドにおけるライニング36,44の対向位置に摺動面を有する。ロータ60は、図示しない車輪と共に供回りするように固定されている。
【0073】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10には、爪部16に形成される切欠き部16aを覆うカバー70が備えられている。カバー70は、キャリパボディ12のアウタ側側面(正面)に生ずる凹凸を平滑化し、キャリパボディ12の外観的な印象を変化させる。
【0074】
カバー70は、ベースプレート72とカバープレート74から構成されている。ベースプレート72は、カバー70をキャリパボディ12に固定するためのプレートである。本実施形態の場合ベースプレート72は、アウタ側ブレーキパッド42のプレッシャプレート46と、爪部16との間に配置され、プレッシャプレート46を爪部16に固定するボルト17により、共締めされる。このため、ベースプレートには、ボルト17を挿通させるための固定孔72aが形成されている。このような構成とすることにより、カバー70がキャリパボディ12から脱落する虞が無くなる。
【0075】
カバープレート74は、カバー70の主体部分であり、その形状は多岐に亙る。例えば本実施形態の場合、切欠き部16aにより生ずるプレッシャプレート46と、爪部16のアウタ側面との間の段差を平滑化するように、ベースプレート72に対して凸状となるように形成されている。そして、爪部16の肉薄部分に沿うように、凸状に形成されたカバープレート74にも、ロータ70の内径側に配置される方向へ向けて、凸の厚みが薄くなるように傾斜が設けられている。このように、切欠き部16aによってキャリパボディ12のアウタ側側面に生ずる段差を被覆し、外観の印象を変化させることで、ディスクブレーキ装置10のデザイン性を向上させ、いわゆる高級感や個性を出すことが可能となる。
【0076】
ボルト固定可能なカバー70により切欠き部16aを覆う構成とすることにより、その交換をするだけで、手軽にキャリパボディ12の外観に変化やアクセントを与えることが可能となる。また、キャリパボディ12全体を被覆する構成としていないため、放熱性を良好に保つことができ、ブレーキ性能を良好に維持することができる。さらに、キャリパボディ12全体を被覆するものに比べて軽量である。このため、車両全体として見た場合には、燃費の向上にもつながる。
【0077】
次に、本発明のディスクブレーキ装置に係る第2の実施形態について、
図12、
図13を参照して説明する。本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aのほとんどの構成は、上述した第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に同一符号を付して、詳細な説明は省略すると共に、概観図については、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置に関するものを援用するものとする。なお、
図12は、本実施形態に係るディスクブレーキ装置の特徴的構成を示す断面図であり、
図1を援用した場合には、C−C断面にあたる図である。また、
図13は、
図2を援用した場合に、B−B断面にあたる図である。
【0078】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aと、第1の実施形態に係るディスクブレーキ装置10との相違点は、アウタ側ブレーキパッド42の構成にある。具体的には、アウタ側ブレーキパッド42を構成するプレッシャプレート46に、爪部16に形成した貫通孔16bに嵌合するボス46bを設けた点にある。
【0079】
ボス46bを設けたプレッシャプレート46を採用した場合であっても、爪部16に対してボルト17を介して固定されることとなるが、プレッシャプレート46の爪部16との対向面に、貫通孔16bに嵌入可能なボス46bを形成することにより、アウタ側ブレーキパッド42を固定するボルト17が仮に脱落した場合であっても、アウタ側ブレーキパッド42が落下する虞が無い。
【0080】
このように、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10aでは、第1の実施形態に対し、安全面における信頼性をより高めることが可能となる。
【0081】
次に、上記各実施形態に対して対応可能なアウタ側ブレーキパッドについて、
図14を参照して説明する。本形態に対応するアウタ側ブレーキパッド42aは、上記実施形態において説明したアウタ側ブレーキパッド42と比較すると、耳部48の形態が異なる。上記実施形態において説明したアウタ側ブレーキパッド42の耳部48がハンガ型であったのに対し、本形態におけるアウタ側ブレーキパッド42aの耳部48aは、直線状に切り落とされた当接面とされ、簡略化された形態となっている。
【0082】
アウタ側ブレーキパッド42aの耳部48aをこのような形態とした場合であっても、スリーブ50に対する当接面を有することより、制動時においては、スリーブ50によるアンカ効果を得ることができる。しかし、本形態における耳部48aは、切り落としの当接面であるため、いわゆる引きアンカによるアンカ効果を得ることはできない。このため、アンカ効果は、ロータ60の回出側に位置するスリーブ50に対する押しアンカによるもののみとなる。なお、プレッシャプレート46の形態として、本形態のようなものを採用した場合には、上記実施形態において説明したものに比べ、板取性が向上することとなる。このため、材料コスト、および重量を低減できる他、外形形状の単純化に伴う加工コストの低減も図ることができる。
【0083】
次に、
図14に示したような耳部48aを直線状に切り落としたタイプのアウタ側ブレーキパッド42aや、
図15、
図16に示すような耳部48bをハンガ型としないタイプのアウタ側ブレーキパッド42bを用いて引きアンカと押しアンカ双方のアンカ効果を奏することを可能とするディスクブレーキ装置10bについて説明する。
【0084】
本実施形態では、ボルト17を介した固定によりアウタ側ブレーキパッド42bと一体化されている爪部16を、トルク受け要素として利用する点を特徴とし、その他の構成、作用等に関しては、上述した各実施形態と同様である。よって、その構成を同一とする箇所には、図面に同一符号を付して、その詳細な説明を省略することとする。
【0085】
上記実施形態に係るディスクブレーキ装置10,10aとの具体的な相違点としては、切欠き部21の構成にある。上述した実施形態に係るディスクブレーキ装置10,10aにおけるキャリパボディ12では、キャリパボディ12とスリーブ50との干渉を避けるように切欠き部21を設けていた。これに対し本実施形態に係るディスクブレーキ装置10bでは、キャリパボディ12に設けた切欠き部21のうち、サイドブリッジ20側に位置する爪部16に当接面e,fを構成している(
図17参照)。
【0086】
このような構成とすることにより、ロータ60の回入側においては、切欠き部21に設けた当接面eがスリーブ50に接触することで、引きアンカを成し、ロータ60の回出側では、プレッシャプレート46の耳部48bに設けた当接面cがスリーブ50に接触することで、押しアンカを成すこととなる(
図17参照)。また、上述したように、耳部48bの形状をハンガ型としたものに比べ、板取性の向上、材料コスト、重量、および加工コストの低減を図ることが可能となる。また、プレッシャプレート46に締結されたキャリパボディ12の一部をアンカ要素として引きアンカの効果を奏するため、耳部の板幅を広げたハンガ型とする必要性が無い。このため、ホイール内壁との隙間が狭い場合であっても、ロータ60の回入側における引きアンカを実現させることができる。さらに、切欠き部21に当接面e,fを構成するために、当該部を凸状に形成することによれば、実質的に切欠き部21の開口面積を縮小することとなる。このため、キャリパボディ12の剛性を高めることができる。
【0087】
このような特徴的な構成を有するディスクブレーキ装置では、キャリパボディにおける当接面e,fは、刃具をロータの半径方向から挿入し、挿入した刃具を軸方向へスライドさせることで加工することができる。キャリパボディにおけるセンタブリッジ18とサイドブリッジ20との間には、切欠き部21が設けられている。このため、切欠き部21を利用して刃具を挿入することができる。
【0088】
本実施形態に係るディスクブレーキ装置10bでは、各当接面とスリーブとの隙間が、
図17に示すように定められている。すなわち、ロータの回転方向を時計回り(図中右から左への回転)とした場合、回入側の切欠き部21に設けた当接面eとスリーブ50との間の隙間D3が、回出側の耳部48bに設けた当接面cとスリーブ50との間の隙間D4よりも狭くなるように設定されている。また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10bでは、スリーブ50とガイドピン52との間の隙間D1,D2について、設計上D2>D1となるように定められている。なお、
図17〜
図21においては、説明を理解しやすくするために、各構成部材間の隙間D1〜D4を、実際よりも大きく示すと共に、スリーブ50内においてガイドピン52が浮いているように示している。このような配置設定により、制動時においては、次のような挙動でトルク受けが成される。
【0089】
まず、制動初期時においては、サポート24に固定されたスリーブ50に対して、キャリパボディ12がロータ60の回転方向へずれることとなる。このため、
図18に示すように、ロータ60の回入に配置されたスリーブ50内において、ガイドピン52が回出側内周面に当接する(引きアンカ:隙間D1=0)。次に、
図19に示すように、回出側に配置されたスリーブ50内において、ガイドピン52が回出側内周面に当接する(押しアンカ:隙間D2=0)。このような挙動が瞬時的に成され、その後にキャリパボディ12、およびプレッシャプレート46を介したアンカリングが成される。すなわち、
図20に示すように、回入側において、切欠き部21に設けた当接面eがスリーブ50の回入側外側面に当接する(引きアンカ:隙間D3=0)。さらに制動トルクが上昇すると、
図21に示すように、回出側において、プレッシャプレート46の耳部48bに設けた当接面cが、スリーブ50における回入側外側面に当接する(押しアンカ:隙間D4=0)。
【0090】
また、本実施形態に係るディスクブレーキ装置10bには、アンチラトルスプリングを組み付けている。
【0091】
アンチラトルスプリングは、キャリパボディ12の倒れ込みを防止し、姿勢の安定化を図るための要素である(半径方向位置決め要素)。アンチラトルスプリング80は、例えば
図22に示すように、キャリパ側係合部82と、スリーブ側係合部88とを有し、両者がバネ部92により接続されている。なお、
図22(A)は、アンチラトルスプリングの正面形態を示す図であり、(B)は平面形態、(C)は右側面形態をそれぞれ示す図である。
【0092】
図22に示す形態のアンチラトルスプリング80では、キャリパ側係合部82には、クリップ部84と、荷重ポイント86,90が設けられている。クリップ部84は、キャリパボディ12の一部を挟持し(
図15で示す例では、センタブリッジ18に形成した貫通孔19を形成している背肉部のうちの薄肉化されている部分を挟持)、アンチラトルスプリング80全体をキャリパボディ12に安定保持させるための要素である。キャリパ側係合部82における荷重ポイント86は、キャリパボディ12の内周側に接触し、キャリパボディ12を持ち上げる方向(ロータ60の半径方向外周側へ向かう方向)の荷重を付与する。
【0093】
一方、スリーブ側係合部88は、スリーブ50に当接する荷重ポイント90を備えていれば足りる。スリーブ側係合部88の荷重ポイント90は、スリーブ50を押し下げる方向(ロータの半径方向内周側へ向かう方向)の荷重を付与する。
【0094】
各荷重ポイント86,90により、上記のような荷重が付与されることで、キャリパボディ12は、爪部16側において、スリーブ50を基点として押上げられることとなり、姿勢の安定化を図ることができる。これにより、非制動時等におけるキャリパボディ12の無用な揺動を抑制することができ、ラトル音を抑制することができる。また、制動時においても、キャリパボディ12の挙動を安定させることができ、安定した制動力を得ることができる。
【0095】
また、実施形態に係るディスクブレーキ装置10bは、
図23に示すようなパッドクリップを備えるようにしても良い。なお、
図23(A)は、パッドクリップの正面形態を示す図であり、(B)は平面形態、(C)は右側面形態、(D)は斜視形態をそれぞれ示す図である。
【0096】
パッドクリップ100は、アウタ側ブレーキパッド42b(アウタ側ブレーキパッド42bに締結されたキャリパボディ12も含む)がロータ60の円周方向において、トルク受け部であるスリーブ50間の中心に位置するように姿勢制御すると共に(円周方向位置決め要素)、被覆部の摩耗や摩滅を防止するための要素である。
【0097】
具体的な構成の一例として、パッドクリップ100は、本体プレート102と、カバープレート106とを有し、両者がバネ部104により接続されている。
図23に示す形態のパッドクリップ100では、本体プレート102を爪部16とプレッシャプレート46との間に配置する。このような構成とした場合、ボルト17によりアウタ側ブレーキパッド42bが爪部16に締結されることで、パッドクリップ100の位置決めが成される。
【0098】
また、カバープレート106は、ハンガ型の形状を有し、スリーブ50の外周面をロータ60の外周側から覆うように配置する。このような構成とすることで、耳部48aとスリーブ50の外周部との接触を避けることができる。これにより、異金属間における電蝕や、摺動や制動時の衝撃による摩耗や摩滅を抑制することができる。バネ部104は、2つのスリーブ50間に配置されたアウタ側ブレーキパッド42bの円周方向における位置決めを行う。これにより、アウタ側ブレーキパッド42bと一体化されたキャリパボディ12の円周方向位置も安定することとなる。