特許第6202584号(P6202584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202584放射性物質を含む水の浄化用の吸着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202584
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】放射性物質を含む水の浄化用の吸着シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20170914BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B32B5/24
   G21F9/12 501K
   G21F9/12 501F
   B01J20/28 Z
   B01J20/18 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-174029(P2016-174029)
(22)【出願日】2016年9月6日
(62)【分割の表示】特願2013-86141(P2013-86141)の分割
【原出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2016-221976(P2016-221976A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-92749(P2012-92749)
(32)【優先日】2012年4月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507369811
【氏名又は名称】特種東海製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松野 祐也
(72)【発明者】
【氏名】須藤 睦己
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−036922(JP,A)
【文献】 特開昭54−047359(JP,A)
【文献】 特開2013−230450(JP,A)
【文献】 特開平01−231940(JP,A)
【文献】 特開2005−147667(JP,A)
【文献】 特開2012−245427(JP,A)
【文献】 特開2013−088411(JP,A)
【文献】 特開2013−253950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
B01D39/00−41/04
B01J20/00−20/34
D04H1/00−18/04
G21F9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚以上の不織布の間に熱接着材と吸着材とが固着された吸着シートであって、
前記不織布が疎水性の繊維からなる不織布、
前記吸着シート表面と水との接触角が水滴下後0.05秒後で100°以下且つ水滴下後1秒後で80°以下、
前記吸着シートの湿潤引張強さ残存率が80%以上、及び、
前記吸着材が放射性物質吸着材であり、その粒子径が前記不織布の平均ポアサイズを下回る割合が40〜70%である、放射性物質を含む水の浄化用の吸着シート。
【請求項2】
前記不織布の平均ポアサイズが10μm〜50μmである、請求項1記載の吸着シート。
【請求項3】
湿潤引張強さが1.0kN/m以上である、請求項1又は2に記載の吸着シート。
【請求項4】
前記放射性物質吸着材の含有量が50g/m〜200g/m、且つ、熱接着材と放射性物質吸着材の合計質量に対し熱接着材が10〜30質量%の範囲で含有される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の吸着シート。
【請求項5】
前記放射性物質吸着材がゼオライトである、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の吸着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質の除染用に使用される吸着シートであり、特に水を使った除染作業の際に生ずる放射性物質を含む汚染水の処理、あるいは放射性物質で汚染された海水や河川水の除染等の放射性物質を含む水の浄化等に用いられる水系の吸着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
2011年3月11日に東日本大震災が発生し、福島第一原子力発電所の事故により、放射性物質による土壌汚染が周辺地域や海洋で認められるようになった。また、事故後は農作物や飲料水に高濃度の放射性物質が含まれる事例が多く発見され、人体への毒性や風評被害などが強く問題視されてきた。
【0003】
放射性物質の除染は一般に高圧水による洗い流し、汚染された土木表面の削り出しのような手法が取られているが、放射性物質を洗い流した水や削り出した汚染土壌や木の移送、保管場所の問題が生じており、さらには除染後の放射性汚染物質の漏えいを防ぐ必要がある。そのため、汚染された土壌や水質のより簡便な除染が求められており、その対策として、土壌中や水質中に放射性物質を吸着する性能を持つ除染シートを長期間設置しておき、当該シートを回収することが試みられている。
【0004】
放射性物質の吸着材料としてはゼオライト、イオン交換樹脂、活性炭などの物質が知られる。また、これらの物質を使用したシートとしては、ガス吸着を目的としたエアフィルターや消臭性能を追求したシート等が多く知られている。
【0005】
例えば、特許文献1では、活性炭素と熱接着材を混合し、不織布シートに熱固着させ、消臭効果を得る(におい成分を固着する)手法が提案されている。また、特許文献2では不織布にゼオライトやイオン交換物質を熱固着させたガス吸着エアフィルターが提案されている。これらで紹介されるシートであっても、おそらくある程度の放射性物質の固定や吸着は可能であるが、同じ系に長期間設置した場合に、吸着した放射性物質を脱落させることなくシートを回収するには問題がある。例えば、大気中や土壌中でのフィルター用途として使用した場合、経年劣化や微生物等の腐食によりシート強度が維持できず、さらには吸着材がシートから脱落することで、吸着した放射性物質が漏れてしまうおそれがある。同様に、水質中で水系フィルター用途として使用した場合でも、水圧や長期間水に晒されることによりシートの強度劣化が生じ、同様に吸着材がシートから脱落する問題がある。
【0006】
一般に水系でのフィルター用途の場合、水との親和性と吸水性が要求されるため親水性の不織布が用いられるが、パルプやレーヨン繊維など親水性の繊維を用いた不織布は長時間水に晒されることで湿潤強度が低下する問題があった。特に、吸着シートに高い水圧をかけることで効率的に汚染水の除染作業ができるが、シートの湿潤強度が低いと水圧に耐えられず、さらには、高い水圧により吸着シート中に存在する吸着材が脱落する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−349570号公報
【特許文献2】特開2003−334410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の問題点に鑑み、本発明の課題は、水系での除染用途に供した場合であっても放射性物質の吸着性能を保ち続ける吸着シートを提供することにある。具体的には、吸水性能が良好であり、水中での強度劣化が生じず、また高い水圧を受けても吸着材が脱落することなく吸着した放射性物質の固定を維持することが可能な吸着シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、疎水性の繊維を用いて親水化処理された不織布を2枚以上使用して、熱接着材と放射性物質吸着材を挟んだ吸着シートを得ることで、適度な吸水性と湿潤強度を維持することができ、さらには、高い水圧を受けても放射性物質を長期間固定できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、2枚以上の不織布の間に熱接着材と吸着材とが固着された吸着シートであって、前記不織布が疎水性の繊維からなる不織布であり、シート表面と水との接触角が水滴下後0.05秒後で100°以下且つ水滴下後1秒後で80°以下であり、シートの湿潤引張強さ残存率が80%以上、及び、吸着材が放射性物質吸着材であり、その放射性物質吸着材の粒子径が前記不織布の平均ポアサイズを下回る割合が40〜70%である、放射性物質を含む水の浄化用の吸着シートに関する。
【0011】
前記不織布の平均ポアサイズが10μm〜50μmであることが好ましい。
【0012】
前記吸着シートの湿潤引張強さが1.0kN/m以上であることが好ましい。
【0013】
前記放射性物質吸着材の含有量が50g/m〜200g/m、且つ、熱接着材と放射性物質吸着材の合計質量に対し熱接着材が10〜30質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0014】
前記放射性物質吸着材がゼオライトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の吸着シートを用いることで、特に水系での放射性物質固着が容易に可能となり、放射性物質を効率的に回収、保管することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のシートの模式断面図
図2】耐水圧試験の簡略図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の吸着シートは、図1のように、2枚以上の特定の不織布の任意に選択される一つ以上の不織布間に挟んだ熱接着材と放射性物質吸着材を、熱圧等によって前記不織布間に固着させることで得られる吸着シートであり、特に水質の除染や濾過等の水系で適用される。
【0018】
水系で適用される吸着シートは、その内部へ吸水する性能が求められる。本発明の吸着シートはシート表面と水との接触角が水滴下直後(滴下後0.05秒後を指す)で100°以下であり、且つ、水滴下後1秒後で80°以下でなければならない。水滴下直後の接触角が100°を超えるシートでは、撥水性が高すぎてシート内部への吸水ができず水系用には適さない。さらに、水滴下後1秒後で接触角が80°以下まで下がらなければ、吸水速度が遅くなり効率よく吸水できない。なお、好ましくは水滴下後1秒後で50°以下であり、更に好ましくは40°以下であるとより効率的に吸水が可能となる。
【0019】
上記の接触角を有するシートとしては、親水性の繊維からなる不織布が考えられるが、本発明で使用される不織布は、疎水性の繊維からなる不織布が使用される。親水性の繊維からなる不織布では、吸着シートとして水系で使用される際に後述する引張強さの低下が生じるため適さないからである。例えば、レーヨン、綿、絹、各種セルロース、麻、ビニロンのような親水性繊維を主として用いた不織布は使用できない。しかし一方で、前記のように吸着シートとして水との接触角が所定の範囲となる必要があるため、不織布としては適度な親水性が要求される。そこで、本発明で用いる不織布は、繊維素材そのものは疎水性でありながら、シート自体は親水性を示すものでなければならない。疎水性の繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維等のポリエステル繊維、ナイロン、ポリアミド繊維、アクリル繊維等から選ばれる1種類もしくは2種類以上の繊維が挙げられ、これらを用いて親水化処理された不織布が挙げられる。この疎水性繊維の親水化処理の方法としては、例えば、疎水性の繊維に親水化剤を混合したものをスパンボンド法にて不織布を作製する方法、疎水性の繊維でスパンボンド不織布を作製する際に親水化剤を同伴させて作製する方法、疎水性の繊維でスパンボンド不織布を作製した後に親水化剤を含浸させる方法等が挙げられる。
【0020】
前記の親水化剤としては、界面活性剤が挙げられ、例えば、第4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン系界面活性剤、ポリオキシアルキレン変性シリコーン等のシリコーン系界面活性剤、およびポリエステル系、ポリアミド系、アクリル系、ウレタン系の樹脂からなるステイン・リリース剤等が用いられる。
【0021】
また、前記不織布は、生分解しない疎水性繊維を用いることが好ましい。例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリアルキレンアリレート繊維、アクリル繊維等の繊維構成の不織布シートが挙げられる。また、融点が250℃以上である繊維で不織布が構成されることがより好ましい。特に、層構成が不織布2枚で熱接着材と吸着材を挟む構造の場合など、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維を使用した不織布シートでその両面の溶融・軟化温度が10℃以上違う片面ヒートシールタイプの不織布を使用する事が好ましい。
【0022】
上記のように本発明では疎水性繊維の使用された不織布を使用するが、本発明の湿潤引張強さ残存率などの性能を損なわない範囲であれば親水性繊維を混合または混紡されたものを使用してもよい。親水性繊維を含むことで、上記接触角を下げる効果がある。不織布全体に使用される繊維における疎水性繊維と親水性繊維の比率は100:0〜60:40が好ましく、より好ましくは100:0〜75:25であり、更に好ましくは100:0〜90:10である。
【0023】
本発明に用いる不織布は、平均ポアサイズが50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。平均ポアサイズが50μmを超えると吸着材の脱落を抑えるのが困難となる。
【0024】
なお、本発明では上記した不織布がシート両面に使用されるが、不織布を3枚以上使用する態様において、中間に用いる不織布は特に制限はなく、本発明の性能を損なわない範囲で公知の不織布が用いられる。ここでは、熱固着させる熱接着材・放射性物質吸着材の脱落を防止できる不織布を選択することが好ましい。例えば、中間層の不織布が直接放射性物質吸着材に触れる態様であれば、吸着シート形成の過程で熱圧した際に一部が溶融・軟化をする繊維が好ましい。例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維で構成される不織布を使用する事が好ましく、融点が210℃以下である繊維で不織布が構成されることがより好ましい。
【0025】
本発明の不織布の目付、厚さは特に限定するものではないが、目付けは5〜70g/mが好ましく、10〜50g/mが更に好ましい。
【0026】
本発明の吸収シートはJIS−P8135に準じて測定した湿潤引張強さ残存率が80%以上である。湿潤引張強さ残存率が80%未満であると、水系に用いた際のシートの強度劣化が早く、長時間の使用に耐えられなくなる。また、吸収シートは湿潤引張強さが縦方向と横方向で共に1.0kN/m以上であることが好ましい。1.0kN/m未満では水系吸着シートとして使用するために必要な強度が足りず、シートが破損する等の問題が生じるおそれがある。湿潤引張強さは1.5kN/m以上であることがより好ましい。
【0027】
本発明で用いる吸着材は放射性物質を吸着するものを用いる。放射性物質吸着材は、イオン交換樹脂、活性炭素、ゼオライトなどの多孔性粒子から選ばれる。放射性物質吸着材は、その粒子径や細孔を適宜選択するとよい。例えば、放射性セシウム(137Cs)吸着を目的とする場合には、ゼオライトを用いると効率よく吸着することができる。ゼオライトの種類としては、特に制限はないが、天然ゼオライト又は合成ゼオライトを出発原料として鉱酸等を用いた脱アルミニウム処理等によって調製する方法、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び有機鉱化剤を混合し結晶化する直接合成法等により得られたもの等が使用できる。特に、骨格構造に少なくともAlとPを含む結晶性アルミノフォスフェート類(ALPO系ゼオライト)が三次元構造や吸着特性を制御しやすいという理由で好ましい。そのようなゼオライトとしては、SAPO−34、FAPO−5が挙げられる。上記の吸着材は、1種類または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
水系でのフィルター用途などでは、吸着シートに対して垂直方向またはそれに近い角度で水圧がかかることが多く、シート内部に保持された吸着材が水圧により不織布の孔から外部へ流出するおそれがある。そこで、本発明では、吸着材の粒子径が、吸着シートの外側を形成する不織布の平均ポアサイズを下回る割合が40〜70%である必要がある。吸着シートの内部では、シート両面に使用された不織布の平均ポアサイズを上回る粒子径の吸着材が不織布の孔を塞ぐことで吸着材の脱落を抑えることができるが、前記割合が70%を超えると、不織布の孔を塞ぐ吸着材が少ないため吸着材の脱落を防ぐことができない。一方、前記割合が40%未満であると、吸着材の脱落は容易に防ぐことができるが、吸着材の比表面積が減少するため、放射性物質の吸着効果が劣る。前記割合は好ましくは40〜65%である。
【0029】
放射性物質吸着材は、メソ孔を有するものを選択することが好ましい。なお、ここで言うメソ孔とは、細孔直径が2〜50nmであるものをいい、例えばカーボンやゼオライトにおいてメソ孔を有するものが知られている。特に、放射性物質吸着材の細孔がメソ孔である割合が70%以上であることが好ましい。70%未満であると、放射性物質の吸着を維持できず、再度環境中へ放出する場合がある。
【0030】
上述の放射性物質吸着材を均一に不織布シート上に分布させるために、放射性物質吸着材はシート中に90g/m以上存在する事が好ましく、シート内での放射性物質吸着材の固着状態の安定と、不織布同士の接着強度を放射性物質吸着材自体が阻害しないために150g/m未満にすることが好ましい。
【0031】
本発明では、不織布間に撒布された放射性物質吸着材をシート中に固着させるために熱接着材を用いる。吸着シート製造過程においてこの熱接着材を熱で溶融させることで放射性物質をシートに強固に固着させることが可能となる。
【0032】
熱接着材は、放射性物質吸着材と熱接着材の合計質量に対し10〜30質量%の割合で混合させる。例えば、この混合物を2枚以上の不織布を抄き合わせる際に導入させて、加熱加圧を行うとよい。混合割合が10質量%未満であると放射性物質吸着材が固着されにくく、また、30質量%よりも多くなると熱接着材が多量に溶融、軟化し、使用する不織布シートの通気性、透水性を阻害しまうおそれがある。当該混合割合は、特に20〜30質量%の範囲内であることが好ましい。この範囲に調整することで放射性物質吸着材の性能を阻害せずに固着を強固にし、脱落の可能性を減らすことが出来る。
【0033】
熱接着材に使用される素材は、それ自身が熱により溶融または軟化して吸着材を不織布間に固着できるものであれば一般的なものが使用できるが、特に低融点であり、軟化点が低い物質で構成される繊維状または粒子状のものが好ましい。粒子状のものは放射性物質吸着材の粒子径より小さい粒子径であることがより好ましい。放射性物質吸着材の粒子径より大きくなると、熱接着材が熱溶融により、放射性物質吸着材の表面を覆うことで放射性物質の吸着効率が著しく悪くなるので好ましくない。繊維状の熱接着材としては、例えば熱融着性の繊維が使用でき、単繊維でも芯鞘繊維、並列繊維等の複合繊維でもよく、ポリプロピレンとポリエチレンの組み合わせ、ポリプロピレンとエチレンビニルアルコールの組み合わせ、ポリエステルとポリエステルの組み合わせが挙げられるが、ポリエチレン等の低融点樹脂のみで構成される単繊維(全融タイプ)がより好ましい。粒子状の熱接着材は、例えば、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール系樹脂等の公知のものが使用できる。
【0034】
本発明では、シートの全体または一部にエンボス加工を付与することができる。エンボス加工はオンマシン、オフマシンのどちらでも可能であるが、製造効率上、不織布の間に吸着材と熱接着材を設けて加熱加圧する際に同時にエンボスを施すことが好ましい。これにより、吸着材の脱落をより防ぐことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0036】
(1)平均ポアサイズ
バブルポイント法を用いた細孔径分布評価装置(PMI社製、商品名「パームポロメーター」)を用いて孔径分布を測定し、その平均値を平均ポアサイズとした。
(2)吸着材の粒子径と割合
レーザー回析散乱法によって測定した。また、吸着材の粒子径が不織布の平均ポアサイズを下回る割合は、レーザー回析散乱法による吸着材の粒子径分布により算出した。
(3)脱落の評価
吸着シートを10cm角に断裁したもの10枚重ねて100mLのポリ容器に密封し、10分間垂直振とう撹拌した後、脱落した粉の量を目視にて評価し、△以上を合格とした。
◎:吸着材が全く脱落しない
○:吸着材がほとんど脱落しない
△:吸着材が僅かに脱落するが、実使用に問題ない程度
×:吸着材の脱落があり、実使用に問題がある
(4)放射性物質吸着率の評価
133Cs(非放射性物質)を134Cs及び137Cs(放射性物質)と化学的性能は同じものとして、133Csの吸着度効率を試験した。吸着シートを2cm角に断裁したもの5枚を100ppmの塩化セシウム溶液に入れ、30分間振とう撹拌した後、溶液中のCs濃度を測定した。以下の式に従って吸着率を算出し、下記において○以上を合格とした。
吸着率(%)={処理前の133Cs濃度(mg/L) − 処理後の133Cs濃度(mg/L)} / {処理前の133Cs濃度(ppm)}×100
◎:吸着率が98%以上
〇:吸着率が90%以上98%未満
×:吸着率が90%未満
(5)湿潤引張強さ残存率
吸収シートの引張強さをJIS−P8113(2006)に基づいて測定した。さらに、JIS−P8135(1998)に基づいて測定した湿潤引張強さを測定し、同規格の「湿潤引張強さ残留率の算出方法」に従って残存率を算出した。
(6)接触角
23℃、50%RH雰囲気下で、動的表面接触角測定装置(ダイナミックアブソープションテスタ DAT1100、Fibro社製)を用い、水滴3mLを滴下後0.05秒後および1.00秒後の表面接触角を測定した。
(7)浸水試験
吸着シートを10cm角に断裁したものを用意し、これを23℃の雰囲気下で室温の水に浸漬させ、3分間静置した後にシートを取り出して、10秒後のシートの状態を目視にて観察した。○を合格とした。
〇:シートが水を十分に含んでいる。
×:シート表面が撥水しているか、または水をほとんど含んでいない。
(8)耐水圧試験
15cm角の吸着シートを用意し、図2に示す耐水圧試験装置6に供する。水が接する面の反対面に緩衝材5がくるように設置し、3.7MPaの水圧にて室温の水を1分間流し続けた後、吸着シート4を取り出して、目視評価および前記(3)と同じ脱落評価を行った。○を合格とした。
○:吸着材の脱落がない、または、僅かに脱落するが実使用で問題のない程度である
×:吸着材の容易に脱落する、または、水圧箇所のシートが破損している
【0037】
[実施例1]
ポリエステル繊維とポリプロピレン繊維からなり、親水化処理が施されている厚み0.115mmの不織布(平均ポアサイズ32μm)を2枚用意した。放射性物質吸着材として合成ゼオライト(平均粒子径30μm)100部に対して、40部の熱接着材(エチレン酢酸ビニル共重合体)を10分以上攪拌機に掛けて混合した後、ローラー型散布機にて前記不織布の上に前記ゼオライトが100g/mとなるように散布した。さらに、この上から前記不織布で挟み込むように積層して不織布Aの二層構造とし、ロール温度250℃、線圧6.0kgf/cmにて熱圧着した。これにより吸着シートを得た。
【0038】
[実施例2]
放射性物質吸着材として平均粒子径が43μmの合成ゼオライトを使用した以外は実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0039】
[実施例3]
放射性物質吸着材として平均粒子径が16μmの合成ゼオライトを使用した以外は実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0040】
[実施例4]
不織布として、ポリプロピレン繊維からなり、親水化処理がなされている厚み0.124mmの不織布(平均ポアサイズ50μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0041】
[実施例5]
不織布として、ポリプロピレン繊維からなり、親水化処理がなされている厚さ0.120mmの不織布(平均ポアサイズ53μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0042】
[実施例6]
不織布として、セルロース繊維とポリエチレンテレフタレート繊維とが30:70の割合からなり、親水化処理がなされている厚さ0.130mmの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0043】
[実施例7]
不織布として、ポリエチレンテレフタレート繊維からなり親水化処理がなされている0.125mmの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0044】
[比較例1]
放射性物質吸着材として平均粒子径が57μmの合成ゼオライトを使用した以外は実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0045】
[比較例2]
放射性物質吸着材として平均粒子径が11μmの合成ゼオライトを使用した以外は実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0046】
[比較例3]
不織布として、レーヨン繊維:PET繊維=70:30の混合繊維からなる厚み0.135mmの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0047】
[比較例4]
不織布として、綿繊維100%からなる厚み0.143mmの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0048】
[比較例5]
不織布として、ナイロン繊維100%からなる厚み0.137mmの不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして吸着シートを得た。
【0049】
[比較例6]
実施例7の不織布を作製する過程で親水化処理を施さずに作製した厚さ0.125mmの不織布を用いた以外は実施例7と同様にして吸着シートを得た。
【0050】
実施例1〜5及び比較例1〜2で作成した吸着シートの脱落評価と放射性物質吸着率の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1、4、6、7及び比較例3〜6で作成した吸着シートの湿潤引張強さ残存率、浸水評価、耐水圧評価の結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表1の結果を見ると、実施例1〜5は吸着材の粒子径が不織布の平均ポアサイズを下回る割合が40〜70%の範囲にあり、吸着材の脱落に問題がなく、また放射性物質吸着率も良好であった。前記割合が75%の比較例2は、吸着材の脱落が多く、実使用が困難な程度であった。また、前記割合が35%の比較例1では吸着材の脱落は全く見られなかったが、放射性物質の吸着率が劣っていた。なお、実施例5は不織布の平均ポアサイズが50μmを超えており、やや吸着材の脱落が観察された。このように、
【0055】
表2の結果を見ると、各実施例は浸水評価と耐水圧評価がともに良好であった。一方、親水性の繊維からなる不織布を用いた比較例3と比較例4は、湿潤引張強さ残存率が80%未満であり、耐水圧試験の結果シート強度が保てず不合格であった。また、シート表面と水との接触角が水滴下後0.05秒後で100°を超えた比較例5と比較例6は、撥水性が認められ吸水性が悪く使用できなかった。また、シート表面と水との接触角が水滴下後1秒後で80°まで下がらなかった比較例6は、吸着シートとして使用を続けても吸水性が改善されず実使用できるレベルではなかった。
【0056】
以上のように、本発明の吸着シートは、水系での放射性物質の除染に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 不織布
2 放射性物質吸着材
3 熱接着材
4 吸着シート
5 緩衝材(耐圧性の多孔質材)
6 耐水圧試験装置
図1
図2