(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6202589
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】水質改良材及びその製造方法並びに水質改良方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20060101AFI20170914BHJP
C02F 1/72 20060101ALI20170914BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20170914BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20170914BHJP
B01J 20/02 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
C02F1/28 E
C02F1/72 C
B01J20/30
C02F11/00 D
B01J20/02 B
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-520555(P2017-520555)
(86)(22)【出願日】2016年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2016068953
【審査請求日】2017年4月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 智子
(72)【発明者】
【氏名】及川 隆仁
(72)【発明者】
【氏名】中本 健二
(72)【発明者】
【氏名】樋野 和俊
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 聡
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−223733(JP,A)
【文献】
特開平09−066238(JP,A)
【文献】
特開2002−045705(JP,A)
【文献】
特開2011−147905(JP,A)
【文献】
特開2008−121263(JP,A)
【文献】
中国特許第103132483(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
C02F 1/72
C02F 11/00
B01J 20/02
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅及び酸化ニッケルからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物と、石炭灰と、セメント水和物とを含有する混合物からなり、前記石炭灰及び前記金属酸化物がセメント水和物によって結合され、前記混合物が粒状に形成された造粒物である水質改良材。
【請求項2】
前記石炭灰100質量部に対して、前記金属酸化物を0.1〜10質量部とした比率である請求項1に記載の水質改良材。
【請求項3】
前記石炭灰100質量部に対して、前記セメント水和物の組成セメントを15〜150質量部とした比率である請求項2に記載の水質改良材。
【請求項4】
前記混合物が多孔質である請求項1から3の何れか一項に記載の水質改良材。
【請求項5】
前記混合物が水中又は水底の水質改良に用いられる請求項1から4の何れか一項に記載の水質改良材。
【請求項6】
酸化銅及び酸化ニッケルからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物とセメントと石炭灰とを配合して、それらの混合物に加水し、加水した前記混合物を造粒することによって得られた造粒物を養生する
水質改良材の製造方法。
【請求項7】
前記石炭灰100質量部に対して、前記金属酸化物0.1〜10質量部を配合する請求項6に記載の水質改良材の製造方法。
【請求項8】
前記石炭灰100質量部に対して、前記セメント15〜150質量部を配合する請求項7に記載の水質改良材の製造方法。
【請求項9】
請求項1から5の何れか一項に記載の水質改良材によって水中又は水底の水質を改良することを特徴とする水質改良方法。
【請求項10】
請求項6から8の何れか一項に記載の水質改良材の製造方法によって製造された水質改良材によって水中又は水底の水質を改良することを特徴とする水質改良方法。
【請求項11】
前記水質改良材を閉鎖性水域の水底に設置する請求項9又は10に記載の水質改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底の硫化物イオンを低減する水質改良材及び水質改良方法に関するとともに、その水質改良材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉱物質多孔性物質の細孔部に酸化亜鉛微粉末を担持させた脱臭性組成物が開示されている。
【0003】
一方、湖沼、海等の水底に有機物が堆積されて、その堆積物が嫌気性の環境に晒されると、硫酸還元菌によって硫酸イオンが還元され、硫化物イオンが発生するが、その硫化物イオンは水底や水質の悪化を招く。そこで、水質を改善すべく、セメントと石炭灰と骨材を固化させたコンクリートブロックを水底に投入することが特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−191966号公報
【特許文献2】特開2005−144371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、更に効率よく水底や水中の硫化物イオンを低減することが望まれている。
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、水底や水中の硫化物イオンを効率よく低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、石炭灰とセメントとの混合物を加水・造粒することによって得られた石炭灰造粒物が硫化物イオンの吸着作用を有するとともに、硫化物イオンの酸化作用を有することを見いだし、更に石炭灰及びセメントに対して酸化銅、酸化ニッケル又は酸化亜鉛を添加することによって硫化物イオンの吸着作用が向上することを見いだした。
この知見に基づいて上記課題を解決するための主たる発明は、酸化銅
及び酸化ニッケ
ルからなる群の中から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物と、石炭灰と、セメント水和物とを含有する混合物からな
り、前記石炭灰及び前記金属酸化物がセメント水和物によって結合され、前記混合物が粒状に形成された造粒物である水質改良材である。この水質改良材を水底に設置すると、水底に堆積された汚泥や水中の硫化物イオンが吸着されるとともに、硫化物イオンが水質改良材に酸化されるので、水底及び水中の硫化物イオン濃度の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水底及び水中の硫化物イオン濃度の低減を図ることができ、水底及び水中の硫化物イオンを効率よく除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、水質改良材の製造を説明するための図面である。
【
図2】
図2は、各種の石炭灰造粒物(試料A〜D)に吸着・酸化される硫化物イオンの量を経時的に測定した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態に限定するものではない。
【0010】
1. 水質改良法
湖、沼、地中海等の閉鎖性水域の水底及び水中の水質を改良する方法について説明する。この改良方法は、水質改良材を閉鎖性水域の水底に設置する。例えば、水質改良材を被覆(覆砂)し、或いは水質改良材を水底の土砂・泥と混合し、或いは水質改良材を水底に埋設する。これにより、水底に堆積された汚泥中及び水の中の硫化物イオンを水質改良材により酸化させるとともに、硫化物イオンを水質改良材に吸着させる。この方法によって閉鎖性水域の硫化物イオン濃度を低減させて、閉鎖性水域の水質環境を改善する。
【0011】
2. 水質改良材
水質改良材は、金属酸化物が添加された多孔質な石炭灰造粒物からなる。つまり、水質改良材は、石炭灰と、金属酸化物と、これら石炭灰及び金属酸化物を結合したセメント水和物とを含有した混合物からなり、その混合物は粒状に形成された多孔質材料である。
【0012】
水質改良材に含まれる石炭灰は、石炭を燃料として用いる火力発電所において石炭の燃焼により生成されたフライアッシュである。フライアッシュは、全体の70〜80%を占めるシリカ(SiO
2)及びアルミナ(Al
2O
3)を主成分とし、その他の成分としてFe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2O、MnO等の酸化物を含有する。
水質改良材に含まれるセメント水和物は、セメントと水が化合することによって得られたものである。
金属酸化物は、酸化銅(CuO又はCu
2O)、 酸化ニッケル(NiO)、酸化亜鉛(ZnO)の何れか一つからなる。なお、金属酸化物は、酸化銅と酸化ニッケルの混合物、酸化銅と酸化亜鉛の混合物、酸化ニッケルと酸化亜鉛の混合物、又は、酸化銅と酸化ニッケルと酸化亜鉛の混合物であってもよい。
【0013】
水質改良材は、石炭灰(粉体)とセメント(粉体)と金属酸化物(粉体)との混合物に加水して、その加水した混合物を造粒し、その造粒物を養生(硬化)して得られるものである。石炭灰とセメントと金属酸化物との配合比は、例えば石炭灰100質量部に対して、セメントを15〜150質量部とするともに、金属酸化物を0.1〜10質量部としている。なお、質量比で石炭灰又はセメントの組成量が最も多ければ、石炭灰とセメントと金属酸化物との配合比を変更してもよい。
【0014】
石炭灰とセメントと金属酸化物と水との混合物を造粒するには、パン型造粒機等の造粒機を用いる。
図1に示すパン型造粒機1は、傾斜したパン(皿)2と、そのパン2を回転駆動する駆動機(モータ)3とを有するものである。パン型造粒機1を用いて水質改良材を製造するには、回転するパン2に石炭灰とセメントと金属酸化物を供給し、更に水を添加する。そうすると、水の添加により核が生成され、それら核の転動によって核が成長するので、石炭灰造粒物(核の成長物)が生成される。生成された造粒物を自然乾燥或いは強制乾燥して、養生する。これにより、水質改良材が完成する。
【0015】
水質改良材の製造の際には、水の添加によりセメント水和物が生成され、そのセメント水和物によって石炭灰及び金属酸化物が結合される。フライアッシュも含まれていることから、セメントの水和反応の進行とともにフライアッシュのポゾラン反応も進行するので、フライアッシュのポゾラン反応による水和物がセメント水和物に含まれる。石炭灰、セメント及び金属酸化物の中で石炭灰の配合比が最も高い上、セメントの配合比が低いので、製造された水質改良材(石炭灰造粒物)は多孔質となっている。
【0016】
水質改良材を水底に設置して用いることで、水中及び汚泥中の硫化物イオンが水質改良材に吸着されるとともに、水質改良材によって硫化物イオンが酸化され、硫黄単体が生成される。特に、水質改良材が多孔質材料であってその比表面積が大きいので、水質改良材への硫化物イオンの吸着量が多量である。例えば、水質改良材への硫化物イオンの吸着量は、一般的な吸着剤に比べて1〜2桁高い。更に、金属酸化物が水質改良材に添加されているので、水質改良材の持つ硫化物イオン吸着性能と硫化物イオンの酸化性能が向上する。よって、水中及び汚泥中の硫化物イオンが低減し、長期間に渡って硫化物イオン濃度の上昇を抑制することができる。
【0017】
また、水底にある水質改良材の上に有機物等が堆積し、その堆積物が嫌気性の環境に晒されると、硫酸還元菌によって硫化物イオンが生じやすくなる。有機物等の堆積物中で生じる硫化物イオンも水質改良材の持つ硫化物イオン吸着性能と酸化性能によって除去される。よって、水中の硫化物イオン濃度の上昇を抑制することができる。
なお、前述の水質改良材は、硫化物イオンを吸着して、硫化物イオン濃度を低減させることから、硫化物イオン低減材、硫化物イオン除去促進剤又は硫化物イオン吸着材とも言える。前述の水質改良材は、水底やその近傍の水質を改良することから、水底改良材とも言える。
【0018】
以下、実施例を参照して、金属酸化物が添加されていない石炭灰造粒物(試料A)よりも、金属酸化物が添加された水質改良材(試料B, C, D)のほうが、硫化物イオンの吸着性能が高いことについて説明する。
【実施例1】
【0019】
試料A〜Dを作製した。具体的には、以下の表1に示す配合比の粉体に加水して、その混合物を造粒機によって造粒し、その石炭灰造粒物を養生した。
【0020】
【表1】
【0021】
予め窒素ガスで脱気した脱酸素水に硫化ナトリウム・9水和物を溶解させ、1 Lあたりに硫化物イオンの硫黄10 mgが含まれる硫化物イオン溶液(pH=8.2 , Tris 30 mM緩衝液)を調製した。その硫化物イオン溶液50 mLを100 mLのバイアル瓶に穏やかに移し入れ、試料A〜Dのいずれかを0.2 g添加し、バイアル瓶内の上部空間の雰囲気を窒素ガスに置換した後、そのバイアル瓶を密栓して100 rpm 25℃で振とうした。継時的に硫化物イオン濃度を溶存硫化物検知管で測定した。また、試料を添加しない対照区を設けて同様に実験を行った。対照区と試料添加区の硫化物イオンの濃度差から試料1 gあたりの硫化物イオンの除去量を算出した(表2、
図2)。
【0022】
【表2】
【0023】
酸化銅、 酸化ニッケル及び酸化亜鉛の何れも含まない試料A(比較例)は、硫黄1 mg に相当する硫化物イオンを除去するのに、12時間を超えていた。それに対して、試料B〜D(実施例)は、硫黄1 mg に相当する硫化物イオンを除去するのに、12時間未満であった。よって、試料B〜Dは試料Aよりも硫化物イオンの除去速度が高く、酸化銅、酸化ニッケル及び酸化亜鉛のうち何れか一つが石炭灰造粒物に添加されることによって硫化物イオンの除去速度が向上することが分かる。なお、硫化物イオン溶液に含まれる硫化物イオンのほぼ全てが12時間で試料B,Cによって除去された。
【符号の説明】
【0024】
1…パン型造粒機, 2…パン, 3…駆動機
【要約】
水底の硫化物イオンを効率よく除去できるようにする。
水質改良材は、酸化銅、酸化ニッケル及び酸化亜鉛からなる群の中から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物と、石炭灰と、セメント水和物とを含有する混合物からなる。