特許第6202450号(P6202450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202450硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202450
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20170914BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20170914BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20170914BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20170914BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20170914BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20170914BHJP
   C23C 16/505 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/68
   B01D69/02
   C01B32/05
   C01B32/15
   C23C14/06 F
   C23C16/27
   C23C16/505
【請求項の数】14
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-551019(P2015-551019)
(86)(22)【出願日】2014年11月28日
(86)【国際出願番号】JP2014081601
(87)【国際公開番号】WO2015080259
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2016年6月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-248276(P2013-248276)
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-81284(P2014-81284)
(32)【優先日】2014年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-166289(P2014-166289)
(32)【優先日】2014年8月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 泉
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義久
(72)【発明者】
【氏名】佐光 貞樹
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−185428(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/087355(WO,A1)
【文献】 特開2013−193053(JP,A)
【文献】 特開2012−036031(JP,A)
【文献】 特開2002−177747(JP,A)
【文献】 特開2003−160308(JP,A)
【文献】 特開2006−045026(JP,A)
【文献】 藤井義久 外,多孔性ダイヤモンド状カーボン膜の将来展望,膜(MEMBRANE),日本,2013年 9月 1日,第38巻第5号,第200−206頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/02
B01D 69/02
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/68
C01B 32/05
C01B 32/15
C01B 32/182
C23C 16/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質カーボン膜からなり、厚みが5nm以上300nm以下であり、孔の最大径が0.86nm未満であることを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
【請求項2】
機溶媒中のアゾベンゼン色素を99%以上通過させないことを特徴とする請求項1に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
【請求項3】
有機溶媒耐性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
【請求項4】
中のNaClを80%以上通過させないことを特徴とする請求項1に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
【請求項5】
前記硬質カーボン膜がダイヤモンド状カーボン膜であることを特徴とする請求項1、2又は4に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜が多孔性支持基板の一面上に配置されていることを特徴とする濾過フィルター。
【請求項7】
請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜が限外濾過膜の一面に接合されている2層接合型濾過フィルターであって、前記限外濾過膜が表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下とされていることを特徴とする2層接合型濾過フィルター。
【請求項8】
前記限外濾過膜が多孔性有機膜であることを特徴とする請求項7に記載の2層接合型濾過フィルター。
【請求項9】
前記多孔性有機膜がポリスルホン(PSF)膜であることを特徴とする請求項8に記載の2層接合型濾過フィルター。
【請求項10】
請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法であって、
支持基板の一面に、スピンコーティング法、キャスト法、ディッピング法、又はダイコート法により平滑な中間層を形成する工程と、
前記中間層を形成した支持基板を真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記支持基板を−20℃以上30℃以下の温度としてから、プラズマCVD法又はスパッタ法により、50nm/min以下の成膜速度で、前記中間層の一面に硬質カーボン膜を成膜する工程と、
前記硬質カーボン膜を成膜した支持基板を、水又は酸水溶液に浸漬して、前記支持基板から硬質カーボン膜製NF又はRO膜を剥離する工程と、
を含むことを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法。
【請求項11】
前記中間層が、グルコース、スクロース、グルコース/スクロース混合物、グリセリン、ポリエチレングリコール、シリコン熱酸化膜の群から選択されるいずれか一の材料からなる膜であり、表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まない平滑面を有することを特徴とする請求項10に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法。
【請求項12】
前記支持基板がシリコン又はガラスであることを特徴とする請求項10に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法。
【請求項13】
請求項10から12のうちのいずれか一項に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で製造した硬質カーボン膜製NF又はRO膜を、多孔性有機膜、多孔性無機膜又は多孔性金属膜のいずれか一の多孔性膜からなる多孔性支持基板の一面上に配置して、濾過フィルターを製造することを特徴とする濾過フィルターの製造方法。
【請求項14】
請求項7から9のうちのいずれか一項に記載の2層接合型濾過フィルターの製造方法であって、
表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下の限外濾過膜を調製後、有機溶媒洗浄処理と真空乾燥処理からなる前処理工程と、
前記前処理した限外濾過膜を、真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記前処理した限外濾過膜を−20℃以上30℃以下の温度としてから、50nm/min以下の成膜速度で、プラズマCVD法又はスパッタ法により、前記前処理した限外濾過膜の一面に硬質カーボン膜製NF又はRO膜を成膜する工程と、
を含むことを特徴とする2層接合型濾過フィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質カーボン膜製NF(ナノ濾過膜)又はRO膜(逆浸透膜)、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法に関するものである。特に、オイル耐性を有し、有機溶媒中のアゾベンゼン色素を有機溶媒から99%以上分離可能な硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボン膜は、耐熱性があり、化学的にも安定であることから、主にガス分離膜としての応用研究が進められてきた。また、カーボン膜の水処理膜としての応用は、1970年代に幾つかの研究が報告されている。例えば、Hollahanらは、アリルアミンのプラズマ重合で製造したカーボン膜が、逆浸透膜としての性能を示すことを報告している(非特許文献1)。
【0003】
しかし、カーボンで製造された逆浸透膜は、水の透過性が十分ではなかった。このため、産業界では、専ら、高分子系の逆浸透膜が研究されてきた。例えば、架橋ポリアミド系の逆浸透膜は、塩の除去率と透水性が高く、耐圧性があり、モジュール化が容易なことから、海水淡水化用の膜として幅広く用いられている。また、架橋ポリイミドの膜は、耐有機溶媒性の逆浸透膜、あるいはナノ濾過膜として製造されている。しかしながら、これらの高分子系の膜では、有機溶媒の透過速度が非常に遅いため、用途が限られている。一方、カーボンで製造された逆浸透膜は、近年では殆ど研究されてこなかったが、本発明の発明者でもある一ノ瀬らは、ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターを考案し、有機溶媒中の色素分離の高速濾過を実現している(特許文献1、非特許文献2、3)。
【0004】
この研究では、高強度のダイヤモンド状カーボンを利用することで、1ナノメートル大きさの孔を安定化し、高速透過性を実現している。通常、カーボン膜では、膜の強度が十分でない場合が多く、有機溶媒によっては膨潤したり、部分的に溶け出したりする。しかしながら、非特許文献2のダイヤモンド状カーボン膜は、全ての有機溶媒に対して化学的に安定であり、有機溶媒が透過するための孔が安定に保持されている。
【0005】
このような優れたダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターが開発されたにもかかわらず、その実用化には、幾つかの重要なハードルがあった。例えば、非特許文献2のダイヤモンド状カーボン膜は、精密濾過膜を基材として用いているが、精密濾過膜にダイヤモンド状カーボンを直接蒸着することはできず、犠牲層としてナノストランドを用いざるを得ない。このナノストランドは、酸等で容易に溶解できる優れた犠牲層であるが、それ自身には幾つかの問題がある。まず、ナノストランド層の形成には、湿式での濾過法を用いる必要があり、製造プロセスが煩雑になる。そして、湿式での濾過法は、引き続くダイヤモンド状カーボン膜を成膜する方法(真空蒸着)とのミスマッチがあり、連続製造プロセスの設計が非常に困難となる。さらに、ナノストランド層を犠牲層として製造したダイヤモンド状カーボン膜は、除去性能が悪いという問題がある。事実、非特許文献2で報告されているダイヤモンド状カーボン膜は、アゾベンゼンの阻止率が最大で94.4%である。その後、一ノ瀬らは様々な追加実験を検討してみたが、ナノストランド層を犠牲層として用いた場合、アゾベンゼンの阻止率は、95.2%を越えることがなかった。この理由には、様々な要因が考えられるが、最も重要な要因としては、ナノストランド層の表面の低い平滑性にあると考えられる。
ナノストランドそのものは、極細の無機ファイバーであり、これを濾過することで形成されるナノストランド層は、非常に緻密であり、10nm以下の孔を有するために、それ自身が濾過フィルターとして利用できる(特許文献2)。
【0006】
しかし、ナノストランド層の表面には、ナノストランドの末端、または屈曲した部分が表面から突き出ている場合があり、ダイヤモンド状カーボンの層が極薄の場合、その一部に1nm以上の大きさの孔が形成されてしまう。ナノストランドは、弱酸などにより容易に溶解してしまうため、ナノストランドが表面から突き出ている場合、ナノストランドの除去痕が表面にまで達するのである。このことが、ダイヤモンド状カーボン膜の阻止率の低下に繋がっている。
さらに、ナノストランドを犠牲層として用いた場合、プラズマCVDなどの方法によりダイヤモンド状カーボンを蒸着させると、蒸着の過程でナノストランドの一部がエッチングされ、犠牲層の表面近傍でのプラズマの組成が変化してしまう。これにより、ダイヤモンド状カーボン膜の内部には、一部に0.95nm以上の大きさの孔が形成されてしまう。また、ナノストランドを犠牲層として製造したダイヤモンド状カーボン膜では、膜の一面にナノストランドを除去することでファイバー状のナノストランドの除去痕が形成されている(非特許文献2)。この除去痕の存在は、多孔性支持基板として用いた精密濾過膜との接着性を低下させ、圧力を負荷した場合にダイヤモンド状カーボン層の内部に1nm以上の大きさの孔(欠陥)を生じさせやすい。これらの影響は、形成されるダイヤモンド状カーボン膜の厚みが100nm以下の場合に大きく、35nm以下の場合に特に大きい。
このような理由により、ダイヤモンド状カーボン膜の品質は、ナノストランドの犠牲層により大きく低下する。
【0007】
なお、精密濾過膜(Microfiltration Membrane:MF膜)とは、孔径が10μm以下の濾過膜の一つであり、孔径0.05μm〜10μm(50nm〜10000nm)の濾過膜である。孔径が10μm以下の濾過膜には他に、孔径が1nm以下であり、水和したナトリウムイオンや塩化物イオンを阻止できる逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane:RO膜)と、孔径が0.001μm〜0.1μm(1nm〜100nm)の限外濾過膜(Ultrafiltration Membrane:UF膜)がある。なお、孔径が2nm以下であり、イオンや塩類などの阻止率が概ね70%以下と低いものは、Nanofiltration Membrane(NF膜)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−36061号公報
【特許文献2】国際公開第2011/016478号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.R.Hollahan,T.Wydeven,Science,179,500−501(1973)
【非特許文献2】S.Karan,S.Samitsu,X.Peng,K.Kurashima,I.Ichinose,Science,335,444−447(2012)
【非特許文献3】藤井義久、佐光貞樹、一ノ瀬泉、「多孔性ダイヤモンド状カーボン膜の将来展望」、膜(MEMBRANE)、38(5)、200−206(2013)
【非特許文献4】J.D.Ferry,J.Gen.Physiol.,20,95−104(1936)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のとおりの事情を踏まえてなされたものであって、従来技術の問題点を解消し、オイル耐性を有し、水中のイオンだけでなく有機溶媒中の色素分子を効率的に分離可能である新しい硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記事情を鑑みて、0.95nm以上の大きさの孔を有しないダイヤモンド状カーボン膜を形成するために鋭意研究を行った。特に、アゾベンゼンに代表される1nm未満の分子サイズを有する有機分子、或いは1nm未満の水和イオン径を有するイオンに対して、高い阻止性能を有するダイヤモンド状カーボン膜を製造することを目指した。
その結果、表面に50nm以下の大きさの孔を有する限外濾過膜を用いることで、ナノストランド層を犠牲層とした場合では達成できない0.86nm以上の大きさの孔を有しないダイヤモンド状カーボン膜を製造することに成功した。さらに、適切な条件下では、0.8nm以上の大きさの孔を有しないダイヤモンド状カーボン膜を製造することにも成功した。
【0012】
本発明によるこの成功に至るまでの過程では、また、成功の結果からは、いくつかの重要な技術的な知見が得られている。
すなわち、まず、上記の0.86nm以上の大きさの、さらには0.8nm以上の大きさの孔を有しないダイヤモンド状カーボン膜を得るためには、表面が平滑な基材を利用することである。表面の孔(あるいは凹凸)が50nm以下である基材であれば、優れた阻止性能のダイヤモンド状カーボン膜を製造することができる。例えば、糖のスピンコート膜は、表面が非常に平滑な膜を与えるが、この膜の表面にダイヤモンド状カーボンを蒸着することによっても、0.86nm以上の孔を有しないダイヤモンド状カーボン膜を製造することができる。また、このようなダイヤモンド状カーボン膜は、分離膜としての性能を損なわずに、多孔性の基材に移し取る(転写する)ことが可能である。
【0013】
そして、ダイヤモンド状カーボン膜を成膜する基材として限外濾過膜を用いると、従来にない優れた分離性能をもつダイヤモンド状カーボン膜が得られるだけでなく、連続的な成膜プロセスを実現することができる。また、最外層のダイヤモンド状カーボン膜からなるナノ濾過膜(NF膜)又は逆浸透膜(RO膜)は、非常にフレキシブルであり、濾過フィルターとして利用するためのモジュールの製造にも好都合であることを見出している。
【0014】
なお、例えば以上のような知見を踏まえている本発明では、NF膜又はRO膜は、ダイヤモンド状カーボン膜に限定される訳ではない。本発明のダイヤモンド状カーボン膜は、より広義の硬質カーボン膜と考えてよい。ダイヤモンド状カーボンは、英語では、ダイヤモンドライクカーボン(Diamond−like Carbon)と呼ばれ、グラファイトや炭素繊維などの材料と比較して透明性が高く、また硬質であることを特徴としている。ここで、NF又はRO膜では、圧力差によりろ過を行うため、硬質であるという条件は重要であるが、透明であることは必要条件ではない。
【0015】
超高圧条件でなければ、カーボンの熱力学的に安定な状態はグラファイトであり、ダイヤモンドはグラファイトより不安定である。このため、加熱等により形成される炭素材料は、通常、発達したグラファイト構造を含んでおり、黒色かつ不透明となる。しかし、プラズマCVD法やスパッタ法など、ダイヤモンド状カーボンの成膜法として広く用いられている手法では、炭素成分がラジカルなどの活性種として共存するため、ダイヤモンドに見られるSP炭素を多く含む膜が得られる。この結果、グラファイト成分の含有量(あるいはSP炭素の共役長)が減少し、透明性を帯びてくる。また、SP炭素を多く含むことで、3次元の架橋構造が形成され、硬質となる。従って、ダイヤモンド状カーボン膜は、硬質のカーボン膜であり、かつ透明性に富んだカーボン膜であると言える。本発明のダイヤモンド状カーボン膜は、黒色かつ不透明なものを除いて、より広義の硬質カーボン膜であってもよい。非特許文献2に記載されているダイヤモンド状カーボン膜でも透明性を有するが、着色した膜になっている。
【0016】
さらに、非特許文献2では、窒素やケイ素、酸素原子を含んだダイヤモンド状カーボン膜(硬質カーボン膜と言っても良い)が報告されている。ダイヤモンド状カーボンがこのような異種元素を取り込むことは一般的に知られており、本発明においても、ダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)は、純粋なカーボン膜だけでなく、異種原子が混入しているものを含む。特に、本発明のダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)は、一般的なダイヤモンド状カーボンと同様に水素原子を含んでいる。
【0017】
ダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)は、硬質の膜であるが、屈曲性があっても構わない。非特許文献2に示される、ダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)でも、曲率半径500nm以下に曲げても破れないことが実証されている。本発明のダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)は、硬質膜であるため、耐摩耗性や耐圧性に優れたNF又はRO膜となるが、ここでの硬質を表す指標としては、非特許文献2に示されるように、ヤング率を用いることができる。従来の高性能のNF又はRO膜が架橋ポリマーやエンジニアリングプラスチックをベースとしてのみ製造されてきたことを考えると、硬質といえる範囲としては、これらの高分子素材よりもヤング率が大きいことが条件となる。具体的には、5GPa以上のヤング率があれば、硬質カーボン膜からなるNF又はRO膜と言ってよい。
【0018】
さらに、ダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)の特徴の一つに、有機溶媒耐性があり、このような有機溶媒耐性を持たないカーボン膜は、一般にはプラズマ重合膜などの架橋高分子膜に分類される。有機溶媒耐性の分離膜である判断基準は、簡便には、テトラヒドロフランなどの高分子を溶解しやすい溶媒において、透過速度が大きく(50%以上)減少しないことを確認することで判断できる。
以上の知見とこれに関する一般的な技術的前提を踏まえ、本発明は、以下の構成を有するものとして特徴づけられる。
【0019】
(1)硬質カーボン膜からなり、厚みが5nm以上300nm以下であり、孔径が0.86nm未満であることを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
(2)硬質カーボン膜からなり、厚みが5nm以上300nm以下であり、有機溶媒中のアゾベンゼン色素を99%以上通過させないことを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
(3)有機溶媒耐性であることを特徴とする上記(1)(2)の硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
(4)硬質カーボン膜からなり、厚みが5nm以上300nm以下であり、水中のNaClを80%以上通過させないことを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
(5)前記硬質カーボン膜がダイヤモンド状カーボン膜であることを特徴とする上記(1)から(4)の硬質カーボン膜製NF又はRO膜。
【0020】
(6)上記(1)から(5)のいずれかの硬質カーボン膜製NF又はRO膜が多孔性支持基板の一面上に配置されていることを特徴とする濾過フィルター。
(7)上記(1)から(5)のいずれかの硬質カーボン膜製NF又はRO膜が限外濾過膜の一面に接合されている2層接合型濾過フィルターであって、前記限外濾過膜が表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下とされていることを特徴とする2層接合型濾過フィルター。
【0021】
(8)前記限外濾過膜が多孔性有機膜であることを特徴とする上記(7)の2層接合型濾過フィルター。
(9)前記多孔性有機膜がポリスルホン(PSF)膜であることを特徴とする上記(8)の2層接合型濾過フィルター。
【0022】
(10)支持基板の一面に、スピンコーティング法、キャスト法、ディッピング法、又はダイコート法により中間層を形成する工程と、前記中間層を形成した支持基板を真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記支持基板を−20℃以上30℃以下の温度としてから、プラズマCVD法又はスパッタ法により、50nm/min以下の成膜速度で、前記中間層の一面に硬質カーボン膜を成膜する工程と、前記硬質カーボン膜を成膜した支持基板を、水又は酸水溶液に浸漬して、前記支持基板から硬質カーボン膜製NF又はRO膜を剥離する工程を含むことを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法。
【0023】
(11)前記中間層が、グルコース、スクロース、グルコース/スクロース混合物、グリセリン、ポリエチレングリコール、シリコン熱酸化膜の群から選択されるいずれか一の材料からなる膜であることを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法。
(12)前記支持基板がシリコン又はガラスであることを特徴とする硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法。
【0024】
(13)上記(10)から(12)のいずれかの硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で製造した硬質カーボン膜製NF又はRO膜を、多孔性有機膜、多孔性無機膜又は多孔性金属膜のいずれか一の多孔性膜からなる多孔性支持基板の一面上に配置して、濾過フィルターを製造することを特徴とする濾過フィルターの製造方法。
【0025】
(14)表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下の限外濾過膜を調製後、有機溶媒洗浄処理と真空乾燥処理を行う前処理工程と、前記前処理した限外濾過膜を、真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記前処理した限外濾過膜を−20℃以上30℃以下の温度としてから、50nm/min以下の成膜速度で、プラズマCVD法又はスパッタ法により、前記前処理した限外濾過膜の一面に硬質カーボン膜製NF又はRO膜を成膜する工程を含むことを特徴とする2層接合型濾過フィルターの製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の硬質カーボン膜製NF又はRO膜は、厚みが5nm以上300nm以下であり、孔径が0.86nm未満である構成なので、アゾベンゼン色素(分子量182.2、最小分子幅0.69nm、幅、高さ、長さの平均値0.80nm)を含む有機溶液(原液)を濾過することにより、原液中の99%以上のアゾベンゼン色素を硬質カーボン膜の孔内又は硬質カーボン膜上に堆積させるとともに、アゾベンゼン色素を初濃度の1%未満とした有機溶媒を濾液として得て、原液中の有機溶媒とアゾベンゼン色素を分離することができる。また、NaCl水溶液(原液)を濾過することにより、NaClが80%以上取り除かれた水溶液を濾液として得て、他方、原液を濾過することにより、原液中のNaClを濃縮することもできる。
【0027】
本発明の濾過フィルターは、先に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜が多孔性支持基板の一面上に配置されている構成なので、アゾベンゼン色素(分子量182.2、最小分子幅0.69nm、幅、高さ、長さの平均値0.80nm)を含む有機溶液(原液)を大きな圧力差を用いて濾過することにより、原液中の99%以上のアゾベンゼン色素を硬質カーボン膜の孔内又は硬質カーボン膜上に堆積させるとともに、アゾベンゼン色素を初濃度の1%未満とした有機溶媒を濾液として得て、原液中の有機溶媒とアゾベンゼン色素を高速で分離することができる。
【0028】
本発明の2層接合型濾過フィルターは、先に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜が限外濾過膜の一面に接合されている2層接合型濾過フィルターであって、前記限外濾過膜が表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下とされている構成なので、硬質カーボン膜の厚みは100nm以下とすることができ、液体の高透過性を実現しつつ、力学的強度を高めることができ、濾過膜の耐圧性ならびに耐久性を向上させることができる。また、可撓性のある限外濾過膜の上に硬質カーボン膜製NF又はRO膜が形成されているため、濾過モジュールへの加工が容易である。即ち、濾過速度が速くかつ耐久性が高いNF又はRO膜として利用することができる。特に、塩化ナトリウムの除去率が80%以上で制御できるため、有機溶媒耐性のNF膜としての高い利便性がある。また、アゾベンゼン色素(分子量182.2、最小分子幅0.69nm、幅、高さ、長さの平均値0.80nm)を含む有機溶液(原液)を濾過することにより、原液中の99%以上のアゾベンゼン色素を硬質カーボン膜の孔内又は硬質カーボン膜上に堆積させて、アゾベンゼン色素を含有しない有機溶媒を濾液として得て、原液中の有機溶媒とアゾベンゼン色素を高度に分離することができる。
【0029】
本発明の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法は、支持基板の一面に、スピンコーティング法、キャスト法、ディッピング法、又はダイコート法により中間層を形成する工程と、前記中間層を形成した支持基板を真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記支持基板を−20℃以上30℃以下の温度としてから、プラズマCVD法又はスパッタ法により、50nm/min以下の成膜速度で、前記中間層の一面に硬質カーボン膜を成膜する工程と、前記硬質カーボン膜を成膜した支持基板を、水又は酸水溶液に浸漬して、前記支持基板から硬質カーボン膜製NF又はRO膜を剥離する工程と、を有する構成なので、支持基板の一面に、平滑・平坦性の高い中間層を形成し、平滑・平坦性の高い中間層の一面に、真空雰囲気下、30℃以下でゆっくり成膜することにより、硬質カーボン膜製NF又はRO膜の最大孔径を小さくするとともに、孔径のバラツキを小さくでき、硬質カーボン膜製NF又はRO膜の孔径を0.86nm未満とすることができる。
【0030】
本発明の濾過フィルターの製造方法は、先に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で製造した硬質カーボン膜製NF又はRO膜を、多孔性有機膜、多孔性無機膜又は多孔性金属膜のいずれか一の多孔性膜からなる多孔性支持基板の一面上に配置して、濾過フィルターを製造する構成なので、透水性や耐圧性、オイル耐性の調整を容易に行うことができる。
【0031】
本発明の2層接合型濾過フィルターの製造方法は、表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下の限外濾過膜を調製後、有機溶媒洗浄処理と真空乾燥処理を行う前処理工程と、前記前処理した限外濾過膜を、真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記前処理した限外濾過膜を−20℃以上30℃以下の温度としてから、50nm/min以下の成膜速度で、プラズマCVD法又はスパッタ法により、前記前処理した限外濾過膜の一面に硬質カーボン膜製NF又はRO膜を成膜する工程と、を有する構成なので、水洗浄を繰り返す必要がなく、前記限外濾過膜の孔が消滅したり、隣接する孔の間にクラックを生じさせたりすることない。また、2層接合型濾過フィルター製造工程で、先に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で製造した硬質カーボン膜製NF又はRO膜を平滑・平坦性の高い前処理した限外濾過膜の一面上に接合でき、孔径0.86nm未満の硬質カーボン膜製NF又はRO膜が前処理した限外濾過膜に接合された2層接合型濾過フィルターを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜の一例を示す概略説明図である。
図2】本発明の実施形態である濾過フィルターの一例を示す概略説明図である。
図3】本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターの一例を示す概略説明図である。
図4】本発明の実施形態である濾過フィルターを用いてアゾベンゼンを濾過したときの状態の一例を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターを用いてアゾベンゼンを濾過したときの状態の一例を示す説明図である。
図6】本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターを用いて有機溶媒を濾過したときの状態の一例を示す説明図である。
図7】多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの写真である。
図8】多孔性PSF膜の表面形態を示した電子顕微鏡写真の低倍率像(a)と、その高倍率像(b)と、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター断面の電子顕微鏡写真の低倍率像(c)と、その高倍率像(d)である。
図9】多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図10】多孔性PSF膜および多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜を用いてアゾベンゼンの濾過実験を行った後の膜の様子を示す写真である。
図11】多孔性PSF膜の分離特性であって、0.5mMアゾベンゼン/エタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図12】多孔性PSF膜および表面にダイヤモンド状カーボン膜を移し取った多孔性PSF膜の表面の様子を示す写真である。
図13】ダイヤモンド状カーボン膜を移し取った多孔性PSF膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図14】多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの電子顕微鏡写真(a)と、その高倍率像(b)である。
図15】多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法について説明する。
【0034】
<硬質カーボン膜製NF又はRO膜>
まず、本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜について説明する。
図1は、本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜の一例を示す概略説明図である。通常、硬質カーボン膜製NF又はRO膜の表面には、様々な平面視形状の孔が形成され、貫通形状も円筒状に限られるものではないが、図1では、説明のため、孔を均質な円筒状で簡略化して示している。
硬質カーボン膜製NF又はRO膜10は、例えば、ダイヤモンド状カーボン(DLC)からなるNF又はRO膜である。硬質カーボン膜は透明性が高い膜であり、その一例であるダイヤモンド状カーボン膜も透明性が高い膜である。図1に示すように、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10は、厚みt10が5nm以上300nm以下であり、複数の孔10cが設けられた多孔質膜である。
【0035】
硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の膜厚t10は、5nmから300nmの範囲にあるが、10nmから100nmの範囲にあることが望ましい。特に、透過流束が大きな硬質カーボン膜製NF又はRO膜を得るためには、10nmから50nmの範囲にあることがより望ましい。
【0036】
硬質カーボン膜製NF又はRO膜10は、プラズマ化したガスに含まれる元素(水素、窒素、硅素等)を含んでもよい。また、硬質カーボン膜の弾性率(ヤング率)は、5GPa以上であることが好ましく、50〜300GPaの範囲とすることがより好適であり、これにより、30気圧以上の圧力に耐える膜とすることができる。
【0037】
通常、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の孔10cの大きさは、図1に示す均質な円筒状の孔が形成されていると仮定した場合、直径0.86nm未満とされている。これにより、最小分離幅0.69nmのアゾベンゼン色素を99%以上分離できる。
製造条件を制御することにより、より小さな孔をもつ硬質カーボン膜として、0.80nm未満の孔径をもつ膜を製造することもできる。
【0038】
孔10cは、孔径に応じて、例えば、次の4つのグループに分けることができる。
孔10c1は0.42nm未満の孔径d1を有するグループであり、孔10c2は0.42nm以上0.66nm未満の孔径d2を有するグループであり、孔10c3は0.66nm以上0.80nm未満の孔径d3を有するグループであり、孔10c4は0.80nm以上0.86nm未満の孔径d4を有するグループである。例えばこのような孔径d1、d2、d3、d4の大きさのグループ区分により、対応する大きさの分子を選択分離することができる。
なお、孔の最大径は0.86nm未満とされている。
【0039】
更に、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10は、様々な有機溶媒(メタノール、エタノール、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ベンゼン、アセトニトリル、ヘキサンなど)に安定な濾過膜として利用することができ、これらの溶媒を用いた分離や精製に用いることができる。
また、硬質カーボン膜製NF又はRO膜を有する濾過フィルターは、その基材として有機溶媒耐性の限外濾過膜を選択することで、多くの有機溶媒に対して優れた耐性を有する濾過フィルターとなる。
【0040】
<濾過フィルター>
次に、本発明の実施形態である濾過フィルターについて説明する。
図2は、本発明の実施形態である濾過フィルターの一例を示す概略説明図である。
図2に示すように、本発明の実施形態である濾過フィルター21は、本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜10が多孔性支持基板20の一面20a上に配置されている。
多孔性支持基板20としては、多孔性有機膜、多孔性無機膜又は多孔性金属膜のいずれか一の多孔性膜を挙げることができる。具体的には、例えば、多孔性ポリスルホン(PSF)膜、多孔性アルミナ膜、多孔性アルミ膜を挙げることができる。
多孔性支持基板20の厚みt20は5μm以上100μm以下が好ましい。また、多孔性支持基板20は、ポリエステルやポリプロピレン、セルロース等の柔軟な不織布の上に形成されているものを用いてもよい。これにより、非常にフレキシブルな濾過フィルターを形成でき、モジュールの製造にも好適に利用できる。
【0041】
<2層接合型濾過フィルター>
次に、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターについて説明する。
図3は、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターの一例を示す概略説明図である。
図3に示すように、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31は、本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜10が限外濾過膜30の一面30aに接合されている。限外濾過膜30の一面30aは硬質カーボン膜製NF又はRO膜10との接合面とされている。
【0042】
限外濾過膜30としては、表面に50nm以下の孔をもつ膜であれば好ましい。表面の孔径を50nmとすると、阻止率から求められる内部の孔の直径を20nm程度にできる。限外濾過膜30は、表面に30nm以下の孔をもつ膜であればより好ましい。これにより、内部の孔の直径をより小さくできる。
一般に、限外濾過膜を濾過フィルターとして利用する場合、阻止率は膜の表面及び内部の孔によって決定する。この阻止率に基づく孔の範囲は、IUPACの定義によると1nmから100nmの範囲にある。
なお、本発明での限外濾過膜30の孔径は、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の接合面(および接合面から50nmの範囲)での孔のことであり、その円相当の直径のことである。限外濾過膜では、その製造法の如何により、内部に50nm以上の細孔が形成され、場合によっては1μm以上の孔が形成される。このような場合でも、前記接合面(および接合面から50nmの範囲)での孔径が50nm以下であれば好ましく、限外濾過膜30の内部(および接合面とは異なる一面)に大きな孔が形成されていても特に問題はない。
【0043】
限外濾過膜30の厚みt30が5μm以上100μm以下とすることが好ましい。また、限外濾過膜30は、ポリエステルやポリプロピレン、セルロース等の柔軟な不織布の上に形成されているものを用いてもよい。これにより、非常にフレキシブルな濾過フィルターを形成でき、モジュールの製造にも好適に利用できる。
【0044】
限外濾過膜30は、表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下とされていることが好ましい。表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まない限外濾過膜を用いることにより、限外濾過膜30上に形成する硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の平滑性を高めることができ、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の孔10cの孔径を0.86nm未満にできる。
なお、本発明での硬質カーボン膜製NF又はRO膜の孔径は、その阻止性能に基づいて評価された孔径のことを言う。即ち、本発明の硬質カーボン膜製NF又はRO膜には、阻止率に影響を与えないのであれば、最大孔径としては、0.86nm以上の部分が含まれていてもよい。
【0045】
限外濾過膜30の素材としては、特に限定する訳ではないが、高分子からなるものが好ましく、力学的強度が高く、耐熱性があるエンジニアリングプラスチックからなるものがより好ましい。例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。耐熱性が求められる理由としては、硬質カーボン膜を成膜する工程において、限外濾過膜の表面の局所温度が上がり、特に成膜速度が速い場合には、表面の孔が閉塞する傾向があるためである。これを防止する目的としては、表面張力を低下させるような処理を施したエンジニアプラスチック、あるいは架橋処理を施したエンジニアリングプラスチックを限外濾過膜の素材として用いることが好ましい。
【0046】
限外濾過膜30における表面の孔の面積(開孔面積率:孔率)は10%以上が好ましい。開孔面積率を10%以上とすることにより、濾過工程を短時間で実施することができる。
【0047】
限外濾過膜30は、多孔性有機膜であることが好ましい。これにより、フレキシブルな濾過フィルターを形成できる。前記多孔性有機膜としては、例えば、ポリスルホン(PSF)膜を好適なものとして挙げることができる。
【0048】
以上の限外濾過膜は、非溶媒相転移法などの一般的な手法で製造することが可能である。非溶媒相転移法では、一般に非対称膜が得られ、限外濾過膜の片面には、より大きな孔が形成され、その孔サイズは50nm以上になる場合が多い。このような場合、本発明では、限外濾過膜において、50nm以下の孔をもつ面に硬質カーボン膜製NF又はRO膜を形成する。
【0049】
なお、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31は、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10と限外濾過膜30に加えて別の層を積層して、より多層な積層型濾過フィルターとして利用できる。例えば、本発明の2層接合型濾過フィルターを数10μmの孔を有するセルロース製の濾過フィルターの上に製造すれば、より高強度になり、耐圧性や加工性が向上する。
【0050】
<硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法>
次に、本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法について説明する。
本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法は、中間層形成工程S1と、硬質カーボン膜成膜工程S2と、硬質カーボン膜剥離工程S3とを含む。
【0051】
(中間層形成工程S1)
この工程では、支持基板の一面に、例えば、スピンコーティング法、キャスト法、ディッピング法、又はダイコート法により中間層を形成する。
前記支持基板としては、シリコン又はガラスを好適なものとして挙げることができる。平滑面を有するこれらの支持基板を用いることにより、平滑な中間層を形成できる。
前記中間層としては、例えば好適なものとして、グルコース、スクロース、グルコース/スクロース混合物、グリセリン、ポリエチレングリコール、シリコン熱酸化膜の群から選択されるいずれか一の材料からなる膜を挙げることができる。これらの材料を用いることにより、中間層に、表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まない平滑面を形成できる。
【0052】
(硬質カーボン膜成膜工程S2)
この工程では、前記中間層を形成した支持基板を真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記支持基板を−20℃以上30℃以下の温度としてから、プラズマCVD法又はスパッタ法により、50nm/min以下の成膜速度で、前記中間層の一面に硬質カーボン膜を成膜する。
【0053】
プラズマCVD法による硬質カーボン膜の製造は、例えば、高周波プラズマ装置を用いて行う。
高周波プラズマ装置は、チャンバーと、配管と、電極部と、ガス導入管と、を有するものとして概略構成されている。なお、上下の電極部は、一対の電極部として機能し、その間に電界を印加できる構成とされている。下の電極部は、基板を保持する機能を併せ持つ。配管は、ガス供給部(図示略)に接続されており、ガス供給部に貯蔵されたガスをチャンバー内に導入するガス導入管として用いられる。配管は、真空ポンプと接続されており、チャンバー内を所定の真空度に減圧可能とするとともに、チャンバー内に導入したガスを排出するガス排出管としても用いられる。
【0054】
まず、チャンバーの内部に、中間層の表面がプラズマCVDの照射面となるように、電極部に取り付ける。次に、チャンバーの内部を所定の真空度まで減圧し、ガス供給部から有機化合物を含んだガスをチャンバーの内部に導入する。
前記有機化合物は、室温の前後10℃の範囲内における蒸気圧が8Pa以上である有機化合物であることが好ましい。前記有機化合物は、炭化水素だけでなく、酸素、窒素、硅素、リン、ホウ素、その他の元素を含むものであってよい。
【0055】
前記有機化合物としては、特に限定する訳ではないが、例えば、アセチレン、ブタジエン、ピリジン、ベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、シクロヘキサン、ヘキサメチルジシロキサン、4−ビニルピリジン、プロピルアミン、アリルアミンの群から選ばれる一の有機化合物を挙げることができる。
前記有機化合物はガス状態とした後、単体のガスとしてチャンバー内に導入してもよく、また、他の有機化合物や不活性ガスとの混合ガスとしてチャンバー内に導入してもよい。例えば、アセチレンやブタジエンなどの反応性が高いガスはアルゴンガスと混合して導入することが好ましい。
また、有機化合物や成膜条件を選択することで、細孔サイズや力学的性質、化学的性質が異なる硬質カーボン膜が得られるため、前記異なる硬質カーボン膜を積層させることによって、濾過フィルターとしての性質を制御することが可能となる。
なお、ヘキサメチルジシロキサンなどの沸点が比較的高い液体を用いる場合、チャンバーの外部に前記液体をガス化するための減圧容器を設け、前記減圧容器で圧力8Pa以上のガスとしてからチャンバー内に導入してもよい。
【0056】
スパッタ法による硬質カーボン膜の製造には、一般的なスパッタ装置を用いることができる。
スパッタ装置は、チャンバーと、配管と、ターゲット部を有するものとして概略構成されている。また、スパッタの様式としては、アーク放電法、マグネトロン法、イオンアシスト法などがあり、これらを単独又は組み合わせて用いてよい。ターゲットは、一般にはアモルファスカーボン又はグラファイトが用いられるが、炭素原子だけでなく、リンやホウ素、酸素、窒素、ケイ素などの異元素を含んでいてもよい。さらに、ターゲットから放出する原子、イオン、クラスター、プラズマ等の濃度や組成、温度等を調整するために、チャンバー内にはアルゴン等の不活性ガスやメタン、エタン、ピリジン等のガス状の有機物を導入してもよい。スパッタによって生じるイオン化した原子や分子、クラスターは、電界等を用いて支持基板に誘導することもできる。これらの方法は、スパッタ法の一般的な手法として広く知られている。
【0057】
プラズマCVD法とスパッタ法は、硬質カーボン膜の成膜のための主要な炭素成分の導入方法が異なる。しかし、硬質カーボン膜の成膜においては、いずれの場合も炭素成分がラジカル種やイオン種、クラスター種として存在することができ、これらの成分が支持基板の片面に吸着、反応することで、硬質カーボン膜が成長する。このため、結果として得られる硬質カーボン膜は、類似したものとなる。
【0058】
プラズマCVD法では、硬質カーボン膜となる炭素成分を主にガス種として導入するため、ガス種としてアセチレンやプロピルアミン等を用いることで、水素や窒素の存在下で硬質カーボン膜を成膜することが容易になる。この結果、スパッタ法と比較して、硬質カーボン膜の親水性や柔軟性を制御しやすい。しかし、スパッタ法でも、ターゲット種やチャンバー内の雰囲気を選択することで、硬質カーボン膜の親水性や柔軟性を制御することができる。
【0059】
プラズマCVD法による硬質カーボン膜の成膜では、チャンバーの内部に、有機化合物を含むガスを流通させた状態で、上下の電極部の間に電界を印加することにより、電極部の間に高周波プラズマを発生させる。
成膜条件は、基板温度−20℃以上30℃以下、50nm/min以下の成膜速度とする。前記成膜条件とすることにより、硬質カーボン膜の平滑性を高めることができ、硬質カーボン膜の孔径を0.86nm未満にできる。
その他の成膜条件は、特に限定する訳ではないが、例えば、出力2〜100W、圧力1〜8Pa、成膜時間1〜3600秒の範囲とする。前記成膜条件とすることにより、有機化合物を含むガスをプラズマ化し、厚みが5nm以上300nm以下の硬質カーボン膜を成膜することができる。
【0060】
スパッタ法による硬質カーボン膜の成膜では、プラズマCVD法と同様に、基板温度−20℃以上30℃以下、50nm/min以下の成膜速度とする。成膜速度が大きい場合、硬質カーボン膜の表面温度が上昇する。このような場合には、基板温度をより低く設定することで、表面温度の上昇を抑えることが望ましい。前記成膜条件とすることにより、平滑な硬質カーボン膜を得ることができ、硬質カーボン膜の孔径を0.86nm未満にできる。
その他の成膜条件は、特に限定する訳ではないが、圧力は1Pa以下が望ましく、成膜時間は、1〜7200秒の範囲が望ましい。前記成膜条件とすることにより、厚みが5nm以上300nm以下の硬質カーボン膜を成膜することができる。
【0061】
(硬質カーボン膜剥離工程S3)
この工程では、前記硬質カーボン膜を成膜した支持基板を、水又は酸水溶液に浸漬して、中間層を溶出し、前記支持基板から硬質カーボン膜製NF又はRO膜を剥離する。
【0062】
<濾過フィルターの製造方法>
次に、本発明の実施形態である濾過フィルターの製造方法について説明する。
本発明の実施形態である濾過フィルターの製造方法は、先に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で製造した硬質カーボン膜を、多孔性有機膜、多孔性無機膜又は多孔性金属膜のいずれか一の多孔性膜からなる多孔性支持基板の一面上に配置して、濾過フィルターを製造する。
水又は酸水溶液中で、先に記載の硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で剥離した硬質カーボン膜製NF又はRO膜を静かに多孔性支持基板の一面上に配置することにより、濾過フィルターを容易に製造できる。
【0063】
<2層接合型濾過フィルターの製造方法>
次に、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターの製造方法について説明する。
本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルターの製造方法は、前処理工程S11と、硬質カーボン膜成膜工程S12と、を有する。
【0064】
(前処理工程S11)
この工程では、表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下の限外濾過膜を調製後、有機溶媒洗浄と真空乾燥処理を行い、限外濾過膜の前処理を行う。
【0065】
(硬質カーボン膜成膜工程S12)
この工程では、前記前処理した限外濾過膜を、真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記前処理した限外濾過膜を−20℃以上30℃以下の温度としてから、50nm/min以下の成膜速度で、プラズマCVD法又はスパッタ法により、前記前処理した限外濾過膜の一面に硬質カーボン膜を成膜する。
その他の成膜条件には、前記硬質カーボン膜成膜工程S2と同様な条件を選択することができる。
【0066】
図4は、本発明の実施形態である濾過フィルター21を用いてアゾベンゼンを濾過したときの状態の一例を示す説明図である。
硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の孔10cの孔径は0.86nm未満とされている。これにより、図4に示すように、分子サイズ0.80nmのアゾベンゼン色素は硬質カーボン膜製NF又はRO膜10を透過できず、99%以上を溶媒から分離できる。
【0067】
図5は、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31を用いてアゾベンゼンを濾過したときの状態の一例を示す説明図である。
硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の孔10cの孔径は0.86nm未満とされている。これにより、図5に示すように、分子サイズ0.80nmのアゾベンゼン色素は硬質カーボン膜製NF又はRO膜10を透過できず、99%以上を溶媒から分離できる。
【0068】
図6は、本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31を用いて有機溶媒を濾過したときの状態の一例を示す説明図である。
図6に示すように、硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の孔10cは先に記載したように孔径によりグループ分けされている。これにより、ほぼ同様な立体構造を有する有機溶媒を透過させたときに、分子サイズの違いによって、流束(フラックス)の違いを生じさせる。
【0069】
本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜10は、厚みt10が5nm以上300nm以下であり、孔径が0.86nm未満である構成なので、アゾベンゼン色素(分子量182.2、分子幅0.69nm、幅、高さ、長さの平均値0.80nm)を含む有機溶液(原液)を濾過することにより、原液中の99%以上のアゾベンゼン色素を硬質カーボン膜の孔内又は硬質カーボン膜上に堆積させるとともに、アゾベンゼン色素を初濃度の1%未満とした有機溶媒を濾液として得て、原液中の有機溶媒とアゾベンゼン色素を分離することができる。また、NaCl水溶液(原液)を濾過することにより、NaClが80%以上取り除かれた水溶液を濾液として得て、他方、原液を濾過することにより、原液中のNaClを濃縮することもできる。
【0070】
本発明の実施形態である濾過フィルター21は、硬質カーボン膜10が多孔性支持基板20の一面20a上に配置されている構成なので、アゾベンゼン色素(分子量182.2、分子幅0.69nm、幅、高さ、長さの平均値0.80nm)を含む有機溶液(原液)を大きな圧力差を用いて濾過することにより、原液中の99%以上のアゾベンゼン色素を硬質カーボン膜の孔内又は硬質カーボン膜上に堆積させるとともに、アゾベンゼン色素を初濃度の1%未満とした有機溶媒を濾液として得て、原液中の有機溶媒とアゾベンゼン色素を高速で分離することができる。
【0071】
本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31は、硬質カーボン膜10が限外濾過膜30の一面30aに接合されている2層接合型濾過フィルターであって、限外濾過膜30が表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下とされている構成なので、硬質カーボン膜の厚みは300nm以下であるが、表面に50nm以下の孔を有する限外濾過膜上に形成されているため、液体の高透過性を実現しつつ、力学的強度を高めることができ、濾過膜の耐圧性ならびに耐久性を向上させることができる。また、可撓性のある限外濾過膜の上に硬質カーボン膜が形成されているため、濾過モジュールへの加工が容易である。即ち、濾過速度が速くかつ耐久性が高いNF又はRO膜として利用することができる。特に、塩化ナトリウムの除去率が80%以上で制御できるため、有機溶媒耐性のNF膜としての高い利便性がある。また、アゾベンゼン色素(分子量182.2、分子幅0.69nm、幅、高さ、長さの平均値0.80nm)を含む有機溶液(原液)を濾過することにより、原液中の99%以上のアゾベンゼン色素を硬質カーボン膜の孔内又は硬質カーボン膜上に堆積させて、アゾベンゼン色素を含有しない有機溶媒を濾液として得て、原液中の有機溶媒とアゾベンゼン色素を分離することができる。
【0072】
本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31は、前記限外濾過膜が多孔性有機膜である構成なので、無欠陥の硬質カーボン膜(より透明度の高いダイヤモンド状カーボン膜であってもよい)を成膜して、孔径を0.86nm未満にできる。
【0073】
本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31は、前記多孔性有機膜が好ましくはポリスルホン(PSF)膜である構成なので、無欠陥であり、多孔性支持基板である限外濾過膜との密着性に優れた硬質カーボン膜を成膜して、孔径を0.86nm未満にできる。
【0074】
本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の製造方法は、支持基板の一面に、例えば、スピンコーティング法、キャスト法、ディッピング法、又はダイコート法により中間層を形成する工程S1と、前記中間層を形成した支持基板を真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記支持基板を−20℃以上30℃以下の温度としてから、プラズマCVD法又はスパッタ法により、50nm/min以下の成膜速度で、前記中間層の一面に硬質カーボン膜を成膜する工程S2と、前記硬質カーボン膜を成膜した支持基板を、水又は酸水溶液に浸漬して、前記支持基板から硬質カーボン膜を剥離する工程S3と、を有する構成なので、支持基板の一面に、平滑・平坦性の高い中間層を形成し、平滑・平坦性の高い中間層の一面に、減圧下、室温付近で成膜することにより、硬質カーボン膜の最大孔径を小さくするとともに、孔径のバラツキを小さくでき、硬質カーボン膜の孔径を0.86nm未満とすることができる。
【0075】
本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の製造方法は、前記中間層が、好ましくは、グルコース、スクロース、グルコース/スクロース混合物、グリセリン、ポリエチレングリコール、シリコン熱酸化膜の群から選択されるいずれか一の材料からなる膜である構成なので、平滑・平坦性の高い硬質カーボン膜を成膜して、孔径を0.86nm未満にでき、容易に剥離できる。
【0076】
本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜10の製造方法は、前記支持基板が好適にはシリコン又はガラスである構成なので、広範囲で平滑・平坦性の高い硬質カーボン膜を成膜して、孔径を0.86nm未満にでき、容易に剥離できる。
【0077】
本発明の実施形態である濾過フィルター21の製造方法は、硬質カーボン膜製NF又はRO膜の製造方法で製造した硬質カーボン膜製NF又はRO膜10を、多孔性有機膜、多孔性無機膜又は多孔性金属膜のいずれか一の多孔性膜からなる多孔性支持基板の一面上に配置して、濾過フィルター21を製造する構成なので、孔径を0.86nm未満とした硬質カーボン膜製NF又はRO膜の分離性能を損なわずに、濾過フィルターとしての耐圧性を向上させることができる。
【0078】
本発明の実施形態である2層接合型濾過フィルター31の製造方法は、表面に1μmの範囲で50nm以上の局所的な凸部を含まず、表面の孔径が1nm以上50nm以下の限外濾過膜を調製後、有機溶媒洗浄と真空乾燥処理を行う前処理工程S11と、前記前処理した限外濾過膜を、真空チャンバー内に配置し、前記真空チャンバー内を減圧状態とし、前記前処理した限外濾過膜を−20℃以上30℃以下の温度としてから、50nm/min以下の成膜速度で、プラズマCVD法又はスパッタ法により、前記前処理した限外濾過膜の一面に硬質カーボン膜を成膜する工程S12と、を有する構成なので、有機溶媒洗浄する前処理工程により、孔を保持した状態で前処理した限外濾過膜を作製でき、2層接合型濾過フィルター製造工程で、硬質カーボン膜を平滑・平坦性の高い前処理した限外濾過膜の一面上に成膜でき、孔径0.86nm未満の硬質カーボン膜製NF又はRO膜が前処理した限外濾過膜に接合された2層接合型濾過フィルターを容易に製造できる。
【0079】
以上のような本発明の実施形態である硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。
本発明の実施形態の具体例を以下の実施例で示す。もちろん、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
(試験例1)
<多孔性PSF膜の作製>
まず、ポリスルホン(PSF)(ソルベイアドバンストポリマーズ社製 ユーデル ポリサルホン P−1700)7.5gを、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬社製 特級)42.5gに加えてから、6時間室温で撹拌して、高分子濃度15wt%のキャスト溶液を作製した。
次に、このキャスト溶液を5分間真空で保持して脱泡処理を行なった後、シリコン基板(2インチ)上に滴下してから、回転数2000rpmで2秒間スピンコートして、均一に塗布した。
次に、この基板をすばやく室温下の純水に浸漬して、非溶媒誘起相分離法により、カーボン濾過フィルターの基材となるフレキシブルなポリスルホンの多孔性シート(多孔性PSF膜)(試験例1−1)を作製した。
続いて、同条件で試験例1−2、試験例1−3の多孔性PSF膜も作製した。
【0081】
<多孔性PSF膜の評価>
多孔性PSF膜を介したエタノールの流束は、−80kPaの吸引条件で2300L/mhであり、複数の透過実験を行った場合の標準偏差は350L/mhであった(試験例1−1)。
また、屈折率計を用いて分画分子量の測定を行った。デキストランを用いて評価した多孔性PSF膜の分画分子量は200k(試験例1−1)、190k(試験例1−2)、210k(試験例1−3)であった。
また、多孔性PSF膜の厚みは20μm(試験例1−1)、15μm(試験例1−2)、25μm(試験例1−3)であった。
表1は、多孔性PSF膜(試験例1−1〜1−3)の評価結果である。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例1)
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの作製1>
まず、プラズマCVD装置のチャンバー内の所定の位置に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。
次に、チャンバー内を減圧してから、プロピルアミンを原料ガスとして、成膜温度を室温(25℃)とし、プラズマCVD法に基づき、成膜時間を2分として、多孔性PSF膜上に直接、ダイヤモンド状カーボンを堆積させて、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)を作製した。
【0084】
次に、成膜時間を30分とした他は実施例1−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例1−2)を作製した。
【0085】
次に、成膜時間を60分とした他は実施例1−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例1−3)を作製した。
【0086】
図7は、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−3)の写真である。金属性リングを多孔性PSF膜の固定のために使用したため、多孔性PSF膜の露出部分が形成された。白いリング状部分が多孔性PSF膜の露出部分であり、薄黄色の透明な膜の部分がダイヤモンド状カーボン膜である。
また、図8は、多孔性PSF膜の表面形態を示した電子顕微鏡写真の低倍率像(a)と、その高倍率像(b)と、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター断面の電子顕微鏡写真の低倍率像(c)と、その高倍率像(d)である。
多孔性PSF膜の表面は、広範囲に渡って平滑であり、少なくとも1μmの範囲には、50nm以上の局所的な凸部を含まない。また、その表面には、1〜50nmの範囲の細孔を有する。多孔性PSF膜上にダイヤモンド状カーボン膜を成膜すると、上記の1〜50nmの範囲の細孔は、全てダイヤモンド状カーボン膜で覆われる。さらに、高倍率の観察から、多孔性PSF膜とダイヤモンド状カーボン膜は非常に良く密着していることが確認できる。
【0087】
多孔性PSF膜上に堆積させたダイヤモンド状カーボン膜の膜厚は、一緒にチャンバー内に設置したシリコン基板上の堆積層の厚みを偏光解析測定により計測することで算出した。
各ダイヤモンド状カーボン膜の厚みは、10nm(実施例1−1)、150nm(実施例1−2)、300nm(実施例1−3)であり、堆積時間によって、厚みをコントロールできることが確認できた。
【0088】
(実施例2)
成膜温度を−20℃とした他は実施例1と同様にして、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)を作製した。
【0089】
次に、成膜時間を30分とした他は実施例2−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例2−2)を作製した。
【0090】
次に、成膜時間を60分とした他は実施例2−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例2−3)を作製した。
【0091】
各ダイヤモンド状カーボン膜の厚みは、10nm(実施例2−1)、150nm(実施例2−2)、300nm(実施例2−3)であった。
表2は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1〜2−3)の作製条件及び厚みである。
【0092】
【表2】
【0093】
これらのダイヤモンド状カーボン膜の力学的特性を解明するために、実施例1−2および実施例1−3と同一条件でポリイミド製のシートの上にダイヤモンド状カーボン膜を作製し、動的粘弾性測定法により、ヤング率(弾性率)を測定した。ヤング率の測定には、バックリング法などの他の方法もあるが、解析に多くの仮定が入り、本来、ポアソン比が不明な物質には用いることができない。一方、動的粘弾性測定法は、極薄の膜の測定は困難であるが、100nm以上の膜厚であれば、高い精度の計測が可能である。
動的粘弾性測定法を用いて、150nm(実施例1−2に対応)、300nm(実施例1−3に対応)のダイヤモンド状カーボン膜のヤング率を測定した結果、それぞれ58.3GPa、58.9GPaであった。この結果は、本実施例の製膜法で、ダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)が形成されていることを示している。
従来の高性能のNF又はRO膜は、ヤング率が5GPa以下の架橋ポリマーやエンジニアリングプラスチックから製造されており、本実施例の膜は、これと比較して約10倍硬質である。
【0094】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの液体透過特性評価1>
次に、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1及び実施例2−3)の液体透過特性を検討した。
多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1及び実施例2−3)はいずれも、有機溶媒(エタノール)及び水のどちらも透過させた。
【0095】
次に、実施例1に関して、流束の評価を、−80kPaの吸引条件で行った。
エタノールのフラックスは、3.5L/mh(2層接合型濾過フィルター(実施例1−1))であった。
一方、水の流束は2.2L/mh(2層接合型濾過フィルター(実施例1−1))であった。
表3は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の液体透過特性評価結果及び粘度ηをまとめたものである。
表3に示すように、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)に関しては、エタノールの流束が、水の流束と比較して大きかった。これから、カーボン膜の流路は疎水性の隙間と考えられる。
【0096】
【表3】
【0097】
同様に、実施例2に関して、流束の評価を、−80kPaの吸引条件で行った。
エタノールのフラックスは、3.4L/mh(2層接合型濾過フィルター(実施例2−3))であった。
一方、水の流束は、0.7L/mh(2層接合型濾過フィルター(実施例2−3))であった。
実施例2に関しても、エタノールの流束が、水の流束と比較して大きかった。これから、カーボン膜の流路は疎水性の隙間と考えられる。
表4は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1及び実施例2−3)の液体透過特性評価結果である。
【0098】
【表4】
【0099】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの液体透過特性評価2>
分子サイズの異なるアルカン(n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン)を原液として用いて、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)で濾過して、−80kPaの吸引条件で流束を測定して、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の透過特性を検討した。
表5は、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)で濾過したときの各液体の流束及び粘度ηをまとめたものである。
【0100】
【表5】
【0101】
表5に示すように、ノルマルアルカンを比較した場合、分子サイズが大きくなるにしたがい、流束は低下した。つまり、流束の大小関係は、n−ヘキサン>n−へプタン>n−オクタン>n−デカンであった。
【0102】
その透過特性は、分子サイズだけでなく、分子形状の影響も受けた。n−ヘキサンとシクロヘキサンは分子量がほぼ等しいにもかかわらず、そのフラックスは大きく異なり、シクロヘキサンの流束はn−ヘキサンの流束の5分の1程度であった。つまり、n−ヘキサンの透過速度は、シクロヘキサンの透過速度の約5倍となった。
n−ヘキサンの粘度は、0.295mPa・sであり、シクロヘキサンの粘度は0.887mPa・sである。ダイヤモンド状カーボン膜を介した液体の透過は、ダルシーの法則に従うものと考えられ、粘度の違いから、n−ヘキサンがシクロヘキサンより3倍速く透過すると言える。しかしながら、n−ヘキサンの透過速度は、粘度の影響を鑑みても十分に大きい。
【0103】
n−ヘキサンとシクロヘキサンの流束の違いの一因は、孔径の違いによるとも考えられる。n−ヘキサンのオールトランスのコンフォメーション(最安定のコンフォメーション)での分子幅は、0.42nmから0.45nmの範囲にある。一方、シクロヘキサンの環状のコンフォメーション(最安定のコンフォメーション)での分子幅は、0.50nmから0.66nmの範囲にある。ダイヤモンド状カーボン膜は、溶媒分子のこのような分子サイズを識別して、より小さなものを速く透過させる。本実施例のダイヤモンド状カーボン膜には、直径が0.42nm未満の孔径も存在すると考えられるが、n−ヘキサンを透過させ、シクロヘキサンを阻止する0.42nm以上0.66nm未満の孔径も存在すると考えられる。
【0104】
また、n−ヘキサンとシクロヘキサンの流束の違いの一因は、より詳しく説明するならば、分子構造によると考えられる。つまり、ダイヤモンド状カーボン膜が溶媒分子の形状を認識していることを示している。n−ヘキサンは直鎖状であり、シクロヘキサンは環状である。また、直鎖状の分子の場合、その形状の一部を容易に変形できるが、環状の分子の場合、その形状の変形は容易ではない。よって、ダイヤモンド状カーボン膜の孔が曲がりくねって形成されている場合には、略線状のn−ヘキサンは透過しやすいが、略環状のシクロヘキサンは透過しにくくなり、フラックスの違いを引き起こすと考えられる。
【0105】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価1>
次に、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の分離特性を検討した。なお、比較のために、多孔性支持基板として用いた多孔性PSF膜(試験例1)の分離特性も検討した。
具体的には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)を−80kPaの吸引条件で濾過して、フィルター表面上の固形物と濾液とに分離した。フィルター表面上の表面観察をするとともに、濾液の紫外/可視吸収スペクトルを測定した。
【0106】
図9は、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。図9には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)を用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。図9に示すように、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)では、アゾベンゼン(分子量:182.2,分子幅:0.69nm)を100%阻止できた。本実施例のダイヤモンド状カーボン膜は、シクロヘキサンを高速で透過させ、アゾベンゼンを100%阻止することから、0.66nm以上0.80nm未満の孔径を有することが確認できる。
【0107】
図10は、多孔性PSF膜および多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜を用いてアゾベンゼンの濾過実験を行った後の膜の様子を示す写真である。図10には、アゾベンゼンのエタノール溶液の濾過後の多孔性PSF膜(試験例1)及び2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の表面の写真が示されている。
図10に示すように、多孔性PSF膜(試験例1)では、アゾベンゼン由来の着色が見られず、アゾベンゼンは吸着されず、アゾベンゼンは分離できなかった。
一方、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)では、アゾベンゼン由来の着色が見られ、アゾベンゼンが濾過液(エタノール)と分離された。
【0108】
また、図11は、多孔性PSF膜の分離特性であって、0.5mMアゾベンゼン/エタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。図11には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、多孔性PSF膜(試験例1)のみを用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。図11に示すように、原液と濾液の紫外/可視吸収スペクトルは重なった。これにより、多孔性PSF膜(試験例1)ではアゾベンゼンを濾液から分離することができなかったことが分かった。
以上により、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)では、多孔性PSF膜ではなく、ダイヤモンド状カーボン膜の孔径が阻止性能を支配したと結論できる。
【0109】
また、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)を用いた場合の原液の流束は4L/mhであった。0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の流束はエタノール溶液の流束とほぼ同じであり、アゾベンゼンが存在しても、流束を大きく変えることはなかった。
表6は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)及び多孔性PSF膜(試験例1)の分離特性評価結果である。
【0110】
【表6】
【0111】
<ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターの孔径について>
n−ヘキサン、シクロヘキサンの分子サイズおよびアゾベンゼンのサイズと阻止率から多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)のダイヤモンド状カーボン膜の孔径を算出した。
【0112】
まず、分子モデリングシステム(Spartan'04)により、アゾベンゼン分子の幅、高さ、長さの平均が0.80nmであると算出した。
有機分子のサイズには、様々な捉え方があるが、分子モデルから算出されるアゾベンゼンの分子幅は0.69nmであり、分子長は1.37nm、分子厚みは0.33nmとなる。また、アゾベンゼン分子の長さ、幅、厚みから計算される平均分子サイズを球相当の直径として捉えると0.80nmとなる。
【0113】
次に、この値を球の直径とみなしてFerry−Renkinの式(非特許文献4)に基づき、孔径を算出した。なお、非特許文献4には、細孔内の液体の流れが放物線速度分布をもつ場合において、溶質のサイズと阻止率から孔径を計算するための理論が説明されている。(1)アゾベンゼンの阻止率が99%であり、(2)カーボン膜の孔が円筒形状であると仮定して算出した結果、孔径は0.86nmとなった。
また、アゾベンゼンの阻止率を100%とした場合には、孔径が0.80nmとなった。
【0114】
なお、特許文献1では、ナノストランドを犠牲層として製造したダイヤモンド状カーボン膜では、アゾベンゼンに対する阻止率が最大95.2%であった。アゾベンゼンの阻止率95.2%の場合、Ferry−Renkinの式を用い、球相当直径(0.80nm)から孔の直径を見積もると、0.95nmとなる。即ち、ナノストランドを犠牲層として用いることで、ダイヤモンド状カーボン膜の内部には、アゾベンゼンの分子サイズより相当に大きい0.95nm以上の孔が形成されていることを意味する。
【0115】
Ferry−Renkinの式では、アゾベンゼンが溶液中で自由に回転していると仮定し、ダイヤモンド状カーボン膜の内部に円筒状の孔が形成されているとして、孔の直径を見積もっている。濾過実験においては、溶質分子(この場合、アゾベンゼン)が溶媒と混合しており、高速で回転している。このため、孔のサイズが1nm程度の場合、円筒状の孔が形成されていると仮定してよい。
【0116】
本発明のダイヤモンド状カーボン膜では、アゾベンゼンの阻止率が99%から100%となる。この場合、Ferry−Renkinの式から見積もられる孔の直径は、99%の阻止率で0.86nm、100%の阻止率で0.80nmとなる。阻止率が100%の場合、0.80nm未満の孔が形成される可能性があるが、0.8nm以上の孔が形成されているとは考えられない。これは、もし0.8nm以上の孔が存在すれば、アゾベンゼンのごく一部が膜を透過してしまい、阻止率が100%にならないからである。
除去率が100%の場合、ダイヤモンド状カーボン膜の内部の平均的な孔のサイズは、0.8nmより小さい。
【0117】
<先行の論文や特許で記載した膜について>
非特許文献2や特許文献1では、有機溶媒に溶解したアゾベンゼンに対して高い阻止率を有するダイヤモンド状カーボン膜が報告されている。本研究者は、これらの文献に記載された方法を用いて、優れた濾過フィルターを製造することを試みた。しかしながら、ナノストランドを犠牲層として製造したダイヤモンド状カーボン膜では、アゾベンゼンに対する阻止率が最大95.2%であった。
【0118】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価2>
0.01MのNaCl水溶液(原液)を原液として用いて、−20℃で成膜したダイヤモンド状カーボン膜を有する多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)で濾過して、−80kPaの吸引条件で流束を測定して、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)の分離特性を、検討した。
【0119】
原液と濾液の屈折率を測定した。
原液の20℃における屈折率は1.33306であり、濾液の20℃における屈折率は1.33297であった。
濾液の屈折率から、濾液のNaCl濃度は0.00203Mと見積もられた。
また、これから、NaClの阻止率は80%となった。
【0120】
また、25℃における0.01MのNaCl水溶液(原液)の浸透圧は49kPaであることから、−80kPaの吸引条件で濾過可能である。
さらに、流束は0.71L/mhであった。
以上の結果から、ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターはRO(逆浸透)性能を有していた。
表7は、2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)の分離特性評価2の結果である。
【0121】
【表7】
【0122】
なお、特許文献1に記載されている逆浸透膜では、2.4MPaの加圧条件での水の流束が4.7L/mhであり、NaCl阻止率が68.5%であった。また、アゾベンゼンの阻止率が95.2%であり、0.95nm以上の孔を有していた。
それに対し、2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)のフラックスは、膜の前後の圧力差が30分の1であるにもかかわらず、0.71L/mh(圧力差:80kPa)という流束を有する。NaCl阻止率も80%と大いに向上している。さらに、2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)では、アゾベンゼンの阻止率が100%であり、0.80nm以上の細孔を有しないことが確認された。
【0123】
ナトリウムイオンの水和イオン径は、0.72nmと見積もられており、塩化物イオンの水和イオン径は0.66nmである。これらのイオンの阻止率が80%に達することは、ダイヤモンド状カーボン膜の内部にこれらのイオンサイズと同等の細孔が形成されていることを示す。
【0124】
(実施例3)
プラズマCVD法によるダイヤモンド状カーボン膜の形成では、基材のエッチングや化学的な変質が起こりえる。多孔性支持基板として高分子の限外濾過膜を用いた場合、表面近傍の局所的な温度の上昇に由来する限外濾過膜の軟化、溶融、緻密化、炭化などの現象も予測でき、このような高分子の変質により分離機能層が形成されている可能性がある。
そこでは、最外層のダイヤモンド状カーボン膜が濾過フィルターとして機能していることを実証するために、ダイヤモンド状カーボンの自立膜を製造し、これを多孔性支持基板に転写することで、濾過フィルターとしての性能を評価した。
シリコンあるいはガラス等の支持基板上にグルコースの皮膜を形成し、プラズマCVD法によりダイヤモンド状カーボン膜を作製した。その後、純水を用いてグルコース層を溶出して、支持基板からダイヤモンド状カーボン膜を自立膜として剥離させ、PSFの限外濾過膜上に転写した。このようにして製造した濾過フィルターにおいても、99%以上のアゾベンゼンの阻止率が確認され、ダイヤモンド状カーボン膜がアゾベンゼンの分離機能層として働いていることが実証された。
具体的な手順は次のとおりである。
【0125】
<剥離転写ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターの作製>
まず、シリコンの支持基板を用意した。
次に、前記支持基板上に、スピンコーティング法により、中間層としてグルコース膜を作製した。
次に、前記中間層上に、プラズマCVD法により、ダイヤモンド状カーボン膜(DLC膜)を作製した。
次に、純水を用いて、中間層のみを溶出して、DLC膜を支持基板から剥離させた。なお、純水の代わりに、薄いフッ酸水溶液を用いてもよい。
次に、剥離させたDLC膜(剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜)を、多孔性PSF膜上に移し取り(転写して)、濾過フィルター(実施例3−1)を作製した。
図12は、多孔性PSF膜および表面にダイヤモンド状カーボン膜を移し取った多孔性PSF膜の表面の様子を示す写真である。図12には、多孔性PSF膜のみの写真及び多孔性PSF膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例3−1)の写真が示されている。
【0126】
中間層としてスクロース膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−2)を作製した。
【0127】
中間層としてグルコース/スクロース混合物膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−3)を作製した。
【0128】
中間層としてグリセリン膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−4)を作製した。
【0129】
中間層としてポリエチレングリコール膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−5)を作製した。
【0130】
中間層としてシリコン熱酸化膜を用いた場合は薄いフッ酸水溶液を用いて実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−6)を作製した。
【0131】
支持基板としてガラスを用いた場合は薄いフッ酸水溶液を用いて実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−7)を作製した。
【0132】
(実施例4)
多孔性PSF膜の代わりに多孔性アルミナ膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、多孔性アルミナ膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例4−1)を作製した。
【0133】
多孔性アルミナ膜の代わりに多孔性アルミ膜を用いた他は実施例4−1と同様にして、多孔性アルミ膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例4−2)を作製した。
【0134】
<多孔性膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルターの分離特性評価>
次に、多孔性PSF膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例3−1)の分離特性を検討した。
具体的には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)を−80kPaの吸引条件で濾過して、濾液を得た。濾過フィルター表面上の表面観察をするとともに、濾液の紫外/可視吸収スペクトルを測定した。
【0135】
図13は、多孔性PSF膜上に移し取ったダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。図13には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、濾過フィルター(実施例3−1)を用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。図13に示すように、濾過フィルター(実施例3−1)では、アゾベンゼン(分子量:182.2,分子幅:0.69nm)を99%阻止できた。
【0136】
また、濾過フィルター(実施例3−1)を用いた場合の原液の流束は2L/mhであった。
この結果、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜だけでなく、多孔性PSF膜上に転写したダイヤモンド状カーボン膜でも、優れた分離特性を発揮できた。
表8は、濾過フィルター(実施例3−1〜3−7、4−1、4−2)の作製条件及び厚みである。
【0137】
【表8】
【0138】
表9は、濾過フィルター(実施例3−1)の分離特性評価の結果である。
【0139】
【表9】
【0140】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの作製2>
実施例5〜7では、多孔性PSF膜上にスパッタ法によりダイヤモンド状カーボン膜を作製した。
【0141】
(実施例5)
スパッタ装置のチャンバー内に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。次に、チャンバー内を減圧してから、アルゴンとメタンを所定の流量(アルゴン:120mL/min、メタン:12mL/min)で導入して混合ガス雰囲気にして、さらにチャンバー内圧力を0.5Pa以下とした。多孔性PSF膜上に直接、マグネトロンスパッタ法によりダイヤモンド状カーボンを成膜し、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)を作製した。成膜時間は77minとした。
【0142】
次に、成膜時間を39分とし、他の条件を実施例−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例5−2)を作製した。
【0143】
(実施例6)
スパッタ装置のチャンバー内に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。次に、チャンバー内にアルゴンガスを所定の流量(10mL/min)で導入し、さらにチャンバー内の圧力を0.7Pa以下とした。多孔性PSF膜上に直接、マグネトロンスパッタ法によりダイヤモンド状カーボンを成膜し、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例6−1)を作製した。成膜時間72minとした。
【0144】
次に、成膜時間を36minとし、他の条件は実施例6−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例6−2)を作製した。
【0145】
(実施例7)
スパッタ装置のチャンバー内に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。チャンバー内にガスを導入することなく成膜時の圧力を0.1Pa以下とした。スパッタ法の一つであるアークイオンプレーティング法を用い、多孔性PSF膜上に直接、ダイヤモンド状カーボンを成膜し、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例7−1)を作製した。成膜時間15minとした。
【0146】
次に、成膜時間を7minとし、他の条件を実施例7−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例7−2)を作製した。
【0147】
実施例5〜7では、成膜時間を調整することで、ダイヤモンド状カーボン膜の厚みを制御している。実施例5−1、実施例6−1、実施例7−1での膜の厚みは100nmであり、実施例5−2、実施例6−2、実施例7−2での膜の厚みは50nmである。これらの実施例での成膜速度は、8nm/min以下となる。
【0148】
図14は多孔性PSF膜上にスパッタ法により直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例6−1)の断面の電子顕微鏡写真の低倍率像(a)と、その高倍率像(b)である。多孔性PSF膜上にダイヤモンド状カーボン膜をスパッタすると、多孔性PSF膜の片面が全てダイヤモンド状カーボンで覆われる。さらに、高倍率の観察から、多孔性PSF膜とダイヤモンド状カーボンは非常に良く密着していることが確認できる。
【0149】
表10は、実施例5〜7におけるダイヤモンド状カーボン膜(DLC膜、DLCは、Diamond−Like Carbonの頭文字である)の成膜条件ならびに膜厚である。
【0150】
【表10】
【0151】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価3>
図15は、多孔性PSF膜上にスパッタ法により直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。図15には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)を用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。図15に示すように、2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)では、アゾベンゼン(分子量:182.2,分子幅:0.69nm)を99%以上阻止できた。本実施例のダイヤモンド状カーボン膜は0.86nm未満の孔径を有することが確認できる。
表11は、2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)の分離特性評価結果である。
【0152】
【表11】
【0153】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価4>
0.01MのNaCl水溶液(原液)を原液として用いて、スパッタ法で成膜したDLC膜を有する多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)を用い、減圧濾過法により、−80kPaの吸引条件で流束を測定した。また濾液中のNaCl濃度を計測することで、2層接合型濾過フィルターの分離特性を検討した。
【0154】
原液と濾液のNaClの濃度は、屈折率から定量した。原液の20℃における屈折率は1.33306であり、濾液の20℃における屈折率は1.33296であった。後者の値から、濾液のNaCl濃度は0.00102Mと見積もられた。また、原液と濾液の濃度変化から、NaClの阻止率は90%と計算された。
【0155】
25℃における0.01MのNaCl水溶液(原液)の計算上の浸透圧は49kPaである。本実施例では、−80kPaでの吸引濾過が行われており、浸透圧を差し引いた圧力差(濾過の駆動力)は−31kPaと計算される。このような実験条件において、濾液の流束は1.05L/mhであった。
表12は、実施例5−1の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価結果である。
【0156】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の硬質カーボン膜製NF又はRO膜、濾過フィルター、2層接合型濾過フィルター及びそれらの製造方法は、オイル耐性を有し、有機溶媒中のアゾベンゼン色素を99%以上分離可能な濾過フィルター及びその製造方法を提供でき、有機溶媒を含む廃水の処理、石油随伴水の処理、高純度溶媒の製造、食品産業などにおいて利用可能性がある。特に、2層接合型濾過フィルターは、硬質カーボン膜製NF又はRO膜の厚みが100nm以下であっても表面に50nm以下の孔を有する限外濾過膜上に形成されているため、液体の高透過性を実現しつつ、力学的強度を高めることができ、濾過膜の耐圧性ならびに耐久性を向上させることができる。また、可撓性のある限外濾過膜の上に硬質カーボン膜製NF又はRO膜が形成されているため、濾過モジュールへの加工が容易である。即ち、濾過速度が速くかつ耐久性が高いNF又はRO膜として利用することができる。また、塩化ナトリウムの除去率が80%以上で制御できるため、有機溶媒耐性のNF膜としての高い利便性がある。
【符号の説明】
【0158】
10…硬質カーボン膜製NF又はRO膜、10a…一面、10b…他面、10c…孔、10c1…孔、10c2…孔、10c3…孔、10c4…孔、20…支持基板、20a…一面、21…濾過フィルター、30…限外濾過膜、30a…一面(接合面)、31…2層接合型濾過フィルター。
図1
図2
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図4
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図10
図11
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図13
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