【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明はこれらの問題を解決しようとしたもので、本発明の第1の目的は、船体を航走させナノファイバーシートをリアルタイムで生産しつつ浮遊原油を迅速に回収できるようにしたものである。これによって原油回収処理効果を飛躍的に向上させることができる。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、原油の回収後、再処理を可能とし再利用することができるようにしたことである。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、船体が上下動するような悪天候下でも確実に浮遊原油を回収できるようにしたものである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、船体を小型化して機動性に優れた回収船で油流出などの事故に迅速に対応できるようにしたものである。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、低コストで浮遊油を迅速に回収できるようにした流出油の回収方法およびその装置
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の解決手段は、溶融電界紡糸装置を船上に設置し、溶融電界紡糸法により海面に親油撥水性ナノファイバーをシート状にして放出し、海面に浮遊した原油を吸着回収するようにしたことである。放出をする際、風が強い場合は、風でナノファイバーシートが飛散しないように海面下から放出をする。吸着した油とナノファイバーは比重が水よりも軽いため海面に浮遊している。
【0012】
本発明の第2の解決手段は、海面に浮遊した油を吸着回収する領域に薄い軽量網を浮遊させたことである。
【0013】
本発明の第3の解決手段は、トラックの後部に溶融電界紡糸装置を設置して、原油が漂着した海岸近くまで移動し、溶融電界紡糸法により海岸に親油撥水性ナノファイバーを放出して、漂着した油を吸着回収するようにしたことである。
【0014】
本発明の第4の解決手段は、海岸まで溶融電界紡糸装置を設置して溶融電界紡糸法により生成した親油撥水性ナノファイバーをエアーダクトを介して放出するようにしたことである。
【0015】
本発明の第5の解決手段は、海岸に設置した溶融電界紡糸装置から漂着した油までの距離が長い場合には、エアーダクトの中間にファンを設けて送風することで遠隔地に親油撥水性ナノファイバーを放出しょうとしたことである。
【0016】
ここで言う本発明の溶融電界紡糸装置11は、
図1に示すような
撥水性ポリマーを溶融する機構1と、溶融ポリマーを吐出するノズル2と、ノズルから吐出する溶融ポリマーを延伸するために使用される高速エアーを発生するエアーノズル3と、溶融したポリマーを吐出するノズル2の先端に電荷を発生させる電極4と、荷電ナノファイバーからの静電誘導による電界干渉を遮断するための絶縁板5と、ノズル2の放熱を防ぎ絶縁を兼ねた断熱材6とから構成されている。そして、溶融電界紡糸法は、撥水性ポリマーを溶融する機構1でポリマーの粘土が十分下がるまで加熱して溶融する。次に、溶融ポリマーをノズル2から吐出すると同時にエアーノズル3から高速エアーを噴出し溶融ポリマーを延伸する。さらに同時に電極4とノズル2間に高電圧を印加することによって電荷が発生し、溶融ポリマーを同極に帯電させる。この同極の電荷が互いにクーロン力で反発することで溶融ポリマーを更に延伸する。
これによって、親油撥水性ナノファイバーを生成する方式である。
【0017】
この際、溶融ポリマーを延伸する力は高速エアーが支配的である。高速エアーは、周りのエアーを巻き込むことで高速エアーを中心に緩やかな気圧差の流れを構成する。
図2の位置にノズル2を配置することで、溶融ポリマーが高速エアーによって巻き込まれた緩やかな気圧差が少ないエアーに乗って中心部の高速エアーに向かって延伸をしながら進み中心の高速エアーで高速に引き伸ばされナノファイバー化される。このようにして親油撥水性ナノファイバーは生成されるので、単純な構成で大量生産が可能となるのである。
【0018】
ここで、高速エアーとノズルの位置関係で重要なことは、距離を離すことでスムーズな延伸動作となるが離しすぎると、
1.高速エアーで巻き込む力がなくなる。
2.溶融ポリマーの温度が下がり粘度が高くなる。
などの問題がある。また、溶融ポリマーが延伸動作中に高速エアーと凝固熱の放出によって急速に冷却していく。そのため
図3に示すようにエアーノズル3の前段にヒーター7を使用する。これによって
1.圧縮エアーを急激に加熱し、熱膨張を起こすことで圧縮エアーが発生する高速エアーを更に加速することができる。
2.ヒーター7によって溶融ポリマーの温度以上に加熱することで溶融ポリマーが冷却するのを遅らせることができる。
3.ノズル2から吐出した溶融ポリマーが高速エアーにまで達する間に冷却したものを再度加熱することができる。
などの改善をすることができる。
ポリマーが一定の粘度を下回ると以下のように風速v(m/s)と吐出量U(g),繊維径φ(nm)の関係が成り立つようになる。
ポリマーの比重をkとすると
U=kφ・v
吐出量を減らし、風速を上げることで繊維径を100〜200nmとなることが実験で検証できた。このとき、ノズル内径については関係ない。
つまり、更に細いナノファイバーを生成する場合は、風速を上げるか吐出量を下げることでナノファイバーを生成することができる。これらの実験からエアー速度を高速化したエアーを用いることでナノファイバー生産量を減らすことなく、ナノファイバーが生成できることがわかった。そのために、
図3で示すようにラバーズノズル8を使用して超音波の風を生成し高速エアーとすることで安定したナノファイバーを生成することができる。
【0019】
溶融電界紡糸法に使用するナノファイバーの素材である
撥水性ポリマーは、ポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン(PU)などが挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。また、ポリアミドとしてはナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)などが挙げられる。ポリオレフインとしてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
上述したように、本発明の溶融電界紡糸法により製造された親油撥水性ナノファイバーは次のような効果が得られる。
(1)ノズル側をGNDに接続することで高電圧電源の電源をゼロにし、GNDからプラス電荷を供給することができるようにしたので、漏電による液滴やビーズを発生することなく大量生産を可能にしたこと。
(2)高電圧電源は静電誘導を起こすだけであるため、電流がまったく必要なく、ノズル数を無限に接続可能にしたこと。
(3)有機溶剤を使用せず、撥水性ポリマーに熱を加えて膨潤状態にし、高速エアーと電荷を使ってナノファイバーを生成するようにしたので、熱溶融にて熱爆発の危険がなく、作業者の被爆危険が全くない。
(4)電界干渉やイオン風の現象を防止し、均一の層圧のナノファイバー層を形成したこと。
(5)ノズル先端での電荷量の減少を防止し、長時間のスプレーを可能にしたこと。
(6)ポリマー溶液側がGNDであるため漏電を無くすようにしたこと。さらにこの漏電防止により、作業者の安全を可能にしたこと。
(7)ポリマー溶液供給関連装置などを絶縁しなくて良いため装置が非常に安全で簡単な構成であること。
(8)ノズル先端に電気力線を集中できるようにしたので、一本のノズルから大量の親油撥水性ナノファイバーを作り出すことができ、多数のノズルを装備する必要がないこと。
(9)単純な構成で大量生産を可能にしたので、生産コストも低減できる上、消費電力やメンテナンスコストもかからずコストの面で多大な効果があること。
(10)単純な装置であるので、扱い易く、保守に手間がかからないといった効果があること。