【実施例】
【0080】
(試験例1)
<多孔性PSF膜の作製>
まず、ポリスルホン(PSF)(ソルベイアドバンストポリマーズ社製 ユーデル ポリサルホン P−1700)7.5gを、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬社製 特級)42.5gに加えてから、6時間室温で撹拌して、高分子濃度15wt%のキャスト溶液を作製した。
次に、このキャスト溶液を5分間真空で保持して脱泡処理を行なった後、シリコン基板(2インチ)上に滴下してから、回転数2000rpmで2秒間スピンコートして、均一に塗布した。
次に、この基板をすばやく室温下の純水に浸漬して、非溶媒誘起相分離法により、カーボン濾過フィルターの基材となるフレキシブルなポリスルホンの多孔性シート(多孔性PSF膜)(試験例1−1)を作製した。
続いて、同条件で試験例1−2、試験例1−3の多孔性PSF膜も作製した。
【0081】
<多孔性PSF膜の評価>
多孔性PSF膜を介した
エタノールの流束は、−80kPaの吸引条件で2300L/m
2hであり、複数の透過実験を行った場合の標準偏差は350L/m
2hであった(試験例1−1)。
また、屈折率計を用いて分画分子量の測定を行った。デキストランを用いて評価した多孔性PSF膜の分画分子量は200k(試験例1−1)、190k(試験例1−2)、210k(試験例1−3)であった。
また、多孔性PSF膜の厚みは20μm(試験例1−1)、15μm(試験例1−2)、25μm(試験例1−3)であった。
表1は、多孔性PSF膜(試験例1−1〜1−3)の評価結果である。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例1)
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの作製1>
まず、プラズマCVD装置のチャンバー内の所定の位置に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。
次に、チャンバー内を減圧してから、プロピルアミンを原料ガスとして、成膜温度を室温(25℃)とし、プラズマCVD法に基づき、成膜時間を2分として、多孔性PSF膜上に直接、ダイヤモンド状カーボンを堆積させて、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)を作製した。
【0084】
次に、成膜時間を30分とした他は実施例1−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例1−2)を作製した。
【0085】
次に、成膜時間を60分とした他は実施例1−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例1−3)を作製した。
【0086】
図7は、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−3)の写真である。金属性リングを多孔性PSF膜の固定のために使用したため、多孔性PSF膜の露出部分が形成された。白いリング状部分が多孔性PSF膜の露出部分であり、薄黄色の透明な膜の部分がダイヤモンド状カーボン膜である。
また、
図8は、多孔性PSF膜の表面形態を示した電子顕微鏡写真の低倍率像(a)と、その高倍率像(b)と、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター断面の電子顕微鏡写真の低倍率像(c)と、その高倍率像(d)である。
多孔性PSF膜の表面は、広範囲に渡って平滑であり、少なくとも1μm
2の範囲には、50nm以上の局所的な凸部を含まない。また、その表面には、1〜50nmの範囲の細孔を有する。多孔性PSF膜上にダイヤモンド状カーボン膜を成膜すると、上記の1〜50nmの範囲の細孔は、全てダイヤモンド状カーボン膜で覆われる。さらに、高倍率の観察から、多孔性PSF膜とダイヤモンド状カーボン膜は非常に良く密着していることが確認できる。
【0087】
多孔性PSF膜上に堆積させたダイヤモンド状カーボン膜の膜厚は、一緒にチャンバー内に設置したシリコン基板上の堆積層の厚みを偏光解析測定により計測することで
、算出した。
各ダイヤモンド状カーボン膜の厚みは、10nm(実施例1−1)、150nm(実施例1−2)、300nm(実施例1−3)であり、堆積時間によって、厚みをコントロールできることが確認できた。
【0088】
(実施例2)
成膜温度を−20℃とした他は実施例1と同様にして、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)を作製した。
【0089】
次に、成膜時間を30分とした他は実施例2−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例2−2)を作製した。
【0090】
次に、成膜時間を60分とした他は実施例2−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例2−3)を作製した。
【0091】
各ダイヤモンド状カーボン膜の厚みは、10nm(実施例2−1)、150nm(実施例2−2)、300nm(実施例2−3)であった。
表2は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1〜2−3)の作製条件及び厚みである。
【0092】
【表2】
【0093】
これらのダイヤモンド状カーボン膜の力学的特性を解明するために、実施例1−2および実施例1−3と同一条件でポリイミド製のシートの上にダイヤモンド状カーボン膜を作製し、動的粘弾性測定法により、ヤング率(弾性率)を測定した。ヤング率の測定には、バックリング法などの他の方法もあるが、解析に多くの仮定が入り、本来、ポアソン比が不明な物質には用いることができない。一方、動的粘弾性測定法は、極薄の膜の測定は困難であるが、100nm以上の膜厚であれば、高い精度の計測が可能である。
動的粘弾性測定法を用いて、150nm(実施例1−2に対応)、300nm(実施例1−3に対応)のダイヤモンド状カーボン膜のヤング率を測定した結果、それぞれ58.3GPa、58.9GPaであった。この結果は、本実施例の製膜法で、ダイヤモンド状カーボン膜(又は硬質カーボン膜)が形成されていることを示している。
従来の高性能のNF又はRO膜は、ヤング率が5GPa以下の架橋ポリマーやエンジニアリングプラスチックから製造されており、本実施例の膜は、これと比較して約10倍硬質である。
【0094】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの液体透過特性評価1>
次に、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1及び実施例2−3)の液体透過特性を検討した。
多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1及び実施例2−3)はいずれも、有機溶媒(エタノール)及び水のどちらも透過させた。
【0095】
次に、実施例1に関して、流束の評価を、−80kPaの吸引条件で行った。
エタノールのフラックスは、3.5L/m
2h(2層接合型濾過フィルター(実施例1−1))であった。
一方、水の流束は2.2L/m
2h(2層接合型濾過フィルター(実施例1−1))であった。
表3は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の液体透過特性評価結果及び粘度ηをまとめたものである。
表3に示すように、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)に関しては、エタノールの流束が、水の流束と比較して大きかった。これから、カーボン膜の流路は疎水性の隙間と考えられる。
【0096】
【表3】
【0097】
同様に、実施例2に関して、流束の評価を、−80kPaの吸引条件で行った。
エタノールのフラックスは、3.4L/m
2h(2層接合型濾過フィルター(実施例2−3))であった。
一方、水の流束は、0.7L/m
2h(2層接合型濾過フィルター(実施例2−3))であった。
実施例2に関しても、エタノールの流束が、水の流束と比較して大きかった。これから、カーボン膜の流路は疎水性の隙間と考えられる。
表4は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1及び実施例2−3)の液体透過特性評価結果である。
【0098】
【表4】
【0099】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの液体透過特性評価2>
分子サイズの異なるアルカン(n−ヘキサン、n−へプタン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン)を原液として用いて、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)で濾過して、−80kPaの吸引条件で流束を測定して、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の透過特性を検討した。
表5は、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)で濾過したときの各液体の流束及び粘度ηをまとめたものである。
【0100】
【表5】
【0101】
表5に示すように、ノルマルアルカンを比較した場合、分子サイズが大きくなるにしたがい、流束は低下した。つまり、流束の大小関係は、n−ヘキサン>n−へプタン>n−オクタン>n−デカンであった。
【0102】
その透過特性は、分子サイズだけでなく、分子形状の影響も受けた。n−ヘキサンとシクロヘキサンは分子量がほぼ等しいにもかかわらず、そのフラックスは大きく異なり、シクロヘキサンの流束はn−ヘキサンの流束の5分の1程度であった。つまり、n−ヘキサンの透過速度は、シクロヘキサンの透過速度の約5倍となった。
n−ヘキサンの粘度は、0.295mPa・sであり、シクロヘキサンの粘度は0.887mPa・sである。ダイヤモンド状カーボン膜を介した液体の透過は、ダルシーの法則に従うものと考えられ、粘度の違いから、n−ヘキサンがシクロヘキサンより3倍速く透過すると言える。しかしながら、n−ヘキサンの透過速度は、粘度の影響を鑑みても十分に大きい。
【0103】
n−ヘキサンとシクロヘキサンの流束の違いの一因は、孔径の違いによるとも考えられる。n−ヘキサンのオールトランスのコンフォメーション(最安定のコンフォメーション)での分子幅は、0.42nmから0.45nmの範囲にある。一方、シクロヘキサンの環状のコンフォメーション(最安定のコンフォメーション)での分子幅は、0.50nmから0.66nmの範囲にある。ダイヤモンド状カーボン膜は、溶媒分子のこのような分子サイズを識別して、より小さなものを速く透過させる。本実施例のダイヤモンド状カーボン膜には、直径が0.42nm未満の孔径も存在すると考えられるが、n−ヘキサンを透過させ、シクロヘキサンを阻止する0.42nm以上0.66nm未満の孔径も存在すると考えられる。
【0104】
また、n−ヘキサンとシクロヘキサンの流束の違いの一因は、より詳しく説明するならば、分子構造によると考えられる。つまり、ダイヤモンド状カーボン膜が溶媒分子の形状を認識していることを示している。n−ヘキサンは直鎖状であり、シクロヘキサンは環状である。また、直鎖状の分子の場合、その形状の一部を容易に変形できるが、環状の分子の場合、その形状の変形は容易ではない。よって、ダイヤモンド状カーボン膜の孔が曲がりくねって形成されている場合には、略線状のn−ヘキサンは透過しやすいが、略環状のシクロヘキサンは透過しにくくなり、フラックスの違いを引き起こすと考えられる。
【0105】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価1>
次に、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の分離特性を検討した。なお、比較のために、多孔性支持基板として用いた多孔性PSF膜(試験例1)の分離特性も検討した。
具体的には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)を−80kPaの吸引条件で濾過して、フィルター表面上の固形物と濾液とに分離した。フィルター表面上の表面観察をするとともに、濾液の紫外/可視吸収スペクトルを測定した。
【0106】
図9は、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図9には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)を用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。
図9に示すように、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)では、アゾベンゼン(分子量:182.2,分子幅:0.69nm)を100%阻止できた。本実施例のダイヤモンド状カーボン膜は、シクロヘキサンを高速で透過させ、アゾベンゼンを100%阻止することから、0.66nm以上0.80nm未満の孔径を有することが確認できる。
【0107】
図10は、多孔性PSF膜および多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜を用いてアゾベンゼンの濾過実験を行った後の膜の様子を示す写真である。
図10には、アゾベンゼンのエタノール溶液の濾過後の多孔性PSF膜(試験例1)及び2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)の表面の写真が示されている。
図10に示すように、多孔性PSF膜(試験例1)では、アゾベンゼン由来の着色が見られず、アゾベンゼンは吸着されず、アゾベンゼンは分離できなかった。
一方、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)では、アゾベンゼン由来の着色が見られ、アゾベンゼンが濾過液(エタノール)と分離された。
【0108】
また、
図11は、多孔性PSF膜の分離特性であって、0.5mMアゾベンゼン/エタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図11には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、多孔性PSF膜(試験例1)のみを用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。
図11に示すように、原液と濾液の紫外/可視吸収スペクトルは重なった。これにより、多孔性PSF膜(試験例1)ではアゾベンゼンを濾液から分離することができなかったことが分かった。
以上により、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)では、多孔性PSF膜ではなく、ダイヤモンド状カーボン膜の孔径が阻止性能を支配したと結論できる。
【0109】
また、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)を用いた場合の原液の流束は4L/m
2hであった。0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の流束はエタノール溶液の流束とほぼ同じであり、アゾベンゼンが存在しても、流束を大きく変えることはなかった。
表6は、2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)及び多孔性PSF膜(試験例1)の分離特性評価結果である。
【0110】
【表6】
【0111】
<ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターの孔径について>
n−ヘキサン、シクロヘキサンの分子サイズおよびアゾベンゼンのサイズと阻止率から多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例1−1)のダイヤモンド状カーボン膜の孔径を算出した。
【0112】
まず、分子モデリングシステム(Spartan'04)により、アゾベンゼン分子の幅、高さ、長さの平均が0.80nmであると算出した。
有機分子のサイズには、様々な捉え方があるが、分子モデルから算出されるアゾベンゼンの分子幅は0.69nmであり、分子長は1.37nm、分子厚みは0.33nmとなる。また、アゾベンゼン分子の長さ、幅、厚みから計算される平均分子サイズを球相当の直径として捉えると0.80nmとなる。
【0113】
次に、この値を球の直径とみなしてFerry−Renkinの式(非特許文献4)に基づき、孔径を算出した。なお、非特許文献4には、細孔内の液体の流れが放物線速度分布をもつ場合において、溶質のサイズと阻止率から孔径を計算するための理論が説明されている。(1)アゾベンゼンの阻止率が99%であり、(2)カーボン膜の孔が円筒形状であると仮定して算出した結果、孔径は0.86nmとなった。
また、アゾベンゼンの阻止率を100%とした場合には、孔径が0.80nmとなった。
【0114】
なお、特許文献1では、ナノストランドを犠牲層として製造したダイヤモンド状カーボン膜では、アゾベンゼンに対する阻止率が最大95.2%であった。アゾベンゼンの阻止率95.2%の場合、Ferry−Renkinの式を用い、球相当直径(0.80nm)から孔の直径を見積もると、0.95nmとなる。即ち、ナノストランドを犠牲層として用いることで、ダイヤモンド状カーボン膜の内部には、アゾベンゼンの分子サイズより相当に大きい0.95nm以上の孔が形成されていることを意味する。
【0115】
Ferry−Renkinの式では、アゾベンゼンが溶液中で自由に回転していると仮定し、ダイヤモンド状カーボン膜の内部に円筒状の孔が形成されているとして、孔の直径を見積もっている。濾過実験においては、溶質分子(この場合、アゾベンゼン)が溶媒と混合しており、高速で回転している。このため、孔のサイズが1nm程度の場合、円筒状の孔が形成されていると仮定してよい。
【0116】
本発明のダイヤモンド状カーボン膜では、アゾベンゼンの阻止率が99%から100%となる。この場合、Ferry−Renkinの式から見積もられる孔の直径は、99%の阻止率で0.86nm、100%の阻止率で0.80nmとなる。阻止率が100%の場合、0.80nm未満の孔が形成される可能性があるが、0.8nm以上の孔が形成されているとは考えられない。これは、もし0.8nm以上の孔が存在すれば、アゾベンゼンのごく一部が膜を透過してしまい、阻止率が100%にならないからである。
除去率が100%の場合、ダイヤモンド状カーボン膜の内部の平均的な孔のサイズは、0.8nmより小さい。
【0117】
<先行の論文や特許で記載した膜について>
非特許文献2や特許文献1では、有機溶媒に溶解したアゾベンゼンに対して高い阻止率を有するダイヤモンド状カーボン膜が報告されている。本研究者は、これらの文献に記載された方法を用いて、優れた濾過フィルターを製造することを試みた。しかしながら、ナノストランドを犠牲層として製造したダイヤモンド状カーボン膜では、アゾベンゼンに対する阻止率が最大95.2%であった。
【0118】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価2>
0.01MのNaCl水溶液(原液)を原液として用いて、−20℃で成膜したダイヤモンド状カーボン膜を有する多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)で濾過して、−80kPaの吸引条件で流束を測定して、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)の分離特性を、検討した。
【0119】
原液と濾液の屈折率を測定した。
原液の20℃における屈折率は1.33306であり、濾液の20℃における屈折率は1.33297であった。
濾液の屈折率から、濾液のNaCl濃度は0.00203Mと見積もられた。
また、これから、NaClの阻止率は80%となった。
【0120】
また、25℃における0.01MのNaCl水溶液(原液)の浸透圧は49kPaであることから、−80kPaの吸引条件で濾過可能である。
さらに、流束は0.71L/m
2hであった。
以上の結果から、ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターはRO(逆浸透)性能を有していた。
表7は、2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)の分離特性評価2の結果である。
【0121】
【表7】
【0122】
なお、特許文献1に記載されている逆浸透膜では、2.4MPaの加圧条件での水の流束が4.7L/m
2hであり、NaCl阻止率が68.5%であった。また、アゾベンゼンの阻止率が95.2%であり、0.95nm以上の孔を有していた。
それに対し、2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)のフラックスは、膜の前後の圧力差が30分の1であるにもかかわらず、0.71L/m
2h(圧力差:80kPa)という流束を有する。NaCl阻止率も80%と大いに向上している。さらに、2層接合型濾過フィルター(実施例2−1)では、アゾベンゼンの阻止率が100%であり、0.80nm以上の細孔を有しないことが確認された。
【0123】
ナトリウムイオンの水和イオン径は、0.72nmと見積もられており、塩化物イオンの水和イオン径は0.66nmである。これらのイオンの阻止率が80%に達することは、ダイヤモンド状カーボン膜の内部にこれらのイオンサイズと同等の細孔が形成されていることを示す。
【0124】
(実施例3)
プラズマCVD法によるダイヤモンド状カーボン膜の形成では、基材のエッチングや化学的な変質が起こりえる。多孔性支持基板として高分子の限外濾過膜を用いた場合、表面近傍の局所的な温度の上昇に由来する限外濾過膜の軟化、溶融、緻密化、炭化などの現象も予測でき、このような高分子の変質により分離機能層が形成されている可能性がある。
そこでは、最外層のダイヤモンド状カーボン膜が濾過フィルターとして機能していることを実証するために、ダイヤモンド状カーボンの自立膜を製造し、これを多孔性支持基板に転写することで、濾過フィルターとしての性能を評価した。
シリコンあるいはガラス等の支持基板上にグルコースの皮膜を形成し、プラズマCVD法によりダイヤモンド状カーボン膜を作製した。その後、純水を用いてグルコース層を溶出して、支持基板からダイヤモンド状カーボン膜を自立膜として剥離させ、PSFの限外濾過膜上に転写した。このようにして製造した濾過フィルターにおいても、99%以上のアゾベンゼンの阻止率が確認され、ダイヤモンド状カーボン膜がアゾベンゼンの分離機能層として働いていることが実証された。
具体的な手順は次のとおりである。
【0125】
<剥離転写ダイヤモンド状カーボンの濾過フィルターの作製>
まず、シリコンの支持基板を用意した。
次に、前記支持基板上に、スピンコーティング法により、中間層としてグルコース膜を作製した。
次に、前記中間層上に、プラズマCVD法により、ダイヤモンド状カーボン膜(DLC膜)を作製した。
次に、純水を用いて、中間層のみを溶出して、DLC膜を支持基板から剥離させた。なお、純水の代わりに、薄いフッ酸水溶液を用いてもよい。
次に、剥離させたDLC膜(剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜)を、多孔性PSF膜上に移し取り(転写して)、濾過フィルター(実施例3−1)を作製した。
図12は、多孔性PSF膜および表面にダイヤモンド状カーボン膜を移し取った多孔性PSF膜の表面の様子を示す写真である。
図12には、多孔性PSF膜のみの写真及び多孔性PSF膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例3−1)の写真が示されている。
【0126】
中間層としてスクロース膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−2)を作製した。
【0127】
中間層としてグルコース/スクロース混合物膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−3)を作製した。
【0128】
中間層としてグリセリン膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−4)を作製した。
【0129】
中間層としてポリエチレングリコール膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−5)を作製した。
【0130】
中間層としてシリコン熱酸化膜を用いた場合は薄いフッ酸水溶液を用いて実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−6)を作製した。
【0131】
支持基板としてガラスを用いた場合は薄いフッ酸水溶液を用いて実施例3−1と同様にして、濾過フィルター(実施例3−7)を作製した。
【0132】
(実施例4)
多孔性PSF膜の代わりに多孔性アルミナ膜を用いた他は実施例3−1と同様にして、多孔性アルミナ膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例4−1)を作製した。
【0133】
多孔性アルミナ膜の代わりに多孔性アルミ膜を用いた他は実施例4−1と同様にして、多孔性アルミ膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例4−2)を作製した。
【0134】
<多孔性膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルターの分離特性評価>
次に、多孔性PSF膜上に剥離転写ダイヤモンド状カーボン膜を配置した濾過フィルター(実施例3−1)の分離特性を検討した。
具体的には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)を−80kPaの吸引条件で濾過して、濾液を得た。濾過フィルター表面上の表面観察をするとともに、濾液の紫外/可視吸収スペクトルを測定した。
【0135】
図13は、多孔性PSF膜上に移し取ったダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図13には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、濾過フィルター(実施例3−1)を用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。
図13に示すように、濾過フィルター(実施例3−1)では、アゾベンゼン(分子量:182.2,分子幅:0.69nm)を99%阻止できた。
【0136】
また、濾過フィルター(実施例3−1)を用いた場合の原液の流束は2L/m
2hであった。
この結果、多孔性PSF膜上に直接作製したダイヤモンド状カーボン膜だけでなく、多孔性PSF膜上に転写したダイヤモンド状カーボン膜でも、優れた分離特性を発揮できた。
表8は、濾過フィルター(実施例3−1〜3−7、4−1、4−2)の作製条件及び厚みである。
【0137】
【表8】
【0138】
表9は、濾過フィルター(実施例3−1)の分離特性評価の結果である。
【0139】
【表9】
【0140】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの作製2>
実施例5〜7では、多孔性PSF膜上にスパッタ法によりダイヤモンド状カーボン膜を作製した。
【0141】
(実施例5)
スパッタ装置のチャンバー内に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。次に、チャンバー内を減圧してから、アルゴンとメタンを所定の流量(アルゴン:120mL/min、メタン:12mL/min)で導入して混合ガス雰囲気にして、さらにチャンバー内圧力を0.5Pa以下とした。多孔性PSF膜上に直接、マグネトロンスパッタ法によりダイヤモンド状カーボンを成膜し、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)を作製した。成膜時間は77minとした。
【0142】
次に、成膜時間を39分とし、他の条件を実施例
5−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例5−2)を作製した。
【0143】
(実施例6)
スパッタ装置のチャンバー内に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。次に、チャンバー内にアルゴンガスを所定の流量(10mL/min)で導入し、さらにチャンバー内の圧力を0.7Pa以下とした。多孔性PSF膜上に直接、マグネトロンスパッタ法によりダイヤモンド状カーボンを成膜し、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例6−1)を作製した。成膜時間72minとした。
【0144】
次に、成膜時間を36minとし、他の条件は実施例6−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例6−2)を作製した。
【0145】
(実施例7)
スパッタ装置のチャンバー内に、試験例1−1で作製した多孔性PSF膜を配置した。チャンバー内にガスを導入することなく成膜時の圧力を0.1Pa以下とした。スパッタ法の一つであるアークイオンプレーティング法を用い、多孔性PSF膜上に直接、ダイヤモンド状カーボンを成膜し、多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例7−1)を作製した。成膜時間15minとした。
【0146】
次に、成膜時間を7minとし、他の条件を実施例7−1と同様にして、2層接合型濾過フィルター(実施例7−2)を作製した。
【0147】
実施例5〜7では、成膜時間を調整することで、ダイヤモンド状カーボン膜の厚みを制御している。実施例5−1、実施例6−1、実施例7−1での膜の厚みは100nmであり、実施例5−2、実施例6−2、実施例7−2での膜の厚みは50nmである。これらの実施例での成膜速度は、8nm/min以下となる。
【0148】
図14は多孔性PSF膜上にスパッタ法により直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例6−1)の断面の電子顕微鏡写真の低倍率像(a)と、その高倍率像(b)である。多孔性PSF膜上にダイヤモンド状カーボン膜をスパッタすると、多孔性PSF膜の片面が全てダイヤモンド状カーボンで覆われる。さらに、高倍率の観察から、多孔性PSF膜とダイヤモンド状カーボンは非常に良く密着していることが確認できる。
【0149】
表10は、実施例5〜7におけるダイヤモンド状カーボン膜(DLC膜、DLCは、Diamond−Like Carbonの頭文字である)の成膜条件ならびに膜厚である。
【0150】
【表10】
【0151】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価3>
図15は、多孔性PSF膜上にスパッタ法により直接作製したダイヤモンド状カーボン膜の分離特性を示すグラフであって、アゾベンゼンの0.5mMエタノール溶液の濾過前後の紫外/可視吸収スペクトルである。
図15には、0.5mMのアゾベンゼンのエタノール溶液(原液)の紫外/可視吸収スペクトル(1)と、2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)を用いた場合の濾液の紫外/可視吸収スペクトル(2)が示されている。
図15に示すように、2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)では、アゾベンゼン(分子量:182.2,分子幅:0.69nm)を99%以上阻止できた。本実施例のダイヤモンド状カーボン膜は0.86nm未満の孔径を有することが確認できる。
表11は、2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)の分離特性評価結果である。
【0152】
【表11】
【0153】
<多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価4>
0.01MのNaCl水溶液(原液)を原液として用いて、スパッタ法で成膜したDLC膜を有する多孔性PSF膜/ダイヤモンド状カーボン膜の2層接合型濾過フィルター(実施例5−1)を用い、減圧濾過法により、−80kPaの吸引条件で流束を測定した。また濾液中のNaCl濃度を計測することで、2層接合型濾過フィルターの分離特性を検討した。
【0154】
原液と濾液のNaClの濃度は、屈折率から定量した。原液の20℃における屈折率は1.33306であり、濾液の20℃における屈折率は1.33296であった。後者の値から、濾液のNaCl濃度は0.00102Mと見積もられた。また、原液と濾液の濃度変化から、NaClの阻止率は90%と計算された。
【0155】
25℃における0.01MのNaCl水溶液(原液)の計算上の浸透圧は49kPaである。本実施例では、−80kPaでの吸引濾過が行われており、浸透圧を差し引いた圧力差(濾過の駆動力)は−31kPaと計算される。このような実験条件において、濾液の流束は1.05L/m
2hであった。
表12は、実施例5−1の2層接合型濾過フィルターの分離特性評価結果である。
【0156】
【表12】