特許第6202455号(P6202455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202455
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】標的核酸の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20170914BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2016-549407(P2016-549407)
(86)(22)【出願日】2016年2月9日
(86)【国際出願番号】JP2016053871
(87)【国際公開番号】WO2016129609
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-23706(P2015-23706)
(32)【優先日】2015年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 孝介
(72)【発明者】
【氏名】廣田 寿一
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 三雄
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−501532(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/132700(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/136868(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/044326(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/007289(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/011946(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/140147(WO,A1)
【文献】 LEE, L.G. et al.,"Allelic discrimination by nick-translation PCR with fluorogenic probes.",NUCLEIC ACIDS RESEARCH,1993年 8月11日,Vol.21, No.16,P.3761-3766
【文献】 FALTIN, B. et al.,"Mediator probe PCR: a novel approach for detection of real-time PCR based on label-free primary probes and standardized secondary universal fluorogenic reporters.",CLINICAL CHEMISTRY,2012年11月,Vol.58, No.11,P.1546-1556
【文献】 WILHELM, J. et al.,"Comparison between Taq DNA polymerase and its Stoffel fragment for quantitative real-time PCR with hybridization probes.",BIOTECHNIQUES,2001年 5月,Vol.30, No.5,P.1052-1054,1056,1058,1060,1062
【文献】 CROCKETT, A.O. et al.,"Fluorescein-labeled oligonucleotides for real-time pcr: using the inherent quenching of deoxyguanosine nucleotides.",ANALYTICAL BIOCHEMISTRY,2001年 3月 1日,Vol.290, No.1,P.89-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
C12M 1/00− 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の検出方法であって、
核酸試料と、標的核酸を増幅するためのプライマーセットと、当該プライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブと、の存在下で、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施する増幅工程と、
前記増幅工程において存在しうる前記標的核酸識別プローブ少なくとも一部を固相担体上に捕捉する捕捉工程と、
前記標的核酸識別プローブの少なくとも一部を利用して不真正増幅産物の存否を評価する工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
前記標的核酸識別プローブが前記識別領域の一方の端部に隣接して、第1のタグを備え、前記固相担体上に前記第1のタグを捕捉可能な第1のキャプチャーを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のタグは、相互に特異的に結合するタンパク質のペアの一方を有する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第1のタグは、相互に特異的にハイブリダイズする塩基配列をそれぞれ有するポリヌクレオチドのペアの一方を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のキャプチャーは、多孔質部を有する固相担体であり、前記第1のタグは、前記固相担体の多孔質部に捕捉されるサイズ及び/又は形状を有する粒子である、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記標的核酸識別プローブは、さらに、前記識別領域の他方の端部に隣接して第2のタグを備え、
前記第2のタグを捕捉する第2のキャプチャーを用いて、前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉又は検出する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記捕捉工程は、クロマトグラフィー工程である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
記捕捉工程において又は前記捕捉工程後において、
前記真正増幅産物と特異的にハイブリダイズする標的核酸検出用プローブとがハイブリダイズ可能な条件下で、前記核酸増幅反応の結果物と前記標的核酸検出用プローブとを接触させることを含む標的核酸の検出工程、を備え、
前記標的核酸識別プローブは、前記識別領域の一方の端部に隣接して第1のタグを備え、他方の端部に隣接して第2のタグと第3のタグとを備え、
前記第1のタグを捕捉する第1のキャプチャー及び前記第2のタグを捕捉する第2のキャプチャーを用いて、前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉するとともに、
前記第3のタグは、前記標的核酸の増幅産物と特異的にハイブリダイズする塩基配列を有するポリヌクレオチドを有しており、
前記標的核酸検出用プローブとして、前記第2のキャプチャーに前記第2のタグを介して捕捉された前記第3のタグを用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記検出工程は、前記標的核酸を検出するための標的核酸検出用プローブを備える固相担体を用い、前記固相担体上で前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記検出工程は、クロマトグラフィー工程である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
クロマトグラフィーにおける展開方向において前記標的核酸検出用プローブよりも上流側で前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記標的核酸識別プローブは、標識要素を備える、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記標識要素は、前記識別領域の他方の端部に隣接して又は前記識別領域に備えられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記プライマーセットは、前記標的核酸の増幅産物として片鎖にのみ一本鎖領域を有する部分二本鎖核酸を増幅可能である、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載の標的核酸の検出方法に用いるためのキットであって、
前記標的核酸を増幅するためのプライマーセットと、
前記標的核酸を増幅するためのプライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域と前記識別領域の一方の端部に隣接して第1のタグを備える標的核酸識別プローブと、
前記第1のタグを固相担体上に捕捉するためのプローブと、
を備える、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、標的核酸の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的核酸の検出を検出するのにあたっては、標的核酸を含みうる核酸試料を特異的プライマーによってPCR等によって増幅し、その増幅産物の有無を公知の方法によって分析することが行われている。増幅産物の検出方法として、従来は、増幅産物の長さで大きさに依拠して電気泳動等で標的核酸の有無を検出することが行われていた。近年は、例えば、増幅産物中の標的核酸に由来する特定配列に特異的にハイブリダイズするプローブを用いて検出する方法や、プライマーによって増幅産物に付与されたタグに由来する特定配列に特異的にハイブリダイズするプローブを用いて検出する方法が用いられるようになってきている。
【0003】
例えば、前者の方法として、オリゴヌクレオチドの5’末端にレポーター、3’末端にクエンチャーを備えて、標的核酸に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして用いることが行われている(非特許文献1、2)。これらの方法は、PCR増幅反応の結果、TaqDNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性により標的核酸にハイブリダイズしていたプローブが分解されることにより、レポーターとクエンチャーの距離が離れて、レポーターによる蛍光シグナルが発生し、これを検出することでPCR産物量を測定するものである。
【0004】
また、PCR増幅産物として、プライマーに由来する一本鎖タグを備える一本鎖部分を有する部分二本鎖核酸を取得することとし、このタグに特異的にハイブリダイズする相補タグを固定した固相担体を用いたクロマトグラフィーを用いて効率よく検出することも開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/038534
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Higuchi, R., Fockler, C., Dollinger, G., and Watson, R. 1993. Kinetic PCR: Real time monitoring of DNA amplification reactions. Biotechnology 11:1026-1030.
【非特許文献2】Analytical Sciences,2014,30(3),427
【発明の概要】
【0007】
上記非特許文献1、2の方法では、標的核酸に対する特異性は高いが、多種類の標的核酸を同時に検出するには限界があるほか、蛍光プローブの設計・合成はコスト及び労力の点において問題がある。
【0008】
上記特許文献1の方法では、増幅産物中のプライマーに由来する一本鎖タグとハイブリダイズする相補タグを含むプローブで増幅産物を捕捉する。このため、プローブをユニバーサル化できるというメリットがある。一方、図16に示すように、プライマーが適切に標的核酸を増幅せずに、プライマー同士でハイブリダイズして増幅反応して得られるプライマーダイマーが増幅産物として副生してしまう場合がある。プライマーダイマーは、適切な増幅産物と同様、プライマーに由来するタグも標識も備えうるため、偽陽性の原因となりうる。さらに、上記特許文献1記載の方法では、未反応プライマーが、相補タグとハイブリダイズすると適切な増幅産物の検出に偽陽性等の悪影響を及ぼす可能性もある。
【0009】
本明細書は、こうした課題に鑑み、核酸増幅反応における意図しない産物の影響を抑制又は回避して、簡易かつ確実に標的核酸を検出する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、種々検討した結果、DNAポリメラーゼとプライマーを用いた核酸増幅反応において、プライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長領域と特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブを存在させることとし、標的核酸識別プローブの少なくとも一部又は真正増幅産物の少なくとも一部を捕捉するとともに、前記標的核酸識別プローブの前記少なくとも一部を利用することで、真正増幅産物の存否を簡易にかつ確実に評価できるという知見を得た。すなわち、こうした方法により、プライマーダイマーなどの意図しない不真正産物の影響を回避できることを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、こうした標的核酸識別プローブの存在下での増幅工程では、用いるDNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性の有無により、様々な態様で、標的核酸識別プローブの少なくとも一部又は真正増幅産物の少なくとも一部を種々の態様で捕捉できることを見出した。さらに、このような種々の態様が真正増幅産物の存否の評価に貢献できることも見出した。
【0012】
また、こうした標的核酸識別プローブの少なくとも一部又は真正増幅産物の少なくとも一部の捕捉にあたり、標的核酸識別プローブ又はプライマーに予め捕捉のためのタグを備えるようにすることで、簡易に、標的核酸識別プローブの少なくとも一部又は真正増幅産物の少なくとも一部を捕捉できることを見出した。
【0013】
本明細書は、こうした知見に基づき、以下の手段を提供する。
【0014】
(1)標的核酸の検出方法であって、
核酸試料と、標的核酸を増幅するためのプライマーセットと、当該プライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブとの存在下で、DNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施する増幅工程と、
前記DNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性に応じて前記増幅工程において存在しうる前記標的核酸識別プローブの少なくとも一部又は真正増幅産物の少なくとも一部を固相担体上に捕捉する捕捉工程と、
を備え、
前記標的核酸識別プローブの少なくとも一部を利用して前記真正増幅産物の存否を評価する、方法。
(2)前記増幅工程は、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しない前記DNAポリメラーゼを用いる工程であり、
前記捕捉工程は、前記標的核酸識別プローブと前記真正増幅産物中の前記核酸伸長領域とがハイブリダイズしたハイブリダイズ産物を前記標的核酸識別プローブを介して捕捉する工程である、(1)に記載の方法。
(3)前記標的核酸識別プローブは、前記識別領域の5’末端側及び/又は3’末端側に前記DNAポリメラーゼによるヌクレオチド伸長反応を抑制又は停止可能な領域を備える、(2)に記載の方法。
(4)前記増幅工程は、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有する前記DNAポリメラーゼを用いる工程であり、
前記捕捉工程は、前記標的核酸識別プローブ若しくはその分解物又は前記真正増幅産物を捕捉する工程である、(1)に記載の方法。
(5)前記捕捉工程は、前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉する工程である、(4)に記載の方法。
(6)前記標的核酸識別プローブが前記識別領域の一方の端部に隣接して、第1のタグを備え、前記固相担体上に前記第1のタグを捕捉可能な第1のキャプチャーを備える、(5)記載の方法。
(7)前記第1のタグは、相互に特異的に結合するタンパク質のペアの一方を有する、(6)記載の方法。
(8)前記第1のタグは、相互に特異的にハイブリダイズする塩基配列をそれぞれ有するポリヌクレオチドのペアの一方を有する、(6)に記載の方法。
(9)前記第1のキャプチャーは、多孔質部を有する固相担体であり、前記第1のタグは、前記固相担体の多孔質部に捕捉されるサイズ及び/又は形状を有する粒子である、(6)に記載の方法。
(10)前記標的核酸識別プローブは、さらに、前記識別領域の他方の端部に隣接して第2のタグを備え、
前記第2のタグを捕捉する第2のキャプチャーを用いて、前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉する、(6)に記載の方法。
(11)前記増幅工程後前記捕捉工程に先だって又は前記捕捉工程において、前記標的核酸の核酸増幅反応の存否を評価する、(4)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記捕捉工程は、クロマトグラフィー工程である、(4)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記捕捉工程で前記標的核酸識別プローブの少なくとも一部を捕捉するとともに、
前記捕捉工程において又は前記捕捉工程後において、
前記真正増幅産物と特異的にハイブリダイズする標的核酸検出用プローブとがハイブリダイズ可能な条件下で、前記核酸増幅反応の結果物と前記標的核酸検出用プローブとを接触させることを含む標的核酸の検出工程、を備える、(4)〜(12)のいずれかに記載の方法。
(14)前記標的核酸識別プローブは、前記識別領域の一方の端部に隣接して第1のタグを備え、他方の端部に隣接して第2のタグと第3のタグとを備え、
前記第1のタグを捕捉する第1のキャプチャー及び前記第2のタグを捕捉する第2のキャプチャーを用いて、前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉するとともに、
前記第3のタグは、前記標的核酸の増幅産物と特異的にハイブリダイズする塩基配列を有するポリヌクレオチドを有しており、
前記標的核酸検出用プローブとして、前記第2のキャプチャーに前記第2のタグを介して捕捉された前記第3のタグを用いる、(13)に記載の方法。
(15)前記検出工程は、前記標的核酸を検出するための標的核酸検出用プローブを備える固相担体を用い、前記固相担体上で前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉する、(13)又は(14)に記載の方法。
(16)前記検出工程は、クロマトグラフィー工程である、(13)〜(15)のいずれかにに記載の方法。
(17)クロマトグラフィーにおける展開方向において前記標的核酸検出用プローブよりも上流側で前記標的核酸識別プローブ又はその分解物を捕捉する、(16)に記載の方法。
(18)前記標的核酸識別プローブは、標識要素を備える、(1)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)前記標識要素は、前記識別領域の他方の端部に隣接して又は前記識別領域に備えられる、(18)に記載の方法。
(20)前記プライマーセットは、前記標的核酸の増幅産物として片鎖にのみ一本鎖領域を有する部分二本鎖核酸を増幅可能である、(1)〜(19)のいずれかに記載の方法。
(21)標的核酸を検出するための固相担体であって、
固相担体と、
前記標的核酸を増幅するためのプライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブを捕捉するキャプチャーであって前記固相担体に保持されたキャプチャーと、
を備える、固相担体。
(22)さらに、前記標的核酸を検出するための標的核酸検出用プローブを備える、(21)に記載の固相担体。
(23)標的核酸を検出するためのキットであって、
標的核酸を増幅するためのプライマーセットと、
前記標的核酸を増幅するためのプライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブと、
を備える、キット。
(24)さらに、前記標的核酸識別プローブの少なくとも一部を捕捉するキャプチャープローブを保持する固相担体と、備える、(23)に記載のキット。
(25)前記固相担体は、さらに、前記標的核酸を検出するための標的核酸検出用プローブを保持する、(24)に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本明細書に開示する標的核酸の検出方法の一態様の概要を示す図である。
図1B】本明細書に開示する標的核酸の検出方法の他の一態様の概要を示す図である。
図2】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の一例を示す図である。
図3】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の一例を示す図である。
図4】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の一例を示す図である。
図5】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の他の一例を示す図である。
図6】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の他の一例を示す図である。
図7】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の他の一例を示す図である。
図8】本検出方法に用いる識別プローブ及びその利用態様の他の一例を示す図である。
図9】比較例に用いるクロマトグラフィーストリップを示す図である。
図10】比較例における結果を示す図である。
図11】実施例1に用いるクロマトグラフィーストリップを示す図である。
図12】実施例1における結果を示す図である。
図13】実施例2に用いるクロマトグラフィーストリップを示す図である。
図14】実施例2における結果を示す図である。
図15】実施例3における結果を示す図である。
図16】従来法における問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書は、標的核酸の検出方法及びそのための材料に関する。本明細書に開示される標的核酸の検出方法によれば、DNAポリメラーゼを用いた核酸増幅工程において、プライマーセットと、当該プライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブとを用いることで、DNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性に応じて、標的核酸識別プローブが分解されたりあるいはされなかったりする。
【0017】
例えば、図1Aに概略的に示すように、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施するとき、標的核酸が存在すれば、真正増幅産物が生成する。真正増幅産物二重鎖の融解処理後において、増幅産物中の核酸伸長領域を含む一本鎖と、標的核酸識別プローブとのハイブリダイズ産物が生成しうる。当該ハイブリダイズ産物を標的核酸識別プローブ由来のタグを介して捕捉することで、真正増幅産物の存在を肯定できる。
【0018】
一方、標的核酸が存在しないときには、たとえ、プライマーダイマーが生成しても、真正増幅産物は生成されない。このため、標的核酸識別プローブと増幅産物とのハイブリダイズ産物も生じ得ず、捕捉されないことで、真正増幅産物の存在を否定できる。
【0019】
また、図1Bに概略的に示すように、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて核酸造増幅反応を実施するとき、標的核酸が存在すれば、真正増幅産物が生成される。同時に、標的核酸識別プローブが分解される。標的核酸識別プローブの分解物を捕捉することで、真正増幅産物の存在を肯定できる。
【0020】
一方、標的核酸が存在しないときには、たとえ、プライマーダイマーが生成しても、真正増幅産物は生成されない。また、標的核酸識別プローブも分解されない。このため、未分解の標的核酸識別プローブを捕捉することで、真正増幅産物の存在を否定できる。
【0021】
以上のように、DNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性の有無及び真正増幅産物の有無に応じて、標的核酸識別プローブが分解される場合もあり分解されない場合もある。すなわち、標的核酸識別プローブの分解性は、用いるDNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性と標的核酸の存否に関連付けられる。このため、増幅工程後における、標的核酸識別プローブ(未分解物)やその分解物の存在態様から、真正増幅産物の存否を評価できる。
【0022】
したがって、本検出方法によれば、標的核酸識別プローブの少なくとも一部を固相担体上に捕捉するようにすることで、標的核酸識別プローブの少なくとも一部を利用して、真正増幅産物の存否を評価できるようになる。また、真正増幅産物を必ずしも捕捉して検出しなくても真正増幅産物の存否を評価でき、標的核酸を検出できる。
【0023】
また、本検出方法によれば、標的核酸に対応するシグナルの検出が、意図した増幅産物(真正な増幅産物)による真正な陽性であるかあるいはプライマーダイマー等(不真正な増幅産物)による偽陽性であるかを判別することができる。
【0024】
また、本検出方法によれば、適切な増幅反応が不適切な増幅反応を伴っていた場合であっても、適切な増幅反応が生じている限り、標的核酸の検出が真正な陽性であることを判別することができる。
【0025】
さらに、真正増幅産物も検出することも可能である。これにより、高い確度で標的核酸を検出することができる。
【0026】
以下、本明細書の開示に関するいくつかの実施形態を、適宜図面を参照して説明する。なお、本明細書において「核酸」とは、ヌクレオチドの重合体を意味しており、その数は特に限定しない。核酸は、数十程度のヌクレオチドが連結したオリゴヌクレオチドが包含され、さらに長いポリヌクレオチドも包含される。核酸は、DNA1本鎖若しくは二本鎖のほか、RNA一本鎖若しくは二本鎖、さらには、DNA/RNAハイブリッド、DNA/RNAキメラなども包含される。また、核酸は、天然の塩基、ヌクレオチド及びヌクレオシドからなるもののほか、非天然の塩基、ヌクレオチド、ヌクレオシドを一部に含むものであってもよい。また、核酸は、cDNA、ゲノムDNA、合成DNA、mRNA、全RNA、hnRNAおよび合成RNAを含む全てのDNAおよびRNAのほかペプチド核酸、モルホリノ核酸、メチルフォスフォネート核酸およびS−オリゴ核酸などの人工合成核酸を含む。また、1本鎖であっても2本鎖であってもよい。
【0027】
また、本明細書において「標的核酸」とは、特に限定されないでその存在及び/又は量を検出するべき任意の核酸である。標的核酸は、天然のあるいは人工的に合成されたものであってもよい。天然の標的核酸としては、例えば、体質、遺伝病、癌などの特定疾患についての発症、疾患診断、治療予後、薬剤や治療の選択などのヒト、非ヒト動物などの生物における遺伝子上の指標となる塩基あるいは塩基配列を含んでいる。典型的には、SNPなどの多型や先天的又は後天的変異が挙げられる。また、病原菌やウイルスなどの微生物由来の核酸なども標的核酸に含まれる。また、合成の標的核酸としては、人為的になんらかの識別のために合成された核酸が挙げられる。また、ある種の天然あるいは人工の核酸に対して核酸増幅反応を行って得られる増幅産物が挙げられる。
【0028】
本明細書において「核酸試料」とは、標的核酸を含む可能性のある試料をいう。試料採取源は特に限定されないが、標的核酸が含まれうる試料としては、各種の生体由来の試料(血液、尿、痰、唾液、組織、細胞(各種の動物由来の培養動物細胞、培養植物細胞、培養微生物細胞を含む)等)あるいは、こうした生体試料からDNAを抽出したDNA抽出試料等が挙げられる。さらには、上記生体試料からRNAを抽出し、DNAに変換したDNA試料等も含まれる。こうした各種の試料からの核酸を含む画分は当業者であれば適宜従来技術を参照して取得することができる。
【0029】
(標的核酸の検出方法)
本明細書に開示される標的核酸の検出方法は、DNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施する増幅工程と、前記DNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性に応じて前記増幅工程において存在しうる前記標的核酸識別プローブの少なくとも一部を固相担体上に捕捉する捕捉工程と、を備えることができる。さらに、本検出方法は、真正増幅産物の検出工程も備えることができる。以下、増幅工程、捕捉工程、検出工程について説明するとともに、真正増幅産物の存否の評価について順次説明する。
【0030】
(増幅工程)
本検出方法における増幅工程は、核酸試料と、標的核酸を増幅するためのプライマーセットと、当該プライマーセットによって増幅される真正増幅産物の核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える標的核酸識別プローブとの存在下で、DNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施する工程である。本工程では、真正増幅産物の生成を意図する。同時に、本工程では、標的核酸識別プローブ(以下、単に、識別プローブという。)を用いることにより、真正増幅産物中の核酸伸長反応領域の有無に応じて識別プローブを変化させることを意図する。
【0031】
(プライマーセット)
標的核酸を増幅するプライマーセットは、公知の手法により設計することができる。プライマーセットが増幅しようとする真正増幅産物の形態は、特に限定しないで、完全二本鎖、片鎖のみ一本鎖領域を備える部分二本鎖、双方の鎖がそれぞれ一本鎖領域を備える部分二本鎖とすることができる。部分二本鎖は、検出用プローブとのハイブリダイゼーションにおいて、二本鎖の融解を省略できる点において好ましく、特に、片鎖のみ一本鎖領域を備える部分二本鎖は、効率的に検出用プローブとのハイブリダイゼーションが可能である点においてより好ましい。
【0032】
プライマーセットは、真正増幅産物に対して、後段の検出工程において、予め関連付けられた検出用プローブと特異的にハイブリダイズする領域を付与可能に構成されている。真正増幅産物は、そのいずれかの部位に、検出用プローブと特異的にハイブリダイズできる領域を備えている。例えば、真正増幅産物におけるこうしたハイブリダイズ領域は、完全二本鎖形態においては、二本鎖部分のいずれかに備えられ、部分二本鎖形態においては、二本鎖部分又は一本鎖領域に備えられ、好ましくは一本鎖領域に備えられる。ハイブリダイズ領域は、プライマーによって付与されることが好ましい。ハイブリダイズ領域及び検出用プローブとして好ましい配列として、例えば、相互のミスハイブリダイゼーションが抑制された配列番号1〜100の塩基配列及びその相補配列を適宜利用することができる。
【0033】
なお、部分二本鎖核酸を得るためのプライマーセットの形態は、国際公開公報第WO2013/038534においても開示されているほか、種々の形態を採ることができる。また、こうした部分二本鎖核酸を得るためにプライマーに組み込まれるDNAポリメラーゼのDNA伸長反応を抑制又は停止させる部位(領域)は、後述するほか、当該公報等に記載される化合物を用いることができる。
【0034】
(標識要素)
プライマーセットは、また、真正増幅産物に標識要素を保持しているか、あるいは標識要素を付与可能なプライマーを含んでいてもよい。標識要素としては、例えば、標識物質及び標識物質結合物質が挙げられる。
【0035】
本明細書において「標識物質」とは、検出しようとする物質あるいは分子を他と識別することを可能とする物質である。標識物質は、特に限定しないが、典型的には、蛍光、放射能、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、燐光、化学発光、着色などを利用した標識物質が挙げられる。
【0036】
標識物質は、目視(肉眼)で検出可能な発光又は発色を提示する発光物質又は発色物質であることが好ましい。すなわち、直接それ自体が、他の成分を必要としないで肉眼で視認可能なシグナルを生成することができる物質であることが好ましい。検出工程で迅速かつ簡易に行うことができる。こうした物質としては、典型的には、各種の顔料や染料などの各種の着色剤が挙げられる。また、これに準ずる、金、銀などの貴金属ほか、銅などの各種金属又は合金、あるいは当該金属を含む有機化合物(錯体化合物であってもよい)が挙げられる。また、着色剤に準ずる、マイカ等の無機化合物が挙げられる。
【0037】
この種の標識物質としては、典型的には、各種染料、各種顔料、ルミノール、イソルミノール、アクリジニウム化合物、オレフィン、エノールエーテル、エナミン、アリールビニルエーテル、ジオキセン、アリールイミダゾール、ルシゲニン、ルシフェリン及びエクリオンを包含する化学発光物質が挙げられる。また、こうした標識物質でラベルされているラテックス粒子などの粒子も挙げられる。さらに、金コロイド若しくはゾル又は銀コロイド若しくはゾルを包含するコロイド若しくはゾル等が挙げられる。さらにまた、金属粒子、無機粒子等が挙げられる。
【0038】
標識物質は上記のように、その一部に粒子を備えていてもよい。標識物質の一部を構成するラテックス粒子などの粒子の平均粒子径は、特に限定しないが、例えば、0.1nm以上20μm以下であり、固相担体の孔径等によって適宜選択することができる。
【0039】
好ましい粒子は、水溶液に懸濁でき、そして水不溶性ポリマー材料からなる粒子である。例えばポリエチレン、ポリスチレン、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、アクリル酸ポリマー、メタクリル酸ポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリビニルアセテート−アクリレート、ポリビニルピロリドン又は塩化ビニル−アクリレートが挙げられる。それらの表面上に活性基、例えばカルボキシル、アミノ又はアルデヒド基を有するラテックス粒子も挙げられる。
【0040】
標識物質結合物質は、タンパク質−タンパク質相互作用、低分子化合物−タンパク質相互作用、核酸−核酸相互作用等を利用して、最終的に標識物質を結合できる物質が挙げられる。例えば、抗原抗体反応における抗体や、アビジン(ストレプトアビジン)−ビオチンシステムにおけるビオチン、抗ジゴキシゲニン(DIG)−ジゴキシゲニン(DIG)システムにおけるジゴキシゲニン、抗FITC−FITCシステムにおけるFITC等に代表されるハプテン類及び互いにハイブリダイズ可能であるオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。この場合、最終的に検出のために用いられる標識物質は、標識物質結合物質と相互作用する他方の分子又は物質(例えば、抗原、すなわち、ストレプトアビジン、抗FITC、オリゴヌクレオチドなど)を、標識物質結合物質との結合のための部位として備えるように構成される。
【0041】
こうした標識物質や標識物質結合物質は商業的に入手できるほか、標識物質及び標識物質結合物質の製造及び標識物質等を粒子にラベルする方法も公知であり、当業者であれば適宜公知技術を利用して取得することができる。さらに、こうした標識物質又は標識物質でラベル化された粒子や標識物質結合物質と、DNA等のオリゴヌクレオチドとの結合もアミノ基等の官能基を介して適宜可能であり、それ自体は当該分野において周知である。
【0042】
標識要素は、最終的に検出しようとする真正増幅産物のいずれかの箇所に備えられていればよい。例えば、プライマーセットにより増幅工程において真正増幅産物に付与されてもよいし、また、標識物質又は標識物質結合物質を備えるヌクレオシド誘導体三リン酸を含むヌクレオシド三リン酸組成物を用いて核酸増幅反応を実施することで、標識要素を真正増幅産物に組み込んでもよい。さらに、標識要素は、検出工程において付与されてもよい。例えば、真正増幅産物が標識物質結合物質を備える場合には、検出工程において、あるいはこの工程に先立って、真正増幅産物の標識物質結合物質と、標識物質結合物質と結合する部位を備える標識物質との複合体を形成させて、標識物質により真正増幅産物を検出する。
【0043】
(DNAポリメラーゼ)
本増幅工程においては、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性に関して、当該活性を有しないDNAポリメラーゼと当該活性を有するDNAポリメラーゼとのいずれかを用いることができる。5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性は、DNAを5’側から3’側へ分解する活性である。
【0044】
本増幅工程の一態様では、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いることができる。5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼは、Family B型(α型)に分類されるDNAポリメラーゼである。このDNAポリメラーゼは、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ等に代表される、超高熱Archaea由来のDNAポリメラーゼ等が挙げられる。この種のDNAポリメラーゼを用いる場合には、後述する第1の態様の識別プローブを用いる。この種のDNAポリメラーゼは、核酸試料中のプライマーの鋳型鎖にハイブリダイズする識別プローブを分解することができない。
【0045】
本増幅工程の他の一態様では、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いることができる。5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼは、Family A型(Pol I型)に分類されるDNAポリメラーゼである。この種のDNAポリメラーゼとしては、例えば、Thermus aquaticusやThermus thermophilusなどの公知のThermos属等の好熱性好気性真正細菌由来のDNAポリメラーゼから適宜選択できる。この種のDNAポリメラーゼは、核酸試料中のプライマーの鋳型鎖にハイブリダイズする識別プローブを分解することができる。
【0046】
各種態様のDNAポリメラーゼは、例えば、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼ、TaqDNAポリメラーゼ、TthDNAポリメラーゼ等として商業的に入手できる。
【0047】
(識別プローブ)
識別プローブは、真正増幅産物の存否を評価するためのプローブである。
【0048】
(識別領域)
識別プローブは、標的核酸を増幅するためのプライマーセットによって伸長しようとする核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備えることができる。識別領域は、DNAポリメラーゼとして、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いる場合、真正増幅産物の存否にかかわらず分解されない。しかし、識別プローブは、その識別領域を介してプライマーセットによる核酸伸長反応領域にハイブリダイズできる。
【0049】
また、DNAポリメラーゼとして、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いる場合、識別プローブの識別領域は、標的核酸の適切な増幅反応が生じる場合には、その5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性により分解される。
【0050】
識別領域は、標的核酸のプライマーがハイブリダイズしない領域、すなわち、伸長反応領域であれば特に限定しない。例示であって限定するものではないが、伸長反応領域の5〜100塩基長程度の標的領域に特異的にハイブリダイズする領域とすることができる。識別領域の塩基長、すなわち、標的領域の塩基長は、融解温度(Tm)の観点から、好ましくは10〜50塩基長とすることができる。また、識別は、典型的には、標的領域に完全に相補的な領域とすることができる。
【0051】
識別プローブは、識別領域のほかに、識別プローブをその後捕捉するなどのために、タグ領域を備えることができる。また、識別プローブは、標識要素を備えることができる。標識要素は、識別領域内部に、あるいは識別領域の外部に設けることができる。
【0052】
識別プローブは各種態様を有する。以下に、まず、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いる場合に用いる識別プローブについて説明する。
【0053】
(識別プローブの第1の態様)
識別プローブは、図2に示すように、第1のタグを識別領域の一方の端部に隣接して備えることができる。第1のタグは、固相担体上に備えられる第1のキャプチャーによって捕捉可能に予め関連付けられている。第1のタグ及び第1のキャプチャー及びこれらの相互作用については後段で詳述する。
【0054】
こうした識別プローブは、真正増幅産物のDNA二本鎖のうち核酸伸長反応領域を有する一本鎖とハイブリダイズ産物を形成できる。このハイブリダイズ産物は、第1のタグを介して第1のキャプチャーに捕捉される。また、このハイブリダイズ産物は、真正増幅産物の前記一本鎖が標的要素を備える場合には、第1のキャプチャーに関連付けられて(例えば、固相担体上の第1のキャプチャーとしてのプローブの固定部位等)において標識要素由来のシグナルを呈示可能である。
【0055】
一方、この識別プローブは、真正増幅産物が存在しないときには、もはや、ハイブリダイズ産物を形成できない。また、識別プローブは、第1のキャプチャーで第1のタグを介して識別プローブを捕捉されるが、真正増幅産物が備える標識要素に基づくシグナルは提示しえない。
【0056】
識別プローブは、識別領域の5’末端側及び3’末端側のいずれか又は双方に、DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応を抑制又は停止可能な領域(以下、単に抑制領域ともいう。)を備えることができる。例えば、第1のタグと識別領域との間及び識別領域の3’末端のいずれか又は双方に抑制領域を備えることができる。第1のタグと識別領域との間に抑制領域を備えることで、識別プローブがプライマーと誤ってハイブリダイズしても、プライマーは、抑制領域を越えてプライマー鎖は伸長されない。また、識別プローブの3’末端側もDNAポリメラーゼによって伸長されない。したがって、識別プローブとプライマーとが誤ってハイブリダイズしても完全なダイマーが生成されなくなる。これにより、こうしたダイマーによる悪影響を回避又は抑制することができる。
【0057】
DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応を抑制又は停止可能な領域(抑制領域)は、DNAにおいて、DNAポリメラーゼによるDNA伸長反応を抑制マーカー停止可能であり、また、鋳型鎖に含まれたとき、当該領域で前記鋳型鎖の相補鎖のヌクレオチド伸長反応を抑制可能である領域である。こうした領域は、当業者において公知であり、典型的には、天然塩基又は天然塩基と対合する天然塩基の誘導体(天然塩基等)を含まない領域が挙げられる。したがって、当該領域は、天然塩基等を有しない単なる骨格鎖だけであってもよい。すなわち、糖−リン酸骨格や、他の公知の人工オリゴヌクレオチドに適用される骨格であってもよい。
【0058】
また、抑制領域は、リン酸ジエステル結合を介してヌクレオチドに隣接される、元素数が2以上40以下である一重鎖構造を含む鎖状の連結基であってもよい。元素数が1以下では、DNAポリメラーゼ反応を抑制又は停止が不完全になりやすく、元素数が40を超えると、ヌクレオチドの溶解性が低下するおそれがあるからである。DNAポリメラーゼ反応の抑制又は停止の効果を考慮すると、鎖状の連結基の元素は、2以上36以下であることが好ましく、より好ましくは3以上16以下である。
【0059】
抑制領域としては、元素数が2以上40以下であって置換されていてもよいアルキレン鎖又はポリオキシアルキレン鎖を含むことが好ましい。こうした鎖状の連結構造は、構造的に簡易であるほか、連結部位としての導入も容易である。
【0060】
こうした連結部位としては、例えば、以下の式(1)で表される連結部位が挙げられる。
5’−O−Cm2m−O−3’ 式(1)
(式中、5’は、5’側のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、3’は、3’側のリン酸ジエステル結合のリン酸原子を表し、mは2以上40以下の整数を表す。)
【0061】
式(1)においてmは、好ましくは2以上36以下であり、より好ましくは3以上16以下である。式(1)中のHの置換基は、典型的には、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜8であることが好ましく、より好ましくは1〜4である。また、2以上の置換基を有する場合には、置換基は同一であっても異なっていてもよい。さらに、置換基を有していないことも好ましい。
【0062】
また、他の抑制領域としては、以下の式(2)で表される抑制が挙げられる。
5’−(OCn2nl−O−3’ 式(2)
(式中、5’は、5’側のリン酸ジエステル結合の酸素原子を表し、3’は、3’側のリン酸ジエステル結合のリン酸原子を表し、nは2以上4以下の整数を表し、lは、2以上の整数であって、(n+1)×lは40以下となる整数を表す。)
【0063】
式(2)において(n+1)×lは、好ましくは2以上36以下であり、より好ましくは3以上16以下である。式(2)中のHの置換基は、式(1)中の置換基と同様の態様が適用される。
【0064】
抑制領域としては、例えば、以下の鎖状部位が挙げられる。
【0065】
【化1】
【0066】
つぎに、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いる場合に用いる識別プローブについて説明する。かかる識別プローブには、第2〜第6の態様が挙げられる。
【0067】
(識別プローブの第2の態様)
図3左欄に示すように、識別プローブは、例えば、標識物質と当該標識物質を近接効果によって消光できるクエンチャーとを備えることができる。識別プローブは、標識物資とクエンチャーとを、未分解の状態では、標識物質をクエンチャーが消光した状態を維持できるように保持している。例示であって限定するものではないが、識別領域の一方の端部に隣接して標識物質を備え、他方の端部に隣接してクエンチャーを備えることができる。また、図示はしないが、識別領域内に標識物質とクエンチャーとを備えることができる。さらに、識別領域の一方の端部に隣接して標識物質及びクエンチャーのいずれか一方を備え、他方を、識別領域内に備えることができる。典型的には、図3に示すように、識別領域の一方の端部に隣接して標識物質を備え、他方の端部に隣接してクエンチャーを備える。
【0068】
こうした配置で標識物質とクエンチャーとを備える識別プローブは、未分解の状態では、標識物質がクエンチャーにより消光されているが、真正増幅産物が存在して5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性により識別領域が分解されれば、標識物質はクエンチャーと分離されるために、本来の発光シグナルを呈することができる。したがって、この態様によれば、真正増幅産物を、確実に検出することができる。
【0069】
こうした標識物質としては、例えば、蛍光標識が挙げられる。当業者であれば、こうした標識物質とクエンチャーを適宜選択することができる。例えば、こうした識別プローブの一例として、商業的に入手可能ないわゆるTaqmanプローブ(商品名)が挙げられる。
【0070】
(識別プローブの他の態様)
識別プローブは、識別領域のほかにさらに他の要素を備えることができる。他の要素は、識別プローブの少なくとも一部を捕捉するための要素である。こうした要素は、識別プローブ又はその分解物を、真正増幅産物と標的核酸検出プローブとのハイブリダイズ環境(以下、こうした環境を標的核酸検出系又は単に検出系という。)から分離するための要素とすることができる。これにより、標的核酸の検出を、識別プローブ及び/又はその分解物によってこれらのハイブリダイズを妨げられることなく実施でき、増幅反応の確度を高めることができるようになる。
【0071】
以下に、こうした要素としてのタグを備える識別プローブについて説明する。
【0072】
(識別プローブの第3の態様)
識別プローブは、例えば、図4の左欄に示すように、第2の態様と同様に、標識物質とクエンチャーとを備えるとともに、第1のタグを備えることができる。例えば、第1のタグを、標識物質側に備えることができる。第1のタグは、予め第1のキャプチャーに捕捉されるように構成されている。第1のタグ及び第1のキャプチャー及びこれらの相互作用については後段で詳述する。
【0073】
図4に示すように、こうした配置で標識物質と第1のタグと、クエンチャーとを備える識別プローブは、未分解の状態では、標識物質がクエンチャーにより消光されているが、真正増幅産物が存在して5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性により識別領域が分解されれば、標識物質はクエンチャーと分離されるために、本来の発光シグナルを呈し、しかも、第1のタグを介して第1のキャプチャーにより捕捉される。したがって、この態様によれば、真正増幅産物を、確実に検出することができる。
【0074】
(識別プローブの第4の態様)
識別プローブは、例えば、図5に示すように、第1のタグを、識別領域の一方の端部に隣接して備えることができる。第1のタグは、予め第1のキャプチャーに捕捉されるように構成されている。以下、第1のタグと第1のキャプチャーについて説明する。
【0075】
例えば、第1のタグと第1のキャプチャーとは、相互作用により第1のキャプチャーが第1のタグを捕捉する関係を構成することができる。概して、こうした相互作用は、非共有結合性の相互作用であって、例えば、水素結合、イオン結合、静電的結合、疎水結合等が挙げられる。また、物理的相互作用であってもよい。
【0076】
こうした相互作用としては、典型的には、各種の有機化合物−有機化合物相互作用が挙げられる。好ましくは、生物体におけるこうした相互作用を利用できる。こうした相互作用としては、例えば、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−ヌクレオチド相互作用、ヌクレオチド−ヌクレオチド相互作用、有機化合物−タンパク質相互作用等が挙げられる。好ましくは、こうした相互作用は、特異的であることが好ましい。
【0077】
こうした相互作用は、標的核酸の増幅産物と標的核酸検出用プローブとのハイブリダイズと同等かそれ以上の安定性を有していることが好ましい。さらに、相互作用は、不可逆的であることが好ましい。こうした相互作用は、公知であり、当業者であれば適宜選択できる。
【0078】
例えば、識別プローブ又はその分解物を捕捉するための第1のタグ及び第1のキャプチャーとしては以下の態様が挙げられる。
【0079】
第1のタグ及び第1のキャプチャーは、タンパク質−タンパク質相互作用に基づき、第1のタグを、相互に特異的に結合するタンパク質のペアの一方であり、第1のキャプチャーはこのペアの他方とすることができる。こうしたペアとしては、例えば、抗原タンパク質(ペプチド)と抗体、ストレプトアビジン(アビジン)とビオチン、FITCと抗FITC、抗ジゴキシゲニン(DIG)−ジゴキシゲニン(DIG)等のハプテン−抗体等が挙げられる。
【0080】
また、例えば、第1のタグと第1のキャプチャーとは、それぞれ、相互に特異的にハイブリダイズする塩基配列をそれぞれ有するDNAなどのポリヌクレオチドのペアの一方及びその他方とすることができる。
【0081】
この場合、第1のタグは、検出工程で用いるプローブに予め関連付けられており、このプローブに特異的にハイブリダイズするように構成されていることが好ましい。
【0082】
第1のタグのハイブリダイズに寄与する長さは、特に限定しないで、当業者であれば適宜設定できる。また、第1のタグ領域には、ミスハイブリダイズが抑制された配列を採用することが好ましい。第1のタグ領域としては、例えば、相互のミスハイブリダイゼーションが抑制された配列番号1〜100の塩基配列及びその相補配列を適宜利用することができる。
【0083】
さらに、例えば、第1のタグと第1のキャプチャーとは、それぞれ、所定のサイズ及び/又は形態を有する粒子と、当該粒子の移動を抑制できる多孔質体とすることができる。例えば、第1のタグとしての粒子がそのサイズ(例えば、平均粒子径など)及び/又は形態に基づいて多孔質体を通過できないか、多孔質体によってその内部における移動が抑制されるかあるいは捕捉等されるようにすることができる。
【0084】
第1のタグとしての粒子の材料、形態、サイズは特に限定されない。粒子は、プラスチックやセラミックス等のビーズ等であってもよいほか、既述の標識要素となりうる粒子等が挙げられる。
【0085】
多孔質体の材料や形態は特に限定されない。多孔質体を構成するための材料は、適切な孔径又は空隙を有して第1のタグとしての粒子の移動等を抑制できればよく、材料を問わないで用いることができる。また、その形態は、各種形状の粒子のほか、ディスク、フィルム、シート等が挙げられる。例えば、多孔質体は、種々の形態を取りえ、粒子状の多孔質体を充填したカラム形態であってもよいし、こうした多孔質粒子をさらに成形した各種形態の成形体であってもよい。さらには、不織布のようなフィルムやシートのほか、繊維状体を集合して成形したディスク等の成形体であってもよい。
【0086】
こうした態様の第1のタグと第1のキャプチャーを用いる場合、例えば、第1のタグを備える識別プローブ及び/又はその分解物を含み得る核酸増幅反応の結果物を、第1のキャプチャーである多孔質体と接触させることで、多孔質体内部に識別プローブ等を捕捉したりできる。また、結果物を多孔質体内を移動させるように負荷することで、識別プローブ等を多孔質体を介して分離できる。すなわち、識別プローブの多孔質体内への侵入を阻止し、あるいは多孔質体内部においてその通過を阻止するなどして、識別プローブ等を多孔質体の通過物から分離できる。識別プローブやその分解物を捕捉することができる。
【0087】
また、例えば、多孔質体は、検出工程がクロマトグラフィーによるハイブリダイゼーションを意図する場合には、クロマトグラフィー担体の一部として備えられていてもよい。すなわち、第1のタグとしての例えば、多孔質部を、粒子が通過できないかあるいは捕捉されるような程度の平均孔径分布を有するように構成することができる。なお、第1のキャプチャーは、クロマトグラフィー担体のクロマトグラフィー媒体と接触する端部において備えられるようにしてもよい。
【0088】
これらの態様の識別プローブは、識別プローブが未分解の状態では、第1のキャプチャーに捕捉され、かつ当該第1のキャプチャーに関連付けられて(例えば、固相担体上の第1のキャプチャーとしてのプローブの固定部位等)において標識要素由来のシグナルを呈示可能である。一方、この識別プローブは、識別領域が分解されたときにはもはや第1のタグと標識要素とは分離されるため、第1のキャプチャーで第1のタグ領域を捕捉しても、標識要素は、第1のタグに関連付けられてそのシグナルを呈示できない。
【0089】
(識別プローブの第5の態様)
識別プローブは、また、図6の左欄に示すように、識別領域のほか、第1のタグと、第2のタグと、標識要素とを備えることができる。第1のタグは、既述の識別プローブの第4の態様と同様、各種の態様とすることができる。第2のタグは、検出工程で用いる第2のキャプチャーに予め関連付けられており、第2のキャプチャーとの相互作用により第2のキャプチャーにより捕捉されるように構成されている。
【0090】
この識別プローブは、識別領域の一方の端部に隣接して第1のタグを備え、他方の端部に隣接して第2のタグを備え、さらに、第2のタグに隣接して標識要素を備えることができる。
【0091】
第1のタグ及び第2のタグは、それぞれが独立して第1のキャプチャー及び第2のキャプチャーとの相互作用により検出系から分離されるものであればよい。したがって、第1のタグと第2のタグとは、同種の相互作用に基づくものであってもよいが、異なる相互作用に基づくものであってもよい。図5においては、第1のタグ及び第2のタグが異なる相互作用に基づくものであるかのごとく例示している。
【0092】
例えば、第1のタグ及び第2のタグが、DNAなどのポリヌクレオチドであり、それぞれ、塩基対合に基づくハイブリダイゼーションにより第1のキャプチャー及び第2のキャプチャーに捕捉される場合、第1のタグ及び第2のタグの長さは、特に限定しないで、当業者であれば適宜設定できる。また、第1のタグ及び第2のタグには、ミスハイブリダイズが抑制された配列を採用することが好ましい。第1のタグ及び第2のタグのための塩基としては、例えば、相互のミスハイブリダイゼーションが抑制された配列番号1〜100の塩基配列及びその相補配列を適宜利用することができる。
【0093】
この識別プローブは、第1のタグに加えて第2のタグを備えるため、識別プローブが未分解の状態では、第1のキャプチャーに捕捉され、かつ当該第1のキャプチャーに関連付けられて(例えば、固相担体上の第1のキャプチャーの固定部位等)において標識要素由来のシグナルを呈示可能である。なお、同時に、第2のキャプチャーに捕捉されても、第2のキャプチャーに関連付けられて標識由来のシグナルを呈示可能である。
【0094】
一方、この識別プローブは、識別領域が分解されたときには、第1のタグ領域と標識要素とは分離されることになる。このため、第1のキャプチャーで第1のタグ領域を捕捉してもシグナルが呈示されないが、第2のキャプチャーで第2のタグ領域を捕捉して、第2のキャプチャーに関連付けられてシグナルが呈示される。
【0095】
(識別プローブの第6の態様)
識別プローブは、図7に示すように、第1のタグと、第2のタグと、第3のタグと、を備えることができる。第1のタグは、既述の識別プローブの第5の態様と同様、第1のキャプチャーに予め関連付けられており、当該キャプチャーと特異的に相互作用するように構成されている。第2のタグは、既述の識別プローブの第5の態様と同様、検出工程で用いる第2のキャプチャーに予め関連付けられており、当該キャプチャーに特異的に相互作用するように構成されている。第1のタグ及び第2のタグは、それぞれが独立して第1のキャプチャー及び第2のキャプチャーとの相互作用により検出系から分離されるものであればよい。
【0096】
識別プローブは、第3のタグを備えることができる。第3のタグは、標的核酸の増幅産物の少なくとも一部と特異的にハイブリダイズする領域である。第3のタグ領域は、このため、標的核酸の増幅産物を検出する検出用プローブとして機能することができる。したがって、第3のタグは、DNA等のポリヌクレオチドであって、前記増幅産物の一部と特異的にハイブリダイズする塩基配列を有している。
【0097】
識別プローブは、識別領域の一方の端部に隣接して第1のタグを備え、他方の端部に隣接して第2のタグ又は第3のタグを備え、当該第2又は第3のタグに隣接して第2又は第3のタグを備えることができる。
【0098】
なお、第1のタグ、第2のタグ及び第3のタグ領域がそれぞれDNA等のポリヌクレオチドであって、第1〜第3のキャプチャーとそれぞれ特異的ハイブリダイズするものであるとき、当該ハイブリダイズに寄与する塩基配列の長さは、それぞれ特に限定しないで、当業者であれば適宜設定できる。また、第1のタグ、第2のタグ及び第3のタグには、ミスハイブリダイズが抑制された配列を採用することが好ましい。第1〜第3のタグとしては、例えば、相互のミスハイブリダイゼーションが抑制された配列番号1〜100の塩基配列及びその相補配列を適宜利用することができる。図6においては、第1〜第3のタグが、いずれもDNAである場合を例示している。
【0099】
この識別プローブは、識別プローブが未分解の状態では、第1のキャプチャーに捕捉され、かつ当該第1のキャプチャーに関連付けられて(例えば、固相担体上の第1のキャプチャーの固定部位等)において標的核酸の増幅産物を第3のタグを介して捕捉可能である。なお、同時に、第2のキャプチャーに接触されると、第2のキャプチャーに捕捉されて、当該第2のキャプチャーに関連付けられて、標的核酸の増幅産物を第3のタグ領域を介して捕捉可能である。
【0100】
一方、この識別プローブは、識別領域が分解された場合には、第1のキャプチャーに第1のタグ領域を含む部分のみが捕捉される。また、第2のキャプチャーには、第2のタグ領域及び第3のタグ領域を含む部分が捕捉され、当該第3のタグ領域を介して標的核酸の増幅産物が捕捉されることになる。
【0101】
この識別プローブを用いたとき、第3のタグを介して第1のキャプチャー及び/又は第2のキャプチャーに関連付けられて捕捉された標的核酸の増幅産物は、例えば、増幅産物自体に標識要素を予め付与すること等により適宜標識要素に基づくシグナルで呈示可能である。
【0102】
なお、図示はしないが、標識物質や標識結合物質などの標識要素は、識別領域内に備えられていてもよい。
【0103】
(識別プローブの第7の態様)
識別プローブは、図8に示すように、図7に示す第6の態様の識別プローブと同様、第1のタグと、第2のタグと、第3のタグと、を備えることができる。第1のタグは、既述の識別プローブの第4の態様と同様、検出工程で用いる第1のキャプチャーに予め関連付けられており、当該キャプチャーと特異的に相互作用するように構成されている。第2のタグは、既述の識別プローブの第5の態様と同様、検出工程で用いる第2のキャプチャーに予め関連付けられており、当該キャプチャーと特異的に相互作用するように構成されている。
【0104】
識別プローブは、第3のタグを備えることができる。第7の態様における第3のタグは、識別プローブ自身を標識するための要素である。すなわち、本態様においては、当該第3のタグと特異的に相互作用する第3のキャプチャーと標識要素と、を備える、標識プローブをさらに備えることができる。第3のタグは、識別プローブ自身に標識プローブを特異的に相互作用させて標識を保持させるものであれば足りる。したがって、第3のタグ及び第3のキャプチャーに既に説明した態様から適宜選択して用いることができる。
【0105】
本態様の識別プローブにおいても、第6の態様の識別プローブと同様、識別領域の一方の端部に隣接して第1のタグを備え、他方の端部に隣接して第2のタグ又は第3のタグを備え、当該第2又は第3のタグに隣接して第3又は第2のタグを備えることができる。
【0106】
なお、第1のタグ、第2のタグ及び第3のタグ領域がそれぞれDNA等のポリヌクレオチドであって、第1〜第3のキャプチャーとそれぞれ特異的ハイブリダイズするものであるとき、当該ハイブリダイズに寄与する塩基配列の長さは、それぞれ特に限定しないで、当業者であれば適宜設定できる。また、第1のタグ、第2のタグ及び第3のタグには、ミスハイブリダイズが抑制された配列を採用することが好ましい。第1〜第3のタグとしては、例えば、相互のミスハイブリダイゼーションが抑制された配列番号1〜100の塩基配列及びその相補配列を適宜利用することができる。図7においては、第1〜第3のタグが、いずれもDNAである場合を例示している。
【0107】
この識別プローブは、識別プローブが未分解の状態では、第1のキャプチャーに捕捉可能である。なお、同時に、第2のキャプチャーに接触されると、第2のキャプチャーに捕捉可能である。それぞれの場合において、未分解の識別プローブは第3のタグを介して標識プローブによって標識される。
【0108】
一方、この識別プローブは、識別領域が分解された場合には、第1のキャプチャーに第1のタグ領域を含む部分のみが捕捉される。また、第2のキャプチャーには、第2のタグ領域及び第3のタグを含む部分が捕捉され、当該第3のタグを介して標識プローブにより標識される。
【0109】
以上、識別プローブの各種態様について説明したが、これらの態様に限定するものではなく、目的に応じて、識別領域、各種タグ(及びキャプチャー)、標識要素について、種々に組み合わせて構成することができる。
【0110】
本増幅工程では、核酸試料に対して、プライマーセット、識別プローブ、DNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を実施する。核酸増幅法は、各種公知の方法を適用できるが、典型的にはPCR、マルチプレックスPCR等の各種PCRである。核酸増幅工程を実施するにあたっての、溶液組成、温度制御、時間等については、当業者であれば適宜設定することができる。
【0111】
本検出方法は、複数の標的核酸の増幅産物を得る場合において特に有意義である。通常、複数の標的核酸を得るために同時に複数のプライマーセットを用いる。こうした場合には、プライマーダイマーの形成を抑制することが困難な場合が多く、偽陽性を呈する可能性が高いからである。
【0112】
(真正増幅産物の検出工程)
本方法は、後述する捕捉工程ほか、真正増幅産物を検出する検出工程を備えていてもよい。本検出工程は、真正増幅産物と特異的にハイブリダイズする標的核酸検出用プローブとがハイブリダイズ可能な条件下で、核酸増幅反応の結果物と標的核酸検出用プローブとを接触させることを含むことができる。本検出工程により、真正増幅産物を検出することができる。真正増幅産物には、既述したように、種々の形態で標識要素を付与可能であり、本検出工程においては、当業者に公知の各種手法で標識要素に基づくシグナルを検出することで標的核酸の増幅産物を検出することができる。なお、検出工程で用いる、標識要素に応じた検出手段は当業者に周知であり、当業者は、用いる標識要素に応じた検出手段を適宜用いることができる。
【0113】
なお、本検出工程は、後述する、本方法における捕捉工程に伴うものであってもよいし、捕捉工程とは独立した工程として行ってもよい。後述する真正増幅産物の存否の評価がなされている限り、本検出工程は、必ずしも必要ではないが、本検出工程を実施することで、真正増幅産物の検出の確度を向上させることができる。
【0114】
増幅反応の結果物を、所定のハイブリダイズ条件下でプローブ等と接触させることは、概して核酸ハイブリダイゼーション(工程)と称される。ハイブリダイゼーション工程は、通常、固相担体に結合されたプローブに対して実施される。プローブ及び固相担体については後述する。ハイブリダイゼーションの形態としては、プローブが固定化された固相担体表面にハイブリダイゼーション溶液を供給して実施するハイブリダイゼーションの形態(浸漬型ハイブリダイゼーション)に限定されない。例えば、固相担体の一部に移動相でもあるハイブリダイゼーション溶液を供給して、固相担体に対して所定の方向性でハイブリダイゼーション溶液を展開するクロマトグラフィーの形態(展開型ハイブリダイゼーション)であってもよい。本検出方法においては、クロマトグラフィー形態を採用することが好ましい。簡易で迅速性に優れるクロマトグラフィーによるハイブリダイゼーション工程において、検出確度の向上の意義はより高いからである。また、クロマトグラフィーによると、プローブと接触する順序を制御できるため、より簡易にかつ高い確度の判別等が可能となる。
【0115】
検出工程におけるハイブリダイズ条件については、当業者であれば適宜設定できる。すなわち、ハイブリダイゼーション温度、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度及び溶媒の種類等、ハイブリダイゼーション時間は当業者であれば適宜設定できる。本検出方法において、特には、クロマトグラフィー形態のハイブリダイゼーションでは、例えば、10℃〜50℃程度、好ましくは15℃〜35℃程度で、数分から数十分程度、典型的には、30分以内、好ましくは20分以内でハイブリダイゼーション工程を実施できる。
【0116】
クロマトグラフィー形態でハイブリダイゼーション工程を実施するとき、ハイブリダイゼーション工程に用いる展開媒体は、水性媒体であることが好ましい。水性媒体は、こうしたクロマトグラフィーに用いられる公知の成分等を適宜配合して調製することができる。
【0117】
プローブは、担体に固定化されている。こうした担体としては、固相担体を用いることができる。例えば、担体はプラスチックであってもよいし、ガラスであってもよく、材質は特に限定されない。また、特に、クロマトグラフィーによるハイブリダイゼーションに用いる固相担体としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーを主体としたいわゆる多孔質性の材料が挙げられる。また、ろ紙などのセルロース系材料も好ましく用いることができる。
【0118】
なお、担体の形状は平板状であってもよいが、ビーズ状であってもよく、形状は特に限定されない。固相担体は、好ましくは、担体が固相平板状であり、複数の検出用プローブが一定の配列で固定されたアレイ(特にマイクロアレイ)である。アレイは、多数個のプローブを固定でき、同時に網羅的に各種の標的核酸を検出するのに都合がよい。また、クロマトグラフィー形態は、プローブの固定化位置により、結果物とプローブとの接触順序を制御できるため、好ましい。
【0119】
クロマトグラフィーによるハイブリダイゼーションに用いる固相担体としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロース、ナイロン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーを主体としたいわゆる多孔質性の材料が挙げられる。また、ろ紙などのセルロース系材料も好ましく用いることができる。クロマトグラフィー用のプローブ固定化体は、単一の固相担体で構成されている必要は必ずしもない。全体としてキャピラリー現象により展開媒体を移動可能であれば、複数の固相担体で連結されていてもよい。また、クロマトグラフィー用プローブ固定化体の全体形態は特に問わない。シート状や細い棒状など、キャピラリー現象によるクロマトグラフィー用液の展開拡散が可能な形態であればよい。好ましくは、長尺状体であって、その長手方向に沿う一つの端部がクロマトグラフィーの展開媒体に接触するようになっている。
【0120】
(捕捉工程)
本方法は、DNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性に応じて増幅工程において存在しうる識別プローブの少なくとも一部を固相担体上に捕捉する捕捉工程を備えることができる。本工程によれば、標的核酸識別プローブの少なくとも一部を捕捉することにより、標的核酸識別プローブの少なくとも一部を利用した真正増幅産物の存否の評価に寄与することができる。
【0121】
識別プローブの少なくとも一部とは、未分解の別プローブ及び識別プローブの分解物を含むことができる。既述のように、識別プローブは、DNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性により識別領域が分解されうるからである。
【0122】
識別プローブの少なくとも一部を捕捉するには、識別プローブの少なくとも一部が備えるタグを固相担体上のキャプチャープローブにより捕捉する。タグとキャプチャーとの組合せについては既に説明したとおりである。また、固相担体上に識別プローブの少なくとも一部を捕捉するには、識別プローブが備えるタグと固相担体上のプローブとを相互作用させるようにする。なお、こうした相互作用による捕捉は、上記検出工程で説明したように、核酸ハイブリダイゼーションに適用される、浸漬形態やクロマトグラフィー形態によるプローブとキャプチャーとの接触形態を利用できる。
【0123】
本検出方法は、標的核酸の検出、すなわち、真正増幅産物の検出を意図している。しかしながら、プライマー同士が意図せずハイブリダイズして、伸長反応が進行してプライマーダイマーという形態の意図しない不真正な合成物及びその増幅産物(不真正な増幅産物)が産生されることがある。こうしたプライマーダイマーは、標的核酸に相当する部位を含まない以外は、真正増幅産物となんら変わりがない。特に、検出用プローブとのハイブリダイズ領域を一本鎖タグ領域を備える場合には、核酸ハイブリダイゼーションを利用した検出工程においては、真正増幅産物と同様に振る舞うことになる。したがって、標的核酸が存在しない場合においても、この不真正増幅産物が、真正増幅産物と同様に検出され、結果として、一見、陽性として判別される状態を引き起こしてしまうからである。
【0124】
したがって、本検出方法が、識別プローブの少なくとも一部を用いて、真正増幅産物の存否を評価することは有用である。また、真正増幅産物の存在は、それ自体、標的核酸の検出に他ならないので、標的核酸自体の検出を行うまでもなく標的核酸の検出を行うことができる点において有用である。
【0125】
真正増幅産物の存否の評価は、捕捉工程で固相担体上に捕捉した識別プローブの少なくとも一部、すなわち、未分解の識別プローブ及び/又はその分解物を用いて、シグナルの変化を検出する評価工程を実施することによって行う。シグナルの変化は、増幅工程において検出することができる場合もある。また、捕捉工程において又は捕捉工程とは別個にシグナル等を検出する評価工程を実施してもよい。
【0126】
したがって、本検出方法が、真正増幅産物の検出工程を実施する場合には、当該検出工程と分離して検出工程の前又は後に捕捉工程を実施することができる。一方、検出工程を、識別プローブ及び/又はその分解物を用いた評価工程を兼ねて実施することもできる。
【0127】
また、増幅工程で5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いる場合には、上記したいずれかの段階で識別プローブの未分解物を捕捉又は検出することで、意図した標的核酸の増幅反応が生じてない可能性(全く増幅反応が生じていない可能性及びプライマーダイマー生成の可能性)を肯定できる。
【0128】
さらに、増幅工程で5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いる場合には、識別プローブの分解物及び識別プローブの未分解物との双方を捕捉又は検出することで、標的核酸の検出における、真正増幅反応と不真正増幅反応の双方の存否を評価することができる。すなわち、不真正な増幅反応を伴っていることを肯定できたとしても、真正な増幅反応が存在を肯定できれば、偽陽性の可能性を排除できる。
【0129】
以上のように、本検出方法によれば、真正な核酸増幅反応の存否を評価することができるため、それ自体で、標的核酸を検出できる。また、本検出方法によれば、偽陽性を判別できる。さらに、不真正な増幅反応が存在していたとしても、真正な増幅反応を肯定することもできる。このことは、プライマーダイマーなど存在可能性の大きい不真正増幅反応の存否にかかわらず、不真正増幅反応による検出精度、検出感度、再現性の低下等並びに偽陽性判別を容易に回避することができる。したがって、こうした不真正増幅反応の抑制等により不真正増幅産物を排除するコストや手間を排除することができる。
【0130】
識別プローブを用いて、標的核酸の増幅反応の存否を評価する実施態様としては以下の各種態様が挙げられる。なお、以下の説明においては、検出工程において評価工程を同時に実施する態様を説明するが、評価工程を検出工程と分離して行うこともできる。
【0131】
(第1の態様の識別プローブによる評価)
(識別プローブの第1の態様)
本態様の識別プローブを用いた検出方法を図2に示す。本態様の識別プローブは、5’−3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いた増幅工程を伴う。なお、以下の第1の態様においては、完全な二本鎖DNAを増幅産物として得るためのプライマーセットを用いた場合について説明する。
【0132】
図2に示すように、本態様の識別プローブを用いた場合、真正な増幅反応が生じていれば、標的核酸の真正な増幅産物が形成される。
【0133】
かかる増幅工程において、あるいは増幅工程後における増幅反応液の加熱等による変性及びその後の再アニールの際、識別プローブと核酸増幅産物の二本鎖中の一方の鎖とのハイブリダイズ産物が形成されうるようにする。すなわち、真正増幅産物が生成された場合、真正増幅産物の二本鎖DNAが変性(融解)後の冷却(放冷)工程において、真正増幅産物のハイブリダイズ産物とともに、識別プローブと真正増幅産物の核酸伸長反応領域を含む一本鎖DNAとのハイブリダイズ産物も形成されうる。なお、二本鎖DNAの変性には、熱変性ほかアルカリ変性等の化学物質による変性も包含される。
【0134】
図2に一例として示すように、こうしたハイブリダイズ産物は、識別プローブに由来するタグとプライマーセットに由来する標識要素とによって検出されうる。すなわち、真正増幅産物の存在は、識別プローブと真正増幅産物の一方の鎖とのハイブリダイズ産物によるシグナルのみによっても検出されるほか、検出プローブによる真正増幅産物に基づくシグナルによっても肯定される。
【0135】
シグナルレベルを検出してより高い確度で評価するには、コントロールとして、核酸試料フリー及び/又はプライマーフリーとする以外は同様の条件で本検出方法の増幅工程及び捕捉工程を実施することが好ましい。また、この識別プローブを用いる場合、捕捉工程は、浸漬型ハイブリダイゼーションであってもクロマトグラフィーであっても同様である。なお、以下の態様でも同様のことが適用される。
【0136】
(第2の態様の識別プローブによる評価)
本態様の識別プローブを用いた検出方法を図3に示す。なお、シグナル欄には、識別プローブによるシグナルの有無/検出用プローブによるシグナルの有無を示す(以下、図4〜7において同じ)。なお、以下の第2〜第6の態様においては、片鎖のみ一本鎖の部分二本鎖DNAを増幅産物として得るためのプライマーセットを用いた場合を例示し、図8に示す第7の態様においては、完全二本鎖DNAを増幅産物として得るためのプライマーセットを用いた場合を例示する。
【0137】
図3の上段に示すように、本態様の識別プローブを用いる場合、識別領域がDNAポリメラーゼの5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性により分解された結果、蛍光色素などの標識物質がクエンチャーにより消光されなくなるため、蛍光等のシグナルが呈示される。これらのシグナルにより真正な増幅反応を肯定できる。また、真正な増幅反応が生じる場合には、真正増幅産物が検出用プローブにより捕捉されて、真正増幅産物が備える標識要素に基づくシグナルが呈示される。真正増幅産物の存在、すなわち、標的核酸の存在は、識別プローブの分解物に基づく標識物質のシグナルのみによっても検出されるほか、検出プローブによるシグナルによっても肯定される。
【0138】
また、図3の中段に示すように、不真正な増幅反応が生じており、プライマーダイマーが生じている場合には、識別プローブが分解されないため、標識物質は消光されたままであるが、プライマーダイマーが検出用プローブにより捕捉されて標識要素に基づくシグナルが呈示されうる。真正な核酸増幅反応の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルが検出されないことのみによっても肯定される。
【0139】
さらに、図3の下段に示すように、増幅反応が生じていない場合には、識別プローブが分解されないため、標識物質は消光されたままであるし、検出用プローブになんら捕捉されないため、シグナルが呈示されない。真正な増幅反応の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルが検出されないことのみによっても肯定される。
【0140】
(第3の態様の識別プローブによる評価)
本態様の識別を用いた検出方法を図4に示す。図4の上段に示すように、真正増幅産物が存在するとき、識別領域が分解された結果、蛍光標識物質及び第1のタグ領域と、クエンチャーとは分離される。したがって、第1のキャプチャープローブにおいて蛍光標識物質に基づくシグナルが呈示される。また、真正増幅産物が検出用プローブにより捕捉されて、真正増幅産物が備える標識要素に基づくシグナルが呈示される。真正増幅産物の存在、すなわち、標的核酸の存在は、識別プローブの分解物に基づく標識物質のシグナルの発生又は増大のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルっても肯定される。
【0141】
一方、図4の中段に示すように、真正増幅産物が存在しない場合、プライマーダイマーが生じている場合には、識別領域は分解されないため、第1のキャプチャープローブにおいて、識別プローブは、クエンチャーを伴っている。このため、検出工程において、第1のキャプチャープローブにおいて蛍光標識物質に基づくシグナルが呈示されない。また、プライマーダイマーが検出用プローブにより捕捉されて標識要素に基づくシグナルが呈示されうる。これらのシグナルの呈示により、プライマー等の不真正増幅産物が存在を肯定できる。真正増幅産物の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルのみによっても肯定される。
【0142】
さらに、図4の下段に示すように、増幅反応が生じていない場合には、第1のキャプチャープローブにおいて標識物質によるシグナルが呈示されないが、検出用プローブになんら捕捉されないため、検出用プローブにおいてはシグナルが呈示されない。真正な増幅反応の不存在、すなわち、真正増幅産物の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルが検出されないことのみによっても肯定される。
【0143】
(第4の態様の識別プローブによる評価)
本態様の識別プローブを用いた検出方法を図5に示す。なお、捕捉形態の欄の上段には、浸漬型ハイブリダイゼーションにおける捕捉形態を示し、同下段には、クロマトグラフィーにおける捕捉形態を示す。
【0144】
図5の上段に示すように、この識別プローブを用いる場合、真正な増幅反応が生じている場合には、識別領域が分解された結果、第1のタグ領域と、標識要素とは分離される。したがって、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示されなくなる。また、真正な増幅産物が検出用プローブにより捕捉されて、真正増幅産物が備える標識要素に基づくシグナルが呈示される。真正な核酸増幅反応の存在、すなわち、標的核酸の存在は、識別プローブの分解物に基づく標識物質のシグナルの低下又は消滅のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルによっても肯定される。
【0145】
一方、図5の中段に示すように、真正な増幅反応が生じておらずプライマーダイマーが生じている場合には、識別領域は分解されないため、第1のキャプチャープローブにおいて第1のタグ領域は、標識要素を伴っている。このため、検出工程において、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示される。また、プライマーダイマーが検出用プローブにより捕捉されて標識要素に基づくシグナルが呈示されうる。これらのシグナルの呈示により、不真正な増幅反応であってプライマーダイマーの生成を肯定できる。真正な核酸増幅反応の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルのみによっても肯定される。
【0146】
さらに、図5の下段に示すように、増幅反応が生じていない場合には、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素が呈示されるが検出用プローブになんら捕捉されないため、検出用プローブにおいてはシグナルが呈示されない。真正な増幅反応の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルが検出されないことのみによっても肯定される。
【0147】
(第5の態様の識別プローブによる評価)
本態様の識別プローブを用いた検出方法を図6に示す。なお、捕捉形態の欄の上段には、浸漬型ハイブリダイゼーションにおける捕捉形態を示し、同下段には、クロマトグラフィーにおける捕捉形態を示す(図7において同じ)。
【0148】
図6の上段に示すように、この識別プローブを用いる場合、真正な増幅反応が生じている場合には、識別領域が分解された結果、第1のタグ領域と、第2のタグ領域とは、分離され、第2のタグ領域にのみ標識要素が付随する。したがって、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示されなくなり、第2のキャプチャープローブにおいてのみ標識要素に基づくシグナルが呈示されるようになる。また、真正な増幅産物が検出用プローブに捕捉されて標識要素に基づくシグナルが呈示される。真正な核酸増幅反応の存在、すなわち、標的核酸の存在は、識別プローブの分解物に基づく標識物質のシグナル(第1のキャプチャープローブ/第2のキャプチャープローブ)の「なし/あり」のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルっても肯定される。さらにこの両者によって、真正な増幅反応を明確に肯定できる。なお、本態様においては、検出工程は、浸漬型ハイブリダイゼーションでもクロマトグラフィーでも同様である。
【0149】
この識別プローブは、その分解物を、第2のタグ領域と標識要素よって選択的に検出可能である。このため、真正な増幅反応の存在を高い確度で検出することができる。
【0150】
一方、図6の中段に示すように、識別領域は分解されないため、第1のタグ領域も、標識要素を伴っている。このため、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示されるし、第2のキャプチャープローブにおいても同様にシグナルが呈示されうる。また、真正な増幅反応が生じておらずプライマーダイマーが生じている場合には、プライマーダイマーが検出用プローブに捕捉され標識要素に基づくシグナルが呈示される。真正な核酸増幅反応の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルの「あり/あり」等のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルっても肯定される。さらにこの両者によって、不真正な増幅反応を明確に肯定できる。
なお、本態様においては、浸漬型ハイブリダイゼーションの場合、上記のとおりの捕捉態様であるが、後述する先行ハイブリダイゼーション(クロマトグラフィー)によれば、第1のキャプチャープローブにより予め、未分解の識別プローブが除去されるため、第2のキャプチャープローブでのプライマーダイマーの捕捉が抑制又は回避されて、より明示的な区別が可能となる。
【0151】
さらに、図6の下段に示すように、増幅反応が生じていない場合には、第1のキャプチャープローブ及び第2のキャプチャープローブにおいて標識要素が呈示されるが、検出用プローブになんら捕捉されないため検出用プローブにおいてはシグナルが呈示されない。真正な核酸増幅反応の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルの「あり/あり」等のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルの不存在によっても肯定される。さらにこの両者によって、標的核酸の不存在が明確に肯定される。なお、本態様においては、浸漬型ハイブリダイゼーションの場合、上記のとおりの捕捉態様であるが、後述する先行ハイブリダイゼーション(クロマトグラフィー)によれば、第1のキャプチャープローブにより予め、未分解の識別プローブが除去されるため、第2のキャプチャープローブでのプライマーダイマーの捕捉が抑制又は回避されて、より明示的な区別が可能となる。
【0152】
なお、以上の実施形態によると、検出プローブを用いたシグナルの検出を伴うことなく、標的核酸の有無を判定することができる。すなわち、増幅反応の結果物である識別プローブの分解物及び未分解物によるシグナル検出のみでも、標的核酸の存在(陽性)を、標的核酸の非存在(偽陽性及び陰性)と区別することができる。
【0153】
(先行ハイブリダイゼーション)
好ましくは、増幅工程後検出工程に先立ってあるいは検出工程において、第1のキャプチャープローブと増幅反応の結果物とを、識別プローブ及び/又はその分解物と第1のキャプチャープローブとがハイブリダイズ可能な条件下で接触させることが好ましい(以下、こうしたハイブリダイゼーションを先行ハイブリダイゼーションともいう。)。こうすることで、特に、未分解の識別プローブを予め排除しておくことで、真正増幅反応及び不真正増幅反応の存否をより明確に評価できる。
【0154】
先行ハイブリダイゼーションの形態は特に問わない。浸漬型ハイブリダイゼーションの場合、浸漬型ハイブリダイゼーションに先立って、第1のキャプチャープローブを介して捕捉してもよい。また、予め第1のタグ領域に、ビオチン等の相互作用要素を付与しておき、対応する作用要素で捕捉してもよい。また、先行ハイブリダイゼーションは、検出工程においてクロマトグラフィーを採用することで容易に実現できる。すなわち、ハイブリダイゼーション液の展開方向の上流側(開始側又は基点側)に第1のキャプチャープローブを備えるようにし、より下流側に、第2のキャプチャープローブ及び検出用プローブを備えることで、先行ハイブリダイゼーションが実現される。なお、確実に未分解の識別プローブを回収するために、十分量の第1のキャプチャープローブを固相担体に固定化しておくことが好ましい。
【0155】
こうした検出工程に先立つハイブリダイゼーションは、クロマトグラフィー形態でハイブリダイゼーション工程を実施することで、容易に実現される。すなわち、ハイブリダイゼーション溶液の展開方向の上流側(展開開始側)において、第1のキャプチャープローブを備えるようにすればよい。
【0156】
(第6の態様の識別プローブによる評価)
本態様の識別プローブを用いた検出方法を図7に示す。識別プローブを用いる場合、図7の上段に示すように、真正な増幅反応が生じる場合には、識別領域が分解された結果、第1のタグ領域と、第2のタグ領域及び第3のタグ領域とは、分離される。したがって、検出工程において、第1のキャプチャープローブにおいては第1のタグ領域のみが捕捉され、第2のキャプチャープローブにおいてのみ、増幅産物が捕捉され、増幅産物が備える標識要素に基づくシグナルが呈示される。なお、本態様においては、検出工程は、浸漬型ハイブリダイゼーションでもクロマトグラフィーでも同様である。
【0157】
この識別プローブは、その分解物を、第2のタグ領域と第3のタグ領域とによって選択的に検出可能である。このため、真正な増幅反応の存在を高い確度で検出することができる。
【0158】
一方、図7の中段に示すように、真正な増幅反応が生じないで不真正な増幅反応によりプライマーダイマーが生成される場合には、第1のキャプチャープローブ及び第2のキャプチャープローブにおいて未分解の識別プローブが捕捉されるとともに、いずれにおいても、プライマーダイマーが捕捉されて、標識要素に基づくシグナルが呈示されるようになる。なお、本態様においては、浸漬型ハイブリダイゼーションの場合、上記のとおりの捕捉態様であるが、先行ハイブリダイゼーション(クロマトグラフィー)によれば、第1のキャプチャープローブにより予め、未分解の識別プローブが除去されるため、第2のキャプチャープローブでのプライマーダイマーの捕捉が抑制又は回避されて、より明示的な区別が可能となる。
【0159】
さらに、図7の下段に示すように、真正な増幅反応が生じておらず、増幅反応自体が生じていない場合には、第1のキャプチャープローブ及び第2のキャプチャープローブに未分解の識別プローブが捕捉されるが、増幅産物が存在しないため、いずれにおいてもシグナルが呈示されない。また、識別領域は分解されないため、第1のタグ領域も、標識要素を伴っている。このため、検出工程において、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示されるし、第2のキャプチャープローブにおいても同様にシグナルが呈示されうる。なお、本態様においては、検出工程は、浸漬型ハイブリダイゼーションでもクロマトグラフィーでも同様である。
【0160】
(第7の態様の識別プローブによる評価)
本態様の識別プローブを用いた検出方法を図8に示す。なお、捕捉形態の欄の上段には、浸漬型ハイブリダイゼーションにおける捕捉形態を示し、同下段には、クロマトグラフィーにおける捕捉形態を示す。本形態は、第5の態様の変形態様であり、識別プローブの標識要素に替えて第3のタグ領域と標識プローブとを備えている。
【0161】
本態様の説明においては、標的核酸を増幅するためのプライマーセットは、上記各態様とは異なり、完全二重鎖核酸の増幅産物を得るためのプライマーセットを用いている。
【0162】
図8の上段に示すように、この識別プローブを用いる場合、真正増幅産物が存在する場合には、増幅反応に伴い、識別領域が分解された結果、第1のタグ領域と、第2のタグ領域及び第3のタグ領域とは、分離され、第2のタグ領域及び第3のタグ領域にのみ、標識プローブを介して標識要素が付随する。したがって、検出工程において第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示されなくなり、第2のキャプチャープローブにおいてのみ標識要素に基づくシグナルが呈示されるようになる。また、真正増幅産物が別途検出用プローブに捕捉されて標識要素に基づくシグナルが呈示される。真正核酸増幅反応の存在、すなわち、標的核酸の存在は、識別プローブの分解物に基づく標識物質のシグナル(第1のキャプチャープローブ/第2のキャプチャープローブ)の「なし/あり」のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルっても肯定される。さらにこの両者によって、真正増幅産物の存在を明確に肯定できる。なお、本態様においては、検出工程は、浸漬型ハイブリダイゼーションでもクロマトグラフィーでも同様である。
【0163】
この識別プローブは、その分解物を、第2のタグ領域と第3のタグ領域とによってよって選択的に検出可能である。このため、真正増幅産物の存在を高い確度で検出することができる。
【0164】
一方、図8の中段に示すように、真正増幅産物が存在せず、プライマーダイマーが生じている場合には、識別プローブは、その識別領域が分解されないため、第1のタグ領域も、標識要素を伴っている。このため、検出工程において、第1のキャプチャープローブにおいて標識要素に基づくシグナルが呈示されるし、第2のキャプチャープローブにおいても同様にシグナルが呈示されうる。また、完全二本鎖DNAを得るためのプライマーセットに基づくダイマーでは、本来ハイブリダイズすべきプローブにハイブリダイズしえないため、プライマーダイマーは検出用プローブに捕捉されえない。真正増幅産物の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルの「あり/あり」等のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルによっても肯定される。さらにこの両者によって不真正増幅産物を明確に肯定できる。なお、本態様においても、浸漬型ハイブリダイゼーションの場合、上記のとおりの捕捉態様であるが、後述する先行ハイブリダイゼーション(クロマトグラフィー)によれば、第1のキャプチャープローブにより予め、未分解の識別プローブが除去されるため、第2のキャプチャープローブでのプライマーダイマーの捕捉が抑制又は回避されて、より明示的な区別が可能となる。
【0165】
さらに、図8の下段に示すように、真正増幅産物が存在しない場合には、第1のキャプチャープローブ及び第2のキャプチャープローブにおいて標識要素が呈示されるが、検出用プローブになんら捕捉されないため検出用プローブにおいてはシグナルが呈示されない。真正増幅産物の不存在、すなわち、標的核酸の不存在は、識別プローブの未分解物に基づく標識物質のシグナルの「あり/あり」等のみによっても検出されるほか、検出プローブにおけるシグナルっても肯定される。さらにこの両者によって不真正増幅産物の存在を明確に肯定できる。なお、本態様においては、浸漬型ハイブリダイゼーションの場合、上記のとおりの捕捉態様であるが、後述する先行ハイブリダイゼーション(クロマトグラフィー)によれば、第1のキャプチャープローブにより予め、未分解の識別プローブが除去されるため、第2のキャプチャープローブでのプライマーダイマーの捕捉が抑制又は回避されて、より明示的な区別が可能となる。
【0166】
なお、本実施態様においても、第5の実施形態と同様、検出プローブを用いたシグナルの検出を伴うことなく、標的核酸の有無を判定することができる。すなわち、増幅反応の結果物である識別プローブの分解物及び未分解物によるシグナル検出のみでも、標的核酸の存在(陽性)を、標的核酸の非存在(偽陽性及び陰性)と区別することができる。
【0167】
なお、より確度の高い評価のためには、コントロールとして、核酸試料フリー及び/又はプライマーフリーとする以外は同様の条件で本検出方法の増幅工程を実施することが好ましい。さらに好ましくは、既述の先行ハイブリダイゼーションを実施することが好ましい。
【0168】
(標的核酸を検出するための固相担体)
本明細書に開示される標的核酸を検出するための固相担体は、識別プローブの少なくとも一部を捕捉するキャプチャープローブ、を備えることができる。
【0169】
本固相担体によれば、標的核酸を検出するのにあたり、不真正増幅産物が生じていたとしても、それによる偽陽性などの悪影響を排除して、確度の高い判別を効率的に行うことができる。本固相担体は、さらに、真正増幅産物を検出するための標的核酸検出用プローブを備えることもできる。
【0170】
識別プローブには、既に説明した各種態様が適用されうる。又は、識別プローブを捕捉するキャプチャーは、識別プローブが備えうるタグと相互作用する、既に説明した各種態様のキャプチャーが適用されうる。固相担体については、既に説明した各種態様を適用することができる。好ましくは、本固相担体は、クロマトグラフィー形態の固相担体である。この場合、上流側において識別プローブを捕捉するためのキャプチャープローブを備え、下流側に標的核酸検出用プローブを備えることができる。
【0171】
(標的核酸を検出するためのキット)
本明細書に開示されるキットは、標的核酸を増幅するためのプライマーセットと、当該プライマーセットによる核酸伸長反応領域に特異的にハイブリダイズする識別領域を備える識別プローブと、を備えることができる。本キットによれば、標的核酸を核酸増幅反応を介して増幅、検出するのにあたり、不真正増幅反応産物が生じていたとしても、それによる偽陽性などの悪影響を排除して、確度の高い判別を効率的に行うことができる。
【0172】
さらに、このキットは、識別プローブの少なくとも一部を捕捉するキャプチャープローブを備えることもできる。このキットは、標的核酸検出用プローブを備えていてもよい。これらのプローブは、既述の本固相担体上に備えられるものであってもよい。本キットが備える識別や、固相担体、キャプチャー等には、既に説明した各種態様が適用されうる。
【実施例】
【0173】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。なお、以下の実施例において、%は、いずれも質量%を意味する。
(比較例)メンブレンタイプDNAマイクロアレイの例(偽陽性発生例)
比較例では、以下の方法で標的核酸を検出した。
【0174】
(1)クロマトグラフィー用ストリップの作製
メルクミリポア製Hi-Flow Plus メンブレンシート(60mm × 600mm)に以下の表に示す塩基配列からなるキャプチャーDNAプローブ溶液を、特開2003−75305号公報に記載されている吐出ユニット(インクジェット法)を用いた日本ガイシ株式会社GENESHOT(登録商標)スポッターを用いて、スポットした。使用した合成オリゴDNA配列は、文献(Analytical Biochemistry 364(2007)78-85)のSupplementary Table1記載のD1_1からD1_100の100種のうち任意の8種の配列の3’末端側にpolyT(20))を付加した配列をプローブとして使用し、図9に示す配置として、展開型ハイブリダイゼーション用(クロマトグラフィー用)のストリップを作製した。なお、図9のフローコントロールにはpolyT(20)-biotinがスポット、固定されている。
【0175】
【表1】
【0176】
なお、スポットの処置としてSpectroline社のUV照射装置(XL−1500UV Crosslinker)を用いて、280nmの成分を含む波長にて300mJ/cm2程度の紫外線光の照射を行って固定化を実施した。
【0177】
(2)サンプル遺伝子の増幅
増幅に使用したサンプルとしてはヒト由来のmRNAをライフテクノロジーズ社のSuperScript(R) VILO cDNA Synthesis Kit and Master Mixを用いて逆転写を行いcDNAとし、表2に記載の配列からなるプライマー(配列番号101、102)を使用して増幅を行った。このプライマーセットによる増幅産物は、プローブD1-006にハイブリダイズするように調製されている。
【0178】
【表2】
【0179】
なお、連結部位Xには、GlenResearch社 Spacer Phosphoramidite C3(SpacerC3:X)を用い、通常のオリゴヌクレオチド合成方法に準じて合成した。
【0180】
次に、cDNAをこれらのプライマーを用いて以下の条件で増幅した。なお、サンプル増幅用試薬として、ライフテクノロジーズ社のAmpliTaq Gold Fast PCR Master Mix を使用した。サーマルサイクラーとして、Applied Biosystems社のGeneAmp PCR System9700を使用した。
【0181】
(試薬調製)
DNAフリー水 5.5μl
AmpliTaq Gold Fast PCR Master Mix(x2) 10.0μl
プライマー混合物(10μM,each) 2.0μl
サンプル: cDNA(10ng/μl)またはDNAフリー水 2.5μl
合計 20.0μl
【0182】
次に、増幅用試薬をサーマルサイクルプレートに移し、サーマルサイクル反応(95℃で10分後;95℃で15秒、60℃で1分を40サイクル、その後72℃で10秒の後、4℃に下げる)を行った。そして、増幅したサンプルはQIAGEN社のMinElute PCR Purification Kitにて精製を行った後、アガロース電気泳動により意図した長さで増幅(cDNAでPCRを行ったもののみ)していることを確認した。
【0183】
(3)展開型クロマトグラフィーを用いた検出
(2)にて増幅したサンプルを用いての展開型ハイブリダイゼーションへの反応及びその手順は以下の通りとした。
【0184】
サンプル組成
展開液 20.0 μl
ラテックス液 2.0 μl
サンプル 20.0 μl
Total 42.0 μl
【0185】
なお、使用したラテックス液は、青色系の着色剤を含有するポリスチレン系のラテックスビーズにアビジン(ストレプトアビジン)を被覆させたものを任意の濃度となるようにクロマト展開液で調製を行って使用した。また、クロマト展開液には、Phosphate buffered salineを使用した。
【0186】
(クロマトグラフィー及び発色反応)
上記サンプル各42μlを0.2mlチューブに加え、作製したスリップを差込んで反応を開始した。サンプル液は約20分間ですべて吸い上がり反応は完了した。反応終了後、展開型クロマトグラフィーを風乾させた後、画像を撮影した。
【0187】
(検出判定)
クロマトグラフィー反応による発色の有無を確認した。結果を図10に示す。図10の右側には、ヒト由来cDNAに対してPCRを行った結果物についてのクロマトグラフィー結果を示し、その左側には、ヒトDNA溶液に替えてDNAフリー水を用いて同様にPCRを行った結果物についてのクロマトグラフィー結果を示す。
【0188】
図9右側に示すように、ヒト由来cDNAを用いたPCR結果物によれば、プローブD1-006に相当する位置においてハイブリダイズを確認することができた。これに対して、DNAフリー水を用いたPCR結果物によっても、同様に、プローブD1-006に相当する位置においてハイブリダイズを確認できた。このことは、PCRプライマーによるダイマーが副生し、そのプライマーダイマーが備えるプローブD1-006にハイブリダイズすべきタグ鎖とビオチンとを備えるために、適切な増幅産物と同様に、プローブD1-006にてハイブリダイズを生じてしまったと考えられた。すなわち、偽陽性が生じたと考えられた。
【実施例1】
【0189】
(5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いた検出方法1)
本実施例では、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を行い、以下の方法で標的核酸を検出した。
(1)クロマトグラフィー用ストリップの作製
メルクミリポア製Hi-Flow Plus メンブレンシート(60mm x 600mm)に以下の表に示す塩基配列からなるキャプチャーDNAプローブ溶液を、特開2003−75305号公報に記載されている吐出ユニット(インクジェット法)を用いた日本ガイシ株式会社GENESHOT(登録商標)スポッターを用いて、スポットした。使用した合成オリゴDNA配列は、文献(Analytical Biochemistry 364(2007)78-85)のSupplementary Table1記載のD1_1からD1_100の100種のうち以下の5種の配列の3’末端側にpolyT(20))を付加した配列をプローブとして使用し、図11に示す配置として、クロマトグラフィー用ストリップを作製した。
【0190】
【表3】
【0191】
なお、スポットの処置としてSpectroline社のUV照射装置(XL−1500UV Crosslinker)を用いて、280nmの成分を含む波長にて300mJ/cm2程度の紫外線光の照射を行って固定化を実施した。
【0192】
(2)ターゲット遺伝子の増幅
増幅に使用したDNAサンプルとしては比較例にて使用したものと同じものを用い、表4に記載の配列からなるプライマー(配列番号103、104)及び表5に示すプローブ(配列番号105)を使用してターゲット遺伝子を増幅した。表5に示す識別プローブは、5’末端にビオチンを備えるとともに、ヒトアルブミンに対する特異的ハイブリダイズ領域を有し、プローブD1-001に相補な領域及びプローブD1-006に相補な領域を有している。
【0193】
【表4】
【0194】
【表5】
【0195】
次に、cDNAをこれらのプライマーを用いて以下のように増幅した。なお、サンプル増幅用試薬として、ライフテクノロジーズ社のAmpliTaq Gold Fast PCR Master Mixを使用した。サーマルサイクラーとして、Applied Biosystems社のGeneAmp PCR System9700を使用した。
【0196】
(試薬調製)
DNAフリー水 3.5μl
AmpliTaq Gold Fast PCR Master Mix(x2) 10.0μl
プライマー混合液(10μM,each) 2.0μl
プローブ水溶液(0.1μM) 2.0μl
サンプル: cDNA(10ng/μl)またはDNAフリー水 2.5μl
合計 20.0μl
【0197】
次に、増幅用試薬をサーマルサイクルプレートに移し、サーマルサイクル反応(95℃で15分後;95℃で30秒、80℃で1秒、64℃で6分を40サイクル、その後10℃に下げる)を行った。その後、GE Healthcare社のStreptavidin Mag SepharoseTMを用いて未反応のbiotin修飾プローブの除去を行った。
【0198】
(3)クロマトグラフィーを用いた検出
(2)にて増幅したサンプルを用いてのクロマトグラフィーストリップへの反応及びその手順は以下の通りとした。
【0199】
(サンプル組成)
展開液 20.0 μl
ラテックス液 2.0 μl
サンプル 20.0 μl
total 42.0 μl
【0200】
なお、ラテックス修飾DNA水溶液には表6に記載の配列(配列番号106)の5‘末端をアミノ基修飾したものと青色系の着色剤を含有するポリスチレン系のラテックスビーズ表面をカルボキシル修飾させたものとをあらかじめ共有結合させておき、任意の濃度となるようにクロマト展開液で調製を行って使用した。なお、このDNAは、プローブの3’末端配列に相補的な配列を有している。また、クロマト展開液には、Phosphate buffered salineを使用した。
【0201】
【表6】
【0202】
(クロマトグラフィー及び発色反応)
上記調製サンプル各42μlを0.2mlチューブに加えて、展開型クロマトグラフィーを差込んで反応を開始した。サンプル液は約20分間ですべて吸い上がり反応は完了した。反応終了後、展開型クロマトグラフィーを風乾させた後、目視による反応箇所の確認及び画像を撮影した。
【0203】
(検出判定)
クロマトグラフィー反応による発色の有無を確認した。結果を図12に示す。図12の左側には、ヒト由来cDNAに対してPCRを行った結果物についてのクロマトグラフィー結果を示し、その右側には、ヒトDNA溶液に替えてDNAフリー水を用いて同様にPCRを行った結果物についてのクロマトグラフィー結果を示す。
【0204】
図12左側に示すように、プローブD1-001に相当する位置においてラテックスビーズによる発色を確認できた。これは、プライマーにより適切な増幅産物が得られた結果、プローブのヒトアルブミンに特異的な配列が分解され、プローブの分解産物としてのプローブの3’末端側のプローブD1-006に相補な領域が修飾DNAにハイブリダイズし、プローブD1-001に相補な領域が、クロマトグラフィー上のプローブD1-001にハイブリダイズした結果であると考えられた。
【0205】
これに対して、図12右側に示すDNAフリー水を用いたPCR結果物によっては、クロマトグラフィー上には、フローコントロールにしか発色を検出できなかった。これは、増幅産物を介したキャプチャープローブへの捕捉がなされなかったラテックスが下流に配置されたフローコントロールに反応したことによると考えられた。
【0206】
また、本実施例によれば、真正な増幅産物が生成したときのみに副生する識別プローブの分解物を検出するように構成されているため、プライマーダイマーの存否にかかわらず、真正増幅産物を的確に検出できる。すなわち、真正増幅産物自体やプライマーダイマー自体を検出するためのプローブを準備する必要もないものとなっている。
【実施例2】
【0207】
(5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いた検出方法2)
本実施例では、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を行い、以下の方法で標的核酸を検出した。
(1)クロマトグラフィー用ストリップの作製
クロマトグラフィー用ストリップは、以下の塩基配列を有するプローブを用い、図13に示す配置とする以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0208】
【表7】
【0209】
(2)ターゲット遺伝子の増幅
増幅に使用したDNAサンプルとしては比較例にて使用したものと同じものを用い、表4に記載の配列からなるプライマー及び表8に示す識別プローブ(配列番号107)を使用してターゲット遺伝子を増幅した。表8に示す識別プローブは、5’末端からプローブD1-009に相補な領域を備えるとともに、ヒトアルブミンに対する特異的ハイブリダイズ領域を有し、プローブD1-001に相補な領域及びプローブD1-006に相補な領域を有している。
【0210】
【表8】
【0211】
次に、cDNAをこれらのプライマーを用いて、実施例1と同様に増幅した。
【0212】
(3)クロマトグラフィーを用いた検出
(2)にて増幅したサンプルを用いてのクロマトグラフィーへの反応及びその手順は、実施例1と同様とした。
【0213】
(ハイブリダイズおよび発色反応)
実施例1と同様に行い、反応終了後、展開型クロマトグラフィーを風乾させた後、目視による反応箇所の確認及び画像を撮影した。
【0214】
(検出判定)
クロマトグラフィー反応による発色の有無を確認した。結果を図14に示す。図14の左側には、ヒト由来cDNAに対してPCRを行った結果物についてのクロマトグラフィー結果を示し、その右側には、ヒト由来cDNA溶液に替えてDNAフリー水を用いて同様にPCRを行った結果物についてのクロマトグラフィー結果を示す。
【0215】
図14左側に示すように、ストリップ上のプローブD1-001に相当する位置においてラテックスビーズによる発色を確認できた。これは、プライマーにより適切な増幅産物が得られた結果、識別プローブのヒトアルブミンに特異的な配列が分解され、識別プローブの分解産物としてのプローブの3’末端側のプローブD1-006に相補な領域が修飾DNAにハイブリダイズし、プローブD1-001に相補な領域が、クロマトグラフィー上のプローブD1-001にハイブリダイズした結果であると考えられた。なお、他の分解産物である、プローブD1-009に相補な領域のDNAは、トラップに捕捉されたと考えられた。
【0216】
これに対して、図14右側に示すDNAフリー水を用いたPCR結果物によっては、クロマトグラフィー上には、フローコントロールにしか発色を検出できなかった。また、このことは、PCRによりプライマーダイマーが発生していてもクロマトグラフィーにおいての偽陽性を抑制できたと考えられる。
【0217】
また、クロマトグラフィーストリップのD1-009領域による未反応のプローブのトラップが不十分である場合には、未反応プローブがD1-009より下流領域に展開する)にも偽陽性となる懸念があったが、今回の結果からは、未反応のプローブがD1-009より下流域に展開することも見られないことから、未反応のプローブがD1-009領域で効率的にトラップされている(目視で薄い発色を確認)ことが証明された。この結果により、実施例1と比べ、プローブコスト、PCR後の未反応プローブの除去の手間を省略できる点において有用な手法であることが見出された。
【0218】
以上の結果から、本明細書の開示の方法によれば、PCR産物中にプライマーダイマーが存在しても、目的とする断片が増幅された場合のみクロマトグラフィーにて反応させることが可能となり、これまで問題となっていた偽陽性の発生を抑え検出精度向上に寄与できる手法であることが確認できた。
【実施例3】
【0219】
(5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼを用いた検出方法3)
本実施例では、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しているDNAポリメラーゼを用いて核酸増幅反応を行い、以下の方法で標的核酸を検出した。
【0220】
(1)クロマトグラフィー用ストリップの作製
実施例1と同様にして、図15左欄に示すように、D1−001、002、003及び005の塩基配列を有するプローブを備えるクロマトグラフィー用ストリップを作製した。
【0221】
(2)ターゲット遺伝子の増幅
大腸菌Escherichia coli K-12 MG1655株の遺伝子xthA (exonucleaseIII), NCBI-GeneID:946254をターゲット遺伝子とした。サンプルは上記菌株の抽出ゲノムを使用した。ターゲット遺伝子を増幅(増幅鎖長150bp)するためのプライマー配列(配列番号108、109)を以下に示す。
【0222】
【表9】
【0223】
また、増幅時に同時に用いる識別プローブの塩基配列(配列番号110)を以下に示す。
【0224】
【表10】
【0225】
上記識別プローブの5’末端側には、(1)で作製したクロマトグラフィー用ストリップのプローブD1-001に相補的な塩基配列からなるタグ(DNA)が付加されている。また、3’末端にはポリメラーゼ反応の進行を確実に防ぐためスペーサー(ブロッカー:X=SpacerC3)を付加した。
【0226】
なお、遺伝子増幅酵素はタカラバイオ社のPremix ExTaqを用い、サーマルサイクラーはサーモジェン社のQuick Bathを用いた。
【0227】
増幅反応液は以下のとおりに調製した。
【0228】
(増幅反応液)
滅菌水 1.0 μL
Premix ExTaq(x2) 5.0 μL
プライマー混合液(各2.5 μM) 1.0 μL
プローブ溶液(0.2 μM) 2.0 μL
ゲノムDNA(10 ng/μL)or DNAフリー水 1.0 μL
計 10.0 μL
【0229】
なお、プライマーには、プライマーFとプライマーRを混合したものを用い、識別プローブとしては、TmをPCRの反応温度より20℃ほど低い表10に示したシーケンスを持つオリゴDNAにタグDNAが付加されたプローブを用いた。
【0230】
サーマルサイクラーを用いて下記の条件で遺伝子の増幅反応の後、クロマトグラフィーへの展開を行った。すなわち、94℃で2分加熱後、94℃で20秒、60℃で30秒、及び72℃で30秒を30回繰り返し、72℃で2分、97℃10秒及び30℃10秒後、4℃に保存した。
【0231】
(3)クロマトグラフィーによるターゲット遺伝子検出
1.5 mLチューブ内で(2)にて調製した増幅反応液および各種試薬を下記の通り調製し展開サンプル液とした。
(展開サンプル液)
増幅反応液 10.0 μL
展開液 10.0 μL
ラテックス液 1.0 μL
計 21.0 μL
【0232】
展開サンプル液を含む1.5 mLチューブに(1)で作製したクロマトグラフィー用ストリップを挿し込んで反応を開始した。展開サンプル液はストリップ上部まで約15分で全て吸い上がり反応は終了した。反応終了後、目視にてストリップのターゲット遺伝子検出ラインへの着色を確認した。結果を図15中欄に示す。
【0233】
図15中欄に示すように、ターゲット遺伝子増幅において、ゲノムDNAを用いた場合では、ストリップのプローブD1-001に発色を確認することができた。一方で、DNAフリー水を用いた場合ではストリップ上のプローブ部位での発色は確認されなかった。このことはターゲット遺伝子が増幅されたときのみ検出できる(プライマーダイマーが形成されていても偽陽性とはならない)方法であることを意味している。
【0234】
なお、従来法に相当する例として、片側にのみ一本鎖を有する二本鎖DNAを増幅産物として取得する場合のプライマーダイマーによる影響を確認した。
【0235】
すなわち、本実施例で用いたクロマトグラフィーストリップを用いて、本実施例のターゲット遺伝子を以下のプライマーセット(配列番号111、112)を用いて、識別プローブを用いることなく、通常のPCR増幅反応を行った。
【0236】
【表11】
【0237】
なお、上記のPrimerF-Tは、Primer Fの5’末端にスペーサー(X=SpacerC3)を介して、クロマトグラフィー用ストリップのプローブD1-002に相補なオリゴDNAが付加されている。
【0238】
増幅反応液の組成を以下の組成とし、温度条件を、94℃で2分後、94℃で20秒、60℃で30秒及び72℃で30秒を30回繰り返し、その後、72℃で2分とし、4℃で保存する以外は、上記と同様に増幅反応を実施し、その後、クロマトグラフィーを実施した。結果を、併せて図15右欄に示す。
(増幅反応液)
滅菌水 3.0 μL
Premix ExTaq(x2) 5.0 μL
プライマー混合液(各2.5 μM) 1.0 μL
ゲノムDNA(10 ng/μL)or DNAフリー水 1.0 μL
計 10.0 μL
【0239】
図15右欄に示すように、ターゲット遺伝子増幅において、ゲノムDNAを用いた場合及びDNAフリー水を用いた場合のいずれにおいても、ストリップのプローブD1-002に発色を確認することができた。これはDNAフリー水を用いた場合ではゲノムDNAが存在しないのでターゲット遺伝子が増幅されたのではなく、プライマー間でのダイマー形成により検出された(偽陽性)と想定される。このことは増幅産物の検出も出来るがダイマー(偽陽性)形成時においてもストリップにて検出されてしまうことを意味している。
【実施例4】
【0240】
(5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないDNAポリメラーゼを用いた検出方法)
本実施例では、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないが3’−5’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しているDNAポリメラーゼを用いる核酸増幅反応の増幅産物を用いて、以下の方法で標的核酸を検出した。
【0241】
(1)クロマトグラフィー用ストリップの作製
比較例にて作製したストリップを使用した。
(2)ターゲット遺伝子の増幅
大腸菌Escherichia coli K-12 MG1655株の遺伝子xthA (exonucleaseIII)、NCBI-GeneID:946254をターゲット遺伝子として用いた。なお、サンプルは上記菌株の抽出ゲノムを使用した。ターゲット遺伝子を増幅(増幅鎖長150bp)するためのプライマー配列を以下の表に示す。また、増幅産物に特異的にハイブリダイズする識別プローブの塩基配列を別の表に示す。なお、識別プローブのTmをPCRの反応温度より20℃ほど低くなるように設定し、増幅産物に特異的にハイブリダイズする塩基配列と、その5’末端側には(1)で作製したクロマトグラフィー用ストリップのプローブD1-001に相補なオリゴDNAを付加した。
【0242】
【表12】
【0243】
【表13】
【0244】
遺伝子増幅酵素はニッポンジーン社の5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しないが3’−5’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有しているPho DNA polymeraseを用いた。また、サーマルサイクラーはサーモジェン社のQuick Bathを用いた。
【0245】
増幅反応液を以下のとおり調製した。すなわち、プライマー混合液は、プライマーFとプライマーRを混合したものを用い、プローブ溶液は、識別プローブの溶液とした。サーマルサイクラーを用いて、94℃で2分の後、94℃で20秒、60℃で30秒及び72℃で30秒のサイクルを30回繰り返した後、72℃で2分、97℃で10秒及び30℃で10秒の後、増幅反応を行い、その後4℃で保存し、適時に常温に戻してクロマトグラフィーへの展開を行った。
【0246】
(3)クロマトグラフィーを用いた検出
1.5 mLチューブ内で(2)にて調製した増幅反応液および各種試薬を下記の通り調製し展開サンプル液とした。展開液及びラテックス液は、実施例1と同様のものを用いた。
【0247】
(展開サンプル液組成)
増幅反応液 10.0μl
展開液 10.0μl
ラテックス液 1.0μl
【0248】
展開サンプル液を含む1.5 mLチューブに(1)で作製したクロマトグラフィー用ストリップを挿し込んで反応を開始した。展開サンプル液はストリップ上部まで約15分で全て吸い上がり反応は終了した。反応終了後、目視にてストリップのターゲット遺伝子検出ラインへの着色を確認したところ、実施例3と同様の結果(図15中欄)を得た。
【0249】
すなわち、5’−3’方向のエキソヌクレアーゼ活性を有していないDNAポリメラーゼを用いた場合、ターゲット遺伝子増幅において、ゲノムDNAを用いた場合では、ストリップのプローブD1-001に発色を確認することができたが、DNAフリー水を用いた場合ではストリップ上のプローブ部位での発色は確認されなかった。このことはターゲット遺伝子が増幅されたときのみ検出できる(プライマーダイマーが形成されていても偽陽性とはならない)方法であることを意味している。
【配列表フリーテキスト】
【0250】
配列番号1〜100、105、106、107、110:プローブ
配列番号101〜104、108、109、111〜112:プライマー
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]