【実施例】
【0019】
表1は、本発明のTiAl熱間鍛造合金ならびに比較例1、2の材料における成分、熱間鍛造温度、熱処理条件、組織、並びに室温、850℃、950℃での引張特性を示している。
【0020】
【表1】
【0021】
図1は本発明のTiAl熱間鍛造材(組成Ti−41Al−0.6Cr−4Nb(at%))を1350℃で熱間鍛造した場合の外観写真である。鍛造温度はα+β領域となっている。高温変形能に優れたβ相が存在するため、この熱間鍛造材の鍛造性は良く、割れが無い。
図3は
図1の鍛造後の材料の光学顕微鏡組織写真である。右隅の横線は、10μmを示している。鍛造による塑性ひずみの効果で結晶粒径が微細化し、例えば10〜100μm程度になっている。
【0022】
図3は本発明のTiAl熱間鍛造材(組成Ti−41Al−0.6Cr−4Nb(at%))を熱間鍛造後にα域の1200℃で2時間保持後に3℃/分で冷却した供試材の反射電子像写真である。(A)は低倍の写真、(B)は高倍の写真である。α2相、γ相よりなる完全ラメラ組織であり、鋳造材と同様になっている。この熱処理後の材料には、高温変形能が優れた(高温強度が低い)β相が存在しない。粒径は鍛造のままに較べると若干粗大化しているが、鋳造材に較べると大幅に小さい。そこで、この熱間鍛造材は、以上の組織のため高温強度、常温延性ともに優れている。
【0023】
図4は本発明のTiAl熱間鍛造材を含むTiAl合金の熱間鍛造性を評価するための熱間鍛造試験を説明するもので、(A)はインゴットの外観写真と鍛造試験に供した素材の切断位置(下側を使用)、(B)は熱間鍛造試験の情況写真、(C)は熱間鍛造試験での高さの変化の説明図である。
図4(A)は、表2、3の組成についてインゴットを作製した外観写真である。インゴット作製方法は、イットリアるつぼを用いた高周波溶解による。インゴットの原料は、スポンジTi、Al粒に加えて、添加元素としてCr、Mo、Mn、Nb、Vを単独または複合添加する。溶解雰囲気はアルゴンガス中である。写真のインゴット重量は約700gであるが、押し湯切断後は約450gとなる。
【0024】
図4(B)および(C)は、熱間鍛造試験の情況写真および説明図で、加熱温度は1350℃、プレスの速度は50mm/秒以上、鍛造方向は据え込み、鍛造回数は7回で、都度再加熱を行っている。熱間鍛造試験での高さの変化は、90mm、80mm、70mm、55mm、40mm、30mm、20mm、15mmであり、順次圧縮をしている。
【0025】
表2と表3は、熱間鍛造性と熱処理後のβ相残留有無を調査したインゴットの組成と試験結果を示すものである。
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
図5は本発明のTiAl熱間鍛造材を含むTiAl合金の熱間鍛造性に及ぼすAl濃度とCr当量の影響を説明する図で、熱間鍛造での割れ発生状態を説明してある。ここで、
図5の各プロットは別々のインゴットに相当している。各添加元素の効果は異なるが、Cr+Mo+0.5Mn+0.25Nb+0.25V(at%)を用いれば結果が良く整理できる。上記Cr当量が1at%以上、Al濃度が43at%以下において、割れずに熱間鍛造できることが確認できた。
図6は
図5の熱間鍛造試験後の試験素材の外観写真の例である。
図6(A)は割れ無しの場合、(B)は割れ発生の場合を示している。
【0029】
図7は本発明のTiAl熱間鍛造材を含むTiAl合金鍛造材の熱処理後の組織変化に及ぼすAl濃度とCr当量の影響を説明する図であり、β相残留の有無について説明してある。ここでは、表2、3の組成で作製したインゴットの熱間鍛造材を使用して試験している。試験条件は、熱間鍛造材から切り出した小片について、1350℃で2時間保持後に0.2℃/分で冷却する熱処理を実施している。この図に関する熱処理試験条件では、各組成で最終的にβ相が残留するかどうか調べるため、非常に遅い速度で冷却した。従って結晶粒径は粗大化している。
各添加元素の効果は異なるが、Cr当量であるCr+Mo+0.5Mn+0.25Nb+0.25V(at%)を用いればうまく結果を整理できる。
図7の斜めに位置する点線より上側の組成ではβ相が残留し、それ以下ではβ相は冷却過程で消失し、α2/γ完全ラメラ組織が形成されている。なお、この図において点線で囲んだ範囲は、α2/γ完全ラメラ組織が形成され、かつ
図5に示した熱間鍛造性が良好であった組成である。
【0030】
図8は
図7のTiAl合金鍛造材の熱処理後の反射電子像写真の例で、(A)はβ相が残留した組織の例 、(B)はβ相が残留せず完全ラメラ組織となった組織の例を示してある。
【0031】
[比較例1]
図9は、TiAl鋳造材のTiAl二元系状態図における代表的な組成範囲の説明図である。鋳造材ではβ相安定化元素(Mn、Cr、Mo、V等)は添加されても少量のため、相の状態は
図9から変化しない。相変態は、α→α+γ→α2+γであり、高温においてもβ相は安定でない。
図10は、従来組成のTiAl鋳造材(組成Ti−46at%Al)の光学顕微鏡組織写真である。結晶粒径が粗大なので常温延性に乏しい
【0032】
図11は、従来組成のTiAl鋳造材(組成Ti−46at%Al)の反射電子像組織写真である。TiAl鋳造材は、γ相とα2相で構成され、この2相が層状にした組織であるラメラ組織となっている。ここでは、すべての組織がこのラメラ組織で構成されている為、完全ラメラ組織となっている。TiAl鋳造材は完全ラメラ組織であり、高温強度は高く850℃程度まで使用可能である。
図12は、従来組成のTiAl鋳造材(組成Ti−46at%Al)を1350℃で熱間鍛造した場合の外観写真である。β相(高温変形能に優れた相)が存在しないため、変形能が悪く、大きな割れが発生した。
【0033】
[比較例2]
図13は、従来組成のTiAl熱間鍛造合金の状態図上における代表的な組成範囲の説明図である。この状態図は、Al濃度を42at%に固定し、β安定化元素(この場合はV)を添加してβ相を安定化したTiAl−V三元系合金の状態図である。添加元素がMn、Cr、Mo、Nbでも基本的な構成は共通しているが、各相の存在位置は添加元素に応じて変化する。また、Al濃度の変化によっても各相の存在位置は変化する。ここでは、矩形の実線で囲んだ領域は添加元素がVの場合での従来のTiAl熱間鍛造合金の組成であるが、Vが9〜13at%の領域であるため、1300℃付近でβ+α相領域が出現しており、1000℃以下の低温側でもβ相が安定であるため、どのような熱処理を行っても最終製品にβ相が残る。また製品として高温で長時間使用すれば平衡状態に近づきこのβ相の量が増加していくこともある。
【0034】
図14は、従来組成のTiAl熱間鍛造材(組成Ti−42Al−5Mn(at%))を1300℃で熱間鍛造した場合の外観写真である。鍛造温度はα+β領域である。高温変形能に優れたβ相が存在するため鍛造性は良く、割れが無い。
図15は、従来組成のTiAl熱間鍛造材(組成Ti−42Al−5Mn(at%))を1300℃で2時間保持し、20℃/分で冷却熱処理した供試材の反射電子像である。この熱間鍛造材の組織は、β相、γ相、ならびにα2/γラメラ組織から構成されている。高温変形能が優れた(高温強度が低い)β相が存在するため、高温強度は低く、使用可能温度700℃程度である。そして、熱処理条件の変化でこのβ相を消失させることは不可能である。この組成では低温でβ相が安定するためである。