【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 西日本ナノシート研究会 第2回ワークショップ(開催日:2013年8月25日〜26日、開催場所:湯布院FITセミナーハウス(大分県由布市湯布院町川北894−78)、一般公演、タイトル:「構造色を持つフルオロヘクトライトナノシートコロイドの液晶相」) 西日本ナノシート研究会 第2回ワークショップ予稿集(発行日:2013年8月19日、発行所:西日本ナノシート研究会、13頁、タイトル:「構造色を持つフルオロヘクトライトナノシートコロイドの液晶相」)
【文献】
宮元展義,無機ナノシートコロイドの液晶相とその応用,表面技術協会第128回講演大会 講演要旨集,日本,2013年 9月10日,PP.293-295
【文献】
中戸晃之,宮元展義,無機ナノシート分散体の液晶形成と機能,液晶,日本,Vol.14, No.2,PP.108-117,ISSN 1880-6449
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施の形態]
[無機ナノシート分散液の概要]
本発明の実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、無機材料から剥離して得られる無機ナノシートにより構成される秩序構造を有する無機ナノシート配向ドメインと、無機ナノシートの分散媒である溶媒とを含む無機ナノシート分散液である。そして、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、無機ナノシートの溶媒中における濃度が低濃度(例えば、1wt%以下程度の濃度)の状態でも構造色を発する。更に、この無機ナノシート分散液は、様々な角度から観察しても、同一の構造色を発する。以下、無機ナノシート分散液を様々な角度から観察した場合に構造色が実質的に変化しないことを、「構造色に角度依存性がない」と表す。
【0018】
本発明者らは、出発原料である無機材料から無機ナノシートを剥離させる場合における分散剤等の共存物質や対イオンの含有量、溶媒組成、ナノシート種、ナノシート粒径の影響を検討する過程において、無機ナノシート配向ドメインを含む溶媒が構造色を発するだけではなく、構造色に角度依存性がないことを初めて見出し、本発明を創出するに至った。以下、実施の形態に沿って詳細を説明する。
【0019】
[無機ナノシート分散液の詳細]
本発明の実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、所定の波長の構造色を発する無機ナノシート分散液であって、無機材料から剥離して得られる複数の無機ナノシートとその対イオン、溶媒、共存物質(例えば、塩、高分子電解質、コロイド粒子等)を含み、これら複数の無機ナノシートによる秩序構造(すなわち、配向秩序構造、又は二次元周期や三次元周期をもつ位置秩序構造)を有する複数の無機ナノシート配向ドメインと、複数の無機ナノシートの分散媒である溶媒とを含んで構成される。そして、この無機ナノシート分散液は、液晶相として挙動する。
【0020】
具体的に、無機ナノシート分散液において秩序構造は、板状の構造単位が一定の規則に従って配向・配列してなる構造である。例えば、秩序構造はラメラ構造である。そして、無機ナノシートは溶媒中においてラメラ構造を有する無機ナノシートの液晶相を形成する。また、無機ナノシート分散液において、無機ナノシートが液晶相を形成する粒径範囲内の粒径を有すると共に、無機ナノシート分散液中の無機ナノシートの濃度が液晶相を形成する濃度範囲内の濃度を有する。ここで、共存物質、溶媒組成、対イオン種、及び/又はナノシートの組合せや濃度は、秩序構造を形成させ、秩序構造の秩序性を最適化し、秩序構造の構造周期を制御するファクターである。そして、構造色に角度依存性をなくす観点からは、無機ナノシート配向ドメインが溶媒中においてランダムな配向を有することが好ましい。
【0021】
(無機ナノシート)
本実施の形態に係る無機ナノシートは、積層構造若しくは層状構造を有する無機材料を剥離させることによって得られる単位構造としての薄板形状の無機結晶である。無機ナノシートの組成及び形状は、無機材料の種類に応じて決定される。すなわち、無機ナノシートの組成は出発物質である無機材料の組成を反映しており、無機ナノシートの形状は出発物質である無機材料の結晶学的構造を反映している。したがって、無機ナノシートは、例えば、数nmの厚さ(例えば、フルオロヘクトライト等の粘土鉱物においては約1nm)及び数十nm以上数百μm以下程度の横幅を有する。これにより無機ナノシートは、異方性が極めて大きな形状(すなわち、非常に高いアスペクト比を有する形状)を有することになる。ここで、本実施の形態に係る無機ナノシートの「粒径」は以下のように定義する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る無機ナノシートの模式的な図の一例を示す。具体的に
図1(a)は、無機ナノシートの平面視における模式的な図の一例を示し、(b)は、無機ナノシートの断面の模式的な図の一例を示す。
【0023】
無機ナノシート1の「粒径」は、実質的には無機ナノシート1の横幅である。
図1に示すように、無機ナノシート1の平面視における最大幅を横幅wとした場合、この横幅wの平均値を本実施の形態における「粒径」とする。無機ナノシート1の「粒径」は、例えば、動的光散乱法等の測定手段を用いて計測及び算出できる。また、無機ナノシート1の粒径を調整することにより、無機ナノシート分散液が発する構造色を制御できる。なお、無機ナノシート1の厚さtは、無機ナノシート1の出発原料である無機材料の結晶構造に応じて決定される。
【0024】
なお、無機ナノシート1の出発材料としての無機材料は層状無機化合物である。層状無機化合物としては、グラファイト、層状金属カルコゲン化物、層状金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化ニオブを主体とする層状ペロブスカイト化合物、チタン・ニオブ酸塩、モリブデン酸塩等)、層状金属オキシハロゲン化物、層状金属リン酸塩(例えば、層状アンチモンリン酸塩等)、粘土鉱物若しくは層状ケイ酸塩(例えば、雲母、スメクタイト族(モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト等)、カオリン族(カオリナイト等)、マガディアイト、カネマイト等)、及び層状複水酸化物等が挙げられる。なお、本実施の形態では粘土鉱物若しくは層状ケイ酸塩が入手の容易さ等から好ましく用いられるが、粘土鉱物若しくは層状ケイ酸塩としては、天然の粘土鉱物若しくは天然の層状ケイ酸塩、又は合成の粘土鉱物若しくは合成の層状ケイ酸塩のいずれを用いてもよい。
【0025】
(無機ナノシート配向ドメイン)
図2は、本発明の実施の形態に係る無機ナノシート配向ドメインの模式的な図の一例を示す。
【0026】
無機ナノシート配向ドメイン10は、複数の無機ナノシート1が規則的な構造をとることで形成される。具体的に、無機ナノシート配向ドメイン10は、無機ナノシート分散液が発する構造色の波長に応じた面間隔dを有する秩序構造が、複数の無機ナノシート1により構成されることで得られる。例えば無機ナノシート配向ドメイン10は、数十μm以上数mm以下程度のサイズLを有して構成される。ここで、秩序構造はラメラ構造である。そして、本実施の形態に係るラメラ構造は、例えば、90nm以上300nm以下、好ましくは100nm以上280nm以下、より好ましくは110nm以上260nm以下程度、更に好ましくは120nm以上240nm以下程度の面間隔dを有する。
【0027】
無機ナノシート分散液の構造色は、無機ナノシート1のラメラ構造の面間隔dに基づいて無機ナノシート分散液から発せられていると考えられる。すなわち、ラメラ構造の面間隔dとブラッグの法則とに基づいて、無機ナノシート分散液の主たる構造色が決定されると考えられる。そして、無機ナノシート配向ドメイン10は、溶媒中においてランダムな配向を有する。なお、溶媒中における無機ナノシート配向ドメイン10の配向状態は、クロスニコル観察により確認できる。
【0028】
本実施の形態に係る無機ナノシート分散液の構造色に角度依存性がない理由については不明な点が多いが、本発明者らは以下のように推測している。まず、本実施の形態においては、無機ナノシートの粒径を所定の粒径範囲に制御すると共に、無機ナノシートの溶媒中における濃度を所定の濃度範囲に制御する。これにより、無機ナノシート配向ドメインに含まれる無機ナノシートのラメラ構造の面間隔は、所定の面間隔に制御される。そして、無機ナノシートの溶媒中における濃度を所定の濃度範囲に制御することで、溶媒中で無機ナノシート配向ドメインはランダムな配向をとる。この状態において、複数の無機ナノシート配向ドメイン一つ一つはブラッグの式に対応する角度依存性を有するものの、溶媒中でランダムな配向をとっていることから、発色強度が最も大きい構造色の無機ナノシート配向ドメインによる構造色が、無機ナノシート分散液の特定の構造色として観察されると推測される。
【0029】
(溶媒)
無機ナノシート分散液において、無機ナノシートの分散媒である溶媒は、無機ナノシートの出発原料を粘土鉱物とした場合、例えば、純水を用いることができる。また、溶媒としては、無機ナノシート分散液が発する構造色を制御することを目的として、無機ナノシートの出発原料である無機材料の種類に応じ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ノルマルホルムアミド等の他の極性溶媒、又は無極性溶媒を用いることもできる。
【0030】
(液晶相)
構造色を発する無機ナノシート分散液において、無機ナノシートは液晶相を形成する。無機ナノシート分散液の液晶性は、分散媒中において複数の無機ナノシートの主面が実質的に同一方向に向いた状態で定常的に配向して無機ナノシート配向ドメインを形成することで発現する。液晶相が形成されるか否かは、主として無機ナノシートの粒径と無機ナノシートの濃度によって決定される。すなわち、無機ナノシートの粒径及び無機ナノシートの濃度が、溶媒中で無機ナノシートの液晶相が形成される範囲内である場合、液晶相が形成される。
【0031】
なお、液晶相の形成において、実測された等方相−液晶相転移濃度と無機ナノシート粒径との関係は剛体粒子間の排除体積のみを考慮したOnsagerの理論によってある程度は予測できる。しかしながら、本実施形態に係る秩序構造、すなわち、ラメラ構造の形成についてはOnsagerの理論では説明することが困難な面があり、また、ラメラ構造の面間隔が理想膨潤則と一致しない等、構造形成のメカニズムの詳細についてはまだ不明な点が多い。しかしながら本発明者らは、無機ナノシート‐溶媒分子間、溶媒分子‐対イオン間、無機ナノシート‐対イオン間の相互作用のバランスや、枯渇効果等のエントロピー力によって、基本的な理論で想定されていない無機ナノシート間の引力相互作用が誘起されたためであると推測している。
【0032】
(構造色)
無機ナノシート分散液は、無機ナノシートの出発原料の種類、分散媒の種類、無機ナノシートの粒径、及び溶媒中における無機ナノシートの濃度を調整することにより、所望の構造色を発する。出発原料の種類及び溶媒の種類が固定されている場合、無機ナノシート分散液の構造色は、無機ナノシートの粒径及び無機ナノシートの濃度が無機ナノシートの液晶相が溶媒中で形成される範囲内であれば、無機ナノシートの粒径及び無機ナノシートの濃度を当該範囲内で様々に変化させることで様々な波長に調整できる。
【0033】
[無機ナノシート分散液の製造方法]
本実施の形態に係る無機ナノシート分散液の製造方法は、概略、以下の各工程を備える。すなわち、層状無機化合物から無機ナノシートを剥離させる剥離工程と、剥離して得られた無機ナノシートの粒径を所定の粒径に制御する粒径制御工程と、粒径が制御された無機ナノシートの溶媒中における濃度を所定の濃度に調整する濃度調整工程とを備える。なお、粒径制御工程は、製造する無機ナノシート分散液に用いる無機ナノシート原料の種類によっては省略することができる。
【0034】
(剥離工程)
まず、層状無機化合物から無機ナノシートを剥離させる。例えば、層状無機化合物を所定の溶媒に添加する。すると、層状無機化合物の層間に溶媒が侵入し、溶媒中で層状無機化合物の層間が膨潤する。これにより、層状無機化合物から無機ナノシートが剥離する。剥離した無機ナノシートは、溶媒中で分散コロイドを形成する。
【0035】
(粒径制御工程)
次に、得られた無機ナノシートの粒径を所定の粒径に制御する。具体的には、無機ナノシートの分散コロイドに所定の振動数の弾性振動波を照射する。例えば、無機ナノシートの分散コロイドに、予め定められた時間、予め定められた振動数の超音波を照射する。これにより、無機ナノシートの粒径を所定の粒径範囲内の粒径に制御する。ここで、無機ナノシートの粒径が小さくなりすぎると無機ナノシート分散液の液晶性が喪失される場合があるので、粒径制御工程においては、無機ナノシートの粒径を無機ナノシートの液晶相が溶媒中で形成される範囲内の粒径に制御することが好ましい。
【0036】
(濃度調整工程)
そして、所定の粒径に制御された無機ナノシートの溶媒中における濃度を調整する。すなわち、少なくとも無機ナノシートの液晶相が形成される濃度以上であって、所望の構造色が発色する濃度に、無機ナノシートの溶媒中における濃度を調整する。これにより、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液が得られる。
【0037】
なお、無機ナノシートの出発原料である無機材料や無機ナノシート分散液の溶媒の種類によっても異なるが、無機ナノシート分散液の製造方法は、以下の各工程を備えることもできる。
【0038】
まず、無機ナノシート分散液の製造方法は、剥離工程と粒径制御工程との間に遠心分離工程を備えることができる。剥離工程において、層状無機化合物を溶媒に分散させた分散液を準備した場合、分散液には不純物、未剥離又は剥離度の低い層状物質、及び無機ナノシートの分散コロイドが混合していることがある。したがって、この分散液を遠心分離することで、主成分を溶媒とする上澄み液と、無機ナノシートの分散コロイドと、主として不純物からなる沈殿物とを分離する。また、無機ナノシート分散液の製造方法は、遠心分離工程の後に、遠心分離により分離された無機ナノシートの分散コロイドを採取する採取工程を備えることもできる。この採取工程で、無機層状化合物から完全に剥離した無機ナノシートを採取する。
【0039】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、所定の面間隔のラメラ構造を含む無機ナノシート配向ドメインを有するので、面間隔に応じた波長の構造色を発色する。また、無機ナノシート分散液は、無機ナノシート配向ドメインが溶媒中でランダムな配向をしているので、構造色に角度依存性がない。これにより、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液によれば、所望の構造色を発色し、様々な角度から観察しても構造色に実質的な変化がない無機ナノシート分散液を提供できる。
【0040】
また、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、数百nm程度の大きさの無機ナノシート配向ドメインのランダムな配向状態が溶媒中で維持されているので、従来の物質(例えば、有機分子)自体が色を発色する色材に比べ、実質的に劣化することがない。したがって、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、長期間、構造色の発色を維持できる。そして、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、無毒、低環境負荷、高耐久性、そして安価な無機材料の無機ナノシートを用いているので、毒性や環境負荷があり、また耐久性が低く、高価な出発材料から複雑な合成手順を経て得られる有機分子からなる従来の色材に比べ、人体や環境への悪影響を低減できると共に低コストで構造色を発する無機ナノシート分散液を提供できる。
【0041】
更に、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、上述のように簡便な製造方法により生成することができる。そして、無機ナノシート分散液は、溶媒中で無機ナノシートが自発的に形成する構造(すなわち、無機ナノシート配向ドメイン)に起因して構造色を発しているので、無機ナノシート配向ドメインの配向を特別に制御する配向処理を要さない。したがって、無機ナノシート分散液に振動を加えたり、無機ナノシート分散液を撹拌することで構造色が一時的に失われたとしても、無機ナノシートが自発的に無機ナノシート配向ドメインを形成し、無機ナノシート配向ドメインがランダムな配向をとるので、素早く構造色の発色が回復する。
【0042】
そして、本実施の形態に係る無機ナノシート分散液は、例えば、色材、外部環境や近傍に存在する物質に応じて変色するセンサー等、「色」が関与する分野に応用できる。一例として、無機ナノシート分散液は、化粧品、塗装、インテリア等に用いる色材、微量の物質や温度変化を検知して変色するセンサー等の構成部材として応用できると考えられる。
【実施例1】
【0043】
実施例1として、フルオロヘクトライトの無機ナノシートを用いた無機ナノシート分散液を生成した。
【0044】
まず、分散剤を添加していない合成フルオロヘクトライト/水コロイド分散液(FHT−CF. Lot.No.30329、トピー工業製)を出発原料として準備した。この出発原料は等方相であった。次に、この合成フルオロヘクトライト/水コロイド分散液を複数の遠沈管に均等に入れた。そして、遠心分離機(HITACHI製CF−15RXII)を用い、回転速度1500rpmで1時間、遠沈管の合成フルオロヘクトライト/水コロイド分散液を遠心分離した。
【0045】
遠心分離後の遠沈管には上澄みと、中間層と、最下層とが存在していた。上澄みは主成分が水であり、中間層は流動性のある無機ナノシートの分散コロイドであり、最下層は灰色の不純物を含む沈殿物であった。遠沈管から上澄みを除去し、中間層の無機ナノシートの分散コロイドのみを採取した。
【0046】
ここで、無機ナノシートの分散コロイドの一部を採取し、重量を測定した。更に、採取した一部の無機ナノシートの分散コロイドを乾燥させ、乾燥後の重量を測定した。そして、無機ナノシートの分散コロイドの乾燥前後による重量比から無機ナノシートの分散コロイドの濃度を算出した。続いて、算出した濃度に基づいて、遠心分離後に得られた無機ナノシートの分散コロイドを200ml、2wt%の濃度に純水を用いて調整した。
【0047】
次に、濃度を調製した無機ナノシートの分散コロイドに超音波処理を施した。具体的には、超音波洗浄機(Fine Fo21−H)を用い、超音波の照射時間を0時間、9時間、12時間、及び24時間に設定して無機ナノシートの分散コロイドに超音波処理を施した。これにより、それぞれ粒径が異なる無機ナノシートを含む4種類の無機ナノシートの分散コロイドを得た。
【0048】
超音波処理を実行後、得られた4種類の無機ナノシートの分散コロイド中の無機ナノシートの平均粒径をダイナミック光散乱光度計(Photal DLS−8000、大塚電子株式会社製)によって測定した。
【0049】
図3は、実施例1に係る無機ナノシートの粒径測定の結果を示すグラフである。
【0050】
その結果、無機ナノシートの平均粒径は、超音波の照射時間が長くなる程、小さくなることが示された。また、無機ナノシートの粒度分布も超音波の照射時間が長くなるほど小さくなった。そして、
図3に示すように無機ナノシートの平均粒径は、超音波の照射時間が0時間の場合に1709nmであり、照射時間が9時間の場合に782nmであり、照射時間が12時間の場合に607nmであり、照射時間が24時間の場合に139nmであった。
【0051】
次に、平均粒径が制御された無機ナノシートに純水を添加して、無機ナノシートの純水中における濃度を調製した。すなわち、平均粒径が異なる各無機ナノシートの分散コロイドのそれぞれについて、0.5wt%、0.6wt%、0.7wt%、0.8wt%、0.9wt%、1.0wt%、1.1wt%、及び1.2wt%の濃度に調整した試料を作製した。これにより、無機ナノシート分散液が得られた(平均粒径が607nmである無機ナノシート分散液と、平均粒径が782nmである無機ナノシート分散液とが実施例1に係る無機ナノシート分散液であり、他の無機ナノシート分散液は参考例である。)。そして、濃度を調製した各試料を白色光下において観察した。
【0052】
図4は、実施例1及び参考例に係る各無機ナノシート分散液を白色光下において正面から観察した結果を示す。
【0053】
その結果、超音波の照射時間が9時間(平均粒径が782nmの試料)の試料と12時間の試料(平均粒径が607nmの試料)とでは構造色が確認された。更に確認された構造色は、濃度を調製することによって可視光の全波長域(すなわち、紫〜青〜緑〜黄〜赤)で制御できることが確認された。すなわち、無機ナノシートの粒径と、無機ナノシートの溶媒における濃度とを調製することにより、無機ナノシート分散液の構造色を所望の波長の色に制御できることが確認された。なお、平均粒径、及び無機ナノシートの分散コロイドの濃度が小さくなるにしたがって、構造色の発色波長域が長波長側へシフトすることが観察された。
【0054】
図5(a)及び(b)は、実施例1及び参考例に係る各無機ナノシート分散液を白色光下において斜め約45度から観察した結果を示す。
【0055】
図5(a)及び(b)を参照すると明らかなように、構造色を発する無機ナノシート分散液において、角度依存性がないことが確認された。球状コロイドの規則的な配列等に起因する構造色においては、通常、ブラッグの法則に応じた角度依存性を有する。一方、実施例1に係る無機ナノシート分散液は角度依存性がないので、従来の構造色材料とは異なる発色原理を有していると推測される。
【0056】
また、クロスニコルを用いて実施例1に係る無機ナノシート分散液を観察した結果、液晶性に起因する複屈折が観察された。
【0057】
図6は、実施例1に係る無機ナノシート分散液(平均粒径が607nmであって、濃度が0.7wt%の試料)の小角X線散乱のパターンを示す。
【0058】
小角X線散乱により無機ナノシート分散液の微細構造を解析した。その結果、緑色の構造色を発する無機ナノシート分散液においては、面間隔が100nm程度のラメラ構造が形成されていることが示された。一定の濃度以上の無機ナノシートのコロイド分散液では、排除体積効果等によって無機ナノシートが配向して液晶相が発現する。更に、無機ナノシートのラメラ構造又は方向のみが揃ったネマチック相を示す。実施例1に係る無機ナノシート分散液においても同様に液晶相が発現していると考えられるものの、実施例1において算出されたラメラ構造の面間隔は、従来のナノシート液晶系に比べて、かなり広いことが示された。
【0059】
また、無機ナノシート配向ドメインのサイズは、偏光顕微鏡(OLYMPUS BX51)による観察やクロスニコルによる目視観察によると、数十μm以上数mm以下程度であった。そして、無機ナノシート配向ドメインは様々な方向(すなわち、ランダム)に配向していることが確認された。すなわち、実施例1に係る無機ナノシート分散液においては、面間隔が100nm程度の微小ドメイン(無機ナノシート配向ドメイン)が、溶媒中でランダムに配向していることが確認された。
【実施例2】
【0060】
実施例2として、層状ペロブスカイト化合物を用いた無機ナノシート分散液を生成した。
【0061】
(層状ペロブスカイト化合物粉末の合成)
まず、KCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=3)を以下のように合成した。出発原料は、炭酸カリウム(東京化成工業株式会社製)、炭酸カルシウム(東京化成工業株式会社製)、及び酸化ニオブ(東京化成工業株式会社製)を用いた。具体的に、炭酸カリウムと炭酸カルシウムと酸化ニオブとが1.1:2:3のモル比になるようにそれぞれ秤量し、混合して混合物を得た。そして、この混合物を1200℃で12時間焼成し、KCa
2Nb
3O
10の粉末試料を合成した。この粉末試料はXRDにて同定した。
【0062】
次に、KCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=4及び5)の原料の一部となる、NaNbO
3を以下の手順で合成した。出発原料は、炭酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)、及び酸化ニオブ(東京化成工業株式会社製)を用いた。具体的に、炭酸ナトリウムと酸化ニオブとが1:1のモル比になるようにそれぞれ秤量し、混合して混合物を得た。そして、この混合物を1200℃で12時間焼成し、NaNbO
3の粉末試料を合成した。この粉末試料はXRDにて同定した。
【0063】
そして、KCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=4及び5)の合成には、上記で合成したKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(n=3)及びNaNbO
3を原料として用いた。具体的に、KCa
2Nb
3O
10とNaNbO
3とが1:1(ただし、n=4のKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1を合成する場合)、及び1:2(ただし、n=5のKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1を合成する場合)のモル比になるようにそれぞれ秤量し、秤量した原料を混合して2種類の混合粉末を得た。そして、得られた2種類の混合粉末とをそれぞれ1350℃で36時間焼成した。焼成して得られた各粉末は、XRDにて同定した。ここで、焼成して得られた各粉末に不純物が含まれていた場合、不純物を含む粉末にNaNbO
3又はKCa
2Nb
3O
10を更に適量加えて混合した後、再び同条件で焼成した。この工程を繰り返すことで、不純物を実質的に含まないKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=4)の第2の単相試料、及び不純物を実質的に含まないKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=5)の第3の単相試料をそれぞれ得た。なお、「層状ペロブスカイト化合物粉末の合成」で得られたKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=3)は、不純物を実質的に含まないKCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=3)の第1の単相試料である。
【0064】
(層状ペロブスカイト化合物の酸処理)
次に、第1の単相試料、第2の単相試料、及び第3の単相試料のそれぞれを10Mの硝酸に添加し、各試料に1週間の酸処理を施した。この酸処理により、各試料の層間イオンがプロトンにイオン交換された。これにより、HCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=3)の第1試料、HCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=4)の第2試料、及びHCa
2Na
n−3Nb
nO
3n+1(ただし、n=5)の第3試料を得た。続いて、得られた各試料の溶液それぞれについて遠心分離機(HITACHI製CF−15RXII)を用い、回転速度15000rpmで1時間、遠心分離した。これにより、各試料中の過剰な硝酸を除去した。次に、過剰な硝酸を除去して得られた各試料を1日間、乾燥させた。これにより得られた3種類の層状ペロブスカイト化合物はXRDにて同定した。
【0065】
(テトラブチルアンモニウムイオンのインターカレーションによる剥離)
得られた第1試料、第2試料、及び第3試料をそれぞれ、テトラブチルアンモニウム(TBAOH)水溶液(ただし、TBAOH:水のモル比は1:1である)中に添加し、1週間、振盪撹拌した。これにより、第1試料、第2試料、及び第3試料それぞれから無機ナノシートを剥離させた。続いて、振盪撹拌後に得られた溶液を複数の遠沈管に均等に入れた。そして、遠心分離機(HITACHI製CF−15RXII)を用い、回転速度1500rpmで10分間、遠沈管の溶液を遠心分離した。これにより、溶液中から未剥離の沈殿物を除去し、第1試料、第2試料、及び第3試料それぞれから剥離した無機ナノシートを含む上澄み液を回収した。
【0066】
(無機ナノシート分散液の洗浄)
次に、第1試料、第2試料、及び第3試料のそれぞれから剥離した無機ナノシートを含む上澄み液のそれぞれを、回転速度15000rpmで1時間、更に遠心分離した。これにより無機ナノシートを全て沈降させた。その後、沈降した無機ナノシートを採取し、採取した無機ナノシートに純水を加えて撹拌することで洗浄操作を実行した。この洗浄操作により、残存する余剰のテトラブチルアンモニウムイオンの一部が除去された。この洗浄操作を所定回数、繰り返し実行した。第1試料、第2試料、及び第3試料のそれぞれについて、洗浄操作の回数を変化させることでテトラブチルアンモニウムイオン濃度を変化させた試料を作製した。
【0067】
得られた各試料を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、n=3、4、及び5の各系において無機ナノシートの厚さはそれぞれ、1.7nm、2.1nm、及び2.6nmであり、平均粒径(すなわち、無機ナノシートの横幅)はそれぞれ、1.4μm、1.5μm、及び1.3μmであった。
【0068】
また、テトラブチルアンモニウムイオン濃度(TBA濃度)を0.5wt%から3wt%に調整した試料のそれぞれについてクロスニコルを用いて観察した。その結果、テトラブチルアンモニウムイオン濃度が1wt%以上の系の試料は液晶性を示した。そして、液晶性を示した試料においては、小角X線散乱測定によって数nm以上100nm以下程度の面間隔のラメラ構造が確認された。
【0069】
そして、TBA濃度が調整された各試料に純水を添加して、無機ナノシートの純水中における濃度を調製した。
【0070】
以上のようにして、洗浄回数(なお、洗浄回数が多いほどTBA濃度は低くなる。)、無機ナノシートの厚さ、無機ナノシート濃度が異なる一連のサンプルを生成した。得られた各試料を観察したところ、それらの中の一部が構造色を呈することを見出した。具体的に、n=4の系では、無機ナノシート濃度7.6wt%、遠心分離回数3回の系で青色の構造色が観察された。n=5の系では、無機ナノシート濃度7.2wt%、遠心分離回数3回の系で緑色の構造色が観察された。
【実施例3】
【0071】
実施例3として、分散剤を添加した合成フルオロヘクトライト/水コロイド分散液を出発原料として用い、フルオロヘクトライトの無機ナノシートを用いた無機ナノシート分散液を生成した。
【0072】
まず、分散剤を添加したNa含有の合成フルオロヘクトライト/水コロイド分散液(Na‐FHT/水コロイド分散液)を出発原料として準備した。このNa含有の合成フルオロヘクトライト/水コロイド分散液を複数の遠沈管に均等に入れた。そして、遠心分離機(HITACHI製CF−15RXII)を用い、20℃の環境下、回転速度15000rpmで1時間、遠沈管の分散液を遠心分離した。
【0073】
遠心分離後の遠沈管には上澄みと、中間層と、最下層とが存在していた。上澄みは主成分が水であり、中間層は流動性のある無機ナノシートの分散コロイドであり、最下層は不純物(未剥離の層状物質、及びクリストバライト等)を含む沈殿物であった。遠沈管から上澄み及び沈殿物を除去し、中間層の無機ナノシートの分散コロイドのみを採取した。そして、実施例1と同様にして、得られた無機ナノシートの分散コロイドを0.9wt%の濃度に純水を用いて調節した。なお、実施例3においては超音波処理工程を省略したので、無機ナノシートの平均粒径は、実施例1の超音波処理時間が0時間である無機ナノシートの平均粒径と同様である。
【0074】
次に、水酸化物イオンを飽和吸着させた陰イオン交換樹脂を用いて、得られた無機ナノシートの分散コロイドを処理することで、陰イオン性の不純物を除去した。続いて、アンモニウムイオン(NH
4+)を飽和吸着させた陽イオン交換樹脂を用いて、フルオロヘクトライトの対カチオンをNa
+からNH
4+にイオン交換した。これにより、対カチオンがNH
4+である無機ナノシートの分散コロイド(NH
4+−FHT/水コロイド分散液)が得られた。
【0075】
次に、対カチオンがイオン交換されることにより得られたNH
4+−FHT/水コロイド分散液にジメチルホルムアミド(DMF)を分散液と同量添加し、エバポレータを用いて溶媒中の水のみを選択的に蒸発させることで、溶媒をDMF置換した。以下、DMF置換して得られた試料をNH
4+−FHT/DMFコロイド分散液とする。
【0076】
続いて、ベンジルトリブチルアンモニウムを飽和吸着させた陽イオン交換樹脂を用いて、得られたNH
4+−FHT/DMFコロイド分散液を処理することで、フルオロヘクトライトの対カチオンをNH
4+からベンジルトリブチルアンモニウムクロリドに交換した。これにより、実施例3に係る無機ナノシート分散液が得られた。得られた実施例3に係る無機ナノシート分散液は、緑色の構造色を示すことが確認された。なお、ベンジルトリブチルアンモニウムの代わりにトリメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)等を用いた場合も、構造色を発現することを確認した。
【0077】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。