特許第6202618号(P6202618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6202618Coを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置および酸素製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6202618
(24)【登録日】2017年9月8日
(45)【発行日】2017年9月27日
(54)【発明の名称】Coを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置および酸素製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20170914BHJP
   B01D 53/02 20060101ALI20170914BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20170914BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20170914BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20170914BHJP
【FI】
   B01J20/06 C
   B01D53/02
   B01D53/047
   B01J20/34 E
   C01G51/00 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-234635(P2013-234635)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-93251(P2015-93251A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506233117
【氏名又は名称】吸着技術工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】312010065
【氏名又は名称】JNCエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤峰 智也
(72)【発明者】
【氏名】大井 真哉
(72)【発明者】
【氏名】泉 順
(72)【発明者】
【氏名】深堀 香織
(72)【発明者】
【氏名】三浦 則雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘
(72)【発明者】
【氏名】黒木 学
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−087941(JP,A)
【文献】 特開2006−169070(JP,A)
【文献】 特開2008−012439(JP,A)
【文献】 特開2000−128507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 − 20/34
B01D 53/02 − 53/12
C01G 25/00 − 47/00
C01G 49/10 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、
前記酸化物は、
組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.≦x0.85、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とするCoを含む酸素吸着剤。
【請求項2】
所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔と、
酸素と他の物質とを含有する混合ガスを前記吸着塔内に供給する混合ガス供給部と、
前記酸素吸着剤が酸素を吸着することで、前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを前記吸着塔から排出する分離ガス排出部と、
前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該酸素吸着剤から脱着させて該吸着塔から排出する吸着ガス排出部と、
を備え、
前記酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、該酸化物は、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.≦x0.85、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とするCoを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置。
【請求項3】
前記所定の温度は、300℃以上800℃以下の予め定められた温度であることを特徴とする請求項2に記載のCoを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置。
【請求項4】
所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.≦x0.85、0≦σ≦0.5)で示される酸化物を含む酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔に、酸素と他の物質とを含有する混合ガスを供給する工程と、
前記吸着塔内を前記所定の圧力および所定の温度環境に維持し、前記混合ガスに含有される酸素を酸素吸着剤に吸着させる工程と、
前記吸着させる工程を遂行することによって前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを、前記吸着塔から排出する工程と、
前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該吸着剤から脱着させて当該吸着塔から排出する工程と、
を繰り返し行うことを特徴とするCoを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Coを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置および酸素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少なくとも酸素を含む混合ガスから酸素を分離する技術として、圧力スイング吸着(PSA:Pressure Swing Adsorption)法が知られている。PSA法は、酸素吸着剤に対する酸素の吸着量が、酸素の分圧によって異なることを利用した分離方法である。PSA法では、酸素吸着剤が充填された吸着塔に混合ガスを導入し、混合ガスに含まれる酸素を酸素吸着剤に選択的に吸着させる工程(吸着工程)と、酸素が吸着した後の酸素吸着剤から酸素を脱着(吸着していた物質が界面から離れること)させる工程(再生工程)と、において圧力差を付けることで、混合ガスから酸素を分離する。
【0003】
PSA法における酸素吸着剤として、例えば、特許文献1においては、La1−xSrCo1−yFe3−z(但し、0.0≦x≦1.0、0.0≦y≦1.0、z>0)が、特許文献2においては、SrCoFe1−x3−σ(但し、0.1<x<0.9)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−12439号公報
【特許文献2】特開2006−169070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載されたLa1−xSrCo1−yFe3−zは、レアアースであるLa(ランタン)を含むため、高価である。したがって、La1−xSrCo1−yFe3−zを採用したPSA法によって製造された酸素はコスト高となってしまう。
【0006】
一方、特許文献2のSrCoFe1−x3−σは、Laを含まないため、SrCoFe1−x3−σを採用したPSA法では、低コストで酸素を製造することができる。
【0007】
しかし、特許文献2に記載された範囲のCo(コバルト)の含有量(xの数値)によっては、酸素吸着剤としての機能を果たさないSrCoFe1−x3−σもあり、実用化には至っていない。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、SrCoFe1−x3−σにおけるCo含有量(xの範囲)を工夫することで、酸素吸着能および酸素脱着能を向上させた酸素吸着剤、ならびに、これを用いることにより、低コストで酸素を製造することが可能な酸素製造装置、および、酸素製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のCoを含む酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、前記酸化物は、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.≦x0.85、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のCoを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置は、所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔と、酸素と他の物質とを含有する混合ガスを前記吸着塔内に供給する混合ガス供給部と、前記酸素吸着剤が酸素を吸着することで、前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを前記吸着塔から排出する分離ガス排出部と、前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該酸素吸着剤から脱着させて該吸着塔から排出する吸着ガス排出部と、を備え、前記酸素吸着剤は、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、該酸化物は、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.≦x0.85、0≦σ≦0.5)で示される酸化物であることを特徴とする。
【0011】
また、前記所定の温度は、300℃以上800℃以下の予め定められた温度であるとしてもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のCoを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造方法は、所定の圧力および所定の温度環境下で酸素を吸着する、少なくともペロブスカイト構造の酸化物を含む酸素吸着剤であって、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.≦x0.85、0≦σ≦0.5)で示される酸化物を含む酸素吸着剤が内部に収容された吸着塔に、酸素と他の物質とを含有する混合ガスを供給する工程と、前記吸着塔内を前記所定の圧力および所定の温度環境に維持し、前記混合ガスに含有される酸素を酸素吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着させる工程を遂行することによって前記混合ガスから酸素が取り除かれた分離ガスを、前記吸着塔から排出する工程と、前記吸着塔内を減圧して前記酸素吸着剤に吸着した酸素を該吸着剤から脱着させて当該吸着塔から排出する工程と、を繰り返し行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸素吸着能および酸素脱着能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】酸素製造装置を説明するための図である。
図2】酸素製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図3】吸着工程の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図4】再生工程の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図5】組成式SrCoFe1−x3−σにおけるxの値と、酸素吸着量との関係を説明するための図である。
図6】組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、x=0.75、0≦σ≦0.5)における温度と、酸素吸着量との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
(酸素製造装置100)
図1は、酸素製造装置100を説明するための図である。本実施形態の酸素製造装置100は、PSA法を利用しており、以下では空気から酸素および窒素をそれぞれ分離する構成を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態において、酸素製造装置100は、吸着塔110(図1中、110a、110bで示す。)を備えている。吸着塔110は、円筒形状に構成される。また、吸着塔110は、保温庫102に収容されており、保温庫102は、吸着塔110に収容された、後述する酸素吸着剤130を300℃以上の雰囲気に曝すように保温している。保温庫102に供給される熱は、電気式加熱、ガス燃焼式加熱、または、酸素製造装置100が設置されるプラントの排熱を利用してもよい。また、吸着塔110における酸素吸着剤130が収容される箇所の近傍には加熱部112が設けられている。
【0018】
混合ガス供給部120は、ブロワで構成され、酸素と他の物質とを含有する混合ガス(ここでは、空気)を吸着塔110内に供給する。具体的に説明すると、混合ガス供給部120は、供給管122、バルブ124a、124bを通じて、常温の空気を吸着塔110内に供給する。
【0019】
酸素吸着剤130(図1中、クロスハッチングで示す)は、吸着塔110内に設けられ(充填され)、所定の圧力および温度環境下で混合ガスに接触すると、当該混合ガスに含有される酸素を吸着して、酸素を分離する。酸素吸着剤130の具体的な構成については、後に詳述する。
【0020】
分離ガス排出部140は、空気から、酸素吸着剤130に吸着されることで酸素が取り除かれた窒素(分離ガス)を、吸着塔110から排出する。具体的に説明すると、分離ガス排出部140は、排出管142と、バルブ144a、144bとを含んで構成される。分離ガス排出部140によって排出された窒素は、排出管142を通って窒素タンク146へ送出される。窒素タンク146に貯留された窒素は、後段のプロセスに順次送出されることとなる。
【0021】
吸着ガス排出部150は、真空ポンプで構成され、吸着塔110内を減圧して酸素吸着剤130に吸着した酸素を酸素吸着剤130から脱着させて当該吸着塔110から排出する。具体的に説明すると、吸着ガス排出部150は、排出管152、バルブ154a、154bを通じて、吸着塔110から酸素を排出する。そして、吸着ガス排出部150によって排出された酸素は、酸素タンク156へ送出される。酸素タンク156に貯留された酸素は、後段のプロセスに順次送出されることとなる。
【0022】
蓄熱体160(図1中、ハッチングで示す)は、吸着塔110における酸素吸着剤130よりも空気(混合ガス)の供給方向の上流側に配され、混合ガス供給部120から当該吸着塔110内に供給される空気(混合ガス)、および、吸着ガス排出部150によって当該吸着塔110内から排出される酸素が通過する。
【0023】
蓄熱体160は、流体が通過する際の圧損が少なく、かつ、蓄熱量が大きいものを使用するとよい。蓄熱体160は、例えば、ライナー間ピッチ2mm程度、平板厚さ0.5mm程度のステンレス製蓄熱材ハニカムを挙げることができる。
【0024】
(酸素製造方法)
続いて、酸素製造装置100を用いた酸素製造方法について説明する。図2は、酸素製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0025】
図2に示すように、吸着塔110において、吸着工程S210、再生工程S220を繰り返す。なお、初期状態において、不図示の制御手段は、バルブ124a、124b、144a、144b、154a、154bを閉状態にしておくとともに、吸着塔110における酸素吸着剤130を300℃以上の雰囲気に曝しておく。本実施形態において、吸着塔110aにおいて吸着工程S210を遂行しているときには、吸着塔110bにおいて再生工程S220を並行して遂行し、吸着塔110aにおいて再生工程S220を遂行しているときには、吸着塔110bにおいて吸着工程S210を並行して遂行する。
【0026】
また、後述するように、吸着工程S210では窒素が生成され、再生工程S220では、酸素が生成される。したがって、吸着塔110aと吸着塔110bとが吸着工程S210と再生工程S220とを排他的に交互に繰り返すことにより、窒素および酸素の生成を連続的に行うことが可能となる。
【0027】
以下、吸着塔110aを例に挙げて、吸着工程S210、および、再生工程S220の処理について詳述し、実質的に処理が等しい吸着塔110bにおける吸着工程S210、および、再生工程S220の処理については説明を省略する。
【0028】
(吸着工程S210)
図3は、吸着工程S210の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0029】
(供給工程S210−1)
不図示の制御手段は、混合ガス供給部120を駆動し、バルブ124aを開状態とし、吸着塔110a内へ空気(混合ガス)を供給する(供給処理)。つまり、常温の空気は、蓄熱体160を通って、酸素吸着剤130へ到達することとなる。
【0030】
(吸着工程S210−2)
そして、制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1(例えば、100kPa〜200kPa)以上となったか否かを判定する。制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1以上となるまで(S210−2におけるNO)、供給工程S210−1を遂行する。制御手段が供給処理を遂行し、吸着塔110a内を所定の圧力P1まで昇圧している間に、空気(混合ガス)中の酸素を酸素吸着剤130に吸着させる。一方、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1以上となると(S210−2におけるYES)、混合ガス供給部120を停止させ、後述する分離ガス排出工程S210−3へと処理を移行する。
【0031】
(分離ガス排出工程S210−3)
吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P1以上となると(S210−2におけるYES)、制御手段は、バルブ124aを閉状態とし、バルブ144aを開状態とする。これにより、分離ガス排出部140は、酸素吸着剤130によって空気から酸素が取り除かれることで製造された窒素を吸着塔110aから排出する(分離ガス排出処理)。そして、吸着塔110aから排出された窒素は、窒素タンク146に送出されることとなる。
【0032】
(分離ガス排出判定工程S210−4)
そして、制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2(例えば、60kPa)未満となったか否かを判定する。制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2未満となるまで(S210−4におけるNO)、分離ガス排出工程S210−3を遂行する。一方、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2未満となると(S210−4におけるYES)、吸着工程S210が終了したとみなし、後述する再生工程S220へと処理を移行する。
【0033】
(再生工程S220)
図4は、再生工程S220の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0034】
(吸着ガス排出工程S220−1)
上述した分離ガス排出判定工程S210−4において、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P2未満となると(S210−4におけるYES)、制御手段は、バルブ144aを閉状態とし、バルブ154aを開状態とするとともに、吸着ガス排出部150を駆動する。これにより、吸着塔110a内が減圧されて酸素吸着剤130に吸着された酸素が酸素吸着剤130から脱着し、当該吸着塔110aから酸素が排出される(吸着ガス排出処理)。つまり、高温(300℃以上)の酸素は、蓄熱体160を通って排出されることとなり、常温の蓄熱体160は、かかる高温の酸素によって加熱されることになる。一方、常温の蓄熱体160によって高温の酸素を冷却することができる。そして、吸着塔110aから排出された酸素は、酸素タンク156に送出されることとなる。
【0035】
(吸着ガス排出判定工程S220−2)
そして、制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P3(例えば、2kPa〜20kPa)未満となったか否かを判定する。制御手段は、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P3未満となるまで(S220−2におけるNO)、吸着ガス排出工程S220−1を遂行する。一方、吸着塔110a内の圧力Pが所定の圧力P3未満となると(S220−2におけるYES)、再生工程S220が終了したとみなし、制御手段は、バルブ154aを閉状態として、上記吸着工程S210からの処理を繰り返す。
【0036】
したがって、再生工程S220に続いて遂行される吸着工程S210において、混合ガス供給部120によって吸着塔110に導入された常温の空気は、再生工程S220において加熱された蓄熱体160によって予熱されることとなる。これにより、酸素吸着剤130の加熱に要するエネルギーを低減することができ、酸素吸着剤130の加熱に要する電力原単位を削減することが可能となる。つまり、低コストで、窒素および酸素を製造することができる。
【0037】
(酸素吸着剤130)
続いて、酸素を選択的に吸着する酸素吸着剤130について説明する。本実施形態において、酸素吸着剤130は、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物である。
【0038】
ペロブスカイト構造の酸化物は、所定の温度において、酸素を選択的にバルクに吸着するため、酸素吸着剤130として利用することができる。
【0039】
そこで、本願発明者らは、ペロブスカイト構造の酸化物のうち、特に、組成式SrCoFe1−x3−σに着目し、組成式SrCoFe1−x3−σにおけるxの値が異なる、12の酸化物を作製し、各酸化物の酸素吸着量を測定した。
【0040】
図5は、組成式SrCoFe1−x3−σにおけるxの値と、酸素吸着量との関係を説明するための図である。図5において、横軸に組成式SrCoFe1−x3−σにおけるxの値を、縦軸に酸素吸着量(cm/g)を示す。
【0041】
本願発明者らが、550℃における各酸化物の酸素吸着量の測定を行ったところ、図5に示すように、0.0≦x<0.6である場合、組成式SrCoFe1−x3−σの酸素吸着量は、1.5cm/g程度と小さく、酸素吸着剤としての機能を果たさないことが確認された。しかし、x=0.7では2.8cm/g程度、x=0.725では5.5cm/g程度、x=0.750では5.9cm/g程度と、x=0.750に到達するにしたがって、酸素吸着量が急激に増加することが分った。また、x=0.775では4.2cm/g程度、x=0.8では3.5cm/g程度、x=0.85では2.2cm/g程度となり、0.0≦x<0.6である場合と比較して、0.6≦x<0.9では、酸素吸着量が最大で4倍程度増加することが確認できた。
【0042】
つまり、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、酸素吸着能が極めて高いことが確認された。
【0043】
また、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、従来、酸素吸着剤として利用されているLa1−xSrCo1−yFe3−z(以下、単に「LSCF」と称する)と比較して、3倍程度の酸素吸着能を有する。したがって、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を酸素吸着剤130として採用した酸素製造装置100では、従来のLSCFを採用した酸素製造装置と同量の酸素を製造する場合、従来の酸素製造装置と比較して、酸素吸着剤130の量を1/3程度にすることができ、酸素吸着剤130の加熱に要するエネルギーを1/3程度に低減することが可能となる。したがって、酸素吸着剤130の加熱に要する電力原単位を1/3程度に削減することができ、低コストで、酸素および窒素を製造することが可能となる。
【0044】
また、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、LSCFと比較して、吸着速度、および、脱着速度が大きい。したがって、酸素製造装置100のサイクルタイム(吸着工程S210と再生工程S220とを遂行する時間)を短縮することができ、単位時間あたりに製造する酸素量を増加させることが可能となる。
【0045】
さらに、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物は、LSCFと比較して、高価なLaが含まれない。したがって、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を酸素吸着剤130として利用することにより、酸素吸着剤130自体のコストを削減することが可能となる。
【0046】
(酸素吸着剤130が曝される温度環境についての検討)
また、本願発明者らは、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)における酸素吸着量が最適となる温度範囲を検討すべく、SrCoFe1−x3−σ(但し、x=0.75、0≦σ≦0.5)を作製し、各温度の酸素吸着量を測定した。
【0047】
図6は、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、x=0.75、0≦σ≦0.5)における温度と、酸素吸着量との関係を説明するための図である。図6において、横軸に温度(℃)を、縦軸に酸素吸着量(cm/g)を示す。
【0048】
本願発明者らが、各温度における酸素吸着量の測定を行ったところ、100℃では、酸素吸着量が0cm/gであり、200℃であっても0.3cm/g程度と1cm/gにも満たないことが確認された。しかし、300℃では3cm/g程度、400℃では4cm/g程度、500℃では4.8cm/g程度、600℃では5.5cm/g程度、700℃では5.5cm/g程度、800℃では6cm/g程度と、300℃以上では温度が上昇するにしたがって、酸素吸着量が急激に増加することが確認できた。
【0049】
したがって、酸素吸着剤130を、300℃以上の温度環境下において、圧力を変化させることにより、酸素吸着量が大きい状態で、酸素の吸脱着(吸着および脱着)を行うことができ、酸素の製造量を増加させることが可能となる。
【0050】
また、300℃以上であっても800℃以上の温度環境下に酸素吸着剤130を曝すとなると、吸着塔110自体のコストが増加したり、酸素吸着剤130を800℃以上に維持するための加熱部112や保温庫102の消費エネルギーが増加したりしてしまい、酸素の製造コストが上昇してしまう。
【0051】
そこで、酸素吸着剤130を、300℃以上800℃以下の温度環境下に曝すことで、低コストかつ効率よく酸素を製造することができる。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0053】
例えば、上述した実施形態において、酸素吸着剤130として、組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を例に挙げて説明した。しかし、酸素吸着剤130は、少なくとも組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を含んでいればよく、例えば、層状ペロブスカイト化合物であってもよい。
【0054】
また、上述した実施形態において説明した酸素製造装置100における吸着塔110の圧力範囲は、単なる例示に過ぎず、例えば、酸素吸着剤130を酸素分圧1000Pa〜200000Pa(または10−2atm〜2atm)の圧力範囲内で変化させればよい。
【0055】
また、上述した実施形態において、吸着塔110a、110bを2つ備えた酸素製造装置100を例に挙げて説明したため、吸着塔110aと吸着塔110bとが再生と吸着とを並行して行う場合について説明した。しかし、吸着塔110は、少なくとも組成式SrCoFe1−x3−σ(但し、0.6≦x<0.9、0≦σ≦0.5)で示されるペロブスカイト構造の酸化物を含んだ酸素吸着剤130が収容されていればよく、吸着塔110の数に限定はない。つまり、吸着塔110の数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0056】
また、上述した実施形態において、蓄熱体160がステンレス製蓄熱材ハニカムで構成される場合を例に挙げて説明した。しかし、蓄熱体160の材質に限定はなく、例えば、酸素吸着剤130と同一の部材で構成されていてもよい。かかる構成により、蓄熱体160においても酸素と窒素を分離することが可能となる。
【0057】
さらに、蓄熱体160は、所定の圧力および酸素吸着剤130よりも常温に近い温度環境下で空気(混合ガス)に接触すると、酸素を吸着して、窒素を分離する物質(例えば、活性炭(MSC)や、低温で作動する複合酸化物等の吸着剤)で構成されてもよい。これにより、蓄熱体160において、より効率的に酸素と窒素を分離することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、Coを含む酸素吸着剤を用いた酸素製造装置および酸素製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
100 酸素製造装置
110 吸着塔
120 混合ガス供給部
130 酸素吸着剤
140 分離ガス排出部
150 吸着ガス排出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6