【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[試験例1:M細胞分化誘導試験−インビトロ試験]
〔細胞培養〕
インビトロM細胞モデルとして、ヒト腸管上皮細胞由来のCaco−2細胞を使用した。Caco−2細胞は、EMEM培地(日水製薬株式会社製)に2%ウシ胎児血清(FCS:CANSERA INTERNATIONAL社製)、2mMグルタミン(和光純薬株式会社製)、及び0.1mM非必須アミノ酸(Gibco社製)を補充した培地を使用して、37℃、5%CO
2存在下で培養した。細胞は、対数増殖の範囲内(2.0×10
5〜1.0×10
6cells/mL)で継代培養を行った。なお、細胞濃度はトリパンブルー染色法により、生細胞数と死細胞数とを力ウントして求めた。
【0053】
〔蛍光活性化細胞分類(FACS)解析〕
各種脂肪酸(10−ヒドロキシデカン酸、(+/−)−3−ヒドロキシデカン酸、(9R)−9,10−ジヒドロキシデカン酸、10−ヒドロキシ−2−(E)−デセン酸)によるM細胞の分化誘導を、GP2を指標としてFACSにより解析した。10−ヒドロキシデカン酸(10HDAA)は、SIGMA−ALDRICH社製のものを、(+/−)−3−ヒドロキシデカン酸(3HDAA)は、SIGMA−ALDRICH社製のものを、10−ヒドロキシ−2−(E)−デセン酸(10−HDA)は、和光純薬工業株式会社製のものを、それぞれ用いた。(9R)−9,10−ジヒドロキシデカン酸(DDA−11)は、Tetrahedron:Asymmetry,2009年,20,pp457−460の方法を基に(4R)−4−(2−Hydroxyethyl)−2,2−dimethyl−1,3−dioxolaneをトシル化し、Grignard反応により5−Bromo−1−penteneで鎖を延長後、オゾン分解、Diethylphosphonoicacid ethylesterとの Wittig反応、接触水素化反応による水素添加、酢酸処理によるアセトナイドの除去、水酸化カリウム処理によるエチル基の除去を経て合成し、用いた。
【0054】
上記各脂肪酸は、DMSO溶液として調製した(10mM)。6ウェルプレートにCaco−2細胞を播種し、単層膜を形成させた後、上記各脂肪酸を終濃度が100μMとなるよう添加した。また、対照として、同量のDMSOを添加した。培地は上述のとおりである。添加後、37℃、5%CO
2存在下で3日間培養した。培養後、1mM EDTA・2Na/PBS(−)(pH7.2)で細胞を回収し、ウサギ抗GP2抗体(IMGENEX社製)及びAlexa488標識抗ウサギ抗体(Molecular probes社製)で染色した。染色した細胞をFACS(BECKMAN COULTER社製)で解析し、GP2発現量を定量した。
【0055】
FACSのヒストグラムを
図1に示す。
図1に示すように、10−ヒドロキシデカン酸(
図1(a))及び(+/−)−3−ヒドロキシデカン酸(
図1(b))は、GP2の発現を誘導した。また、10−ヒドロキシデカン酸の方がより強くGP2の発現を誘導した。一方、(9R)−9,10−ジヒドロキシデカン酸(
図1(c))及び10−ヒドロキシ−2−(E)−デセン酸(
図1(d))はGP2の発現を誘導しなかった。
【0056】
〔形態解析〕
トランズウェルインサート(6.5mm Transwell,コーニング社製)にCaco−2細胞を2×10
5cells播種し、単層膜を形成させた後、単層膜の頂端側から10−ヒドロキシデカン酸(終濃度100μM)を作用させ、37℃、5%CO
2存在下で3日間培養した。培養後、トランズウェルインサートの膜ごと切断し、電子顕微鏡(JEOL社製)で細胞形態を観察した。
【0057】
電子顕微鏡写真を
図2に示す。一般的に、M細胞は形態学的に頂端側の微絨毛(microvilli)が近傍の上皮細胞よりも短くなるという特徴を有する。
図2中矢印で示したとおり、10−ヒドロキシデカン酸を作用させることにより、微絨毛が短い細胞が観察された。この結果から、10−ヒドロキシデカン酸の作用により、Caco−2細胞が形態的にM細胞様細胞に変化したことを示すと考えられる。
【0058】
[試験例2:M細胞分化誘導試験−インビボ試験]
〔試験方法〕
10−ヒドロキシデカン酸のDMSO溶液(10mM)を、PBS(−)で100倍希釈して試験液を調製した。カニクイザル(Macaca fascicularis)の雄3匹(試験開始時3〜4歳、試験開始時の体重3.53〜4.36kg)を被験動物とした。ファインアトマイザー(ネイザル)(商品番号:FAN020,製造販売元:吉川化成株式会社)を用いて、上記試験液をカニクイザルの左右鼻腔に約0.1mLずつ噴霧した。対照として、PBS(−)を用いて同様の操作を行った。この操作を1日1回、3日間繰り返した後、4日目にカニクイザルを解剖し、咽頭扁桃部位の鼻咽頭粘膜を採取した。採取した鼻咽頭粘膜をAlexa555標識抗GP2抗体(IMGENEX社製)又はAlexa555標識抗GP2抗体(Abcam社製)で蛍光免疫組織染色し、オールインワン蛍光顕微鏡 BZ−9000(キーエンス社製)で蛍光像を観察した。なお、蛍光像の観察にあたり、DAPI染色を併用している。
【0059】
蛍光免疫組織染色写真を
図3に示す。なお、
図3は視認性を高めるため、明暗を反転させている。
図3に示すように、10−ヒドロキシデカン酸を鼻腔内に3日間暴露させることで、GP2陽性細胞(
図3中、矢印で例示した黒色の箇所)が鼻咽頭粘膜状に観察された。一方、対照では、このようなGP2陽性細胞の増加は観察されなかった。
【0060】
[試験例3:免疫賦活試験−インビボ試験]
〔試験方法〕
(カプセル剤の調製)
10−ヒドロキシデカン酸2.4mgのみを腸溶カプセルに充填し、10−ヒドロキシデカン酸入りカプセル剤(カプセルA錠)を調製した。10−ヒドロキシデカン酸2.4mgに加え、抗原としてFetuin(3mg)、不活化ポリオウィルス抗原(10
6 TCID
50)及び不活化インフルエンザウイルス抗原(220_HA Units)を腸溶カプセルに充填し、10−ヒドロキシデカン酸と上記3種の抗原を含有するカプセル剤(カプセルB錠)を調製した。また、抗原としてFetuin(3mg)、不活化ポリオウィルス抗原(10
6 TCID50)及び不活化インフルエンザウイルス抗原(220_HA Units)を腸溶カプセルに充填し、上記3種の抗原を含有するカプセル剤(カプセルC錠)を調製した。
【0061】
(カプセル剤の投与)
カニクイザル(Macacafascicularis)の雄3頭(試験開始時3〜6歳、試験開始時の体重3.0〜6.0kg)を被験動物とし、上記カプセルA錠及びカプセルB錠を下記表1に示すスケジュールに従って経口投与した(1日1回1錠)(以下、試験群)。対照として、カニクイザルの雄3頭(試験開始時3〜6歳、試験開始時の体重3.0〜6.0kg)にカプセルC錠のみを下記表1に示スケジュールに従って経口投与した(カプセルA錠及びカプセルB錠は投与せず)(以下、対象群)。22日目にカニクイザルを解剖し、腸管粘膜を採取した。採取した腸管粘膜をAlexa555標識抗GP2抗体(IMGENEX社製)又はAlexa555標識抗GP2抗体(Abcam社製)で蛍光免疫組織染色し、オールインワン蛍光顕微鏡BZ−9000(キーエンス社製)で蛍光像を観察した。なお、蛍光像の観察に当たり、DAPI染色を併用している。
【表1】
【0062】
蛍光免疫組織染色写真の一例を
図4に示す。なお、
図4は視認性を高めるため、明暗を反転させている。
図4に示すように、10−ヒドロキシデカン酸を1日1回継続的に摂取しながら約3日おきに抗原で感作した試験群は、GP2陽性細胞(
図4中、矢印で例示した黒色の箇所)が腸管粘膜上に観察された。一方、約3日おきに抗原のみで感作した対照群では、このようなGP2陽性細胞の増加は観察されなかった。
【0063】
[試験例4:抗体価の測定]
〔試験方法〕
試験例3で飼育したカニクイザルの糞便を採取し、糞便中の抗Fetuin IgA抗体価、抗ポリオウィルスIgA抗体価、抗インフルエンザウイルスIgA抗体価を、ELISAにより測定した。
【0064】
Fetuin抗原(シグマ社製)は、antigen buffer(50mmol/L Tris−HCl(pH8.0),10mmol/L MgCl
2,0.1% Tween80)で100μg/mLになるように溶解した。この抗原をNunc MaxiSorp(登録商標) flat−bottom 96well plateに加え、抗原プレートを作製した。インフルエンザウイルス H1N1抗原(11,000 HA Unit)及びポリオウイルス抗原III型(0.67×10
8 TCID
50)は、25mLのantigen bufferで希釈し、同様に抗原プレートを作製した。なお、マスキングは200μl/well,4℃でover night反応させた。
【0065】
糞便試料に対し、重量比で1:4になるようにsample buffer(0.1% sodium azide,1mmol/L EDTA・2Na,0.05% Tween20,5% nonfat skim milk,1mmol/L phenylmethylsulfonyl fluoride(PMSF)のPBS(−)(pH7.2)溶液)を添加した。これを13,000×g、5分間、4℃で遠心分離した後、上清を回収し、ELISA用サンプルとした。ELISA用サンプルは、氷感フリーザーにて保存した。測定時にELISA用サンプルをPBS(−)で10倍及び100倍に希釈した。
【0066】
抗原プレートの各wellに調製したサンプルを50μlずつ添加し、1.5時間、低温室で振盪させた。その後、washing buffer(0.1% Tween80 in MilliQ:200μl/well)で4回洗浄した。
【0067】
二次抗体は、二次抗体Buffer(0.5M Tris−HCl,1.75% NaCl)に1%になるようにBSAを溶解し、このbufferで以下の(a)及び(b)の抗体を5000倍に希釈して調製した。
(a)Peroxidase−Labeled Affinity Purified antibody to Monkey IgA(alpha)(Cat.No.074−11−011,KPL)
(b)Goat Anti−monkey IgA(alpha−chain specifc)−peroxidase(Affinity purified)(Cat.No.70041,Alpha diagnostic international)
【0068】
二次抗体の溶液を各wellに50μlずつ添加し、0.75時間反応させた。反応後、washing buffer(0.1% Tween80 in MilliQ:200μl/well)で4回洗浄した。
【0069】
各wellにsubstrate solution(2.68mg TMBZ,1.05μl 35%過酸化水素水、7mL EDTA・2Na(2mM))を50μlずつ添加した。最後に各wellに0.3N H
2SO
4を50μlずつ添加して反応を停止した。その後、吸光度(450nm/630nm)を測定した。
【0070】
糞便中の抗Fetuin IgA抗体価、抗ポリオウィルスIgA抗体価、及び抗インフルエンザウイルスIgA抗体価を
図5に示す。
図5に示すように、10−ヒドロキシデカン酸を1日1回継続的に摂取しながら約3日おきに抗原で感作した試験群では、抗Fetuin IgA抗体価、抗ポリオウィルスIgA抗体価、及び抗インフルエンザウイルスIgA抗体価の上昇が観察された。一方、約3日おきに抗原のみで感作した対照群ではこのような抗体価の増加は観察されなかった。この結果は、継続的に10−ヒドロキシデカン酸を投与することで免疫応答が誘導されることを示すと考えられる。また、10−ヒドロキシデカン酸による免疫応答の誘導は、抗原の種類に依らないこと、不活化された抗原でも認められることが示された。さらに、同時に複数の抗原で感作した場合でも免疫応答の誘導が可能であることが示された。