(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記垂直荷重増大手段は、上記操舵速度が上記閾値以上になったとき、上記前輪の左右荷重移動に同期して上記前輪の垂直荷重を増大させる、請求項1又は2に記載の車両用挙動制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を説明する。
【0013】
まず、
図1により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両について説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
【0014】
図1において、符号1は、本実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両を示す。車両1の車体前部には、駆動輪(
図1の例では左右の前輪2)を駆動するエンジン4が搭載されている。エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンである。
【0015】
また、車両1は、ステアリングホイール6の回転角度を検出する操舵角センサ8、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ10、及び、車速を検出する車速センサ12を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をPCM(Power-train Control Module)14に出力する。
【0016】
次に、
図2により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の電気的構成を説明する。
図2は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態によるPCM14は、上述したセンサ8〜12の検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ、ターボ過給機、可変バルブ機構、点火装置、燃料噴射弁、EGR装置等)に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0017】
PCM14は、アクセルペダルの操作を含む車両1の運転状態に基づき基本目標トルクを決定する基本目標トルク決定部16と、車両1の車幅方向におけるジャークに関連する量(横ジャーク関連量)に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク低減量を決定するトルク低減量決定部18と、基本目標トルクとトルク低減量とに基づき最終目標トルクを決定する最終目標トルク決定部20と、最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御するエンジン制御部22とを有する。本実施形態では、トルク低減量決定部18は、横ジャーク関連量として車両1の操舵速度を用いる場合を説明する。
これらのPCM14の各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
詳細は後述するが、PCM14は本発明における車両用挙動制御装置に相当し、操舵速度取得手段、垂直荷重増大手段として機能する。
【0018】
次に、
図3乃至
図5により、車両用挙動制御装置が行う処理について説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置がエンジン4を制御するエンジン制御処理のフローチャートであり、
図4は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置がトルク低減量を決定するトルク低減量決定処理のフローチャートであり、
図5は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置が決定する目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0019】
図3のエンジン制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両用挙動制御装置に電源が投入された場合に起動され、繰り返し実行される。
エンジン制御処理が開始されると、
図3に示すように、ステップS1において、PCM14は車両1の運転状態に関する各種情報を取得する。具体的には、PCM14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0020】
次に、ステップS2において、PCM14の基本目標トルク決定部16は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作を含む車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、基本目標トルク決定部16は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0021】
次に、ステップS3において、基本目標トルク決定部16は、ステップS2において決定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本目標トルクを決定する。この場合、基本目標トルク決定部16は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本目標トルクを決定する。
【0022】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、トルク低減量決定部18は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク低減量を決定するトルク低減量決定処理を実行する。このトルク低減量決定処理について、
図4を参照して説明する。
【0023】
図4に示すように、トルク低減量決定処理が開始されると、ステップS21において、トルク低減量決定部18は、ステップS1において取得した操舵角に基づき操舵速度を算出する。
【0024】
次に、ステップS22において、トルク低減量決定部18は、操舵速度が所定の閾値T
S1より大きいか否かを判定する。
その結果、操舵速度が閾値T
S1より大きい場合、ステップS23に進み、トルク低減量決定部18は、車両1に減速度を付加するためにエンジン4の出力トルクを低減させる条件が満たされているか否かを示すトルク低減フラグを、トルクを低減させる条件が満たされている状態を示すTrue(真値)に設定する。
【0025】
次に、ステップS24において、トルク低減量決定部18は、操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。この目標付加減速度は、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0026】
具体的には、トルク低減量決定部18は、
図5のマップに示した目標付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS21において算出した操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加減速度を示す。
図5に示すように、操舵速度が閾値T
S以下である場合、対応する目標付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値T
S1以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御(具体的にはエンジン4の出力トルクの低減)を停止する。
一方、操舵速度が閾値T
S1を超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値D
maxに漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。この上限値D
maxは、ステアリング操作に応じて車両1に減速度を付加しても、制御介入があったとドライバが感じない程度の減速度に設定される(例えば0.5m/s
2≒0.05G)。
さらに、操舵速度が閾値T
S1よりも大きい閾値T
S2以上の場合には、目標付加減速度は上限値D
maxに維持される。
【0027】
次に、ステップS25において、トルク低減量決定部18は、付加減速度の変化率が閾値Rmax(例えば0.5m/s
3)以下となる範囲で今回の処理における付加減速度を決定する。
具体的には、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理のステップS24において取得した目標付加減速度への変化率がRmax以下である場合、ステップS24において取得した目標付加減速度を今回の処理における付加減速度として決定する。
一方、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理のステップS24において取得した目標付加減速度への変化率がRmaxより大きい場合、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理時まで変化率Rmaxにより変化させた値を今回の処理における付加減速度として決定する。
【0028】
次に、ステップS26において、トルク低減量決定部18は、ステップS25において決定した今回の付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する。具体的には、トルク低減量決定部18は、今回の付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。
【0029】
また、ステップS22において、操舵速度が閾値T
S1より大きくない(閾値T
S1以下である)場合、ステップS27に進み、トルク低減量決定部18は、車両1に減速度を付加するためにエンジン4の出力トルクを低減させる条件が満たされているか否かを示すトルク低減フラグを、トルクを低減させる条件が満たされていない状態を示すFalse(偽値)に設定する。
【0030】
ステップS26又はS27の後、トルク低減量決定部18はトルク低減量決定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0031】
図3に戻り、ステップS2及びS3の処理及びステップS4のトルク低減量決定処理を行った後、ステップS5において、最終目標トルク決定部20は、ステップS3において決定した基本目標トルクから、ステップS4のトルク低減量決定処理において決定したトルク低減量を減算することにより、最終目標トルクを決定する。
【0032】
次に、ステップS6において、エンジン制御部22は、ステップS5において設定した最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御する。具体的には、エンジン制御部22は、ステップS5において設定した最終目標トルクと、エンジン回転数とに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量(例えば、空気充填量、燃料噴射量、吸気温度、酸素濃度等)を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素のそれぞれを駆動する各アクチュエータを制御する。この場合、エンジン制御部22は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定して制御を実行する。
ステップS6の後、PCM14は、エンジン制御処理を終了する。
【0033】
次に、
図6により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置のエンジン制御の例を説明する。
図6は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両1が旋回を行う場合における、エンジン制御に関するパラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【0034】
図6(a)は、右旋回を行う車両1を概略的に示す平面図である。この
図6(a)に示すように、車両1は、位置Aから右旋回を開始し、位置Bから位置Cまで操舵角一定で右旋回を継続する。
【0035】
図6(b)は、
図6(a)に示したように右旋回を行う車両1の操舵角の変化を示す線図である。
図6(b)における横軸は時間を示し、縦軸は操舵角を示す。
この
図6(b)に示すように、位置Aにおいて右向きの操舵が開始され、ステアリングの切り足し操作が行われることにより右向きの操舵角が徐々に増大し、位置Bにおいて右向きの操舵角が最大となる。その後、位置Cまで操舵角が一定に保たれる(操舵保持)。
【0036】
図6(c)は、
図6(b)に示したように右旋回を行う車両1の操舵速度の変化を示す線図である。
図6(b)における横軸は時間を示し、縦軸は操舵速度を示す。
車両1の操舵速度は、車両1の操舵角の時間微分により表される。即ち、
図6(c)に示すように、位置Aにおいて右向きの操舵が開始された場合、右向きの操舵速度が生じ、位置Aと位置Bとの間において操舵速度がほぼ一定に保たれる。その後、右向きの操舵速度は減少し、位置Bにおいて右向きの操舵角が最大になると、操舵速度は0になる。更に、位置Bから位置Cまで右向きの操舵角が保持される間、操舵速度は0のままである。
【0037】
図6(d)は、操舵速度に基づき設定されたトルク低減フラグの真偽値を示す線図である。
図6(d)における横軸は時間を示し、縦軸はトルク低減フラグの真偽値を示す。
図6(d)に示すように、位置Aにおいて右向きの操舵が開始される前においては、トルク低減フラグはFalseに設定されている。そして、位置Aにおいて右向きの操舵が開始されると、操舵速度が閾値T
S1を超えたときにトルク低減フラグはFalseからTrueに変化する。その後、位置Bに接近するにつれて操舵速度が低下し、閾値T
S1以下になると、トルク低減フラグはTrueからFalseに変化する。
【0038】
図6(e)は、操舵速度及びトルク低減フラグに基づき決定された付加減速度の変化を示す線図である。
図6(e)における横軸は時間を示し、縦軸は付加減速度を示す。
図4を参照して説明したように、トルク低減量決定部18は、ステップS22において操舵速度が閾値T
S1より大きい場合(すなわちトルク低減フラグがTrueである場合)、ステップS24において操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。続いて、ステップS25において、トルク低減量決定部18は、付加減速度の増大率が閾値Rmax以下となる範囲で各処理サイクルにおける付加減速度を決定する。
【0039】
図6(e)に示すように、付加減速度は、トルク低減フラグがFalseからTrueに切り替わったときから増大し始め、位置Aと位置Bとの間においてほぼ一定に保たれ、その後操舵速度の減少に応じて減少し、トルク低減フラグがTrueからFalseに切り替わったときに0になる。
【0040】
図6(f)は、
図6(e)に示した付加減速度に基づき決定されたトルク低減量の変化を示す線図である。
図6(f)における横軸は時間を示し、縦軸はトルク低減量を示す。
上述したように、トルク低減量決定部18は、付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、現在の車速、ギヤ段、路面勾配等のパラメータに基づき決定する。従って、これらのパラメータが一定である場合、トルク低減量は、
図6(e)に示した付加減速度の変化と同様に変化するように決定される。
【0041】
図6(g)は基本目標トルクとトルク低減量とに基づき決定された最終目標トルクの変化を示す線図である。
図6(g)における横軸は時間を示し、縦軸はトルクを示す。また、
図6(g)における破線は基本目標トルクを示し、実線は最終目標トルクを示す。
図3を参照して説明したように、最終目標トルク決定部20は、ステップS3において決定した基本目標トルクから、ステップS4のトルク低減量決定処理において決定したトルク低減量を減算することにより、最終目標トルクを決定する。
すなわち、
図6(g)に示すように、位置Aと位置Bとの間においてトルク低減フラグがTrueに設定されている間、最終目標トルクが基本目標トルクからトルク低減量の分だけ低減され、そのトルク低減に応じた減速度が車両1に生じるので、前輪2への荷重移動が生じる。その結果、前輪2と路面との間の摩擦力が増加し、前輪2のコーナリングフォースが増大する。
【0042】
次に、
図7により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の制御によって車両に生じる前後加速度及び横加速度の変化を説明する。
図7(a)は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両が
図6(a)に示したように直進から右旋回を開始し定常円旋回に至るまでの前後加速度及び横加速度の変化を示す線図であり、
図7(b)は、
図7(a)における微小加速度領域(すなわち旋回初期)を拡大した線図である。
図7における横軸は横加速度(車幅方向右側への加速度が正)を示し、縦軸は前後加速度(進行方向の加速度が正、減速度が負)を示している。
また、
図7において、実線は本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両における前後加速度及び横加速度の変化を示し、一点鎖線は特許文献1に記載されたような従来の車両運動制御装置を搭載した車両における前後加速度及び横加速度の変化を示し、破線はこれらの制御装置による制御を行わない場合の前後加速度及び横加速度の変化を示している。
【0043】
図7(a)において一点鎖線により示すように、特許文献1に記載されたような従来の車両運動制御装置では、ドライバが旋回のための操舵をするだけで、横加速度と前後加速度を合成した加速度が左回りの円弧を描くように、横加速度の増大に応じて減速度を増減させる。すなわち、エキスパートドライバが行うような、合成加速度が一定値を保って左回りの円弧を描く車両運動を実現するため、制御装置は、ドライバの操舵に応じて車両に生じる横加速度と同程度の減速度を発生させたのち、その減速度を減少させる。合成加速度が一定値を保って変化していることをドライバが感じられるよう、制御によって発生させる減速度の大きさは0.5Gに達することもある。この0.5Gという減速度は、例えばバスにおいて立っている乗客が倒れてしまうような、緊急時の強いブレーキ操作により生じる減速度であり、減速のための操作を行っていないドライバは強い制御介入感を覚えることになる。
【0044】
一方、
図7(a)において実線により示すように、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の制御によって発生する減速度は、0.001G〜0.01G程度、最大でも0.05G(目標付加減速度の上限値D
max)に制限されている。この0.05Gという減速度は、
図7(a)において破線により示した、制御装置による制御を行わない場合において旋回中に生じる減速度(すなわち路面と車輪との摩擦力により生じるコーナリングドラッグに起因する減速度)とほぼ同程度である。したがって、ドライバは、減速度を付加する制御が行われていることに気が付かない。
【0045】
特に、
図7(b)に拡大して示したように、本実施形態のPCM14は車両の旋回初期において操舵速度が閾値T
S1以上になりトルク低減フラグがTrueに設定されたときにエンジン4の出力トルク低減を開始し、横加速度が微小な領域において減速度を急速に増大させる。これにより、減速度を付加する制御を行わない場合と比較して減速度が迅速に立ち上がる。したがって、ドライバがステアリング操作を開始したときに直ちに前輪の垂直荷重を増大させてコーナリングフォースを増大させることができ、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性やリニア感を向上することができる。
【0046】
次に、
図8乃至
図12により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両に旋回走行を行わせたときの車両挙動を説明する。
【0047】
本発明者らは、旋回初期の操舵入力に対し発生する横ジャークに応じてエンジン4の出力トルクを低減させることにより、車両の挙動がどのように変化するのかを評価するために、上述の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両に直進から定常円旋回に至る単一コーナーを一定車速で走行させ、そのときの車両挙動に関わる各種パラメータを測定した。
【0048】
図8は、本実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両に旋回走行を行わせたときの車両挙動の測定結果を示す線図であり、
図8(a)は車両の操舵角の変化を示す線図、
図8(b)は車両に発生した横ジャークの変化を示す線図、
図8(c)は操舵速度に基づき設定されたトルク低減フラグの値を示す線図、
図8(d)は前輪を駆動させる駆動トルクの変化を示す線図、
図8(e)は車両に発生した前後ジャークの変化を示す線図である。
図8(d)及び
図8(e)において、実線は本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載した車両の結果を示し、破線は車両用挙動制御装置を搭載していない従来の車両の結果を示している。
【0049】
操舵角の増大に伴って前輪のスリップ角が増大すると、路面と前輪の接地面との間の摩擦力によりコーナリングフォースが発生する。これにより、
図8(a)及び(b)に示すように、操舵角が増大し始めるのとほぼ同時に横ジャークが発生する。この横ジャークは、操舵角を時間微分した操舵速度とほぼ同じように変化する。
そして、
図8(c)に示すように、横ジャークが発生している間、すなわち操舵速度が発生している間は、トルク低減フラグがTrueに設定され、
図8(d)に実線で示すように駆動トルクが低減される。このように、
図6を参照して説明した通りに車両用挙動制御装置が作動していることが分かる。
【0050】
また、前輪2のスリップ角が増大すると、路面と前輪の接地面との間の摩擦力によりコーナリングドラッグも発生する。このコーナリングドラッグにより車両に減速度が生じるまでの間には、サスペンションのコンプライアンス要素等に起因して、僅かな遅れが存在する。したがって、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載していない車両では、
図8(e)において破線により示すように、車両の前後方向後向きのジャーク(減速ジャーク)は、横ジャークよりも遅れて発生する。
【0051】
これに対し、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載した車両では、操舵速度が閾値T
S1以上になりトルク低減フラグがTrueに設定されたとき直ちに駆動トルク低減を開始することにより、
図8(e)において実線により示すように、コーナリングドラッグのみによる減速ジャークよりも早いタイミングで、横ジャークの発生とほぼ同時に減速ジャークを発生させ、減速ジャークのピークが横ジャークのピーク以前に現れるようにしている。したがって、横ジャークが生じたときに直ちに前輪の垂直荷重を増大させ、ドライバによるステアリング操作に対して良好な応答性で車両の挙動を制御することができる。
【0052】
図9は、上記の旋回走行において、横加速度と前後加速度がどのように発生するかを示した線図である。この
図9において、横軸は車幅方向の加速度(横加速度)を示し、縦軸は前後方向の加速度(前後加速度)を示す。また、
図9においては、減速方向の加速度(減速度)が負値で表されている。
上述したように、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載していない車両では、操舵角が増大し始めたとき、減速ジャークは横ジャークよりも遅れて発生する。したがって、
図9において破線により示すように、横加速度の立ち上がり(0〜0.1G)において減速度が増大せず、横加速度が大きくなる(すなわちコーナリングフォースが大きくなる)と、コーナリングドラッグの増大に応じて減速度が増大している。
【0053】
一方、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載した車両では、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき車両の駆動力低減を開始することにより、コーナリングドラッグのみによる減速ジャークよりも早いタイミングで、横ジャークの発生とほぼ同時に減速ジャークを発生させ、減速ジャークのピークが横ジャークのピーク以前に現れるようにしているので、
図9において実線により示すように、横加速度の立ち上がり(0〜0.1G)に追随して減速度も立ち上がり、横加速度と減速度とがリニアな関係を維持して遷移している。したがって、ドライバによるステアリング操作に対して良好な応答性で車両の挙動を制御することができるだけでなく、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上するように車両の挙動を制御することができる。
【0054】
図10は、上記の旋回走行において、ローリングとピッチングがどのように発生するかを示した線図である。この
図10において横軸はロール角を示し、縦軸はピッチ角を示す。また、
図10においては、車両の前部が沈み込む方向のピッチ角が負値で表されている。
上述したように、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載していない車両では、操舵角が増大し始めたとき、減速ジャークは横ジャークよりも遅れて発生し、横加速度の立ち上がりにおいては減速度が増大しない。したがって、
図10において破線により示すように、横加速度の増大に応じて車両の車幅方向に荷重移動が発生し、ロール角が増大するのに対し、ピッチ角はロール角の増大とは無関係に上下している。
【0055】
一方、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載した車両では、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき車両の駆動力低減を開始することにより、横ジャークの発生とほぼ同時に減速ジャークを発生させ、横加速度の立ち上がりに追随して減速度も立ち上がるようにすることで、ロール角の増大に同期して車両の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させるようにしている。
【0056】
図11は、各輪のサスペンションの伸縮量により車両姿勢を示した概略図であり、
図11(a)は平行なローリングが生じたときの車両姿勢を示す図、
図11(b)はダイアゴナルロールが生じたときの車両姿勢を示す図である。
上述したように、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載していない車両では、横加速度の増大に応じて車両の車幅方向に荷重移動が発生し、ロール角が増大するのに対し、ピッチ角はロール角の増大とは無関係に上下している。したがって、旋回初期において、ロール角のみが増大することにより
図11(a)に示すような平行ロール姿勢が生じた後、ロール角とは無関係に生じるピッチングにより前傾姿勢あるいは後傾姿勢が生じる。
【0057】
一方、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載した車両では、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき車両の駆動力低減を開始することにより、ロール角の増大に同期して車両の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させるようにしているので、旋回初期において、ローリングと車両の前部が沈み込むピッチングとが同期して発生することにより
図11(b)に示すようなダイアゴナルロール姿勢が生じる。
このように、本発明による車両用挙動制御装置は、旋回初期の横加速度が微小な領域において駆動力低減量を迅速に増大させることによって、ドライバがステアリング操作を開始したときに車両姿勢がダイアゴナルロール姿勢にスムーズに移行するきっかけを作っている。これにより、前輪のコーナリングフォースを増大させて旋回挙動の応答性を向上させるとともに、これから旋回挙動が発生・継続することをドライバに的確に認知させることができる。
【0058】
図12は、上記の旋回走行において前輪の垂直荷重がどのように変化するかを示した線図であり、
図12(a)は左右の荷重移動による前内輪の垂直荷重変化を示す線図、
図12(b)は車両の減速による前輪の垂直荷重変化を示す線図である。
上述したように、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載していない車両では、操舵角が増大し始めたとき、横加速度の立ち上がりにおいて減速度が増大しないので、
図12において破線で示すように、横加速度の増大に応じて前輪の左右荷重移動量がリニアに増大するのに対し、横加速度の立ち上がり(0〜0.1G)においては減速による前後荷重移動が生じないので減速による前輪の垂直荷重変化は発生せず、横加速度が大きくなると、コーナリングドラッグの増大に応じた減速度の増大により、減速による前輪の垂直荷重変化量が増大している。
【0059】
一方、本実施形態の車両用挙動制御装置を搭載した車両では、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき車両の駆動力低減を開始することにより、横加速度の立ち上がりに追随して減速度も立ち上がり、横加速度と減速度とがリニアな関係を維持して遷移するので、
図12において実線で示すように、横加速度の増大に応じて前輪の左右荷重移動量がリニアに増大するのに同期して、横加速度の立ち上がり(0〜0.1G)から減速による前後荷重移動が生じて前輪の垂直荷重変化量が増大する。これにより、車両の旋回初期において左右荷重移動による前内輪の垂直荷重減少を抑制するように前輪の垂直荷重を増大させ、前輪のコーナリングフォースを増大させて旋回挙動の応答性を向上させることができる。
【0060】
次に、本発明の実施形態のさらなる変形例を説明する。
上述した実施形態においては、トルク低減量決定部22は、操舵速度に基づき目標付加減速度を取得し、この目標付加減速度に基づいてトルク低減量を決定すると説明したが、アクセルペダルの操作以外の車両1の運転状態(操舵角、横加速度、ヨーレート、スリップ率等)に基づきトルク低減量を決定するようにしてもよい。
例えば、トルク低減量決定部22は、加速度センサから入力された横加速度や、横加速度を時間微分することにより得られる横ジャークに基づき目標付加減速度を取得して、トルク低減量を決定するようにしてもよい。
【0061】
また、上述した実施形態においては、PCM14は、目標付加減速度に応じてエンジン4の出力トルクを低減させることにより、車両1に前後方向後向きの減速ジャークを発生させ、車両の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させると共に前輪の垂直荷重を増大させると説明したが、エンジン4を上下動可能に支持するアクティブエンジンマウントや、サスペンションの動作や特性を制御可能なアクティブサスペンションにより減速ジャークを発生させ、車両の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させると共に前輪の垂直荷重を増大させるようにしてもよい。
【0062】
また、上述した実施形態においては、車両用挙動制御装置を搭載した車両1は、駆動輪を駆動するエンジン4を搭載すると説明したが、バッテリやキャパシタから供給された電力により駆動輪を駆動するモータを搭載した車両についても、本発明による車両用挙動制御装置を適用することができる。この場合、PCM16は、車両1の操舵速度に応じてモータのトルクを低減させる制御を行う。
【0063】
次に、上述した本発明の実施形態及び本発明の実施形態の変形例による車両用挙動制御装置の効果を説明する。
【0064】
まず、PCM16は、横ジャーク関連量に基づき、トルク低減フラグがエンジン4の出力トルクを低減させる条件が満たされている状態を示すTrueに設定されたとき、エンジン4の出力トルク低減を開始するので、車両1に横ジャークが生じたときに直ちにエンジン4の出力トルクを低減することにより前輪の垂直荷重を増大させ、ドライバによるステアリング操作に対して良好な応答性で車両1の挙動を制御することができ、これにより、強い制御介入感をドライバに覚えさせることなく、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性やリニア感を向上できる。また、ドライバの意図した挙動が正確に実現されることにより、微小な修正舵が不要となるので、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上することができる。
【0065】
また、PCM16は、横ジャーク関連量が所定の閾値を超えた場合、トルク低減フラグをTrueに設定するので、横ジャーク関連量が閾値以下である場合には、微小なステアリング操作に対して車両1が過剰に反応することを抑制でき、これにより、直進時の車両挙動についてドライバに違和感を与えることなく、ドライバの意図した挙動を正確に実現するように車両の挙動を制御することができる。
【0066】
また、横ジャーク関連量は、車両1の操舵速度であるので、ドライバによるステアリング操作の開始に応じて直ちに駆動力を低減することができ、これにより、ドライバによるステアリング操作に対してより良好な応答性で車両1の挙動を制御することができる。
【0067】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき、車両1の前後方向後向きの減速ジャークを発生させるので、ドライバによるステアリング操作の開始後、コーナリングドラッグのみによる減速ジャークよりも早いタイミングで、横ジャークの発生とほぼ同時に減速ジャークを発生させることができる。これにより、車両1の旋回初期においてステアリング操作に応じて直ちに減速ジャークを発生させ減速度を増大させることにより前輪2の垂直荷重を増大させ、ドライバによるステアリング操作に対して良好な応答性・リニア感で車両1の挙動を制御することができるとともに、旋回初期の横加速度の立ち上がりに追随して減速度も立ち上がり、横加速度と減速度とがリニアな関係を維持して遷移するように車両1の挙動を制御することができ、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上するように車両1の挙動を制御することができる。
【0068】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったときエンジン4の出力トルク低減を開始することにより、減速ジャークを発生させるので、ドライバによるステアリング操作の開始後、高い応答性で減速ジャークを発生させることができ、ドライバによるステアリング操作に対してより良好な応答性で車両1の挙動を制御することができるとともに、車両姿勢の安定感や乗り心地も一層向上するように車両1の挙動を制御することができる。
【0069】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき、減速ジャークのピークが横ジャークのピーク以前に現れるように減速ジャークを発生させるので、車両1の旋回初期においてステアリング操作に応じて直ちに減速ジャークを発生させ減速度を増大させることにより前輪2の垂直荷重を増大させ、ドライバによるステアリング操作に対してより良好な応答性で車両1の挙動を制御することができるとともに、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上するように車両1の挙動を制御することができる。
【0070】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき、車両1の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させるので、ドライバによるステアリング操作の開始後、ローリングが発生したときに車両1の前部が沈み込むピッチングを発生させることができ、これにより、車両1の旋回初期においてダイアゴナルロール姿勢を生じさせ、前輪2のコーナリングフォースを増大させて旋回挙動の応答性を向上させるとともに、これから旋回挙動が発生・継続することをドライバに的確に認知させることができる。したがって、ドライバによるステアリング操作に対して良好な応答性・リニア感で車両1の挙動を制御することができるとともに、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上するように車両1の挙動を制御することができる。
【0071】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったときエンジン4の出力トルク低減を開始することにより、車両1の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させるので、ドライバによるステアリング操作の開始後、駆動力低減により車両1に減速度を生じさせることで高い応答性でピッチ角を増大させることができ、ドライバによるステアリング操作に対してより良好な応答性で車両1の挙動を制御することができるとともに、車両姿勢の安定感や乗り心地も一層向上するように車両1の挙動を制御することができる。
【0072】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき、車両1のロール角の増大に同期して車両1の前部が沈み込む方向にピッチ角を増大させるので、車両1の旋回初期においてダイアゴナルロール姿勢を確実に生じさせることができ、これにより、ドライバによるステアリング操作に対して良好な応答性で車両1の挙動を制御することができるとともに、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上するように車両1の挙動を制御することができる。
【0073】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき、前輪2の垂直荷重を増大させるので、ドライバによるステアリング操作の開始後、横加速度の増大に応じて前輪2の左右荷重移動量が増大したときに前輪2の垂直荷重を増大させることができ、これにより、車両1の旋回初期において左右荷重移動による前内輪の垂直荷重減少を抑制するように前輪2の垂直荷重を増大させ、前輪2のコーナリングフォースを増大させて旋回挙動の応答性を向上させることができる。これにより、強い制御介入感をドライバに覚えさせることなく、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性やリニア感を向上できる。また、ドライバの意図した挙動が正確に実現されることにより、微小な修正舵が不要となるので、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上することができる。
【0074】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき車両1の駆動力低減を開始することにより、前輪2の垂直荷重を増大させるので、ドライバによるステアリング操作の開始後、駆動力低減により車両1に減速度を生じさせることで高い応答性で前輪2の垂直荷重を増大させることができ、これにより、旋回初期において左右荷重移動による前内輪の垂直荷重減少を抑制するように前輪2の垂直荷重を迅速に増大させ、前輪のコーナリングフォースを増大させて旋回挙動の応答性を向上させることができる。
【0075】
また、PCM16は、操舵速度が閾値T
S1以上になったとき、前輪2の左右荷重移動に同期して前輪2の垂直荷重を増大させるので、車両1の旋回初期において左右荷重移動による前内輪の垂直荷重減少を確実に抑制するように前輪2の垂直荷重を増大させることができ、これにより、前輪2のコーナリングフォースを確実に増大させて旋回挙動の応答性を向上させることができる。
【課題】強い制御介入感をドライバに覚えさせることなく、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性やリニア感を向上できると共に、車両姿勢の安定感や乗り心地も向上するように車両の挙動を制御することができる、車両用挙動制御装置を提供する。
【解決手段】車両用挙動制御装置は、前輪(2)が操舵される車両(1)の挙動を制御する車両用挙動制御装置において、車両の操舵速度を取得し、操舵速度が0より大きい所定の閾値T