特許第6202513号(P6202513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202513静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202513
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/12 20060101AFI20170914BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20170914BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   H05K3/12 630A
   H05K3/10 C
   G03G9/08 391
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-168138(P2012-168138)
(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2014-27199(P2014-27199A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】512136400
【氏名又は名称】株式会社 M&M研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100074631
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】前川 克廣
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】御田 護
【審査官】 梅本 章子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−300077(JP,A)
【文献】 特開2002−231053(JP,A)
【文献】 特開2012−018298(JP,A)
【文献】 特表2008−505494(JP,A)
【文献】 特開昭60−127787(JP,A)
【文献】 前川 克廣,外6名,”プリンテッドエレクトロニクス用レーザ焼結技術:銀ナノ粒子ペーストを用いた微細配線および機能性膜形成”,エレクトロニクス実装学会誌,一般社団法人エレクトロニクス実装学会,2012年 1月,第15巻,第1号,p.96−105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/10 − 3/26
H05K 3/38
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光ドラム表面を静電気によって一様に帯電させる帯電工程、前記感光ドラムに導電パターンに応じた静電的な潜像パターンを形成する露光工程、前記潜像パターン上へ金属トナーを静電力によって付着させる現像工程、前記潜像パターン上の前記金属トナーをシート状の基板上へ転写する転写工程と、転写された前記金属トナーの膜にレーザ光を照射しバルク化して、前記基板上に定着させる定着工程とを含み、前記現像工程で使用する金属トナーが、マイクロカプセル化した、粉体状の静電金属ナノ粒子クラスタートナーである導電パターン形成方法において、
前記定着工程が、転写された前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーの膜をローラで圧縮し、その後、レーザ光を照射しバルク化して、前記基板上に定着させることを特徴とし、
前記定着工程前に、転写された前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーの膜を合成樹脂フィルムでラッピングすることを特徴とする
静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の導電パターン形成方法において、
前記定着工程では、圧着後に
レーザ光が照射されている前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーの膜を取り囲む雰囲気に常時不活性ガスを供給すると同時に、前記雰囲気の酸素濃度を測定し、
測定された酸素濃度に応じて前記不活性ガスの前記雰囲気への供給量を制御して、前記酸素濃度を予め求めた前記基板が劣化しない値以下に調整する、
ことを特徴とする静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の導電パターン形成方法において、前記酸素濃度を0.1容量%以下に調整することを特徴とする静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子印刷技術に係り、特に、トナーとして金(Au)、銀(Ag)または銅(Cu)などの粉体状の静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いて、シート状基板の上に微細配線や機能性膜などの導電パターンを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に例えば電極などの導電パターンを形成する場合、一般的には、スクリーン印刷の手法が多く用いられている。例えば、太陽電池などで電極を形成する際に、スクリーン印刷機を用いて、Agなどの金属ペーストを塗布することにより導電パターンを形成している(特許文献1を参照)。しかし、このようなスクリーン印刷による導電パターンの形成方法では、メッシュ状の網をスクリーンとして使用するため、スクリーンだれなどにより、印刷精度が低下するとか、重ね刷りの場合の位置合わせ精度などに問題があり、微細な導電パターンを形成することが困難であった。
【0003】
そのため、金属トナーを用いて電子写真法によって、シート状の基板上に導電パターンを形成する方法も提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献1、非特許文献2を参照)。この方法は、一般のコピー機のように、回転する感光ドラム上に、静電潜像を造り、次いで、例えば熱可塑性樹脂中にAgなどの微粒子を分散させて作った、導電パターン形成用金属トナーを、現像装置から供給してトナー画像を形成し、最後に、転写ロールを用いて、形成されたトナー画像を基板上に転写した後、加熱定着させ、導電パターンを形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−51054号公報
【特許文献2】特開2006−113611号公報(特許第4,113,892号)
【特許文献3】特開2004−48030号公報
【特許文献4】特開2007−300077号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】第26回エレクトロニクス実装学会春季講演大会「電子写真とめっきの融合による導電パターン形成技術」稲垣潤 東レエンジニアリング株式会社 平成24年3月8日
【非特許文献2】前川克廣、外6名、“プリンテッドエレクトロニクス用レーザ焼結技術:銀ナノ粒子ペーストを用いた微細配線および機能性膜形成”、エレクトロニクス実装学会誌、一般社団法人エレクトロニクス実装学会、2012年1月、第15巻、第1号、p.96−105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、古くから知られている、従来の通常の金属トナーを用いた電子写真法による導電パターンの形成方法においては、使用される金属トナーの粒子が粗いため、形成される導電パターンの導電特性が不十分であるという問題がある。このため、基板上への導電パターンの形成は、今でもスクリーン印刷法が主流であり、電子写真法は、これまで実際の製品にはほとんど使用されていないという極めて根本的な問題があった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来の電子写真法を応用した量産性に優れた方法で、導電特性に優れた微細な導電パターンを得るための、新しい導電パターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本願明細書及び特許請求の範囲の説明で、単に使用される静電金属ナノ粒子クラスタートナーという表現は、例えば、本願明細書の段落[0031]以降で説明する方法で作製されるような、粉体状の静電金属ナノ粒子トナー、または静電金属ナノ粒子のクラスターをマイクロカプセル化させた、粉体状の静電金属ナノ粒子クラスタートナーを意味する。
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明では、微細配線や機能性膜などの導電パターンを形成する上で、スクリーン印刷やインクジェット印刷よりも多くの利点を得やすい電子写真法を採用し、そのトナーとして、金属充填率が高いナノサイズでかつ粉体状の静電金属ナノ粒子クラスタートナーを使用する。粉体状の静電金属ナノ粒子クラスタートナーを使用することにより、以下の[発明の効果]の項目に記載した効果が得られる。また、さらに優れた効果を得るために、後述するような、様々な工夫がなされている。
【0010】
具体的には、本発明の一つの観点に係る静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法は、感光ドラム表面を静電気によって一様に帯電させる帯電工程、前記感光ドラムに導電パターンに応じた静電的な潜像パターンを形成する露光工程、前記潜像パターン上へ金属トナーを静電力によって付着させる現像工程、前記潜像パターン上の前記金属トナーをシート状の基板上へ転写する転写工程と、転写された前記金属トナーの膜にレーザ光を照射しバルク化して、前記基板上に定着させる定着工程とを含む導電パターン形成方法において、前記現像工程で使用する金属トナーが、静電金属ナノ粒子クラスタートナーであることを特徴としている。
【0011】
本発明の別の観点に係る静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法は、上述の段落[0010]で説明した方法において、前記定着工程が、転写によって形成された前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーの膜をローラで圧縮し、その後、それにレーザ光を照射しバルク化して、前記基板上に定着させることを特徴としている。
【0012】
本発明のさらに別の観点に係る静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法は、上述の段落[0010]または段落[0011]で説明した方法において、前記定着工程前に、少なくとも前記転写によって形成された前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーの膜を合成樹脂フィルムでラッピングすることを特徴としている。次の焼結工程前に前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーの膜を合成樹脂フィルムでラッピングすることにより、レーザ光の照射により、静電金属ナノ粒子クラスタートナーが周囲へ飛散することを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、電子写真法を採用し、トナーとして、より金属充填率が高いナノサイズの粉体状の静電金属ナノ粒子クラスタートナーを使用しているので、従来よりも緻密な導電パターンを作製できること、溶媒を蒸発させるための乾燥工程が不要になるための焼結工程に要する時間の大幅短縮、バルク構造の容易化、より厚膜化形成できることなどの効果を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法を実施するための電子写真装置の一例を示す概略構成図である。
図2】本発明で用いるのに好適なレーザ焼結装置の概略構成図である。
図3】酸素濃度とアルゴンガス流量との関係を示すグラフである。
図4静電金属ナノ粒子クラスタートナーの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法について、図1を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る静電金属ナノ粒子クラスタートナーを用いた導電パターン形成方法を実施するための導電パターン形成装置10の全体構成を概略的に示している。図1において、感光ドラムの帯電から導電パターンの定着までの基本構成は、現像装置14において金属ナノ粒子クラスタートナーを使用すること、定着工程前に、転写された静電金属ナノ粒子クラスタートナーを合成樹脂フィルムでラッピングすること(図示せず)、定着工程が、転写された静電金属ナノ粒子クラスタートナーをローラで一度圧着してから、レーザ加熱でバルク化して、基板上に静電金属ナノ粒子クラスタートナーを定着させるようにしている点で、従来装置とは大きく異なっている。
【0017】
導電パターンの形成に際して、まず帯電装置12を用いて、感光ドラム11の表面を静電気によって一様に帯電させ(帯電工程)、露光装置13で前記感光ドラム11に導電パターンに応じた静電的な潜像パターンを形成する(露光工程)。その後、現像装置14から金属ナノトナー2を付与し、静電金属ナノ粒子クラスタートナー2を前記潜像パターン上へ静電力によって付着させる(現像工程)。付着した前記静電金属ナノ粒子クラスタートナー2は、転写装置15のローラ18の作用によって、シート状の基板1(例えば、ポリイミド基板や、銅などの金属基板)上へ転写される(転写工程)。
【0018】
基板への転写工程の後に、少なくとも転写された前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーをラミネートフィルムでラッピングすることが望ましい。ラッピングは、例えば、圧着用のローラの前にラミネートフィルムを巻回したローラを設け、ポリイミド基板1上に自動供給するようにしている(図示せず)。このように、次の定着後工程(焼結)前に前記静電金属ナノ粒子クラスタートナーを合成樹脂フィルムでラッピングすることにより、レーザ照射により、静電金属ナノ粒子クラスタートナーが周囲へ飛散することを防止できる。ラミネートフィルム(ラッピングフィルム)は、表面のカバーフィルムとその下の低融点の熱可塑性樹脂(接着層)から構成される。ここでは、ラミネートフィルムとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)とEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)の2層構造のものを使用した。接着層のEVAが加熱により溶けて融着し、飛散を防止する。
【0019】
ラッピングされた転写像は、圧着装置16の2個の対抗するローラ19の圧着作用により、前記基板1上に転写された前記静電金属ナノ粒子クラスタートナー2が圧着させられる(定着前工程)。一方、感光ドラム11上に残った静電金属ナノ粒子クラスタートナー2は、クリーニング装置19によって除去され、連続して次の最初の工程に入る。
【0020】
本発明ではさらに、前記定着前工程後に、前記金属ナノトナー(金属ナノ粒子トナーまたは静電金属ナノ粒子クラスタートナー)にNd:YAGレーザ装置(レーザ焼結装置20)を用いてレーザ光を照射して、シェル層を蒸発除去すると同時に、金属ナノ粒子(または静電金属ナノ粒子クラスター)を結合させバルク化する(定着後工程)。なお、本願では、定着前工程と定着後工程を統括して、単に定着工程という。
【0021】
レーザ光の照射は、図1に示されるようにオープンな雰囲気中で、転写工程に連続して行われる。したがって、焼結時に焼結個所に不活性ガスを吹き付け、酸素濃度を許容限度内に抑える手段(図示せず)を設けてある。また、常時焼結温度をモニターして、基板温度が異常に上昇しそうな場合には、温度モニター装置(図示せず)の信号によってレーザ光出力を下げるなどして、基板1への密着性が悪化しないようにしている。図1では、ポリイミド基板は、紙面の裏側から表側にレーザ焼結時間に合わせた一定の速度で供給されるようになっている。したがって、このポリイミド基板の通過する部分は一部大気に露出することになる。
【0022】
以下、上述のレーザ焼結装置20について、図2を参照して詳細に説明する。図2は本発明で用いるのに好適なレーザ焼結装置20の概略構成図であって、図において、符号21は、金属または樹脂製の基板である。この基板21は平坦なステージ32上に配置される。基板21の表面には、印刷等によって静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22が形成されている。また、符号23は静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22を焼結するためのレーザ光照射装置である。
【0023】
また、符号24は前記レーザ光が照射されている金属ナノトナー膜22を取り囲む雰囲気の酸素濃度を検知するための酸素濃度計であり、雰囲気ガスが、先端が金属ナノトナー膜22の近傍まで延びている雰囲気ガス定量吸入管25を介して酸素濃度計24に取り込まれるようになっている。酸素濃度計24としては、ガルバノ式酸素濃度計が好適である。ガルバノ式酸素濃度計としては、ガルバノ電池式酸素濃度計や酸素励起蛍光感知式酸素濃度計などの市販品を使用でき、例えば、0〜100容量%の酸素濃度測定が可能である泰榮エンジニアリング株式会社製のガルバノ電池式酸素濃度計「オキシマン」(登録商標)が好適である。
【0024】
さらにまた、レーザ焼結時に、レーザ光が照射されている静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22の局所的温度を測定するため、赤外線放射温度計26も設けられている。局所的温度を測定するため、赤外線放射温度計26から静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22の近傍まで赤外線放射温度測定プローブ7が設けられている。赤外線放射温度計26としては、赤外線中空ファイバー、石英系光ファイバー、赤外線カメラなどの市販品を使用でき、例えば、日立電線株式会社製の赤外線用中空ファイバー放射温度計を使用できる。
【0025】
レーザ光が照射されている静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜を取り囲む雰囲気に不活性ガス35を供給するため、不活性ガスタンク28、不活性ガスの供給量を制御するための制御弁29、制御された不活性ガス35をレーザ焼結部に供給するための不活性ガス供給ノズル30とノズル上部を取り囲むように設けられたカバー31が設けられている。カバー31は不活性ガス35の上方への漏洩を極力抑え、焼結部に効率的に送り込むためのものであり、その材質は、金属、樹脂など加工の容易なものであれば良く、特に制約はない。また、符号100は、例えばマイクロコンピュータなどのコンピュータで、処理装置(CPU)、記憶装置(M)及び入出力装置(I/O)を備えていれば、どのようなものであっても良い。コンピュータ100には、酸素濃度計24と赤外線放射温度計26からの信号が入力され、コンピュータ100において所定のプログラムに従って処理された結果が、制御信号としてレーザ光照射装置23や制御弁29に与えられるようになっている。
【0026】
次に、図2に示された装置の動作について説明する。
最初に、ステージ32上の所定の位置に、静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22が印刷された基板21が配置される。コンピュータ100からの指令により、制御弁29が開放され、不活性ガスが不活性ガスタンク28から不活性ガス供給ノズル30を介して、焼結部に常時供給される。その後、レーザ光照射装置23から照射されるレーザ光によって静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22が焼結される。焼結時には、酸素濃度計24によって、前記レーザ光が照射されている静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22を取り囲む雰囲気の酸素濃度が雰囲気ガス定量吸入管25を介して測定され、その測定値が所定のサンプリング間隔でコンピュータ100に取り込まれる。同時に、赤外線放射温度計6によって、レーザ光が照射されている静電金属ナノ粒子クラスタートナー膜22の局所的温度が赤外線放射温度測定プローブ27を介して測定され、同様に、その測定値が所定のサンプリング間隔でコンピュータ100に取り込まれる。これらのサンプリング間隔は、焼結速度を考慮して設定されるが、両者のサンプリング間隔はかならずしも同じである必要はない。
【0027】
コンピュータ100の記憶装置(M)には、後述する図3のグラフに相当するテーブルが予め記憶されており、このデータベースを参照して、測定された酸素濃度に対応する不活性ガス流量を与えるための制御弁29の開度が処理装置(CPU)で求められ、求められた開度制御信号がコンピュータ100の入出力装置(I/O)を介して、制御弁29に送られる。その結果、不活性ガス供給ノズル10から実質的に現時点の酸素濃度に見合った適切な量の不活性ガス量が供給される。その結果、過剰酸素濃度による基板の酸化や劣化を防止できるので、各種基板との密着性に優れた金属ナノ粒子焼結体から成る機能性膜を形成することができるようになる。
【0028】
赤外線放射温度計26の測定温度は、周期的にコンピュータ100の記憶装置(M)に記憶されたしきい値と比較され、必要に応じてレーザ光照射装置23に制御信号を出力し、レーザ光の発振出力を調整する。
【0029】
図3に酸素濃度(容量%)とアルゴンガス流量(L/min)との関係を示すグラフを示す。図3のグラフは、図2の装置を用いて、予め実験で、アルゴンガス流量を0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0 L/minと変化させ、その時の酸素濃度の測定結果を示めしている。この実験は3回行ったが、アルゴンガス流量が1.5 L/minで、酸素濃度はほぼ0.2 容量%よりもやや低い値を示し、アルゴンガス流量が2.0 L/minで、酸素濃度は0.1 容量%よりもかなり低い値を示した。
【0030】
なお、図示はしていないが、レーザ出力と金属ナノトナー膜22の焼結温度の相関関係を示すテーブルは、次のようにして求めることができる。赤外線用中空ファイバー放射温度計を用いて、金属ナノトナー膜22の焼結時の温度を測定する。そして、レーザ照射時間50msにおける、レーザ出力と焼結温度の関係を、レーザ出力を50Wから100Wの範囲で変化させて測定する。その結果、焼結時の温度はレーザ出力上昇と共に上昇し、レーザ出力と焼結時温度の相関関係を得ることができる。
【0031】
次に、本発明で使用する静電金属ナノ粒子クラスタートナーについて説明する。この静電金属ナノ粒子クラスタートナーは、重合法を採用して、例えば、以下の工程を経て作製することができる。
【0032】
(1)分散液調製工程
アクリル酸やメタクリル酸などの重合性単量体にワックス(離型剤例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)を分散させた分散液(溶液A)を調製する。
【0033】
(2)結着樹脂作製工程
ドデシルアミンなどの界面活性剤を含有した水系媒体に溶液Aを加え、ホモミキサーや超音波などで機械的エネルギーを付与し、液滴を形成(乳化)させる。その後、過硫酸カリウムなどの水溶性のラジカル重合剤を加えて重合反応を進行させ樹脂を形成させる(溶液B)。
【0034】
(3)静電金属ナノ粒子分散液調製工程
静電金属ナノ粒子分散液は二つ方法で作製する。
(3−1)
水系媒体(例、水+メタノール)に溶液Bと金属ナノ粒子粉末を添加する。樹脂粒子のガラス転移以上の温度で加熱することで、凝集を進行させる(溶液C)。
(3−2)
水系媒体(例、水+メタノール)に溶液Bを加える(溶液B’)。金属硝酸塩または硫酸塩、塩化物をオレイルアミンなどの分散剤含有の有機溶媒中(トルエンなど)に溶解させる。その後、還元剤としてアスコルビン酸を加え、液相還元により金属ナノ粒子を液相中で合成する。この溶液にB’を添加し、樹脂粒子のガラス転移以上の温度で加熱することで、凝集を進行させる(溶液C)。
【0035】
(4)ろ過・洗浄工程
溶液Cをろ過し、固液分離されたウェット状態にあるトナー母体粒子から界面活性剤を洗浄し、除去する。
【0036】
(5)乾燥工程
スプレードライヤーや真空凍結乾燥機などでウェット状態にあるトナー母体粒子を乾燥させる。
【0037】
(6)外添工程
乾燥されたトナー母体粒子と外添剤微粒子を混合し、静電金属ナノ粒子クラスタートナーを作製する。
【0038】
図4に本発明で使用する静電金属ナノ粒子クラスタートナーの簡単な構成図を示す。この金属トナーは、静電金属ナノ粒子のクラスターをマイクロカプセル化し導電性をもたせたものである。平均粒径5nm程度のコア金属粒子(例えば、Ag)に帯電制御シェル層をつけ、トナー化する。この静電金属ナノ粒子クラスタートナーの各成分を構成する代表的物質を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
以上、静電金属ナノ粒子クラスタートナーによってモノクロ印刷した導電パターンを、レーザ焼結によって電子回路形成/機能性膜を作製する例について説明した。しかし、複数の金属ナノ粒子トナー、絶縁層となる樹脂トナーによる多重印刷(カラー印刷)、レーザ焼結/熱圧着に拡張できれば、3次元電子モジュールがフルドライプロセスで製造可能になる。
【0041】
また、フレキシブル基板上に半導体回路形成からアンテナなどのユニット形成、配線、封止までのすべての工程をオンデマンド、デスクトップ製造装置で実現できることになるので、これらの製造過程において大幅なコストダウンが図れる。
【符号の説明】
【0042】
10…導電パターン形成装置
11…感光ドラム
12…帯電装置
13…露光装置
14…現像装置
15…転写装置
16…圧着装置
17…クリーニング装置
18、19…ローラ
20…レーザ焼結装置
図1
図2
図3
図4