【実施例】
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。なお、例中の化合物の分析、同定には
1H-NMR、GPC及びTOF-MSを用いた。
<
1H-NMRの分析方法>
1H-NMR分析では、日本電子データム(株)製JNM-ECP400、JNM-ECP600を用いた。NMR測定値における積分値は理論値である。
<GPCの分析方法> GPC分析では、GPCシステムとしてSHODEX GPC SYSTEM-11を用い、下記条件にて測定を行った。
展開溶媒:テトラヒドロフラン 流速:1mL/min カラム:SHODEX KF-801,KF-803,KF-804(I.D.8mm×30cm) カラム温度:40℃ 検出器:RI×8 サンプル量:1mg/g,
100μLリファレンスにはトリエチレングリコール、PEG4000、PEG20000を用いた。GPC測定値には、高分子量不純物と低分子量不純物を、溶出曲線の変曲点からベースラインを垂直に切って除いたメーンピークの解析値を示した。
Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量、Mw/Mnは多分散度、Mpはピークトップ分子量を表す。
<TOF-MSの分析方法> TOF-MS分析では、Bruker製 autoflexIIIを用いた。サンプルのマトリックスに1,8,9-Anthracenetriol、リファレンスにAngiotensin II[M+H]1
+ Mono 分子量1046.5418、Somatostain 28[M+H]
1+Mono 分子量3147.4710を用いた。
【0053】
(実施例1)
1−([2,3−ジステアロイル]プロポキシカルボニルアミノ)−2−(メチルポリオキシエチレン−オキシプロピルアミノ カルボニルオキシ)−3−(メチルポリオキシエチレン−オキシカルボニルアミノ)−プロパン(化合物(I))の合成(m≒45、n≒11(PEG分子量約2,000、500の場合))
【0054】
【化10】
【0055】
(実施例1−1)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を付した100mL丸底フラスコへ1,3−ジアミノ−2−プロパノール4.5g(50mmol)、ジクロロメタン80gを入れ、ジクロロメタン50gに溶解させたメトキシポリエチレグリコール−p−ニトロフェニルカーボネート(SUNBRIGHT MENP-20H、重量平均分子量2,000、日油(株)製)10g(5mmol)を1時間かけて窒素雰囲気下で滴下した。滴下後25℃で3時間反応を行った。反応終了後、溶液をろ過した後、25%食塩水で3回洗浄し、有機層をエバポレータで減圧濃縮した。残った濃縮物をトルエン80gで溶解し、硫酸ナトリウム3gを加えて25℃で1時間攪拌し脱水した。その後、溶液をろ過して、KW2000(協和化学工業株式会社製)による処理を2回行った。処理溶液にヘキサン70gを加えて、析出した結晶をろ別した。得られた結晶は酢酸エチル100gを加えて40℃にて加温溶解後、15℃まで冷却し、ヘキサンを添加して晶析を行った。ろ別した結晶をヘキサンで洗浄した後、結晶をろ取し、乾燥し、下記に示す化合物(II)8.5gを得た。(4.3mmol;収率85%)
1H-NMR(CDCl
3,内部標準TMS)δ(ppm):2.62 (1H, dd)、2.81 (1H, dd)、3.13 (1H, m)、3.35 (1H, m)、3.38 (3H, s)、3.52-3.78 (180H, m)、4.22 (2H, m)、5.45 (1H, br)
【0056】
【化11】
【0057】
(実施例1−2)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、および冷却管を付した50mL丸底フラスコへ化合物(II)7.5g(3.75mmol)及びトルエン22.5gを加え、窒素雰囲気下で40℃で攪拌し、化合物(II)を溶解させた。二炭酸ジ−tert−ブチル1.03g(4.7mmol)を加えて40℃で3時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチル、ヘキサンで晶析を2回繰り返した後にヘキサンで洗浄し、結晶をろ取し、乾燥し下記に示す化合物(III)6.4gを得た。(3.2mmol;収率85%)
1H-NMR(CDCl
3,内部標準TMS)δ(ppm):1.44 (9H, s)、3.14-3.33 (4H, m)、3.38 (3H, s)、3.52-3.77 (180H, m)、4.21-4.24 (2H, m)、5.43 (1H, s)、5.61 (1H, s)
GPCMn:2,195、Mw2,245、Mw/Mn:1.011、Mp2,236
【0058】
【化12】
【0059】
(実施例1−3)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を付した50mL丸底フラスコへ化合物(III)6.1g、及びジクロロメタン15.5gを加え、窒素雰囲気下25℃で攪拌し、化合物(III)を溶解させた。炭酸ジ(N−スクシンイミジル)1.59g(6.2mmol)、次いでトリエチルアミン0.94g (9.3mmol)を加えて25℃で4時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をろ過し、エバポレータを用いて濃縮した後、トルエン40gを加えて再び濃縮した。析出物をろ過した後、ろ液にKW700(協和化学工業株式会社製)を加えて精製処理を2回行った。処理溶液にヘキサンを加えて、析出した結晶をろ別した。得られた結晶は酢酸エチルを加えて40℃にて加温溶解後、15℃まで冷却し、ヘキサンを添加して晶析を行った。ろ別した結晶をヘキサンで洗浄した後、結晶をろ取し、乾燥し、下記に示す化合物(IV)5.5gを得た。(2.8mmol;収率90%)
1H-NMR(CDCl
3,内部標準TMS)δ(ppm):1.44 (9H, s)、2.84 (4H, s)、3.33-3.34 (1H, m)、3.38 (3H, s)、3.52-3.77 (182H, m)、4.23 (2H, t)、4.85 (1H, t)、5.17 (1H, m)、5.63(1H, s)
【0060】
【化13】
【0061】
(実施例1−4)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を付した50mL丸底フラスコへ化合物(IV)5.5g(2.75mmol)、トルエン25gを加え、窒素雰囲気下40℃で攪拌し、化合物(IV)を溶解させた。トルエン5gに溶解させたメトキシポリエチレグリコールプロピルアミン(SUNBRIGHT MEPA-05H、重量平均分子量500、日油(株)製)1.7g(3.4mmol)を加えて40℃で3時間撹拌した。反応終了後、反応混合物をイオン交換水により2回洗浄したあと、クロロホルムで2回抽出した。クロロホルム層を濃縮し、硫酸マグネシウムで脱水した後ろ過した。処理溶液をエバポレータで減圧濃縮し、酢酸エチル、ヘキサンによる晶析を15℃で行った。結晶をろ別後、ヘキサンを加え、結晶を洗浄し、下記に示す化合物(V) 4.2gを得た。(1.7mmol;収率76%)
1H-NMR(CDCl
3,内部標準TMS)δ(ppm):1.43 (9H, s)、1.77 (2H, t)、3.33-3.34 (4H, m)、3.38 (6H, s)、3.52-3.77 (183H, m)、4.21 (2H, d)、4.73 (1H, t)、5.21 (1H, s)、5.52 (1H, s)、5.60 (1H, s)
GPCMn:2,721、Mw2,780、Mw/Mn:1.022、Mp2,787
【0062】
【化14】
【0063】
(実施例1−5)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を付した50mL丸底フラスコへ化合物(V) 3.5g(1.4mmol)、ジクロロメタン35gを加え、窒素雰囲気下25℃で攪拌して化合物(V)を溶解させた。メタンスルホン酸2.0g(21mmol、15当量)を加えて25℃で3時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、クロロホルムで抽出した。クロロホルム層を濃縮脱水した後、エバポレータで減圧濃縮し、酢酸エチル35g、ヘキサン35gによる晶析を15℃で行った。結晶をろ別後、ヘキサン35gを加え、結晶を洗浄し、下記に示す化合物(VI)を2.8g(収率79%)得た。
1H-NMR(CDCl
3,内部標準TMS)δ(ppm):1.78 (2H, t)、2.79-2.87 (2H, m)、3.26-3.45 (3H, m)、3.38 (6H, s)、3.52-3.77 (224H, m)、4.21 (2H, t)、4.68 (1H, s)、5.46 (1H, s)
【0064】
【化15】
【0065】
(実施例1−6)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を付した50mL丸底フラスコへ化合物(VI)2.71g(1.08mmol)、炭酸ナトリウム0.28g、トルエン13.8gを加え、窒素雰囲気下40℃で化合物(VI)を溶解させた。次いでN−スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ−ジステアロイルグリセリルエーテル1.01g(1.32mmol)を加え、40℃で3時間撹拌した。反応終了後、KW2000(協和化学工業株式会社製)による処理を4回行い、反応により遊離したN−ヒドロキシスクシンイミドを除去した。次にトルエン溶液を濃縮し、濃縮物をアセトニトリル/ヘキサンで洗浄を繰り返すことにより脂質系不純物を除去した。最後にアセトニトリル層をエバポレータにより減圧濃縮、乾固し、下記に示す化合物(I)を2.8g(収率79%)得た。
得られた化合物(I)は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15、90/10)にて展開後、ヨウ素発色にて確認したところ、純度は94%以上であった(リファレンスとして分子量2,000の末端メトキシのポリエチレングリコールを使用)。残存脂肪酸の分析は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=99/5)にて展開し、リン酸硫酸銅の発色にて分析した。その結果、残存ステアリン酸は見られなかった。
1H-NMR(CDCl
3,内部標準TMS)δ(ppm):0.88 (6H, t)、1.25-1.31 (56H, m)、1.60 (4H, quint)、1.78 (2H, t)、2.31 (4H, t)、3.26-3.36 (5H, m)、3.38 (6H, s)、3.52-3.77 (224H, m)、4.11-4.30 (6H, m)、4.74 (1H, br)、5.24 (1H, br)、5.53-5.65 (3H, m)
分子量(TOF-MS):3,387
【0066】
【化16】
【0067】
(実施例2)
化合物(VII)の合成(m≒22、n≒11(PEG分子量約1,000、500の場合))
ポリエチレングリコール誘導体として、メトキシポリエチレグリコール−p−ニトロフェニルカーボネート(SUNBRIGHT MENP-10H、重量平均分子量1,000、日油(株)製)及びメトキシポリエチレグリコールプロピルアミン(SUNBRIGHT MEPA-05H、重量平均分子量500、日油(株)製)を用い、実施例1−1〜1−6と同様に合成した。
得られた化合物(VII)は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15、90/10)にて展開後、ヨウ素発色にて確認したところ、純度は95%以上であった(リファレンスとして分子量1,000の末端メトキシのポリエチレングリコールを使用)。残存脂肪酸の分析は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=99/5)にて、展開し、リン酸硫酸銅の発色にて分析した。その結果、残存ステアリン酸は検出されなかった。
分子量(TOF-MS):2,370
【0068】
(実施例3)
化合物(VIII)の合成:(m≒45、n≒22(PEG分子量約2,000、1,000の場合))
ポリエチレングリコール誘導体として、メトキシポリエチレグリコール−p−ニトロフェニルカーボネート(SUNBRIGHT MENP-20H、重量平均分子量2,000、日油(株)製)及びメトキシポリエチレグリコールプロピルアミン(SUNBRIGHT MEPA-10H、重量平均分子量1,000、日油(株)製)を用い、実施例1−1〜1−6と同様に合成した。
得られた化合物(VIII)は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=85/15、90/10)にて展開後、ヨウ素発色にて確認したところ、純度は97%以上であった(リファレンスとして分子量2,000の末端メトキシのポリエチレングリコールを使用)。残存脂肪酸の分析は、TLC(薄層クロマトグラフィー:クロロホルム/メタノール=99/5)にて、展開し、リン酸硫酸銅の発色にて分析した。その結果、残存ステアリン酸は検出されなかった。
分子量(TOF-MS):4,074
【0069】
(実施例4)リポソームの調製
L−α−ジステアロイルホスファチジルコリン、コレステロール、L−α−ジステアロイルホスファチジル−DL−グリセロールナトリウム、化合物(I)が100:100:60:15 μmolとなるように秤取し、クロロホルム/メタノール混液(4/1(v/v))に溶解した後、エバポレーターを用いて溶媒を留去することにより脂質の薄膜を形成した。更にデシケーター内で一晩静置することにより有機溶媒を完全に除去した。その後、9.0 %スクロース 10 mM乳酸緩衝液を用いて再水和し、エクストルージョン法にてサイズコントロールを行いリポソーム懸濁液とした。また、化合物(VII)、化合物(VIII)に関しても同様にリポソームの調製を行った。
【0070】
(実施例5〜7)水和層の厚み(FALT (Fixed aqueous layer thickness))の算出
異なる濃度のNaCl溶液中と9.0 %スクロース 10 mM乳酸緩衝液を混合した溶液中に実施例4で調製した化合物(I)のリポソームを懸濁し、ゼータ電位を測定した。NaCl濃度より算出したパラメーターκに対して対応するゼータ電位をプロットし、得られた傾きの絶対値を水和層の厚みとした。ゼータ電位の測定にはZetasizer Nano ZS(Malvern Instruments 社製)を用いた。また、化合物(VII)、化合物(VIII)のリポソームに関しても同様にFALTの算出を行い、それぞれ実施例6、及び実施例7とした。
【0071】
(比較例1)
下記式(IX)で示される、PEG鎖を一本持つ脂質PEG(SUNBRIGHT GS-020、重量平均分子量2,000、日油(株)製)を用いて、実施例4及び5と同様にリポソームの調製、及びFALTの算出を行った。
【0072】
【化17】
【0073】
実施例5〜7及び比較例1のFALTの算出の結果を表1にまとめた。
【0074】
表1に示すように、本発明の分岐型ポリエチレングリコール修飾脂質を用いたリポソームは、同じ長さのPEG鎖を1本持つポリエチレングリコール修飾脂質である比較例1と比較して、大きな水和層を形成していることが示された。これは短鎖PEGが長鎖PEGのマッシュルーム構造をブラシ構造へと押し上げているためと考えられる。
【0075】
【表1】