(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、
図8に示すように、ダイヤフラム7に突部75を形成したことで、変圧室9の容積が大きくなり、作動応答性が低下する可能性があった。また、容積を小さくするためにダイヤフラム7の突部75によって、パワーピストン部材6の溝部63をすべて埋めた場合、ゴム材料の使用量が多くなり、重量及びコストが増加する可能性があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、作動応答性を向上させると共に、軽量化を達成し、コストを低く抑える負圧倍力装置及びこれを用いたブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本実施形態にかかる負圧倍力装置は、
フロントシェルと、
前記フロントシェルに連結されるリヤシェルと、
入力が加えられる入力軸と、
前記リヤシェルに対して進退自在に配設されたバルブボディと、
前記バルブボディに設けられて、前記フロントシェルと前記リヤシェルとの空間を負圧が導入される定圧室と作動時に大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンと、
前記バルブボディに連結されて、前記パワーピストンにより発生されて前記入力を倍力した出力を出力する出力軸と、
前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、
前記弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する負圧弁と、
前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、
前記パワーピストンを貫通して前記フロントシェルと前記リヤシェルとを連結するタイロッドと、
を備え、
前記パワーピストンは、
中央に前記バルブボディが挿通される中央孔が形成されたパワーピストン部材と、
中央に前記パワーピストン部材と共に前記バルブボディが挿通される中央孔が形成され、縁部で前記フロントシェルと前記リヤシェルに挟持されるダイヤフラムと、
を有し、
前記パワーピストン部材は、前記中央孔より外周側に前記フロントシェルに向けて凸状であって環状の溝部が形成され、
前記ダイヤフラムは、前記中央孔より外周側に前記フロントシェルに向けて環状に盛り上がる凸部及び前記凸部の周方向に所定の間隔を空けて前記凸部からさらに盛り上がる突出部が形成され、
前記突出部
の前記フロントシェル側の端部は、前記パワーピストン部材の前記溝部に当接し、
前記凸部
の前記フロントシェル側の頂部は、前記パワーピストン部材の前記溝部内に
前記溝部の表面と間隔を空けて配置される
ことを特徴とする負圧倍力装置。
【0009】
また、本実施形態にかかる負圧倍力装置では、
前記パワーピストン部材は、前記溝部より内周側に、前記中心孔に対して対称に配置され、直径の異なる複数組の連通孔が形成され、
前記ダイヤフラムは、
前記複数組の連通孔のうち一組の連通孔を貫通し、前記タイロッドを支持するタイロッド支持部と、
前記一組の連通孔以外の連通孔を覆う厚肉部と、
を有する
ことを特徴とする。
【0010】
また、本実施形態にかかる負圧倍力装置では、
前記ダイヤフラムは、
前記凸部と前記溝部の間の空間と前記厚肉部に覆われた前記連通孔との間に空気が流れる流路を形成する空気流路を有する
ことを特徴とする。
【0011】
さらに、本実施形態にかかるブレーキシステムは、
ブレーキペダルと、
前記ブレーキペダルのペダル踏力を倍力して出力するブレーキ倍力装置と、
前記ブレーキ倍力装置の出力で作動して液圧を発生するマスタシリンダと、
前記マスタシリンダで発生した液圧でブレーキ力を発生して車輪にブレーキをかけるブレーキシリンダと、
を少なくとも備えるブレーキシステムにおいて、
前記ブレーキ倍力装置は、前記負圧倍力装置である
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本実施形態の負圧倍力装置によれば、
フロントシェルと、
前記フロントシェルに連結されるリヤシェルと、
入力が加えられる入力軸と、
前記リヤシェルに対して進退自在に配設されたバルブボディと、
前記バルブボディに設けられて、前記フロントシェルと前記リヤシェルとの空間を負圧が導入される定圧室と作動時に大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンと、
前記バルブボディに連結されて、前記パワーピストンにより発生されて前記入力を倍力した出力を出力する出力軸と、
前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、
前記弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する負圧弁と、
前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、
前記パワーピストンを貫通して前記フロントシェルと前記リヤシェルとを連結するタイロッドと、
を備え、
前記パワーピストンは、
中央に前記バルブボディが挿通される中央孔が形成されたパワーピストン部材と、
中央に前記パワーピストン部材と共に前記バルブボディが挿通される中央孔が形成され、縁部で前記フロントシェルと前記リヤシェルに挟持されるダイヤフラムと、
を有し、
前記パワーピストン部材は、前記中央孔より外周側に前記フロントシェルに向けて凸状であって環状の溝部が形成され、
前記ダイヤフラムは、前記中央孔より外周側に前記フロントシェルに向けて環状に盛り上がる凸部及び前記凸部の周方向に所定の間隔を空けて前記凸部からさらに盛り上がる突出部が形成され、
前記突出部
の前記フロントシェル側の端部は、前記パワーピストン部材の前記溝部に当接し、
前記凸部
の前記フロントシェル側の頂部は、前記パワーピストン部材の前記溝部内に
前記溝部の表面と間隔を空けて配置されるので、
作動応答性を向上させると共に、軽量化を達成し、コストを低く抑えることが可能となる。
【0013】
また、本実施形態にかかる負圧倍力装置では、
前記パワーピストン部材は、前記溝部より内周側に、前記中心孔に対して対称に配置され、直径の異なる複数組の連通孔が形成され、
前記ダイヤフラムは、
前記複数組の連通孔のうち一組の連通孔を貫通し、前記タイロッドを支持するタイロッド支持部と、
前記一組の連通孔以外の連通孔を覆う厚肉部と、
を有するので、
ダイヤフラムを溝部に密着させるよりも変圧室の容積を小さくすることができ、作動応答性を向上させることが可能となる。また、ダイヤフラムを溝部全体に埋め込むよりもダイヤフラムの材料の使用量を少なくすることができ、軽量化とコスト削減を実現することが可能となる。また、ダイヤフラムは、使用するタイロッドの径に応じて複数組の連通孔からいずれかを選択して使用することができ、タイロッドの径に応じたダイヤフラムを作成する必要が無く、単一のダイヤフラムで種々の設計に対応することが可能となる。また、連通孔に対応する厚肉部を他の箇所よりも厚肉に形成するので、強度を確保することが可能となる。
【0014】
また、本実施形態にかかる負圧倍力装置では、
前記ダイヤフラムは、
前記凸部と前記溝部の間の空間と前記厚肉部に覆われた前記連通孔との間に空気が流れる流路を形成する空気流路を有するので、
作動時にパワーピストン部材の溝部とダイヤフラムの凸部の間の空間に空気が残ってしまった場合であっても、空気流路を経て連通孔から空気が逃げていき、作動時にパワーピストン部材の溝部とダイヤフラムの凸部の間の空間の空気を低減させることが可能となる。
【0015】
さらに、本実施形態にかかるブレーキシステムは、ブレーキペダルと、前記ブレーキペダルのペダル踏力を倍力して出力するブレーキ倍力装置と、前記ブレーキ倍力装置の出力で作動して液圧を発生するマスタシリンダと、前記マスタシリンダで発生した液圧でブレーキ力を発生して車輪にブレーキをかけるブレーキシリンダと、を少なくとも備えるブレーキシステムにおいて、前記ブレーキ倍力装置は前記負圧倍力装置なので、
作動応答性を向上させると共に、軽量化を達成し、コストを低く抑えるブレーキシステムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の明細書の記載において、前後方向の関係は、負圧倍力装置の作動時に入力軸が移動する方向を「前」、作動解除時に入力軸が戻る方向を「後」とする。また、以下の説明において、「前」および「後」はそれぞれ各図において「左」および「右」を示す。
【0018】
図1は、本実施形態の負圧倍力装置1を示す。
【0019】
図1において、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はバルブボディ、5はバルブボディ4に取り付けられアルミニウム系の金属等の材料で形成されたパワーピストン部材6とバルブボディ4および両シェル2,3間に設けられ弾性変形の富む部材で形成されたダイヤフラム7とからなるパワーピストン、8は両シェル2,3内の空間をパワーピストン5で気密に区画された2つの室の一方で、通常時負圧が導入される定圧室、9は前述の2つの室の他方で、負圧倍力装置1の作動時大気圧が導入される変圧室、10は弁プランジャ、11は図示しない作動部材であるブレーキペダルに連結され、かつ弁プランジャ10を作動制御する入力軸、12はバルブボディ4に設けられた弁体、13はバルブボディ4と弁体12とで構成される負圧弁、14は弁プランジャ10と弁体12とで構成される大気弁、15はバルブボディ4内に形成された大気流入通路、16は定圧室8と変圧室9とを連通する負圧導入通路、17はバルブボディ4に対する弁プランジャ10の相対移動を、バルブボディ4に形成されたキー孔の軸方向幅により規定される所定量に規制し、かつバルブボディ4および弁プランジャ10の各後退限を規定するキー部材、18は反力手段の一部を構成する間隔部材、19は反力手段の他部を構成するリアクションディスク、20は出力軸、21はパワーピストン5およびバルブボディ4を非作動位置に戻すリターンスプリング、22はフロントシェル2とリヤシェル3とを連結して補強するタイロッド、23は負圧導入口である。
【0020】
本実施形態の負圧倍力装置1は、フロントシェル2と、フロントシェル2に連結されるリヤシェル3と、入力が加えられる入力軸11と、リヤシェル3に対して進退自在に配設されたバルブボディ4と、バルブボディ4に設けられて、フロントシェル2とリヤシェル3との空間を負圧が導入される定圧室8と作動時に大気が導入される変圧室9とに区画するパワーピストン5と、バルブボディ4に連結されて、パワーピストン5により発生されて入力を倍力した出力を出力する出力軸20と、入力軸11に連結されかつバルブボディ4内に摺動自在に配設された弁プランジャ10と、弁プランジャ10の作動により定圧室8と変圧室9との間の連通または遮断を制御する負圧弁13と、変圧室8と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁14と、パワーピストン5を貫通してフロントシェル2とリヤシェル3とを連結するタイロッド22と、を備える。
【0021】
図2は、本実施形態のパワーピストン部材6を示す。
【0022】
本実施形態のパワーピストン部材6は、金属からなる。パワーピストン部材6は、本体部61と、中央フランジ62と、を少なくとも有する。
【0023】
パワーピストン部材6の本体部61は、全体として凸側の第1表面6aと全体として凹側の第2表面6bを有する円錐面状の金属板からなる。本体部61には、溝部63及び連通孔64が形成されている。中央フランジ62は、本体部61の中央に形成された中央孔61aの周囲に立ち上がる円筒状の部分であって、
図1に示したバルブボディ4が挿通される。
【0024】
本体部に形成された溝部63は、中央孔61aより外周側で、本体部61が第2表面6b方向に湾曲することで第1表面6aに形成される環状の溝からなる。溝部63の径方向の断面は、U字状に丸みを帯びている。
【0025】
本体部61の溝部63より内周側には、定圧室8と変圧室9を連通する連通孔64が形成されている。連通孔64は、本体部61の中央孔61aに対して対称な複数組の孔である。そして、各組の連通孔64は、それぞれ直径が異なっている。各組の連通孔64のうち、実際に使用される連通孔64は一組のみで、その他の連通孔64は、ダイヤフラム7に覆われ、遮断される。直径の寸法が異なる複数組の連通孔64のうち、実際にどの一組の連通孔64を使用するかは、連通孔64に挿通される
図1に示したタイロッド22の直径に応じて決定すればよい。本実施形態の連通孔64は、一例として、実際に使用する第1連通孔64aと、ダイヤフラム7に覆われる第2連通孔64b及び第3連通孔64cからなる。
【0026】
図3は、本実施形態のダイヤフラム7を示す。
【0027】
本実施形態のダイヤフラム7は、ゴムからなる。ダイヤフラム7は、本体部71と、中央フランジ72と、縁部73と、凸部74と、突出部75と、タイロッド支持部76と、第2表面側リブ部77と、厚肉部78と、第1表面側リブ部79と、を少なくとも有する。
【0028】
ダイヤフラム7の本体部71は、全体として凸側の第1表面7aと全体として凹側の第2表面7bを有する円錐面状のゴムからなる。中央フランジ72は、本体部71の中央に形成された中央孔71aの周囲に立ち上がる円筒状の部分であって、
図2に示したパワーピストン部材6の中央フランジ62が嵌め込まれる。縁部73は、本体部71の外周から第2表面7b方向に立ち上がり、さらに第1表面7a方向に折り返される壁状の部分であって、
図1に示したフロントシェル2とリヤシェル3とに狭持される。
【0029】
凸部74は、中央孔71aより外周側で、第2表面7bから環状に盛り上がる部分からなる。突出部75は、周方向に所定の間隔を空けて凸部74の頂部74aに形成され、凸部74からさらに盛り上がる部分である。なお、突出部75は、等間隔で形成されることが好ましい。
【0030】
タイロッド支持部76は、本体部71の第2表面7bの凸部74よりも内周側に、本体部71の中心に対して対称に盛り上がって形成される。タイロッド支持部76は、貫通孔76aを有し、
図1に示したタイロッド22を該貫通孔76aに貫通させて支持する。
【0031】
第2表面側リブ部77は、本体部71の第2表面7bの凸部74の内周側に形成される。第2表面側リブ部77は、2本の平行に並ぶリブからなり、凸部74から中央孔71aに向けて、第1表面7aの厚肉部78の裏側まで延びて形成される。なお、第2表面側リブ部77は、パワーピストン部材6とダイヤフラム7とを組み付けた際に、空気流路を形成する。
【0032】
厚肉部78は、本体部71の第1表面7aの中央フランジ72の外周側であって、
図2に示したパワーピストン部材6の第2連通孔64b及び第3連通孔64cに対応して設けられる。第1表面側リブ部79は、貫通孔76a及び厚肉部78の外周側に形成される。第1表面側リブ部79は、2本の平行に並ぶリブからなり、放射状に等間隔で形成される。なお、第1表面側リブ部79は、緩衝部を形成する。
【0033】
次に、本実施形態の負圧倍力装置1のうち、パワーピストン部材6とダイヤフラム7を組み付けたパワーピストン5について説明する。
【0034】
図4は、本実施形態の負圧倍力装置1の第1連通孔64aを通る径方向の断面の一部を示す。
図5は、本実施形態の負圧倍力装置1の第2連通孔64bを通る径方向の断面の一部を示す。
図6は、本実施形態の負圧倍力装置1の突出部75を通る径方向の断面の一部を示す。
【0035】
パワーピストン部材6とダイヤフラム7は、互いに組み付けられてパワーピストン5を形成する。パワーピストン部材6の本体部61とダイヤフラム7の本体部71は、ほぼ密着して用いられる。その際、
図4に示すように、ダイヤフラム7のタイロッド支持部76は、パワーピストン部材6の第1連通孔64aに挿通される。
【0036】
また、ダイヤフラム7の凸部74は、パワーピストン部材6にフロントシェル2に向けて凸状の溝部63に嵌め込まれる。この時、ダイヤフラム7の突出部75は、
図6に示すように、パワーピストン部材6の溝部63内の第1表面6aに当接するが、凸部74の頂部74aは、
図4及び
図5に示すように、溝部63の第1表面6aに対して間隔を空けて配置される。
【0037】
したがって、ダイヤフラム7を溝部63に密着させるよりも変圧室9の容積を小さくすることができ、作動応答性を向上させることが可能となる。また、ダイヤフラム7を溝部63全体に埋め込むよりもダイヤフラム7の材料の使用量を少なくすることができ、軽量化とコスト削減を実現することが可能となる。
【0038】
パワーピストン部材6の第2連通孔64bは、
図5に示すように、ダイヤフラム7の厚肉部78に覆われる。同様に、図示しない第3連通孔64cもダイヤフラム7の厚肉部78に覆われる。
【0039】
したがって、本実施形態のダイヤフラム7は、使用するタイロッド22の径に応じて第1連通孔64a、第2連通孔64b及び第3連通孔64cのいずれかを選択して使用することができ、タイロッド22の径に応じたダイヤフラム7を作成する必要が無く、単一のダイヤフラム7で種々の設計に対応することが可能となる。また、第2連通孔64b及び第3連通孔64cに対応する厚肉部78を他の箇所よりも厚肉に形成するので、強度を確保することが可能となる。
【0040】
第2表面側リブ部77は、凸部74から中央孔71aに向けて、第1表面7aの厚肉部78の裏側まで延びて形成される。したがって、
図5に示すように、パワーピストン部材6の溝部63内の第1表面6aとダイヤフラム7の凸部74の間の空間と第2連通孔64bとは、第2表面側リブ部77の2本のリブ間の通路により連通される。すなわち、パワーピストン部材6の溝部63内の第1表面6aとダイヤフラム7の凸部74の間の空間と第2連通孔64bとの間は、第2表面側リブ部77の2本のリブ間の通路を空気流路として、空気が流通可能となっている。
【0041】
次に、この例の負圧倍力装置をブレーキシステムのブレーキ倍力装置として用いた場合の作動について説明する。
【0042】
図7は、本実施形態の負圧倍力装置1が用いられる一例としてのブレーキシステムを模式的に示す。
【0043】
ブレーキ非作動時には、負圧倍力装置1は、入力軸11が後退限位置となっている。また、通常時定圧室18には負圧導入口23を通して所定の負圧が導入されている。そして、負圧倍力装置1の非作動状態では、負圧弁13が開いているとともに大気弁14が閉じている。したがって、定圧室8と変圧室9とが負圧導入通路16を介して連通しているとともに、変圧室9は大気と遮断されている。これにより、変圧室9にも負圧が導入されている。
【0044】
ブレーキペダル25が踏み込まれると、入力軸11が前進するとともに弁プランジャ10が前進する。すると、負圧弁13が閉じるとともに大気弁14が開く。これにより、定圧室8と変圧室9とが遮断されるとともに、変圧室9は大気導入通路15を介して連通する。したがって、大気(空気)が変圧室9に導入され、変圧室9と定圧室8とに圧力差が生じる。この圧力差により、パワーピストン5がリターンスプリング21の付勢力に抗して前進し、バルブボディ4、リアクションディスク19、およびプッシュロッド20が前進し、負圧倍力装置1が作動する。プッシュロッド20の前進により、マスタシリンダ26の図示しないピストンが作動して液圧を発生し、この液圧によりブレーキシリンダ27がブレーキ力を発生して、各車輪28にブレーキがかけられる。
【0045】
ブレーキペダル25の踏み込みを解除すると、入力軸11が後退して、負圧弁13が開くとともに大気弁14が閉じた状態となる。すると、変圧室9に導入された空気が負圧弁13および負圧導入通路16を介して定圧室8に流動し、更に定圧室8に流動した空気は負圧導入口22を通して定圧室8から流出する。これにより、変圧室9の圧力が低下し、パワーピストン5、プッシュロッド20、バルブボディ4、リアクションディスク19、間隔部材18、および弁プランジャ10がリターンスプリング21の付勢力で後退する。すると、マスタシリンダ26のピストンも後退し、マスタシリンダ26の液圧が次第に低下して消滅する。そして、キー部材17により、バルブボディ4および弁プランジャ10がそれ後退限位置に規制され、負圧倍力装置1は非作動状態となり、各車輪28のブレーキが解除する。
【0046】
なお、作動時にパワーピストン部材6の溝部63内の第1表面6aとダイヤフラム7の凸部74の間の空間に空気が残ってしまうと、作動に支障を来す場合があるが、本実施形態のパワーピストン5によれば、パワーピストン部材6の溝部63内の第1表面6aとダイヤフラム7の凸部74の間の空間と第2連通孔64bとの間は、パワーピストン部材6の本体部61とダイヤフラム7の本体部71の間に隙間が形成され、空気が流通可能となっているので、例えば、空気は、
図5に示した第2連結孔64bから逃げていき、作動時にパワーピストン部材6の溝部63内の第1表面6aとダイヤフラム7の凸部74の間の空間の空気を低減させることが可能となる。
【0047】
なお、本発明にかかる負圧倍力装置1は、ブレーキ装置に限定されることはなく、クラッチ装置を始め、ピストンの前進で液圧室に液圧を発生するものであれば、どのような液圧装置にも適用することができる。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態によれば、負圧倍力装置1は、フロントシェル2と、フロントシェル2に連結されるリヤシェル3と、入力が加えられる入力軸11と、リヤシェル3に対して進退自在に配設されたバルブボディ4と、バルブボディ4に設けられて、フロントシェル2とリヤシェル3との空間を負圧が導入される定圧室8と作動時に大気が導入される変圧室9とに区画するパワーピストン5と、バルブボディ4に連結されて、パワーピストン5により発生されて入力を倍力した出力を出力する出力軸20と、入力軸11に連結されかつバルブボディ4内に摺動自在に配設された弁プランジャ10と、弁プランジャ10の作動により定圧室8と変圧室9との間の連通または遮断を制御する負圧弁13と、変圧室8と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁14と、パワーピストン5を貫通してフロントシェル2とリヤシェル3とを連結するタイロッド22と、を備え、パワーピストン5は、中央にバルブボディ4を挿通させる中央孔61aが形成されたパワーピストン部材6と、中央にパワーピストン部材6と共にバルブボディ4を挿通させる中央孔71aが形成され、縁部73でフロントシェル2とリヤシェル3に挟持されるダイヤフラム7と、を有し、パワーピストン部材6は、中央孔61aより外周側にフロントシェル2に向けて凸状であって環状の溝部63が形成され、ダイヤフラム7は、中央孔71aより外周側にフロントシェル2に向けて環状に盛り上がる凸部74及び凸部74の周方向に所定の間隔を空けて凸部74からさらに盛り上がる突出部75が形成され、突出部75は、パワーピストン部材6の溝部63に当接し、凸部74は、パワーピストン部材6の溝部63内に間隔を空けて配置されるので、作動応答性を向上させると共に、軽量化を達成し、コストを低く抑えることが可能となる。
【0049】
また、本実施形態にかかる負圧倍力装置1では、パワーピストン部材6は、溝部64より内周側に、中心孔61aに対して対称に配置され、直径の異なる複数組の連通孔64が形成され、ダイヤフラム7は、複数組の連通孔64のうち一組の連通孔64aを貫通し、タイロッド22を支持するタイロッド支持部76と、一組の連通孔64a以外の連通孔64b,64cを覆う厚肉部78と、を有するので、ダイヤフラム7を溝部63に密着させるよりも変圧室9の容積を小さくすることができ、作動応答性を向上させることが可能となる。また、ダイヤフラム7を溝部63全体に埋め込むよりもダイヤフラム7の材料の使用量を少なくすることができ、軽量化とコスト削減を実現することが可能となる。さらに、ダイヤフラム7は、使用するタイロッド22の径に応じて複数組の連通孔64からいずれかを選択して使用することができ、タイロッド22の径に応じたダイヤフラム7を作成する必要が無く、単一のダイヤフラム7で種々の設計に対応することが可能となる。また、連通孔64に対応する厚肉部78を他の箇所よりも厚肉に形成するので、強度を確保することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態にかかる負圧倍力装置1では、ダイヤフラム7は、凸部74と溝部63の間の空間と厚肉部78覆われた連通孔64b,64cとの間に空気が流れる流路を形成する空気流路77を有するので、作動時にパワーピストン部材6の溝部63とダイヤフラム7の凸部74の間の空間に空気が残ってしまった場合であっても、空気流路77を経て連通孔64から空気が逃げていき、作動時にパワーピストン部材6の溝部63とダイヤフラム7の凸部74の間の空間の空気を低減させることが可能となる。
【0051】
さらに、本実施形態にかかるブレーキシステムは、ブレーキペダル25と、ブレーキペダル25のペダル踏力を倍力して出力するブレーキ倍力装置1と、ブレーキ倍力装置1の出力で作動して液圧を発生するマスタシリンダ26と、マスタシリンダ26で発生した液圧でブレーキ力を発生して車輪28にブレーキをかけるブレーキシリンダ27と、を少なくとも備えるブレーキシステムにおいて、ブレーキ倍力装置1は本実施形態の負圧倍力装置1なので、作動応答性を向上させると共に、軽量化を達成し、コストを低く抑えることができるブレーキシステムを提供することが可能となる。
【0052】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態のみに限られるものではなく、発明の範囲を超えない限り、それぞれの実施形態の構成を適宜変更した構成及びそれぞれの実施形態の構成を適宜組み合わせた構成の実施形態も本発明の範疇となるものである。