(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2の方法によれば、空気中に漂う有機物を光触媒で分解して二酸化炭素を発生させているので、装置を小型化できるというメリットがあるが、二酸化炭素の発生量が蚊を誘引するために充分な量では無く、蚊を誘引する効果が低いという問題があった。また、上記特許文献3の方法によれば、養液を浄化できるという利点を有するが、二酸化炭素発生量は充分な量ではなく、安定した二酸化炭素供給を望むことはできなかった。安定した二酸化炭素を供給する方法としては、ボンベ設備を設けて二酸化炭素を供給する方法があるが、交換作業にコストがかかるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、簡便なシステムで高効率に二酸化炭素を発生できる二酸化炭素発生システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: 光触媒と、前記光触媒を固定化する担持体と、前記光触媒の光触媒作用により分解して二酸化炭素を発生する有機分子を含む液体を前記光触媒に供給する液体供給手段と、を具備し、前記有機分子を、前記液体100質量部に対して2質量部以上含み、前記担持体への前記液体の供給と前記担持体での前記液体の消費を繰り返し行うことにより継続的に二酸化炭素を発生させる二酸化炭素発生システム。
[2]: 更に、前記二酸化炭素を滞留させる二酸化炭素滞留空間と、前記二酸化炭素滞留空間の前記二酸化炭素を600ppm以上の濃度で放出する放出口と、を具備する[1]に記載の二酸化炭素発生システム。
[3]: 前記担持体は多孔体からなり、前記光触媒が当該担持体の内部の多孔部にも担持されている[1]又は[2]に記載の二酸化炭素発生システム。
[4]: 前記担持体は、多孔性薄膜である[1]〜[3]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[5]: 前記光触媒は、助触媒を有していてもよいTiO
2,ZnO,SrTiO
3,SnO
2およびWO
3から選ばれる少なくとも一つを含む金属酸化物半導体であり、前記助触媒が、Pt,Pd,Cu(II)、Fe(III)、Au,Ag,RuおよびNiの少なくとも一つが含まれる物質である[1]〜[4]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[6]: 前記液体は、水と前記水と相溶性のある有機溶媒を含む[1]〜[5]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[7]: 蚊の捕獲に用いる[1]〜[6]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[8]: 植物生長促進に用いる[1]〜[6]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[9]: 更に、蚊の好むにおい物質を備える[7]に記載の二酸化炭素発生システム。
[10]: 更に、前記光触媒を励起し得る光源を備える[1]〜[9]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[11]: 更に、熱源を備える[1]〜[10]のいずれかに記載の二酸化炭素発生システム。
[12]: 請求項1〜11のいずれか1項に記載の二酸化炭素発生システムに搭載される液体カートリッジであって、前記二酸化炭素発生システムは、光触媒と、前記光触媒を固定化する担持体と、前記光触媒の光触媒作用により分解して二酸化炭素を発生する有機分子を含む液体を前記光触媒に供給する液体供給手段と、を具備し、前記液体を貯留し、且つ、前記液体供給手段を介して前記担持体に当該液体を供給可能に構成され、更に、前記二酸化炭素発生システムに対して着脱自在に構成されている液体カートリッジ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便なシステムで高効率に二酸化炭素を発生できる二酸化炭素発生システムを提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る二酸化炭素発生システムは、光触媒と、光触媒を固定化する担持体と、光触媒の光触媒作用により分解して二酸化炭素を発生する有機分子を含む液体と、光触媒を担持する担持体に当該液体を供給する液体供給手段とを具備し、担持体への液体の供給と担持体での液体の消費を繰り返し行うことにより継続的に二酸化炭素を発生させるシステムに関する。即ち、分解して二酸化炭素を発生する有機分子を、液体という媒体で供給し、担持体に担持された光触媒の光触媒作用によって有機分子を消費するというサイクル、即ち、液体の供給−消費のサイクルを繰り返すことで二酸化炭素を継続的に発生させるものである。ここで「繰り返し」とは、所定の時間間隔で液体を供給する場合の他、所望のタイミング時に液体を供給する態様や、連続的に液体を供給する態様を含む。また、「消費」とは、液体の成分が酸化還元反応により分解して気化するものをいう。また、消費の中には、液体の気化により状態変化し、液体が消費される態様が含まれていてもよい。また、「担持される」とは、担持体に固定されていればよく、担持体内に練り込まれている態様や付着している態様を例示できる。
【0012】
本発明においては、光触媒の光触媒作用により分解して二酸化炭素を発生する有機分子を液体100質量部に対して少なくとも2質量部以上含む。この有機分子は固体でも液体でもよく、液体成分が全て当該有機分子からなっていてもよい。有機分子が固体の場合には、液体中に溶解または分散させる。担持体内部への浸透性や、表面積を大きくする観点から、有機分子が固体の場合には溶解している態様が好ましい。なお、活性光線とは、光触媒に対して活性を示す光線の帯域全てを含むものであり、この帯域内であればいかなる波長も本発明の二酸化炭素発生システムに対して利用できる。
【0013】
液体の種類は特に限定されないが、水と、水と相溶性を示す有機溶媒を含むことが好ましい。水に相溶する有機溶媒を含むことにより、液体の蒸発速度を促し、担持体へのウエッタビリティーを高めたりすることができる。また、担持体への表面張力あるいは毛管吸引力を高めたりすることができる。水に相溶する有機溶媒の例としては特に限定されないが、エチルアルコール、メチルアルコール、プロピルアルコール等が例示できる。安全性や価格の面からエチルアルコールが特に好ましい。なお、有機溶媒自身も有機分子の分類に含まれるものであり、有機溶媒も光触媒作用によって分解して二酸化炭素を発生し得る。しかし、光触媒作用による分解よりも有機溶媒自身の気化が支配的な場合、即ち、光触媒作用により分解する分子数<気化する分子数となる有機溶媒については、本明細書にいう「有機分子」に含まないものとする。
【0014】
本発明に係る二酸化炭素発生システムは、活性光線照射によって二酸化炭素を発生させたい用途全般、例えば、蚊捕集、植物成長促進、微生物培養等に適用できる。なお、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る二酸化炭素発生システムを蚊捕集用途に用いた一例を示す模式的斜視図であり、
図2は、
図1のII−II切断部断面図である。二酸化炭素発生システムたる蚊捕集器100は、内部に空間が形成された箱型の構成を成し、下方に二酸化炭素発生ユニット1が配設されている。そして、頂部に二酸化炭素滞留空間3が設けられ、これらの間に蚊捕集ユニット2が配設されている。また、蚊捕集ユニット2の側面には液体を貯留するタンク4が設けられている。二酸化炭素発生ユニット1で発生した二酸化炭素は、二酸化炭素移送管5を介して二酸化炭素滞留空間3に送り込まれるようになっている。なお、蚊捕集器は箱型以外の構成(たとえば円筒)とすることも可能である。
【0016】
二酸化炭素発生ユニット1の底部には、ガラス基板16上に光触媒が固定された担持体11が配設され、その上方には、光触媒に活性光線を照射するための光源12および光触媒に液体を供給するための液体供給ノズル13が配設されている。
【0017】
担持体は、光触媒を固定して担持できるものであればよく特に限定されない。担持体11上に光触媒層をコーティングする態様や、光触媒粒子を担持体表面に付着固定させる態様、担持体内部に練り込む態様がある。担持体の具体例としては、不織布、布、金属、ガラス、繊維、合金、セラミック、樹脂、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物、グラファイトおよびこれらの混合物が例示できる。担持体は、光触媒を効率よく担持させる観点からは、表面積が大きい多孔体であることが好ましく、耐久性の観点から無機バインダを用いることが好ましい。多孔体の好ましい例としては、多孔性シリカ、メソポーラスシリカ、カーボンナノチューブ、ゼオライトを挙げることができる。なお、二酸化炭素発生の寄与度が液体に含まれる有機分子に比して格段に少ないが、有機材料により構成されて成る布等も、光触媒作用により分解されて二酸化炭素を発生し得る。但し、布等は、主として担持体としての機能を担うものであり、二酸化炭素発生量を補強することはできても、通常、二酸化炭素発生量としては充分ではない。
【0018】
担持体として多孔体を用いる場合には、担持体内部の多孔部にも光触媒を担持させることが好ましい。担持体の形状は特に限定されず、用途に応じて適宜設計し得るが、光触媒を効率よく活性化させる観点からは、多孔性薄膜が好ましい。多孔性薄膜の膜厚は特に限定されないが、例えば、50nm〜50μm程度とすることができる。多孔性薄膜の触媒活性および機械的強度を確保する観点からは、50nm以上とすることが好ましく、2μm以上とすることがより好ましく、10μmとすることが更に好ましい。また、_触媒量を減らすための経済的観点からは50μm以下とすることが好ましく20μm以下とすることがより好ましい。二酸化炭素の発生量は、光触媒の種類・光触媒の平均粒子径、担持体に対する光触媒の固定量・光触媒の分散度、活性光線強度、担持体の種類等により調整することができる。
【0019】
図3に、光触媒10が担持された担持体11の模式図の一例を示す。ガラス基板16上に薄膜状の層状の担持体11が設けられ、光触媒粒子が担持体11の表面や多孔部の表面に設けられている。担持体11を多孔性薄膜とすることにより、担持体11内部の光触媒に光を照射することが容易となる。担持体11の内部に光を充分に照射させるためには、活性光線として照射する光線において担持体の光吸収がない又は光吸収が小さいものが好ましい。担持体の表面のみならず内部まで光触媒作用に利用することにより、高効率に二酸化炭素を発生させることができる。
【0020】
光源12は、光触媒10の活性光線を照射する役割を担う。また、光源12の使用により発生する熱は、蚊を誘引する熱源としての役割も担っている。液体供給ノズル13は、タンク4に収容された液体40を担持体11に供給する役割を担う。液滴により供給してもよいし、噴霧してもよい。液体40が供給された担持体11は、例えば
図4に示すように、液体が担持体表面および担持体内部に含浸され、有機分子41が担持体表面に付着または近傍に浮遊する。
【0021】
活性光線により励起された光触媒10は、液体40中の有機分子41を分解して二酸化炭素を発生させる。光触媒10の種類は前記条件を満たすものであればよく、特に限定されない。好適な例としては、二酸化チタン(TiO
2),二酸化亜鉛(ZnO),チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3),二酸化スズ(SnO
2)および酸化タングステン(WO
3)等からなる金属酸化物半導体やこれらの半導体にドーピングを施したものを用いることができる。これらの半導体の光触媒活性を更に高めるため、これらの半導体表面に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、ロジウム(Ru)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅系化合物等の助触媒を担持した材料を用いることもできる。特に、Cu(II)やFe(III)のクラスター状の粒子を担持した酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウムは、可視光で光触媒活性を示すことが知られており、これらの光触媒を好適に使用することもできる。また、安価で生体安全性が確立されている点からは二酸化チタンが好ましく、安価で且つ可視光応答性を示す観点から、鉄系ないし銅系化合物酸化チタン材料が好ましい。光触媒は、単一若しくは2種以上を併用して用いられる。
【0022】
光触媒10の形状・粒径は特に限定されないが、粒子状であることが好ましく、例えば、5〜5000nm程度のものを用いることができる。粒子の形状は、球状・フレーク状・針状等の種々の形態を取り得る。二酸化炭素の生成速度を高める観点からは、平均粒子径を10nm以上、1000nm以下とすることが好ましい。光触媒10の活性光線の帯域は、通常、可視光または/および紫外光が好ましく用いられる。
【0023】
担持体11には、タンク4に貯蔵された液体40が液体供給手段6により供給される。液体供給手段6は、第1実施形態においては、液体移送管61、液体供給量調整部62、液体供給ノズル13等からなる。液体供給量調整部62によって供給される液体の量が制御される。液体供給ノズル13は、液滴を滴下するものであってもよいし、噴霧するものであってもよい。また、液体供給ノズル13をXY面に自在に移動可能に構成して、担持体表面に液体を供給するようにしてもよい。液体が供給された担持体11では、活性光線を照射することにより液体40に含まれる有機分子が酸化され、空気中の酸素が還元されて二酸化炭素が発生する。この酸化還元反応を効率よく行う観点からは、光触媒が空気と接する部分と液体と接する部分がバランスよく存在するように、液体を供給することが好ましい。なお、液体40は、液体注入口44からタンク4に補充可能なようになっている。補充する態様に代えて、タンク4を着脱自在な液体カートリッジ式を搭載してもよい。
【0024】
液体に含まれる有機分子の種類は、二酸化炭素を発生できるものであればよく特に限定されない。好ましい構造は、飽和炭化水素樹脂または/および水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、エーテル結合、グリコシド結合、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基、カーボネート結合、アセタール結合およびイミド結合の少なくともいずれかを含む分子を主成分とするものが好ましい。活性光線の光触媒作用に支障をきたさなければ、不飽和炭化水素等も好適に用いられる。また、窒素酸化物や、硫黄酸化物、ハロゲンの酸化物等を発生させない観点からは、有機分子は、C原子、O原子、H原子のみから構成されていることが好ましい。また、分解しやすさの観点からは、分子構造が単純で、酸化分解により炭素結合鎖が離脱されやすい有機分子が好ましい。このような有機分子として、グリセリン、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。これらのうちでも、分子構造が単純で、酸化分解により炭素結合鎖が離脱されやすく毒性の心配のいらないグリセリンが特に好ましい。有機分子は単独または2種類以上を混合して用いることができる。また、グリセリンのような有機分子を溶媒に均一に溶解し、光触媒と接触しやすくするとともに、水が光触媒の表面を覆い続けて光触媒反応を阻害しない様に、溶媒を選定していくことが好ましい。例えば、気化しやすいエチルアルコール等の低級アルコールを水に混合することが望ましい。
【0025】
蚊捕集ユニット2は、二酸化炭素発生ユニット1と二酸化炭素滞留空間に対して着脱自在に構成されている。蚊捕集ユニット2の側方上部には、蚊を誘引するための開口部である蚊侵入口20が設けられている。また、空気を循環させるために、蚊捕集ユニット2の内部に空気循環ファン21が設けられている。空気循環ファン21によって蚊侵入口20から装置内部に向かう空気の流れが作り出され、蚊9が蚊侵入口20から蚊捕集ユニット2内部に吸引される。空気循環ファン21は、蚊捕集器100の稼働に合わせて自動的に作動させてもよいし、任意にオン・オフ可能なようにしてもよい。蚊捕集ユニット2の内部下方には、平面視上の面積が小さくなるテーパー部23が設けられ、面積が下方に行くにつれて小さくなるように構成されている。テーパー部23の下面の入り口部26は、蚊捕集部24と連通している。蚊捕集部24は、蚊9を最終的に捕獲する領域である。蚊捕集部24の側面には、内部の空気を外部に放出するための排気口25が複数設けられている。蚊捕集部24の上面の入り口部26には、その上部と隔離する開閉機構(不図示)が設けられており、捕集された蚊を除去するときには蚊捕集部24を閉鎖し、除去できるようになっている。
【0026】
蚊捕集部24と二酸化炭素発生ユニット1とは、吸気口14を介して空気が移動可能なようになっている。吸気口14を介して、蚊捕集部24の空気が二酸化炭素発生ユニット1に流入する。そして、光触媒作用により発生した二酸化炭素が、排気口15を介して二酸化炭素移送管5に流れる。二酸化炭素移送管5の他端部に設けられた排気口31を介して二酸化炭素滞留空間3に二酸化炭素が流れるようになっている。
【0027】
二酸化炭素滞留空間3の側面には、二酸化炭素を高濃度で排出する放出口30が1又は複数設けられている。放出口30は、開閉自在に構成したり、網目サイズ、口径、厚み、材質等により放出量や放出タイミングを調節したりできる。また、二酸化炭素滞留空間3に、蚊の好む匂い(乳酸等)を含む物質を設置したり、放出口30から放出される二酸化炭素を含む空気の温度を調節するためのヒータを設置したりすることにより、蚊捕集器100の近くに蚊をより高効率に集めることができる。
【0028】
二酸化炭素発生ユニット1の二酸化炭素発生能力、吸気口14の抵抗、放出口30の放出量および二酸化炭素滞留空間3のサイズ等を設計することにより、放出口30から外部に放出される二酸化炭素濃度を所望の濃度に調整することができる。放出口30から排出される二酸化炭素排出濃度は用途により変動し得るが、大気中の二酸化炭素濃度よりも充分に高い濃度とする観点から、600ppm以上であることが好ましく、700ppm以上であることがより好ましく、800ppm以上であることが更に好ましく、1000ppm以上であることが特に好ましい。600ppm以上とすることにより、高効率に蚊を誘引することができる。なお、所望の二酸化炭素発生量が維持できるように、吸気口14の抵抗や放出口30の開口サイズを変更可能な設計として二酸化炭素滞留空間3の二酸化炭素濃度を切り替え可能としてもよい。また、二酸化炭素発生ユニットの換気回数を調節して、二酸化炭素排出濃度を所望値になるようにしてもよい。このようにすることにより、二酸化炭素発生体から発生する二酸化炭素の量を用途に応じて変更し、所望の二酸化炭素発生量および濃度を得ることができる。
【0029】
本発明の二酸化炭素発生システムの発生二酸化炭素量の最適値は、用いる用途により変動し得るものであり、適宜設計することができるものであるが、簡便なシステムで高効率に二酸化炭素を発生する観点から、第1実施形態においては、光触媒に対する活性光線を0.8mJ/cm
2・secの強度で照射した場合に、常温・常圧で二酸化炭素が、活性光線が照射される単位面積あたり0.1nL/cm
2・sec以上発生する条件を満たすように設定することが好ましい。二酸化炭素発生をより高効率に行う観点からは、前記条件において、二酸化炭素が、活性光線が照射される単位面積当たり0.4nL/cm
2・sec以上発生することがより好ましく、0.7nL/cm
2・sec以上発生することがより好ましい。更に、蚊の誘引あるいは植物や微生物の光合成を促進するため、1nL/cm
2・sec以上が更に好ましく、2nL/cm
2・sec以上が更により好ましく、3nL/cm
2・sec以上発生させることが特に好ましい。二酸化炭素を効率的に発生させる観点からは、担持体が光触媒の活性光線の帯域に対して高い透過率を示すことが好ましい。なお、前述の二酸化炭素発生量は、最大の触媒効率を示す波長によって実現できればよい
【0030】
特許文献3に係る培養装置においては、布にコーティング加工された二酸化チタンの光触媒反応により、周囲に浮遊する細菌やほこり等を吸着し、分解して二酸化炭素を発生させているが、空気中の有機物を分解して二酸化炭素を発生させているため二酸化炭素の濃度が低すぎて、蚊を誘引するに足る二酸化炭素量(約600ppm)からはかけ離れていた。一方、第1実施形態に係る二酸化炭素発生システムによれば、光触媒作用により二酸化炭素を発生する有機分子を2質量部以上含む液体を光触媒に供給しているので、活性光線照射により光触媒の酸化作用を高効率、且つ継続的に行うことができる。高効率に二酸化炭素を発生させる観点からは5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、13質量部以上であることが更に好ましい。
【0031】
第1実施形態に係る二酸化炭素発生システムによれば、光触媒作用により二酸化炭素を発生する有機分子を液体中に2質量部以上含有させているので、光触媒のまわりに二酸化炭素を発生する対象が大量に存在する。このため、上記特許文献3に比して二酸化炭素発生量を大幅に増やすことができる。また、光源12の発熱効果により、蚊の誘引効果を高めることができる。また、殺虫剤や電撃法によらずに蚊を捕集でき、更に、液体の成分として安全な成分を用いることにより、人体に害を及ぼさず、安全である。
【0032】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る蚊取り器は、担持体の少なくとも一部に光触媒により分解されて二酸化炭素を発生させる自壊性成分を含んでいる。なお、以降の図において同一の要素部材においては、上記第1実施形態と同様の符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0033】
図5は、第2実施形態に係る担持体これに担持された光触媒および供給された有機分子を説明するための模式図である。担持体11eは、有機物バインダを主成分とするものであり、光触媒10が混練された担持体自身が自壊して二酸化炭素を発生するものである。
【0034】
光触媒の光触媒作用(酸化作用)によって自壊して二酸化炭素を発生するものであれば特に限定されないが、担持体11eに、光触媒10に対する活性光線を0.8mJ/cm
2・secの強度で照射した場合に、常温・常圧で二酸化炭素が、活性光線が照射される単位面積あたり0.05nL/cm
2・sec以上発生するものが好ましく、0.1nL/cm
2・sec以上発生するものがより好ましい。
【0035】
上記担持体11eは、固体状であれば特に限定されないが、好ましい例として、ビーズ、フィルム、シート、ゲル、不織布、布、所望の形状の成形物等が例示できる。これらは、単体で形成されていても、基板等の支持体上に形成されていてもよい。不織布は、例えば、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維等により形成できる。担持体である不織布に酸化チタン等の光触媒粒子を絡ませて固定化したものを用いることができる。また、炭素繊維からなる不織布に有機物バインダを含浸させたものを担持体として用いてもよい。
【0036】
第2実施形態に係る担持体(有機物バインダ)11eを用いることにより、液体40中の有機分子41を光触媒により分解して二酸化炭素を発生させる機構に加え、担持体の少なくとも一部を自壊させて二酸化炭素を発生させることができる。このため、より高効率に二酸化炭素を発生させることができる。
【0037】
有機物バインダの種類は特に限定されないが、光触媒により自壊を進行させて二酸化炭素を発生させる観点から、飽和炭化水素樹脂または/および水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、エーテル結合、グリコシド結合、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合、グアニジノ基、イミダゾリル基、インドリル基、メルカプト基、カーボネート結合、アセタール結合およびイミド結合の少なくともいずれかを含む樹脂を主成分とするものが好ましい。活性光線の光触媒作用に支障をきたさなければ、不飽和炭化水素等も好適に用いられる。また、窒素酸化物や、硫黄酸化物、ハロゲンの酸化物等を発生させない観点からは、樹脂は、C原子、O原子、H原子のみから構成されていることが好ましい。また、分解しやすさの観点からは、分子構造が単純で、酸化分解により炭素結合鎖が離脱されやすい樹脂が好ましい。このような樹脂として、長鎖の炭化水素構造を有する樹脂を挙げることができる。具体例を挙げれば、セルロース等の多糖類、流動パラフィン等の炭化水素化合物、酢酸ビニル等のカルボキシル基含有樹脂、ポリビニルアルコール等の水酸基含有樹脂が例示できる。これらのうちでも、炭素原子を多く包括しながら分子構造が単純で、酸化分解により炭素結合鎖が離脱されやすいセルロースが特に好ましい。有機物バインダは単独または2種類以上を混合して用いることができる。
【0038】
フィルムの形成方法は、光触媒と有機物バインダを溶媒に分散または溶解させたものを支持体上に塗工・乾燥する方法の他、接着層を介して接合する方法やラミネートによる方法が例示できる。混練物の形成方法は、有機物バインダと光触媒を溶媒中で分散させる方法等、公知の方法を制限なく利用できる。支持体としては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックやガラスを好適に利用できる。
【0039】
第2実施形態においては、少なくとも一部に自壊性を示す担持体を用いているので、二酸化炭素発生効率を高めることができる。また、液体を供給しているので、担持体自身の自壊の程度を抑制することができる。このため、安定した二酸化炭素供給を実現できる。
【0040】
(変形例)
以下、上記実施形態の変形例について説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく種々の変形が可能である。
【0041】
上記実施形態においては、二酸化炭素発生ユニット1に光源12を用いる例を説明したが、光源を用いずに外部からの光(太陽光、室内光)を取り入れて光触媒を活性化させてもよい。また、光源と外部光を併用してもよい。例えば、太陽光ないし室内光で充分に光触媒を励起できる場合には光源12をオフし、太陽光ないし室内光が弱いまたは利用できない場合には光源をオンする構成としてもよい。光源のオン・オフの判定は、例えば太陽光・室内光強度測定部(不図示)により判定すればよい。なお、太陽光等により光量が充分な場合であっても、光源を熱源或いは紫外光による蚊の誘引のために利用してもよい。外部からの光を取り入れる場合には、光触媒の活性光線を透過可能な材料を用いる。即ち、可視光応答型光触媒に用いる用途には可視光透過性の材料を、紫外光応答型の光触媒を用いる場合には紫外光透過性の材料(例えば、プラスチック材料、ガラス)から構成すればよい。蚊は、赤外のセンシング機能や紫外光に誘引される特性を有するので、熱源を蚊の侵入口近傍に設けてもよい。
【0042】
また、二酸化炭素発生ユニット1、蚊捕集ユニット2、二酸化炭素滞留空間3の配置は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上部に二酸化炭素発生ユニット1を下部に蚊捕集ユニット2を設けて、これらの間に二酸化炭素滞留空間3を設けてもよい。
【0043】
液体供給手段として、液体供給ノズルを用いて担持体上方から噴霧または液滴を滴下する態様を説明したが、種々の変形が可能である。例えば、
図6の蚊取り器101に示すように、二酸化炭素発生ユニット1aの底部に液体を貯留させ、担持体11を液体40に浸漬させることにより、担持体11に液体40を供給してもよい。変形例に係る液体供給手段6aは、担持体を支持する支持体64と、支持体64を図中のy軸方向の高さを自在に調整する高さ調節手段63とを有する。支持体64の一端部はガラス基板16に固定され、他端部は高さ調節手段63により保持されて高さが調整可能なようになっている。所望のタイミングで、支持体64が図中のY軸方向下方に伸長して、担持体11が液体40に浸漬される。そして、担持体11を再び引き上げて所定の位置に配置される。これにより、担持体11に液体を供給することができる。また、ポンプを用いて液体を担持体表面に流し、再び回収する機構としてもよい。また、浮力により液体に担持体を半分浸漬し、表面張力により担持体表面に液体が浸漬していない部分に液体を供給するようにしてもよい。
【0044】
図7は、第2変形例に係る蚊取り器102の模式図である。同図に示すように、二酸化炭素滞留空間3を設けずに、直接、二酸化炭素発生ユニット1bに放出口30bを設けて、ここから二酸化炭素を放出する構成としてもよい。かかる構成によれば、装置の簡便化を図ることができる。
【0045】
図8は、第3変形例に係る蚊取り器103の模式図である。同図に示すように、蚊取り器103は、箱型の二酸化炭素発生ユニット1cが設けられ、その外側頂面19に粘着シート80設けられている。また、二酸化炭素発生ユニット1cの側方には、吸気口18が設けられ、吸気口18の近傍には不図示の空気循環ファンが設けられている。この空気循環ファンにより、二酸化炭素発生ユニット1c内に空気が吸引するようになっている。そして、二酸化炭素発生ユニット1cで発生した二酸化炭素は、放出口30cから排出される。放出口30cは、1つ設けても複数設けてもよい。放出口30c近傍は、二酸化炭素濃度が高く、且つ光源12による熱により周囲よりも温度が高く蚊9を誘引しやすい環境となっている。二酸化炭素発生ユニット1cの頂部は、図中の前方と後方の両面に開口部を有するコの字型の覆い81が設けられている。覆い81により、放出口30cから排出された二酸化炭素の拡散を抑制する効果がある。
図8の例においては、タンク4は、着脱自在なカートリッジ式であり、液体40が無くなった場合には新品と容易に交換することができる。粘着シート80は、ロール状の粘着シートを引き出し、使用後に巻取る方式等を採用することができる。
図8の構成によれば、装置を簡便化できるというメリットがある。
【0046】
放出口近傍において、ヒータおよび/または匂い発生物質を設けてもよい。二酸化炭素による蚊の誘引の他に、温度や匂い発生物質により、より効果的に蚊を誘引できる。匂い発生物質は、液体40に含まれるようにしてもよい。この場合、装置構成が容易であるというメリットを有する。なお、匂い発生物質、例えば芳香族化合物は、光触媒により分解される特性を有するが、担持体に液体が供給された際に光触媒による分解よりも揮発する方が支配的である物質を選定することが好ましい。
【0047】
[第3実施形態]
次に、二酸化炭素発生システムを植物生長促進用途に用いる例について説明する。
図9に第3実施形態に係る二酸化炭素発生システムの一例の模式的説明図を示す。二酸化炭素発生システム200は、箱型の筐体70から配管71を介して所望の濃度の二酸化炭素が、植物栽培容器73に供給されるようになっている。植物栽培容器73内には、二酸化炭素の濃度を測定する濃度センサ74が設けられ、配管71には調節弁72が設けられ、濃度センサ74の測定結果に基づいて植物栽培容器73内の二酸化炭素濃度が一定に保たれるようになっている。筐体70の側面の頂部には、筐体70内で発生した高濃度二酸化炭素を含む空気をスムーズに植物栽培容器73に送れるように吸気口76が複数設けられている。
【0048】
筐体70の内部中央には、円柱状の光源12pが設けられ、底部近傍には二酸化炭素を植物栽培容器73に送る空気循環ファン(不図示)が設けられている。そして、筐体70の底部には、光触媒が担持された担持体11eが配設され、その上方に液体を担持体に供給する液体供給ノズル13pと、光源12pが配置されている。筐体70の内部空間は、光触媒から発生した高濃度の二酸化炭素を収容する滞留空間77となっている。滞留空間77に充填された二酸化炭素は、空気循環ファンによる流れおよび調節弁72により、配管71を介して箱型の植物栽培容器73内に供給されるようになっている。配管71、調節弁72等は、図中のY軸方向に規模に応じて複数備えることができる。
【0049】
二酸化炭素発生システム200によれば、植物栽培容器73に対して、外付け装置で容易に二酸化炭素を供給することができる。また、液体40は、液体を補充可能に構成されているので、液体が無くなった場合には容易に補充することができる。
【0050】
(変形例)
第3実施形態において、光源12pに代えてLEDシートを用いてもよい。また、担持体11を底部に配置する態様の他、捲回させた構造の担持体を内蔵させ、吸水性のある担持体を用いて、担持体下部に有機分子を含む液体を浸漬させたものを箱型の植物工場内の壁面等に直接設置してもよい。また、植物工場用途に限定されず、野菜や花等の植物栽培キット内に、本システムを設置してもよい。
【0051】
本発明は、上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、上記実施形態および変形例は、互いに好適に組み合わせられる。
【0052】
<実施例>
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
エチルセルロースに光触媒を添加し、溶媒としてαテルピネオールを用いてペーストを形成した。これをガラス基材上にスクリーン印刷により所望の回数、塗工した。次いで、500℃で1時間焼成することにより、光触媒を含む多孔性薄膜を作製した。光触媒粒子には、二酸化チタン(P−25、Degussa社製)を用いた。焼成により、厚み約20μmの多孔性薄膜を得た。
【0054】
液体として、水53質量部、エチルアルコール34質量部、グリセリン13質量部を用い、これを多孔性薄膜の担持体表面積100cm
2当たり0.4CC散布し、300_〜400nmの帯域の紫外光(ブラックライト)を0.8mJ/cm
2・secの強度で照射した場合の二酸化炭素発生量を検討した。
【0055】
スクリーン印刷の回数、即ち、担持体の厚みに対する二酸化炭素の生成速度をプロットした結果を
図11に示す。なお、スクリーン印刷を1回行った時の厚みは約5μmであり、5μmの厚さのときの二酸化炭素生成速度を1として評価した。
【0056】
図11より、スクリーン印刷の回数が増えるにしたがって二酸化炭素生成速度が大きくなることがわかる。所望の二酸化炭素生成速度を得るために、光の届く範囲等を考慮の上、光触媒の種類や添加量に応じて積層数や厚み等を適宜設計すればよい。
【0057】
図12より、有機液体を担持体表面積100cm
2当たり0.4CC散布するだけで、1250分(約21時間)にわたって4〜5nL/cm
2secの二酸化炭素を生成した。即ち、21時間毎に液体の供給を行うことにより、蚊取り器から長時間にわたって一定量の二酸化炭素を含む空気を放出できることがわかる。
【0058】
この二酸化チタン(P−25、Degussa社製)を用いて、12cm×10cmの大きさのガラスからなる基板上にスクリーン印刷を3回行って薄膜を作成した。そして、
図7に示した蚊取り器において、二酸化炭素発生ユニットの底部に担持体付き基板を設置し、液体を担持体表面積100cm
2当たり0.4CC散布した後、0.8mJ/cm
2・secの紫外光を照射した場合の二酸化炭素発生量を算出した。なお、内部のサイズは、蚊捕集ユニットは100(横)×120(縦)×110(高さ)mm、二酸化炭素発生ユニットは100(横)×120(縦)×40(高さ)mmとした。また、空気循環ファンの流量を640cc/minとし、放出口30bの寸法を10mm×10mmとし、3か所に設けた。そして、この放出口30bの流速は0.35cm/secとなるように調整した。また、蚊侵入口20の吸引寸法は8mmφ×3setsとし、流速を6.9cm/secとし、更にタンク4のサイズを20×120×85mm(204cm
3)とした。そして、担持体への液体供給量として0.48ccを21時間に1回供給した。有機液体の組成比は、上述した通り、質量比で水:エチルアルコール:グリセリン=53:34:13とした。担持体サイズは100×120mmとした。放出口30bからの二酸化炭素放出濃度は920ppmであり、二酸化炭素含有空気放出量を64cc/minとなるようにした。
【0059】
上記条件において、以下の結果が得られた。
(1)紫外光を照射してから8分で二酸化炭素発生ユニットの二酸化炭素ガス濃度は、900ppmを超える(環境濃度は400ppm、即ち、生成二酸化炭素濃度は500ppmを越える)。これは、蚊を誘引可能な600ppmを超えた濃度である。
(2)二酸化炭素発生ユニットの換気回数を1時間で8回とすると、1時間に二酸化炭素発生ユニットから放出される二酸化炭素を含む空気は、3840cm
3/h、濃度は920ppm(環境濃度が400ppmであるので、生成二酸化炭素濃度は520ppm)となり、この濃度の二酸化炭酸を継続して長時間供給することができる。
(3)上記(1)(2)を維持するための液体の必要容量は、120cm
2の担持体に0.48ccを21時間に1回散布した場合、1年間で200cm
3となる。従って、上記のタンク4のサイズで1年間のメンテナンスフリー稼働を実現できる。
【0060】
なお、睡眠時に人間が発生するCO
2は、呼気量:0.37m
3/h=6.2L/min、CO
2濃度:4%に対し、CO
2発生量:6.2×0.04=0.248L/min=248cm
3/min=14480cm
3/hであるので、発生するCO
2は睡眠時に人間が発生するCO
2よりは少なく、人間に害を及ぼす恐れはない。