特許第6202490号(P6202490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202490
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】流出油の回収方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 15/10 20060101AFI20170914BHJP
【FI】
   E02B15/10 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-114659(P2013-114659)
(22)【出願日】2013年5月15日
(65)【公開番号】特開2014-224436(P2014-224436A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】510336819
【氏名又は名称】高橋 光弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光弘
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3333866(JP,B2)
【文献】 特開2011−089240(JP,A)
【文献】 特開2009−062630(JP,A)
【文献】 特開昭48−064730(JP,A)
【文献】 米国特許第03800950(US,A)
【文献】 特開2012−122176(JP,A)
【文献】 特開2014−111850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 15/00〜 15/10
C02F 1/40
D01D 1/00〜 13/02
D04H 1/00〜 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水性ポリマーを溶融する機構と、溶融ポリマーを吐出するノズルと、ノズルから吐出する溶融ポリマーを延伸するために使用される高速エアーを発生するエアーノズルと、溶融したポリマーを吐出するノズルの先端に電荷を発生させる電極と、荷電ナノファイバーからの静電誘導によるノズルへの電界干渉を遮断するための絶縁板と、ノズルの放熱を防ぎ絶縁を兼ねた断熱材とからなり、ノズルと撥水性ポリマーを溶融する機構を一体に設け、しかも、エアーノズルとノズルと電極を一直線上に配置し、さらにエアーノズルから噴出した高速エアーの流れに対してオフセットされた位置にノズルを配置した構造で、撥水性ポリマーを溶融する機構でポリマーの粘度が十分下がるまで加熱にて溶融し、溶融ポリマーをノズルから吐出すると同時にエアーノズルから高速エアーを噴出し溶融ポリマーを延伸すると同時に電極とノズル間に高電圧を印加することによって電荷が発生し、溶融ポリマーを同極に帯電させ、この同極の電荷が互いにクーロン力で反発することで溶融ポリマーを更に延伸して親油撥水性ナノファイバーを生成するようにした溶融電界紡糸装置を船上に設置し、特に、親油撥水性ナノファイバーシートを放出する際、風で親油撥水性ナノファイバーシートが飛散しないように、溶融電界紡糸法により海面や河川、湖面下から放出し、海面、河川、湖面に浮遊した油を吸着回収するようにしたことを特徴とした流出油の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油流出事故による海洋・河川・湖面の油汚染に対する対策として、敏速、確実な油の回収と環境の復旧を図るための流出油の回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンカーなどの海難事故による海洋での大量の油の流出に対しては、オイルフェンスを張り巡らせて油の拡散を防止し、油の海岸漂着を回避することが最も重要とされている。油の回収には、浮遊原油の周囲にオイルフェンスを張り、このオイルフェンス内の浮遊原油を回収船上の作業者が長い柄付ひしゃくで汲み上げたり、オイルフェンス中にポリプロピレン製不織布などの親油性素材よりなるシート状の油吸着材を投入して油吸着することにより流出油を回収する方法が行われている。さらに、これらの措置による回収が困難な場合、油処理剤の散布による化学処理手段も用いられている。
【0003】
しかし、浮遊原油を作業者が長い柄付ひしゃくで汲み上げる回収処理では、汲み上げたものが油だけでなくほとんど水であるため非常に効率が悪く、油の再利用ができない。また、大量の原油の流出事故に迅速に対応できず、流出した浮遊原油が次第に広範囲に拡散して海岸の近くの漁場や海苔、貝類の養殖場へ大量の原油が押し寄せ、水産資源を全滅し兼ねないという問題があった。
【0004】
また、シート状油吸着材を投入して油吸着を行う方法では投下したシートが風の影響を受けやすいため、重なったり、シート間に隙間ができたりしてシートの敷設密度に粗密が生じがちであり、また油を吸着したシートを引き上げて回収するのにも1枚1枚回収するため、多大な労力および時間を要する。
【0005】
さらに、油処理剤を使用する方法は、油を分散して自然浄化の促進を図るもので、初期・少量の流出油のみ効果が期待できるに止まり、処理剤が残留して生態系(海産物など)に影響する危険もある。これらの課題は、河川の油流出事故においても同様であり、流出油による汚染は、河川の流れで広範囲の下流水域に広がり、飲料水を犯す危険もあり、川底の石や砂利に付着した油を完全に取り除くことは極めて困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明はこれらの問題を解決しようとしたもので、本発明の第1の目的は、船体を航走させナノファイバーシートをリアルタイムで生産しつつ浮遊原油を迅速に回収できるようにしたものである。これによって原油回収処理効果を飛躍的に向上させることができる。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、原油の回収後、再処理を可能とし再利用することができるようにしたことである。
【0008】
本発明のもう1つの目的は、船体が上下動するような悪天候下でも確実に浮遊原油を回収できるようにしたものである。
【0009】
本発明のもう1つの目的は、船体を小型化して機動性に優れた回収船で油流出などの事故に迅速に対応できるようにしたものである。
【0010】
本発明のもう1つの目的は、低コストで浮遊油を迅速に回収できるようにした流出油の回収方法およびその装置
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の解決手段は、溶融電界紡糸装置を船上に設置し、溶融電界紡糸法により海面に親油撥水性ナノファイバーをシート状にして放出し、海面に浮遊した原油を吸着回収するようにしたことである。放出をする際、風が強い場合は、風でナノファイバーシートが飛散しないように海面下から放出をする。吸着した油とナノファイバーは比重が水よりも軽いため海面に浮遊している。
【0012】
本発明の第2の解決手段は、海面に浮遊した油を吸着回収する領域に薄い軽量網を浮遊させたことである。
【0013】
本発明の第3の解決手段は、トラックの後部に溶融電界紡糸装置を設置して、原油が漂着した海岸近くまで移動し、溶融電界紡糸法により海岸に親油撥水性ナノファイバーを放出して、漂着した油を吸着回収するようにしたことである。
【0014】
本発明の第4の解決手段は、海岸まで溶融電界紡糸装置を設置して溶融電界紡糸法により生成した親油撥水性ナノファイバーをエアーダクトを介して放出するようにしたことである。
【0015】
本発明の第5の解決手段は、海岸に設置した溶融電界紡糸装置から漂着した油までの距離が長い場合には、エアーダクトの中間にファンを設けて送風することで遠隔地に親油撥水性ナノファイバーを放出しょうとしたことである。
【0016】
ここで言う本発明の溶融電界紡糸装置11は、図1に示すような水性ポリマーを溶融する機構1と、溶融ポリマーを吐出するノズル2と、ノズルから吐出する溶融ポリマーを延伸するために使用される高速エアーを発生するエアーノズル3と、溶融したポリマーを吐出するノズル2の先端に電荷を発生させる電極4と、荷電ナノファイバーからの静電誘導による電界干渉を遮断するための絶縁板5と、ノズル2の放熱を防ぎ絶縁を兼ねた断熱材6とから構成されている。そして、溶融電界紡糸法は、撥水性ポリマーを溶融する機構1でポリマーの粘土が十分下がるまで加熱して溶融する。次に、溶融ポリマーをノズル2から吐出すると同時にエアーノズル3から高速エアーを噴出し溶融ポリマーを延伸する。さらに同時に電極4とノズル2間に高電圧を印加することによって電荷が発生し、溶融ポリマーを同極に帯電させる。この同極の電荷が互いにクーロン力で反発することで溶融ポリマーを更に延伸する。
これによって、親油撥水性ナノファイバーを生成する方式である。
【0017】
この際、溶融ポリマーを延伸する力は高速エアーが支配的である。高速エアーは、周りのエアーを巻き込むことで高速エアーを中心に緩やかな気圧差の流れを構成する。図2の位置にノズル2を配置することで、溶融ポリマーが高速エアーによって巻き込まれた緩やかな気圧差が少ないエアーに乗って中心部の高速エアーに向かって延伸をしながら進み中心の高速エアーで高速に引き伸ばされナノファイバー化される。このようにして親油撥水性ナノファイバーは生成されるので、単純な構成で大量生産が可能となるのである。
【0018】
ここで、高速エアーとノズルの位置関係で重要なことは、距離を離すことでスムーズな延伸動作となるが離しすぎると、
1.高速エアーで巻き込む力がなくなる。
2.溶融ポリマーの温度が下がり粘度が高くなる。
などの問題がある。また、溶融ポリマーが延伸動作中に高速エアーと凝固熱の放出によって急速に冷却していく。そのため図3に示すようにエアーノズル3の前段にヒーター7を使用する。これによって
1.圧縮エアーを急激に加熱し、熱膨張を起こすことで圧縮エアーが発生する高速エアーを更に加速することができる。
2.ヒーター7によって溶融ポリマーの温度以上に加熱することで溶融ポリマーが冷却するのを遅らせることができる。
3.ノズル2から吐出した溶融ポリマーが高速エアーにまで達する間に冷却したものを再度加熱することができる。
などの改善をすることができる。
ポリマーが一定の粘度を下回ると以下のように風速v(m/s)と吐出量U(g),繊維径φ(nm)の関係が成り立つようになる。
ポリマーの比重をkとすると
U=kφ・v
吐出量を減らし、風速を上げることで繊維径を100〜200nmとなることが実験で検証できた。このとき、ノズル内径については関係ない。
つまり、更に細いナノファイバーを生成する場合は、風速を上げるか吐出量を下げることでナノファイバーを生成することができる。これらの実験からエアー速度を高速化したエアーを用いることでナノファイバー生産量を減らすことなく、ナノファイバーが生成できることがわかった。そのために、図3で示すようにラバーズノズル8を使用して超音波の風を生成し高速エアーとすることで安定したナノファイバーを生成することができる。
【0019】
溶融電界紡糸法に使用するナノファイバーの素材である水性ポリマーは、ポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン(PU)などが挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。また、ポリアミドとしてはナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン11(N11)などが挙げられる。ポリオレフインとしてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)などが挙げられる。
【発明の効果】
【0020】
上述したように、本発明の溶融電界紡糸法により製造された親油撥水性ナノファイバーは次のような効果が得られる。
(1)ノズル側をGNDに接続することで高電圧電源の電源をゼロにし、GNDからプラス電荷を供給することができるようにしたので、漏電による液滴やビーズを発生することなく大量生産を可能にしたこと。
(2)高電圧電源は静電誘導を起こすだけであるため、電流がまったく必要なく、ノズル数を無限に接続可能にしたこと。
(3)有機溶剤を使用せず、撥水性ポリマーに熱を加えて膨潤状態にし、高速エアーと電荷を使ってナノファイバーを生成するようにしたので、熱溶融にて熱爆発の危険がなく、作業者の被爆危険が全くない。
(4)電界干渉やイオン風の現象を防止し、均一の層圧のナノファイバー層を形成したこと。
(5)ノズル先端での電荷量の減少を防止し、長時間のスプレーを可能にしたこと。
(6)ポリマー溶液側がGNDであるため漏電を無くすようにしたこと。さらにこの漏電防止により、作業者の安全を可能にしたこと。
(7)ポリマー溶液供給関連装置などを絶縁しなくて良いため装置が非常に安全で簡単な構成であること。
(8)ノズル先端に電気力線を集中できるようにしたので、一本のノズルから大量の親油撥水性ナノファイバーを作り出すことができ、多数のノズルを装備する必要がないこと。
(9)単純な構成で大量生産を可能にしたので、生産コストも低減できる上、消費電力やメンテナンスコストもかからずコストの面で多大な効果があること。
(10)単純な装置であるので、扱い易く、保守に手間がかからないといった効果があること。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】溶融電界紡糸法の基本構成図。
図2】溶融電界紡糸法の高速エアーの流れを示す図。
図3】ラバーズノズルを使用した場合の高速エアーの流れを示す図。
図4】海上の油を回収する概略図。
図5】海岸に漂着した油を回収する概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、溶融電界紡糸法により海面に浮遊した原油を吸着回収する実施例を図1〜4に基づいて説明する。
まず、海面に浮遊した油を回収する領域にスパンボンドの薄い軽量網9を浮遊させる。次に船10の後部に溶融電界紡糸装置11を設置し、ポリプロピレンのペレットを溶融する機構1でポリプロピレンの粘土が十分下がるまで加熱して溶融する。次に、溶融したポリプロピレンをノズル2から吐出すると同時にエアーノズル3から高速エアーを噴出し溶融したポリプロピレンを延伸する。さらに同時に電極4とノズル2間に高電圧を印加することによって電荷が発生し、溶融したポリプロピレンを同極に帯電させる。この同極の電荷が互いにクーロン力で反発することで溶融したポリプロピレンを更に延伸する。
【0023】
特に、この時エアーノズル3から噴出した高速エアーは、周りのエアーを巻き込むことで高速エアーを中心に緩やかな気圧差の流れを構成する。このことで、溶融したポリプロピレンが高速エアーによって巻き込まれた緩やかな気圧差が少ないエアーに乗って中心部の高速エアーに向かって延伸をしながら進み中心の高速エアーで高速に引き伸ばされナノファイバー化され親油撥水性ナノファイバーが海面に浮遊した油の海上面または油膜面下に放出される。
【0024】
しかも、親油撥水性ナノファイバーは比重が水よりも軽いため、油を吸着後も海上に浮遊し続ける。
また、ポリプロピレンは、ナノファイバー化することで超撥水性となり水を全く通さなくなる。一方 ポリプロピレンは親油性があり、比表面積が非常に大きいため油を大量に吸着する。
【0025】
さらに下記のような特徴を有している。
(1)材料のポリプロピレンのペレットは、少量で広範囲に親油撥水性ナノファイバーを噴出することができる。
(2)静電溶融のナノファイバー生産能力は、ノズル1本あたり1Kグラム/時、以上と非常に大きく、ノズルの数を増やすことで、海面の広範囲に放出することができる。
(3)ポリプロピレンのペレットの溶解はヒーターだけでなくガスまたは灯油をガス化したものを使用する。また、高電圧の消費電力がゼロであるため非常に溶融電界紡糸装置は小型になることで小型の船体に装備が可能である。
(4)水面下から投入するナノファイバーはシート状にすることで、風で流されることなく100%海上に着地する。
(5)親油撥水性ナノファイバーは油と水を分離して回収することができ、回収後は再処理をすることで再利用することができる。
【0026】
(第2実施形態)
以下、溶融電界紡糸法により海岸に漂着した油を吸着回収する実施例を図5に基づいて説明する。
【0027】
まず、トラック12の後部に溶融電界紡糸装置11を設置して、油が漂着した海岸近くまで移動する。次に、工事用エアーダクト13を溶融電界紡糸装置11のノズル2に連結し、工事用エアーダクト13を海岸に漂着した油まで延長して配置する。
このような状態において、第1実施形態に述べた溶融電界紡糸法により親油撥水性ナノファイバーを生成し、海岸に漂着した油を覆うよう放出する。その際、電荷は取り除いておく。
【0028】
さらに、海岸に漂着した油までの距離が長い場合は、中間にファン14を設置して送風をすることで、遠隔地にナノファイバーを輸送する。
【0029】
親油撥水性ナノファイバーは、比表面積が非常に大きく且つ撥水性であるため漂着した油を水と分離して油を大量に吸着する。
【0030】
最終的に油を吸着してゲル状になった親油性ナノファイバーを回収する。
【0031】
なお、本発明は前記実施形態そのままに限定されるものでなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化でき、また前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
タンカーなどの海難事故による海洋での大量の油の流出に対しては、オイルフェンスを張り巡らせて海上の油の拡散を防止し、油の海岸漂着を回避する方法が種々行われているが、好ましい回収方法が望まれていた。そこで、種々の研究の末、溶融電界紡糸法を使用して、船体を小型化して機動性に優れた回収船で原油流出などの事故に迅速に対応できるようにしたもので、本発明は産業上極めて利用価値の高いものである。
【符号の説明】
【0033】
1・・・ペレットを溶融する機構 2・・・ノズル
3・・・エアーノズル 4・・・電極
5・・・絶縁板 6・・・断熱材 7・・・ヒーター
8・・・ラバーズノズル 9・・・軽量網 10・・・船
11・・・溶融電界紡糸装置 12・・・トラック
13・・・工事用エアーダクト 14・・・ファン
図1
図2
図3
図4
図5